(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッドおよび液体吐出装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/175 20060101AFI20240415BHJP
【FI】
B41J2/175 121
B41J2/175 151
(21)【出願番号】P 2020118709
(22)【出願日】2020-07-09
【審査請求日】2023-06-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉川 晋平
(72)【発明者】
【氏名】但馬 裕基
(72)【発明者】
【氏名】宮下 岳穂
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-162063(JP,A)
【文献】特開2005-178240(JP,A)
【文献】特開2010-069746(JP,A)
【文献】特開2016-215536(JP,A)
【文献】特開2012-040731(JP,A)
【文献】特開2015-223828(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を貯留可能なタンクと、前記タンクが取り付けられる本体と、前記タンクと前記本体との間に設けられ、前記タンクと前記本体との間をシールする弾性部材と、を備え、
底面は、前記底面の端部から立ち上がる壁が設けられた領域に隣接した第1領域と、前記壁が設けられていない領域に隣接した第2領域とを有した液体吐出ヘッドであって、
前記タンクは、前記第1領域および前記第2領域に取り付けられ
るビスにより前記本体の底面に取り付けられており、
前記第2領域に取り付けられるビスの本数は、前記第1領域に取り付けられるビスの本数よりも多いことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記タンクは、樹脂から形成され、前記本体は、前記タンクを形成する樹脂よりも低剛性な樹脂から形成される請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記本体は、箱型形状であり、
該箱型形状の両側面と背面とに前記壁を備えており、該箱型形状の正面と上面には前記壁を備えていない請求項1または2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記タンクは、前記箱型形状の正面側で4つの前記ビス、前記箱型形状の背面側で2つの前記ビスで前記底面に取り付けられている請求項3に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記タンクは、前記箱型形状の正面側で3つの前記ビス、前記箱型形状の背面側で2つの前記ビスで前記底面に取り付けられている請求項3に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記底面の外側には液体を吐出する吐出ユニットが設けられている請求項1ないし5のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記底面には、前記吐出ユニットに液体を供給可能な流路が設けられている請求項6に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記底面において、前記タンクと前記本体との間には、前記本体へのゴミの侵入を防ぐフィルターが設けられている請求項1ないし7のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
液体を貯留可能なタンクと、前記タンクが取り付けられる本体と、前記タンクと前記本体との間に設けられ前記タンクと前記本体との間をシールする弾性部材とを有した液体吐出ヘッドを備え、
底面は、前記底面の端部から立ち上がる壁が設けられた領域に隣接した第1領域と、前記壁が設けられていない領域に隣接した第2領域とを有した液体吐出装置であって、
前記タンクは、前記第1領域および前記第2領域に取り付けられ
るビスにより前記本体の底面に取り付けられており、
前記第2領域に取り付けられるビスの本数は、前記第1領域に取り付けられるビスの本数よりも多いことを特徴とする液体吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を吐出する液体吐出ヘッドおよび液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
サブタンクを搭載する液体吐出ヘッドの本体部は、特許文献1に示すように、箱型形状をしており、箱型形状における上面および正面は開口しており、背面、底面および両側面が壁面となっている形状をとりやすい。上面が開口となっていることで本体部にサブタンクを組み込む際の組込性がよく、正面が開口となっていることでサブタンクと供給チューブとの接続部を水平方向に配置しやすくなる。
【0003】
特許文献1には、液体吐出ヘッドの本体に組み込んだサブタンクをビスによって固定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1のような構成で、サブタンクの材料が本体部の材料より高剛性である場合、サブタンクと本体部との間に配されたシール部材の反力による影響が本体部に集中し、本体部の底面が変形する虞がある。また、本体部の底面は、剛性が一様ではなく、剛性の高い部分と、剛性の低い部分とがあり、剛性の低い部分で変形が生じやすい。本体部の底面が変形した場合、所望の位置へインクを吐出できなくなり吐出精度が低下する。
【0006】
