(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】改質リン酸タングステン酸ジルコニウム、負熱膨張フィラー及び高分子組成物
(51)【国際特許分類】
C01B 25/45 20060101AFI20240415BHJP
C08K 3/24 20060101ALI20240415BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20240415BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240415BHJP
【FI】
C01B25/45 H
C08K3/24
C08L63/00 C
C08L101/00
(21)【出願番号】P 2021528112
(86)(22)【出願日】2020-06-09
(86)【国際出願番号】 JP2020022671
(87)【国際公開番号】W WO2020261976
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2022-12-23
(31)【優先権主張番号】P 2019116670
(32)【優先日】2019-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000230593
【氏名又は名称】日本化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】深沢 純也
(72)【発明者】
【氏名】畠 透
(72)【発明者】
【氏名】加藤 拓馬
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/087722(WO,A1)
【文献】特開2016-175796(JP,A)
【文献】特開2012-134411(JP,A)
【文献】特開平01-186505(JP,A)
【文献】特開平08-325574(JP,A)
【文献】Eigo TSUCHIYA et al.,“Studies on Surface Modifications of Inorganic Fillers Using Titanate Coupling Agents. I.”,Journal of the Japan Society of Colour Material,1984年,Vol. 57, No. 7,p.363-372,DOI: 10.4011/shikizai1937.57.363
【文献】Kohji TAKEUCHI et al.,“Surface Modification of Inorganic Fillers”, Hyomen Kagaku,1982年,Vol. 3, No. 2,p.65-74,DOI: 10.1380/jsssj.3.65
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 25/45
C01G 41/00
C09C 3/12
C08L 101/00
C08K 3/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子の表面が、チタネート系カップリング剤で被覆処理されている、改質リン酸タングステン酸ジルコニウムであって、
前記改質リン酸タングステン酸ジルコニウム1gを85℃の水70mLで1時間加熱処理し、次いで25℃に冷却して24時間静置したときに溶出するジルコニウムイオン量、タングステンイオン量及びリンイオン量が、改質リン酸タングステン酸ジルコニウム1g当たり、ジルコニウムイオン量が10μg以下、タングステンイオン量が300μg以下及びリンイオン量が50μg以下である、改質リン酸タングステン酸ジルコニウム。
【請求項2】
前記粒子のBET比表面積が0.1m
2
/g~50m
2
/gである、請求項1に記載の改質リン酸タングステン酸ジルコニウム。
【請求項3】
前記粒子の平均粒子径が0.02μm~50μmである、請求項1又は2に記載の改質リン酸タングステン酸ジルコニウム。
【請求項4】
前記粒子は副成分元素を更に含有する、請求項1ないし3の何れか一項に記載の改質リン酸タングステン酸ジルコニウム。
【請求項5】
前記チタネート系カップリング剤の被覆量が、前記粒子に対して、0.05~30質量%である、請求項1ないし4の何れか一項に記載の改質リン酸タングステン酸ジルコニウム。
【請求項6】
前記チタネート系カップリング剤は、溶解度パラメータ(SP値)が10以下である請求項1ないし5の何れか1項に記載の改質リン酸タングステン酸ジルコニウム。
【請求項7】
前記チタネート系カップリング剤が、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート及びテトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネートから選ばれる少なくとも1種である、請求項1ないし6の何れか一項に記載の改質リン酸タングステン酸ジルコニウム。
【請求項8】
請求項1ないし7の何れか一項に記載の改質リン酸タングステン酸ジルコニウムを含む負熱膨張フィラー。
【請求項9】
更に、元素(M)を含む酸化物及び/又は水酸化物である無機化合物を含有する請求項8に記載の負熱膨張フィラー。
【請求項10】
前記元素(M)が、Znである請求項9に記載の負熱膨張フィラー。
【請求項11】
