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  • 特許-低温硬化シリコーン潤滑コーティング 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】低温硬化シリコーン潤滑コーティング
(51)【国際特許分類】
   A61L 31/10 20060101AFI20240415BHJP
   A61L 31/06 20060101ALI20240415BHJP
   A61L 31/12 20060101ALI20240415BHJP
   A61L 17/14 20060101ALI20240415BHJP
   A61L 17/10 20060101ALI20240415BHJP
   A61L 29/08 20060101ALI20240415BHJP
   A61L 29/12 20060101ALI20240415BHJP
   A61L 29/06 20060101ALI20240415BHJP
   C09D 183/04 20060101ALI20240415BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20240415BHJP
   C09D 7/62 20180101ALI20240415BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20240415BHJP
【FI】
A61L31/10
A61L31/06
A61L31/12 100
A61L17/14 100
A61L17/10
A61L29/08 100
A61L29/12 100
A61L29/06
C09D183/04
C09D7/20
C09D7/62
C09D7/63
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021530911
(86)(22)【出願日】2019-11-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-20
(86)【国際出願番号】 IB2019060233
(87)【国際公開番号】W WO2020110032
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2022-09-29
(31)【優先権主張番号】62/773,102
(32)【優先日】2018-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512080321
【氏名又は名称】エシコン・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Ethicon, Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】オウ・デュアン・リ
(72)【発明者】
【氏名】バイレ・クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】チチョッキ・ジュニア・フランク・アール
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2016-0039498(KR,A)
【文献】特表2011-529519(JP,A)
【文献】国際公開第2019/014403(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/106413(WO,A1)
【文献】特表2015-504467(JP,A)
【文献】特表2016-512067(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106009688(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104531056(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 17/00
A61L 29/00
A61L 31/00
A61L 27/00
C09D 183/00
C09D 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑性シリコーンコーティングでコーティングされた医療用具であって、
表面を有する医療用具と、
前記表面の少なくとも一部上の潤滑性シリコーンコーティングであって、
反応性官能基を有する架橋性シリコーンポリマー、
ヘキサメチルジシロキサンを含むシリカ含有組成物、
シリコーン架橋剤、及び
触媒、を含むコーティング組成物から形成されている、潤滑性シリコーンコーティングと、を含み、前記触媒が、周囲温度で不活性の触媒であり、以下の式:
Pt[(CH=CH)(CHSi]O・C10(OH)(C=CH)
を有する白金ジビニルテトラメチルジシロキサンビニルシクロヘキサノール錯体から本質的になる、医療用具。
【請求項2】
前記架橋性シリコーンポリマーが、ビニル末端ポリジアルキルシロキサン、ビニル末端ポリジメチルシロキサン、ビニル末端ポリジフェニルシラン-ジメチルシロキサンコポリマー、ビニル末端ポリフェニルメチルシロキサン、ビニル末端ポリフルオロプロピルメチル-ジメチルシロキサンコポリマー、及びビニル末端ポリジエチルシロキサンからなる群から選択される、請求項1に記載の医療用具。
【請求項3】
前記架橋性シリコーンポリマーが、ビニル末端ポリジメチルシロキサンを含む、請求項1に記載の医療用具。
【請求項4】
前記シリカ含有組成物が、トリメチルシリル表面処理シリカ充填剤をさらに含む、請求項1に記載の医療用具。
【請求項5】
前記シリカ含有組成物が、HCR(高一貫性ゴム)ベース及びLSR(液体シリコーンゴム)ベースを含む、反応性シリカ含有シリコーンベースから選択される、請求項1に記載の医療用具。
【請求項6】
前記シリカ含有組成物が、液体シリコーンゴムベースである、請求項5に記載の医療用具。
【請求項7】
前記シリコーン架橋剤が、ポリメチルヒドロシロキサン、ポリメチルヒドロ-コ-ポリジメチルシロキサン、ポリエチヒドロシロキサン、ポリメチルヒドロシロキサン-コ-オクチルメチルシロキサン、及びポリメチルヒドロシロキサン-コ-メチルフェニルシロキサンからなる群から選択される、請求項1に記載の医療用具。
【請求項8】
前記シリコーン架橋剤が、ポリメチルヒドロシロキサンを含む、請求項1に記載の医療用具。
【請求項9】
前記コーティング組成物が、前記コーティング組成物の重量に基づいて、約75重量%~約93重量%の有機溶媒を更に含む、請求項1に記載の医療用具。
