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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】膜、素子、機器
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/113 20150101AFI20240415BHJP
   G02B 1/115 20150101ALI20240415BHJP
   G02B 5/26 20060101ALI20240415BHJP
   H01L 27/146 20060101ALI20240415BHJP
【FI】
G02B1/113
G02B1/115
G02B5/26
H01L27/146 D
【請求項の数】 40
(21)【出願番号】P 2022075657
(22)【出願日】2022-05-02
(65)【公開番号】P2022179372
(43)【公開日】2022-12-02
【審査請求日】2022-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2021085226
(32)【優先日】2021-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021203078
(32)【優先日】2021-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】弁理士法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 達毅
(72)【発明者】
【氏名】石川 恭兵
(72)【発明者】
【氏名】星野 和弘
(72)【発明者】
【氏名】知花 貴史
(72)【発明者】
【氏名】小林 広明
【審査官】小西 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-031462(JP,A)
【文献】特開2021-072435(JP,A)
【文献】特開2017-193755(JP,A)
【文献】国際公開第2014/136798(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0008775(US,A1)
【文献】国際公開第2019/027526(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/10 - 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質の遷移金属酸化物を主成分として含み、
アルゴンを含み、
水素の含有量が1.0at%以上であり、
前記遷移金属酸化物は、3~11族の遷移金属の酸化物であり、
光学膜であることを特徴とする膜。
【請求項2】
非晶質の遷移金属酸化物を主成分として含み、
アルゴンを含み、
水素の含有量が1.0at%以上であり、
前記遷移金属酸化物は、3~11族の遷移金属の酸化物であり、
前記遷移金属の含有量と、酸素の含有量と、水素の含有量と、アルゴンの含有量と、の和が99.0at%以上であることを特徴とする膜。
【請求項3】
非晶質の遷移金属酸化物を主成分として含み、
スパッタ膜であり、
水素の含有量が1.0at%以上であり、
前記遷移金属酸化物は、3~11族の遷移金属の酸化物であり、
光学膜であることを特徴とする膜。
【請求項4】
非晶質の遷移金属酸化物を主成分として含み、
スパッタ膜であり、
水素の含有量が1.0at%以上であり、
前記遷移金属酸化物は、3~11族の遷移金属の酸化物であり、
前記遷移金属の含有量と、酸素の含有量と、水素の含有量と、アルゴンの含有量と、の和が99.0at%以上であることを特徴とする膜。
【請求項5】
非晶質の遷移金属酸化物を主成分として含み、
前記遷移金属酸化物が、酸化バナジウム、酸化クロム、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化イットリウム、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化モリブデン、酸化ランタン、酸化セリウム、酸化ハフニウム、酸化タンタルおよび酸化タングステンのいずれかであり、
水素の含有量が1.0at%以上であり、
光学膜であることを特徴とする膜。
【請求項6】
非晶質の遷移金属酸化物を主成分として含み、
前記遷移金属酸化物が、酸化バナジウム、酸化クロム、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化イットリウム、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化モリブデン、酸化ランタン、酸化セリウム、酸化ハフニウム、酸化タンタルおよび酸化タングステンのいずれかであり、
水素の含有量が1.0at%以上であり、
遷移金属の含有量と、酸素の含有量と、水素の含有量と、アルゴンの含有量と、の和が99.0at%以上であることを特徴とする膜。
【請求項7】
前記遷移金属酸化物が、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化クロム、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化イットリウム、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化モリブデン、酸化ランタン、酸化セリウム、酸化サマリウム、酸化イッテルビウム、酸化ハフニウム、酸化タンタルおよび酸化タングステンのいずれかである、
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の膜。
【請求項8】
遷移金属の含有量と酸素の含有量との和が50at%以上である、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の膜。
【請求項9】
水素が遷移金属に結合している、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の膜。
【請求項10】
18族の元素を含む、請求項3乃至6のいずれか1項に記載の膜。
【請求項11】
水素の含有量が、遷移金属の含有量および酸素の含有量よりも小さく、アルゴンの含有量よりも大きい、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の膜。
【請求項12】
水素の含有量が、遷移金属の含有量の半分以下である、請求項1乃至6のいずれか項に記載の膜。
【請求項13】
前記遷移金属酸化物は第4~6周期の遷移金属の酸化物である、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の膜。
【請求項14】
前記遷移金属酸化物は第5周期または第6周期の遷移金属の酸化物である請求項1乃至6のいずれか1項に記載の膜。
【請求項15】
前記遷移金属酸化物は3~6族の遷移金属の酸化物である、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の膜。
【請求項16】
前記遷移金属酸化物は4族または5族の遷移金属の酸化物である請求項1乃至6のいずれか1項に記載の膜。
【請求項17】
前記遷移金属酸化物は酸化ハフニウムである、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の膜。
【請求項18】
水素の含有量が、16.0at%以下である、請求項17に記載の膜。
【請求項19】
水素の含有量が、6.0at%以上である、請求項17に記載の膜。
【請求項20】
ジルコニウムの含有量が、0.05at%以上かつ0.5at%以下である、請求項17に記載の膜。
【請求項21】
波長が280nmである光に対する屈折率が2.15以上であり、波長が280nmである光に対する吸収率が0.2%以下である、請求項17に記載の膜。
【請求項22】
前記遷移金属酸化物は酸化タンタルである、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の膜。
【請求項23】
水素の含有量が、10.0at%未満である、請求項22に記載の膜。
【請求項24】
水素の含有量が、3.0at%以上である、請求項22に記載の膜。
【請求項25】
波長が313nmの光に対する吸収率が0.40%以下であり、波長が313nmの光に対する屈折率が2.40以上である、請求項22に記載の膜。
【請求項26】
