IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ イタリー エス.ピー.エー.の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】可撓性が高いVDFポリマー
(51)【国際特許分類】
   C08F 214/24 20060101AFI20240415BHJP
   C08L 27/16 20060101ALI20240415BHJP
   C08L 27/18 20060101ALI20240415BHJP
   C08L 27/20 20060101ALI20240415BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20240415BHJP
【FI】
C08F214/24
C08L27/16
C08L27/18
C08L27/20
C08J5/18 CEW
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021535896
(86)(22)【出願日】2019-12-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-22
(86)【国際出願番号】 EP2019086190
(87)【国際公開番号】W WO2020127651
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-11-17
(31)【優先権主張番号】18215070.6
(32)【優先日】2018-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】513092877
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ イタリー エス.ピー.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】アブスレメ, ジュリオ ア.
【審査官】飛彈 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-502650(JP,A)
【文献】国際公開第2004/092257(WO,A1)
【文献】特表2010-525124(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0133482(US,A1)
【文献】特表2014-505134(JP,A)
【文献】特公昭60-023688(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 214/24
C08L 27/16
C08L 27/18
C08L 27/20
C08J 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半結晶性フッ化ビニリデン(VDF)コポリマー[ポリマー(A)]であって、
(a)フッ化ビニリデン(VDF)に由来する繰り返し単位;
(b)クロロトリフルオロエチレン(CTFE)に由来する繰り返し単位8~20重量%
(c)式(I)
[式中、R1、R2、R3のそれぞれは、互いに等しいか又は異なり、独立して水素原子又はC~C炭化水素基であり、及びRxは、水素、又は場合により少なくとも1個の官能基を含むC~C炭化水素部分である]
の少なくとも1種の親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)に由来する繰り返し単位0.4~1.5重量%;並びに
(d)ヘキサフルオロプロピレン(HFP)に由来する繰り返し単位0.7~2.0重量%
からなり、前記重量%が、ポリマー(A)の繰り返し単位の総重量に対してであり、
ポリマー(A)が、ASTM D3418に従って測定した少なくとも0.4J/gの融解熱を有するポリマー(A)。
【請求項2】
本明細書の実験の部に記載される方法に従ってN,N-ジメチルホルムアミド中において25℃で測定される、最大で0.50l/gの固有粘度を有する、請求項1に記載のポリマー(A)。
【請求項3】
本明細書の実験の部に記載される方法に従ってN,N-ジメチルホルムアミド中において25℃で測定される、少なくとも0.05l/gの固有粘度を有する、請求項1に記載のポリマー(A)。
【請求項4】
