(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】Syk阻害剤の塩及びその結晶形
(51)【国際特許分類】
C07D 405/14 20060101AFI20240415BHJP
A61K 31/4709 20060101ALI20240415BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20240415BHJP
A61P 11/02 20060101ALI20240415BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20240415BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240415BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240415BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240415BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20240415BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20240415BHJP
【FI】
C07D405/14 CSP
A61K31/4709
A61P11/00
A61P11/02
A61P19/02
A61P25/00
A61P29/00
A61P35/02
A61P37/06
A61P37/08
(21)【出願番号】P 2021533742
(86)(22)【出願日】2019-12-13
(86)【国際出願番号】 CN2019125157
(87)【国際公開番号】W WO2020119785
(87)【国際公開日】2020-06-18
【審査請求日】2022-11-29
(31)【優先権主張番号】201811533849.X
(32)【優先日】2018-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】516089784
【氏名又は名称】チア タイ ティエンチン ファーマシューティカル グループ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Chia Tai Tianqing Pharmaceutical Group Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】No.369 Yuzhou South Rd.,Lianyungang,Jiangsu 222062 China
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ウェンユアン
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ホンジアン
(72)【発明者】
【氏名】ツァン,ミン
(72)【発明者】
【氏名】リウ,フェイ
(72)【発明者】
【氏名】シャン,レイ
(72)【発明者】
【氏名】フー,ツォンユアン
(72)【発明者】
【氏名】グオ,ユフイ
(72)【発明者】
【氏名】リウ,ヤンロン
(72)【発明者】
【氏名】ツァン,フイフイ
【審査官】長谷川 莉慧霞
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-523328(JP,A)
【文献】特表2006-519846(JP,A)
【文献】特表2018-522871(JP,A)
【文献】特表2017-537969(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY/MARPAT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I化合物の塩酸塩。
【化1】
【請求項2】
式I化合物の1:1塩酸塩である、請求項1に記載の式I化合物の塩酸塩。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の式I化合物の塩酸塩
の結晶。
【請求項4】
A型結晶であり、
X-線粉末回折スペクトルにおいて、2θ値で表わされる
と、4.9°
±0.2°、10.1°
±0.2°、12.2°
±0.2°、15.5°
±0.2°、19.6°
±0.2°及び23.8°
±0.2°に回折ピークを有することを特徴とする、請求項3に記載の式I化合物の塩酸塩
の結晶。
【請求項5】
A型結晶であり、
X-線粉末回折スペクトルにおいて、2θ値で表わされる
と、4.9°
±0.2°、10.1°
±0.2°、12.2°
±0.2°、15.5°
±0.2°、17.8°
±0.2°、19.2°
±0.2°、19.6°
±0.2°、22.9°
±0.2°、23.8°
±0.2°及び25.6°
±0.2°に回折ピークを有することを特徴とする、請求項4に記載の式I化合物の塩酸塩
の結晶。
【請求項6】
A型結晶であり、
X-線粉末回折スペクトルにおいて、2θ値で表わされる
と、4.9°
±0.2°、9.6°
±0.2°、10.1°
±0.2°、12.2°
±0.2°、15.5°
±0.2°、16.3°
±0.2°、17.8°
±0.2°、19.2°
±0.2°、19.6°
±0.2°、20.4°
±0.2°、22.9°
±0.2°、23.3°
±0.2°、23.8°
±0.2°、25.6°
±0.2°、26.8°
±0.2°、27.4°
±0.2°、29.0°
±0.2°及び36.8°
±0.2°に回折ピークを有することを特徴とする、請求項5に記載の式I化合物の塩酸塩
の結晶。
【請求項7】
A型結晶であり、
X-線粉末回折スペクトルにおいて、2θ値で表わされる
と、4.9°
±0.2°、9.6°
±0.2°、10.1°
±0.2°、12.2°
±0.2°、14.4°
±0.2°、15.5°
±0.2°、16.3°
±0.2°、17.3°
±0.2°、17.8°
±0.2°、19.2°
±0.2°、19.6°
±0.2°、20.4°
±0.2°、22.9°
±0.2°、23.3°
±0.2°、23.8°
±0.2°、25.6°
±0.2°、26.8°
±0.2°、27.4°
±0.2°、28.3°
±0.2°、29.0°
±0.2°、31.2°
±0.2°、31.6°
±0.2°、31.9°
±0.2°、32.3°
±0.2°、33.0°
±0.2°、34.3°
±0.2°及び36.8°
±0.2°に回折ピークを有することを特徴とする、請求項6に記載の式I化合物の塩酸塩
の結晶。
【請求項8】
A型結晶であり、
示差走査熱量測定(DSC)チャートにおい
て272℃
±5℃に吸収ピークを有することを特徴とする、請求項4~7のいずれか1項に記載の式I化合物の塩酸塩
の結晶。
【請求項9】
B型結晶であり、
X-線粉末回折スペクトルにおいて、2θ値で表わされる
と、5.2°
±0.2°、10.4°
±0.2°、14.7°
±0.2°、15.5°
±0.2°及び25.3°
±0.2°に回折ピークを有することを特徴とする、請求項
3に記載の式I化合物の塩酸塩
の結晶。
【請求項10】
B型結晶であり、
X-線粉末回折スペクトルにおいて、2θ値で表わされる
と、5.2°
±0.2°、10.4°
±0.2°、14.7°
±0.2°、15.5°
±0.2°、16.5°
±0.2°、20.7°
±0.2°、21.5°
±0.2°、22.8°
±0.2°、25.3°