前記遷移金属酸化物は酸化ジルコニウムまたは酸化チタンである、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の膜。
【請求項27】
アルゴンの含有量が、0.5at%以上かつ5.0at%以下である、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の膜。
【請求項28】
シリコン、炭素および窒素のそれぞれの含有量が、0.5at%未満である、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の膜。
【請求項29】
前記膜の厚さは10nm以上かつ1000nm以下である、
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の膜。
【請求項30】
基体と、
前記基体の上に形成された光学構造体と、
を備える光学素子であって、
前記光学構造体が、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の膜を含む、
ことを特徴とする素子。
【請求項31】
前記光学構造体は、
前記膜と、前記膜よりも屈折率が小さい膜と、
を交互に積層した構造を有する、
ことを特徴とする請求項30に記載の素子。
【請求項32】
前記光学構造体が、反射防止構造を有する、
ことを特徴とする請求項30に記載の素子。
【請求項33】
前記光学構造体が、
反射構造を有する、
ことを特徴とする請求項30に記載の素子。
【請求項34】
前記基体が電気光学構造を有する、
ことを特徴とする請求項30に記載の素子。
【請求項35】
請求項30に記載の素子と、
前記素子を含む複数の光学素子を保持する保持部品と、を備える、
ことを特徴とする機器。
【請求項36】
請求項30に記載の素子と、
前記膜に照射する光を生成する光源と、を有する、
ことを特徴とする機器。
【請求項37】
前記光は、紫外光である、
ことを特徴とする請求項36に記載の機器。
【請求項38】
請求項34に記載の素子と、
前記電気光学構造を電気的に制御するためのコントローラと、を備える、
ことを特徴とする機器。
【請求項39】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の膜と、
電極である第1部分と、
半導体層または電極である第2部分と、を備え、
前記膜が、前記第1部分と前記第2部分との間に配されている素子。
【請求項40】
請求項39に記載の素子と、
前記素子を電気的に制御するためのコントローラと、を備える、
ことを特徴とする機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物を含む膜に関する。
【背景技術】
【0002】
金属酸化物は、光学素子や電気素子、半導体素子の分野での応用が検討されている。
【0003】
露光装置をはじめとする各種の光学機器においては、反射防止特性あるいは反射特性などの光学特性を向上するために、光学素子に光学膜をコーティングすることが行われている。容量素子や半導体素子などにおいては、容量電極やゲート電極を他から絶縁するための絶縁膜を用いることが行なわれている。
【0004】
光学機器に高度な性能が求められるにしたがって、機器内で使用される光学素子の点数が多くなり、光学膜をコーティングする必要がある光学面の数も増える傾向にある。また、コーティングされる光学膜は単層で構成されるとは限らず、多層で構成される場合もあるので、設けられる層の総数は増える傾向になる。
光学素子の分野では、レンズやフィルタ等の光学部材に、金属酸化物を含む膜を光学膜としてコーティングすることが試みられている。
【0005】
特許文献1には、光学素子で用いられる誘電体多層膜の劣化を低減するため、誘電体多層膜に水素を含有させることが記載されている。誘電体膜に含有された水素が、光吸収の原因となる格子欠陥を補填することにより、誘電体多層膜の長寿命化を図るものである。水素を含有させる誘電体多層膜として、SiO、Al、TiO、Ta、HfO、ZrOが示されている。
【0006】
特許文献1には、光学素子用の高耐力の誘電体多層膜を提供するため、SiOあるいはTiOに水素を含有させた誘電体膜を用いる技術が開示されている。SiO、TiO以外の誘電体材料として、水素を含有したTa、HfO、Al、ZrOが示唆的に列挙されているが、具体的な情報は開示されていない。
【0007】
特許文献2には、酸化ハフニウムを光学膜として使用する場合に、光吸収や散乱を抑制するために、1at%~10at%のケイ素を添加してコーティングの内部応力を低下させる技術が開示されている。
【0008】
半導体素子の分野では、酸化ハフニウムを含む膜を、トランジスタのゲート絶縁膜として用いることが試みられている。酸化ハフニウムを含む高誘電率膜をトランジスタのゲート絶縁膜として用いた場合に、製造プロセス中の高温処理により結晶化が発生し、結晶粒界あるいは欠陥順位を介したリーク電流が増加するという問題があった。
【0009】
特許文献3には、ゲート絶縁膜を形成した後に高温処理が行われた際に、高誘電率材料が結晶化してリーク電流が増加するのを抑制するため、酸化ハフニウムにシリコンを拡散させてシリコン含有高誘電率膜を形成する技術が開示されている。
【0010】
特許文献4には、設計中心波長を400nmとする光学膜を備えた反射光学素子が提案されている。反射光学素子にコーティングされる光学膜の高屈折率層に用いられる材料として、酸化タンタル(Ta)、酸化ニオブ(NbO)、酸化チタン(TiO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ハフニウム(HfO)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化珪素(SiN)が示されている。
【0011】
特許文献5には、下部金属に金属タンタル、絶縁膜に酸化タンタル、上部金属に透明導電膜をそれぞれ用い、絶縁膜としての酸化タンタルのなかに含まれる水素原子濃度は1原子%未満である非線形駆動素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開平10-217377号公報
【文献】特表2012-506950号公報
【文献】特開2006-165589号公報
【文献】特開2017-83789号公報
【文献】特開平7-311393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
光学素子の分野では、高い性能を有する光学膜の実現が望まれていた。電気素子の分野では、高い性能を有する絶縁膜の実現が望まれていた。そこで本発明は、金属酸化物を含む膜の特性を制御する上で有利な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するための手段の第1の観点は、非晶質の遷移金属酸化物を主成分として含み、アルゴンを含み、水素の含有量が1.0at%以上であり、前記遷移金属酸化物は、3~11族の遷移金属の酸化物であり、光学膜であることを特徴とする膜である。
【0015】
上記課題を解決するための手段の第2の観点は、非晶質の遷移金属酸化物を主成分として含み、アルゴンを含み、水素の含有量が1.0at%以上であり、前記遷移金属酸化物は、3~11族の遷移金属の酸化物であり、前記遷移金属の含有量と、酸素の含有量と、水素の含有量と、アルゴンの含有量と、の和が99.0at%以上であることを特徴とする膜である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、金属酸化物を含む膜の特性を制御する上で有利な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施形態1に係る光学素子の模式的な断面図。
図2】実施形態1に係る光学素子の製造に使用したスパッタリング成膜装置の模式図。
図3】酸化ハフニウム膜の水素含有量に対する光吸収率特性を表したグラフ。
図4】酸化ハフニウム膜の水素含有量に対する屈折率特性を表したグラフ。
図5】実施形態1の実施例1と実施例3の光吸収の波長依存性を示すグラフ。
図6】実施形態1の実施例1と実施例4の屈折率の波長依存性を示すグラフ。
図7】実施形態1の実施例1の酸化ハフニウム膜のX線回折パターンを示す図。
図8】実施形態1の比較例1の酸化ハフニウム膜のX線回折パターンを示す図。
図9】実施形態1の実施例5と実施例6の層構成を示す断面図。
図10】実施形態1の実施例5および実施例6の光学構造体(反射防止構造)の反射率特性を示すグラフ。
図11】実施形態1の実施例7と実施例8の層構成を示す断面図。
図12】実施形態1の実施例7および実施例8の光学構造体(反射構造)の反射率特性を示すグラフ。