これを回避するために、サブタンクを固定しているビスの数を増やして、本体部を確実にサブタンクにならわせる方法が考えられる。特許文献1では、多くのビスを用いてサブタンクを固定していることがわかる。しかし、この方法では大量のビスが必要となり、コストが高くなるうえに、工数も多くなってしまい生産性の低下につながる。
【0007】
よって本発明は、吐出精度の低下を抑制し、かつ生産性の低下を抑制することができる液体吐出ヘッドおよび液体吐出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そのため本発明の液体吐出ヘッドは、液体を貯留可能なタンクと、前記タンクが取り付けられる本体と、前記タンクと前記本体との間に設けられ、前記タンクと前記本体との間をシールする弾性部材と、を備え、底面は、前記底面の端部から立ち上がる壁が設けられた領域に隣接した第1領域と、前記壁が設けられていない領域に隣接した第2領域とを有した液体吐出ヘッドであって、前記タンクは、前記第1領域および前記第2領域に取り付けられるビスにより前記本体の底面に取り付けられており、前記第2領域に取り付けられるビスの本数は、前記第1領域に取り付けられるビスの本数よりも多いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば吐出精度の低下を抑制し、かつコストの高騰や生産性の低下を抑制することができる液体吐出ヘッドおよび液体吐出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図7】サブタンクを組付けた本体部を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1の実施形態)
以下、図面を参照して本発明の第1の実施形態について説明する。
【0012】
図1は、本発明を適用可能な液体吐出装置1を示した概略図である。液体吐出装置1は、液体(以下、インクともいう)を吐出する液体吐出ヘッド5と、ガイドレール2に沿って移動可能であり液体吐出ヘッド5を搭載可能なキャリッジ3と、液体吐出ヘッド5に供給チューブ4を介して液体を供給する供給源6とを備えている。液体吐出ヘッド5は、搬送される媒体8に液体を吐出することで媒体8に印刷を行う。液体吐出ヘッド5には、多数の吐出口が設けられており、ヒータ等のアクチュエータを駆動させることで、吐出口からインクを吐出する。
【0013】
供給源6は、インクの色毎に独立したインク貯蔵室7を備えている。本実施形態では、供給源6は、ブラック(Bk)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の4色に対応したインク貯蔵室7を備えている。各インク貯蔵室7は、外部と接続する接続口を有し、外部からインクを直接追加できる構成となっている。ここで供給源6は、交換可能なインクタンクであってもよい。
【0014】
図2は、液体吐出ヘッド5を示した斜視図であり、
図3は、液体吐出ヘッド5を示した分解斜視図である。液体吐出ヘッド5は、箱型の本体部10と、本体部10に取り付けられ、液体を貯留可能なサブタンク(タンク)20とを備えている。本体部10とサブタンク20との間には、弾性部材30が設けられており、弾性部材30によって本体部10とサブタンク20との間をシールしている。サブタンク20は本体部10に対して複数のビス25によって固定されている。本体部10は、ノンフィラーの樹脂材料であり低剛性である。また、サブタンク20は、フィラーを含有する樹脂材料からなり高剛性である。
【0015】
図4(a)は、本体部10の正面側がわかるように示した斜視図であり、
図4(b)は、本体部10の背面側がわかるように示した斜視図である。
図4(c)は、本体部10の上面図である。本体部10は、箱型形状となっており、上面と正面とは開口しており、背面と底面および両側面は壁となっている。ここで、本体部10の底面とは、サブタンク20が装着(固定)される面のことをいう。底面部の外側には吐出ユニット11が接続されており、底面部の内側には、ゴミ等の侵入を防ぐフィルター12が設置されている。底面部の外側とは、本体部10の底面の反対側の面のことをいう。底面部の内側とは、本体部10の底面のサブタンク20が取り付けられる側の面のことをいう。フィルター12は、ブラック(Bk)のインクに対応する箇所は六角形の形状を備えており、その他の色であるシアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)のインクに対応する箇所は五角形の形状を備えている。本体部10の底面部内部には、フィルター部から吐出ユニット11へとインクを供給可能な後述する内部流路が形成されている。本体部10の背面部外側には、液体吐出装置1の本体と電気接続を成す電気配線基板14を備えている。
【0016】
図5(a)は、液体吐出ヘッド5の斜視図であり、
図5(b)は、
図5(a)のVb-Vbにおける断面図である。インクは、供給源6から供給チューブ4を介し、ジョイント部21を通じてサブタンク20内のインク室24に供給される。本体部10のフィルター部12とサブタンク20のインク室24とは、弾性部材30によってシールされており、インク室24に供給されたインクは、本体部10のフィルター12を通過し、内部流路13を介して、吐出ユニット11へと供給される。供給チューブ4の先端には、樹脂からなるジョイントニードル23が設けられており、サブタンク20のジョイント部21には、ジョイントシール部材22が装着されている。ジョイントニードル23がジョイントシール部材22に挿入、シールされることで、供給チューブ4とサブタンク20のインク室24とが接続される。
【0017】
図6は、液体吐出ヘッド5の上面図である。サブタンク20の本体部10への取り付けは、前述のとおり複数のビス25によって行われている。
【0018】
ここで、本体部10は、
