(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】PCa柱の構築方法
(51)【国際特許分類】
E04G 21/02 20060101AFI20240415BHJP
E04G 21/12 20060101ALI20240415BHJP
E04B 1/35 20060101ALI20240415BHJP
E04B 1/21 20060101ALI20240415BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20240415BHJP
【FI】
E04G21/02 103Z
E04G21/12 105E
E04B1/35 K
E04B1/21 C
E04B1/58 503C
(21)【出願番号】P 2021003063
(22)【出願日】2021-01-12
【審査請求日】2023-07-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000174943
【氏名又は名称】三井住友建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河井 慶太
(72)【発明者】
【氏名】蓮尾 孝一
(72)【発明者】
【氏名】佐古 潤治
【審査官】櫻井 茂樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-301526(JP,A)
【文献】特開2002-242126(JP,A)
【文献】特開2006-322285(JP,A)
【文献】特開2020-098125(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 21/02
E04B 1/35
E04B 1/21
E04B 1/58
E04C 5/18
E04C 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PCa柱の構築方法であって、
断面の所定の位置に上下方向に貫通するグラウト充填孔が形成された複数のPCa柱部材を用意するステップと、
下方の基礎又は前記PCa柱部材との間に所定幅の目地が形成され、複数の前記グラウト充填孔が前記目地を介して上下方向に連続するように、複数の前記PCa柱部材を下方の前記基礎又は前記PCa柱部材の上に複数段に積み重ねるステップと、
複数段の前記目地のそれぞれを取り囲むように複数の目地型枠を組み立てるステップと、
ホース本体及び、前記ホース本体の先端に取り付けられ、弾性材料から形成されて内圧によって膨らむ筒状の栓部材を備えたグラウト充填用の充填ホースを用意するステップと、
複数の前記目地のうち、下側に位置する少なくとも1つの充填対象目地にグラウトを充填するべく、前記グラウト充填孔に上から挿入した前記充填ホースを、複数の前記PCa柱部材のうち、前記充填対象目地の直上に位置する接合対象柱部材に対応する高さに前記栓部材が位置するように配置するホース配置ステップと、
前記充填ホースに前記グラウトを送り、前記グラウトの圧力によって膨らんだ前記栓部材によって前記接合対象柱部材の前記グラウト充填孔を閉塞した状態で、少なくとも1つの前記充填対象目地に前記グラウトを充填するグラウト充填ステップと、
前記充填ホースを引き上げるホース引上ステップとを含み、
複数の前記PCa柱部材を下方の前記基礎又は前記PCa柱部材に接合することを特徴とするPCa柱の構築方法。
【請求項2】
充填された前記グラウトを、側圧によって前記目地型枠が破損しない程度に硬化させるグラウト硬化ステップを更に含み、
前記ホース配置ステップ、前記グラウト充填ステップ、前記ホース引上ステップ及び前記グラウト硬化ステップを繰り返すことを特徴とする請求項1に記載のPCa柱の構築方法。
【請求項3】
前記充填対象目地は、2以上の前記目地を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のPCa柱の構築方法。
【請求項4】
前記ホース本体の基端に接続され、前記ホース本体に連通させる連通孔を開閉する開閉弁を備えた、前記グラウトを収容するホッパーを用意するステップを更に含み、
前記グラウト充填ステップでは、前記開閉弁を開放することによって前記ホッパー内の前記グラウトを前記充填ホースに送ることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のPCa柱の構築方法。
【請求項5】
前記接合対象柱部材は、上面から突出するように埋設された複数の柱主筋及び、前記柱主筋の下端に取り付けられ、下面に開口するように埋設された、グラウト排出口を有する複数の機械式継手を備え、