【請求項10】
前記コーティング組成物が、全固形分に基づいて、約0.2重量%~約6重量%の前記シリコーン架橋剤を含み、前記コーティング組成物が、前記コーティング組成物の重量に基づいて、約75重量%~約93重量%の有機溶媒を更に含む、請求項1に記載の医療用具。
【請求項11】
前記コーティング組成物が、全固形分に基づいて、約0.0004重量%~約0.0036重量%の白金触媒を含み、前記コーティング組成物が、前記コーティング組成物の重量に基づいて、約75重量%~約99.5重量%の有機溶媒を更に含む、請求項1に記載の医療用具。
【請求項12】
前記コーティング組成物が、キシレン、トルエン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、高分子量オレフィンの混合物、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される溶媒を更に含む、請求項1に記載の医療用具。
【請求項13】
前記医療用具が、ステンレス鋼、PTFE、ガラス、セラミクス、ポリマー、高融点金属合金、記憶合金、並びに金属及び非金属の複合材からなる群から選択される生体適合性材料を含む、請求項1に記載の医療用具。
【請求項14】
前記医療用具が、外科用縫合針、縫合糸、皮下針、外科用メス、カテーテル、切刃、外科用プローブ、内視鏡、ハサミ、及び切刃からなる群から選択される、請求項1に記載の医療用具。
【請求項15】
前記医療用具が、外科用縫合糸を含む、請求項14に記載の医療用具。
【請求項16】
コーティング組成物であって、
反応性官能基を有する架橋性シリコーンポリマー、
ヘキサメチルジシロキサンを含むシリカ含有組成物、
シリコーン架橋剤、及び
触媒、を含み、前記触媒が、周囲温度で不活性の触媒であり、以下の式:
Pt[(CH=CH)(CHSi]O・C10(OH)(C=CH)
を有する白金ジビニルテトラメチルジシロキサンビニルシクロヘキサノール錯体から本質的になる、コーティング組成物。
【請求項17】
前記コーティング組成物が、約70℃以上の温度で硬化可能である、請求項16に記載のコーティング組成物。
【請求項18】
前記コーティング組成物が、約95℃の温度において約2分で硬化可能である、請求項17に記載のコーティング組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2018年11月29日出願の米国仮出願第62/773,102号の利益を主張し、全ての目的のためにその内容全体が参照により本明細書に援用される。
【0002】
本出願は、全ての目的のためにその内容全体が参照により本明細書に援用される、本出願と同時に出願された同一出願人によるPCT出願第________号(代理人整理番号ETH6058WOPCT1号)に関する。
【0003】
(発明の分野)
本発明が関連する技術分野は、シリコーン系潤滑性コーティング、具体的には、医療用具において使用するためのシリコーン系潤滑性コーティングである。
【背景技術】
【0004】
潤滑性コーティングは、典型的には、組織に接触する縫合糸、皮下針、外科用縫合針、カテーテル、及び切開装置などの埋め込み可能な又は挿入可能な医療用具に必要である。このようなコーティングの主な目的は、用具の組織への刺入及び挿入を容易にして、手技を補助することである。
【0005】
このような用途のために従来の生体適合性潤滑剤が多数開発されており、これらは、典型的には、シリコーン(例えば、ポリジメチルシロキサン)又はシリコーン含有コーティングである。例えば、縮合硬化シリコーンコーティングは、医療用具において潤滑性コーティングとして有用であることが知られている。このようなコーティング配合物は、アミノ及びアルコキシル官能基を含有しており、これらは、比較的低い温度及び高い湿度レベルで硬化(架橋)し得る。また、注射針用の潤滑性コーティングとしてアミノプロピル含有シリコーンを用いることも知られている。これらコーティングは、架橋剤としてエポキシ含有シリコーンを用い、複数の刺入において改善された刺入性能を有する場合がある。また、得られるコーティング層の機械的特性を改善するために、シリコーン溶液のブレンドにおいて(例えば、粉末形態の)ポリプロピレンなどの熱可塑性ポリマーを利用することも知られている。ポリプロピレン粉末は、潤滑性を犠牲にすることなくシリコーン針コーティングの耐久性を高める場合がある。上に列挙した既知であり、かつ従来用いられているシリコーンコーティングの大部分は、塗布後に長い熱硬化工程が必要であり、これは、かなり多くの場合、迅速な高速生産プロセスには不適切である。
【0006】
紫外線曝露後に、針などの医療用具において急速に(<10秒)硬化し得る急速紫外線硬化性シリコーン潤滑性コーティングを含む、コーティングの硬化時間を改善するための試みが行われている。しかし、このようなコーティングに典型的に含有されている特定の紫外線硬化性成分の潜在的危険性が懸念の原因となることもある。
【0007】
GE SiliconeのKarstedtは、1970年代始めにヒドロシリル化用高活性白金触媒を発明した(米国特許第3,775,452号)。この「Karstedt触媒」は、周囲温度で高活性であり、この性質のため、阻害剤を添加することなく大部分の市販のシリコーンコーティングで使用することが困難である。その後、この問題に対処しようと試みる幾つかの他の白金触媒が発明された。例えば、カールシュテット触媒の発明直後に白金-シクロビニルメチルシロキサン錯体が作製され(米国特許第3,814,730号)、この触媒は、ビニル/ヒドリド反応性コーティング溶液混合物の生産プロセス可使時間を延長することを目的とする。
【0008】
同一出願人による米国特許第9,434,857号及び同第10,441,947号は、医療用具のための新規潤滑性コーティングについて記載している。このコーティングは、改善された潤滑性及び耐久性を提供し、従来のコーティングプロセスで容易に塗布される。これら特許は、また、このようなコーティングにおいて用いるための新規白金触媒を目的とする。触媒は、周囲温度における架橋を阻害しながら急速硬化を提供して、コーティングの生産可使時間を改善する。このような組成物の制約は、コーティングを形成するために硬化される組成物に必要な高温(例えば、160℃超)に起因して変形するであろうポリマー材料のコーティングには適していないことである。
【0009】
