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特許7471908育苗培土の製造方法、育苗培土、及び植物の栽培方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】育苗培土の製造方法、育苗培土、及び植物の栽培方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 24/44 20180101AFI20240415BHJP
   A01G 24/22 20180101ALI20240415BHJP
   A01G 24/12 20180101ALI20240415BHJP
【FI】
A01G24/44
A01G24/22
A01G24/12
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020085334
(22)【出願日】2020-05-14
(65)【公開番号】P2021177734
(43)【公開日】2021-11-18
【審査請求日】2023-04-18
(73)【特許権者】
【識別番号】508187665
【氏名又は名称】株式会社レゾナック・テクノサービス
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】樫村 ちはる
(72)【発明者】
【氏名】田村 純一
(72)【発明者】
【氏名】枝 元樹
(72)【発明者】
【氏名】金尾 修
【審査官】田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-092420(JP,A)
【文献】特開平05-049468(JP,A)
【文献】特開2017-048356(JP,A)
【文献】特開2010-029110(JP,A)
【文献】特開2013-116996(JP,A)
【文献】特開2020-188727(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 24/44
A01G 24/22
A01G 24/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
培土基材(A)と、アルギン酸の多価カチオン塩(B)と、アルギン酸の1価カチオン塩(C)と、を配合する育苗培土の製造方法であって、
前記アルギン酸の多価カチオン塩(B)の少なくとも一部を発酵させてから配合する、育苗培土の製造方法。
【請求項2】
前記アルギン酸の多価カチオン塩(B)が、繊維の形態で配合されてなる、請求項1に記載の育苗培土の製造方法。
【請求項3】
前記繊維の平均繊維長が、1~50mmであり、平均繊維径が、0.01~3mmである、請求項2に記載の育苗培土の製造方法。
【請求項4】
下記工程A1及びA2を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の育苗培土の製造方法。
工程A1:前記培土基材(A)と、前記少なくとも一部を発酵させたアルギン酸の多価カチオン塩(B)と、を混合して、培土混合物を得る工程
工程A2:前記培土混合物に前記アルギン酸の1価カチオン塩(C)水溶液を添加して、前記アルギン酸の多価カチオン塩(B)の少なくとも一部の多価カチオンを、前記アルギン酸の1価カチオン塩(C)が有する1価カチオンとイオン交換させてなる固化剤を形成し、該固化剤で前記培土基材(A)が固化された育苗培土を得る工程
【請求項5】
前記アルギン酸の多価カチオン塩(B)が、アルギン酸カルシウム塩である、請求項1~4のいずれか1項に記載の育苗培土の製造方法。
【請求項6】
前記アルギン酸の1価カチオン塩(C)が、アルギン酸ナトリウム塩である、請求項1~5のいずれか1項に記載の育苗培土の製造方法。
【請求項7】
前記アルギン酸の多価カチオン塩(B)の少なくとも一部を発酵させる方法が、乳酸菌を用いて発酵させる方法である、請求項1~6のいずれか1項に記載の育苗培土の製造方法。
【請求項8】
前記乳酸菌を用いて発酵させる方法が、前記アルギン酸の多価カチオン塩(B)と乳酸発酵竹粉とを混合した後、保管する方法である、請求項7に記載の育苗培土の製造方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の育苗培土の製造方法によって製造した育苗培土を用いる、植物の栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、育苗培土の製造方法、育苗培土、及び植物の栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、農業分野及び園芸分野においては、作業効率の向上を目的として、各種作業の機械化及び自動化が進展しつつある。その中の1つとして、播種、苗の植付け等を自動で行う機械移植がある。機械移植は、培土を充填した育苗ポット内で播種及び育苗して得られた土付苗を移植機によって取り出した後、植付けるという手順により行われる。
【0003】
機械移植を行う際には、上記の通り、移植作業中に土付苗を育苗ポットから取り出すが、その際、土付苗が崩壊することなく良好な固化状態が保たれていることが望ましい。そのため、培土を固化するための種々の方法が検討されている。培土を固化する際には、良好な固化性に加えて、その材料が農地に残留しない生分解性、乾燥又は保水状態でも土付苗が崩壊しない強度、育苗ポットからの離型性、水の浸透性、通気性、良好な作業性等の性能が求められる。