±0.2°及び27.9°
±0.2°に回折ピークを有することを特徴とする、請求項9に記載の式I化合物の塩酸塩
の結晶。
【請求項11】
B型結晶であり、
X-線粉末回折スペクトルにおいて、2θ値で表わされる
と、5.2°
±0.2°、10.4°
±0.2°、14.7°
±0.2°、15.5°
±0.2°、16.5°
±0.2°、17.1°
±0.2°、17.5°
±0.2°、20.3°
±0.2°、20.7°
±0.2°、21.5°
±0.2°、22.8°
±0.2°、23.8°
±0.2°、24.7°
±0.2°、25.3°
±0.2°、27.5°
±0.2°、27.9°
±0.2°及び31.2°
±0.2°に回折ピークを有することを特徴とする、請求項10に記載の式I化合物の塩酸塩
の結晶。
【請求項12】
B型結晶であり、
X-線粉末回折スペクトルにおいて、2θ値で表わされる
と、5.2°
±0.2°、10.4°
±0.2°、13.1°
±0.2°、14.7°
±0.2°、15.5°
±0.2°、16.5°
±0.2°、17.1°
±0.2°、17.5°
±0.2°、20.0°
±0.2°、20.3°
±0.2°、20.7°
±0.2°、21.5°
±0.2°、22.8°
±0.2°、23.2°
±0.2°、23.8°
±0.2°、24.7°
±0.2°、25.3°
±0.2°、25.9°
±0.2°、26.2°
±0.2°、27.5°
±0.2°、27.9°
±0.2°、28.2°
±0.2°、29.7°
±0.2°、30.0°
±0.2°、30.3°
±0.2°、31.2°
±0.2°、31.7°
±0.2°、32.3°
±0.2°、34.5°
±0.2°、34.9°
±0.2°及び36.6°
±0.2°に回折ピークを有することを特徴とする、請求項11に記載の式I化合物の塩酸塩
の結晶。
【請求項13】
請求項1又は2に記載の式I化合物の塩酸塩の混合物であって、請求項4~8のいずれか1項に記載の前記式I化合物の塩酸塩のA型結晶
が前記混合物の重量の50%以上、
又は75%以上、
又は90%以上、
又は95%以上を占める、
前記混合物。
【請求項14】
請求項1又は2に記載の式I化合物の塩酸塩の混合物であって、請求項9~12のいずれか1項に記載の前記式I化合物の塩酸塩のB型結晶
が前記混合物の重量の50%以上、
又は75%以上、
又は90%以上、
又は95%以上を占める、
前記混合物。
【請求項15】
請求項1若しくは2に記載の
式I化合物の塩酸塩、又は請求項3~12のいずれか1項に記載の式I化合物の塩酸塩の結晶、又は請求項13若しくは14に記載の混合物を含む、医薬組成物。
【請求項16】
請求項1若しくは2に記載の
式I化合物の塩酸塩、又は請求項3~12のいずれか1項に記載の式I化合物の塩酸塩の結晶、又は請求項13若しくは14に記載の混合物、又は請求項15に記載の医薬組成物の、Syk受容体関連疾患を治療する医薬品の製造における使用。
【請求項17】
前記Syk受容体関連疾患は癌又は炎症性疾患から選ばれる、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
前記Syk受容体関連疾患は、B細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、有毛細胞白血病、多発性骨髄腫、慢性顆粒球性白血病、急性顆粒球性白血病、慢性リンパ球性白血病、急性リンパ球性白血病、関節リウマチ、アレルギー性鼻炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、成人呼吸窮迫症候群(ARDs)、アレルギー誘発性炎症性疾患、多発性硬化症、自己免疫疾患、急性炎症反応、アレルギー性疾患又は多発性嚢胞腎から選ばれる、請求項16又は17に記載の使用。
【請求項19】
式I化合物を予熱された溶媒に加えて、次に、溶液が澄明となるまで別の溶媒を滴下し、保温しながら撹拌するステップ(1)と、
ステップ(1)の溶液に希塩酸を滴下し、保温しながら一晩撹拌するステップ(2)と、
ステップ(2)の溶液に溶媒を緩やかに滴下し、撹拌して固体を析出させ、ろ過して乾燥させ、式I化合物の塩酸塩のA型結晶を得るステップ(3)とを含む、請求項4~8のいずれか1項に記載の式I化合物の塩酸塩
の結晶の製造方法。
【請求項20】
溶媒に式I化合物を加えて、撹拌して溶解させるステップ(1)と、
ステップ(1)の溶液に希塩酸を加え、一晩撹拌するステップ(2)と、
ステップ(2)の溶液を遠心分離し、固体を乾燥させ、式I化合物の塩酸塩のB型結晶を得るステップ(3)とを含む、請求項9~12のいずれか1項に記載の式I化合物の塩酸塩
の結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
「関連出願の相互参照」
本願は、2018年12月14日に中華人民共和国国家知識産権局に提出された中国特許出願第201811533849.X号の優先権及び利益を主張し、前記出願で開示された内容は引用により全体としてここに組み込まれている。
【0002】
本願は、医薬品化学分野に属し、Syk阻害剤の塩及びその結晶形に関し、より具体的には、5-フルオロ-1-メチル-3-((5-(4-(オキセタン-3-イル)ピペラジン-1-イル)ピリジン-2-イル)アミノ)-6-(1H-ピラゾール-3-イル)キノリン-2(1H)-オン塩酸塩及びその結晶形、その製造方法、医薬組成物、及び使用に関する。
【背景技術】
【0003】
脾臓チロシンキナーゼ(Syk:spleen tyrosine kinase)は細胞内チロシンプロテインキナーゼの一種であり、ZAP70プロテインキナーゼファミリーのメンバーである。SykはB細胞の早期発育、リンパ細胞個体の発育、成熟B細胞の機能発揮に重要な役割を果たしている。これらのプロセスにおいて、それは多種のシグナル伝達経路に関与し、しかもSrcキナーゼのリン酸化を介さずに作用を発揮することができる。Sykは造血幹細胞に一般的に発現することに加えて、非造血細胞、例えば上皮細胞、肝細胞、線維芽細胞、神経細胞や乳腺組織のいずれにも発現し、且つ多種の機能を備えている。
【0004】
ヒトの多くの疾患、例えばアレルギー反応、喘息、炎症や自己免疫性疾患にSyk PTKの機能障害が認められ、多くの研究により、Sykは急性又は慢性炎症の重要な媒体であることを示した。いくつかのよく見られるB細胞悪性腫瘍にSykの活性化が存在し、例えば濾胞リンパ腫、びまん性大B細胞リンパ腫、マントル細胞リンパ腫やB細胞慢性リンパ球性白血病のいずれでも、抗原非依存性リン酸化Sykが検出される。研究者は、濾胞リンパ腫、びまん性大B細胞リンパ腫細胞中のSykを阻害することにより、下流シグナル伝達分子のリン酸化レベルを下げ、それによって腫瘍細胞の増殖と生存を阻害できることを発見した。また、骨髄異形成症候群や末梢T細胞リンパ腫においてSykの転座が認められ、このキナーゼが原癌遺伝子として機能することがさらに示唆された。したがって、Syk活性の阻害は、B細胞リンパ腫及び白血病を含む特定の種類の癌の治療に使用できる。
【発明の概要】
【0005】
式Iに示される化合物は、化学名が、5-フルオロ-1-メチル-3-((5-(4-(オキセタン-3-イル)ピペラジン-1-イル)ピリジン-2-イル)アミノ)-6-(1H-ピラゾール-3-イル)キノリン-2(1H)-オンである。
【化1】
【0006】
本願の一態様は、式I化合物の塩酸塩を提供する。
【0007】
いくつかの実施態様では、式I化合物の塩酸塩は、式I化合物の1:1塩酸塩(式II)である。
【化2】
【0008】
