(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】小豆ゲルの製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 11/00 20210101AFI20240415BHJP
【FI】
A23L11/00 F
A23L11/00 Z
(21)【出願番号】P 2020096000
(22)【出願日】2020-06-02
【審査請求日】2022-10-07
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 日本食品科学工学会第66回大会にて小豆ゲルの製造方法に関する研究の一部について公開(令和1年8月30日)
(73)【特許権者】
【識別番号】390014904
【氏名又は名称】井村屋グループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079050
【氏名又は名称】後藤 憲秋
(74)【代理人】
【識別番号】100201879
【氏名又は名称】加藤 大輝
(72)【発明者】
【氏名】山田 徳広
(72)【発明者】
【氏名】中村 昌弘
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/109404(WO,A1)
【文献】特開2019-122350(JP,A)
【文献】特開2017-121206(JP,A)
【文献】特開2008-148616(JP,A)
【文献】特開2017-225393(JP,A)
【文献】雑豆発酵ペーストを活用した新規食品の開発,豆類時報 / 日本特産農産物協会 編,57,2009年,12-17
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料小豆に加水し浸漬させて浸漬小豆を得る浸漬工程と、
前記浸漬工程により得られた浸漬小豆を浸漬水とともに煮熟して煮熟加熱小豆を得る煮熟工程と、
前記煮熟工程後に、残った煮汁の小豆への吸収および煮熟小豆に含まれる水分を蒸発させる煮熟後加熱工程と、
前記煮熟後加熱工程で得られた煮熟後加熱小豆を破砕してメジアン径が
30~40μm未満の餡粒子の破砕物を含むゲル状物からなるゲル状小豆を得るゲル化工程
とを備えたことを特徴とする小豆ゲルの製造方法。
【請求項2】
前記ゲル化工程が前記加熱小豆をミキサーによって破砕する工程である請求項1に記載の小豆ゲルの製造方法。
【請求項3】
前記ゲル状小豆に糖化酵素を添加して酵素処理が施されて糖化された糖化ゲル状小豆を得る酵素処理工程を含む請求項1又は2に記載の小豆ゲルの製造方法。
【請求項4】
前記糖化酵素がグルコアミラーゼとプルラナーゼの混合物である請求項3に記載の小豆ゲルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小豆ゲルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
小豆(あずき,adzuki bean,Vigna angularis)は、伝統的に漉し餡もしくは粒餡に加工されることが多い。漉し餡では、餡粒子の舌ざわりが品質の良さの基準とされている。また、粒餡では、粒残りが品質の良さの基準とされている。このような漉し餡や粒餡への加工は、ささげ、金時豆等の他の豆類でも同様に行われることがある。小豆の加工に際しては、原料小豆に加水して浸漬し(浸漬工程)、浸漬した小豆を前炊き、渋切り、本炊き等により煮熟して(煮熟工程)柔らかくした後、煮熟した小豆を種皮と餡粒子とに分離し篩別けして(製餡工程)、生餡を製造するのが一般的である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このようにして得られた生餡は、漉し餡や粒餡等に適宜の形態に加工されて使用される他、菓子の餡(あん)、汁粉(しるこ)や善哉(ぜんざい)、羊羹(ようかん)等の小豆加工食品の材料としても使用される。近年、小豆に含まれる栄養素の健康効果が注目されて小豆の需要が高まっており、従来の小豆加工食品とは異なる新たな小豆加工食品が求められている。そのひとつとして、例えば、高齢者食や介護食等に対応した小豆加工食品が検討されている。
