IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日産自動車株式会社の特許一覧 ▶ ビーエーエスエフ コーティングス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツングの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】複層塗膜形成方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 1/36 20060101AFI20240415BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20240415BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20240415BHJP
【FI】
B05D1/36 A
B05D7/24 302P
B05D7/14 L
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020189187
(22)【出願日】2020-11-13
(65)【公開番号】P2022078487
(43)【公開日】2022-05-25
【審査請求日】2022-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390008981
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ コーティングス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】BASF Coatings GmbH
【住所又は居所原語表記】Glasuritstrasse 1, D-48165 Muenster,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】岡本 倫幸
(72)【発明者】
【氏名】道浦 千恵
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 智
(72)【発明者】
【氏名】二又 洸太
(72)【発明者】
【氏名】後藤 丈志
(72)【発明者】
【氏名】栗山 直樹
(72)【発明者】
【氏名】角田 剛
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-253160(JP,A)
【文献】特開2019-099728(JP,A)
【文献】特開2018-199765(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D1/00-7/26
C09D1/00-10/00
101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電着塗料が塗装され、形成された電着塗膜の焼付けが完了した自動車車体用の金属上に、中塗り塗料組成物、ベース塗料組成物、クリヤー塗料組成物を順次塗装し、加熱硬化させて複層塗膜を形成する方法であって、
前記クリヤー塗料組成物は、主剤(A)と、硬化剤(B)とを混合することにより得られ、
前記主剤(A)は、
主体樹脂としての水酸基含有アクリル樹脂(A-1)と、
前記水酸基含有アクリル樹脂(A-1)の固形分質量に対して、0.01~3.0質量%の表面調整剤(A-2)と、を含み、
前記水酸基含有アクリル樹脂(A-1)は、水酸基価80~250mgKOH/g、質量平均分子量1,000~30,000、SP値9.0~12.0であり、
前記表面調整剤(A-2)は、アクリル樹脂(A-2-i)と、樹脂(A-2-ii)をグラフトすることにより得られた質量平均分子量が3,000~100,000の重合物であり、
前記アクリル樹脂(A-2-i)のSP値は、8.5~10.0の範囲にあり、
前記樹脂(A-2-ii)のSP値は、前記アクリル樹脂(A-2-i)のSP値よりも2.0以上高く、
前記加熱硬化の焼付温度が75~100℃であることを特徴とする複層塗膜形成方法。
【請求項2】
自動車外装用の樹脂素材上に、中塗り塗料組成物、ベース塗料組成物、クリヤー塗料組成物を順次塗装し、加熱硬化させて複層塗膜を形成する方法であって、
前記クリヤー塗料組成物は、主剤(A)と、硬化剤(B)とを混合することにより得られ、
前記主剤(A)は、
主体樹脂としての水酸基含有アクリル樹脂(A-1)と、
前記水酸基含有アクリル樹脂(A-1)の固形分質量に対して、0.01~3.0質量%の表面調整剤(A-2)と、を含み、
前記水酸基含有アクリル樹脂(A-1)は、水酸基価80~250mgKOH/g、質量平均分子量1,000~30,000、SP値9.0~12.0であり、
前記表面調整剤(A-2)は、アクリル樹脂(A-2-i)と、樹脂(A-2-ii)をグラフトすることにより得られた質量平均分子量が3,000~100,000の重合物であり、
前記アクリル樹脂(A-2-i)のSP値は、8.5~10.0の範囲にあり、
前記樹脂(A-2-ii)のSP値は、前記アクリル樹脂(A-2-i)のSP値よりも2.0以上高いことを特徴とする複層塗膜形成方法。
【請求項3】
前記水酸基含有アクリル樹脂(A-1)が、水酸基含有モノ(メタ)アクリレートと、他のビニル系単量体の共重合物からなることを特徴とする請求項1または請求項2記載の複層塗膜形成方法。
【請求項4】
前記アクリル樹脂(A-2-i)が、複数種類のビニル系単量体の共重合物からなることを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の複層塗膜形成方法。
【請求項5】
前記樹脂(A-2-ii)がアクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、エチレンオキシド単位を含む一価のポリアルキレンオキシドのいずれか1種以上からなることを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の複層塗膜形成方法。
【請求項6】
前記表面調整剤(A-2)が、前記アクリル樹脂(A-2-i)/前記樹脂(A-2-ii)=90/10~50/50の質量割合でのグラフト重合体であることを特徴とする請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の複層塗膜形成方法。
【請求項7】
前記中塗り塗料組成物が、主剤中に水酸基価20~40mgKOH/g、酸価20~40mgKOH/gであるアクリルウレタン樹脂を主剤樹脂固形分中20~60質量%含有し、1分子当たり2モル以上のカルボジイミド基を持つカルボジイミド化合物を硬化剤として含有し、主剤樹脂が含有するカルボン酸基の当量に対するカルボジイミド基の当量の比が0.8~1.2である水性二液型中塗り塗料組成物であることを特徴とする請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の複層塗膜形成方法。
