(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】電子線硬化型塗料組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 133/06 20060101AFI20240415BHJP
C09D 175/04 20060101ALI20240415BHJP
【FI】
C09D133/06
C09D175/04
(21)【出願番号】P 2020169057
(22)【出願日】2020-10-06
【審査請求日】2023-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 寛爾
(72)【発明者】
【氏名】四方 周二
(72)【発明者】
【氏名】安保 啓司
(72)【発明者】
【氏名】光崎 守
(72)【発明者】
【氏名】鍋島 淳男
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 栄一
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-531607(JP,A)
【文献】米国特許第06653394(US,B1)
【文献】米国特許第04342793(US,A)
【文献】特表2004-505159(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-10/00,101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多官能(メタ)アクリレートを10質量%以上含有する電子線硬化型成分(A)と、
イソシアネート基を1~15質量%含有し、電子線照射により硬化しない常温硬化型成分(B)と、を含有し、
前記成分(A)と(B)との合計量に対する前記成分(B)の固形分質量比率が20~55質量%であることを特徴とする電子線硬化型塗料組成物。
【請求項2】
前記電子線硬化型成分(A)が3官能以上の(メタ)アクリレートを10質量%以上含有するものであることを特徴とする請求項1に記載の電子線硬化型塗料組成物。
【請求項3】
前記常温硬化型成分(B)が前記イソシアネート基を有する化合物と活性水素を含有する官能基を有する化合物との混合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電子線硬化型塗料組成物。
【請求項4】
前記活性水素を含有する官能基を有する化合物が水酸基を有する化合物及びアミノ基を有する化合物からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項3に記載の電子線硬化型塗料組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子線硬化型塗料組成物に関し、より詳しくは、電子線硬化成分として多官能(メタ)アクリレートを含有する電子線硬化型塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の塗装には、従来から、熱硬化による方法が用いられている。しかしながら、近年のエネルギー消費量の削減の観点から、自動車の塗装工程におけるエネルギー消費量の削減のために、焼付工程が不要な塗装方法が求められているが、自動車の塗装に用いられる非加熱の硬化技術は未だ実用化されていない。
【0003】
非加熱の硬化技術としては、紫外線(UV)硬化技術や電子線(EB)硬化技術、常温硬化技術が知られている。しかしながら、UV硬化技術は、紫外線の透過性が低下すると塗膜が十分に硬化しないため、顔料等を含む不透明な塗膜や厚膜の塗膜の硬化手段としては不向きである。また、常温硬化技術は、硬化に時間を要するため、生産性が低いという問題があった。
【0004】
一方、EB硬化技術は、省エネルギー、省スペース、硬化時間の短縮といった利点があり、印刷、塗装、接着等の様々な用途に採用されている。また、EBはUVに比べて透過性が高いことから、EB硬化技術は顔料等を含む不透明な塗膜や厚膜の塗膜の硬化手段として有効である。例えば、特開2002-361173号公報(特許文献1)には、基材表面に、電子線硬化性(メタ)アクリレート樹脂を含む電子線硬化性塗料組成物を塗布した後、電子線を照射することによって前記電子線硬化性塗料組成物からなる層を硬化させる電子線硬化積層塗膜の形成方法が記載されている。しかしながら、電子線硬化性(メタ)アクリレート樹脂を含む電子線硬化性塗料組成物を用いて形成された硬化膜は、高い破断伸びと高い引張強度(破断応力)とを両立できないという問題があった。また、特許文献1には、木質表面と樹脂との接着性を向上させたり、樹脂の硬化性を向上させたりするために、前記電子線硬化性塗料組成物にポリイソシアネートを配合できることも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、接着性や樹脂の硬化性を向上させるために配合されるポリイソシアネートの量は、多くても5質量%程度であり、このような量のポリイソシアネートを電子線硬化性(メタ)アクリレート樹脂を含む電子線硬化性塗料組成物に配合しても、高い破断伸びと高い引張強度(破断応力)とを両立した硬化膜を得ることは困難であった。
