(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】浮体構造体
(51)【国際特許分類】
E02D 27/06 20060101AFI20240415BHJP
E02B 17/00 20060101ALI20240415BHJP
【FI】
E02D27/06
E02B17/00 Z
(21)【出願番号】P 2020210547
(22)【出願日】2020-12-18
【審査請求日】2023-10-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】田岡 紘子
(72)【発明者】
【氏名】吉田 郁夫
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 茜
(72)【発明者】
【氏名】大庭 直樹
(72)【発明者】
【氏名】中島 英己
(72)【発明者】
【氏名】兼光 知巳
(72)【発明者】
【氏名】小林 伸司
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-151684(JP,A)
【文献】特開2007-192007(JP,A)
【文献】特開平09-100540(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 27/06
E02B 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水面上に設けられ、上部に建設される上部構造物の基礎が固定される浮体構造体であって、
水面又は水中に浮かぶとともに、前記上部構造物を下方から支持する浮体と、
前記浮体上に一体に設けられ格子壁状に配置された荷重分散帯と、
前記荷重分散帯に囲まれた開口領域に上方への移動を規制した状態で着脱可能に設けられ、上端にアンカー鉄筋を配したアンカーブロックと、
前記荷重分散帯の格子状の交点に設置され、前記荷重分散帯の上層にフレキシブルピットを形成する複数の支柱と、を備え、
前記上部構造物の基礎は、前記荷重分散帯上に設置され、前記アンカー鉄筋のみが所定強度が得られる定着長さで前記基礎と一体化されていることを特徴とする浮体構造体。
【請求項2】
前記荷重分散帯の壁上部には、幅方向に拡大する突起が形成され、
前記アンカーブロックには、前記突起の下面に係止する係止部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の浮体構造体。
【請求項3】
前記荷重分散帯によって囲まれる前記開口領域の上部を閉塞するカバー体が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の浮体構造体。
【請求項4】
前記フレキシブルピットには、重量調整用のバラストが設置されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の浮体構造体。
【請求項5】
前記フレキシブルピットには、前記上部構造物におけるインフラ機能を有する設備が設置されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の浮体構造体。
【請求項6】
前記複数の支柱の上端には、前記フレキシブルピットの上方を塞ぐ人工地盤が設けられていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の浮体構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浮体構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、上部に建物を設置する浮体式の人工地盤として、例えば特許文献1に示されるような技術が提案されている。
【0003】
特許文献1には、水平な底面と壁面とからなるドックと、ドック壁面と隙間を空けた状態でその底面に置かれ、複数個のプレキャスト製コンクリートの浮体ブロックと、から構成されるフロート体を備えた浮体式人工地盤について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1に示されるような従来の浮体式人工地盤では、以下のような問題があった。
すなわち、特許文献1の浮体式人工地盤は、浮体ブロックからなるフロート体で構成されている。ところが、個々の上部構造物は上部構造物の重量、荷重バランス、配置等に応じて設計されたフロート体に固定されていることから、上部構造物の変更や移動という要求には、浮体ブロックそれぞれを連結固定させる必要があり、フロート体全体を新たに設計、構築する必要があった。
