(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】過電流保護回路
(51)【国際特許分類】
H02H 3/08 20060101AFI20240415BHJP
G05F 1/10 20060101ALI20240415BHJP
G05F 1/56 20060101ALI20240415BHJP
H02H 3/087 20060101ALI20240415BHJP
H02H 5/04 20060101ALI20240415BHJP
【FI】
H02H3/08 T
G05F1/10 G
G05F1/56 320C
H02H3/087
H02H5/04 140
(21)【出願番号】P 2021545126
(86)(22)【出願日】2020-07-01
(86)【国際出願番号】 JP2020025758
(87)【国際公開番号】W WO2021049135
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2023-01-13
(31)【優先権主張番号】P 2019166357
(32)【優先日】2019-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】弁理士法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安坂 信
(72)【発明者】
【氏名】岩田 光太郎
【審査官】大手 昌也
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-167572(JP,A)
【文献】特開2009-106010(JP,A)
【文献】特開2014-108046(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02H 3/08
G05F 1/10
G05F 1/56
H02H 3/087
H02H 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
監視対象電流を制限電流値以下に制限する過電流保護回路であって、温度が閾値よりも低いときには前記制限電流値に平坦な温度特性を持たせ、前記温度が前記閾値よりも高いときには前記制限電流値に負の温度特性を持たせる
ものであり、
前記監視対象電流を検出して平坦な温度特性を持つ検出信号を生成する電流検出部と;
前記検出信号の入力を受け付ける第1入力端、平坦な温度特性を持つ第1基準信号の入力を受け付ける第2入力端、及び、負の温度特性を持つ第2基準信号の入力を受け付ける第3入力端を備え、前記第1基準信号及び前記第2基準信号の一方と前記検出信号との差分または比較結果に応じて過電流保護信号を生成するアンプまたはコンパレータと;
を有する、過電流保護回路。
【請求項2】
監視対象電流を制限電流値以下に制限する過電流保護回路であって、温度が閾値よりも低いときには前記制限電流値に平坦な温度特性を持たせ、前記温度が前記閾値よりも高いときには前記制限電流値に負の温度特性を持たせるものであり、
前記監視対象電流を検出して平坦な温度特性を持つ検出信号を生成する電流検出部と;
平坦な温度特性を持つ第1基準信号と前記検出信号との差分または比較結果に応じて第1過電流保護信号を生成する第1アンプまたは第1コンパレータと;
負の温度特性を持つ第2基準信号と前記検出信号との差分または比較結果に応じて第2過電流保護信号を生成する第2アンプまたは第2コンパレータと;
を有する
、過電流保護回路。
【請求項3】
前記第1アンプまたは前記第1コンパレータは、前記第2アンプまたは前記第2コンパレータよりも消費電流が小さく、かつ、前記第2アンプまたは前記第2コンパレータは、前記第1アンプまたは前記第1コンパレータよりも応答性が高い
、請求項2に記載の過電流保護回路。
【請求項4】
バンドギャップ電圧を用いて前記第1基準信号を生成する第1基準信号生成部を有する
、請求項1~3のいずれか一項に記載の過電流保護回路。
【請求項5】
ダイオードの順方向降下電圧を用いて前記第2基準信号を生成する第2基準信号生成部を有する
、請求項1~4のいずれか一項に記載の過電流保護回路。
【請求項6】
前記電流検出部は、前記監視対象電流に応じたミラー電流をセンス抵抗に流して電流/電圧変換することにより前記検出信号を生成する
、請求項1~5のいずれか一項に記載の過電流保護回路。
【請求項7】
