(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】メチオニンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 319/20 20060101AFI20240415BHJP
C07C 323/25 20060101ALI20240415BHJP
C07C 323/26 20060101ALI20240415BHJP
C07C 323/52 20060101ALI20240415BHJP
【FI】
C07C319/20
C07C323/25
C07C323/26
C07C323/52
(21)【出願番号】P 2021533704
(86)(22)【出願日】2019-12-13
(86)【国際出願番号】 EP2019085005
(87)【国際公開番号】W WO2020120720
(87)【国際公開日】2020-06-18
【審査請求日】2022-11-14
(32)【優先日】2018-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1-11, 45128 Essen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル ズートホフ
(72)【発明者】
【氏名】ユーディト ヒエロルト
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ ロート
(72)【発明者】
【氏名】イマド ムサレム
(72)【発明者】
【氏名】ウルフ ビンダーナーゲル
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン レナー
【審査官】三須 大樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/114640(WO,A1)
【文献】特表2014-513668(JP,A)
【文献】特表2014-513669(JP,A)
【文献】特開2010-111642(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタンと、アンモニアと、酸素とからアンドルソフプロセスに従って調製されたシアン化水素(HCN)プロセスガス混合物を、3-メチルメルカプトプロピオンアルデヒド(MMP)と接触させることを含む、2-ヒドロキシ-4-(メチルチオ)ブチロニトリル(MMP-CN)の製造方法であって、前記アンモニアの量
を粗製HCNプロセスガス混合物中の前記アンモニアの量の20%(v/v)~60%(v/v)に調整することによって前記粗製HCNプロセスガス混合物から前記HCNプロセスガス混合物を得ることを特徴とする、方法。
【請求項2】
バイパス流を備えたアンモニアスクラバーを使用することによって前記アンモニアの調整が行われる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
部分的なアンモニアの通り抜けを可能にするアンモニアスクラバーを使用することによって前記アンモニアの調整が行われる、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記HCNプロセスガス混合物中の前記アンモニアの量が、前記アンモニアスクラバーからの前記粗製HCNガス混合物の最大量の40%(v/v)をバイパスさせることによって、前記粗製HCNプロセスガス混合物中の前記アンモニアの最大量の40%(v/v)に調整される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
メタンと、アンモニアと、酸素とからアンドルソフプロセスに従って調製されたシアン化水素(HCN)プロセスガス混合物を、3-メチルメルカプトプロピオンアルデヒド(MMP)と接触させることによって、2-ヒドロキシ-4-(メチルチオ)ブチロニトリル(MMP-CN)またはMMP-CNを含む粗生成物混合物を製造する工程を含む、HCNからのメチオニンまたはその塩またはその誘導体の製造方法であって、前記アンモニアの量
を粗製HCNプロセスガス混合物中の前記アンモニアの量の20%(v/v)~60%(v/v)に調整することによって前記粗製HCNプロセスガス混合物から前記HCNプロセスガス混合物を得ることを特徴とする、方法。
【請求項6】
前記2-ヒドロキシ-4-(メチルチオ)ブチロニトリル(MMP-CN)またはMMP-CNを含む前記粗生成物混合物を、アンモニアおよび/またはアンモニウム塩ならびに二酸化炭素および/または炭酸塩と反応させて5-(2-メチルメルカプトエチル)ヒダントインを得る工程をさらに含む、請求項5記載の方法。
【請求項7】
塩基性条件下で5-(2-メチルメルカプトエチル)ヒダントインを二酸化炭素およびアンモニアの形成と反応させて少なくとも1つのメチオニン塩を得る工程をさらに含み、任意選択的にメチオニン塩を酸とさらに反応させてメチオニンを得る工程をさらに含む、請求項6記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3-(メチルチオ)プロパナール(=メチルメルカプトプロピオンアルデヒド、MMP)とアンモニア含有シアン化水素(シアン化水素酸、HCN)とからの2-ヒドロキシ-4-(メチルチオ)ブチロニトリル(MMP-CN)の製造方法;およびそのようにして得られたMMP-CNからのメチオニンの製造方法に関する。
【0002】
発明の背景
