(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】船舶のメンテナンス管理方法
(51)【国際特許分類】
G06Q 10/20 20230101AFI20240415BHJP
B63B 25/16 20060101ALI20240415BHJP
B63B 79/40 20200101ALI20240415BHJP
【FI】
G06Q10/20
B63B25/16 103
B63B79/40
(21)【出願番号】P 2021526498
(86)(22)【出願日】2019-11-12
(86)【国際出願番号】 FR2019052680
(87)【国際公開番号】W WO2020099772
(87)【国際公開日】2020-05-22
【審査請求日】2022-10-14
(32)【優先日】2018-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】515220317
【氏名又は名称】ギャズトランスポルト エ テクニギャズ
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【氏名又は名称】福田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】デュポン ニコラ
(72)【発明者】
【氏名】ウーヴラール フローラン
【審査官】山崎 誠也
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-326598(JP,A)
【文献】特表2012-526698(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0097088(US,A1)
【文献】国際公開第2012/144641(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/217765(WO,A1)
【文献】特開平10-007190(JP,A)
【文献】平澤 宏章,超大型原油タンカーの構造と検査,非破壊検査 12月号,第55巻,阿部 節矢 社団法人日本非破壊検査協会,2006年12月01日,p.600-625
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
B63B 25/16
B63B 79/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液化ガスを輸送するための少なくとも1つの密閉断熱タンクを備えた船舶のメンテナンスを管理するためのシステム(100,200)であって、
-前記少なくとも1つの密閉断熱タンクの現在の液面レベルを測定するための少なくとも1つのタンク液面レベルセンサ(121,230)と、
-前記船舶の現在の運動状態を特定できる、前記船舶の運動を評価するための装置(122,123,130,230)と、
-処理手段(110,210)と、
を備えており、
前記処理手段は、
-前記密閉断熱タンクの現在の液面レベルと前記船舶の現在の運動状態とから、前記密閉断熱タンクの位置及び幾何学的形態を考慮して、現在のスロッシング指数(IBi)を特定し(330)、
-特定した前記現在のスロッシング指数(IBi)を、前記スロッシング指数の履歴を考慮する摩耗指数(IUi)に統合し(340)、
-前記摩耗指数と第1の閾値との比較を行う(430,450)
ように構成されており、
前記システムは、前記比較の結果に依存して、前記少なくとも1つの密閉断熱タンクの点検を行う(440,460)ベきか否かを示す警告装置(41)をさらに備えている
ことを特徴とするシステム。
【請求項2】
前記船舶の運動を評価するための装置(123)は、前記船舶の周囲の波の高さ、周波数及び方向を測定する気象観測ステーションを備えている、
請求項
1記載のシステム。
【請求項3】
前記処理手段の一部は、陸上の監視ステーション(200)に配置されていると共に、前記少なくとも1つの密閉断熱タンクの現在の液面レベルと前記船舶の現在の運動状態とに関する情報を受け取るために、前記船舶と無線で通信する、
請求項
1又は
2記載のシステム。
【請求項4】
複数の密閉断熱タンクを備えた、液化ガスを輸送するための船舶であって、
前記各密閉断熱タンクごとに請求項
1から
3までのいずれか1項記載の管理するためのシステム(100)を備えていることを特徴とする船舶。
【請求項5】
請求項1から3までのいずれか1項記載のシステムにより実施される、液化ガスを輸送するための少なくとも1つの密閉断熱タンクを備えた船舶(1)のメンテナンスを管理するための方法であって、
前記密閉断熱タンクは幾何学的形態と前記船舶上における位置とを有し、
前記方法は、
-前記密閉断熱タンクの現在の液面レベルを特定するステップ(310)と、
-前記船舶の現在の運動状態を特定するステップ(320)と、
-前記密閉断熱タンクの現在の液面レベルと前記船舶の現在の運動状態とから、前記密閉断熱タンクの位置及び幾何学的形態を考慮して、現在のスロッシング指数IBiを特定するステップ(330)と、
-特定した前記現在のスロッシング指数IBiを、前記スロッシング指数の履歴を考慮する摩耗指数
(IUi
)に統合するステップ(340)と、
-前記摩耗指数と第1の閾値との比較の結果に依存して、前記密閉断熱タンク(440,460)を点検する必要があるか否かを示すために、前記比較を行うステップ(430,450)と、
を有することを特徴とする方法。
【請求項6】
前記船舶は前記密閉断熱タンク(3,4,5,6)を複数備えており、
前記各密閉断熱タンクごとに摩耗指数(IUi)を特定し、
