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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/12 20060101AFI20240415BHJP
【FI】
H02M7/12 B
H02M7/12 F
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020169675
(22)【出願日】2020-10-07
(65)【公開番号】P2022061626
(43)【公開日】2022-04-19
【審査請求日】2023-04-06
(73)【特許権者】
【識別番号】505461072
【氏名又は名称】東芝キヤリア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保田 洋平
(72)【発明者】
【氏名】金森 正樹
(72)【発明者】
【氏名】加藤 慶一
(72)【発明者】
【氏名】山本 健太
【審査官】栗栖 正和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/167041(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/104886(WO,A1)
【文献】特開平11-275866(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/00-7/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電源に接続される複数のダイオード、これらダイオードに並列接続された複数のスイッチ素子を含み、前記交流電源の電圧をスイッチングにより直流変換および昇圧するコンバータと、
前記コンバータの直流出力電圧が目標値となるよう、かつ前記コンバータへの入力電流がそれぞれ正弦波となるよう、前記コンバータのスイッチングをパルス幅変調により制御するとともにパルス幅変調に過変調を用いることで前記コンバータのスイッチング回数を低減可能な制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記パルス幅変調の昇圧比に応じて前記各スイッチ素子のオン,オフ時の短絡防止用のデッドタイムの長さを切換える、
電力変換装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記各スイッチ素子に対する複数の駆動信号に前記デッドタイムを付加する、
請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記コンバータの昇圧比が所定値以上の場合、前記各駆動信号に付加する前記デッドタイムとして第1デッドタイムを選定し、
前記コンバータの昇圧比が前記所定値未満であれば前記各駆動信号に付加する前記デッドタイムとして前記第1デッドタイムより長い第2デッドタイムを選定する、
請求項に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記所定値は、“1.10”近傍である、
請求項3に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記制御部は、所定周波数の三角波状のキャリア信号の電圧レベルと前記目標値に応じて電圧レベルが変化する交流電圧指令値の電圧レベルとを比較する前記パルス幅変調により、前記目標値に応じてオン,オフデューティが定まるスイッチング用の複数の駆動信号を生成する、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記コンバータの直流出力電圧を所定周波数の交流電圧に変換しそれをモータの駆動電力として出力するインバータ、
をさらに備える、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項7】
交流電源に接続される複数のダイオード、これらダイオードに並列接続された複数のスイッチ素子を含み、前記交流電源の電圧をスイッチングにより直流変換および昇圧するコンバータと、
前記コンバータの直流出力電圧が目標値となるよう、かつ前記コンバータへの入力電流がそれぞれ正弦波となるよう、前記コンバータのスイッチングをパルス幅変調により制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記パルス幅変調の昇圧比が“0.97”近傍の時の前記各スイッチ素子のオン,オフ時の短絡防止用のデッドタイムの長さを、前記パルス幅変調の昇圧比が“1.10”以上の時のデッドタイムよりも長くした、
