(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】熱処理されたPVDFの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/16 20060101AFI20240415BHJP
C08F 214/22 20060101ALI20240415BHJP
【FI】
C08J3/16 CEW
C08F214/22
(21)【出願番号】P 2021527952
(86)(22)【出願日】2019-11-20
(86)【国際出願番号】 EP2019081904
(87)【国際公開番号】W WO2020104513
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2022-10-20
(32)【優先日】2018-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】513092877
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ イタリー エス.ピー.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】レヴェケ, エマニュエル
(72)【発明者】
【氏名】マルクッチ, マリネッラ
(72)【発明者】
【氏名】ファッチ, ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ルスコーニ, フェデリカ
(72)【発明者】
【氏名】アブスレメ, ジュリオ ア.
【審査官】福井 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-041065(JP,A)
【文献】特開2004-265874(JP,A)
【文献】特開2004-263190(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00-3/28
C08J 99/00
C08F 214/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(半)結晶性フッ化ビニリデン(VDF)ポリマー粒子[ポリマー(F
f
)粒子]の製造方法であって、
(i)水性媒体と、少なくとも1種の(半)結晶性VDFに基づくポリマーの粒子[ポリマー(F)粒子]とからなる水性分散液[分散液(D)]を準備すること;
(ii)工程(i)で準備した分散液(D)を、撹拌しながら、100~180
℃の範囲に含まれる温度で熱処理すること;及び
(iii)工程(ii)で得られた熱処理された分散液からポリマー(F
f)粒子を分離すること;
を含
み、
分散液(D)が、水性媒体に分散された5~50重量%の範囲のポリマー(F)粒子の固形分を有する方法。
【請求項2】
ポリマー(F)が、少なくとも0.01モル
%の、少なくとも1種の官能性水素化モノマーに由来する繰り返し単位を含み、前記繰り返し単位のモル量は前記ポリマー(F)中の繰り返し単位の総モル数に対するものである、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
官能性水素化モノマーが式(I)のものである、請求項
2に記載の方法:
(式中、R
1、R
2、及びR
3それぞれは、互いに同じであるか異なり、独立して水素原子又はC
1~C
3炭化水素基であり、R
Xは、水素原子であるか、又は少なくとも1つのヒドロキシル基を含むC
1~C
5炭化水素基である)。
【請求項4】
ポリマー(F)粒子が湿った状態のポリマー(F)粒子[ポリマー(WF)粒子]である、請求項1~
3のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2017年11月22日出願の欧州特許出願第18306544.0号に基づく優先権を主張するものであり、この出願の全内容はあらゆる目的のために参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、非プロトン性極性溶媒中で優れた分散性及び溶解性並びに改善された色を示し、且つ凝集する傾向が少ない、熱処理されたフッ化ビニリデンポリマー粒子の製造方法、及び様々な用途における前記フッ化ビニリデンポリマー粒子の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
フルオロポリマーは、それらの固有の耐薬品性及び優れた機械的特性のために、様々な用途及び環境で使用される優れた材料であることが当該技術分野で知られている。
【0004】
特に、フルオロポリマーは、二次電池用の電極又はセパレータなどの電気化学デバイス用の構成要素の製造に適していることが当該技術分野で知られている。
【0005】
また、フルオロポリマーは、濾過膜の製造に適していることが当該技術分野で知られている。
【0006】
一般に、二次電池用の電極若しくはセパレータ又は濾過膜のいずれかを製造するための技術は、フルオロポリマーを溶解するためのN-メチル-2-ピロリドンなどの有機溶媒の使用を含む。
【0007】
特に、フルオロポリマーは、電極の製造方法におけるバインダーとして適しており、前記フルオロポリマーバインダーは、N-メチル-2-ピロリドンなどの有機溶媒に溶解され、その後電気活性材料及び集電体に塗布されるペーストを製造するために適した他の全ての適切な構成要素と共に均質化される。
【0008】
有機溶媒の役割は、典型的には、有機溶媒の蒸発時に電気活性材料粒子を一緒に及び集電体に結合させるためにフルオロポリマーを溶解させることである。
【0009】
フルオロポリマーバインダーは、電気活性材料粒子を、これらの粒子が充電及び放電サイクル中に大きな体積の膨張及び収縮に化学的に耐えることができるように、一緒に及び集電体に適切に結合させる必要がある。
【0010】
特に、フッ化ビニリデンポリマー、特に高分子量のフッ化ビニリデンポリマーは、集電体へのそれらの優れた接着特性の観点から、電極用のバインダーとして適している。
【0011】
また、高分子量のフッ化ビニリデンポリマーは、優れた機械的強度を有する濾過膜の製造における使用にも適している。
【0012】
従来、フッ化ビニリデンポリマーに関して適切な溶解力を有する「優れた」溶媒が選択され、混合物は、均質な溶液を調製するために、必要に応じて加熱しながら撹拌される。しかしながら、フッ化ビニリデンポリマー粉末は撹拌中に凝集する傾向があるため、溶媒を凝集体に浸透させて粉末を完全に溶解させて均質な溶液を得るためには長い時間を必要とする。