図13】実施形態2の実施例11に係るCMOSトランジスタを備えた半導体素子を説明するための模式的な断面図。
図14】実施形態2の実施例12に係る薄膜トランジスタを備えた半導体素子を説明するための模式的な断面図。
図15】実施形態2の実施例13に係る裏面照射型の撮像素子を説明するための模式的な部分断面図。
図16】実施形態3に係る光学素子の模式的な断面図。
図17】実施形態3に係る光学素子の製造に使用したスパッタリング成膜装置の模式図。
図18】酸化タンタル膜の水素含有量に対する光吸収特性を示すグラフ。
図19】実施形態3の実施例4、実施例5、比較例1の光吸収の波長依存性を示すグラフ。
図20】実施形態3の実施例6、実施例7、比較例3の層構成を示す断面図。
図21】実施形態3の実施例6、実施例7、比較例3の反射率の波長依存性を示すグラフ。
図22図21のグラフの短波長側を拡大した一部拡大図。
図23】実施形態3の実施例6、実施例7、比較例3の透過率の波長依存性を示すグラフ。
図24】波長365nmの光に対する屈折率と水素含有量の関係を示すグラフ。
図25】実施形態3の実施例8、比較例4の層構成を示す断面図。
図26】実施形態3の実施例8、比較例4の反射率の波長依存性を示すグラフ。
図27】実施形態3の酸化タンタル膜のX線回折パターンを示すグラフ。
図28】実施形態3の実施例10の露光装置の構成を示す模式図。
図29】実施形態4の実施例11の固体撮像素子の模式的な断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態を説明する。複数の実施形態を順次説明し、実施形態毎に具体的な実施例を挙げる。
実施形態の膜は、非晶質の遷移金属酸化物を主成分として含み、水素の含有量が1.0at%以上である。この膜を備えた素子において、この膜は、素子が備える基体の上に配置される。非晶質(あるいはアモルファス)とは、測定対象の膜に0.5度程度の小さな入射角でX線もしくは電子線を照射して回折パターンを観測した際に、明瞭な回折ピークが検出されないこと、言い換えればハローパターンが観測されることをいう。したがって、ここでいう非晶質とは、微結晶状態の材料が含有されている状態を必ずしも除外するものではない。ここで、「at%」は、「atomic percentage」を意味するもので、対象中組成の全原子数に対する、特定原子数の割合である。
【0019】
以下、遷移元素のうちの注目する特定の1つの元素を遷移金属Tと称する。遷移金属酸化物とは、遷移金属Tと酸素の化合物である。遷移金属Tは、周期表の3~11族の元素であり、遷移元素である。典型元素とは異なりd軌道あるいはf軌道が閉殻になっていない遷移元素において、水素準位や酸素準位が、膜の特性に影響すると考えられる。
【0020】
第4周期に属する遷移元素(第一遷移元素;3d遷移元素)の金属の酸化物としては、酸化チタン(Ti2O/TiO/TiO;4族)、酸化バナジウム(VO;5族)、酸化クロム(Cr;6族)、酸化コバルト(Co;9族)、酸化ニッケル(NiO;10族)などが挙げられる。
【0021】
第5周期に属する遷移元素(第二遷移元素;4d遷移元素)の金属の酸化物としては、酸化イットリウム、(Y;3族)、酸化ジルコニウム(ZrO;4族)、酸化ニオブ(Nb;5族)、酸化モリブデン(MoO;6族)などが挙げられる。
【0022】
第6周期に属する遷移元素(第三遷移元素;5d、4f遷移元素)の金属の酸化物としては、酸化ランタン(La;ランタノイド)、酸化セリウム(CeO;ランタノイド)、酸化サマリウム(Sm;ランタノイド)、酸化イッテルビウム(Yb;ランタノイド)、酸化ハフニウム(HfO;4族)、酸化タンタル(Ta;5族)、酸化タングステン(WO;6族)などが挙げられる。
【0023】
典型的には、3~6族の遷移金属の酸化物を用いることができる。特に、4族または5族の遷移金属の酸化物が好適である。また、典型的には、第4~6周期の遷移金属の酸化物を用いることができる。特に、第5周期または第6周期の遷移金属の酸化物が好適である。
【0024】
遷移金属酸化物において、遷移金属Tの含有量J(at%)、酸素の含有量K(at%)、水素の含有量L(at%)が定義され、J、K、L>0である。遷移金属酸化物における、不純物Aの含有量M(at%)、不純物Bの含有量N(at%)も定義される。M、N≧0である。ここでは、遷移金属酸化物に含まれる、遷移金属、酸素および水素以外の元素が2種類の場合を例示する。つまり、遷移金属酸化物には5種類の元素が含まれる。しかし、遷移金属酸化物に含まれる、遷移金属、酸素および水素以外の元素は、1種類でもよいし、3種類以上でもよい。遷移金属酸化物に含まれる元素の種類は、4種類でもよいし、6種類以上でもよい。
【0025】
遷移金属Tの酸化物を主成分とする膜、ということは、遷移金属Tの含有量Jと酸素の含有量Kとの和が、膜中に含まれる遷移金属Tおよび酸素以外の元素の各々の含有量L、M、Nよりも多いこと(J+K>L、J+K>M、J+K>N)を意味する。本実施形態の遷移金属酸化物膜は、遷移金属と酸素以外の他に水素を含んでいることから、遷移金属Tの含有量Jと酸素の含有量Kの和は100at%未満(J+K<100at%)となり、水素の含有量が1.0at%以上であることから、遷移金属Tの含有量Jと酸素の含有量Kの和は99.0at%以下(J+K≦99.0at%)となる。
【0026】
ある遷移金属Tの酸化物の化学量論的組成をTとする。k≧1であればJ×(k-0.5)/j<K<J×(k+0.5)/jでありうるし、k≧2であればJ×(k-1)/j<K<J×(k+1)/jでありうる。遷移金属酸化膜中における遷移金属Tの含有量Jと酸素の含有量Kとの和が、遷移金属酸化膜中に含まれる遷移金属Tおよび酸素以外の全ての元素の含有量L、M、Nの和よりも多いこと(J+K>L+M+N)が好ましい。この場合、J+Kは50at%より大きいことになる。
【0027】
遷移金属酸化物膜中の水素は、典型的には、遷移金属酸化物の酸素欠陥を埋めるように遷移金属酸化物の遷移金属Tに結合する形で存在しうるか、遷移金属酸化物の酸素に結合する形で存在しうる。従って、遷移金属酸化物膜の水素の含有量Lが、酸素の含有量Kよりも小さくなりうる(L<K)。また、遷移金属酸化物膜の水素の含有量Lは、遷移金属酸化物膜の遷移金属Tの含有量Jよりも小さくなりうる(L<J)。遷移金属酸化物膜の遷移金属Tの含有量Jが水素の含有量Lよりも大きいこと(J>L)は、緻密な遷移金属酸化物膜を得るうえで有利である。より緻密な遷移金属酸化物膜の物性は、真空の物性からより遠ざかるのが一般的である。例えば、より緻密な遷移金属酸化物膜の屈折率は、真空の物性(屈折率=1.0)から遠ざかることで、より高くなる。緻密な遷移金属酸化物膜を得るうえで、水素の含有量Lは、遷移金属Tの含有量Jの半分以下(L≦J/2)であることが好ましい。
【0028】
多くの遷移元素の酸化物の化学量論的組成Tにおいて、j≦k、とりわけj<kである。このことから、酸素の含有量Kは遷移金属Tの含有量Jよりも大きい(K>J)。
上述の様に、水素の含有量Lは、遷移金属Tの含有量Jおよび酸素の含有量Kより小さい(J、K>L)。つまり典型的にK>J>Lが満たされる。
【0029】
非晶質の遷移金属酸化物膜の組成は、非晶質であるがゆえに、典型的には化学量論的組成からずれうる。つまり、遷移金属酸化物の化学量論的組成Tに対して、遷移金属の含有量Jと酸素の含有量Kの比K/Jは、k/jと異なりうる。例えば、膜中の水素が、遷移金属酸化物の酸素欠陥を埋めるように遷移金属酸化物の遷移金属に結合する形で存在する場合には、K/J>k/jとなりうる。また、例えば、膜中の水素が、遷移金属酸化物の酸素に結合する形で存在する場合には、K/J<k/jとなりうる。
【0030】
遷移金属酸化物膜において含まれうる、遷移金属、酸素、水素を除く元素は、遷移元素でも典型元素でもありえる。しかし、遷移金属、酸素、水素を除く元素は、極力、含まれない方がよい。以下、遷移金属酸化物膜において含まれうる、不純物A、Bについて説明する。
【0031】
不純物Aの含有量M(at%)は、水素の含有量Lよりも小さいこと(M<L)が好ましいが、水素の含有量Lよりも大きくてもよい(M>L)。不純物Aの含有量Mは、0.5at%以上かつ5.0at%以下であってもよい。不純物Aが周期表の18族の元素(貴ガス)であれば、化学的に不活性であるので遷移金属酸化物膜の特性を制御しやすい。不純物Aは、典型的にはアルゴンであるが、アルゴンの代わりに、クリプトンまたはキセノンであってもよい。
【0032】