【0004】
高齢者食や介護食等では、特に、咀嚼をせずに食べることが可能な液体状又はペースト状の食品が推奨される。従来では、例えば、汁粉や羊羹等の漉し餡を材料とした小豆加工食品を提供することが考えられる。そこで本発明者らは、従来の小豆加工食品に捉われず、漉し餡よりも滑らかな質感の新たな小豆加工食品の材料を鋭意検討し、小豆をゲル状に加工する方法を見出したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記の点に鑑みなされたものであり、漉し餡よりも滑らかな質感を備えるとともに、小豆加工食品の材料として利用可能な小豆ゲルの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、請求項1の発明は、原料小豆に加水し浸漬させて浸漬小豆を得る浸漬工程と、前記浸漬工程により得られた浸漬小豆を浸漬水とともに煮熟して煮熟加熱小豆を得る煮熟工程と、前記煮熟工程後に、残った煮汁の小豆への吸収および煮熟小豆に含まれる水分を蒸発させる煮熟後加熱工程と、前記煮熟後加熱工程で得られた煮熟後加熱小豆を破砕してメジアン径が30~40μm未満の餡粒子の破砕物を含むゲル状物からなるゲル状小豆を得るゲル化工程とを備えたことを特徴とする小豆ゲルの製造方法に係る。
【0008】
請求項2の発明は、前記ゲル化工程が前記加熱小豆をミキサーによって破砕する工程である請求項1に記載の小豆ゲルの製造方法に係る。
【0009】
請求項3の発明は、前記ゲル状小豆に糖化酵素を添加して酵素処理が施されて糖化された糖化ゲル状小豆を得る酵素処理工程を含む請求項1又は2に記載の小豆ゲルの製造方法に係る。
【0010】
請求項4の発明は、前記糖化酵素がグルコアミラーゼとプルラナーゼの混合物である請求項3に記載の小豆ゲルの製造方法に係る。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明に係る小豆ゲルの製造方法によると、原料小豆に加水し浸漬させて浸漬小豆を得る浸漬工程と、前記浸漬小豆を煮熟または蒸して加熱処理された加熱小豆を得る加熱工程と、前記加熱小豆を破砕してメジアン径が80μm未満の餡粒子の破砕物を含むゲル状物からなるゲル状小豆を得るゲル化工程とを備えたため、漉し餡の餡粒子よりも餡粒子が細かくなって漉し餡より滑らかな質感で適度な粘性や流動性を備えた小豆食材を得ることができ、液体状又はペースト状の流動性の高い小豆加工食品をはじめとする様々な形態の加工食品の食材として好適に利用することができる。
【0012】
請求項2の発明に係る小豆ゲルの製造方法によると、請求項1において、前記ゲル化工程が前記加熱小豆をミキサーによって破砕する工程であるため、餡粒子をより細かく破壊できて適度な粘性や滑らかさを備えることができる。
【0013】
請求項3の発明に係る小豆ゲルの製造方法によると、請求項1又は2において、前記ゲル状小豆に糖化酵素を添加して酵素処理が施されて糖化された糖化ゲル状小豆を得る酵素処理工程を含むため、小豆加工食品の食材として使用する際に甘味料等の使用を抑制又は無添加とすることができる。
【0014】
請求項4の発明に係る小豆ゲルの製造方法によると、請求項3において、前記糖化酵素がグルコアミラーゼとプルラナーゼの混合物であるため、ゲル状小豆をより適切に糖化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る小豆ゲルの製造方法の概略工程図である。
【
図2】他の実施形態に係る小豆ゲルの製造方法の概略工程図である。
【
図3】光学顕微鏡による試作例1の餡粒子の画像である。
【
図4】光学顕微鏡による試作例2の餡粒子の画像である。
【
図5】光学顕微鏡による試作例3の餡粒子の画像である。
【
図6】光学顕微鏡による試作例4の餡粒子の画像である。
【
図7】光学顕微鏡による試作例5の餡粒子の画像である。
【
図8】光学顕微鏡による試作例6の餡粒子の画像である。
【
図9】光学顕微鏡による試作例7の餡粒子の画像である。