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、高い破断伸びと高い引張強度(破断応力)とを両立した硬化膜を得ることが可能な電子線硬化型塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、多官能(メタ)アクリレートを含有する電子線硬化型成分(A)に、イソシアネート基を含有し、電子線照射により硬化しない常温硬化型成分(B)を所定の割合で配合することによって、高い破断伸びと高い引張強度(破断応力)とを両立した硬化膜を得ることが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の電子線硬化型塗料組成物は、多官能(メタ)アクリレートを10質量%以上含有する電子線硬化型成分(A)と、イソシアネート基を1~15質量%含有し、電子線照射により硬化しない常温硬化型成分(B)と、を含有し、前記成分(A)と(B)との合計量に対する前記成分(B)の固形分質量比率が20~55質量%であることを特徴とするものである。
【0010】
本発明の電子線硬化型塗料組成物においては、前記電子線硬化型成分(A)が3官能以上の(メタ)アクリレートを10質量%以上含有するものであることが好ましく、また、前記常温硬化型成分(B)が前記イソシアネート基を有する化合物と活性水素を含有する官能基を有する化合物との混合物であることが好ましく、さらに、前記活性水素を含有する官能基を有する化合物が水酸基を有する化合物及びアミノ基を有する化合物からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0011】
なお、本発明の電子線硬化型塗料組成物によって、高い破断伸びと高い引張強度(破断応力)とを両立した硬化膜を得ることが可能となる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明の電子線硬化型塗料組成物は、多官能(メタ)アクリレートを含有する電子線硬化型成分(A)と、イソシアネート基を含有し、電子線照射により硬化しない常温硬化型成分(B)とを含有するものである。このような電子線硬化型塗料組成物からなる塗膜を常温硬化させると、前記常温硬化型成分(B)が硬化して架橋構造(B)が形成され、半硬化膜が得られる。その後、この半硬化膜に電子線照射を行うと、前記電子線硬化型成分(A)が硬化して架橋構造(A)が形成され、目的とする硬化膜が得られる。このようにして形成された硬化膜には、前記架橋構造(A)と前記架橋構造(B)とが含まれているが、これらの架橋構造(A)と(B)とは、互いに結合(架橋)しておらず、互いに入り組んだ構造(ダブルネットワーク構造)を形成しているため、高い破断伸びと高い引張強度とが両立されると推察される。
【0012】
また、本発明においては、硬化膜における高い破断伸びと高い引張強度(破断応力)との両立性(硬化膜の有用性)を以下のようにして評価する。すなわち、硬化膜の性能は引張強度(破断応力)が高いほど優れているため、硬化膜の有用性は引張強度(破断応力)に比例する。ここで、硬化膜の有用性を示す指標をS値とし、硬化膜の有用性が高いほどS値が高くなるものと定義すると、S値と引張強度(破断応力)は
図1Aに示すように比例関係となる。
【0013】
また、破断伸びについては、硬化膜に必要な特性が塗装基材の変形に追従して硬化膜が破断しないことであることから、破断伸びが塗装基材の変形による硬化膜の伸びより小さい範囲では破断伸びが大きいほどS値は大きくなる。一方、破断伸びが塗装基材の変形による硬化膜の伸びより大きい範囲では破断伸びが大きくなっても硬化膜の有用性に寄与しないため、S値は一定となる。自動車用外装部品において、塗装基材の変形による硬化膜の伸びは最大で10%であると考えられ、また、実用的に、破断応力は20MPa以上が必要であると考えられるため、
図1Bに示すように、破断伸びが20%の場合に破断応力は20MPa(S値で20)となるように定義する。
【0014】
これらを数式で表すと、下記式:
S=Y+2×X (X≦10)
S=Y+20 (X>10)
(Sは塗膜の有用性を示す指標であり、Xは破断伸び[%]であり、Yは破断応力[MPa]である)
のようになる。
【0015】
