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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】鉄道車両の車体傾斜装置
(51)【国際特許分類】
   B61F 5/22 20060101AFI20240415BHJP
【FI】
B61F5/22 F
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020181307
(22)【出願日】2020-10-29
(65)【公開番号】P2022072076
(43)【公開日】2022-05-17
【審査請求日】2023-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 信之
(72)【発明者】
【氏名】谷川 安彦
(72)【発明者】
【氏名】近藤 淳平
【審査官】西中村 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-076480(JP,A)
【文献】特開2015-147478(JP,A)
【文献】特開2004-243795(JP,A)
【文献】特開平06-107172(JP,A)
【文献】国際公開第2014/064164(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第110901676(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61F 5/10、5/22
B60G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
台車に載置され車体を支持する空気バネと、
前記空気バネに供給するための圧縮空気を貯留する空気溜めと、
前記空気バネと前記空気溜めの間の空気流路に設けられて前記車体の高さ位置に応じて圧縮空気の供給と排気と遮断を行う高さ調整装置を備え、
前記高さ調整装置は、
前記車体が通常位置にあるときに圧縮空気の流れを遮断し、前記車体が上昇位置にあるときに圧縮空気を大気に排気する通常用LV(パッシブレベリングバルブ)と、
前記車体が通常位置にあるときに前記空気バネに圧縮空気を供給し、前記車体が上昇位置にあるときに圧縮空気の流れを遮断する傾斜用LV(傾斜レベリングバルブ)を有し、
前記通常用LVと前記空気バネの間の通常側流路における圧縮空気の流れを連通又は遮断すると共に、前記傾斜用LVと前記空気バネの間の傾斜側流路における圧縮空気の流れを連通又は遮断する電磁弁装置が設けられた鉄道車両の車体傾斜装置において、
前記車体のロール角度を検知するロール角度検知手段を有し、
前記電磁弁装置は、前記ロール角度検知手段が検知するロール角度が所定角度を越えたときに、前記通常側流路の圧縮空気の流れを遮断すると共に、前記傾斜側流路の圧縮空気の流れを連通すること、
を特徴とする鉄道車両の車体傾斜装置。
【請求項2】
請求項1に記載する鉄道車両の車体傾斜装置において、
前記電磁弁装置は、
前記車体が入口緩和曲線を通過しているときには、外軌側の前記傾斜用LV及び内軌側の前記通常用LVを作動させること、
前記車体が出口緩和曲線を通過しているときには、内軌側の前記傾斜用LV及び外軌側の前記通常用LVを作動させること、
を特徴とする鉄道車両の車体傾斜装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載する鉄道車両の車体傾斜装置において、
前記ロール角度検知手段は、
鉄道車両の走行速度と、次に通過する予定の曲線区間の曲率半径と、カント量とから遠心加速度を算出し、前記遠心加速度から、車体のロール量を推定すること、
前記車体のロール量が最大となるロール最大地点を推定すること、
前記ロール最大地点で前記車体のロール量を抑制できるように、予め車体が沈み込む側の空気回路を前記傾斜用LVに切り替えること、
