(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】二次電池の下限電圧設定方法
(51)【国際特許分類】
H02J 7/00 20060101AFI20240415BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20240415BHJP
H01M 10/44 20060101ALI20240415BHJP
B60L 58/14 20190101ALI20240415BHJP
【FI】
H02J7/00 B
H01M10/48 301
H01M10/44 P
H02J7/00 P
B60L58/14
(21)【出願番号】P 2020164900
(22)【出願日】2020-09-30
【審査請求日】2023-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】室田 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】木庭 大輔
(72)【発明者】
【氏名】入江 崇之
(72)【発明者】
【氏名】加藤 学
(72)【発明者】
【氏名】和田 陽介
【審査官】高野 誠治
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-176268(JP,A)
【文献】特開2016-170885(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0358661(US,A1)
【文献】特開2017-050923(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/00
H01M 10/48
H01M 10/44
B60L 58/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池を利用できる出力電圧の下限値である下限電圧設定値を設定する二次電池の下限電圧設定方法であって、
車両から得た情報に基づき前記二次電池から電力が出力される時間の長さを推定して出力時間推定値を算出し、
前記二次電池の温度を示す電池温度を取得し、
前記電池温度の上昇に合わせて前記下限電圧設定値を低下させる第1の変化傾向と、前記電池温度の上昇に合わせて前記下限電圧設定値を上昇させる第2の変化傾向と、の2つの変化傾向を前記出力時間推定値及び前記電池温度に基づき切り替えながら前記下限電圧設定値を変化させる下限電圧設定方法。
【請求項2】
前記出力時間推定値が出力時間閾値以上となった長時間出力時には、前記電池温度が予め設定した温度閾値未満の間は前記下限電圧設定値を前記電池温度の上昇に合わせて小さくし、前記電池温度が前記温度閾値以上の間は前記下限電圧設定値を前記電池温度の上昇に合わせて大きくし、
前記出力時間推定値が出力時間閾値未満となった短時間出力時には、前記下限電圧設定値を前記電池温度の上昇に合わせて小さくする請求項1に記載の下限電圧設定方法。
【請求項3】
前記二次電池の負極活性度を算出し、
前記長時間出力時には前記負極活性度が高くなるほど前記下限電圧設定値を高くし、
前記短時間出力時には前記負極活性度が高くなるほど前記下限電圧設定値を低くする請求項2に記載の下限電圧設定方法。
【請求項4】
前記負極活性度は、前記二次電池が搭載される前記車両の始動時又は予め設定した所定の周期で算出される請求項3に記載の下限電圧設定方法。
【請求項5】
前記出力時間推定値は、前記二次電池が搭載される前記車両の車速及びアクセル開度に基づき算出され、前記アクセル開度の変化量がアクセル開度閾値以上になる度に算出される請求項1乃至4のいずれか1項に記載の下限電圧設定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、車両の駆動用二次電池として利用される二次電池の下限電圧設定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の燃費向上を達成するために、車両に搭載される駆動用二次電池には電池の抵抗低減が求められている。電池の抵抗を低減することで二次電池の出力が向上するためである。この二次電池の抵抗を低減する方法の1つとしては、二次電池を構成する部材の変更があるが、部材の変更には大きな開発コストと長い時間を要する。
【0003】