図4でも説明したように、箱型形状となっており、上面と正面は開口しており、背面と底面および両側面は壁となっている。サブタンク20は本体部10の底面に取り付けられているが、本体部10の底面の剛性は、本体部10の形状に起因して部分的に異なる。つまり、本体部10の正面は開口しており、底面から立ち上がる壁を備えていないことから、底面における正面側中央部(第2領域)の剛性は低くなっている。逆に、本体部10の背面および側面は底面の端部から立ち上がる壁を備えていることから、壁と隣接する、底面における背面側および側面側(第1領域)の剛性は高くなっている。第2領域とは、本体部10の底面の形状を矩形とみなしたときに、壁が形成されていない辺に沿う領域のことをいう。ここで、壁が形成されていない辺に沿う領域とは、壁が形成されていない辺から、その辺に直交する方向における矩形の全長の1/5の長さまでの領域のことである。第1領域とは、本体部10の底面のうち、上述した第2領域以外の領域のことをいう。
【0019】
そこで、本実施形態では、本体部10の底面にサブタンク20を取り付けるにあたって、底面における剛性の低い正面側の領域では、ビス25の数を多くし、底面における剛性の高い背面側の領域では、ビス25の数を少なくして取り付ける。具体的には、正面側を4つのビス25で固定し、背面側を2つのビス25で固定する。
【0020】
このように、正面側ではビス25の数を多くすることで、底面のうち剛性の低い部分では、剛性の高いサブタンク20にならってサブタンク20が固定される。また、背面側ではビス25の数を少なくしても、剛性の高い部分における底面に対してサブタンク20を固定することができる。
【0021】
本発明のように、底面の剛性の分布に基づいて、サブタンク20を取り付けるビス25の配置(本数)を決定することで、本体部10の底面の変形を抑制しつつ、少ない数のビス25でサブタンク20を取り付けることができる。これにより、コストの高騰や生産性の低下を抑制することができる。
【0022】
図7(a)、(b)は、サブタンク20組付け時の本体部10を比較する図である。
図7(a)は、本実施形態の比較例であって、正面側を2つのビス25で固定し、背面側を2つのビス25で固定した本体部10の上面図を示す図である。
図7(b)は、
図6に示す本実施形態の本体部10を示す上面図および断面図を示す図である。
【0023】
図7(a)のように、正面側の中央部はビスによる固定を行わず、正面側の両端部を2つのビス25で固定すると、正面側の底面中央部はサブタンク20に固定されていない状態となる。そのため、
図7(a)のB-B´断面に示すように、剛性の低い底面中央部は、弾性部材30の反力の影響を受けて変形する。この変形に伴い、本体部10の底面外側に具備された吐出ユニット11が変形し、吐出精度が低下する虞がある。
【0024】
これに対し、
図7(b)に示す本実施形態のように、正面側を4つのビス25で固定し、背面側よりも正面側のビス25を増やしてサブタンク20を本体部10に取り付けた場合、底面中央部もビス25によってサブタンク20に対して固定される。そのため、底面中央部はサブタンクにならうことから、底面の変形を抑制することができる。
【0025】
正面側の4つのビス25は、中央から図中左方向に4mmと44mmの位置と、中央から図中右方向に8mmと44mmの位置とに配置される。背面側に配置される2つのビス25は、左右それぞれ、正面の2つのビスの中央付近に配置され、サブタンク20の左右でそれぞれ三角形状の配置を成す。具体的にビス25は、中央から図中左側に24mmの位置と、中央から図中右側に26mmの位置とに配置される。
【0026】
このように、本体部10の底面において、剛性の低い正面側では、剛性の高い背面側よりもビス25の数を多くしてサブタンク20を取り付ける。これによって、吐出精度の低下を抑制し、かつコストの高騰や生産性の低下を抑制することができる液体吐出ヘッドおよび液体吐出装置を提供することができる。
【0027】
(第2の実施形態)
以下、図面を参照して本発明の第2の実施形態を説明する。なお、本実施形態の基本的な構成は第1の実施形態と同様であるため、以下では特徴的な構成についてのみ説明する。
【0028】
図8は、本実施形態の液体吐出ヘッド5の上面図である。サブタンク20を本体部10取り付けるためのビス25は、正面側に3つ、背面側に2つの配置でもよい。正面側の3つは、左右両端と、中央部とに配置されている。背面側に配置されるビスは、第1の実施形態と同様の位置である。このようなビス25の配置でも本体部10の変形を抑える事ができる。
【0029】
(その他の実施形態)
以下、図面を参照して本発明のその他の実施形態を説明する。なお、本実施形態の基本的な構成は第1の実施形態と同様であるため、以下では特徴的な構成についてのみ説明する。
【0030】
図9(a)、(b)は、本実施形態の液体吐出ヘッド5の上面図と正面図とを示した図であり、
図9(a)が上面図、
図9(b)が正面図である。なお、
図9(b)では、本体部10が分かり易いように取り付け用のビス25は残したままサブタンク20を省略して示している。本実施形態の本体部10は、背面側の壁を備えておらず、両側面に壁を備えている。つまり、本体部10の底面の剛性は、壁を備えた両端部に隣接する領域で高剛性であり、壁が設けられていない中心部と隣接した領域で低剛性となっている。そこで、本実施形態では、本体部10における高剛性の両端部でそれぞれ1つのビス25によってサブタンクを固定し、低剛性の中心部で4つのビス25によってサブタンク20を固定する。このように、底面の剛性に応じてビス25の配置を決定することで、本体部10の変形を抑える事ができる。
【符号の説明】
【0031】
1 液体吐出装置
5 液体吐出ヘッド
10 本体部
11 吐出ユニット
20 サブタンク
25 ビス
30 弾性部材