(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】電源装置
(51)【国際特許分類】
H02J 9/06 20060101AFI20240415BHJP
B60R 16/033 20060101ALI20240415BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20240415BHJP
B62D 6/00 20060101ALI20240415BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20240415BHJP
H02J 7/34 20060101ALI20240415BHJP
【FI】
H02J9/06 110
B60R16/033 B
B60R16/033 C
B62D5/04
B62D6/00
H02J7/00 302B
H02J7/34 B
H02J7/34 G
(21)【出願番号】P 2020144403
(22)【出願日】2020-08-28
【審査請求日】2023-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】梶澤 祐太
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 文彦
(72)【発明者】
【氏名】山下 正治
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 功史
(72)【発明者】
【氏名】奥田 正貴
(72)【発明者】
【氏名】幹田 利幸
(72)【発明者】
【氏名】半澤 弘明
【審査官】辻丸 詔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/203806(WO,A1)
【文献】特開2010-120624(JP,A)
【文献】特開2016-153278(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/00
H02J 7/34
H02J 9/06
B62D 6/00
B62D 5/04
B60R 16/033
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の制御対象を制御するための制御系の電気回路および前記制御系の電気回路よりも大きい電力が必要とされるパワー系の電気回路を有する給電対象に電力を供給する主電源に対する補助電源と、
前記主電源および前記補助電源のうち電圧がより高い方の電源の電力を前記給電対象における少なくとも前記制御系の電気回路へ供給する選択回路と、
前記パワー系の電気回路に対する電源を前記主電源と前記補助電源との間で切り替える切替回路を有し、
前記選択回路は、前記主電源の電力を前記給電対象における少なくとも前記制御系の電気回路へ供給するための第1の給電経路に設けられる第1のダイオードと、
前記第1の給電経路における前記第1のダイオードの下流側に接続されて前記補助電源の電力を前記給電対象における少なくとも前記制御系の電気回路へ供給するための第2の給電経路に設けられる第2のダイオードと、を有し、
前記切替回路は、前記主電源の電力を前記パワー系の電気回路へ供給するための第3の給電経路を開閉する第1のスイッチと、
前記第3の給電経路における前記第1のスイッチの下流側に接続されて前記補助電源の電力を前記パワー系の電気回路へ供給するための第4の給電経路を開閉する第2のスイッチと、
前記第3の給電経路における前記第1のスイッチの下流側であって前記第4の給電経路の接続点の上流側に接続されて前記主電源の電力を前記補助電源へ供給するための第5の給電経路を開閉する第3のスイッチと、
前記主電源の電圧が低下した際には、前記第1のスイッチおよび前記第3のスイッチをオフするとともに、前記第2のスイッチをオンする制御回路と、を有している電源装置。
【請求項2】
前記給電対象は、車載装置の制御装置である請求項
1に記載の電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の操舵機構に付与されるアシストトルクの発生源であるモータを制御する制御装置が知られている。たとえば特許文献1の制御装置は、2系統の巻線を有するモータに対する給電を制御する。制御装置は、2系統の巻線にそれぞれ対応する2組の駆動回路およびマイクロコンピュータを有している。各マイクロコンピュータは、各駆動回路の制御を通じて各系統の巻線に対する給電を独立して制御する。
【0003】