このようにして求められるS値が高い硬化膜ほど、有用性が高いことを示しており、本発明においては、硬化膜の破断伸びXと破断応力Yの値から、前記式を用いてS値を算出し、このS値を用いて硬化膜の有用性を評価する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高い引張強度(破断応力)と高い破断伸びとを両立した硬化膜を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1A】硬化膜の有用性を示す指標S値と破断応力との関係を示すグラフである。
【
図1B】硬化膜の有用性を示す指標S値と破断伸びとの関係を示すグラフである。
【
図2】実施例1~5及び比較例13~17で得られた電子線硬化型塗料組成物のS値を、前記電子線硬化型成分Aと前記常温硬化型成分Bとの合計量に対する前記常温硬化型成分Bの固形分質量比率に対してプロット結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0019】
〔電子線硬化型塗料組成物〕
先ず、本発明の電子線硬化型塗料組成物について説明する。本発明の電子線硬化型塗料組成物は、多官能(メタ)アクリレートを10質量%以上含有する電子線硬化型成分(A)と、イソシアネート基を1~15質量%含有し、電子線照射により硬化しない常温硬化型成分(B)と、を含有し、前記成分(A)と(B)との合計量に対する前記成分(B)の固形分質量比率が20~55質量%の範囲内にあるものである。
【0020】
(A)電子線硬化型成分
本発明に用いられる電子線硬化型成分(A)は、多官能(メタ)アクリレートを10質量%以上含有するものであり、電子線を照射することによってラジカルが発生し、ラジカル重合によって前記多官能(メタ)アクリレートが架橋構造を形成して硬化する。多官能(メタ)アクリレートを前記範囲内の割合で含有する電子線硬化型成分(A)を用いることによって、高い引張強度(破断応力)を有する硬化膜が得られる。一方、多官能(メタ)アクリレートの含有量が前記下限未満になると、多官能(メタ)アクリレートによる架橋構造が十分に形成されず、得られる硬化膜の引張強度(破断応力)が低下する。また、多官能(メタ)アクリレートの含有量としては、得られる硬化膜の引張強度(破断応力)が向上するという観点から、20質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、60質量%以上が更に好ましく、80質量%以上が特に好ましい。なお、多官能(メタ)アクリレートの含有量の上限は100質量%、すなわち、前記電子線硬化型成分(A)が多官能(メタ)アクリレートのみからなる場合である。
【0021】
本発明に用いられる多官能(メタ)アクリレートとしては1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するもの(すなわち、2官能以上の(メタ)アクリレート)であれば特に制限はなく、例えば、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、2-ブチル-2-エチル-1,3-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、2-メチル-1,8-オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-1,3-ジ(メタ)アクリロイルオキシプロパン、2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリロイルオキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート等の2官能の(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート等の3官能以上の(メタ)アクリレート;これらの多官能(メタ)アクリレートの原料アルコールのアルキレンオキサイド〔エチレンオキサイド及びプロピレンオキサイド等〕付加物の多官能(メタ)アクリレート;これらの多官能(メタ)アクリレートの原料アルコールのカプロラクトン変性物の多官能(メタ)アクリレート;エチレンオキサイド変性イソシアヌル酸のジ(メタ)アクリレート及びエチレンオキサイド変性イソシアヌル酸のトリ(メタ)アクリレート等のアルキレンオキサイド変性イソシアヌル酸の多官能(メタ)アクリレート;ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレートオリゴマー等が挙げられる。なお、本明細書において、(メタ)アクリレートとはアクリレートとメタクリレートとの総称であり、アクリレート及びメタクリレートの一方又は両方を意味する。(メタ)アクリロイル基及び(メタ)アクリル酸についても同様である。これらの多官能(メタ)アクリレートは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、これらの多官能(メタ)アクリレートのうち、得られる硬化膜の架橋密度が高くなり、引張強度(破断応力)が更に向上するという観点から、3官能以上の(メタ)アクリレートが好ましい。
【0022】