監視対象電流を制限電流値以下に制限する過電流保護回路であって、温度が閾値よりも低いときには前記制限電流値に平坦な温度特性を持たせ、前記温度が前記閾値よりも高いときには前記制限電流値に負の温度特性を持たせるものであり、
前記監視対象電流を検出して平坦な温度特性を持つ第1検出信号を生成する第1電流検出部と;
前記監視対象電流を検出して正の温度特性を持つ第2検出信号を生成する第2電流検出部と;
前記第1検出信号の入力を受け付ける第1入力端、前記第2検出信号の入力を受け付ける第2入力端、及び、平坦な温度特性を持つ基準信号の入力を受け付ける第3入力端を備え、前記第1検出信号及び前記第2検出信号の一方と前記基準信号との差分または比較結果に応じて過電流保護信号を生成するアンプまたはコンパレータと;
を有する
、過電流保護回路。
【請求項8】
監視対象電流を制限電流値以下に制限する過電流保護回路であって、温度が閾値よりも低いときには前記制限電流値に平坦な温度特性を持たせ、前記温度が前記閾値よりも高いときには前記制限電流値に負の温度特性を持たせるものであり、
前記監視対象電流を検出して平坦な温度特性を持つ第1検出信号を生成する第1電流検出部と;
前記監視対象電流を検出して正の温度特性を持つ第2検出信号を生成する第2電流検出部と;
平坦な温度特性を持つ基準信号と前記第1検出信号との差分または比較結果に応じて第1過電流保護信号を生成する第1アンプまたは第1コンパレータと;
前記基準信号と前記第2検出信号との差分または比較結果に応じて第2過電流保護信号を生成する第2アンプまたは第2コンパレータと;
を有する
、過電流保護回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書中に開示されている発明は、過電流保護回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、監視対象電流を所定の制限電流値以下に制限する過電流保護回路については、数多くの提案がなされている。
【0003】
なお、上記に関連する従来技術の一例としては、特許文献1を挙げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の過電流保護回路では、温度に応じた制限電流値の最適化について更なる検討の余地があった。
【0006】
本明細書中に開示されている発明は、本願の発明者らにより見出された上記の課題に鑑み、低温域から高温域まで適切な過電流保護を行うことのできる過電流保護回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
例えば、本明細書中に開示されている過電流保護回路は、監視対象電流を制限電流値以下に制限する過電流保護回路であって、温度が閾値よりも低いときには前記制限電流値に平坦な温度特性を持たせ、前記温度が前記閾値よりも高いときには前記制限電流値に負の温度特性を持たせる構成(第1の構成)とされている。
【0008】
なお、上記第1の構成から成る過電流保護回路は、前記監視対象電流を検出して平坦な温度特性を持つ検出信号を生成する電流検出部と、前記検出信号の入力を受け付ける第1入力端、平坦な温度特性を持つ第1基準信号の入力を受け付ける第2入力端、及び、負の温度特性を持つ第2基準信号の入力を受け付ける第3入力端を備え、前記第1基準信号及び前記第2基準信号の一方と前記検出信号との差分または比較結果に応じて過電流保護信号を生成するアンプまたはコンパレータと、を有する構成(第2の構成)とされている。
【0009】
また、上記第1の構成から成る過電流保護回路は、前記監視対象電流を検出して平坦な温度特性を持つ検出信号を生成する電流検出部と、平坦な温度特性を持つ第1基準信号と前記検出信号との差分または比較結果に応じて第1過電流保護信号を生成する第1アンプまたは第1コンパレータと、負の温度特性を持つ第2基準信号と前記検出信号との差分または比較結果に応じて第2過電流保護信号を生成する第2アンプまたは第2コンパレータと、を有する構成(第3の構成)としてもよい。
【0010】
例えば、上記第3の構成から成る過電流保護回路において、前記第1アンプまたは前記第1コンパレータは、前記第2アンプまたは前記第2コンパレータよりも消費電流が小さく、かつ、前記第2アンプまたは前記第2コンパレータは、前記第1アンプまたは前記第1コンパレータよりも応答性が高い構成(第4の構成)にするとよい。
【0011】