請求項8~10の何れか一項に記載の負熱膨張フィラーと、高分子化合物とを含有する高分子組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改質リン酸タングステン酸ジルコニウム、それを用いた負熱膨張フィラー及び高分子組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、物質は、温度が上昇すると、熱膨張によって長さや体積が増大する性質を有する。一方で、熱の付与によって逆に体積が小さくなる性質を有する負の熱膨張を示す材料(以下、「負熱膨張材」ということもある。)が知られている。負の熱膨張を示す材料は、例えば他の材料とともに用いて、温度変化による材料の熱膨張による体積変化を抑制するために用いられる。
【0003】
負の熱膨張を示す材料としては、例えば、β-ユークリプタイト、タングステン酸ジルコニウム(ZrW2O8)、リン酸タングステン酸ジルコニウム(Zr2WO4(PO4)2)、ZnxCd1-x(CN)2、マンガン窒化物、ビスマス・ニッケル・鉄酸化物等が知られている。
【0004】
リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子の線膨張係数は、0~400℃の温度範囲で-3.4~-3.0ppm/℃であり、負熱膨張性が大きいことが知られている。このリン酸タングステン酸ジルコニウム粒子と、正の熱膨張を示す材料(以下「正熱膨張材」ということもある。)とを併用することで、低熱膨張の材料を製造することができる(特許文献1~3参照)。また、正熱膨張材である樹脂等の高分子化合物と負熱膨張材とを併用することも提案されている(特許文献4~5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-35840号公報
【文献】特開2015-10006号公報
【文献】国際公開第2017/61403号パンフレット
【文献】特開2015-38197号公報
【文献】特開2016-113608号公報
【0006】
しかし、リン酸タングステン酸ジルコニウムは、水に接触すると、構造中のジルコニウム、タングステン及びリンがイオンとして溶出してしまい、これに起因して負熱膨張材としての性能が低下したり、樹脂等の材料と混合した場合に成形品の性能が劣化したりする問題がある。
【0007】
また、前記問題に加えて、リン酸タングステン酸ジルコニウムは、樹脂等の疎水性の高分子化合物との親和性が低いので、高分子化合物中に均一に分散させることが困難であり、その結果、所望の低熱膨張性材料を得ることが困難であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、リン酸タングステン酸ジルコニウム中のジルコニウムイオン、タングステンイオン及びリンイオンの水への溶出を抑制し、高分子化合物に含有させた負熱膨張フィラーとして好適に使用することができる改質リン酸タングステン酸ジルコニウム、それを用いた負熱膨張フィラー及び高分子組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題に鑑み鋭意研究を重ねた結果、リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子の表面を、チタネート系カップリング剤で被覆処理して改質することによって、水に接触した場合においても、ジルコニウムイオン、タングステンイオン及びリンイオンの溶出を効果的に抑制できることを見出した。また、改質したリン酸タングステン酸ジルコニウムは、樹脂等の高分子化合物中に均一に分散させて、負熱膨張フィラーを含む低熱膨張性材料を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明が提供する第1の発明は、リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子の粒子表面が、チタネート系カップリング剤で被覆処理されている改質リン酸タングステン酸ジルコニウムである。
【0011】
また、本発明が提供する第2の発明は、第1の発明の改質リン酸タングステン酸ジルコニウムを含むことを特徴とする負熱膨張フィラーである。
【0012】
また、本発明が提供する第3の発明は、第2の発明の負熱膨張フィラーと、高分子化合物とを含有する高分子組成物である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の改質リン酸タングステン酸ジルコニウムによれば、水に接触した場合においても、ジルコニウムイオン、タングステンイオン及びリンイオンの溶出を効果的に抑制し、負熱膨張材としての優れた性能を発現させることができる。また、本発明の改質リン酸タングステン酸ジルコニウムは、樹脂等の高分子化合物に均一に分散させることができ、負熱膨張フィラーを含む低熱膨張性材料を首尾よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子試料1の形状を示す走査型電子顕微鏡の写真である。
【
図2】
図2は、リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子試料2の形状を示す走査型電子顕微鏡の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を好ましい実施形態に基づいて説明する。本発明の改質リン酸タングステン酸ジルコニウム(以下、これを「改質ZWP」ともいう。)は、リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子(以下、これを「ZWP粒子」ともいう。)の表面が、チタネート系カップリング剤で被覆されているものである。つまり、本発明の改質リン酸タングステン酸ジルコニウムは、リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子を芯材として、該粒子の表面をチタネート系カップリング剤により被覆処理することにより形成された被覆処理物(以下、これを「チタネート系カップリング剤の被覆処理物」ということがある)の被覆層が形成されている粒子からなる。以下の説明では、「L~M」(L及びMはそれぞれ任意の数字)と記載した場合、特に断らない限り「L以上M以下」を意味する。
