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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】補正方法、補正装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/16 20060101AFI20240415BHJP
【FI】
G01T1/16 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021018678
(22)【出願日】2021-02-09
(65)【公開番号】P2022121783
(43)【公開日】2022-08-22
【審査請求日】2023-05-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】加藤 邦男
(72)【発明者】
【氏名】吉迫 公一
(72)【発明者】
【氏名】平野 良太
(72)【発明者】
【氏名】山口 理恵
【審査官】小林 幹
(56)【参考文献】
【文献】実開昭56-144369(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2004/0232323(US,A1)
【文献】舟山 京子,「原子炉施設の重大事故時のソースターム及び敷地境界近傍の影響解析に関する研究」,筑波大学博士論文,2020年04月21日,<https://tsukuba.repo.nii.ac.jp/record/44798>,(公開日について上記URLには、「この博士論文は、全文公表に適さないやむを得ない事由があり要約のみを公表していましたが、解消したため、令和2(2020)年4月21日に全文を公表しました。」という記載がある。)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/00-1/16
G01T 1/167-7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価モデルに基づいて算出された所定位置における放射性物質による相対線量及び/又は前記放射性物質の相対濃度を取得するステップと、
所定の注目位置における前記放射性物質による相対線量及び/又は前記放射性物質の相対濃度に前記放射性物質の発生元での所定期間における単位時間ごとの風向きの出現頻度を乗じて、前記単位時間ごとの方位別の前記放射性物質による相対線量及び/又は前記放射性物質の相対濃度を算出する処理を前記所定期間にわたって行い、前記所定期間にわたって前記処理を行うことにより算出された複数個の方位別の前記放射性物質による相対線量及び/又は前記放射性物質の相対濃度の平均値又は中央値を算出し、方位別の前記放射性物質による相対線量の前記平均値又は前記中央値の、前記所定期間における前記放射性物質による相対線量の平均値又は中央値に対する比を前記所定期間についての相対線量の補正係数として算出する、及び/又は、方位別の前記放射性物質の相対濃度の前記平均値又は前記中央値の、前記所定期間における前記放射性物質の相対濃度の平均値又は中央値に対する比を前記所定期間についての相対濃度の補正係数として算出するステップと、
前記所定位置における前記放射性物質による相対線量に前記相対線量の補正係数を乗じることにより前記所定位置における前記放射性物質による相対線量を補正する、及び/又は前記所定位置における前記放射性物質の相対濃度に前記相対濃度の補正係数を乗じることにより前記所定位置における前記放射性物質の相対濃度を補正するステップと、
を有する補正方法。
【請求項2】
前記補正係数として算出するステップでは、前記複数個の方位別の前記放射性物質による相対線量及び/又は前記放射性物質の相対濃度の平均値又は中央値を算出することに代えて、前記複数個の方位別の前記放射性物質による相対線量及び/若しくは前記放射性物質の相対濃度の中から値が大きいほうから順に所定数の値を抽出して抽出した値の平均値である第1平均値を算出し、前記所定期間における前記放射性物質による相対線量及び/若しくは前記放射性物質の相対濃度の中から値が大きいほうから順に前記所定数の値を抽出して抽出した値の平均値である第2平均値を算出し、方位別の前記放射性物質による相対線量の前記第1平均値の、前記放射性物質による相対線量の前記第2平均値に対する比を前記相対線量の補正係数として算出する、及び/若しくは、方位別の前記放射性物質の相対濃度の前記第1平均値の、前記放射性物質の相対濃度の前記第2平均値に対する比を前記相対濃度の補正係数として算出する、または、前記複数個の方位別の前記放射性物質による相対線量及び/若しくは前記放射性物質の相対濃度の中から値が大きいほうから順に所定数の値を抽出してその中から1つの値を選択し、方位別の前記放射性物質による相対線量から選択された前記1つの値の、前記放射性物質による相対線量の前記第2平均値に対する比を前記相対線量の補正係数として算出する、及び/若しくは、方位別の前記放射性物質の相対濃度から選択された前記1つの値の、前記放射性物質の相対濃度の前記第2平均値に対する比を前記相対濃度の補正係数として算出する、
請求項1に記載の補正方法。
【請求項3】