【0004】
特許文献1には、培土基材に、特定の熱融着性繊維を配合したことを特徴とする育苗用培土を加熱処理して培土中の熱融着性繊維を溶融接着させることを特徴とする苗床の固化方法が開示されている。
特許文献2には、育苗培土基材とアルギン酸塩とを含む育苗培土の製造方法であって、上記育苗培土中の多価カチオン当量が、上記アルギン酸塩のアニオン当量の160%以上となるように、上記育苗培土基材とアルギン酸塩とを混合することを特徴とする育苗培土の製造方法が開示されている。
特許文献3には、培土基材と、アルギン酸の多価カチオン塩と、アルギン酸の1価カチオン塩と、を配合する育苗培土の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-339226号公報
【文献】特開2001-333635号公報
【文献】特開2019-092420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されている方法は、培土が固化する際に熱融着性繊維を加熱する必要があるため、加熱設備が必要となると共に、使用し得る育苗ポットの材質にも制限が生じる。また、融着固化を可能にするほど繊維を培土に添加すると、育苗ポットへの充填作業中に繊維塊が生じる等、作業性が悪化する場合がある。また、これらの問題により、培土の購入者は事前に育苗ポット内で培土を固化させたものを購入する必要性が高くなり、購入者側で固化の時期等を調整できない等、使用方法が制限される問題がある。更には、これらの材料は生分解性が低いため環境適合性に劣るという問題がある。
【0007】
特許文献2に開示されている方法は、多価カチオンの供給源として、消石灰又は土に含まれる無機化合物由来の多価カチオンを利用し、これとアルギン酸塩を反応させて固化させるものである。しかしながら、消石灰は多価カチオンの濃度が高く、例えば、育苗ポット内で消石灰を配合した育苗培土とアルギン酸塩とを混合すると、培土の表面でのゲル化が速く進行しすぎ、育苗ポットの内部にまでアルギン酸塩が浸透できない問題が生じる。また、消石灰や土に含まれる無機化合物由来の多価カチオンは水に溶解するものであったり、或いはイオン状態で存在するものであるため、培土中における濃度及び分散性をコントロールすることが困難であり、良好な固化状態を容易に得ることができなかった。
【0008】
特許文献3に開示されている方法によると、生分解性、作業性及び固化性に優れた固化培土が得られるものの、固化培土を使用しない場合と比べると、植物の生育が遅くなる場合があった。
【0009】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、生分解性に優れる材料からなり、優れた作業性と優れた固化性とを両立し、植物の生育遅延が抑制された育苗培土の製造方法、該製造方法で得られる育苗培土及び該育苗培土を用いた植物の栽培方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記の課題に関して鋭意検討を重ねた結果、培土基材と、アルギン酸の多価カチオン塩と、アルギン酸の1価カチオン塩と、を配合する育苗培土の製造方法において、アルギン酸の多価カチオン塩の少なくとも一部を発酵させてから配合する方法により、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は下記[1]~[10]に関する。
[1]培土基材(A)と、アルギン酸の多価カチオン塩(B)と、アルギン酸の1価カチオン塩(C)と、を配合する育苗培土の製造方法であって、
前記アルギン酸の多価カチオン塩(B)の少なくとも一部を発酵させてから配合する、育苗培土の製造方法。
[2]前記アルギン酸の多価カチオン塩(B)が、繊維の形態で配合されてなる、上記[1]に記載の育苗培土の製造方法。
[3]前記繊維の平均繊維長が、1~50mmであり、平均繊維径が、0.01~3mmである、上記[2]に記載の育苗培土の製造方法。
[4]下記工程A1及びA2を含む、上記[1]~[3]のいずれかに記載の育苗培土の製造方法。
工程A1:前記培土基材(A)と、前記少なくとも一部を発酵させたアルギン酸の多価カチオン塩(B)と、を混合して、培土混合物を得る工程
工程A2:前記培土混合物に前記アルギン酸の1価カチオン塩(C)水溶液を添加して、前記アルギン酸の多価カチオン塩(B)の少なくとも一部の多価カチオンを、前記アルギン酸の1価カチオン塩(C)が有する1価カチオンとイオン交換させてなる固化剤を形成し、該固化剤で前記培土基材(A)が固化された育苗培土を得る工程
[5]前記アルギン酸の多価カチオン塩(B)が、アルギン酸カルシウム塩である、上記[1]~[4]のいずれかに記載の育苗培土の製造方法。
[6]前記アルギン酸の1価カチオン塩(C)が、アルギン酸ナトリウム塩である、上記[1]~[5]のいずれかに記載の育苗培土の製造方法。
[7]前記アルギン酸の多価カチオン塩(B)の少なくとも一部を発酵させる方法が、乳酸菌を用いて発酵させる方法である、上記[1]~[6]のいずれかに記載の育苗培土の製造方法。
[8]前記乳酸菌を用いて発酵させる方法が、前記アルギン酸の多価カチオン塩(B)と乳酸発酵竹粉とを混合した後、保管する方法である、上記[7]に記載の育苗培土の製造方法。