電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三相交流電源の電圧を直流変換および昇圧するコンバータを備えた電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
三相交流電源の電圧をコンバータ(PWMコンバータ)で直流変換および昇圧し、その直流電圧をインバータで所定周波数の交流電圧に変換し、その交流電圧をモータ等の負荷の駆動電力として出力する電力変換装置が知られている。
【0003】
この電力変換装置は、コンバータの直流出力電圧およびコンバータへの入力電流を検出し、コンバータの直流出力電圧がインバータによるモータ駆動に適した目標値となるよう、かつコンバータへの入力電流が正弦波に近くなって高調波を抑制できるよう、コンバータのスイッチングをパルス幅変調により制御する。このパルス幅変調では、所定周波数の三角波状のキャリア信号の電圧レベルと上記目標値に応じて電圧レベルが変化する交流電圧指令値の電圧レベルとを比較することにより、上記目標値に応じてオン,オフデューティ(パルス幅)が定まるスイッチング用の複数の駆動信号を生成する。
【0004】
また、上記電力変換装置は、負荷であるモータの回転速度がその運転に必要な目標回転速度となるよう、インバータのスイッチングをパルス幅変調により制御する。
【0005】
コンバータのパルス幅変調において、正弦波状のデューティ指令値を三角波キャリアで比較する正弦波変調を適用した場合では、コンバータから出力される直流電圧が非スイッチングによる無負荷時直流電圧の2/√3倍(約1.15倍)未満のとき、交流電圧指令値の電圧レベルがキャリア信号の電圧レベルを超える過変調の状態となる。この過変調の状態を設定することで、コンバータのスイッチング回数が減少し、スイッチング素子における電力ロスを低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6462821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
コンバータのパルス幅変調が過変調の状態にあるとき、コンバータの出力が正弦波とはならないため、コンバータへの入力電流に歪み、すなわち高調波が生じる。
【0008】
本実施形態の目的は、過変調域で生じる入力電流の歪みを減少できる電力変換装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の電力変換装置は、コンバータおよび制御部を備える。コンバータは、交流電源に接続される複数のダイオード、これらダイオードに並列接続された複数のスイッチ素子を含み、前記交流電源の電圧をスイッチングにより直流変換および昇圧する。前記制御部は、前記コンバータの直流出力電圧が目標値となるよう、かつ前記コンバータへの入力電流がそれぞれ正弦波となるよう、前記コンバータのスイッチングをパルス幅変調により制御するともにパルス幅変調に過変調を用いることで前記コンバータのスイッチング回数を低減可能である。さらに、前記制御部は、前記パルス幅変調の昇圧比に応じて前記各スイッチ素子のオン,オフ時の短絡防止用のデッドタイムの長さを切換える。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態の構成を示すブロック図。
図2】一実施形態における駆動信号生成部の構成を示すブロック図。
図3】一実施形態におけるスイッチング用の駆動信号に所定のデッドタイムを付加した場合に得られるPWMコンバータの直流出力電圧の一部を示す波形図。
図4】一実施形態における入力電流の歪みとPWMコンバータの昇圧比との関係を表わすシミュレーション結果を示すグラフ。
図5】一実施形態におけるデッドタイム付加部の制御を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、第1実施形態について図面を参照して説明する。
図1に示すように、三相交流電源1にノイズフィルタ2を介して三相PWMコンバータ(コンバータ)3の入力端が接続され、そのPWMコンバータ3の出力端に平滑コンデンサ4が接続されている。そして、平滑コンデンサ4にインバータ5の入力端が接続され、そのインバータ5の出力端に負荷たとえば三相ブラシレスDCモータ(モータという)11の各相巻線が接続されている。
【0012】
ノイズフィルタ2は、リアクタLr,Ls,Ltおよび線間コンデンサCrs,Cst,Ctrを含み、PWMコンバータ3のスイッチングに伴って電源電圧に重畳するノイズを除去する。PWMコンバータ3は、複数のリアクタ20r,20s,20t、これらリアクタ20r,20s,20tを経た入力電圧を全波整流する複数のダイオード21a~26aのブリッジ回路、これらダイオード21a~26aに並列接続されたスイッチ素子たとえばIGBT21~26を備え、ダイオード21a~26aによる直流変換機能を有するとともに、IGBT21~26のオン,オフによる昇圧・高調波抑制・力率改善等の機能を有し、例えば200Vの交流電圧を300Vの直流電圧に変換することが可能である。