前記補正係数として算出するステップでは、前記複数個の方位別の前記放射性物質による相対線量及び/又は前記放射性物質の相対濃度の平均値又は中央値を算出することに代えて、前記複数個の方位別の前記放射性物質による相対線量及び/若しくは前記放射性物質の相対濃度の中から値が小さいほうから順に所定数の値を抽出して抽出した値の平均値である第1平均値を算出し、前記所定期間における前記放射性物質による相対線量及び/若しくは前記放射性物質の相対濃度の中から値が小さいほうから順に前記所定数の値を抽出して抽出した値の平均値である第2平均値を算出し、方位別の前記放射性物質による相対線量の前記第1平均値の、前記放射性物質による相対線量の前記第2平均値に対する比を前記相対線量の補正係数として算出する、及び/若しくは、方位別の前記放射性物質の相対濃度の前記第1平均値の、前記放射性物質の相対濃度の前記第2平均値に対する比を前記相対濃度の補正係数として算出する、または、前記複数個の方位別の前記放射性物質による相対線量及び/若しくは前記放射性物質の相対濃度の中から値が小さいほうから順に所定数の値を抽出してその中から1つの値を選択し、方位別の前記放射性物質による相対線量から選択された前記1つの値の、前記放射性物質による相対線量の前記第2平均値に対する比を前記相対線量の補正係数として算出する、及び/若しくは、方位別の前記放射性物質の相対濃度から選択された前記1つの値の、前記放射性物質の相対濃度の前記第2平均値に対する比を前記相対濃度の補正係数として算出する、
請求項1に記載の補正方法。
【請求項4】
前記補正係数として算出するステップでは、風向きの傾向が一定となる期間を前記所定期間と定めて、前記所定期間ごとに前記補正係数を算出する、
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の補正方法。
【請求項5】
前記評価モデルは、1方位への集中した放射性物質の拡散を仮定して被ばく経路ごとの前記放射性物質による相対線量及び/又は放射性物質の相対濃度を算出するモデルである、
請求項1から請求項4の何れか1項に記載の補正方法。
【請求項6】
前記所定位置は、前記放射性物質の発生元から1~5kmに存在する、
請求項1から請求項5の何れか1項に記載の補正方法。
【請求項7】
前記風向きは、前記放射性物質の発生元となる施設内で、所定期間にわたって所定時間ごとに計測されたデータである、
請求項1から請求項6の何れか1項に記載の補正方法。
【請求項8】
評価モデルに基づいて算出された所定位置における放射性物質による相対線量及び/又は前記放射性物質の相対濃度を取得する評価データ取得部と、
所定の注目位置における前記放射性物質による相対線量及び/又は前記放射性物質の相対濃度に前記放射性物質の発生元での所定期間における単位時間ごとの風向きの出現頻度を乗じて、前記単位時間ごとの方位別の前記放射性物質による相対線量及び/又は前記放射性物質の相対濃度を算出する処理を前記所定期間にわたって行い、前記所定期間にわたって前記処理を行うことにより算出された複数個の方位別の前記放射性物質による相対線量及び/又は前記放射性物質の相対濃度の平均値又は中央値を算出し、方位別の前記放射性物質による相対線量の前記平均値又は前記中央値の、前記所定期間における前記放射性物質による相対線量の平均値又は中央値に対する比を前記所定期間についての相対線量の補正係数として算出する、及び/又は、方位別の前記放射性物質の相対濃度の前記平均値又は前記中央値の、前記所定期間における前記放射性物質の相対濃度の平均値又は中央値に対する比を前記所定期間についての相対濃度の補正係数として算出する方位別配分モデル作成部と、
前記所定位置における前記放射性物質による相対線量に前記相対線量の補正係数を乗じることにより前記所定位置における前記放射性物質による相対線量を補正する、及び/又は前記所定位置における前記放射性物質の相対濃度に前記相対濃度の補正係数を乗じることにより前記所定位置における前記放射性物質の相対濃度を補正する補正部と、
を備える補正装置。
【請求項9】
コンピュータに、
評価モデルに基づいて算出された所定位置における放射性物質による相対線量及び/又は前記放射性物質の相対濃度を取得するステップと、
所定の注目位置における前記放射性物質による相対線量及び/又は前記放射性物質の相対濃度に前記放射性物質の発生元での所定期間における単位時間ごとの風向きの出現頻度を乗じて、前記単位時間ごとの方位別の前記放射性物質による相対線量及び/又は前記放射性物質の相対濃度を算出する処理を前記所定期間にわたって行い、前記所定期間にわたって前記処理を行うことにより算出された複数個の方位別の前記放射性物質による相対線量及び/又は前記放射性物質の相対濃度の平均値又は中央値を算出し、方位別の前記放射性物質による相対線量の前記平均値又は前記中央値の、前記所定期間における前記放射性物質による相対線量の平均値又は中央値に対する比を前記所定期間についての相対線量の補正係数として算出する、及び/又は、方位別の前記放射性物質の相対濃度の前記平均値又は前記中央値の、前記所定期間における前記放射性物質の相対濃度の平均値又は中央値に対する比を前記所定期間についての相対濃度の補正係数として算出するステップと、
前記所定位置における前記放射性物質による相対線量に前記相対線量の補正係数を乗じることにより前記所定位置における前記放射性物質による相対線量を補正する、及び/又は前記所定位置における前記放射性物質の相対濃度に前記相対濃度の補正係数を乗じることにより前記所定位置における前記放射性物質の相対濃度を補正するステップと、
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、放射線量などの補正方法、補正装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
原子力施設から大気中へ放出される放射性物質の環境への影響を解析するソフトウェアとして、米国サンディア国立研究所が開発したMACCS2コードが広く用いられている。環境への影響を評価するために被ばく経路ごとの放射線量を把握したい場合があるが、MACCS2を用いると、吸入摂取、クラウドシャインといった被ばく経路ごとの放射線量を計算することができる。MACCS2は、被ばく経路ごとの放射線量を計算する場合には、放射性物質が1方向に集中的に拡散すると仮定した場合の放射線量を計算する。特許文献1には、放射線の観測データに基づいて、放射性物質の拡散状況を予測する放射性物質拡散予測装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6167020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
