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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】画像処理装置および画像処理方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20240415BHJP
   B41J 2/205 20060101ALI20240415BHJP
   B41J 2/52 20060101ALI20240415BHJP
【FI】
B41J2/01 213
B41J2/205
B41J2/01 303
B41J2/01 305
B41J2/01 401
B41J2/52
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020096211
(22)【出願日】2020-06-02
(65)【公開番号】P2021187100
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神田 英彦
(72)【発明者】
【氏名】今野 裕司
(72)【発明者】
【氏名】矢澤 剛
(72)【発明者】
【氏名】永井 肇
(72)【発明者】
【氏名】西岡 真吾
(72)【発明者】
【氏名】栗山 恵司
(72)【発明者】
【氏名】吉沢 慧
(72)【発明者】
【氏名】吉川 世玲菜
【審査官】小野 郁磨
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-280276(JP,A)
【文献】特開2018-052020(JP,A)
【文献】特開2019-043114(JP,A)
【文献】特開2006-224616(JP,A)
【文献】特開2004-209943(JP,A)
【文献】特開2014-113819(JP,A)
【文献】特開2011-004173(JP,A)
【文献】特開2015-143011(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
B41J 2/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の解像度で配列する画素のそれぞれが有する多値の階調値を、閾値マトリクスを用いて量子化することにより、前記所定の解像度で配列する画素のそれぞれについてドットの記録または非記録を示す量子化値を生成する量子化手段と、
前記量子化手段が生成した量子化値と、記録ヘッドの記録走査において各画素に対するドットの記録の許容または非許容を定めるパスマスクとに基づいて、前記記録走査でドットを記録する画素を決定する決定手段と
を備え、
ドットを記録することが可能な記録素子が配列されて成る前記記録ヘッドを記録媒体に対し所定の方向に走査させる前記記録走査と、前記記録媒体を前記所定の方向と交差する方向へ搬送する搬送動作とを交互に行うことにより、前記記録媒体の単位領域の画像を複数回の前記記録走査によって前記所定の解像度で記録するための画像処理を行う画像処理装置であって、
前記パスマスクは、前記閾値マトリクスにおいて第1の閾値が設定されている画素に対しドットの記録が許容される前記記録走査の数が、前記第1の閾値よりも小さな第2の閾値が設定されている画素に対しドットの記録が許容される記録走査の数よりも多くなるように、各画素に対するドットの記録の許容または非許容が定められていることを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記量子化手段は、前記階調値を、前記閾値マトリクスにおいて各画素に対応付けて保存された閾値と比較することにより、ドットの記録又は非記録を示す2値の前記量子化値を生成することを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記量子化手段は、前記階調値を、前記閾値マトリクスにおいて各画素に対応付けて保存された閾値と比較することにより、3値の前記量子化値を生成することを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記単位領域の画像は前記記録ヘッドの2回の前記記録走査によって記録され、
前記パスマスクは、前記閾値マトリクスにおいて前記第1の閾値が設定されている画素には、前記2回の前記記録走査でドットの記録が許容され、前記第2の閾値が設定されている画素には、前記2回の前記記録走査のうち1回の前記記録走査でドットの記録が許容されるように、各画素に対するドットの記録の許容または非許容が定められていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記単位領域の画像は前記記録ヘッドのM回(Mは2以上の整数)の記録走査によって記録され、
前記パスマスクは、前記閾値マトリクスにおいて設定されている閾値が大きい値であるほど、前記M回の前記記録走査のうちドットの記録が許容される前記記録走査の数が多くなるように、各画素に対するドットの記録の許容または非許容が定められていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記閾値マトリクスは、各画素に設定された閾値の並びが固定された単位マトリクスを繰り返し配置させて構成されることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記単位マトリクスは、低周波成分を抑えた閾値マトリクスであることを特徴とする請求項6に記載の画像処理装置。
【請求項8】
前記単位マトリクスは、前記搬送の方向において、前記記録媒体の搬送量の整数倍の画素領域を有していることを特徴とする請求項6または7に記載の画像処理装置。
【請求項9】
前記記録ヘッドは、ブラックのドットを記録することを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項10】
前記決定手段の決定に基づいて、前記記録ヘッドに前記記録走査を行わせる記録手段を更に備えることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項11】
