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特許7472071液体粘度測定装置および液体粘度測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】液体粘度測定装置および液体粘度測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 11/00 20060101AFI20240415BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20240415BHJP
   G01N 25/10 20060101ALI20240415BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240415BHJP
【FI】
G01N11/00 A
G01N37/00 101
G01N25/10
B41J2/01 451
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2021072425
(22)【出願日】2021-04-22
(65)【公開番号】P2022166963
(43)【公開日】2022-11-04
【審査請求日】2023-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】笠井 信太郎
(72)【発明者】
【氏名】櫻田 伸一
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 太
(72)【発明者】
【氏名】岡田 健
【審査官】鴨志田 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-017207(JP,A)
【文献】特開2018-008484(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0259090(US,A1)
【文献】特開昭61-054427(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 11/00
G01N 37/00
G01N 25/10
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体の粘度を測定する液体粘度測定装置であって、
基板と、
前記基板上に設けられ、前記液体が流れる流路と、
前記流路内の液体に気泡を発生させる発熱素子と、
前記発熱素子の近傍に設置され、温度を測定するためのセンサーと、
前記センサーを用いて得られる温度変化に基づいて前記気泡が発生してから消泡するまでの消泡時間を特定し、前記消泡時間に基づいて前記液体の粘度を導出する導出手段と、
を備えることを特徴とする液体粘度測定装置。
【請求項2】
前記導出手段は、前記気泡を発生させた時刻と、前記センサーが測定した温度が上昇した後の下降局面で生じる変曲点の時刻と、に基づいて前記消泡時間を特定することを特徴とする請求項1に記載の液体粘度測定装置。
【請求項3】
前記導出手段は、消泡時間と粘度とを対応付けたテーブルを参照して前記液体の粘度を導出することを特徴とする請求項1または2に記載の液体粘度測定装置。
【請求項4】
前記導出手段は、消泡時刻と粘度との関係性を示した関係式を用いて前記液体の粘度を算出することを特徴とする請求項1または2に記載の液体粘度測定装置。
【請求項5】
さらに、前記流路を挟んで前記発熱素子に対向する面に流路壁を備えることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の液体粘度測定装置。
【請求項6】
前記流路壁は、前記気泡の発生に伴う圧力波の及ぶ範囲まで延在していることを特徴とする請求項5に記載の液体粘度測定装置。
【請求項7】
前記センサーは、前記基板上に設置されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の液体粘度測定装置。
【請求項8】
前記発熱素子は、前記基板上において前記センサーよりも前記流路側に積層されていることを特徴とする請求項7に記載の液体粘度測定装置。
【請求項9】
前記センサーは、前記基板上において前記発熱素子よりも前記流路側に積層されていることを特徴とする請求項7に記載の液体粘度測定装置。
【請求項10】
前記センサーは、前記流路に沿って複数の前記発熱素子の間に並んで設置されていることを特徴とする請求項7に記載の液体粘度測定装置。
【請求項11】