また、上記第2~第4いずれかの構成から成る過電流保護回路は、バンドギャップ電圧を用いて前記第1基準信号を生成する第1基準信号生成部を有する構成(第5の構成)にするとよい。
【0012】
また、上記第2~第5いずれかの構成から成る過電流保護回路は、ダイオードの順方向降下電圧を用いて前記第2基準信号を生成する第2基準信号生成部を有する構成(第6の構成)にするとよい。
【0013】
また、上記第2~第6いずれかの構成から成る過電流保護回路において、前記電流検出部は、前記監視対象電流に応じたミラー電流をセンス抵抗に流して電流/電圧変換することにより前記検出信号を生成する構成(第7の構成)にするとよい。
【0014】
また、上記第1の構成から成る過電流保護回路は、前記監視対象電流を検出して平坦な温度特性を持つ第1検出信号を生成する第1電流検出部と、前記監視対象電流を検出して正の温度特性を持つ第2検出信号を生成する第2電流検出部と、前記第1検出信号の入力を受け付ける第1入力端、前記第2検出信号の入力を受け付ける第2入力端、及び、平坦な温度特性を持つ基準信号の入力を受け付ける第3入力端を備え、前記第1検出信号及び前記第2検出信号の一方と前記基準信号との差分または比較結果に応じて過電流保護信号を生成するアンプまたはコンパレータと、を有する構成(第8の構成)としてもよい。
【0015】
或いは、上記第1の構成から成る過電流保護回路は、前記監視対象電流を検出して平坦な温度特性を持つ第1検出信号を生成する第1電流検出部と、前記監視対象電流を検出して正の温度特性を持つ第2検出信号を生成する第2電流検出部と、平坦な温度特性を持つ基準信号と前記第1検出信号との差分または比較結果に応じて第1過電流保護信号を生成する第1アンプまたは第1コンパレータと、前記基準信号と前記第2検出信号との差分または比較結果に応じて第2過電流保護信号を生成する第2アンプまたは第2コンパレータと、を有する構成(第9の構成)としてもよい。
【0016】
また、例えば、本明細書中に開示されている過電流保護回路は、監視対象電流を制限電流値以下に制限する過電流保護回路であって、温度が閾値よりも低いときには、前記制限電流値を平坦な温度特性を持つ第1制限電流値とし、前記温度が前記閾値よりも高いときには、前記制限電流値を平坦な温度特性を持ちかつ前記第1制限電流値よりも低い第2制限電流値とする構成(第10の構成)とされている。
【発明の効果】
【0017】
本明細書中に開示されている発明によれば、低温域から高温域まで適切な過電流保護を行うことのできる過電流保護回路を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図3】比較例における制限電流値の温度特性(第1パターン)を示す図
【
図4】比較例における制限電流値の温度特性(第2パターン)を示す図
【
図7】第1実施形態における制限電流値の温度特性を示す図
【
図9】第2実施形態における基準信号及び制限電流値の温度特性を示す図
【
図12】第4実施形態における検出信号、基準信号、及び、制限電流値の温度特性を示す図
【
図14】第6実施形態における制限電流値の温度特性を示す図
【発明を実施するための形態】
【0019】
<比較例>
まず、リニア電源(特に過電流保護回路)の新規な実施形態の説明に先立ち、これと対比される比較例について、簡単に説明しておく。
【0020】
図1は、リニア電源の比較例を示す図である。本比較例のリニア電源1は、出力トランジスタ10と、分圧部20と、アンプ30と、過電流保護回路100と、を有し、入力電圧VINを降圧して所望の出力電圧VOUTを生成するLDO[low drop out]レギュレータである。入力電圧VINは、不図示のバッテリなどから供給されており、その安定度は必ずしも高くない。出力電圧VOUTは、後段の負荷2(=二次電源やマイコンなど)に供給されている。なお、上記のリニア電源1は、例えば、電源ICに内蔵された基準電圧源として用いることができる。
【0021】
出力トランジスタ10は、入力電圧VINの入力端と出力電圧VOUTの出力端との間に接続されており、アンプ30からのゲート信号G10に応じて導通度(裏を返せばオン抵抗値)が制御される。なお、本図の例では、出力トランジスタ10として、PMOSFET[P-channel type MOSFET]が用いられている。従って、ゲート信号G10が低いほど、出力トランジスタ10の導通度が高くなり、出力電圧VOUTが上昇する。逆に、ゲート信号G10が高いほど、出力トランジスタ10の導通度が低くなり、出力電圧VOUTが低下する。ただし、出力トランジスタ10としては、PMOSFETに代えて、NMOSFETを用いてもよいし、バイポーラトランジスタを用いてもよい。