放射性物質が1方向に集中的に拡散すると仮定して放射線量を計算すると、計算される放射線量が大きく見積もられることになる。実態に即した放射線量を計算する方法が求められている。
【0005】
本開示は、上記課題を解決することができる補正方法、補正装置及びプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一実施形態によれば、補正方法は、評価モデルに基づいて算出された所定位置における放射性物質による相対線量及び/又は前記放射性物質の相対濃度を取得するステップと、所定の注目位置における前記放射性物質による相対線量及び/又は前記放射性物質の相対濃度に前記放射性物質の発生元での所定期間における単位時間ごとの風向きの出現頻度を乗じて、前記単位時間ごとの方位別の前記放射性物質による相対線量及び/又は前記放射性物質の相対濃度を算出する処理を前記所定期間にわたって行い、前記所定期間にわたって前記処理を行うことにより算出された複数個の方位別の前記放射性物質による相対線量及び/又は前記放射性物質の相対濃度の平均値又は中央値を算出し、方位別の前記放射性物質による相対線量の前記平均値又は前記中央値の、前記所定期間における前記放射性物質による相対線量の平均値又は中央値に対する比を前記所定期間についての相対線量の補正係数として算出し、及び/又は、方位別の前記放射性物質の相対濃度の前記平均値又は前記中央値の、前記所定期間における前記放射性物質の相対濃度の平均値又は中央値に対する比を前記所定期間についての相対濃度の補正係数として算出するステップと、前記所定位置における前記放射性物質による相対線量に前記相対線量の補正係数を乗じることにより前記所定位置における前記放射性物質による相対線量を補正する、及び/又は前記所定位置における前記放射性物質の相対濃度に前記相対濃度の補正係数を乗じることにより前記所定位置における前記放射性物質の相対濃度を補正するステップと、を有する。
【0007】
本開示の一実施形態によれば、補正装置は、評価モデルに基づいて算出された所定位置における放射性物質による相対線量及び/又は前記放射性物質の相対濃度を取得する評価データ取得部と、所定の注目位置における前記放射性物質による相対線量及び/又は前記放射性物質の相対濃度に前記放射性物質の発生元での所定期間における単位時間ごとの風向きの出現頻度を乗じて、前記単位時間ごとの方位別の前記放射性物質による相対線量及び/又は前記放射性物質の相対濃度を算出する処理を前記所定期間にわたって行い、前記所定期間にわたって前記処理を行うことにより算出された複数個の方位別の前記放射性物質による相対線量及び/又は前記放射性物質の相対濃度の平均値又は中央値を算出し、方位別の前記放射性物質による相対線量の前記平均値又は前記中央値の前記放射性物質による相対線量に対する比を前記所定期間についての相対線量の補正係数として算出する、及び/又は、方位別の前記放射性物質の相対濃度の前記平均値又は前記中央値の前記放射性物質の相対濃度に対する比を前記所定期間についての相対濃度の補正係数として算出する方位別配分モデル作成部と、前記所定位置における前記放射性物質による相対線量に前記相対線量の補正係数を乗じることにより前記所定位置における前記放射性物質による相対線量を補正する、及び/又は前記所定位置における前記放射性物質の相対濃度に前記相対濃度の補正係数を乗じることにより前記所定位置における前記放射性物質の相対濃度を補正する補正部と、を備える。
【0008】
本開示の一実施形態によれば、プログラムは、コンピュータに、評価モデルに基づいて算出された所定位置における放射性物質による相対線量及び/又は放射性物質の相対濃度を取得するステップと、所定の注目位置における前記放射性物質による相対線量及び/又は前記放射性物質の相対濃度に前記放射性物質の発生元での所定期間における単位時間ごとの風向きの出現頻度を乗じて、前記単位時間ごとの方位別の前記放射性物質による相対線量及び/又は前記放射性物質の相対濃度を算出する処理を前記所定期間にわたって行い、前記所定期間にわたって前記処理を行うことにより算出された複数個の方位別の前記放射性物質による相対線量及び/又は前記放射性物質の相対濃度の平均値又は中央値を算出し、方位別の前記放射性物質による相対線量の前記平均値又は前記中央値の、前記所定期間における前記放射性物質による相対線量の平均値又は中央値に対する比を前記所定期間についての相対線量の補正係数として算出し、及び/又は、方位別の前記放射性物質の相対濃度の前記平均値又は前記中央値の、前記所定期間における前記放射性物質の相対濃度の平均値又は中央値に対する比を前記所定期間についての相対濃度の補正係数として算出するステップと、前記所定位置における前記放射性物質による相対線量に前記相対線量の補正係数を乗じることにより前記所定位置における前記放射性物質による相対線量を補正する、及び/又は前記所定位置における前記放射性物質の相対濃度に前記相対濃度の補正係数を乗じることにより前記所定位置における前記放射性物質の相対濃度を補正するステップと、を実行させる。
【発明の効果】
【0009】
上述の補正方法、補正装置及びプログラムによれば、実態に即した被ばく線量を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る被ばく評価システムの一例を示す機能ブロック図である。
図2】実施形態に係る原子力施設を中心とする評価対象範囲を示す図である。
図3】実施形態に係る風向出現頻度情報の一例を示す図である。
図4】実施形態の風向出現頻度に応じた放射線量等の配分方法を説明する図である。
図5A】実施形態に係る方位別配分モデルの一例を示す第1図である。
図5B】実施形態に係る方位別配分モデルの一例を示す第2図である。