外科用縫合針及び縫合糸などの医療用具において有用であるためには、潤滑性シリコーンコーティングは、耐久性がありかつ均一でばらつきなく塗布するのが容易であることが重要である。縫合糸で組織を接近させたり閉じたりする外科用手技では、典型的には、外科用縫合針及び縫合糸が組織を複数回通過することが必要である。組織を複数回通過する際に各刺入が容易であると外科医の作業が容易になり、また、組織の修復又は閉鎖がうまくいく可能性が高くなる。患者は、治癒及び優れた予後の促進だけではなく、手技が早いことによっても、創傷又は切開部が環境中の病原体に曝露される可能性のある時間が短くなり、また、麻酔が必要な場合は患者が全身麻酔下でいる必要のある時間が短くなるという利益を享受する。
【0010】
外科用縫合針などのいくつかの医療用具は、典型的には、高速生産プロセスで製造される。例えば、参照により本明細書に援用される米国特許第5,776,268号には、このようなプロセスが開示されている。針を(典型的には、ワイヤ原料から)形成及び成形した後、プロセス過程の針を洗浄し、浸漬、噴霧、ブラッシング等の従来の方法によって針を潤滑性コーティングでコーティングする。コーティングを均一に塗布して針の外面を実質的にコーティングした後、次いで、シリコーンコーティングを硬化させるエネルギー(例えば、熱)が供給されるコーティング硬化プロセスのための適切な硬化設備(例えば、オーブン)に針を移動させる。
【0011】
シリコーンコーティングは、典型的には、シリコーンポリマー成分と好適な触媒及び溶媒とを混合することによって製造現場で調製される。このようなコーティング及び触媒は、特に、医療用具で使用するための医療等級である場合、高価であり、典型的には、この分野で「可使時間」が短いと従来知られているものを有している。可使時間という用語は、当該技術分野において従来から使用されている通り、シリコーンコーティングが触媒と混合され、コーティングプロセスで塗布する準備が整っている場合、典型的には、生産施設における周囲条件で架橋が生じるために、有用である時間の量が限られていることを意味する。このように可使時間が短いと、例えば、早期硬化を含む多数の既知の問題が生じる可能性があり、その使用時間中のコーティング溶液の粘度が増加につながる。これは、通常、医療用具の表面上に得られるコーティングにばらつきを生じさせるので、視覚的にも性能的にも欠陥が生じる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
この分野では、改善された潤滑性及び複数回の組織通過に対する耐久性を有する医療用具用の改善されたシリコーンコーティングが必要とされている。また、潤滑性及び耐久性を犠牲にすることなく改善された硬化時間を有し、潜在的に有害な成分を含有せず、縫合糸及び他のポリマー用具などのコーティングされる用具を変形させない条件下で塗布することができる、改善された触媒組成物及びシリコーンコーティングも必要とされている。
【0013】
更に、当該技術分野では、熱に曝露されたときに急速に硬化するが、周囲条件では経時的に、また通常の生産環境では長期間にわたって、シリコーンコーティング溶液中で比較的安定である、シリコーンコーティング用の改善された触媒が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
したがって、新規触媒組成物及び潤滑性シリコーンコーティング組成物について開示する。
【0015】
一実施形態では、コーティング組成物は、反応性官能基を有する第1の架橋性シリコーンポリマー、シロキサン架橋剤、及び別個の成分として添加してもよいが、より好ましくは当該架橋性シリコーンポリマーに含有されているシリカ含有組成物を含有する。また、コーティング組成物は、白金触媒を含有し得る。
【0016】
本発明の別の態様は、表面を有する医療用具であって、表面の少なくとも一部が上記新規シリコーンコーティング組成物でコーティングされている、医療用具である。
【0017】
本発明の更に別の態様は、シリコーン潤滑性コーティング組成物による医療用具のコーティング方法である。医療用具をコーティングする新規方法では、表面を有する医療用具を提供する。潤滑性シリコーンコーティングは、表面の少なくとも一部に塗布される。コーティング組成物は、架橋性シリコーンポリマー、及び別個の成分として添加してもよいが、より好ましくは当該架橋性シリコーンポリマーに含有されているシリカ含有組成物を含有する。また、コーティングは、シリコーン架橋剤及び触媒も含有する。
【0018】
本発明のなお更に別の態様は、架橋性シリコーンコーティングで使用するための新規白金触媒である。触媒は、以下の式:Pt[(CH=CH)(CHSi]O・C10(OH)(C=CH)を有する白金錯体からなる。
【0019】
本発明の更なる態様は、上記触媒を用いて架橋性シリコーンポリマー含有コーティング溶液を硬化させる方法である。
【0020】
本発明のこれら及び他の態様及び利点は、以下の説明からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の新規触媒のNMRピークと比較したカールシュテット触媒のNMRピーク比較である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
シリコーン及びシロキサンという用語は、この分野で従来互換的に使用されており、その使用法が本明細書で採用されている。更に、本明細書で使用するとき、用語「周囲温度」は、約20~約25℃の温度を説明することを意図する。
【0023】
潤滑性コーティング組成物
本発明の一態様は、外科用縫合針及び縫合糸及び他のポリマー医療用具などの医療用具の表面をコーティングするのに特に有用な新規潤滑性シリコーンコーティング組成物を目的とする。
【0024】
一実施形態では、組成物は、架橋性シロキサンポリマーと、別個の成分として添加されてもよいが、より好ましくは当該架橋性シリコーンポリマーに含有されているシリカ含有組成物との混合物、従来のシリコーン架橋剤、及び白金触媒を含む。シリコーンポリマー成分は、コーティング溶液又は組成物を形成するために、例えばキシレンを含む従来の芳香族有機溶媒及び脂肪族有機溶媒(例えば、ヘキサン、ヘプタン、又はその商業的誘導体など)とブレンドされる。コーティング溶液に好適な他の溶媒としては、低分子量シロキサン、例えば、ヘキサメチルジシロキサンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