モノマー(MA)が、
- アクリル酸(AA)、
- (メタ)アクリル酸、
- ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(HEA)、
- 2-ヒドロキシプロピルアクリレート(HPA)、
- ヒドロキシエチルヘキシル(メタ)アクリレート、
及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリマー(A)。
【請求項5】
VDF-CTFE-AA-HFPテトラポリマーである、請求項1~のいずれか1項に記載のポリマー(A)。
【請求項6】
VDF-CTFE-HEA-HFPテトラポリマーである、請求項1~のいずれか1項に記載のポリマー(A)。
【請求項7】
組成物[組成物(C)]であって、
種又は複数種の請求項1~6のいずれか1項に記載のポリマー(A)、及び
- 1種又は複数種の有機溶媒を含む液体媒体
を含む組成物(C)。
【請求項8】
- 前記組成物(C)の総重量に対して、0.5重量%~50重量%の1種又は複数種の本発明のポリマー(A)、及び
- 前記組成物(C)の総重量に対して、99.5重量%~50重量%の1種又は複数種の有機溶媒を含む液体媒体、
を含む、請求項に記載の組成物(C)。
【請求項9】
前記有機溶媒が、
- メチルアルコール、エチルアルコール及びジアセトンアルコールなどのアルコール、
- アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン及びイソホロンなどのケトン、及び
- イソプロピルアセテート、n-ブチルアセテート、メチルアセトアセテート、ジメチルフタレート及びγ-ブチロラクトンなどの直鎖状又は環状エステル、
からなる群から選択される、請求項又はに記載の組成物(C)。
【請求項10】
種又は複数種の請求項1~6のいずれか1項に記載のポリマー(A)を含む膜。
【請求項11】
請求項10に記載の膜を作製する方法であって、前記方法が、請求項のいずれか1項に記載の組成物(C)を通常キャスティングにより加工することを含む方法。
【請求項12】
請求項10に記載の膜を作製する方法であって、前記方法が、1種又は複数種のポリマー(A)をペレットの形態に通常押出すことにより加工することを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年12月21日出願の欧州特許出願第18215070.6号に対する優先権を主張するものであり、この出願の全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、クロロトリフルオロエチレンに由来する繰り返し単位、及び(メタ)アクリルモノマーに由来する繰り返し単位を含む、改善された可撓性を有するフッ化ビニリデンコポリマーと、それらの製造プロセスと、極めて優れた可撓性が必要とされる用途でのそれらの使用とに関する。
【背景技術】
【0003】
フルオロポリマーは、それらの固有の耐薬品性及び優れた機械的特性のために、様々な用途及び環境で使用される優れた材料であることが当該技術分野で知られている。
【0004】
ポリフッ化ビニリデン(PVDF)は、特に、優れた機械的強度に関連する高い化学安定性が知られているポリマーである。
【0005】
それにもかかわらず、PVDFは、高い可撓性に欠けるという欠点を呈し、そしてこれにより、この特性が必要とされる分野、例えば二次電池などにおいて、その使用が限定される。
【0006】
ハロゲン化コモノマー、例えばクロロトリフルオロエチレンなどに由来するモノマー単位の取り込みにより、PVDFの可撓性を改善することは知られている。
【0007】
日本特許第60023688号公報(クレハ)は、クロロトリフルオロエチレンを2~15重量%の範囲の量含有する、フッ化ビニリデン(VDF)とクロロトリフルオロエチレン(CTFE)との均質な熱可塑性コポリマーの、VDFとCTFEの相対反応性を考慮するためにCTFEを全VDFへ遅延注入及び調整注入する共重合による製造を開示している。得られる均質コポリマーは、PVDFと比較すると増大された可撓性を呈するが、それらの融解温度は、PVDFの融解温度よりも著しく低く、これが、重大な不利益をもたらす一因となる。
【0008】