【0022】
分圧部20は、出力電圧VOUTの出力端と接地端との間に直列接続された抵抗21及び22(抵抗値:R1及びR2)を含み、両抵抗相互間の接続ノードから出力電圧VOUTに応じた帰還電圧VFB(=VOUT×{R2/(R1+R2)})を出力する。ただし、出力電圧VOUTがアンプ30の入力ダイナミックレンジに収まっていれば、分圧部20を割愛し、帰還電圧VFBとして出力電圧VOUTそのものをアンプ30に直接入力しても構わない。
【0023】
アンプ30は、非反転入力端(+)に入力される帰還電圧VFBが反転入力端(-)に入力される所定の基準電圧VREFと一致するようにゲート信号G10(=出力トランジスタ10の駆動信号に相当)を生成して出力トランジスタ10を駆動する。より具体的に述べると、アンプ30は、帰還電圧VFBと基準電圧VREFとの差分値ΔV(=VFB-VREF)がプラスに大きいほどゲート信号G10を引き上げ、逆に、差分値ΔVがマイナスに大きいほどゲート信号G10を引き下げる。
【0024】
過電流保護回路100は、出力トランジスタ10に流れる出力電流IOUTを所定の制限電流値IOCP以下に制限するように、過電流保護信号Socpを生成してアンプ30の出力制御を行う。
【0025】
図2は、過電流保護回路100の一般的な過電流保護動作を示す図である。なお、横軸は出力電流IOUTを示しており、縦軸は出力電圧VOUTを示している。本図から分かるように、出力電流IOUTが制限電流値IOCPに達するまでは、出力電圧VOUTがその目標値に維持されるが、出力電流IOUTが制限電流値IOCPに達すると、電流制限が掛かるので、出力電圧VOUTがその目標値から低下していく。
【0026】
このように、リニア電源1は、出力短絡などの異常状態であっても、これを集積化した電源ICが破壊することの無いように、過電流保護回路100を備えている。もちろん、リニア電源1に限らず、一般的な電源IC(LDOレギュレータだけでなくDC/DCコンバータなども含む)は、上記と同様に理由から、過電流保護回路を備えることが多い。
【0027】
<比較例の問題点>
図3及び
図4は、それぞれ、比較例における制限電流値IOCPの温度特性(平坦な温度特性を持つ第1パターン、及び、負の温度特性を持つ第2パターン)を示す図である。なお、図中の破線は、制限電流値IOCPのばらつきΔIOCPを示している。
【0028】
例えば、
図3で示したように、制限電流値IOCPが平坦な温度特性を持つ場合(=制限電流値IOCPが温度依存性を持たない場合)には、電源ICのチップ温度Tj(ジャンクション温度)が変動したとしても制限電流値IOCPは変動しない(もちろん、制限電流値IOCPの温度特性を完全に平坦化することは困難であるため、多少の変動は許容され得る)。
【0029】
一方、
図4で示したように、制限電流値IOCPが負の温度特性を持つ場合には、電源ICのチップ温度Tjが上昇するほど、制限電流値IOCPが小さくなる。
【0030】
このように、過電流保護回路100の制限電流値IOCPは、一般に、使用温度範囲全域(低温域~常温域~高温域)に亘って、平坦な温度特性を持つタイプ(
図3を参照)、若しくは、負の温度特性を持つタイプ(
図4を参照)が多い。
【0031】
ところで、過電流保護回路100が作動すると、出力トランジスタ10のオン抵抗値を強制的に引き上げることにより、出力電流IOUTが制限電流値IOCP以下に制限される。このとき、出力トランジスタ10での消費電力(発熱)は、制限電流値IOCPが大きいほど増大する。
【0032】
図5は、一般的な熱軽減グラフを示す図である。なお、横軸は周囲温度Taを示しており、縦軸は電源ICのパッケージ許容損失Pdを示している。本図で示したように、パッケージ許容損失Pdは、常温(25℃)以上の温度領域において、周囲温度Taの上昇と共に減少していく。
【0033】
そのため、電源ICの破壊を防ぐためには、チップ温度Tjが高くなるほど制限電流値IOCPが小さくなるように、制限電流値IOCPに負の温度特性を持たせておき、高温域における出力トランジスタ10の消費電力(発熱)を抑えることが望ましい。
【0034】