本発明においては、このような多官能(メタ)アクリレートとして、適宜合成したものを用いてもよいし、市販品(例えば、東亞合成株式会社製の光硬化性樹脂として市販されているアロニックスシリーズ等)を用いてもよい。
【0023】
前記電子線硬化型成分(A)においては、得られる硬化膜の架橋密度が高くなり、引張強度(破断応力)が更に向上するという観点から、3官能以上の(メタ)アクリレートの含有量が10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、25質量%以上であることが更に好ましく、30質量%以上であることが特に好ましい。なお、3官能以上の(メタ)アクリレートの含有量の上限は100質量%、すなわち、前記電子線硬化型成分(A)が3官能以上の(メタ)アクリレートのみからなる場合である。
【0024】
また、前記電子線硬化型成分(A)において、多官能(メタ)アクリレートの含有量が100質量%未満の場合、多官能(メタ)アクリレートと併用される、その他の電子線硬化型成分としては、単官能の(メタ)アクリレート、ビニルエステル、ビニルエーテル、ビニルシアニド、スチレン、ハロゲン化ビニル、ハロゲン化ビニリデン、マレイン酸ジエステル、フマル酸ジエステル、イタコン酸ジエステル、ジアルキルアクリルアミド、複素環ビニル化合物、並びに、これらのポリエステル変性物、ウレタン変性物、エチレンオキサイド変性物、カプロラクトン変性物等の各種変性物が挙げられる。また、これらのその他の電子線硬化型成分は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0025】
(B)常温硬化型成分
本発明に用いられる常温硬化型成分(B)は、電子線照射により硬化せず、常温で架橋構造を形成して硬化するものである。常温硬化型成分(B)が電子線照射により硬化すると、前記電子線硬化型成分(A)を硬化させる際の電子線照射により、前記常温硬化型成分(B)と前記電子線硬化型成分(A)とが架橋構造を形成するため、前記電子線硬化型成分(A)による架橋構造(A)と前記常温硬化型成分(B)による架橋構造(B)とのダブルネットワーク構造が形成されず、得られる硬化膜の破断伸びが低下する。
【0026】
また、前記常温硬化型成分(B)は、イソシアネート基を1~15質量%含有するものである。イソシアネート基を前記範囲内の割合で含有する常温硬化型成分(B)を用いることによって、高い引張強度(破断応力)と高い破断伸びとを両立する硬化膜、すなわち、高いS値(S≧57)を有する硬化膜が得られる。一方、イソシアネート基の含有量が前記下限未満になると、前記架橋構造(B)が十分に形成されず、得られる硬化膜の引張強度(破断応力)が低下し、他方、前記上限を超えると、前記架橋構造(B)が形成されすぎ、前記架橋構造(A)と前記架橋構造(B)とのダブルネットワーク構造において、前記架橋構造(A)前記架橋構造(B)との絡み合いが多くなりすぎ、得られる硬化膜の破断伸びが低下する。また、イソシアネート基の含有量の下限としては、前記常温硬化型成分(B)による架橋構造(B)が適度に形成され、得られる硬化膜の引張強度(破断応力)が向上するという観点から、3質量%以上が好ましく、4質量%以上がより好ましく、5質量%以上が更に好ましく、6質量%以上が特に好ましい。さらに、イソシアネート基の含有量の上限としては、前記架橋構造(A)前記架橋構造(B)との絡み合いが適度に形成され、得られる硬化膜の破断伸びが向上するという観点から、14質量%以下が好ましく、13質量%以下がより好ましく、12質量%以下が更に好ましく、11質量%以下が特に好ましい。
【0027】
このような常温硬化型成分(B)においては、通常、イソシアネート基の含有量が前記範囲内となるように、イソシアネート基を有する化合物が含まれている。このようなイソシアネート基を有する化合物としては、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、水添キシリレンジイソシアネート(H6XDI)、ナフタレンジイソシアネート(NDI)、メチレンビスシクロへキシレンジイソシアネート(H12MDI)、並びに、これらのイソシアネートのビュレット体、アダクト体、イソシアヌレート体等が挙げられる。これらのイソシアネート基を有する化合物は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、これらのイソシアネート基を有する化合物のうち、屋外環境での耐久性を重視する場合においては、黄変等の硬化膜の不具合を防止するという観点から、脂肪族イソシアネート、脂環式イソシアネートが好ましく、脂肪族イソシアネートのイソシアヌレート体が特に好ましい。
【0028】