【0013】
この傾向は、高分子量のフッ化ビニリデンポリマーでより強く、これはNMPやアセトンなどの有機溶媒に溶解するのにより長い時間を要し、それによって生産性が低下する。
【0014】
ポリマーの融解温度よりも若干低い温度でフッ化ビニリデンポリマー粒子を熱処理すると、前記フッ化ビニリデンポリマー粒子が所定の溶媒にはるかに容易に溶解するようになることが知られている。
【0015】
欧州特許第2495273号明細書、05/09/2012には、NMPなどの非プロトン性極性溶媒中への粉末の分散性及び溶解性を改善することを目的として、125℃以上からポリマーの結晶融解温度(Tm)未満までの温度で粉末を熱処理することを含む、熱処理されたフッ化ビニリデンポリマー粉末の製造方法が開示されている。
【0016】
当該技術分野で公知の適切な熱処理装置には、例えば、オーブン(静的、連続、バッチ、対流など)、流動床ヒーターなどが含まれる。
【0017】
しかしながら、粉末材料の熱処理は、材料の色に影響を与える可能性がある。
【0018】
更に、粉末形態の材料の熱処理においては前記粉末材料の凝集が非常に起こりやすい。結果として、不均質な熱処理を行うことに加えて、適切な粒子サイズを回復するためには、熱処理後に多くの場合粉砕工程が必要とされる。追加の工程は、工業プロセスにおいてより大きいコスト及びより長い時間を伴うという事実に加えて、粉砕工程は、ポリマー組成物の若干のスポット加熱を引き起こす可能性もあり、この温度がポリマーの融点を超える場合には、結晶化度、したがってポリマーの溶解度が影響を受ける可能性がある。
【0019】
加えて、粉末の形態のフッ化ビニリデンポリマーは、高温で取り扱うと発火する可能性がある。
【0020】
したがって、当該技術分野では、有機溶媒に容易に溶解し、それによって均質な有機溶媒溶液を提供し、それと同時に生産性、安全性、及び上述した色の問題を克服することができる高分子量のフッ化ビニリデンポリマー粒子を製造することが依然として必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0021】
出願人は、驚くべきことに、有機溶媒中に容易に分散可能な(半)結晶性フッ化ビニリデンポリマー粒子の製造方法の一工程として、フッ化ビニリデンポリマーの水性分散液に対して容易且つ簡便に熱処理を実施できることを見出した。
【0022】
これらの(半)結晶性フッ化ビニリデンポリマー粒子の均質な溶液を様々な有機溶媒中で容易に得ることができ、これが均質な特性を有する物品へと有利に加工できることも見出した。
【0023】
第1の例において、本発明は、
(i)水性媒体と、少なくとも1種の(半)結晶性VDFに基づくポリマーの粒子[ポリマー(F)粒子]とからなる水性分散液[分散液(D)]を準備すること;
(ii)工程(i)で準備した分散液(D)を、撹拌しながら、100~180℃、好ましくは110~160℃の範囲に含まれる温度で熱処理すること;及び
(iii)工程(ii)で得られた熱処理された分散液からポリマー(Ff)粒子を分離すること;
を含む、(半)結晶性フッ化ビニリデン(VDF)ポリマー粒子[ポリマー(Ff)粒子]の製造方法に関する。
【0024】
第2の例では、本発明は、本発明の方法によって得られる1種以上の(半)結晶性フッ化ビニリデン(VDF)ポリマー粒子[ポリマー(Ff)粒子]に関する。
【0025】
第3の例では、本発明は、
- 本発明の1種以上のポリマー(Ff)粒子、及び
- 1種以上の有機溶媒を含む液体媒体、
を含む組成物[組成物(C)]に関する。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本明細書及びそれに続く特許請求の範囲内で使用される場合、
- 「(半)結晶性ポリマー」という表現は、ASTM D-3418に準拠して10°/分の加熱速度で示差走査熱量測定(DSC)によって測定した場合に1J/g超、より好ましくは35J/g~1J/g、更に好ましくは15~5J/gの融解熱を有するポリマーを示すことが意図されており;
- 「分散液(D)」という用語は、少なくとも1種のポリマー(F)の粒子を含有する水性分散液を示すことが意図されており、前記粒子は、10~1000μm、好ましくは50~500μmのD50値を有するサイズ分布を有する。
【0027】
分散液(D)中の「水性媒体」という用語は、水、及び例えば湿潤剤や界面活性剤などの他の成分と組み合わされた水を含めるために使用される。湿潤剤としては多価アルコールを挙げることができる。界面活性剤としては、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤、及び非イオン性界面活性剤のいずれも使用することができる。
【0028】
好ましくは、分散液(D)中の水性媒体は本質的に水を含む。
【0029】
本発明の一実施形態では、分散液(D)中のポリマー(F)粒子は、湿った状態のポリマー(F)粒子[ポリマー(WF)粒子]である。
【0030】
ポリマー(WF)粒子は、フッ化ビニリデン(VDF)と、フッ化ビニリデン(VDF)とは異なる任意選択的な少なくとも1種のフッ素化モノマーと、任意選択的な少なくとも1種の水素化モノマーとを含有する重合媒体中で、重合によって、典型的には懸濁重合又は超臨界懸濁重合によって、得られる。
【0031】
ポリマー(WF)粒子を製造するための前記重合は、典型的には少なくとも10℃、好ましくは少なくとも25℃、より好ましくは少なくとも45℃の温度で行われる。重合は、典型的には最大140℃、好ましくは最大100℃、より好ましくは最大80℃の温度で、少なくとも25bar、好ましくは少なくとも50bar、より好ましくは少なくとも75barの圧力で行われる。
【0032】
前記重合は、典型的にはラジカル開始剤の存在下で行われる。ラジカル開始剤は、有機ラジカル開始剤であっても無機ラジカル開始剤であってもよい。
【0033】
ラジカル開始剤は、典型的には、以下からなる群から選択される:
- 式(Rf-CO-O)2のビス-アシルペルオキシド(式中、RfはC1~C10(ペル)ハロアルキル基又はペルフルオロポリオキシアルキレン基であり、ビス-トリクロロアセチルペルオキシド及びビス-ジクロロフルオロアセチルペルオキシドが特に好ましい);
- 式(RH-O)2のビス-アシルペルオキシド(式中、RHはC1~C10アルキル基であり、ジterブチルペルオキシド(DTBP)が特に好ましい);
- アンモニウム又はアルカリ金属の過硫酸塩又は過リン酸塩などの水溶性無機過酸化物、過硫酸ナトリウム及びカリウムが特に好ましい;