図6】実施形態に係る方位別配分モデルの作成処理の一例を示すフローチャートである。
図7】実施形態に係る被ばく評価処理の一例を示すフローチャートである。
図8】実施形態の被ばく評価システムのハードウェア構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<実施形態>
以下、本開示の被ばく評価システムについて、図1図8を参照しながら説明する。
図1に示す被ばく評価システム100は、放射線による被ばく経路ごとの放射線量を評価するシステムである。被ばく評価システム100は、環境評価装置10と、風向風速計20と、補正装置30と、を含む。補正装置30は、環境評価装置10および風向風速計20から得られた情報が入力可能なように接続されている。
【0012】
環境評価装置10は、原子力施設付近の評価点(被ばくの評価対象位置)における被ばく経路ごとの放射線量又は放射性物質の相対濃度(χ/Q)及び放射線の相対線量(D/Q)を算出する。環境評価装置10は、評価モデル11と、演算部12とを備える。
評価モデル11は、放射線の環境への影響を評価するソフトウェアであり、被ばく経路ごとの放射線量を算出する。被ばく経路には、クラウドシャインによる外部被ばく、グランドシャインによる外部被ばく、プルームの吸入による内部被ばく、再浮遊物質の吸入による内部被ばくなどがある。評価モデル11は、例えば、MACCS2である。評価モデル11は、評価点に向けて1方向に集中的に放射性物質が拡散するものとして、被ばく経路ごとの放射線量を計算する。実際には、風の影響によって、放射性物質は他の位置にも拡散するため、評価モデル11は、実際よりも保守的な値を計算する。例えば、年間の風向および風速などの気象データ、評価点の位置情報などを評価モデル11に入力すると、評価モデル11は、被ばく経路ごとの放射線量の平均値(A)を計算し、出力する。
演算部12は、評価モデルが計算した評価点における放射線量に基づいて、評価点における放射性物質の相対濃度または放射線の相対線量、あるいはその両方を算出する。相対濃度、相対線量の計算方法は公知のため説明しない。相対濃度は、放射性物質の単位発生量当りの評価点における相対的な濃度を示す。相対線量は、放射性物質の単位発生量当りの評価点における相対的な線量を示す。演算部12は、相対濃度や相対線量の平均値(A´)、相対濃度や相対線量の1時間ごとの値(B´)を計算する。環境評価装置10は、演算部12が算出した相対濃度等を補正装置30へ出力する。
【0013】
風向風速計20は、原子力施設内に設けられ、所定の時間間隔で風向や風速を計測する。風向風速計20は、計測した風向、風速の情報を集約し、当該情報は環境評価装置10及び補正装置30へ入力される。補正装置30は、環境評価装置10が算出した評価点における相対濃度や相対線量を風向風速計20が計測した風向に基づいて補正する。補正装置30は、所定期間にわたって計測された風向に基づいて、環境評価装置10が算出した全方位分に相当する放射線量や相対濃度、相対線量を、風向が示す方位別に配分し、保守的に計算された相対濃度や相対線量を現実に即した値に補正する。
【0014】
図1に示すように補正装置30は、評価データ取得部31と、風向データ取得部32と、風向出現頻度算出部33と、方位別配分モデル作成部34と、補正部35と、記憶部36と、出力部37と、を備える。
評価データ取得部31は、環境評価装置10が出力した放射線量や相対濃度、相対線量を取得する。例えば、評価データ取得部31は、後述する方位別配分モデルを作成するために過去1年の相対濃度や相対線量(平均値や1時間ごとの値)を取得する。また、例えば、評価データ取得部31は、新たに評価する評価点について、環境評価装置10が出力した被ばく経路ごとの放射線量や相対濃度、相対線量を取得する。
【0015】
風向データ取得部32は、風向風速計20が計測した風向を取得する。
風向出現頻度算出部33は、風向風速計20が計測した風向に基づいて、風向ごとの出現頻度を算出する(図3)。
方位別配分モデル作成部34は、相対濃度や相対線量の方位別の配分比を示す方位別配分モデルを作成する(図5A図5B)。
補正部35は、環境評価装置10が出力した評価点における相対濃度や相対線量を、方位別配分モデルに基づいて補正する。
記憶部36は、評価点における相対濃度や相対線量を補正する処理に必要な各種情報を記憶する。
出力部37は、評価点における相対濃度や相対線量の補正後の値を表示装置や電子ファイル等へ出力する。
【0016】
図2は、実施形態に係る原子力施設を中心とする評価対象範囲を示す図である。
図2の円の中心に示すのは原子力施設1である。原子力施設1には、風向風速計20が設けられ、原子力施設1内における風向や風速を継続的に計測している。例えば、風向風速計20は、風向について、北(N)、北北東(NNE)、北東(NE)、東北東(NEE)、東(E)、東南東(ESE)、南東(SE)、南南東(SSE)、南(S)、南南西(SSW)、南西(SW)、西南西(WSW)、西(W)、西北西(WNW)、北西(NW)、北北西(NNW)の16方位のうちの何れであるかを計測し、その計測結果を補正装置30へ出力する。原子力施設1を中心とする円は、例えば、内側から順に原子力施設1から1kmの境界、2kmの境界、3kmの境界、4kmの境界、5kmの境界をそれぞれ示している。被ばく評価システム100は、原子力施設1から1~2km、最大でも5km程度の範囲についての被ばくを評価する。被ばく評価システム100は、SPEEDI(System for Prediction of Environmental Emergency Dose Information)等と比較して、狭い範囲、例えば、敷地境界と呼ばれる範囲の被ばく評価に適したシステムであり、近隣における被ばく線量の評価に用いることを目的としている。
【0017】