可撓性のVDFコポリマーは、ポリオレフィンリチウムイオン電池の多孔質膜セパレータのコーティングとして使用される。VDFのコポリマーは、また、集電体へのそれらの良好な接着性の観点から、電極のバインダーとして好適である。これらの用途では、フッ化ビニリデンコポリマーのコーティングが、電池の動作中に高温ピークにもかかわらず変化しないのが望ましいので、これらの電池の構成部品への損傷を回避するために、融点が高く且つ可撓性が高いVDFコポリマーが望まれる。
【0009】
可撓性のVDFコポリマーは、また、化学処理産業、パイプ、及び建築用コーティングなどのいくつかの他分野に適用される。
【0010】
いくつかの場合では、殊に、その結晶化度が高い故に亀裂が生じることがある低温において、可撓性である、極めて可撓性が高いVDFのコポリマーが、必要とされることとなる。
【0011】
さらに、コーティング用途などのいくつかの用途では、低温で有機溶媒に溶解される可撓性のVDFコポリマーを有することが望ましい。
【0012】
よく知られていることだが、VDFコポリマーの調製に使用されるフッ素化モノマーは、重合プロセスにおいて、それぞれ異なる反応性を有し、反応性が非常に低いフッ素化モノマーもある。具体的には、VDFモノマーは、VDFモノマーの物理的特性のため容易に回収され、CTFEモノマーは、事実上全て消費されるが、パーフルオロメチルビニルエーテル(MVE)又はヘキサフルオロプロピレン(HFP)のようなフルオロオレフィンに関しては、その収量は、一般的にかなり低く、投入したモノマーの約30~50%が、未反応のままである。
【0013】
この挙動により、過剰の未反応のモノマーを反応の終了時に燃焼させる必要があり、プロセス生産性を低下させるという事実につながる。
【0014】
したがって、改善された持続可能な重合プロセスにより生成される、非常に高い可撓性、高い融点、及び低温での有機溶媒中での溶解性を特徴とするVDFのコポリマーが、必要とされている。
【発明の概要】
【0015】
出願者は、驚くべきことに、クロロトリフルオロエチレン、(メタ)アクリルモノマー及び少なくとも第3フッ素化モノマーに由来するVDF系のポリマー繰り返し単位を組み合わせる場合、VDF系のポリマーの可撓性及び特定の非毒性溶媒における溶解性をかなり改善することが有利にも可能であり、そのようなポリマーが、改善された持続可能な重合プロセスにより得ることができることを判明している。
【0016】
したがって、本発明の第1の目的は、半結晶性フッ化ビニリデン(VDF)コポリマー[ポリマー(A)]であって、
(a)フッ化ビニリデン(VDF)に由来する繰り返し単位;
(b)クロロトリフルオロエチレン(CTFE)に由来する繰り返し単位;
(c)式(I):
[式中、R1、R2、R3のそれぞれは、互いに等しいか又は異なり、独立して水素原子又はC~C炭化水素基であり、及びRxは、水素、又は場合により少なくとも1個の官能基を含むC~C炭化水素部分である]
の少なくとも1種の親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)に由来する繰り返し単位;並びに
(d)フッ化ビニリデン及びクロロトリフルオロエチレンとは異なる1種又は複数種のフッ素化コモノマー(F)に由来する繰り返し単位;
を含み、
繰り返し単位b)の総量は、ポリマー(A)の繰り返し単位の総量に対して6重量%~25重量%で含まれ、及び繰り返し単位d)の総量は、ポリマー(A)の繰り返し単位の総量に対して0.5重量%~4重量%で含まれる半結晶性フッ化ビニリデン(VDF)コポリマー[ポリマー(A)]である。
【0017】
本発明の第2の目的では、上で詳述したポリマー(A)を調製するためのプロセスが、VDFモノマー、少なくとも1種の水素化(メタ)アクリルモノマー(MA)、CTFEモノマー及び少なくとも1種のコモノマー(F)を、懸濁又はエマルションのどちらかで重合することにより提供される。
【0018】
ポリマー(A)の繰り返し単位の総量に対して最大で4重量%の、ポリマー(A)中の少量のフッ素化コポリマー(F)が起因して、本発明のプロセスは、有利には燃焼されることとなる未反応の残留フッ素化コポリマー(F)が少量で終了する。したがって、本発明のプロセスは、未反応のモノマー廃棄物を減らし、及びそれらの燃焼に関連するコストを削減し、その結果としてさらに好適なプロセスをもたらす。
【0019】
第3目的では、本発明は、組成物[組成物(C)]であって、
- 1種又は複数種の本発明のポリマー(A)、及び