上述した不純物Bの含有量N(at%)は、不純物Aの含有量Mよりも小さい(N<M)。また、不純物Bの含有量Nは、水素の含有量Lよりも小さい(N<L)。不純物Bの含有量Nは、1.0at%未満であることが好ましく、0.5at%以下であることがより好ましい。不純物Bの含有量Nは0.05at%以上かつ0.5at%以下であってもよい。不純物Bの含有量Nは0であってもよい。
【0033】
不純物Bは、金属元素でありえ、遷移元素でありえ、遷移金属Tと同族の遷移元素でありうる。不純物Bが周期表で遷移金属Tと同族であれば、化学的に類似性であるので遷移金属酸化物膜の特性を制御しやすい。例えば、遷移金属Tがハフニウムであれば、不純物Bはジルコニウムでありえ、遷移金属Tがジルコニウムであれば、不純物Bはハフニウムでありえる。例えば、遷移金属Tがタンタルであれば、不純物Bはニオブでありえ、遷移金属Tがニオブであれば、不純物Bはタンタルでありえる。例えば、遷移金属Tがタングステンであれば、不純物Bはモリブデンでありえ、遷移金属Tがモリブデンであれば、不純物Bはタングステンでありえる。例えば、遷移金属Tがイットリウムであれば、不純物Bはランタノイドでありえ、遷移金属Tがランタノイドであれば、不純物Bは他のランタノイドあるいはイットリウムでありえる。
【0034】
遷移金属酸化物膜における酸素、水素および貴ガスを除く典型元素の各々の含有量が、1.0at%未満であることが好ましく、0.5at%以下であることがより好ましく、0.1at%以下であることがさらに好ましい。遷移金属酸化物膜における酸素、水素および貴ガスを除く典型元素の各々は、検出限界未満でありうる。ここで、典型元素は、周期表の1族、2族と12族から18族の元素であり、貴ガスを除く典型元素は、1族、2族と12族から17族の元素である。含有量は0である場合を含んでいる。遷移金属酸化物膜における酸素、水素およびアルゴンを除く典型元素の各々の含有量が、1.0at%未満であることが好ましく、0.5at%以下であることがより好ましく、0.1at%以下であることがさらに好ましい。
【0035】
遷移金属T、酸素、水素および不純物Aを除く、全ての不純物の合計含有量は、1.0at%未満であることが好ましい。換言すると、遷移金属Tの含有量Jと、酸素の含有量Kと、水素の含有量Lと、不純物Aの含有量Mと、の和が99.0at%より大きいこと(J+K+L+M>99.0at%)が好ましい。遷移金属T、酸素、水素および不純物Aを除く、全ての不純物の合計含有量は、0.5at%以下であることがより好ましい。換言すると、遷移金属Tの含有量Jと、酸素の含有量Kと、水素の含有量Lと、不純物Aの含有量Mと、の和が99.5%以上であること(J+K+L+M≧99.5at%)が好ましい。遷移金属T、酸素、水素、不純物Aおよび不純物Bを除く、全ての不純物の合計含有量は、0.1at%以下であることがより好ましい。換言すると、遷移金属Tの含有量Jと、酸素の含有量Kと、水素の含有量Lと、不純物Aの含有量Mと、不純物Bの含有量Nの和が99.9%以上であること(J+K+L+M+N≧99.9at%)が好ましい。遷移金属酸化物膜には、遷移金属、酸素、水素、不純物A、不純物Bを除く全ての元素が、検出限界未満であってもよい。遷移金属酸化物膜には、遷移金属、酸素、水素、不純物A、不純物Bを除く全ての元素が含まれなくてもよい。
【0036】
遷移金属の含有量J(at%)、酸素の含有量K(at%)、水素の含有量L(at%)、不純物Aの含有量M(at%)、不純物Bの含有量N(at%)として、J+K>L+M+N、J>L、K>L、L>M、およびM>Nの少なくとも1つを満たす。そして、L≧1.0(at%)であり、N<1.0(at%)であり、J+K+L+M≧99.0at%でありうる。
【0037】
遷移金属酸化物の化学量論的組成Tに対して、K/J≒k/jと近似し、J+K+L≒100と近似すれば、L<Jを満たす場合には、L<100×j/(2×j+k)であり、L≦J/2を満たす場合には、L≦100×j/(3×j+2×k)である。j=1かつk=2であれば、L<100×j/(2×j+k)を満たすには、L<25at%である。j=1かつk=3であれば、L<100×j/(2×j+k)を満たすには、L<14at%である。j=2かつk=3であれば、L<100×j/(2×j+k)を満たすには、L<28at%である。j=2かつk=5であれば、L<100×j/(2×j+k)を満たすには、L<22at%である。j=1かつk=2であれば、L≦100×j/(3×j+2×k)を満たすには、L≦14at%である。j=1かつk=3であれば、L≦100×j/(3×j+2×k)を満たすには、L≦11at%である。j=2かつk=3であれば、L≦100×j/(3×j+2×k)を満たすには、L≦16.0at%である。j=2かつk=5であれば、L≦100×j/(3×j+2×k)を満たすには、L≦12at%である。
【0038】
この遷移金属酸化物膜は、光学膜として利用可能である。光学膜とは、光の作用を利用する膜であり、光の作用とは、反射、透過、吸収、屈折、散乱、励起などである。非晶質膜が1.0at%以上の水素を含有することで、特定の波長における膜の屈折率や、消衰係数(吸収率)を、有意に制御することができうる。光学膜としての遷移金属酸化物は、膜としたときに光学的に利用可能なものであればよく、典型的には、3~6族の遷移金属の酸化物を用いることができる。特に、4族または5族の遷移金属の酸化物が好適である。また、典型的には、第4~6周期の遷移金属の酸化物を用いることができる。特に、第5周期または第6周期の遷移金属の酸化物が好適である。
【0039】
光学膜に対して用いられる光に含まれる波長λは、膜中の水素含有量に応じて膜の光学的特性が有意に変化しうる波長である。この波長λは、紫外域(400nm未満)、可視域(400~800nm)、赤外域(800nm超)のいずれでもよい。光学膜に対して用いられる光は、膜中の水素含有量に応じた膜の光学的特性が有意には変化しない波長の光を含んでいてもよい。
【0040】
光学膜を備える光学素子は、外部からの作用によって光学特性が変化しない光学素子であってもよいし、外部からの作用によって光学特性が変化する光学素子であってもよい。前者の光学素子は、レンズやミラー、フィルタであり、光学膜は、反射防止膜や反射膜、吸光膜として用いられうる。後者の光学素子は、例えば光学膜のクロミック特性を利用したクロミック素子でありうる。例えば、酸化タングステンや酸化モリブデン、酸化チタン、酸化クロム、酸化コバルト、酸化ニッケルは、クロミック特性を有しうる。クロミック素子における外部からの作用は、電気的なもの(エレクトロクロミック)や、化学的なもの(ガスクロミック)などがある。
【0041】
光学膜を備える光学素子は、光学機器を構成する。光学機器は、光学膜を備える光学素子の他に、光学膜に対して用いられる光を発する光源を備えうる。特定の波長λを含む光を発する光源を備えた光学機器において、光学素子の光学膜の特性を波長λに合わせて調整する際に、水素の含有量Lで調整すればよい。
もちろん、光学膜に対して用いられる光は、光学機器の外部から照射される光であってもよい。
【0042】
光学素子における光学膜(遷移金属酸化物膜)は、基体上の光学構造体の全部または一部を構成する。遷移金属酸化物膜が、基体上の光学構造体の全部を構成する場合、基体上の光学構造体は、遷移金属酸化物膜の単層体である。基体上の光学構造体の一部を構成する場合、基体上の光学構造体は、複数の遷移金属酸化物膜を含む積層体である。典型的な光学構造体は、遷移金属酸化物膜と、別の光学膜とを積層した積層体である。遷移金属酸化物膜に積層される別の光学膜は、遷移金属酸化物膜よりも高屈折率であってもよいし、低屈折率であってもよい。遷移金属酸化物膜は比較的に高屈折率であるから、遷移金属酸化物膜を高屈折率膜として用い、遷移金属酸化物膜に積層される別の光学膜は、遷移金属酸化物膜よりも低屈折率な低屈折率膜であることが望ましい。遷移金属酸化物膜に積層される別の光学膜は、典型元素の酸化物膜でありうる。本実施形態において、遷移金属酸化物膜の屈折率を遷移金属酸化物膜の水素含有量で調整することができる。
【0043】
実施形態の遷移金属酸化物膜は、複数の遷移金属酸化物膜と、別の光学膜とを交互に積層した光学構造体に好適である。交互とは、ここで、第1種類の膜と第2種類の膜が交互に積層していることは、2つの第1種類の膜の間に少なくとも1つの第2種類の膜が位置しており、かつ、2つの第2種類の膜の間に少なくとも1つの第1種類の膜が位置している状態を意味する。従って、第1種類の膜と第2種類の膜が交互に積層されているためには、少なくとも4層の膜が必要である。複数の遷移金属酸化物膜と、別の光学膜とを交互に積層した光学構造体における、複数の遷移金属酸化物膜の層数は、2以上であるが、3以上であってもよく、10以上でも、20以上でも、30以上でも、40以上であってもよい。光学構造体における遷移金属酸化物膜の層数が多ければ多いほど、光学構造体における遷移金属酸化物膜の光学特性を水素含有量で制御することの効果は大きくなる。
