(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】マンガン枯渇による真菌類増殖の抑制
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20240415BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20240415BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20240415BHJP
A23L 3/3571 20060101ALI20240415BHJP
C07K 14/335 20060101ALN20240415BHJP
【FI】
C12N1/20 E
C12N1/00 P ZNA
C12Q1/02
A23L3/3571
C07K14/335
(21)【出願番号】P 2020556878
(86)(22)【出願日】2019-04-17
(86)【国際出願番号】 EP2019059942
(87)【国際公開番号】W WO2019202003
(87)【国際公開日】2019-10-24
【審査請求日】2022-04-12
(32)【優先日】2018-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】503260310
【氏名又は名称】セーホーエル.ハンセン アクティーゼルスカブ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】ソールバイ シズラ
(72)【発明者】
【氏名】マーティン ホルム ラウ
(72)【発明者】
【氏名】スティーナ ディスィング アウンスベア ニルスン
【審査官】小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-183080(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105969700(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0079057(US,A1)
【文献】特表2014-512178(JP,A)
【文献】国際公開第2017/037046(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0134395(US,A1)
【文献】Int. J. Food Sci. Technol.,1997年,Vol.32,pp.21-28
【文献】J. lnst. Brew.,1977年,Vol.83,pp.17-19
【文献】Biol. Fertil. Soils,1991年,Vol.12,pp.33-38
【文献】Antonie van Leeuwenhoek,1969年,Vol.35,pp.F41-F42
【文献】Analytica Chimica Acta,2002年,Vol.458,pp.197-202
【文献】J. Anal. Chem.,2016年,Vol.71, No.1,pp.71-76
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00- 7/08
C12N 15/00-15/90
C12Q 1/00- 3/00
C07K 1/00-19/00
A23L 3/00- 3/3598
A61K 35/00-35/768;36/06-36/068
A61K 31/00-31/327
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS (STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵乳製品中の真菌類の増殖を抑制または遅らせる方法であって、前記方法が、
マンガン捕捉剤としてマンガントランスポーターを含む1つ以上の細菌株を選択する工程、及び
前記製品中の遊離マンガンを製品中0.01 ppmより低い濃度に低減する工程を含み、前記製品中の遊離マンガンを低減する工程が、1つ以上の前記マンガン捕捉剤を添加することを含む、方法。
【請求項2】
前記製品中の遊離マンガンの濃度を測定しそして0.01 ppm未満の値を得る工程を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記真菌類が酵母またはカビである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記真菌類が、トルラスポラ属(Torulaspora spp.)、クリプトコッカス属(Cryptococcus spp.)、サッカロミセス属(Sacharomyces spp.)、ヤロウィア属(Yarrowia)、デバリオミセス属(Debaryomyces spp.)、カンジダ属(Candida spp.)およびロドツロラ属(Rhodoturola spp.)から成る群より選択される酵母であり、または前記真菌類がアスペルギルス属(Aspergillus spp.)、クラドスポリウム属(Cladosporium spp.)、ジダイメラ属(Didymella spp)またはペニシリウム属(Penicillium spp.)から成る群より選択されるカビである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記製品が好熱性または中温性発酵食品である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記製品中の遊離マンガンが0.005 ppm未満の濃度に低減される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記選択工程が、前記1つ以上の細菌株が配列番号1~3のいずれか1つの配列と少なくと
も90
%の配列同一性を有するマンガントランスポーターを含むかどうかを決定することを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記選択工程が、前記1つ以上の細菌株が配列番号1~3のいずれか1つの配列と少なくとも95%の配列同一性を有するマンガントランスポーターを含むかどうかを決定することを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記選択工程が、前記1つ以上の細菌株が配列番号1~3のいずれか1つの配列と少なくとも96%の配列同一性を有するマンガントランスポーターを含むかどうかを決定することを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記選択工程が、前記1つ以上の細菌株が配列番号1~3のいずれか1つの配列と少なくとも97%の配列同一性を有するマンガントランスポーターを含むかどうかを決定することを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記選択工程が、前記1つ以上の細菌株が配列番号1~3のいずれか1つの配列と少なくとも98%の配列同一性を有するマンガントランスポーターを含むかどうかを決定することを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記選択工程が、前記1つ以上の細菌株が配列番号1~3のいずれか1つの配列と少なくとも99%の配列同一性を有するマンガントランスポーターを含むかどうかを決定することを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
前記選択工程が、前記1つ以上の細菌株が配列番号1~3のいずれか1つの配列と100%の配列同一性を有するマンガントランスポーターを含むかどうかを決定することを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項14】
前記選択工程が、前記1つ以上の細菌株がスーパーオキシドジスムターゼを含まないこと、又は、マンガンスーパーオキシドジスムターゼを含まないことを決定することを含む、請求項1~
13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記選択工程が、前記1つ以上の細菌株のマンガン取込み活性を測定することを含む、請求項1~
14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記遊離マンガンを低減する工程が、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)、ラクトバチルス・サケイ(Lactobacillus sakei)、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)、ラクトバチルス・サリバリウス(Lactobacillus salivarius)、ラクトバチルス・アリメンタリウス(Lactobacillus alimentarius)、ペディオコッカス・アシディラクティチ(Pediococcus acidilactici)、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)およびラクトバシラス・ケフィリ(Lactobacillus kefiri)から成る群より任意に選択される、1つ以上の乳酸菌をマンガン捕捉剤として添加することを含む、請求項1~
15のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微生物学の分野に属し、腐敗菌の抑制方法に関する。本発明は食品および製剤にも関する。
【背景技術】
【0002】
食品産業における主な課題は、望ましくない微生物による腐敗である。食料農業機関(Food and Agriculture Organization; FAO)によれば、人間による消費を目的とした食品中の4分の1カロリー分が、最終的に人間により消費されない。8億人以上が飢餓に陥る食糧不足の時代に、食品廃棄の問題が地球規模政策を掲げるメーカーと食品製造業者の優先事項となった。ネガティブな社会的および経済的影響に加えて、食品廃棄物は、不要な温室ガス発生と、水や陸地のような希少資源の非効率的使用といった、多数の関連環境への影響も与える。
【0003】
酵母やカビは、高効率で食品を無駄にするため、大部分の食品製造業者にとっての課題である。酵母やカビによる損傷は、食品の表面上へのカビの斑点または退色としてはっきりと知覚することができ、消費前に食品を廃棄させる。酵母は食品や飲料のマトリックス内でプランクトン様形態で繁殖する傾向があり、それらは糖を発酵させ、嫌気性条件下でも十分に増殖する性質がある。対照的に、カビは、細胞から構成された、目に見える菌糸体の形状で製品の表面上で繁殖する性質がある。
【0004】
特に酪農セクターでは、ヨーロッパで毎年2900万トンもの酪農食品が廃棄されている。酪農食品を新鮮に保つための主な方策の1つは、特に、生産から消費者の食卓までの低温流通体系(コールドチェーン)が破壊される場合に起こる、至る所に天然に存在している酵母やカビによる汚染を管理することである。
【0005】
経済的および環境的理由で、酵母やカビによる汚染を抑制するのに有効である新規のまたは改善された方法への絶えることのないニーズがある。
【発明の概要】
【0006】
本発明者らは、カビの汚染を管理する効果的方法を見つけようと探索した結果、驚くべきことにカビの増殖にとって重要な増殖抑制因子としてマンガンを突き止めた。本発明は、酵母またはカビに利用できる、遊離マンガンを制限することによりカビの増殖を抑制する新規方法を提供する。本発明は、一部は、食品中の遊離マンガンのレベルを低くすることにより、例えばマンガン捕捉剤(スカベンジャー)を使ってマンガンを掃去することにより、酵母および/またはカビの汚染を削減または遅らせることができるという発見に基づいている。本発明者らは、偏在する酵母とカビが本明細書に記載の方法に反応することを更に証明した。
【0007】
マンガンはヒトの健康にとって重要であり、従って必須の微量元素であると考えられている。マンガンは人間にも動物にも適切な機能にとって必須である。何故なら、それは多数の細胞性酵素、例えばマンガンスーパーオキシドジスムターゼ、ピルビン酸カルボキシラーゼの機能に不可欠であり、それはキナーゼ、デカルボキシラーゼ、トランスフェラーゼおよびヒドロラーゼのような多数の他の酵素を活性化する働きをすることができるためである。