- ジ-n-プロピル-ペルオキシジカーボネート及びジ-イソプロピル-ペルオキシジカーボネートなどのアルキル基が1~8個の炭素原子を有するジアルキルペルオキシジカーボネート;
- tert-アミルペルオキシピバレート及びtert-ブチルペルオキシイソブチレートなどのアルキルペルオキシエステル;並びに
- 過硫酸アンモニウム/亜硫酸ナトリウム、過酸化水素/アミノイミノメタンスルフィン酸、テルブチルヒドロペルオキシド/メタ重亜硫酸塩などの有機又は無機レドックスシステム。
【0034】
ポリマー(WF)粒子を製造するための前記重合における重合媒体は、典型的には、反応中に発生する熱分散を促進するために水が通常添加される有機相を含む。有機相は、溶媒を添加せずにモノマー自体によって形成されていてもよく、或いは適切な有機溶媒の中に溶解したモノマーによって形成されていてもよい。
【0035】
重合の終わりに、固体粒子は、通常は濾過によって、重合媒体から分離され、残留重合媒体を真水でほぼ完全に置き換えるために真水で繰り返し洗浄され、その結果ポリマー(WF)粒子が得られる。
【0036】
本発明の別の実施形態では、分散液(D)中のポリマー(F)粒子は、乾燥ポリマー(F)粒子[ポリマー(DF)粒子]である。
【0037】
ポリマー(DF)粒子は、同じ粉末粒子形態で得るために、ポリマー(WF)粒子を、好ましくは30℃~120℃、好ましくは50℃~90℃に含まれる温度で乾燥させることによって得られる。
【0038】
この実施形態では、分散液(D)は、粉末を分散しやすくするための湿潤剤を適切に含有する水性媒体中に乾燥ポリマー(DF)粒子を分散させることによって得ることができる。湿潤剤は、少なくとも1種のアルコール、少なくとも1種のイオン性界面活性剤、少なくとも1種の非イオン性界面活性剤、又はそれらの混合物から選択することができる。
【0039】
好ましくは、分散液(D)中に含まれるポリマー(F)粒子は、上で定義したポリマー(WF)粒子、すなわちその製造のための重合の終わりに乾燥されていない少なくとも1種の(半)結晶性VDFに基づくポリマーの湿った状態の粒子である。
【0040】
したがって、分散液(D)は、エネルギー及び時間を要する乾燥プロセスなしで都合よく得ることができる。
【0041】
好ましくは、本発明の方法の工程(i)で使用される分散液(D)は、水性媒体に分散された、好ましくは水に分散された、5~50重量%の範囲のポリマー(F)の固形分を有する。
【0042】
分散液(D)中のポリマー(F)の固形分は、目標の重量パーセントに到達させるために、水の添加又は除去によって都合よく調整することができる。
【0043】
水性媒体中に分散されたポリマー(F)の前記固形分によって、方法の工程(ii)中に分散液(D)を非常に効率的に撹拌することができ、これによって粒子(F)が熱処理中に水性媒体中に十分に分散されたままに保持される。
【0044】
方法の工程(ii)における分散液(D)の効率的な撹拌によって、ポリマー(F)の非常に均質な熱処理を実現することができる。
【0045】
ポリマー(Ff)粒子を製造するための本発明の方法の工程(ii)は、典型的には、少なくとも100℃、好ましくは少なくとも110℃、より好ましくは少なくとも120℃の温度で行われる。
【0046】
ポリマー(Ff)粒子を製造するための本発明の方法の工程(ii)は、典型的には、最大180℃、好ましくは最大160℃、より好ましくは最大150℃の温度で行われる。
【0047】
ポリマー(Ff)粒子を製造するための本発明の方法の工程(ii)は、典型的には大気圧より高い圧力で行われる。
【0048】
大気圧を超える圧力は、100℃より上まで加熱された分散液(D)に含まれる水によって発生する内圧によって加圧され得る容器内で工程(ii)の熱処理を行うことによって得ることができる。
【0049】
任意選択的には、容器内の内圧を増加させることを目的とする場合、容器内のより高い圧力は、空気や窒素などの少なくとも1種の追加の非凝縮性ガスで加圧することによって得ることができる。
【0050】
ポリマー(Ff)粒子を製造するための本発明の方法の工程(ii)は、典型的には、5~6000分、好ましくは10~200分、より好ましくは30~90分の範囲の時間行われる。
【0051】
本発明の方法の工程(iii)において、ポリマー(Ff)粒子は、熱処理された分散液(D)から分離される。
【0052】
工程(iii)におけるポリマー(Ff)粒子の分離は、典型的には濾過によって行われる。
【0053】
存在し得る残留不純物を除去するために、方法の工程(iii)で得られたポリマー(Ff)粒子に対して水性媒体を用いた洗浄工程が行われてもよい。
【0054】
本発明の好ましい一実施形態では、1種以上の(半)結晶性フッ化ビニリデン(VDF)ポリマー粒子[ポリマー(Ff)粒子]の製造方法が提供され、前記方法は、
(i)水性媒体と少なくとも1種の(半)結晶性VDFに基づくポリマー[ポリマー(F)]の粒子とからなる水性分散液[分散液(D)]を準備すること;
(ii)工程(i)で準備した分散液(D)を、撹拌しながら、100~180℃、好ましくは110~160℃の範囲に含まれる温度で密閉容器中で熱処理すること;
(iii)工程(ii)で得られた熱処理された分散液からポリマー(Ff)粒子を分離すること;及び
(iv)工程(iii)で得られたポリマー(Ff)粒子に対して水性媒体を用いた洗浄工程を行うこと;
を含む。
【0055】
好ましくは、洗浄工程(iv)における水性媒体は、本質的に水を含む。
【0056】
熱処理された分散液(D)から分離されたポリマー(Ff)粒子は、典型的には乾燥される。
【0057】
ポリマー(Ff)粒子の乾燥は、流動床において、50℃を超える温度、好ましくは80℃を超える温度で都合よく行われる。
【0058】
出願人は、驚くべきことに、乾燥ポリマー(Ff)粒子が、本発明の方法の熱処理を受けていない乾燥ポリマー(F)粒子と比較して、必要なエネルギー及びタイミングの点ではるかに効率的であることを見出した。更に、熱処理されたポリマー(F)粒子は、こうして得られた粉末の流動化をより効率的にする。
【0059】
出願人は、これが本発明の範囲を制限するものではないが、本発明の方法中のポリマーコンフォメーションの変化に起因して、本発明の方法によって得られたポリマー(Ff)粒子がより高い溶解度を有利に示すと考えている。
【0060】
第2の例では、本発明は、本発明の方法によって得られる1種以上の(半)結晶性フッ化ビニリデン(VDF)ポリマー粒子[ポリマー(Ff)粒子]に関する。