ただし、使用温度範囲全域(低温域~常温域~高温域)に亘って、制限電流値IOCPに負の温度特性を持たせた場合には、常温域や低温域での制限電流値IOCPが大きくなってしまうので、リニア電源1を含むセットの設計が難しくなり得る。例えば、電源ICの前段にヒューズを挿入する場合には、低温域での制限電流値IOCPがヒューズの溶断電流値を超えないように考慮しなければならず、高温域における制限電流値IOCPの安全マージンを取り過ぎることになってしまう。
【0035】
一方、制限電流値IOCPに平坦な温度特性を持たせれば、セットの設計は容易となるが、実際には高温域での発熱が大きくなってしまうので、過電流保護回路100に過熱保護回路を組み合わせるなどして、追加の安全対策を施す必要がなる。
【0036】
以下では、低温域から高温域まで適切な過電流保護を行うことにより、電源ICのパッケージ許容損失に対応することのできる新規な実施形態について提案する。
【0037】
<第1実施形態>
図6は、リニア電源の第1実施形態を示す図である。本実施形態のリニア電源1において、過電流保護回路100は、チップ温度Tjに応じて制限電流値IOCPの温度特性を適切に切り替える機能を備えている。
【0038】
図7は、第1実施形態における制限電流値IOCPの温度特性を示す図である。本図で示すように、過電流保護回路100は、チップ温度Tjが閾値Txよりも低いときには、制限電流値IOCPに平坦な温度特性を持たせ、チップ温度Tjが閾値Txよりも高いときには、制限電流値IOCPに負の温度特性を持たせる。閾値Txは、固定値であってもよいし可変値であってもよい。
【0039】
このように、Tj<Tx(例えば、低温域~常温域)では、チップ温度Tjに依存せず制限電流値IOCPの変動を小さく抑える一方、Tj>Tx(例えば、常温域~高温域)では、チップ温度Tjが上昇するほど制限電流値IOCPを引き下げることにより、高温域における電源ICの破壊を防ぐとともに、低温域における出力電流IOUTの流れ過ぎ防止や制限電流値IOCPのばらつき抑制を図ることが可能となる。
【0040】
<第2実施形態>
図8は、リニア電源の第2実施形態を示す図である。本実施形態のリニア電源1において、過電流保護回路100は、電流検出部110と、アンプ(またはコンパレータ)120と、を含む。
【0041】
電流検出部110は、出力トランジスタ10に流れる出力電流IOUTを検出して、平坦な温度特性を持つ検出信号VSを生成する。なお、電流検出部110は、出力トランジスタ10の上流側に設けてもよいし下流側に設けてもよい。
【0042】
アンプ(またはコンパレータ)120は、検出信号VSの入力を受け付ける第1入力端(+)、平坦な温度特性を持つ基準信号VREF_OCP1の入力を受け付ける第2入力端(-)、及び、負の温度特性を持つ基準信号VREF_OCP2の入力を受け付ける第3入力端(-)を備え、基準信号VREF_OCP1及びVREF_OCP2の低い方と検出信号VSとの差分または比較結果に応じて過電流保護信号Socpを生成する。
【0043】
このように、単一のアンプ(またはコンパレータ)120を用いて、検出信号VSと基準信号VREF_OCP1及びVREF_OCP2との差分または比較を行う構成であれば、回路面積的に有利である。
【0044】
図9は、第2実施形態における基準信号VREF_OCP1及びVREF_OCP2の温度特性(上段)と、制限電流値IOCPの温度特性(下段)を示す図である。
【0045】
本図で示すように、チップ温度Tjが閾値Txよりも低いときには、VREF_OCP1<VREF_OCP2となる。従って、アンプ(またはコンパレータ)120では、基準信号VREF_OCP1と検出信号VSとの差分または比較結果に応じて過電流保護信号Socpが生成される。その結果、制限電流値IOCPが平坦な温度特性を持つので、チップ温度Tjに依存せず制限電流値IOCPの変動が小さく抑えられる。
【0046】
一方、チップ温度Tjが閾値Txよりも高いときには、VREF_OCP1>VREF_OCP2となる。従って、アンプ(またはコンパレータ)120では、基準信号VREF_OCP2と検出信号VSとの差分または比較結果に応じて過電流保護信号Socpが生成される。その結果、制限電流値IOCPが負の温度特性を持つので、チップ温度Tjが上昇するほど制限電流値IOCPが引き下げられる。
【0047】