本願の前記式I化合物塩酸塩は、結晶形態又はアモルファス形態、好適には結晶形態である。
【0009】
前記式I化合物塩酸塩の結晶形態は、安定性が高く、吸湿性が低く、優れたインビボ代謝レベル、長い半減期を有し、且つ、脾臓チロシンキナーゼに対する阻害活性に優れ、物理的性質、安全性及び代謝安定性のいずれにおいても優れた性質を有し、医薬品としての価値が高い。
【0010】
いくつかの実施態様では、本願の式I化合物の塩酸塩は、A型結晶であり、X-線粉末回折スペクトルにおいて、2θ値で表わされると、約4.9°、10.1°、12.2°、15.5°、19.6°及び23.8°に回折ピークを有することを特徴とし、代表例として、X-線粉末回折スペクトルにおいて、2θ値で表わされると、約4.9°、10.1°、12.2°、15.5°、17.8°、19.2°、19.6°、22.9°、23.8°及び25.6°に回折ピークを有し、代表例として、X-線粉末回折スペクトルにおいて、2θ値で表わされると、約4.9°、9.6°、10.1°、12.2°、15.5°、16.3°、17.8°、19.2°、19.6°、20.4°、22.9°、23.3°、23.8°、25.6°、26.8°、27.4°、29.0°及び36.8°に回折ピークを有し、代表例として、X-線粉末回折スペクトルにおいて、2θ値で表わされると、約4.9°、9.6°、10.1°、12.2°、14.4°、15.5°、16.3°、17.3°、17.8°、19.2°、19.6°、20.4°、22.9°、23.3°、23.8°、25.6°、26.8°、27.4°、28.3°、29.0°、31.2°、31.6°、31.9°、32.3°、33.0°、34.3°及び36.8°に回折ピークを有する。
【0011】
本願の一実施態様として、本願の式I化合物の塩酸塩のA型結晶のX-線粉末回折スペクトルにおける特徴ピークのピーク位置及び強度を表1に示す。
【0012】
【0013】
本願の一実施態様では、式I化合物の塩酸塩のA型結晶のX-線粉末回折パターンが
図1に示される。
【0014】
本願の一実施態様では、式I化合物の塩酸塩のA型結晶の示差走査熱量測定(DSC)チャートにおいて約272℃に吸収ピークを有する。
【0015】
本願の一実施態様では、式I化合物の塩酸塩のA型結晶の示差走査熱量測定(DSC)チャートが
図2に示される。
【0016】
本願の一実施態様では、式I化合物の塩酸塩のA型結晶の熱重量分析(TGA)図が
図3に示される。
【0017】
いくつかの実施態様では、本願の式I化合物の塩酸塩はB型結晶であり、X-線粉末回折スペクトルにおいて、2θ値で表わされると、約5.2°、10.4°、14.7°、15.5°及び25.3°に回折ピークを有することを特徴とし、代表例として、X-線粉末回折スペクトルにおいて、2θ値で表わされると、約5.2°、10.4°、14.7°、15.5°、16.5°、20.7°、21.5°、22.8°、25.3°及び27.9°に回折ピークを有し、代表例として、X-線粉末回折スペクトルにおいて、2θ値で表わされると、約5.2°、10.4°、14.7°、15.5°、16.5°、17.1°、17.5°、20.3°、20.7°、21.5°、22.8°、23.8°、24.7°、25.3°、27.5°、27.9°及び31.2°に回折ピークを有し、代表例として、X-線粉末回折スペクトルにおいて、2θ値で表わされると、約5.2°、10.4°、13.1°、14.7°、15.5°、16.5°、17.1°、17.5°、20.0°、20.3°、20.7°、21.5°、22.8°、23.2°、23.8°、24.7°、25.3°、25.9°、26.2°、27.5°、27.9°、28.2°、29.7°、30.0°、30.3°、31.2°、31.7°、32.3°、34.5°、34.9°及び36.6°に回折ピークを有する。
【0018】
本願の一実施態様として、本願の式I化合物の塩酸塩のB型結晶のX-線粉末回折スペクトルにおける特徴ピークのピーク位置及び強度を表2に示す。
【0019】
【0020】
本願の一実施態様では、式I化合物の塩酸塩のB型結晶のX-線粉末回折パターンが
図4に示される。
【0021】
別の態様によれば、本願は、式I化合物を予熱された溶媒に加えて、次に、溶液が澄明となるまで別の溶媒を滴下し、保温しながら撹拌するステップ(1)と、ステップ(1)の溶液に希塩酸を滴下し、保温しながら一晩撹拌するステップ(2)と、ステップ(2)の溶液に溶媒を緩やかに滴下し、撹拌して固体を析出させ、ろ過して乾燥させ、式I化合物の塩酸塩のA型結晶を得るステップ(3)とを含む、式I化合物の塩酸塩のA型結晶の製造方法を提供する。
【0022】
本願の一実施態様では、上記式I化合物の塩酸塩のA型結晶の製造において、ステップ(1)の前記予熱された溶媒は、水、酢酸エチル、ジクロロメタン、エタノール、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン又はメチルt-ブチルエーテルから選ばれ、好ましくは水又は酢酸エチルである。
【0023】
本願の一実施態様では、上記式I化合物の塩酸塩のA型結晶の製造において、ステップ(1)の前記予熱された溶媒の温度は、30~40℃、好ましくは35~38℃である。
【0024】
本願の一実施態様では、上記式I化合物の塩酸塩のA型結晶の製造において、ステップ(1)の前記別の溶媒は、ギ酸、酢酸、プロピオン酸又はシュウ酸から選ばれ、好ましくはギ酸である。
【0025】
本願の一実施態様では、上記式I化合物の塩酸塩のA型結晶の製造において、ステップ(1)の前記式I化合物と別の溶媒とのモル体積比は1mmol:0.8~1.5mL、好ましくは1mmol:0.8~1.2mL、より好ましくは1mmol:0.8~1.0mLである。
【0026】
本願の一実施態様では、上記式I化合物の塩酸塩のA型結晶の製造において、ステップ(1)の前記予熱された溶媒と別の溶媒との体積比は、(0.5~3):1、好ましくは(0.5~2):1である。
【0027】
本願の一実施態様では、上記式I化合物の塩酸塩のA型結晶の製造において、ステップ(2)の前記希塩酸中の塩酸とステップ(1)における式I化合物とのモル比は、(1~3):1、好ましくは(1~2):1である。
【0028】
本願の一実施態様では、上記式I化合物の塩酸塩のA型結晶の製造において、ステップ(2)の前記希塩酸の濃度は、1~2mol/L、好ましくは1~1.2mol/Lであり、前記希塩酸は市販濃塩酸を水で希釈したものであるか、又は市販濃塩酸と他の溶媒との混合溶液であり、前記別の溶媒はステップ(1)で予熱された溶媒と同種類である。
【0029】
本願の一実施態様では、上記式I化合物の塩酸塩のA型結晶の製造において、ステップ(3)の前記溶媒は、メタノール、エタノール、アセトン、イソプロパノール、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、エチレングリコール又はプロピレングリコールから選ばれ、好ましくはエタノールである。
【0030】
本願の一実施態様では、上記式I化合物の塩酸塩のA型結晶の製造において、ステップ(3)の前記溶媒とステップ(1)における式I化合物との体積モル比は、2~10mL:1mmol、好ましくは4~9mL:1mmolである。
【0031】
上記式I化合物の塩酸塩のA型結晶の製造において、ステップ(1)とステップ(2)の前記「保温する」とは、撹拌温度がステップ(1)で予熱された溶媒と同じ温度に保持されることを意味する。
【0032】