前記第1の閾値は、最も高い摩耗指数(Max(IUi))を有する密閉断熱タンクの点検を行わなければならないことを示す(460)ために、他の前記密閉断熱タンクの摩耗指数(IUi)に対応する、
請求項
5記載の方法。
【請求項7】
前記点検を行わなければならないことが示された前記密閉断熱タンクの点検を行う、
請求項
5又は
6記載の方法。
【請求項8】
前記最も高い摩耗指数(Max(IUi))に対応する密閉断熱タンクの点検後、点検された当該密閉断熱タンクが損傷している場合、他の残りの前記密閉断熱タンクのうち最も高い摩耗指数を有する密閉断熱タンクであるとして点検しなければならない次の前記密閉断熱タンクを決定する(480)、
請求項
6を引用する請求項
7記載の方法。
【請求項9】
密閉断熱タンクの点検後、当該密閉断熱タンクが損傷していない場合、前記密閉断熱タンクの点検を中止する、
請求項
6を引用する請求項
7記載の方法。
【請求項10】
前記摩耗指数(IUi)と閾値との比較(450)は、前記船舶におけるメンテナンス作業中に行われる、
請求項
5から
9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記船舶の現在の運動状態を特定するステップは、
-波の高さ、
-波の周期、
-前記船舶の向きに対する波の迎え角、
-前記船舶の速度、
-前記船舶の振動、
-前記船舶の測定運動
のうち少なくとも1つのパラメータを特定することを含む、
請求項
5から
10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
前記現在のスロッシング指数(IBi)を特定するステップは、追加の構造状態パラメータのうち少なくとも1つを考慮し、
前記追加の構造状態パラメータは、
-前記密閉断熱タンクがさらされた熱サイクル数、
-前記船舶の伸び、
-船体の剛性レベル、
-前記液化ガスの性質、
-前記
船舶の複数のバラストタンクの液面レベル
である、
請求項
5から
11までのいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
前記現在のスロッシング指数(IBi)を特定するステップは、
前記密閉断熱タンクが前記船舶の現在の運動状態にさらされているときの当該密閉断熱タンクの劣化の確率を特定するステップである、
請求項
5から
12までのいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
前記現在のスロッシング指数(IBi)は、エントリが前記密閉断熱タンクの充填に対応するマルチエントリ対応テーブル中の値を読み取ることによって得られ、
少なくとも1つの前記エントリは、前記船舶の現在の運動状態に対応し、
読み取られる前記値は、前記密閉断熱タンクの劣化の確率を表す、
請求項
5から
13までのいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
前記現在のスロッシング指数(IBi)を統合するステップは、複数の連続する測定期間中に順次計算された複数の現在のスロッシング指数の積算に相当する、
請求項
5から
14までのいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1つ又は複数のタンクを備えた船舶のメンテナンス管理方法に関する。より具体的には、本発明は液化ガスを輸送するための密閉断熱タンクの点検及びメンテナンスに関するものである。本願書類において「船舶」との用語は、地球の2点間で液化ガスを輸送する手段、又は、1つ若しくは複数の液化ガスを処理及び/若しくは貯蔵するための浮体ユニットをいう。
【背景技術】
【0002】
密閉断熱タンクは一般に、例えば-50℃~0℃等の温度で液化石油ガス(LPG)を輸送するためのタンク、又は大気圧で約-162℃で液化天然ガス(LNG)を輸送するためのタンク等、液化ガスを低温で貯蔵及び/又は輸送するために用いられる。かかるタンクは、液化ガスを輸送するため、及び/又は、浮体構造を推進するための燃料として用いられる液化ガスを受け取るためのものとすることができる。よって、数多くの液化ガスを想定することができ、特にメタン、エタン、プロパン、ブタン又はエチレンが想定される。
【0003】
船舶タンクは、大気圧での輸送を行える一重密閉メンブレンタンク又は二重密閉メンブレンタンクとすることができる。その密閉メンブレンは、一般的に薄板のステンレス鋼又はインバーから成る。メンブレンは一般に、液化ガスと直接接触する。
【0004】
タンクに入れられた液体は、輸送中は種々の動きを受ける。特に、例えば海又は風の状態等の気候条件の作用に起因する洋上の船舶の運動は、タンク内の液体の攪拌を引き起こす。この液体の攪拌は一般に「スロッシング」(又はフランス語で「ballottement」)と称され、タンクの壁に応力を生じさせ、この応力はタンクの完全性を損ない得る。
【0005】
かかるスロッシング現象が生じるのは、液化ガス(以下ではLNGとする)を輸送する船舶又はメタンタンカーや、「FPSO」(Floating Production Storage & Offloading)設備との呼称で知られている係留中の貯蔵船、例えば、通常はFLNG(Floating Liquefied Natural Gas)設備又は浮体式貯蔵再ガス化設備(FSRU)と称される抽出プラットフォーム及び天然ガス液化プラント等、つまり一般化していうと、浮体式生産貯蔵輸出サポートである。スロッシング現象は、液化ガスカーゴがうねりに起因する船の励振と共振すると直ちに、それが低振幅であっても、海が荒れた条件でも、実際に海が静かな条件でも同じように生じる。このような共振状況では、スロッシングは極めて激しくなり、特に鉛直壁又はコーナ部では破壊的となることがあり、これにより液化ガスを閉じ込めるシステムや当該閉じ込めシステムの真後ろにある断熱システムに損傷を与えるおそれがある。