【0061】
本発明のポリマー(Ff)粒子は、典型的には、少なくとも0.13l/g、好ましくは少なくとも0.15l/g、より好ましくは少なくとも0.20l/gの固有粘度を有する。
【0062】
ポリマー(Ff)粒子の固有粘度は、典型的にはN,N-ジメチルホルムアミド中で25℃で測定される。
【0063】
本発明のポリマー(Ff)粒子は、典型的には粉末粒子の形態である。
【0064】
ポリマー(Ff)粒子は、典型的には粉末粒子の形態であり、典型的には、少なくとも10μm、好ましくは少なくとも30μm、より好ましくは少なくとも60μmのD50値を有するサイズ分布を有する。
【0065】
D50値は、その通常の意味に従って本明細書で使用され、そのため、サンプル中の粒子の50%がD50値よりも小さく、且つ粒子の残りの50%が前記D50値よりも大きい直径を表す。
【0066】
粒子サイズ分布は、レーザービームが分散した粒子サンプルを通過するときに散乱された光の強度の角度変化を測定することによるレーザー回折によって決定される。粒径は、等体積球相当径として報告される。
【0067】
本発明のポリマー(Ff)粒子は、典型的には、3μmよりも小さい、好ましくは5μmよりも小さい平均サイズを有する微粉末粒子の形態の1種以上の(半)結晶性VDFポリマー粒子を含まない。
【0068】
ポリマー(F)及びポリマー(Ff)のそれぞれは、典型的には、フッ化ビニリデン(VDF)とは異なる少なくとも1種のフッ素化モノマーに由来する繰り返し単位、及び任意選択的な少なくとも1種の水素化モノマーに由来する繰り返し単位を更に含む。
【0069】
しかしながら、ポリマー(F)及びポリマー(Ff)のそれぞれは、フッ化ビニリデン(VDF)に由来する少なくとも70モル%の繰り返し単位を含み、前記繰り返し単位のモル量は前記ポリマー(F)と前記ポリマー(Ff)の繰り返し単位の総モル数に対するものである。
【0070】
本発明の目的上、用語「フッ素化モノマー」は、少なくとも1個のフッ素原子を含むエチレン性不飽和モノマーを意味することを意図する。
【0071】
本発明の目的のためには、用語「水素化モノマー」は、少なくとも1個の水素原子を含み、フッ素原子を含まないエチレン性不飽和モノマーを意味することを意図する。
【0072】
フッ素化モノマーが少なくとも1個の水素原子を含む場合、それは、水素含有フッ素化モノマーと称される。
【0073】
フッ素化モノマーが水素原子を含まない場合、それは、ペル(ハロ)フッ素化モノマーと称される。
【0074】
フッ素化モノマーは、1つ又は複数の他のハロゲン原子(Cl、Br、I)を更に含み得る。
【0075】
好適なフッ素化モノマーの非限定例としては、とりわけ、以下が挙げられる:
- テトラフルオロエチレン及びヘキサフルオロプロピレン(HFP)などのC2~C8ペルフルオロオレフィン;
- フッ化ビニル、1,2-ジフルオロエチレン及びトリフルオロエチレンなどのC2~C8水素化フルオロオレフィン;
- 式CH2=CH-Rf0(式中、Rf0は、C1~C6ペルフルオロアルキル基である)のペルフルオロアルキルエチレン;
- クロロトリフルオロエチレンなどのクロロ、及び/又はブロモ、及び/又はヨードC2~C6フルオロオレフィン;
- 式CF2=CFORf1(式中、Rf1は、C1~C6フルオロ又はペルフルオロアルキル基、例えばCF3、C2F5、C3F7である)の(ペル)フルオロアルキルビニルエーテル;
- CF2=CFOX0(ペル)フルオロオキシアルキルビニルエーテル(式中、X0は、C1~C12アルキル基、C1~C12オキシアルキル基、又は1つ以上のエーテル基を有するC1~C12(ペル)フルオロオキシアルキル基、例えばペルフルオロ-2-プロポキシ-プロピル基である);
- 式CF2=CFOCF2ORf2(式中、Rf2は、C1~C6フルオロ又はペルフルオロアルキル基、例えばCF3、C2F5、C3F7、又は1つ以上のエーテル基を有するC1~C6(ペル)フルオロオキシアルキル基、例えば-C2F5-O-CF3である)の(ペル)フルオロアルキルビニルエーテル;
- 式CF2=CFOY0(式中、Y0は、C1~C12アルキル基又は(ペル)フルオロアルキル基、1つ以上のエーテル基を有するC1~C12オキシアルキル基又はC1~C12(ペル)フルオロオキシアルキル基であり、且つY0は、酸、酸ハロゲン化物又は塩形態でカルボキシル基又はスルホン酸基を含む)の官能性(ペル)フルオロオキシアルキルビニルエーテル;及び
- フルオロジオキソール、好ましくはペルフルオロジオキソール。
【0076】
ポリマー(F)及びポリマー(Ff)のそれぞれは、好ましくは以下を含む:
(a)少なくとも60モル%、好ましくは少なくとも75モル%、より好ましくは少なくとも85モル%のフッ化ビニリデン(VDF)由来の繰り返し単位、
(b)任意選択的な0.1モル%~15モル%、好ましくは0.1モル%~12モル%、より好ましくは0.1モル%~10モル%の少なくとも1種のフッ素化モノマー(F)に由来する繰り返し単位、及び
(c)任意選択的な、少なくとも1種の水素化モノマーに由来する繰り返し単位、
を含み、前記繰り返し単位のモル量は、前記ポリマー(F)及び前記ポリマー(Ff)における繰り返し単位の総モル数に対するものである。
【0077】
水素化モノマーは、官能性水素化モノマーであってもよい。
【0078】
本発明の目的のためには、「官能性水素化モノマー」という用語は、少なくとも1つの官能性末端基を含む水素化モノマーを指すことが意図されている。
【0079】
ポリマー(F)及びポリマー(Ff)のそれぞれは、好ましくは少なくとも0.01モル%、より好ましくは少なくとも0.05モル%、更に好ましくは少なくとも0.1モル%の、少なくとも1種の水素化モノマーに由来する繰り返し単位を含み、前記繰り返し単位のモル量は、前記ポリマー(F)及び前記ポリマー(Ff)中の繰り返し単位の総モル数に対するものである。
【0080】
ポリマー(F)及びポリマー(Ff)のそれぞれは、好ましくは最大20モル%、より好ましくは最大15モル%、更に好ましくは最大10モル%、最も好ましくは最大3%の少なくとも1種の官能性水素化モノマー由来の繰り返し単位を含み、前記繰り返し単位のモル量は、前記ポリマー(F)及び前記ポリマー(Ff)中の繰り返し単位の総モル数に対するものである。
【0081】
(半)結晶性フッ化ビニリデンポリマー中の少なくとも1種の官能性水素化モノマーに由来する繰り返し単位の平均モルパーセントの測定は、任意の適切な方法によって行うことができる。特に、酸-塩基滴定法又はNMR法を挙げることができる。
【0082】