別の態様によれば、本願は、溶媒に式I化合物を加えて、撹拌して溶解させるステップ(1)と、ステップ(1)溶液に希塩酸を加え、一晩撹拌するステップ(2)と、ステップ(2)の溶液を遠心分離し、固体を乾燥させ、式I化合物の塩酸塩のB型結晶を得るステップ(3)とを含む、式I化合物の塩酸塩のB型結晶の製造方法をさらに提供する。
【0033】
本願の一実施態様では、上記式I化合物の塩酸塩のB型結晶の製造において、ステップ(1)の前記溶媒は、メタノール、エタノール、イソプロパノール、酢酸、アセトン、アセトニトリルから選ばれるか、又は上記任意の2種の混合溶媒であり、好ましくはエタノール、酢酸、アセトン又はこれらの任意の2種の混合溶媒であり、さらに好ましくはエタノール、エタノールと酢酸の混合溶媒又はアセトンと酢酸の混合溶媒である。
【0034】
本願の一実施態様では、上記式I化合物の塩酸塩のB型結晶の製造において、ステップ(1)における式I化合物と溶媒とのモル体積比は、1mmol:10~40mL、好ましくは1mmol:20~35mLである。
【0035】
本願の一実施態様では、上記式I化合物の塩酸塩のB型結晶の製造において、ステップ(1)の溶媒は、酢酸とエタノールの混合溶媒又は酢酸とアセトンの混合溶媒であり、ここで、酢酸とエタノールの体積比又は酢酸とアセトンの体積比は1:(5~10)、好ましくは1:(5~8)である。
【0036】
本願の一実施態様では、上記式I化合物の塩酸塩のB型結晶の製造において、ステップ(1)における式I化合物とステップ(2)における塩酸とのモル比は、1:(1~5)、好ましくは1:(1~3.5)である。
【0037】
本願の一実施態様では、上記式I化合物の塩酸塩のB型結晶の製造において、ステップ(2)の前記希塩酸の濃度は1~2mol/L、好ましくは1~1.2mol/Lであり、前記希塩酸は市販濃塩酸を水で希釈したものである。
【0038】
別の態様によれば、本願は式I化合物の塩酸塩を提供し、上記式I化合物の塩酸塩のA型結晶は前記式I化合物の塩酸塩の重量の50%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上を占める。前記式I化合物の塩酸塩には、式I化合物の塩酸塩の他の結晶又は非結晶形態がさらに少量含有されてもよく、例えば、少量の式I化合物の塩酸塩のB型結晶が含有される。
【0039】
別の態様によれば、本願は式I化合物の塩酸塩を提供し、上記式I化合物の塩酸塩のB型結晶は前記式I化合物の塩酸塩の重量の50%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上を占める。
【0040】
別の態様によれば、本願は、治療有効量の上記式I化合物の塩酸塩を含む医薬組成物を提供し、前記医薬組成物は、少なくとも1種の薬学的に許容される担体又は他の賦形剤を含んでもよい。
【0041】
別の態様によれば、本願は、上記式I化合物の塩酸塩、又は上記医薬組成物の、Syk受容体関連疾患を治療する医薬品の製造における使用を提供する。
【0042】
別の態様によれば、本願は、治療有効量の上記式I化合物の塩酸塩、又は上記医薬組成物を必要とする哺乳動物に投与することを含むSyk受容体関連疾患の治療方法を提供する。
【0043】
別の態様によれば、本願は、哺乳動物におけるSyk受容体関連疾患を治療する上記式I化合物の塩酸塩、又は上記医薬組成物を提供する。
【0044】
本願のいくつかの実施態様では、前記哺乳動物はヒトである。
【0045】
本願において、医薬組成物は一定の剤形に作製することができ、投与経路は経口投与、胃腸外投与(皮下、筋肉内及び静脈内を含む)、直腸投与などが好ましい。例えば、経口投与に適した剤形には、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、丸薬、粉剤、タブレット剤、シロップ剤又は懸濁剤が含まれ、胃腸外投与に適した剤形には、水性又は非水性の注射用溶液又はエマルジョンが含まれ、直腸投与に適した剤形には、親水性又は疎水性担体を用いた座薬が含まれる。必要に応じて、上記の剤形は活性成分の迅速放出、遅延放出又は調節放出に適した剤形に作製することもできる。
【0046】
本願のいくつかの実施態様では、前記Syk受容体関連疾患は、癌又は炎症性疾患から選ばれる。
【0047】
本願のいくつかの実施態様では、前記Syk受容体関連疾患はB細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、有毛細胞白血病、多発性骨髄腫、慢性顆粒球性白血病、急性顆粒球性白血病、慢性リンパ球性白血病、急性リンパ球性白血病、関節リウマチ、アレルギー性鼻炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、成人呼吸窮迫症候群(ARDs)、アレルギー誘発性炎症性疾患、多発性硬化症、自己免疫疾患、急性炎症反応、アレルギー性疾患又は多嚢胞性腎症から選ばれる。
【0048】
本願において、サンプルのX-線粉末回折スペクトルは、以下の条件で測定される。器具:Bruker D8 ADVANCE X線回折装置;ターゲット:Cu:Kα;波長λ=1.54056Å;2θ角範囲:4~40°;スキャン速度10°/min;サンプル回転速度:15rpm;Cuターゲット管電圧及び管電流:40KV、40mA。
【0049】
本願において、DSCスペクトルは、以下の条件で測定される。器具:TA Q2000示差走査熱量計;温度範囲:30~300℃;昇温速度:10℃/min。
【0050】
本願において、TGA熱重量分析は、以下の条件で測定される。器具:TA Q5000熱重量分析装置;温度範囲:25~300℃;昇温速度:10℃/min。
【0051】
なお、X-線粉末回折スペクトルでは、結晶性化合物から得られる回折パターンは、特定の結晶に対して特徴的であることが多く、(特に低角度における)スペクトルバンドの相対強度は、結晶化条件、粒子径や他の測定条件の違いによって生じる有利な配向効果によって変化する可能性がある。したがって、回折ピークの相対強度は、対象となる結晶に対して特徴的なものではなく、既知の結晶と同一であるか否かを判断する際には、ピークの相対強度よりも相対的な位置に注目すべきである。さらに、任意の所定の結晶について、ピークの位置にわずかな誤差が存在する可能性があり、これは結晶学の分野においても公知なことである。例えば、サンプル分析時の温度変化、サンプル移動や器具のキャリブレーションなどにより、ピークの位置が移動し、2θ値の測定誤差が約±0.2°となることがある。したがって、各結晶構造を決定する際には、この誤差を考慮に入れるべきである。XRDパターンでは、通常2θ角又は結晶面距離dでピーク位置を表し、両者の間には簡単な換算関係d=λ/2sinθがあり、ここでdは結晶面距離、λは入射X線の波長、θは回折角を表す。同種化合物の同種結晶に対しては、そのXRDスペクトルのピーク位置が全体的に類似しており、相対強度の誤差が大きい可能性がある。なお、混合物の同定において、含有量の低下などの要因により回折線の一部が欠落することがあり、この場合、高純度サンプルで観察された全スペクトルバンドに依存する必要はなく、1つのスペクトルバンドであっても所定の結晶に特徴的である可能性がある。
【0052】
DSCは、結晶構造の変化や結晶の融解により結晶が熱を吸収又は放出したときの転移温度を測定する。同種化合物の同種結晶に対しては、連続分析において、熱転移温度と融点の誤差は典型的には約5℃以内、通常は約3℃以内、又は約2℃以内であり、化合物が所定のDSCピーク又は融点を有するとすると、DSCピーク又は融点±5℃を意味する。DSCは、異なる結晶を識別するための補助的な方法を提供する。異なる結晶形態はその異なる転移温度特徴によって識別することができる。なお、混合物の場合、そのDSCピーク又は融点はより広い範囲で変動する可能性がある。さらに、溶融温度は昇温速度と相関関係がある。