図2の評価点P1aは、原子力施設1から南の方位に1km離れた位置の評価点である。評価点P2a~P5aは、それぞれ原子力施設1から南の方位に2~5km離れた評価点である。また、例えば、評価点P2eは、原子力施設1から東の方位に2km離れた評価点、評価点P1gは、原子力施設1から北東の方位に1km離れた評価点、評価点P4nは、原子力施設1から西南西の方位に4km離れた評価点である。他の評価点P3h、P5j、P2k、P1mについても同様である。評価モデル11で、評価点P1aと評価点P5aについて計算すると、評価点P1aと評価点P5aの原子力施設1からの距離の違いは考慮されるが、例えば、評価点P1aについて、他の方位(評価点P1gの方位など)へ拡散する放射性物質は0ですべてが評価点P1aの方位へ拡散するとして評価されてしまう。過大な被ばくの可能性を示唆する計算結果が得られることから、現実的な大気拡散や被ばくの評価が望まれている。実態に即した評価を行うために、本実施形態では、風向きを考慮して、実際の風向きが示す方位に放射性物質が拡散するとして、評価モデル11の計算結果を補正する。極端な例を挙げれば、評価モデル11によって、評価点P1aへ100(mSv)の放射線量が拡散されると計算されたとしても、原子力施設1から南向きへ風が吹かなければ、評価点P1aへは放射線は拡散しないと考える。実際には、各評価点における風向きはランダムであり不明なので、例えば、過去1年間の風向データに基づく統計処理を行って風向きの出現頻度や特定方位の平均的な相対濃度等を算出し、その算出結果に基づいて、各方位への放射線物質の拡散量の配分を決定する。1年間の風向データに基づく風向出現頻度や特定方位の平均的な相対濃度等を算出することで、原子力施設1付近の風向きの特性を反映させることができる。評価モデル11が計算した1方向への集中的な放射性物質の拡散を、各方位へ配分することを本実施形態では補正と呼んでいる。以下、この補正処理について具体的に説明する。
【0018】
図3は、風向出現頻度情報の一例を示す図である。風向風速計20は、所定の時間間隔で、原子力施設1における風向(16方位)と風速を計測、集約し、この情報は環境評価装置10及び補正装置30へ入力される。補正装置30では、風向データ取得部32がこの情報を取得する。また、風向出現頻度算出部33は、時々刻々の風向の計測値を集計して、例えば、1時間ごとに風向の割合、つまり、出現頻度を計算する。例えば、1日に24回(1時間に1回)計測が行われるとして、南向きが6回、南南西の向きが12回、南西の方向が6回計測されたとすると、風向出現頻度算出部33は、この1日について、南向きの出現頻度は25%、南南西の出現頻度は50%、南西の出現頻度は25%、残りの方位は0%と計算する。風向出現頻度算出部33は、例えば、1年間の16方位の風向出現頻度を計算する。図3に1年間の風向の出現頻度の例を示す。
【0019】
図4は、風向出現頻度に応じた放射線量等の配分方法を説明する図である。図4の風配図400は、風向出現頻度算出部33によって計算された、ある1年間の風向の出現頻度を示している。例えば、演算部12が、北に位置する評価点について、相対濃度をXと計算したとする。一方、ある1年間について、北方向への風向出現頻度が14%と計算されたとする。すると、方位別配分モデル作成部34は、この1年間における北方向の相対濃度を、X×0.14と計算する。方位別配分モデル作成部34は、風向出現頻度算出部33が計算した1年間の風向出現頻度又は特定方位の平均的な相対濃度等のデータに基づいて、この計算(相対濃度、相対線量の各方位への配分)を行う。この計算結果を、図5A図5Bに示す。
【0020】
図5A図5Bに方位別配分モデルの一例を示す。図5Aの方位別配分モデル500Aは、環境評価装置10が相対濃度の平均値(A´)を算出した場合の方位別配分モデルの一例である。全方位の列の値は、環境評価装置10が算出した相対濃度の平均値(A´)である。方位別配分モデル作成部34は、1年分(あるいは任意の期間)の1時間ごとの方位別の風向出現頻度又は相対濃度等を計算する。方位別配分モデル作成部34は、計算した期間について、方位別に各列(N、NNE、・・・)の平均値を計算する。そして、方位別配分モデル作成部34は、方位N(北)に位置する評価点の補正係数(N)として、全方位の相対濃度の年間平均値「3.6E-4」とNの相対濃度の年間平均値「4.0E-5」との比(「4.0E-5」÷「3.6E-4」)を算出する。同様に、方位別配分モデル作成部34は、方位NNE(北北東)に位置する評価点の補正係数(NNE)として、全方位の相対濃度の年間平均値「3.6E-4」とNNEの相対濃度の年間平均値「1.8E-5」との比を算出する。方位別配分モデル作成部34は、他の方位についても同様にして補正係数を算出する。方位別に算出した補正係数は、1方向に集中的に拡散すると仮定して計算された相対濃度や相対線量を特定の方位の相対濃度等に変換する係数となる。例えば、北北東に位置する評価点P3hについて、MACCS2が計算した放射線量に、北北東について算出した補正係数(NNE)を乗じて補正することにより、同評価点における現実的な放射線量を算出することができる。
【0021】
さらに補正係数は、平均値に基づいて算出するだけではなく、例えば、各列(N、NNE、・・・)の数値が大きいものから順に所定数(例えば上位5%)の相対濃度を抽出し、抽出した相対濃度に基づいて算出されてもよい。例えば、図5Aの「上位5%」の行に示すように、方位別配分モデル作成部34は、各列について、上位5%値を抽出する。そして、平均値の場合と同様に、方位別配分モデル作成部34は、全方位の上位5%値に対する各方位の上位5%値を算出することにより各方位別の補正係数を算出する。これにより、平均値に基づく補正係数よりも保守的且つ現実的な各方位の放射線量を算出する為の補正係数を算出することができる。なお、ここでは、上位5%を抽出することとしたが、上位10%や上位20%であってもよいし、目的に応じて、例えば、下位5%を抽出したり、中央値を抽出したりして方位別の補正係数を算出してもよい。