2-ヒドロキシ-4-(メチルチオ)ブチロニトリル(MMP-CN)は、メチオニンおよびメチオニン誘導体、例えばメチオニンヒドロキシル類似体(MHA)やメチオニルメチオニン(Met-Met)の調製における中間体である。
【0003】
メチオニンは、特に食事のサプリメントとして使用される必須アミノ酸である。
【0004】
多くの一般的な方法では、メチオニンは、多段階の化学的経路で、例えばアクロレイン、メチルメルカプタン、シアン化水素、アンモニア、および二酸化炭素からのいわゆるヒダントイン経路により、D-およびL-エナンチオマーの混合物であるラセミ体として製造される。
【0005】
【0006】
2番目の工程の5-(2-メチルメルカプトエチル)ヒダントイン(ヒダントイン)の合成は、MMP、HCN、アンモニア、およびCO2から直接行うことができ、あるいはシアノヒドリン前駆体であるMMP-CNの形成を介して2段階で行うことができる。
【0007】
【0008】
欧州特許出願公開第0780370号明細書には、MMP、HCN、アンモニア、および二酸化炭素を反応させてメチオニン前駆体であるヒダントインを得るメチオニンの合成方法(ヒダントインの直接合成)が開示されている。この事例では、MMPに対するアンモニアのモル比は1.2~6の場合があり、二酸化炭素に対するアンモニアのモル比は1.2~4.0である。この方法によれば、MMPは事実上定量的な収率でヒダントインに変換される。このようにして調製されたヒダントインは、その後さらに切断されてメチオニン塩を形成する。切断によって形成されたアンモニアおよび二酸化炭素は、プロセスにリサイクルすることができる。
【0009】
特開2003-104959号公報および特開2003-104960号公報には、MMPを、HCN、NH3、およびCO2と反応させてヒダントインを得るための同様の方法が記載されている。ここでは、MMPに対するアンモニア、およびMMPに対するCO2のモル比は、それぞれの場合で1.5~2.5の値を有する場合がある。
【0010】
先の出願である英国特許出願公告第936664号明細書および英国特許出願公告第1108926号明細書にも、アルデヒドまたはケトンを等モル量または過剰量のCO2および過剰なアンモニアと水性環境で反応させることにより、MMPをHCN、NH3、およびCO2と反応させてヒダントインを得る方法が記載されている。
【0011】
国際公開第2012/113664号および国際公開第2012/113665号には、MMPおよびHCNからのMMP-CNの調製方法が記載されており、これは上述したヒダントインへの2段階経路の最初の工程である。
【0012】
シアン化水素酸(HCN)出発物質を製造するために、工業的実施において最も頻繁に使用されているプロセスは、アンドルソフプロセス(独国特許出願公開第102007034715号明細書およびChemie-Ing.-Techn., 1953, No. 12, pp. 697-701)およびBMAプロセス(メタンとアンモニアとからの青酸[シアン化水素酸]、西独国特許第1041476号明細書およびChemie-Ing.-Techn., 1958, No. 5, pp. 305-310 [1])である。BMAプロセスの還元ではメタンおよびアンモニアがシアン化水素酸に変換される一方で、アンドルソフプロセスの酸化は、メタン、アンモニア、および酸素から進行する。両方の方法は、“Handbook of Heterogeneous Catalysis”, editor: G. Ertl. et al, second edition, Vol. 5, Chapter 12.3 “Hydrocyanic Acid (HCN) Production” 2592-2609 [2]およびUllmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry, “Cyano Compounds, Inorganic” published online on 15.10.2011, DOI: 10.1002/14356007.a08_159.pub3 [3]の中でより詳しく説明されている。
【0013】
アンドルソフプロセスとBMAプロセスとは共に、アンモニアに基づく不完全な変換を進行させる。そのため、反応器を出る粗製HCNガス流は、いずれの場合も一定の割合のアンモニアを含む。表1に、HCN反応直後のこの気体生成物混合物についてのHCNおよびアンモニアの典型的な含有率(体積%)がまとめられている。
【0014】
【0015】
表1に示されているモル比NH3/HCN(mol/mol)は、アンモニアとシアン化水素酸との体積%単位での対応する濃度から、アボガドロの法則により得られる。
NH3/HCN(mol/mol)=[生成物混合物中のNH3(体積%)]/[生成物混合物中のHCN(体積%)]
【0016】
アンドルソフプロセスによるHCN合成直後の気体生成物混合物には、HCNおよびアンモニアに加えて、特に水だけでなく、メタン、窒素、水素、CO、CO2、およびその他の成分も含まれる。アンドルソフプロセスに従って調製された粗製HCNガス流の典型的な組成は、HCN:7.6体積%、NH3:2.3体積%、H2O:23.1体積%である[3]。アンモニアに基づくシアン化水素酸の形成における典型的な収率は約63%である。
【0017】
粗製HCNガス混合物は、典型的には、アンドルソフプロセスによる調製直後は1000℃を超える温度にあり、直ちに冷却される。粗製HCNガス流中に存在するアンモニアは、全ての一般的なプロセスで、例えば希硫酸で洗浄することによって、直ちに除去される。これにより硫酸アンモニウムが形成される。
【0018】