本発明のコーティング組成物において有用な架橋性シロキサンポリマーは、ビニル末端、ヒドロキシル及びアクリレート官能基を含むが、これらに限定されない反応性官能基又は末端官能基を有する。本発明の潤滑性コーティングで用いることができる架橋性シロキサンポリマーは、好ましくは、ビニル末端ポリジアルキルシロキサン又はビニル末端ポリアルキルアリールシロキサンを含む。例としては、以下のビニル末端シロキサンポリマー:ポリジメチルシロキサン、ポリジフェニルシラン-ジメチルシロキサンコポリマー、ポリフェニルメチルシロキサン、ポリフルオロプロピルメチル-ジメチルシロキサンコポリマー、及びポリジエチルシロキサンが挙げられるが、これらに限定されない。ビニル末端架橋性ポリメチルシロキサンを用いることが特に好ましい。
【0026】
本発明のコーティングで用いることができる架橋剤としては、従来のシリコーン架橋剤、例えば、ポリメチルヒドロシロキサン、ポリメチルヒドロ-コ-ポリジメチルシロキサン、ポリエチヒドロシロキサン、ポリメチルヒドロシロキサン-コ-オクチルメチルシロキサン、ポリメチルヒドロシロキサン-コ-メチルフェニルシロキサンが挙げられる。本発明のコーティングで用いるための1つの好ましい従来の触媒は、ポリメチルヒドロシロキサンである。本発明のコーティングにおける架橋密度の正確な制御は、非架橋性シリコーンポリマー(例えば、ポリジメチルシロキサン)の全架橋ポリマーに対する比を正確に制御することによって達成される。全架橋ポリマーは、任意選択で、白金錯体触媒の存在下における、官能化架橋性ポリマーと架橋剤との反応、例えば、ビニル末端ポリジメチルシロキサンとポリメチルヒドロシロキサンとのビニルシリル化反応によって形成される。非架橋性ポリマー、例えばポリジメチルシロキサンと、全架橋ポリマーとの比は、得られる相互貫入ポリマー網目構造を構造的に強化するのに十分有効であり、典型的には、約0.1wt./wt.~約9wt./wt.、好ましくは約0.40wt./wt.~約4.0wt./wt.(ビニル末端ポリジメチルシロキサンの重量に対する架橋剤の重量)である。本発明のコーティングにおいて有用なビニル末端架橋性ベースポリマー、例えば、ポリジメチルシロキサンベースポリマーは、約9000~約400,000、好ましくは約40,000~約100,000の分子量を有する。このポリマーの例としては、Gelest,Inc.(Morrisville,Pa.19067)から入手可能なGelest製品コード番号DMS-V31、DMS-V33、DMS V-35、DMS V42、DMS-V46、DMS-V52等が挙げられるが、これらに限定されない。ビニル末端ポリジメチルジシロキサンの典型的な分子構造は、以下の通りである:
【0027】
【化1】
式中、nは、分子量によって定義される。
【0028】
使用されるシリコーンポリマーの分子量は、粘度と分子量との関係に基づいて推定することができる(page 11,SILICONE FLUIDS:STABLE,INERT MEDIA ENGINEERING AND DESIGN PROPERTIES,Catalog published by Gelest,Inc.11 East Steel Rd.Morrisville,PA 19067)。25℃におけるセンチストークス(cSt)で表される動粘度μに相関する分子量(M)>2,500についてはA.J.Barryの関係式を用いて、シリコーンの分子量Mを以下のように推定することができる:
log μcSt=1.00+0.0123M0.5
(Journal of Applied Physics 17,1020(1946)にA.J.Barryによって公開)
【0029】
架橋性シロキサンポリマーは、医療用具の表面上にコーティングのマトリクス相を形成する。ビニル末端ポリジメチルシロキサンは、適切な条件下において白金触媒の存在下でポリメチルヒドロシロキサン架橋剤と反応し、ビニル末端ポリジメチルシロキサン直鎖ポリマーは、この反応の結果として、互いに完全に架橋される。ポリメチルヒドロシロキサン架橋剤の量は、ビニル末端ポリジメチルシロキサンベースポリマーに比べて大きく化学量論的に過剰である。架橋剤中の余分なSiH官能基は、医療用具、例えばポリマー縫合糸の表面上のOH官能基と反応して、高温でSi-O-C結合を形成するか、又はスチール製の針の場合はSi-O-Fe結合を形成すると考えられる。シリコーンコーティングと用具との間にこのようにして作製される共有結合は、この反応の結果として、用具の表面にコーティングを接着的に付着させる。
【0030】
本発明の実施において用いられるポリメチルヒドロシロキサン(polymethyhydrosiloxane)架橋剤は、約1000~約3000、好ましくは約1400~約2100の分子量を有する。このポリマー架橋剤の例としては、Gelest,Inc.(Morrisville,Pa.19607)から入手可能なGelest製品コード番号HMS-991、HMS-992が挙げられるが、これらに限定されない。ポリメチルヒドロシロキサン架橋剤の典型的な分子構造は、以下の通りである:
【0031】
【化2】
式中、nは、分子量によって定義される。
【0032】
また、ポリメチルヒドロ-コ-ポリジメチルシロキサンを、本発明の新規コーティングにおいて架橋剤として用いることもできる。このポリマーの例としては、Gelest製品コード番号HMS-301、HMS-501が挙げられるが、これらに限定されない。このシロキサンポリマー架橋剤の分子量は、典型的に、約900~約5,000、好ましくは約1,200~約3,000である。ポリメチルヒドロ-コ-ポリジメチルシロキサン架橋剤の典型的な分子構造は、以下の通りである:
【0033】
【化3】
式中、n及びmは、分子量によって定義される。
【0034】
シリカ含有組成物
本明細書で使用するとき、本発明との使用について記載されるシリカ含有組成物は、別個の成分(表面処理シリカなど)としての、又は架橋性シリコーンポリマー混合物中にシリカを含有する市販の組成物からのシリカ材料を含む。
【0035】
別個の成分として、シリカを本発明のコーティングに組み込んで、その機械的特性を改善し、何らかの形態の摩擦を生じさせて、縫合糸の結び目のセキュリティを確保する。コーティング溶液中の相分離を防止するポリシロキサンポリマーマトリックスへの相溶性を可能にするために、シリカ充填剤にはヘキサメチルシリル表面処理が必要である。処理されるシリカの例としては、ヘキサメチルジシラザン処理シリカ、すなわち、トリメチルシリル表面処理シリカ充填剤(Gelest SIS6962.0)が挙げられる。
【0036】