【0006】
ここで、例えばLNGタンク等の液化ガスタンクでは、タンクの完全性が特に重要となる。その理由は、輸送対象の液体が可燃性又は爆発性の性質を有し、また、漏洩時には浮体ユニットの鋼製の船体にコールドスポットが生じるおそれがあるからである。
【0007】
米国特許第8643509号明細書には、液化ガスカーゴのスロッシングに繋がるリスクを低減する方法が開示されている。同文献では、タンク内の液体の共振周波数が、タンクとその液面レベルとに依存して推定される。輸送中、船舶の運動の周波数が、気候条件と海洋条件と船舶の速度とに依存して評価される。予測運動周波数の評価は、船舶が辿る経路にも応じて行われる。運動周波数のうちいずれか1つがタンク内の液体の共振周波数に過度に近くなった場合、危険な状況を回避するために経路を変更するため、及び/又は船舶の速度を変化させるため、警報が発せられる。
【0008】
上記のようにスロッシング低減措置を設けているにもかかわらず、特に共振現象に起因して生じるタンク内の液体のスロッシングは、一次密閉メンブレンを変形させる局所的なリスク、一次密閉メンブレンが設置された一次及び/又は二次スペース内にある下部構造に損傷を与え、短期的又は中期的に一次密閉メンブレンを損傷させやすい、特に定置設備からの物の落下、又はより一般的に、構造的許容誤差を超える密閉メンブレンの変形を生じさせる可能性がある。タンクの良好な状態を確認するため、船舶の予防的メンテナンスにおいてタンク点検が設けられている。しかし、タンク点検を行うためにはタンクの完全な排液を行う必要があり、これによりある程度の期間にわたって船舶を止めることとなったり、又は、浮体ユニットの貯蔵タンクが使用不能となったりする。1つ又は複数のタンクを備えた船舶では、伝統的にはタンクの大半又は全部について点検が行われ、これにより稼働性が失われて非常に高コストとなる。その際には、点検を行った結果、修理を要する不具合や故障が見つからないことが多く、その点検が不要であり、船舶を無駄に止めてしまった、ということにもなる。実際、例えば点検等を理由にタンクを止めるコストは船舶の費用対効果に影響を与えてしまい、換言するとタンク点検によって、無駄な停止となるリスクが無視できない程度に生じる。
【発明の概要】
【0009】
本発明の基礎となる思想は、船舶のタンクの稼働寿命中に当該タンクに何が起こるかに依存してタンクに損傷が生じるリスクの潜在的なレベルを特定することであり、このタンクに損傷が生じる潜在的なリスクのレベルは、タンクの実際の経年劣化を表す「摩耗指数」等である。このリスクの潜在的なレベルを特定するためには、船舶が2点間を航行中又は定置状態にある間に、船舶の運動に依存して液体スロッシング指数を特定する。この液体スロッシング指数は、一定の時間にわたって記憶されて統合され、これによりタンクの摩耗指数が求められる。その後、摩耗指数はタンク点検をトリガするために用いられ、及び/又は、船舶の全てのタンクのうち最も損傷を受けている可能性のあるタンクを特定する。
【0010】
本発明は第1の実施形態では、液化ガスを輸送するための少なくとも1つの密閉断熱タンクを備えた船舶のメンテナンスを管理するための方法を提供し、前記タンクは幾何学的形態と前記船舶上における位置とを有する。
前記方法は、
-前記密閉断熱タンクの現在の液面レベルを特定するステップと、
-前記船舶の現在の運動状態を特定するステップと、
-前記密閉断熱タンクの現在の液面レベルと前記船舶の現在の運動状態とから、前記密閉断熱タンクの位置及び幾何学的形態を考慮して、現在のスロッシング指数を特定するステップと、
-特定した前記現在のスロッシング指数を、前記スロッシング指数の履歴を考慮する摩耗指数に統合するステップと、
-前記摩耗指数と第1の閾値との比較の結果に依存して、前記密閉断熱タンクを点検する必要があるか否かを示すために、前記比較を行うステップと、
を有する。
【0011】
第1の閾値を用いることにより、タンクの摩耗の可能性を表す客観的な基準に基づいてタンク点検を実施すべきか否かを決定することができる。第1の閾値は種々の態様で設定することができる。一実施形態では第1の閾値は、超過した場合にタンクを点検しなければならない摩耗レベルを示す絶対値で設定することができる。他の一実施形態では、第1の閾値は、他のタンクより大きな摩耗を受けている可能性があるタンクを示す相対値である。
【0012】
スロッシング指数の履歴は例えば、船舶の稼働又はタンクの一部若しくは全部の最後の修理以降の液体の複数の現在のスロッシング指数の記録に関するものである。よって、液体の現在のスロッシング指数が摩耗指数を増分していき、どの時点でも利用可能であり、それ自体は以前に測定/記録された現在のスロッシング指数から導出される。
【0013】
好適な一実施形態では、前記船舶は前記タンクを複数備えており、前記各タンクごとに摩耗指数を特定し、前記第1の閾値は、最も高い摩耗指数を有するタンクの点検を行わなければならないことを示すために、他の前記タンクの摩耗指数に対応する。
【0014】
複数の実施形態では、上記のような方法は以下の特徴のうち1つ又は複数を備えることができる。
【0015】
1つのタンクが第1の閾値を超えたタンクであると示された場合、当該示されたタンクの点検を行うことができる。
【0016】