【0044】
遷移金属酸化物膜に接する膜は、酸化物膜やフッ化物膜などが用いられるが、遷移金属酸化物膜との密着性を考慮して酸化物膜であることが好ましい。遷移金属酸化物膜が第1の酸化物膜と第2の酸化物膜の間に配されて、遷移金属酸化物膜の下面が第1の酸化物膜に接し、遷移金属酸化物膜の上面が第2の酸化物膜に接する構造は、遷移金属酸化物膜の密着性、安定性が高いので好ましい。遷移金属酸化物膜に接する酸化物膜としては、酸化シリコン膜や酸化アルミニウム膜、酸化マグネシウム膜、酸化亜鉛膜などの典型元素の酸化物膜が挙げられる。つまり、遷移元素の酸化物膜と、典型元素の酸化物膜とを交互に積層した構造体において、遷移元素の酸化物膜の特性を水素の含有量で調整することができる。
【0045】
非晶質の遷移金属酸化物を主成分として含み、水素の含有量が1.0at%以上であり、遷移金属の含有量と、酸素の含有量と、水素の含有量と、アルゴンの含有量と、の和が99.0%より大きい膜は、不純物が少ないため、光学膜だけでなく、電気的に使用するための絶縁膜としても好適である。
【0046】
電気素子においては、電極である第1部分と、半導体層または電極である第2部分と、非晶質の遷移金属酸化物膜と、を備えうる。電極である第1部分と半導体層または電極である第2部分とを絶縁するために、電極である第1部分と半導体層または電極である第2部分との間に、非晶質の遷移金属酸化物膜が配置されうる。電気素子がトランジスタであれば、第1部分がゲート電極であり、非晶質の遷移金属酸化物膜がゲート絶縁膜であり、第2部分が半導体層であるうる。電気素子はMOS(Metal-Oxide-Semiconductor)構造の容量やMOM(Metal-Oxide-Metal)構造の容量であってもよい。
【0047】
1.0at%以上の多量の水素を含有した遷移金属酸化物膜を成膜するには、反応性スパッタリング法が有用である。酸素ガスと水素ガスとアルゴンガスとを含有する雰囲気でプラズマを生成し、遷移金属ターゲットに対してアルゴンによるスパッタリングを行い、スパッタされた金属と酸素と水素とを反応させて、水素を含有する遷移金属酸化物膜を成膜することができる。この時、遷移金属酸化物膜の結晶性は、酸素ガスの量で制御することができうる。例えば、酸素ガスの量を大きくすると結晶化しやすく、酸素ガスの量を小さくすると非晶質化しやすい。この他、遷移金属酸化物膜の結晶性は、成膜時のスパッタ電力、雰囲気の圧力、基体温度、ターゲットと基体との位置関係などでも制御することができる。例えば、より高いスパッタ電力で成膜を行ったり、より低い雰囲気圧力で成膜を行ったりすることが、非晶質化しやすい。また、基体の成膜面に垂直な方向におけるターゲットと基体との距離をより大きくしたり、基体の成膜面に水平は方向においてターゲットと基体をずらしたりすることも、非晶質化しやすい。ただし、上述した、非晶質化に有利な条件のいずれかを満たしたとしても、他のパラメータの程度によっては結晶化する場合もあるので、非晶質化のためには適切な条件設定が必要である。遷移金属酸化物膜における水素の含有量は、水素ガスの量で制御することができる。例えば、水素ガスの量を少なくすると水素の含有量は小さくなり、水素ガスの量を多くすると水素の含有量は大きくなる。不純物Aは成膜雰囲気のガス、例えばアルゴンに由来し、不純物Bはターゲット中の不純物に由来しうる。他の不純物は、成膜装置に含まれる金属元素や、スパッタターゲットに付着したり成膜ガスに混入した炭素や窒素、フッ素であったりしうる。このような不純物を極力少なくすすることで、高品質な膜を得ることができる。
【0048】
以下、実施形態1、2として、遷移金属酸化物として酸化ハフニウムを用いた形態を説明する。酸化ハフニウムは、屈折率や誘電率が高いという特徴を有するため、光学素子や半導体素子の分野での応用が検討されている。
【0049】
光学素子の分野では、レンズやフィルタ等の光学部材に、酸化ハフニウムを含む膜を光学膜としてコーティングすることが試みられている。光学機器に高度な性能が求められるにしたがって、機器内で使用される光学素子の点数が多くなり、光学膜をコーティングする必要がある光学面の数も増える傾向にある。また、コーティングされる光学膜は単層で構成されるとは限らず、多層で構成される場合もあるので、設けられる層の総数は増える傾向になる。
【0050】
こうした中で、例えばi線やh線といった紫外領域の波長を取扱う露光装置(半導体製造装置)の光学面には、高屈折率材料として、紫外領域でバンドギャップによる吸収が発生しにくい酸化ハフニウムがコーティングされ得る。
光学素子の分野では、酸化ハフニウムを含む膜であって、高い屈折率と低い光吸収をバランスよく達成し、高い性能を有する光学膜の実現が望まれていた。
【0051】
半導体素子の分野では、酸化ハフニウムを含む膜であって、高い誘電率と低リーク電流をバランスよく達成し、高い性能を有するゲート絶縁膜の実現が望まれていた。
そこで実施形態1、2の1つの観点は、酸化ハフニウムを含む膜において、高い性能を実現する上で有利な技術を提供することを目的とする。
本実施形態1、2の1つの態様は、非晶質の酸化ハフニウムを主成分として含み、水素の含有量が1.0at%以上である膜である。
【0052】
実施形態1、2によれば、酸化ハフニウムを含む膜において、高い屈折率と低吸収をバランスよく達成したり、高い誘電率と低リーク電流をバランスよく達成したりして、高い性能を実現する上で有利な技術を提供できる。
図面を参照して、本発明の実施形態である、酸化ハフニウム含有膜、および当該膜を備えた装置、等について説明する。
【0053】
[実施形態1]
(光学素子)
図1に示すのは、本実施形態にかかる光学素子の模式的な断面図である。光学素子100は、基体101と、基体101上に形成された光学構造体102とを備えている。光学構造体102は、高屈折率材料により形成された高屈折率層102aと、低屈折率材料により形成された低屈折率層102bとが交互に積層されたものである。光学構造体102を多層膜と呼ぶこともできる。ここで、第1種類の層と第2種類の層が交互に積層していることは、2つの第1種類の層の間に少なくとも1つの第2種類の層が位置しており、かつ、2つの第2種類の層の間に少なくとも1つの第1種類の層が位置している状態を意味する。従って、第1種類の層と第2種類の層が交互に積層されているためには、少なくとも4層が必要である。
【0054】
基体101は、フッ化カルシウム結晶、石英ガラス、BK7(ボロシリケートクラウンガラス)等の光学ガラス、樹脂、金属などの材料で構成することができる。また、基体101は、平面形状や、曲面を有する形状など、光学素子の用途や種類(例えば、レンズ、ミラー、フィルタ、プリズム等)に応じて様々な形状のものを用いることができる。
【0055】
高屈折率層102aの主成分として用いられる材料は、水素を含有した非晶質の酸化ハフニウム(HfO)であり、詳しくは後述する。尚、以後の説明では、酸化ハフニウム(HfO)を主成分とする膜を、酸化ハフニウム膜と記載する場合がある。なお、酸化ハフニウムを主成分とする膜、ということは、酸化ハフニウム膜中におけるハフニウム含有量J(at%)と酸素含有量K(at%)との和が、酸化ハフニウム膜中に含まれるハフニウムおよび酸素以外の元素の各々の含有量L(at%)、M(at%)、N(at%)よりも多いこと(J+K>L、J+K>M、J+K>N)を意味する。酸化ハフニウム膜においてJ+Kは100at%以下であるが、後述するように、本実施形態の酸化ハフニウム膜は、ハフニウムと酸素以外の元素(例えば水素)を含んでいることから、J+Kは100at%未満となる。化学量論的組成HfOから、典型的にはJ<K<3×Jである。ハフニウム含有量Jは例えば20~50at%であり、酸素含有量Kは例えば50~80at%である。酸化ハフニウム膜中におけるハフニウム含有量J(at%)と酸素含有量K(at%)との和が、酸化ハフニウム膜中に含まれるハフニウムおよび酸素以外の全ての元素の含有量L(at%)、M(at%)、N(at%)の和よりも多いこと(J+K>L+M+N)が好ましい。この場合、J+Kは50at%より大きいことになる。ここでは、ハフニウムおよび酸素以外の全ての元素を3種類の場合で例示したが、ハフニウムおよび酸素以外の全ての元素は、1種類でも、2種類でも、4種類以上でもよい。
【0056】
低屈折率層102bに用いられる材料は、例えば酸化シリコンや酸化アルミニウムを主成分として含有する材料が挙げられるが、これに限られるものではない。例えば、MgF、CaF、LaF、CeF、YFなどを用いてもよい。
【0057】