前記グラウト充填ステップでは、前記グラウト排出口から前記グラウトが排出される前に、前記開閉弁を閉鎖することを特徴とする請求項4に記載のPCa柱の構築方法。
【請求項6】
前記グラウト充填ステップでは、前記ホッパーに設けられた目盛線によって、充填された前記グラウトの量を確認し、充填された前記グラウトの量が所定の値を超えたときに前記開閉弁を閉鎖することを特徴とする請求項5に記載のPCa柱の構築方法。
【請求項7】
前記PCa柱部材は、断面の所定の位置に上下方向に貫通する複数の貫通孔を備えた上部PCa柱部材と、前記複数の貫通孔及び前記複数の貫通孔の下部に接続するように埋設され上下に開口する複数の機械式継手を備えた下部PCa柱部材と、を含み、
前記積み重ねるステップでは、最初に前記下部PCa柱部材を配置し、その後、前記下部PCa柱部材の上に少なくとも1つの前記上部PCa柱部材を積み重ね、
上下に連続した前記複数の貫通孔に柱主筋を挿入し、前記柱主筋の下端を前記複数の機械式継手の内部に配置する柱主筋配置ステップを更に含むことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のPCa柱の構築方法。
【請求項8】
前記グラウト充填孔は、前記機械式継手よりも大きな内径を有し且つ前記機械式継手を備えないように形成された、前記複数の貫通孔のうちの1つであり、
前記ホース配置ステップでは、前記充填ホースを、前記柱主筋を受容するように前記複数の貫通孔のうちの1つに上から挿入することを特徴とする請求項7に記載のPCa柱の構築方法。
【請求項9】
前記積み重ねるステップで積み重ねられた複数の前記PCa柱部材の合計の高さは、構築すべき建物の任意の数の階層の高さに対応することを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載のPCa柱の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、PCa柱の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プレキャストコンクリート柱(以下、「PCa柱」)を構築するために、上下に配置された2つのプレキャストコンクリート柱部材(以下、「PCa柱部材」)をグラウトの充填によって接合する方法が公知である(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
PCa柱を用いて建物の柱を構築するために、PCa柱部材を積み重ねる工程と、積み重ねられたPCa柱部材同士を接合する工程とを繰り返してPCa柱を構築する方法が実施されている(例えば、特許文献1)。しかしながら、2つの工程を繰り返し行う構築方法は、各工程の作業をまとめて行う方法と比較して工期が長期化するという問題がある。
【0005】
本発明は、このような背景に鑑み、工期を短縮したPCa柱の構築方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような課題を解決するために、本発明のある実施形態は、PCa柱(1、31、51)の構築方法であって、断面の所定の位置に上下方向に貫通するグラウト充填孔(7)が形成された複数のPCa柱部材(3、33、53)を用意するステップと、下方の基礎(2)又はPCa柱部材との間に所定幅の目地(8)が形成され、複数のグラウト充填孔が目地を介して上下方向に連続するように、複数のPCa柱部材を下方の基礎又はPCa柱部材の上に複数段に積み重ねるステップと、複数段の目地のそれぞれを取り囲むように複数の目地型枠(9)を組み立てるステップと、ホース本体(18)及び、ホース本体の先端に取り付けられ、弾性材料から形成されて内圧によって膨らむ筒状の栓部材(19)を備えたグラウト充填用の充填ホース(16)を用意するステップと、複数の目地のうち、下側に位置する少なくとも1つの充填対象目地(8)にグラウトを充填するべく、グラウト充填孔に上から挿入した充填ホースを、複数のPCa柱部材のうち、充填対象目地の直上に位置する接合対象柱部材(3)に対応する高さに栓部材が位置するように配置するホース配置ステップと、充填ホースにグラウトを送り、グラウトの圧力によって膨らんだ栓部材によって接合対象柱部材のグラウト充填孔を閉塞した状態で、少なくとも1つの充填対象目地、当該充填対象目地にグラウトを充填するグラウト充填ステップと、充填ホースを引き上げるホース引上ステップとを含み、複数のPCa柱部材を下方の基礎又はPCa柱部材に接合する。
【0007】
この構成によれば、PCa柱部材を複数段に積み重ねるステップの後に、グラウト充填ステップを実施することができる。よって、作業をステップごとにまとめて行うことができるため、PCa柱の構築に必要な工期を短縮することができる。