【0016】
改質ZWPに含まれるチタネート系カップリング剤の被覆処理物は、ZWP粒子の表面全体を満遍なく連続して被覆していてもよく、或いは該粒子表面の一部のみを被覆していてもよい。前者の場合、改質ZWPは、ZWP粒子の表面全域がチタネート系カップリング剤の被覆処理物によって完全に被覆されて、該粒子の表面が露出していない状態になっている。後者の場合、改質ZWPは、その表面が下地であるリン酸タングステン酸ジルコニウムからなる部位と、チタネート系カップリング剤の被覆処理物からなる部位とから構成される。チタネート系カップリング剤の被覆処理物がZWP粒子の表面の一部のみを被覆している場合、被覆部位が連続していてもよく、海島状に不連続に被覆していてもよく、又はこれらの組み合わせであってもよい。
【0017】
本発明に用いられる原料のリン酸タングステン酸ジルコニウムは、下記一般式(1)で表されるものである。
Zrx(WO4)y(PO4)z・・・(1)
(式中、xは、1.7≦x≦2.3、好ましくは1.8≦x≦2.2であり、yは、0.85≦y≦1.15、好ましくは0.90≦y≦1.10であり、zは、1.7≦z≦2.3、好ましくは1.8≦z≦2.2である。)
【0018】
本発明におけるチタネート系カップリング剤とは、中心元素であるTiに、アルコキシ基に代表される加水分解性の置換基、および、有機酸の残基の両方が結合した、反応性の表面改質剤を示し、粒子の表面に存在する求核性の置換基と容易に反応し、結果として、加水分解性の置換基が脱離し、Tiに結合した状態で残存する有機酸の残基によって粒子表面の親油性や分散性を変化させることが可能な材料である。ZWP粒子表面に存在するチタネート系カップリング剤の被覆物としては、チタネート系カップリング剤から加水分解性の置換基が脱離したものや、或いはチタネート系カップリング剤から加水分解性の置換基が脱離してチタン原子がZWP粒子表面に酸素原子などを介して結合しているものが含まれ得る。
【0019】
本発明におけるチタネート系カップリング剤は、溶解度パラメータ(SP値)が10以下、好ましくは8.0~9.6であることがフィラー粒子からイオンの溶出を抑制する観点から好ましい。
なお、溶解度パラメータとは、ヒルデブラントによって導入された正則溶液論により定義された値であり、溶剤や有機化合物の溶解性や相溶性の指標として一般的に用いられるものである。前記溶解度パラメータは、化学物質の構造や物理特性から公知の方法で求められるものである。
【0020】
本発明におけるチタネート系カップリング剤の例としては、以下の式(i)又は式(ii)で表されるものが挙げられる。
(R1O)Ti(OR2)(OR3)(OR4) (i)
(式中、R1はアルキル基であり、R2~R4はそれぞれアルキル基、アルキル基中の末端以外のメチレン基が酸素原子で置換された基、アルケニル基、アルケニル基中の末端以外のメチレン基が酸素原子で置換された基、アルカノイル基、ジアルキルパイロホスフェート基及びアルキルベンゼンスルホニル基から選ばれる基である。ただし、R2~R4のいずれか1以上が、アルカノイル基、ジアルキルパイロホスフェート基又はアルキルベンゼンスルホニル基である。R1とR2が一緒になって環を形成してもよい。)
【0021】
(R5O)Ti(OR6)(OR7)(OR8)・[P(OR9)2OH]2 (ii)
(式中、R5~R8はそれぞれアルキル基、アルキル基中の末端以外のメチレン基が酸素原子で置換された基、アルケニル基、又はアルケニル基中の末端以外のメチレン基が酸素原子で置換された基である。R9はアルキル基である。)
【0022】
上記で挙げた式(i)においてR1~R4のうち2又は3つの基が同一であってもよく、R1~R4が全て異なっていてもよい。式(ii)で表される化合物においてR5~R8のうち2又は3つの基が同一であってもよく、R5~R8が全て異なっていてもよい。2つ存在するR9は同一であってもよく異なっていてもよい。式(i)で表される化合物において、アルカノイル基、ジアルキルパイロホスフェート基又はアルキルベンゼンスルホニル基の好ましい数は1~3、更に好ましくは2~3、特に好ましくは3である。
【0023】
上記で挙げたアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル墓、n-ペンチル基、イソペンチル基、2-メチルブチル基、1-メチルブチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、3-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、1-メチルペンチル基、ヘプチル基、オクチル基、イソオクチル基、2-エチルヘキシル基、3,7-ジメチルオクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ラウリル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基(ステアリル基を含む)、ノナデシル基、エイコシル基、トリアコンチル基およびテトラコンチル基等が挙げられる。アルケニル基としては、上記のアルキル基の炭素-炭素一重結合の一つ又は二つ以上を炭素-炭素二重結合に変更した基が挙げられる。
【0024】