前記最も高い摩耗指数に対応するタンクの点検後、点検された当該タンクが損傷している場合、他の残りの前記タンクのうち最も高い摩耗指数を有するタンクであるとして点検しなければならない次の前記タンクを決定する。以下同様に、タンク点検の結果として一部又は全部の修理を要する不具合が見つからなくなるまで、摩耗指数の降順にタンクの点検を実施していく。
【0017】
かかる方法により、タンクの点検でタンクに損傷が見つからない場合には、タンクの点検を中止することができる。
【0018】
前記摩耗指数と閾値との比較は、前記船舶におけるメンテナンス作業中に行われる。
【0019】
一変形態様では、前記船舶の現在の運動状態を特定するステップは、波の高さ、波の周期、前記船舶の向きに対する波の迎え角、前記船舶の速度、前記船舶の振動、前記船舶の測定運動のうち少なくとも1つのパラメータを特定することを含む。
【0020】
船舶の測定運動とは、船舶の1つ又は複数の実際の運動の測定結果と解すべきものである。上記変形態様では、船舶の測定運動を特定することは、互いに垂直な3つの軸まわりの回転運動及び直線運動の加速度の測定を含むことができる。
【0021】
他の一変形態様では、前記現在のスロッシング指数を特定するステップは、追加の構造状態パラメータのうち少なくとも1つを考慮し、前記追加の構造状態パラメータは、前記密閉断熱タンクがさらされた熱サイクル数、前記船舶の伸び、船体の剛性レベル、前記液化ガスの性質、前記バラストタンクの液面レベルである。
【0022】
前記現在のスロッシング指数(IBi)を特定するステップは好適には、前記タンクが前記船舶の現在の運動状態にさらされているときの当該密閉断熱タンクの劣化の確率を特定するステップである。
【0023】
特定の一実施形態では、前記現在のスロッシング指数は、エントリが前記タンクの充填に対応するマルチエントリ対応テーブル中の値を読み取ることによって得ることができ、少なくとも1つの前記エントリは、前記船舶の現在の運動状態に対応し、読み取られる前記値は、前記タンクの劣化の確率を表す。
【0024】
他の一実施形態では、前記現在のスロッシング指数を統合するステップは、複数の連続する測定期間中に順次計算された複数の現在のスロッシング指数の積算に相当する。
【0025】
本発明は第2の実施形態において、液化ガスを輸送するための少なくとも1つの密閉断熱タンクを備えた船舶のメンテナンスを管理するためのシステムも提供する。本システムは、少なくとも1つの液面レベルセンサと、前記船舶の運動を評価するための装置と、処理手段と、警告装置と、を備えている。前記少なくとも1つの液面レベルセンサは、前記少なくとも1つのタンクの現在の液面レベルを測定するための構成となっている。船舶の運動を評価するための装置は、船舶の現在の運動状態を特定するように構成されている。前記処理手段は、前記タンクの現在の液面レベルと前記船舶の現在の運動状態とから、前記タンクの位置及び幾何学的形態を考慮して、現在のスロッシング指数を特定し、特定した前記現在のスロッシング指数を、前記スロッシング指数の履歴を考慮する摩耗指数に統合し、前記摩耗指数と第1の閾値との比較を行うように構成されている。警告装置は、前記比較の結果に依存して、前記少なくとも1つのタンク又は各タンクの点検を行うベきか否かを示す。
【0026】
一実施形態では、前記船舶の前記運動を評価するための装置は、前記船舶の周囲の波の高さ、周波数及び方向を測定する気象観測ステーションを備えている。
【0027】
他の一実施形態では、船舶の運動を評価するための装置は、船舶に配置された加速度計を備えている。
【0028】
好適な一例では、前記処理手段の一部は、陸上の監視ステーションに配置されていると共に、前記少なくとも1つの密閉断熱タンクの現在の液面レベルと前記船舶の現在の運動状態とに関する情報を受け取るために、前記船舶と例えば無線又は他の通信手段で通信する。
【0029】
他の一例では、液化ガス輸送船は複数の密閉断熱タンクを備えると共に、各密閉断熱タンクごとに管理システムを備えている。
【0030】
添付の図面を参照して以下の本発明の特定の実施形態の説明を読み進めていくと、本発明を良好に理解することができ、また本発明の他の目的、詳細、特徴及び利点がより分かりやすくなる。以下の実施形態はあくまで例示であり、限定列挙ではない。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図2】
図1の船舶に組み込まれる管理システムを示す図である。
【
図3】他の一実施形態の管理システムを示す図である。
【
図4】摩耗指数を更新するための方法を示すフローチャートである。
【
図5】船舶のタンクのメンテナンスを管理するための方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、支持構造を構成する二重船体であって内部に複数の密閉断熱タンクを配置した二重船体を備えた船舶を参照して、実施形態を説明する。この種の支持構造では、タンクは例えば、角柱形状等の多面体形状を有する。
【0033】
この種の密閉断熱タンクは、例えば液化ガスの輸送用に設けられている。液化ガスは上述のようなタンク内に低温で貯蔵されて輸送されるので、液化ガスをこのような低温に維持するためには断熱タンクが必要となる。よって、タンクの密閉を確保してタンクからの液化ガスの漏れを防ぐと共に、ガスを液化状態に維持するためにタンクの断熱特性が劣化するのを防ぐため、密閉メンブレンの下方に配置された断熱スペースを含めてタンク壁の完全性を損なわないように維持することが、特に重要である。
【0034】