このように、検出信号VSと対比される基準信号として、それぞれ温度特性の異なる2種類の基準信号VREF_OCP1及びVREF_OCP2を用意することにより、チップ温度Tjが閾値Txよりも低いときには、制限電流値IOCPに平坦な温度特性を持たせ、チップ温度Tjが閾値Txよりも高いときには、制限電流値IOCPに負の温度特性を持たせることが可能となる。
【0048】
また、基準信号VREF_OCP1の信号値や基準信号VREF_OCP2の傾きを調整することにより、閾値Txを任意に設定することが可能である。
【0049】
<第3実施形態>
図10は、リニア電源の第3実施形態を示す図である。本実施形態のリニア電源1において、過電流保護回路100は、先出の電流検出部110と、アンプ(またはコンパレータ)121及び122と、を含む。
【0050】
アンプ(またはコンパレータ)121は、反転入力端(-)に入力される平坦な温度特性を持つ基準信号VREF_OCP1と非反転入力端(+)に入力される検出信号VSとの差分または比較結果に応じて過電流保護信号Socp1を生成する。
【0051】
アンプ(またはコンパレータ)122は、反転入力端(-)に入力される負の温度特性を持つ基準信号VREF_OCP2と非反転入力端(+)に入力される検出信号VSとの差分または比較結果に応じて過電流保護信号Socp2を生成する。
【0052】
このように、2系統のアンプ(またはコンパレータ)121及び122を用いて、検出信号VSと基準信号VREF_OCP1及びVREF_OCP2との差分または比較を行う構成であれば、第2実施形態(
図8)と比べて、過電流保護回路100の回路設計における自由度や任意性を高めることができる。
【0053】
例えば、低温域で動作するアンプ(またはコンパレータ)121は、高応答性よりも省電力性が要求されるので、高温域で動作するアンプ(またはコンパレータ)122よりも消費電流が小さくなるように設計することが望ましい。
【0054】
逆に、高温域で動作するアンプ(またはコンパレータ)122は、省電力性よりも高応答性が要求されるので、低温域で動作するアンプ(またはコンパレータ)121よりも応答性が高くなるように設計することが望ましい。
【0055】
<第4実施形態>
図11は、リニア電源の第4実施形態を示す図である。本実施形態のリニア電源1において、過電流保護回路100は、電流検出部111及び112とアンプ(コンパレータ)123と、を含む。
【0056】
電流検出部111は、出力トランジスタ10に流れる出力電流IOUTを検出して、平坦な温度特性を持つ検出信号VS1を生成する。なお、電流検出部111は、出力トランジスタ10の上流側に設けてもよいし下流側に設けてもよい。
【0057】
電流検出部112は、出力トランジスタ10に流れる出力電流IOUTを検出して、正の温度特性を持つ検出信号VS2を生成する。なお、電流検出部112は、出力トランジスタ10の上流側に設けてもよいし下流側に設けてもよい。
【0058】
アンプ(またはコンパレータ)123は、検出信号VS1の入力を受け付ける第1入力端(+)、検出信号VS2の入力を受け付ける第2入力端(+)、及び、平坦な温度特性を持つ基準信号VREF_OCPの入力を受け付ける第3入力端(-)を備え、検出信号VS1及びVS2の高い方と基準信号VREF_OCPとの差分または比較結果に応じて過電流保護信号Socpを生成する。
【0059】
図12は、第4実施形態における検出信号VS1及びVS2の温度特性(上段)、基準信号VREF_OCPの温度特性(中段)、並びに、制限電流値IOCPの温度特性(下段)を示す図である。
【0060】
本図で示すように、チップ温度Tjが閾値Txよりも低いときには、VS1>VS2となる。従って、アンプ(またはコンパレータ)123では、基準信号VREF_OCPと検出信号VS1との差分または比較結果に応じて過電流保護信号Socpが生成される。その結果、制限電流値IOCPが平坦な温度特性を持つので、チップ温度Tjに依存せず制限電流値IOCPの変動が小さく抑えられる。
【0061】
一方、チップ温度Tjが閾値Txよりも高いときにはVS1<VS2となる。従って、アンプ(またはコンパレータ)123では、基準信号VREF_OCPと検出信号VS2との差分または比較結果に応じて過電流保護信号Socpが生成される。その結果、制限電流値IOCPが負の温度特性を持つので、チップ温度Tjが上昇するほど制限電流値IOCPが引き下げられる。
【0062】