また、前記常温硬化型成分(B)は、前記イソシアネート基を有する化合物と活性水素を含有する官能基を有する化合物との混合物であることが好ましい。これにより、イソシアネート基と活性水素を含有する官能基とが常温で反応して前記架橋構造(B)を形成するため、得られる硬化膜の引張強度(破断応力)が向上する。前記活性水素を含有する官能基を有する化合物としては、電子線照射によって硬化せず、常温でイソシアネート基と反応して前記架橋構造(B)を形成するものであれば特に制限はなく、例えば、水酸基を有する化合物、アミノ基を有する化合物が挙げられる。これらの化合物は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0029】
前記水酸基を有する化合物としては、常温硬化型のイソシアネート硬化樹脂組成物の原料として用いられるものであれば特に制限はなく、例えば、水酸基含有アクリル樹脂、水酸基含有ポリエステル樹脂等の水酸基含有樹脂が挙げられる。これらの水酸基を有する化合物は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0030】
前記アミノ基を有する化合物としては特に制限はなく、例えば、アミノ基含有アクリル樹脂、アミノ基含有ポリエステル樹脂等のアミノ基含有樹脂が挙げられる。これらのアミノ基を有する化合物は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0031】
(電子線硬化型塗料組成物)
本発明の電子線硬化型塗料組成物は、前記電子線硬化型成分(A)と前記常温硬化型成分(B)とを、これらの合計量〔(A)+(B)〕に対する前記常温硬化型成分(B)の固形分質量比率が20~55質量%の範囲内となる量で含有するものである。前記常温硬化型成分(B)の固形分質量比率を前記範囲内に調整することによって、高い引張強度(破断応力)と高い破断伸びとを両立する硬化膜、すなわち、高いS値(S≧57)を有する硬化膜が得られる。一方、前記常温硬化型成分(B)の固形分質量比率が前記下限未満になると、得られる硬化膜は、破断伸びが増大するものの、10%を超え、また、破断応力が大きく低下するため、S値が低くなる。他方、前記常温硬化型成分(B)の固形分質量比率が前記上限を超えると、得られる硬化膜は、破断応力が低下する傾向にあり、S値が低くなる。また、前記常温硬化型成分(B)の固形分質量比率としては、S値が高くなるという観点から、20~50質量%が好ましく、25~45質量%がより好ましい。
【0032】
〔電子線硬化型塗料組成物の塗装方法〕
次に、本発明の電子線硬化型塗料組成物の塗装方法について説明する。本発明の電子線硬化型塗料組成物の塗装方法においては、先ず、被塗物の表面に前記本発明の電子線硬化型塗料組成物を塗布する。次に、得られた塗膜に常温硬化処理を施して前記常温硬化型成分(B)を塗膜が流動性を失った状態にまで硬化(半硬化)させ、さらに、得られた半硬化膜に電子線を照射して前記電子線硬化型成分(A)を硬化させる。このとき、電子線照射後も前記常温硬化型成分(B)の硬化が進むため、被塗物の表面に硬化膜が形成される。
【0033】
前記被塗物としては、電子線照射によって、表面に前記本発明の電子線硬化型塗料組成物の硬化膜を形成することができるものであれば特に制限はなく、例えば、鉄、アルミニウム、真鍮、銅、錫、亜鉛、ステンレス鋼、ブリキ、亜鉛メッキ鋼、合金化亜鉛(Zn-Al、Zn-Ni、Zn-Fe等)メッキ鋼等の金属材料、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂や各種のFRP等のプラスチック材料、ガラス、セメント、コンクリート等の無機材料、木材、繊維材料(紙、布等)、発泡体等が挙げられる。これらの被塗物のうち、金属材料、プラスチック材料が好ましく、特に、本発明の電子線硬化型塗料組成物は、変形が大きいプラスチック材料に好適に適用することができる。
【0034】
前記電子線硬化型塗料組成物の塗布方法としては特に制限はなく、例えば、ドクターナイフコーター法、バーコーター法、アプリケーター法、カーテンフローコーター法、ロールコーター法、スプレー法、グラビアコーター法、コンマコーター法、リバースロールコーター法、リップコーター法、ダイコーター法、スロットダイコーター法、エアーナイフコーター法、ディップコーター法等が挙げられる。
【0035】
常温硬化条件としては、前記常温硬化型成分(B)が半硬化する条件であれば特に制限はなく、電子線照射の時点で、塗膜が流動性を失うことを保証できる条件に設定する。具体的には、常温硬化を実施する温度で塗膜の流動性が失われるまでの時間を実験的に求めることができる。
【0036】
また、電子線照射条件としては、前記電子線硬化型成分(A)が硬化する条件であれば特に制限はなく、電子線照射装置の仕様に応じて適宜設定することができるが、例えば、電子線の加速電圧としては、90~200kVが好ましく、120~150kVがより好ましく、また、ビーム電流としては、1~10mAが好ましく、2~5mAがより好ましく、電子線の照射時間としては、0.1~10秒間が好ましく、1~5秒間がより好ましい。これらの条件は、総合して硬化膜の性能が発揮されるように適宜調節することが望ましい。