【0006】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、浮体を新たに設計、構築することなく、浮体によって下方から支持される上部構造物の建設における自由度を高めることができる浮体構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る浮体構造体は、水面上に設けられ、上部に建設される上部構造物の基礎が固定される浮体構造体であって、水面又は水中に浮かぶとともに、前記上部構造物を下方から支持する浮体と、前記浮体上に一体に設けられ格子壁状に配置された荷重分散帯と、前記荷重分散帯に囲まれた開口領域に上方への移動を規制した状態で着脱可能に設けられ、上端にアンカー鉄筋を配したアンカーブロックと、前記荷重分散帯の格子状の交点に設置され、前記荷重分散帯の上層にフレキシブルピットを形成する複数の支柱と、を備え、前記上部構造物の基礎は、前記荷重分散帯上に設置され、前記アンカー鉄筋のみが所定強度が得られる定着長さで前記基礎と一体化されていることを特徴としている。
【0008】
本発明に係る浮体構造体では、荷重分散帯が格子壁状に配置されているので、上部構造物の重量を浮体に分散させることができる。すなわち、上部構造物からの荷重を、荷重分散帯を介して浮体内部の隔壁に伝達しやすくする。
また、本発明の浮体構造体では、アンカー鉄筋のみが上部構造物の基礎と一体化され、かつアンカーブロックにおける上方への移動が規制された状態で設けられ、上部構造物の基礎が荷重分散帯の上端に接している構造となっている。そのため、上部構造物における転倒引抜き力に対してアンカーブロックで抵抗することができ、上部構造物の転倒を防止できる。
したがって、本発明では、荷重分散帯を解体することなく、格子壁状に配置される荷重分散帯に対して任意の位置にアンカーブロックを着脱容易に設けることができるので、上部構造物の変更や移動する場合において新たに浮体を設計、構築することが不要となり、浮体によって下方から支持される上部構造物の建設における自由度を高めることができる。
【0009】
また、本発明に係る浮体構造体は、前記荷重分散帯の壁上部には、幅方向に拡大する突起が形成され、前記アンカーブロックには、前記突起の下面に係止する係止部が形成されていることを特徴としてもよい。
【0010】
本発明では、アンカーブロックの係止部が荷重分散帯の突起の下面に当接することで上部構造物における転倒引抜き力に対して確実に抵抗することができ、上部構造物の転倒をより確実に防止することができる。
【0011】
また、本発明に係る浮体構造体は、前記荷重分散帯によって囲まれる前記開口領域の上部を閉塞するカバー体が設けられていることが好ましい。
【0012】
この場合には、荷重分散帯の開口領域をカバー体で閉塞することで、上部構造物の基礎はアンカーブロックのアンカー鉄筋のみで接続され、開口領域に設けられるアンカーブロックと上部構造物の基礎とがカバー体を介して分離した状態で設置されることになる。
【0013】
本発明では、新たに上部構造物とその基礎を構築する際には、カバー体とアンカーブロックのみを取り替えるといった簡単な施工となる利点があり、浮体や荷重分散帯は継続して使用することができる。
また、本発明では、開口領域がカバー体によって閉塞されているので、フレキシブルピットのメンテナンス等の際の足場を確保することができる。
【0014】
また、本発明に係る浮体構造体は、前記フレキシブルピットには、重量調整用のバラストが設置されていることを特徴としている。
【0015】
本発明では、浮体構造体に建設される上部構造物の配置や重量に対して最適な重量バランスとなるようにバラストの重量や位置を調整してフレキシブルピット内に配置することができ、上部構造物による浮体構造体の傾きを調整して姿勢を安定させることができる。
したがって、本発明では、浮体によって下方から支持される上部構造物の建設における自由度を高めることができ、個々の上部構造物の重量、荷重バランス、配置等の変更に対して、静的安定性と復原性を保つことができる利点がある。
【0016】
また、本発明に係る浮体構造体は、前記フレキシブルピットには、前記上部構造物におけるインフラ機能を有する設備が設置されていることを特徴としてもよい。
【0017】
本発明では、上部構造物の基礎が設置されるフレキシブルピットを使用して、上部構造物におけるインフラ機能を有する設備を効率よく配置することができる。
【0018】
また、本発明に係る浮体構造体は、前記複数の支柱の上端には、前記フレキシブルピットの上方を塞ぐ人工地盤が設けられていることを特徴としてもよい。
【0019】
本発明では、荷重分散帯と人工地盤との間にフレキシブルピットを形成することができる。