制御装置は、2系統のマイクロコンピュータにそれぞれ対応する2つの電源生成回路を有している。これら電源生成回路には、それぞれ互いに独立して設けられる電源から電力が供給される。電源生成回路は、電源から供給される電力を使用してマイクロコンピュータの動作に適した電力を生成する。各マイクロコンピュータは、自己に対応する電源生成回路により生成される電力を消費して動作する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
制御装置の動作に対するより高い信頼性を確保する観点から、電源が失陥した場合にはマイクロコンピュータへの給電を補助電源によってバックアップすることが考えられる。たとえば、電源が失陥した場合、電源とマイクロコンピュータとの間の給電経路を遮断する一方、補助電源とマイクロコンピュータとの間の給電経路を接続する。これにより、電源が失陥した場合であれ、マイクロコンピュータは補助電源から供給される電力を消費して動作を継続する。
【0006】
ただし、電源と補助電源との切り替えを給電経路に設けられるスイッチの開閉を通じて行う場合、瞬間的にではあれ、マイクロコンピュータへの給電が途絶えることが懸念される。そして、マイクロコンピュータへの給電が途絶えることによってマイクロコンピュータの電源電圧が動作保証範囲の下限値を下回った場合、マイクロコンピュータは動作を停止してリセットされる。リセットとは、マイクロコンピュータの内部状態を初期化するための処理をいう。
【0007】
補助電源からの給電を通じてマイクロコンピュータの電源電圧が再び動作保証範囲内の値に達した場合、マイクロコンピュータは起動してイニシャルチェックを実行する。イニシャルチェクとは、モータを駆動させるための部分、たとえばモータの巻線および駆動回路などの異常を検査する処理をいう。マイクロコンピュータは、イニシャルチェックの実行完了後、モータの制御を実行開始する。このように、マイクロコンピュータの電源電圧の瞬断に起因して、モータの適切な制御が阻害されるおそれがある。
【0008】
本発明の目的は、給電対象に対して電力をより安定して供給することができる電源装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成し得る電源装置は、特定の制御対象を制御するための制御系の電気回路および前記制御系の電気回路よりも大きい電力が必要とされるパワー系の電気回路を有する給電対象に電力を供給する主電源に対する補助電源と、前記主電源および前記補助電源のうち電圧がより高い方の電源の電力を前記給電対象における少なくとも前記制御系の電気回路へ供給する選択回路と、を有している。
【0010】
この構成によれば、主電源の電圧が補助電源の電圧を下回ったとき、補助電源の電力が給電対象における少なくとも制御系の電気回路へ供給される。主電源の失陥に起因して、たとえ主電源から給電対象への給電が途絶した場合であれ、給電対象における少なくとも制御系の電気回路に対する給電が途絶えることがない。このため、給電対象における少なくとも制御系の電気回路に対して電力をより安定して供給することができる。
【0011】
上記の電源装置において、前記選択回路は、前記主電源の電力を前記給電対象における少なくとも前記制御系の電気回路へ供給するための第1の給電経路に設けられる第1のダイオードと、前記第1の給電経路における前記第1のダイオードの下流側に接続されて前記補助電源の電力を前記給電対象における少なくとも前記制御系の電気回路へ供給するための第2の給電経路に設けられる第2のダイオードと、を有していてもよい。
【0012】
この構成によれば、いわゆるダイオードによるOR回路によって、電圧がより高い方の電源からの電力が給電対象における少なくとも前記制御系の電気回路へ供給される。主電源の電圧が補助電源の電圧を下回ったとき、補助電源の電力が給電対象における少なくとも前記制御系の電気回路へ供給される。
【0013】
上記の電源装置において、前記パワー系の電気回路に対する電源を前記主電源と前記補助電源との間で切り替える切替回路を有していてもよい。前記切替回路は、前記主電源の電力を前記パワー系の電気回路へ供給するための第3の給電経路を開閉する第1のスイッチと、前記補助電源の電力を前記パワー系の電気回路へ供給するための第4の給電経路を開閉する第2のスイッチと、前記主電源の電圧が低下した際には前記第1のスイッチをオフするとともに前記第2のスイッチをオンする制御回路と、を有していてもよい。
【0014】
この構成によれば、主電源の電圧が低下した際には、第1のスイッチがオフされることによって第3の給電経路が開路されるとともに、第2のスイッチがオンされることによって第4の給電経路が閉路される。これにより、パワー系の電気回路に対する電源が主電源から補助電源に切り替えられる。主電源の失陥に起因して、たとえ主電源からパワー系の電気回路への給電が途絶した場合であれ、パワー系の電源回路に対する給電が途絶えることがない。
【0015】