【0013】
図1に示すように、IGBT21,22の相互接続点とPWMコンバータ3の負側出力端との間に生じる電圧が、IGBT21を上側スイッチ素子としてIGBT22を下側スイッチ素子とするR相直列回路の出力電圧Vdcrとなる。IGBT23,24の相互接続点とPWMコンバータ3の負側出力端との間に生じる電圧が、IGBT23を上側スイッチ素子としてIGBT24を下側スイッチ素子とするS相直列回路の出力電圧Vdcsとなる。IGBT25,26の相互接続点とPWMコンバータ3の負側出力端との間に生じる電圧が、IGBT25を上側スイッチ素子としてIGBT26を下側スイッチ素子とするT相直列回路の出力電圧Vdctとなる。
【0014】
インバータ5は、PWMコンバータ3の直流出力電圧(平滑コンデンサ4の電圧)Vdcを入力とし、これを所定周波数の三相交流電圧に変換してモータ11への駆動電力として出力する。このインバータ5の出力電圧の周波数(出力周波数)Fに応じてモータ11の回転速度(回転数)が変化する。
【0015】
モータ11は、冷凍サイクル用の圧縮機12を駆動する圧縮機モータであり、圧縮機12の密閉ケースに収容されている。圧縮機12は、冷媒を吸込んで圧縮し吐出する。この圧縮機12の吐出口に凝縮器13が配管接続され、その凝縮器13に膨張弁14を介して蒸発器15が配管接続され、その蒸発器15に圧縮機12の吸込口が配管接続されている。この配管接続により、圧縮機12の吐出冷媒が図示矢印の方向に循環させる冷凍サイクルが構成されている。モータ11は、三相DCブラシレスモータであり、一般に4極または6極モータが用いられる。
【0016】
インバータ5の出力端とモータ11との間の通電路に、モータ11の各相巻線、ここでは三相巻線のそれぞれの入力電流(モータ電流という)を検知する電流センサ16が配置されている。この電流センサ16の検知結果がインバータ制御部41に送られる。
【0017】
インバータ制御部41は、上位の制御装置、例えば空気調和機等の冷凍サイクル制御器の指示に従って、インバータ5を制御してモータ11の回転数を制御するとともに、PWMコンバータ3の直流出力電圧Vdcに対する目標値Vdcrefをモータ11の負荷に応じて定め、その目標値Vdcrefを後述するコンバータ制御部30へ送る。より具体的には、モータ11の回転数が高速回転域に入り、モータ11の巻線に生じる逆起電力が高くなれば、その逆起電力に打ち勝ってモータ11を駆動できる電圧値を算出し、その電圧値となるように目標値Vdcrefを指示する。
【0018】
ノイズフィルタ2とPWMコンバータ3との間の通電路に、PWMコンバータ3への入力電流(リアクタ電流)Ir,Is,Itを検知する電流センサ6r,6s,6tが配置されている。これら電流センサ6r,6s,6tの検知結果がコンバータ制御部30に送られる。
【0019】
コンバータ制御部30は、マイクロコンピュータおよびその周辺部からなり、PWMコンバータ3の直流出力電圧Vdcが目標値Vdcrefとなるよう、かつPWMコンバータ3への入力電流Ir,Is,Itがそれぞれ正弦波となるよう、PWMコンバータ3のスイッチングをパルス幅変調(Pulse Width Modulation)により制御する。さらに、コンバータ制御部30は、このパルス幅変調が過変調の状態となるPWMコンバータ3の運転領域において、PWMコンバータ3への入力電流Ir,Is,Itの歪δ(%)が減少する方向に、スイッチ素子21~26のオン,オフ時の短絡防止用のデッドタイムtdの長さを切換える。これらの制御を実現する具体的な手段として、コンバータ制御部30は、減算部31、PI制御器32、電流検出部33、減算部34,35、PI制御器36,37、交流電圧指令部38、駆動信号生成部39、零クロス検出部40を含む。
【0020】
減算部31は、PWMコンバータ3の直流出力電圧Vdcと目標値Vdcrefとの電圧偏差ΔVdcを得る。目標値Vdcrefは、PWMコンバータ3の直流出力電圧Vdcに対する目標値であって、インバータ5によるモータ駆動に必要な値がインバータ制御部41から指令される。PI制御器32は、電圧偏差ΔVdcを入力とする比例・積分演算により、PWMコンバータ3への入力電流に対する有効分電流目標値Idrefを求める。電流検出部33は、電流センサ6r,6s,6tの検知電流(リアクタ電流)Ir,Is,ItをPWMコンバータ3への入力電流として取込み、その入力電流を有効分電流(d軸電流)Idおよび無効分電流(q軸電流)Iqに座標変換する。