上述のような密閉断熱タンクは、船舶の二重船体に固定される断熱バリアも備えており、この断熱バリアは少なくとも1つの密閉メンブレンを支持する。例えば、上述のようなタンクは、本願出願人の Mark III(登録商標)やNO96(登録商標)の商標で市場に流通している技術等を用いて製造することができる。
【0035】
図1は、4つの密閉断熱タンク2を備えた船舶1を示す。これら4つのタンク2は、等しい又は異なる液面レベルを有することができる。洋上にあるときには、船舶1は航行条件に関連する多数の運動にさらされる。船舶1のかかる運動は、タンク3,4,5,6に入っている液体に伝わり、その結果、当該液体はタンク3,4,5,6内で運動することとなる。タンク3,4,5,6内の液体のかかる運動は、当該タンク3,4,5,6の壁に対して衝撃を生じ、この衝撃が過度に激しい場合にはタンクに直ちに損傷を起こし得る。その上、高いが破壊的ではないレベルでタンク3,4,5,6の壁に繰り返し水撃が生じると、疲労摩耗により壁が劣化することに繋がり得る。ここで、タンク3,4,5,6の密閉断熱特性を確保するためには、タンク3,4,5,6の壁の完全性を確保することが重要となる。
【0036】
タンクに直接損傷を与えるおそれのある液体運動を回避するため、クリティカルな航行条件を回避することが知られている。水撃を受けた材料の摩耗に繋がる損傷に関して言えば、損傷状態を検出できるのは定期的なタンク点検しかない。タンクの点検を行うためには、タンク内に入るためにタンクの完全な排液が必要となる。このような作業は比較的長時間に及び、船舶を長時間にわたって稼働できなくなる。タンク点検を最適化するため、本発明は、上述のような点検の機会を決定するためにタンク摩耗指数を特定することを提案する。
【0037】
船舶タンクの摩耗指数は、液化ガスカーゴのスロッシングに繋がる受けた衝撃に依存して、タンクに損傷が生じるリスクを表すべきものである。船舶の低温タンクに損傷が生じるリスクは、以下の数式によって表すことができる:
【0038】
【0039】
同式中、
-nr(t)は、時点tにおけるタンクの液面レベルを表し、
-mvt(t)は、時点tにおけるタンクの運動を表し、
-Pres(dS,t)は、時点tにおけるタンクの単位表面積dSにかかる圧力を表し、
-Res(dS)は、タンクの単位表面積dSの強度を表し、
-Prob(Pres(dS,t)>Res(dS)|nr(t),mvt(t))は、タンクの液面レベルとタンクの運動とに依存して単位表面積の強度より単位表面積にかかる圧力の方が高くなる確率を表し、
-Tは、損傷のリスクを求める対象となる期間である。
【0040】
タンク摩耗指標は、当該タンクの実際の寿命条件に上記の数式の近似を適用することによって生成することができる。よって、タンクが実際に何を受けるかに依存して、摩耗指標は損傷の確率を表す値を与えるものとなる。
【0041】
図2は、船舶1に搭載された一例の管理システム100を示す。この管理システム100は、種々のパラメータの測定結果を得ることができる複数の船上センサ120に接続された中央処理装置110を備えている。よって、センサ120には例えば、各タンクごとに少なくとも1つの液面レベルセンサ121と、複数の船舶運動センサ122(タコメータ、船首方位)と、海洋条件センサ123とが含まれるが、これらに限定されない。管理システム100はまた、例えば気象データ、船舶位置データ等を得るために中央処理装置110が遠隔の装置と通信するための通信インタフェース130も備えている。
【0042】
運動センサ122及び海洋条件センサ123の数及び種類は、船舶が受ける運動を当業者がどのように特定するかの選択と、何らかの測定冗長性とに依存して決まる。好適な一実施形態では、海洋条件センサは、船舶の周囲の波の高さ、周波数及び方向を測定する気象観測ステーションを含む。これに代えて、海洋条件を測定せずに、船舶の正確な位置に依存して天候情報から導出するだけとすることも可能である。しかし、一部のセンサの故障に対応するために何らかの冗長性を設けることが好適である。
【0043】
管理システム100はさらに、ヒューマンマシンインタフェース140も備えている。このヒューマンマシンインタフェース140は表示手段41を備えている。この表示手段41は、システムによって算出された管理情報又はセンサ120により得られた測定結果又は現在のスロッシング状態をオペレータが得られるようにするものである。
【0044】
ヒューマンマシンインタフェース140はさらに、オペレータが中央処理装置110に値を手動で入力するための取得手段42も備えており、この取得手段42は典型的には、船舶がデータを得るために必要なセンサを備えていないため、又は当該必要なセンサが損傷を受けたためにセンサによって得られない当該データを中央処理装置110に入力することができるものである。例えば一実施形態では、取得手段は、目視観察に基づいて波の高さについての情報をオペレータが入力できるものである。
【0045】
管理システム100はデータベース150を備えている。このデータベース150は、航行の際に得られた測定結果を記憶することができる。好適な一実施形態では、データベースは、研究室で又は洋上における船上測定活動の際に得られた何らかの値を有する。
【0046】
図3は、陸上に設置されて船舶1と通信する一例の管理システム200を示す。船舶は中央処理装置110と、センサ120と、通信インタフェース130と、を備えている。管理システム200は、中央処理装置210と、通信インタフェース230と、ヒューマンマシンインタフェース240と、データベース250と、を備えている。管理システム200の動作は管理システム100の動作と同様であり、その相違点は、船舶1のセンサ120により測定された情報を陸上に設置された管理システム200へ、通信インタフェース130及び230を介して送信することのみである。例えば、通信インタフェースは地上無線データ送信又は衛星無線データ通信を用いることができる。