前記記録ヘッドは吐出口からインクを吐出して前記記録媒体にドットを記録するインクジェット記録ヘッドであることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項12】
所定の解像度で配列する画素のそれぞれが有する多値の階調値を、閾値マトリクスを用いて量子化することにより、前記所定の解像度で配列する画素のそれぞれについてドットの記録または非記録を示す量子化値を生成する量子化工程と、
前記量子化工程によって生成された量子化値と、記録ヘッドの記録走査において各画素に対するドットの記録の許容または非許容を定めるパスマスクとに基づいて、前記記録走査でドットを記録する画素を決定する決定工程と
を有し、
ドットを記録することが可能な記録素子が配列されて成る前記記録ヘッドを記録媒体に対し所定の方向に走査させる前記記録走査と、前記記録媒体を前記所定の方向と交差する方向へ搬送する搬送動作とを交互に行うことにより、前記記録媒体の単位領域の画像を複数回の前記記録走査によって前記所定の解像度で記録するための画像処理を行う画像処理方法であって、
前記パスマスクは、前記閾値マトリクスにおいて第1の閾値が設定されている画素に対しドットの記録が許容される前記記録走査の数が、前記第1の閾値よりも小さな第2の閾値が設定されている画素に対しドットの記録が許容される記録走査の数よりも多くなるように、各画素に対するドットの記録の許容または非許容が定められていることを特徴とする画像処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像処理装置および画像処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
疑似階調法を用いて画像を記録する画像記録装置においては、ハイライト領域(明部)で粒状感を抑制することと、高濃度領域(暗部)で高い光学濃度を表現することの両立が求められる。
【0003】
特許文献1には、ハイライト領域では1画素領域よりも小さなドットを記録して粒状感を抑え、高濃度領域では1画素領域に上記ドットを複数記録することにより高い光学濃度を表現可能なインクジェット記録システムが開示されている。特許文献1によれば、記録媒体の各画素領域に対しドットの記録又は非記録を定めるドット配置パターンと、マルチパス記録を行う際に用いるマスクパターンとを予め関連付けて作成しておくことにより、上記のような効果が得られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-280276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されるドット配置パターンは、各画素が有する数レベルの量子化値を、より高い解像度で配列する記録画素のそれぞれについてドットの記録(1)又は非記録(0)を定める2値の量子化値に変換するためのものである。このため、特許文献1の構成では、上記数レベルの量子化値を得るために、記録装置が有する記録解像度よりも低い解像度の下で量子化処理が行われることになり、記録後の出力画像において十分な解像性が得られないことがあった。
【0006】
本発明は上記問題点を解消するためになされたものである。よってその目的とするところは、ハイライト領域における粒状感の抑制と高濃度領域における高い光学濃度表現とを実現しつつ、記録装置の記録解像度に相応した高い解像性を有する画像を出力することが可能な画像記録装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そのために本発明は、所定の解像度で配列する画素のそれぞれが有する多値の階調値を、閾値マトリクスを用いて量子化することにより、前記所定の解像度で配列する画素のそれぞれについてドットの記録または非記録を示す量子化値を生成する量子化手段と、前記量子化手段が生成した量子化値と、記録ヘッドの記録走査において各画素に対するドットの記録の許容または非許容を定めるパスマスクとに基づいて、前記記録走査でドットを記録する画素を決定する決定手段とを備え、ドットを記録することが可能な記録素子が配列されて成る前記記録ヘッドを記録媒体に対し所定の方向に走査させる前記記録走査と、前記記録媒体を前記所定の方向と交差する方向へ搬送する搬送動作とを交互に行うことにより、前記記録媒体の単位領域の画像を複数回の前記記録走査によって前記所定の解像度で記録するための画像処理を行う画像処理装置であって、前記パスマスクは、前記閾値マトリクスにおいて第1の閾値が設定されている画素に対しドットの記録が許容される前記記録走査の数が、前記第1の閾値よりも小さな第2の閾値が設定されている画素に対しドットの記録が許容される記録走査の数よりも多くなるように、各画素に対するドットの記録の許容または非許容が定められていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ハイライト領域における粒状感の抑制と高濃度領域における高い光学濃度表現とを実現しつつ、記録装置の記録解像度に相応した高い解像性を有する画像を出力することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】インクジェット記録装置の構成概要図である。
図2】記録ヘッドにおいて記録素子となる吐出口の配列状態を示す図である。
図3】記録装置の制御の構成を説明するためのブロック図である。
図4】画像処理部における画像処理の機能の構成を示すブロック図である。
図5】閾値マトリクスを示す図である。
図6】パスマスクを説明するための図である。
図7】2パスのマルチパス記録を説明するための図である。
図8】パスマスクを説明するための図である。
図9】4パスのマルチパス記録を説明するための図である。
図10】閾値マトリクスを示す図である。
図11】パスマスクを説明するための図である。
図12】量子化値とマスク値に応じたドットの記録又は非記録を示す図である。
図13】異なる閾値マトリクスによるドットの分散性を比較する図である。