また、人工地盤は荷重分散帯に立設された支柱に固定され、フレキシブルピット内に重量調整用のバラストを任意に設置することで、個々の上部構造物の重量、荷重バランス、配置等の変更に対して、荷重分散帯を解体することなく、浮体構造体全体の静的安定性と復原性を保つことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の浮体構造体によれば、浮体を新たに設計、構築することなく、浮体によって下方から支持される上部構造物の建設における自由度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施形態による浮体構造体を使用した浮体式街区の全体構成を示した斜視図である。
【
図4】浮体構造体の荷重分散帯から上方の構成を示す部分斜視図である。
【
図5】荷重分散帯とアンカーブロックの設置状態を示す一部破断した斜視図である。
【
図7】アンカーブロックの施工状態を上方から見た平面図である。
【
図8】アンカーブロックの設置状態を上方から見た平面図である。
【
図9】荷重分散帯に支柱とカバー体を設置した施工状態を示す斜視図である。
【
図10】
図9に続く施工状態を示す斜視図であって、アンカーブロックに基礎を設けた状態の図である。
【
図11】
図10に続く施工状態を示す斜視図であって、支柱に人工地盤を設けた状態の図である。
【
図12】バラストの配置状態の一例を示す斜視図である。
【
図13】バラストの配置状態の他の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態による浮体構造体について、図面に基づいて説明する。
【0023】
図1に示すように、本実施形態の浮体構造体1は、海水面W上に設けられ、上部に建設される上部構造物10の基礎11(
図4参照)が固定されるものである。
【0024】
図1は、複数の浮体構造体1、1、…(ここでは6体)が洋上に間隔をあけた状態で浮かべられた浮体式街区の一例を示している。これら浮体構造体1の上部には、上部構造物10である任意の高さのビル10A等が適宜な数量で適宜な配置で構築されている。なお、本実施形態では、公園(空地)として上部構造物10が設けられていない浮体構造体1も設けられている。
【0025】
ここで、本実施形態による上部構造物10の基礎11は、鉄筋コンクリート製であり、上方に立設される柱状体12を一体的に備えた構造となっている(
図4参照)。
【0026】
図2乃至
図4に示すように、浮体構造体1は、海水面W又は水中に浮かぶとともに、上部構造物10を下方から支持する浮体2と、浮体2上に一体に設けられ格子壁状に配置された荷重分散帯3と、荷重分散帯3に囲まれた開口領域32に上方への移動を規制した状態で着脱可能に設けられ、上端4aにアンカー鉄筋41(
図6参照)を配したアンカーブロック4と、荷重分散帯3の格子状の交点に設置され、荷重分散帯3の上層にフレキシブルピット6を形成する複数の支柱5と、を備えている。
【0027】
なお、浮体2の上部外周部2bには、
図2及び
図3に示すように、地盤(後述する人工地盤9)の高さ、すなわち荷重分散帯3と支柱5(フレキシブルピット6)とを合わせた高さまで傾斜法面を形成した盛土14が設けられていてもよい。
【0028】
図2に示すように、浮体2は、海水よりも比重が小さく剛性を有する構造物であり、複数の中空部21が水平方向に縦横に間隔をあけて設けられた中空体により構成されている。浮体2は、上下および側方の全体が覆われた構成であり、上面視において矩形(本実施形態では正方形)で所定厚さを有する板状に形成されている。浮体2に作用する浮力は、後述するバラスト7(
図4参照)等により適宜調整することが可能である。浮体2の上面2aは、平面に形成されている。浮体2としては、耐久性の高いプレキャストコンクリート造を採用することができる。
浮体2の形状としては、例えば、縦180m×横180m×高さ14mの大きさのものを採用できる。
【0029】
図4及び
図5に示すように、荷重分散帯3は、平面視において縦方向に延在する第1支持壁3Aと、第1支持壁3Aに直交する横方向に延在する第2支持壁3Bと、が互いに間隔をあけて格子状に配列され一体的に設けられている。荷重分散帯3には、第1支持壁3A及び第2支持壁3Bによって囲まれた上面視で正方形状の開口領域32が形成されている。上部構造物10の基礎11が設けられる位置の開口領域32には、アンカーブロック4が配置される。荷重分散帯3の高さとしては、例えば2m程度とされる。
【0030】
第1支持壁3A及び第2支持壁3Bは、断面視でT型に形成されている。すなわち、荷重分散帯3の壁上部には、各支持壁3A、3Bの幅方向に拡大した突起31が形成されている。
突起31は、下方を向く係止下面31aを有している。この係止下面31aには、アンカーブロック4の後述する上向き係止面42a(
図6参照)が係止される。
【0031】
図6に示すように、アンカーブロック4は、側面視において略矩形状の壁状ブロックであり、上端4aに壁幅方向に沿って複数本(ここでは5本)のアンカー鉄筋41が上方に向けて突出した状態で埋設されている。なお、