【0053】
定義及び説明
本願の明細書及び特許請求の範囲に記載されている場合、以下の用語は、別段の指定がない限り、以下の意味を有する。
【0054】
「哺乳動物」は、実験室哺乳動物や家庭ペット(例えば猫、犬、豚、羊、牛、ヒツジ、ヤギ、馬、家兎)などの人や家畜、野生哺乳動物などの非飼養哺乳動物を含む。
【0055】
「医薬組成物」という用語は、本願の化合物と、当分野で一般的に受け入れられている、生物学的に活性な化合物をヒトなどの哺乳動物に送達するための媒体との製剤を意味する。前記媒体は、その使用のための薬剤として許容される全ての担体を含む。医薬組成物は、化合物の生物への投与に有利である。
【0056】
「治療有効量」という用語は、無毒であるが所期の効果を達成するのに十分な医薬物又は薬剤の量をいう。有効量の決定は人によって異なり、受けるものの年齢や一般的な状況により決まり、また、特定の活性物質にも決まり、具体的には、適切な有効量は、当業者が通常の試験に基づいて決定することができる。
【0057】
本願において、「薬学的に許容される担体」とは、活性成分とともに投与され、生体に対して明らかな刺激作用がなく、かつ該活性化合物の生物活性及び性能を損なわない担体をいう。担体に関する他の情報については、Remington:The Science and Practice of Pharmacy,21st Ed.,Lippincott,Williams&Wilkins(2005)を参照することができ、この文献の内容は、引用によってここに組み込まれる。
【0058】
本明細書において、特に断らない限り、用語「含む、含み、及び含んでいる(comprise、comprises、及びcomprising)」又は同等物は、オープンな表現であり、挙げられた要素、成分及びステップに加えて、明記されていない他の要素、成分及びステップをカバーすることができることを意味する。
【0059】
説明及び開示の目的のために、全ての特許、特許出願、及び他の特定された刊行物は、引用により本明細書に明示的に組み込まれる。これらの刊行物は、それらの開示が本願の出願日より前であることのみを理由として提供されるものとする。これらの書類の日付に関する全ての声明又はこれらの書類の内容の記述は、出願人が入手可能な情報に基づいており、これらの書類の日付又はこれらの書類の内容の正確性に関する承認とならない。且つ、如何なる国においても、本明細書におけるこれらの刊行物への引用は、該刊行物がその分野における公知の常識の一部であることについての承認とならない。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【
図1】実施例2の式IIの塩酸塩のA型結晶のX-線粉末回折図(XRPD)である。
【
図2】実施例2の式IIの塩酸塩のA型結晶の示差走査熱量(DSC)図である。
【
図3】実施例2の式IIの塩酸塩のA型結晶の熱重量分析(TGA)図である。
【
図4】実施例6の式IIの塩酸塩のB型結晶のX-線粉末回折図(XRPD)である。
【
図5】実験例2式IIの塩酸塩のA型結晶の動的水蒸気吸着(DVS)図である。
【発明を実施するための形態】
【0061】
以下の具体的な実施例は、当業者が本願をより明確に理解して実施することを可能にすることを目的としている。これらは、本願の範囲を限定するものではなく、本願の例示的な説明及び代表的なものにすぎないと考えるべきである。
【0062】
酸化又は加水分解しやすい原料に関連する全ての操作は、窒素ガス保護下で行われる。特に断らない限り、本願で使用されている原料は、市場で直接購入されたものであり、さらに精製されずに直接使用される。本願で使用されている溶媒は、直接市販されており、特別な処理をせずに直接使用される。化合物は手動又はChemDraw(登録商標)ソフトウェアによって命名され、市販の化合物にはベンダーカタログ名が使用される。
【0063】
本願は下記略語を使用する。DMAPは4-ジメチルアミノピリジンを表し、Pd2(dba)3はトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムを表し、Xantphosは4,5-ビス(ジフェニルホスフィノ)-9,9-ジメチルキサンテンを表し、Pd(dppf)Cl2は[1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウムジクロリドを表す。
【0064】
実施例1:式I化合物の製造
【化3】
ステップ1
窒素ガス保護下、0℃で1a(59.00g、436.59mmol)のテトラヒドロフラン(600mL)溶液に水素化ナトリウム(19.24g、480.99mmol、60%純度)を加え、反応液を30分間撹拌した後、トリフルオロメタンスルホン酸メチル(93.14g、567.57mmol、62.09mL)を加え、15℃で2時間撹拌し続けた。反応終了後、反応液を飽和塩化アンモニウム(1L)でクエンチングし、酢酸エチル(3×500mL)で3回抽出した。有機相を飽和塩化アンモニウム食塩水(1L)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。ろ過して濃縮させた後、残留物をカラムクロマトグラフィーにかけて、1bを得た。
1H NMR (400MHz, CDCl
3) δ = 7.22 - 7.08 (m, 2H), 7.03 (br d, J=3.0 Hz, 1H), 6.86 - 6.73 (m, 1H), 6.58 (d, J=2.5 Hz, 1H), 3.81 (s, 3H)。
ステップ2
窒素ガス保護下、1b(55.00g、368.72mmol)のジメチルスルホキシド(400mL)溶液にN-ブロモスクシンイミド(65.63g、368.72mmol)を加え、20℃で1時間撹拌した。上記反応液にN-ブロモスクシンイミド(65.63g、368.72mmol)をさらに加え、反応液を60℃に昇温して10時間撹拌し続けた。反応終了後、反応液を水(6L)に注入してろ過し、ろ過ケーキをアセトン(2L)に溶解してろ過し、ろ過ケーキをアセトン(500mL)で洗浄した。ろ液を濃縮させた後、残留物をカラムクロマトグラフィーにかけて、1cを得た。
1H NMR (400MHz, DMSO-d6) δ = 7.72 (dt, J=5.8, 8.2 Hz, 1H), 6.99 (d, J=7.8 Hz, 1H), 6.93 (t, J=8.8 Hz, 1H), 3.15 (s, 3H)。
ステップ3
窒素ガス保護下、1c(31.0g、173.04mmol)のアセトニトリル(300mL)及び水(600mL)にN-ブロモスクシンイミド(40.04g、224.95mmol)を加え、反応液を15℃で16時間撹拌した。反応終了後、反応液をろ過し、ろ過ケーキを水(300mL)で洗浄し、乾燥させて1dを得た。
1H NMR (400MHz, DMSO-d6) δ = 7.99 (dd, J=7.3, 8.3 Hz, 1H), 6.98 (d, J=8.5 Hz, 1H), 3.14 (s, 3H)。
ステップ4
窒素ガス保護下、1d(32.00g、124.01mmol)とトリエチルアミン(25.1g、248.02mmol)のエタノール(300mL)の溶液に、0℃でトリメチルシリルジアゾメタン(2mol/L、65.11mL)を滴下し、0~15℃で1時間撹拌した。反応終了後、反応液を濃縮させ、残留物を酢酸エチル(500mL)でスラリー化し、ろ過して、ろ過ケーキを乾燥させ、1eを得た。
