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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】中空糸膜モジュール
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/18 20060101AFI20240415BHJP
   B01D 63/02 20060101ALI20240415BHJP
   B01D 71/48 20060101ALI20240415BHJP
   B01D 71/68 20060101ALI20240415BHJP
   B01D 61/14 20060101ALI20240415BHJP
   B01J 20/26 20060101ALI20240415BHJP
【FI】
A61M1/18 500
B01D63/02
B01D71/48
B01D71/68
B01D61/14 500
B01J20/26 H
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020083505
(22)【出願日】2020-05-11
(65)【公開番号】P2021177833
(43)【公開日】2021-11-18
【審査請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000226242
【氏名又は名称】日機装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】前田 駿太
【審査官】細川 翔多
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-172313(JP,A)
【文献】特開平11-332979(JP,A)
【文献】特開2008-173163(JP,A)
【文献】特表2017-510435(JP,A)
【文献】特開平10-057476(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/18
B01D 63/02
B01D 71/48
B01D 71/68
B01D 61/14
B01J 20/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子量300000以上1000000以下の範囲全域のデキストランに対するふるい係数が0.12以上0.28以下である第1中空糸膜を備え、
エンドトキシンを含む液が前記第1中空糸膜の膜壁を透過し、前記第1中空糸膜がエンドトキシンを吸着する中空糸膜モジュール。
【請求項2】
前記第1中空糸膜は、血液中の前記エンドトキシンを吸着する請求項1に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項3】
前記第1中空糸膜は、下記化学式(1)で表される繰り返し単位を有するポリアリレート樹脂、および下記化学式(2)または下記化学式(3)で表される繰り返し単位を有するポリエーテルスルホン樹脂を含有するポリエステル系ポリマアロイ膜で構成される請求項1または2に記載の中空糸膜モジュール。
【化1】
[化学式(1)において、R1およびR2は炭素数が1~5の低級アルキル基であり、R1およびR2はそれぞれ同一であっても相違していてもよい。]
【化2】
[化学式(2)において、R3およびR4は炭素数が1~5の低級アルキル基であり、R3およびR4はそれぞれ同一であっても相違していてもよい。]
【化3】
【請求項4】
分子量20000以上30000以下のデキストランに対するふるい係数が0.64以上0.80以下である第2中空糸膜を備え、
前記第2中空糸膜がインターロイキン6を吸着する請求項1乃至3のいずれか1項に記載の中空糸膜モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸膜モジュールおよびエンドトキシンの除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
救急集中治療等の医学分野において、敗血症患者等の体内からエンドトキシンを血液浄化療法によって除去する治療が行われている。エンドトキシンは、病原体関連分子パターン(PAMPs)に代表される炎症惹起物質の1つである。従来、エンドトキシンの除去技術として、ポリミキシンB等のエンドトキシン吸着剤を担体に固定した固定化ポリミキシン成形品に血液を直に接触させ、エンドトキシンを吸着除去する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭61-135674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