【
図10】光学顕微鏡による試作例8の餡粒子の画像である。
【
図11】光学顕微鏡による試作例9の餡粒子の画像である。
【
図12】光学顕微鏡による試作例10の餡粒子の画像である。
【
図13】光学顕微鏡による試作例11の餡粒子の画像である。
【
図14】光学顕微鏡による試作例12の餡粒子の画像である。
【
図15】光学顕微鏡による試作例13の餡粒子の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の小豆ゲルの製造方法に際し、
図1の概略工程図を用いながら順に説明する。本発明の小豆ゲルの製造方法は、原料小豆をゲル状に加工した小豆ゲルを製造するものであって、浸漬工程と、加熱工程と、ゲル化工程とを備える。小豆ゲルは、小豆加工食品を構成する小豆由来の食材である。小豆加工食品は、小豆ゲルに調味料や他の食材等が適宜添加されて調理(加工)された食品である。なお、以下の説明において、原料小豆は、いわゆる小豆(あずき,adzuki bean,Vigna angularis)として説明するが、これに限定するものではなく、ささげ、金時豆等の各種豆類を含むものとする。
【0017】
小豆ゲルの製造方法では、はじめに原料小豆が、大きさ、形状、色合い等を均一範囲とするべく選別され、適宜水洗される。使用される小豆(原料)は、収穫後、自然乾燥により水分含量を10ないし17%程度にまで低下させた小豆であり、一般に流通している形態である。
【0018】
浸漬工程は、原料小豆に加水し浸漬させて浸漬小豆を得る工程である。浸漬小豆は、乾燥状態の小豆が加水により膨潤した状態の小豆である。加水小豆は、十分に水分を含んだ状態であればよく、好ましい膨潤率は、例えば1.5倍以上、より好ましくは2倍以上である。浸漬時間は、季節、気温、原料豆の品種、原料豆の乾燥具合等により適宜加減される。通常、小豆の加水は5分ないし48時間である。小豆の浸漬後の浸漬水は、廃棄して渋切りを行ってもよいし、廃棄せずにそのまま次の加熱工程に進んでもよい。なお、浸漬水を廃棄しない場合、浸漬工程における加水量が過剰であると加熱工程の加熱時間が増加することを考慮して、適宜に調整することが好ましい。
【0019】
加熱工程は、浸漬小豆を煮熟または蒸して加熱処理された加熱小豆を得る工程である。加熱小豆は、小豆内部のデンプン粒子が十分に加熱されてデンプンがアルファ化されたことにより可食化された状態の小豆であり、煮熟により得られる煮熟小豆(茹で小豆)または蒸すことにより得られる蒸し小豆からなる。この加熱工程では、圧力釜やジャケット釜等の公知の加熱釜が使用される。
【0020】
煮熟による加熱工程(煮熟工程)では、前記の浸漬工程において浸漬水が廃棄された(渋切りが行われた)場合は、適量の水又は湯が新たに追加投入された後に浸漬小豆の加熱(煮熟)が行われる。また、前記の浸漬工程において浸漬水が廃棄されなかった(渋切りが行われなかった)場合は、そのまま浸漬小豆の加熱(煮熟)が行われる。
【0021】
加熱工程の加熱時間等は、季節、気温、原料豆の品種、浸漬小豆の膨潤具合等により適宜加減されるものであるが、小豆の焦げや煮崩れ等の発生を抑制しながら適切な煮熟を行うことができるように設定することが好ましい。例えば、急激な加熱を行うと小豆の粒が破裂しやすくなり、焦げも発生しやすくなることから、煮熟する前に中程度の熱エネルギーで15~30分かけて沸騰させることが好ましい。これにより、小豆の粒の破裂や焦げを抑制しつつ、小豆内部のデンプン粒子に水分を行き渡らせることができる。
【0022】
煮汁の沸騰後、品温(約100℃)を保持しながら煮熟が行われる。この時、必要に応じて、新規の水又は湯の追加により灰汁(あく)を取り除く渋切りを行ってもよい。加熱時間は、煮汁の水分が減少する時点により規定され、煮汁の殆どが蒸発又は小豆に吸収されるまで行われる。この煮熟により、小豆内部のデンプンのアルファ化が進んで、小豆が可食化する。加熱が短時間の場合は、煮汁を十分に蒸発させることができない。なお、この煮熟に際しては、煮汁の沸騰時と同程度の熱エネルギー、あるいは、沸騰時より高い熱エネルギーで加熱が行われる。これにより、効率よく煮熟することができる。
