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  • 特許-グリース組成物及び転がり軸受 図1
  • 特許-グリース組成物及び転がり軸受 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】グリース組成物及び転がり軸受
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/00 20060101AFI20240415BHJP
   F16C 33/66 20060101ALI20240415BHJP
   H02K 5/173 20060101ALI20240415BHJP
   C10M 105/52 20060101ALN20240415BHJP
   C10M 105/54 20060101ALN20240415BHJP
   C10M 119/22 20060101ALN20240415BHJP
   C10M 125/10 20060101ALN20240415BHJP
   C10N 10/08 20060101ALN20240415BHJP
   C10N 10/06 20060101ALN20240415BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20240415BHJP
   C10N 40/00 20060101ALN20240415BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20240415BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20240415BHJP
【FI】
C10M169/00 ZNM
F16C33/66 Z
H02K5/173 A
C10M105/52
C10M105/54
C10M119/22
C10M125/10
C10N10:08
C10N10:06
C10N30:00 Z
C10N40:00 D
C10N40:02
C10N50:10
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022008805
(22)【出願日】2022-01-24
(65)【公開番号】P2023107551
(43)【公開日】2023-08-03
【審査請求日】2023-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 真太郎
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0184471(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0106162(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0105726(US,A1)
【文献】LI, Dandan et al.,RSC Adv.,2017年,7,3727-3735,DOI: 10.1039/c6ra26346a
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M;C10N
CAplus/REGISTRY(STN)
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素系基油と、フッ素系増ちょう剤と、イットリア安定化ジルコニアナノ粒子とを含むグリース組成物。
【請求項2】
前記イットリア安定化ジルコニアナノ粒子を、該グリース組成物の全量に対して、0.2質量%以上20質量%未満%含有する、
請求項1に記載のグリース組成物。
【請求項3】
前記イットリア安定化ジルコニアナノ粒子を、該グリース組成物の全量に対して、0.5質量%以上10質量%以下含有する、
請求項2に記載のグリース組成物。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のうちいずれか一項に記載のグリース組成物が封入されている転がり軸受。
【請求項5】
請求項4に記載の転がり軸受を備えているモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリース組成物、及びそれを封入した軸受、並びに該軸受を備えるモータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ナノオーダーの無機化合物の粒子を分散させた潤滑剤が、これが適用される摩擦面の摩擦・摩耗特性を改善することが知られている。
例えば、トライボロジー特性を改善するための新規潤滑用添加剤としてSiO等のセラミックナノ粒子を採用し、これと基材油とを含む潤滑油や潤滑グリースの開示がある(特許文献1)。また、ダイヤモンド等のナノ粒子と、エンジン油等の流動性潤滑剤とを含むナノ潤滑剤組成物の開示がある(引用文献2)。
上記酸化物やダイヤモンド等の無機化合物は、有機化合物からなる摩擦摩耗剤といった添加剤と異なり、自身の酸化劣化や揮発の問題が生じ難いという特徴を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-80065号公報