アルキル基中の末端以外のメチレン基が酸素原子で置換された基とは、アルコキシ基ではなく、アルキル基中のメチレン基同士の間を酸素原子で中断された基が挙げられる。アルケニル基中の末端以外のメチレン基が酸素原子で置換された基についても同様の基が挙げられる。
【0025】
R1~R4、R5~R8で表されるアルキル基、アルキル基中の末端以外のメチレン基が酸素原子で置換された基、アルケニル基、及び、アルケニル基中の末端以外のメチレン基が酸素原子で置換された基の炭素原子数としては3~40が好ましく、3~32がより好ましい。R2~R4で表されるアルカノイル基としては炭素原子数2~40のものが好ましい。R2~R4で表されるジアルキルパイロホスフェート基のアルキル基としては炭素原子数3~40のものが好ましい。R2~R4で表されるアルキルベンゼンスルホニル基のアルキル基としては炭素原子数3~40のものが好ましい。R9で表されるアルキル基としては、炭素原子数3~40のものが好ましい。
【0026】
R1とR2が一緒になって形成する環としては-CH2-CH2-又は-CH2-COO-等が式(i)における酸素原子及びチタン原子と構成する環が挙げられる。
【0027】
上記式(i)又は式(ii)で表される各基は、置換基で置換されていてもよい。その場合の置換基としては、ハロゲン原子、エポキシ基、アミノ基、ビニル基、アクリル基、イソシアネート基、メルカプト基が挙げられる。
【0028】
本発明に用いられるチタネート系カップリング剤の具体例としては、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、テトライソプロピル(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2-ジアリルオキシメチル-1-ブチル)ビス(ジトリデシル)ホスファイトチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート等が挙げられ、これらは1種又は2種以上で用いることができる。
これらのうち、特に、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネートが撥水性能および粒子表面との反応性の観点から好ましい。
なお、これらのチタネート系カップリング剤は、例えば、味の素ファインテクノ株式会社から市販されている。
【0029】
本発明の改質ZWPは、前記チタネート系カップリング剤による被覆量(存在量)が、ZWP粒子に対し、好ましくは0.05~30質量%、より好ましくは0.1~10質量%、更に好ましくは0.2質量%~5.0質量%である。被覆量がこのような範囲であることによって、改質ZWPからのジルコニウムイオン、タングステンイオン及びリンイオンの溶出を効果的に抑制し、負熱膨張材としての性能を高めることができる。また、改質ZWPの疎水性が高くなり、負熱膨張フィラーとして用いたときに、樹脂等の正熱膨張材への分散性が良好となる。
【0030】
正熱膨張材に対する分散性や充填特性を向上させる観点から、原料となるZWP粒子には、前記一般式(1)に含まれる元素であるP、W、Zr及びO以外の元素(以下、これを「副成分元素」ともいう。)が含有されていることが好ましい。
【0031】
副成分元素としては、例えば、Li、Na、K等のアルカリ金属元素、Mg、Ca、Sr、Ba等のアルカリ土類金属元素、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Y、Nb、Mo、Ag、Hf、Ta等の遷移金属元素、La、Ce、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Yb等の希土類元素、Al、Zn、Ga、Cd、In、Sn、Pb、Bi等の遷移金属以外の他の金属元素、B、Si、Ge、Sb、Te等の半金属元素、S等の非金属元素、F、Cl、Br、I等のハロゲン元素等が挙げられる。これらの元素は、前記粒子中に1種又は2種以上含まれていてもよい。これらのうち、正熱膨張材に対する分散性や充填特性を一層向上させる観点から、前記粒子は、Mg、Al及びVの少なくとも一種の副成分元素を含むことが好ましく、これに加えて、正熱膨張材の熱膨張係数を抑制しやすくする観点から、副成分元素としてMg及び/又はAlが含まれていることが更に好ましい。
【0032】
優れた負熱膨張性を有し、且つ正熱膨張材への分散性及び充填特性に優れたものとする観点から、ZWP粒子における副成分元素の含有量は、ZWP粒子に対して、好ましくは0.1質量%~3質量%であり、更に好ましくは0.2質量%~2質量%である。副成分元素が2種類以上含まれる場合は、副成分元素の含有量は、副成分元素の合計質量に基づいて算出する。また、改質ZWPにおける副成分元素の含有量は、上述と同様の範囲とすることができる。副成分元素の含有量は、例えば蛍光X線分析装置等の測定装置を用いて、粉末プレス法、溶融ガラスビード法等の方法で測定することができる。
【0033】
負熱膨張性、並びに正熱膨張材への分散性及び充填特性を一層優れたものとする観点から、副成分元素としてMg及びAlの双方を含む場合、ZWP粒子中のAl元素の含有量は、好ましくは100ppm~6000ppm、更に好ましくは1000ppm~5000ppmである。また、実用的な線膨張係数を有し、更に分散性及び充填特性に優れたものになる観点から、Mg元素の含有量は、ZWP粒子に対して、好ましくは0.1質量%~3質量%、更に好ましくは0.22質量%~2質量%である。
【0034】
改質ZWPの粒子形状は、特に制限されるものではなく、例えば、球状、粒状、板状、鱗片状、ウィスカー状、棒状、フィラメント状、1若しくは2以上の稜線を有する不規則な砕石状(以下、これを「破砕状」ともいう。)、又はこれらの組み合わせであってもよい。後述するように、ZWPの粒子形状が球状のものを用いることが好ましいことから、改質ZWPの粒子形状も球状であることが好ましい。