を特徴とする鉄道車両の車体傾斜装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載する鉄道車両の車体傾斜装置において、
前記ロール角度検知手段は、前記通常用LVまたは前記傾斜用LVに取り付けられたセンサからロール角度を検出すること、
を特徴とする鉄道車両の車体傾斜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、台車に載置され、車体を支持する空気バネと、空気バネに供給するための圧縮空気を貯留する空気溜めと、空気バネと空気溜めの間の空気流路に設けられて車体の高さ位置に応じて圧縮空気の供給と排気と遮断とを行う高さ調整装置とを備える鉄道車両の車体傾斜装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道車両は、特許文献1、2に示すように、台車に載置され、車体を支持する空気バネと、空気バネに供給するための圧縮空気を貯留する空気溜めと、空気バネと空気溜めの間の空気流路に設けられて車体の高さ位置に応じて圧縮空気の供給と排気と遮断とを行う高さ調整装置であるレベリングバルブ(LV)とを備えている。ここで、レベリングバルブは、空気バネを通常の高さに保つためのLV(通常用LV)と、曲線通過時の乗り心地を向上するために車体傾斜を行うためのLV(傾斜用LV)を備えており、傾斜指令に合わせて、通常用LVと傾斜用LVを切り替えることにより、車体傾斜制御を行っている。
【0003】
通常用LVと傾斜用LVを切り替える理由は、通常用LVによる非傾斜にて曲線区間を高速走行した場合に、遠心力と通常用LVが持つ遅れ時間の影響により、緩和曲線を通過するときに車体にローリングが発生し、左右定常加速度が大きくなり乗り心地が悪化してしまう。それを防ぐために傾斜用LVに切替えて傾斜走行しているのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-076480号公報
【文献】特開2015-147478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の鉄道車両の車体傾斜装置には、次のような問題があった。
曲線区間は、曲率が様々であり、また、緩和曲線の距離も様々であるが、従来は、曲線区間(入口緩和曲線の入口から出口緩和曲線の出口までの区間)で一律の車高値になるように傾斜用LVに切り替えている。
曲率半径が大きく緩やかな曲線区間では、遠心力が小さいため乗り心地確保に必要な車高上昇量は小さくなるが、傾斜用LVでは、一律の車高値でしか制御できないため、必要以上に車高を上昇させてしまい、空気を過剰に消費してしまう問題があった。
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するためのものであり、車体にローリングが発生したときにのみ傾斜用LVに切り替えることにより、乗り心地を向上させると共に、圧縮空気の消費量を削減できる鉄道車両の車体傾斜装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の鉄道車両の車体傾斜装置は、次のような構成を有している。
(1)台車に載置され車体を支持する空気バネと、空気バネに供給するための圧縮空気を貯留する空気溜めと、空気バネと空気溜めの間の空気流路に設けられて車体の高さ位置に応じて圧縮空気の供給と排気と遮断を行う高さ調整装置とを備え、高さ調整装置は、車体が通常位置にあるときに圧縮空気の流れを遮断し、車体が上昇位置にあるときに圧縮空気を大気に排気する通常用LV(パッシブレベリングバルブ)と、車体が通常位置にあるときに空気バネに圧縮空気を供給し、車体が上昇位置にあるときに圧縮空気の流れを遮断する傾斜用LV(傾斜レベリングバルブ)を有し、通常用LVと空気バネの間の通常側流路における圧縮空気の流れを連通又は遮断すると共に、傾斜用LVと空気バネの間の傾斜側流路における圧縮空気の流れを連通又は遮断する電磁弁装置が設けられた鉄道車両の車体傾斜装置において、車体のロール角度を検知するロール角度検知手段を有し、電磁弁装置は、ロール角度検知手段が検知するロール角度が所定角度を越えたときに、通常側流路の圧縮空気の流れを遮断すると共に、傾斜側流路の圧縮空気の流れを連通すること、を特徴とする。