【請求項8】
前記ベース塗料組成物が、水酸基価20~40mgKOH/g、酸価20~40mgKOH/gであるアクリルウレタン樹脂を樹脂固形分中20~60質量%含有する水性ベース塗料組成物であることを特徴とする請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の複層塗膜形成方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料用硬化性樹脂組成物を用いた複層塗膜形成方法に関する。さらに詳しくは、中塗り塗料、ベース塗料、クリヤー塗料を順次塗装し、加熱硬化させる自動車塗装用の複層塗膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、自動車車体を被塗装物とする複層塗膜形成方法は、被塗物に電着塗膜を形成して加熱硬化させた後で、中塗り塗膜、ベース塗膜及びクリヤー塗膜からなる複層塗膜を形成することにより行われている。また、現在では、揮発性有機溶剤(VOC)削減のために、中塗り塗料及びベース塗料として、水性塗料が使用されるようになってきている。
【0003】
さらに、近年、省エネルギーの観点から、電着塗膜上に形成した中塗り塗膜を加熱硬化させることなく、予備加熱を施した中塗り塗膜上にベース塗膜及びクリヤー塗膜を形成し、これら3層の塗膜を同時に加熱硬化させる、いわゆる3コート1ベーク(3C1B)方式による複層塗膜形成方法が採用され始めている。しかしながら、3C1B方式による複層塗膜形成方法においては、中塗り塗膜とベース塗膜との混層が起こり、良好な塗膜外観性が得られなかった。
【0004】
このような3C1B方式による複層塗膜形成方法において、中塗り塗膜とベース塗膜との混層を防止して表面平滑性に優れる複層塗膜を形成するために、基体樹脂として、コア部がアクリル樹脂、シェル部がウレタン樹脂からなり、該ウレタン樹脂が炭素数10~60の二塩基酸及び/又は二価アルコールに基づく構成単位を特定割合で含む、特定のコア/シェル型エマルション樹脂を含む水性ベース塗料組成物が知られている(特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1の複層塗膜形成方法は、中塗り塗膜とベース塗膜との混層を防止し、表面平滑性に優れる複層塗膜を形成させることができるが、硬化後の複層塗膜表面に、両面テープ等を用いて外装部品等を接着する場合に、塗膜表面と両面テープとの密着性が十分に得られないことがあった。具体的には、イソシアネート硬化型のクリヤー塗料を塗装し、複層塗膜の加熱硬化温度を100℃以下とした場合、粘着剤がアクリル系である両面テープによる外装部品等の接着性(密着性)には未だ改善の余地がある。
【0006】
特許文献2には、塗料に少量添加することにより、重ね塗りした時の相関密着性を損なうことなく、異種ダストに対するハジキを防止して平滑な塗装面を与えるアクリレート基又はメタクレート基を持つシリコーンオイル(モノマー成分A)2~50質量%と末端に1級の水酸基を持つヒドロキシアクリレート又はヒドロキシメタクリレート(モノマー成分B)50~98質量%とを共重合することにより得られる、数平均分子量が1000~60000の共重合体よりなることを特徴とする塗料用レベリング剤が提案されている。しかしながら、この様な塗料用レベリング剤は重ね塗りした時の相関密着性低下を防ぐものであり、両面テープとの密着性を向上することはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5995948号
【文献】特開2011-116880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、複層塗膜形成方法において、特に加熱硬化の焼付温度が比較的低温である場合においても、これにより得られる塗膜表面の、外装部品等とのとの良好な密着性を確保可能であり、加えて良好な耐ガソリン性、耐水性を示し、外観性にも優れる塗膜を得ることができる複層塗膜形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するべく鋭意研究を重ねた結果、所定の二液型クリヤー塗料を用いる事ことにより、複層塗膜の加熱硬化の焼付温度が100℃以下等の低温である場合においても、これにより得られた表面に対する、外装部品等との密着性が確保できることを見出した。特に、中塗り塗料を特定された水性二液型塗料とし、ベース塗料を特定された水性ベース塗料とすることで、複層塗膜の加熱硬化の焼付温度が100℃以下等である場合においても良好な耐水性を示し、外観性においても優れた塗膜を得ることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、電着塗料が塗装され、形成された電着塗膜の焼付けが完了した自動車車体用の金属上または自動車外装用樹脂素材の少なくとも一方上に、中塗り塗料、ベース塗料、クリヤー塗料を順次塗装し、加熱硬化させて複層塗膜を形成する方法であって、
クリヤー塗料組成物は、主剤(A)と、硬化剤(B)とを混合することにより得られ、
主剤(A)は、
主体樹脂としての水酸基含有アクリル樹脂(A-1)と、
水酸基含有アクリル樹脂(A-1)の固形分質量に対して、0.01~3.0質量%の表面調整剤(A-2)と、を含み、
水酸基含有アクリル樹脂(A-1)は、水酸基価80~250mgKOH/g、質量平均分子量1,000~30,000、SP値9.0~12.0であり、
表面調整剤(A-2)は、アクリル樹脂(A-2-i)と、樹脂(A-2-ii)をグラフトすることにより得られた質量平均分子量が3,000~100,000の重合物であり、
アクリル樹脂(A-2-i)のSP値は、8.5~10.0の範囲にあり、
樹脂(A-2-ii)のSP値は、アクリル樹脂(A-2-i)のSP値よりも2.0以上高いことを特徴とする複層塗膜形成方法を提供するものである。
【0011】
水酸基含有アクリル樹脂(A-1)は、水酸基含有モノ(メタ)アクリレートと、他のビニル系単量体の共重合物からなることが好ましい。
【0012】
アクリル樹脂(A-2-i)は、複数種類のビニル系単量体の共重合物からなることが好ましい。
【0013】
樹脂(A-2-ii)は、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、エチレンオキシド単位を含む一価のポリアルキレンオキシドのいずれか1種以上からなることが好ましい。
【0014】
表面調整剤(A-2)は、アクリル樹脂(A-2-i)/前記樹脂(A-2-ii)=90/10~50/50の質量割合でのグラフト重合体であることが好ましい。
【0015】
また、本発明で使用される中塗り塗料組成物は、主剤中に水酸基価20~40mgKOH/g、酸価20~40mgKOH/gであるアクリルウレタン樹脂を主剤樹脂固形分中20~60質量%含有し、1分子当たり2モル以上のカルボジイミド基を持つカルボジイミド化合物を硬化剤として含有し、主剤樹脂が含有するカルボン酸基の当量に対するカルボジイミド基の当量の比が0.8~1.2である水性二液型中塗り塗料組成物であることが好ましい。