【0035】
リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子の表面をチタネート系カップリング剤の被覆処理物で被覆した本発明の改質リン酸タングステン酸ジルコニウムによれば、水に接触した場合であっても、リン酸タングステン酸ジルコニウムからのジルコニウム、タングステン及びリンのイオン溶出を効果的に抑制することができ、負熱膨張材としての優れた性能を発現させることができる。また、本発明の改質リン酸タングステン酸ジルコニウムは、好ましくは疎水性のチタネート系カップリング剤の被覆処理物に由来する疎水性を有しているので、樹脂等の疎水性の高分子化合物に均一に分散させることができ、その結果、低熱膨張性の材料を首尾よく製造することができる。更に、改質ZWPの粒子どうしの凝集を抑制できるという利点もある。
【0036】
以下に、本発明の改質ZWPの好適な製造方法を説明する。改質ZWPの製造方法は、ジルコニウム源、タングステン源及びリン源を反応させてZWP粒子を得る工程、及び得られたZWP粒子の表面をチタネート系カップリング剤で被覆処理する工程の2つに大別される。
【0037】
まず、ジルコニウム源、タングステン源及びリン源を反応させてZWP粒子を得る。本発明に用いられるZWP粒子の製造方法は、特に制限されるものではなく、例えば、(i)リン酸ジルコニウム、酸化タングステン及びMgO等の反応促進剤を湿式ボールミルで混合して得られた混合物を焼成する方法(例えば、特開2005-35840号公報参照)、(ii)塩化ジルコニウム等のジルコニウム源、タングステン酸アンモニウム等のタングステン源及びリン酸アンモニウム等のリン源を湿式混合し、得られた混合物を焼成する方法(例えば、特開2015-10006号公報参照)、(iii)酸化ジルコニウム、酸化タングステン及びリン酸二水素アンモニウムを含む混合物を焼成する方法(例えば、Materials Research Bulletin、44(2009)、p.2045-2049参照)、或いは、(iv)タングステン化合物と、リンとジルコニウムとを含む無定形の化合物との混合物を反応前駆体として、該反応前駆体を焼成する方法(例えば、国際公開第2017/061402号パンフレット参照)等が挙げられる。
【0038】
改質ZWPを正熱膨張材に対するフィラーとして用いる際の取扱いを容易にする観点から、ZWP粒子は、そのBET比表面積が好ましくは0.1m2/g~50m2/g、更に好ましくは0.1m2/g~20m2/gである。また、改質ZWPのBET比表面積は、上述と同様の範囲とすることができる。BET比表面積は、例えばBET比表面積測定装置(カンタクロームインスツルメンツ株式会社製、AUTOSORB-1)を用いて測定することができる。
【0039】
同様の観点から、ZWP粒子は、その平均粒子径が好ましくは0.02μm~50μm、更に好ましくは0.5μm~30μmである。また、改質ZWPの平均粒子径は、上述と同様の範囲とすることができる。平均粒子径は、任意の100個の粒子を走査型電子顕微鏡を用いて観察し、そのときの粒子の最大長さの算術平均値として求めることができる。最大長さとは、粒子の二次元投影像を横断する線分のうち最も大きい長さをいう。
【0040】
ZWP粒子の粒子形状は、例えば、球状、粒状、板状、鱗片状、ウィスカー状、棒状、フィラメント状、破砕状、又はこれらの組み合わせであってもよく、特に制限されるものではないが、粒子形状が球状のものを用いることにより、粒子表面を満遍なくチタネート系カップリング剤の被覆処理物で均一に被覆することができるためジルコニウムイオン、タングステンイオン及びリンイオンの水への溶出をいっそう抑制することができる観点からZWP粒子の粒子形状は球状であることが特に好ましい。
【0041】
上述した粒子径や比表面積、粒子形状等の諸特性を工業的に有利な方法で制御しやすく、且つ負熱膨張性に優れた改質ZWPを得る観点から、ZWP粒子の製造方法として、前記方法(iv)で製造されたZWP粒子を用いることが好ましい。
【0042】
次いで、上述の方法で得られたZWP粒子の表面をチタネート系カップリング剤で被覆処理する。本工程は、湿式法又は乾式法で行うことができる。
【0043】
チタネート系カップリング剤の被覆処理を湿式法によって行う場合は、前述のチタネート系カップリング剤を所望の濃度で含む分散液に、ZWP粒子を浸漬してスラリーとし、該スラリーを噴霧乾燥するか、或いは該スラリーを固液分離して固形分を乾燥して、チタネート系カップリング剤を加水分解及び縮合させる。これによって、目的とする改質ZWPを得ることができる。分散液におけるチタネート系カップリング剤の濃度は、ZWPにおける被覆量が上述した範囲となるように適宜調整すればよい。
【0044】
チタネート系カップリング剤の被覆処理を乾式法によって行う場合、例えばZWP粒子と、チタネート系カップリング剤とを、ヘンシェルミキサー、気流式粉砕機等の混合装置を用いて混合するか、又は、前記ZWP粒子と、チタネート系カップリング剤を溶剤で希釈した希釈液とを混合し、その後、必要に応じて上述した条件で加熱処理して、チタネート系カップリング剤を加水分解及び縮合させる。これによって、目的とする改質ZWPを得ることができる。乾式法においては、前記ZWP粒子と、チタネート系カップリング剤との混合物をそのまま用いて改質ZWPを製造するので、チタネート系カップリング剤の被覆量は、チタネート系カップリング剤の仕込み量から理論的に算出された値と略一致する。
【0045】