重篤な敗血症患者は急性腎不全等を併発していることがあり、エンドトキシンの除去と並行して別の血液浄化器で腎代替療法を施行する場合がある。この場合、エンドトキシン除去モジュールと腎代替療法モジュールとの2つを血液回路に直列または並列に接続する必要がある。しかしながら、エンドトキシン除去モジュールとして従来の固定化ポリミキシン成形品を用いた場合、血液回路の構造が複雑化したり治療コストが増大したりする等、実用性の面で改善の余地があった。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的の1つは、より実用性の高いエンドトキシン除去技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様は中空糸膜モジュールである。この中空糸膜モジュールは、分子量300000以上1000000以下のデキストランに対するふるい係数が0.12以上0.28以下である第1中空糸膜を備え、第1中空糸膜がエンドトキシンを吸着する。この態様によれば、より実用性の高いエンドトキシン除去技術を提供することができる。
【0007】
上記態様において、第1中空糸膜は、血液中のエンドトキシンを吸着してもよい。また、第1中空糸膜は、下記化学式(1)で表される繰り返し単位を有するポリアリレート樹脂、および下記化学式(2)または下記化学式(3)で表される繰り返し単位を有するポリエーテルスルホン樹脂を含有するポリエステル系ポリマアロイ膜で構成されてもよい。
【化1】
[化学式(1)において、R1およびR2は炭素数が1~5の低級アルキル基であり、R1およびR2はそれぞれ同一であっても相違していてもよい。]
【化2】
[化学式(2)において、R3およびR4は炭素数が1~5の低級アルキル基であり、R3およびR4はそれぞれ同一であっても相違していてもよい。]
【化3】
【0008】
また、中空糸膜モジュールは、分子量20000以上30000以下のデキストランに対するふるい係数が0.64以上0.80以下である第2中空糸膜を備え、第2中空糸膜がインターロイキン6を吸着してもよい。
【0009】
本発明の別の態様は、エンドトキシンの除去方法である。この除去方法は、上記いずれかの態様の中空糸膜モジュールにエンドトキシンを接触させることを含む。
【0010】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、より実用性の高いエンドトキシン除去技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態に係る中空糸膜モジュールの断面図である。
図2】中空糸膜による標的物質の除去原理を説明するための模式図である。
図3図3(A)は、第1中空糸膜の走査電子顕微鏡写真である。図3(B)は、第2中空糸膜の走査電子顕微鏡写真である。
図4】試験に用いた循環装置の模式図である。
図5図5(A)は、各中空糸膜の分画分子量曲線を示す図である。図5(B)は、エンドトキシンの分子量範囲およびインターロイキン6の分子量範囲のそれぞれにおける各中空糸膜のふるい係数を示す図である。
図6図6(A)~図6(D)は、エンドトキシン吸着試験の結果を示す図である。
図7】エンドトキシン吸着量の算出結果を示す図である。
図8図8(A)~図8(D)は、インターロイキン6吸着試験の結果を示す図である。
図9】インターロイキン6吸着量の算出結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。各図面に示される同一又は同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図に示す各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。また、本明細書または請求項中に「第1」、「第2」等の用語が用いられる場合には、この用語はいかなる順序や重要度を表すものでもなく、ある構成と他の構成とを区別するためのものである。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0014】