また、二次電池は、二次電池からの電力の出力を許容する出力電圧の下限値である下限電圧を二次電池の出力電圧が下回らないように制御を行う。二次電池の出力電圧が下限電圧を下回ると二次電池の特性の劣化が進むためである。そのため、二次電池では、実際の下限電圧に対して余裕をもった下限電圧設定値を設定し、出力電圧がこの下限電圧設定値を常に上回るように、出力制御を行う。
【0004】
このようなことから、二次電池の急速な劣化を防止しながら出力を最大限引き出す方法として、二次電池からの電力の出力を許容する電池出力の下限値である下限電圧設定値を制御する方法がある。このような下限電圧設定値の制御方法が特許文献1、2に開示されている。
【0005】
特許文献1に記載の車両用電池制御装置は、主活物質と添加物としての金属化合物を含む正極を有する車両用の電池モジュールの放電を制御する。車両用電池制御装置は、電池モジュール10のSOCを取得するSOC算出部と、電池モジュールの温度を取得する温度取得部と、電池モジュールの下限電圧を設定する下限電圧設定部53とを備える。そして、下限電圧設定部は、下限電圧を、SOCが高いときほど高い値とし、SOCが低いときほど低い値として設定するとともに、下限電圧のSOC当たりの変化が取得される電池温度が高いときほど高い値とし、取得される電池温度が低いときほど低い値となるように設定する。
【0006】
特許文献2に記載の電池制御装置は、主活物質と添加物としての金属化合物とを含む正極を有する二次電池の放電を制御する電池制御装置であって、二次電池の満充電容量に対する残容量の割合を示す充電状態を取得するSOC算出部と、二次電池の温度を取得する温度取得部と、二次電池の下限電圧を設定する下限電圧設定部とを備える。そして、下限電圧設定部は、下限電圧を、二次電池の直近SOCが低いほど高い値として設定するとともに、二次電池の直近SOCが同一である条件下において取得される温度が高いほど高い値として設定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-096105号公報
【文献】特開2016-170885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1、2に記載の技術では必ずしも二次電池の使用態様の一部の領域では、下限電圧が適切に制御できないことが発明者らの検討で判明した。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、二次電池の下限電圧が適切に制御することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の二次電池の下限電圧設定方法の一態様は、二次電池を利用できる出力電圧の下限値である下限電圧設定値を設定する二次電池の下限電圧設定方法であって、車両から得た情報に基づき前記二次電池から電力が出力される時間の長さを推定して出力時間推定値を算出し、前記二次電池の温度を示す電池温度を取得し、前記電池温度の上昇に合わせて前記下限電圧設定値を低下させる第1の変化傾向と、前記電池温度の上昇に合わせて前記下限電圧設定値を上昇させる第2の変化傾向と、の2つの変化傾向を前記出力時間推定値及び前記電池温度に基づき切り替えながら前記下限電圧設定値を変化させる。
【0011】
本発明の二次電池の下限電圧設定方法の別の態様は、二次電池を利用できる出力電圧の下限値である下限電圧設定値を設定する二次電池の下限電圧設定方法であって、前記二次電池の負極活性度を算出し、前記負極活性度が高くなるほど前記下限電圧設定値を低くする。
【0012】
本発明の二次電池の下限電圧設定方法の別の態様は、二次電池を利用できる出力電圧の下限値である下限電圧設定値を設定する二次電池の下限電圧設定方法であって、前記二次電池の温度を示す電池温度を取得し、前記電池温度が高くなるほど前記下限電圧設定値を低くする。
【0013】
本発明の二次電池の下限電圧設定方法は、二次電池の使用態様の一部の領域において制御に用いる制御パラメータ値の上昇に伴い下限電圧設定値を低くする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の電池の下限電圧設定方法によれば、二次電池の下限電圧を適切に制御出来る範囲を拡大することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施の形態1にかかる電池システムのブロック図である。
【
図2】実施の形態1にかかる二次電池の下限電圧の特性を説明するグラフである。
【