【0016】
また、本発明で使用されるベース塗料組成物は、水酸基価20~40mgKOH/g、酸価20~40mgKOH/gであるアクリルウレタン樹脂を樹脂固形分中20~60質量%含有する水性ベース塗料組成物であることが好ましい。
【0017】
また、加熱硬化の焼付温度が75~100℃であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の複層塗膜形成方法を用いることにより、3C1B方式による複層塗膜形成方法において、中塗り塗料、ベース塗料、クリヤー塗料を順次塗装し、加熱硬化の焼付温度が75~100℃である場合においても、粘着剤がアクリル系の両面テープ等との良好な密着性を確保でき、加えて良好な耐ガソリン性、耐水性を示し、外観性にも優れ、特に下地の粗度が高い電着塗装板上でも優れた平滑性、光沢を持った塗膜を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の複層塗膜形成方法について詳細に説明する。
本発明に用いるクリヤー塗料組成物は、主剤(A)と、硬化剤(B)とを混合することにより得らる。主剤(A)は、水酸基価80~250mgKOH/g、質量平均分子量1,000~30,000g/mol、SP値9.0~12.0である水酸基含有アクリル樹脂(A-1)を主体樹脂として含有する。
【0020】
水酸基含有アクリル樹脂(A-1)は、水酸基含有モノ(メタ)アクリレートと他のビニル系単量体の共重合体とすることができる。
【0021】
水酸基含有モノ(メタ)アクリレートとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシルブチル(メタ)アクリレートが挙げられる。さらに、ポリカプロラクトン変性多価アルコールモノ(メタ)アクリレート、例えば市販品では、プラクセルFA-1(商品名、(株)ダイセル製、2-ヒドロキシエチルアクリレート1モルにε-カプロラクトン1モルを開環付加した単量体)、プラクセルFM-1D、プラクセルFM-2D、プラクセルFM-3、プラクセルFM-4(いずれも商品名、(株)ダイセル製、2-ヒドロキシエチルメタクリレート1モルにε-カプロラクトンをそれぞれ1モル、2モル、3モル、4モルを開環付加した単量体)などが挙げられる。
【0022】
水酸基含有モノ(メタ)アクリレートと共重合可能な他のビニル系単量体の具体例としては、例えば、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ) アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等の二塩基酸のエステル、スチレン、ビニルトルエン、ジメチルスチレン、エチルスチレン等の核置換スチレン、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、酢酸ビニル、及び塩化ビニル等が挙げられる。共重合可能な他のビニル系単量体は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0023】
水酸基含有アクリル樹脂(A-1)の水酸基価は80~250mgKOH/g、好ましくは100~230mgKOH/gとなるようにする。水酸基価が80mgKOH/gに満たない場合、硬化塗膜の架橋密度が十分でなく、耐ガソリン性に劣る場合がある。また、水酸基価が250mgKOH/gを超える場合には、主体樹脂の極性が高くなり過ぎ、硬化剤との相溶性が十分でなく、塗膜が白濁する場合がある。水酸基価は水酸基含有モノ(メタ)アクリレートを共重合することで調整することができる。
【0024】
水酸基含有アクリル樹脂(A-1)は、水酸基含有モノ(メタ)アクリレートと共重合可能な他のビニル系単量体を共重合させることにより得ることができるが、その質量平均分子量は、1,000~30,000g/mol、好ましくは3,000~18,000g/mol、さらに好ましくは4,000~16,000g/molである。質量平均分子量が1,000g/mol未満の場合、耐ガソリン性に劣る場合がある。一方、質量平均分子量が30,000g/molを超えると硬化剤との相溶性に劣り、塗膜が白濁する等の不具合が生じる場合がある。また、質量平均分子量が30,000g/molを超えると、スプレー塗装した場合の平滑性に劣り、柚肌となる場合がある。
【0025】
なお、本明細書における質量平均分子量は、ゲルパーミェーションクロマトグラフィー(GPC)によって、ポリスチレンの分子量を基準として換算して得た分子量である。
具体的には、例えば、ゲルパーミェーションクロマトグラフとして、市販品の「HLC8120GPC」(商品名、東ソー(株)製)を使用し、カラムとして、市販品の「TSKgel G2000HXL」、「TSKgel G3000HXL」、「TSKgel G4000HXL」、「TSKgel G5000HXL」(商品名、いずれも東ソー(株)製)の4本のカラムを使用し、溶離液;テトラヒドロフラン、測定温度;40℃、流速;1ml/分、検出器;示差屈折計(RI検出器)の条件で、分子量を測定することができる。
【0026】
水酸基含有アクリル樹脂(A-1)は、濁度法による溶解性パラメーター(SP値)が9.0~12.0、好ましくは9.5~11.5である。SP値が9.0よりも低い場合、塗膜の光沢が低くなることがあり、12.0を超える場合は硬化剤との相溶性に劣り、塗膜が白濁する場合がある。
【0027】
尚、SP値とは、Solubility Parameterの略であり、溶解性の尺度となるものである。SP値は数値が大きいほど極性が高く、逆に数値が小さいほど極性が低いことを示す。具体的には、次に示す濁度法により測定することができる。測定温度20℃で、サンプル樹脂0.5gを100mlビーカーに秤量し、アセトン10mlを、ホールピペットを用いて加え、マグネティックスターラーを用いて攪拌して溶解させる。次に、この希釈溶液に50mlビューレットを用いて低SP溶媒(n-ヘキサン)を徐々に滴下し、樹脂溶液に濁りが生じた点を低SP溶媒の滴下量とする。また別途、上記希釈溶液に高SP溶媒(イオン交換水)を徐々に滴下し、樹脂溶液に濁りが生じた点を高SP溶媒の滴下量とする。
【0028】
樹脂のSP値δは下記計算式によって与えられる。
δ=( Vml 1/2δml+Vmh 1/2δmh)/(Vml 1/2+Vmh 1/2
ml=V/(φ+φ
mh=V/(φ+φ
δml=φδ+φδ
δmh=φδ+φδ
:溶媒の分子容( ml/mol)
[ V、V、Vはそれぞれ溶媒1、2、3の分子容(本明細書では溶媒1、2、3はそれぞれ、アセトン、ヘキサン、イオン交換水である。下記δも同様。) ]
φ:濁点における各溶媒の体積分率
δ:溶媒のSP値
[δ、δ、δはそれぞれ溶媒1、2、3のSP値]
ml:低SP値貧溶媒混合系