図1は、実施の形態に係る中空糸膜モジュールの断面図である。本実施の形態の中空糸膜モジュール1は、一例として血液透析(HD)用のダイアライザーと同様の形態をとるが、この形態に限らない。中空糸膜モジュール1は、カラム2と、中空糸膜束4と、封止部材6と、第1ヘッダー8と、第2ヘッダー10と、を備える。
【0015】
カラム2は、中空糸膜束4を収容する円筒状の容器である。カラム2は、例えばポリカーボネート等の樹脂で構成される。カラム2は、長手方向の両端部に開口を有する。また、カラム2は、長手方向の両端部寄りに円筒から径方向に突出する透析液導出ポート12および透析液導入ポート14を有する。透析液は、透析液導入ポート14を介して外部からカラム2内に供給され、透析液導出ポート12を介してカラム2内から外部に導出される。なお、中空糸膜モジュール1が血液濾過(HF)に用いられる場合には、透析液導出ポート12または透析液導入ポート14のみが濾液導出ポートとして設けられる。
【0016】
中空糸膜束4は、複数の中空糸膜16を束ねた構造を有する。各中空糸膜16は、カラム2の長手方向に対しおおよそ平行に延在する。各中空糸膜16の両端の開口は開放されており、一方の開口から他方の開口に向かって血液が流れる。中空糸膜16の構成については後に詳細に説明する。
【0017】
封止部材6は、ポッティング材とも呼ばれ、ポリウレタン、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂で構成される。封止部材6は、中空糸膜束4の両端において複数の中空糸膜16の隙間を埋めるように充填される。また封止部材6は、カラム2の両端の内周面に固定される。これにより、中空糸膜束4がカラム2に固定されるとともに、カラム2の両端開口が封止される。
【0018】
第1ヘッダー8は、カラム2の一端に取り付けられて一端側の開口を塞ぐ。第2ヘッダー10は、カラム2の他端に取り付けられて他端側の開口を塞ぐ。第1ヘッダー8は、カラム2の内外をつなぐ血液導入ポート18を有する。第2ヘッダー10は、カラム2の内外をつなぐ血液導出ポート20を有する。血液導入ポート18には患者から脱血するためのチューブが接続され、血液導出ポート20には患者に返血するためのチューブが接続される。
【0019】
患者から取り出された血液は、血液導入ポート18を介してカラム2内に供給される。カラム2内に供給された血液は、各中空糸膜16内を流れ、血液導出ポート20側に移動する。このとき、中空糸膜16内を流れる血液と中空糸膜16外を流れる透析液との間で中空糸膜16を介して物質交換が行われる。中空糸膜16を通過した血液は、血液導出ポート20を介してカラム2外に導出され、患者に戻される。
【0020】
続いて、中空糸膜16の構成について詳細に説明する。中空糸膜16は、ポリスルホン系樹脂とポリエステル系樹脂とを主成分とする、疎水性高分子の多孔質半透膜で構成される。中空糸膜16は、例えば膜厚が5~150μm、内径が100~500μm程度の断面円形の細管である。
【0021】
本実施の形態の中空糸膜16は、下記化学式(1)で表される繰り返し単位を有するポリアリレート樹脂、および下記化学式(2)または下記化学式(3)で表される繰り返し単位を有するポリエーテルスルホン樹脂を含有するポリエステル系ポリマアロイ(PEPA)膜で構成される。なお、化学式(1)におけるフタル酸の部分の表示は、ベンゼン環に対する2つのカルボキシル基の配置を問わないことを意味する。例えば、2つのカルボキシル基が互いにメタ位の配置でベンゼン環に結合した構造(つまりイソフタル酸)や、互いにパラ位の配置でベンゼン環に結合した構造(つまりテレフタル酸)が含まれる。
【化4】
[化学式(1)において、R1およびR2は炭素数が1~5の低級アルキル基であり、R1およびR2はそれぞれ同一であっても相違していてもよい。]
【化5】
[化学式(2)において、R3およびR4は炭素数が1~5の低級アルキル基であり、R3およびR4はそれぞれ同一であっても相違していてもよい。]
【化6】
【0022】
図2は、中空糸膜16による標的物質Tの除去原理を説明するための模式図である。中空糸膜16による標的物質Tの除去原理には、主として透析、濾過および吸着の3つが挙げられる。炎症惹起物質等の分子量の大きい物質の除去効率には、除去原理の違いが大きく影響する。図2に示すように、本実施の形態の中空糸膜16は、標的物質Tの大きさに対応する径の細孔22を有し、吸着によって標的物質Tを除去する。中空糸膜16の内側を流れる血液に含まれる標的物質Tは、中空糸膜16の外側に向かって流れて細孔22内に進入する。細孔22内に進入した標的物質Tは、細孔22の内側面との間で生じるファンデルワールス力や疎水性相互作用によって内壁面に付着する。これにより、標的物質Tが効率よく捕集される。