また、電源装置として、ダイオードによるOR回路によって主電源および補助電源のうち電圧がより高い方の電源からの電力を給電対象におけるパワー系の電気回路へ供給する構成を採用することも考えられるところ、ダイオードでは電力損失が発生する。このため、上記の電源装置によるように、補助電源の消耗を抑える観点から、より大きな電力が必要とされるパワー系の電気回路に対しては、より電力損失が少ないスイッチが設けられた給電経路を介して電力を供給することが好ましい。
【0016】
上記の電源装置において、前記給電対象は、車載装置の制御装置であってもよい。
車載装置の制御装置には、より高い動作信頼性が要求される。上記の電源装置は、車載装置の制御装置に好適である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の電源装置によれば、給電対象に対して電力をより安定して供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】電源装置の一実施の形態を適用したステアリング装置の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、電源装置をステアリング装置に適用した一実施の形態について説明する。
図1に示すように、ステアリング装置1は、操舵機構2、アシスト機構3、操舵制御装置4、および電源装置5を備えている。
【0020】
操舵機構2は、ステアリング軸11および転舵軸12を有している。ステアリング軸11の第1の端部にはステアリングホイール13が固定される。ステアリング軸11のステアリングホイール13と反対側の端部である第2の端部にはピニオンギア14が設けられている。ピニオンギア14は、転舵軸12に設けられたラックギア15に噛み合っている。ステアリング軸11の回転運動は、ピニオンギア14とラックギア15との噛み合いを介して転舵軸12の軸方向の往復直線運動に変換される。この転舵軸12の往復直線運動が転舵軸12の両端にそれぞれ連結されたタイロッド16,16を介して左右の転舵輪17,17に伝達されることにより、転舵輪17,17の転舵角が変更される。
【0021】
アシスト機構3は、モータ21および減速機22を備えている。モータ21としては三相のブラシレスモータが、減速機22としてはウォームギア機構が採用される。モータ21は減速機22を介してステアリング軸11に連結されている。減速機22は、モータ21の回転を減速し、当該減速した回転力をステアリング軸11に伝達する。すなわち、モータ21のトルクが操舵補助力として減速機22を介してステアリング軸11に伝達されることにより、運転者のステアリング操作が補助される。
【0022】
操舵制御装置4は、電源装置5を介して車載の主電源6に接続されている。主電源6としては、たとえばバッテリが採用される。操舵制御装置4は、電源装置5を介して供給される主電源6の電力を消費して動作する。操舵制御装置4は、車両に設けられる各種のセンサの検出結果に応じてモータ21に対する給電を制御する。センサとしては、たとえばトルクセンサ31および車速センサ32が挙げられる。トルクセンサ31は、ステアリング軸11に設けられて操舵トルクTを検出する。車速センサ32は、車速Vを検出する。操舵制御装置4は、操舵トルクTおよび車速Vに基づき目標アシスト力を演算し、当該目標アシスト力をアシスト機構3に発生させるための電力をモータ21に供給する。
【0023】
つぎに、電源装置5について詳細に説明する。
図2に示すように、電源装置5は主電源6と操舵制御装置4との間を接続する2つの電源線L1,L2に設けられている。電源線L2は、電源線L1における主電源6と電源装置5との間に設定される接続点P0から分岐している。電源線L2には、イグニッションスイッチなどの車両の電源スイッチ40が設けられている。電源スイッチ40は、エンジンなどの車両の走行用駆動源を作動させる際に操作される。電源スイッチ40の操作を通じて電源線L2の導通がオンオフされる。
【0024】
主電源6の電力は、電源線L1を介して操舵制御装置4のパワー系の電気回路51に供給される。パワー系の電気回路51は、より大きい電力を取り扱う回路であって、たとえば主電源6の直流電力を交流電力に変換するインバータなどが含まれる。また、主電源6の電力は、電源線L2を介して操舵制御装置4の制御系の電気回路52へ供給される。制御系の電気回路52はモータ21を制御するための回路であって、たとえばマイクロコンピュータが含まれる。
【0025】
電源装置5は、補助電源41、充電放電制御回路42、スイッチ43,44,45、ダイオード46,47、およびマイクロコンピュータ(μC)48を有している。