【0037】
また、前記電子線硬化型塗料組成物の塗布方法においては、電子線照射後に、残存する未反応のイソシアネート基を活性水素と反応させて前記架橋構造(B)を形成することが好ましい。これにより、得られる硬化膜の引張強度(破断応力)が更に向上する傾向にある。残存する未反応のイソシアネート基を活性水素と反応させる方法としては、例えば、電子線照射後の硬化膜を高湿度雰囲気(例えば、湿度95%RH以上)に曝す方法が挙げられる。これにより、前記未反応のイソシアネート基が水分子と反応してアミノ基が生成し、このアミノ基が更に残存する前記未反応のイソシアネート基と反応してウレア結合が生成し、前記架橋構造(B)が形成される。
【0038】
このようにして得られる硬化膜の膜厚は、目的とする用途に応じて適宜決定することができるが、例えば、5~200μmが好ましく、10~150μmがより好ましく、20~100μmが特に好ましい。硬化膜の膜厚が前記下限未満になると、硬化膜本来の性能が発揮されない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、塗膜の深層部への電子線の到達量が不足して塗膜の深層部が十分に硬化せず、硬化膜の性能が発揮されない傾向にある。
【実施例】
【0039】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、電子線硬化型成分A及び常温硬化型成分Bの固形分濃度は以下の方法により測定した。
【0040】
<固形分濃度>
先ず、秤量済みのアルミ箔片に試料(電子線硬化型成分A又は常温硬化型成分B)を塗布して直ちに秤量し、塗膜の初期質量W0を求めた。次に、前記試料を塗布した前記アルミ箔片を105℃に保持したオーブンに投入し、1時間毎に前記塗膜を秤量して、質量変化がなくなった時の塗膜の質量W1を求めた。得られた塗膜の質量W0及びW1を用いて下記式:
C=W1/W0×100
により、固形分濃度C[単位:%]を算出した。
【0041】
また、実施例及び比較例で使用した水酸基含有アクリル樹脂、電子線硬化型成分A及び常温硬化型成分Bは以下の方法により調製した。
【0042】
(合成例1)
メチルイソブチルケトン中、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを用いて、メチルメタクリレート36.0質量部とn-ブチルメタクリレート18.0質量部と2-ヒドロキシエチルメタクリレート35.3質量部とスチレン10.7質量部とを共重合させ、メチルイソブチルケトンを減圧留去して、水酸基含有アクリル樹脂(水酸基価:150(設計値))を得た。この水酸基含有アクリル樹脂の水酸基含有量は2.67mmol/g(=水酸基価(150)/水酸化カリウムの式量(56.1))である。
【0043】
(調製例1)
1分子当たり3個のカプロラクトンにより変性されたトリスアクリロイルオキシエチルイソシアヌレート(東亞合成株式会社製「アロニックスM-327」、多官能)とウレタンアクリレート(東亞合成株式会社製「アロニックスM-1200」、二官能)とを質量比20:80で混合して電子線硬化型成分Aを調製した。この電子線硬化型成分Aの固形分濃度は100質量%であった。
【0044】
(調製例2)
合成例1で得られた水酸基含有アクリル樹脂とヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)のイソシアヌレート体(旭化成株式会社製「デュラネートTPA-100」、イソシアネート基含有量:23.1質量%(メーカー公表値))とを固形分質量比5.50:2.67で混合して、水酸基とイソシアネート基とを等モル含有する常温硬化型成分Bを調製した。この常温硬化型成分Bの固形分濃度は56.5質量%であった。なお、前記HDIのイソシアヌレート体のイソシアネート基含有量は5.50mmol/g(=HDIのイソシアヌレート体1g中のイソシアネート基含有量(0.231g)/イソシアネート基の式量(42.01))である。また、前記常温硬化型成分B中のイソシアネート基含有量は7.55質量%(=2.67/(2.67+5.50)×0.231×100)であった。
【0045】
(比較例1)
電子線硬化型成分Aのみからなる電子線硬化型塗料として、1分子当たり3個のカプロラクトンにより変性されたトリスアクリロイルオキシエチルイソシアヌレート(東亞合成株式会社製「アロニックスM-327」、多官能)を単独で使用した。
【0046】
(比較例2)
1分子当たり3個のカプロラクトンにより変性されたトリスアクリロイルオキシエチルイソシアヌレート(東亞合成株式会社製「アロニックスM-327」、多官能)とポリエステルアクリレート(東亞合成株式会社製「アロニックスM-7100」、多官能)とを質量比90:10で混合して電子線硬化型成分Aのみからなる電子線硬化型塗料組成物を調製した。