アンモニアの除去は、一般的に、特に高いpHで、およびHCNの液化などの相転移で起こる自己触媒的な発熱性のシアン化水素酸重合を回避するために必要であると考えられている。
【0019】
Chemie-Ing.-Techn., 1953, No. 12, pp. 697-701によれば、使用されるアンモニアの約60%がアンドルソフプロセスでシアン化水素酸に変換され、10%がオフガスによって失われ、30%が硫酸による酸洗浄で硫酸アンモニウムとして結合される。
【0020】
上で示したように、アンドルソフHCNプロセスは、従来、硫酸アンモニウムの強制的な負荷をもたらし、これは処理され、ロジスティックに取り扱われ、販売されなければならない。メチオニンの製造では、HCN製造からの硫酸アンモニウムの量は、典型的にはメチオニン1トンあたり合計50~200kgの硫酸アンモニウムである。
【0021】
不可避の硫酸アンモニウムの形成、および使用済みNH3の損失の問題は、例えば、最近公開された特許出願である国際公開第2018/114640号において対処されている。前記特許出願は、MMPと、アンモニアが除去されていないガス状シアン化水素酸とからの2-ヒドロキシ-4-(メチルチオ)ブチロニトリル(MMP-CN)の、硫酸アンモニウムフリーの合成へのアプローチを提供する。このプロセスでは、粗製HCNプロセスガスがHCN反応器からMMP-CN反応性吸収装置に直接送られ、ここで粗製HCNガスがMMPと反応してMMP-CNを形成する。このプロセスでは、アンモニアはアミノ誘導体である2-アミノ-4-(メチルチオ)ブチロニトリル(MMP-AN)および2,2’-ビス(2-(メチルメルカプトエチル)イミノジアセトニトリル(イミノジニトリル)の形態で化学的に結合する。これらは共にメチオニン合成の中間体である5-(2-メチルメルカプトエチル)ヒダントインに後で変換することができる。
【0022】
しかしながら、国際公開第2018/114640号によって提案されたアンモニアスクラビング工程の省略は、同時にMMP-CN合成前の含水量の低減をなくすことになり、貯蔵タンクおよび/または反応性吸収装置において二相混合物が生じる。この場合、水層対有機MMP-CN層(より高密度)の体積比は1:2~1:6である。
【0023】
水層には有機物、すなわち生成物が依然として含まれているため、単純に除去して廃棄することはできない。その廃棄は一方では原材料の損失とより高い生産コストとをもたらし、他方では生物学的廃水処理に多大な努力を要する。水層の再処理には、複雑なプロセスおよび装置/設備が必要とされる。
【0024】
上記事項を考慮して、一方で副生成物として得られる硫酸アンモニウムの量がアンモニアスクラビングを適用する従来のMMP-CNプロセスと比較して大幅に削減され、他方で硫酸アンモニウムフリーのMMP-CNプロセスで生じるような二相混合物を回避することができる、2-ヒドロキシ-4-(メチルチオ)ブチロニトリル(MMP-CN)を製造するための新規なプロセスまたは方法を提供することが依然として必要とされていた。
【0025】
さらに、特に経済的要件を考慮して、メチオニン1トン当たりの硫酸アンモニウム形成に関して柔軟性を提供するMMP-CNの調製方法が特に望まれた。
【0026】
発明の概要
本発明は、メタンと、アンモニアと、酸素とからアンドルソフプロセスに従って調製されたシアン化水素(HCN)プロセスガス混合物を、3-メチルメルカプトプロピオンアルデヒド(MMP)と接触させることを含む、2-ヒドロキシ-4-(メチルチオ)ブチロニトリル(MMP-CN)の製造方法に関し、この方法は、アンモニアの量を粗製HCNプロセスガス混合物中のアンモニアの量の20%(v/v)~60%(v/v)に調整することによって、粗製HCNプロセスガス混合物からHCNプロセスガス混合物を得ることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】2-ヒドロキシ-4-(メチルチオ)ブチロニトリル(MMP-CN)を製造するためのプラントシステムの図である。参照番号/文字および説明:・A アンドルソフHCN反応器・B アンモニアスクラバー・C HCNストリッパー・D 反応性吸収装置・(1)メタン供給流・(2)アンモニア供給流・(3)粗製アンドルソフHCNガス流・(4)バイパス流・(5)粗製硫酸アンモニウム流・(6)ストリッピングされたHCNリサイクル流・(7)硫酸アンモニウム生成物混合物・(8)硫酸供給流・(9)アンモニア調整済HCNガス流・(10)MMP供給流・(11)オフガス・(12)MMP-CN生成物混合物・(air)空気供給流 アンモニア調整ユニットには点線で印が付されている。
【
図2】硫酸供給位置に複数の選択肢を有する
図1と同様のアンモニアスクラバーの図である。参照番号/文字および説明は
図1と同じである。
【
図3】10℃および30℃におけるHCNに対するNH
3のモル比の関数としての、MMP-シアノヒドリンの最大混和含水量の実験結果および線形近似の図である。
【
図4】アンモニア調整比の関数としての、アンドルソフ反応工程からの標準的な粗製シアン化水素反応ガス流の調整工程(9)後のシアン化水素ガス流中の水およびアンモニアの計算された濃度の図である。
【0028】
発明の詳細な説明
本発明者らは、MMP-CNプロセスにおける硫酸アンモニウム生成を調整する際の柔軟性が得られ、それによって貯蔵タンクおよび/または反応性吸収装置の中での二相混合物の形成などの先行技術の前述した問題を回避することが可能な、2-ヒドロキシ-4-(メチルチオ)ブチロニトリル(MMP-CN)を製造するための新規な方法を予期せず見出した。
【0029】