図6に示すアンカー鉄筋41には、後述するカバー体8に対して上方から定着させる固定ナット43が螺合された状態で記載されている。これらアンカー鉄筋41は、上部構造物10の基礎鉄筋(図示省略)に接続され、基礎11に埋設される。
【0032】
アンカーブロック4の壁幅方向の左右両側の側部4bは、側面視で荷重分散帯3の第1支持壁3A及び第2支持壁3Bの側面形状に一致する形状となっている。アンカーブロック4の側部4bには、
図5に示すように、荷重分散帯3の突起31の係止下面31aに下方から当接可能な上向き係止面42a(係止面)を有する段部42が形成されている。アンカーブロック4が荷重分散帯3の開口領域32に設置されている状態において、段部42の上向き係止面42aは突起31の係止下面31aに当接した状態で係止され、上方への移動が規制されている。
【0033】
アンカーブロック4の幅寸法(両側部4b、4b同士の間の距離)は、荷重分散帯3の対向する第1支持壁3A、3A(又は第2支持壁3B、3B)の側面3b、3b同士の離間距離に一致している(
図8参照)。
なお、アンカーブロック4の幅寸法は、上向き係止面42aが突起31の係止下面31aの直下に位置した状態で配置可能であれば、荷重分散帯3の側面3b、3b同士の前記離間距離よりも小さく設定されていてもよい。
【0034】
図4及び
図5に示すように、荷重分散帯3には、開口領域32の上部を閉塞するカバー体8が設けられている。カバー体8は、板状をなし、上面8aが荷重分散帯3の上端3aと面一にして開口領域32に隙間なく嵌合されている。カバー体8には、厚さ方向に貫通する鉄筋挿通孔81が複数設けられている。この鉄筋挿通孔81のそれぞれにアンカーブロック4のアンカー鉄筋41が下方から挿通され、挿通されたアンカー鉄筋41に上方から固定ナット43が締め付けることで、カバー体8とアンカーブロック4とが一体的に設けられている。
【0035】
図4に示すように、上部構造物10の基礎11は、荷重分散帯3の上端に接して設けられている。そして、アンカー鉄筋41のみが上部構造物10の基礎11と一体化されている。
【0036】
図9に示すように、支柱5は、荷重分散帯3における第1支持壁3Aと第2支持壁3Bとの交点に下端部を固定させて立設されている。支柱5の高さとしては、例えば2mとされる。
【0037】
複数の支柱5、5、…の上端5aには、板状に形成された人工地盤9が設けられている。つまり、人工地盤9は、複数の支柱5、5、…によって下方から支持されている。荷重分散帯3の上層には、複数の支柱5、5、…と人工地盤9とによって囲まれた空間であるフレキシブルピット6が形成されている。人工地盤9は、フレキシブルピット6の上方を塞ぐとともに、上方が開放された地盤として機能する。
【0038】
荷重分散帯3と人工地盤9との間に形成されるフレキシブルピット6には、上部構造物10等における給排水ルート等のインフラ機能を有する設備と、必要に応じて重量調整用のバラスト7が設置されている。また、フレキシブルピット6は、上部構造物10の基礎11を荷重分散帯3に支持させて人工地盤9の下方に埋設する機能を有している。
さらに、本実施形態によるフレキシブルピット6は、このピット内にバラスト7を任意に設置することで重量調整する機能を有し、浮体構造体1の水平性を保持するために設けられる。
【0039】
バラスト7は、フレキシブルピット6内の所定の位置に設けられ、浮体構造体1に作用する上部構造物10の重量とのバランスをとり、上部構造物10による浮体構造体1の傾きを調整するために設けられている。バラスト7の位置や重量は、浮体構造体1上に建設される上部構造物10等の位置、重量に応じて設定される。
【0040】
次に、上述した浮体構造体1の施工方法について、図面に基づいて具体的に説明する。
先ず、
図2に示すように、海水面Wの所定位置に浮体2を浮かべた状態で設置し、その浮体2上に荷重分散帯3を一体的に設置する。荷重分散帯3は、例えば
図4及び
図5に示すように、運搬可能な大きさに分割されたプレキャストコンクリート造の第1支持壁3Aと第2支持壁3Bとを格子状となるように組み立てる。
【0041】
次に、
図5に示すように、浮体2上に一体で設けられた荷重分散帯3の開口領域32に、アンカー鉄筋41が予め埋設されているアンカーブロック4を設置する。具体的には、
図7に示すように、開口領域32の対角線方向にアンカーブロック4の壁幅方向を向けて、開口領域32に対して上方からアンカーブロック4を吊り下ろす。このとき、アンカーブロック4の段部42が荷重分散帯3の突起31よりも下方に位置する高さまで下ろす。
【0042】
そして、
図8に示すように、アンカーブロック4を上下方向を中心にして水平回転させ、アンカーブロック4が所定の姿勢になったところで固定する。すなわち、アンカーブロック4の面方向が荷重分散帯3の縦横の一方の支持壁3A、3Bの壁面と平行になる位置で固定する。