官能性水素化モノマーは、典型的には、ヒドロキシル末端基及びカルボン酸末端基から選択される少なくとも1つの官能性末端基を含む。
【0083】
官能性水素化モノマーは、好ましくは、式(I)の(メタ)アクリルモノマー及び式(II)のビニルエーテルモノマーからなる群から選択される:
(式中、R
1、R
2、及びR
3のそれぞれは、互いに同じであるか異なり、独立して水素原子又はC
1~C
3炭化水素基であり、R
Xは、水素原子であるか、又は少なくとも1つのヒドロキシル基を含むC
1~C
5炭化水素基であり、R’
xは少なくとも1つのヒドロキシル基を含むC
1~C
5炭化水素基である)。
【0084】
官能性水素化モノマーは、より好ましくは上で定義された式(I)のものである。
【0085】
官能性水素化モノマーは、更に好ましくは式(I-A)のものである:
(式中、R’
1、R’
2、及びR’
3は水素原子であり、R’’
Xは、水素原子であるか、又は少なくとも1つのヒドロキシル基を含むC
1~C
5炭化水素基である)。
【0086】
式(I)の(メタ)アクリルモノマーの非限定的な例としては、特に、アクリル酸、メタクリル酸、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチルヘキシル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0087】
式(I)の(メタ)アクリルモノマーは、より好ましくは
- 下記式のアクリル酸(AA):
- 下記式のヒドロキシエチルアクリレート(HEA):
- 下記式のいずれかの2-ヒドロキシプロピルアクリレート(HPA):
- 及びこれらの混合物
から選択される。
【0088】
第3の例では、本発明は、
- 本発明の1種以上のポリマー(Ff)粒子、及び
- 1種以上の有機溶媒を含む液体媒体、
を含む組成物[組成物(C)]に関する。
【0089】
本発明の組成物(C)は、典型的には、
- 組成物(C)の総重量に対して、0.5重量%~50重量%、好ましくは1重量%~30重量%、より好ましくは5重量%~20重量%の本発明の1種以上のポリマー(Ff)粒子、及び
- 組成物(C)の総重量に対して99.5~50重量%、好ましくは99~70重量%、より好ましくは95~80重量%の、1種以上の有機溶媒を含む液体媒体、
を含む。
【0090】
本発明の組成物(C)は、典型的には、1種以上の有機溶媒を含有する液体媒体中に本発明の1種以上のポリマー(Ff)粒子を分散させることによって得ることができる。
【0091】
本発明の組成物(C)は、有利には均質な溶液である。
【0092】
「溶液」という用語は、本明細書では、1種以上の有機溶媒を含有する液体媒体中の、上で定義した(半)結晶性VDFポリマー粒子の透明且つ均質な溶液を示すことが意図されている。
【0093】
有機溶媒の選択は、それが本発明のポリマー(Ff)粒子を可溶化するのに適していることを条件として、特に限定されない。
【0094】
本発明の組成物(C)における使用に適した有機溶媒の非限定的な例は、典型的には:
- メチルアルコール、エチルアルコール、及びジアセトンアルコールなどのアルコール、
- アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、及びイソホロンなどのケトン、
- 酢酸イソプロピル、酢酸n-ブチル、アセト酢酸メチル、フタル酸ジメチル、及びγ-ブチロラクトンなどの直鎖又は環状のエステル、
- N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、及びN-メチル-2-ピロリドンなどの直鎖又は環状のアミド、並びに
- ジメチルスルホキシド、
からなる群から選択される。
【0095】
本発明の組成物(C)は、様々な物品へと容易に加工することができる。
【0096】
本発明の組成物(C)は、物品を製造するためのプロセスにおける使用に特に適しており、前記プロセスは、前記組成物(C)の典型的にはキャスティングによる加工を含む。
【0097】
キャスティングは、通常は溶液キャスティングを含み、これは、適切な基材全体に組成物(C)の均質な膜を広げるために、典型的にはキャスティングナイフ、ドローダウンバー、又はスロットダイを使用する。
【0098】
本発明の第1の実施形態によれば、本発明は膜の製造方法に関し、前記方法は、
(1a)本発明の組成物(C)を準備すること、及び
(2a)工程(1a)で準備した組成物(C)を、典型的にはキャスティングによって膜へと加工すること、
を含む。
【0099】
膜の製造方法の工程(2a)では、キャスティングは、通常は溶液キャスティングを含み、これは、適切な基材全体に組成物(C)の均質な膜を広げるために、典型的にはキャスティングナイフ、ドローダウンバー、又はスロットダイを使用する。基材は、多孔質基材であっても非多孔質基材であってもよい。
【0100】
本発明の膜は、典型的には、本発明の1種以上のポリマー(Ff)粒子を含む少なくとも1種の層を含む。
【0101】
本発明の膜は、有利には、本発明のこの第1の実施形態による方法によって得られる。
【0102】
本発明の膜は、様々な用途における使用に特に適している。
【0103】
本発明の膜は、電気化学デバイス用のセパレータにおける使用に特に適している。
【0104】
本発明の電気化学デバイス用のセパレータは、典型的には、
- 本発明の少なくとも1つの膜、及び
- 任意選択的な、前記膜(F)に接着された、1つ以上の層を含む基材、好ましくは少なくとも1種のポリオレフィンを含む少なくとも1つの層を含む多孔質基材などの1つ以上の層を含む多孔質基材、
を含む。
【0105】
したがって、本発明は、電気化学デバイス用のセパレータの製造方法にも関し、前記方法は、
(1b)本発明の組成物(C)を準備すること、及び
(2b)典型的にはキャスティングにより、工程(1b)で準備した組成物(C)を基材上で加工すること、
を含む。
【0106】
電気化学デバイス用のセパレータの製造方法の工程(2b)では、キャスティングは、通常は溶液キャスティングを含み、これは、適切な基材全体に組成物(C)の均質な膜を広げるために、典型的にはキャスティングナイフ、ドローダウンバー、又はスロットダイを使用する。基材は、多孔質基材であっても非多孔質基材であってもよい。
【0107】
基材は、好ましくは、少なくとも1種のポリオレフィンを含む少なくとも1つの層を含む多孔質基材などの1つ以上の層を含む多孔質基材である。
【0108】
電気化学デバイスの非限定的な例としては、リチウムイオン二次電池などの二次電池が挙げられる。