前記複数の発熱素子は、同時に気泡を発生させるように構成されることを特徴とする請求項10に記載の液体粘度測定装置。
【請求項12】
前記発熱素子は、前記気泡が消泡する前のタイミングで前記気泡が発生しない範囲においてエネルギーを発生させることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか一項に記載の液体粘度測定装置。
【請求項13】
前記センサーは、前記流路壁に設置されていることを特徴とする請求項5に記載の液体粘度測定装置。
【請求項14】
前記流路壁には、前記センサーを加熱する第二の発熱素子が前記センサーに積層して設置されていることを特徴とする請求項13に記載の液体粘度測定装置。
【請求項15】
前記第二の発熱素子のサイズは、前記気泡を発生させる前記発熱素子のサイズよりも小さいことを特徴とする請求項14に記載の液体粘度測定装置。
【請求項16】
前記基板上には、前記発熱素子および前記センサーを備える流路が複数設けられていることを特徴とする請求項1乃至15のいずれか一項に記載の液体粘度測定装置。
【請求項17】
前記複数設けられている流路のうち、少なくとも一つの流路は、前記液体が流れないように構成され、
前記導出手段は、前記液体が流れない流路に設置された前記センサーと、前記液体が流れる流路に設置された前記センサーとを用いて前記粘度を導出することを特徴とする請求項16に記載の液体粘度測定装置。
【請求項18】
液体の粘度を測定する液体粘度測定方法であって、
基板上に設けられた流路内の液体に気泡を発生させる発熱素子に電気パルスを印加する工程と、
前記発熱素子の近傍に設置され温度を測定するためのセンサーを用いて得られる温度変化に基づいて前記気泡が発生してから消泡するまでの消泡時間を特定する工程と、
前記消泡時間に基づいて前記液体の粘度を導出する工程と、
を備えることを特徴とする液体粘度測定方法。
【請求項19】
前記印加する工程は、前記気泡を発生させた前記発熱素子に、前記気泡が消泡する前のタイミングで、前記気泡を発生させない範囲で再度電気パルスを印加する工程を含むことを特徴とする請求項18に記載の液体粘度測定方法。
【請求項20】
前記印加する工程は、前記センサーを挟んで設置されている複数の前記発熱素子に電気パルスを同時に印加する工程を含むことを特徴とする請求項18に記載の液体粘度測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、流路中の液体の粘度を測定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
液体が流れるマイクロ流路と呼ばれる微小流路が知られている。特許文献1には、ヒータによって液体に気泡を発生させ、その気泡の生成時と消滅時に発生する音響信号を検出し、液体の粘度を判断する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-201967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の方法では、音響信号を検出するための電気音響変換機を用いるため、装置が大型化する可能性がある。
【0005】
本開示は、大型化を抑制可能な液体粘度測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る液体粘度測定装置は、液体の粘度を測定する液体粘度測定装置であって、基板と、前記基板上に設けられ、前記液体が流れる流路と、前記流路内の液体に気泡を発生させる発熱素子と、前記発熱素子の近傍に設置され、温度を測定するためのセンサーと、前記センサーを用いて得られる温度変化に基づいて前記気泡が発生してから消泡するまでの消泡時間を特定し、前記消泡時間に基づいて前記液体の粘度を導出する導出手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、大型化を抑制可能な液体粘度測定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】液体粘度測定装置の構成を示す概略図である。
図2】測定部付近の拡大断面図である。
図3】液体粘度測定装置の駆動方法を説明する図である。
図4】液体に気泡を発生させてから気泡が消泡するまでの時間を計算したグラフである。
図5】粘度と消泡時間との関係を模式的に表したグラフである。
図6】液体粘度測定装置の駆動方法を説明する図である。
図7】測定部付近の拡大断面図である。
図8】液体粘度測定装置の駆動方法を説明する図である。