図14】単位マトリクスと第1、第2のパスマスクを相対的に示す図である。
図15】記録媒体に画像が記録されていく様子を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1の実施形態)
<画像記録装置の構成>
図1は、本実施形態の画像処理装置と成り得る記録装置1の構成を説明するための図である。本実施形態の記録装置1は、シリアル型のインクジェット記録装置である。
【0011】
キャリッジ102は、X方向に延在するガイドシャフト103に案内支持されながら、キャリッジモータ310(図3参照)を駆動源として+X方向又は-X方向へ移動する。キャリッジ102に搭載されたインクジェット記録ヘッド105(以下、記録ヘッド105と称する)は、キャリッジ102が移動する過程で、記録データに従ってインクを吐出する。これにより、プラテン104に支持される記録媒体Pの領域に、1バンド分の画像が記録される。この記録走査において、キャリッジ102の移動速度は、約17.5インチ/秒とする。
【0012】
1バンド分の記録走査が行われると、搬送モータ311(図3参照)を駆動源としてスプール101が所定量回転し、記録媒体Pは、1バンド分に対応する距離だけ記録走査と交差する方向である+Y方向に搬送される。このような1バンド分の記録走査と、搬送動作とを交互に行うことにより、記録媒体P上に段階的に画像が形成されていく。
【0013】
図2は、記録ヘッド105において記録素子となる吐出口201の配列状態を示す図である。同じ種類のインクを吐出可能な吐出口201が、1インチ当たりN=1200個の密度でY方向に768個配列されている。各吐出口201は、約4(pl)のインク滴を21KHzの周波数で吐出することができる。このような記録ヘッド105による記録走査により、記録媒体Pには、主走査方向(X方向)副走査方向(Y方向)共に、1200dpiの記録密度で画像を記録することができる。以下、便宜上、768個の吐出口のそれぞれを、搬送方向の上流側(-Y方向側)からn1~n768と称する。
【0014】
吐出口201からインクを吐出させる方法は特に限定されないが、本実施形態では、発熱素子に電圧を印加し、当該発熱素子に接触するインク中に膜沸騰を生じさせ、発生した泡の成長エネルギによってインクを吐出させるものとする。
【0015】
なお、図2では、1色分のインクの吐出口列を示したが、このような吐出口列はインク色別に複数用意されてもよい。本実施形態の記録ヘッド105には、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの4色についての吐出口列が、X方向に配列されているものとする。
【0016】
図3は、記録装置1の制御の構成を説明するためのブロック図である。CPU300は、ROM301に記憶されているプログラムに従いRAM302をワークエリアとしながら、メインバスライン305を介して記録装置1の全体を制御する。
【0017】
画像入力部303は、外部に接続されたホスト装置などから印刷ジョブを受信する。CPU300は、画像入力部303が受信した印刷ジョブをRAM302に展開し、印刷ジョブに含まれる画像データに対し画像処理部304に画像処理を行わせる。これにより、記録ヘッド105が記録可能な記録データが生成される。
【0018】
ヘッド駆動制御回路307は、画像処理部304が生成した記録データに従って記録ヘッド105を駆動する。キャリッジ駆動制御回路308は、CPU300の指示の下、キャリッジモータ310を駆動し、キャリッジ102の±X方向の移動を制御する。搬送制御回路309は、CPU300の指示の下、搬送モータ311を駆動し、記録媒体をY方向に搬送する。操作部306は、CPU300の指示の下、ユーザからの指示を受信したり記録装置1の情報をユーザに表示したりする。
【0019】
<画像処理の構成>
図4は、画像処理部304における画像処理の機能の構成を示すブロック図である。色調整処理部401は、画像入力部303が受信した画像データの色調整処理を行う。具体的には、S-RGBなどの標準的な色空間で現わされるR(レッド)、G(グリーン)、B(ブルー)の8ビットデータを、記録装置1で表現可能なRGBの色空間にマッピングする。本実施形態では、解像度1200dpiを有するRGBの8ビットデータが生成されるものとする。
【0020】
色変換処理部402は、色調整処理部401より出力されたRGBの8ビットデータを、記録装置で用いるインク色、C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)およびK(ブラック)のそれぞれの多値の階調値を示す12ビットデータに変換する。
【0021】
ガンマ補正処理部403は、色変換処理部402が生成したCMYKそれぞれの12ビットデータについて、階調値補正を行う。具体的には、12ビットで表わされる階調値と記録媒体上で表現される光学濃度とが線形関係を有するように階調値を補正する。
【0022】
量子化処理部404は、CMYKの12ビットデータのそれぞれについて量子化処理を行う。これにより、12ビット4096値の階調値は、1ビット2値の量子化値に変換される。この1ビット2値の量子化値は、記録媒体上の1200dpiで配列する個々の画素領域に対し、ドットの記録(1)または非記録(0)を示すものである。
【0023】
分配処理部405は、量子化処理部404が生成した量子化値に基づいて、後述するパスマスクを用い、各記録走査に対応する記録データを生成する。記録データは、各記録走査について、画素領域のそれぞれにドットを記録するか否かを定めるデータである。分配処理部405で生成された記録データは、CPU300によってヘッド駆動制御回路307に転送される。ヘッド駆動制御回路307は受信した記録データに従って、各記録走査で記録ヘッド105を駆動し、吐出動作を行わせる。
【0024】
本実施形態の記録装置1は、2パスのマルチパス記録を行うものとする。2パスのマルチパス記録では、図2に示す768個の吐出口201を用いた記録走査と、384画素分の記録媒体の搬送動作とが交互に行われる。記録媒体の単位領域は、記録ヘッド105による2回の記録走査で画像が記録されることになる。