既にシリカを含有するシリコーンポリマーの場合、これらは、HCR(高一貫性ゴム)ベース及びLSR(液体シリコーンゴム)ベースを含む反応性シリカ含有シリコーンベースから選択されるシリカ含有組成物などの市販の原料から得ることができ、LSRベースが好ましい。この材料の他の市販例としては、Wacker 401-10、401-20、401-40ベース、及び液体シリコーンゴムベースが挙げられるが、これらに限定されず、この材料の市販例としては、Bluestar Silbione LSR 4370ベースが挙げられるが、これに限定されない。これらの種類の市販のシリコーンゴムベースは、表面処理シリカ充填剤を、様々な分子量のビニル末端ポリジメチルシロキサンポリマーと混合することによって調製される。充填剤とポリシロキサンポリマーとの間の相溶性を改善するために、混合プロセス中にその場での表面処理が行われてもよい。
【0037】
触媒
GE SiliconeのBruce Karstedtは、1970年始めに高活性白金触媒(「カールシュテット触媒」)を発明した(米国特許第3,775,452号)。ビニル末端ポリジメチルシロキサンは、わずか10ppmのKarstedt触媒を用いて、周囲温度において1分未満でポリメチルヒドロシロキサン架橋剤と反応し得る。典型的には、触媒活性が高いことから従来の針及び縫合糸の製造プロセスにおいてこの触媒を使用することは困難であるか又は不可能であるが、その理由は、従来の生産プロセスの経済的側面から、理想的に、そして、典型的には、針コーティングプロセスのための全触媒シリコーンコーティング溶液の場合は最長1週間の可使時間を、縫合糸コーティングプロセスの場合は1シフト(8時間)の可使時間が必要とされるためである。この問題に対処するために本発明の新規急速硬化白金触媒が開発され、本発明の架橋性シリコーンポリマー、例えばビニル末端ポリジメチルシロキサン及びポリメチルヒドロシロキサン、シリカ充填剤とこの新規触媒とから得られる混合物は、8時間周囲温度で安定であり得る。本発明の新規触媒の存在下における、架橋性シリコーンポリマーと架橋剤、例えば、ビニル末端ポリジメチルシロキサン及びポリメチルヒドロシロキサンとの架橋反応は、中程度の高温(すなわち、70~110℃)において30秒未満で作動し得る。本発明の新規触媒は、以下に示すスキーム1に従ってカールシュテット触媒とビニルシクロヘキサノールとを反応させることによって調製される。本発明の新規触媒は、シリコーンコーティング溶液の硬化中にわたってより優れた制御を提供する。これは、従来、「コマンド硬化」と呼ばれる。
【0038】
【化4】
【0039】
本発明の新規触媒は、以下の方法で調製することができる。反応を完了させるのに十分有効な時間、例えば30分間、周囲温度で、キシレン溶液中のカールシュテット触媒をキシレン溶液中の低濃度のビニルシクロヘキサノールと混合し、反応の完了は、反応混合物の色が透明から薄褐色に変化することによって示される。
【0040】
本発明の新規触媒を含有する得られる触媒溶液は、本発明の潤滑性コーティング溶液の調製において使用する準備が整っている。得られる白金錯体触媒(白金ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体)の式は、以下の通りである。
Pt[(CH=CH)(CHSi]O・C10(OH)(C=CH)
【0041】
得られる触媒反応混合物は、少量の反応生成物ジビニルテトラメチルジシロキサンを含有することに留意すべきである。この成分は、触媒に影響を与えず、急速に蒸発する低沸点成分である。したがって、ジビニルテトラメチルジシロキサンを除去するための触媒混合物の精製は任意であり、その存在は、架橋性シリコーンポリマーの架橋反応には影響を与えないと考えられる。本発明の新規触媒は、低温又は周囲温度で阻害され、より高温又は硬化温度で活性化される、すなわち、触媒は、より低温又は周囲温度で不活化され、より高温又は硬化温度で活性化される。これにより、シリコーンコーティングにおける架橋性成分のコマンド硬化(command cure)(コマンド硬化触媒作用)が可能になり、所望の硬化温度でコーティングフィルムを急速に形成し、長い可使時間をもたらすので、縫合糸のコーティングプロセスに好適である。
【0042】
溶媒とコーティングとの混合手順
上記シリコーンポリマー及び新規白金触媒は、低沸点有機溶媒中に分散して、潤滑性コーティング溶液を形成する。シリコーン分散液には、低温脂肪族溶媒が使用される。芳香族溶媒及びヘキサメチルジシロキサンが、一般にシリコーン分散液に使用される。典型例としては、ペンタン、ヘプタン、ヘキサン、及びこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。シリコーンポリマー成分を均質なコーティング溶液に有効にブレンドするのに十分な濃度で有機溶媒を添加する。総溶媒濃度は、コーティングの厚さ要件に応じて、約80重量%~約99重量%、より典型的には約85重量%~約93重量%である。当業者は、コーティング溶液の固形分含量を変化させることによってコーティング厚さを操作できることを理解するであろう。
【0043】
成分の添加の順序が重要である。典型的なコーティング組成物は、以下の方法で調製される。シリカを別個の成分として添加する場合、ビニル末端ポリジメチルシロキサンを、表面処理シリカと共に、ヘキサメチルジシロキサンなどの第1の溶液中に、完全に均質になるまで最長2時間分散させる(溶液2)。次いで、ヘプタンを添加し(溶液3)、ポリメチルヒドロシロキサン架橋剤を添加する前に更に1時間混合する。最終成分として全ての触媒を添加した後、溶液を更に1時間かけて完全にブレンドする。
【0044】
以下の段落において、重量%とは、コーティング溶液中の全固形分含量の重量%である。本発明の新規コーティング組成物は、高い潤滑性及び耐久性、長い可使時間を有し、従来のコーティング設備を用いる従来のコーティングプロセスにおいて塗布するのに好適なシリコーンコーティングを有効に提供するのに十分な量のポリマー成分、シリカ含有組成物、架橋剤、触媒、及び溶媒を含有する。
【0045】
典型的には、コーティング溶液中のシリカの量は、約5重量%~約40重量%(全固形分)、より典型的には約10重量%~約30重量%(全固形分)、好ましくは約15重量%~約25重量%(全固形分)である。架橋性シリコーンポリマーの量は、典型的には、約60重量%~約95重量%(全固形分)、より典型的には約70重量%~約90重量%(全固形分)、好ましくは約75重量%~約85重量%(全固形分)である。シリコーン架橋剤の量は、典型的には、約0.2重量%~約6重量%(全固形分)、より典型的には約1重量%~約5重量%(全固形分)、好ましくは約2重量%~約4重量%(全固形分)である。本発明の新規潤滑性シリコーンコーティング組成物中の全固形分に基づく白金触媒の量(全固形分中の白金元素)は、典型的には、約0.0004重量%~約0.0036重量%、より典型的には約0.0012重量%~約0.0028重量%、好ましくは約0.0016重量%~約0.0024重量%である。