[9]上記[1]~[8]のいずれかに記載の育苗培土の製造方法によって製造される育苗培土。
[10]上記[9]に記載の育苗培土を用いる、植物の栽培方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、生分解性に優れる材料からなり、優れた作業性と優れた固化性とを両立し、植物の生育遅延が抑制された育苗培土の製造方法、該製造方法で得られる育苗培土、及び該育苗培土を用いた植物の栽培方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について詳述するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0013】
[育苗培土の製造方法]
本実施形態の育苗培土の製造方法は、培土基材(A)と、アルギン酸の多価カチオン塩(B)と、アルギン酸の1価カチオン塩(C)と、を配合する育苗培土の製造方法であって、前記アルギン酸の多価カチオン塩(B)の少なくとも一部を発酵させてから配合する、育苗培土の製造方法である。
なお、以下の説明において、アルギン酸の多価カチオン塩(B)を「アルギン酸多価塩(B)」、アルギン酸の1価カチオン塩(C)を「アルギン酸1価塩(C)」、少なくとも一部を発酵させたアルギン酸の多価カチオン塩(B)を「発酵アルギン酸多価塩(B)」と称する場合がある。
【0014】
本実施形態の製造方法は、アルギン酸多価塩(B)とアルギン酸1価塩(C)とを併用するものである。アルギン酸多価塩(B)は水溶性が低く、培土中に分散させ易い固体であることから、培土中に適度な分散性を保った状態で存在させることが可能である。一方、アルギン酸1価塩(C)は水溶性に優れることから、水溶液として培土全体に均質に行き渡らせることができる。そして、培土中でアルギン酸多価塩(B)とアルギン酸1価塩(C)とが接触すると、アルギン酸多価塩(B)の表面近傍に存在する多価カチオンの一部がアルギン酸1価塩(C)の1価カチオンとイオン交換され、培土に行き渡らせたアルギン酸1価塩(C)が緩やかにゲル化される。このようにして、本実施形態の製造方法によると、均一に分散したアルギン酸多価塩(B)を起点として、アルギン酸1価塩(C)がゲル化してなる網目構造が培土中に緩やかに広がるため、局所的な固化を抑制し、これによって全体として良好な固化状態が保たれるものと考えられる。
また、本実施形態の製造方法によると、アルギン酸1価塩(C)とアルギン酸多価塩(B)とを接触させるタイミングは育苗培土の購入者が決定できるため、培土の購入者は用途に応じた柔軟な使用方法が可能である。
また、本実施形態の製造方法に用いられるアルギン酸多価塩(B)とアルギン酸1価塩(C)とは、いずれも生分解性に優れるものであるため、環境適合性にも優れるものである。
また、本実施形態の製造方法で得られる育苗培土は、乾燥状態又は湿潤状態のいずれの環境下においても優れた固化状態が保たれるため、作業性に優れたものとなる。
【0015】
そして、本実施形態の育苗培土の製造方法によると、アルギン酸多価塩(B)を、その少なくとも一部を発酵させてから配合することによって、植物の生育遅延を抑制することができる。この原因は定かではないが、次のように予想される。
培土を固化剤によって固化する場合、固化培土内の雰囲気は嫌気性雰囲気になり易い。加えて、アルギン酸塩等の生分解性を有する成分は、培土中の菌類の働きを活性化させるため、固化培土内では硝酸呼吸(脱窒作用)で窒素が消費され易い環境にある。そして、このような菌類による窒素の消費は、より分解され易い低分子量成分を分解する際により活発に生じていると考えられる。そこで、予め、アルギン酸多価塩(B)を発酵させることにより低分子量成分を低減させておくことで、上記分解過程における菌類による窒素の消費を抑制することができ、植物の生育性が良好に保たれるものと考えられる。
【0016】
<培土基材(A)>
培土基材(A)は、育成する植物の種類に応じて、育苗用培土として公知のものを使用することができる。具体的には、赤玉土、鹿沼土、荒木田土、腐葉土、桐生砂等の各種園芸用土;川砂、海砂、浜砂、山砂等の砂類;パーライト、バーミキュライト、ロックウール、ゼオライト、鉱滓等の鉱物;ピートモス、ココピート、水苔、腐葉土、パーク堆肥、モミガラ、亜炭、薫炭、フスマ、炭粉等の有機質資材などが挙げられる。
培土基材(A)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、必要に応じて、無機質肥料、有機質肥料、化学堆肥等の肥料などを配合したものであってもよい。
【0017】
<アルギン酸の多価カチオン塩(B)>
アルギン酸多価塩(B)は、アルギン酸の多価カチオン塩であれば特に限定されず、アルギン酸マグネシウム塩、アルギン酸カルシウム塩、アルギン酸ストロンチウム塩、アルギン酸バリウム塩等のアルギン酸アルカリ土類金属塩;アルギン酸鉄塩、アルギン酸亜鉛塩、アルギン酸銅塩等のアルギン酸遷移金属塩;アルギン酸アルミニウム塩等の3価以上のカチオン塩などが挙げられる。これらの中でも、汎用性及び培土の固化性の観点から、アルギン酸の2価カチオン塩が好ましく、アルギン酸アルカリ土類金属塩がより好ましく、アルギン酸カルシウム塩がさらに好ましい。