【0025】
<量子化処理部>
図5は、図4の量子化処理部404が使用する閾値マトリクス500を示す図である。このような閾値マトリクス500は、予めROM301に保存されている。図中、個々の四角は1画素領域に対応し、各画素領域に付した値は量子化処理で用いる閾値を示す。本実施形態の閾値マトリクス500は、4×4の画素領域を有する単位マトリクス501が、X方向およびY方向に繰り返し配置されて構成される。単位マトリクス501を構成する16個の画素のそれぞれには、256、512・・・4096と言った256おきの16個の閾値のいずれかが設定されている。
【0026】
量子化処理部404は、ガンマ補正処理部403から得られた階調値を、対応する画素に設定された閾値と比較し、ドットの記録(1)又は非記録(0)を示す2値の量子化値を生成する。ここで、ガンマ補正処理部403から入力される階調値をIn、対応する画素の閾値をTh、量子化値をOutとすると、
In≧Th のとき Out=1
In<Th のとき Out=0
となる。
【0027】
<分配処理部>
図6(a)~(c)は、図4の分配処理部405が使用するパスマスクを説明するための図である。2パスのマルチパス記録を行う場合、図2に示す768個の吐出口は384個ずつの2つの領域に分割され、それぞれの領域で異なるパスマスクが使用される。図6(a)は、768個の吐出口のうち吐出口n1~n384(図2参照)で使用される第1のパスマスク601を示す。また、図6(b)は、吐出口n385~n768で使用される第2のパスマスク602を示す。どちらのパスマスクも、Y方向に384画素、X方向に256画素の画素領域を有する。
【0028】
図中、個々の四角は1画素領域に相当し、グレーで示した画素はドットの記録を許容する画素、白で示した画素はドットの記録を許容しない画素を示す。第1のパスマスク601は、4×4の画素領域から成る単位マスク603が、X方向およびY方向に繰り返し配置されることによって構成される。また、第2のパスマスク602は、4×4の画素領域から成る単位マスク604が、X方向およびY方向に繰り返し配置されることによって構成される。記録媒体の単位領域においては、第1のパスマスク601に従った記録走査と、第2のパスマスク602に従った記録走査とが行われて画像が完成する。
【0029】
<マルチパス記録>
図7は、本実施形態の2パスのマルチパス記録において、記録媒体に画像が記録されていく様子を説明するための図である。実際の記録走査では、記録ヘッド105に対し記録媒体が+Y方向に搬送されるが、ここでは、便宜上、記録媒体に対し記録ヘッド105が相対的に-Y方向に移動する形態で示している。
【0030】
記録ヘッド105において、吐出口n1~n384は第1のパスマスク601に従った記録を行い、吐出口n385~n768は第2のパスマスク602に従った記録を行う。ここで、記録媒体の第1単位領域に着目すると、第1単位領域は、第1記録走査で第1のパスマスク601に従った記録が行われ、384画素分の搬送動作の後、第2記録走査で第2のパスマスク602に従った記録が行われる。また、第2単位領域は、第2記録走査で第1のパスマスク601に従った記録が行われ、384画素分の搬送動作の後、第3記録走査で第2のパスマスク602に従った記録が行われる。このように、Y方向に配列する単位領域は、いずれも、第1のパスマスク601に従った1回目の記録走査が行われた後、第2のパスマスク602に従った2回目の記録走査が行われることによって画像が完成する。
【0031】
図中、左側には、記録媒体の単位領域と単位マトリクス501(図5参照)の位置関係を示している。個々の単位領域には、Y方向において96(=384/4)個の単位マトリクス501が対応付けられている。量子化処理部404(図4参照)は、各画素が有する階調値を単位マトリクス501内の対応する閾値と比較し、画素ごとにドットの記録(1)又は非記録(0)を決定する。分配処理部405は、量子化処理部404が決定したドットの記録(1)又は非記録(0)を示す情報と、パスマスクが示す記録の許容(1)又は非許容(0)を示す情報との間で論理積演算を行い、各記録走査の記録データを生成する。
【0032】
<ドットの記録状態>
図6(c)は、量子化処理部404によってドットの記録(1)が決定された8×8の画素領域に対し、本実施形態のマルチパス記録によって記録媒体に結果的に記録されるドットの個数を画素ごとに示した図である。図6(a)に示す第1のパスマスク601と図6(b)に示す第2のパスマスク602の両方でドットの記録が許容されている画素には、2つのドットが記録される。第1のパスマスク601と第2のパスマスク602のうち、どちらか一方でドットの記録が許容されている画素には、1つのドットが記録される。そして、いずれの画素も、第1のパスマスク601と第2のパスマスク602のうち、少なくとも一方では、ドットの記録が許容されるようになっている。
【0033】
例えば、左上の画素は、第1のパスマスク601ではドットの記録が許容されているが、第2のパスマスク602ではドットの記録が許容されていない。このため、当該画素に対応する領域には、1回目の記録走査によって1つのドットが記録される。また、右下の画素は、第1のパスマスク601と第2のパスマスク602の両方でドットの記録が許容されている。このため、当該画素に対応する領域には、1回目と2回目の記録走査によって1つずつ計2つのドットが記録される。
【0034】
図6(c)で2つのドットが記録される画素は、図5の単位マトリクス501において、最も高い4つの閾値(3328、3840、3584、4096)が設定されている画素に相当する。言い換えると、最も高い4つの閾値が設定されている画素に対しては、第1のパスマスク601と第2のパスマスク602の両方で記録が許容されるように、第1、第2のパスマスク601、602が閾値マトリクス500に関連付けて予め作成されている。
【0035】