【0008】
好ましくは、充填されたグラウトを、側圧によって目地型枠が破損しない程度に硬化させるグラウト硬化ステップを更に含み、ホース配置ステップ、グラウト充填ステップ、ホース引上ステップ及びグラウト硬化ステップを繰り返すとよい。
【0009】
この構成によれば、グラウトの充填を複数回に分けることができる。よって、充填により目地型枠にかかる側圧を軽減することができ、目地型枠の破損を防止することができる。
【0010】
好ましくは、充填対象目地は、2以上の目地を含むとよい。
【0011】
この構成によれば、一度の充填作業で、複数の充填対象目地にグラウトを充填することができる。よって、PCa柱の構築に必要な工期を短縮することができる。
【0012】
好ましくは、ホース本体の基端に接続され、ホース本体に連通させる連通孔を開閉する開閉弁(17)を備えた、グラウトを収容するホッパー(11)を用意するステップを更に含み、グラウト充填ステップでは、開閉弁を開放することによってホッパー内のグラウトを充填ホースに送るとよい。
【0013】
この構成によれば、グラウトは、自重落下によって充填ホースを介して充填される。よって、簡易な構成でグラウトの充填を行うことができる。
【0014】
好ましくは、接合対象柱部材は、上面から突出するように埋設された複数の柱主筋(4)及び、柱主筋の下端に取り付けられ、下面に開口するように埋設された、グラウト排出口(6)を有する複数の機械式継手(5)を備え、グラウト充填ステップでは、グラウト排出口からグラウトが排出される前に、開閉弁を閉鎖するとよい。
【0015】
この構成によれば、開閉弁は、少なくとも1つの充填対象目地及び当該充填対象目地に連通する複数の機械式継手へグラウトが完全に充填されるよりも前に、閉鎖される。よって、ホース引上ステップにおいて、充填ホース内に残留したグラウトがグラウト充填孔から接合対象柱部材の上側の目地にオーバーフローすることを防止することができる。
【0016】
好ましくは、グラウト充填ステップでは、ホッパーに設けられた目盛線(12)によって、充填されたグラウトの量を確認し、充填されたグラウトの量が所定の値を超えたときに開閉弁を閉鎖するとよい。
【0017】
この構成によれば、目盛線によって示されるホッパー内のグラウトの残量を目視することによって、充填されたグラウトの量を確認する。よって、予め計算された充填すべき量のグラウトがホッパーから排出されたときに開閉弁を閉鎖することができる。これにより、ホース引上ステップにおいて、充填ホース内に残留したグラウトがグラウト充填孔から接合対象柱部材の上側の目地にオーバーフローすることを防止することができる。
【0018】
好ましくは、PCa柱部材(33、53)は、断面の所定の位置に上下方向に貫通する複数の貫通孔(37)を備えた上部PCa柱部材(33a、53a)と、複数の貫通孔及び複数の貫通孔の下部に接続するように埋設され上下に開口する複数の機械式継手(35、55)を備えた下部PCa柱部材(33b、53b)と、を含み、積み重ねるステップでは、最初に下部PCa柱部材を配置し、その後、下部PCa柱部材の上に少なくとも1つの上部PCa柱部材を積み重ね、当該構築方法は、上下に連続した複数の貫通孔に柱主筋(34a)を挿入し、柱主筋の下端を複数の機械式継手の内部に配置する柱主筋配置ステップを更に含むとよい。
【0019】
この構成によれば、上部PCa柱部材に機械式継手を設けることなくPCa柱を構築することができる。よって、PCa柱の構築に必要な機械式継手の数を節約することができる。
【0020】
好ましくは、グラウト充填孔は、機械式継手よりも大きな内径を有し且つ機械式継手(55)を備えないように形成された、複数の貫通孔のうちの1つであり、ホース配置ステップでは、充填ホースを、柱主筋を受容するように複数の貫通孔のうちの1つに上から挿入するとよい。
【0021】
この構成によれば、グラウト充填孔と複数の貫通孔のうちの1つとを兼用することができる。よって、PCa柱の構築に必要なグラウトの量を節約することができる。
【0022】
好ましくは、積み重ねるステップで積み重ねられた複数のPCa柱部材の合計の高さは、構築すべき建物の任意の数の階層の高さに対応するとよい。
【0023】
この構成によれば、複数階層分のPCa柱を一度に構築することができる。よって工期が短縮される。
【発明の効果】
【0024】
このように本発明によれば、工期を短縮したPCa柱の構築方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】第1実施形態に係る構築途中のPCa柱の側断面図
【
図4】複数のPCa柱部材を積み重ねた状態を示す概略図
【
図9】第2実施形態に係る2つのPCa柱部材の側断面図
【