したがって、本発明は、メタンと、アンモニアと、酸素とからアンドルソフプロセスに従って調製されたシアン化水素(HCN)プロセスガス混合物を、3-メチルメルカプトプロピオンアルデヒド(MMP)と接触させることを含む、2-ヒドロキシ-4-(メチルチオ)ブチロニトリル(MMP-CN)の製造方法であって、アンモニアの量を粗製HCNプロセスガス混合物中のアンモニアの量の20%(v/v)~60%(v/v)に調整することによって粗製HCNプロセスガス混合物からHCNプロセスガス混合物を得ることを特徴とする方法を提供する。
【0030】
本発明との関係において、「粗製HCNプロセスガス混合物」という用語は、アンドルソフHCN合成から得られるHCNガス混合物として理解すべきである。
【0031】
粗製HCNガス混合物と比較して減少したアンモニア含有量を有するプロセスガス混合物を得るために、粗製HCNガス混合物中に含まれるアンモニアが部分的に除去される。アンモニアのこの部分的な除去は、アンモニア調整工程により行われる。前記アンモニア調整工程において、粗製HCNガスからのアンモニアは、調整可能な部分まで部分的に除去される。
【0032】
アンモニアの調整は、粗製HCNガスの一部のみに対してアンモニアスクラビングを行い、アンモニアを含まないHCNガスと残りの粗製HCNガスとを再び合わせることによって実現される。アンモニアスクラビングでは、ガス混合物は硫酸で洗浄される。特定の一実施形態では、ガス混合物は希硫酸で洗浄される。
【0033】
「アンモニアの部分的除去」、「アンモニアの低減」、および「アンモニアの調整」という用語は、本明細書では互換的に使用されており、同様の意味を有する。「アンモニアが調整されたHCNガス混合物」という用語は、アンモニアを部分的に除去することによって粗製HCNプロセスガスから得られるガス混合物に対して以降で使用される。アンモニア調整工程の特定の実施形態を以降で詳細に説明する。
【0034】
アンドルソフによる製造後の粗製HCNプロセスガス混合物は、典型的には1000℃を超える温度であるため、シアン化水素の分解を防ぐために直ちに冷却される。アンモニア調整工程の前のHCN含有ガス混合物のこの冷却は、例えば、直列に接続された1つ以上の熱交換器によって行うことができる。この場合、エネルギーは、粗製HCNガス混合物から段階的にまたは連続的に抜き出すことができ、任意選択的に、プロセスの別の地点で、または外部で、さらに使用することができる。アンモニア調整直前のHCN含有ガス流の温度は、0~800℃、10~500℃、または20~300℃とすることができる。
【0035】
アンモニア調整および/またはアンモニアスクラビング中に維持される温度は、15℃~70℃、25℃~55℃、または30℃~50℃とすることができる。
【0036】
HCNとアンモニアとを含むガス混合物をMMPと接触させるために適用される温度は、0~300℃、0~100℃、または0~80℃とすることができる。
【0037】
アンモニアが調整されたHCNガス混合物と3-メチルメルカプトプロピオンアルデヒド(MMP)との接触は、様々な方法で行うことができる。例えば、(HCN)とアンモニアとを含むガス状混合物を、液体のMMPに吸収させることができる。アンモニアが調整されたHCNガス混合物と液体MMPとの接触は、吸収塔の中で、または目的に適した他の装置の中で行うことができ、この装置の中では、気体成分と液体成分との効率的な混合が可能であり、かつMMPとHCNとからのMMP-CNへの比較的迅速な変換が実現可能である。追加の実現可能な実施形態としては、撹拌反応器、ループ反応器、または直列に接続されたそのような反応器のカスケードが挙げられる。
【0038】
アンモニアが調整されたHCNガス混合物と液体MMPとは、好ましくは向流で互いと接触させられる。吸収塔が使用される場合、HCNとアンモニアとを含むガス混合物は、好ましくはそのような吸収塔の下部に導入される一方で、液体MMPはこの塔の上部に導入される。
【0039】
シアン化水素(HCN)とアンモニアとを含む混合物として調整されたアンモニアを3-メチルメルカプトプロピオンアルデヒド(MMP)と接触させた後、MMP-CNと、対応するアミノ誘導体である2-アミノ-4-(メチルチオ)ブチロニトリル(MMP-AN)と、2,2’-ビス(2-(メチルメルカプトエチル)イミノジアセトニトリル(イミノジニトリル)とを含む生成物混合物が得られる。
【0040】
【0041】
MMP-CNを含むこの生成物混合物は、気体混合物と液体混合物とに分離することができる。窒素、水素、および/またはメタンを含む気体混合物(オフガス)は、任意選択的にさらに精製される。これは、エネルギーを得るための燃料ガスとして、または個々の成分、例えば水素を得るために、使用することができる。
【0042】
MMP-CNを含む液体混合物は、精製することができ、あるいは以下に説明する後続の工程で直接使用することができる。
【0043】
運搬上および処理技術上の理由から、MMP-CNを含む混合物を、その調製直後に追加の処理工程、例えばメチオニン合成の工程で変換せずに、その中間貯蔵後に時間を遅らせて変換することが有利であるか、または必要な場合がある。この場合、中間生成物であるMMP-CNが比較的長期間にわたって安定なこと、つまりシアノヒドリンを大幅に分解させることなく貯蔵できることが重要である。
【0044】
したがって、本発明による方法は、MMP-CNを含む生成物混合物を、この生成物混合物がさらに反応する前に、60℃以下、好ましくは40℃以下、特に好ましくは20℃以下の温度、かつ2~8、好ましくは4~7のpHで貯蔵する追加の処理工程をさらに含み得る。
【0045】