mh:高SP値貧溶媒混合系
【0029】
水酸基含有アクリル樹脂(A-1)の重合方法は特に制限されず、溶液ラジカル重合法の様な公知文献等に記載されている通常の方法を用いることができる。例えば、重合温度60~160℃で2~10時間かけて適当なラジカル重合開始剤とモノマー混合溶液とを適当な溶剤中に滴下しながら撹拌する方法が挙げられる。ここで用いられるラジカル重合開始剤は、通常重合に際して使用するものであれば特に限定されず、有機過酸化物系重合開始剤、アゾ系重合開始剤などが挙げられる。重合開始剤の使用量は、特に制限ないが、通常単量体の総量に対して0.1~15質量%であり、好ましくは0.5~12質量%である。また、ここで用いる溶剤は、反応に影響を与えないものであれば特に限定されず、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤、ミネラルスピリット等の脂肪族系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、及びメチルエチルケトン等のケトン系溶剤を単独または混合して用いることができる。
【0030】
本発明の表面調整剤(A-2)は、SP値8.5~10.0のアクリル樹脂(A-2-i)と、アクリル樹脂(A-2-i)よりもSP値が2.0以上高い樹脂(A-2-ii)とのグラフト重合物である。
【0031】
本発明の表面調整剤(A-2)に使用されるアクリル樹脂(A-2-i)は、SP値8.5~10.0のアクリル樹脂であり、好ましくは8.7~9.8である。アクリル樹脂(A-2-i)は主体樹脂である水酸基含有アクリル樹脂(A-1)よりもSP値が0.5以上低いことが好ましい。アクリル樹脂(A-2-i)のSP値が主体樹脂である水酸基含有アクリル樹脂(A-1)よりもSP値が低いことにより、本発明のクリヤー塗料が塗装されたミストの表面に配向し、ミストの表面張力を下げることで下地への濡れ性に寄与する。アクリル樹脂(A-2-i)のSP値が8.5よりも低い場合は、主体樹脂である水酸基含有アクリル樹脂(A-1)との相溶性に劣り、ハジキ等の不具合を生じる場合がある。SP値が10.0よりも高い場合、ウエット膜の表面張力を下げる効果が低くなり、ウエット膜表面への配向が少なくなり、本発明による、複層塗膜の外表面に対し、外装部品等を接着する際、特にアクリル系粘着剤により構成される両面テープにより良好な密着性を得る効果が低くなる場合がある。
【0032】
アクリル樹脂(A-2-i)は、相互に共重合可能な複数のビニル系単量体を組み合わせて合成できる。ビニル系単量体の具体例としては、例えば、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等の二塩基酸のエステル、スチレン、ビニルトルエン、ジメチルスチレン、エチルスチレン等の核置換スチレン、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、酢酸ビニル、及び塩化ビニル等が挙げられる。共重合可能なビニル系単量体は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。アクリル樹脂(A-2-i)は前記水酸基含有モノ(メタ)アクリレートを共重合することもできる。
【0033】
本発明の樹脂(A-2-ii)は、アクリル樹脂(A-2-i)よりもSP値が2.0以上、好ましくは2.2以上高い樹脂である。樹脂(A-2-ii)としては、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、エチレンオキシド単位を含む一価のポリアルキレンオキシド等が挙げられる。
【0034】
本発明の表面調整剤(A-2)は、アクリル樹脂(A-2-i)に樹脂(A-2-ii)をグラフトした重合物である。該グラフト重合物は、樹脂(A-2-ii)をラジカル重合性のあるマクロモノマーとし、アクリル樹脂(A-2-i)の各モノマーと共重合することにより製造することができる。
【0035】
例えば樹脂(A-2-ii)がアクリル樹脂の場合、重合体骨格の片末端に、(メタ)アクリロイル基およびスチリル基等のラジカル重合性基が結合されたマクロモノマーを例えば特開昭60-133007号公報に記載されているような公知の方法によって製造し、得られたマクロモノマーをアクリル樹脂(A-2-i)の各モノマーと共重合することによりグラフト重合物を得ることができる。
【0036】
本発明において、グラフトする樹脂(A-2-ii)のSP値は、製造したマクロモノマーのSP値とする。また、グラフトされるアクリル樹脂(A-2-i)のSP値は、マクロモノマーを除いたアクリル樹脂(A-2-i)のモノマー組成で別途重合物を作成し、得られた重合物の測定から求めたSP値とする。
【0037】
本発明の表面調整剤(A-2)は、アクリル樹脂(A-2-i)/樹脂(A-2-ii=90/10~50/50の質量割合でグラフト重合されてなる。樹脂(A-2-ii)の質量割合が10部に満たない場合、本発明による、複層塗膜の表面と、の粘着剤がアクリル系の両面テープとの良好な密着性を得る効果が低くなることがある。一方、樹脂(A-2-ii)の質量割合が50部を超える場合、表面調整剤(A-2)の極性が高くなりすぎるため、塗装した時のウエット膜表面への配向が少なくなり、粘着剤がアクリル系両面テープとの良好な密着性を得る効果が低くなることがある。
【0038】
本発明の表面調整剤(A-2)の質量平均分子量は、3,000~100,000、好ましくは、5,000~80,000、更に好ましくは、10,000~50,000である。質量平均分子量が3,000に満たない場合、本発明による、複層塗膜の表面と、粘着剤がアクリル系両面テープとの良好な密着性を得る効果が低くなることがある。一方、質量平均分子量が100,000を超える場合には主体樹脂である水酸基含有アクリル樹脂(A-1)との相溶性に劣り、両面テープとの良好な密着性を得る効果が低くなる、あるいはハジキ等の不具合を生じる場合がある。
【0039】
本発明の表面調整剤(A-2)の固形分質量は、主体樹脂(A-1)の固形分質量に対して、0.01~3.0質量%である。表面調整剤(A-2)が0.01質量%に満たない場合、本発明による、複層塗膜の表面と、粘着剤がアクリル系の両面テープとの良好な密着性を得る効果が低くなることがある。一方、表面調整剤(A-2)が3.0質量%を超えると、硬化塗膜表面に曇りを生じる場合がある。
【0040】
本発明のクリヤー塗料主剤(A)は、水酸基含有アクリル樹脂(A-1)、表面調整剤(A-2)の他に、必要に応じて、有機溶剤、各種添加剤、例えば、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、表面調整剤(A-2)以外の表面調整剤、静電助剤、さらにはポリエチレンワックス、ポリアマイドワックス、内部架橋型樹脂微粒子等のレオロジー調整剤などを含有することができる。
【0041】