【0047】
摩耗指数を更新する一例が、
図4のフローチャートに示されている。第1の実施形態では、この更新はその全部が、単一の処理手段を構成する中央処理装置110で行われる。第2の実施形態では、上述の更新はその一部が中央処理装置110で行われると共に、一部が中央処理装置210で行われ、これらの中央処理装置を組み合わせたものが共用の処理手段を構成する。第1のステップ310の際に、船舶の各タンク3,4,5,6のタンク液面レベルセンサ121が各タンク内の液体のレベルを測定し、これにより各タンクiの現在の液面レベルを特定する。その後、第2のステップ320の際に、運動センサ122及び海洋条件センサ123が中央処理装置110へ情報を送信し、これにより船舶の現在の運動状態を特定する。
【0048】
計算を簡素化するために好適なのは、測定結果が定常状態であるとみなされる単位期間にわたって測定を複数回行うことである。例えば、1時間の単位時間が適している。これにより、現在の液面レベル測定が1時間にわたって平均的な測定結果となり、測定結果を行うに際して液体の運動を無視できるようになる。船舶の現在の運動状態に関しては、単位時間における平均測定結果又は最悪事態の測定結果のいずれかを考慮することができる。例えば、単位時間において海洋条件センサが2mの波と8mの波とを測定した場合、保持される測定結果は8mの波に相当することとなる。一方、波の周波数に関しては、平均測定結果が好適となり得る。
【0049】
測定を行った後は、ステップ330の際に現在のスロッシング指数IBiをタンクごとに算出する。現在のスロッシング指数IBiは、行われたタンクの液面レベル及び船舶の現在の運動状態の複数の測定結果に依存して、タンクの位置及び幾何学的形態を考慮して、種々の態様で特定することができる。
【0050】
例えば、簡素化した第1の実施形態では、1時間におけるタンクの平均液面レベル及び波の最大高さは考慮しない。この第1の実施形態では、データベース150又は250に含まれる対応テーブルを用いて、行われた測定に依存して当該テーブルを単に読み取るだけで、対応するスロッシング指数IBiを特定する。対応テーブルは、同様の幾何学的特性を有するタンクについての測定活動であって、タンクの壁に与えられる液体の衝撃の数及び力を測定する測定活動中に生成することができる。その後、かかる測定の結果は、以下の表1のような対応テーブルに格納される。
【0051】
【0052】
液面レベルと波の高さとに依存して、タンクの幾何学的形態を考慮した現在のスロッシング指数IBiの値を直接読み取ることができる。もちろん、テーブルのサイズが大きいほど、現在のスロッシング指数IBiはより高精度になる。また、テーブルは船舶のタンクごとに対応する必要がある。というのも、液体のスロッシングはとりわけタンクの形状と、船舶におけるタンクの位置とに依存するからである。
【0053】
波の高さ等の1つの運動パラメータを用いただけでは、スロッシングの作用を正確に特定できるために十分ではなく、大まかな情報しか得ることができない。実際には、例えば波の周波数、船舶に対する波の入射角、船舶の前進速度等の多数の他のパラメータを用いて、液体のスロッシングを判断することができる。さらに、例えば風や潮流の力及び方向等の二次パラメータを追加することもできる。より多数のエントリを有する対応テーブルを用いることも可能である。また、テーブルにおいてデータを使用する前に当該データを処理することも可能である。例えば、波の周波数と、波の迎え角と、船舶の速度とを組み合わせて、船舶に作用する波の周波数とすることができ、これにより、上述の3つのパラメータを1つのパラメータに削減して、多数のパラメータを考慮しつつ、テーブルのサイズを削減することができる。他の一手段として、各々が部分スロッシング指数を与える複数のテーブルを特定して、例えば当該部分指数を乗算すること等により、これらの指数をまとめてグループ化する手段もある。
【0054】
テーブルを使用することによってさらに、例えば船舶の推進システムやプロペラのブレード等により生じる船舶、艀又は単にタンクの振動等の運動の間接的な原因も考慮することもできる。振動の振幅及び周波数を、同様のサイズのタンクについて試行錯誤により得られたテーブル内の2つのエントリとすることができる。
【0055】
他の一手段は、海の状態を抽出することにより船舶の揺動の実測を行うことである。センサ120は、例えば船舶に3つの垂直軸において生じる直線運動及び回転運動の加速度を測定することにより、船舶の測定運動を特定する。船舶の運動を評価するためには、1つ又は複数の加速度計及び/又は機械的ジャイロスコープ等の1つ又は複数のジャイロスコープ及び/又は1つ又は複数の磁力計から成る慣性計測ユニット(IMU)を用いることが有利となり得る。(同一種類又は2つの異なる種類の)複数の慣性計測ユニットを用いるとすると、これらの計測ユニットは有利には、船舶の運動の高精度の測定を記録できるように船舶全体に分散される。なお、IMUは「MRU(Motion Reference Unit)」と称されることもある。上述の場合においても、各測定のエントリを有する対応テーブルを用いることができる。
【0056】
代替的に、タンク内の液体の攪拌を別の態様で表す指数を算出することも可能である。例えば、タンクの液体レベルと幾何学的形態とに依存して、タンク内の液体の共振周波数を算出する。その後、船舶の平均振動周波数を特定する。これは例えば、加速度計を用いて船舶の振動の平均周波数と平均振幅とを測定することにより特定される。現在のスロッシング指数IBiは船舶の振動の振幅に比例することができると共に、タンクの共振周波数と船舶の振動周波数との差に反比例することができる。