図9】測定部付近の拡大断面図である。
図10】液体粘度測定装置の駆動方法を説明する図である。
図11】液体粘度測定装置の構成を示す概略図である。
図12】液体粘度測定装置の構成を示す概略図である。
図13】液体粘度測定装置の駆動方法を説明する図である。
図14】測定部付近の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して本開示の好適な実施の形態を詳しく説明する。尚、以下の実施の形態は本開示事項を限定するものでなく、また本実施の形態で説明されている特徴の組み合わせすべてが本開示の解決手段に必須のものとは限らない。
【0010】
<<第一実施形態>>
<液体粘度測定装置の構成>
図1は、本実施形態における液体粘度測定装置1の構成を示す概略図である。本実施形態の液体粘度測定装置1は、基板2を備えている。基板2上には、流路形成部材30が集積されている。基板2上における流路形成部材30には、流路3と、液体の流入口5と、液体の流出口6とが形成されている。また、基板2上の流路3の一部には、測定部4が設けられている。
【0011】
本実施形態の液体粘度測定装置1は、各種の液体の粘度を測定することができる。一例として、液体粘度測定装置1は、インクジェット方式の液体吐出装置で使用する液体(例えばインク)の粘度を測定する際に用いられる。この種の液体吐出装置では、液体を装置内または吐出ヘッド内で循環させるものがある。この場合、循環時間に応じて液体の水分が蒸発して液体が増粘する場合がある。液体の粘度が所定値に達した場合、希釈剤(例えば水)などを添加することがある。液体粘度測定装置1は、このような液体の粘度を測定する際に用いられる。上記例の場合、液体粘度測定装置1は、循環経路内の任意の位置に設けられる。尚、この例は一例に過ぎず、本実施形態の液体粘度測定装置1は、液体の粘度を測定する装置全般に用いることができる。例えば、循環経路を設けていない装置に適用してもよい。また、液体吐出装置以外の各種の装置に組み込まれてもよいし、液体粘度測定装置1が単体で用いられてもよい。
【0012】
液体粘度測定装置1は、制御部40を備えている。制御部40は、例えばMPU、ROM、RAM、およびインタフェース(I/F)を備えている。MPUは、ROMに格納されたプログラムおよびデータに従って、RAMをワークエリアとして用いながら各種の処理を行う。各種の処理には、後述する、液体の粘度を導出(測定)する処理が含まれる。また、MPUは、I/Fを介して測定部4に各種の制御信号を出力したり、測定部4で測定したデータを取得したりする。尚、図1の例では、液体粘度測定装置1が制御部40を備えている例を説明したが、外部の装置の制御部からの制御に基づいて、液体の粘度を導出する処理が行われてもよい。例えば、液体粘度測定装置が組み込まれた液体吐出装置の制御部からの制御に基づいて液体の粘度を導出する処理が行われてもよい。
【0013】
図2は、測定部4付近の拡大断面図である。図2は、図1のII線の断面図である。基板2上には、測定部4であるヒータ10および温度センサー11が積層して形成されている。図2の例では、ヒータ10が温度センサー11よりも流路3側に形成されている。また、基板2上には、絶縁層9が積層されている。尚、図2では、模式的に、絶縁層9内部にヒータ10および温度センサー11が埋め込まれたようになっているが、実際には、一般的な半導体プロセスを使用して複数の絶縁膜が積層されて絶縁層9が形成されている。即ち、基板2上に絶縁層9の一部が積層されており、その積層方向(基板2から流路3に向かう方向)に、温度センサー11が形成され、さらに絶縁層9を介して積層方向にヒータ10が形成されている。また、基板2上には、ヒータ10および温度センサー11に通電するための配線等(不図示)が設けられている。基板2上の絶縁層9と流路形成部材30によって形成されている流路壁7との間に、流路3が形成されている。流路3内を液体8が流れている。
【0014】
流入口5と流出口6(図1参照)との間には差圧が印加されており、流路3中を液体8が流れるように構成されている。各部の寸法および値の一例を説明する。流路3の断面積は、例えば幅30マイクロメートル、高さ30マイクロメートルである。流入口5と流出口6との間の距離(流路3の長さ)は、例えば5ミリメートルである。流入口5と流出口6との間には、差圧3キロパスカル程度が印加される。ここで、液体8の粘度が1cP(センチポワズ)以上10cP以下程度である場合、流路3を流れる液体8の流速は、おおよそ2ミリメートル毎秒以上20ミリメートル以下となる。
【0015】