【0008】
マンガンは広葉植物、堅果(ナッツ)、穀類および動物製品を含む多数の食物源に天然に見い出すことができる。食品中のマンガンの典型的範囲は、例えば穀物製品で0.4~40 ppm、肉、家禽、魚および卵中で0.1~4 ppm、そして植物製品中では0.4~7 ppmである。
【0009】
栄養補助食品であることに加えて、マンガンは、牛乳中のビフィズス菌(Bifidobacteria)の生育を強化するために有効成分として発酵食品に添加されることがある(例えば、国際公開WO 2017/021754号パンフレット、フランス国Compagnie Gervais Danone社を参照のこと)。しかしながら、本発明者らは、これが悪影響を及ぼし得ること、そして望ましくない微生物の繁殖を防止または遅らせるために、食品中のマンガン濃度を制限することが有利であるだろうということを発見した。
【0010】
微生物による損害の課題に対処するため、本発明は、第一の態様では、製品中の真菌(類)の増殖を抑制または遅らせる方法であって、前記製品中に存在する遊離マンガンを低減する工程を含む方法を提供する。遊離マンガン濃度は、本発明に記載の方法により減少させることができる。好ましい実施形態では、遊離マンガンを減らすために1以上のマンガン捕捉剤(スカベンジャー)が添加される。遊離マンガン濃度は、好ましくは約0.01 ppm未満、例えば約0.008 ppm未満または約0.003 ppm未満に減らされる。本法を使って、望ましくない酵母および/またはカビがほとんど繁殖できない製品を得ることができる。そのような製品は、約0.01 ppm未満、例えば0.009 ppm、0.008 ppm、0.007 ppm、0.006 ppm、0.005 ppmまたはそれ以下の遊離マンガン濃度により特徴づけられる。当該方法は、製品中の遊離マンガン濃度を測定しそして約0.01 ppm未満の値を得るという工程をさらに含む。
【0011】
特に、本発明は、乳から製造されるヨーグルトやチーズのような発酵食品中での酵母および/またはカビの増殖を抑制または遅らせる方法を提供する。この方法は、酵母および/またはカビからマンガンを枯渇させるために食品中のマンガン濃度を減少させ、それにより食品中でのそれらの増殖を遅らせるまたは抑制する工程により特徴づけられる。
【0012】
1つの好ましい実施形態では、本発明は、製品中のトルラスポラ属(Torulaspora spp.)、クリプトコッカス属(Cryptococcus spp.)およびロドツロラ種(Rhodoturola spp.)の増殖を抑制または遅らせる方法であって、前記製品中に存在する遊離マンガンを減らす工程を含む方法を提供する。
【0013】
第二の態様では、本発明は、食品などの製品を調製する方法であって、前記食品中に存在する遊離マンガンを減らすことを含む方法を提供する。遊離マンガン濃度は、本発明に記載される方法または当業者に既知の別法により減少させることができる。好ましい実施形態では、遊離マンガンを減らすために1以上のマンガン捕捉剤が添加される。遊離マンガン濃度は、好ましくは約0.01 ppm未満、例えば約0.005 ppm未満または約0.003 ppm未満に減少させられる。当該方法を使って、約0.01 ppm未満の遊離マンガン濃度を含む製品を得ることができる。
【0014】
第三の態様では、本発明は、本明細書に記載の方法により得られる食品などの製品を提供する。一実施形態では、本発明は、製品を提供する方法であって、製品中の遊離マンガンを減らし、そして製品中の遊離マンガン濃度が約0.01 ppm未満である製品を得る工程を含む方法を提供する。
【0015】
さらなる態様では、本発明は、カビの生育を抑制または遅らせるため並びに食品を製造するための1以上のマンガン捕捉剤の使用を提供する。マンガン捕捉剤は、酵母とカビが製品中に利用できる遊離マンガンを少なくし、それによりそれらの生育を抑制または遅らせる作用を有する。
【0016】
別の態様では、本発明はマンガン捕捉剤、マンガン取込みのためのそれらの剤の選択または使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、異なるマンガン濃度を有するpH 6.5(白丸)または4.5(黒い四角)の既知組成培地中での2種の異なるデバリオミセス・ハンゼニィ(Debaryomyces hansenii)の増殖を示す。増殖は17℃で6日間のインキュベーション後に測定し、600 nmでの吸光度により調べた。
【
図3】
図3は、マンガン捕捉剤の存在下でかつ異なる添加マンガン濃度を有する発酵乳の水相中での2種の異なるデバリオミセス・ハンゼニィ(Debaryomyces hansenii)の増殖を示す。17℃で7日間のインキュベーション後に600 nmでの吸光度を測定した。水相にマンガンを添加した後の増殖が、デバリオミセス・ハンゼニィ(菌株1)については
図3に、そしてデバリオミセス・ハンゼニィ(菌株2)については
図4に示され(白丸)、それぞれマンガンを添加しない参照(四角)と比較した。技術的複製物n=6(A)とn=3(B)の平均と標準偏差が示されている。
【
図5】
図5は、6 ppm(最上段)から0.000006 ppm(最下段)までの範囲の異なるマンガン濃度の添加後の、異なる捕捉剤の有無の下で調製した発酵乳中のデバリオミセス・ハンゼニィ(Debaryomyces hansenii)(菌株2)の増殖を示す。
【
図6】
図6は、スターターカルチャーのみ(参照、上段)またはマンガン捕捉剤と共に(下段)発酵させた乳から調製したプレート上の3種の異なる酵母の増殖を示す。写真の上に示す通り、異なるマンガン濃度を添加した。3つの標的汚染菌(A欄:デバリオミセス・ハンゼニィ(Debaryomyces hansenii(菌株2))、B欄:クリプトコッカス・フラギコラ(Cryptococcus fragicola)、C欄:デバリオミセス・ハンゼニィ(菌株1))を、3種類の濃度: 1×10
3 cfu/斑点(プレート上の上段)、1×10
2 cfu/斑点 (プレート上の中央行)および1×10
1 cfu/spot (プレート上の下段)で添加した。
【
図7】
図7は、スターターカルチャーのみ(参照、上段)またはマンガン捕捉剤と共に(下段)発酵させた乳から調製したプレート上の3種の異なるカビの増殖を示す。写真の上に示す通り、異なるマンガン濃度を添加した。3つの標的汚染菌(A:ペニシリウム・ブレビコンパクタム(Penicillium brevicompactum)、B:ペニシリウム・クラストサム(Penicillium crustosum)、およびC:ペニシリウム・ソリタム(Penicillium solitum)を、500 胞子/斑点の濃度で添加した。各プレートを7±1℃で25日間インキュベートした。
【
図8】
図8は、スターターカルチャーのみ(参照、上段)またはマンガン捕捉剤と共に(下段)発酵させた乳から調製したプレート上の3種の異なるカビの増殖を示す。写真の上に示す通り、異なるマンガン濃度を更に添加した。3つの標的汚染菌(A:ペニシリウム・ブレビコンパクタム(Penicillium brevicompactum)、B:ペニシリウム・クラストサム(Penicillium crustosum)、およびC:ペニシリウム・ソリタム(Penicillium solitum)を、500 胞子/斑点の濃度で添加した。各プレートを22±1℃で8日間インキュベートした。
【
図9】
図9は、スターターカルチャーのみ(参照、上段)または追加のマンガン捕捉剤と共に(下段)発酵させた乳から調製したプレート上の3種の異なるカビの増殖を示す。写真の上に示す通り、異なるマンガン濃度を更に添加した。3つの標的汚染菌(A:ペニシリウム・カルネウム(Penicillium carneum)、B:ペニシリウム・パネウム(Penicillium paneum)、およびC:ペニシリウム・ロケフォルティ(Penicillium roqueforti)を、500 胞子/斑点の濃度で添加した。各プレートを7±1℃で25日間インキュベートした。
【
図10】
図10は、スターターカルチャーのみ(参照、上段)または追加のマンガン捕捉剤と共に(下段)発酵させた乳から調製したプレート上の3種の異なるカビの増殖を示す。写真の上に示す通り、異なるマンガン濃度を添加した。3つの標的汚染菌(A:ペニシリウム・カルネウム(Penicillium carneum)、B:ペニシリウム・パネウム(Penicillium paneum)、およびC:ペニシリウム・ロケフォルティ(Penicillium roqueforti)を、500 胞子/斑点の濃度で添加した。各プレートを22±1℃で8日間インキュベートした。
【
図11】
図11は、選択したラクトバチルス属(Lactobacillus;乳酸桿菌属)のMntHマンガントランスポーターの系統樹の例である。
【
図12】
図12は、異なるEDTA濃度で、別のマンガン捕捉剤、好ましくはマンガン捕捉剤1の有無の下、および6 ppmのマンガンの有無の下での、1.2μmフィルターでろ過した(滅菌精製水)水相、好ましくは発酵乳の水相中の、デバイロミセス・ハンゼニィ株(菌株1または菌株2)の増殖を示す。600 nmでの吸光度を、参照と比較して、17℃で7日間インキュベーション後に測定した。
【
図13】
図13は、異なるEDTA濃度で、そして別のマンガン捕捉剤、好ましくはマンガン捕捉剤1の有無の下、および0.6 ppmのマンガンの有無の下での、0.2μmフィルターでろ過した(滅菌精製水)水相、好ましくは発酵乳の水相中の、デバイロミセス・ハンゼニィ株(菌株1または菌株2)の増殖を示す。600 nmでの吸光度を、参照と比較して、17℃で7日間インキュベーション後に測定した。サンプルは三通りに作製した。
【
図14】
図14は、異なるマンガン捕捉剤、例えば細菌、好ましくは乳酸菌、および/またはEDTAのような化学的キレート化剤の有無の下での、6 ppmのマンガンの添加後のヨーグルト中のデバイロミセス・ハンゼニィ株(菌株1または菌株2)の増殖を示す。EDTA濃度は、14 mg/mL(最上段)、7.10 mg/mL、3.55 mg/mL、1.78 mg/mL、0.89 mg/mL、0.44 mg/mL、0.22 mg/mLから0 mg/mL(最下段)までの範囲である。〔発明の詳細な説明〕
【0018】
食品ロスは世界中の主要な懸案事項である。人間の消費用に製造された全食品の約3分の1が損失または廃棄されている。この大量の世界的食品ロスの理由は多岐にわたるが、官能特性品の品質(外観、質感、味覚および香り)に影響を及ぼす微生物による腐敗が重要な役割を果たしている。真菌類は、様々な過酷な環境中でも増殖できるため、それらは食品加工チェーンのあらゆる段階で見られる主要な腐敗菌である。従って、真菌類の汚染を管理することにより食品ロスを減らすことが非常に重要である。この要求に応えるため、本発明は、製品中の真菌類の増殖を抑制または遅らせる新規方法を提供する。当該方法は、低い遊離マンガン濃度が酵母および/またはカビの繁殖の制限要因として働き得るという驚くべき発見に基づいている。マンガンは自然界に微量に存在し、我々消費者の多数の物品の中に存在する。しかしながら、遊離マンガン濃度を操作することにより、微生物による腐敗を効率的に管理することができることを示唆する報告は現在のところまだ存在しない。本発明の予想外の発見に基づくと、そのような腐敗防止戦略は、食品の域を超えて、飼料、バイオ製品、ヘルスケア製品、医薬品などのような、一般に微生物汚染を被りやすい他の製品に至るまで適用可能である。
【0019】
本発明は、第一の態様では、製品中の真菌類の増殖を抑制するまたは遅らせる方法であって、約0.01 ppm未満の濃度にまで前記製品中の遊離マンガンを枯渇させることを含む方法を提供する。
【0020】
一般に、抑制とは、部分的か完全にかいずれにせよ、細胞または微生物の機能と活性の減少を意味する。本明細書中で用いる場合、酵母とカビに関連する「抑制する(to inhibit)」および「抑制すること(inhibiting)」という用語は、酵母やカビの増殖、数または濃度が同じであるかまたは減少することを意味する。これは、微生物学の分野で知られる任意の方法によって測定することができる。抑制は、減少した遊離マンガンを有する製品中または製品上の真菌類の増殖、数または濃度を対照(コントロール)と比較することにより観察することができる。