【0023】
上記の煮熟では、浸漬工程において浸漬水が廃棄されなかった(渋切りが行われなかった)場合、新規の水又は湯の追加を行わずに、浸漬水のまま継続して加熱される。この時、煮汁(浸漬水)には、小豆の成分が溶出される。この小豆の成分には、抗腫瘍成分、抗アレルギー成分、抗骨粗鬆症成分等の機能性成分が含まれる。そのため、煮汁の水分は、蒸発するとともに煮汁に溶出した機能性成分とともに小豆に吸収される。これにより、煮汁に含まれていた小豆自体の成分を保持することができる。
【0024】
このように煮熟されることにより、煮熟小豆が得られる。この煮熟後、必要に応じて、少し低い熱エネルギー(例えば、沸騰時の熱エネルギー以下)で15~25分間さらに加熱してもよい。この煮熟後の加熱は、わずかに残った煮汁を小豆に吸収させるとともに、さらに煮熟された小豆自体に含まれる水分の蒸発を促進するものである。特に、煮汁に小豆の機能性成分が溶出している場合、小豆の機能性成分の保持が促されるため好ましい。また、煮熟後又は煮熟後の加熱の終了後、必要に応じて、煮熟小豆を10~20分程度、加熱を行わずに蒸らしてもよい。煮熟小豆を蒸らすことにより、煮熟小豆の軟化が促進される。
【0025】
また、蒸すことによる加熱工程(蒸し工程)では、前記の浸漬工程において浸漬水が廃棄された(渋切りが行われた)浸漬小豆が、加水等を行わずにそのまま加熱(蒸す)される。蒸し工程の加熱時間等は、季節、気温、原料豆の品種、浸漬小豆の膨潤具合等により適宜加減されるものであるが、小豆の焦げなどの発生を抑制しながら適切に蒸すことができるように設定することが好ましい。例えば、中程度の熱エネルギーで10~30分程度の蒸し時間である。これにより、蒸し小豆が得られる。また、加熱(蒸す)後、必要に応じて、蒸し小豆を10~20分程度、加熱を行わずに蒸らしてもよい。蒸し小豆をさらに蒸らすことにより、蒸し小豆の軟化が促進される。
【0026】
ゲル化工程は、加熱小豆(煮熟小豆又は蒸し小豆)を破砕して餡粒子の破砕物を含むゲル状物からなるゲル状小豆を得る工程である。ゲル状小豆は、一般的な漉し餡よりも粒子が細かく形成された状態の小豆である。例えば、一般的な漉し餡の餡粒子のメジアン径が80~100μmであるのに対し、ゲル状小豆は餡粒子の破砕物のメジアン径は80μm未満、より好ましくは70μm未満である。餡粒子の破砕物メジアン径は、状態の滑らかさや食感(食した際の舌ざわりのよさ)に影響し、メジアン径が小さくなることにより、滑らかで舌ざわりのよい食感が得られる。
【0027】
小豆を構成する餡粒子は、でんぷん粒子が複数のタンパク質粒子で包まれた構造で知られており、比較的粒子が細かい漉し餡においても多くの餡粒子が破壊されずに形状が保持された状態で存在している。ゲル化工程では、このような餡粒子を破砕して、より細かな粒子とすることを可能としたものである。餡粒子を破砕する方法は、メジアン径を80μm未満にすることが可能であれば特に限定されない。例えば、作業の容易性等の観点から、ミキサーを好適に使用することができる。ミキサーの条件等は性能等に応じて適宜に設定されるが、例えば、せん断速度が50000~60000rpm程度の高速せん断可能なミキサーが好ましい。高速せん断可能なミキサーを用いた場合のせん断時間は、3~30分程度である。せん断速度が不足したり、せん断時間が短すぎたりすると、加熱小豆を十分にせん断することができないおそれがある。また、せん断速度を上げすぎたりせん断時間を長くしすぎたりしても、それに見合うせん断効果が得られなくて消費エネルギーや作業効率等の面で不利になるおそれがある。
【0028】
このようにして得られたゲル状小豆は、適度な粘性や流動性とともに滑らかな質感を備え、舌ざわりのよい食感が得られる食材である。このゲル状小豆(小豆ゲル)は、小豆風味又は小豆成分を含む小豆加工食品用の食材としてそのまま使用することができ、砂糖をはじめとする適宜の調味料や食材等を適宜添加して調理、加工することにより、種々の小豆加工食品が得られる。特に、この小豆ゲルは、流動性があり滑らかな質感を備えるため、液体状又はペースト状の小豆加工食品を加工することができる。したがって、小豆ゲルにより、従来の漉し餡の加工食品よりも滑らかな食感の新たな加工食品を加工することができ、咀嚼せずに喫食される高齢者食や介護食等に好適な小豆加工食品を提供することができる。