粗製HCNプロセスガス混合物からアンモニアを部分的に除去するための前述したアンモニア調整工程は、バイパス流を備えたアンモニアスクラバーを使用することによって行うことができる。
【0046】
図1は、2-ヒドロキシ-4-(メチルチオ)ブチロニトリル(MMP-CN)を製造するためのプラントシステムを示している。プラントシステムは、HCN反応器(A)、アンモニアスクラバー(B)、HCNストリッパー(C)、および反応性吸収装置(D)を含む。
【0047】
反応器(A)では、例えばアンドルソフプロセスに従ってHCNが調製される。アンモニアスクラバー(B)は、アンモニア調整ユニット(点線)の中に埋め込まれており、プロセスアンモニアの部分的除去(アンモニア調整)を可能にするバイパス流(4)を備えることができる。
【0048】
HCNストリッパー(C)では、粗製硫酸アンモニア溶液中に溶解しているHCNが気体形態で放出される。反応性吸収装置(D)では、アンモニアの部分的除去によって粗製HCNガス混合物から得られたHCNとアンモニアとを含むガス混合物、すなわちアンモニア調整工程後に得られたガス混合物をMMPと反応させてMMP-CNを得る。
【0049】
本発明の代替の実施形態では、アンモニア調整またはアンモニアの部分的除去は、部分的なアンモニアの通り抜けを可能にするアンモニアスクラバーを使用することによって行われる。
【0050】
図2は、アンモニアスクラバー(B)を介した部分的なアンモニアの通り抜けを実現するための2つの選択肢を示している。
【0051】
第1の選択肢では、硫酸供給流(8)の硫酸濃度が下げられる。これにより、吸収されたアンモニアの硫酸アンモニウムへの反応速度が制限され、その結果アンモニアの吸収速度が抑えられる。アンモニアは完全には吸収されないものの、部分的に気相に留まり、頂部でアンモニアスクラバーを出る。
【0052】
第2の選択肢では、硫酸供給流(8)の供給位置が下げられる。供給位置が低いほど、アンモニアスクラバー中の物質移動領域が減少する。物質移動領域の減少により液相へのアンモニアの吸収速度が制限され、その結果アンモニアは部分的に頂部でアンモニアスクラバーを出る。
【0053】
粗製HCNプロセスガス混合物は、アンドルソフプロセスに従って調製することができる。この酸化プロセスでは、HCNと、アンモニアと、水とを本質的に含むガス混合物が、メタン、アンモニア、および酸素からの発熱反応で調製される。通常は空気が酸素源として使用される。HCN合成後の生成物混合物は、典型的には、窒素、アルゴン、水素、一酸化炭素、二酸化炭素、およびメタンなどの他のガスを追加的に含む。
【0054】
一例として、アンドルソフプロセスが粗製HCNガス混合物の供給源として機能する特定の一実施形態では、HCNとアンモニアとを含むガス混合物中のアンモニアの量は、アンモニアスクラバーからの粗製HCNガス混合物の最大量の60%(v/v)をバイパスさせることによって、粗製HCNガス混合物中のアンモニアの最大量の60%(v/v)に調整される。
【0055】
この特定の実施形態との関係において、「アンモニアスクラバーからの規定された量の粗製HCNガス混合物をバイパスさせる」という表現には、アンモニアスクラビング溶液と接触しない粗製HCNガス混合物の第2の流れを供給する任意の方法が含まれる。
【0056】
一例として、アンモニアスクラバーから上で規定された量の粗製HCNガス混合物をバイパスさせるために、
図1に示されているようなバイパス流を備えたアンモニアスクラバーを使用することができる。
【0057】
あるいは、
図2に示されているような部分的なアンモニアの通り抜けを可能にするアンモニアスクラバーを使用して、アンモニア調整を行うことができる。
【0058】
有利には、アンドルソフ手法がHCNの調製に使用される場合、HCNとアンモニアとを含むガス混合物中のアンモニアの量は、アンモニアスクラバーからの粗製HCNガス混合物の最大量の40%(v/v)をバイパスさせることによって、粗製HCNガス混合物中のアンモニアの最大量の40%(v/v)に調整される。
【0059】
アンドルソフにより得られた粗製HCNガス混合物中のアンモニアのそれぞれ最大量の60%(v/v)または40%(v/v)への前述した調整により、貯蔵タンクおよび/または反応性吸収装置内での二相混合物の形成を効率的に回避することができる。
【0060】
さらに、本発明は、HCNとアンモニアとを含む上述したアンモニア調整済ガス混合物をMMPと接触させることによって得られる、MMP-CNを含む特定の生成物混合物を提供する。前記生成物混合物は、MMP-CNに加えて、その対応するアミノ誘導体である2-アミノ-4-(メチルチオ)ブチロニトリル(MMP-AN)と、2,2’-ビス(2-(メチルメルカプトエチル)イミノジアセトニトリル(イミノジニトリル)とを含む。
【0061】
前述したアンモニア調整比によって得られたアンドルソフHCNプロセスガス組成物の主成分を、このHCN合成プロセスの典型的なHCN生ガス組成物について表2に示す。
【0062】
【0063】
本発明は、さらに、前述した方法のいずれか1つによって2-ヒドロキシ-4-(メチルチオ)ブチロニトリル(MMP-CN)が得られる、MMP-CNからのメチオニンまたはその塩またはその誘導体の製造方法を提供する。
【0064】
メチオニンを製造するための前記方法は、2-ヒドロキシ-4-(メチルチオ)ブチロニトリル(MMP-CN)またはMMP-CNを含む粗生成物混合物を、アンモニアおよび/またはアンモニウム塩ならびに二酸化炭素および/または炭酸塩と反応させて、5-(2-メチルメルカプトエチル)ヒダントインを得る工程を任意選択的に含む。