このような閾値マトリクス500と第1、第2のパスマスク601、602とを用いて2パスのマルチパス記録を行うと、ハイライト領域から中濃度領域(0~3327)では、相対的に小さな閾値が設定されている画素から順にドットが記録されるようになる。すなわち、ハイライト領域から中濃度領域では、階調値が上昇するにつれて視認性の低い単ドットが徐々に追加される状態となり、画像全体の粒状感は抑えられる。
【0036】
一方、高濃度領域(3328~4096)では、上記4つの閾値以外の低い閾値が設定されている画素にドットが1つずつ記録された上で、更に上記4つの閾値が設定されている画素にドットが2つずつ追加される。すなわち、高濃度領域では、階調値の上昇に対して追加されるドットの数の割合がハイライト領域から中濃度領域よりも高まり、光学最高濃度を従来よりも上昇させることができる。
【0037】
その結果、本実施形態によれば、全濃度領域(0~4096)における光学濃度の表現範囲を従来よりも拡大することに繋がる。具体的には、個々の画素に1つずつドットが記録される記録デューティを100%とすると、従来では0%~100%の記録デューティで階調表現を行っていたのに対し、本実施形態では0%~125%の記録デューティで階調表現を行うことになる。その上で、本実施形態では、記録装置1の記録解像度と等しい1200dpiの解像度の下で、量子化処理部404(図4参照)が量子化処理を行っている。以上のことより、本実施形態によれば、粒状感の抑制と高い光学濃度表現とを実現しつつ、記録装置の記録解像度に相応した高い解像性を有する画像を出力することが可能となる。
【0038】
なお、以上では、最も高い4つの閾値が設定されている画素に対して2つのドットが記録されるようにしたが、2つのドットが記録されるようにする閾値の数は増減してもよい。例えば、最も高い8つの閾値が設定されている画素に対して2つのドットを記録するようにすれば、全濃度領域(0~4096)を0%~150%の記録デューティで階調表現できるようになる。
【0039】
また、以上では、閾値の並びが固定された単位マトリクス501をX方向とY方向に繰り返し配列させたものを閾値マトリクス500としたが、閾値マトリクス500は、閾値の並びが互いに異なる複数の単位マトリクスを配列させて構成してもよい。いずれにしても、閾値マトリクス500で所定値以上の閾値が設定されている画素では2つのパスマスクの両方でドットの記録が許容され、それ以外の画素では2つのパスマスクの一方でドットの記録が許容されるようにすれば、本実施形態の効果を得ることは出来る。
【0040】
(第2の実施形態)
本実施形態においても、図1図4で説明した記録装置1を用いる。また、図5で説明した閾値マトリクス500を用いて量子化処理を行う。但し、第1の実施形態では2パスのマルチパス記録を行ったが、本実施形態では4パスのマルチパス記録を行うものとする。4パスのマルチパス記録の場合、記録媒体の単位領域は、記録ヘッド105による4回の記録走査によって画像が記録される。
【0041】
図8(a)~(e)は、本実施形態の分配処理部405が使用するパスマスクを示す図である。4パスのマルチパス記録の場合、図2に示す768個の吐出口は192個ずつの4つの領域に分割され、それぞれの領域に異なるパスマスクが使用される。本実施形態において、図8(a)は、吐出口n1~n192で使用される第1のパスマスク801を示す。図6(b)は、吐出口n193~n384で使用される第2のパスマスク802を示す。図6(c)は、吐出口n385~n576で使用される第3のパスマスク803を示す。図6(d)は、吐出口n577~n768で使用される第4のパスマスク804を示す。いずれのパスマスクも、Y方向に192画素、X方向に256画素の画素領域を有している。そして、いずれのパスマスクも、第1の実施形態と同様、4×4の画素領域から成る単位マスクが、X方向およびY方向に繰り返し配置されることによって構成されている。
【0042】
図9は、本実施形態の4パスのマルチパス記録において、記録媒体に画像が記録されていく様子を、図7と同様に説明するための図である。記録ヘッド105において、吐出口n1~n192は第1のパスマスク801に従った記録を行い、吐出口n193~n384は第2のパスマスク802に従った記録を行う。また、吐出口n385~n576は第3のパスマスク803に従った記録を行い、吐出口n577~n768は第4のパスマスク804に従った記録を行う。そして、各記録走査の間では、記録媒体をY方向に192画素分ずつ搬送する。これにより、記録媒体上のいずれの単位領域も、記録ヘッド105の異なる吐出口領域による4回の記録走査で画像が記録される。
【0043】
図8(e)は、量子化処理部404によってドットの記録(1)が決定された8×8の画像領域に対し、記録媒体に結果的に記録されるドットの個数を画素ごとに示した図である。図8(a)~(d)に示す第1~第4のパスマスク801~804のうち、全てのパスマスクでドットの記録が許容されている画素には、4つのドットが記録される。第1~第4のパスマスク801~804のうち、3つのパスマスクでドットの記録が許容されている画素には3つのドットが記録され、2つのパスマスクでドットの記録が許容されている画素には2つのドットが記録される。第1~第4のパスマスク801~804のうち、1つのパスマスクのみでドットの記録が許容されている画素には1つのドットが記録される。いずれの画素も、第1~第4のパスマスク801~804のうち、少なくとも1つのパスマスクでは、ドットの記録が許容されるようになっている。
【0044】
ここで、図8(e)で4つのドットが記録される画素は、図5の単位マトリクス501のうち、最も高い4つの閾値(3328、3840、3584、4096)が設定されている画素に相当する。また、3つのドットが記録される画素は、図5の単位マトリクス501のうち、次に高い4つの閾値(2304、2560、2816、3072)が設定されている画素に相当する。また、2つのドットが記録される画素は、図5の単位マトリクス501のうち、次に高い4つの閾値(1280、1530、1792、2048)が設定されている画素に相当する。更に、1つのドットが記録される画素は、図5の単位マトリクス501のうち、最も低い4つの閾値(256、512、768、1024)が設定されている画素に相当する。
【0045】