【0021】
「遅らせる(to delay)」という用語は一般に、何かを停止させる、延期する、妨害する、または通常よりもよりゆっくりと生じさせることを意味する。本明細書中で用いる場合、「真菌類の増殖を遅らせる」とは、真菌類の繁殖を遅くする作用を指す。これは、真菌類が2つの製品中で一定レベルに増殖するのに要する時間を比較することによって観察することができる。ここでそのうちの1つはマンガンが低減された製品で、もう1つはマンガンが低減されない製品である(ただしその他の点では同じである)。
【0022】
幾つかの実施形態では、「真菌類の増殖を遅らせる」とは、7日、例えば8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、20、21、22、23、24、25、30、35、40、45、50、55、60日だけ遅らせることを意味する。
【0023】
真菌類は、菌界に属する一属である。真菌類の増殖は、当業者に既知の様々な方法で測定することができる。例えば、真菌類の増殖は、真菌類の型および当該方法を適用する製品に依存して、コロニーの密度やサイズ、細胞数、ミセル状凝集体の変化、胞子形成、菌糸成長、コロニー形成単位(CFU)等により測定することができる。真菌類の増殖は、栄養素または代謝産物の濃度の変化、例えば二酸化炭素放出と酸素吸収を測定することにより、観察することもできる。「真菌類の増殖の抑制」または「真菌類の増殖を抑制する」という用語は、真菌細胞の繁殖の抑制を指す。「真菌類の増殖の遅延」または「真菌類の
増殖を遅らせる」という用語は、真菌細胞の繁殖の減速を指す。これは、例えば、真菌の増殖を測定し、それを対照と比較することにより観察することができる。そのような対照は、例えば、マンガン捕捉剤(スカベンジャー)を適用しない製品であることができる。
【0024】
本発明に従って「遊離マンガン」または時に「マンガン」とは、酵母やカビといった真菌類によって取り込まれ得る利用可能な(有効な)、製品中に存在するマンガン(例えば製品の一部を構成する、例えば製品の内部または製品の表面上に存在する)を指す。例えば、遊離マンガンは、製品の食品マトリックス中に存在するマンガンを指す。
【0025】
1つの好ましい実施形態では、本発明は、食品中の真菌類の増殖を抑制するまたは遅らせる方法であって、食品の食品マトリックス中の遊離マンガン濃度を減らすことを含む方法に向けられる。本明細書中で用いる場合、用語「食品マトリックス」とは、食品の組成または構造を指す。それは栄養素が連続した媒体中に含まれるという概念に基づいている。
【0026】
用語「低減する」または「減らす」とは、一般に、与えられた文脈において物質の量を減らすことを意味する。本明細書中で用いる場合、「遊離マンガンを低減する」または「遊離マンガンを減らす」という用語は、真菌によって取り込まれ得る、製品中に存在する利用可能なマンガンの量を減らすことを意味する。
【0027】
例えば、これは製品中または製品の一部になるような材料中に存在するマンガンを除去することにより達成することができる。例えば、これは、原料をイオン交換クロマトグラフィーに供してマンガンを除去し、その結果最終製品中の濃度が低減されることにより、達成することができる。
【0028】
真菌類は、いったん接近したら即座にコロニー形成し、集団で増殖し、それらの直近の周囲から栄養分を取り込む。幾つかの実施形態では、真菌が最初に製品と表面上で接触状態になることを考慮すると、マンガンの低減工程が製品の一部、例えばコーティングや外層のような製品の外側部分に対して実施されることは、本発明の精神の範囲内である。そのような場合、低減工程は、更になお製品中の濃度の減少をもたらす。
【0029】
本明細書中で用いられるようなマンガン濃度またはマンガンレベルは、重量/重量に基づき計算した百万分の1("ppm")として表される。一定の数値より低い濃度に製品中の遊離マンガンを減らすことは、製品全体中の重量での遊離マンガン濃度が減少するように、製品中またはその一部分中の遊離マンガンを減らすことを意味する。
【0030】
マンガンのような微量金属を測定する方法は当業界で既知であり、例えばNielsen, S. Suzanne編、"Food analysis" 第86巻、Gaithersburg, MD: Aspen Publishers, 1998中に記載されている。
【0031】
本発明方法を適用するに際して、当業者はまず、処理すべき製品中に存在するマンガンレベルを決定するだろう。食品のマンガン濃度は十分に研究されており、デンマーク国食品組成データバンクのCNFファイル(Danish Food Composition Databank, Canadian Nutrient Files)のような食品組成データベース中に見つけることができる。一般に、マンガンは、乳の場合少なくとも0.03 ppmの濃度で存在し、真菌汚染を受けやすい乳製品となっている。マンガンレベルは、牛乳の場合0.04~0.1 ppmの範囲であり、ヤギ乳またはヒツジ乳の場合0.18 ppm以下であると報告されている (Muehlhoff他、"Milk and dairy products in human nutrition". Food and Agriculture Organization of the United Nations (FAO), 2013)。チーズのような発酵乳製品に関しては、マンガンレベルは普通、原料乳からの濃縮工程のために、しばしば10倍またはそれ以上まで増加する。様々なタイプのチーズについて異なるレベルが報告されており、例えば、リコッタチーズでは約0.06 ppm、クリームチーズでは0.11 ppm、ブリーチーズでは0.34 ppm、モッツレラチーズでは0.3 ppm、カッテージチーズでは0.7 ppm、ゴーダチーズでは0.68 ppm、そしてチェダーチーズでは0.74 ppmであると報告されている(Smit, L.E.他、"The nutritional content of South African cheeses." ARC-Animal Improvement Institute, 1998; Gebhardt, Susan他、"USDA national nutrient database for standard reference, release 12." 米国農務省農業研究事業団(United States Department of Agriculture, Agricultural Research Service), 1998)。
【0032】
製品中の遊離マンガンは好ましくは、約0.01 ppm未満の濃度、例えば約0.009 ppm未満、約0.008 ppm未満、約0.007 ppm未満、約0.006 ppm未満、約0.005 ppm未満、約0.004 ppm未満、約0.003 ppm未満、約0.002 ppm未満、約0.001 ppm未満、約0.0009 ppm未満、約0.0008 ppm未満、約0.0007 ppm未満、約0.0006 ppm未満、約0.0005 ppm未満、約0.0004 ppm未満、約0.0003 ppm未満、またはそれ以下の濃度に低減される。
【0033】
本明細書中で用いる場合、用語「約」は、数値が記載の値よりわずかに外側の値、すなわち±0.1%~10%であることを示す。よって、記載の範囲よりわずかに外側の濃度も本発明の範囲に包含される。
【0034】
一実施形態では、本発明は、製品、好ましくは食品中の真菌類の増殖を抑制するまたは遅らせる方法であって、
- 製品中の遊離マンガンを低減する工程、および
- 遊離マンガン濃度が製品中約0.01 ppmより低い製品を得る工程
を含む方法を提供する。
【0035】
本発明は更に、遊離マンガンの濃度を測定する工程を含む。これは、遊離マンガンの濃度が低減されるかどうかを決定するために低減工程の後に実施することができる。一実施形態では、本発明は、食品中の真菌類の増殖を抑制するまたは遅らせる方法であって、食品中の遊離マンガンを食品中約0.01 ppm未満の濃度に減らし、そして食品中の遊離マンガンを測定し、そして場合により0.01 ppm未満の値を得ることを含む方法を提供する。
【0036】
一実施形態では、本発明は、製品中の真菌類の増殖を抑制するまたは遅らせる方法であって、
- 製品中の遊離マンガンを製品中約0.01 ppm未満の濃度に減らす工程、および
- 製品中の遊離マンガンの濃度を測定し、そして0.01 ppm未満の値を得る工程
を含む方法を提供する。
【0037】
低濃度のマンガンを測定する方法は当業者に周知である。そのような方法としては、原子吸光分光法、原子発光分光法、質量分析法、中性子放射化分析法およびX線蛍光分析法が挙げられる(例えば、Williams他、"Toxicological profile for manganese." (2012)を参照のこと)。
【0038】
好ましくは、マンガン濃度は、欧州標準化委員会(European Committee for Standarization)により発行された欧州規格 EN13805:2014中の"Foodstuffs - Determination of trace elements - Pressure digestion" に記載された、または国際標準化機構(International Organization for Standarization)により発行されたISO 11885:2007中の"Water guality - Determination of selected elements by inductively coupled plasma optical emission spectrometry (ICP-OES)”に記載されたような標準手順に従って測定される。
【0039】
真菌類
本発明者らは、驚くべきことに、酵母やカビがマンガン枯渇により抑制されうることを発見した。1つの好ましい実施形態では、本発明は、製品、好ましくは食品中の酵母の増殖を抑制するまたは遅らせる方法であって、製品中の遊離マンガンを減らす工程を含む方法を提供する。別の好ましい実施形態では、本発明は、製品、好ましくは食品中のカビの増殖を抑制するまたは遅らせる方法であって、製品中の遊離マンガンを減らす工程を含む方法を提供する。
【0040】
一実施形態では、当該方法は、酵母、例えばカンジダ属(Candida spp.)、メイエロジマ属(Meyerozyma spp.)、クルイベロミセス属(Kluyveromyces spp.)、ピキア属(Pichia spp.)、ガラクトマイセス属(Galactomyces spp.)、トリコスポラ属(Trichosporon spp.)、スポリジオボラス属(Sporidiobolus spp.)、トルラスポラ属(Torulaspora spp.)、クリプトコッカス属(Cryptococcus spp.)、サッカロミセス属(Sacharomyces spp.)、ヤロウィア属(Yarrowia spp.)、デバリオミセス属(Debaryomyces spp.)およびロドツロラ属(Rhodoturola spp.)の増殖を抑制するために用いられる。好ましくは、真菌類は、トルラスポラ属(Torulaspora spp.)、クリプトコッカス属(Cryptococcus spp.)、サッカロミセス属(Sacharomyces spp.)、ヤロウィア属(Yarrowia spp.)、デバリオミセス属(Debaryomyces spp.)、カンジダ属(Candida spp.)およびロドツロラ属(Rhodoturola spp.)から成る群より選択された酵母である。より好ましくは、真菌類はトルラスポラ・デルブルーキィ(Torulaspora delbrueckii)、クリプトコッカス・フラギコラ(Cryptococcus fragicola)、サッカロミセス・セレビシェ(Sacharomyces cerevisiae)、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)、デバリオミセス・ハンゼニィ(Debaryomyces hansenii)およびロドツロラ・ムチランギノーザ(Rhodoturola mucilaginosa)から成る群より選択された酵母である。
【0041】