【0065】
ヒダントイン合成では、2-ヒドロキシ-4-(メチルチオ)ブチロニトリル(MMP-CN)は、精製された形態で、またはアンモニア調整済ガス混合物をMMPと接触させて直接得られた粗生成物混合物として、使用することができる。上で示したように、前記生成物混合物は、MMP-CNに加えて、その対応するアミノ誘導体である2-アミノ-4-(メチルチオ)ブチロニトリル(MMP-AN)と、2,2’-ビス(2-(メチルメルカプトエチル)イミノジアセトニトリル(イミノジニトリル)とを含む。
【0066】
ヒダントインを得るための反応は、例えば高温の撹拌圧力反応器の中で行うことができる。この反応に必要なアンモニアおよび二酸化炭素は、対応する気体として、単独で、または混合物として、任意選択的には水と共に、または少なくとも部分的に、対応する炭酸アンモニウムおよび/または炭酸水素アンモニウム塩またはそれらの水溶液として、この処理工程に導入することができる。水溶液中では、アンモニア、二酸化炭素、炭酸イオン、炭酸水素イオン、およびアンモニウムイオンが互いに平衡状態にある。
【0067】
MMP-CNだけでなく、上述した主な副生成物であるMMP-ANも、比較的安定したイミノジニトリルでさえ、反応をうまく進めてヒダントインを得ることができることが示された。
【0068】
このようにして得られた5-(2-メチルメルカプトエチル)ヒダントインを、その後、塩基性条件下で反応させて、二酸化炭素およびアンモニアの形成を伴って少なくとも1つのメチオニン塩を得ることができる。前記メチオニン塩をさらに酸と反応させてメチオニンを得ることができる。
【0069】
使用される塩基は、例えば、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、または他の塩、希土類金属またはアンモニウム塩、ならびにこれらの塩基の混合物であってよい。アルカリ金属またはアンモニウムの炭酸塩または炭酸水素塩、特に好ましくは炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、もしくは炭酸アンモニウム、またはそれらの混合物を使用することが特に好ましい。
【0070】
メチオニンまたはメチオニンの塩を調製するための本発明による方法は、バッチ式または連続的に、好ましくは連続的に行うことができる。
【0071】
本発明の方法に従って得られるMMP-CNを含む生成物混合物は、メチオニンまたはメチオニン塩の形成に加えて、例えば米国特許出願公開第20110295006号明細書に従って追加の処理工程で反応させて3,6-ビス(2’-メチルメルカプトエチル)-2,5-ジケトピペラジン(DKP)を得ることもでき、あるいは独国特許出願公開第2261926号明細書に従ってメチオニンのジペプチドであるメチオニルメチオニン(Met-Met)を得ることもできる。
【0072】
【0073】
最後に、本発明は、2-ヒドロキシ-4-(メチルチオ)ブチロニトリル(MMP-CN)を製造するためのプラントシステムに関する。
【0074】
プラントシステムは
図1に示されており、これは、シアン化水素を3-メチルメルカプトプロピオンアルデヒド(MMP)と反応させるためのHCN反応容器(A)と反応性吸収装置(D)とを含む。アンドルソフシアン化水素反応器(A)は、バイパス流/バイパスガスライン(4)を有するアンモニアスクラバー(B)を含むアンモニア調整ユニットを介して反応性吸収装置と相互接続されている。
【0075】
アンモニア調整ユニットは
図1において点線で示されている。
【0076】
アンモニア調整ユニットは、ストリッピングされたHCNリサイクル流(6)と粗製硫酸アンモニウム流(5)とを有するHCNストリッパー(C)をさらに含み得る。硫酸アンモニウム生成物混合物は、流れ(7)を介してアンモニア調整ユニットを出る。アンモニアスクラバーには、供給流(8)を介して硫酸が供給される。アンモニア調整済ガス流(9)は、アンモニア調整ユニットを反応性吸収装置(D)と接続する。
【0077】
MMP供給流は(10)として示されており、オフガス流は(11)として示されており、MMP-CN生成物混合物は(12)として示されている。
【0078】
以降で、本発明を非限定的な実施例および例示的な実施形態により説明する。
【0079】
実施例
概要
実施例1(比較).シアン化水素酸を含むアンモニアからの調整工程なしのMMP-シアノヒドリンの製造
実施例2.アンモニア含有MMP-シアノヒドリン溶液と水との混和性
実施例3.2つの液相の分離を回避するためのアンドルソフプロセスのNH3対HCNの比率と含水量との調整
実施例4.NH3対HCNの比率および含水量の調整
実施例5.調整工程後のシアン化水素酸ガス流の例示的な組成
実施例6.通り抜け調整工程で生成したMMP-シアノヒドリンによるメチオニンの例示的な合成
【0080】
使用した方法
アンモニア調整ユニットの計算
硫酸アンモニウムを形成することによってアンモニアを除去するための硫酸洗浄機(B)と、硫酸アンモニウム溶液から過剰なシアン化水素を除去するためのストリッパー(C)とを含むアンモニア調整ユニットの後の生成物の流れ(
図1、流れ9および7)、およびバイパス流(4)は、質量および熱伝導率および反応速度によって計算した。粗製シアン化水素反応ガス(3)および新鮮な硫酸(98重量%)(8)が洗浄機(B)に供給される。硫酸アンモニウム溶液(5)がストリッパー(C)に供給され、過剰なHCNがその場で蒸発した蒸気によって除去される。硫酸アンモニウム生成物流(7)は、シアン化水素が0.1重量ppm未満になるように設定され、調整されたHCNガス流(9)は、後続のMMP-シアノヒドリン形成工程(D)に供給される目的の流れである。