このように、基準信号VREF_OCPと対比される検出信号として、それぞれ温度特性の異なる2種類の検出信号VS1及びVS2を用意することにより、チップ温度Tjが閾値Txよりも低いときには、制限電流値IOCPに平坦な温度特性を持たせ、チップ温度Tjが閾値Txよりも高いときには、制限電流値IOCPに負の温度特性を持たせることが可能となる。
【0063】
また、検出信号VS1の信号値や検出信号VS2の傾きを調整することにより、閾値Txを任意に設定することが可能である。
【0064】
<第5実施形態>
図13は、リニア電源の第5実施形態を示す図である。本実施形態のリニア電源1において、過電流保護回路100は、先出の電流検出部111及び112と、アンプ(またはコンパレータ)124及び125と、を含む。
【0065】
アンプ(またはコンパレータ)124は、反転入力端(-)に入力される平坦な温度特性を持つ基準信号VREF_OCPと非反転入力端(+)に入力される検出信号VS1との差分または比較結果に応じて過電流保護信号Socp1を生成する。
【0066】
アンプ(またはコンパレータ)125は、反転入力端(-)に入力される基準信号VREF_OCPと非反転入力端(+)に入力される検出信号VS2との差分または比較結果に応じて過電流保護信号Socp2を生成する。
【0067】
このように、2系統のアンプ(またはコンパレータ)124及び125を用いて、検出信号VS1及びVS2と基準信号VREF_OCP1との差分または比較を行う構成であれば、第4実施形態(
図11)と比べて、過電流保護回路100の回路設計における自由度や任意性を高めることができる。この作用・効果については、先出の第3実施形態(
図10)と同様であるので、重複した説明を割愛する。
【0068】
<第6実施形態>
図14は、第6実施形態における制限電流値IOCPの温度特性を示す図である。本実施形態において、過電流保護回路100は、チップ温度Tjが閾値Txよりも低いときには、制限電流値IOCPを平坦な温度特性を持つ制限電流値IOCP1とし、チップ温度Tjが閾値Txよりも高いときには、制限電流値IOCPを平坦な温度特性を持ちかつ制限電流値IOCP1よりも低い制限電流値IOCP2とする。
【0069】
このように、制限電流値IOCPをチップ温度Tjに応じて切り替える構成としても、第1~第5実施形態それぞれと同じく、高温域における電源ICの破壊を防ぐとともに、低温域における出力電流IOUTの流れ過ぎ防止や制限電流値IOCPのばらつき抑制を図ることが可能となる。ただし、制限電流値IOCPの切替点近傍(Tj≒Tx)では、過電流保護回路100の不安定動作(過電流保護動作の発振など)を生じやすい点に留意する必要がある。
【0070】
<第7実施形態>
図15は、リニア電源の第7実施形態を示す図である。本実施形態のリニア電源において、過電流保護回路100は、先出の第2実施形態(
図8)を具体化したものであり、電流検出部110及びアンプ(またはコンパレータ)120に加えて、基準信号生成部131及び132と、PMOSFET140を含む。
【0071】
電流検出部110は、センストランジスタMs(例えばPMOSFET)とセンス抵抗Rsとを含む。センストランジスタMsのソース及びゲートは、それぞれ、出力トランジスタ10のソース及びゲートに接続されている。センストランジスタMsのドレインは、センス抵抗Rsの第1端に接続されており、相互間の接続ノードから検出信号VSが出力される。なお、出力トランジスタ10とセンストランジスタMsとのサイズ比は、α:1(例えばα=10000)である。従って、センストランジスタMsには、出力電流IOUTに応じたミラー電流Im(=IOUT/α)が流れる。そして、ミラー電流Imをセンス抵抗Rsに流して電流/電圧変換することにより、検出信号VS(=Im×Rs)が生成される。
【0072】
基準信号生成部131は、チップ温度Tjによる変動が小さい電圧(例えばバンドギャップ電圧)を用いて、平坦な温度特性を持つ基準信号VREF_OCP1を生成する。
【0073】
基準信号生成部132は、入力電圧VINの印加端と接地端との間に直列接続された電流源CSとダイオードDを含み、負の温度特性を持つダイオードDの順方向降下電圧Vfを基準信号VREF_OCP2として出力する。なお、電流源CSで生成される定電流を調整したり、基準信号生成部132の後段にバッファや抵抗ラダーを挿入したりすることで、基準信号VREF_OCP2の傾きやオフセットを任意に設定することができる。
【0074】