ヒータ10は、例えば一辺が20マイクロメートルの正方形で、窒化タンタルシリコン(TaSiN)または窒化タンタル(TaN)の薄膜を使用するエネルギー発生素子(発熱素子)である。温度センサー11は、例えば一辺が20マイクロメートルの正方形で、TaSiNまたはTaNの薄膜を利用する薄膜抵抗型温度センサーである。温度センサー11は、少ない面積で電気抵抗を大きくするために、スネーク形状などにしてもよい。温度センサー11は、ヒータ10の近傍に設置される。本実施形態では、温度センサー11は、ヒータ10の積層方向の下側に設置される。本実施形態の温度センサー11は、基板2の温度を測定する。本実施形態では、基板2内において温度センサー11の積層方向にヒータ10が設置されているため、温度センサー11で測定される温度は、ヒータ10の温度を測定していることに等しい。絶縁層9は、シリコン酸化膜(SiO2膜)またはシリコン窒化膜(SiN膜)などの薄膜を使用して形成される。流路壁7は、フォトレジストのような樹脂材料で形成されていてもよいし、シリコン基板のような無機材料で形成されていてもよい。尚、上記の寸法例などは、一例に過ぎず、これに限られるものではない。また、図2の例では、ヒータ10および温度センサー11の寸法は、同サイズである例を示しているが、これに限られない。ヒータ10のサイズの方が、温度センサー11のサイズよりも大きくてもよいし、小さくてもよい。また、図2の例では、基板2上に絶縁層9のみが形成されている図を示しているが、他の層が形成されていてもよい。
【0016】
なお、上述の通り、温度センサー11は薄膜抵抗型温度センサーである。温度センサー11の抵抗値を温度センサー11に接続された抵抗値測定部で測定し、これを温度情報に換算することによって、温度センサー11を用いた温度測定を行うことができる。抵抗値測定部は液体粘度測定装置1に設けられていればよく、基板2に設けられた温度センサー11とは別の位置に設けられていてもよい。
【0017】
<液体粘度測定装置の駆動方法の説明>
図3は、液体粘度測定装置1の駆動方法を説明する図である。図3(a)から(d)は、ヒータ10を用いて気泡20を発生させる様子を時系列で模した図である。図3(e)は、横軸が時間であり、縦軸が温度センサー11で検出される温度を示すグラフである。図3(e)において、(a)から(d)は、図3(a)から(d)の各状態における時刻と温度とを示している。
【0018】
液体粘度測定装置1は、ヒータ10に電気パルスを印加し、ヒータ10に接する液体8を加熱し、膜沸騰による気泡20を発生させる。ヒータに印可する電気パルスは、例えば10V以上30V以下の電圧で、パルス幅は0.1マイクロ秒以上2マイクロ秒以下程度である。電気パルスを印加したタイミングを発泡時刻T1とする。発生した気泡20は、図3(a)のように成長する。図3(a)のように成長した気泡20は、その後、図3(b)のように収縮に転じる。この時、温度センサー11で検出される温度は、図3(e)に示すように推移する。即ち、発泡時にヒータ10による発熱により最高到達温度に達した後、温度は下降する。さらに、図3(c)に示すように気泡20が収縮するにつれて、温度はさらに下降する。ここでの温度下降は、ヒータ10によって生じた熱が基板側へ拡散することにより生まれる。さらに気泡20は収縮し、その後、図3(d)のように気泡20は消滅する(消泡)。この時、ヒータ10は、液体8に接することにより、急激に温度が低下する。よって温度センサー11で測定される温度も、急激に低下する。この温度の急激な低下、即ち温度下降局面における変曲点が、図3(e)に示す消泡したタイミング(消泡時刻T2)である。
【0019】
発泡時刻T1および消泡時刻T2が特定できれば、消泡時刻T2-発泡時刻T1により、消泡時間が求まる。そして、液体粘度測定装置1は、予め求めておいた液体8の粘度と消泡時間との関係を示すテーブルまたは関係式を用い、液体8の粘度を導出する。
【0020】
図4は、シミュレーションによって求めたグラフである。図4では、粘度が異なる3種類の液体に気泡を発生させてから気泡が消泡するまでの時間を計算したグラフである。図4の縦軸は気泡の体積であり、横軸は時間である。体積がゼロになるタイミングが消泡となる。シミュレーションで求めた関係上、気泡の体積は完全にはゼロになっていないものの、体積減少の変曲点(図中に「消泡」と記した時刻)を、消泡とみなすことができる。図4に示しているように、高粘度ほど、消泡時間が長い(遅い)ことが分かる。尚、粘度と消泡時間との関係を求める方法は、シミュレーションに限らず、実際の装置などを用いた実験により求めてもよい。