光学構造体102は、図1に示すように、基体101側から順に高屈折率層102aと低屈折率層102bが交互に積層し、最表層が低屈折率層102bとなる構成である。ただし、光学素子の用途に応じて、構成を変更しても構わない。例えば、基体101側から順に低屈折率層102bと高屈折率層102aとが交互に積層し、最表層が低屈折率層102bとなる構成でもよい。また、最も表側の低屈折率層102bの上に保護層を設けて最表層としてもよいし、高屈折率層102aと低屈折率層102bの間に中間的な屈折率材料から成る中間屈折率層を挟んでもよいし、基体101との光学構造体102の間に密着層を設けてもよい。なお、光学構造体102が、低屈折率層102bと高屈折率層102aとが交互に積層した交互積層構造を有することは必須ではない。高屈折率層102aと低屈折率層102bとを含む複層構造を有することも必須ではなく、高屈折率層102aの1層のみの単層構造を有していてもよい。
【0058】
(製造方法)
水素を含有した非晶質の酸化ハフニウム膜(高屈折率層)を備える本実施形態に係る光学素子(光学部品)の製造方法について説明する。尚、低屈折率層102bの形成については、公知の成膜方法を用いることができるので、説明を省略する。
【0059】
図2は、光学素子の製造に使用したスパッタリング成膜装置200の模式図である。スパッタリング成膜装置200は、気密容器としての真空チャンバ201と、真空チャンバ201内を排気するための排気系202を有している。また、成膜に必要なガスを真空チャンバ201内に導入できるように、アルゴンガス導入ポート204、酸素ガス導入ポート205、水素ガス導入ポート206を備えている。さらに、真空チャンバ201に付帯して、スパッタリングターゲット210、バッキングプレート211、磁石機構207、基体保持機構208が設けられている。基体保持機構208に光学素子の基体101を保持させ、電源203から電力を印加することで、反応性スパッタリング法により成膜を実施することができる。
【0060】
水素を含有した非晶質の酸化ハフニウム膜(高屈折率層)を形成するには、下記の手順にて反応性スパッタリング法により成膜を行う。例えば、所定の光学素子の形状に加工された石英ガラスよりなる基体101と、例えば8inchの金属ハフニウム(純度99.9wt%以上)をスパッタリングターゲット210として、真空チャンバ201内にセットする。このとき、基体101とスパッタリングターゲット210の間の距離は、例えば125mmとする。そして、排気系202を用いて、圧力が5×10-5Pa程度の真空度になるまで、真空チャンバ201内を排気する。そして、アルゴンガス導入ポート204からアルゴンガスを、酸素ガス導入ポート205から酸素ガスを、水素ガス導入ポート206から水素ガスを導入しながらプラズマ放電を行う。すなわち、電源203からスパッタリングターゲット210に50W/cmの電力を印加してプラズマ放電を生成し、例えば直径30mm×厚さ1mmの基体101上に、水素を含有した非晶質の酸化ハフニウムを100nm程度の厚さで成膜する。尚、各層の厚さは必ずしも100nm程度に限られるわけではなく、当該光学素子で取り扱う光の波長や、光学構造体を構成する層数により適宜設定される。光学素子における酸化ハフニウム膜の厚さは、例えば10~1000nmであり、例えば10~100nmである。厚さ100nmの酸化ハフニウム層を、間に他の層を介さずに積層して1000nmの酸化ハフニウム膜としてもよい。以下に、具体的な実施例と比較例を挙げて説明する。
【0061】
[実施例1-実施例4]、[比較例1-比較例2]
光学構造体に用いられる高屈折率層について、実施例1-実施例4、および比較例1-比較例2を挙げて説明する。実施例1-実施例4および比較例2に係る高屈折率層は、酸素ガス導入ポート205から20sccmの流量で酸素ガスを導入しながら成膜した。また、比較例1に係る高屈折率層は、酸素ガス導入ポート205から60sccmの流量で酸素ガスを導入しながら成膜した。その際、いずれの実施例および比較例も、アルゴンガス導入ポート204から60sccmの流量でアルゴンガスを導入して成膜した。また、実施例1では水素ガス導入ポート206から流量30sccmで水素ガスを導入しながらプラズマ放電を行った。他の実施例および比較例では、実施例1とは水素ガスの流量を変えて、後述するように膜中に含有される水素の量を調整した。尚、上述した条件は一例であり、成膜装置の構造等により変更可能である。一般に、チャンバーに導入する酸素流量を大きくすると膜質は非晶質から結晶質に向かう傾向があり、水素流量を大きくすると膜に含有される水素量が増大する傾向がある。導入する酸素流量を大きくすると、酸素の負イオンがチャンバー内に多く生成され、基板上に投入されるエネルギが増大するため結晶化が促進するものと推定される。
【0062】
各実施例と各比較例の酸化ハフニウム膜(単膜)について、結晶性、水素含有量、光吸収率、屈折率を評価した。
【0063】
結晶性の評価は、X線回折分析を用いて行った。以後の説明では、非晶質(あるいはアモルファス)とは、測定対象の膜に0.5度程度の小さな入射角でX線を照射して回折パターンを観測した際に、明瞭な回折ピークが検出されないこと、言い換えればハローパターンが観測されることをいう。したがって、ここでいう非晶質とは、微結晶状態の材料が含有されている状態を必ずしも除外するものではない。例えば、図7に実施例1の酸化ハフニウム膜のX線回折パターン(入射角0.4度)を示すが、ハローパターンのみが観測され、明瞭な結晶ピークは見られないので、実施例1の膜質は非晶質であると判定できる。また、例えば図8に比較例1の酸化ハフニウム膜のX線回折パターン(入射角0.4度)を示すが、結晶による明瞭なピークが観測されるので、比較例1の膜は結晶質であると判定できる。同様の判断基準で、他の実施例および比較例についても結晶性を評価した。
【0064】
また、膜中の水素含有量の評価は、酸化ハフニウム膜に、例えばMeVオーダーの高エネルギイオンビームを照射し、弾性反跳検出分析(ERDA:Elastic Recoil Detection Analysis)の手法により行った。膜中の水素以外の材料についての評価は、MeVオーダーの高エネルギイオンビームを照射し、ラザフォード後方散乱スペクトロメトリ(RBS:Rutherford backscattering spectrometry)の手法により行った。これらの結果を用いて、酸化ハフニウム膜中に含まれる水素含有量at%を求めた。
【0065】
また、光吸収率と屈折率については、紫外可視近赤外分光光度計を用いて、波長が200nmから500nmの範囲について、光線入射角5度の場合の透過率と反射率を測定することにより評価した。
【0066】
光吸収率については、以下の数式により算出した。
A(%)=100-T(%)-R(%) ・・・(数式1)
ただし、A(%)は光吸収率、T(%)は透過率、R(%)は反射率を表す。
【0067】
屈折率については、測定した反射率について、Scientific Computing International社製の光学薄膜解析・設計ソフトFilmWizardTMを用いて解析することにより算出した。
【0068】
光吸収率と屈折率については、i線やh線といった紫外領域の波長を取扱う露光装置(半導体製造装置)用の光学素子としての適性を評価するため、波長が280nmの光を基準として評価した。もちろん、これとは異なる用途の光学素子である場合には、当該用途に適した波長を基準にして評価すればよい。光学素子に適した波長は、紫外領域の波長に限らず、可視光領域の波長でもよいし、赤外領域の波長であってもよい。
実施例1-実施例4、および比較例1-比較例2についての評価結果を、表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
実施例1の酸化ハフニウム膜の結晶性は非晶質であり、酸化ハフニウム膜中の水素含有量は6.5at%であった。また、実施例1の酸化ハフニウム膜の波長280nmにおける光吸収率は0.08%、波長280nmにおける屈折率は2.253であった。
【0071】
実施例2の酸化ハフニウム膜の結晶性は非晶質であり、酸化ハフニウム膜中の水素含有量は15.8at%であった。また、実施例2の酸化ハフニウム膜の波長280nmにおける光吸収率は0.04%、波長280nmにおける屈折率は2.225であった。
【0072】
実施例3の酸化ハフニウム膜の結晶性は非晶質であり、酸化ハフニウム膜中の水素含有量は1.0at%であった。また、実施例3の酸化ハフニウム膜の波長280nmにおける光吸収率は0.77%、波長280nmにおける屈折率は2.260であった。
【0073】