図3】実施の形態1にかかる下限電圧設定装置の動作を説明するフローチャートである。
【
図4】実施の形態2にかかる電池システムのブロック図である。
【
図5】実施の形態2にかかる二次電池の下限電圧の特性を説明するグラフである。
【
図6】実施の形態2にかかる下限電圧設定装置の動作を説明するフローチャートである。
【
図7】実施の形態2にかかる下限電圧設定装置で用いられる負極活性度を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
説明の明確化のため、以下の記載及び図面は、適宜、省略、及び簡略化がなされている。また、様々な処理を行う機能ブロックとして図面に記載される各要素は、ハードウェア的には、CPU(Central Processing Unit)、メモリ、その他の回路で構成することができ、ソフトウェア的には、メモリにロードされたプログラムなどによって実現される。したがって、これらの機能ブロックがハードウェアのみ、ソフトウェアのみ、またはそれらの組合せによっていろいろな形で実現できることは当業者には理解されるところであり、いずれかに限定されるものではない。なお、各図面において、同一の要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複説明は省略されている。
【0017】
また、上述したプログラムは、様々なタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体を用いて格納され、コンピュータに供給することができる。非一時的なコンピュータ可読媒体は、様々なタイプの実体のある記録媒体を含む。非一時的なコンピュータ可読媒体の例は、磁気記録媒体(例えばフレキシブルディスク、磁気テープ、ハードディスクドライブ)、光磁気記録媒体(例えば光磁気ディスク)、CD-ROM(Read Only Memory)、CD-R、CD-R/W、半導体メモリ(例えば、マスクROM、PROM(Programmable ROM)、EPROM(Erasable PROM)、フラッシュROM、RAM(Random Access Memory))を含む。また、プログラムは、様々なタイプの一時的なコンピュータ可読媒体によってコンピュータに供給されてもよい。一時的なコンピュータ可読媒体の例は、電気信号、光信号、及び電磁波を含む。一時的なコンピュータ可読媒体は、電線及び光ファイバ等の有線通信路、又は無線通信路を介して、プログラムをコンピュータに供給できる。
【0018】
以下の説明では、二次電池の下限電圧の値を二次電池の状態に応じて上下させる下限電圧設定方法について説明する。この下限電圧設定方法は、下限電圧設定方法に含まれる処理を実行する下限電圧設定プログラムを実行可能な演算部を備える演算装置において行われる演算処理或いは自動処理、下限電圧設定方法に含まれる処理を実行する専用ハードウェアを備える下限電圧設定装置、により実現される。
【0019】
なお、以下で説明する下限電圧設定方法は、二次電池以外が搭載される車両とは離れた遠隔地にある演算装置において、自動処理、或いは、演算処理を用いて実現することもできる。以下の説明では、二次電池を利用する車両に搭載される演算部を下限電圧設定装置とする。そして、この下限電圧設定装置を、下限電圧設定方法を実現する下限電圧設定方法を実現する下限電圧設定プログラムを演算部において実行するものとする。以下の説明では、下限電圧設定プログラムの処理のかたまりを処理部ブロックとするブロック図を用いて下限電圧設定装置を説明する。また、以下の説明では、下限電圧設定装置と二次電池とを備えるシステムを電池システムと称す。
【0020】
実施の形態1
図1に実施の形態1にかかる電池システム1のブロック図を示す。
図1に示すように、実施の形態1にかかる電池システム1は、二次電池11により車両に電力を供給する。そして、下限電圧設定装置10が二次電池11に電力の出力を許容する出力電圧の下限値である下限電圧設定値を二次電池11の仕様状態に応じて更新しながら保持する。そして、二次電池11の電力を利用する上位システム(不図示)は、下限電圧設定装置10が保持する下限電圧設定値を参照し、二次電池11の出力電圧が下限電圧設定値を下回らないように二次電池11から電力を取り出す。
【0021】