1H NMR (400MHz, DMSO-d6) δ= 10.17 (br s, 1H), 7.65 (dd, J=7.5, 9.0 Hz, 1H), 7.30 (d, J=9.0 Hz, 1H), 7.11 (s, 1H), 3.69 (s, 3H)。
ステップ5
窒素ガス保護下、0℃でトリフルオロメタンスルホン酸無水物(13.48g、47.78mmol)を1e(10.0g、36.76mmol)、ピリジン(8.72g、110.27mmol)とDMAP(449.04mg、3.68mmol)のジクロロメタン(200mL)溶液に滴下し、15℃で1時間撹拌した。反応終了後、反応液を水(300mL)でクエンチングし、1N塩酸でpHを5に調整した。有機相を飽和塩化アンモニウム塩化ナトリウム(250mL)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、ろ過して濃縮させ、1fを得た。
1H NMR (400MHz, CDCl
3) δ = 7.93 (s, 1H), 7.82 - 7.75 (m, 1H), 7.11 (d, J=9.0 Hz, 1H), 3.79 (s, 3H)。
ステップ6
窒素ガス保護下、テトラヒドロフラン(200mL)に1f(10.00g、24.74mmol)、1g(6.38g、27.21mmol)、Pd
2(dba)
3(2.27g、2.47mmol)、Xantphos(2.15g、3.71mmol)及び炭酸セシウム(16.12g、49.48mmol)を加え、50℃で16時間撹拌した。反応終了後、反応液を水(200mL)に加え、ろ過して、ろ過ケーキを酢酸エチル(100mL)でスラリー化した。ろ過して、固体を乾燥させ、1hを得た。
1H NMR (400MHz, DMSO-d6) δ = 9.07 - 8.76 (m, 2H), 8.00 (br d, J=2.3 Hz, 1H), 7.68 - 7.40 (m, 2H), 7.32 (br dd, J=9.0, 13.3 Hz, 2H), 4.71 - 4.39 (m, 4H), 3.75 (s, 3H), 3.52 - 3.39 (m, 1H), 3.14 (br s, 4H), 2.42 (br s, 4H)。
ステップ7
窒素ガス保護下、1,4-ジオキサン(160mL)及び水(40mL)に1h(9.00g、18.43mmol)、炭酸カリウム(6.37g、46.07mmol)、Pd(dppf)Cl
2(1.08g、1.47mmol)、及び1i(5.36g、27.64mmol)を加え、110℃で16時間撹拌した。反応終了後、反応液が冷却すると固体が析出され、ろ過して、ろ過ケーキを水(200mL)及び酢酸エチル(100mL)で洗浄し、ろ過ケーキを乾燥させ、式I化合物を得た。
1H NMR (400MHz, DMSO-d6) δ = 13.08 (br s, 1H), 9.04 (br s, 1H), 8.78 (br s, 1H), 8.16 - 7.70 (m, 3H), 7.57 - 7.23 (m, 3H), 6.73 (br s, 1H), 4.74 - 4.37 (m, 4H), 3.79 (br s, 3H), 3.56 (br s, 2H), 3.14 (br s, 3H), 2.42 (br s, 4H)。
【0065】
実施例2:式IIの塩酸塩のA型結晶の製造
50L反応釜に脱イオン水5440mLを加え、回転数200rpmで機械的に撹拌し、内温が35~38℃となるまで加熱し、その後、式I化合物1360gをバッチ式で加え、0.5時間撹拌し、溶液が黄色懸濁液となった。反応釜にギ酸2720mLを約1時間かけて滴下し、溶液が完全に澄明になると、1時間撹拌し続けた。その後、反応釜に調製済みの1mol/Lの塩酸水溶液4290mLを約2時間かけて滴下し、反応系が黄色澄明液のままであり、この条件を維持してさらに一晩撹拌した。反応釜にエタノール24900mLを約5時間かけて滴下し、エタノールが約7000mL添加されると、明るい黄色の固体が析出され始め、固体が完全に析出されるまで滴下し続け、この条件を維持してさらに一晩撹拌した。ろ過してろ過ケーキを所定重量まで真空乾燥させ、純度99.79%の式IIに示される塩酸塩のA型結晶1220gを得た。
【0066】
実施例3:式IIに示される塩酸塩のA型結晶の製造
100mL反応フラスコに脱イオン水2mLを加え、内温が35~38℃となるまで加熱し、その後、式I化合物0.6gを加え、0.5時間撹拌し、溶液が黄色懸濁液となった。反応フラスコにギ酸1mLを約5分間かけて滴下し、溶液が完全に澄明になると、1時間撹拌し続けた。その後、反応フラスコに調製済みの1mol/Lの塩酸水溶液1.26mLを約5分間かけて滴下し、反応系が黄色澄明液のままであり、この条件を維持してさらに一晩撹拌した。反応フラスコにエタノール8mLを約15分間かけて滴下し、エタノールが約5mL添加されると、明るい黄色の固体が析出され始め、固体が完全に析出されるまで滴下し続け、この条件を維持して4時間撹拌し続けた。ろ過してろ過ケーキを所定重量まで真空乾燥させ、式IIに示される塩酸塩のA型結晶0.55gを得た。
【0067】
実施例4:式IIに示される塩酸塩のA型結晶の製造
100mL反応フラスコに脱イオン水2mLを加え、内温が35~38℃となるまで加熱し、その後、式I化合物0.6gを加え、0.5時間撹拌し、溶液が黄色懸濁液となった。反応フラスコにギ酸1mLを約5分間かけて滴下し、溶液が完全に澄明になると、1時間撹拌し続けた。その後、反応フラスコに調製済みの1mol/Lの塩酸水溶液2.52mLを約5分間かけて滴下し、反応系が黄色澄明液のままであり、この条件を維持してさらに一晩撹拌した。反応フラスコにエタノール8mLを約15分間かけて滴下し、エタノールが約5mL添加されると、明るい黄色の固体が析出され始め、固体が完全に析出されるまで滴下し続け、この条件を維持して4時間撹拌し続けた。ろ過してろ過ケーキを所定重量まで真空乾燥させ、式IIに示される塩酸塩のA型結晶0.55gを得た。
【0068】
実施例5:式IIに示される塩酸塩のA型結晶の製造
100mL反応フラスコに酢酸エチル2mLを加え、内温が35~38℃となるまで加熱し、その後、式I化合物1.0gを加え、0.5時間撹拌し、溶液が黄色懸濁液となった。反応フラスコにギ酸3mLを約15分間かけて滴下し、溶液が完全に澄明になると、1時間撹拌し続けた。その後、反応フラスコに35%塩酸水溶液0.26mLと酢酸エチル2.0mLを約5分間かけて滴下し、反応系が黄色澄明液のままであり、この条件を維持してさらに一晩撹拌した。反応フラスコにエタノール20mLを約15分間かけて滴下し、エタノールが約15mL添加されると、明るい黄色の固体が析出され始め、固体が完全に析出されるまで滴下し続け、この条件を維持して4時間撹拌し続けた。ろ過してろ過ケーキを所定重量まで真空乾燥させ、式IIに示される塩酸塩のA型結晶0.95gを得た。
【0069】
実施例6:式I化合物塩酸塩のB型結晶の製造
式I化合物500mgを40mLガラスバイアルに加え、エタノール35mLを加え、反応液をマグネチックスターラーにセットして40℃で2時間撹拌し、その後、水で10倍希釈した1.2mol/Lの希塩酸3mLを加え、上記反応液をマグネチックスターラーにセットして40℃で一晩撹拌した。反応液を遠心分離して、固体を真空オーブンに入れて一晩乾燥させて、式IIに示される塩酸塩のB型結晶を得た。
【0070】
実施例7:式I化合物塩酸塩のB型結晶の製造