【0047】
(比較例3)
前記トリスアクリロイルオキシエチルイソシアヌレートと前記ポリエステルアクリレートとの混合質量比を50:50に変更した以外は比較例2と同様にして電子線硬化型成分Aのみからなる電子線硬化型塗料組成物を調製した。
【0048】
(比較例4)
ウレタンアクリレート(東亞合成株式会社製「アロニックスM-1200」、二官能)とポリエステルアクリレート(東亞合成株式会社製「アロニックスM-7100」、多官能)とを質量比60:40で混合して電子線硬化型成分Aのみからなる電子線硬化型塗料組成物を調製した。
【0049】
(比較例5)
前記ウレタンアクリレートと前記ポリエステルアクリレートとの混合質量比を40:60に変更した以外は比較例4と同様にして電子線硬化型成分Aのみからなる電子線硬化型塗料組成物を調製した。
【0050】
(比較例6)
2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート(東亞合成株式会社製「アロニックスM-5700」、単官能)とポリエステルアクリレート(東亞合成株式会社製「アロニックスM-7100」、多官能)とを質量比70:30で混合して電子線硬化型成分Aのみからなる電子線硬化型塗料組成物を調製した。
【0051】
(比較例7)
前記2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレートと前記ポリエステルアクリレートとの混合質量比を65:35に変更した以外は比較例6と同様にして電子線硬化型成分Aのみからなる電子線硬化型塗料組成物を調製した。
【0052】
(比較例8)
前記2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレートと前記ポリエステルアクリレートとの混合質量比を60:40に変更した以外は比較例6と同様にして電子線硬化型成分Aのみからなる電子線硬化型塗料組成物を調製した。
【0053】
(比較例9)
前記2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレートと前記ポリエステルアクリレートとの混合質量比を55:45に変更した以外は比較例6と同様にして電子線硬化型成分Aのみからなる電子線硬化型塗料組成物を調製した。
【0054】
(比較例10)
前記2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレートと前記ポリエステルアクリレートとの混合質量比を50:50に変更した以外は比較例6と同様にして電子線硬化型成分Aのみからなる電子線硬化型塗料組成物を調製した。
【0055】
(比較例11)
前記2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレートと前記ポリエステルアクリレートとの混合質量比を45:55に変更した以外は比較例6と同様にして電子線硬化型成分Aのみからなる電子線硬化型塗料組成物を調製した。
【0056】
(比較例12)
電子線硬化型成分Aのみからなる電子線硬化型塗料として、ポリエステルアクリレート(東亞合成株式会社製「アロニックスM-7100」、多官能)を単独で使用した。
【0057】
(実施例1)
調製例1で得られた前記電子線硬化型成分Aと調製例2で得られた前記常温硬化型成分Bとを固形分質量比A:B=80:20で混合して電子線硬化型塗料組成物を調製した。
【0058】
(実施例2)
前記固形分質量比をA:B=75:25に変更した以外は実施例1と同様にして電子線硬化型塗料組成物を調製した。
【0059】
(実施例3)
前記固形分質量比をA:B=70:30に変更した以外は実施例1と同様にして電子線硬化型塗料組成物を調製した。
【0060】
(実施例4)
前記固形分質量比をA:B=60:40に変更した以外は実施例1と同様にして電子線硬化型塗料組成物を調製した。
【0061】
(実施例5)
前記固形分質量比をA:B=45:55に変更した以外は実施例1と同様にして電子線硬化型塗料組成物を調製した。
【0062】
(比較例13)
前記常温硬化型成分Bを用いなかった以外は実施例1と同様にして電子線硬化型成分Aのみからなる電子線硬化型塗料組成物を調製した。
【0063】
(比較例14)
前記固形分質量比をA:B=95:5に変更した以外は実施例1と同様にして電子線硬化型塗料組成物を調製した。
【0064】
(比較例15)
前記固形分質量比をA:B=90:10に変更した以外は実施例1と同様にして電子線硬化型塗料組成物を調製した。
【0065】
(比較例16)
前記固形分質量比をA:B=85:15に変更した以外は実施例1と同様にして電子線硬化型塗料組成物を調製した。
【0066】
(比較例17)
前記固形分質量比をA:B=30:70に変更した以外は実施例1と同様にして電子線硬化型塗料組成物を調製した。
【0067】
<塗膜形成>
