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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】運動案内装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 29/06 20060101AFI20240415BHJP
【FI】
F16C29/06
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020087900
(22)【出願日】2020-05-20
(65)【公開番号】P2021181813
(43)【公開日】2021-11-25
【審査請求日】2022-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】390029805
【氏名又は名称】THK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112140
【弁理士】
【氏名又は名称】塩島 利之
(74)【代理人】
【識別番号】100119297
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 正男
(72)【発明者】
【氏名】角田 拓磨
(72)【発明者】
【氏名】彦本 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】岸 弘幸
【審査官】鈴木 貴晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-044963(JP,A)
【文献】特開2016-014456(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 29/00-31/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボール転走溝を有する軌道部材と、
前記軌道部材に相対移動可能に組み付けられる移動部材と、を備え、
前記移動部材は、
前記ボール転走溝に対向する負荷ボール転走溝と前記負荷ボール転走溝に略平行な戻し路を有する移動部材本体と、
前記ボール転走溝と前記負荷ボール転走溝との間の負荷路と前記戻し路に接続される方向転換路を有する蓋部材と、を含み、
前記負荷路、前記戻し路、及び前記方向転換路によって構成される循環路に複数のボールが配列される運動案内装置において、
前記軌道部材の長さ方向と直角な前記運動案内装置の断面視において、
前記ボール転走溝の曲率半径をRとし、ボール中心から前記方向転換路の内周側の転走面までの距離をrとするとき、R>rに設定し、前記ボール転走溝の延長線の内側に前記転走面が存在することを特徴とする運動案内装置。
【請求項2】
前記ボール転走溝の曲率中心と前記ボール転走溝の縁とを結ぶ直線と鉛直線とのなす角度をγとし、前記転走面と水平線とのなす角度をθとするとき、θ>γに設定することを特徴とする請求項1に記載の運動案内装置。
【請求項3】
前記蓋部材は、前記方向転換路の外周側が形成される蓋本体と、前記方向転換路の内周側が形成される内周側部品と、を備え、
前記方向転換路の内周側の前記転走面が前記内周側部品に形成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の運動案内装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テーブル等の可動体の運動を案内する運動案内装置に関する。
【背景技術】
【0002】
テーブル等の可動体の運動(直線運動又は曲線運動)を案内する運動案内装置が知られている(例えば特許文献1参照)。運動案内装置は、軌道部材と、軌道部材に相対移動可能に組み付けられる移動部材と、を備える。テーブル等の可動体は、移動部材に取り付けられる。軌道部材と移動部材との間には、転がり運動可能に複数のボールが介在する。ボールの転がり運動を利用して可動体の運動を案内することで、可動体を高精度にかつ高剛性で案内することができる。
【0003】