このように、本実施形態においては、高い閾値が設定されている画素ほど、多くのドットの記録が許容されるように、第1~第4のパスマスク801~804が閾値マトリクス500に関連付けて予め作成されている。その結果、本実施形態によれば、全濃度領域(0~4096)を0%~250%の記録デューティで階調表現を行うこととなり、光学濃度の表現範囲を第1の実施形態よりも更に拡大することが可能となる。
【0046】
(第3の実施形態)
本実施形態においても、図1図4で説明した記録装置1を用いる。また、第2の実施形態と同様、4パスのマルチパス記録を行うものとする。但し、本実施形態の量子化処理部404は、12ビット4096値の階調値を、2ビット3値の量子化値に変換する。この2ビット3値の量子化値は、記録媒体において1200dpiで配列する個々の画素領域に対し、ドットの記録(01)、(10)または非記録(00)を示すものである。
【0047】
図10(a)および(b)は、本実施形態の量子化処理部404が使用する閾値マトリクスを示す図である。本実施形態の量子化処理部404は、図10(a)で示す第1の閾値マトリクス1001と、図10(b)に示す第2の閾値マトリクス1002の2つの閾値マトリクスを用いて量子化処理を行う。
【0048】
第1、第2の閾値マトリクス1001、1002において、個々の四角は1画素領域に対応し、各画素に示す値は量子化処理で用いる閾値を示す。ここで、図10(a)に示す第1の閾値マトリクス1001には、0~2048の範囲に含まれる閾値が設定されている。一方、図10(b)に示す第2の閾値マトリクス1002には、2049~4096の範囲に含まれる閾値が設定されている。いずれの閾値マトリクスも、第1の実施形態で説明した閾値マトリクス500と同様、4画素×4画素領域から成る単位マトリクス1003、1004のそれぞれが、X方向およびY方向に繰り返し配列されることにより構成される。このような閾値マトリクス500は、予めROM301に保存されている。
【0049】
本実施形態の量子化処理部404は、0~2048の階調値を有する画素については、第1の閾値マトリクス1001を用いて量子化処理を行い、ドットの記録(01)又は非記録(00)を決定する。また、2049~4096の階調値を有する画素については、第2の閾値マトリクス1002を用いて量子化処理を行い、ドットの記録(10)又は非記録(00)を決定する。これにより、0~4096の全ての階調値が、(01)、(10)又は(00)のいずれかに変換される
図11(a)~(f)は、本実施形態の分配処理部405が使用するパスマスクを説明するための図である。図11(a)は、吐出口n1~n192で使用される第1のパスマスクを示す。図11(b)は、吐出口n193~n384で使用される第2のパスマスクを示す。図11(c)は、吐出口n385~n576で使用される第3のパスマスクを示す。図11(d)は、吐出口n577~n768で使用される第4のパスマスクを示す。いずれも、Y方向に192画素、X方向に256画素の画素領域を有する。
【0050】
本実施形態のパスマスクでは、個々の画素について「00」、「01」、「10」のいずれかのマスク値が設定されている。ここで、マスク値「01」は、量子化値が「10」であった場合にドットを記録することを示す。また、マスク値「10」は、量子化値が「01」または「10」であった場合にドットを記録することを示す。更に、マスク値「00」は、ドットを記録しないことを示す。図12は、量子化値(00、01、10)とマスク値(00、01、10)との組み合わせに応じて決定される、ドットの記録(1)または非記録(0)の内容を示す。
【0051】
本実施形態において、マスク値「10」は、第1~第4のパスマスクで補完関係を有するように設定されている。言い換えると、いずれの画素も、第1~第4のパスマスクのいずれか1つのパスマスクでマスク値が「10」となるように、第1~第4のパスマスクが作成されている。一方、マスク値「01」については、4つの高い閾値が設定されている画素では、第1~第4のパスマスクのうち2つのパスマスクでマスク値が「01」となるように、第1~第4のパスマスクが作成されている。また、残りの閾値が設定されている画素では、いずれか1つのパスマスクでマスク値が「01」となるように、第1~第4のパスマスクが作成されている。
【0052】
本実施形態では、以上説明した閾値マトリクスとパスマスクを用いて、4パスのマルチパス記録を行う。記録媒体に画像が記録されていく様子は、第2の実施形態で説明した図9と同様である。すなわち、個々の単位領域では、第1~第4のパスマスクに従った記録走査が、192画素分の搬送動作を介在させながら順番に行われ、画像が完成する。
【0053】
図11(e)は、量子化処理部404によって量子化値が「01」に決定された8×8の画素領域に対し、本実施形態のマルチパス記録を行った場合に、記録媒体に記録されるドットの個数を画素ごとに示した図である。この場合、各記録走査では、マスク値が「10」である画素にのみドットが記録され、結果的には全ての画素にドットが1つずつ記録されることになる。
【0054】
一方、図11(f)は、量子化処理部404によって量子化値が「10」に決定された8×8の画素領域に対し、本実施形態のマルチパス記録を行った場合に、記録媒体に記録されるドットの個数を画素ごとに示した図である。この場合、各記録走査では、マスク値が「01」である画素と「10」である画素にドットが記録される。その結果、図11(f)に示すように、図10(b)において最も高い4つの閾値が設定されている画素にはドットが3つずつ記録され、その他の画素にはドットが2つずつ記録されることになる。
【0055】
このように、本実施形態においては、高い閾値が設定されている画素ほど、多くのドットの記録が許容されるように、第1、第2の閾値マトリクス1001、1002と、第1~第4のパスマスクとを予め関連付けて作成している。その結果、本実施形態では全濃度領域(0~4096)を0%~225%の記録デューティで階調表現を行うこととなり、第1の実施形態よりも光学濃度の表現範囲を更に拡大することができる。
【0056】
(第4の実施形態)