【0021】
図5は、粘度と消泡時間との関係を模式的に表したグラフである。図5の横軸は消泡時間であり、縦軸は粘度である。即ち、消泡時間を特定することができれば、液体8の粘度を導出することが可能となる。
【0022】
表1は、粘度と消泡時間とを対応付けた関係を示す換算テーブルの一例である。
【0023】
【表1】
【0024】
式1は、粘度と消泡時間との関係性を示す関係式の一例である。
v=f(t) 式(1)
ここで、vは粘度であり、tは消泡時間を示す。
【0025】
このように、消泡時間を特定することによって、液体8の粘度を、例えば表1の換算テーブルを参照することによって取得したり、式(1)に従って算出したりすることで導出することが可能である。尚、ここでは、高粘度ほど消泡時間が長い例を説明したが、この例に限られない。例えば、使用する液体の種類、性質、または、流路もしくはヒータの形状もしくは寸法によっては、粘度と消泡時間との関係が逆転し、低粘度ほど消泡時間が長くなる場合もある。このような場合は、同種でかつ粘度が既知の液体で、あらかじめ粘度と消泡時間との関係を求めておけばよく、そのように求めた換算テーブルまたは関係式に従って、消泡時間から粘度を導出すればよい。尚、表1に示すような換算テーブルおよび式(1)の各種のパラメータは、制御部40のROMまたはRAMなどに格納されているものとする。
【0026】
尚、液体の粘度または流路もしくはヒータの形状もしくは寸法によっては、消泡が発泡から10マイクロ秒(μs)以上経過する場合もある。この場合、消泡時にはすでに温度センサー11が示す温度がかなり低下しており、消泡時の変曲点の検出が難しい場合がある。
【0027】
図6は、消泡時間が所定時間(例えば10μs)を超えるような場合における液体粘度測定装置1の駆動方法を説明する図である。図6(a)から(d)は、図3(a)から(d)と同様に、ヒータ10を用いて気泡20を発生させる様子を時系列で模した図である。図6(e)は、横軸が時間であり、縦軸が温度センサー11で検出される温度を示すグラフである。図6(e)において、(a)から(d)は、図6(a)から(d)の各状態における時刻と温度とを示している。
【0028】
図6の例においては、気泡20の消泡時間が所定時間を超えることが事前に分かっているものとする。この場合、図6(c)付近の気泡20が消泡する前の状態において、ヒータ10に再度電気パルスを印加する。これにより、温度センサー11が測定する温度を上昇させる。尚、温度を上昇させるためのヒータ10に印加される電気パルスは、液体8を発泡させない程度の電気パルスとする。気泡20が再成長してしまったり、新たな気泡20が発生してしまったりすると消泡時間に影響を及ぼしてしまうからである。図6(e)に示すように、(c)付近では、ヒータ10への再度の電気パルスの印加に伴い、温度センサー11が測定する温度が上昇している様子を示している。このように、再度温度を上昇させておくことにより、消泡時に現れる温度下降局面における変曲点を、より明確に検出することができる。つまり、本実施形態では、温度センサー11による測定は、変曲点を検出するために行われるものであるので、温度センサー11が測定する温度が、発泡から消泡前の時点において不規則に変化してもよい。
【0029】
尚、発泡から消泡時における液体(液面)の移動速度は、1メートル毎秒以上2メートル毎秒以下である。この移動速度は、前述の流入口5と流出口6との間に印加された差圧に伴う液体8の流れの速度(2ミリメートル毎秒以上20ミリメートル毎秒以下)に比べて、約50倍から1000倍近く大きい。このため、発泡から消泡時における液面移動速度の観点から見れば、差圧による流速は止まっているも同然である。つまり、差圧による液体の流れは、温度下降局面における変曲点に影響を及ぼさないものとして扱ってよい。
【0030】
また、本実施形態においては、液体8が流入口5と流出口6との間で差圧により移動している場合を例に挙げて説明したが、流路3内において液体8が移動していてもよいし、移動していなくてもよい。液体8の粘度を測定する場合に液体8の流れを静止させ、測定後には流れを開始させるように、液体8の流れを制御してもよい。好適には、本実施形態で説明したように、発泡から消泡時における液体の移動速度よりも十分遅い速度で、液体8の流れを発生させておくとよい。このように制御をすることで、流路3内に異物または泡等が混入しても、速やかに排出することができ、測定に与える影響を抑制できる。
【0031】