【0022】
図5Bに、環境評価装置10が算出した1時間ごとの相対濃度(B´)を計算した場合の方位別配分モデルの一例を示す。方位別配分モデル500Bの全方位の列の値は、評価モデル11の計算結果に基づいて演算部12が計算した、1時間ごとの相対濃度(B´)である。方位別配分モデル作成部34は、1時間ごとの方位別の風向出現頻度又は相対濃度等を計算する。方位別配分モデル作成部34は、1年分の方位別の相対濃度を計算する。方位別配分モデル作成部34は、8760回(=24時間×365日)計算を行う。方位別配分モデル作成部34は、平均値の行に示すように、各列の平均値を計算する。そして、方位別配分モデル作成部34は、方位N(北)に位置する評価点の補正係数として、全方位の相対濃度の年間平均値「3.6E-4」とNの相対濃度の年間平均値「5.0E-5」との比を算出する。例えば、方位別配分モデル作成部34は、5.0E-5÷3.6E-4を算出し、これを方位Nに位置する評価点の補正係数(N)とする。同様に、方位別配分モデル作成部34は、方位NNE(北北東)に位置する評価点の補正係数(NNE)として、全方位の相対濃度の年間平均値「3.6E-4」とNNEの相対濃度の年間平均値「2.1E-5」との比を算出する。方位別配分モデル作成部34は、他の方位についても同様にして補正係数を算出する。時間ごとの相対濃度を用いて計算することにより、方位別の相対濃度の年間の合計を得ることができる。
【0023】
方位別配分モデル作成部34は、上記した統計処理を行って、被ばく経路別に方位別配分モデルを算出する。図5A図5Bでは、表内の数値が相対濃度であるとして説明を行ったが、相対線量であっても同様の計算で方位別配分モデルを作成することができる。なお、図5A図5Bに例示する表およびそこから計算される方位別の補正係数を含めて「方位別配分モデル」とよぶ。毎年の風向きのパターンには、大きな違いが無いことから、1年間の風向データに基づいて風向出現頻度情報を算出し、さらに風向出現頻度情報と評価モデル11に基づく相対濃度等とを用いた統計処理により、方位別の補正係数を算出する。しかし、方位別配分モデルの作成方法は、これに限定しない、例えば、季節ごとに風向きの傾向が決まっている場合であって、季節ごとの評価点における現実的な相対濃度等を算出したい場合には、図5A図5Bから季節ごとのデータを抽出して、季節ごとのデータに対して同様の処理を行うことにより、季節ごとの方位別補正係数を算出してもよい。また、例えば、時間帯ごとに風向きの傾向が決まっている場合であって、評価点における時間帯ごとの現実的な相対濃度等を算出したい場合には、図5A図5Bから時間帯ごとのデータを抽出して、時間帯ごとのデータに対して同様の処理を行い、時間帯ごとの方位別補正係数を算出してもよい。
【0024】
(動作)
次に被ばく評価システムによる方位別配分モデルの作成処理と被ばく評価処理の流れについて説明する。
図6は、実施形態に係る方位別配分モデルの作成処理の一例を示すフローチャートである。
まず、風向データ取得部32が、年間の風向きデータを取得する(ステップS1)。風向データ取得部32が、風向風速計20が計測した風向データを取得し、記憶部36に記録する。風向データ取得部32は、1年分の風向データを記録する。
次に風向出現頻度算出部33が、風向きの出現頻度を算出する(ステップS2)。風向出現頻度算出部33は、ステップS1で取得した風向データを1時間ごとに集計し、1年間の風向出現頻度を算出する。風向出現頻度算出部33は、算出した風向出現頻度を記憶部36に記録する。
【0025】
次に環境評価装置10が、相対濃度や相対線量を算出する(ステップS3)。例えば、評価モデル11が、ある評価点について被ばく経路別の放射線量の平均値(A)を算出する。演算部12は、相対濃度の平均値および/又は相対線量の平均値(A´)を算出する。
【0026】
また、例えば、評価モデル11が、ある評価点について、1時間ごとの被ばく経路別の放射線量(B)を算出する。演算部12は、1時間ごとの相対濃度の平均値および/又は相対線量(B´)を算出する。環境評価装置10は、相対濃度等((A´)又は(B´)、あるいはその両方)を補正装置30へ出力する。
【0027】
補正装置30では、評価データ取得部31が、環境評価装置10によって出力された相対濃度等を取得する(ステップS4)。評価データ取得部31は、取得した相対濃度等を記憶部36に記録する。
次に方位別配分モデル作成部34が、方位別配分モデルを作成する(ステップS5)。方位別配分モデル作成部34は、記憶部36に記録された風向頻度情報と、ある被ばく経路についての相対濃度等とを読み出して、図5A図5Bで説明したように1時間ごとの方位別の相対濃度のレコードを1年分作成し、その後、統計処理(1年間の平均や上位5%の平均を算出すること。)を行って、全方位の相対濃度等と、方位別の相対濃度等との比を算出し、方位別の補正係数を算出する。方位別配分モデル作成部34は、被ばく経路ごとに方位別配分モデルを作成する。方位別配分モデル作成部34は、作成した被ばく経路ごとの方位別配分モデルを記憶部36に書き込んで記憶させる(ステップS6)。
【0028】
図7は、実施形態に係る被ばく評価処理の一例を示すフローチャートである。
図6の処理により、記憶部36には、方位別配分モデルが記憶されているものとする。
ユーザが、環境評価装置10へ評価点(例えば、評価点P1a)を設定し、放射線量の計算を指示する。環境評価装置10は、この指示操作と評価点の設定を受け付ける(ステップS11)。環境評価装置10は、設定された評価点の放射線量を算出する(ステップS12)。評価モデル11および演算部12は、ステップS3と同様にして、評価点における放射線量を算出する。環境評価装置10は、放射線量を補正装置30へ出力する。補正装置30では、評価データ取得部31が、環境評価装置10によって出力された放射線量を取得し(ステップS13)、記憶部36に記録する。