【0057】
瞬時スロッシング指数を特定するためには、タンクに損傷が生じるリスクに影響を及ぼし得る追加の構造状態パラメータを考慮することもできる。タンクは大きな熱変動を受け、かかる熱変動はタンクを伸縮させる作用を有する。タンクがさらされるこのような熱サイクルもまた、タンクを脆弱化する摩耗作用を有する。瞬時スロッシング指数の乗算係数が熱サイクル数を考慮することができ、この乗算係数により、熱サイクル数に依存して、スロッシングと関連する損傷のリスクが増加したことを知ることができる。熱サイクルは、タンクの液体収容量に依存して重み付けすることもでき、タンクの液体の温度は変動することにより、熱サイクルの振幅を変動させ得る。
【0058】
他の1つの追加パラメータは、船舶の伸びすなわち浮体構造の長さの変動に関するものである。船舶は金属製であり、長さの変動は太陽及び海水の温度に依存して生じる。かかる長さの変動は、液化ガスの温度に関連するタンクのメンブレンの膨張には依存しない。この膨張差はメンブレンのレベルで追加の応力を生じさせ、この追加の応力はメンブレンを多かれ少なかれ脆弱化し得る。その際にも、乗算係数を導入することにより上述の現象を考慮することができ、こうするためには例えば、伸びに起因する応力が所定の閾値を超える場合に瞬時スロッシング指数に10%重み付けすることができる。
【0059】
船体の剛性又は船体の可撓性のレベルも考慮することができ、これらは特に、1つ又は複数のタンクが可動の船舶に設置されている場合に考慮される。船舶が波にさらされているときには、船舶は波に対する自己の位置に依存して多かれ少なかれ捩れる。この生じた変形はタンクに応力がかかる原因となり、瞬時スロッシング指数を特定する際にはこれを考慮しなければならない。
【0060】
輸送される低温液体の性質は、瞬時スロッシング指数の特定に影響を及ぼし得る。液化ガスの組成は当該液化ガスの密度及び流動性を変動させる原因となり、これにより、スロッシングに関連する作用を良い方向若しくは悪い方向に変化させ、又は単にタンク内の液体の共振周波数を変化させるに留まる。タンクが複数種類のガスに対応している場合には、瞬時スロッシング指数の特定に際して、輸送される低温液体の性質に固有の追加のパラメータを考慮しなければならない。
【0061】
瞬時スロッシング指数を算出する際に考慮できる他の1つの追加のパラメータとして、バラストタンク中の液柱の高さがある。船舶の中には、バラストタンクが当該タンクを支持する壁に直接接触し得るものがある。バラストタンク内の海水もスロッシングにさらされる。しかし、バラストタンクの充填に依存して、タンク内やバラストタンク内のスロッシング現象が増幅又は減衰し得る。合成作用の特定を可能にするのは船舶の構造のみである。
【0062】
単位時間あたりの船舶の各タンクについて現在のスロッシング指数IBiが特定された後は、ステップ340の際にこの現在のスロッシング指数IBiをタンク摩耗指数IUiに統合する必要がある。スロッシング指数は所定の期間にわたって算出され、例えば船舶の稼働以降等のスロッシング指数の履歴を考慮する摩耗指数IUiを特定するためには、予め算出された摩耗指数IUiに現在のスロッシング指数IBiを単に積算することにより更新することで足りる。
【0063】
スロッシング指数IBi及び摩耗指数IUiは損傷の確率に関するものであるため、無次元数(n’ont pas d’unite)である。さらに、これらの指数IBi及びIUiの大きさは、達成しようとする計算精度に依存する。経験豊富な者であれば、これらの指数と共にどのような値を用いるべきかを判断することもできる。例えば、1時間にわたって現在のスロッシング指数IBiを求める場合(これは0~15になり得る)、船舶の30年の稼働寿命にわたる累積摩耗指数IUiは0~4百万になる。
【0064】
第2の実施形態では、
図4のフローチャートの一部は、船舶と通信する陸上の管理システム200上で実施される。この第2の実施形態では、船舶1はこの陸上ステーションに、センサ120から得られた全ての情報を送信する。これに代えて、航行中に船舶でスロッシング指数IBiを算出して記憶し、摩耗指数IUiは、当該船舶が入港したときにのみ、船舶の航行期間全体にわたって算出されたスロッシング指数IBiを送信後に計算する。
【0065】
摩耗指数IUiが算出されると、これはメンテナンス管理システムによって、
図5のフローチャートを用いて使用される。この
図5のフローチャートは、適正な港に入港したときに使用される一例である。当該フローチャートは、メンテナンス作業員等によって行われるステップを有し、これらのステップは管理システム100又は200によって実施される。これらのステップの中には、メンテナンスの自動化レベルに応じて、メンテナンス作業員又はシステムのいずれかによって実施できるステップも存在する。ステップ410は、船舶の全てのタンクの摩耗指数IUiを回収する。第1の試験420を実施して、現在の日付と船舶が洋上にあった日数とに応じて、タンク点検を想定すべきか否かを判断する。
【0066】
点検がスケジュールに無い場合、試験430が、摩耗指数IUiと点検閾値SVとを比較する。この点検閾値SVは、通常は点検日前には達しないはずの損傷の高いリスクに対応する。点検閾値SVに1つ又は複数の摩耗指数IUiが達した場合には、ステップ440のときに、当該閾値SVに達したタンクの各々についてタンク点検を行わなければならないことを、例えば視覚的又は音声アラームを作動すること等によって示す必要がある。これにより、該当する1つ又は複数のタンクについて入港時にタンク点検を行わなければならないことが乗務員に警告される。閾値SVを超えない場合、又はステップ440を行った後、フローチャートが終了する。