実施例及び比較例で得られた電子線硬化型塗料組成物を、ドクターナイフを用いてガラス板上に塗布した後、得られた塗膜を室温で17~20時間静置して前記常温硬化型成分B中の水酸基含有アクリル樹脂とHDIのイソシアヌレート体とを反応させてウレタン結合を形成させ、さらに、得られた半硬化膜に電子線硬化装置(株式会社NHVコーポレーション製「キュアトロンEBC-250-20」)を用いて窒素雰囲気下、加速電圧150kV、ビーム電流2.5mA、ワーク搬送速度3.9m/minの条件で電子線を照射して前記電子線硬化型成分Aを硬化させ、厚さ42~69μmの硬化膜を得た。この硬化膜を少量の水とともに密封容器に入れて温度40℃で16時間保持して高湿度処理(湿度95%RH以上)を行い、残存したイソシアネート基を水分子と反応させてアミノ基を生成させ、さらに、このアミノ基とイソシアネート基とを反応させてウレア結合を形成させた。なお、比較例1~12及び比較例13で得られた電子線硬化型塗料組成物については、常温硬化型成分Bを含んでいないため、電子線照射による硬化のみを行い、室温での静置及び前記高湿度処理を省略した。
【0068】
<引張試験>
得られた硬化膜を長さ100mm以上、幅10mmの大きさでガラス板から剥離し、インストロン万能試験機インストロン社製「5566型」)を用い、初期つかみ間距離50mm、クロスヘッド速度5mm/minの条件で引張試験を4回実施し、破断伸び、破断応力を求めた。これらの結果を表1~2に示す。なお、表中の値は4回の引張試験の平均値である。
【0069】
<有用性>
表1~2に示した破断伸び及び破断応力に基づいて、下記式:
S=Y+2×X (X≦10)
S=Y+20 (X>10)
(Sは塗膜の有用性を示す指標であり、Xは破断伸び[%]であり、Yは破断応力[MPa]である)
により、S値を求めた。その結果を表1~2に示す。また、実施例1~5及び比較例13~17で得られた電子線硬化型塗料組成物のS値を、前記電子線硬化型成分Aと前記常温硬化型成分Bとの合計量に対する前記常温硬化型成分Bの固形分質量比率に対してプロットした。その結果を
図2に示す。
【0070】
【0071】
表1に示したように、多官能(メタ)アクリレートを含有する電子線硬化型成分Aのみからなる従来の電子線硬化型塗料組成物において、破断伸びが7%以下の硬化膜はいずれも破断応力が25MPa以上であったが、S値は50以下であった。また、破断伸びが8%以上の硬化膜は破断応力が20MPa以下であり、S値も50以下であった。
【0072】
【0073】
また、表2及び
図2に示したように、多官能(メタ)アクリレートを含有する前記電子線硬化型成分Aのみからなる電子線硬化型塗料組成物(比較例13)においては、得られた硬化膜の破断伸びが36.5%、破断応力が24.1MPa、S値が44.1であったのに対して、この電子線硬化型成分Aを80~45質量%とイソシアネート基を有する化合物を含有する前記常温硬化型成分Bを20~55質量%とを含有する電子線硬化型塗料組成物(実施例1~5)においては、得られた硬化膜の破断伸びが5.4~12.4%、破断応力が37.7~47.9MPa、S値が57.1~60.3であった。これらの結果から、多官能(メタ)アクリレートを含有する前記電子線硬化型成分Aにイソシアネート基を有する化合物を含有する前記常温硬化型成分Bを所定量配合することによって、得られる硬化膜の破断伸びが小さく、破断応力が大きくなり、その結果、S値も大きくなり、有用性が十分に向上することがわかった。
【0074】
一方、前記電子線硬化型成分Aを95~85質量%と前記常温硬化型成分Bを15~5質量%とを含有する電子線硬化型塗料組成物(比較例14~16)においては、得られた硬化膜の破断伸びが20.2~41.7%、破断応力が28.1~35.1MPa、S値が48.1~55.1であった。これらの結果から、前記常温硬化型成分Bの配合量が少なすぎると、得られる硬化膜の破断伸びが十分に小さくならず、破断応力も十分に大きくならず、その結果、S値も十分に大きくならず、有用性の向上が不十分であることがわかった。
【0075】
また、前記電子線硬化型成分Aを30質量%と前記常温硬化型成分Bを70質量%とを含有する電子線硬化型塗料組成物(比較例17)においては、得られた硬化膜の破断伸びが5.8%、破断応力が40.1MPa、S値が51.8であった。この結果から、前記常温硬化型成分Bの配合量が多すぎると、得られる硬化膜の破断伸びは十分に小さくなるものの、破断応力が十分に大きくならず、その結果、S値も十分に大きくならず、有用性の向上が不十分であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0076】
以上説明したように、本発明によれば、高い引張強度(破断応力)と高い破断伸びとを両立した硬化膜を得ることが可能となる。したがって、本発明の電子線硬化型塗料組成物は、外力による損傷に強い塗装が要求される用途、例えば、自動車用塗料、特に、自動車の外装部品用塗料等として有用である。