ここで、通常側流路の圧縮空気の流れを連通すると共に、傾斜側流路の圧縮空気の流れを遮断することは、通常用LVで制御することを意味する。また、通常側流路の圧縮空気の流れを遮断すると共に、傾斜側流路の圧縮空気の流れを連通することは、傾斜用LVで制御することを意味する。
また、車体のロール角度とは、台車に対する車体のロール角度を言う。すなわち、車体の絶対ロール角ではなく、台車に対する相対ロール角を0とする制御である。
【0008】
(2)(1)に記載する鉄道車両の車体傾斜装置において、電磁弁装置は、車体が入口緩和曲線を通過しているときには、外軌側の傾斜用LV及び内軌側の通常用LVを作動させること、車体が出口緩和曲線を通過しているときには、内軌側の傾斜用LV及び外軌側の通常用LVを作動させること、を特徴とする。ここで、内軌とは、曲線区間の内周側軌道を言い、外軌とは、曲線区間の外周側軌道を言う。
【0009】
(3)(1)または(2)に記載する鉄道車両の車体傾斜装置において、ロール角度検知手段は、鉄道車両の走行速度と、次に通過する予定の曲線区間の曲率半径と、カント量から遠心加速度を算出し、その遠心加速度から車体のロール量を推定すること、その車体のロール量が最大となるロール最大地点を推定すること、ロール最大地点で車体のロール量を抑制できるように、予め車体が沈み込む側の空気回路を傾斜用LVに切り替えること、を特徴とする。
(4)(1)または(2)に記載する鉄道車両の車体傾斜装置において、ロール角度検知手段は、通常用LVまたは傾斜用LVに取り付けられたセンサからロール角度を検出すること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
(1)台車に載置され車体を支持する空気バネと、空気バネに供給するための圧縮空気を貯留する空気溜めと、空気バネと空気溜めの間の空気流路に設けられて車体の高さ位置に応じて圧縮空気の供給と排気と遮断を行う高さ調整装置とを備え、高さ調整装置は、車体が通常位置にあるときに圧縮空気の流れを遮断し、車体が上昇位置にあるときに圧縮空気を大気に排気する通常用LV(パッシブレベリングバルブ)と、車体が通常位置にあるときに空気バネに圧縮空気を供給し、車体が上昇位置にあるときに圧縮空気の流れを遮断する傾斜用LV(傾斜レベリングバルブ)を有し、通常用LVと空気バネの間の通常側流路における圧縮空気の流れを連通又は遮断すると共に、傾斜用LVと空気バネの間の傾斜側流路における圧縮空気の流れを連通又は遮断する電磁弁装置が設けられた鉄道車両の車体傾斜装置において、車体のロール角度を検知するロール角度検知手段を有し、電磁弁装置は、ロール角度検知手段が検知するロール角度が所定角度を越えたときに、通常側流路の圧縮空気の流れを遮断すると共に、傾斜側流路の圧縮空気の流れを連通すること、を特徴とするので、全ての曲線区間において傾斜用LVに切り替えるのではなく、曲率半径が大きく緩やかな曲線区間(遠心力が小さく、車体ロール量が閾値以下となる曲線)については、通常用LVを作動させるため、乗り心地を確保しつつ、空気消費量の削減が可能となる。
【0011】
(2)(1)に記載する鉄道車両の車体傾斜装置において、電磁弁装置は、車体が入口緩和曲線を通過しているときには、外軌側の傾斜用LV及び内軌側の通常用LVを作動させること、車体が出口緩和曲線を通過しているときには、内軌側の傾斜用LV及び外軌用の通常用LVを作動させること、を特徴とするので、入口緩和曲線及び出口緩和曲線の各々において、車高沈み量を抑制でき、乗り心地を向上させることができる。
【0012】