補助電源41としては、電荷を充放電可能とされた蓄電装置、たとえばリチウムイオンキャパシタが採用される。次式(A)で表されるように、補助電源41の電圧V2は、操舵制御装置4を適切に動作させるために必要とされる電圧V0の下限値よりも高く、かつ主電源6の電圧V1よりも低い値に設定される。
【0026】
V1>V2>V0 …(A)
電源装置5の内部において、補助電源41は、分岐線L3を介して電源線L1の接続点P1に接続されている。また、電源装置5の内部において、補助電源41は、分岐線L4を介して電源線L1の接続点P2に接続されている。ただし、接続点P2は、接続点P1よりも操舵制御装置4側に位置している。
【0027】
充電放電制御回路42は、補助電源41の充電および放電を制御する。
スイッチ43は、電源装置5の内部において、電源線L1に設けられている。スイッチ43は、接続点P1よりも主電源6側に位置している。
【0028】
スイッチ44は、電源装置5の内部において、分岐線L3に設けられている。スイッチ44は、分岐線L3を開閉する。
スイッチ45は、電源装置5の内部において、分岐線L4に設けられている。スイッチ45は、分岐線L4を開閉する。
【0029】
分岐線L4には、接続点P3が設定されている。電源装置5の内部において、分岐線L4の接続点P3と電源線L2の接続点P4との間は分岐線L5により接続されている。
ダイオード46は、分岐線L5に設けられている。ダイオード46のカソードは電源線L2の接続点P4に接続されている。ダイオード46のアノードは分岐線L5の接続点P3に接続されている。
【0030】
ダイオード47は、電源線L2に設けられている。ダイオード47のカソードは電源線L2の接続点P4に接続されている。ダイオード47のアノードは電源スイッチ40に接続されている。
【0031】
ダイオード46,47は、アノードからカソードへ向けた電力の流れを許容する一方、カソードからアノードへ向けた電力の流れを規制する。ダイオード46,47は、主電源6および補助電源41のうち、より電圧の高い電源からの電力を制御系の電気回路52へ供給するOR回路(すなわち、ワイヤードOR)を構成する。
【0032】
マイクロコンピュータ48は、スイッチ43,44,45の開閉を制御する。マイクロコンピュータ48は、主電源6の電圧を監視する。マイクロコンピュータ48は、次式(B)で表されるように、主電源6の電圧Vbがしきい値電圧Vthよりも小さいとき、主電源6の電圧Vbが低下した旨判定する。しきい値電圧Vthは、主電源6の電圧低下を判定する際の基準でであって、モータ21あるいは操舵制御装置4を適切に動作させるために必要とされる電圧V0の下限値を基準として設定される。本実施の形態において、しきい値電圧Vthは電圧V0と同じ値に設定される。
【0033】
V1<Vth …(B)
マイクロコンピュータ48は、主電源6の電圧の低下が検出されないとき、スイッチ43,44をオンした状態に維持するとともに、スイッチ45をオフした状態に維持する。また、マイクロコンピュータ48は、主電源6の電圧の低下が検出されるとき、スイッチ43,44をオンした状態からオフした状態へ切り替える。この後、マイクロコンピュータ48は、スイッチ45をオフした状態からオンした状態へ切り替える。
【0034】
なお、電気回路51,52を含む操舵制御装置4は、給電対象に相当する。モータ21は特定の制御対象に相当する。スイッチ43は、切替回路を構成する第1のスイッチに相当する。スイッチ45は、切替回路を構成する第2のスイッチに相当する。マイクロコンピュータ48は、第1のスイッチおよび第2のスイッチの開閉を制御する制御回路に相当する。また、ダイオード47は、選択回路を構成する第1のダイオードに相当する。ダイオード46は、選択回路を構成する第2のダイオードに相当する。
【0035】
また、電源線L2は、主電源の電力を給電対象(制御系の電気回路)へ供給するための第1の給電経路を構成する。分岐線L5は、補助電源の電力を給電対象(制御系の電気回路)へ供給するための第2の給電経路を構成する。電源線L1は、主電源の電力をパワー系の電気回路へ供給するための第3の給電経路を構成する。分岐線L4は、補助電源の電力をパワー系の電気回路へ供給するための第4の給電経路を構成する。
【0036】
つぎに、電源装置5の作用を説明する。
主電源6の電圧V1が低下していない場合、スイッチ43,44はオンした状態に維持されるとともに、スイッチ45はオフした状態に維持される。このため、主電源6からの電力は、電源線L1を介して操舵制御装置4におけるパワー系の電気回路51へ供給される。また、主電源6からの電力は、分岐線L3を介して補助電源41に充電される。なお、電源スイッチ40がオフされている場合であれ、補助電源41の電力は、分岐線L5および電源線L2の一部分を介して操舵制御装置4における制御系の電気回路52へ供給される。