このように製造された本発明の改質ZWPは、水の存在下であっても、改質ZWPからのイオン溶出が抑制され、負熱膨張材として好適に用いられるものである。本発明の改質ZWPは、1gの改質ZWPを85℃の水70mLに入れて1時間加熱処理し、次いで25℃まで冷却して24時間静置したときに溶出するジルコニウム(Zr)イオン量、タングステン(W)イオン量及びリン(P)イオン量が、改質リン酸タングステン酸ジルコニウム1g当たり、ジルコニウム(Zr)イオン量が10μg以下、好ましくは5μg以下であり、タングステン(W)イオンが300μg以下、好ましくは200μg以下であり、また、リン(P)イオンが50μg以下、好ましくは30μg以下である。これらのイオン量は、イオンの価数によらず、Zr,W,Pの各元素を有するイオンの総量が上述の範囲以下であればよい。各イオン量は、例えばICP発光分光装置を用いて測定することができる。
【0046】
上述した改質ZWPの各種物性は、例えば上述した物性及び形状を有するZWP粒子を用い、前記チタネート系カップリング剤との反応量を適宜調整することによって達成することができる。
【0047】
以上の工程を経て得られた本発明の改質ZWPは、これをそのまま粉末等の乾燥状態で、又は該粉末を溶媒に分散させた湿潤状態で、低熱膨張性材料を製造するための負熱膨張フィラーとして好適に用いることができる。
【0048】
本発明の負熱膨張フィラーは、本発明の前記改質ZWPを含むものである。該負熱膨張フィラーは、改質ZWP単独で用いても良く、また、改質ZWPからのリンイオンを、更に捕捉する目的で、改質ZWPと、Zn、Si、Al、Ba、Ca、Mg、Ti、V、Sn、Co、Fe及びZrから選ばれる元素(M)を1種又は2種以上含有する無機化合物(以下、単に「無機化合物」ということがある)との混合物として用いることができる。
【0049】
無機化合物としては、元素(M)を含む酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、珪酸塩等が挙げられ、これらの無機化合物は1種又は2種以上で用いることができる。これらのうち、元素(M)を含む酸化物又は水酸化物が特に水に対して不溶であり、溶出するリンイオンの捕捉効果が高くなる観点から好ましい。
また、前記元素(M)としては、これらのうち、Zn、Al、Ca、Baが好ましく、特にZnを含有する無機化合物が好ましい。Znを含有する化合物は、リンイオンの吸着性能が特に優れているので改質ZWPから溶出するリンイオンを効果的に吸着して捕捉することができる。
なお、無機化合物は、元素(M)を2種以上含む複合酸化物、複合水酸化物或いは複合塩であってもよい。
【0050】
無機化合物の物性としては、走査型電子顕微鏡を用いた観察により求められる平均粒子径が50μm以下、好ましくは0.1~30μmとすることがフィラーとしての取り扱いの観点から好ましい。無機化合物の平均粒子径は、ZWP粒子の平均粒子径と同様の方法で測定できる。
【0051】
負熱膨張フィラーにおける無機化合物の配合量は、ZWP粒子に対して0.1質量%~3質量%、好ましくは0.2~2質量%とすることが負熱膨張性能の保持の観点から好ましい。この理由は、無機化合物の配合量が、ZWP粒子に対して0.1質量%以上であることで、リンイオンの捕捉効果が高いものとなり、一方、無機化合物の配合量が、ZWP粒子に対して3質量%以下とすることで無機化合物を多量に添加した際に負熱膨張性能が低下する傾向を容易に防止できる。
【0052】
改質ZWPと無機化合物の混合物の調製は、乾式又は湿式のいずれの方法でもよいが、製造が容易であるため乾式が好ましい。また、前述した改質ZWPを乾式で調製する際に、混合装置に、更に無機化合物を投入してそのまま混合処理を行ってもよい。無機化合物の混合装置への添加時期は、ZWP粒子とチタネート系カップリング剤との混合処理中、ZWP粒子とチタネート系カップリング剤との混合処理後、或いはZWP粒子とチタネート系カップリング剤の混合装置への仕込み時であってもよい。
なお、前述した混合装置へ無機化合物を添加して負熱膨張材を調製した場合には、無機化合物の粒子表面がチタネート系カップリング剤の被覆処理物で被覆される場合もあるが、通常は、無機化合物の粒子表面が、部分的にチタネート系カップリング剤の被覆処理物で被覆されたものになるので、このような状態のものであっても差し支えない。
【0053】
また、本発明の負熱膨張フィラーは、該負熱膨張フィラーと高分子化合物とを混合することによって、高分子組成物を製造することができる。この高分子組成物は、改質ZWPが備える高い負熱膨張性に起因して、熱膨張率が抑制された材料となる。
【0054】
本発明の高分子組成物に用いられる高分子化合物としては、特に制限されるものではないが、好ましくは正熱膨張性を有する樹脂等である。このような樹脂としては、例えばゴム、ポリオレフィン樹脂、ポリシクロオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、ポリアクリレート樹脂、ポリフェニレンスルファイド樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)及びポリ塩化ビニル樹脂等が挙げられる。これらは単独で又は複数組み合わせて用いることができる。
【0055】
高分子組成物中の負熱膨張フィラーの含有量は、用いる高分子化合物の種類や、製造する材料の用途や目的に応じて適宜変更することができるが、高分子組成物に対して、好ましくは1体積%~90体積%である。同様に、高分子組成物中の高分子化合物の含有量は、高分子組成物に対して、好ましくは10体積%~99体積%である。
【0056】