一実施形態では、当該方法は、カビの増殖を抑制するために用いられる。好ましくは、真菌類は、アスペルギルス属(Aspergillus spp.;コウジカビ)、クラドスポリウム属(Cladosporium spp.)、ディディメラ属(Didymella spp.)またはペニシリウム属(Penicillium spp.;アオカビ)から成る群より選択されたカビである。より好ましくは、真菌類は、ペニシリウム・ブレビコンパクタム(Penicillium brevicompactum)、ペニシリウム・クラストサム(Penicillium crustosum)、ペニシリウム・ソリタム(Penicillium solitum)、ペニシリウム・カルネウム(Penicillium carneum)、ペニシリウム・パネウム(Penicillium paneum)およびペニシリウム・ロゲフォルティ(Penicillium rogueforti)から成る群より選択されたカビである。
【0042】
マンガンの除去
マンガンを除去する方法は当業界で既知である。マンガンは多数の坑内水、地下水および淡水中に良く見られる汚染物質である。廃水処理では、マンガンイオンはMn02への酸化、吸着、または炭酸塩としての沈殿により、廃水から化学的に除去することができる。
【0043】
あるいは、マンガンの除去は、化学的ルートに代わるものとして生物学的方法を含むことができる。マンガンで汚染された水の改質における微生物活性の役割は、様々な文献中例えば、Burger他、"Manganese removal during bench-scale biofiltration." Water Research. 2008;42(19):4733-4742; Johnson他、"Rapid manganese removal from mine waters using an aerated packed-bed bioreactor." Journal of Environmental Quality." 2005;34(3):987-993; Tekerlekopoulou他、"Removal of ammonium, iron and manganese from potable water in biofiltration units: a review." Journal of Chemical Technology and Biotechnology 88.5 (2013): 751-773; Patil他、"A review of technologies for manganese removal from wastewaters." Journal of Environmental Chemical Engineering 4.1 (2016): 468-487。に記載されている。一実施形態では、製品中の遊離マンガンを減らす工程は、イオン交換クロマトグラフィーの使用を含む。これは、製品が液体であるかまたは実質的に液体である場合に特に適用できる。
【0044】
一実施形態では、製品中の遊離マンガンを減らす工程は、マンガン捕捉剤(スカベンジャー)を添加することによって実施される。本明細書中で用いる場合、「マンガン捕捉剤」または「マンガンスカベンジャー」という用語は、マンガンを酵母やカビに利用できなくすることのできる物質を指す。この物質は、化学物質、例えばエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレングリコール-ビス(β-アミノエチルエーテル)-N,N,N',N'-四酢酸(EGTA)、ジアミノシクロヘキサン四酢酸(DCTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、l,2-ビス(o-アミノフェノキシ)エタン-N,N,N',N'-四酢酸(BAPTA)またはジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)から成る群より選択された化学キレート化剤であることができ、好ましくは化学キレート化剤はエチレンジアミン四酢酸(EDTA)である。この物質は細菌のような生物学的物質であることもできる。
【0045】
幾つかの好ましい実施形態では、マンガン捕捉剤は1以上の菌株である。そのような場合、それは遊離マンガンを測定する時、そのような遊離マンガンが細胞内に見られるマンガンを含まないことに注目すべきである。むしろ、遊離マンガンは、それらが真菌により取り込まれるべく利用可能であるため、細胞外、すなわち製品の無細胞部分に認められるマンガンのことを指す。よって、そのような場合、遊離マンガンの濃度は、細胞外マンガンのみを考慮に入れて測定すべきである。これは、例えば遠心分離によって細胞を除去し(例えばスターターカルチャー)、そして無細胞上清を取得し、続いてその無細胞上清中のマンガンを測定することにより実施可能である。本明細書中で用いる場合、用語「菌株」とは、微生物学の分野でのその一般的意味であり、細菌の遺伝的変異体(バリアント)を指す。
【0046】
一実施形態では、本発明は、製品中の真菌類の増殖を抑制するまたは遅らせる方法であって、
- 1以上の菌株をマンガン捕捉剤として選択する工程と、
- そのマンガン捕捉剤を添加することによって製品中の遊離マンガンを約0.03 ppmより低い濃度に減らす工程
とを含む方法を提供する。
【0047】
本発明の好ましい実施形態によれば、当該方法は、マンガン取込み活性を有する菌株をマンガン捕捉剤として選択することを含む。この選択は、菌株がマンガン輸送機構を有するかどうかに基づいている。
【0048】
マンガンは多数の重要な生物学的過程に関わっており、全ての生物体にユビキタス的に認められる。マンガンは酸化ストレスに対する保護にも寄与し、反応性酸素種の触媒的解毒(デトックス)作用にも寄与しうる。多数の細菌が、キレート化金属または遊離金属の低および高親和性輸送機構を利用する、環境から必須金属を取り除くための洗練された(高度な)捕捉システムを進化させた。細菌により取り込まれるマンガンは、タンパク質中で透析不可能なポリリン酸-タンパク質凝集体の大きな複合体を形成させ、それは非常に高い細胞内濃度に達しうる。
【0049】
マンガン輸送機構は十分に研究されており、例えばKehres他、"Emerging themes in manganese transport, biochemistry and pathogenesis in bacteria." FEMS microbiology reviews 27.2-3 (2003): 263-290中に記載されている。
【0050】
一実施形態では、マンガン取込み活性を有する菌株は、細菌のMn2+トランスポーターを含む。Mn2+ トランスポーターは、ABCトランスポーター(例えばSitABCDおよびYfeABCD)または、トランスポーター分類データベース(M. Saier; U of CA, San Diego, Saier MH, Reddy VS, Tamang DG, Vastermark A. (2014))により与えられたトランスポーター分類体系中 TC#3.A.1.15 および TC#2.A.55と指定されたファミリーに属するプロトン依存性Nramp関連輸送システムであることができる。TC体系は、酵素分類のための酵素委員会(EC)体系に類似している輸送タンパク質の分類体系である。このトランスポーター分類(TC)体系は、生物学および分子生物学の国際共同体(International Union of Biochemistry and Molecular Biology)による輸送タンパク質分類のための承認された命名法である。TCDBはhttp://www.tcdb.orgから自由にアクセスでき、それは階層分類への段階的(step-by-step)アクセス、配列またはTC番号による直接検索、およびフルテキスト検索を含む、データにアクセスするための幾つかの異なる方法を提供している。
【0051】
1つの実施形態では、当該方法は、TC#3.A.1.15 (マンガンキレート取込みトランスポーター(MZT)ファミリー)と指定されたファミリーに属するタンパク質を含む菌株を、マンガン捕捉剤として選択することを含む。
【0052】
例えば、マンガン捕捉剤は、TC#3.A.1.15.2、TC#3.A.1.15.6、TC#3.A.1.15.8、TC#3.A.1.15.14 と指定されたマンガンキレート取込みトランスポーターまたはその機能的変異体を含む。
【0053】
ABCトランスポーターは主に高pH域で活性であるが、プロトン駆動型のトランスポーターは酸性条件下でより活性である。このことは、それらを発酵食品中でのマンガン捕捉剤として特に有用にする。よって、一実施形態では、TC#2.A.55と指定されたファミリー〔金属イオン(Mn2+-鉄)トランスポーター(Nramp)ファミリー〕に属するタンパク質を含む菌株が選択される。
【0054】
1以上の細菌をマンガン捕捉剤として選択する工程は、1以上の細菌がTC#2.A.55と指定されたマンガントランスポーターまたはその機能的変異体を含むかどうかを決定することを含む。
【0055】
より好ましくは、トランスポーターは、マンガン捕捉剤として、TC#2.A.55.2と指定されたサブファミリーまたはTC#2.A.55.3と指定されたサブファミリーに属する。
【0056】
例えば、マンガン捕捉剤は、TC#2.A.55.3.1、TC#2.A.55.3.2、TC#2.A.55.3.2、TC#2.A.55.3.3、TC#2.A.55.3.4、TC#2.A.55.3.5、TC#2.A.55.3.6、TC#2.A.55.3.7、TC#2.A.55.3.8 もしくはTC#2.A.55.3.9として指定された金属イオン(Mn2+-鉄)トランスポーター(Nramp)またはその機能的変異体をマンガン捕捉剤として含む菌株である。
【0057】
より好ましくは、該方法は、TC#2.A.55.3と指定されたタンパク質またはその機能的変異体を含む菌株をマンガン捕捉剤として選択することを含む。
【0058】
好ましくは、マンガン捕捉剤は、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)、ラクトバチルス・サケイ(Lactobacillus sakei)、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)、ラクトバチルス・サリバリウス(Lactobacillus salivarius)、ラクトバチルス・アリメンタリウス(Lactobacillus alimentarius)、ペディオコッカス・アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)およびラクトバシラス・ケフィリ(Lactobacillus kefiri)から成る群より選択され得る。
【0059】
「機能的変異体」という用語は、実質的に同じ生物活性、すなわちマンガン取込み活性を有するタンパク質変異体である。
【0060】
本明細書中で用いる場合、「変異体」は、タンパク質の特定の核酸配列またはアミノ酸配列と少なくとも55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%配列同一性を共有するタンパク質の変異形を指す。
【0061】
本発明は更に、本発明を実施するために適当なマンガン捕捉剤を選択するためのマンガントランスポーターのポリペプチド配列を提供する。
【0062】
1つの好ましい実施形態では、マンガン捕捉剤は、配列番号1
【化1】
の配列を有するポリペプチドまたはその機能的変異体を含む菌株である。
【0063】
他の好ましい実施形態では、マンガン捕捉剤は、配列番号1の配列と少なくとも55%、例えば少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列同一性を有するポリペプチドを含む菌株である。
【0064】
表1は、配列番号1の機能的変異体をコードする例示的配列、および配列番号1とのそれらの配列同一性を示す。
【表1-1】
【0065】
【0066】
【0067】
1つの好ましい実施形態では、マンガン捕捉剤は、配列番号2:
【化2】
の配列を有するポリペプチドまたはその機能的変異体を含む菌株である。
【0068】
別の好ましい実施形態では、マンガン捕捉剤は配列番号2の配列と少なくとも55%、例えば少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列同一性を有するポリペプチドを含む菌株である。