式I化合物500mgを40mLガラスバイアルに加え、エタノール29.2mLと酢酸5.8mLの混合溶液を加え、反応液をマグネチックスターラーにセットして40℃で2時間撹拌し、その後、水で10倍希釈した1.2mol/Lの希塩酸3mLを加え、上記反応液をマグネチックスターラーにセットして40℃で一晩撹拌した。反応液を遠心分離して、固体を真空オーブンに入れて一晩乾燥させて、式IIに示される塩酸塩のB型結晶を得た。
【0071】
実施例8:式I化合物塩酸塩のB型結晶の製造
式I化合物500mgを40mLガラスバイアルに加え、アセトン29.2mLと酢酸5.8mLの混合溶液を加え、反応液をマグネチックスターラーにセットして40℃で2時間撹拌し、その後、水で10倍希釈した1.2mol/Lの希塩酸3mLを加え、上記反応液をマグネチックスターラーにセットして40℃で一晩撹拌した。反応液を遠心分離して、固体を真空オーブンに入れて一晩乾燥させて、式IIに示される塩酸塩のB型結晶を得た。
【0072】
実験例1:式IIに示される塩酸塩のA型結晶の安定性の検討
『原薬及び製剤の安定性試験の指導原則』(中国薬局方2015版四部通則9001)に準じて、式IIに示される塩酸塩のA型結晶の、高温(60℃、開放)、高湿(室温/相対湿度92.5%、開放)及び光照射(総照度1.2×10
6Lux・hr/近紫外線200w・hr/m
2、開放)の条件での安定性をそれぞれ調べた。
式IIに示される塩酸塩のA型結晶5mgを秤量して、ガラス製サンプル瓶の底部に薄く敷いた。高温及び高湿の条件下で放置したサンプルについてアルミホイルで開口部を密閉し、アルミホイルに孔を空け、サンプルを環境中の空気と十分に接触させた。強光照射条件でサンプルをアルミホイルで密閉させずに開放したまま放置した。異なる条件で放置したサンプルについて、5日目、10日目にサンプリングしてそのX-線粉末回折スペクトルを検出し、検出結果を0日目の初期検出結果と比較し、実験結果を表3に示す。
【表3】
結果から明らかなように、式IIに示される塩酸塩のA型結晶は、高温、高湿及び光照射の条件で、良好な安定性を有する。
【0073】
実験例2:式IIに示される塩酸塩のA型結晶の吸湿性の検討
器具:SMS DVS Advantage動的蒸気吸着装置
方法:式IIに示される塩酸塩のA型結晶10~15mgをDVSサンプルトレイに取り、テストを行った。
DVSパラメータは以下のとおりである。
温度:25℃
平衡:dm/dt=0.01%/min(最短:10min、最長:180min)
乾燥:0% RHで120min乾燥
RH(%)テスト勾配:10%
RH(%)テスト勾配範囲:0%~90%~0%
結果:式IIに示される塩酸塩のA型結晶のDVSパターンは
図5に示され、△W=1.371%である。
結論:式IIに示される塩酸塩のA型結晶は、25±1℃、80±2% RHの条件で、吸湿性が低い。
【0074】
実験例3:式IIに示される塩酸塩のA型結晶の有機溶媒での安定性の検討
式IIに示される塩酸塩のA型結晶60mgを秤量して、8mLガラスバイアルに入れ、メタノール4mLを加え、ガラスバイアルをマグネチックスターラーにセットし、それぞれ20℃及び50℃で24時間撹拌した後、懸濁液を遠心分離して、有機溶媒を除去し、得た固体を真空乾燥させ、そのX-線粉末回折スペクトルを検出し、結果を式IIに示される塩酸塩のA型結晶のX-線粉末回折スペクトル図と比較した。
上記方法に従って、エタノール、酢酸エチル、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン及びn-ヘキサンを溶媒として、平行試験を行った。
結果から、式IIに示される塩酸塩のA型結晶が上記溶媒に24時間懸濁した後、そのX-線粉末回折スペクトルが式IIに示される塩酸塩のA型結晶のスペクトルと一致していることを示し、このことから、式IIに示される塩酸塩のA型結晶は、調べる対象となる溶媒系のいずれにおいても結晶形変換が起っておらず、結晶形が安定的であることを示している。
【0075】
実験例4:SYKキナーゼに対する式I化合物の阻害作用のインビトロテスト
4.1 実験目的:均一時間分解蛍光技術(HTRF)により基質と酵素の相互作用を検出し、化合物の半数阻害濃度(IC50)値を指標として、チロシンキナーゼ(SYK)に対する化合物の阻害作用を評価した。
4.2 実験材料:
チロシンキナーゼ(Invitrogen、PV3857)
ジチオスレイトール(DTT)(Sigma#43815)
アデノシン三リン酸(ATP)(Sigma#A7699)
塩化マグネシウム(MgCl2)(Sigma#63020)
塩化マンガン(MnCl2)(Sigma#M1787)
エチレンジアミン四酢酸(EDTA)(Invitrogen#15575-020)
4-ヒドロキシエチルピペラジンエタンスルホン酸緩衝液(HEPES Buffer)(Invitrogen#15630-080)
HTRF(登録商標) KinEASE(商標)チロシンキナーゼキット(Cisbio#62TK0PEC、20000 tests)
低容量、384ウェル、白色ポリスチレン板(Greiner#784075)
384マイクロプレート(Greiner#781946)
遠心分離機(Eppendorf#5810R)
ピペット装置(Eppendorf)
ピペット管(Greiner)
ピペットガン(Eppendorf)
Multidrop自動分液器
POD 810 Plate Assembler 全自動マイクロプレート前処理システム
Envision Reader多機能マイクロプレートリーダー
4.3 実験のステップ及び方法:
a)化合物の希釈及びサンプル注入
1)式I化合物粉末を秤量して、初期濃度が10mMとなるように一定量のジメチルスルホキシドに溶解した。
2)化合物を濃度0.74mMに希釈し、全自動マイクロプレート前処理システムを用いてサンプルを1ウェルあたり135nL注入し、化合物の初期濃度を10μMとして、11個の濃度点で、3倍で逓減するように勾配希釈を行った。
b)酵素と基質の反応段階
1)希釈実験緩衝液を準備して、キット内の5×HTRF緩衝液を1×に希釈し、キットの取扱書に従って、所定量のジチオスレイトール及び塩化マグネシウム溶液を加えて使用に備えた。
2)1×HTRF緩衝液を用いてチロシナーゼ反応溶液を調製し、チロシンキナーゼの最終反応濃度を0.0156ng/μLとした。
3)チロシンキナーゼ-基質-ビオチン/アデノシン三リン酸混合液を調製し、最終基質濃度を0.2μM、アデノシン三リン酸濃度を2μMに制御した。
4)Multidrop自動分液器を用いてサンプルを注入し、式I化合物を加えたマイクロプレートにチロシナーゼ溶液とチロシンキナーゼ-基質-ビオチン/アデノシン三リン酸混合液を1ウェルあたり5μl加え、23℃で1時間インキュベートした。
c)検出段階
1)キット内の検出緩衝液(Detection Buffer)にエチレンジアミン四酢酸溶液13.33mLを加え、キット取扱書に従って、所定量のウラン(Eu)で標識された抗体及びストレプトアビジンXL-665を加えて、検出液を調製した。
2)Multidrop自動分液器を用いて上記のマイクロプレートにサンプルを注入し、1ウェルあたり検出液10μLとし、23℃で1時間インキュベートし、酵素と基質の混合液の反応を停止した。
3)遠心分離後、得た上清液を多機能マイクロプレートリーダーにて値を読み取った。
d)データ分析
XL-Fitでデータを分析し、式I化合物のIC50値を算出した。
【0076】
実験例5:AKTリン酸化に対する式I化合物の阻害作用のインビトロテスト