アルギン酸多価塩(B)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
アルギン酸多価塩(B)のマンヌロン酸(M)とグルロン酸(G)の比率であるM/G比は、良好な硬さを有する固化状態を得る観点から、0.1~5が好ましく、0.4~3がより好ましく、0.5~1.5がさらに好ましい。
【0019】
アルギン酸多価塩(B)における多価カチオンの含有量は、良好な硬さを有する固化状態を得る観点から、アルギン酸塩のモノマー単位(C)1モルに対して、0.01~3モルが好ましく、0.05~2モルがより好ましく、0.1~1.5モルがさらに好ましい。
【0020】
アルギン酸多価塩(B)を配合する際の形態は特に限定されず、例えば、繊維、粉末、ペレット、顆粒、フレーク等の形態で配合されることが好ましく、繊維の形態で配合されることがより好ましい。
【0021】
アルギン酸多価塩(B)を粉末の形態で配合する場合、その粉末の平均粒子径は、適用する培土基材(A)及び植物の種類等に応じて適宜決定すればよいが、例えば、0.01~5mmであり、0.1~4mmが好ましく、0.5~2mmがより好ましい。なお、粉末の平均粒子径は、当該粉末の投影像においてとりうる最大長さの値と、その最大長さに直交する方向の最大長さの値の平均値を、任意に選択した10個の粉末について求め、これを平均した値として求めることができる。
【0022】
アルギン酸多価塩(B)を繊維の形態で配合する場合、その繊維の平均繊維長は、1~50mmが好ましく、2~40mmがより好ましく、3~30mmがさらに好ましい。
また、アルギン酸多価塩(B)の平均繊維径は、0.01~3mmが好ましく、0.05~2.5mmがより好ましく、0.1~2mmがさらに好ましい。
なお、繊維の平均繊維径及び平均繊維長は、当該繊維の投影像における繊維径及び繊維長を、任意に選択した10個の繊維について求め、これを平均した値として求めることができる。また、本実施形態において「繊維」とは、上記平均繊維長と平均繊維径との比[平均繊維長/平均繊維径]が2以上のものを意味する。上記平均繊維長と平均繊維径との比[平均繊維長/平均繊維径]は、良好な固化状態を得る観点から、3以上が好ましく、5以上がより好ましく、7以上がさらに好ましい。また、上記比[平均繊維長/平均繊維径]は、繊維の分散性の観点から、20以下であってもよく、15以下であってもよい。
また、繊維の断面形状としては、丸型、三角形型、T型、偏平型、多葉型、V字型、中空型等のいずれの形状であってもよい。
【0023】
なお、アルギン酸多価塩(B)を繊維の形態にする方法としては、例えば、アルギン酸ナトリウム塩等のアルギン酸の1価カチオン塩水溶液を、所望のノズル径を有する紡糸ノズル等を使用して、塩化カルシウム水溶液等の多価カチオン塩化物水溶液中に吐出紡糸した後、形成された繊維状のアルギン酸多価塩を回収及び乾燥して得ることができる。上記のアルギン酸の1価カチオン塩水溶液の濃度は、例えば、0.5~10質量%であり、多価カチオン塩化物水溶液の濃度は、例えば、1~30質量%である。
【0024】
アルギン酸多価塩(B)の製造に用いるアルギン酸1価カチオン塩の1質量%水溶液粘度は、汎用性、水への溶解性の観点から、10~1,000mPa・sが好ましく、20~600mPa・sがより好ましく、30~400mPa・sがさらに好ましい。
【0025】
なお、アルギン酸多価塩(B)を、繊維、粉末、ペレット、顆粒、フレーク等の形態で配合する場合、これらは本発明の効果を阻害しない範囲において、アルギン酸多価塩(B)以外の成分を含んでいてもよい。
【0026】
アルギン酸多価塩(B)の配合量は、良好な固化状態を得る観点から、培土基材(A)100質量部に対して、0.1~50質量部が好ましく、0.5~30質量部がより好ましく、1~10質量部がさらに好ましい。
【0027】
<アルギン酸の1価カチオン塩(C)>
アルギン酸1価塩(C)は、アルギン酸の1価カチオン塩であれば特に限定されず、例えば、アルギン酸リチウム塩、アルギン酸ナトリウム塩、アルギン酸カリウム塩等のアルギン酸アルカリ金属塩;アルギン酸アンモニウム塩などが挙げられる。これらの中でも、汎用性及び培土の固化性の観点から、アルギン酸アルカリ金属塩が好ましく、アルギン酸ナトリウム塩がより好ましい。
アルギン酸1価塩(C)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
アルギン酸1価塩(C)の20℃における1質量%水溶液粘度は、汎用性、水への溶解性の観点から、0.1~30mPa・sが好ましく、1~20mPa・sがより好ましく、2~15mPa・sがさらに好ましく、4~10mPa・sが特に好ましい。
【0029】
アルギン酸1価塩(C)のマンヌロン酸(M)とグルロン酸(G)の比率であるM/G比は、良好な硬さを有する固化状態を得る観点から、0.1~10が好ましく、0.4~5がより好ましく、0.5~3がさらに好ましい。
【0030】
アルギン酸1価塩(C)における1価カチオンの含有量は、良好な硬さを有する固化状態を得る観点から、アルギン酸塩のモノマー単位(C)1モルに対して、0.5~3モルが好ましく、0.6~2モルがより好ましく、0.8~1.5モルがさらに好ましい。
【0031】
アルギン酸1価塩(C)を配合する際の形態は特に限定されず、例えば、繊維、粉末、ペレット、顆粒、フレーク、水溶液等の形態で配合されることが好ましく、水溶液の形態で配合されることがより好ましい。