また、本実施形態で説明した例では、図2などに示しているように、ヒータ10が対向している面には流路壁7が設けられている。即ち、いわゆるインクジェットヘッドに備えられているような吐出口(液体が吐出され外へ出ていく孔)は形成されていない。吐出口が形成されていない方が、粘度差に応じて生じる消泡時間の差が明確に生じやすいからである。尚、ヒータ10が対向している面に吐出口が形成されていても、粘度差に応じて生じる消泡時間の差は、吐出口が形成されていない場合に比べて明確には生じないものの、ある程度の差は生じる。このため、ヒータ10が対向している面に吐出口が形成されていてもよいが、吐出口が形成されていない方が好ましい。また、同様の理由により、流路壁7は、ヒータ10によって発生する気泡20に伴う圧力波の及ぶ範囲まで延在していることが好ましい。即ち、インク流路から吐出口にかけての形状が直線的である所謂エッジシューター方式およびインク流路の向きと吐出口の向きが異なる所謂サイドシューター方式の吐出口は、いずれも形成されていない方が好ましい。
【0032】
また、本実施形態では、流路3の断面の一例として、幅30マイクロメートル、高さ30マイクロメートルであるものとして説明したが、当然これ以外の寸法でもよい。例えば、流路3の高さが所定値(例えば30マイクロメートル)より低い方が、粘度差に伴う消泡時間に差が出やすくなる。このため、温度下降局面における変曲点を検出する感度を高めることができる。しかしながら、流路3の高さが上記所定値よりも高い場合でも、温度下降局面における変曲点を検出することは可能である。
【0033】
また、本実施形態では、インクジェット方式の液体吐出装置で使用する液体(例えばインク)の粘度を測定する際に用いる例を説明したが、この例に限られない。本実施形態で説明したようなマイクロ流路技術は、インクジェットプリンタ、バイオ研究、または化学工学など、様々な方面で利用することができる。このようなマイクロ流路を流れる液体の粘度を測定して、液体の粘度を適切に制御することで、応用面でのパフォーマンスを維持することができる。
【0034】
以上説明したように、本実施形態における液体粘度測定装置1では、基板2上に設けられたエネルギー発生素子であるヒータ10にエネルギーを投入することで、基板2上に形成されている流路3内の液体8に気泡20を発生させる。そして、基板上に設けられている温度センサー11を用いて温度変化を測定することで、気泡20の消泡時間を特定する。このように特定した消泡時間に基づいて液体8の粘度を導出(測定)する。このように、本実施形態の液体粘度測定装置1は、粘度を測定するためのセンサーが流路に集積されているので、装置の小型化を実現することができる。即ち、大型化を抑制可能な液体粘度測定装置を提供することができる。また、粘度を測定する際に、液体に電流を流さないので、液体の特性を変化させずに、流路内の液体の粘度測定を行うことができる。
【0035】
<<第二実施形態>>
第一実施形態では、基板2上に、温度センサー11とヒータ10とを積層方向に積層するように設ける例を説明した。本実施形態では、温度センサー11とヒータ10とを積層方向に設けない例を説明する。
【0036】
図7は、本実施形態における測定部4付近の拡大断面図である。本実施形態の測定部4では、ヒータ10が、第一ヒータ10aと第二ヒータ10bとを含む。そして、温度センサー11は、流路3の延在方向に沿って第一ヒータ10aと第二ヒータ10bとの間に設置されている。尚、第一ヒータ10aと第二ヒータ10bとの間の隙間は、5マイクロメートル程度と極力接近させる。
【0037】
図8は、液体粘度測定装置1の駆動方法を説明する図である。図8(a)から(d)は、ヒータ10を用いて気泡20を発生させる様子を時系列で模した図である。第一ヒータ10aと第二ヒータ10bとの両方に電気パルスを印加し、両方のヒータから同時に気泡を発生させる。すると、図8(a)に示すように、それぞれのヒータにより発生した気泡20a、20bは、ほぼ合体する。尚、合体した気泡の中央部に、残存した液体8の薄皮が残る場合もある。そして図8(b)~(d)に示すように、徐々に気泡は小さくなり、最後は消泡する。
【0038】
本実施形態によれば、二つのヒータを用いて気泡を発生させることにより、発生する気泡のサイズを大きくすることができる。このため、粘度差によって生じる消泡時間差を大きくすることができる。本実施形態では、第一実施形態のように温度センサー11とヒータ10(第一ヒータ10aおよび第二ヒータ10b)とを積層しない。このため、ヒータ10で気泡を発生させる際における電気パルスの温度センサー11への影響を緩和することができる。また本実施形態では、温度センサー11を液体8により近い位置(絶縁層9を介して液体8に接触する位置)に設置できるため、消泡時に生じる温度下降局面の変曲点を、より明確に検出することができる。