5.1 実験目的:酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)実験によって細胞内のプロテインキナーゼAKTリン酸化作用を検出し、化合物の半数阻害濃度(IC50)値を指標として、プロテインキナーゼAKTリン酸化に対する化合物の阻害作用を評価した。
5.2 実験材料
細胞系:Ramos細胞系
細胞培地(RPMI1640、Invitrogen#22400-105;10%ウシ胎児血清、Gibco#10099-141;L-グルタミン1×、Gibco#25030-081)
実験用培地(血清不含、RPMI 1640、Invitrogen#22400-105;L-グルタミン1×、Gibco#25030)
溶解緩衝液(トリメチロールアミノメタン塩酸塩、Invitrogen 15567-1000ml;塩化ナトリウム、中国製;デオキシコール酸ナトリウム、Sigma 30970-25G;ポリエチレングリコールオクチルフェニルエーテル、Sigma T9284-100ml;ドデシル硫酸ナトリウム、Sigma L3771;エチレンジアミン四酢酸、Invitrogen 15575-038-100ml;超純水、MilliQ)
プロテアーゼ阻害剤(Roche、4693159001-30/BOX)
ホスファターゼ阻害剤混合物2(Sigma、P5726-5ML)
ホスファターゼ阻害剤混合物3(Sigma、P0044-5ML)
ヤギ抗ヒト免疫グロブリンM(F(ab’)2 Goat Anti-Human IgM)(JacksonImmuno Research-109-006-129)
リン酸化AKT検出キット(Phospho-AKT 1/2/3(ser473))(TGR Bioscience、EKT002)
10×平衡塩溶液(10×Hank’s Balanced Salt Solution)(Gibco#14065-056)
96ウェル細胞板(Greiner # 655090)
化合物Vウェル希釈板(Axygen#WITP02280)
CO2インキュベータ(Thermo#371)
遠心分離機(Eppendorf #5810R)
Vi-cell細胞カウンター(Beckman Coulter)
ピペット装置(Eppendorf)
ピペット管(Greiner)
ピペットガン(Eppendorf)
多機能マイクロプレートリーダー(Envision Reader)
5.3 実験ステップ及び方法
a)細胞接種(Ramos細胞)
1)37℃の水浴で細胞培地を予熱し、別にRamos懸濁細胞培養液を吸い取り、1000rpmで5分間遠心分離した。
2)遠心分離後の上清液を捨てて、予熱済みの細胞培地を遠心分離管に加え、再懸濁細胞をピペッティングし、Ramos細胞再懸濁液1mLを吸い取って、Vi-cellでカウントした。
3)細胞培地でRamos細胞再懸濁液を希釈して、細胞密度を5×10
6個細胞/mLとし、マルチチャンネルピペットを用いて、希釈済みの細胞を96ウェル細胞培養板(100μL/ウェル)に加え、細胞培養板を37℃、5% CO2インキュベータに入れて一晩放置した。
b)細胞飢餓
接種した細胞を一晩培養した後、翌日、1000rpmで5分間遠心分離し、マルチチャンネルピペットを用いて元の細胞培地を吸い取り、血清不含の実験用培地を加えて、細胞培養板を37℃、5% CO2インキュベータに入れて、一晩飢餓した。
c)測定対象サンプルの準備及びサンプル注入
1)測定対象サンプルである式I化合物をジメチルスルホキシドで溶解し、初期濃度5mMの式I化合物の溶液を得て、化合物Vウェル希釈板でこの式I化合物の溶液を3倍勾配希釈し、10個の濃度点とした。
2)別の新しい化合物Vウェル希釈板を準備し、1ウェルあたり198μLの血清不含実験用培地を加えた後、前のステップの初期濃度の溶液及び3倍勾配希釈後の化合物溶液を1ウェルあたり2μl加え、マルチチャンネルピペットを用いて均一に混合し、このとき、化合物は100倍希釈され、ここで、前記ウェルにて希釈された式I化合物の最大濃度は50μMであった。
3)b)において一晩飢餓した細胞培養板に、ステップ2)で得た希釈後の各化合物溶液を1ウェルあたり25μL加え、各ウェル中の細胞培地を100μLとし、各化合物溶液を再度5倍希釈し、このとき、前記ウェルにおける希釈後の式I化合物の最大濃度は10μMであり、残りのウェルには3倍勾配希釈により得られた10個の濃度点の式I化合物の希釈液がある。
4)ステップ3)の細胞培養板を1000rpmで1分間遠心分離し、その後、細胞培養板を37℃、5% CO2インキュベータに入れて、化合物を1時間作用させた。
d)刺激因子による刺激
1)2本の1×平衡塩溶液を調製し、10×平衡塩溶液を再蒸留水で1×平衡塩溶液となるまで希釈し、それぞれ37℃恒温箱及び4℃冷蔵庫に入れて使用に備えた。
2)1本の溶解混合液を調製して、4℃冷蔵庫に入れて使用に備えた。その処方は、プロテアーゼ阻害剤錠剤1錠+ホスファターゼ阻害剤混合物2 100μL+ホスファターゼ阻害剤混合物3 100μL+溶解緩衝液10mLであった。
3)ヤギ抗ヒト免疫グロブリンM(F(ab’)2 Goat Anti-Human IgM)(1.2mg/mL)を、37℃で予熱された1×平衡塩溶液で60μg/mLに希釈した。
4)化合物でRamos細胞を1時間処理した後、希釈されたヤギ抗ヒト免疫グロブリンM(F(ab’)2 Goat Anti-Human IgM)を1ウェルあたり25μL加え、このとき、前記IgMの作用濃度は10μg/mLであった。
5)前記IgMを用いて細胞を10分間刺激し、4000rpmで5分間遠心分離し、懸濁細胞を96ウェル板の底部に沈殿させ、懸濁細胞を保留して96ウェル板中の液体を慎重に排出し、ペーパータオルで残りの液体を吸い取った。
6)予冷した(4℃)1×平衡塩溶液を1ウェルあたり250μL加えて、4000rpmで5分間遠心分離し、細胞に対する前記IgMの刺激を停止した。
e)細胞溶解液の製造
1)96ウェル板中の液体を慎重に排出し、ペーパータオルで残りの液体を吸い取り、溶解混合液を1ウェルあたり100μL加え、4℃でシェーカーにて1時間振とうさせ、細胞を溶解した。
2)細胞を1時間溶解した後、4℃、4000rpmで5分間遠心分離し、上清を軽く吸い取り、細胞溶解液を得た。
f)酵素結合免疫吸着アッセイ(Elisa)実験
1)リン酸化AKT検出キットにおける96ウェルElisa板を取り出し、室温となるまで平衡し、細胞溶解液を1ウェルあたり50μL加えた。
2)キット中の捕捉抗体試薬(Capture Antibody Reagent)と検出抗体試薬(DetectionAntibody Reagent)を1:1で均一に混合し、その後、96ウェルElisa板に1ウェルあたり50μL加え、細胞溶解液と上記抗体試薬との混合液を室温でシェーカーにて1時間振とうさせた。
3)キット中の洗浄液(10×)を再蒸留水で1×に希釈し、Elisa板中の液体を捨てて、吸収紙で水分を吸い尽くし、1×洗浄液を1ウェルあたり200μL加え、板を洗浄した後、水分を吸い尽くし、これを4回繰り返した。
4)10-アセチル-3,7-ジヒドロキシフェノキサジン(ADHP)(100×)基質をADHP希釈液で1×に希釈し、96ウェルElisa板に1ウェルあたり100μL加え、室温でシェーカーにて10分間振とうさせた。
5)停止液を1ウェルあたり10μL加えて、瞬間遠心分離を行い、室温でシェーカーにて5分間振とうさせ、Envision Reader多機能マイクロプレートリーダーにより値を読み取った。
g)データ分析
XL-Fitによりデータを分析し、化合物のIC50値を算出した。
実験例4及び実験例5の結果を表4に示す。
【表4】