本発明のクリヤー塗料主剤(A)は、着色していないクリヤー塗料主剤として用いてもよいし、染料、顔料などの着色剤を配合して着色クリヤー塗料主剤として用いてもよい。
【0042】
本発明のクリヤー塗料は、主剤(A)に硬化剤(B)を塗装の直前に混合して塗装する二液型クリヤー塗料である。
【0043】
本発明のクリヤー塗料に用いられる硬化剤としては、脂肪族及び脂環式の非黄変型ポリイソシアネート化合物が好ましく用いられる。代表的なものとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート及び/ 又はイソホロンジイソシアネートと多価アルコール及び/ 又は低分子量のポリエステルポリオールとの反応物、ヘキサメチレンジイソシアネート及び/ 又はイソホロンジイソシアネートの重合体であるイソシアヌレート体や、ウレタン結合にさらに反応して得られるビューレット体などが挙げられる。イソシアネート化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。本発明のクリヤー塗料に用いられる硬化剤としては、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体が特に好ましい。
【0044】
本発明のクリヤー塗料に用いられる硬化剤の含有量は、水酸基含有アクリル樹脂(A-1)の水酸基の官能基数と硬化剤のイソシアネート基(NCO基)の官能基数が、NCO/OHのモル比で0.5~2.0であることが好ましく、より好ましくは0.8~1.5の割合である。
【0045】
本発明の中塗り塗料組成物は、水酸基価20~40mgKOH/g、酸価20~40mgKOH/gであるアクリルウレタン樹脂を主剤樹脂固形分中20~60質量%含有し、カルボジイミド化合物及び/又はイソシアネート化合物等の硬化剤として含有する水性二液型中塗り塗料組成物である。硬化剤としては、1分子当たり2モル以上のカルボジイミド基を持つカルボジイミド化合物が好ましい。また、カルボジイミド化合物は、主剤樹脂が含有するカルボン酸基の当量に対するカルボジイミド基の当量の比が0.8~1.2であることが好ましい。
【0046】
本発明の中塗り塗料組成物は、着色顔料、光輝顔料、体質顔料などの各種顔料を含有させることができる。着色顔料として、例えば、黄鉛、黄色酸化鉄、酸化鉄、カーボンブラック、二酸化チタンなどの無機系顔料、アゾキレート系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、インディゴ顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属錯体顔料などの有機系顔料が挙げられる。また、光輝顔料として、例えば、アルミニウムフレーク顔料、アルミナフレーク顔料、マイカ顔料、シリカフレーク顔料、ガラスフレーク顔料などが挙げられる。そして、体質顔料として、例えば、炭酸カルシウム、バライト、沈降性硫酸バリウム、クレー、タルクなどが挙げられる。これらの顔料は、1種単独で用いてもよいし、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
本発明の中塗り塗料組成物に顔料を加える場合の質量含有比率は、例えば、基体樹脂の樹脂固形分の総量に対して3~200質量%が好ましく、30~170質量%がより好ましく、50~150質量%が更に好ましい。
【0048】
本発明の中塗り塗料組成物には、表面調整剤、消泡剤、界面活性剤、造膜助剤、防腐剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤などの各種添加剤、各種レオロジーコントロール剤、各種有機溶剤などの1種以上を含有させることができる。
【0049】
レオロジーコントロール剤の具体例としては、アラビアガム、アラビノガラクタン、アルギン酸およびその塩、カードラン、ガッティーガム、カラギーナン、カラヤガム、寒天、キサンタンガム、グアーガム、酵素分解グアーガム、クインスシードガム、ジェランガム、ゼラチン、タマリンド種子ガム、難消化性デキストリン、トラガントガム、ファーセルラン、プルラン、ペクチン、ポリデキストロース、ガラクトマンナン、ローカストビーンガム、水溶性大豆多糖類、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースの金属塩、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウムなどの水溶性高分子のレオロジーコントロール剤、スメクタイト系粘土鉱物が挙げられる。これらの物質は、1種または2種以上を混合して使用することができる。
【0050】
本発明の中塗り塗料組成物は、媒体として水を含有するが、必要に応じて、水、場合によっては少量の有機溶剤やアミンを使用し、適当な粘度に希釈してから塗装することができる。
【0051】
本発明の水性二液型中塗り塗料を用いることにより、中塗り塗膜を加熱硬化させることなく、予備加熱を施した中塗り塗膜上にベース塗膜及びクリヤー塗膜を形成し、これら3層の塗膜を同時に加熱硬化させる、3C1B方式による複層塗膜形成方法においても、中塗り塗膜とベース塗膜との混層を防止し、表面平滑性に優れる複層塗膜を形成することができる。
【0052】
本発明で用いるベース塗料組成物としては、水酸基価20~40mgKOH/g、酸価20~40mgKOH/gであるアクリルウレタン樹脂を樹脂固形分中20~60質量%含有する水性ベース塗料を使用することができる。
【0053】
本発明のベース塗料組成物は、着色顔料、光輝顔料、体質顔料などの各種顔料を含有させることができる。着色顔料として、例えば、黄鉛、黄色酸化鉄、酸化鉄、カーボンブラック、二酸化チタンなどの無機系顔料、アゾキレート系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、インディゴ顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属錯体顔料などの有機系顔料が挙げられる。また、光輝顔料として、例えば、アルミニウムフレーク顔料、アルミナフレーク顔料、マイカ顔料、シリカフレーク顔料、ガラスフレーク顔料などが挙げられる。そして、体質顔料として、例えば、炭酸カルシウム、バライト、沈降性硫酸バリウム、クレー、タルクなどが挙げられる。これらの顔料は、1種単独で用いてもよいし、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
本発明のベース塗料組成物に顔料を加える場合の質量含有比率は、例えば、基体樹脂の樹脂固形分の総量に対して3~200質量%が好ましく、30~170質量%がより好ましく、50~150質量%が更に好ましい。
【0055】
本発明のベース塗料組成物には、表面調整剤、消泡剤、界面活性剤、造膜助剤、防腐剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤などの各種添加剤、各種レオロジーコントロール剤、各種有機溶剤などの1種以上を含有させることができる。