【0039】
尚、第一実施形態で説明した各変形例は、本実施形態でも同様に適用可能である。例えば、消泡時間が所定時間(例えば10μs)を超えるような場合には、第一ヒータ10aおよび第二ヒータ10bに再度電気パルスを印加させて温度を上昇させてもよい。
【0040】
<<第三実施形態>>
これまでの実施形態では、温度センサー11を基板2上に設置する例を説明した。本実施形態では、温度センサー11を流路壁7に設置する例を説明する。
【0041】
図9は、本実施形態における測定部4付近の拡大断面図である。本実施形態の測定部4では、温度センサー11が、ヒータ10が設置されている位置と対向する流路壁7内の位置に設置されている。また、温度センサー11の積層方向に(即ち、流路3とは反対側に)、小ヒータ12が設置されている。小ヒータ12は、温度センサー11を加熱するために用いられる。
【0042】
図10は、液体粘度測定装置1の駆動方法を説明する図である。図10(a)から(d)は、ヒータ10を用いて気泡20を発生させる様子を時系列で模した図である。図10(a)に示すように、ヒータ10に電気パルスを印加して気泡20を発生させる。そして図10(b)~(d)に示すように、徐々に気泡は小さくなり、最後は消泡する。本実施形態では、温度センサー11に積層された小ヒータ12を、図10(a)または(b)のタイミングで加熱する。第一実施形態および第二実施形態では、ヒータ10によって基板2が加熱されており、その基板2の温度を温度センサー11で測定することで消泡タイミングを特定する例を説明した。一方、本実施形態では、温度センサー11は、基板2に設置されていない。このため、温度センサー11において、温度下降局面における変曲点を明確に検出するため、発泡に連動して温度センサー11の温度を高くするように消泡前のタイミングにおいて小ヒータ12で加熱を行う。
【0043】
尚、小ヒータ12の加熱は、発泡のためのヒータ10とは完全に独立して行われるため、長時間(例えば2マイクロ秒以上5マイクロ秒以下)緩やかに加熱したり、短時間(例えば0.5マイクロ秒)の加熱を繰り返し行ったりしてもよい。また小ヒータ12は、気泡を発生させるために加熱するのではなく、温度センサー11の温度を高めるために加熱するものである。このため、必要な電流密度は、ヒータ10に印加するものより低くてよいため、電気的ノイズも低減できる。即ち、高いSN比が得られるので、本実施形態によれば、より明確に消泡時間を求めることができる。
【0044】
尚、本実施形態では、図10(c)のように、温度センサー11が液体8に流路壁7を介して接した時点で、温度下降局面の変曲点が生じる。このため、本実施形態の構成では、温度センサー11によって測定される消泡時刻は、若干早い時点を指し示すこととなるが、粘度の違いに起因した消泡時間差を測定する上では誤差として扱える範囲である。
【0045】
また、小ヒータ12は、温度センサー11を効率的に加熱するために、流路壁7において温度センサー11に積層する位置に設置される例を説明したが、温度センサー11を加熱できる位置に設置されていればよい。
【0046】
<<第四実施形態>>
第一実施形態では、液体粘度測定装置1には、測定部4を有する一つの流路が設けられている例を説明した。本実施形態では、測定部を有する複数の流路が設けられている例を説明する。
【0047】
図11は、本実施形態における液体粘度測定装置1の構成を示す概略図である。本実施形態の液体粘度測定装置1では、基板2に複数の流路3と複数の測定部4とが集積されている。即ち、基板2には、測定部4を有する流路3が複数設けられている。尚、流入口5と流出口6とは、それぞれ1つずつ設けられている。
【0048】
ヒータ10によって液体8を繰り返し加熱することで、ヒータ10上に液体8に含まれる成分の熱変成物が堆積したり(いわゆるコゲ)、気泡の消泡に伴うキャビテーションによってヒータ10が物理的に損傷したりする場合がある。この場合、図11のように基板2上に複数の流路3と測定部4とが備えらえていれば、代替の測定部を用いて液体8の粘度を測定することができる。例えば第一の測定部によって適切な測定ができない場合、第二の測定部を使用し、第二の測定部によって適切な測定ができない場合、第三の測定部を使用する、というような測定を行うことが可能である。これにより、長時間の粘度測定を継続して行うことができる。また、複数の測定部を用いて測定を行うことで、測定の信頼性を高めることもできる。
【0049】