【0023】
本実施の形態の中空糸膜モジュール1は、第1中空糸膜16aと、第2中空糸膜16bと、を備える。第1中空糸膜16aおよび第2中空糸膜16bは、いずれも上述のPEPA膜で構成される。図3(A)は、第1中空糸膜16aの走査電子顕微鏡写真である。図3(B)は、第2中空糸膜16bの走査電子顕微鏡写真である。図3(A)に示すように、第1中空糸膜16aは、複数の第1細孔22aを有する。図3(B)に示すように、第2中空糸膜16bは、複数の第2細孔22bを有する。
【0024】
本実施の形態の中空糸膜モジュール1における標的物質Tは、エンドトキシンおよびインターロイキン6である。以下では適宜、インターロイキン6をIL-6と表記する。第1中空糸膜16aは、第1細孔22aによってエンドトキシンを吸着する。エンドトキシンは、親水セグメントと疎水セグメントとを有し、水溶液中でミセル構造をとる。ミセル構造をとるエンドトキシンのみかけの分子量は、300000以上1000000以下である。第1中空糸膜16aは、この分子量に合わせた径の第1細孔22aを有する。第2中空糸膜16bは、第2細孔22bによってIL-6を吸着する。IL-6は、炎症性サイトカインの一種である。IL-6の分子量は、20000以上30000以下である。第2中空糸膜16bは、この分子量に合わせた径の第2細孔22bを有する。
【0025】
エンドトキシンの吸着特性について、第1中空糸膜16aは、分子量300000以上1000000以下のデキストランに対するふるい係数が0.12以上0.28以下である。このふるい係数は、第1中空糸膜16aが第1細孔22aを有することでもたらされる。また、IL-6の吸着特性について、第2中空糸膜16bは、分子量20000以上30000以下のデキストランに対するふるい係数が0.64以上0.80以下である。このふるい係数は、第2中空糸膜16bが第2細孔22bを有することでもたらされる。
【0026】
本実施の形態の第1中空糸膜16aは、血液に接触して当該血液中のエンドトキシンを吸着する。また、第2中空糸膜16bは、血液に接触して当該血液中のIL-6を吸着する。中空糸膜モジュール1が第1中空糸膜16aおよび第2中空糸膜16bを混合した中空糸膜束4を備えることで、エンドトキシンおよびIL-6を効率よく捕集して血液を浄化することができる。
【0027】
第1中空糸膜16aおよび第2中空糸膜16bは、以下の様にして製造することができる。すなわち、まず上記化学式(1)で表されるポリアリレート樹脂、および上記化学式(2)または上記化学式(3)で表されるポリエーテルスルホン樹脂を含む複合樹脂を所定の有機溶媒に溶解させ、紡糸原液を調製する。ポリアリレート樹脂とポリエーテルスルホン樹脂との質量比は、第1中空糸膜16aおよび第2中空糸膜16bともに、例えば2:1~1:2である。有機溶剤は、ポリアリレート樹脂およびポリエーテルスルホン樹脂を溶解できるものであれば特に限定されず、例えばテトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等が例示される。複合樹脂および有機溶媒の質量比は、例えば0.5:9.5~3:7である。有機溶剤に複合樹脂を溶解させる際の温度は、例えば30℃以上100℃以下である。
【0028】
二重ノズルを用いて紡糸原液を内部凝固液とともに押し出して、外部凝固液が入った槽に落とし込むことにより、第1中空糸膜16aおよび第2中空糸膜16bが形成される。内部凝固液および外部凝固液はともに、水および有機溶媒の混合液である。内部凝固液および外部凝固液における水および有機溶剤の混合比は、例えば4:6~7:3である。中空糸膜の溶質に対するふるい係数は、内部凝固液における水および有機溶剤の混合比を変化させることで調整することができる。なお、内部凝固液における有機溶剤の混合比率が大きい程、得られる中空糸膜のふるい係数は大きくなる。これらの条件で紡糸することで、エンドトキシンの吸着に適した細孔径の第1細孔22aを有する第1中空糸膜16aと、IL-6の吸着に適した細孔径の第2細孔22bを有する第2中空糸膜16bと、を得ることができる。
【0029】
<中空糸膜の物性評価>
(中空糸膜モジュール1の作製)