【文献】特表2014-516102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これまで提案されたナノオーダーの粒子を含有する潤滑剤は、摩擦・摩耗特性の改善等について検討が進められ、ナノ粒子が低い摩擦や摩耗をもたらす機構に関する考察がなされている。
ただこれまでにおいて、上記ナノ粒子を添加した潤滑剤について、音響特性に着目した提案はなされていない。
【0005】
本発明は、高荷重環境下においても優れた音響特性を実現するグリース組成物を提供することを目的とする。
そして本発明は、前記グリース組成物を備える転がり軸受及びそれを備えるモータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、フッ素系基油と、フッ素系増ちょう剤と、イットリア安定化ジルコニアナノ粒子とを含むグリース組成物である。
本発明はまた、前記グリース組成物が封入されている転がり軸受、並びに該転がり軸受を備えているモータを対象とする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の転がり軸受の構造を説明する模式図である。
図2】本発明のモータの構造を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
潤滑剤には摩擦・摩耗特性の改善はもちろんのこと、高温環境下や高荷重環境下においても優れた潤滑性能を保持できることが望まれる。
またフッ素系グリースなど耐熱性に優れるグリースを高荷重下あるいはミスアッセンブリーによる過荷重下で使用した場合、基油であるフッ素油が分解し、それにより発生した
フッ酸によって、軸受の転送面などの金属表面において腐食を引き起こすことが知られている。転送面に生じた金属腐食は、音響特性の悪化や回転不良の発生の要因となり得、高荷重下において使用した場合においても、転がり軸受における回転不良の発生や音響上昇の抑制を実現できる潤滑剤・グリースへの要望がある。
本発明者らは、ナノオーダーの無機化合物の粒子として、イットリア安定化ジルコニアナノ粒子を採用し、これをフッ素系基油及びフッ素系増ちょう剤を含むグリース組成物に添加したところ、ジルコニアナノ粒子では改善できなかった高荷重下での音響特性を特異的に改善できることを見出した。
【0009】
[グリース組成物]
本発明に係るグリース組成物は、後述するようにイットリア安定化ジルコニアナノ粒子を配合してなることを特徴とする。このグリース組成物の配合は、高荷重環境下において優れた音響特性を実現する。
以下、本発明のグリース組成物について詳述する。
【0010】
<イットリア安定化ジルコニアナノ粒子>
本発明に係るグリース組成物は、イットリア安定化ジルコニアのナノ粒子を含むことを特徴とする。
イットリア安定化ジルコニアは、ジルコニア(酸化ジルコニウム)を元とした酸化物[(ZrO1-x(Y;xは例えば0.01~0.15]であり、イットリア(酸化イットリウム)を添加して室温下でのジルコニアの結晶構造を安定化させたものである。
本発明で使用するイットリア安定化ジルコニアは、イットリア(酸化イットリウム)を例えば1モル%~10モル%程度、また例えば5モル%~10モル%程度の割合で含むものを採用できる。
【0011】
本発明で使用するイットリア安定化ジルコニアとして、粒子径が100nm以下のナノ粒子を用いることができる。本発明において粒子径(nm)は、窒素吸着法(BET法)により測定される比表面積径を採用することができる。窒素吸着法(BET法)により測定して得られる比表面積径(平均粒子径(比表面積径)D(nm))は、窒素吸着法で測定される比表面積S(m/g)から、D(nm)=2720/Sの式によって与えられる。
【0012】
また本発明の効果を損なわない範囲において、粒子径が100nm超のイットリア安定化ジルコニアの粒子を用いてもよい。
またイットリア安定化ジルコニアの粒子形状については特に限定されず、球状、多面形状、針状などであってもよい。
【0013】
本発明のグリース組成物の全量に対するイットリア安定化ジルコニアナノ粒子の割合は、例えば0.2質量%以上20質量%未満、また例えば0.5質量%以上10質量%以下とすることができる。
イットリア安定化ジルコニアナノ粒子の配合割合を上記範囲とすることにより、高荷重環境下において優れた音響特性を実現することができる。
【0014】
<基油>
本実施形態に係るグリース組成物において、基油としてフッ素系基油(フッ素油とも称する)を使用する。なお本発明の効果を損なわない範囲において、一般にグリース基油として使用されるフッ素系基油以外の基油を用いてもよいが、好ましくはフッ素系基油のみを用いることができる。
本発明のグリース組成物の全量に対する基油全体の割合は、例えば70~90質量%、
例えば75~95質量%、また例えば75~85質量%とすることができる。
【0015】
フッ素油としては、例えばパーフルオロポリエーテル(PFPE)を主成分とするものが挙げられる。なおPFPEは、一般式:RfO(CFO)(CO)(CO)Rf(Rf:パーフルオロ低級アルキル基、p、q、r:整数)で表される化合物である。
なおパーフルオロポリエーテルは直鎖型と側鎖型に大別され、直鎖型は側鎖型に比べて動粘度の温度依存性が小さい。これは、直鎖型は、低温環境下において側鎖型より粘度が低く、高温環境下では側鎖型より粘度が大きくなることを意味する。特に高温環境下で使用を想定した場合、適用箇所からのグリースの流出やそれに伴う枯渇を抑制する観点から、高温環境下における粘度は高いことが望ましく、すなわち、直鎖型のパーフルオロポリエーテルの使用が好ましい。