図12および図13は、本実施形態の変形例を示す図である。図12は、変形例における液体粘度測定装置1の構成を示す概略図である。図12に示すように、測定部の一つを液体8が流れる流路3と連通させない空間31を設け、この空間31の下に孤立した参照部41を設ける。参照部41上の空間31には液体8が流れてこないので、ヒータ10で発生した熱は常に基板2側へ放熱するため、温度下降局面の変曲点が生じない。尚、参照部41に通じる流路を所定の弁などによって塞ぐことで参照部41に液体を流さないように構成してもよい。
【0050】
図13は、図12に示す変形例の液体粘度測定装置1の駆動方法を説明する図である。図13(a)から(d)は、測定部4におけるヒータ10を用いて気泡20を発生させる様子を時系列で模した図である。図13(e)から(h)は、図13(a)から(d)のそれぞれに対応するタイミングにおいて参照部41におけるヒータ10を用いて発熱させる様子を時系列で模した図である。図13(i)は、横軸が時間であり、縦軸が温度センサー11で検出される温度を示すグラフである。図13(i)に示すように、測定部4で検出した温度では、温度下降局面の変曲点が生じているのに対して、参照部41で検出した温度では、温度下降局面の変曲点が生じていない。従って、図13(i)のように、測定部4と参照部41との温度プロファイルを比較することで、測定部4での温度下降局面の変曲点がより明確になる。このため、消泡時間を高精度に求められ、液体8の粘度を高精度に求めることが可能になる。
【0051】
尚、本実施形態においては、複数の測定部4のうち全ての測定部を同じ構成としてもよいし、一部の測定部を他の測定部と異なる構成としてもよい。例えば、本実施形態の測定部4が、第一実施形態から第三実施形態のいずれかで説明した測定部の一つと全て同じ構成としてもよいし、一部は、他の実施形態の測定部と同じ構成としてもよい。
【0052】
また、一つの流路3に一つの測定部4が設けられる例を説明したが、一つの流路3に測定部4を複数設けていてもよい。即ち、並列に測定部4を設けるのではなく、直列に測定部4を設けてもよい。直列に測定部4を設ける場合においても、流路3が複数設けられていてもよいし、一つの流路を設ける形態でもよい。直列に測定部4を設ける場合、一つの流路3内の測定部4は、発泡の影響が他の測定部に及ばない程度に離れて設けられていることが好ましい。例えば、気泡20の半径の3倍以上の距離が離れていることが好ましい。また、発泡タイミングが互いにずれていることが好ましい。例えば、第一の測定部で発泡させた後、消泡するまでは第二の測定部で発泡させないことが好ましい。直列に測定部4を設置する場合、並列に測定部4を設置する場合に比べて装置を小型化することが可能である。また一方で、並列に測定部4を設置した場合には、上流側での残留気泡が発生しないため、残留気泡の影響を抑制した状態で液体の粘度を測定することができる。
【0053】
<<第五実施形態>>
第一実施形態では、基板2上に温度センサー11とヒータ10とが積層されており、流路3側にヒータ10が設置されている例を説明した。本実施形態では、基板2上に温度センサー11とヒータ10とが積層されており、流路3側に温度センサー11が設置されている例を説明する。
【0054】
図14は、本実施形態における測定部4付近の拡大断面図である。本実施形態の測定部4では、基板2上には、ヒータ10および温度センサー11が積層して形成されている。図14の例では、温度センサー11がヒータ10よりも流路3側に形成されている。即ち、図14では、第一実施形態と異なり、測定部4において、ヒータ10の上(流路側)に、温度センサー11が設置されている。ヒータ10の上に温度センサー11が設置されていることにより、液体8への熱伝達効率が低下する。このため、本実施形態では、第一実施形態よりも多くのエネルギーをヒータ10に投入する必要がある。また本実施形態では、温度センサー11が消泡時のキャビテーションの影響を受けるため、温度センサー11の耐久性が劣る。一方で、本実施形態では、温度センサー11が、絶縁層9を介して液体8と接する。このため、消泡時の温度変化が第一実施形態よりも大きくなるので、温度下降局面の変曲点がより明確に検出される。このため、耐久性または省エネ性が要求されず、かつ高い感度が要求される場面においては、本実施形態の構成は優位性を発揮する。
【符号の説明】
【0055】
2 基板
3 流路
4 測定部
8 液体
10 ヒータ
11 温度センサー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14