【0046】
本発明のコーティング組成物中の有機溶媒の量は、典型的には、約75重量%~約99.5重量%、より典型的には約80重量%~約95重量%、好ましくは約85重量%~約93重量%である。当業者は、本発明の新規コーティング組成物中に存在する溶媒の量が、幾つかの要因によって変動し、また、コーティング組成物中の溶媒量が、有効なコーティングを作製するように選択されることを理解するであろう。典型的に考慮される要因としては、塗布方法、硬化方法、利用するコーティング設備、周囲条件、厚さ等が挙げられる。本発明のコーティング組成物の各成分は、これら成分のブレンドからなり得ることが理解されるであろう。例えば、2以上の異なる分子量の非架橋性シリコーンポリマーを用いてもよい、又は異なる官能基及び/若しくは分子量を有する2以上の架橋性シリコーンポリマーを用いてもよい、等である。
【0047】
コーティングプロセス
本発明の新規シリコーン潤滑性コーティング溶液は、従来のコーティング技術及びプロセス、並びに従来のコーティング設備を用いて、ポリエステル縫合糸などの医療用具の表面に塗布される。コーティング設備の例は、単純なディップコーティングタンク及びコーティングを硬化させるためのインライン対流式オーブンであり得る。コーティングはまた、ブラッシング、ローリング、又は噴霧プロセスによって塗布され得る。ビニルシリル化付加架橋反応は、乾燥オーブンを通過させることによってインラインで完了させることができる。硬化時間は、100℃で20秒、95℃で120秒、又は70℃で60分もの短時間であり得る。本潤滑性シリコーンコーティングによって、フラッシュ硬化(Flash cure)を達成することができる。
【0048】
ポリマー医療用具の高温で変形可能な性質により、本発明の実施では、120℃を超える処理又はコーティング温度を超えないことが望ましい。好ましいコーティング処理温度は、約60~110℃、より好ましくは約90~100℃、最も好ましくは約95℃の範囲である。
【0049】
本発明の新規シリコーンコーティング組成物と共に利用することができる他の従来の硬化技術としては、熱(例えば、対流加熱)、紫外線、プラズマ、マイクロ波照射、電磁結合、電離放射線、レーザー等が挙げられる。コーティング前に、医療用具の表面は、電解研磨、酸化、超音波洗浄、プラズマ、コロナ放電処理、化学洗浄等の従来のプロセスを用いて従来の方法で調製される。
【0050】
コーティング性能の試験手順
本発明の新規組成物でコーティングされた医療用具のコーティング性能は、様々な従来の摩擦又は接着試験を用いて試験することができる。外科用縫合糸の場合、以下の試験を使用して、コーティング性能、耐久性、及び完全性を評価することができる。
【0051】
通過容易性試験:
組織を通して縫合糸を引っ張るための摩擦力を評価するために、単純な比較試験を使用した。試験の意図は、通過の力の絶対数を定量することではなく、縫合糸サンプル間の比較を確立することであった。
【0052】
25ミリメートルの厚さの高密度(約210Kg/m3又は13PCF)ポリウレタン発泡体のブロックを基材として使用した。片目針(one-eyed needle)を使用して、発泡体の厚さを通して縫合糸を引っ張った。縫合糸の端部をロードセルに取り付け、引張試験機に入れて、縫合糸を引っ張るための最大力を測定した。移動速度は、毎分2インチに設定した。
【0053】
結び目セキュリティ試験。
【0054】
結び目セキュリティ試験は、縫合糸が張力下にあるときの結び目の挙動を評価することからなる。試験は、一定の移動で引張試験機において実施する。縫合糸を塩化ナトリウム等張溶液に24時間浸漬し、湿潤状態で試験する。結び目を、固定されている(滑らない)、滑って壊れる、又は滑り抜ける(壊れない)として格付けする。最大引張力も報告することができる。
【0055】
上述の通り、新規潤滑性コーティングでコーティングされ得る医療用具としては、外科用縫合針及び縫合糸、皮下針、カテーテル、外科用プローブ、内視鏡、注射器、メス、切刃、整形外科用インプラント、トロカール、カニューレ等の従来の医療用具が挙げられる。医療用具は、外科用ステンレス鋼、PTFE、ガラス、合金鋼、高融点金属合金、記憶合金、ポリマー、金属及び非金属部材成分を含む複合材、これらの組み合わせ等を含む従来の生体適合性材料から構築される。生体適合性材料は、非吸収性材料及び生体吸収性材料を挙げることができる。
【0056】
以下の実施例は、本発明の原理及び実施を例示するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0057】
実施例1、白金触媒(合成手順)
6gのGelest SIP 6831(キシレン中2.2%白金ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体、カールシュテット触媒)を、周囲温度で30分間、6gのビニルシクロヘキサノールと混合したところ、混合物は薄褐色に変化する。混合物のうちの2gを195Pt NMR測定に供した。残りの混合物は、暗褐色になるまで更に5時間混合した。後の実施例で更に使用するために、10gの混合物を990gのテトラメチルジシロキサンで希釈した。
【0058】
スキーム1による新たなPt触媒の形成の証拠は、主に195Pt NMR分光学的同定に基づく。カールシュテット触媒は、約-6124ppmに識別可能なピークを与える。約-6001ppmの新規触媒の新しいピークは、図1に示すように混合プロセス中に30分で形成される。
【0059】
実施例2a、縫合糸コーティング溶液の調製
5.7gの市販の高デュロメータ用シリカ含有液体シリコーンベースゴム(Bluestar Silbione LSR4370base)を、0.17gのポリヒドロメチルシロキサン架橋剤(Gelest HMS 991)及び2種の溶媒(11.4gのヘキサメチルジシロキサン及び60.6gのヘプタン)と1時間混合した後、1.0gの実施例1の触媒を添加した。最終混合物を周囲温度で30分間撹拌した。
【0060】
実施例2b、サイズ2-0ポリエステル縫合糸のコーティング
1メートルのポリエステル縫合糸(Ethicon 2-0 Mersilene)を実施例2aのコーティング溶液に5秒間浸漬し、100℃の温度で5分間硬化させた。
【0061】
実施例2c、サイズ1ポリエステル縫合糸のコーティング