【0029】
小豆ゲルを使用した小豆加工食品は、液体状又はペースト状の加工食品のみに限定されるものではなく、使用する食材や調味料、調理方法等に応じて適宜に作ることができる。例えば、餡、羊羹、汁粉、ぜんざい、ういろう等の従来の漉し餡を使用した加工食品に加え、クリーム、アイスクリーム、ヨーグルト、チーズ、ムース等のクリーム系食品、酒類、甘酒等の液体系食品、ケーキ、パン、麺類等の粉系食品、その他、豆腐、増粘剤等の種々の加工食品が挙げられる。
【0030】
本発明の小豆ゲルの製造方法では、
図2に示すように、さらに酵素処理工程を含めてもよい。酵素処理工程は、ゲル状小豆に糖化酵素を添加して酵素処理を施すことにより糖化された糖化ゲル状小豆を得る工程である。従来では、小豆に糖化酵素を添加しても、小豆に含まれるでんぷんが適切に糖化されず、酵素処理を行うことが困難であった。これに対し、ゲル状小豆では、ゲル化工程により餡粒子が破壊されているため、容易に酵素処理による糖化が可能となる。この糖化ゲル状小豆は、ゲル状小豆が糖化されたものであるため、小豆加工食品の食材として使用する際に甘味料等の使用を抑制又は無添加とすることができる。
【0031】
酵素処理で使用される糖化酵素は、ゲル状小豆を適切に糖化可能であれば特に限定されないが、例えば、グルコアミラーゼとプルラナーゼの混合物が好ましい。糖化酵素の添加量は、ゲル状小豆をまんべんなく糖化することが可能であれば特に限定されないが、例えば、原料小豆の重量に対して0.05~0.2(w/w)%濃度である。糖化酵素が不足すると酵素処理が不十分となり、過剰に添加しても酵素処理の効果に大きな影響が出ないおそれがある。また、酵素処理の条件としては、処理温度50~60℃、処理時間10~24時間程度である。処理温度は、酵素処理に適した温度であり、低すぎても高すぎても適切に酵素処理ができなくなるおそれがある。処理時間は、短すぎると酵素処理が不十分となり、長すぎても酵素処理の効果に大きな影響が出ないおそれがある。
【実施例】
【0032】
[小豆ゲルと市販漉し餡の粒子の比較]
下記の試作例1~13の小豆食材について、粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製:レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置 LA-920)を用いて、相対屈折率を106a000lに設定してメジアン径(μm)を測定した。表1は測定結果である。
【0033】
[試作例1]
原料小豆として2018年度中国産磨天津種の小豆を100g用意し、この原料小豆に蒸留水を500g加えて4℃で48時間浸漬して浸漬小豆を得た。次に、浸漬水を捨てずに浸漬小豆を圧力鍋で20分間煮熟して加熱小豆を得た。この加熱小豆を10分間蒸らした後、ミキサー(Huanyu製:Huanyu 2800W ブレンダー 多機能ミキサー)に投入し、蒸留水を加え、計600gにメスアップした後せん断速度57000rpm、せん断時間30分でせん断を行い、試作例1の小豆ゲル(ゲル状小豆)を得た。試作例1の小豆ゲルの光学顕微鏡による粒子の画像を
図3に示す。
【0034】
[試作例2]
試作例1で煮熟して得た加熱小豆の代わりに、浸漬水を捨てて浸漬小豆を圧力鍋で20分間蒸らして加熱小豆を用い、それ以外は試作例1と同様の手法により、試作例2の小豆ゲル(ゲル状小豆)を得た。試作例2の小豆ゲルの光学顕微鏡による粒子の画像を
図4に示す。
【0035】
[試作例3]
試作例1と同様の手法で得られたゲル状小豆に、糖化酵素(天野エンザイム株式会社製:ダイザイムGPK)を0.1(w/w)%濃度添加して、処理温度55℃、処理時間24時間で酵素処理を行い、試作例3の小豆ゲル(糖化ゲル状小豆)を得た。試作例3の小豆ゲルの光学顕微鏡による粒子の画像を
図5に示す。
【0036】
[試作例4]