中空糸膜16の物質吸着に関する物性を評価するために、透過特性の異なる3種類の中空糸膜16を充填した中空糸膜モジュール1を作製した。各中空糸膜16は、上述の手順に準じて作製した。以下では適宜、3つの中空糸膜16をPEPA-A、PEPA-B、PEPA-Cとする。
【0030】
(デキストランを用いた分画分子量曲線の作成)
各中空糸膜16の物質吸着に関する特性を把握するために、デキストランを用いて各中空糸膜16の分画分子量曲線を作成した。分画分子量曲線の作成は、公知の方法に準じて行った。図4は、試験に用いた循環装置の模式図である。
【0031】
具体的には、まず各種のデキストランを混合し、蒸留水で500mLに希釈してデキストラン溶液24を調製した。この溶液を容器26に100mL分注し、試験に使用した。デキストランとしては、質量平均分子量9,000-11,000のデキストラン(型式D9260、Sigma-Aldrich社製)を0.125g、質量平均分子量35,000-45,000のデキストラン(型式D1662、Sigma-Aldrich社製)を0.125g、質量平均分子量150000のデキストラン(型式D4876、Sigma-Aldrich社製)を0.5g、質量平均分子量180,000-210,000のデキストラン(型式043-22611、富士フイルム和光純薬社製)を0.75g使用した。
【0032】
図4に示す循環装置28を用いて、デキストラン溶液24をPEPA-A~PEPA-Cに繰り返し流す循環処理を実施した。図4において、「Bi」は、溶液の流入口、「Bo」は溶液の流出口、「F」は濾液の流出口を示す。溶液流入口Biは、溶液流入路30の一端に設けられ、容器26に接続される。溶液流入路30の他端は、中空糸膜モジュール1の血液導入ポート18に接続される。中空糸膜モジュール1には、PEPA-A~PEPA-Cのそれぞれを別々に収容したものが用いられる。溶液流出口Boは、溶液流出路32の一端に設けられ、容器26に接続される。溶液流出路32の他端は、各中空糸膜モジュール1の血液導出ポート20に接続される。濾液流出口Fは、濾液流路34の一端に設けられ、容器26に接続される。濾液流路34の他端は、中空糸膜モジュール1の濾液導出ポート36に接続される。
【0033】
溶液流入路30には、導入ポンプ38が設けられる。濾液流路34には、排出ポンプ40が設けられる。導入ポンプ38が駆動すると、容器26内のデキストラン溶液24は、溶液流入口Biから溶液流入路30および血液導入ポート18を経て、中空糸膜モジュール1内に流入する。中空糸膜モジュール1内に流入したデキストラン溶液24は、中空糸膜16を通過し、血液導出ポート20および溶液流出路32を経て、溶液流出口Boから容器26に戻る。排出ポンプ40が駆動すると、中空糸膜16内を通過中のデキストラン溶液24の一部は、中空糸膜16の内側から外側に移動する。中空糸膜16の外側に移動したデキストラン溶液24は、濾液導出ポート36および濾液流路34を経て、濾液流出口Fから容器26に戻る。
【0034】
溶液流入路30におけるデキストラン溶液24の流速が1.0mL/分となるように導入ポンプ38を駆動させ、濾液流路34における濾液の流速が0.1mL/分となるように排出ポンプ40を駆動させた。各ポンプの駆動開始から2時間が経過した時点で、溶液流入口Bi、溶液流出口Boおよび濾液流出口Fのそれぞれを通過する溶液をサンプリングした。
【0035】
サンプリングした各溶液に含まれるデキストランの分子量を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により測定した。高速液体クロマトグラフィーは、2695セパレーションモジュール(Waters社製)、2414示差屈折率検出器(Waters社製)および分離カラムGF-710HQ(Shodex社製)2本を用いて実施した。また、測定条件は、流量0.6mL/分、カラム温度40℃、注入量100uL、測定時間60分とした。なお、2本の分離カラムは、直列に接続して用いた。
【0036】
得られた結果から、各保持時間の連続的なふるい係数(SC)を算出した。ふるい係数は、溶質の濾過割合を示す指標である。全ての溶質が濾過されればSC=1、全く濾過されなければSC=0となる。ふるい係数は、下記数式(3)を用いて算出することができる。なお、数式(3)において、CFは濾液流出口Fで採取したサンプルの屈折率強度である。CBiは、溶液流入口Biで採取したサンプルの屈折率強度である。CBoは、溶液流出口Boで採取したサンプルの屈折率強度である。