50メートルのポリエステル縫合糸(Ethicon 1 Mersilene)を実施例2aのコーティング溶液に2秒間浸漬し、95℃の温度で2分間、インライン硬化オーブンで硬化させた。
【0062】
実施例3a、縫合糸コーティング溶液の調製
2.85gの市販の高デュロメータ用シリカ含有液体シリコーンベースゴム(Bluestar Silbione LSR4370base)を、0.085gのポリヒドロメチルシロキサン架橋剤(Gelest HMS 991)及び2種の溶媒(11.4gのヘキサメチルジシロキサン及び63.5gのヘプタン)と1時間混合した後、0.5gの実施例1の触媒を添加した。最終混合物を周囲温度で30分間撹拌した。
【0063】
実施例3b、2-0ポリエステル縫合糸のコーティング
1メートルのポリエステル縫合糸(Ethicon 2-0 Mersilene)を実施例3aのコーティング溶液に5秒間浸漬し、100℃の温度で5分間硬化させた。
【0064】
実施例4a、縫合糸コーティング溶液の調製
5.7gの市販の高デュロメータ用シリカ含有液体シリコーンベースゴム(Bluestar Silbione LSR4370base)を、0.17gのポリヒドロメチルシロキサン架橋剤(Gelst HMS 991)及び2種の溶媒(11.4gのヘキサメチルジシロキサン及び23gのヘプタン)と1時間混合した後、1.0gの実施例1の触媒を添加した。最終混合物を周囲温度で30分間撹拌した。
【0065】
実施例4b、サイズ2-0ポリエステル縫合糸のコーティング
1メートルのポリエステル縫合糸(Ethicon 2-0 Mersilene)を実施例3aのコーティング溶液に5秒間浸漬し、100℃の温度で5分間硬化させた。
【0066】
実施例4c、サイズ1ポリエステル縫合糸のコーティング
50メートルのポリエステル縫合糸(Ethicon サイズ1 Mersilene)を実施例4aのコーティング溶液に2秒間浸漬し、95℃の温度で2分間、インライン硬化オーブンで硬化させた。
【0067】
対照例1a(シリカフリーコーティング)縫合糸コーティング溶液の調製
9.5gのGelest XG2385B(ビニル末端ポリジメチルシロキサンと架橋剤ポリメチルヒドロシロキサンとの混合物)を、0.55gの実施例1の組成物及び30.5gのヘプタンと1時間混合した。
【0068】
対照例2a(実施例2aと同一組成であるが、可使時間測定のために代わりにカールシュテット触媒を使用する)
5.7gの市販の高デュロメータ用シリカ含有液体シリコーンベースゴム(Bluestar Silbione LSR4370base)を、0.17gのポリヒドロメチルシロキサン架橋剤(Gelest HMS 991)及び2種の溶媒(11.4gのヘキサメチルジシロキサン及び60.6gのヘプタン)と1時間混合した後、キシレン中1.0% Gelest SIP 6831(キシレン中2.2%白金ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体(カールシュテット))を1.0g添加した。最終混合物を周囲温度で1分間撹拌した。
【0069】
対照例1b、2-0ポリエステル縫合糸のコーティング
1メートルのポリエステル縫合糸(Ethicon 2-0 Mersilene(登録商標)縫合糸)を対照例1aのコーティング溶液に5秒間浸漬し、100℃の温度で5分間硬化させた。
【0070】
対照例1c、サイズ1ポリエステル縫合糸のコーティング
50メートルのポリエステル縫合糸(Ethicon サイズ1 Mersilene)を実施例1aのコーティング溶液に2秒間浸漬し、95℃の温度で2分間、インライン硬化オーブンで硬化させた。
【0071】
性能試験:
1.縫合糸の通過試験
サイズ2-0ポリエステル縫合糸
実施例2b及び3b、対照例1、コーティングされていない縫合糸、並びに2つの市販のコーティングされた縫合糸(Ethibond(登録商標)縫合糸及びTi-Cron(商標)縫合糸)で縫合糸通過試験を実施した。全ての縫合糸の寸法は同じであり(2-0)、結果を表1にまとめる。
【0072】
【表1】
【0073】
サイズ1ポリエステル縫合糸
実施例2c及び4c、対照例1c、コーティングされていない縫合糸、並びに1つの市販のコーティングされた縫合糸(Ethibond(登録商標)縫合糸)で縫合糸通過試験を実施した。全ての縫合糸の寸法は同じであり(サイズ1)、結果を表2にまとめる。
【0074】
【表2】
【0075】
表1を参照すると、コーティングされていない縫合糸及び従来のコーティングされた縫合糸(Ethibond(登録商標)、Tri-Cron(商標))と比較して、サイズ2-0ポリエステル縫合糸の実施例2b及び対照例1(シリカフリー)が試験媒体を通過するのに必要な力は実質的に少なかったことが観察され、これは、本発明のシリコーンコーティングが、市販の縫合糸に比べて、コーティングされた縫合糸がポリウレタン発泡体を通過するのに必要な力を低下させる目的の効果を示すことを示す。この所見は、表2を参照すると、サイズ1の縫合糸試験においても一貫している。本発明の実施例及び対照サンプルの両方が、市販の製品よりも実質的に少ない通過力を与える。
【0076】
2.結び目セキュリティ試験
実施例2b、3b及び4b、対照例1、コーティングされていない縫合糸、並びに2つの市販のコーティングされた縫合糸(Ethibond(登録商標)縫合糸及びTi-Cron(商標)縫合糸)で結び目セキュリティ試験を実施した。全ての縫合糸の寸法は同じであり(2-0)、結果を表3にまとめる。
【0077】
【表3】
【0078】
実施例2c、4c、及び1つの市販のコーティングされた縫合糸(Ethibond(登録商標)縫合糸)で結び目セキュリティ試験を実施した。全ての縫合糸の寸法は同じであり(サイズ1)、結果を表4にまとめる。
【0079】
【表4】
【0080】
表3を参照すると、かなり驚くべきことに、実施例2bの結び目セキュリティ性能は、市販のコーティングされたポリエステル縫合糸(Ethibond(登録商標))と同等であるが、従来のシリコーンコーティングされた縫合糸(対照例1)は、結び目セキュリティの全てを失ったことが観察される。
【0081】
表4を参照すると、本発明の実施例はいずれも、市販のコーティングされたポリエステル縫合糸(Ethibond)よりも良好な結び目セキュリティ性能を与える。
【0082】
3.可使時間
実施例2a、3a、及び4aについて、対照例1a及び2aと共に、溶液の粘度の変化を観察することによって、可使時間試験を実施した。8時間にわたってこれらサンプルの粘度を測定し、結果を表5にまとめる。