(3)(1)または(2)に記載する鉄道車両の車体傾斜装置において、ロール角度検知手段は、鉄道車両の走行速度と、次に通過する予定の曲線区間の曲率半径と、カント量から遠心加速度を算出し、その遠心加速度から車体のロール量を推定すること、その車体のロール量が最大となるロール最大地点を推定すること、ロール最大地点で車体のロール量を抑制できるように、予め車体が沈み込む側の空気回路を傾斜用LVに切り替えること、を特徴とするので、地点によるフィードフォワード制御を行うことにより、車体ロールを抑え、乗り心地確保に必要となる最低限の空気量のみ給気するため、圧縮空気消費量を低減することができる。
【0013】
(4)(1)または(2)に記載する鉄道車両の車体傾斜装置において、ロール角度検知手段は、通常用LVまたは傾斜用LVに取り付けられたセンサからロール角度を検出すること、を特徴とするので、車体に大きなローリングが発生したときにのみ、フィードバック制御により、傾斜用LVに切替えるため、空気消費量を削減しつつ、乗り心地を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】車体傾斜制御部15に記憶されている制御プログラムのブロック図である。
図2】遠心加速度と車体のロール量(台車に対する相対ロール量)グラフである。
図3】曲線部における最大ロール量が発生する地点の分布の統計データを示す図である。
図4】入口緩和曲線部、曲線区間、出口緩和曲線部における曲率を示す図、及び車体のロール量を示す図である。
図5】車体の傾斜状態を示す図である。
図6】車体傾斜装置10の構成を示す図である。
図7】車体傾斜装置10の傾斜用LVの作用を示す図である。
図8】第1実施の形態の制御装置のブロック図である。
図9】第2実施の形態の制御装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の鉄道車両の車体傾斜装置10の実施形態について、図を参照しながら以下に詳細に説明する。図6に、車体傾斜装置10の構成を示す。
車体傾斜装置10は、図6に示すように、台車12の中央に載置された空気バネ13と、空気バネ13の両側に、第1連結棒23と第2連結棒33が立設されている。
車体11の第1連結棒23の上端近傍には、通常用LV21(パッシブレベリングバルブ)が固設されている。第1連結棒23の上端部と通常用LV21には、第1アーム22の両端部が各々回転可能に保持されている。第1連結棒23の上端部には、第1アーム22の台車12に対する傾斜角度を検出するためのセンサ41が載置されている。
車体11の第2連結棒33の上端近傍には、傾斜用LV31(傾斜用レベリングバルブ)が固設されている。第2連結棒33の上端部と傾斜用LV31には、第2アーム32の両端部が各々回転可能に保持されている。
【0016】
通常用LV21と空気バネ13との間は、通常側流路25により接続され、通常側流路25には、圧縮空気の流れを連通又は遮断する通常側電磁弁26が設けられている。通常用LV21は、空気配管24により空気溜め14に接続されている。
傾斜用LV31と空気バネ13との間は、傾斜側流路35により接続され、傾斜側流路35の流路には、圧縮空気の流れを連通又は遮断する傾斜側電磁弁36が設けられている。傾斜用LV31は、空気配管34により空気溜め14に接続されている。
通常側電磁弁26と傾斜側電磁弁36は、車体傾斜制御部15に電気的に接続されている。
【0017】
図6に示すように、車体11が通常位置にあるときに、第1アーム22が水平になり、通常用LV21は圧縮空気の流れを遮断する側に設定されている。また、第2アーム32は傾斜用LV31から上方傾斜して、傾斜用LV31が空気バネ13に圧縮空気を供給する側に設定されている。
この車体傾斜装置10では、通常時は、車体傾斜制御部15が通常側電磁弁26により通常側流路25を連通し、かつ傾斜側電磁弁36により傾斜側流路35を遮断するように制御する。これにより、空気溜め14の圧縮空気は傾斜用LV31を通過できるものの、傾斜側電磁弁36を通過することができない。つまり、傾斜用LV31が機能しない。
【0018】