図10】第2実施形態に係るPCa柱の構築手順(A)~(C)を示す概略図
【
図11】第2実施形態に係るPCa柱の構築手順(D)及び(E)を示す概略図
【
図12】第3実施形態に係る2つのPCa柱部材の側断面図
【
図13】第3実施形態に係るPCa柱の構築手順(A)~(C)を示す概略図
【
図14】第3実施形態に係るPCa柱の構築手順(D)及び(E)を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、
図1~8を参照して、本発明の第1実施形態について詳細に説明する。
【0027】
図1は、多層の建物を構成する構築途中のPCa柱1の側断面図である。
図1に示すように、PCa柱1は、基礎2上に積み重ねられた複数のPCa柱部材3が互いにグラウト接合されることによって構築されている。
【0028】
図2は、PCa柱1を構成するPCa柱部材3の側断面図である。
図2に示すように、PCa柱部材3は、直方体形状のプレキャストコンクリート製部材である。PCa柱部材3はそれぞれ、上面から突出するように埋設された複数の柱主筋4と、各柱主筋4の下端に取り付けられ、下面に開口するように埋設された複数の機械式継手5とを備えている。
【0029】
柱主筋4は、互いに等間隔に配置され、鉛直方向に沿って延在する鉄筋である。PCa柱部材3の上面から突出した柱主筋4の上端部4aは、直上に配置された別のPCa柱部材3の機械式継手5に受容される(
図1参照)。
【0030】
機械式継手5は、筒状をしており、その内部にグラウトを充填されることによって上下の対応する柱主筋4を互いに接合するグラウト充填式鉄筋継手である。機械式継手5の上端近傍には、機械式継手5に連通接続したグラウト排出口6が設けられている。
【0031】
グラウト排出口6は、機械式継手5の上端近傍から水平方向に延在し、PCa柱部材3の側面に開口する連通孔である。各グラウト排出口6は、対応する機械式継手5からの距離が最短である側面に開口している。グラウト排出口6は、グラウトが機械式継手5に充填されたことが確認された後、栓22(
図8)により塞がれる。
【0032】
PCa柱部材3の断面の所定の位置には、上下方向に貫通するグラウト充填孔7が形成されている。グラウト充填孔7は、複数の柱主筋4からの距離が概ね均等になる位置に形成されているとよい。PCa柱部材3の断面が概ね正方形の場合、グラウト充填孔7は平面視でPCa柱部材3の中央(PCa柱部材3の断面(図示省略)において2本の対角線が交差する位置)に形成されるとよい。グラウト充填孔7の孔径は、PCa柱部材3の上面に開口する上面開口部7aから下面に開口する下面開口部7bにかけて略一定である。
【0033】
本実施形態では、グラウト充填孔7は複数設けられている。
図3は2つのグラウト充填孔7が形成されたPCa柱部材3の平面図である。
図3に示すように、PCa柱部材3は平面視で長方形をしており、複数のグラウト充填孔7がPCa柱部材3の短手方向の中央に、長手方向に間隔を空けて配置されている。
【0034】
図1に示すように、複数のPCa柱部材3は、それぞれ、下方の基礎2又はPCa柱部材3との間に所定幅の目地8が形成された状態で互いに接合されている。グラウトの充填を行う前に、充填対象の目地8の周囲には、複数の目地型枠9が取り付けられる。
【0035】
PCa柱部材3の上には、支持台10によって支持されたホッパー11が配置されている。ホッパー11は、内部にグラウトが収容された漏斗状の装置である。ホッパー11の内側には、グラウトの収容量を示す目盛線12が設けられている。
【0036】
ホッパー11は、グラウトを投入するために上向きに開口した上開口部14と、投入されたグラウトを排出するために鉛直方向下向きに延出する下排出管部15とを有している。下排出管部15には、下排出管部15から排出されるグラウトをPCa柱部材3の所望の位置まで送り出すための充填ホース16が接続されている。下排出管部15には、ホッパー11から充填ホース16へのグラウトの送出及び停止を切り替えるための開閉弁17が取り付けられている。
【0037】
充填ホース16は、PCa柱部材3を上下に延在するグラウト充填孔7に上から挿入されて吊り下げられている。充填ホース16は、ホッパー11に取り付けられたホース本体18と、ホース本体18の先端に栓部材19(
図7)を介して取り付けられた先端ノズル20(
図7)とを備えている。
【0038】
ホース本体18は、可撓性を有する弾性率が高い部材からなり、断面形状の変形が容易であると共に断面における周長が一定に維持される。ホース本体18は、例えばサニーホース(登録商標)であってよい。ホース本体18の外径は、充填ホース16が挿入されるグラウト充填孔7の内径より小さい。ホース本体18は、潰れた状態で自重によりグラウト充填孔7に挿入可能な幅を有している。