実施例1と実施例3の間の成膜条件とした他の実施例の酸化ハフニウム膜の結晶性は非晶質であり、酸化ハフニウム中の水素含有量は3.8at%であり、波長280nmにおける光吸収率は0.61%、波長280nmにおける屈折率は2.252であった。
【0074】
実施例4の酸化ハフニウム膜の結晶性は非晶質であり、酸化ハフニウム膜中の水素含有量は17.0at%であった。また、実施例4の酸化ハフニウム膜の波長280nmにおける光吸収率は0.06%、波長280nmにおける屈折率は2.031であった。
【0075】
比較例1の酸化ハフニウム膜の結晶性は結晶質であり、酸化ハフニウム膜中の水素含有量は0at%であった。また、比較例1の酸化ハフニウム膜の波長280nmにおける光吸収率は3.43%、波長280nmにおける屈折率は2.171であった。
【0076】
比較例2の酸化ハフニウム膜の結晶性は非晶質であり、酸化ハフニウム膜中の水素含有量は0at%であった。また、比較例2の酸化ハフニウム膜の波長280nmにおける光吸収率は0.80%、波長280nmにおける屈折率は2.262であった。
【0077】
比較例1よりも水素流量を多くした参考例の酸化ハフニウム膜の結晶性は結晶質であり、酸化ハフニウム膜中の水素含有量は7.5at%であった。また、参考例の酸化ハフニウム膜の波長280nmにおける光吸収率は0.53%、波長280nmにおける屈折率は2.205であった。
【0078】
実質的に水素を含有していない比較例1と比較例2とを比べると、非晶質である比較例2は、結晶質である比較例1よりも、屈折率が高くなり、光吸収率が低くなる。水素含有量が6~8at%である実施例1と参考例とを比べても、非晶質である実施例1は、結晶質である参考例よりも、屈折率が高くなり、光吸収率が低くなる。非晶質である比較例2よりも水素含有量を増やした実施例1~4は、比較例2よりも光吸収率が低くなる。結晶質である比較例1よりも水素含有量を増やした参考例は、比較例1よりも光吸収率が低くなり、屈折率が高くなる。光吸収率の第1の目安としては、1.0%未満であること、より好ましい第2の目安としては0.5%以下であること、さらに好ましい第3の目安としては、0.2%以下であること、が挙げられる。屈折率の第1の目安としては、2.10以上であること、より好ましい第2の目安としては2.15以上であること、さらに好ましい第3の目安としては、2.20以上であること、が挙げられる。実施例4から、水素含有量が17%を超えると、膜質が非晶質であっても屈折率が2.031にまで低下してしまうことが分かる。また、比較例1から、膜質が結晶質で実質的に水素を含有していない場合には、光吸収率が3.43%と大きくなってしまうことが分かる。
【0079】
このように、水素含有量による吸収率や屈折率の変化は、結晶質の膜よりも非晶質の膜において大きくなりうる。したがって、非晶質の膜において、水素含有量を1at%以上とすることで、吸収率や屈折率を有意に制御することができる。なお、水素含有量が1at%以上であるとは、実施例3のように水素含有量が1.0at%であるものを含み、水素含有量が1.0at%以上であることを含む。
【0080】
以上より、高い屈折率と低い光吸収をバランスよく両立した高性能の光学膜としては、1at%以上かつ16at%以下の範囲内で水素を含有した非晶質の酸化ハフニウム膜が適していることが分かる。中でも、6.5at%以上かつ15.8at%以下の範囲内で水素を含有した非晶質の酸化ハフニウム膜は、2.22以上の高い屈折率と0.1%未満(0.08%以下)の極めて低い光吸収を合わせて達成できるため、特に好ましい。尚、実施形態の酸化ハフニウム膜においては、酸化ハフニウム膜中に積極的にシリコンを添加する必要はなく、酸化ハフニウム膜中のシリコン含有量Oは水素含有量Lよりも小さいこと(O<L)が好ましい。上記実施例で説明した酸化ハフニウム膜中のシリコン含有量Oは、1at%未満であり、0.1at%以下であり、検出限界未満である。シリコンを添加した酸化ハフニウム膜の場合には、シリコンの添加により屈折率の低下が生じる場合が有り得るだけでなく、光吸収が必ずしも十分に低減されるわけではない。例えば、1at%~10at%のシリコンが添加された酸化ハフニウム膜では、単膜あたりの透過損失を1%以下にできる可能性はある。しかし、例えば40面に被覆した場合には、累積では10%以上の損失が生じる場合もあり、光学性能として必ずしも十分ではない。実施形態の酸化ハフニウム膜においては、酸化ハフニウム膜中に積極的に炭素を添加する必要はなく、酸化ハフニウム膜中の炭素含有量Pは水素含有量Lよりも小さいこと(P<L)が好ましい。上記実施例で説明した酸化ハフニウム膜中の炭素含有量Pは、1at%未満であり、0.1at%以下であり、検出限界未満である。実施形態の酸化ハフニウム膜においては、酸化ハフニウム膜中に積極的に窒素を添加する必要はなく、酸化ハフニウム膜中の窒素含有量Qは水素含有量Lよりも小さいこと(Q<L)が好ましい。上記実施例で説明した酸化ハフニウム膜中の窒素含有量Qは、1at%未満であり、0.1at%以下であり、検出限界未満である。
【0081】
また、実施形態の酸化ハフニウム膜においては、ハフニウムと酸素と水素以外の元素を含有していてもよい。例えば、上記実施例で説明した酸化ハフニウム膜はアルゴンを含有しうる。このアルゴンは、成膜時にアルゴンガス導入ポート204から導入したアルゴンガスに起因する。酸化ハフニウム膜中のアルゴン含有量Mは水素含有量Lよりも小さいこと(M<L)が好ましい。酸化ハフニウム膜中のアルゴン含有量Mは、例えば0.5~5at%である。また、上記実施例で説明した酸化ハフニウム膜はジルコニウムを含有しうる。このジルコニウムは、成膜時に用いたスパッタリングターゲット210に由来する。ジルコニウム含有量Nは水素含有量Lよりも小さいこと(N<L)が好ましい。酸化ハフニウム膜中のジルコニウム含有量Nは、例えば0.05~0.5at%である。ジルコニウム含有量Nはアルゴン含有量Mよりも小さいこと(N<M)も好ましい。酸化ハフニウム膜中のシリコン含有量Oはアルゴン含有量Mよりも小さいこと(O<M)が好ましい。酸化ハフニウム膜中のシリコン含有量Oはジルコニウム含有量Nよりも小さいこと(O<N)が好ましい。本実施形態は、アルゴンやジルコニウムを含有していながらも、高い屈折率と少なく光吸収を実現できる。上述した実施例1~4および比較例1,2の酸化ハフニウム膜において、ハフニウム、酸素、水素、アルゴンおよびジルコニウム以外の元素は検出限界未満である。実施例1~4におけるジルコニウム含有量Nは、0.2~0.3at%の範囲内である。従って、ハフニウム含有量Jと、酸素含有量Kと、水素含有量Lと、アルゴン含有量Mと、の和(J+K+L+M)は99.7~99.8at%の範囲内である。実施例1~4において、ハフニウム含有量Jは25~33at%の範囲内であり、酸素含有量Kは50~66at%の範囲内であり、アルゴン含有量Mは1~2at%の範囲内である。ハフニウム含有量Mに対する酸素含有量Kの比(K/M)は、2.00より大きく2.10より小さい(2.00<K/M<2.10)。水素含有量Lが2at%を超える実施例1、2、4では、水素含有量Lがアルゴン含有量Mよりも大きい(L>M)。
【0082】
参考のため、図3に、水素含有量に対する光吸収率特性を表したグラフを示し、図4に、水素含有量に対する屈折率特性を表したグラフを示す。また、図5に、実施例1と実施例3の光吸収の波長依存性を示し、図6に、実施例1と実施例4の屈折率の波長依存性を示す。
【0083】
図3からは、非晶質状態の酸化ハフニウム中の水素含有量が5at%以上になるときの吸収率は、水素含有量が0at%の時の吸収率の半分以下にすることができると推測される。図3に示すように、非晶質状態の酸化ハフニウム中の水素含有量が6at%以上になるとき、吸収率が0.1%以下と十分に低くなる。図5に示すように、特に実施例1では波長400nm以下の領域で顕著に吸収率が低下している。かつ、図4に示すように、水素含有量が16at%以下の範囲では、高い屈折率を維持できる。発明者らは、水素を含有する酸化ハフニウムは、酸化ハフニウムに生じた酸素欠陥を水素が埋めるモデルを推測している。水素含有量が0at%である酸化ハフニウムを化学量論的組成であるHfOとして仮定すると、水素を含有する酸化ハフニウムはHfO2-Xでモデル化できる。このモデルからシミュレーションにより算出される水素濃度は、水素含有量が1at%であれば、1×1021atoms/cm程度、水素含有量が5at%であれば、5×1021atoms/cm程度である。また、水素含有量が6at%であれば、6×1021atoms/cm程度、水素含有量が10at%であれば、1×1022atoms/cm程度、水素含有量が16at%であれば、1.6×1022atoms/cm程度である。水素含有量が20at%であれば、2×1022atoms/cm程度である。本実施形態の酸化ハフニウム膜の水素濃度は、1×1021atoms/cm以上かつ2×1022atoms/cm以下の範囲内でありうる。atoms/cmで示されたこの水素濃度の範囲内において、適当な水素含有量(at%)を満たすことが望ましい。さらに、本実施形態の酸化ハフニウム膜の水素濃度は、5×1021atoms/cm以上でありうるし、6×1021atoms/cm以上でありうるし、1.6×1022atoms/cm以下でありうる。しかし、アルゴンやジルコニウムなどの不純物の量や、酸化ハフニウム膜のパッキング密度によっては、水素濃度が1×1021atoms/cm未満の範囲で1~16at%や6~16at%の水素含有量を満たしてもよいし、水素濃度が1×1021atoms/cmを超える範囲で1~16at%や6~16at%の水素含有量を満たしてもよい。水素濃度が2×1022atoms/cmを超える範囲で1~16at%や6~16at%の水素含有量を満たしてもよい。