図8では、アンカーブロック4の壁幅方向と第2支持壁3Bの延在方向(面方向)と平行になっている。この状態において、アンカーブロック4に設けられる段部42の上向き係止面42aが荷重分散帯3の突起31の係止下面31aの下方に位置した状態となる。
【0043】
次に、
図9に示すように、荷重分散帯3における上部構造物10の基礎11(
図4参照)が配置される位置の開口領域32において、アンカーブロック4の上部の位置にカバー体8を設置して開口領域32を塞ぐ。具体的には、カバー体8の鉄筋挿通孔81にアンカー鉄筋41を挿通し、アンカー鉄筋41に螺合される固定ナット43(
図6参照)で締め付けることで、アンカーブロック4とカバー体8とが固定される。このように固定ナット43で締め付けることで、アンカーブロック4に設けられる段部42の上向き係止面42a(
図6参照)が荷重分散帯3の突起31の係止下面31aに当接し、アンカーブロック4の上方への移動が規制された状態となる。
【0044】
さらに、
図9に示すように、荷重分散帯3における第1支持壁3Aと第2支持壁3Bとの交点に支柱5を立てる。
【0045】
次に、
図10に示すように、アンカーブロック4のカバー体8より上方に突出しているアンカー鉄筋41を基礎11に所定強度が得られる定着長さで定着させる。
その後、型枠を設置し、型枠内にコンクリートを充填して基礎11と柱状体12を構築して上部構造物10を設置する。このとき、アンカー鉄筋41と基礎鉄筋は基礎11に埋設されている。このようにカバー体8を設けることによって、アンカー鉄筋41のみが打設した上部構造物10の基礎11と一体化される。そして、アンカーブロック4は荷重分散帯3とは固定されていないので、基礎11と荷重分散帯3は分離された状態で構築される。
【0046】
その後、
図4及び
図11に示すように、荷重分散帯3の上層に形成されたフレキシブルピット6内に適宜なインフラ機能を有する設備を設置するととともに、フレキシブルピット6において上部構造物10の建設状態に応じた位置にバラスト7を設置して浮体構造体1の重量を調節する。
【0047】
例えば、
図12に示すバラスト7の配置例では、上部構造物10である1棟のビル10Aが浮体構造体1の1つの第1角部1aに建設されたケースである。このときのバラスト7Aは、ビル10Aの対角となる第2角部1bの下方のフレキシブルピット6に配置されている。
また、
図13に示すバラスト7の配置例では、上部構造物10である複数棟からなるビル群10Bが浮体構造体1の1辺部1cを除いたほぼ全域に建設されたケースである。このときのバラスト7Bは、前記1辺部1cの下方のフレキシブルピット6に配置されている。
【0048】
その後、
図11に示すように、設置された複数の支柱5の上端5aに人工地盤9を設置する。人工地盤9の地盤面9aには、道路仕上げやその他仕上げを行う。
これにより上部構造物10を備えた浮体構造体1の施工が完了となる。
【0049】
なお、本実施形態による浮体構造体1に建設されている既設の上部構造物10を変更または新たに構築する際には、基礎11に固定されるカバー体8とアンカーブロック4を新たな上部構造物10に対応したものに取り替えるようにする。すなわち、浮体2、荷重分散帯3、及び支柱5は既設のまま継続して使用することができる。
【0050】
次に、上述した浮体構造体1の作用について、図面に基づいて詳細に説明する。
本実施形態による浮体構造体1では、
図2及び
図4に示すように、荷重分散帯3が格子壁状に配置されているので、上部構造物10の重量を浮体2全体に分散させることができる。すなわち、上部構造物10からの荷重を、荷重分散帯3を介して浮体2内部の隔壁に伝達しやすくする。
【0051】
また、本実施形態では、アンカー鉄筋41のみが上部構造物10の基礎11と一体化され、かつアンカーブロック4における上方への移動が規制された状態で設けられ、上部構造物10の基礎11が荷重分散帯3の上端に接している構造となっている。そのため、上部構造物10における転倒引抜き力に対してアンカーブロック4で抵抗することができ、上部構造物10の転倒を防止できる。
したがって、本実施形態では、荷重分散帯3を解体することなく、格子壁状に配置される荷重分散帯3に対して任意の位置にアンカーブロック4を着脱容易に設けることができるので、上部構造物10の変更や移動する場合において新たに浮体2を設計、構築することが不要となり、浮体2によって下方から支持される上部構造物10の建設における自由度を高めることができる。
【0052】
また、本実施形態では、荷重分散帯3の壁上部には、幅方向に拡大する突起31が形成され、アンカーブロック4において突起31の係止下面31aに係止する上向き係止面42aが形成されていることから、アンカーブロック4の上向き係止面42aが荷重分散帯3の突起31の係止下面31aに当接することで上部構造物10における転倒引抜き力に対して確実に抵抗することができ、上部構造物10の転倒をより確実に防止することができる。
【0053】