本実施形態においても、図1図4で説明した記録装置1を用いる。また、第1の実施形態と同様、2パスのマルチパス記録を行う。但し、本実施形態の閾値マトリクスは、4×4画素の単位マトリクスではなく、128×128画素の単位マトリクスで構成されるものとする。そして、128×128画素(16384画素)のそれぞれには、1~4096の閾値のいずれかが、分散性の高い状態で4つずつ設定されている。本実施形態の単位マトリクスとしては、ブルーノイズ特性を有するような低周波成分を抑えた閾値マトリクスを用いることができる。
【0057】
図13(a)および(b)は、低周波成分を抑えた閾値マトリクスを用いた場合と、閾値をランダムに設定した閾値マトリクスを用いた場合とで、記録媒体に記録されるドットの分散性を比較する図である。ここでは、各画素の階調値が一様に512である画像データが入力された場合を示している。階調値が512である場合、1~512の閾値が設定されている画素でドットが記録され、513~4096の閾値が設定されている画素ではドットが記録されない。図13(a)および(b)を比較すると、どちらも同数のドットが記録されているものの、低周波成分を抑えた閾値マトリクスを用いた図13(a)の方が、ドットの分散性が高く粒状感が抑えられていることが分かる。
【0058】
本実施形態では、このような分散性に優れた閾値マトリクスを用いながら、第1の実施形態で説明したような第1のパスマスクと第2のパスマスクとを用意する。具体的には、閾値マトリクスで1~3584の閾値が設定された画素では一方のパスマスクによってドットの記録が許容され、3585~4096の閾値が設定された画素では両方のパスマスクによってドットの記録が許容されような2つのパスマスクを用意する。このような2つのパスマスクは、閾値マトリクスと同様、128×128の画素領域を単位マスクとしたものである。
【0059】
そして、上記閾値マトリクスと第1、第2のパスマスクを用いた上で、2パスのマルチパス記録を行う。単位マトリクスの大きさは異なるものの、記録媒体に画像が記録されていく様子は、第1の実施形態で説明した図7と同様である。記録媒体における個々の単位領域では、第1のパスマスクに従った記録走査と第2のパスマスクに従った記録走査が順番に行われ、0%~125%の記録デューティで階調表現を行うことが可能となる。無論、本実施形態においても、第1の実施形態と同様、2つのドットが記録される閾値の範囲を更に広げることにより、階調表現を行うための光学濃度の範囲をさらに拡大することができる。
【0060】
以上説明したように、本実施形態によれば、第1の実施形態よりも粒状感を更に抑えながら高い光学濃度を表現しつつ、記録装置の記録解像度に相応した高い解像性を有する画像を出力することが可能となる。
【0061】
なお、以上では、低周波成分を抑えた閾値マトリクスを用いて生成した画像を2パスのマルチパス記録で記録する場合を説明したが、無論同じ画像を4パスのマルチパス記録で記録することもできる。この場合には、128×128の画素領域を有する第1~第4のパスマスクを用意すればよい。そして、閾値マトリクスで大きな閾値が設定されている画素ほど、ドットの記録が許容されるパスマスクの数が増えるように、第1~第4のパスマスクの記録許容画素の位置が、第2の実施形態と同様に調整されればよい。
【0062】
(第5の実施形態)
本実施形態においても、図1図4で説明した記録装置1を用いる。また、第1の実施形態と同様、2パスのマルチパス記録を行う。但し、本実施形態では、2パスのマルチパス記録における各記録走査間の搬送量(384画素)よりも、Y方向へ更に大きな画素領域を有する単位マトリクスで構成された閾値マトリクスを用いるものとする。
【0063】
図14は、本実施形態で使用する単位マトリクス1400と第1のパスマスク1401及び第2のパスマスク1402の大きさおよび位置を相対的に示す図である。本実施形態において、単位マトリクス1400、第1のパスマスク1401及び第2のパスマスク1402は、Y方向(搬送方向)に搬送量(384画素)の2倍に相当する768画素、X方向に512画素の領域を有する。そして、単位マトリクス1400については、第4の実施形態と同様、低周波成分を抑えたものとする。
【0064】
第1のパスマスク1401および第2のパスマスク1402の記録許容画素は、第4の実施形態と同様の方法で、単位マトリクス1400に基づいて設定される。すなわち、単位マトリクス1400において1~3584の閾値が設定された画素では、第1のパスマスク1401および第2のパスマスク1402の一方でドットの記録が許容される。また、単位マトリクス1400において3585~4096の閾値が設定された画素では、第1のパスマスク1401および第2のパスマスク1402の両方でドットの記録が許容される。
【0065】
次に、以上のように生成された単位マトリクス1400、第1のパスマスク1401及び第2のパスマスク1402を用いた2パスのマルチパス記録について説明する。2パスのマルチパス記録の場合、単位マトリクス1400、第1のパスマスク1401及び第2のパスマスク1402のそれぞれは、Y方向に2つの領域に分割して考えることができる。ここでは、便宜上、単位マトリクス1400の+Y方向側の384画素の領域を閾値マトリクスD1と呼び、-Y方向側の384画素の領域を閾値マトリクスD2と呼ぶ。また、第1のパスマスク1401の+Y方向側の384画素の領域をパスマスクA1と呼び、-Y方向側の384画素の領域をパスマスクA2と呼ぶ。更に、第2のパスマスク1402の+Y方向側の384画素の領域をパスマスクB1と呼び、-Y方向側の384画素の領域をパスマスクB2と呼ぶ。閾値マトリクスD1に対応する画素領域は、パスマスクA1に従った記録走査とパスマスクB1に従った記録走査によって、0~125%の記録デューティでの階調表現が行われる。閾値マトリクスD2に対応する画素領域は、パスマスクA2に従った記録走査とパスマスクB2に従った記録走査によって、0~125%の記録デューティで階調表現が行われる。
【0066】