【0069】
表2は、配列番号2の機能的変異体をコードする代表的配列と、それらの配列の配列番号2との配列同一性を示す。
【表2-1】
【0070】
【0071】
1つの好ましい実施形態では、マンガン捕捉剤は配列番号3の配列:
【0072】
【化3】
を有するポリペプチドまたはその機能的変異体を含む菌株である。
【0073】
別の好ましい実施形態では、マンガン捕捉剤は配列番号3の配列と少なくとも55%、例えば少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列同一性を有するポリペプチドを含む菌株である。
【0074】
表3は、配列番号3の機能的変異体をコードする代表的配列と、それらの配列の配列番号2との配列同一性を示す。
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
本発明の目的上、2つのアミノ酸配列間の「配列同一性」の程度は、Needleman-Wunschアルゴリズム (Needleman & Wunsch, 1970, J. Mol. Biol. 48: 443-453) を使ってEMBOSS パッケージ (EMBOSS: The European Molecular Biology Open Software Suite、Rice他、2000、Trends Genet. 16: 276-277)の好ましくはバージョン3.0.0以降のNeedleプログラム中に実装されている通りに決定する。使用されるオプションのパラメータは、ギャップオープンペナルティ10、ギャップ伸長ペナルティ0.5およびEBLOSUM62 (BLOSUM62のEMBOSSバージョン) 代替行列である。Needle標識された「最長同一性」の出力(nobriefオプションを用いて取得)が同一性%として使用され、それは次のようにして算出される:
〔(同一残基数)×100〕/〔(アラインメントの長さ)-(アラインメント中のギャップの総数)〕。
【0079】
本発明の目的上、2つのアミノ酸配列間の「配列同一性」の程度は、Needleman-Wunschアルゴリズム (Needleman & Wunsch, 1970, J. Mol. Biol. 48: 443-453) を使ってEMBOSS パッケージ (EMBOSS: The European Molecular Biology Open Software Suite、Rice他、2000、Trends Genet. 16: 276-277)の好ましくはバージョン3.0.0以降のNeedleプログラム中に実装されている通りに決定する。使用されるオプションのパラメータは、ギャップオープンペナルティ10、ギャップ伸長ペナルティ0.5およびEBLOSUM62 (BLOSUM62のEMBOSSバージョン) 代替行列である。Needle標識された「最長同一性」の出力(nobriefオプションを用いて取得)が同一性%として使用され、それは次のようにして算出される:
〔(同一残基数)×100〕/〔(アラインメントの長さ)-(アラインメント中のギャップの総数)〕
【0080】
一実施形態では、選択工程は、細菌株が配列番号1~3のいずれか1つの配列と少なくとも55%、例えば少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%配列同一性を有するマンガントランスポーターを含むかどうかを決定することを含む。この決定は、細菌株のシーケンシング(配列決定)または既知の配列データベース中のブラスト(BLAST)検索に基づくことができる。
【0081】
本発明の実施例の項目で使用されるマンガン捕捉剤(スカベンジャー)は、配列番号1~3にコードされるようなマンガントランスポーターまたはその機能的変異体を有する。
【0082】
他の実施形態では、本発明は、製品中の真菌類の増殖を抑制または遅らせる方法であって、
- マンガン捕捉剤として1以上の細菌株を選択する工程、および
- マンガン捕捉剤を添加することにより、製品中の遊離マンガンを製品中約0.01 ppm未満の濃度に低減する工程
を含み、ここで前記選択工程が1以上の細菌株のマンガン取込み活性を測定することを含む方法を提供する。
【0083】
マンガン取込み活性は、当技術分野で既知の常法を使って測定することができる。例えば、Kehres他、"The NRAMP proteins of Salmonella typhimurium and Escherichia coli are selective manganese transporters involved in the response to reactive oxygen." Molecular microbiology 36.5 (2000): 1085-1100を参照されたい。
【0084】
発酵乳製品などの発酵食品の場合、マンガン捕捉剤は好ましくは乳酸菌種である。ラクトバチルス属には様々なマンガントランスポーターファミリーが存在し、多くの場合、これらの多数の同族体(ホモログ)も存在する。
図11において、ラクトバチルス属内のマンガントランスポーターMntHファミリーの系統発生の概要を示す系統樹が提供される。図が示す通り、マンガントランスポーターは、ラクトバチルス属全体で見いだされ得る。ラクトバチルス属菌の他に、MntHトランスポーターファミリーは他の細菌にも見い出すことができる。この系統樹は、mafft v.7を使ってラクトバチルスMntHタンパク質配列をアラインメントすることによって構築され、一方で系統発生は近隣結合クラスタリング法によって推測された。
【0085】
好ましい実施形態では、マンガン捕捉剤は、L.ラムノサス(L. rhamnosus)、L.サリバリウム(L. salivarius)、L.カゼイ(L. casei)、L.パラカゼイ(L. paracasei)、L.ファーメンタム(L. fermentum)、L.サケイ(L. sakei)、L.ロイテリ(L. reuteri)、L.プランタルム(L. plantarum)、L.ブレビス(L. brevis)、L.ケフィリ(L. kefiri)、L.アリメンタリウス(L. alimentarius)およびペディコッカス・アシディラクチシ(Pedicoccus acidilactici)からなる群より選択される細菌株である。
【0086】
他方、そのようなトランスポーターは、L.ヘルベティカス(L. helveticus;ヘルベティカス菌)、L.アシドフィルス(L. acidophilus;アシドフィルス菌)、L.ガゼリ(L. gasseri;ガゼリ菌)およびL.デルブリューキィ亜種ブルガリクス(L. delbrueckii subsp. bulgaricus;ブルガリア菌)中には欠損しているように見えるため、それらは遊離マンガンの除去にあまり適さない。
【0087】
本発明の好ましい実施形態によれば、当該方法は、1以上の細菌株がスーパーオキシドジスムターゼを含まず、好ましくはマンガンスーパーオキシドジスムターゼを含まないことを決定する選択工程を含む。
【0088】
マンガンスーパーオキシドジスムターゼなどのスーパーオキシドジスムターゼは既に研究されており、例えば特に、Kehres他、"Emerging themes in manganese transport, biochemistry and pathogenesis in bacteria." FEMS microbiology reviews 27.2-3 (2003): 263-290; Culotta V.C “Superoxide dismutase, oxidative stress, and cell metabolism” Curr. Top. Cell Regul. 36, 117-132 (2000) または Whittaker J.W “Manganese superoxide dismutase” Met. Ions Biol. Syst. 37, 587-611 (2000)中に記載されている。
【0089】
本発明の文脈において、「~を含まない」という用語は、1つ以上の細菌株のゲノムがスーパーオキシドジスムターゼをコードする遺伝子を提示しないこと、または1つ以上の細菌株のゲノムがスーパーオキシドジスムターゼをコードする遺伝子を提示する場合であっても、この遺伝子が1つ以上の細菌株によって発現されないことを意味する。
製品
【0090】
幾つかの実施形態では、製品は、食品、化粧品、ヘルスケア製品、または医薬品である。「食物」と「食品」は、これらの用語の共通の意味を有する。「食品」とは、人間または動物による消費に適した任意の食料品または飼料製品を指す。食品は、生鮮食品または腐敗しやすい食品、並びに保存食品または加工食品であり得る。食品には、派生品を含む果物および野菜、穀物および穀物由来製品、乳製品、食肉、家禽およびシーフードが含まれるが、これらに限定されない。より好ましくは、食品は肉製品または乳製品、例えばヨーグルト、トバログ、サワークリーム、チーズなどである。
【0091】
しかしながら、本発明の文脈内では、本発明における「製品」および「食品」という用語は、水をそういうものとして指すことに留意されたい。マンガンは人間の栄養に不可欠であるが、米国環境保護庁(EPA)によると、それは水中では一般に人間にとって健康に良くないと考えられている。従って、過剰なマンガンを除去するための飲料水または廃水の処理は、しばしば除染や健康目的で行われており、これは本発明の精神とは全く関係がない。
【0092】
本発明は、中程度から高度の水分活性を有する食品に特に適用可能である。水分活性(aw)は、微生物の生存力と機能性を決める。水分活性すなわちawは、物質中の部分水蒸気圧を標準状態の部分水蒸気圧で除算したものである。食品科学の分野では、標準状態はほとんどの場合、同温度での純粋の部分水蒸気圧として定義される。この特定の定義を使用すると、純粋な蒸留水は正確に1の水分活性を有する。
【0093】
真菌による腐敗を起こしやすい主な食品カテゴリーは、ヨーグルト、クリーム、バター、チーズなど、中程度から高度の水分活性を有する乳製品である。しかしながら、本発明は、加工肉、穀物、堅果(ナッツ)、香辛料(スパイス)、粉乳、乾燥肉および発酵食肉などの、より低い水分活性を有する食品にも適していることも想定される。
【0094】
好ましい実施形態において、本発明に開示される方法を適用できる製品は、0.98未満、例えば約0.97未満、約0.96未満、約0.95未満、約0.94未満、約0.93未満、約0.92未満、約0.91未満、約0.90未満、約0.89未満、約0.88未満、約0.87未満、約0.86未満、約0.85未満、約0.84未満、約0.83未満、約0.82未満、約0.81未満、約0.80未満、約0.79未満、約0.78未満、約0.77未満、約0.76未満、約0.75未満、約0.74未満、約0.73未満、約0.72未満、約0.71未満、約0.70未満またはそれ以下の水分活性(aw)を有する製品である。
【0095】
幾つかの実施形態では、製品は、約 0.70~約0.98、例えば約0.75~約0.97、例えば約0.80~約0.96、例えば約0.85~約0.95の水分活性(aw)を有するものである。
【0096】
水分活性を測定する方法は、例えば、Fontana Jr, Anthony J. "Measurement of water activity, moisture sorption isotherms, and moisture content of foods." Water activity in foods: Fundamentals and applications (2007): 155-173に記載されているように、当技術分野で知られている。
【0097】
一実施形態では、本明細書に記載の工程は、発酵食品中の真菌の増殖を抑制または遅らせるために実施される。発酵食品とは、微生物の作用により生産・保存される食品である。発酵とは、微生物の作用により炭水化物をアルコールまたは酸に変換することを意味する。発酵は通常、酵母を利用して糖をアルコールに発酵させることを指す。ただし、乳糖(ラクトース)から乳酸への変換も含まれる場合がある。例えば、発酵は、ヨーグルト、チーズ、サラミ、サワークラフト、キムチ、ピクルスなどの食品を製造するために使用することができる。
【0098】