SC=2CF/(CBi+CBo)・・・(3)
【0037】
デキストラン溶液24を高速液体クロマトグラフィーにかけて得られた較正曲線の一次関数から、各中空糸膜16における各分子量のデキストランの保持時間をピークトップ分子量(Mp)に変換した。そして、縦軸にSCをとり、横軸にMpの対数をとったグラフに各中空糸膜16の結果をプロットして、各中空糸膜16の分画分子量曲線を得た。図5(A)は、各中空糸膜の分画分子量曲線を示す図である。
【0038】
また、得られた分画分子量曲線に基づいて、エンドトキシンの分子量範囲およびIL-6の分子量範囲のそれぞれにおける各中空糸膜のふるい係数を導出した。図5(B)は、エンドトキシンの分子量範囲およびIL-6の分子量範囲のそれぞれにおける各中空糸膜のふるい係数を示す図である。図5(B)に示すように、PEPA-Aは、エンドトキシンの分子量範囲におけるふるい係数が0.12以上0.28以下であった。また、PEPA-Cは、IL-6の分子量範囲におけるふるい係数が0.64以上0.80以下であった。したがって、PEPA-Aが第1中空糸膜16aに対応し、PEPA-Cが第2中空糸膜16bに対応する。
【0039】
<中空糸膜のエンドトキシン吸着能評価>
各中空糸膜16のエンドトキシン吸着能を評価するために、各中空糸膜16を用いて以下に説明するエンドトキシン吸着試験を実施した。
【0040】
(エンドトキシン溶液の作製)
まず、エンドトキシン(1,000EU/mL)0.02mLをパイロジェンフリー水(pyrogen-free water、型式H20CC0124、Merck社製)20mLで希釈して、エンドトキシン溶液(1EU/mL)を調製した。なお、エンドトキシン(1,000EU/mL)は、エンドトキシン標準品(10,000EU/mL、医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス財団製)をパイロジェンフリー水で10倍希釈したものを使用した。調製したエンドトキシン溶液は、乾熱滅菌済みのガラス容器に収容した。また、エンドトキシン溶液20mLを収容したガラス容器を複数用意した。
【0041】
図4に示す循環装置28を用いて、エンドトキシン溶液をPEPA-A~PEPA-Cに繰り返し流す循環処理を実施した。容器26は、上述のエンドトキシン溶液20mLを収容したガラス容器とした。各流路にはオートクレーブ滅菌済みのシリコーンチューブを用いた。PEPA-A~PEPA-Cは、ガンマ線滅菌済みのものを使用した。
【0042】
溶液流入路30におけるエンドトキシン溶液の流速が1.0mL/分となるように導入ポンプ38を駆動させ、濾液流路34における濾液の流速が0.1mL/分となるように排出ポンプ40を駆動させた。各ポンプの駆動開始から0,10,30,60,120分が経過した時点で、容器26中のエンドトキシン溶液をサンプリングした。サンプリングには、エンドトキシンフリーのピペットチップと乾熱滅菌済みのガラス容器とを使用した。
【0043】
エンドスペシー(Endospecy)ES-50M(生化学工業社製)およびパイロカラージアゾ試薬(PyroColor Diazo Reagents)DIA150-MP(生化学工業社製)を用い、エンドポイント比色法にて、サンプリングした各溶液のエンドトキシン濃度を測定した。測定手順は試薬セットのプロトコールどおりに実施した。サンプリングした各溶液は、パイロジェンフリー水で100倍希釈した。測定に用いたマイクロプレート(型式900570、生化学工業社製)およびピペットチップ(型式298-35031,291-35021、富士フイルム和光純薬社製)は、全てエンドトキシンフリーのものを使用した。各溶液の吸光度は、マイクロプレートリーダー(Wallac 1420 ARVO MX、PerkinElmer社製)を用いて、測定波長540nm、対照波長630nmで測定した。循環処理および濃度測定を3回実施し、各測定で得られた濃度の平均値を算出した。
【0044】
また、対照区として、中空糸膜モジュール1を循環装置28に取り付けず、溶液流入路30を溶液流出路32および濾液流路34に直に接続した点以外は同様にして、上述の循環処理および濃度測定を実施した。
【0045】