【0016】
<増ちょう剤>
本発明のグリース組成物において、増ちょう剤としてフッ素系増ちょう剤を使用する。なお本発明の効果を損なわない範囲において、一般にグリース基油として使用されるフッ素系増ちょう剤以外の増ちょう剤を使用してもよいが、好ましくはフッ素系増ちょう剤のみを用いることができる。
本発明のグリース組成物の全量に対する増ちょう剤全体の割合は、例えば10~30質量%、また例えば15~20質量%となるように配合することができる。
【0017】
フッ素系増ちょう剤としては、フッ素樹脂粒子が好ましく、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の粒子を用いることが好ましい。PTFEは、テトラフルオロエチレンの重合体であり、一般式:[C(n:重合度)で表される。
その他、採用し得るフッ素系増ちょう剤として、例えばパーフルオロエチレンプロピレンコポリマー(FEP)、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、テトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)が挙げられる。
上記PTFE粒子の大きさは特に限定されないが、例えば平均粒径で0.5~100μmのポリテトラフルオロエチレンを使用することができる。またPTFE粒子はその形状について特に限定されず、球状、多面形状、針状などであってもよい。
【0018】
<その他添加剤>
また、グリース組成物には、上記必須成分に加えて、必要に応じてグリース組成物に通常使用される添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲において含むことができる。
このような添加剤の例としては、酸化防止剤、極圧剤、金属不活性剤、摩擦防止剤(耐摩耗剤)、錆止め剤、油性向上剤、粘度指数向上剤、増粘剤などが挙げられる。
これらその他の添加剤を含む場合、その添加量(合計量)は、通常、グリース組成物の全量に対して0.1~10質量%である。
【0019】
例えば上記酸化防止剤としては、例えばオクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,4-ビス-(n-オクチルチオ)-6-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルアニリノ)-1,3,5-トリアジン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリエチレングリコール-ビス[3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6-ヘキサンジオール-ビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2-チオ-ジエチレンビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-t
-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナミド)等のヒンダードフェノール系酸化防止剤、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、および4,4-メチレンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)等のフェノール系酸化防止剤、ジフェニルアミン、ジアリールアミン、トリフェニルアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、アルキル化フェニル-α-ナフチルアミン、フェノチアジン、アルキル化フェノチアジン等のアミン系酸化防止剤等が挙げられる。
【0020】
また極圧剤としては、例えばリン酸エステル、亜リン酸エステル、リン酸エステルアミン塩等のリン系化合物、スルフィド類、ジスルフィド類等の硫黄系化合物、塩素化パラフィン、塩素化ジフェニル等の塩素系化合物、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン等の硫黄系化合物の金属塩等が挙げられる。
【0021】
金属不活性剤としては、例えばベンゾトリアゾール、1-[N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル]-ベンゾトリアゾール、1-[N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル]-4-メチルベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系化合物、チアジアゾール、2-メルカプトチアジアゾール、2,5-ビス(アルキルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール等のチアジアゾール系化合物、ベンゾイミダゾール、2-メルカプトベンゾイミダゾール、2-(デシルジチオ)-ベンゾイミダゾール等のベンゾイミダゾール系化合物、亜硝酸ソーダ等が挙げられる。