【0109】
本発明の第2の実施形態によれば、本発明は濾過膜の製造方法に関し、前記方法は、
(1c)本発明の組成物(C)を準備すること、
(2c)工程(1c)で準備した組成物(C)を、典型的にはキャスティングによって膜へと加工すること、及び
(3c)工程(2c)で準備した膜を溶媒ではない媒体中で析出させること、
を含む。
【0110】
濾過膜を製造するための方法の工程(3c)では、キャスティングは、通常は溶液キャスティングを含み、これは、適切な基材全体に組成物(C)の均質な膜を広げるために、典型的にはキャスティングナイフ、ドローダウンバー、又はスロットダイを使用する。基材は、多孔質基材であっても非多孔質基材であってもよい。
【0111】
製造される膜の最終形態に応じて異なるキャスティング技術が使用される。
【0112】
最終製品が平膜である場合、膜は、典型的にはキャスティングナイフ又はドローダウンバー又はスロットダイを用いて、平坦な支持基材、典型的にはプレート、ベルト若しくは布、又は別の多孔質支持膜上へのキャスティングにより加工することによって典型的には得られる。
【0113】
用語「膜」は、その通常の意味で本明細書において用いられる。すなわち、それは、それと接触する化学種の透過を適度にする個別の、概して薄い界面を意味し、前記膜は、有限寸法の細孔を含む。
【0114】
それらの厚さの全体にわたって均質に分布した細孔を含有する膜は一般に、対称(又は等方性)膜として公知であり;それらの厚さの全体にわたって不均質に分布している細孔を含有する膜は一般に、非対称(又は異方性)膜として公知である。
【0115】
本発明の目的のためには、「溶媒ではない媒体」という用語は、所定の温度で本発明のポリマー(Ff)粒子を溶解することができない1種以上の液体物質からなる媒体を意味する。
【0116】
溶媒ではない媒体は、典型的には水を含み、任意選択的には、アルコール若しくはポリアルコール、好ましくは短鎖、例えば1~6個の炭素原子を有する脂肪族アルコール、より好ましくはメタノール、エタノール、イソプロパノール、及びエチレングリコールから選択される少なくとも1種の有機溶媒を含む。
【0117】
溶媒ではない媒体は、通常、組成物(C)の調製に使用される液体媒体と混和性のものの中から選択される。
【0118】
本発明の濾過膜は、典型的には、1種以上のポリマー(Ff)粒子を含む少なくとも1つの層を含む。
【0119】
本発明の濾過膜は、有利には、本発明のこの第2の好ましい実施形態による方法によって得られる。
【0120】
本発明の濾過膜は、様々な液相及び/又は気相の濾過に特に適している。
【0121】
第4の例では、本発明は、
- 本発明の1種以上のポリマー(Ff)粒子、
- 少なくとも1種の電気活性化合物[化合物(EA)]、
- 1種以上の有機溶媒を含む液体媒体、
- 任意選択的な少なくとも1種の導電性化合物[化合物(C)]、及び
- 任意選択的な1種以上の添加剤、
を含有する電極形成組成物[組成物(E)]に関する。
【0122】
本発明の組成物(E)は、好ましくは、
- 組成物(E)の総重量に対して0.5重量%~50重量%、好ましくは1重量%~30重量%、より好ましくは5重量%~20重量%の、1種以上のポリマー(Ff)粒子、
- 少なくとも1種の電気活性化合物[化合物(EA)]、
- 1種以上の有機溶媒を含む液体媒体、
- 任意選択的な少なくとも1種の導電性化合物[化合物(C)]、及び
- 任意選択的な1種以上の添加剤、
を含有する。
【0123】
本発明の組成物(E)は、典型的には、本発明の組成物(C)に、少なくとも1種の電気活性化合物[化合物(EA)]と、任意選択的な少なくとも1種の導電性化合物[化合物(C)]と、任意選択的な1種以上の添加剤とを添加することによって得られる。
【0124】
本発明の組成物(E)は、電気化学デバイス用の電極の製造方法における使用に特に適しており、前記方法は、
(1d)本発明の組成物(E)を準備すること、
(2d)工程(1d)で準備した組成物(E)を金属基材の1つの表面に塗布することより表面被覆した電極を準備すること、及び
(3d)工程(2d)で準備した表面被覆した電極を乾燥すること、
を含む。
【0125】
金属基材は、典型的に金属集電体として作用する。
【0126】
金属基材は、一般に、銅、アルミニウム、鉄、ステンレス鋼、ニッケル、チタン又は銀などの金属でできた箔、メッシュ又はネットである。
【0127】
本発明の電極は、典型的には25℃~200℃の間に含まれる温度で乾燥される。
【0128】
電気化学デバイス用の電極の製造方法の工程(3d)では、乾燥は、大気圧下と真空下のいずれかで実施することができる。或いは、乾燥は、手が加えられた雰囲気下で、例えば、典型的には特には水分が除かれた(0.001%v/v未満の水蒸気含量)不活性ガス下で行うことができる。乾燥温度は、本発明の電極からの1種以上の溶媒(S)の蒸発によって除去が達成されるように選択されるであろう。
【0129】
したがって、本発明は、電気化学デバイス用の電極にも関し、前記電極は、
- 本発明の1種以上のポリマー(Ff)粒子、
- 少なくとも1種の電気活性化合物[化合物(EA)]、
- 任意選択的な少なくとも1種の導電性化合物[化合物(C)]、及び
- 任意選択的な1種以上の添加剤、
を含む。
【0130】
本発明の電気化学デバイス用の電極は、有利には本発明の方法によって得られる。
【0131】
本発明の電気化学デバイス用の電極は、好ましくは、
- 電極の総重量に対して0.1重量%~15重量%、好ましくは0.3重量%~10重量%の本発明の1種以上のポリマー(Ff)粒子、
- 電極の総重量に対して99.9重量%~85重量%、好ましくは99.7重量%~90重量%の少なくとも1種の電気活性化合物[化合物(EA)]、
- 任意選択的な少なくとも1種の導電性化合物[化合物(C)]、及び
- 任意選択的な1種以上の添加剤、
を含む。
【0132】
本発明の電極は、好ましくは1種以上の有機溶媒を含まない。
【0133】
電気化学デバイスの非限定的な例には、リチウムイオン二次電池などの二次電池が含まれる。
【0134】
本発明の目的のためには、用語「電気活性化合物[化合物(EA)]」は、電気化学デバイスの充電段階及び放電段階中にアルカリ又はアルカリ土類金属イオンをその構造中に組み入れる又は挿入する、且つ、それから実質的に放出することができる化合物を意味することを意図する。化合物(EA)は好ましくは、リチウムイオンを組み入れる又は挿入する及び放出することができる。
【0135】
化合物(EA)の性質は、電極が正極であるか負極であるかに依存する。