【0021】
減算部34は、有効分電流Idと有効分電流目標値Idrefとの電流偏差ΔIdを得る。減算部35は、無効分電流Iqと無効分電流目標値Iqref(=零)との電流偏差ΔIqを得る。PI制御器36は、電流偏差ΔIdを入力とする比例・積分演算により、PWMコンバータ3の有効分電圧操作値Vdrefを求める。PI制御器37は、電流偏差ΔIqを入力とする比例・積分演算により、PWMコンバータ3の無効分電圧操作値Vqrefを求める。零クロス検出部40は、PWMコンバータ3への入力電圧Vr,Vs,Vtの零クロス点θを検出し、その検出結果を電流検出部33および交流電圧指令部38に送るとともに後述の高調波検出部50に送る。
【0022】
交流電圧指令部38は、PI制御器36で求めた有効分電圧操作値VdrefおよびPI制御器37で求めた無効分電圧操作値Vqrefに基づき、PWMコンバータ3の交流電圧指令値Vrref,Vsref,Vtrefを生成する。駆動信号生成部39は、所定周波数の三角波状のキャリア信号の電圧レベルと零クロス検出部40で検出された零クロス点θを基準にした正弦波でなる交流電圧指令値Vrref,Vsref,Vtrefの電圧レベルとを比較することにより、交流電圧指令値Vrref,Vsref,Vtrefの電圧レベルに応じてオン,オフデューティ(パルス幅)が定まるスイッチング用の複数の駆動信号を生成し出力する。
【0023】
ここまでのコンバータ制御部30の構成において、PI制御器32が電圧制御系として機能し、PI制御器36,37が電流制御系として機能する。
【0024】
とくに、駆動信号生成部39は、具体的な構成として図2に示す除算部51r,51s,51t、比較部52r,52s,52t、反転部(NOT回路)53r,53s,53t、およびデッドタイム付加部54を含む。
【0025】
除算部51r,51s,51tは、交流電圧指令値Vrref,Vsref,VtrefをPWMコンバータ3の直流出力電圧Vdcで除算することにより、交流電圧指令値Vrref,Vsref,Vtrefをデューティ指令値Dr,Ds,Dtとして正規化する。デューティ指令値Dr,Ds,Dtは、PWMコンバータ3におけるスイッチ素子21~26のオン,オフデューティを決定する。
【0026】
比較部52r,52s,52tは、所定周波数のキャリア信号(三角波信号)Aの電圧レベルとデューティ指令値Dr,Ds,Dtの電圧レベルとを比較することにより、デューティ指令値Dr,Ds,Dtに応じてオン,オフデューティ(パルス幅)が定まるスイッチング用の複数の駆動信号Gr,Gs,Gtを生成する。この駆動信号Gr,Gs,Gtは、上側スイッチ素子であるIGBT21,23,25のゲートにそれぞれ供給され、そのIGBT21,23,25をオン,オフ駆動する。駆動信号Gr,Gs,Gtが論理“1”レベルのときIGBT21,23,25がオンし、駆動信号Gr,Gs,Gtが論理“0”レベルのときIGBT21,23,25がオフする。
【0027】
反転部53r,53s,53tは、駆動信号Gr,Gs,Gtの論理レベルを反転することにより、下側スイッチ素子であるIGBT22,24,26に対するスイッチング用の駆動信号Gr´,Gs´,Gt´を生成する。この駆動信号Gr´,Gs´,Gt´がIGBT22,24,26のゲートに供給される。この駆動信号Gr´,Gs´,Gt´は、下側スイッチ素子であるIGBT22,24,26のゲートにそれぞれ供給され、そのIGBT22,24,26をオン,オフ駆動する。駆動信号Gr´,Gs´,Gt´が論理“1”レベルのときIGBT22,24,26がオンし、駆動信号Gr´,Gs´,Gt´が論理“0”レベルのときIGBT22,24,26がオフする。
【0028】
デッドタイム付加部54は、駆動信号Gr,Gs,Gtの論理“1”レベルから論理“0”レベルへの立下がりタイミングと駆動信号Gr´,Gs´,Gt´の論理“0”レベルから論理“1”レベルへの立上りタイミングとの間に短絡防止用の時間差であるデッドタイムtdを付加するとともに、駆動信号Gr´,Gs´,Gt´の論理“1”レベルから論理“0”レベルへの立下がりタイミングと駆動信号Gr,Gs,Gtの論理“0”レベルから論理“1”レベルへの立上りタイミングとの間に同じくデッドタイムtdを付加する。通常は論理“0”レベルから論理“1”レベルへの立上りタイミングのみ遅延を設けることでデッドタイムtdが形成される。このデッドタイムtdの付加により、R相直列回路におけるIGBT21,22の同時オンによる不要な短絡回路の形成が回避され、S相直列回路におけるIGBT23,24の同時オンによる不要な短絡回路の形成が回避され、T相直列回路におけるIGBT25,26の同時オンによる不要な短絡回路の形成が回避される。
【0029】