【0022】
また摩擦防止剤(耐摩耗剤)はトリクレジルホスフェートや高分子エステルを挙げることができる。
上記高分子エステルとしては、例えば脂肪族1価カルボン酸及び2価カルボン酸と、多価アルコールとのエステルが挙げられる。上記高分子エステルの具体例としては、例えばクローダジャパン社製のPRIOLUBE(登録商標)シリーズなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
本発明のグリース組成物は、上記基油と増ちょう剤とイットリア安定化ジルコニアナノ粒子とを混合し、所望によりその他添加剤を配合して得ることができる。
また、フッ素油とフッ素系増ちょう剤からなるフッ素系グリース(ベースグリース)に、イットリア安定化ジルコニアナノ粒子と、所望によりその他添加剤とを配合し、グリース組成物を得ることもできる。
なお通常、ベースグリースに対する増ちょう剤の含有量は10~30質量%程度である。例えば上記例示したベースグリース:フッ素系グリースにおけるフッ素系増ちょう剤の含有量は、例えば15~30質量%などとすることができる。
【0024】
[転がり軸受]
本発明に係る転がり軸受の好ましい実施形態について、以下に添付図面を参照して詳細に説明する。
なお、以下の実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0025】
図1は、本発明の好ましい実施形態の転がり軸受10の径方向の断面図である。転がり軸受10は、従来技術の転がり軸受と同様の基本構造を有するものであって、環状の内輪11と外輪12と複数の転動体13と保持器14とシール部材15とを具備する。
内輪11は、図示を省略するシャフトの外周側に、その中心軸と同軸に設置される円筒形の構造体である。外輪12は、内輪11の外周側で、内輪11と同軸に配置される円筒形の構造体である。複数の転動体13の各々は、内輪11と外輪12との間に形成される環状の軸受空間16内の軌道に配置された玉である。すなわち、本実施形態における転がり軸受10は玉軸受である。
保持器14は、軌道内に配置されて複数の転動体13を保持する。保持器14は、シャ
フトの中心軸と同軸に設置される環状体であり、中心軸の方向における一方の側に、転動体13を保持するための複数のポケット部を備え、各ポケット部内に転動体13が収容された構造を有する。転動体13は、保持器14により、内輪11及び外輪12の周方向に所定の間隔で保持され、転動体13の脱落や隣接する転動体13間の接触が抑制される。なお、保持器14の形状(冠形や波形等)や材質(鋼板製あるいは樹脂製等)は任意であり、特定の形状や材質に限定されない。
シール部材15は、外輪12の内周面に固定されて内輪11側に延在し、軸受空間16を密封する。シール部材15により密封された軸受空間16には、グリース組成物Gが封入されている。すなわちグリース組成物Gは、内輪11と外輪12との間に保持される。該グリース組成物Gは、前述したグリース組成物が用いられる。なお、軸受空間16内部へのグリース組成物Gの封入量は、例えばその容積の5~50%とすることができる。
シール部材15は、例えば鋼板又はゴムにより形成され、内輪11の外周と非接触である鋼板シールド、内輪11の外周と非接触である非接触式ゴムシールが挙げられる。本発明にあっては前記鋼板シールド又は非接触式ゴムシールの何れのシール部材でも使用することができる。なお本図はシール部材15を具備する態様であるが、本発明の転がり軸受はシール部材を具備しない転がり軸受の態様も対象とする。
以上の構成を有する転がり軸受10において、グリース組成物Gは、転動体13と保持器14との間、および、転動体13と内輪11ないし外輪12との間における摩擦を低減するように作用する。摩擦の低減により摩擦トルクが軽減されると共に摩擦熱の発生も抑制され、内輪11及び外輪12の円滑な回転が促進される。図1に示される構成から解るように、転がり軸受10に封入されたグリース組成物Gは、転がり軸受10が回転する際に、転動体13と内輪11ないし外輪12との間を潤滑する。
【0026】
本発明の転がり軸受は、自動車、家電機器、情報機器等に用いられる小型モータ(例えば、ブラシレスモータ、ステッピングモータ、ファンモータ)の転がり軸受として使用することができる。
【0027】
[モータ]
一例として、図2に、本実施形態の転がり軸受を備えているモータの実施形態について詳細に説明するが、以下の実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0028】
図2は、本発明の一実施形態のモータにおけるシャフト方向の断面図である。モータ20は、従来技術のモータと同様の基本構造を有するものであって、ハウジング21、ステータ22、コイル23、ロータマグネット24、シャフト25、及びシャフト25を支持する転がり軸受26から構成される。
モータ20は、駆動回路を介して電源(以上図示せず)より供給された電流をステータ22に巻回されたコイル23に流すことで磁力が発生し、それによりロータマグネット24が回転し、シャフト25を通じて外部の回転体に回転が伝えられる。
【0029】
本発明は、本明細書に記載された実施形態や具体的な実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範囲内で種々の変更、変形が可能である。