高分子組成物は、負熱膨張フィラー及び高分子化合物に加えて、添加剤を更に含有させることができる。添加剤としては、例えば酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、離剤、染料、顔料を含む着色剤、難燃剤、架橋剤、軟化剤、分散剤、硬化剤、重合開始剤、無機充填剤等が挙げられる。添加物の含有量は、高分子組成物に対して、好ましくは10体積%~90体積%である。
なお、負熱膨張フィラーとして無機化合物を含有させることなく、改質ZWPを単独で含有するものを使用する場合には、高分子化合物の該添加剤として前記無機化合物を用いてもよい。
【0057】
本発明の高分子組成物は、公知の方法によって製造することができる。例えば、高分子化合物として硬化性樹脂を用いる場合、負熱膨張フィラー、硬化性樹脂(或いはプレポリマー)及び必要に応じて添加物を同時に混合して、成形体とする方法や、樹脂成分の一種にあらかじめ負熱膨張フィラー及び必要に応じて添加剤と混合して混合物とし、次いで、該混合物を硬化性樹脂(或いはプレポリマー)と混合して成形体とする方法等が挙げられる。
【0058】
また、高分子化合物として熱可塑性樹脂を用いる場合、負熱膨張フィラーと熱可塑性樹脂とをエクストルーダーで溶融混合して成形体とする方法や、負熱膨張フィラーと熱可塑性樹脂とを固体状態で混合した混合物を射出成形機を用いて成形体とする方法等が挙げられる。
【0059】
このように製造された本発明の高分子組成物は、負熱膨張フィラーとして用いられる改質ZWPが備える高い負熱膨張性によって、熱膨張率が効果的に抑制され、熱による変形が生じづらい材料となる。また、負熱膨張フィラーとして用いられる改質ZWPからのイオンの溶出が少ないので、特に、電子部品の封止材料等の精密機器の材料として好適に用いることができる。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0061】
<リン酸タングステン酸ジルコニウム試料の調製>
試料1:
市販の三酸化タングステン(WO
3;平均粒子径1.2μm)15質量部をビーカーに入れ、更に純水84質量部を添加し、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩を1質量部、仕込んだ。
室温(25℃)でスリーワンモーター攪拌機を用いて120分間撹拌して、三酸化タングステンを含む15質量%スラリーを調製した。スラリー中の固形分の平均粒子径は1.2μmであった。
次いで、このスラリーに水酸化ジルコニウムと、85質量%リン酸水溶液とを、スラリー中のZr:W:Pのモル比が2.00:1.00:2.00となるように室温(25℃)で添加し、2時間撹拌下に反応を行った。
反応終了後、スラリーの全量を200℃で大気下に24時間乾燥を行って、反応前駆体を得た。得られた反応前駆体についてX線回折分析を行った結果、三酸化タングステンの回折ピークのみが観察された。
次いで、得られた反応前駆体を1120℃で2時間大気中で焼成反応させ、白色の焼成品を得た。
得られた焼成品をX線回折分析したところ、焼成品は単相のZr
2(WO
4)(PO
4)
2であった。得られたリン酸タングステン酸ジルコニウム試料の平均粒子径を走査型電子顕微鏡観察により求めたほか、BET比表面積を上記の方法で測定した。結果を表1に示す。得られたリン酸タングステン酸ジルコニウム試料は走査型電子顕微鏡観察を行った結果、その粒子形状が破砕状であった(
図1)。
【0062】
試料2:
市販の三酸化タングステン(WO
3;平均粒子径1.2μm)15質量部をビーカーに入れ、更に純水84質量部を添加した。
室温(25℃)で120分間撹拌して、三酸化タングステンを含む15質量%スラリーを調製した。スラリー中の固形分の平均粒子径は1.2μmであった。
次いで、このスラリーに水酸化ジルコニウムと、85質量%リン酸水溶液と水酸化マグネシウムとを、スラリー中のZr:W:P:Mgのモル比が2.00:1.00:2.00:0.1となるように室温(25℃)で添加した後、80℃に昇温して4時間撹拌下に反応を行った。
反応終了後、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩を1質量部仕込み、スラリーを攪拌しながら、直径0.5mmのジルコニアビーズを仕込んだメディア攪拌型ビーズミルに供給し、15分間混合して湿式粉砕を行った。湿式粉砕後のスラリー中の固形分の平均粒子径は0.3μmであった。
次いで、220℃に設定したスプレードライヤーに、2.4L/hの供給速度でスラリーを供給し、反応前駆体を得た。得られた反応前駆体についてX線回折分析を行った結果、三酸化タングステンの回折ピークのみが観察された。
次いで、得られた反応前駆体を960℃で2時間大気中で焼成反応させ、白色の焼成品を得た。
得られた焼成品をX線回折分析したところ、焼成品は単相のZr
2(WO
4)(PO
4)
2であった。得られたリン酸タングステン酸ジルコニウム試料は走査型電子顕微鏡観察により平均粒子径を求めたほか、上記の方法でBET比表面積を測定した。結果を表1に示す。得られたリン酸タングステン酸ジルコニウム試料は走査型電子顕微鏡観察を行った結果、その粒子形状が球状であった(
図2)。
【0063】
【0064】
(実施例1)
50gのZWP試料1に対して、0.75g(1.5質量%)のチタネート系カップリング剤(イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート(SP値:9.2;味の素ファインテクノ社製)を加えて、気流式粉砕機(セイシン企業製、A-Oジェットミル)で粉砕混合し110℃で4時間、熱処理した。これにより破砕状のリン酸タングステン酸ジルコニウムを表面被覆処理した改質リン酸タングステン酸ジルコニウム試料を得た。なお、気流式粉砕機の条件は下記のとおりである。
・粉体供給速度:3g/分