下限電圧設定装置10は、車両から得た情報に基づき二次電池11から電力が出力される時間の長さを推定して出力時間推定値を算出し、二次電池の温度を示す電池温度を取得する。そして、下限電圧設定装置10は、電池温度の上昇に合わせて下限電圧設定値を低下させる第1の変化傾向と、電池温度の上昇に合わせて下限電圧設定値を上昇させる第2の変化傾向と、の2つの変化傾向を出力時間推定値及び電池温度に基づき切り替えながら下限電圧設定値を変化させる。上記処理を実現するために、下限電圧設定装置10は、電池温度検出部21、出力時間推定部22、下限電圧設定値更新部23、下限電圧設定値保持部24を有する。
【0022】
電池温度検出部21は、二次電池11の温度を検出して二次電池11の温度を示す電池温度を取得する。出力時間推定部22は、図示しない車両側のシステムより得た情報に基づき、車両側で二次電池11から電力が出力される時間の長さである出力時間推定値を算出する。出力時間推定部22は、例えば、現在の車両速度、アクセル開度等を参照して出力時間推定値を算出する。下限電圧設定値保持部24は、下限電圧設定値を保持する。そして、下限電圧設定値更新部23は、出力時間推定値と電池温度とに基づき下限電圧設定値保持部24に保持されている下限電圧設定値の値を更新する。実施の形態1では、下限電圧設定値更新部23の動作に特徴の1つがあるため、以下で下限電圧設定値更新部23の動作の詳細について説明する。
【0023】
下限電圧設定値更新部23は、出力時間推定値及び電池温度を用いて下限電圧設定値を更新する。このとき、下限電圧設定値更新部23は、電池温度の上昇に合わせて下限電圧設定値を低下させる第1の変化傾向と、電池温度の上昇に合わせて下限電圧設定値を上昇させる第2の変化傾向と、の2つの変化傾向を出力時間推定値及び電池温度に基づき切り替えながら下限電圧設定値を変化させる。
【0024】
より具体的には、下限電圧設定値更新部23は、出力時間推定値が出力時間閾値以上となった長時間出力時には、電池温度が予め設定した温度閾値未満の間は下限電圧設定値を電池温度の上昇に合わせて小さくする。下限電圧設定値更新部23は、長時間出力時であって電池温度が温度閾値以上の間は下限電圧設定値を電池温度の上昇に合わせて大きくする。また、下限電圧設定値更新部23は、出力時間推定値が出力時間閾値未満となった短時間出力時には、下限電圧設定値を電池温度の上昇に合わせて小さくする。
【0025】
下限電圧設定値更新部23では、上記の下限電圧設定値の更新処理を行うが、第1の変化傾向は二次電池11の負極の特性に基づき生じる傾向であり、第2の変化傾向は二次電池11の正極の特性に基づき生じる傾向である。そして、下限電圧は、二次電池11の正極の特性と負極の特性、つまり、第1の変化傾向と第2の変化傾向との合成により決まる。
【0026】
そこで、
図2に実施の形態1にかかる二次電池の下限電圧の特性を説明するグラフを示す。
図2に示すグラフでは、横軸に電池温度、縦軸に電池電圧を示した。また、
図2にグラフは、出荷後に所定回数の充放電が繰り返された二次電池11を計測した実測値から得られる特性曲線と、理論上の計算値から算出される予測ラインとを示した。
【0027】
図2に示すように、予測ラインのうち負極の特性から論理的に求められる負極限界曲線は電池温度が増加すると下限電圧となる出力電圧が単調減少する特徴を有する。つまり、負極限界曲線は、第1の変化傾向を示す。また、予測ラインのうち正極の特性から論理的に求められる正極限界曲線は電池温度が増加すると下限電圧となる出力電圧が単調増加する特徴を有する。つまり、正極限界曲線は、第2の変化傾向を示す。
【0028】
また、
図2の実測値から得られる下限電圧曲線を参照すると、電池システム1の下限電圧は、短時間出力時(例えば、2秒間出力が継続した場合)と長時間出力時(例えば、10秒間出力が継続した場合)とで異なる。この出力時間推定部22が算出した出力時間推定値に対して長時間出力時と判断するか、短時間出力時と判断するかを決定する時間閾値は二次電池11の仕様に応じて予め決定するものとする。
【0029】
具体的には、短時間出力時は、概ね、下限電圧の温度特性は、負極限界曲線側の特性に依存した変化傾向となる。一方、長時間出力時の下限電圧の温度特性は、一定の温度未満では概ね負極限界曲線側の特性に依存した変化傾向となり、一定の温度以上となると概ね正極限界曲線側の特性に依存した変化傾向となる。以下の説明では、長時間出力時の下限電圧の変化傾向が変化する温度を温度閾値T1と称す。なお、温度閾値T1は、例えば、
図2に示したような特性グラフを用いて二次電池11の仕様に合わせて予め決定するものとする。
【0030】