軌道部材には、ボール転走溝が形成される。移動部材は、移動部材本体と、蓋部材と、を備える。移動部材本体には、ボール転走溝に対向する負荷ボール転走溝と負荷ボール転走溝に略平行な戻し路が形成される。蓋部材には、ボール転走溝と負荷ボール転走溝との間の負荷路と戻し路に接続される方向転換路が形成される。蓋部材は、方向転換路の外周側が形成される蓋本体と、方向転換路の内周側が形成される内周側部品と、を備える。負荷路、戻し路、及び方向転換路によって循環路が構成される。循環路には、複数のボールが配列される。軌道部材に対して移動体が相対移動する際、複数のボールが循環路を循環する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-68880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の運動案内装置は、方向転換路の内周側(内周側部品)の転走面から軌道部材にボールが乗り移る際、ボールが軌道部材のボール転走溝の縁に接触する構造である。このため、通常は問題にならないが、運動案内装置を高速域で使用すると、ボールとボール転走溝の縁との接触部に高い応力が発生し、接触部に圧痕が発生することがある。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、方向転換路の内周側の転走面から軌道部材にボールが乗り移る際、ボールが軌道部材のボール転走溝の縁に接触するのを防止できる運動案内装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、ボール転走溝を有する軌道部材と、前記軌道部材に相対移動可能に組み付けられる移動部材と、を備え、前記移動部材は、前記ボール転走溝に対向する負荷ボール転走溝と前記負荷ボール転走溝に略平行な戻し路を有する移動部材本体と、前記ボール転走溝と前記負荷ボール転走溝との間の負荷路と前記戻し路に接続される方向転換路を有する蓋部材と、を含み、前記負荷路、前記戻し路、及び前記方向転換路によって構成される循環路に複数のボールが配列される運動案内装置において、前記軌道部材の長さ方向と直角な前記運動案内装置の断面視において、前記ボール転走溝の曲率半径をRとし、ボール中心から前記方向転換路の内周側の転走面までの距離をrとするとき、R>rに設定し、前記ボール転走溝の延長線の内側に前記転走面が存在することを特徴とする運動案内装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ボール転走溝の延長線の内側に転走面が配置されるので、転走面から軌道部材にボールが乗り移る際、ボールが軌道部材のボール転走溝の縁に接触するのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態の運動案内装置の外観斜視図(一部断面図を含む)である。
図2】本実施形態の運動案内装置の循環路の断面図である。
図3】本実施形態の運動案内装置の蓋部材の斜視図である(図3(a)は蓋部材の斜視図であり、図3(b)は図3(a)のb部拡大図である)。
図4】本実施形態の運動案内装置の蓋部材の斜視図である(図3とは見る方向を変えている)。
図5】本実施形態の運動案内装置の内周側部品の斜視図である。
図6】本実施形態の運動案内装置の接触角線を示す図である。
図7】本実施形態の運動案内装置の、レールの長さ方向に直角な断面図である。
図8】運動案内装置の、レールの長さ方向に直角な断面図である(図8(a)は本実施形態を示し、図8(b)は従来技術を示す)。
図9】本実施形態の運動案内装置の、レールの長さ方向に直角な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面に基づいて、本発明の実施形態の運動案内装置を説明する。ただし、本発明の運動案内装置は種々の形態で具体化することができ、本明細書に記載される実施形態に限定されるものではない。本実施形態は、明細書の開示を十分にすることによって、当業者が発明の範囲を十分に理解できるようにする意図をもって提供されるものである。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態の運動案内装置1の外観斜視図(一部断面図を含む)を示す。なお、以下では、説明の便宜上、運動案内装置1を水平面に配置し、運動案内装置1を正面視したときの方向、すなわち図1の上下、左右、前後を用いて運動案内装置1の構成を説明する。もちろん、運動案内装置1の配置はこれに限られるものではない。
【0012】
図1に示すように、運動案内装置1は、軌道部材としてのレール2と、レール2に相対移動可能に組み付けられる移動部材としてのブロック3と、を備える。レール2に対するブロック3の移動は相対的なものであり、ブロック3が移動してもよいし、レール2が移動してもよい。
【0013】
レール2は、直線状に延びる。レール2の上面には、レール2をベースに取り付けるためのボルトの通し穴2bが形成される。レール2の左右には、レール2の長さ方向に延びる4条のボール転走溝2aが形成される。この実施形態では、レール2の上部に左右方向に突出する一対の突出部20が形成されていて、各突出部20の上下に2条のボール転走溝2aが形成される。ボール転走溝2aの断面形状は、サーキュラーアーク又はゴシックアーチである。なお、レール2は曲線状に延びていてもよい。ボール転走溝2aの数、配置は、運動案内装置1の用途によって適宜変更することができる。