【0029】
次に補正部35が、環境評価装置10によって評価された評価点における放射線量を補正する(ステップS14)。例えば、評価点がP1aの場合、評価点P1aは、原子力施設1の南の方位に位置する。補正部35は、図5Aまたは図5Bで説明した方法によって算出した補正係数(S)を、環境評価装置10が出力した放射線量に乗じて、全方位分に相当する放射線量を、風向きを考慮した対象評価点P1aにおける現実的な値に補正する。
次に出力部37が、補正後の放射線量や相対濃度や相対線量を電子ファイル等に出力する(ステップS15)。出力部37が、補正後の放射線量や相対濃度、相対線量を出力する。
【0030】
従来提供されている被ばく経路ごとの放射線量を算出するソフトウェアは、風向きを考慮せずに1方向に集中して放射性物質が拡散する場合の線量を計算する。また、放射線の環境への影響を予測するシステムを用いると、計算量が膨大になり、予測範囲が広範囲であることから、原子力施設周辺については、解析粒度が荒くなりがちである。最も影響を受けやすい施設周辺の線量を評価するために、被ばく経路ごとの現実的な線量を計算する方法が求められている。これに対し、本実施形態によれば、実績のあるMACCS2等による評価結果を用いつつ、風向きに依存しない全方位と各方位への風向きを考慮したものを比較して、評価点の線量を評価する。これにより、実際の風向に即した線量を得ることができる。また、非現実的に1方位に集中して発生する被ばく線量を、補正により現実的な値に近づけることで、評価上の過度な保守性を排除することができる。また、原子力施設内で計測した風向に基づいて、補正を行うことにより、従来の評価では得られなかった方位別の原子力施設周辺の線量の評価結果を簡易に取得することができる。
【0031】
また、「発電用原子炉施設の安全解析に関する気象指針」、「実用発電用原子炉の安全性向上評価に関する運用ガイド」、「原子力発電所の確率論的リスク評価に関する実施基準」などの規格では、放射線の大気拡散の評価を行うことが定められているが、本実施形態の方法により、方位別の相対線量を算出することで、規格に沿った評価を行うことができる。
【0032】
なお、上記実施形態では、評価モデルの一例としてMACCS2を例示したがこれに限定されない。1方位に集中して放射性物質が拡散すると仮定して計算する他のソフトウェアや、風向きによる拡散を考慮せずに被ばく経路別の放射線を計算するソフトウェアについても本実施形態の補正処理を適用することで、評価点における現実的な線量を得ることができる。また、方位別配分モデルを作成する際に方位別の相対濃度、相対線量の算出には、評価モデル11以外のソフトウェア、例えば、年間の風向データに基づいて、方位別の放射線物質の拡散状況及び放射線量を解析するプログラムなどを用いてもよい。
【0033】
また、上記の実施形態では、評価モデル11に基づいて算出した放射線量などを風向きの方位別配分モデルに基づいて補正することとしたが、例えば、原子力施設の南に位置するモニタリングポストによる放射線量の計測値を、方位別配分モデルの方位別補正係数を用いて他の方位の放射線量に変換する目的で使用してもよい。例えば、ステップS13にて、評価点(北)における放射線量に代えて、南のモニタリングポストの計測値を取得し、ステップS14では、南のモニタリングポストで計測した計測値を補正係数(S)で除算した値(全方位分の相対濃度)を算出し、さらに補正係数(N)を乗じることで、原子力施設1の北に位置する評価点での放射線量の推定値を算出してもよい。
【0034】
図8は、実施形態の被ばく評価システムのハードウェア構成の一例を示す図である。
コンピュータ900は、CPU901、主記憶装置902、補助記憶装置903、入出力インタフェース904、通信インタフェース905を備える。
上述の環境評価装置10と補正装置30は、コンピュータ900に実装される。そして、上述した各機能(評価モデル11、演算部12、評価データ取得部31、風向データ取得部32、風向出現頻度算出部33、方位別配分モデル作成部34、補正部35、出力部37)は、プログラムの形式で補助記憶装置903に記憶されている。CPU901は、プログラムを補助記憶装置903から読み出して主記憶装置902に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。また、CPU901は、プログラムに従って、記憶領域を主記憶装置902に確保する。また、CPU901は、プログラムに従って、処理中のデータを記憶する記憶領域を補助記憶装置903に確保する。
【0035】
なお、環境評価装置10と補正装置30の全部または一部の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより各機能部による処理を行ってもよい。ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、CD、DVD、USB等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。また、このプログラムが通信回線によってコンピュータ900に配信される場合、配信を受けたコンピュータ900が当該プログラムを主記憶装置902に展開し、上記処理を実行しても良い。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
【0036】
以上のとおり、本開示に係るいくつかの実施形態を説明したが、これら全ての実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態及びその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0037】
<付記>
各実施形態に記載の補正方法、補正装置及びプログラムは、例えば以下のように把握される。
【0038】