PMOSFET140のソースは、入力電圧VINの印加端に接続されている。PMOSFET140のドレインは、ゲート信号G10の印加端(=アンプ30の出力端)に接続されている。PMOSFET140のゲートは、過電流保護信号Socpの印加端(=アンプ(またはコンパレータ)120の出力端)に接続されている。
【0075】
出力電流IOUTが増大して、VS>VREF_OCP1(若しくはVREF_OCP2)になると、過電流保護信号Socpが低下してPMOSFET140のオン抵抗値が小さくなる。その結果、ゲート信号G10がプルアップされて出力トランジスタ10のオン抵抗値が強制的に引き上げられるので、IOUT≦IOCP1(若しくはIOCP2)となるように過電流保護が掛かる。
【0076】
<第8実施形態>
図16は、リニア電源の第8実施形態を示す図である。本実施形態のリニア電源において、過電流保護回路100は、先出の第3実施形態(
図10)を具体化したものであり、電流検出部110及びアンプ(またはコンパレータ)121及び122に加えて、基準信号生成部131及び132と、PMOSFET141及び142を含む。
【0077】
なお、本図では、単一の電流検出部110がアンプ(またはコンパレータ)121及び122双方に共有されているが、電流検出部110を2つ用意してアンプ(またはコンパレータ)121及び122毎に設置しても構わない。
【0078】
PMOSFET141及び142それぞれのソースは、入力電圧VINの印加端に接続されている。PMOSFET141及び142それぞれのドレインは、ゲート信号G10の印加端(=アンプ30の出力端)に接続されている。PMOSFET141及び142それぞれのゲートは、過電流保護信号Socp1及びSocp2それぞれの印加端(=アンプ(またはコンパレータ)121及び122それぞれの出力端)に接続されている。
【0079】
VREF_OCP1<VREF_OCP2である場合、出力電流IOUTが増大して、VS>VREF_OCP1になると、過電流保護信号Socp1が低下してPMOSFET141のオン抵抗値が小さくなる。その結果、ゲート信号G10がプルアップされて出力トランジスタ10のオン抵抗値が強制的に引き上げられるので、IOUT≦IOCP1となるように過電流保護が掛かる。
【0080】
また、VREF_OCP2<VREF_OCP1である場合、出力電流IOUTが増大して、VS>VREF_OCP2になると、過電流保護信号Socp2が低下してPMOSFET142のオン抵抗値が小さくなる。その結果、ゲート信号G10がプルアップされて出力トランジスタ10のオン抵抗値が強制的に引き上げられるので、IOUT≦IOCP2となるように過電流保護が掛かる。
【0081】
<その他の変形例>
なお、上記の実施形態では、一貫してリニア電源への適用例を挙げたが、過電流保護回路の適用対象はこれに限定されるものではなく、他形式の電源(スイッチング電源など)やスイッチ回路など、過電流保護機能を必要とする全ての回路に幅広く適用することが可能であることは言うまでもない。
【0082】
このように、本明細書中に開示されている種々の技術的特徴は、上記実施形態のほか、その技術的創作の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能である。すなわち、上記実施形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきであり、本発明の技術的範囲は、上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内に属する全ての変更が含まれると理解されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本明細書中に開示されている発明は、車両関連機器、船舶関連機器、事務機器、ポータブル機器、ないしは、スマートフォンなどに利用することが可能である。
【符号の説明】
【0084】
1 リニア電源
2 負荷
10 出力トランジスタ(PMOSFET)
20 分圧部
21、22 抵抗
30 アンプ
100 過電流保護回路
110、111、112 電流検出部
120、121、122、123、124、125 アンプ(コンパレータ)
131、132 基準信号生成部
140、141、142 PMOSFET
CS 電流源
D ダイオード
Ms センストランジスタ(PMOSFET)
Rs センス抵抗