【0014】
ブロック3は、正面視で逆U字状であり、レール2に跨るように組み付けられる。ブロック3は、移動部材本体としてのブロック本体4と、ブロック本体4の移動方向の両端面に取り付けられる一対の蓋部材5a,5bと、を備える。ブロック本体4には、レール2のボール転走溝2aに対向する負荷ボール転走溝4aが形成されると共に、負荷ボール転走溝4aと平行な戻し路12が形成される。負荷ボール転走溝4aの断面形状は、サーキュラーアーク又はゴシックアーチである。4cはテーブル等の可動体をブロック本体4に取り付けるためのねじ穴であり、6a,6bはシール部材である。
【0015】
図2は、循環路の断面図を示す。循環路は、負荷路11、戻し路12、負荷路11と戻し路12に接続されるU字状の方向転換路13によって構成される。循環路には、複数のボール7が配列される。レール2に対してブロック3が相対移動する際、ボール7が循環路を循環する。負荷路11は、ボール転走溝2aと負荷ボール転走溝4aとの間に形成される。負荷路11では、ボール7が負荷状態にあり、予圧、可動体の荷重等を受ける。戻し路12は、ブロック本体4に形成される。方向転換路13は、蓋部材5a,5bに形成される。戻し路12、方向転換路13の内径は、ボール7の直径よりも僅かに大きい。戻し路12、方向転換路13では、ボール7は無負荷状態にある。
【0016】
図3及び図4は、ブロック本体4側から見た蓋部材5aの斜視図を示す。図3図4では、わかり易く示すために蓋部材5aを見る方向を変えている。図3に示すように、蓋部材5aには、4つの方向転換路13が形成される。13aは負荷路11に接続される方向転換路13の一端部であり、13bは戻し路12に接続される方向転換路13の他端部である。蓋部材5aと蓋部材5b(図1参照)は同一形状である。
【0017】
蓋部材5aは、方向転換路13の外周側が形成される蓋本体8と、方向転換路13の内周側が形成される内周側部品9a,9bと、を備える。蓋本体8は、ブロック3のブロック本体4と同様に正面視で逆U字状である。内周側部品9a,9bは、蓋本体8の左右の袖部8-1の凹部に嵌められる。
【0018】
図5は、内周側部品9aの斜視図を示す。内周側部品9aには、上下2つの方向転換路13の内周側が形成される。方向転換路13の内周側は、断面円弧状に形成されると共に、全体が逆U字状に形成される。上側の方向転換路13の負荷路11側の端部13aには、ボール転走溝2aに近接する部分(図3(b)参照)に、平面からなる転走面21が形成される。内周側部品9aは、上下対称である。下側の方向転換路13の負荷路11側の端部13aにも、転走面21が形成される。内周側部品9aと内周側部品9b(図3(a)参照)とは、左右対称である。内周側部品9bにも、内周側部品9aと同様な転走面21が形成される。
【0019】
図3(b)は、図3(a)のb部拡大図である。2がレール、2aがボール転走溝、8が蓋本体、9aが内周側部品、21が転走面である。方向転換路13から負荷路11にボール7が入る際、ボール7は内周側部品9aの転走面21からレール2のボール転走溝2aに乗り移る。一方、負荷路11から方向転換路13にボール7が入る際、ボール7は、蓋本体8の接触部8a(図4も参照)に接触し、接触部8aによって転走面21側に誘導され、ボール転走溝2aから転走面21に乗り移る。なお、ボール転走溝2aの幅内の蓋本体8に楔状の掬い部を設け、掬い部でボール7を掬い上げてもよい。
【0020】
22はボール転走溝2aの縁である。ボール転走溝2aは、その縁22まで断面円弧状の凹曲面に形成される。縁22の外側(図3(b)の下側)には、縁22に連続する断面円弧状の凸曲面23が形成される。凸曲面23の外側(図3(b)の下側)には、傾斜面24が形成される。
【0021】
図6は、運動案内装置1の接触角線L1、L2を示す図(レール2とブロック本体4の断面図)である。接触角線L1,L2は、運動案内装置1が荷重を負荷できる方向を表す。接触角δ1,δ2は、接触角線L1,L2と水平線Hとのなす角度である。接触角δ1,δ2は、運動案内装置1の用途に合わせて適宜変更可能である。なお、方向転換路13の方向は、接触角線L1,L2の方向と異なる。ブロック本体4の上下方向の寸法を小さくするためである。接触角線L1,L2の方向と方向転換路13の方向とを一致させてもよい。
【0022】
図7は、レール2の長さ方向に直角な運動案内装置1の断面図(ブロック本体4と蓋部材5aとの境界X(図2参照)における運動案内装置1の断面図)を示す。2がレール、2aがボール転走溝、9aが内周側部品、21が転走面である。