図6(A)~図6(D)は、エンドトキシン吸着試験の結果を示す図である。図6(A)はPEPA-Aの結果であり、図6(B)はPEPA-Bの結果の結果であり、図6(C)はPEPA-Cの結果であり、図6(D)は対照区の結果である。図6(A)~図6(D)に示すように、PEPA-Aではエンドトキシン濃度が顕著に低下することが確認された。PEPA-BおよびPEPA-Cでは、エンドトキシン濃度の低下は小さかった。循環装置28では、中空糸膜モジュール1を通過したエンドトキシン溶液と濾液とが容器26に戻る流路構造であるため、エンドトキシン濃度の低下は、エンドトキシンが中空糸膜16に吸着除去されたことを意味する。
【0046】
また、PEPA-A~PEPA-Cおよび対照区について、循環処理を120分間実施した後のエンドトキシン吸着量(M)を下記数式(4)を用いて算出した。なお、数式(4)において、CBはエンドトキシン溶液における循環処理開始前のエンドトキシン濃度である。CB120は、エンドトキシン溶液における循環処理を120分間実施した後のエンドトキシン濃度である。20は、エンドトキシン溶液の体積である。
M=(CB-CB120)×20・・・(4)
【0047】
図7は、エンドトキシン吸着量の算出結果を示す図である。図7に示すように、PEPA-Aは、PEPA-BおよびPEPA-Cに比べて、エンドトキシンの吸着量が顕著に多かった。以上より、分子量300000以上1000000以下のデキストランに対するふるい係数が0.12以上0.28以下である第1中空糸膜16aによれば、エンドトキシンを効率よく吸着除去できることが示された。
【0048】
<中空糸膜のIL-6吸着能評価>
各中空糸膜16のIL-6吸着能を評価するために、各中空糸膜16を用いて以下に説明するIL-6吸着試験を実施した。
【0049】
(IL-6溶液の作製)
まず、PBS(型式045-29795、富士フイルム和光純薬社製)18mL、Blocker(登録商標)BSA(10×)in PBS(型式37525、Thermo Fisher社製)2mL、およびヒト組換え体IL-6(IL-6, Human, Recombinant、10μg/mL、型式206-IL-010、R&D Systems社製)0.02mLを含有するIL-6溶液(10,000pg/mL)を調製した。なお、ヒト組換え体IL-6は、1%Blocker(登録商標)BSA/PBSで10μg/mLに調整したものを使用した。調製したIL-6溶液20mLを収容した容器を複数用意した。
【0050】
図4に示す循環装置28を用いて、IL-6溶液をPEPA-A~PEPA-Cに繰り返し流す循環処理を実施した。容器26は、上述のIL-6溶液20mLを収容した容器とした。溶液流入路30におけるIL-6溶液の流速が1.0mL/分となるように導入ポンプ38を駆動させ、濾液流路34における濾液の流速が0.1mL/分となるように排出ポンプ40を駆動させた。各ポンプの駆動開始から0,10,30,60,120分が経過した時点で、容器26中のIL-6溶液をサンプリングした。
【0051】
ヒトIL-6定量キット(Human IL-6 Quantikine ELISA Kit、型式D6050、R&D systems社製)を用いて、サンプリングした各溶液のIL-6濃度を測定した。測定手順は定量キットのプロトコールどおりに実施した。サンプリングした各溶液は、キット付属の希釈バッファー(Calibrator Diluent、型式RD5T)を用いて100倍希釈した。各溶液の吸光度は、マイクロプレートリーダー(Wallac 1420 ARVO MX、PerkinElmer社製)を用いて、測定波長450nm、対照波長540nmで測定した。循環処理および濃度測定を3回実施し、各測定で得られた濃度の平均値を算出した。
【0052】
また、対照区として、中空糸膜モジュール1を循環装置28に取り付けず、溶液流入路30を溶液流出路32および濾液流路34に直に接続した点以外は同様にして、上述の循環処理および濃度測定を実施した。
【0053】
図8(A)~図8(D)は、IL-6吸着試験の結果を示す図である。図8(A)はPEPA-Aの結果であり、図8(B)はPEPA-Bの結果の結果であり、図8(C)はPEPA-Cの結果であり、図8(D)は対照区の結果である。図8(A)~図8(D)に示すように、PEPA-CではIL-6濃度が顕著に低下することが確認された。PEPA-AおよびPEPA-Bでは、エンドトキシン濃度の低下は小さかった。循環装置28では、中空糸膜モジュール1を通過したIL-6溶液と濾液とが容器26に戻る流路構造であるため、IL-6濃度の低下は、IL-6が中空糸膜16に吸着除去されたことを意味する。
【0054】