【0136】
リチウムイオン二次電池用の正極を形成する場合、化合物(EA)は、式LiMQ2(式中、Mは、Co、Ni、Fe、Mn、Cr及びVなどの遷移金属から選択される少なくとも1つの金属であり、Qは、O又はSなどのカルコゲンである)の複合金属カルコゲナイドを含むことができる。これらの中で、式LiMO2(式中、Mは、上で定義されたものと同じものである)のリチウム系複合金属酸化物を使用することが好ましい。これらの好ましい例としては、LiCoO2、LiNiO2、LiNixCo1-xO2(0<x<1)及びスピネル構造LiMn2O4を挙げることができる。
【0137】
代案として、リチウムイオン二次電池用の正極を形成する場合には更に、化合物(EA)は、式M1M2(JO4)fE1-f(式中、M1は、M1金属の20%未満を表す別のアルカリ金属で部分的に置換されていてもよいリチウムであり、M2は、+1~+5の酸化レベルでの、そして0を含めて、M2金属の35%未満を表す1つ若しくは複数の追加の金属によって部分的に置換されてもよい、Fe、Mn、Ni、Al若しくはそれらの混合物から選択される+2の酸化レベルの、又はV、Co若しくはそれらの混合物から選択される+3の酸化レベルでの遷移金属であり、JO4は、任意のオキシアニオンであり、ここで、Jは、P、S、V、Si、Nb、Mo又はそれらの組み合わせのいずれかであり、Eは、フルオリド、ヒドロキシド又はクロリドアニオンであり、fは、一般的に0.75~1に含まれるJO4オキシアニオンのモル分率である)のリチウム化又は部分的にリチウム化された遷移金属オキシアニオンベースの電気活性材料を含んでもよい。
【0138】
上で定義したM1M2(JO4)fE1-f電気活性材料は、好ましくは、ホスフェート系であり、規則正しい又は変性されたカンラン石構造を有することができる。
【0139】
より好ましくは、化合物(EA)は、式Li3-xM’yM’’2-y(JO4)3(式中、0≦x≦3であり、0≦y≦2であり、M’及びM’’は、同じ又は異なる金属であり、それらの少なくとも1つは遷移金属であり、JO4は好ましくは、別のオキシアニオンで部分的に置換されてもよいPO4であり、ここで、Jは、S、V、Si、Nb、Mo又はそれらの組み合わせのいずれかである)を有する。更により好ましくは、化合物(EA)は、式Li(FexMn1-x)PO4(式中、0≦x≦1であり、xは、好ましくは1である(すなわち、式LiFePO4のリチウム鉄ホスフェートである))のホスフェート系電気活性材料である。
【0140】
リチウムイオン二次電池用の負極を形成する場合、化合物(EA)は、好ましくは、
- リチウムのホストとして機能する粉末、フレーク、繊維、又は球体(例えばメソカーボンマイクロビーズ)などの形態で典型的には存在している、リチウムを挿入することができる黒鉛状炭素;
- リチウム金属;
- 特には米国特許第6203944号明細書(3M INNOVATIVE PROPERTIES CO.)3/20/2001及び/又は国際公開第00/03444号パンフレット(MINNESOTA MINING CO.)1/20/2000に記載されているものなどのリチウム合金組成物;- 一般に式Li4Ti5O12ムによって表されるチタン酸リチウム(これらの化合物は一般に、可動イオン、すなわちLi+を取り込むと低レベルで物理的に膨張する「ゼロ歪」挿入材料とみなされる);
- 高いLi/Si比のケイ化リチウムとして一般に知られる、リチウム-ケイ素合金、特に式Li4.4Siのケイ化リチウム;
- 式Li4.4Geの結晶相を含むリチウム-ゲルマニウム合金;
- リチウム-スズ及びリチウム-アンチモン合金;
を含む。
【0141】
本発明の目的のためには、用語「導電性化合物[化合物(C)]」は、電子伝導性を電極に付与することができる化合物を意味することを意図する。
【0142】
化合物(C)は典型的には、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、黒鉛粉末、黒鉛繊維などの炭素質材料、並びにニッケル及びアルミニウム粉末又は繊維などの金属粉末又は繊維からなる群から選択される。
【0143】
本発明の組成物(E)は、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、アリルエチルカーボネート、ビニルアセテート、ジビニルアジペート、アクリル酸ニトリル、2-ビニルピリジン、無水マレイン酸、メチルシンナメート、アルキルホスホネート、及びビニル含有シランベースの化合物などの1種以上の添加剤を更に含んでもよい。
【0144】
参照により本明細書中に組み込まれる任意の特許、特許出願及び刊行物の開示が、それが用語を不明確とし得る程度まで本出願の記載と対立する場合、本記載が優先するものとする。
【0145】
本発明をこれから以下の実施例を参照してより詳細に説明するが、その目的は例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0146】
フッ化ビニリデンポリマー粉末粒子の固有粘度の決定
固有粘度(η)[dl/g]は、Ubbelhode粘度計を用い、フッ化ビニリデンポリマー粉末粒子を約0.2g/dlの濃度でN,N-ジメチルホルムアミド中に溶解させることによって得られた溶液の、25℃での落下時間に基づいて、以下の式を使用して測定した:
(式中、cはポリマー濃度[g/dl]であり、η
rは相対粘度、すなわちサンプル溶液の落下時間と溶媒の落下時間との間の比であり、η
spは比粘度、すなわちη
r-1であり、Γはフッ化ビニリデンポリマーについては3に相当する実験因子である)。
【0147】
フッ化ビニリデンポリマー粉末粒子の粒子サイズ分布(PSD)の決定
粒子サイズ分布は、2mWの電源を備えたHe-Neレーザーを使用して、Hydro 2000Gサンプル分散ユニットを備えたMalvern Instruments Ltd.からのMastersizer 2000装置を用いて測定した。粒子サイズ分布は、1リットルのエタノールに1gのTRITON(登録商標)X-100非イオン性界面活性剤を含む溶液にフッ化ビニリデンポリマー粉末粒子を分散させることによって調製した水溶液で測定した。
【0148】
フッ化ビニリデンポリマー粉末粒子の溶解時間
3gのフッ化ビニリデンポリマー粉末粒子を、室温で500rpmに保たれたマグネチックスターラーを使用して、撹拌しながら47gのN-メチル2-ピロリドン(NMP)が入っているビーカーの中に注ぎ入れることにより、前記フッ化ビニリデンポリマーのNMP中の6%w/w溶液を得た。