また、本実施形態では、荷重分散帯3の開口領域32をカバー体8で閉塞することで、上部構造物10の基礎11はアンカーブロック4のアンカー鉄筋41のみで接続され、開口領域32に設けられるアンカーブロック4と上部構造物10の基礎11とがカバー体8を介して分離した状態で設置されることになる。
【0054】
本実施形態では、新たに上部構造物10とその基礎11を構築する際には、カバー体8とアンカーブロック4のみを取り替えるといった簡単な施工となる利点があり、浮体2や荷重分散帯3は継続して使用することができる。
また、本実施形態では、開口領域32がカバー体8によって閉塞されているので、フレキシブルピット6のメンテナンス等の際の足場を確保することができる。
【0055】
また、本実施形態による浮体構造体1では、浮体構造体1に建設される上部構造物10の配置や重量に対して最適な重量バランスとなるようにバラスト7の重量や位置を調整してフレキシブルピット6内に配置することができ、上部構造物10による浮体構造体1の傾きを調整して姿勢を安定させることができる。したがって、本実施形態では、浮体2によって下方から支持される上部構造物10の建設における自由度を高めることができ、個々の上部構造物10の重量、荷重バランス、配置等の変更に対して、静的安定性と復原性を保つことができる利点がある。
【0056】
さらに、本実施形態では、上部構造物10の基礎11が設置されるフレキシブルピット6を使用することで、上部構造物10におけるインフラ機能を有する設備を効率よく配置することができる。
【0057】
さらにまた、本実施形態では、複数の支柱5、5、…の上端5aにフレキシブルピット6の上方を塞ぐ人工地盤9が設けられているので、荷重分散帯3と人工地盤9との間にフレキシブルピット6を形成することができる。
【0058】
また、本実施形態では、人工地盤9は荷重分散帯3に立設された支柱5に固定され、フレキシブルピット6内に重量調整用のバラスト7を任意に設置することで、個々の上部構造物10の重量、荷重バランス、配置等の変更に対して、荷重分散帯3を解体することなく、浮体構造体1全体の静的安定性と復原性を保つことができる。
【0059】
上述のように本実施形態による浮体構造体1では、浮体2を新たに設計、構築することなく、浮体2によって下方から支持される上部構造物10の建設における自由度を高めることができる。
【0060】
以上、本発明による浮体構造体の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上述した実施形態では、アンカーブロック4の上方への移動の規制手段として、荷重分散帯3の上端3aに幅方向に拡大する突起31を形成し、アンカーブロック4において突起31の係止下面31aに係止する上向き係止面42a(係止部)を形成させた構成としているが、このような規制手段であることに制限されることはない。要は、アンカーブロック4が荷重分散帯に固定されることなく、上方へ移動しない状態で上部構造物10の基礎11に接続される構成であればよいのである。
【0061】
また、荷重分散帯3によって囲まれる開口領域32の上部を閉塞するカバー体8を省略することも可能である。
【0062】
さらに、本実施形態では、フレキシブルピット6に重量調整用のバラスト7が設置された構成としているが、このようにバラスト7をフレキシブルピット6に設けることに制限されることはない。例えば、バラスト7は、人工地盤9上に設けられていてもよいし、荷重分散帯3の側方に配置されていてもよい。さらに、例えば浮体構造体1上に上部構造物10が無い場合や、浮体2に影響を及ぼさない程度の重量の小さな上部構造物10である場合には、バラスト7を省略することができる。
【0063】
また、本実施形態では、フレキシブルピット6に上部構造物10におけるインフラ機能を有する設備を設置した構成としているが、フレキシブルピット6内の使用用途についてはとくに限定されることはなく、インフラ機能を有する設備を配置しない構成であってもかまわない。
【0064】
さらに、本実施形態では、複数の支柱5の上端5aにフレキシブルピット6の上方を塞ぐ人工地盤9を設けた構成としているが、荷重分散帯3の上方の全面に人工地盤9が配置されない構成であってもよく、また人工地盤9自体を省略することも可能である。
【0065】
また、支柱5の高さとして上記実施形態では2mを例示しているが、この高さ寸法は任意に設定することができる。
【0066】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 浮体構造体
2 浮体
3 荷重分散帯
3A 第1支持壁
3B 第2支持壁
4 アンカーブロック
5 支柱
6 フレキシブルピット
7 バラスト
8 カバー体
9 人工地盤
10 上部構造物
11 基礎
31 突起
31a 係止下面
32 開口領域
41 アンカー鉄筋
42 段部
42a 上向き係止面