一実施形態では、食品は乳酸発酵の産物であり、すなわち、乳酸菌(LAB)発酵によって調製される。「乳酸菌」とは、グラム陽性、微好気性または嫌気性細菌を指し、優勢的に生産される酸として乳酸を含む酸の産生により、糖を発酵させる。食品は、典型的には、約3.5~約6.5、例えば約4~約6、例えば約4.5~約5.5、例えば約5のpHを有する。
【0099】
本発明は、乳製品中の真菌類の増殖を抑制するまたは遅らせるのに特に有用である。そのような製品では、酵母やカビによる汚染が一般的であり、そのような製品の貯蔵寿命を制限する。「乳製品」には、乳に加えて、クリーム、アイスクリーム、バター、チーズ、ヨーグルトなどの乳由来の製品、並びに乳清やカゼインなどの二次製品(副産物)、および調製粉乳などの主成分として乳または乳成分を含む任意の調理済み食品が含まれる。1つの好ましい実施形態では、乳製品は発酵乳製品である。「乳」という用語は、牛、羊、ヤギ、水牛、ラクダなどの哺乳類を搾乳することによって得られる乳状分泌物として理解される。好ましい実施形態では、乳は牛乳である。
【0100】
マンガンの濃度は、それが生産される動物、飼料、並びに季節によって、乳ごとに異なる。一般に、マンガンは乳製品中に少なくとも0.03 ppmの濃度で存在し、例えば脱脂粉乳(スキムミルク)の場合は少なくとも0.08 ppm、全乳の場合は少なくとも0.1 ppmである。本発明者らのこの発見に基づき、そのような製品またはそれから調製された製品中のマンガン量を減らすことは、それらを腐敗に対してより耐性にするであろう。
【0101】
一実施形態では、食品は、好熱細菌を用いた発酵によって調製された製品、すなわち高温発酵食品である。「好熱細菌」という用語は、43℃を超える温度で最も良く生育する微生物を指す。工業的に最も有用な好熱細菌には、ストレプトコッカス属(Streptococcus spp.)およびラクトバチルス属(Lactobacillus spp.)が含まれる。本明細書における「高温発酵」という用語は、約35℃を超える温度、例えば、約35℃~約45℃での発酵を指す。「高温発酵食品」とは好熱性スターターカルチャーの高温発酵によって調製された発酵食品を指す。このような製品には、例えばヨーグルト、スキール(skyr)、レブネ(labneh)、ラッシー(lassi)、アイラン(ayran)、ドゥーグ(doogh)が含まれる。
【0102】
一実施形態では、食品は、中温発酵によって調製された製品、すなわち中温発酵食品である。「中温細菌」という用語は、中程度の温度(15℃~40℃)で最も良く生育する微生物を指す。工業的に最も有用な中温細菌には、ラクトコッカス属(Lactococcus spp.)およびロイコノストック属(Leuconostoc spp.)が含まれる。本明細書における「中温発酵」という用語は、約22℃~約35℃の温度での発酵を指す。「中温発酵食品」とは、中温性スターターカルチャーの中温発酵によって調製された発酵食品を指す。このような製品には、例えばバターミルク、サワーミルク、発酵乳、スメタナ、サワークリーム、クワルク、トバログ、クリームチーズなどのフレッシュチーズが含まれる。
【0103】
発酵食品の製造
本明細書に開示される方法は、高温および中温発酵乳製品、例えばヨーグルト製品などの発酵乳製品における酵母および/またはカビの繁殖を抑制または遅らせるのに特に有用である。「発酵乳製品」という用語は、関連する公的規制に従って一般的に定義されている用語であり、その基準は当該技術分野で周知である。例えば、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus;サーモフィルス菌)とラクトバチルス・デルブリューキィ亜属ブルガリクス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus;ブリガリア菌)との共生培養がヨーグルト用のスターターカルチャーとして使用され、一方でラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophillus;アシドフィルス菌)はアシドフィラスミルク(酸乳)の製造に使用される。他の中温乳酸菌は、クワルクまたはフロマージュ・フレ(フランスのフレッシュチーズ)を製造するために使用される。
【0104】
「発酵乳製品」という表現は、食品または飼料製品を意味し、食品または飼料製品の調製は、乳酸菌による乳基質の発酵を必要とする。本明細書で用いる場合の「発酵乳製品」には、高温発酵乳製品(例えばヨーグルト)および中温発酵乳製品(例えばサワークリームおよびバターミルク、並びに発酵ホエー、クワルクおよびフロマージュ・フレ)などの製品が含まれるが、これらに限定されない。発酵乳製品には、コンチネンタルタイプのチーズ、フレッシュチーズ、ソフトチーズ、チェダー、マスカルポーネ、パスタフィラタ、モッツァレラ、プロボロン、ホワイトブラインチーズ、ピザチーズ、フェタチーズ、ブリーチーズ、カマンベールチーズ、カッテージチーズ、エダムチーズ、ゴーダチーズ、チルジット、ハバーティまたはエメンタールチーズ、スイスチーズ、およびマースダム(Maasdam)チーズも含まれる。
【0105】
「ヨーグルト」という用語は、その一般的意味を持ち、一般に関連する公的規制に従って定義され、その基準は当該技術分野で周知である。ヨーグルトの製造に使用されるスターターカルチャーは、少なくとも1つのラクトバチルス・デルブリューキィ亜属ブルガリクス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus;ブルガリア菌)と少なくとも1つのストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus;サーモフィルス菌)株を含む。興味深いことに、マンガントランスポーターは、ブルガリア菌中に存在せず、サーモフィルス菌中では低発現のみを示す(これら2つの菌株は、ヨーグルトのスターターカルチャー中に見いだされる)ことで、それらを真菌による腐敗の影響を特に受けやすくしている。従って、ヨーグルト中に存在する遊離マンガンを除去するために、特に別の細菌株を含めることが好ましい。
【0106】
好ましくは、発酵製品中の遊離マンガンは、約0.005 ppm未満の濃度に低減される。
【0107】
食品加工の間、化学保存料(防腐剤)は、真菌による腐敗を避けるために伝統的に使用されている。しかしながら、ほとんど加工せず防腐剤を含まない食品に対する強い社会的需要を考慮して、本発明は、マンガン濃度を低減するために生物学的マンガン捕捉剤を使用することにより、酵母とカビの増殖を管理するための効果的な解決策を提供することに貢献する。
【0108】
生物学的捕捉剤を使用する場合、当業者は、本発明で提供される例に加えて、水分活性、栄養素、天然マンガンのレベル、貯蔵寿命、保管条件、充填包装などといった食品の特性を考慮に入れながら、pH、温度およびマンガン捕捉剤または細菌の量のような様々なパラメータを調整することで所望の結果を達成することができる。
【0109】
遊離マンガン濃度が低減された製品は、酵母やカビとの接触を更に制限するために包装されることが好ましい。貯蔵寿命を延長するために製品を低温(15℃未満)で保管することも好ましい。
【0110】
発酵食品の場合、マンガン捕捉細菌は、発酵前、発酵開始時、または発酵中に添加することができる。選択されたパラメータに応じて、マンガンレベルを好ましいレベルに低減する工程は、数時間、例えば少なくとも5時間、例えば少なくとも10時間、例えば少なくとも15時間、例えば少なくとも20時間、例えば少なくとも1日、2日、3日またはそれ以上を要する場合がある。当業者は、真菌の抑制または遅延が望まれる製品に依存して、適切なパラメータを選択することができるだろう。
【0111】
本発明は、スターターカルチャーとマンガン捕捉剤とを食品基質に添加し、目標pHに到達するまで一定期間に渡り該基質を発酵させることを含む、発酵食品を調製する方法を提供する。マンガン捕捉剤は、好ましくは乳酸菌(ラクトバチルス菌)株である。
【0112】
本発明で使用される場合、「食品基質」ベースという用語は、発酵が行われる予定の基質を指す。
【0113】
発酵乳製品を製造するため、食品基質は原料乳(乳基質)である、「原料乳」という用語は本発明において広義に用いられ、スターターカルチャーの増殖と発酵のための培地として使用することができる乳または乳成分をベースにした組成物を指す。「乳」とは、一般に、牛、羊、ヤギ、水牛またはラクダなどの任意の哺乳類の搾乳によって得られる、乳状分泌物(乳汁)を指す。原料乳は、任意の生乳および/または加工乳材料、並びに還元粉乳から得ることができる。原料乳は、植物由来の、すなわち植物材料、例えば豆乳から調製することもできる。牛乳または牛乳成分から調製された原料乳が好ましい。.
【0114】
原料乳には、全乳または低脂肪乳、脱脂乳、バターミルク、還元粉乳、コンデンスミルク、乾燥乳などの、タンパク質を含む任意の乳または乳様製品の溶液/懸濁液が含まれるが、これらに限定されない。
【0115】
原料乳は、消費者のニーズに応じて低乳糖であることもできる。低乳糖乳は、当該技術分野で既知の任意方法に従って、例えばラクターゼ酵素による乳糖のグルコースとガラクトースへの加水分解、またはナノ濾過、電気透析法、イオン交換クロマトグラフィーおよび遠心分離により、製造することができる。
【0116】
原料乳を発酵させるために、スターターカルチャーが添加される。本文脈で使用される「スターター」または「スターターカルチャー」という用語は、原料乳の酸性化に関与する1つ以上の食品等級の微生物、特に乳酸菌の培養物を指す。
【0117】
マンガン捕捉剤は、発酵の前、開始時または発酵中に、スターターカルチャーと同時にもしくは異なる時点で添加することができる。
【0118】
スターターカルチャーとマンガン捕捉剤を添加し、そして原料乳を適切な条件に供した後、発酵工程が始まり、一定期間継続する。当業者は、温度、酸素、炭水化物の添加、微生物の量と特性、並びに要する工程時間などの適切な工程条件を選択する方法を知っている。この工程は、3、4、5、6時間以上を要する場合がある。
【0119】
これらの条件には、特定のスターターカルチャー株に適した温度の設定が含まれる。例えば、スターターカルチャーが中温乳酸菌を含む場合、温度を約30℃に設定することができ、そして該カルチャーが好熱性乳酸菌株を含む場合、温度を約35℃~50℃、例えば40℃~45℃の範囲内に維持する。発酵温度の設定は、当業者が容易に決定することができる、発酵に添加される酵素にも依存する。本発明の特定の実施形態において、発酵温度は、35℃~45℃の間、好ましくは37℃~43℃、より好ましくは40℃~43℃である。別の実施形態では、発酵温度は15℃~35℃、好ましくは20℃~35℃であり、そしてより好ましくは30℃~35℃である。
【0120】
発酵は、当技術分野で知られている任意の方法を使用して終了させることができる。一般に、様々な工程パラメータに応じて、原料乳をスターターカルチャーの菌株が増殖するのに不適当にすることで、発酵を終了させることができる。例えば、発酵の終了は、目標pHに到達したときに発酵乳製品を急冷することによって果たすことができる。発酵の間に酸性化が起こり、カゼインのクラスターと連鎖からなる三次元ネットワークの形成をもたらすことが知られている。「目標(ターゲット)pH」という用語は、発酵工程が終了するpHを意味する。目標pHは、得られる発酵乳製品に依存し、当業者によって容易に決定することが可能である。
【0121】
本発明の特定の実施形態において、発酵は、少なくとも5.2のpHに到達するまで、例えば5.1、5.0、4.9、4.8、4.7、4.6、4.5、4.4、4.3、4.2、4.1、4.0、3.9、3.8または3.7のpHに到達するまで行われる。好ましくは、発酵は、4.0~5.0、より好ましくは4.0~5.0の目標pHに到達するまで実施される。好ましい実施形態では、発酵は、4.6未満の目標pHに到達するまで行われる。
【0122】
好ましい実施形態では、発酵食品は、クワルク、クリームチーズ、フロマージュ・フレ、ギリシャヨーグルト、スキール、ラブネ、バターミルク、サワークリーム、サワーミルク、カルチャーミルク、ケフィール、ラッシー、アイラン、トワログ、ドゥーグ、スメタナ、ヤクルト、およびダヒからなる群より選択される。
【0123】