【0067】
試験420によりタンク点検がスケジュールに予定されていると判断された場合には、ステップ450により、最も高い摩耗指数を有するタンクを特定することができる。こうするためには、各摩耗指数IUiを他の全てのタンクの摩耗指数IUiと比較することにより、最も高い摩耗指数Max(IUi)を有するタンクを特定する。
【0068】
最も高い摩耗指数Max(IUi)が特定された後は、管理システムはステップ460のときに該当するタンクのフラグを設定し、このタンクについてのみ点検を行う。
【0069】
タンクの点検の後、新規の試験470を行って、他のタンクを点検すべきか否かを判断する。この試験470は、点検対象のタンクに損傷が生じているか否かの確認である。タンクが損傷していない場合、摩耗指数IUiによれば損傷のリスクがより低い他のタンクについて、点検を行う必要はない。一方、タンクが損傷している場合にはステップ480を実施する必要がある。
【0070】
ステップ480は、点検を要する次のタンクであって他の残りのタンクのうち最も高い摩耗指数を有するタンクを特定するためにステップ450を繰り返す前に、船舶の摩耗指数から、直前に点検した損傷しているタンクの摩耗指数を除外するステップである。このタンク自体が損傷している場合には、摩耗指数IUiの降順にタンクの点検を継続する。
【0071】
タンク点検によって少なくとも1つの修理を要するいかなる不具合又は故障も見つからなかった場合には、他のタンクのいずれも点検を要しない。かかる方法により、点検対象となるタンク数を有意に減少させることができる。点検対象となるタンク数は、損傷しているタンク数+1にまで減少し、これにより全てのタンクの排液を行わなくても良くなる。
【0072】
既に述べたように、自動化は多かれ少なかれ可能である。自動化レベルが比較的低い実施形態では、管理システム100及び200は摩耗指標IUiを記憶して互いに比較すると共に各摩耗指標IUiを点検閾値SVと比較するに留まる。その後、管理システムは、閾値SVを超過したか否かを示す視覚的なインジケータ(例えば赤/緑のインジケータ等)を用いて摩耗指数IUiを降順に表示する。本構成では、ステップ410,430及び450のみが管理システム100又は200によって実施され、
図5のフローチャートの他の部分はメンテナンス作業員によって実施される。
【0073】
自動化レベルが高い実施形態では、ステップ440及び460の点検のみがメンテナンス作業員によって実施され、点検の結果はシステムに記録される。
【0074】
これに代えて、ステップ460は摩耗指数Max(IUi)と最小摩耗閾値とを比較することもでき、この最小摩耗閾値は、これを下回るといかなるタンク点検も行わなくてよい、というものである。かかる比較により、不必要なタンク点検を省略することができる。
【0075】
代替的に、試験430及びステップ440を無くすこともできる。実際には、航行を行うごとにタンク点検を行うのを回避するため、点検閾値SVを比較的高くしなければならない。閾値が非常に高いと有用性が無くなる可能性がある。
【0076】
他の一変形態様では、点検の日付は不要とし、逆に、点検をトリガするために点検閾値SVのみを使用することを検討することもできる。かかる場合には、試験430によって、多数のタンクの摩耗指数IUiが閾値SVを超えることを知ることができる。複数のタンクの点検を回避するためには、ステップ440に代えて、ステップ450及び480に相当するステップを設け、これら複数のタンクが損傷していない場合に1つのタンクのみを点検するようにしてもよい。
【0077】
閾値SVに達し、かつ損傷したタンクが無い場合には、閾値SVを増分して新たな値とし、これを取得手段42によって入力する必要がある。
【0078】
タンク点検によってタンクが損傷しているとの結論になった場合には、タンクを直ちに修理し、又は次の停泊時に修理しなければならないが、タンクは修理まで使用中止とみなされる。使用中止中のタンクは、
図5のフローチャートを実施する際には無視することができる。
【0079】
タンクについて修理が行われない限り、船舶の造船以降のタンクの摩耗を表す摩耗指数を保存する必要がある。タンクが修理された後は、摩耗指数はもはや当該タンクの摩耗状態を表すものではなくなり、この指数を修正する必要がある。タンク修理がタンクの実質的に全部の交換である場合には、修理されたタンクは新品とみなすことができ、よって、取得手段42を用いて摩耗指数IUiをゼロにリセットする必要がある。一方、タンクの部分的な修理が行われ、軽微と考えられる摩耗のある程度の痕跡が修理を要するものでない場合には、摩耗指数を低減するか、又は変更なしで維持することができる。特に、修理がタンクの最小限の領域に関わるものである場合には、指数は変わらないままである。
【0080】
複数の特定の実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明はこれらの実施形態に決して限定されることはなく、本発明の範囲に属する場合には、本願明細書に記載された手段の全ての組み合わせ及び全ての技術的均等態様を含むことが明らかである。
【0081】
動詞「有する」又は「備える」との用語の使用及びその活用形は、請求項に記載の要素又はステップ以外の要素又はステップの存在を除外するものではない。
【0082】
特許請求の範囲において、括弧書きのいかなる参照符号も、請求項を限定するものと解してはならない。