ここで、負極限界と正極限界について説明する。まず、短時間出力では、二次電池を構成する部材(正極、負極、セパレータ、電解液等)で電気化学速度的に負極が優先的に使用される。これは短時間出力時に負極の抵抗が正極の抵抗に比べて低いためである。そのため、短時間出力時には概ね負極限界に依存して下限電圧が変化する。また、電池温度が低くなるほど負極の抵抗が指数的に高まるため、電池温度が低下すると負極限界が下限電圧に影響する度合いが高まる。
【0031】
一方、長時間出力では、二次電池を構成する部材で電気化学的に正極が優先的に使用される領域となる。これは長時間出力時に正極の抵抗が負極の抵抗に比べて低いためである。そのため長時間出力時には、概ね正極限界に依存して下限電圧が変化する。また、長時間出力時においても、電池温度が低くなるほど負極の抵抗が指数的に高まるため、電池温度が低下すると負極限界が下限電圧に影響する度合いが高まる。
【0032】
二次電池11の二次電池は、上記のような特徴を有するため、下限電圧設定値更新部23では、上記の二次電池11の特徴を利用した下限電圧設定値の更新を行う。
【0033】
続いて、
図3に実施の形態1にかかる下限電圧設定装置10の動作を説明するフローチャートを示す。
図3に示すフローチャートは、下限電圧設定装置10が車両においてアクセル開度が大きくなるアクセルオンが検出される度に下限電圧設定値を更新する例を示した。しかし、下限電圧設定装置10が下限電圧設定値を更新するタイミングは、例えば、エンジン始動時やアクセル開度に依存しない所定の周期であって、下限電圧設定値の算出時に二次電池11の電池温度により長時間出力用と短時間出力用の2つの下限電圧設定値を計算しても良い。この場合、アクセル開度が長時間出力状態となったことをトリガとして短時間出力用の下限電圧から長時間出力用の下限電圧設定値に切り替える。
【0034】
ここでは、
図3を参照して下限電圧設定装置10の動作を説明する。
図3に示す例では、下限電圧設定装置10は、出力時間推定部22がアクセルオン状態を検出すると、出力時間推定部22により出力時間推定値を算出する(ステップS1、S2)。その後、下限電圧設定値更新部23が下限電圧設定値を更新する(ステップS3)。
【0035】
このステップS3では、下限電圧設定値更新部23が、電池温度検出部21がその時点で検出している二次電池11の電池温度と、出力時間推定部22が算出した出力時間推定値とを取得する。そして、下限電圧設定値更新部23は、出力時間推定値が出力時間閾値以上となった長時間出力時には、電池温度が予め設定した温度閾値(例えば、温度閾値T1)未満の間は下限電圧設定値を電池温度の上昇に合わせて小さくする。下限電圧設定値更新部23は、長時間出力時であって電池温度が温度閾値T1以上の間は下限電圧設定値を電池温度の上昇に合わせて大きくする。また、下限電圧設定値更新部23は、出力時間推定値が出力時間閾値未満となった短時間出力時には、下限電圧設定値を電池温度の上昇に合わせて小さくする。
【0036】
ここで、下限電圧設定値更新部23における下限電圧設定値の更新は、少なくとも3つの方法が考えられるが、
図2で示した下限電圧の温度変化に追従した下限電圧設定値の更新を行えれば更新方法を適宜利用することができる。第1の更新方法は、計算式を用いて算出した下限電圧設定値により下限電圧設定値保持部24に保持されている下限電圧設定値を更新するものである。第2の方法は、
図2に示したグラフより電池温度と出力時間推定値とにより決まる下限電圧設定値をテーブルにして当該テーブルを用いて下限電圧設定値を更新するものである。第3の方法は、現状の下限電圧設定値を電池温度と出力時間推定値とに基づき上下させる方法である。
【0037】
上記説明より、実施の形態1にかかる下限電圧設定装置10は、電池温度の上昇に合わせて下限電圧設定値を低下させる第1の変化傾向と、電池温度の上昇に合わせて下限電圧設定値を上昇させる第2の変化傾向と、の2つの変化傾向を出力時間推定値及び電池温度に基づき切り替えながら下限電圧設定値を変化させる。これにより、実施の形態1にかかる電池システム1では、出力時間と電池温度との2つの条件により変動する下限電圧設定値を二次電池11本来の下限電圧に沿って変動させることができる。そして、実施の形態1にかかる下限電圧設定装置10では、二次電池11が出力可能な電力を最大化することができる。
【0038】
特に、二次電池では、低温時に負極の性能低下により下限電圧が上昇する傾向があるが、実施の形態1にかかる下限電圧設定装置10では、電池温度に依存した下限電圧設定値の制御を行うため、低温時における出力可能電力を拡大する効果が高い。