【0039】
図7に示すように、栓部材19は、一端側においてホース本体18の先端に接続され、他端側において先端ノズル20の基端に接続されている。栓部材19は弾性材料からなる円筒形の部材であり、栓部材19の内部にグラウトが溜まると、グラウトの圧力に応じて膨張してグラウト充填孔7を閉塞する。
【0040】
先端ノズル20は、少なくとも先端において、ホース本体18よりも小さな断面積を有している。先端ノズル20がホース本体18よりも小さな断面積を有していることにより、所定の注入速度でグラウトを注入したときに栓部材19の内部にグラウトが溜まる。なお、先端ノズル20は必須ではなく、省略されてもよい。
【0041】
以下、
図4~
図8を参照してPCa柱1の構築方法について説明する。本実施形態では、各PCa柱部材3に2つのグラウト充填孔7が設けられているため、各グラウト充填孔7について以下の作業を同時に進めてゆく。
【0042】
最初に、コンクリートが工場で打設された上記構成のPCa柱部材3を複数用意する(ステップ1)。
【0043】
ステップ1において、本実施形態では、幅、長さ及び高さの寸法が約1.5m×約3.6m×約1.4mであるPCa柱部材3を6個用意する。用意するPCa柱部材3の数は、本実施形態では構築すべき建物の1階層分の高さに対応する数である。
【0044】
次に、
図4に示すように、6個のPCa柱部材3を下方の基礎2又はPCa柱部材3の上に複数段に積み重ねる(ステップ2)。
【0045】
ステップ2では、作業者は、ステップ1で用意された6個のPCa柱部材3のうち1つを、クレーン(図示せず)等により、建物の柱を構築すべき基礎2上に配置する。その後、残りのPCa柱部材3を下方のPCa柱部材3の上に積み重ねる。PCa柱部材3を下方の基礎2又はPCa柱部材3の上に積み重ねるとき、作業者は、積み重ねる対象のPCa柱部材3と下方の基礎2又はPCa柱部材3との間にボルトなどのスペーサ(図示せず)を配置することによって、2つのPCa柱部材3の間に所定幅(本実施形態では、約2.0cm)の目地8を形成する。更に、作業者は、複数の機械式継手5が既に配置されている下方のPCa柱部材3から突出する柱主筋4を受容し、かつ、グラウト充填孔7が下方のPCa柱部材3のグラウト充填孔7と目地8を介して上下方向に連続するように、PCa柱部材3を積み重ねる。
【0046】
次に、複数段の目地8のそれぞれを取り囲むように複数の目地型枠9を組み立てる(ステップ3)。
【0047】
次に、
図5に示すように、上記構成のホッパー11を用意する(ステップ4)。ステップ4では、作業者は、ステップ1で積み重ねたPCa柱部材3の上に支持台10を組み立ててPCa柱部材3に固定する。その後、固定された支持台10の上にホッパー11を配置する。ホッパー11を用いることにより、グラウトは重力により充填されるため、簡易な構成でグラウトの充填を行うことができる。ホッパー11は、孔ごとに2つ設けてもよく、2つの孔に共通となるように1つ設けてもよい。
【0048】
次に、上記構成のグラウト充填用の充填ホース16を用意する(ステップ5)。ステップ5では、ホッパー11の下排出管部15に、充填ホース16のホース本体18の基端側を接続する。
【0049】
次に、
図6に示すように、充填ホース16をグラウト充填孔7に上から挿入して配置する(ステップ6)。
【0050】
ステップ6では、作業者は、ステップ5で用意された充填ホース16をステップ2で積み重ねたPCa柱部材3のグラウト充填孔7に上から挿入する。その後作業者は、上から挿入した充填ホース16を、栓部材19が充填開始高さに位置するように配置する。充填開始高さは、充填対象とする目地8(以下、充填対象目地8)の直上に位置する接合対象のPCa柱部材3(以下、接合対象柱部材3)に対応する高さである。なお、充填対象目地8は、複数のPCa柱部材3の間の複数の目地8のうち下側に位置している未充填の目地8である。充填ホース16をこのように配置することによって、充填対象目地8及び当該充填対象目地8に連通する複数の機械式継手5にグラウトを充填することが可能になる。
【0051】
次に、
図7に示すように、充填対象目地8及び当該充填対象目地8に連通する複数の機械式継手5にグラウト21を充填する(ステップ7)。
【0052】
ステップ7では、作業者は、一度の充填に必要な所定量のグラウト21をホッパー11(
図6)に投入する。その後、作業者は、ホッパー11の開閉弁17を開放し、ステップ6で配置された充填ホース16にグラウト21を送る。