- 1種又は複数種の有機溶媒を含む液体媒体
を含む組成物(C)を提供する。
【0020】
本発明は、膜を製造するプロセスであって、前記プロセスが
(1a)本発明の組成物(C)を提供するステップ
(2a)通常は、キャスティングにより、ステップ(1a)において提供される組成物(C)を膜に加工するステップ
を含むプロセスも提供する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
「フッ化ビニリデンに由来する繰り返し単位」(一般的に二フッ化ビニリデン1,1-ジフルオロエチレン、VDFとしても示される)という用語は、式CF=CHの繰り返し単位を示すことを意図する。
【0022】
「半結晶性」という用語は、検出可能な融点を有するフッ化ビニリデン(VDF)ポリマーを示すことを意図する。半結晶性VDFポリマーは、ASTM D3418に従って測定される場合、有利には少なくとも0.4J/g、好ましくは少なくとも0.5J/g、より好ましくは少なくとも1J/gの融解熱を有すると一般的に理解されている。
【0023】
「クロロトリフルオロエチレンに由来する繰り返し単位」という用語は、式CF=CFClの繰り返し単位を示すことを意図する。
【0024】
本発明のポリマー(A)は、最大で0.50l/g、好ましくは最大で0.45l/g、より好ましくは最大で0.25l/g、さらにより好ましくは最大で0.20l/gの固有粘度を特に有する。
【0025】
本発明のポリマー(A)は、少なくとも0.05l/g、好ましくは少なくとも0.08l/g、より好ましくは少なくとも0.15l/g、さらにより好ましくは少なくとも0.10l/gの固有粘度を特に有する。
【0026】
ポリマー(A)の固有粘度は、典型的にはN,N-ジメチルホルムアミド中において25℃で測定される。
【0027】
「少なくとも1種の親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)」という用語は、ポリマー(A)が、上述したような1種又は複数種の親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)に由来する繰り返し単位を含み得ることを意味すると理解される。本明細書の残りの部分においては、「親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)」及び「モノマー(MA)」という表現は、本発明の目的のために、複数形及び単数形の両方、即ち1つ以上の両方の親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)を指すものと理解される。
【0028】
式(I)の親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)の非限定的な例としては、特に:
- アクリル酸(AA)、
- (メタ)アクリル酸、
- ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(HEA)、
- 2-ヒドロキシプロピルアクリレート(HPA)、
- ヒドロキシエチルヘキシル(メタ)アクリレート、
及びそれらの混合物が挙げられる。
【0029】
少なくとも1種の親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)は、アクリル酸(AA)、ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)、又はそれらの混合物であるのが、より好ましい。
【0030】
本発明の好ましい実施形態では、ポリマー(A)において、式(I)の親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)に由来する繰り返し単位は、ポリマー(A)の繰り返し単位の総重量に対して0.1~3重量%、好ましくは0.3~2重量%、より好ましくは0.4~1.5重量%の量で含まれる。
【0031】
フッ素化コモノマー(F)に由来する繰り返し単位は、ポリマー(A)の繰り返し単位の総量に対して、0.7~2.0重量%の量でポリマー(A)中に含まれるのが好ましい。
【0032】
本発明のより好ましい実施形態では、ポリマー(A)は:
- CTFEモノマーに由来する繰り返し単位8~20重量%、