【0083】
【表5】
サンプルは、25分後に流れを停止する。
【0084】
実施例2a、3a、4a及び対照例1a(全て本発明の新規触媒を含有する)は、最長8時間にわたって一貫した粘度を与え、これは典型的な縫合糸コーティング生産サイクルに好適である。カールシュテット触媒(対照例2a)は、一貫した粘度を提供することができず、25分間以内にゲル化するので、任意の意味のある規模の縫合糸コーティングプロセスには適さない。
【0085】
本発明の新規コーティング及び触媒は、先行技術のコーティング及び触媒に比べて多くの利点を有する。コーティングは、架橋ポリマー網目構造を正確に制御することを可能にし、得られるコーティングの一貫性及びコーティングされた用具、特にコーティングされた外科用縫合糸の性能の一貫性をもたらす。コーティングは、独自のポリマー網目構造を提供し、これは、得られるシリコーンコーティングの潤滑性及び耐久性の両方をもたらす。触媒は、コマンド硬化された触媒作用を提供し、コーティング溶液が、加工上望ましい長い可使時間の間に急速にフィルムを形成することを可能にする。触媒は、低温又は周囲温度で阻害され、ポリマー縫合糸又は他のポリマー医療用具を変形させない温度で阻害解除(uninhibited)又は再活性化される。コーティング及び触媒は、より効率的なコーティング及び硬化プロセスを提供する。
【0086】
以上、本発明をその詳細な実施形態について図示及び説明してきたが、当業者であれば、特許請求される発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく本発明の形態及び詳細に様々な変更を行い得る点が理解されるであろう。
【0087】
〔実施の態様〕
(1) 潤滑性シリコーンコーティングでコーティングされた医療用具であって、
表面を有する医療用具と、
前記表面の少なくとも一部上の潤滑性シリコーンコーティングであって、
反応性官能基を有する架橋性シリコーンポリマー、
シリカ含有組成物、
シリコーン架橋剤、及び
触媒、を含むコーティング組成物から形成されている、潤滑性シリコーンコーティングと、を含み、前記触媒が、周囲温度で不活性の触媒(ambient inactive catalyst)であり、以下の式:
Pt[(CH=CH)(CHSi]O・C10(OH)(C=CH)
を有する白金ジビニルテトラメチルジシロキサンビニルシクロヘキサノール錯体から本質的になる、医療用具。
(2) 前記架橋性シリコーンポリマーが、ビニル末端ポリジアルキルシロキサン、ビニル末端ポリジメチルシロキサン、ビニル末端ポリジフェニルシラン-ジメチルシロキサンコポリマー、ビニル末端ポリフェニルメチルシロキサン、ビニル末端ポリフルオロプロピルメチル-ジメチルシロキサンコポリマー、及びビニル末端ポリジエチルシロキサンからなる群から選択される、実施態様1に記載の医療用具。
(3) 前記架橋性シリコーンポリマーが、ビニル末端ポリジメチルシロキサンを含む、実施態様1に記載の医療用具。
(4) 前記シリカ含有組成物が、トリメチルシリル表面処理シリカ充填剤を含む、実施態様1に記載の医療用具。
(5) 前記シリカ含有組成物が、HCR(高一貫性ゴム(high consistent rubber))ベース及びLSR(液体シリコーンゴム)ベースを含む、市販の反応性シリカ含有シリコーンベースから選択される、実施態様1に記載の医療用具。
【0088】
(6) 前記シリカ含有組成物が、液体シリコーンゴムベースである、実施態様5に記載の医療用具。
(7) 前記シリコーン架橋剤が、ポリメチルヒドロシロキサン、ポリメチルヒドロ-コ-ポリジメチルシロキサン、ポリエチヒドロシロキサン(polyethyhydrosiloxane)、ポリメチルヒドロシロキサン-コ-オクチルメチルシロキサン、及びポリメチルヒドロシロキサン-コ-メチルフェニルシロキサンからなる群から選択される、実施態様1に記載の医療用具。
(8) 前記シリコーン架橋剤が、ポリメチルヒドロシロキサンを含む、実施態様1に記載の医療用具。
(9) 前記コーティング組成物が、前記コーティング組成物の重量に基づいて、約75重量%~約93重量%の有機溶媒を更に含む、実施態様1に記載の医療用具。
(10) 前記コーティング組成物が、全固形分に基づいて、約0.2重量%~約6重量%の前記シリコーン架橋剤を含み、前記コーティング組成物が、前記コーティング組成物の重量に基づいて、約75重量%~約93重量%の有機溶媒を更に含む、実施態様1に記載の医療用具。
【0089】
(11) 前記コーティング組成物が、全固形分に基づいて、約0.0004重量%~約0.0036重量%の白金触媒を含み、前記コーティング組成物が、前記コーティング組成物の重量に基づいて、約75重量%~約99.5重量%の有機溶媒を更に含む、実施態様1に記載の医療用具。
(12) 前記コーティング組成物が、キシレン、トルエン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、高分子量オレフィンの混合物、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される溶媒を更に含む、実施態様1に記載の医療用具。
(13) 前記医療用具が、ステンレス鋼、PTFE、ガラス、セラミクス、ポリマー、高融点金属合金、記憶合金、並びに金属及び非金属の複合材からなる群から選択される生体適合性材料を含む、実施態様1に記載の医療用具。
(14) 前記医療用具が、外科用縫合針、縫合糸、皮下針、外科用メス、カテーテル、切刃、外科用プローブ、内視鏡、ハサミ、及び切刃からなる群から選択される、実施態様1に記載の医療用具。
(15) 前記医療用具が、外科用縫合糸を含む、実施態様14に記載の医療用具。
【0090】
(16) 以下の式:
Pt[(CH=CH)(CHSi]O・C10(OH)(C=CH)
を有する白金ジビニルテトラメチルジシロキサンビニルシクロヘキサノール錯体を含む、組成物。
(17) コーティング組成物であって、
反応性官能基を有する架橋性シリコーンポリマー、
シリカ含有組成物、
シリコーン架橋剤、及び
触媒、を含み、前記触媒が、周囲温度で不活性の触媒であり、以下の式:
Pt[(CH=CH)(CHSi]O・C10(OH)(C=CH)
を有する白金ジビニルテトラメチルジシロキサンビニルシクロヘキサノール錯体から本質的になる、コーティング組成物。
(18) 前記組成物が、約70℃以上の温度で硬化可能である、実施態様17に記載のコーティング組成物。
(19) 前記組成物が、約95℃の温度において約2分で硬化可能である、実施態様18に記載のコーティング組成物。
図1