図15は、本実施形態の2パスのマルチパス記録において、記録媒体に画像が記録されていく様子を説明するための図である。本実施形態の場合、記録ヘッド105は記録走査の度に使用するパスマスクを切り替える。以下具体的に説明する。
【0067】
第1の記録走査において、記録ヘッド105の吐出口n1~n384はパスマスクA1に従った記録を行う。第2の記録走査において、記録ヘッド105の吐出口n1~n384はパスマスクA2に従った記録を行い、吐出口n385~n768はパスマスクB1に従った記録を行う。第3の記録走査において、記録ヘッド105の吐出口n1~n384はパスマスクA1に従った記録を行い、吐出口n385~n768はパスマスクB2に従った記録を行う。第4の記録走査において、記録ヘッド105の吐出口n1~n384はパスマスクA2に従った記録を行い、吐出口n385~n768はパスマスクB1に従った記録を行う。以後、同様にして、奇数回目の記録走査において、記録ヘッド105の吐出口n1~n384はパスマスクA1に従った記録を行い、吐出口n385~n768はパスマスクB2に従った記録を行う。また、偶数回目の記録走査において、記録ヘッド105の吐出口n1~n384はパスマスクA2に従った記録を行い、吐出口n385~n768はパスマスクB1に従った記録を行う。
【0068】
ここで、閾値マトリクスD1に対応する第1単位領域に着目すると、第1単位領域は、パスマスクA1に従った記録走査とパスマスクB1に従った記録走査によって画像が記録される。一方、閾値マトリクスD2に対応する第2単位領域は、パスマスクA2に従った記録走査とパスマスクB2に従った記録走査によって画像が記録される。以下、同様にして、奇数番目の単位領域はパスマスクA1とパスマスクB1に従った記録走査が行われ、偶数番目の単位領域はパスマスクA2とパスマスクB2に従った記録走査が行われることになる。そしていずれの単位領域においても、高い閾値が設定されている画素に対しては、2回の記録走査でドットの記録が許容されるように、閾値マトリクスとパスマスクとが予め関連付けて作成されている。
【0069】
以上のことより、本実施形態においても、粒状感の抑制と高い濃度表現とを実現しつつ、記録装置の記録解像度に相応した高い解像性を有する画像を出力することが可能となる。
【0070】
なお、以上では、Y方向において搬送量(384画素)の2倍の大きさを有する単位マトリクス1400を用いる場合を説明したが、本実施形態において、単位マトリクスのサイズは搬送量(384画素)の整数倍という条件の下で更に大きくすることもできる。また、同じ画像を4パスあるいはそれ以上のマルチパス数で記録することもできる。
【0071】
いずれにしても、マルチパス記録を行う際の搬送量の整数倍の大きさを有する単位マトリクスと、当該単位マトリクスの内容に基づいた複数のパスマスクを用意すればよい。そして、各記録走査で適切なパスマスクを切替えながら単位領域に対し複数回の記録走査を行うことにより、上記実施形態と同様、粒状感を抑えながら高い光学濃度を表現し、記録装置の記録解像度に相応した高い解像性を有する画像を出力することが可能となる。
【0072】
(その他の実施形態)
上記実施形態では、シアン、マゼンタ、イエロー及びブラックの4色のインクを用いる画像記録装置を例に説明した。しかし、以上説明したような本発明の画像処理は、全てのインク色に適用する必要はない。例えば、ブラックについては上記説明したような画像処理を行い、他の色については、従来と同様の画像処理を行って0%~100%の記録デューティの下で階調表現を行ってもよい。また、マルチパス記録用のパスマスクをインク色で個別に用意し、最高濃度の記録デューティをインク色毎に異ならせてもよい。
【0073】
また、使用するインクの種類も上記4色に限定されるものではない。例えば、ブラックインクのみを用いるモノクロプリンタとしても良いし、ライトシアン、ライトマゼンタのような色材の含有濃度の低いインクや、レッド、ブルー、グリーンなどの特色インクを用いる形態としてもよい。
【0074】
更にマルチパス数においても上記実施形態で説明したような2パスや4パスに限定されるものではない。上記実施形態は、単位領域に対しM回(Mは2以上の整数)の記録走査を行うマルチパス記録を行う形態に応用することができる。例えば、3パスのマルチパス記録であれば1つの画素に最高3つのドットを記録することが可能となり、8パスのマルチパス記録であれば1つの画素に最高8つのドットを記録することが可能となる。いずれにしても、閾値マトリクスで所定値以上の閾値が設定されている画素に対してドットの記録が許容される記録走査の数が、他の閾値が設定されている画素に対してドットの記録が許容される記録走査の数よりも多くなるようなパスマスクが用意されればよい。
【0075】
また、以上の実施形態では、記録ヘッド105を備えた記録装置1を本発明の画像処理装置として説明した。しかしながら、本発明の画像処理装置は、記録装置の外部に接続され、記録装置で使用する記録データを生成するための画像処理装置とすることもできる。
【0076】
更に、以上ではインクを滴として吐出するインクジェット記録装置を例に説明したが、画像の記録方式はインクジェット方式に限定されるものではない。記録媒体に色材を付与してドットを形成し、擬似階調表現を行う画像記録装置であればよい。
【0077】
いずれにしても、記録装置1の記録解像度と等しい解像度の下で閾値マトリクスを用いた量子化処理を行う構成において、マルチパス記録で用いるパスマスクを閾値マトリクスに関連付けて用意することができれば、本発明は有効に機能させることができる。
【0078】
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサーがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【符号の説明】
【0079】
1 記録装置(画像処理装置)
105 記録ヘッド
201 吐出口(記録素子)
404 量子化処理部
405 分配処理部
500 閾値マトリクス
601 第1のパスマスク
602 第2のパスマスク
P 記録媒体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15