アルギン酸1価塩(C)を粉末の形態で配合する場合、その粉末の平均粒子径は、適用する培土基材(A)及び植物の種類等に応じて適宜決定すればよいが、例えば、0.01~3mmであり、0.05~2.5mmが好ましく、0.1~2mmがより好ましい。平均粒子径の算出方法は、アルギン酸多価塩(B)の平均粒子径の算出方法と同じである。
【0032】
アルギン酸1価塩(C)を水溶液の形態で配合する場合、その水溶液中の濃度は、アルギン酸1価塩(C)、適用する培土基材(A)及び植物の種類等に応じて適宜決定すればよいが、例えば、0.01~10質量%であり、0.05~5質量%が好ましく、0.1~4質量%がより好ましい。
アルギン酸1価塩(C)の水溶液の20℃における粘度は、培土への浸透性及びアルギン酸多価塩(B)との反応性の観点から、0.1~30mPa・sが好ましく、1~20mPa・sがより好ましく、2~15mPa・sがさらに好ましく、4~10mPa・sが特に好ましい。
アルギン酸1価塩(C)の水溶液は、例えば、所定量のアルギン酸1価塩(C)を、イオン交換水に投入し、必要に応じて、加熱及び撹拌することで調製することができる。
【0033】
なお、アルギン酸1価塩(C)を、繊維、粉末、ペレット、顆粒、フレーク、水溶液等の形態で配合する場合、これらは本発明の効果を阻害しない範囲において、アルギン酸1価塩(C)以外の成分を含んでいてもよい。
【0034】
アルギン酸1価塩(C)の配合量は、良好な固化状態を得る観点から、培土基材(A)100質量部に対して、0.05~20質量部が好ましく、0.1~10質量部がより好ましく、0.12~5質量部がさらに好ましい。
アルギン酸多価塩(B)由来の多価カチオンと、アルギン酸1価塩(C)由来の1価カチオンとの配合比((B)/(C))(モル比)は、良好な固化状態を得る観点から、0.01~200が好ましく、0.05~20がより好ましく、0.1~10がさらに好ましい。
【0035】
<アルギン酸の多価カチオン塩(B)を発酵させる方法>
アルギン酸多価塩(B)を発酵させる方法としては、微生物によって発酵させる方法が挙げられる。
発酵に使用する微生物としては、特に限定されないが、例えば、乳酸菌、ビフィズス菌、イースト菌、酵母菌、麹菌、納豆菌、酢酸菌、テンペ菌等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、汎用的であり、且つ、植物の生育遅延を抑制する効果に優れるという観点から、乳酸菌が好ましい。
乳酸菌としては、公知の乳酸菌を使用することができるが、竹由来の乳酸菌が好ましく、竹由来の乳酸菌を乳酸発酵竹粉として使用することがより好ましい。すなわち、乳酸菌を用いて発酵させる方法は、アルギン酸多価塩(B)と乳酸発酵竹粉とを混合した後、保管する方法であることが好ましい。
乳酸発酵竹粉とは、生竹を切削又は粉砕した竹粉を乳酸発酵させて得られるものであり、例えば、その製造方法は特開2014-064564号公報に記載されているものである。
乳酸発酵竹粉の粒子径は、特に限定されないが、50~800μmが好ましく、100~600μmがより好ましく、200~400μmがさらに好ましい。
【0036】
発酵の条件は、特に限定されないが、好気発酵にて行うことが好ましい。好気条件は特に限定されず、好気的発酵を維持できる範囲に適宜設定すればよく、空気中であってもよい。
発酵は、アルギン酸多価塩(B)、微生物、必要に応じて水を混合して、例えば、温度が20~50℃、湿度が60~100%RHの環境下で保管することで進行させることができる。また、保管時には、必要に応じて撹拌、通気等の処理を施してもよい。
発酵期間は、目的に応じて適宜調整すればよいが、例えば、1日以上、3日以上又は4日以上であってもよく、70日以内、60日以内、50日以内又は40日以内であってもよい。
【0037】
乳酸菌として乳酸発酵竹粉を用いる場合、発酵時における乳酸発酵竹粉の配合量としては、特に限定されないが、発酵を適度に進行させるという観点から、アルギン酸多価塩(B)100質量部に対して、1~50質量部が好ましく、5~40質量部がより好ましく、10~30質量部がさらに好ましい。
発酵時における水の配合量としては、特に限定されないが、発酵を適度に進行させるという観点から、アルギン酸多価塩(B)100質量部に対して、20~80質量部が好ましく、30~70質量部がより好ましく、40~60質量部がさらに好ましい。
【0038】
<配合方法>
次に、本実施形態の製造方法における各成分の配合方法について説明する。
各成分の配合方法は特に限定されないが、優れた作業性と優れた固化性を両立させる観点から、下記工程A1及びA2を含む配合方法Aが好ましい。
工程A1:培土基材(A)と発酵アルギン酸多価塩(B)とを混合して、培土混合物を得る工程
工程A2:前記培土混合物にアルギン酸1価塩(C)水溶液を添加して、前記発酵アルギン酸多価塩(B)の少なくとも一部の多価カチオンを、前記アルギン酸1価塩(C)が有する1価カチオンとイオン交換させてなる固化剤を形成し、該固化剤で培土基材(A)が固化された育苗培土を得る工程
【0039】
(工程A1)
工程A1は、培土基材(A)と発酵アルギン酸多価塩(B)とを混合して、培土混合物を得る工程である。