- 式(I)の親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)に由来する繰り返し単位0.4~1.5重量%、
- コモノマー(F)に由来する繰り返し単位0.7~2.0重量%、
を含み、好ましくはからなり、
その重量パーセントは、ポリマー(A)の繰り返し単位の総重量に対してである。
【0033】
ポリマー(A)中のモノマーCTFE、モノマー(MA)、フッ素化コモノマー(F)、及びVDF繰り返し単位の重量(平均モル)パーセントの決定は、任意の好適な方法により実施でき、NMRが好ましい。
【0034】
「フッ素化コモノマー(F)」という用語は、少なくとも1個のフッ素原子を含むエチレン性不飽和コモノマーを示すことを本明細書では意図する。
【0035】
好適なフッ素化コモノマー(F)の非限定的な例としては、特に、以下の
(a)C~Cフルオロ及び/又はパーフルオロオレフィン、例えばテトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、ペンタフルオロプロピレン及びヘキサフルオロイソブチレン、
(b)C~C水素化モノフルオロオレフィン、例えば1,2-ジフルオロエチレン及びトリフルオロエチレン;
(c)式CH=CH-Rf0(式中、Rf0は、C~Cパーフルオロアルキル基である)のパーフルオロアルキルエチレン、
(d)式CF=CFORf1(式中、Rf1がパーフルオロアルキル基-CF(パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE))、-C(パーフルオロエチルビニルエーテル(PEVE))、-C(パーフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE))、-C、又は-C11基である)の(パー)フルオロアルキルビニルエーテル、
(e)クロロ及び/又はブロモ及び/又はヨードC~Cフルオロオレフィン;
が挙げられる。
【0036】
フッ素化コモノマー(F)は、HFP又はPMVEが好ましい。
【0037】
本発明の好ましい実施形態では、ポリマー(A)は、VDF-CTFE-AA-HFPテトラポリマーである。好ましくは、前記好ましい実施形態によるポリマー(A)は、少なくとも0.10l/gの固有粘度、及び少なくとも130℃、好ましくは少なくとも145℃、より好ましくは少なくとも150℃の第二融解温度(T2f)を有する。
【0038】
本発明の別の好ましい実施形態では、ポリマー(A)は、VDF-CTFE-HEA-HFPテトラポリマーである。好ましくは、前記好ましい実施形態のポリマー(A)は、少なくとも0.10l/gの固有粘度、少なくとも130℃、好ましくは少なくとも145℃、より好ましくは少なくとも150℃の第二融解温度(T2f)を有する。
【0039】
第二融解温度(T2f)は、通常は、ASTM D3418標準方法に従って示差走査熱量計(DSC)により、測定される。本発明の第2の目的では、上で詳述したポリマー(A)の調製方法が提供される。
【0040】
本発明によるポリマー(A)は、典型的には、例えば、国際公開第2008/129041号パンフレットに記載されている手順に従って懸濁した状態で、又は、通常は当技術分野(例えば、米国特許第4,016,345号明細書、米国特許第4,725,644号明細書及び米国特許第6,479,591号明細書を参照されたい)に記載されているように実施されるエマルションにおいてのどちらかで、VDFモノマー、少なくとも1種の水素化(メタ)アクリルモノマー(MA)、CTFEモノマー、及び少なくとも1種のコモノマー(F)の重合により得ることができる。
【0041】
重合反応は、通常、25~150℃の温度で、最大130barの圧力で行われる。
【0042】
ポリマー(A)は、典型的には粉末の形態で供給される。
【0043】
ポリマー(A)は、場合によりさらに押出されて、ペレットの形態でポリマー(A)を提供してもよい。
【0044】
ペレットの形態での押出は、有利には溶融押出で実施できる。
【0045】
本出願のポリマー(A)は、コーティングの製造技術が有機溶媒中での前記ポリマー組成物の使用を含むコーティング用途での使用に特に好適である。
【0046】
コーティング用途での有機溶媒の役割は、通常、ブラッシング、吹付け、浸漬、ローリング、散布などによって組成物を塗布させるために、ポリマー(A)を溶解させることであり、コーティングは、有機溶媒が蒸発する際に最終に得られる。