【0023】
ボール転走溝2aの曲率半径をRとし、ボール中心Oから内周側部品9aの転走面21までの距離をrとするとき、R>rに設定される。ここで、R>rは、ボール転走溝2aの延長線2a1よりも内側に転走面21が存在することを意味する。ボール転走溝2aの縁22にボールを接触させないためである。
【0024】
図8(a)は、R>rに設定した本実施形態を示し、図8(b)は、R<rに設定した従来技術を示す。図8(b)に示すように、従来技術では、R<rに設定するので、ボール転走溝2aの延長線2a1よりも外側(図8(b)の下側)に転走面21が存在する。このため、転走面21からボール転走溝2aにボール7が乗り移る際、ボール7がボール転走溝2aの縁22に接触する。このとき、ボール7は転走面21の接触点31と縁22で支えられる。一方、図8(a)に示すように、本実施形態では、R>rに設定するので、ボール転走溝2aの延長線2a1よりも内側に転走面21が存在する。内側に存在する転走面21を斜線で示す。転走面21からボール転走溝2aにボール7が乗り移る際、ボール7が転走面21上の接触点31とボール転走溝2a上の接触点32で支えられるので、ボール転走溝2aの縁22に接触するのを防止できる。
【0025】
なお、図7に示すように、ボール中心Oは、ボール転走溝2aに接する無負荷状態のボール7の中心Oであり、接触角線L1上にある。ボール転走溝2aの曲率半径Rは、ボール7の直径の51~53%に設定されることが多いので、ボール転走溝2aの曲率中心Cとボール中心Oとは僅かにずれる。図7には、このずれを誇張して示している。
【0026】
図9は、図7と同様に、レール2の長さ方向に直角な運動案内装置1の断面図を示す。2がレール、2aがボール転走溝、9aが内周側部品、21が転走面である。
【0027】
上記のR>rの条件を満たした上で、ボール転走溝2aの曲率中心Cとボール転走溝2aの縁22とを結ぶ直線L3と鉛直線Vとのなす角度をγとし、内周側部品9aの転走面21と水平線Hとのなす角度をθとするとき、θ>γに設定される。ノミナルの位置にあるボール7と転走面21とのクリアランスを確保するためである。内周側部品9aは、樹脂の成型品であることが多く、不可避的に寸法誤差が発生する。θ>γに設定し、このクリアランスを確保することで、内周側部品9aの寸法誤差を許容することができる。
【0028】
これを詳述する。図9は、ボール7がボール転走溝2aに接触しながらノミナルの位置からボール転走溝2aの縁22の近くまで移動した状態を示す。ノミナルの位置は、ボール中心Oが接触角線L1(図7参照)上にあるときの位置である。図9に示すように、R>rに設定すると、ボール7がノミナルの位置からボール転走溝2aの縁22に(図9の右に)移動する前にボール7が転走面21に接触する。逆に、ボール7がボール転走溝2aの縁22の手前からノミナルの位置に(図9の左に)移動すると、ボール7と転走面21との間にクリアランスが発生する。θ>γに設定し、θの角度を大きくするのは、このクリアランスを確保するためである。
【0029】
これに対し、θ<γに設定する(転走面21を水平又は水平近くにする)と、ボール7がボール転走溝2aの縁22の手前からノミナルの位置に(図9の左に)移動しても、ボール7と転走面21とのクリアランスを確保することができない。転走面21を水平又は水平近くにすると、転走面21がボール7の最下点の近傍に存在するので、ボール7が図9の左に移動しても、クリアランスは略変わらないからである。この場合、内周側部品9aに寸法誤差が発生すると、ボール7と転走面21とが干渉し、ボール7が循環できなくなるおそれがある。
【0030】
以上に本実施形態の構成を説明した。ただし、本発明は、本実施形態に具現化されるのに限られることはなく、本発明の要旨を変更しない範囲で他の実施形態に具現化できる。例えば、本実施形態では、方向転換路の内周側を内周側部品に形成しているが、蓋本体に形成することもできる。
【符号の説明】
【0031】
1…運動案内装置、2…レール(軌道部材)、2a…ボール転走溝、3…ブロック(移動部材)、4…ブロック本体(移動部材本体)、4a…負荷ボール転走溝、5a,5b…蓋部材、7…ボール、8…蓋本体、9a,9b…内周側部品(方向転換路の内周側)、11…負荷路、12…戻し路、13…方向転換路、21…転走面、22…ボール転走溝の縁、O…ボール中心、C…ボール転走溝の曲率中心、L3…ボール転走溝の曲率中心とボール転走溝の縁とを結ぶ直線、V…鉛直線、H…水平線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9