培土基材(A)と発酵アルギン酸多価塩(B)とを混合する方法は特に限定されず、例えば、公知のミキサー、捏和機等の機械による撹拌;手作業による撹拌などの方法が挙げられる。
工程A1によって、培土基材(A)と発酵アルギン酸多価塩(B)とを混合してなる培土混合物が得られる。
【0040】
(工程A2)
工程A2は、工程A1で得られた培土混合物に、アルギン酸1価塩(C)水溶液を添加して、前記発酵アルギン酸多価塩(B)の少なくとも一部の多価カチオンを、前記アルギン酸1価塩(C)が有する1価カチオンとイオン交換させてなる固化剤を形成し、該固化剤で培土基材(A)が固化された育苗培土を得る工程である。
【0041】
培土混合物にアルギン酸1価塩(C)水溶液を添加する方法は特に限定されず、例えば、アルギン酸1価塩(C)水溶液を培土混合物に潅水する方法、アルギン酸1価塩(C)水溶液を培土混合物に潅注する方法、アルギン酸1価塩(C)水溶液中に培土混合物を浸漬する方法等が挙げられる。
培土混合物にアルギン酸1価塩(C)水溶液を添加することにより、培土混合物中の発酵アルギン酸多価塩(B)と水溶液中のアルギン酸1価塩(C)とが反応して、固化した培土が得られる。
【0042】
配合方法Aによる場合、工程A1で得られる培土混合物は、工程A2を実施するまでは固化しない状態が保たれる。したがって、育苗培土の使用者は、所望の時期に工程A2を実施することで、育苗培土を固化することができる。
配合方法Aによる場合、工程A1は、培土基材(A)を植物育成用容器に充填する前に実施することが好ましく、工程A2は、上記培土混合物を植物育成用容器に充填した後に実施することが好ましい。
【0043】
本実施形態の製造方法で得られる育苗培土に播種を行う場合、播種の時期は特に限定されず、工程A1の前、工程A1と同時、工程A1と工程A2の間、工程A2と同時又は工程A2の後のいずれの時期であってもよいが、工程A2の後であることが好ましい。
【0044】
培土基材(A)と発酵アルギン酸多価塩(B)とアルギン酸1価塩(C)との配合方法は、下記工程B1を有する配合方法Bであってもよい。
工程B1:培土基材(A)と発酵アルギン酸多価塩(B)と固形のアルギン酸1価塩(C)とを混合して、育苗培土を得る工程
【0045】
工程B1における混合方法は、上記工程A1で挙げられた方法と同じ方法が挙げられる。また、固形のアルギン酸1価塩(C)の形状は、上記した通り、繊維、粉末、ペレット、顆粒、フレーク等が挙げられ、その好ましい態様も同様である。
【0046】
配合方法Bによる場合、工程B1で得られる育苗培土は、水を添加するまでは固化しない状態が保たれる。したがって、育苗培土の使用者は、所望の時期に育苗培土に水を添加することで、育苗培土を固化することができる。なお、工程B1で得られる育苗培土に対して水を添加して培土を固化する工程を「工程B2」と称する。
工程B2によって、発酵アルギン酸多価塩(B)の少なくとも一部の多価カチオンが、アルギン酸1価塩(C)が有する1価カチオンとイオン交換されてなる固化剤が形成され、該固化剤で培土基材(A)が固化された育苗培土が得られる。
配合方法Bによる場合、工程B1は、培土基材(A)を植物育成用容器に充填する前に実施することが好ましく、工程B2は、上記培土混合物を植物育成用容器に充填した後に実施することが好ましい。
【0047】
本実施形態の製造方法で得られる育苗培土に播種を行う場合、播種の時期は特に限定されず、工程B1の前、工程B1と同時、工程B1と工程B2の間、工程B2と同時又は工程B2の後のいずれの時期であってもよいが、工程B2の後であることが好ましい。
【0048】
<育苗培土の用途>
本実施形態の育苗培土の製造方法により得られる育苗培土を充填する植物育成用容器の形状は特に限定されず、様々な形状を有するものに適用可能である。
植物育成用容器としては、底壁及び側壁を有し、底壁の形状が、略円形、略四角形、略六角形等の形状を有するものが挙げられ、育苗ポット、育苗セル等の公知の容器を使用することができる。上記育苗セルは複数個が連なった育苗トレイの形態を有していてもよい。
上記育苗ポット又は育苗セルのサイズは、例えば、開口部穴径が20~60mm、深さが40~65mm、容積は9~165cmである。
本実施形態の育苗培土の製造方法により製造された育苗培土は、野菜、花卉、苗木、稲等の農園芸作物に対して好適である。
【0049】
[育苗培土]
本実施形態の育苗培土は、本実施形態の育苗培土の製造方法によって製造される育苗培土である。したがって、本実施形態の育苗培土は、培土基材(A)と、発酵アルギン酸多価塩(B)及び発酵アルギン酸多価塩(B)に由来する成分からなる群から選ばれる1種以上と、アルギン酸1価塩(C)及びアルギン酸1価塩(C)に由来する成分からなる群から選ばれる1種以上とを含有するものである。
各成分の種類、配合量、配合方法等は、すべて上記した通りである。
【0050】
[植物の栽培方法]
本実施形態の植物の栽培方法は、本実施形態の育苗培土を用いる植物の栽培方法である。
本実施形態の製造方法で得られる育苗培土は、生分解性に優れる材料からなり、優れた作業性と優れた固化性とを両立しているにも関わらず、植物の生育遅延が抑制されたものである。そのため、該育苗培土を用いる本実施形態の植物の栽培方法は、環境適合性、作業性に優れ、植物の生育に適した方法である。
本実施形態の植物の栽培方法によって栽培される植物は特に限定されず、野菜、花卉、苗木、稲等の農園芸作物が挙げられる。