【0039】
実施の形態2
実施の形態2では、実施の形態1にかかる下限電圧設定装置10の変形例となる下限電圧設定装置10aについて説明する。なお、実施の形態2の説明では、実施の形態1で説明した構成要素と同じ構成要素については実施の形態1と同じ符号を付して説明を省略する。
【0040】
図4に実施の形態2にかかる電池システム2のブロック図を示す。
図2で示した下限電圧設定装置10aは、下限電圧設定装置10に負極活性度算出部25を追加し、下限電圧設定値更新部23を下限電圧設定値更新部23aに置き換えたものである。
【0041】
負極活性度算出部25は、二次電池11の負極活性度(あるいは、負極劣化度)を算出する。下限電圧設定値更新部23aは、電池温度と出力時間推定値に加えて負極活性度を考慮した下限電圧設定値の更新を行う。
【0042】
具体的には、実施の形態1にかかる下限電圧設定値更新部23による下限電圧設定値の更新処理に加えて、長時間出力時に負極活性度が高くなるほど下限電圧設定値を高くし、短時間出力時には負極活性度が高くなるほど下限電圧設定値を低くする。
【0043】
ここで、負極活性度と下限電圧設定値との関係について説明する。そこで、
図5に実施の形態2にかかる二次電池の下限電圧の特性を説明するグラフを示す。
図5で示すグラフは、
図2で示したグラフを短時間出力時(上図)と長時間出力時(下図)とに分けたものである。また、
図5では、
図2の定常時よりも二次電池の負極活性度が低い時に実測された下限電圧の温度変化を示す下限電圧の曲線と、二次電池の負極活性度が高い時に実測された下限電圧の温度変化を示す下限電圧の曲線と、を
図2で示した定常時の下限電圧の曲線に加えたものである。
【0044】
図5に示すように、二次電池11の下限電圧は、負極活性度が低い時に比べて、定常時の下限電圧は低くなる傾向にある。また、二次電池11の下限電圧は、負極活性度が高くなる(劣化が進む)と、短時間出力時では下限電圧が低下する方向の変化を示し、長時間出力時では下限電圧が上昇する方向の傾向を示す。なお、二次電池11の負極活性度は、負極の劣化を示す指標である。ここで、下限電圧設定値更新部23aでは、
図5に示した二次電池11の負極活性度に応じた下限電圧設定値の変更を行う。
【0045】
また、
図5に示すように、二次電池11の負極活性度が進むと長時間出力時の温度閾値が変化する。具体的には、負極活性度が低い時の温度閾値T0と定常時の温度閾値T1はほぼ同じであるものの、負極活性度の高い時の温度閾値T2は、温度閾値T1、T2に比べて高くなる。このように、温度閾値は二次電池11の負極活性度に応じて変化するため、下限電圧設定値更新部23aでは、負極活性度が大きくなるに従って温度閾値を高くする処理を行う。
【0046】
続いて、
図6に実施の形態2にかかる下限電圧設定装置10aの動作を説明するフローチャートを示す。
図6に示すフローチャートは、
図3に示したフローチャートに負極活性度算出部25で行われる負極活性度の算出処理(ステップS11)を加えたものである。
図6に示す例は、実施の形態1にかかる下限電圧設定装置10aでは、下限電圧設定処理を開始した当初(例えば、車両のイグニッションオン時)に1度だけ負極活性度の算出処理を行うものである。そのため、
図6に示す例では、出力時間推定部22によるアクセルオンの検出処理(ステップS1)の前にステップS11の負極活性度の処理を行うこととした。しかし、負極活性度の算出は、例えば車両の動作時に所定の周期で行ってもよく、車両のイグニッションオフ時に行っても良い。
【0047】
ここで、負極活性度の算出について詳細に説明する。そこで、
図7に実施の形態2にかかる下限電圧設定装置で用いられる負極活性度を説明するグラフを示す。
図7に示すように、二次電池11の負極活性度は、二次電池11の総放電電気量に比例して大きくなる。また、二次電池11の利用態様として、利用されるSOCの範囲を示す中心SOC(State Of Charge)とΔSOCとにより活性度の進み方が異なる。負極活性度は、中心SOCが高くΔSOCが大きいと、中心SOCが低くΔSOCが小さいときより早く進むことになる。そこで、負極活性度算出部25では、二次電池11の出力電圧、出力電流、電池温度等の監視結果を蓄積し、電池温度、ΔSOC、中心SOC及び総放電電気量を少なくとも含む関数を用いて負極活性度を算出する。
【0048】