別の好ましい実施形態では、発酵食品は、コンチネンタルタイプのチーズ、フレッシュチーズ、ソフトチーズ、チェダー、マスカルポーネ、パスタフィラータ、モッツァレラ、プロボロン、ホワイトブラインチーズ、ピザチーズ、フェタ、ブリーチーズ、カマンベール、カッテージチーズ、エダム、ゴーダ、チルジット、ハバーティまたはエメンタール、スイスチーズ、マースダム(Maasdam)チーズをはじめとするチーズである。
【0124】
更なる実施形態では、この方法は、酵母やカビとの接触を減らすために食品を包装することを更に含む。
【0125】
本発明に含まれるのは、本明細書に記載の方法によって得られる食品である。
【0126】
本発明により得られる食品は、好ましくは、少なくとも2日間、例えば、少なくとも3日間、少なくとも4日間、より好ましくは少なくとも5日間、少なくとも6日間、少なくとも7日間、少なくとも8日間、少なくとも9日間、少なくとも10日間、少なくとも11日間、少なくとも12日間、少なくとも13日間、少なくとも14日間貯蔵した後に遊離マンガン濃度が0.01 ppm未満に低減された発酵乳製品である。
【0127】
本発明の他の特徴および利点は、添付の図面と併せて以下の説明を読むことから明らかになるであろう。別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての用語は、当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本発明を説明する文脈における(特に以下の特許請求の範囲の文脈での)「a」および「an」および「the」という用語並びに類似の指示語の使用は、単数形と複数形の両方を包含すると解釈されるべきである。「含む」、「有する」、「包含する」および「含有する」という用語は、本明細書中特に断りのない限り、制限のない用語(すなわち、「含むが、それに限定されない」ことを意味する)として解釈すべきである。本明細書中の数値の範囲の列挙は、本明細書中特に断りのない限り、その範囲内にある各個別の値を個別に言及するための簡略化された方法として役立つことを意図しており、各個別の値は、あたかもそれが本明細書中に個別に記載されているかのように、本明細書中に組み込まれる。本明細書に記載の全ての方法は、本明細書に別段の指示がない限り、または文脈によって明らかに矛盾しない限り、任意の適切な順序で実行することができる。特に断らない限り、本明細書中に与えられる全ての正確な値は、対応する近似値を表すものである(例えば、特定の因子または測定値に関して与えられる全ての正確な典型値は、適当であれば、「約」という語により修飾された、対応する近似の測定値も提供すると解釈することができる)。特に別に言及しない限り、本明細書に提供されるあらゆる例または例示的な言語(例えば「~のような(such as)」)の使用は、単に本発明を明らかにするためであって、本発明の範囲に対する限定をもたらすものではない。本明細書中のどの言語も、言及されていないいずれがの要素を本発明の実施に必須であると解釈すべきでない。
【0128】
〔実施例〕
本明細書に記載され特許請求される発明は、本発明の幾つかの態様の例示として意図されるため、開示される特定の態様により範囲が限定されることはない。任意の同等の態様も本発明の範囲内に入るものである。実際、本明細書中に示され記載されるものに加えて本発明の様々な変形は、下記の記載と次の実施例から当業者に明白になるであろう。そのような変形もまた、添付の特許請求の範囲内に入ると意図される。矛盾する場合、定義を含む本開示が優先する。
【0129】
実施例1:異なるマンガン濃度中での酵母の増殖
本例は、最少培地中でのデバリオミセス・ハンゼニィ(Debaryomyces hansenii)のマンガン需要量を実証する。腐敗したヨーグルト(株1)およびクワルク(株2)からそれぞれ単離された2種の酵母D.ハンゼニィ(D. hansenii)を使用した。それらの株を異なるマンガン濃度を有する既知組成培地中で増殖させた。
【0130】
最少培地は、ビオチン 2 μg/L、パントテン酸カルシウム400 μg/L、葉酸 2 μg/L、イノシトール 2 mg/L、ニコチン酸400 μg/L、p-アミノ安息香酸 200 μg/L、ピリドキシン400 μg/L、リボフラビン200 μg/L、チアミン 400 μg/L、ホウ酸 500 μg/L、硫酸銅 40 μg/L、ヨウ化カリウム 100 μg/L、塩化第二鉄 200 μg/L、モリブデン酸ナトリウム 200 μg/L、硫酸亜鉛 400 μg/L、リン酸二水素カリウム0.5 g/L、二塩基性リン酸カリウム0.5 g/L、硫酸マグネシウム 0.5 g/L、塩化ナトリウム 0.1 g/L、塩化カルシウム 0.2 g/L、グルコース 20 g/L、硫酸アンモニウム 5 g/Lを含有する。
【0131】
使用するマンガン濃度:6 ppm、0.6 ppm、0.06 ppm、0.006 ppm、0.0006 ppm、0.00006 ppm、0.000006 ppm。
【0132】
2つの異なるpHを試験した:pH 6.5 とpH 4.5。
【0133】
酵母株を96ウェルプレート中の150μLの異なる培地に接種した。そのプレートを17℃で数日間インキュベートし、そしてプレートリーダー中で600 nmの吸光度を測定することにより、酵母株の増殖を追跡した。
【0134】
2種のD. ハンゼニィ(D. hansenii)株の増殖に対する異なるpHおよび異なるマンガン濃度の影響を
図1(株1)と
図2(株2)に示す。D. ハンゼニィの増殖が約0.01 ppmの濃度よりも低く抑制されることが分かる。2つの異なるpH間には全く差が認められず、このことは、この機序がこのpH域で有効であることを証明する。
【0135】
実施例2:発酵乳製品における酵母の抑制
本実施例は、発酵乳中のデバリオミセス・ハンゼニィ(Debaryomyces hansenii)のマンガン需要量を証明する。
【0136】
スターターカルチャー(ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus;サーモフィルス菌)とラクトバチルス・デルブリュキィ亜種ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus;ブルガリア菌)を含むまたは更にマンガン捕捉剤(L.ラムノサス(L. rhamunosus)とL.パラカゼイ(L. paracasei))を含む発酵乳製品を調製した。発酵乳製品を遠心分離し(5000 rpmで10分)、上清を滅菌ろ過した。上清を無菌の96ウェルプレート(各ウェル中150μL)に移し、そして第1ウェルに6 ppmの最終濃度にマンガンを加え、次いで10倍の連続希釈を実施して、6 ppmから0.000006 ppmまでに至る異なるマンガン濃度を作出した。D.ハンゼニィ(D. hansenii)を~20細胞/ウェルに接種し、17℃で数日間インキュベートし、そして7日目にプレートリーダー中で600 nmの吸光度を測定することにより、酵母株の増殖を追跡した。
【0137】
図3と4は、マンガンを水相に添加した後の酵母の増殖が、株1については
図3に、そして株2については
図4に示される(白丸)。技術的複製物n=6(A)とn=3(B)の平均および標準偏差が示される。比較として、マンガン捕捉剤も追加のマンガンも添加しなかった参照ヨーグルト水相(四角)についての酵母増殖も示される。参照は0.03 ppmの固有マンガン濃度を有することが注目される。白丸に関して、x軸は添加されたマンガン濃度を示し、そして四角に関しては(参照ヨーグルト水相)、x軸は水相中の固有のマンガン濃度を示す。
【0138】
この結果は、食品マトリックス中の酵母株の増殖がマンガンに依存することを証明する。マンガンの添加は参照と同様な増殖を与えるので、このことは低マンガン濃度が発酵乳製品中での酵母の生育にとっての主たる制限因子であることを証明する。
【0139】
実施例3:デバリオミセス属(Debaryomyces)およびロドツロラ属(Rhodoturola)の抑制
本実施例は、様々な細菌のマンガン除去活性と、デバリオミケス属とロドツロラ属に対するそれらの抑制効果を示す。低マンガン濃度と高マンガン濃度を有する発酵乳製品での抑制効果を評価した。
【0140】
表4は、添加される細菌と、それらがマンガントランスポーターを含むか否かを表す。
【0141】
【0142】
上に列挙した細菌はMRS培地中で一晩増殖させた。
【0143】
調製法:スターターカルチャー(サーモフィルス菌(Streptococcus thermophilus)とブルガリア菌(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus))を含む2 mLの乳を10μLの一晩培養物に接種した。
【0144】
pH 4.5に到達するまで43℃で約6時間乳を発酵させた。発酵乳は後の使用まで冷蔵庫に保管した。150μLの発酵乳を、96ウェルプレート中の個々のウェルに二通りに移した。サンプルの半量にマンガンを添加し、6 ppmのマンガンの増加を与え、全てのウェルに、デバリオミセス・ハンゼニィ(Debaryomyces hansenii)かロドツロラ・ムチランギノーザ(Rhodoturola mucilaginosa)のいずれかの約20個の細胞を接種した。4日後、選択用YGCプレート上に希釈列をスポットし、酵母の増殖を分析した。酵母の増殖は光学検査により測定し、一方で増殖無しの場合には0の値を付与し、そして完全な増殖には5の値を付与した。2つの生物学的に独立した実験の平均を、デバリオミセスについては表5に、そしてロドツロラについては表6に示した。
【0145】
【0146】
【0147】
この結果は、D. ハンゼニィとR. ムチランギノーザを抑制するために、マンガンを捕捉する菌株を使用できるが、その抑制はマンガンの添加により弱まることを示す。
【0148】
実施例4:デバリオミセス属(Debaryomyces)、サッカロミセス属(Saccharomyces)、ロドツロラ属(Rhodoturola)、クリプトコッカス属(Cryptococcus)およびトルラスポラ属(Torulaspora)の抑制
【0149】
本実施例は、マンガン捕捉剤の有無の下での、スターターカルチャーを用いて調製した発酵乳の水相における酵母の増殖の差を評価する。
【0150】
表7は使用するマンガン捕捉剤の一覧である。
【0151】
【0152】
本実施例は、2種の異なるマンガン濃度の下での酵母の増殖を示す。低マンガン濃度と増加したマンガン濃度を有する発酵乳製品における、6種の異なる酵母に対する抑制効果を評価した。
【0153】
低脂肪(1.5%w/v)ホモジナイズ乳を、90±1℃で20分間加熱処理し、急冷した。市販のスターターカルチャー(サーモフィルス菌(Streptococcus thermophilus)とブルガリア菌(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus))を3 Lのバケット中で0.02%(v/w)に接種した。1つのバケットには100 U/Tの総濃度でマンガン捕捉剤を接種し、1つのバケットは参照として使用し、スターターカルチャーのみを接種した。全てのバケットを43±1℃の湯浴中でインキュベートし、その条件で4.60±0.1のpHに達するまで発酵させた。発酵乳製品を200 mLの瓶に分注し、冷却した。
【0154】
次いで発酵乳製品を遠心分離し(5000 rpmで10分)、上清を滅菌ろ過した。その上清を無菌の96ウェルプレート(各ウェル中150μL)に移し、マンガンの半量に添加して6 ppmマンガンの増加を果たした。6種類の異なる酵母を選択し、17℃で7日間増殖させた約20個の細胞/ウェルを接種した。対照として、スターターカルチャーのみで発酵させた乳(参照)を使用した。増殖は600 nmでの吸光度を測定することにより調べた。
【0155】
少なくとも5通りの複製物からの平均と標準偏差が表8~13に示される。
【0156】
【0157】
【0158】
【0159】
【0160】
【0161】
【0162】
これらの結果は、酵母株デバリオミセス属(Debaryomyces)、サッカロミセス属(Saccharomyces)、ロドツロラ属(Rhodoturola)、クリプトコッカス属(Cryptococcus)およびトルラスポラ属(Torulaspora)が、マンガンを捕捉する細菌により抑制されうること、そしてその抑制効果がマンガンの添加により弱められることを示す。