【実施例
【0051】
以下、実施例を示し、本発明について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0052】
製造例1
(アルギン酸カルシウム塩繊維の調製)
アルギン酸ナトリウム塩(キミカ株式会社製、商品名:アルギテックスLL)をイオン交換水に投入後、撹拌して溶解させ、アルギン酸ナトリウム塩水溶液(濃度:約2質量%)を得た。該アルギン酸ナトリウム塩水溶液をシリンジ(吐出径:18ゲージ(1.04mm))を使用して、5質量%の塩化カルシウム水溶液中に連続的に吐出し、塩化カルシウム水溶液中に繊維状のアルギン酸カルシウム塩を析出させた。得られた繊維状のアルギン酸カルシウム塩を塩化カルシウム水溶液中から回収した後、水洗し、70℃で乾燥した後、所望の長さに切断することで、以下の物性を有するアルギン酸カルシウム塩繊維を得た。なお、平均繊維長及び平均繊維径の測定方法は前述の通りである。
平均繊維長:5mm
平均繊維径:0.5mm
M/G比:1.3
多価カチオン含有量:0.5モル/モノマー単位1モル
【0053】
製造例2
(アルギン酸ナトリウム塩水溶液の製造)
アルギン酸ナトリウム塩として、キミカ株式会社製の「アルギテックスLL」、及び同社製の「キミカアルギンULV-L3G」をイオン交換水に投入後、撹拌して溶解させ、アルギン酸ナトリウム塩水溶液(濃度:1質量%)を得た。なお、「アルギテックスLL」と「キミカアルギンULV-L3G」は、質量比(アルギテックスLL:キミカアルギンULV-L3G)が4:6となる比率で配合した。
【0054】
製造例3~8
(発酵アルギン酸カルシウム塩繊維(B1-1~B1-6)の調製)
製造例1で得られたアルギン酸カルシウム塩繊維100質量部、水100質量部、表1に示す発酵促進材料5質量部を混合し、空気雰囲気下、室温(25℃)、ビニール袋内で1週間保管して、発酵アルギン酸カルシウム塩繊維(B1-1)~(B1-6)を得た。
なお、表1に示す発酵促進材料の詳細は以下の通りである。
ヨーグルト:株式会社明治製「ブルガリアヨーグルト(プレーン)」
イースト菌:日清製粉株式会社製「カメリアドライイースト」
乳酸発酵竹粉:株式会社グリーンネット・エンジニアリング製、平均粒径300μm
納豆:株式会社ミツカン製「くめ納豆」40gを水100mlと混合及び撹拌した後の上澄み液
発酵牛糞:グリーンプラン株式会社製「熟成牛ふん」
EM菌:アイリスオーヤマ株式会社製「EM生ゴミ発酵促進剤」
【0055】
[育苗培土の製造]
実施例1~6
培土基材を100質量部と、表1に示す発酵アルギン酸カルシウム塩繊維3質量部と、をミキサーの容器に投入後、撹拌混合して培土混合物を得た。
上記で得られた培土混合物20gを、育苗ポット(底部直径18mm、上部(開口)直径30mm、高さ45mm)に投入し、振動させつつ余分な培土混合物を除去した後、プレスを行って、育苗ポット内に培土混合物を充填した。次いで、培土混合物を充填した育苗ポットの開口部から、製造例2で調製したアルギン酸ナトリウム塩水溶液15gを潅水して、培土基材がアルギン酸塩で固化されてなる固化培土を得た。植物の生育性の評価を行う場合は、上記培土混合物を充填する際に、所定期間別の培土中で育成された苗を、同時にポット内に植え付けた。
【0056】
比較例1
実施例1において、発酵アルギン酸カルシウム塩繊維(B1-1)に代えて、製造例1で得た、発酵処理を行っていないアルギン酸カルシウム塩繊維を用いたこと以外は、実施例1と同様にして固化培土を得た。
【0057】
参考例1
実施例1で用いた培土基材を固化させずにそのまま育苗培土として使用した。
【0058】
[育苗培土の評価]
各例で得られた育苗培土について、下記に示す方法により固化性及び植物の生育性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0059】
(育苗培土の固化性)
各例で得られた育苗ポット内の培土を、ポットを反転させて振動を加えて取り出し、その際に培土の崩壊が生じるか否かを目視にて確認した。更に、崩壊しなかった培土について30cmの高さより自然落下させる落下試験を行い、崩壊の有無を目視で確認し、下記基準に基づいて評価した。
なお、培土は、抜き出す72時間前から水を添加せず、湿度50%、温度20℃の環境下に置いて乾燥させた状態(乾燥状態)と、抜き出す24時間前に水を添加し、湿度50%、温度20℃の環境下に置いた湿潤状態との、両方の状態で試験を行った。
A:落下試験したときに崩壊しなかった。
C:取り出したときに崩壊しなかったが、落下試験で崩壊した。
E:取り出したときに崩壊が生じた。
【0060】
(植物の生育性)
固化させていない培土中で、本葉の数が3枚になるまで育苗した苗を複数準備した。上記複数の苗の一部の苗を参考例1の苗とし、残りの苗は、実施例及び比較例の固化培土に植え付け、参考例、実施例及び比較例の育苗培土に植え付けられた苗を準備した。
上記参考例、実施例及び比較例の育苗培土に植え付けられた苗を全て同時に、下記に示す育苗環境下において、参考例1の苗の本葉の数が7~8枚になるまで育苗を行った。育苗条件は以下に示す通りである。
・種の種類:トマト
・育苗環境:日当たり良好な屋外の環境下
・各例における試験数(育苗ポット数)N:8