試作例2と同様の手法で得られたゲル状小豆に、糖化酵素(天野エンザイム株式会社製:ダイザイムGPK)を0.1(w/w)%濃度添加して、処理温度55℃、処理時間24時間で酵素処理を行い、試作例4の小豆ゲル(糖化ゲル状小豆)を得た。試作例4の小豆ゲルの光学顕微鏡による粒子の画像を
図6に示す。
【0037】
[試作例5]
試作例5の小豆食材は、市販の漉し餡(株式会社永谷園製:濃いおしるこ こしあん)である。試作例5の漉し餡の光学顕微鏡による餡粒子の画像を
図7に示す。
【0038】
[試作例6]
試作例6の小豆食材は、市販の漉し餡(はごろもフーズ株式会社製:おしるこ)である。試作例6の漉し餡の光学顕微鏡による餡粒子の画像を
図8に示す。
【0039】
[試作例7]
試作例7の小豆食材は、市販の漉し餡(伊勢製餡所株式会社製:こしあん)である。試作例7の漉し餡の光学顕微鏡による餡粒子の画像を
図9に示す。
【0040】
[試作例8]
試作例8の小豆食材は、市販の漉し餡(株式会社遠藤製餡製:こしあん)である。試作例8の漉し餡の光学顕微鏡による餡粒子の画像を
図10に示す。
【0041】
[試作例9]
試作例9の小豆食材は、市販の漉し餡(カドヤ株式会社製:十勝あずきねりあん)である。試作例9の漉し餡の光学顕微鏡による餡粒子の画像を
図11に示す。
【0042】
[試作例10]
試作例10の小豆食材は、市販の漉し餡(株式会社遠藤製餡製:天然美食有機パウチこしあん)である。試作例10の漉し餡の光学顕微鏡による餡粒子の画像を
図12に示す。
【0043】
[試作例11]
試作例11の小豆食材は、市販の漉し餡(井村屋株式会社製:濃厚ぜんざい)である。試作例11の漉し餡の光学顕微鏡による餡粒子の画像を
図13に示す。
【0044】
[試作例12]
試作例12の小豆食材は、市販の漉し餡(川光物産株式会社製:玉三さらしあん)である。試作例12の漉し餡の光学顕微鏡による餡粒子の画像を
図14に示す。
【0045】
[試作例13]
試作例13の小豆食材は、市販の漉し餡(株式会社真田製:あずきあん)である。試作例13の漉し餡の光学顕微鏡による餡粒子の画像を
図15に示す。
【0046】
【0047】
[結果]
表1から理解されるように、試作例5~13の市販の漉し餡は、いずれも餡粒子のメジアン径が90μm以上である。これに対し、試作例1~4は、本発明の製造方法により得られた小豆ゲルであり、いずれも餡粒子のメジアン径が約30~40μmであった。また、
図3~6に示す試作例1~4の小豆ゲルの光学顕微鏡による画像と、
図7~15に示す試作例5~13の市販の漉し餡の光学顕微鏡による画像との対比から明らかなように、漉し餡(試作例5~13)では餡粒子の粒形状が崩れずに多く残っているのに対し、小豆ゲル(試作例1~4)では餡粒子の粒形状がほとんど見られなかった。したがって、試作例1~4のように、ミキサーを用いて餡粒子をせん断することにより、漉し餡よりも餡粒子が大幅に細かくなった滑らかな小豆食材(小豆ゲル)を得ることができることがわかった。
【0048】
[小豆ゲルのせん断時間の比較]
次に、試作例1と同様の原料小豆及び手順により加熱小豆を得た後、ミキサーのせん断時間を変更してせん断を行い、試作例21~26の小豆ゲルを得た。各試作例のせん断時間について、試作例21は1分、試作例22は3分、試作例23は5分、試作例24は10分、試作例25は15分、試作例26は30分とし、各試作例ごとに3種類(A,B,C)ずつ作成した。得られた各試作例21~26の小豆ゲルについて、粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製:レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置 LA-920)を用いて、相対屈折率を106a000lに設定してメジアン径(μm)を測定した。表2は測定結果である。
【0049】
【0050】
表2から理解されるように、せん断時間が1分の試作例21では、A~Cのいずれも餡粒子のメジアン径が80を超えており、漉し餡の餡粒子の一般的なメジアン径(80~100μm)と大きな違いは見られなかった。一方、せん断時間が3分以上の試作例22~26では、粒子のメジアン径がいずれも70μm未満であり、漉し餡の餡粒子のメジアン径を大きく下回った。このことから、せん断時間が1分では餡粒子を十分にせん断することができず、せん断時間が3分以上であれば餡粒子をせん断することができることがわかった。