PWMコンパ―タ3に用いられるスイッチ素子の特性によるが、一般的なIGBT21~26においては、その動作に最適なデッドタイムtdとして2~3μsが推奨されている。PWMコンパ―タやインバータの電力変換装置において、効率向上等の関係から、デッドタイムはないほうが望ましい。しかしながら、IGBT等の半導体スイッチ素子では、そのオン、オフが瞬時に行われるわけではなく、短時間ではあるが過渡的にオンからオフ、オフからオンに移行する。したがって、上下のスイッチ素子が同時オンして短絡しないようにスイッチ素子のオン、オフの応答時間に応じて通常は最低限必要なデッドタイムtdが定められる。
【0030】
デッドタイム付加部54は、PWMコンバータ3の直流出力電圧Vdcが入力され、通常時のデッドタイムtdとしてスイッチ素子の推奨値である第1デッドタイムたとえば2μs及びもう1つのデッドタイムtdとして第1デッドタイムより長い第2デッドタイムたとえば5μsを内部メモリに保持しており、これら第1および第2デッドタイムのいずれかをPWMコンバータ3の運転状況、すなわち、PWMコンパ―タ3のパルス幅変調の変調率αに応じて選択的に読み出して各駆動信号に付加する。
【0031】
駆動信号Gr,Gr´にデッドタイムtdを付加した場合に得られるR相直列回路の出力電圧Vdcrの波形を図3に示す。
【0032】
図3において、PWMコンバータ3の直流出力電圧Vdcが非スイッチングによる無負荷時直流電圧Vdc(st)の2/√3倍(約1.15倍)未満のとき、正規化されたデューティ指令値Dr(Ds,Dt)の電圧レベルがキャリア信号Aの電圧レベルを超える過変調の状態となる。PWMコンバータ3の直流出力電圧Vdcを高める必要のない低負荷時にはこの過変調の状態を設定することにより、PWMコンバータ3のスイッチング回数を低減して、スイッチングによる電力ロスを低減することができる。
【0033】
過変調の移行は、インバータ制御部41が出力する目標値Vdcrefに基づき決定される。すなわち、インバータ制御部41が出力する目標値VdcrefがVdc(st)の2/√3倍(約1.15倍)以下であれば、PWMコンバータ3のパルス幅変調は過変調となる。本実施形態においては、インバータ制御部41が出力する目標値Vdcrefは、インバータ5によるモータ11の駆動が可能な直流出力電圧Vdcの大きさ及び発生する高調波の大きさに基づき設定される。なお、PWMコンバータ3は、その直流出力電圧Vdcが低いほどスイッチング回数が減り、効率が高くなる。
【0034】
図1に示すように、コンバータ制御部30およびインバータ制御部41に高調波検出部50が接続されている。高調波検出部50は、零クロス検出部40の検出結果および電流検出部33の検出結果に基づいて電流波形のフーリエ変換等を行うことにより、PWMコンバータ3への入力電流Ir,Is,Itに含まれる高調波の大きさを検出する。
【0035】
そして、高調波検出部50は、検出した高調波の大きさに応じて目標値Vdcrefを変化させるためのVdcアップ/ダウン指令をインバータ制御部41へ送る。すなわち、高調波検出部50は、検出高調波が所定値以上の場合はその高調波が小さくなるよう目標値Vdcrefを高めるVdcアップ指令をインバータ制御部41へ送り、検出高調波が所定値未満の場合はPWMコンバータ3の効率が向上するよう目標値Vdcrefを低めるVdcダウン指令をインバータ制御部41へ送る。
【0036】
但し、インバータ制御部41は、Vdcダウン指令を受けた場合でも、前述の通りモータ11を高速回転させる必要性がある場合には、モータ巻線の逆起電力に打ち勝ってモータ11の高速駆動が可能となる電圧にインバータ5の出力電圧を高めるべく、PWMコンバータ3の直流出力電圧Vdcに対する目標値Vdcrefを上昇させる。
【0037】
三相交流電源1の相電圧Vr,Vs,Vtが互いにほぼ同じ平衡状態にあるときの入力電流Ir,Is,Itの歪みδとPWMコンバータ3の昇圧比αとの関係を図4にグラフとして示す。入力電流Ir,Is,Itの歪みδは互いにほぼ一致するので、図4では1つの相の入力電流の歪みδのみ示している。昇圧比αは、PWMコンバータ3のスイッチングにより得られるPWMコンバータ3の直流出力電圧Vdcと、PWMコンバータ3のスイッチングが停止しているときのPWMコンバータ3の直流出力電圧いわゆる無負荷時直流電圧Vdc(st)との比であり、α=Vdc/Vdc(st)となる。
【0038】
歪みδ、すなわちPWMコンバータ3の入力電流に含まれる高調波含有率は、昇圧比αの上昇方向の変化に伴い、一旦下降してから上昇に転じて谷間を形成し、その谷間から山なりに上昇して再び下降していく。その後、歪みδは、過変調領域から脱したところで、上記谷間の最小値より十分に低い値で安定する。
【0039】