【0081】
適用される化学システムの十分に確立された物理的特性データは、標準のプロセスシミュレーター(aspentechのAspen Plus)を使用して適用した。
【0082】
カールフィッシャー滴定による含水量の測定
MMP-CN中のH2O含有量は、終点のバイアンペロメトリー表示を使用する滴定(カールフィッシャー滴定)によって決定した。
【0083】
この目的のために、20~30mLの滴定媒体(例えばFlukaのHydranal Solvent 5)を最初に滴定容器の中に入れ、滴定剤(例えばFlukaのHydranal Titrant 5)で乾固するまで滴定した。滴定されたリザーバー(プラスチック製使い捨てシリンジ)に約500mgの量のサンプルを入れ、滴定剤で終点まで滴定した。正確なサンプル重量は、変化量測定によって決定した。
【0084】
これは、この分野の専門家に知られている標準的な方法である(例えばP. A. Bruttel, R. Schlink: Wasserbestimmung durch Karl-Fischer-Titration [Water determination by Karl Fischer titration] Metrohm AGを参照)。
【0085】
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)
クロマトグラフィー調査の大部分(MMP-シアノヒドリン、MMP、MMP-アミノニトリル、メチオニン、メチオニンアミド、ヒダントイン、ヒダントインアミド、Met-Met、メチオニンジケトピペラジン)は、210nmにおける後続のUV検出を伴うRP-18カラム(250×4.6mm;5μm)で、JASCOのHPLCによって行った。リン酸-アセトニトリル-水混合物(3.3gのH3PO4、6.8gのアセトニトリル、89.9gのH2O)を溶離液として使用した。10μLのそれぞれのサンプル溶液(25mLのH2O中に50mgのサンプル)を1mL/分の流量で注入した。キャリブレーションは、適切なキャリブレーション溶液を注入することによって予め行い、外部標準法によるピーク面積の比較によって評価した。これは、この分野の専門家に知られている標準的な方法である。
【0086】
イミノジニトリルは、同一のカラム、流量、および検出を用いて、上で規定したHPLCシステムで分析した。この場合、メタノールと水との混合物(それぞれ50重量%)を溶離液として使用した。10μLのそれぞれのサンプル溶液(25mLの溶離液中に250mgのサンプル)を注入した。
【0087】
実施例1
アンモニア調整ユニットなしでの、シアン化水素酸を含むアンモニアからのMMP-シアノヒドリンの製造
工業的製造からの188gの3-メチルチオプロピオンアルデヒド(メチルメルカプトプロピオンアルデヒド、MMP)(94.0重量%、1.00当量)を、還流冷却器を備えた55℃に温度制御されたバブルトレイカラム(5トレイ、二重ジャケット付き)の頂部に6g/分の速度で量り入れた。カラムの底部で、シアン化水素酸(47.0g、MMPを基準として1.02当量、90g/h)、アンモニア(7.99g、MMPを基準として0.28当量、15.3g/h)、蒸気(80g、156g/h)、および窒素(230NL、450NL/h)を含むアンドルソフガス混合物(NH3:HCN=0.27mol/mol)を対向流の原理により添加した。カラムの底部に固定されたフラスコに生成物を回収し、MMPの添加(約30分)が完了した後に分析した。上部の1部の水層と底部の5部の有機層との、無色透明の二相性生成物が得られた。HPLC分析から、145gのMMP-シアノヒドリン(MMP-CN、使用したMMPを基準として65.1%)、33.8gのMMP-アミノニトリル(MMP-AN、使用したMMPを基準として15.3%)、および30.6gのイミノジニトリル(使用したMMPを基準として14.8%)の総含有量が明らかになった。MMP-CN、MMP-AN、およびイミノジニトリルは、アンモニア含有MMP-CN等価物またはMMP-シアノヒドリン等価物とさらに呼ばれる。
【0088】
実施例2
MMP-シアノヒドリン等価物を含むアンモニアと水との混和性
アンモニア調整ユニットを、HCNガス中のアンモニアと水の含有量の両方について変更する。得られるアンモニア含有MMP-CN等価物を単相として得ることができる水の限界を決定するために、アンモニア含有量を変化させた水とMMP-CNとの混和性実験を行った。
【0089】
ジャケット付きコイルコンデンサーと温度計とを備えた、氷浴で冷却されている三口フラスコの中で、気体状のアンモニアを、1.16g(0.1当量)のアンモニアの添加が確認される重量差まで(NH3:HCN=0.10mol/mol)、93gのMMP-シアノヒドリン(96重量%、1.0当量)の機械撹拌されているサンプルにゆっくりと通した。得られた溶液を室温まで温め、3日間撹拌した。HPLC分析から、アンモニアからイミノジニトリルへの完全な変換が確認された。MMP-ANは存在しなかった。10gの混合物を二重ジャケット付きフラスコ内で10℃まで冷却し、激しく撹拌した。相分離(すなわち濁り、液滴、または第2の層)が起こるまで水をゆっくりと滴下した。合計2.16gの水を添加した。これは、NH3:HCN=0.1mol/molから調製されたMMP-CN等価物を含むアンモニア中への17.8重量%の水の最大の溶解度に相当する。実験を、30℃でNH3:HCNの比率を変えて同様に繰り返した。結果を表3に示す。
【0090】
【0091】