【0056】
レオロジーコントロール剤の具体例としては、アラビアガム、アラビノガラクタン、アルギン酸およびその塩、カードラン、ガッティーガム、カラギーナン、カラヤガム、寒天、キサンタンガム、グアーガム、酵素分解グアーガム、クインスシードガム、ジェランガム、ゼラチン、タマリンド種子ガム、難消化性デキストリン、トラガントガム、ファーセルラン、プルラン、ペクチン、ポリデキストロース、ガラクトマンナン、ローカストビーンガム、水溶性大豆多糖類、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースの金属塩、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウムなどの水溶性高分子のレオロジーコントロール剤、スメクタイト系粘土鉱物が挙げられる。これらの物質は、1種または2種以上を混合して使用することができる。
【0057】
本発明のベース塗料組成物は、媒体として水を含有するが、必要に応じて、水、場合によっては少量の有機溶剤やアミンを使用し、適当な粘度に希釈してから塗装することができる。
【0058】
本発明のベース塗料組成物は硬化剤を含まなくとも良いが、硬化剤を含む場合は、例えば、アミノ樹脂、ポリイソシアネート化合物、ブロックポリイソシアネート化合物、ポリカルボジイミド化合物などが挙げられる。この中でも、塗膜外観性の点で、ポリイソシアネート化合物、ポリカルボジイミド化合物が好ましい。また、これらの硬化剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上併用して用いてもよい。
【0059】
上述の水性ベース塗料を用いることにより、加熱硬化温度が100℃以下であっても、特に優れた耐水性を持つ塗膜を形成することができる。
【0060】
本発明の複層塗膜形成方法における各塗料の塗装方法としては、自動車産業において通常用いられている方法、例えばエアースプレー塗装、エアー霧化式静電塗装、ベル回転霧化式静電塗装等が適用できる。
【0061】
本発明の複層塗膜形成方法において、水性中塗り塗料、水性ベース塗料の塗装条件は、温度が10~40℃であり、相対湿度は65~85%であることが好ましい。
【0062】
本発明の複層塗膜形勢方法において、水性中塗り塗料の塗装後や、水性ベース塗料の塗装後には、予備加熱を行ってもよいが、本発明の水性ベース塗料組成物を使用する場合は、水性中塗り塗料の塗装後には予備加熱を行わなくとも、優れた塗膜外観性を得ることができる。なお、予備加熱を行う場合の温度は30~100℃、時間は3~10分が好ましい。
【0063】
本発明の複層塗膜形成方法における加熱硬化温度は100℃以下であるが、75~90℃が好ましい。加熱時間は、20~120分であることが好ましい。
【0064】
本発明の複層塗膜形成方法における被塗物は、自動車車体用に慣用の、電着塗膜を形成した金属または樹脂素材の少なくとも一方であるが、水性中塗り塗料を塗装する前に、プライマーなどを塗装する工程を含んでいてもよい。
【実施例
【0065】
以下、本発明について、実施例を挙げて更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、特に断らない限り、各例中の部、%、比は、それぞれ質量部、質量%、質量比を表す。
【0066】
<製造例1:ポリエステル樹脂ワニスの製造>
反応水の分離管が付属した還流冷却管、窒素ガス導入装置、温度計、攪拌装置を装備した反応容器に、ダイマー酸(商品名「PRIPOL1017」、CRODA社製、炭素数36)54.0部、ネオペンチルグリコール8.0部、イソフタル酸17.76部、1,6-ヘキサンジオール19.41部、トリメチロールプロパン0.81部を仕込み、120℃まで昇温させて原料を溶解した後、攪拌しながら160℃まで昇温させた。160℃のまま1時間保持した後、5時間かけて230℃まで徐々に昇温させた。230℃を保持して反応を続け、樹脂酸価が4mgKOH/gになったら、80℃以下まで冷却した後に、メチルエチルケトン31.6部を加え、樹脂固形分74.6%、樹脂水酸基価62mgKOH/g、樹脂酸価4mgKOH/g、質量平均分子量3,200の特性値を有するポリエステル樹脂ワニスを得た。
【0067】
<製造例2:ポリウレタン樹脂の製造>
窒素ガス導入装置、温度計、攪拌装置を装備した反応容器に、製造例1により得られたポリエステル樹脂ワニスを78.9部、ジメチロールプロピオン酸7.8部、ネオペンチルグリコール1.5部、メチルエチルケトン40.0部を仕込み、攪拌しながら80℃まで昇温させた後、イソホロンジイソシアネート27.8部を仕込み、80℃を保持したまま各成分を反応させた。イソシアネート価が0.43meq/gになったところでネオペンチルグリコール4.0部を加え、そのまま80℃で反応を継続させた。そして、イソシアネート価が0.01meq/gになったところでブチルセロソルブ33.3部を加えて反応を終了させた。その後、100℃まで昇温させ、減圧下でメチルエチルケトンを除去した。さらに、50℃まで降温させ、ジメチルエタノールアミンを4.0部加えて酸基を中和し、その後に脱イオン水147.9部を加えて、樹脂固形分35.0%、樹脂水酸基価21mgKOH/g、樹脂酸価35mgKOH/g、質量平均分子量7,800の特性値を有するポリウレタン樹脂を得た。
【0068】
<製造例3:アクリルウレタン樹脂の製造>
窒素ガス導入装置、温度計、滴下ロート、攪拌装置を装備した反応容器に、製造例2により得られたポリウレタン樹脂を46.4部、脱イオン水33.1部を仕込み、攪拌しながら85℃まで昇温させた後、滴下成分として、スチレン4.92部、メチルメタクリレート5.5部、n-ブチルアクリレート4.02部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート1.62部、アクリル酸0.21部、プロピレングリコールモノメチルエーテル3.9部、重合開始剤であるt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.2部の均一混合液を、3.5時間かけて滴下ロートを用いて等速滴下した。滴下終了後、85℃で1時間保持した後、追加触媒として、重合開始剤であるt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.03部をプロピレングリコールモノメチルエーテル0.11部に溶解させた重合開始剤溶液を添加し、さらに85℃で1時間保持したところで反応を終了し、アクリル樹脂/ウレタン樹脂比=50/50、樹脂固形分32.5%、樹脂水酸基価32mgKOH/g、樹脂酸価23mgKOH/gの特性値を有するコア/シェル型アクリルウレタン樹脂を得た。
【0069】
<製造例4:水性中塗り塗料組成物の製造>
製造例2により得られたポリウレタン樹脂36.12部に、二酸化チタン(商品名「タイピュア R706」、デュポン社製)29.29部及びカーボンブラック(商品名「MA-100」、三菱ケミカル(株)製)0.3部を加え、モーターミルで分散し、顔料ペーストを作製した。