上記説明より、実施の形態2にかかる下限電圧設定装置10aでは、電池温度及び出力推定値に加えて負極活性度を参照して下限電圧設定値を更新する。これにより、実施の形態2にかかる下限電圧設定装置10aでは、実施の形態1にかかる下限電圧設定装置10よりも高精度に下限電圧設定値を実際の下限電圧に近づけることができる。そして、実施の形態2にかかる下限電圧設定装置10aは、実施の形態1にかかる下限電圧設定装置10よりも二次電池11から出力される電力の最大化させることが可能になる。
【0049】
実施の形態3
実施の形態3では、実施の形態1、2で説明した下限電圧設定方法の別の形態について説明する。
【0050】
図2及び
図5を参照すると、実施の形態3にかかる下限電圧設定方法として、負極活性度が高くなるほど下限電圧設定値を低くする方法であると考えることができる。また、実施の形態3にかかる下限電圧設定方法では、電池温度が高くなるほど下限電圧設定値を低くする。このとき、実施の形態4にかかる下限電圧設定方法では、出力時間推定値が前記出力時間閾値未満の短時間出力時に負極活性度が高くなるほど下限電圧設定値を低くする。つまり、実施の形態3にかかる下限電圧設定方法では、出力時間推定値と電池温度とに基づき下限電圧設定値を変更するか否かを決定する。
【0051】
実施の形態4にかかる下限電圧設定方法では、特に、低温かつ短時間出力時に高精度に下限電圧設定値を設定することができる。
【0052】
実施の形態4
実施の形態4では、実施の形態1、2で説明した下限電圧設定方法の別の形態について説明する。
【0053】
図2及び
図5を参照すると、実施の形態4にかかる下限電圧設定方法として、電池温度が高くなることに合わせて下限電圧設定値を低下させる方法であると考えることができる。また、実施の形態4にかかる下限電圧設定方法では、負極活性度が高くなるほど下限電圧設定値を低くする。このとき、実施の形態4にかかる下限電圧設定方法では、出力時間推定値が長時間出力時であると判断され、かつ、電池温度が温度閾値以上である場合には、下限電圧設定値を低下させる更新を破棄する必要がある。つまり、実施の形態4にかかる下限電圧設定方法では、出力時間推定値と前記電池温度とに基づき前記下限電圧設定値を変更するか否かを決定する。
【0054】
実施の形態4にかかる下限電圧設定方法では、特に、低温かつ短時間出力時に高精度に下限電圧設定値を設定することができる。
【0055】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、上記実施の形態は以下の観点を含む。
【0056】
(付記1)
二次電池を利用できる出力電圧の下限値である下限電圧設定値を設定する二次電池の下限電圧設定装置であって、
前記車両から得た情報に基づき前記二次電池から電力が出力される時間の長さを推定して出力時間推定値を算出する出力時間推定部と、
前記二次電池の温度を示す電池温度を取得する電池温度検出部と、
前記電池温度の上昇に合わせて前記下限電圧設定値を低下させる第1の変化傾向と、前記電池温度の上昇に合わせて前記下限電圧設定値を上昇させる第2の変化傾向と、の2つの変化傾向を前記出力時間推定値及び前記電池温度に基づき切り替えながら前記下限電圧設定値を変化させる下限電圧設定値更新部と、
前記下限電圧設定部により更新される下限電圧設定値を保持する下限電圧設定値保持部と、
を有する下限電圧設定装置。
【0057】
(付記2)
二次電池を利用できる出力電圧の下限値である下限電圧設定値を設定する二次電池の下限電圧設定値を演算部が有する演算能力を用いて設定する下限電圧設定プログラムであって、
前記車両から得た情報に基づき前記二次電池から電力が出力される時間の長さを推定して出力時間推定値を算出する出力時間推定処理と、
前記二次電池の温度を示す電池温度を取得する電池温度検出処理と、
前記電池温度の上昇に合わせて前記下限電圧設定値を低下させる第1の変化傾向と、前記電池温度の上昇に合わせて前記下限電圧設定値を上昇させる第2の変化傾向と、の2つの変化傾向を前記出力時間推定値及び前記電池温度に基づき切り替えながら前記下限電圧設定値を変化させる下限電圧設定値更新処理と、を行い、
前記下限電圧設定処理により更新された前記下限電圧設定値により下限電圧設定値保持部に保持されている前記下限電圧設定値を書き換える下限電圧設定プログラム。
【符号の説明】
【0058】
1 電池システム
2 電池システム
10、10a 下限電圧設定装置
11 二次電池
21 電池温度検出部
22 出力時間推定部
23、23a 下限電圧設定値更新部
24 下限電圧設定値保持部
25 負極活性度算出部