【0051】
また、試作例22~26の結果から理解されるように、せん断時間を長くすることによって、餡粒子のメジアン径がより小さくなることがわかった。しかしながら、せん断時間を10分(試作例24)から5分長くして15分(試作例25)とした場合のメジアン径の変化量と、せん断時間を15分(試作例25)から15分長くして30分(試作例26)とした場合のメジアン径の変化量とを比較すると、後者ではせん断時間を増加させても、メジアン径の変化量はそれほど大きく変化しなかった。このことから、ミキサーによるせん断をある程度の時間行うことにより、餡粒子の細かさは頭打ちになると推測される。したがって、せん断時間の上限は30分とすることが好ましいと考えられる。
【0052】
[粘度測定]
原料小豆として2018年度北海道産きたろまん種の小豆を100g用意し、この原料小豆に蒸留水を500g加えて、約1時間蒸煮した。この蒸煮小豆を、ミキサー(Huanyu製:Huanyu 2800W ブレンダー 多機能ミキサー)に投入し、蒸留水を加え、計600gにメスアップした後せん断速度57000rpm、せん断時間15分でせん断を行い、得られた小豆ゲル(ゲル状小豆)を試作例31とした。
【0053】
小豆由来の生あん(2018年度北海道産きたろまん種の小豆使用)を230g用意し、蒸留水400gを加えてかき混ぜながら、煮汁を捨てずに沸騰するまで蒸煮した。蒸煮後に蒸留水を加え、計600gにメスアップした後かき混ぜ、得られた汁粉状の漉し餡を試作例32とした。
【0054】
試作例31の小豆ゲルと試作例32の漉し餡について、動的粘弾性測定装置(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社製 AR-G2 rheometer)を用いて粘度(動的粘弾性)の測定を行った。測定に使用した試料は、各試作例の固形量100gに500g加水して煮詰めて作成した。また、測定条件は、円錐型(直径40mm、角度2°)の治具を使用し、前記試料を10℃にて0.59ml試料台に添加し、せん断速度を0.1~100(1/s)とした。測定結果を表3及び
図16の折れ線グラフに示し、せん断速度1(1/s)における粘度(Pa・s)の測定値の比較を
図17の棒グラフで表した。なお、
図16のグラフの縦軸は粘度(Pa・s)、横軸はせん断速度(1/s)である。
【0055】
【0056】
表3及び
図16のグラフから理解されるように、一般的な漉し餡と比較して、小豆ゲルの粘度が格段に高い値となった。例えば、
図17に示すせん断速度1(1/s)における粘度(Pa・s)の測定値は、漉し餡と比較して小豆ゲルは約5倍であった。これは、餡粒子を破砕して一般的な漉し餡の餡粒子よりもさらに細かい粒子としたことによって、高い粘性が得られたと考えられる。このような粘性が高い小豆ゲルでは、質感が滑らかで舌ざわりのよい食感が得られる。
【0057】
以上図示し説明したように、本発明の小豆ゲルの製造方法は、浸漬工程と加熱工程とを経て得られた加熱小豆を、ゲル化工程によりミキサーでせん断して餡粒子のメジアン径が80μm未満のゲル状小豆とするため、従来の漉し餡の餡粒子よりも餡粒子を細かくすることができ、漉し餡よりも滑らかな質感で適度な粘性や流動性を備えた小豆食材を得ることができる。また、この小豆ゲルは、液体状又はペースト状の流動性の高い小豆加工食品をはじめとして、従来の小豆加工食品やクリーム系食品、液体系食品、粉系食品等のその他の様々な形態の加工食品の食材として好適に利用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の小豆ゲルの製造方法によると、漉し餡よりも滑らかな質感で適度な粘性や流動性を備えた小豆食品を得ることができる。そのため、従来の漉し餡による小豆加工食品の代替品または従来の小豆加工食品と異なる新たな食感の小豆加工食品として期待できる。