【0070】
次に、製造例3により得られたコア/シェル型アクリルウレタン樹脂を19.46部、水性アクリル樹脂(商品名「SETAQUA6511」、ヌプレクス・レジンズ社製、酸価8mgKOH/g、水酸基価138mgKOH/g、樹脂固形分47%)4.49部をディゾルバーで混合して樹脂ベースを作製した後、先に作製した顔料ペーストを加えて混合した。硬化剤として、カルボジイミド化合物(商品名「カルボジイミドV02-L2」、日清紡ケミカル(株)製、樹脂固形分40%、カルボジイミド基当量385)10.34部を塗装直前に混合して使用した。この水性中塗り塗料組成物は、アクリルウレタン樹脂を樹脂固形分中25質量%含有し、主剤樹脂が含有するカルボン酸基の当量に対するカルボジイミド基の当量の比が1.0である。
【0071】
<製造例5:ベース塗料組成物の製造>
製造例2により得られたポリウレタン樹脂50.5部に、カーボンブラック(商品名「MA-100」、三菱ケミカル(株)製)1.55部を加え、モーターミルで分散して、顔料ペーストを作製した。
【0072】
次に、製造例3により得られたコア/シェル型アクリルウレタン樹脂を27.21部、水性アクリル樹脂(商品名「SETAQUA6511」、ヌプレクス・レジンズ社製、酸価8mgKOH/g、水酸基価138mgKOH/g、樹脂固形分47%)6.28部をディゾルバーで混合して樹脂ベースを作製した後、先に作製した顔料ペーストを加えて混合した。硬化剤として、カルボジイミド化合物(商品名「カルボジイミドV02-L2」、日清紡ケミカル(株)製、樹脂固形分40%、カルボジイミド基当量385)14.46部を塗装直前に混合して使用した。この水性ベース塗料組成物は、アクリルウレタン樹脂を樹脂固形分中25質量%含有し、主剤樹脂が含有するカルボン酸基の当量に対するカルボジイミド基の当量の比が1.0である。
【0073】
<製造例6:水酸基含有アクリル樹脂ワニス A-1-1の製造>
温度計、還流冷却器、攪拌機、滴下ロート及び窒素ガス吹き込み口を備えたフラスコにキシレンを27.0部、プロピレングリコールモノメトキシエーテルアセテートを9.0部仕込み、窒素ガス導入下、攪拌しながら加熱し130℃を保った。次に、130℃の温度で、スチレン6.0部、アクリル酸0.8部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート16.7部、n-ブチルメタクリレート36.6部のラジカル重合性モノマーと、重合開始剤としてt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート1.0部とを均一に混合し、3時間かけて滴下ロートより等速滴下した。滴下終了後、130℃の温度を1時間保った後、反応温度を110℃に下げた。
【0074】
その後、重合開始剤であるt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.1部を追加触媒として添加し、さらに110℃の温度を2時間保った後、キシレン2.9部を加えてシンニングして冷却し、水酸基含有アクリル樹脂ワニスA-1-1を得た。
【0075】
<製造例7:水酸基含有アクリル樹脂ワニス A-1-2の製造>
表1に記載したように原料の仕込み量に変えた以外は、A-1-1と同様の製造方法に従って、水酸基含有アクリル樹脂ワニスA-1-2を得た。
【0076】
【表1】
【0077】
<製造例8:表面調整剤A-2-aの製造>
表2に樹脂(A-2-ii)の一部(基礎構造)を構成するモノマー組成、すなわちアクリロニトリル15部、メチルメタクリレート15部より、片末端にメタクリロイル基を有するアクリロニトリル/メチルメタクリレート共重合体のマクロモノマー(A-2-ii)(質量平均分子量4,000)を、以下の方法で作成した。
【0078】
温度計、還流冷却器、攪拌機、滴下ロート及び窒素ガス吹き込み口を備えたフラスコに酢酸ブチル50.0部を仕込み、窒素ガス導入下、攪拌しながら80℃にてアクリロニトリル23.85部、メチルメタクリレート23.85部、3-メルカプトプロピオン酸1.29部、アゾビスイソブチロニトリル1.0部の混合溶液を均一に混合し、4時間かけて滴下ロートより等速滴下した。滴下終了後、80℃の温度を2時間保った後、反応温度を95℃に上げ、1時間同温度を保った。得られたプレポリマーの反応液の酸価は、6.8mgKOH/gであった。さらにプレポリマー反応液を130℃で1時間加熱した後の質量は加熱前の50.0%であった。
【0079】
次いで、このプレポリマーの反応液96.18部に対して、グリシジルメタクリレート3.32部、触媒としてテトラブチルアンモニウムブロマイド0.48部、重合防止剤としてハイドロキノンモノメチルエーテル0.02部を加え、反応温度90℃にて8時間反応させた。得られたマクロモノマー溶液の加熱残分は、130℃で1時間加熱する条件において、51.3%であった。得られたマクロモノマーの酸価は0.03mgKOH/g以下であり、SP値は、11.5であった。
【0080】
上記のマクロモノマーが30部を占めるマクロモノマー溶液65.3部と、表2に示したアクリル樹脂(A-2-i)のモノマー(ステアリルメタクリレート35.0部、2-エチルヘキシルアクリレート35.0部)を、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエートを重合開始剤として、キシレン中で共重合し、樹脂固形分50%、質量平均分子量30,000の表面調整剤(A-2-a)の溶液を得た。
【0081】
上記とは別に、アクリル樹脂(A-2-i)のモノマー、ステアリルメタクリレート35.0部、2-エチルヘキシルアクリレート35.0部の割合のモノマー混合物をt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエートを重合開始剤としてキシレン中で共重合し、樹脂固形分50%、質量平均分子量10,000のアクリル樹脂(A-2-i)を製造し、SP値を測定したところ、9.1であった。
【0082】
【表2】
【0083】
<製造例9~14:表面調整剤 A-2-b~A-2-gの製造>
表面調整剤 A-2-aの製造と同様に、表2に示した樹脂(A-2-ii)の各モノマー組成より、片末端にメタクリロイル基を有するマクロモノマー(A-2-ii)を作成し、各マクロモノマーと、表2に示したアクリル樹脂(A-2-i)のモノマーとを、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエートを重合開始剤として、キシレン中で共重合し、表2に示した特性値を持つ表面調整剤(A-2-b~A-2-g)の溶液を製造した。
【0084】
また、別に、表2に示したアクリル樹脂(A-2-i)の各モノマー混合物を、それぞれt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエートを重合開始剤としてキシレン中で共重合し、樹脂固形分50%、質量平均分子量10,000の各アクリル樹脂(A-2-i)を製造し、SP値を測定した。