このため、例えば乗客が減少して車体11の高さ位置が上昇すると、図7に示すように第1アーム22が通常用LV21から下方に回転して、通常用LV21は圧縮空気を大気に排気する側に切換えられる。これにより、空気バネ13の圧縮空気が通常側流路25と通常用LV21を通って大気中に排気される。この結果、空気バネ13が収縮して車体11の高さ位置が下降する。
【0019】
一方、車体傾斜制御を行うとき、即ち曲線を走行する際に車体11を傾斜させるとき、車体傾斜制御部15は通常側電磁弁26により通常側流路25の流れを遮断し、かつ傾斜側電磁弁36により傾斜側流路35の流れを連通するように制御する。これにより、通常用LV21が機能しなくなるのに対して、傾斜用LV31が機能する。そして、上述したように、傾斜用LV31は空気バネ13に圧縮空気を供給する側に予め設定されているため、空気溜め14の圧縮空気が空気配管34と傾斜用LV31と傾斜側流路35を流れ、空気バネ13に流入する。
これにより、空気バネ13が伸張して、車体11を傾斜させることができる。ここで、車体11を上昇傾斜させる際には、台車12の枕木方向の両端に設けられている各空気バネ13のうち、曲線区間の外軌側、または内軌側に設けられている空気バネ13を伸張させる。
【0020】
次に、本発明の車体傾斜制御について詳細に説明する。
制御装置の構成を図8にブロック図で示す。本実施形態では、車両のロール量を予め鉄道車両の距離(地点)に基づいて算出し、フィードフォワード制御を行っている。
具体的には、ロール角度検知手段60は、速度計51から入力される車両速度、曲線区間の曲率半径・カント量記憶部61に記憶されている曲率半径・カント量に基づいて、超過遠心加速度を算出する(超過遠心加速度算出部62)。次に、図2に示す、遠心加速度と車体のロール量(台車に対する相対ロール量)グラフに基づいて、車体のロール量を推定する(車体のロール量推定部63)。図2のグラフは、ロール角度検知手段60に記憶されている。
【0021】
次に、図4に示す入口緩和曲線部KI、曲線区間S、出口緩和曲線部KDにおいて、車体のロール量が最大となるロール最大地点を推定する(ロール最大地点推定部64)。図3に、曲線部における最大ロール量が発生する地点の分布の統計データを示す。図3に示すように、入口緩和曲線出口、出口緩和曲線入口において、最大ロール量が発生していることがわかる。このデータを利用して、最大地点の推定を行う。
次に、最大ロール量に合わせて、空気バネ13を予め制御するための電磁弁制御情報を電磁弁指令演算部65で算出する。
電磁弁制御情報に基づいて、各部位の電磁弁により内軌側または外軌側の空気バネ13の制御を、通常用LVによる制御から傾斜用LVによる制御に切り替える。
図3によれば、傾斜用LVによる制御に切り替えるのは、入口緩和曲線部出口、出口緩和曲線入口のいずれか一方、または両方のみとしても良い。
【0022】
図1に、車体傾斜制御部15に記憶されている制御プログラムのブロック図を示す。
本プログラムによる車体傾斜制御は、入口緩和曲線入口から、出口緩和曲線出口までの区間で実行される(S1;YES)。
入口緩和曲線においては、図5(a)に示すように、遠心力により車体が外側へ傾斜する状態(外傾)となる。予め推定した車体のロール量が閾値超である場合には(S2;YES)、外軌側の空気バネの制御を、通常用LVから傾斜用LVに切り替える(S3)。そして、予め推定した車体のロール量が閾値以下になるまで(S4;NO)、外軌側の空気バネを傾斜用LVで制御する(S3)。予め推定した車体のロール量が閾値以下になると(S4;YES)、外軌側の空気バネを通常用LVに切り替える(S5)。
このように、外傾が大きくなった場合、特に入口緩和曲線の外傾が大きくなる場合、外軌側傾斜用LVを有効とすることで、外傾による左右加速度増加を抑え、乗り心地を確保することができる。また、車体ロール量が閾値超となった場合のみ外軌側傾斜用LVを有効とするため、空気消費量低減が可能となる。
【0023】
車両が進行方向に向かって右側にカーブするときには、右側空気バネが内軌側の空気バネであり、左側空気バネが外軌側の空気バネである。反対に、車両が進行方向に向かって左側にカーブするときには、左側空気バネが内軌側の空気バネであり、右側空気バネが外軌側の空気バネである。