ここで、歪みδは、各駆動信号に付加するデッドタイムtdの長さによっても変化することが本発明者らに見いだされた。昇圧比αが“1.15”以下となる過変調の領域について見ると、昇圧比αが所定値である“1.10”以上の領域ではデッドタイムtdとして図4中の細かい破線で示す5μsを選定するより同図中荒い点線で示す2μsを選定した方が歪みδが減少し、昇圧比αが“1.10”未満の領域ではデッドタイムtdとして2μsを選定するより5μsを選定した方が歪みδが減少する。さらに図4には参考のため、理想的なデッドタイムがない、すなわちtd=0μs、の場合の昇圧比αと歪みδの関係も合わせて実線にて示している。これによれば、昇圧比αが“1.10”以上の領域ではデッドタイムtdが短いほど歪みδが減少し、過変調領域を超えた昇圧比αが“1.15”より大きい領域においても同様である。一方、昇圧比αが“1.10”未満の領域ではデッドタイムtdが長い方が歪みδが減少することが分かる。但し、デットタイムtdを大きくし過ぎると、PWMコンバータ3の直流出力電圧Vdcの波形が乱れ、PWMコンバータ3に対する出力電圧制御が不安定になるため、デットタイムtdを極端に大きくすることはできない。この図5のグラフに基づき、インバータ制御部41では、目標値Vdcrefの下限値として、高調波が最も小さくなる昇圧比α=“0.97”近傍の電圧すなわちVdc=“0.97”×Vdc(st)が設定されている。ここで、昇圧比α=“0.97”近傍とは、昇圧比α=“0.96”~“0.98”の範囲にあることを意味する。したがって、実際にインバータ制御部41が出力する目標値Vdcrefは、上述の通り高調波電流が増加した場合またはモータ11の高速回転駆動が必要な場合は上昇し、それ以外の場合は下限値であるVdc=“0.97”×Vdc(st)に制御されることになる。
【0040】
デッドタイム付加部54は、この歪みδと昇圧比αの関係を考慮し、図5のフローチャートに示す制御を実行する。
【0041】
まず、デッドタイム付加部54は、PWMコンバータ3の非スイッチングによる無負荷時直流電圧Vdc(st)、例えば、三相交流電源1の電圧が200Vであれば、これを全波整流した直流電圧であるVdc(st)=200V×√2≒283V、を内部メモリにあらかじめ保持しており、この無負荷時直流電圧Vdc(st)とPWMコンバータ3の直流出力電圧Vdcとに基づいてPWMコンバータ3の昇圧比αを算出する(S1)。なお、より制御精度を高めるためには、PWMコンバータ3及びインバータ5の運転開始前の平滑コンデンサ4の両端間電圧Vdcを無負荷時直流電圧Vdc(st)として記憶させて使用することが望ましい。そして、デッドタイム付加部54は、算出した昇圧比αと所定値“1.10”とを比較する(S2)。
【0042】
昇圧比αが所定値“1.10”以上の場合(S2のNO)、デッドタイム付加部54は、各駆動信号に付加するデッドタイムtdとして通常の長さの2μsを選定する(S3)。そして、デッドタイム付加部54は、上記S1の判定に戻る。
【0043】
昇圧比αが“1.10”未満の場合(S2のYES)、デッドタイム付加部54は、各駆動信号に付加するデッドタイムtdとして通常より長い5μsを選定する(S4)。そして、デッドタイム付加部54は、上記S1の判定に戻る。この制御によって、過変調により生じる入力電流Ir,Is,Itの歪みδを小さくする適切なデッドタイムを昇圧比αに応じて選定することができる。なお、この制御によって、過変調域である昇圧比αが“1.15”以上においても、S2はNOとなり入力電流の歪みδを小さくするデッドタイムが選定されることになる。
【0044】
以上の制御により、PWMコンバータ5、ひいては電力変換装置の広い運転範囲において入力電流Ir,Is,Itの歪みδを減少することができる。
【0045】
なお、上記実施形態では、負荷が三相ブラシレスDCモータである場合を例に説明したが、負荷に限定はなく、種々の電気機器への適用も可能である。
【0046】
上記実施形態および変形例は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態および変形例は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、書き換え、変更を行うことができる。これら実施形態や変形は、発明の範囲は要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0047】
1…三相交流電源、3…三相PWMコンバータ、5…インバータ、11…三相DCブラシレスモータ、30…コンバータ制御部、33…電流検出部、38…交流電圧指令部、39…駆動信号生成部、41…インバータ制御部、50…高調波検出部、54…デッドタイム付加部
図1
図2
図3
図4
図5