【0047】
第3番目の目的では、本発明は、
- 1種又は複数種の本発明のポリマー(A)、及び
- 1種又は複数種の有機溶媒を含む液体媒体
を含む[組成物(組成物C)]を提供する。
【0048】
本発明の組成物(C)は、通常は、
- 組成物(C)の総重量に対して、0.5重量%~50重量%、好ましくは1重量%~30重量%、より好ましくは5重量%~20重量%の、1種又は複数種の本発明のポリマー(A)、及び
- 組成物(C)の総重量に対して、99.5重量%~50重量%、好ましくは99重量%~70重量%、より好ましくは95重量%~80重量%の、1種又は複数種の有機溶媒を含む液体媒体
を含む。
【0049】
本発明の組成物(C)は、通常は、1種又は複数種の有機溶媒を含む液体媒体中に本発明の1種又は複数種のポリマー(A)を分散又は溶解させることにより得ることができる。
【0050】
本発明の組成物(C)は、有利には均一な溶液である。
【0051】
「溶液」という用語は、本明細書では、1種又は複数種の有機溶媒を含む液体媒体中の、上で定義したポリマー(A)の透明且つ均一な溶液を示すことが意図されている。
【0052】
有機溶媒の選択は、30℃未満の温度で本発明のポリマー(A)を溶解させるのにその溶媒が好適であるならば、特に限定されない。
【0053】
有機溶媒は、通常は、
- メチルアルコール、エチルアルコール及びジアセトンアルコールなどのアルコール、
- アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン及びイソホロンなどのケトン、
- イソプロピルアセテート、n-ブチルアセテート、メチルアセトアセテート、ジメチルフタレート及びγ-ブチロラクトンなどの直鎖状又は環状エステル、
- N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド及びN-メチル-2-ピロリドンなどの直鎖状又は環状アミド、及び
- ジメチルスルホキシド
からなる群から選択される。
【0054】
ポリマー組成物の調製での非毒性溶媒の選択は、現今絶えず増加している市場である携帯機器用の又は電気自動車用の電池などの二次電池の構成部品の製造に使用するのに特に好適である。
【0055】
二次電池の構成部品の調製において毒性及び有害溶媒の使用を回避することにより、回収及び廃棄コストを削減させ、且つ多量の前記溶媒の取り扱いに関する安全性及び環境に対する懸念を回避できる。
【0056】
本発明の好ましい実施形態によれば、したがって、有機溶媒は:
- メチルアルコール、エチルアルコール及びジアセトンアルコールなどのアルコール、
- アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン及びイソホロンなどのケトン、及び
- イソプロピルアセテート、n-ブチルアセテート、メチルアセトアセテート、ジメチルフタレート及びγ-ブチロラクトンなどの直鎖状又は環状エステル、
からなる群から選択される非毒性溶媒である。
【0057】
より好ましくは、組成物(C)に含まれる有機溶媒は、ケトンである。
【0058】
ケトンが、120℃未満、好ましくは100℃未満、より好ましくは70℃未満の標準沸点を有する直鎖の脂肪族ケトン、好ましくはアセトンである場合に、非常に良好な結果が得られている。
【0059】
出願者は、本発明の範囲を限定することなく、本発明のポリマー(A)が、その特定な組成物のため、アルコール、ケトン及び直鎖又は環状エステルなどの非毒性溶媒中で室温での場合さえ、改善された溶解性を呈するのは有利であると考える。
【0060】
本発明のさらなる目的は、電気化学デバイスの構成部品のためのバインダーとして、殊にリチウム電池の電極及び/又は電気二重層キャパシタを形成するためのバインダーとしての上述のポリマー(A)又は上で詳述した組成物(C)の使用である。
【0061】
ポリマー(A)がバインダーとして、殊にリチウム電池の電極を形成するために使用されるならば、ポリマー(A)は、好ましくは少なくとも0.15l/g、より好ましくは少なくとも0.25l/gの固有粘度を有する。
【0062】
電極形成組成物は、粉末状電極材料(電池又は電気二重層キャパシタ用の活物質)、及び場合による添加剤、例えば、導電性付与添加剤及び/又は粘度調整剤を、このように得られたポリマー(A)のバインダー溶液中に添加し及び分散させることによって得ることができる。