(1)第1の態様に係る補正方法は、評価モデル11に基づいて算出された所定位置における放射性物質による相対線量及び/又は放射性物質の相対濃度を取得するステップ(S13)と、前記所定位置における前記放射性物質による相対線量及び/又は放射性物質の相対濃度を、前記放射性物質の発生元の位置から前記所定位置への方位における風向きに応じた方位別の前記放射性物質による相対線量及び/又は放射性物質の相対濃度の配分比を示す方位別配分モデルを用いて補正するステップ(S14)と、を有する。
原子力施設から発生した放射性物質の拡散による放射線量の評価値を、風向きを考慮して補正することで、現実的な評価値を得ることができる。
【0039】
(2)第2の態様に係る補正方法は、(1)の補正方法であって、所定の注目位置における前記放射性物質による相対線量及び/又は放射性物質の相対濃度に前記発生元における風向きの出現頻度を乗じて方位別の前記放射性物質による相対線量及び/又は放射性物質の相対濃度を算出する処理を複数回行い、算出された複数個の方位別の前記放射性物質による相対線量及び/又は放射性物質の相対濃度を統計処理することにより、前記方位別配分モデルを作成するステップ、をさらに有する。
風向きの出現頻度に基づいて算出した複数(例えば、1時間ごとを1年分)の方位別の拡散量を統計処理して方位別配分モデルを算出するので、偏りのない、実態に即した方位別配分モデルを得ることができる。
【0040】
(3)第3の態様に係る補正方法は、(2)の補正方法であって、前記統計処理では、全方位の前記放射性物質による相対線量及び/又は放射性物質の相対濃度の平均値と、前記出現頻度に基づく方位別の前記放射性物質による相対線量及び/又は放射性物質の相対濃度の平均値と、の比によって前記方位別配分モデルを作成する。
拡散した全方位分の相対濃度等の平均値と方位別の相対濃度等の平均値との比を算出することにより、全方位分の放射線量等が得られれば、方位別の放射線量等を算出することができる。
【0041】
(4)第4の態様に係る補正方法は、(2)の補正方法であって、前記統計処理では、全方位の前記放射性物質による相対線量及び/又は放射性物質の相対濃度の平均値と、前記出現頻度に基づく方位別の前記放射性物質による相対線量及び/又は放射性物質の相対濃度のうち所定の基準を満たすものに基づく前記放射性物質による相対線量及び/又は放射性物質の相対濃度の平均値と、の比によって前記方位別配分モデルを作成する。
所定の基準を満たすものについて、例えば、拡散量が上位のものを抽出すれば保守的な値を算出する方位別配分モデルを得ることができ、中央値や平均値付近のデータを抽出すれば平均的な値を算出する方位別配分モデルを得ることができる。また、拡散量が下位のものを抽出すれば楽観的な値を算出する方位別配分モデルを得ることができる。目的に応じた方位別配分モデルを得ることができる。
【0042】
(5)第5の態様に係る補正方法は、(1)~(4)の補正方法であって、前記評価モデルは、1方位への集中した放射性物質の拡散を仮定して前記放射性物質による相対線量及び/又は放射性物質の相対濃度を算出するモデルである。
1方位への集中した放射性物質の拡散を仮定して被ばく経路ごとの放射線量が計算されたとしても、方位別の放射線量に補正することができるので、過度に保守的な評価を避け、現実的な被ばくの状況を評価することができる。
【0043】
(6)第6の態様に係る補正方法は、(1)~(5)の補正方法であって、前記所定位置は、前記放射性物質の発生元から1~5kmに存在する。
本実施形態の補正方法は、発生元から比較的近い範囲の被ばく評価に適している。
【0044】
(7)第7の態様に係る補正方法は、(1)~(6)の補正方法であって、前記風向きは、前記放射性物質の発生元となる施設内で、所定期間にわたって所定時間ごとに計測されたデータである。
発生元付近で計測された風向データを用いるので、発生元の施設からの各方位への拡散状況を算出することができる。所定期間にわたって所定時間ごとに計測された風向データに基づいて、方位別配分モデルを作成するので、一時的な風向ではなく、その土地の風向の特徴を反映した方位別配分モデルを作成することができる。
【0045】
(8)第8の態様に係る補正装置は、評価モデルに基づいて算出された所定位置における放射性物質による相対線量及び/又は放射性物質の相対濃度を取得する評価データ取得部31と、前記所定位置における前記所定位置における前記放射性物質による相対線量及び/又は放射性物質の相対濃度を、前記放射性物質の発生元の位置から前記所定位置への方位における風向きに応じた方位別の前記放射性物質による相対線量及び/又は放射性物質の相対濃度の配分比を示す方位別配分モデルを用いて補正する補正部35と、を備える。
【0046】
(9)第9の態様に係るプログラムは、コンピュータ900に、評価モデルに基づいて算出された所定位置における放射性物質による相対線量及び/又は放射性物質の相対濃度を取得するステップと、前記所定位置における前記放射性物質による相対線量及び/又は放射性物質の相対濃度を、前記放射性物質の発生元の位置から前記所定位置への方位における風向きに応じた方位別の前記放射性物質による相対線量及び/又は放射性物質の相対濃度の配分比を示す方位別配分モデルを用いて補正するステップと、を実行させる。
【符号の説明】
【0047】
10・・・環境評価装置
11・・・評価モデル
12・・・演算部
20・・・風向風速計
30・・・補正装置
31・・・評価データ取得部
32・・・風向データ取得部
33・・・風向出現頻度算出部
34・・・方位別配分モデル作成部
35・・・補正部
36・・・記憶部
37・・・出力部
100・・・被ばく評価システム
900・・・コンピュータ
901・・・CPU
902・・・主記憶装置
903・・・補助記憶装置
904・・・入出力インタフェース
905・・・通信インタフェース
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8