・プッシャー圧:0.6MPa
・ジェット圧:0.6MPa
【0065】
(実施例2)
50gのZWP試料1に対して、0.75g(1.5質量%)のチタネート系カップリング剤(テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート(SP値:8.7;味の素ファインテクノ社製)を加えて、気流式粉砕機(セイシン企業製、A-Oジェットミル)で粉砕混合した後、110℃で4時間、熱処理した。これにより破砕状のリン酸タングステン酸ジルコニウムを表面被覆処理した改質リン酸タングステン酸ジルコニウム試料を得た。
【0066】
(実施例3)
50gのZWP試料1に対して、0.75g(1.5質量%)のチタネート系カップリング剤(イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート(SP値:9.2;味の素ファインテクノ社製))及び酸化亜鉛(平均粒子径0.5μm)0.6g(1.2質量%)を加えて、気流式粉砕機(セイシン企業製、A-Oジェットミル)で粉砕混合した後、110℃で4時間、熱処理した。これにより破砕状のリン酸タングステン酸ジルコニウムを表面被覆処理した改質リン酸タングステン酸ジルコニウム試料を得た。
【0067】
(実施例4)
50gのZWP試料2に対して、0.75g(1.5質量%)のチタネート系カップリング剤(イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート(SP値:9.2;味の素ファインテクノ社製))を加えて、20000rpmで1分間、混合機(ラボ用ミキサー:Labo Milser)で混合した後、110℃で4時間、熱処理した。これにより球状のリン酸タングステン酸ジルコニウムを表面被覆処理した球状の改質リン酸タングステン酸ジルコニウム試料を得た。
【0068】
(比較例1~2)
表面被覆処理していないリン酸タングステン酸ジルコニウム試料であるZWP試料1を比較例1の試料とし、ZWP試料2を比較例2の試料とした。
【0069】
(比較例3)エポキシ系シランカップリング剤
50gのZWP試料1に対して、0.25g(0.5質量%)のシランカップリング剤(3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)を加えて、気流式粉砕機(セイシン企業製、A-Oジェットミル)で粉砕混合した。これにより破砕状のリン酸タングステン酸ジルコニウムを表面被覆処理した改質リン酸タングステン酸ジルコニウム試料を得た。なお、気流式粉砕機の条件は下記のとおりである。
・粉体供給速度:3g/分
・プッシャー圧:0.6MPa
・ジェット圧:0.6MPa
【0070】
<物性の評価>
(粉体の熱膨張係数の評価)
実施例及び比較例のリン酸タングステン酸ジルコニウム又は改質リン酸タングステン酸ジルコニウム試料について、昇温機能が付いたXRD装置(リガク社 Ultima IV)にて、昇温速度20℃/分で、目標温度まで昇温し、更に目標温度に到達してから10分後に、試料のa軸、b軸、c軸に対する格子定数を測定し、格子体積変化(直方体)を線換算して、熱膨張係数を求めた(J. Mat. Sci.,35(2000)2451-2454参照)。その結果を表2に示す。
【0071】
(溶出試験)
<イオン溶出試験>
実施例及び比較例で得られた粒子1gを純水70mL中で、85℃で1時間、加熱処理した後、1時間後に純水で100mLに定容し1日静置(25℃)した。次いで、ろ過分離し、ろ液中のZrイオン濃度、Wイオン濃度及びPイオン濃度をICP発光分光装置で測定し、粒子1g当たりに溶出したZrイオン量及びWイオン量、Pイオン量を求めた。
【0072】
【0073】
(実施例5~8)
実施例で得られた改質リン酸タングステン酸ジルコニウム試料を5.8gと、エポキシ樹脂(三菱化学 jER807、エポキシ当量160~175)4.2gを計量し、真空ミキサー(シンキー製 あわとり練太郎ARV-310)にて、回転速度2000rpmで混合して、30体積%のペーストを作製した。
次いで、ペーストに硬化剤(四国化成製 キュアゾール)を100μL加えて、真空ミキサー(シンキー製 あわとり練太郎ARV-310)にて、回転速度1500rpmで混合して、150℃で1時間にわたり硬化させて、高分子組成物試料を得た。
次いで、この高分子組成物試料を5mm角×10mmに切り出して、熱機械分析装置(TMA)を用いて、昇温速度1℃/分で30~120℃の線膨張係数を測定した。その結果を表3に示す。また、得られた高分子組成物試料の断面を走査型電子顕微鏡像で観察したところ、実施例のいずれも、改質リン酸タングステン酸ジルコニウムが、高分子組成物中に均一に分散していることが確認できた。
【0074】
(参考例1)
平均粒子径10μmの球状溶融シリカ(線膨張係数5×10-7/℃)と3.3gとエポキシ樹脂(三菱化学 jER807、エポキシ当量160~175)4.2gを計量し、真空ミキサー(シンキー製 あわとり練太郎ARV-310)にて、回転速度2000rpmで混合して30体積%のペーストを作製した。
次いで、ペーストに硬化剤(四国化成製 キュアゾール)を100μL加えて、真空ミキサー(シンキー製 あわとり練太郎ARV-310)にて、回転速度1500rpmで混合して、150℃で1時間にわたり硬化させて高分子組成物試料を得た。この高分子組成物試料を5mm角×10mmに切り出して熱機械分析装置(TMA)を用いて昇温速度1℃/分で30~120℃の線膨張係数を測定した。その結果を表3に示す。また、得られた高分子組成物試料の断面を走査型電子顕微鏡像で観察したところ、球状溶融シリカ粒子が高分子組成物中に均一に分散していることが確認できた。
【0075】