【0037】
主電源6の電圧V1が低下していない場合、電源スイッチ40がオンされたとき、主電源6の電力は電源線L2を介して操舵制御装置4における制御系の電気回路52へ供給される。ちなみに、主電源6の電圧V1は、補助電源41の電圧よりも高く設定されているため、補助電源41の電力が分岐線L5を介して操舵制御装置4へ供給されることはない。また、ダイオード46によって、電源線L2を経た主電源6の電力が分岐線L5を介して補助電源41へ流れ込むことが規制される。
【0038】
主電源6が失陥して主電源6の電圧V1が補助電源41の電圧V2を下回った場合、即時に補助電源41からの電力が分岐線L5および電源線L2の一部分を介して操舵制御装置4における制御系の電気回路52へ供給される。これは、補助電源41の電圧V2が電源線L2に生じる電圧よりも高くなるからである。主電源6の失陥に起因して、たとえ主電源6から操舵制御装置4への給電が途絶した場合であれ、制御系の電気回路52に対する給電が補助電源41によってバックアップされる。
【0039】
主電源6の電圧V1がさらに低下して、主電源6の電圧V1がしきい値電圧Vthを下回った場合、スイッチ43,44がオンした状態からオフした状態へ切り替えられる。この後、スイッチ45がオフした状態からオンした状態へ切り替えられる。これにより、補助電源41の電力が分岐線L4および電源線L1の一部分を介して操舵制御装置4におけるパワー系の電気回路51へ供給される。これは、主電源6の失陥に起因して、補助電源41の電圧V2が電源線L1に生じる電圧よりも高くなるからである。したがって、主電源6の失陥に起因して、たとえ主電源6から操舵制御装置4への給電が途絶した場合であれ、操舵制御装置4におけるパワー系の電気回路51に対する給電が補助電源41によってバックアップされる。
【0040】
ちなみに、分岐線L4にはスイッチ45に代えてダイオードを設けることが考えられる。このようにすれば、主電源6が失陥した場合、補助電源41の電力が即時にパワー系の電気回路51へ供給される。しかし、ダイオードでは電力損失が発生する。このため、補助電源41の消耗を抑える観点から、より大きい電力が要求されるパワー系の電気回路51に対して給電するための分岐線L4にはダイオードではなくスイッチ45が設けられている。
【0041】
また、分岐線L5にはダイオード46に代えてスイッチを設けることも考えられる。しかし、この場合、つぎのようなことが懸念される。すなわち、主電源6が失陥して主電源6からの電力の供給が途絶えてから分岐線L5のスイッチがオフからオンへ切り替わるまでには、わずかながらにも時間を要する。このため、分岐線L5のスイッチがオフからオンへ切り替わるまでの期間、制御系の電気回路52への給電が瞬間的に途絶えることによって電気回路52のマイクロコンピュータがリセットされるおそれがある。この点、分岐線L5にダイオード46を設けるようにすれば、主電源6が失陥した場合、補助電源41の電力が分岐線L5および電源線L2の一部分を介して制御系の電気回路52へ即時に供給される。制御系の電気回路52への給電が途絶えることがないため、電気回路52のマイクロコンピュータがその電源電圧の低下に起因してリセットされることもない。
【0042】
したがって、本実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)主電源6の電圧V1が補助電源41の電圧V2を下回った場合、即時に補助電源41の電力が分岐線L5および電源線L2の一部分を介して操舵制御装置4における制御系の電気回路52へ供給される。主電源6の失陥に起因して、たとえ主電源6から操舵制御装置4への給電が途絶した場合であれ、制御系の電気回路52への給電が途絶えることはない。このため、電気回路52のマイクロコンピュータがリセットされることがない。また、主電源6の電圧V1がしきい値電圧Vthを下回った場合、補助電源41の電力が分岐線L4および電源線L1の一部分を介して操舵制御装置4におけるパワー系の電気回路51へ供給される。主電源6の失陥に起因して、たとえ主電源6から操舵制御装置4への給電が途絶した場合であれ、パワー系の電気回路51への給電が途絶えることはない。このため、モータ21を継続して動作させることが可能である。このように、電源装置5によれば、操舵制御装置4に対して電力をより安定して供給することができる。
【0043】
(2)電源装置5の内部において、主電源6と補助電源41とは、ダイオードによるOR回路を介して操舵制御装置4における制御系の電気回路52に接続されている。すなわち、主電源6と補助電源41とのうち、より電圧の高い電源からの電力が制御系の電気回路52へ供給される。このため、主電源6の電圧が低下した場合、制御系の電気回路52に対する電源がハードウェア的に主電源6から補助電源41へ即時に切り替わる。したがって、主電源6が失陥した場合であれ、制御系の電気回路52への給電が途絶えることがない。電源装置5としての構成もより簡素化することができる。