15秒後スターラーを停止し、最初の目視検査を行った:粉末の種類によっては、この段階でフッ化ビニリデンポリマーの凝集体の存在が検出される場合がある。
次いで、フッ化ビニリデンポリマーのNMP溶液が入っているビーカーを2つ目のマグネチックスターラー上に移動させ、今度は高温のTbath45℃に保たれている加熱されている浴の中に入れた。マグネチックスターラーは500rpmで保持した。加熱されている浴にビーカーを入れてから、目に見えるフッ化ビニリデンポリマー粒子又はその凝集物がなく溶液が透明に見えた時点の完全な溶解までの時間を記録した。次いで、この手順による溶解時間を、2つの段階の合計によって得た:室温で15秒、及び溶解までにTbathで測定された時間。30分の総溶解時間後に試験を停止した。溶解時間が30分を超えた場合には、試験は失敗である。
【0149】
実施例1:ポリマー1及びポリマー1の分散液1の調製
4リットルの反応器の中に、2103gの脱塩水及び懸濁剤としての1.76gのALCOTEX(登録商標)80ポリビニルアルコールを順番に入れた。反応器は、880rpmの速度で作動するインペラーを備えていた。反応器を3回通気し、窒素で1barまで20℃で2回加圧した。次いで、イソドデカン中のt-アミルペルピバレート開始剤の75重量%溶液4.1g及びアクリル酸(AA)モノマー0.5gを反応器に入れ、続いて1164gのフッ化ビニリデン(VDF)モノマーを入れた。次に、反応器を徐々に55℃及び最終圧力110バールまで加熱した。14.4g/lのAAモノマー水溶液を合計857gまで供給することにより、実験全体を通して温度を55℃で一定に維持し、圧力を110barで一定に維持した。圧力を90barまで低下させ、大気圧に到達するまで懸濁液を脱気することにより、重合の実施を停止した。その後、そのようにして得られたポリマーを回収し、脱塩水で数回洗浄した。
【0150】
水で洗浄した後に得られた湿った状態のポリマーの一部を65℃でオーブン乾燥して乾燥させ、ポリマー1粉末、すなわち25℃のDMF中で0.29l/gの固有粘度を有するVDF-アクリル酸(AA)(0.8モル%)を生成した。粉末のD50は111.9μmである。
【0151】
残りの湿った状態のポリマーに真水を添加して、15重量%の水性分散液:分散液1を得た。
【0152】
実施例2:分散液1の熱処理
実施例1で得た分散液1の調製を複数回繰り返して、水中で15重量%のポリマー1の濃度で15Kgの分散液1を製造した。分散液1を真空下で22リットルの撹拌されている反応器の中に入れた。温度を135℃に固定し、撹拌速度を300RPMにした。反応器内部の最終圧力は3.7bar(abs)であり、実質的に水圧によって与えられた。分散液をこれらの条件で60分間維持した。その後、スラリーを取り出す際に、撹拌しながら反応器を40℃まで冷却した。次いで、分散液を濾過し、90~95℃の温度の空気を含む流動床に入れてポリマー(FT-A)を得た。ケーキの流動化は非常に優れており、未処理のケーキよりも優れていた。
【0153】
熱処理及び乾燥後のポリマー(FT-A)のポリマー粒子において、凝集又は実施例1の重合後に得られたポリマー1の初期の白色からの色の変化は観察されなかった。
【0154】
比較例3:流動床におけるポリマー1粉末の熱処理
ポリマー1粉末を、流動床において135℃で合計60分間処理した。
流動床の運転条件は以下の通りであった:
流動床(微粉末のリサイクルありとなしの両方の構成を試験した)
体積:30L:
製品のホールドアップ:最小1kg~最大10kg
気流速度:最小20~最大70cm/s(床の空のセクションについて)
運転温度:125~135℃
滞留時間:設定温度に到達後60分
加熱媒体:熱風(予熱は電気又は蒸気によるものであった)
監視下の運転パラメータ:空気の入口温度、バルクの温度、床内の圧力降下。
【0155】
粉末は、流動床において10分後に着色した。処理の終了時に、褐色粉末としてポリマー1TAが得られた。
【0156】
熱は、入口空気のみによって供給した。加熱時間を最小限に抑えるために、装置を予熱してから周囲温度で粉末を供給した。空気の入口温度は、粉末が溶けたり軟化したりするリスクなしに加熱時間を最小限に抑えるための最善の折り合いであった。空気の入口温度は、バルク粉末の温度よりも最大10℃高かった。粉末と高温表面(特に配電網)との接触は回避しなければならなかった。
【0157】
処理中に、ポリマー1粒子の凝集が観察された。粒子の凝集は、床における滞留時間の増加と共に増加した。この傾向のため、試験期間全体にわたって粒子の動きと優れた流動性を維持することは困難であった。特に、製品の一部が凝集し、その結果分配板に落下した。部分的に軟化又は事前に溶融した製品が、処理の終了時に分配板上で見つかった。
【0158】
同じ処理を、窒素雰囲気下の流動床で行った。色の改善は見られなかった一方で、面倒な装置を使用することでプロセスがより煩雑になった。
【0159】
比較例4:循環空気によるポリマー1粉末の熱処理
ポリマー1粉末を、以下の運転条件でオーブン中で処理した:
装置:オーブン
粉末のホールドアップ:1kg
運転温度:135℃
滞留時間:60分
加熱媒体:電気加熱及び空気循環
【0160】
オーブン中での処理により、ポリマー1TB:凝集体の形成を特徴とする着色ポリマー粒子が得られた。凝集体の形態ではないポリマー粒子(球形)の形状でさえも、熱処理によって変化し、非常に不規則になった。
【0161】
窒素雰囲気下で処理を行うことにより、色のわずかな改善を達成することができ、粒子がより明るい色になった。
【0162】
実施例5:ポリマー1、ポリマー(FT-A)、ポリマー1TA、及びポリマー1TBの溶解時間
実施例2、比較実施例3、及び比較実施例4で得られたポリマー粉末の溶解試験を上で定義した通りに行った。
【0163】
これらの結果を表1に示す。
【0164】
【0165】
本発明の方法に従って処理されたポリマーの粉末は、粉末の形態でポリマーを熱処理することによって得られた粉末よりも、NMPへのより速い溶解を示す。
【0166】
全体として、本発明の方法は、当該技術分野で利用可能な複数の方法によって乾燥ポリマー粉末に対して行われる熱処理と比較して、得られるポリマー粒子の色及び溶解性に関してのみならず、必要な操作手順及び装置に関しても複数の利点を示す。本発明の方法の熱処理は、中間乾燥を必要とせずに、重合反応後に必要とされる洗浄後にインラインで行うことができる。その場合の最終乾燥の温度は未処理の粉末の場合と同じであるが、乾燥は時間の点で、したがって完了に必要とされるエネルギーの点でより効率的である。