同様に、出口緩和曲線では、予め推定した車体のロール量が、内傾により閾値超になると(S6;YES)、内軌側の空気バネの制御を、通常用LVから傾斜用LVに切り替える(S7)。そして、予め推定した車体のロール量が閾値以下になるまで(S8;NO)、内軌側の空気バネを傾斜用LVで制御する(S7)。予め推定した車体のロール量が閾値以下になると(S8;YES)、内軌側の空気バネを通常用LVに切り替える(S9)。
このように、内傾が大きくなった場合、特に出口緩和曲線で内傾が大きくなる場合、内軌側傾斜LVに切替えることで素早く内傾を抑えることが可能となり、乗り心地が向上する。
【0024】
次に、本実施形態の鉄道車両の車体傾斜装置10の動作について説明する。
図4の上部に、入口緩和曲線部KI、曲線区間S、出口緩和曲線部KDにおける曲率Mを示し、図4の下部に、車体のロール量Nを示す。両図とも横軸は距離T(地点)である。上図の縦軸は、軌道の曲率Mを示す。
下図の縦軸は図8のロール角度検知手段60が推定した車体のロール量Nを示す。内軌側に沈み込んでいる内傾状態をプラスに採り(+L)、外軌側が沈み込んでいる外傾状態をマイナスに採っている(-L)。車体傾斜制御部15は、走行速度(速度計51)から走行地点を算出している。
【0025】
車両が入口緩和曲線に入ったことを車体傾斜制御部15が検知すると、図1に示すプログラムが開始される(S1;YES)。そして、入口緩和曲線部KIにおいて、ロール角度検知手段60が推定した車体のロール量Nがマイナス方向で所定の閾値SIを下回ったとき(TS1)、外軌側の高さ調整装置の制御を、通常用LVによる制御から傾斜用LVによる制御に切り替える(S3)。そして、ロール角度検知手段60が推定した車体のロール量Nが所定の閾値SI超となったとき(TS2)、外軌側の高さ調整装置の制御を、傾斜用LVによる制御から通常用LVによる制御に切り替える(S5)。
同様に、出口緩和曲線部KDにおいて、ロール角度検知手段60が推定した車体のロール量Nがプラス方向で所定の閾値SDを越えたとき(TS3)、内軌側の高さ調整装置の制御を、通常用LVによる制御から傾斜用LVによる制御に切り替える(S7)。そして、ロール角度検知手段60が推定した車体のロール量Nが所定の閾値SD以下となったとき(TS4)、内軌側の高さ調整装置の制御を、傾斜用LVによる制御から通常用LVによる制御に切り替える(S9)。
【0026】
以上で説明したように、本実施形態の鉄道車両の車体傾斜装置10によれば、
(1)台車12に載置され車体11を支持する空気バネ13と、空気バネ13に供給するための圧縮空気を貯留する空気溜め14と、空気バネ13と空気溜め14の間の空気流路に設けられて車体11の高さ位置に応じて圧縮空気の供給と排気と遮断を行う高さ調整装置を備え、高さ調整装置は、車体11が通常位置にあるときに圧縮空気の流れを遮断し、車体11が上昇位置にあるときに圧縮空気を大気に排気する通常用LV21と、車体11が通常位置にあるときに空気バネ13に圧縮空気を供給し、車体11が上昇位置にあるときに圧縮空気の流れを遮断する傾斜用LV31を有し、通常用LV21と空気バネ13の間の通常側流路25における圧縮空気の流れを連通又は遮断すると共に、傾斜用LV31と空気バネ13の間の傾斜側流路35における圧縮空気の流れを連通又は遮断する電磁弁26、36が設けられた鉄道車両の車体傾斜装置10において、車体11のロール角度を検知するロール角度検知手段を有し、電磁弁26、36は、ロール角度検知手段が推定するロール角度が所定角度SIもしくはSDを越えたときに、通常側流路25の圧縮空気の流れを遮断すると共に、傾斜側流路35の圧縮空気の流れを連通すること、を特徴とするので、全ての曲線区間において傾斜用LV31に切り替えるのではなく、曲線半径が大きく緩やかな曲線区間(遠心力が小さく、車体ロール量が閾値以下となる曲線)においては、通常用LV21を作動させるため、乗り心地を確保しつつ、空気消費量の削減が可能となる。
【0027】