10℃および30℃におけるHCNに対するNH
3のモル比の関数としての、MMP-シアノヒドリンの最大混和含水量の実験結果および線形近似を
図3に示す。
【0092】
実施例3
2つの液相の分離を回避するためのアンドルソフプロセスのNH
3対HCNの比率と含水量との調整
6.5mol%のシアン化水素、1.8mol%のアンモニア、および19.6mol%の水を含むアンドルソフ反応工程によって生成した標準的な粗製シアン化水素反応ガス流(3)を、アンモニア調整ユニットに供給する(IHS Chemical PEP Review 2015-07 “Hydrogen Cyanide by the Andrussow and BMA Process”)。硫酸洗浄機(B)をバイパス(4)することによる調整工程後のアンモニアと水の含有量は、0~100%のバイパス率について計算される。反応剤として純粋なMMP(10)を使用するMMP-シアノヒドリン反応工程(D)で使用される調整されたシアン化水素流(9)により、
図3に示されるように(「バイパス」として示される)、MMP-シアノヒドリン等価物溶液(12)で対応する含水量が得られる。ダイヤグラム内のデータの表示は、バイパス率(バイパスを介して導かれる反応ガス流のパーセント割合)またはアンモニアが通り抜ける割合(カラムを通り抜けて生成物ガス流(9)に入る反応ガス流内のアンモニアのパーセント割合)を表す。この特定の粗製シアン化水素反応ガス組成物については、10℃(30℃)の運転温度で、MMP-シアノヒドリン反応工程またはその後の貯蔵工程において2つの分離した液相のリスクなしに、35%(45%)の最大バイパス率が実行可能である。運転温度が高いほど、相分離のリスクがない最大バイパス率が高くなる。
【0093】
同じシアン化水素反応ガス流の代替の調整は、硫酸の洗浄機(B)への供給流量(8)を減らすことによる、硫酸洗浄機を通過するアンモニアの通り抜けによるものである。
図3は、2%化学量論過剰の硫酸(「濃度」として示されている)から開始した、対応するMMP-シアノヒドリン等価物溶液の水およびアンモニアの含有量を示している。この特定の粗製シアン化水素反応ガス組成物については、硫酸供給流量を減らすことにより、10℃(30℃)の運転温度で、MMP-シアノヒドリン反応工程またはその後の貯蔵工程において2つの分離した液相のリスクなしに、97%(100%)のアンモニアの最大の通り抜けが実行可能である。
【0094】
実施例4
NH
3対HCNの比率および含水量の調整
実施例3に記載のアンドルソフ粗製シアン化水素反応ガス流の調整工程(9)後のシアン化水素ガス流中の水およびアンモニアの計算された濃度を、調整比の関数として
図4に示す。調整比は、バイパスを介して導かれる反応ガスのパーセント割合(「バイパス」)、硫酸濃度の低下のパーセント割合(「濃度」)、または硫酸流の供給位置を下げるパーセント割合(「位置」)のいずれかを表す。
図2には、硫酸(8)のアンモニア洗浄機(B)への供給位置の低下が示されている。供給位置が低いほど、物質移動に利用できる領域が少なくなり、より多くのアンモニアが吸収されずに洗浄機を通り抜ける。
【0095】
バイパスによる調整では、調整工程後のガス流中の水およびアンモニアの濃度は、調整比に対してほぼ線形である。硫酸濃度の低減による通り抜けの調整では、水濃度はほぼ一定に保たれ、アンモニア濃度は調整比に対してほぼ線形である。硫酸の流れの供給位置を下げることによる通り抜けの調整では、水およびアンモニアの濃度は調整比の増加から遅延する。供給位置を下げることによる通り抜けによる100%の調整は、洗浄機への硫酸供給流量の完全な停止に対応する。
【0096】
バイパスと通り抜けの両方の調整の選択肢により、調整工程後のガス流中のアンモニア濃度および硫酸アンモニウムの生成速度を完全に制御することができる。
【0097】
実施例5
アンモニア調整ユニット後のシアン化水素酸ガス流の例示的な組成
アンドルソフ反応工程について実施例3で計算した調整工程後のHCNガス流(9)の完全な組成を、選択された調整比について表4に示す。
【0098】
【0099】
実施例6
アンモニア通り抜け調整ユニットを用いて製造されたMNP-シアノヒドリンによるメチオニンの例示的な合成
撹拌子を備えた300mLオートクレーブビーカーの中で、アンモニア含有量が調整されたシアン化水素酸(NH3:HCN=0.087mol/mol、30%バイパスの表4を参照)から調製された、68.4重量%のMMP-CNと16.5重量%のイミノジニトリルとからなる34.7gのMMP-シアノヒドリンに、蒸留水(37g)、炭酸アンモニウム(13.9g)、および炭酸水素アンモニウム(20.2g)を入れた。反応容器を、マノメーターと、ヒーターと、温度センサーと、入口管と、圧力解放とを備えたROTHからの高圧実験室オートクレーブに移した。オートクレーブを密封し、撹拌しながら15分間105℃まで加熱し、その後この温度でさらに30分間維持した。反応期間の終わりに、オートクレーブを水浴中で70℃まで冷却し、生じた圧力(約15bar)を排気した。その後、KOH水溶液(42.5gのH2O中の31.1gのKOH)を、10分間かけて入口管から量り入れた。添加が完了した後、オートクレーブを撹拌しながら25分間180℃まで加熱し、次にこの温度でさらに30分間維持した。反応の過程で、少なくとも10barを超えた場合には圧力は約5分ごとに5barまで排気した。反応期間の終わりに、オートクレーブを流水下で室温まで冷却し、標準圧力まで減圧した。反応生成物のHPLC分析から、75.4%のメチオニンおよび5.1%のMet-Metの形成が確認された。