【0063】
本発明の実施形態によると、リチウムイオン電池の構成部品用のバインダーは、ポリマー(A)の繰り返し単位の総重量に対して、好ましくは0.7~2.0重量%の量でHFPを含むVDF-CTFE-AA-HFPテトラポリマーであるポリマー(A)の溶液であり、ケトン中に溶解させた組成物(C)を用いることにより、調製される。
【0064】
本発明のポリマー(A)及び組成物(C)は、膜に容易に加工できる。
【0065】
さらなる目的では、したがって本発明は、ポリマー(A)を含む膜を作製する方法を提供し、前記方法は、上で定義した組成物(C)を通常キャスティングにより加工することを含む。
【0066】
キャスティングは、通常は溶液キャスティングを含み、これは、適切な基材全体に組成物(C)の均一な膜を広げるために、典型的にはキャスティングナイフ、ドローダウンバー、又はスロットダイを使用する。
【0067】
一態様によれば、本発明は、ポリマー(A)を含む膜を製造するプロセスを提供し、前記プロセスは、
(1a)本発明の組成物(C)を提供するステップ
(2a)ステップ(1a)で提供される組成物(C)を通常キャスティングにより膜に加工するステップ
を含む。
【0068】
膜の製造方法の工程(2a)では、キャスティングは、通常は溶液キャスティングを含み、これは、適切な基材全体に組成物(C)の均一な膜を広げるために、典型的にはキャスティングナイフ、ドローダウンバー、又はスロットダイを使用する。基材は、多孔質基材であっても非多孔質基材であってもよい。
【0069】
別の態様によれば、本発明は、ポリマー(A)をペレットの形態に加工した後、それを圧縮成形することにより、ポリマー(A)を含む膜を製造するプロセスを提供する。
【0070】
出願者は、驚くべきことに、ポリマー(A)をペレットの形態に押出した後に圧縮成形することにより調製された本発明のポリマー(A)を含む膜が、かなりの可撓性及び透明性を特徴とすることを判明している。
【0071】
上に定義したように取得できるポリマー(A)を含む膜は、様々な用途での使用に好適である。
【0072】
ポリマー(A)を含む膜は、有利には、電気化学デバイス用のセパレータの製造に使用できる。
【0073】
本発明の電気化学デバイス用のセパレータは、典型的には、
- ポリマー(A)を含む少なくとも1つの膜、及び
- 場合により、前記膜に接着された、1つ又は複数の層を含む基材、好ましくは少なくとも1種のポリオレフィンを含む少なくとも1つの層を含む多孔質基材などの1つ又は複数の層を含む多孔質基材、
を含む。
【0074】
したがって、膜を製造するプロセスのステップ(2a)の下で、ポリオレフィン多孔質基材全体に組成物(C)をキャスティングすることにより、電気化学デバイス用の、具体的にはリチウムイオン電池用のコーティングした多孔質ポリオレフィンセパレータが提供される。
【0075】
本発明の実施形態によると、リチウムイオン電池用のセパレータは、ポリマー(A)の繰り返し単位の総重量に対して、好ましくは0.7~2.0重量%の量でHFPを含むVDF-CTFE-AA-HFPテトラポリマーであるポリマー(A)を含み、ケトン中に溶解させた組成物(C)を用いて、調製され、前記ポリマー(A)は、0.05~0.45l/gの範囲に含まれる固有粘度を有する。
【0076】
さらに、より可撓性があるセパレータのコーティングは、電極との接触を改善し、セパレータと電極の間の接触が欠如するゾーンを回避した後に、界面の抵抗を低下させる傾向がある。
【0077】
参照により本明細書中に援用される任意の特許、特許出願、及び刊行物の開示が、それが用語を不明確にし得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合、本記載が優先するものとする。
【0078】
本発明をこれから以下の実施例を参照してより詳細に説明するが、その目的は例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例
【0079】
実験の部
ポリマー(A)の固有粘度の測定
固有粘度(η)[dl/g]は、Ubbelhode粘度計を用い、ポリマー(A)を約0.2g/dlの濃度でN,N-ジメチルホルムアミドに溶解させることによって得られた溶液の、25℃での滴下時間に基づいて、以下の式:
(式中、cは、ポリマー濃度[g/dl]であり、ηは、相対粘度、即ち試料溶液の滴下時間と溶媒の滴下時間との間の比であり、ηspは、比粘度、即ちη-1であり、Γは、ポリマー(A)について3に対応する実験因子である)
を用いて測定した。
【0080】
VDFコポリマーの一般的な調製
650rpmの速度で動作するインペラーを備えた4リットルの反応器に、脱塩水2850g及び0.6gのAlkox(登録商標)E-45及び0.2gのMethocell(登録商標)K100を懸濁剤/kg Mni(反応前に反応器に供給されるモノマーの初期量)として順次に導入した。反応器を一連の真空(30mmHg)でパージし、20℃で窒素パージした。次に、75重量%のt-アミル-ペルピバレートのイソドデカン(TAPPI)溶液を加えた;炭酸ジエチル(DEC)、初期量のモノマー(MA)、HFP、CTFE(次に、約1200gのVDFを反応器に導入した。ポリマーA1、ポリマーA2、ポリマーA3、ポリマーA4及び比較のポリマー1~4を調製するためのモノマーの量及び温度条件を表1に明記する。
【0081】
反応器を57℃の設定点温度まで徐々に加熱し、圧力を120バールに固定した。表1に示すヒドロキシエチルアクリレート水溶液を重合中に供給することにより、圧力を常に120バールに等しく保った。この供給後、それ以上の水溶液を導入せず、圧力が低下し始めた。大気圧に達するまで反応器を脱気することによって重合を止めた。約80%のVDFの変換が達成した。CTFE及びモノマー(MA)(HEA、AA又はEA)は、実質的に全て消費され、約半分のHFPが反応しないで残った。次いで、このように得られたポリマーを回収し、脱塩水で洗浄し、65℃で終夜乾燥させた。
【0082】
【0083】
MnTは、反応器に供給したモノマーの総量である。
【0084】
溶解性試験
比較のポリマー1~4及びポリマーA1、A2、A3及びA4のそれぞれのアセトンに溶かした8重量%の組成物を調製した。室温で透明で澄んだ溶液は、アセトン中におけるポリマーの25℃での可溶性を暗示する。
【0085】
溶解性を評価するために、組成物を50℃で試験した。
【0086】
結果を表2にまとめる。
【0087】
【0088】
結果から、本発明によるポリマーは、CTFE、MAに由来する繰り返し単位及びHFPに由来する繰り返し単位の特定の量が併存するお蔭で、室温でアセトン中において溶解することがわかる。CTFEに由来する繰り返し単位と、モノマーMA若しくはHFPのいずれか一方とに由来する繰り返し単位だけを有するポリマーに関しては、又は異なる量のCTFEモノマーを有するポリマーに関しては、同じことは当てはまらない。
【0089】
比較のポリマー1並びにポリマーA1及びA2の溶融押出成形及びペレット化
ポリマー1比較並びにポリマーA1及びA2を、主要供給機を備えた二軸共回転押出機(34mmのスクリュー直径Dを有するLeistritz LSM 30.34 GG-5R)においてペレット化した。表3において報告する所望の温度プロファイルを設定できる6つの温度制御ゾーンを有するように、押出機を設定した。ダイは、それぞれ4mmの直径を有する2つの穴から構成された。押出機の回転速度は、100rpmであった。2つの押出物を水タンクにて冷却し、引き出し、次いで圧縮空気で乾燥させた。最後に、2つの押出物を、ペレットを得るために切断した。
【0090】
【0091】
比較のポリマー1並びにポリマーA1及びA2の機械的物性
比較のポリマー1並びにポリマーA1及びA2のペレットで取得した圧縮成形したプラークから回収したスラブを調製した。ポリマーA1及びA2からのプラークは、比較のポリマー1から取得したプラークよりも透明に見える。
【0092】
23℃及び50%の相対湿度での機械試験を実施した。5つの試験片を処理して1日後に、その試験片でASTM D638タイプVに従って、引張試験を実施した。1kNのセル及び刻み付クランプを有するInstron4301引張試験機を使用した。
【0093】
モジュールの計算のために、試験を最初のセクションで1mm/分のクロスヘッド速度で実施し、次に破損するまで50mm/分で実施した。結果を表4に示す。
【0094】
【0095】
ポリマーA1は、比較のポリマー1よりもかなり低い弾性率である。さらに、ポリマーA2は、CTFEの含有量がかなり低いにもかかわらず、弾性率に関しては比較のポリマー1と同じくらいである。