例えば、上記実施形態及び下記実施例では、転がり軸受として玉軸受を挙げたが、本発明はこれに限定されるものではなく、他の転がり軸受、たとえばころ軸受、針軸受、円錐ころ軸受、球面ころ軸受、スラスト軸受等や、自動車の車軸支持軸受のような軸受ユニットへのグリース組成物の適用を制限するものではない。
【実施例
【0030】
以下、本発明を実施例により、さらに詳しく説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0031】
〔グリース組成物の評価〕
下記表1に示す配合量にて実施例1乃至実施例5並びに比較例1乃至比較例6のグリース組成物を調製した。
【0032】
なおグリースの調製に用いた各成分の詳細及びその略称は以下のとおりである。
(a)基油
・フッ素油:直鎖パーフルオロポリエーテル(PFPE)
(b)増ちょう剤
・フッ素系増ちょう剤:PTFE(ポリテトラフルオロエチレン、粒径10~25μm)(c)ナノ粒子
(c-1)イットリア安定化ジルコニア(YSZ):平均粒子径100nm以下、「酸化ジルコニウム(IV)-固定化イットリア」、シグマアルドリッチ社、イットリア8モル%含有
(c-2)酸化ジルコニア(ZrO):平均粒子径100nm以下
(d)その他添加剤
・摩擦防止剤
【0033】
得られたグリース組成物の特性について、以下の手順に従い、高荷重試験後の音響特性について評価した。以降の説明において、グリース組成物の例番号を、性能評価の例番号としても扱うものとする。
【0034】
[耐荷重性試験]
鋼シールド付き玉軸受(内径8mm、外径22mm、幅7mm)に、実施例1乃至実施例5並びに比較例1乃至比較例6の各グリース組成物を、軸受容積の25%~35%で封入した。この玉軸受をハウジングにセットして、外輪に対してアキシアル方向より750Nの予圧をかけた後、軸受内径にシャフトを挿入して、試験用モータの回転軸にシャフトを結合し、玉軸受が内輪回転するようにした。
ついで、室温にて、回転速度5,000rpmで24時間回転させた後、下記手順にて音響評価試験を行った。なお、試験中、玉軸受の振動が大きく、24時間の回転試験終了前に回転が停止した場合には、その時点において下記音響評価試験を行った。
<音響評価試験>
各試験グリース組成物を使用した玉軸受の音響性能を、アンデロンメータを用いて、Mバンド(300~1800Hz)のアンデロン値を測定することにより評価した。
詳細には、上述の手順にて各玉軸受を所定時間回転させた後、予圧、温度条件及び回転数はそのままに、玉軸受の外輪の外周に半径方向にて速度型ピックアップを接触させ、外輪に伝わる機械的振動を検出してアンデロン値を算出し、以下の基準にて各試験における音響性能を評価した(測定上のアンデロン値の最大値:50)。実施例1乃至実施例5並びに比較例1乃至比較例6の試験グリース組成物につき、それぞれ6個の玉軸受を用いて試験を行い、アンデロン値の平均値を求め、評価に供した(24時間の回転試験終了前に回転が停止した場合も同様に平均値を求めた)。なお、Mバンドの周波数:300~1800Hzは、人にとって耳障りな音と言われている。
<評価基準>
本実施例の試験条件において、アンデロン値が10以上では騒音が顕著となるため、10未満を好適と評価する。
A(好適):アンデロン値が10未満
N(不適):アンデロン値が10以上
【0035】
【表1】
【0036】
表1に示すように、イットリア安定化ジルコニアナノ粒子を0.5質量%~10質量%配合した実施例1~5のグリース組成物は、高荷重環境下における音響特性(アンデロン値:1.4~4)に優れる結果となった。
【0037】
一方、イットリア安定化ジルコニアナノ粒子を20質量%配合した比較例1のグリース組成物は、耐荷重性試験において、玉軸受の振動が大きくなり、1.1時間で回転が停止した。また音響特性(アンデロン値:12)に欠ける結果となった。
イットリア安定化ジルコニアナノ粒子を配合していない比較例2のグリース組成物、並びにイットリア安定化ジルコニアナノ粒子の代わりに添加剤(摩擦防止剤)を配合した比較例3のグリース組成物は、いずれもアンデロン値が10超となり、高荷重環境下における音響特性に欠ける結果となった。
さらに、イットリア安定化ジルコニアナノ粒子の代わりにジルコニアナノ粒子を配合した比較例4~6は、いずれも玉軸受の振動が大きくなり、24時間の回転試験の前に回転が停止し、またアンデロン値も20を超え、高荷重環境下における優れた音響特性を得ることはできなかった。
なお、アンデロン値が10以上となった例の軸受は、その転送面において顕著な摩耗が確認された。
【0038】
以上の通り、イットリア安定化ジルコニアナノ粒子を添加した本発明のグリース組成物は、高荷重環境下においても優れた音響特性を実現するグリース組成物となることが確認された。
【0039】
以上、最良の実施形態について詳細に説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれものである。
【符号の説明】
【0040】
G…グリース組成物、 10…転がり軸受、 11…内輪、 12…外輪、 13…転動体、 14…保持器、 15…シール部材、 16…軸受空間
20…モータ、 21…ハウジング、 22…ステータ、 23…コイル、 24…ロータマグネット、 25…シャフト、 26…軸受
図1
図2