図7に示すように、充填ホース16に送られたグラウト21はホース本体18を通って栓部材19に到達する。栓部材19は、内部に溜まったグラウト21の圧力によって膨らみ、接合対象柱部材3のグラウト充填孔7を閉塞する。この状態で、グラウト21は先端ノズル20からグラウト充填孔7の中を落下して充填される。先端ノズル20から落下したグラウト21はまず充填対象目地8を充填し、充填対象目地8が完全に充填されると、充填されたグラウト21が押し出されて当該充填対象目地8に連通する機械式継手5に充填される。機械式継手5への充填と同時に、グラウト21はグラウト充填孔7に充填される。機械式継手5が完全に充填されると、グラウト21はグラウト排出口6から排出される。
【0053】
ここで、グラウト充填孔7が栓部材19によって閉塞されていない場合、グラウト排出口6からグラウト21が排出されるよりも前に、グラウト21がグラウト充填孔7内で上昇し、接合対象柱部材3の直上の目地8にオーバーフローする虞がある。本実施形態では、栓部材19がグラウト充填孔7を閉塞するため、グラウト21が接合対象柱部材3の直上の目地8にオーバーフローすることなく、機械式継手5内に確実に充填される。
【0054】
なお、先端ノズル20が省略されている場合には、グラウト充填孔7内で上昇したグラウト21は栓部材19の下端を塞ぎ、グラウト充填孔7の内壁と栓部材19との間を上方へ逆流しようとする。グラウト充填孔7の内壁と栓部材19との間は狭く、流動抵抗が大きいため、グラウト充填孔7に充填されるべきグラウト21が栓部材19内に滞留する。栓部材19は滞留したグラウト21の内圧によって膨らみ、これによりグラウト充填孔7は閉塞される。よって、グラウト21が充填ホース16の先端を超えてグラウト充填孔7内を上方へ逆流して接合対象柱部材3の直上の目地8にオーバーフローすることが防止される。
【0055】
作業者は、グラウト排出口6からグラウト21が排出されるより前に、
図6に示すホッパー11の開閉弁17を閉鎖してグラウト21の送り出しを終了する。より具体的には、作業者は、ホッパー11に設けられた目盛線12が示すグラウト21の残量を目視し、予め計算された充填すべき量のグラウト21が充填されたことを確認してホッパー11の開閉弁17を閉鎖するとよい。予め計算された充填すべき量は、充填対象目地8及び当該充填対象目地8に連通する機械式継手5を完全に充填するために必要な量と等しいか、それより若干少ない量であるとよい。
【0056】
図8に示すように、グラウト21の送り出しを終了すると、充填ホース16内に残留したグラウト21の殆どは、接合対象柱部材3のグラウト充填孔7内に充填され、充填対象目地8及び当該充填対象目地8に連通する機械式継手5内のグラウト21を押し出す。押し出されたグラウト21は機械式継手5内を完全に充填し、グラウト排出口6から排出される。グラウト排出口6から空気を含まない密実なグラウト21のみが排出されると、作業者はグラウト排出口6を栓22で塞ぐ。
【0057】
グラウト21がグラウト排出口6から排出されない場合には、ステップ7において充填されたグラウト21の量が不足しているため、グラウト排出口6からグラウト21が排出されるまで追加のグラウト21を徐々に充填する。
【0058】
充填ホース16の栓部材19は、内部に溜まったグラウト21が排出されることによって収縮し、グラウト充填孔7を徐々に開放する。これにより、充填ホース16が引き上げ易くなる。
【0059】
次に、充填ホース16を引き上げる(ステップ8)。このとき、充填ホース16内にはグラウト21が殆ど残留していないため、充填ホース16内に残留したグラウト21がグラウト充填孔7から接合対象柱部材3の直上の目地8にオーバーフローすることを防止できる。引き上げられた充填ホース16は、作業者により洗浄される。
【0060】
次に、充填されたグラウト21を、側圧によって目地型枠9が破損しない程度に硬化させる(ステップ9)。
【0061】
ステップ9の完了後、グラウト21の充填が必要なすべての目地8及び当該目地8に連通するすべての機械式継手5への充填が行われるまで、ステップ6~9を繰り返す。これにより、建物の1階層分に等しい高さ(すなわち、約8.7m)を有するPCa柱1が構築される。
【0062】
なお、作業者は、ステップ8にて先端ノズル20が接合対象柱部材3より上方に位置するまで充填ホース16を引き上げて次の充填対象目地8の充填開始高さに位置させ、ステップ9の後にステップ7~9を繰り返してもよい。
【0063】
本実施形態では、ステップ2において1階層分のPCa柱部材3を積み重ねたが、別の実施形態では、ステップ2において積み重ねるPCa柱部材3の数は、複数階層分の高さに対応する数であってもよい。例えば、本方法によって6個のPCa柱部材3を用いて構築されたPCa柱1は、建物の1階層分の高さを有してもよく、2階層分の高さを有してもよく、3階層分の高さを有してもよい。複数階層分のPCa柱1を一度に構築することにより、工期を短縮することが可能になる。