【0044】
(3)補助電源41は、スイッチ45を介して操舵制御装置4におけるパワー系の電気回路51に接続されている。補助電源41を、ダイオードを介してパワー系の電気回路51に接続されることも考えられるところ、ダイオードではより多くの電力損失が発生する。このため、より大きな電力が必要とされるパワー系の電気回路51に対しては、より電力損失が少ないスイッチ45が設けられた分岐線L4を介して電力を供給することが好ましい。したがって、主電源6が失陥した場合、補助電源41の消耗を抑えつつ、パワー系の電気回路51に対する給電を継続して行うことができる。
【0045】
(4)操舵制御装置4には、より高い動作信頼性が要求される。このため、本実施の形態の電源装置5は操舵制御装置4の電源装置として好適である。
<他の実施の形態>
なお、本実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
【0046】
・
図2に二点鎖線で示されるように、操舵制御装置4の内部において、電源線L1と電源線L2とをダイオードによるOR回路を介して制御系の電気回路52に接続するようにしてもよい。すなわち、操舵制御装置4の内部において、電源線L1の接続点P5と電源線L2の接続点P6との間は電源線L6により接続されている。電源線L6にはダイオード53が設けられている。ダイオード53のアノードは電源線L1の接続点P5に、カソードは電源線L2の接続点P6に接続されている。また、操舵制御装置4の内部において、電源線L2にはダイオード54が設けられている。ダイオード54のアノードは電源装置5側に、カソードは電源線L2の接続点P6に接続されている。
【0047】
このようにしても、主電源6および補助電源41のいずれか一方の電力が制御系の電気回路52へ供給される。主電源6の電圧が低下していない場合、主電源6の電力が電源線L6のダイオード53を介して制御系の電気回路52へ供給される。これは、電源線L6のダイオード53に印加される電圧は、電源線L2のダイオード54に印加される電圧よりもダイオード47の電圧降下の分だけ高くなるからである。主電源6の電圧が低下していない場合、より大きい電圧を制御系の電気回路52へ供給することにより、制御系の電気回路52をより安定して動作させることが可能である。これに対し、主電源6が失陥して主電源6の電圧が低下した場合、補助電源41の電力が電源線L2のダイオード54を介して制御系の電気回路52へ供給される。制御系の電気回路52への給電が途絶えることがない。
【0048】
・補助電源41として、リチウムイオンキャパシタに代えてバッテリを採用してもよい。
・補助電源41の電圧V2は、たとえば主電源6と同程度の値に設定してもよい。
【0049】
・電力損失が問題とされない程度であれば、分岐線L4にはスイッチ45に代えてダイオードを設けてもよい。ただし、電源線L1における接続点P2とスイッチ43との間にもダイオードを設ける。このようにすれば、ダイオードによるOR回路が形成される。このため、主電源6の電圧V1が補助電源41の電圧V2を下回ったとき、即時に補助電源41の電力が分岐線L4および電源線L1の一部分を介してパワー系の電気回路51へ供給される。
【0050】
・電源装置5が適用されるステアリング装置1は、モータ21のトルクを転舵軸12に付与するタイプの電動パワーステアリング装置であってもよい。また、電源装置5が適用されるステアリング装置1は、ステアバイワイヤ式のステアリング装置であってもよい。
【0051】
・電源装置5の給電対象は、操舵制御装置4に限られない。電源装置5の給電対象は、エアバッグ装置の制御装置、あるいはブレーキ装置の制御装置であってもよい。また、電源装置5の給電対象は、無人搬送車あるいは電気自動車における駆動用モータの制御装置であってもよい。
【符号の説明】
【0052】
1…電動パワーステアリング装置(車載装置)
4…操舵制御装置(給電対象)
5…電源装置
6…主電源
21…モータ(制御対象)
41…補助電源
43…切替回路を構成するスイッチ(第1のスイッチ)
45…切替回路を構成するスイッチ(第2のスイッチ)
46…選択回路を構成するダイオード(第2のダイオード)
47…選択回路を構成するダイオード(第1のダイオード)
48…マイクロコンピュータ(制御回路)
51…パワー系の電気回路(給電対象)
52…制御系の電気回路(給電対象)
L1…電源線(第3の給電経路)
L2…電源線(第1の給電経路)
L4…分岐線(第4の給電経路)
L5…分岐線(第2の給電経路)