【0163】
実施例5:デバリオミセス・ハンゼニィの抑制
本実施例は、スターターカルチャーを用いて調製した発酵乳における異なるマンガン濃度の影響を評価する。
【0164】
表14は使用する捕捉剤の一覧を示す。
【0165】
【0166】
発酵乳製品は実施例4に記載の通り調製した。
【0167】
150μLの発酵乳を96ウェルプレート中の個々のウェルに二通り(二重複製)または三通り(三重複製)で移した。連続希釈は、6 ppmから0.000006 ppmまで達することに加えて、異なるマンガン濃度をもたらすように実施した。すべてのウェルに、約20個の細胞のデバリオミセス・ハンゼニィ(株2)を接種し、プレートを17℃で5日間インキュベートした。その後、生理食塩水-ペプトン中に調製した1000倍希釈液の10μLを選択的YGCプレート上にスポットし、酵母増殖を分析した。
【0168】
図5は、異なるマンガン濃度:6 ppm(最上行)、0.6 ppm(2行目)、0.06ppm(3行目)、0.006 ppm(4行目)、0.0006 ppm(5行目)、0.00006 ppm(6行目)、0.000006 ppm(7行目)、0 ppm(最下行)を添加した後の、捕捉剤(No.1、No.2およびNo.3)を用いて調製した発酵乳および捕捉剤なしで調製した発酵乳(REF)におけるデバリオミセス・ハンゼニィ(Debaryomyces hansenii)の増殖を示す。
【0169】
図示されるように、捕捉剤No.1およびNo.2を含む発酵乳中の酵母増殖は、0.6 ppmの添加時には抑制され(3行目を2行目と比較されたい);0.006 ppmの添加は、捕捉剤No.3の存在下での酵母増殖に幾分酵母増殖をもたらした。
【0170】
実施例6:異なるマンガン濃度での発酵乳製品における酵母の抑制
様々なカビに対する抑制効果に対するマンガンの影響を評価した。発酵乳製品の製造プロセスと製法を模倣した寒天アッセイを使用した。L.ラムノサス(L. rhamnosus)とL.パラカゼイ(L. paracasei)をマンガン捕捉剤として併用した。
発酵乳サンプルの調製:
【0171】
低脂肪(1.5%w/v)ホボジナイズ乳を90±1℃で20分間加熱処理し、急冷した。市販のスターターカルチャー(サーモフィルス菌(Streptococcus thermophilus)とブルガリア菌(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus))を3 Lのバケット中で0.02%(v/w)に接種した。1つのバケットには100 U/Tの総濃度でマンガン捕捉剤を接種し、1つのバケットは参照として使用し、スターターカルチャーのみを接種した。全てのバケットを43±1℃の湯浴中でインキュベートし、その条件で4.60±0.1のpHに達するまで発酵させた。発酵乳製品を200 mLの瓶に分注し、冷却した。参照製品中に既に存在するマンガンの濃度は、約0.03 ppmであると予め決定され、そして捕捉菌株を使用した製品では0.003 ppmの検出限界より下であると決定された。
【0172】
マンガンの添加:
マンガン捕捉剤を含む発酵乳製品と含まない発酵乳製品に、異なるマンガン濃度を添加し、マンガンレベルに加算を行った(参照製品には0、0.006および6 ppmのマンガン、そしてサンプルには0、0.000006、0.00006、0.0006、0.006、0.06、0.6および6 ppmのマンガン)。
【0173】
全ての発酵乳サンプルを40℃の温度に温め、そこに予め融解した後に60℃に冷ました5%無菌寒天溶液40 mLを添加した。発酵乳と寒天から成るこの溶液を、無菌のペトリ皿に注ぎ、プレートをLAFベンチ中で30分間乾燥した。
【0174】
酵母を使ったチャレンジ試験:
2種のデバリオミセス・ハンゼニィ(株1と株2)と1つのクリプトコッカス・フラギコラ(Cryptococcus fragicola)を含む3つの標的汚染物質を、1×103、102および101 CFU/スポットの濃度でスポットした。プレートを7±1℃でインキュベートし、酵母の増殖について定期的に検査した。
【0175】
結果:
酵母寒天アッセイの結果が
図6に与えられ、それはスターターカルチャーのみ(参照、最上行)またはマンガン捕捉剤(最下行)と共に発酵させた乳から調製したプレート上の3種の異なる酵母の増殖を示す。写真の上部に示される通り、異なるマンガン濃度を添加した。3つの標的汚染物〔A欄:デバリオミケス・ハンゼニイ(Debaryomyces hansenii (株2)、B欄:クリプトコッカス・フラギコラ(Cryptococcus fragicola)、C欄:デバリオミケス・ハンゼニイ(株1)〕を、3種類の濃度: 1×10
3 cfu/スポット (プレート上の最上行)、1×10
2 cfu/スポット (プレート上の中央行)および1×10
1 cfu/スポット(プレート上の最下行)で添加した。
【0176】
図6から分かる通り、試験した酵母は、スターターカルチャー(参照)と共に発酵させた乳から作製された寒天プレート上で良好に増殖した。しかしながら、乳発酵工程中にマンガン捕捉剤が存在すると、全ての酵母の増殖が遅くなった。
【0177】
0.0006 ppm以下のマンガンレベルにおいて、捕捉剤は3種の酵母いずれに対しても高い阻害活性を維持した。0.006 ppm~0.6 ppmのマンガンレベルでは、C. フラギコラに対する捕捉剤の抑制活性が減少した。6 ppmのマンガン濃度はC. フラギコラの増殖を抑制するように見えた。D. ハンゼニィ(菌株1)は0.006 ppmまでのマンガン濃度でマンガン捕捉剤により抑制された。0.06 ppm以上のマンガン濃度では、マンガン捕捉剤はD. ハンゼニィ(菌株1)に対する抑制活性を失った。D. ハンゼニィ(菌株2)は、0.6 ppm以下のマンガンレベルではマンガン捕捉剤により抑制され、そして6 ppmではその活性が失われた。
【0178】
実施例7:異なるマンガン濃度を有する発酵乳製品中でのカビの抑制
【0179】
カビを使ったチャレンジ試験:
図7は、スターターカルチャーのみで(参照、最上行)または付加的にマンガン捕捉剤と共に(最下行)発酵させた乳より調製したプレート上での3種のカビの繁殖を示す。写真の上部に示す通り、異なるマンガン濃度を更に添加した。3種の標的汚染物質(A:ペニシリウム・ブレビコンパクタム(Penicillium brevicompactum)、B:ペニシリウム・クラストサム(Penicillium crustosum)およびC:ペニシリウム・ソリタム(Penicillium solitum))を500胞子/スポットの濃度で添加した。プレートを7±1℃で25日間インキュベートした。
【0180】
図8は、スターターカルチャーのみ(参照、最上行)または付加的にマンガン捕捉剤と共に(最下行)発酵させた乳より調製したプレート上での3種のカビの繁殖を示す。写真の上部に示す通り、異なるマンガン濃度を更に添加した。3種の標的汚染物質(A:ペニシリウム・ブレビコンパクタム(Penicillium brevicompactum)、B:ペニシリウム・クラストサム(Penicillium crustosum)およびC:ペニシリウム・ソリタム(Penicillium solitum))を500胞子/スポットの濃度で添加した。プレートを22±1℃で8日間インキュベートした。
【0181】
図9は、スターターカルチャーのみ(参照、最上行)または付加的にマンガン捕捉剤と共に(最下行)発酵させた乳より調製したプレート上での3種のカビの繁殖を示す。写真の上部に示す通り、異なるマンガン濃度を更に添加した。3種の標的汚染物質(A:ペニシリウム・カルネウム(Penicillium carneum)、B:ペニシリウム・パネウム(Penicillium paneum)およびC:ペニシリウム・ロケフォルティ(Penicillium roqueforti))を500胞子/スポットの濃度で添加した。プレートを7±1℃で25日間インキュベートした。
【0182】
図10は、スターターカルチャーのみで(参照、最上行)または付加的にマンガン捕捉剤と共に(最下行)発酵させた乳より調製したプレート上での3種のカビの繁殖を示す。写真の上部に示す通り、異なるマンガン濃度を更に添加した。3種の標的汚染物質(A:ペニシリウム・カルネウム(Penicillium carneum)、B:ペニシリウム・パネウム(Penicillium paneum)およびC:ペニシリウム・ロケフォルティ(Penicillium roqueforti))を500胞子/スポットの濃度で添加した。プレートを22±1℃で8日間インキュベートした。
【0183】
試験したカビの全てが、スターターカルチャー(参照)のみを用いて発酵させた乳から作製した寒天プレート上で非常に良く繁殖した。しかしながら、乳発酵の間にマンガン捕捉剤が存在した時、試験した全てのカビの繁殖が抑制または遅くなった。この抑制効果は、低温時により強力であった(
図7と9)。
【0184】
マンガン捕捉剤は追加のマンガンレベルが0.006 ppm以下の時に全てのカビに対して高い抑制活性を維持した。0.06 ppmから上のマンガンレベルでは、マンガン捕捉剤の抑制活性が減少した。マンガン捕捉剤は、6 ppmでは感受性のカビ(
図7と8)に対して抑制活性の大部分を失い、そして0.06 ppmではロバストなカビ(
図9と10)に対して抑制活性の大部分を失った。
【0185】
このアッセイで認められる抑制作用を減少させる添加マンガンの濃度が、水相に認められる濃度に比較して高いのは、発酵乳製品中の生存している代謝的に活性なマンガン捕捉剤による連続した取込みのためである。
【0186】
実施例8:水相中および種々の濃度の化学キレート化剤の下でのデバリオミケス・ハンゼニイの阻害
実施例8では、2種類の濃度、6 ppmと0.6 ppmのマンガンを使用した。6 ppmの濃度は酵母の増殖に対して抑制/毒性効果を有することが示され、一方で0.6 ppmは標準濃度として用いられ、これはマンガン捕捉剤として作用する1以上の細菌株により引き起こされるマンガン欠損(枯渇)状態を無効にするのに十分な濃度である。
【0187】
図12と
図13は、EDTAのような化学キレート化剤が水相中でのデバリオミセス・ハンゼニィ(Debaryomyces hansenii)増殖に対する抑制効果を有することを示す。
【0188】
図12は、0.05 mg/mLのEDTA濃度に接触させた場合に、デバリオミセス・ハンゼニィ(Debaryomyces hansenii)細胞が増殖を止めることを示す。よって、EDTAは0.05 mg/mLの濃度で抑制効果を示す。
【0189】
図13は、0.05 mg/mLのEDTA濃度およびマンガンの欠損下で(0.6 ppm)デバリオミケス・ハンゼニィ(Debaryomyces hansenii)が増殖を止めることを示す;よって、EDTAはこれらの条件下でデバリオミセス・ハンゼニィに対して抑制効果を有する。0.6 ppmのマンガンおよび0.05 mg/mLのEDTAの添加はデバリオミセス・ハンゼニィの増殖を回復させ、そしてEDTAの効果は過剰のマンガンによって無効にされる。
【0190】
実施例9:ヨーグルト中のデバリオミセス・ハンゼニィの抑制
ヨーグルトでは、ヨーグルトにマンガン捕捉剤である最大0.89 mg/mLのEDTAを添加することにより、1以上の細菌株(捕捉剤1)から選択されたマンガン捕捉剤の抑制を再生させることが可能であった。前記濃度では、参照ヨーグルトは、マンガン捕捉剤1を添加した場合に観察されるものと同様な抑制を示した。
図14の最下行のネガティブコントロール(EDTAを添加しない)は、マンガン捕捉剤1の存在下で正常な抑制を示し、そしてマンガンを添加すると酵母の増殖が回復した。
【0191】
実施例9は、EDTAのような化学的キレート化剤が、本明細書に開示される1以上の細菌株から選択されたマンガン捕捉剤と同じ効果を有することを示す(
図14)。よって、
図9は、EDTAがマンガン捕捉剤として本明細書に開示される1以上の細菌株と同じ効果を有することを実証する。
【0192】
化学的キレート化剤および/または生物学的材料、例えば1以上の細菌株のいずれかのマンガン捕捉剤は、特定の製品、例えば食品中に存在すると、腐敗菌によるマンガン枯渇をもたらし、それにより真菌類の増殖を抑制することができる。
【配列表】