【0064】
また、本実施形態では充填対象目地8は1つであるが、充填対象目地8の数は一度にグラウト21を充填可能な任意の数であってよい。一度に複数の充填対象目地8を充填することにより、工期を短縮することが可能になる。
【0065】
以上説明したように、本実施形態では、PCa柱1を形成する複数のPCa柱部材3を積み重ねるステップ(ステップ2)を完了した後にグラウト21を充填するステップ(ステップ7)を行うため、PCa柱1の構築に係る工期を短縮することができる。また、ホース配置ステップ(ステップ6)、グラウト充填ステップ(ステップ7)、ホース引上ステップ(ステップ8)及びグラウト硬化ステップ(ステップ9)を繰り返すことにより、グラウト21の充填を複数回に分けることができる。このため、充填により目地型枠9にかかる側圧を軽減することができ、目地型枠9の破損を防止することができる。
【0066】
次に、
図9~11を参照して第2実施形態に係るPCa柱31の構築方法について説明する。以下では、第1実施形態と異なる部分について詳細に説明し、その他の部分については第1実施形態と同一の符号を付し説明を省略する。
【0067】
図9は、第2実施形態に係る2つのPCa柱部材33の側断面図である。PCa柱部材33は、上部PCa柱部材33a(A)と、下部PCa柱部材33b(B)とを含む。上部PCa柱部材33aは、断面の所定の位置に上下方向に貫通する複数の貫通孔37を備えている。下部PCa柱部材33bは、複数の貫通孔37と、複数の貫通孔37の下部に接続するように埋設され上下に開口する複数の機械式継手35とを備えている。複数の貫通孔37は、PCa柱部材33に埋設された鞘管(図示せず)の内壁によって画定された孔であるとよい。上部PCa柱部材33a及び下部PCa柱部材33bは、断面の所定の位置に、上下方向に貫通するグラウト充填孔7を更に備えている。ステップ1では、複数の上部PCa柱部材33aと、1つの下部PCa柱部材33bとを用意する。
【0068】
図10及び11は、第2実施形態に係るPCa柱31の構築手順を示す概略図である。
図10(A)は、PCa柱31を構築するための基礎2を示している。建物の柱を構築すべき基礎2には複数の柱主筋34bが上方に突出するように埋設されている。作業者は、
図10(B)に示すように、ステップ1で用意された下部PCa柱部材33bを、下部PCa柱部材33bの機械式継手35が柱主筋34bの上端を受容するように、基礎2上に配置する。次に、
図10(C)に示すように、複数の上部PCa柱部材33aを下部PCa柱部材33bの上に積み重ねる。このとき、作業者は、積み重ねる上部PCa柱部材33aの貫通孔37及びグラウト充填孔7が下方の上部PCa柱部材33aまたは下部PCa柱部材33bの貫通孔37及びグラウト充填孔7と目地8を介して上下方向に連続するように、上部PCa柱部材33aを積み重ねる。その後、第1実施形態と同様に目地型枠9を組み立てる。
【0069】
次に、
図11(D)に示すように、上下に連続した複数の貫通孔37のそれぞれに柱主筋34aを上から挿入し、当該柱主筋34aの下端を下部PCa柱部材33bに埋設された機械式継手35の内部に配置する(柱主筋配置ステップ)。次に、
図11(E)に示すようにホッパー11及び充填ホース16を用意し、配置する。本実施形態では、ホッパー11は図示しないクレーンによって吊り下げられているが、ホッパー11は第1実施形態と同様に支持台10(
図5)によって支持されていてもよい。この後、作業者は第1実施形態と同様の手順(ステップ7~9)を実施することによってグラウト21(図示せず)の充填を行う。
【0070】
本実施形態では、複数の上部PCa柱部材33aを貫通した1本の柱主筋34aの下端と、基礎2から突出した柱主筋34bの上端とが、下部PCa柱部材33bに埋設された機械式継手35内で接合される。このため、柱主筋(34a、34b)を接合する機械式継手35は下部PCa柱部材33bのみに設けられる。よって、PCa柱31を構築するために必要な機械式継手35の数を節約することができる。
【0071】
次に、
図12~14を参照して第3実施形態に係るPCa柱51の構築方法について説明する。第3実施形態に係るPCa柱51の構築方法は、第2実施形態に係るPCa柱31(
図11)の構築方法に対して、PCa柱部材53に設けられた複数の貫通孔37のうち1つがグラウト充填孔7として機能する点において異なる。以下では、第2実施形態と異なる部分について詳細に説明し、その他の部分については第2実施形態と同一の符号を付し説明を省略する。
【0072】