(2)(1)に記載する鉄道車両の車体傾斜装置10において、電磁弁26、36は、車体11が入口緩和曲線部KIを通過しているときには、外軌側の傾斜用LV31及び内軌側の通常用LV21を作動させること、車体11が出口緩和曲線部KDを通過しているときには、内軌側の傾斜用LV31及び外軌側の通常用LV21を作動させること、を特徴とするので、入口緩和曲線部KI及び出口緩和曲線部KDの各々において、車高沈み量を抑制でき、乗り心地を向上することができる。
【0028】
(3)(1)または(2)に記載する鉄道車両の車体傾斜装置10において、ロール角度検知手段60は、鉄道車両の走行速度と、次に通過する予定の曲線区間の曲率半径と、カント量とから遠心加速度を算出し、その遠心加速度から、車体のロール量を推定すること、その車体のロール量が最大となるロール最大地点を推定すること、ロール最大地点で車体のロール量を抑制できるように、予め車体が沈み込む側の空気回路を傾斜用LVに切り替えること、を特徴とするので、地点によるフィードフォワード制御を行うことにより、車体ロールを抑え、乗り心地確保に必要となる最低限の空気量のみ給気するため、圧縮空気消費量を低減することができる。
【0029】
次に、本発明の第2の実施形態の鉄道車両の車体傾斜装置10について説明する。第2の実施形態の鉄道車両の車体傾斜装置10は、概略第1の実施形態と同じ構成を有しているので、異なる部分についてのみ詳細に説明し、同じ部分については説明を割愛する。
図9に、制御装置のブロック図を示す。車体傾斜制御部15には、入力として第1センサ41A及び第2センサ41Bがロール角度検知手段42を介して接続されている。また、車体傾斜制御部15には、出力として第1空気バネ通常側電磁弁26A、第1空気バネ傾斜側電磁弁36A、第2空気バネ通常側電磁弁26B、及び第2空気バネ傾斜側電磁弁36Bが接続されている。
ここで、第1空気バネとは、枕木方向において車両の進行方向に向かって左側にある空気バネを言う。また、第2空気バネとは、枕木方向において車両の進行方向に向かって右側にある空気バネを言う。
車両が進行方向で右側にカーブするときには、第2空気バネが内軌側となり、第1空気バネが外軌側となる。また、車両が進行方向で左側にカーブするときには、第1空気バネが内軌側となり、第2空気バネが外軌側となる。第1センサ41Aは、第1空気バネにおける車高値を計測し、第2センサ41Bは、第2空気バネにおける車高値を計測しており、ロール角度検知手段42において、第1及び第2センサ41A、41Bの車高値から車体の傾斜角度(車体のロール量)を算出している。
【0030】
以上で説明したように、第2の実施形態の鉄道車両の車体傾斜装置10によれば、
(4)(1)または(2)に記載する鉄道車両の車体傾斜装置10において、ロール角度検知手段42は、通常用LV21または傾斜用LV31に取り付けられたセンサ41からロール角度を検出すること、を特徴とするので、車体11に大きなローリングが発生したときにのみ、フィードバック制御により、傾斜用LV31に切替えるため、乗り心地を向上することができる。
【0031】
なお、本実施形態は単なる例示にすぎず、本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に、その要旨を逸脱しない範囲内で様々な改良、変形が可能である。
例えば、本実施の形態では、センサ41を通常用LV21、傾斜用LV31のいずれか一方に載置しているが、両方に載置しても良い。
また、本実施の形態では、ロール角度を検出するためにセンサ41を用いているが、車体のロール量が測れればよく、角度センサや、変位センサを用いても良い。
【符号の説明】
【0032】
10 鉄道車両の車体傾斜装置
11 車体
12 台車
13 空気バネ
14 空気溜め
21 通常用LV
26 通常側電磁弁
31 傾斜用LV
36 傾斜側電磁弁
41 センサ
60 ロール角度検知手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9