上記の条件で生育した苗について、育苗終了時点の本葉の数及び本葉3枚目の色を目視確認して、以下の基準で評価した。なお、植物の生育遅延の程度は本葉の数から把握することができる。また、同程度の本葉の数である場合は、本葉の色が参考例1に近いほど好まれる。
<本葉の数>
A:7.0超
B:6.0超、7.0以下
C:6.0以下
<本葉の色>
A:参考例1と同程度の色、又は、参考例1よりも僅かに薄い色
B:評価Aの本葉よりも薄い色
【0061】
【表1】
【0062】
表1の結果から、本実施形態に係る実施例1~6の育苗培土は、乾燥状態及び湿潤状態のいずれの状態においても優れた固化性を有し、アルギン酸カルシウム塩繊維を発酵させていない比較例1の育苗培土と対比すると、本葉の数が多く育成遅延が抑制されていることが分かる。
次に、上記の発酵促進材料の中でも、取り扱い易く、比較的低臭気である乳酸発酵竹粉を発酵促進材料として用いる検討をさらに詳細に行った。
【0063】
製造例9
(発酵アルギン酸カルシウム塩繊維(B2-1)の調製)
製造例1で得られたアルギン酸カルシウム塩繊維100質量部、乳酸発酵竹粉(株式会社グリーンネット・エンジニアリング製、平均粒径300μm)20質量部及び水50質量部を混合したものを、空気雰囲気下、温度30℃、湿度70%RHの環境下で、5日間保管し、発酵アルギン酸カルシウム塩繊維(B2-1)を得た。
なお、保管前及び保管後の上記混合物一部をサンプリングしたもの各々水と混合して、その上澄み液のpHを測定したところ、保管後のpHは保管前のpHよりも高くなっており、これにより発酵が進行したことを確認した。
【0064】
製造例10
(発酵アルギン酸カルシウム塩繊維(B2-2)の調製)
製造例9において、保管する期間を5日間から35日間に変更したこと以外は、製造例9と同様にして、発酵アルギン酸カルシウム塩繊維(B2-2)を得た。
【0065】
[育苗培土の製造]
実施例7及び8
実施例1において、発酵アルギン酸カルシウム塩繊維の種類を、表2に示すものに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、育苗培土を得た。
【0066】
比較例2
比較例1と同じ方法で固化培土を得た。
【0067】
比較例3
実施例7において、発酵アルギン酸カルシウム塩繊維(B2-1)に代えて、製造例1で得た発酵処理を行っていないアルギン酸カルシウム塩繊維を用いると共に、乳酸発酵竹粉を、製造例1におけるアルギン酸カルシウム塩繊維と乳酸発酵竹粉との配合比と同じになる量だけ添加したこと以外は、実施例7と同様にして固化培土を得た。すなわち、比較例3は、アルギン酸カルシウム塩繊維と乳酸発酵竹粉とを、別々に培土基材に添加して、発酵処理を実施しなかった例である。この固化培土を用いて後述する植物の生育性(本葉の数、重量、葉長、葉緑素計値)を評価したところ、いずれの項目も、参考例2の固化させていない培土よりも劣る結果となり、比較例2の固化培土と同等又はこれより劣る結果となった。
【0068】
参考例2
実施例7で用いた培土基材を固化させずにそのまま育苗培土として使用した。
【0069】
[育苗培土の評価]
各例で得られた育苗培土について、下記に示す方法により固化性及び植物の生育性を評価した。評価結果を表2に示す。
【0070】
(育苗培土の固化性)
育苗培土の固化性は、実施例1~6と同じ方法によって評価した。
【0071】
(植物の生育性)
(1)生育条件
固化させていない培土中で、本葉の数が3枚になるまで育苗した苗を複数準備した。上記複数の苗の一部の苗を参考例2の苗とし、残りの苗は、実施例及び比較例の固化培土に植え付け、参考例、実施例及び比較例の育苗培土に植え付けられた苗を準備した。
上記参考例、実施例及び比較例の育苗培土に植え付けられた苗を全て同時に、下記に示す育苗環境下において、参考例2の苗の本葉の数が所定(表2に記載)の枚数になるまで育苗を行った。育苗条件は以下に示す通りである。
・種の種類:トマト
・育苗環境:日当たり良好な屋外の環境下
・各例における試験数(育苗ポット数)N:8
【0072】
(2)評価方法
生育性の評価は以下に示す条件で行った。なお、表2に示す評価結果は、全てN数=8の平均値である。
・本葉の数:育苗終了時点の本葉の数を計測した。
・重量:育苗を終了した苗の土を流水で洗い流した後、100℃で1時間乾燥し、さらに、70℃で乾燥した。70℃での乾燥は、1時間間隔で重量を確認し、当該間隔における重量変化率が1%以下となった時点で終了した。その後、根より上の部分(地上部)と根の部分(根部)に分離して、各々の重量を測定した。
・葉長:本葉3枚目の葉長(最大の長さ)を計測した。
・葉緑素計値:コニカミノルタ株式会社製の商品名「SPAD-502Plus」を用いて、3枚目の本葉を対象にして測定した。
【0073】
【表2】
【0074】
表2から、本実施形態に係る実施例7及び8の育苗培土は、乾燥状態及び湿潤状態のいずれの状態においても優れた固化性を有し、アルギン酸カルシウム塩繊維を発酵させていない比較例2の育苗培土と対比すると、本葉の数、重量、葉長及び葉緑素計値が、固化させていない参考例2の育苗培土と近い生育性を有していることが分かる。
以上より、本実施形態の育苗培土の製造方法によって、生分解性に優れる材料からなり、優れた作業性と優れた固化性とを両立し、植物の生育遅延が抑制された育苗培土を製造できるということが分かる。