図12は、第3実施形態に係る2つのPCa柱部材53の側断面図である。PCa柱部材53は、上部PCa柱部材53a(A)と、下部PCa柱部材53b(B)とを含む。上部PCa柱部材53aは、断面の所定の位置に上下方向に貫通する複数の貫通孔37を備えている。下部PCa柱部材53bは、複数の貫通孔37と、複数の貫通孔37の下部に接続するように埋設され上下に開口する複数の機械式継手55とを備えている。貫通孔37は、PCa柱部材53に埋設された鞘管(図示せず)の内壁によって画定された孔であるとよい。上部PCa柱部材53a及び下部PCa柱部材53bに設けられた複数の貫通孔37のうち、断面の所定の位置に設けられた1つの貫通孔37(以下、第1貫通孔57)は、他の貫通孔37よりも大きい内径を有しており、グラウト充填孔7としても機能する。第1貫通孔57は、下部PCa柱部材53bに取り付けられる複数の機械式継手55よりも大きい内径を有し、且つ機械式継手55を備えないように形成されている。ステップ1では、複数の上部PCa柱部材53aと、1つの下部PCa柱部材53bとを用意する。
【0073】
図13及び14は、第3実施形態に係るPCa柱51の構築手順を示す概略図である。
図13(A)は、PCa柱51を構築するための基礎2を示している。建物の柱を構築すべき基礎2には複数の柱主筋34bが上方に突出するように埋設されている。柱主筋34bのうち所定の1つには、下部PCa柱部材53b(
図12)に埋設されているものと同一の機械式継手55が取り付けられている。作業者は、
図13(B)に示すように、ステップ1で用意された下部PCa柱部材53bを、基礎2上に取り付けられた機械式継手55が下部PCa柱部材53bの第1貫通孔57の下部に受容されるように、基礎2上に配置する。次に、
図13(C)に示すように、複数の上部PCa柱部材53aを下部PCa柱部材53bの上に積み重ねる。このとき、作業者は、積み重ねる上部PCa柱部材53aの貫通孔37が下方の上部PCa柱部材53aまたは下部PCa柱部材53bの貫通孔37と目地8を介して上下方向に連続するように、上部PCa柱部材53aを積み重ねる。その後、第1実施形態と同様に目地型枠9を組み立てる。
【0074】
次に、第2実施形態と同様に、
図14(D)に示すように柱主筋34aを配置する。その後、
図14(E)に示すようにホッパー11及び充填ホース16を用意し、配置する。本実施形態では、グラウト充填孔7として機能する第1貫通孔57は断面視でPCa柱部材53の中央より外側の位置に設けられている。このため、ステップ1で積み重ねたPCa柱部材53にブラケット59を取り付け、PCa柱部材53及びブラケット59の上に支持台10を組み立てて固定し、その上にホッパー11を配置するとよい。また、充填ホース配置ステップでは、作業者は、充填ホース16のホース本体18が柱主筋34aを受容するように、充填ホース16を第1貫通孔57に上から挿入する。その後、作業者は、第1実施形態と同様の手順(ステップ7~9)を実施することによってグラウト21(図示せず)の充填を行う。
【0075】
本実施形態では、PCa柱部材53に設けられた複数の貫通孔37のうち1つがグラウト充填孔7として機能する。よって、グラウト充填孔7を複数の貫通孔37と別個に設けたときと比較して、PCa柱部材53を構築するために必要なグラウト21の量を節約することができる。
【0076】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、上記実施形態ではホッパー11を用いて重力によりグラウト21を充填したが、ポンプを用いてグラウト21の充填を行ってもよい。また、1つのPCa柱(1、31、51)を構築した後、構築したPCa柱(1、31、51)の上に更に別のPCa柱(1、31、51)を構築してもよい。この他、各部材や部位の具体的構成や配置、数量、素材、製造方法など、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更することができる。一方、上記実施形態に示した各構成要素は必ずしも全てが必須ではなく、適宜選択することができる。
【符号の説明】
【0077】
1 第1実施形態に係るPCa柱
2 基礎
3 PCa柱部材(接合対象柱部材)
4 柱主筋
5 機械式継手
6 グラウト排出口
7 グラウト充填孔
8 目地(充填対象目地)
9 目地型枠
11 ホッパー
12 目盛線
16 充填ホース
17 開閉弁
18 ホース本体
19 栓部材
21 グラウト
31 第2実施形態に係るPCa柱
33 PCa柱部材
33a 上部PCa柱部材
33b 下部PCa柱部材
34a 柱主筋
35 機械式継手
37 貫通孔
51 第3実施形態に係るPCa柱
53 PCa柱部材
53a 上部PCa柱部材
53b 下部PCa柱部材
55 機械式継手
59 ブラケット