【0085】
<実施例1~3、比較例1~7>
表3に記載した主剤の原料を順次混合して均一になるように攪拌し、同表に示すように主剤、硬化剤を組み合わせてなる、二液型クリヤー塗料組成物を作成した。
【0086】
【表3】
【0087】
<<表の注記>>
1)チヌビン384-2:商品名、BASFジャパン(株)製、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(固形分95質量%)
2)チヌビン292:商品名、BASFジャパン(株)製、光安定剤
3)BYK-300:商品名、ビックケミー・ジャパン(株)製、シリコン系表面調整剤(固形分52質量%)
4)ソルベッソ100:商品名、エクソンモービル社製、芳香族炭化水素系溶剤
5)スミジュールN3300:商品名、住化コベストロウレタン(株)製、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレートタイプ樹脂(固形分100質量%、NCO含有率21.8質量%)
【0088】
<<電着塗膜が施された鋼板を塗装した評価板1の作成>>
リン酸亜鉛処理軟鋼板に、カチオン電着塗料(商品名「カソガードNo.500」、BASFコーティングス社製)で、乾燥膜厚が20μmとなるように電着塗装を行い、175℃で25分間焼き付けて、本評価に使用する電着塗膜板とした(以下、「電着板」とする)。
【0089】
次に、回転霧化型ベル塗装機(商品名「メタリックベルG1-COPESベル」、ABB社製)を使用し、25℃、75%(相対湿度)の塗装条件で、以下の手順で評価板1を作成した。なお、下記の複層塗膜形成において、中塗り塗料とベース塗料は、フォードカップ#4の粘度が40秒(20℃)となるように、脱イオン水で希釈してから塗装に供した。
【0090】
電着板に、中塗り塗料を、乾燥膜厚が20μmとなるように塗装した。その後、室温で5分間静置し、ベース塗料を、乾燥膜厚が12μmとなるように塗装した。塗装後、5分間室温で静置し、80℃で3分間の予備加熱を行った。この塗装板を室温となるまで放冷した。その後、表3に記載したクリヤー塗料CC-1~CC-10の主剤と硬化剤を塗装直前に混合し、フォードカップ#4の粘度が25秒(20℃)となるようにソルベッソ100で希釈した混合物で、乾燥膜厚が30μmとなるように、上記の室温とされた塗装板を塗装した。塗装後、室温で10分間静置し、80℃で30分間焼き付けて、電着板の評価板1を得た。
【0091】
<<樹脂素材を塗装した評価板2の作成>>
脱脂処理を施した70×150×3mmのポリプロピレン板にプライマー塗料(商品名「プライマックNo.1501」、BASFコーティングス社製)を、乾燥膜厚が10μmとなるようにスプレー塗装を行い、本評価に使用する樹脂塗膜板とした(以下、「樹脂板」とする)。
【0092】
次に、回転霧化型ベル塗装機(商品名「メタリックベルG1-COPESベル」、ABB社製)を使用し、25℃、75%(相対湿度)の塗装条件で、以下の手順で評価板2を作成した。なお、下記の複層塗膜形成において、中塗り塗料とベース塗料は、フォードカップ#4の粘度が40秒(20℃)となるように、脱イオン水で希釈してから塗装に供した。
【0093】
樹脂板に、中塗り塗料を、乾燥膜厚が20μmとなるように塗装した。その後、室温で5分間静置し、ベース塗料を、乾燥膜厚が12μmとなるように塗装した。塗装後、5分間室温で静置し、80℃で3分間の予備加熱を行った。室温となるまで放冷した後、表3に記載したクリヤー塗料CC-1~CC-10の主剤と硬化剤を塗装直前に混合し、フォードカップ#4の粘度が25秒(20℃)となるように、ソルベッソ100で希釈して得られた混合物で、乾燥膜厚が30μmとなるように、樹脂板を塗装した。塗装後、室温で10分間静置し、80℃で30分間焼き付けて、樹脂板の評価板2を得た。
【0094】
<<評価板の評価方法>>
得られた評価板1および2について、それぞれ以下の塗膜性能評価を行った。
【0095】
(1)塗膜外観性
得られた評価板の塗膜外観を、目視観察により、次の基準に従い評価した。なお、評価結果は評価者20人の観察結果の平均である。
◎:塗膜に蛍光灯を映すと、蛍光灯がかなり鮮明に映る。
○:塗膜に蛍光灯を映すと、蛍光灯が少し鮮明に映る。
△:塗膜に蛍光灯を映すと、蛍光灯の周囲(輪郭)がぼやける。
×:塗膜に蛍光灯を映すと、蛍光灯の周囲(輪郭)が著しくぼやける。
【0096】
(2)耐水性
評価板を作成した後1週間室温で放置し、その後、40℃の純水に浸漬させ、240時間放置した。浸漬後の塗膜を目視観察により、次の基準に従い評価した。なお、評価結果は評価者20人の観察結果の平均である。
○:白濁が認められない。
△:やや白濁が認められる。
×:はっきりと白濁が認められる。
【0097】
(3)耐ガソリン性
試験板を無鉛レギュラーガソリン(JIS K2202 2号記載)に20℃で24時間浸漬し、外観を目視で観察し、次に示す基準に従い評価した。なお、評価結果は評価者20人の観察結果の平均である。
○:異常が認められない。
△:わずかに黄変、フクレなどの異常が認められた。
×:黄変、フクレなどの異常が認められた。
【0098】
(4)両面テープ密着性
粘着剤がアクリル系である両面テープとして、スリーエムジャパン株式会社製アクリルフォームテープGT5912を用い、30mm×30mmのサイズにカットした。厚さ1mm、幅30mm、長さ80mmのステンレス製鋼板を上から30mmの部位で90度に折り曲げたL型治具の上面、すなわち30mm×30mmの部位に、上記のようにカットした両面テープを、上面全体を覆うように貼り付けた。次いで、70mm×150mmの寸法としたの評価板1、2の中央に、L型治具の上面を、評価板と上面との間に一切隙間やテープのズレが生じないことを確認しながら貼り付けた。評価板からL型治具が下に貼りついた向きにして、評価板を両端付近で支え、L型治具に2kgまたは3kgの重りをかけて、室温で7日間まで放置した。次の基準に従い評価した。
◎:3kgの重りをかけて、7日間以上両面テープが剥がれなかった。
○:2kgの重りをかけて、7日間以上両面テープが剥がれなかった。
△:2kgの重りをかけて、2日間以上7日間未満で両面テープが剥がれた。
×:2kgの重りをかけて、2日間未満で両面テープが剥がれた。
【0099】
上記試験(1)~(4)について、電着板の評価板1の結果を表4、樹脂板の評価板2の結果を表5に示した。
【0100】
【表4】
【0101】
【表5】
【0102】
実施例及び比較例から明らかなように、本発明の実施例は全ての評価項目で良好な結果を示すのに対し、比較例は全ての評価項目において良好な結果を示すことはできなかった。
【0103】
以上、本発明者等によってなされた発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。