また、PEPA-A~PEPA-Cおよび対照区について、循環処理を120分間実施した後のIL-6吸着量(M)を上記数式(4)を用いて算出した。なお、数式(4)において、CBはIL-6溶液における循環処理開始前のIL-6濃度である。CB120は、IL-6溶液における循環処理を120分間実施した後のIL-6濃度である。20は、IL-6溶液の体積である。
【0055】
図9は、IL-6吸着量の算出結果を示す図である。図9に示すように、PEPA-Cは、PEPA-AおよびPEPA-Bに比べて、IL-6の吸着量が顕著に多かった。以上より、分子量20000以上30000以下のデキストランに対するふるい係数が0.64以上0.80以下である第2中空糸膜16bによれば、IL-6を効率よく吸着除去できることが示された。
【0056】
以上説明したように、本実施の形態に係る中空糸膜モジュール1は、分子量300000以上1000000以下のデキストランに対するふるい係数が0.12以上0.28以下である第1中空糸膜16aを有し、第1中空糸膜16aがエンドトキシンを吸着する。これにより、エンドトキシンを除去したい対象物の流路に中空糸膜モジュール1を組み込むだけで、対象物からエンドトキシンを吸着除去できる。このため、従来の固定化ポリミキシン成形品を用いる場合に比べて、血液回路の構造が複雑化したり治療コストが増大したりすることを抑制することができる。また、中空糸膜モジュール1は、第1中空糸膜16aによってエンドトキシンを吸着するため、エンドトキシンの吸着剤やリガンド等を担体に固定する作業が不要である。よって、本実施の形態によれば、より実用性の高いエンドトキシン除去技術を提供することができる。
【0057】
また、本実施の形態の第1中空糸膜16aは、血液中のエンドトキシンを吸着する。つまり、中空糸膜モジュール1は、血液浄化器として用いられる。これにより、より効率よく血液を浄化することができる。
【0058】
また、本実施の形態の第1中空糸膜16aは、上記化学式(1)で表されるポリアリレート樹脂、および上記化学式(2)または上記化学式(3)で表されるポリエーテルスルホン樹脂を含有するポリエステル系ポリマアロイ膜で構成される。この場合、2種類の疎水性ポリマー、つまりポリアリレートおよびポリエーテルスルホンがそれぞれ異なる度合いで収縮することで、所望の径の細孔22が形成される。このため、細孔22の形成にポリビニルピロリドンのような親水性高分子の開口剤を用いる必要がない。よって、第1中空糸膜16aをより簡単に製造することができる。
【0059】
また、本実施の形態の中空糸膜モジュール1は、分子量20000以上30000以下のデキストランに対するふるい係数が0.64以上0.80以下である第2中空糸膜16bを有し、第2中空糸膜16bがIL-6を吸着する。これにより、エンドトキシンとIL-6との両方を同時に吸着除去することができる。よって、より実用性の高いエンドトキシン除去技術を提供することができる。
【0060】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明した。前述した実施の形態は、本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施の形態の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。設計変更が加えられた新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態および変形それぞれの効果をあわせもつ。前述の実施の形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「本実施の形態の」、「本実施の形態では」等の表記を付して強調しているが、そのような表記のない内容でも設計変更が許容される。以上の構成要素の任意の組み合わせも、本発明の態様として有効である。
【0061】
上述した実施の形態に係る発明は、以下に記載する項目によって特定されてもよい。
[項目1]
実施の形態に記載の中空糸膜モジュール(1)にエンドトキシンを接触させることを含むエンドトキシンの除去方法。
[項目2]
実施の形態に記載の中空糸膜モジュール(1)を備える血液浄化器。
【符号の説明】
【0062】
1 中空糸膜モジュール、 16 中空糸膜、 16a 第1中空糸膜、 16b 第2中空糸膜、 22 細孔、 22a 第1細孔、 22b 第2細孔。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9