【0084】
酸化ハフニウム中に水素を含有することで光吸収率が改善した理由については、光吸収を悪化させる主要因となる格子欠陥が水素で修復されたためであると推測している。また、水素含有量が16at%を超えた場合に急激な屈折率低下が生じた理由は定かではないが、酸化ハフニウムの格子欠陥内だけではなく格子間にまで水素が入り込み、酸化ハフニウムとしてのパッキングが悪化したためではないかと推測している。さらに、結晶化した酸化ハフニウムの光吸収が、水素が含有されていても改善しきらない理由については、バンドギャップ内に結晶由来の準位を形成し、それが新たな光吸収を引き起こしているためではないかと推測している。
【0085】
[実施例5]、[実施例6]
透過型光学素子の表面に、光学構造体(反射防止構造)を作成した具体例を説明する。実施例5として、実施例1として説明した水素を6.5at%含有した非晶質の酸化ハフニウム膜(高屈折率層)と低屈折率膜を交互に積層した光学構造体(反射防止構造)を作成した。また、実施例6として、実施例4として説明した水素を17.0at%含有した非晶質の酸化ハフニウム膜(高屈折率層)と低屈折率膜を交互に積層した光学構造体(反射防止構造)を作成した。
【0086】
図9は、実施例5および実施例6の層構成を示す断面図である。光学素子900では、基体である石英基板901上に、高屈折率材料より成る高屈折率層902aと、低屈折率材料より成る低屈折率層902bが交互に合計で4層積み重ねられ、光学構造体902を構成している。低屈折率層902bは、酸化シリコンを用いて形成した。光学素子900の使用目的に鑑みて、波長280nmから400nmの範囲における反射防止特性を最大化するため、実施例1および実施例4の波長280nmにおける屈折率値に基づいて、各層の物理膜厚を最適化して光学構造体の構成を決定した。
実施例5における各層の諸元を表2に示す。
【0087】
【表2】
実施例6における各層の諸元を表3に示す。
【0088】
【表3】
【0089】
図10に、実施例5および実施例6の光学構造体(反射防止構造)の反射率特性を示す。波長280nmから400nmの範囲において、水素含有6.5at%の屈折率の高い非晶質膜を用いた実施例5の方が、水素含有17.0at%の非晶質膜を用いた実施例6よりも低い反射率を得ることができている。この波長範囲での平均反射率は、実施例5で0.10%、実施例6で0.33%となった。また、実施例5の場合には、波長290nmから385nmの範囲においては、どの波長においても反射率0.25%以下であり、非常に良好な反射防止特性を得ることができる。
【0090】
[実施例7]、[実施例8]
反射型光学素子の表面に、光学構造体(反射構造)を作成した具体例を説明する。実施例7として、実施例1として説明した水素を6.5at%含有した非晶質の酸化ハフニウム膜(高屈折率層)と低屈折率層を交互に積層した光学構造体(反射構造)を作成した。また、実施例8として、実施例4として説明した水素を17.0at%含有した非晶質の酸化ハフニウム膜(高屈折率層)と低屈折率層を交互に積層した光学構造体(反射構造)を作成した。
【0091】
図11は、実施例7と実施例8の層構成を示す断面図であるが、実施例5および実施例6の反射防止構造の場合とは層構成が異なっている。すなわち、反射型の光学素子1000の基体1001上に、低屈折率材料より成る低屈折率層1002bと、高屈折率材料より成る高屈折率層1002aとを交互に合計で5層積み重ね、光学構造体1002を構成している。本例の基体1001はアルミニウムであって、ガラス板にコートされた厚さ100nm程度のアルミニウム膜であるが、基体1001のアルミニウムは、アルミニウム板でもよい。低屈折率層1002bは、酸化シリコンを用いて形成した。光学素子1000の使用目的に鑑みて、波長280nmから400nmの範囲における反射率を最大化するため、実施例1および実施例4の波長280nmにおける屈折率値に基づいて、各層の物理膜厚を最適化して光学構造体の構成を決定した。
【0092】
実施例7における各層の諸元を表4に示す。
【表4】
【0093】
実施例8における各層の諸元を表5に示す。
【表5】
【0094】
図12に、実施例7および実施例8の光学構造体(反射構造)の反射率特性を示す。波長280nmから400nmの範囲において、水素含有6.5at%の屈折率の高い非晶質膜を用いた実施例7の方が、水素含有17.0at%の非晶質膜を用いた実施例8よりも高い反射率を得ることができている。この波長範囲での平均反射率は、実施例7は93.9%、実施例8は91.8%であった。また、実施例7の場合には、波長290nmから380nmにおいては、どの波長においても反射率93%以上であり、非常に良好な反射特性を得ることができる。
【0095】
[実施例9]、[実施例10]
露光装置(半導体製造装置)が備えるレンズ群の少なくとも1つのレンズに、光学構造体(反射防止構造)をコーティングした具体例を説明する。実施例9として、露光装置が備える20個のレンズの両面(合計40面)に、実施例5として説明した光学構造体(反射防止構造)をコーティングしたレンズ群を作成した。すなわち、各レンズの表面には、水素を6.5at%含有した非晶質の酸化ハフニウム膜(高屈折率層)と低屈折率層を交互に積層した光学構造体(反射防止構造)を形成した。また、実施例10として、20個のレンズの両面(合計40面)に、実施例6として説明した光学構造体(反射防止構造)をコーティングしたレンズ群を作成した。すなわち、各レンズの表面には、水素を17.0at%含有した非晶質の酸化ハフニウム膜(高屈折率層)と低屈折率層を交互に積層した光学構造体(反射防止構造)を形成した。
【0096】
実施例9と実施例10について、紫外光源を備えた露光装置用のレンズとしての適性を評価するため、280nmの紫外光を用いて透過損失を測定した。表6に結果を示す。紫外光源を備えた露光装置用のレンズでは、紫外光源で生成された紫外光がレンズの酸化ハフニウム膜に照射されるため、同様にして紫外光を酸化ハフニウム膜に照射した。赤外光や可視光の光源を有する場合であっても、同様にして、酸化ハフニウム膜に照射される光で光学素子としての適性を評価すればよい。
【0097】
【表6】
【0098】
実施例9のレンズ群では、各面で低光吸収率と低反射率を両立できており、透過損失を極めて小さくすることができるため、レンズ40面でも透過損失を10%以下に抑制することができる。一方、実施例10では、実施例9に比べて反射率が著しく増加するため、レンズ40面の透過損失は10%以上に及んでしまう。なお、実施例10の反射率が実施例9に比べて悪化した理由は、酸化ハフニウム層の屈折率が低いことが原因であると考えられる。
【0099】
実施例9のレンズ群は、例えば露光装置の照明系レンズ群や投影系レンズ群に用いることで、露光装置の露光強度を大きくする効果がある。このため、露光時間を短縮することができ、露光装置の処理能力を向上することが可能となる。
【0100】
[実施形態2]
実施形態2は、1at%以上かつ16at%以下の範囲内で水素を含有した非晶質の酸化ハフニウム膜を、半導体素子において実施する形態である。
【0101】
実施例11と実施例12は、トランジスタのゲート絶縁膜(high-kゲート絶縁膜)として、前述した酸化ハフニウム膜を用いる。高誘電率材料膜としての酸化ハフニウム膜は、実施形態1と同様の装置を用いて同様の方法で形成することができるが、膜厚はゲート絶縁膜として適した厚さに設定される。屈折率と誘電率の関係については、電子分極とイオン分極を区別して考えることができ、誘電率は電子分極とイオン分極の両方を考慮した値になりうる。屈折率から算出できる誘電率は電子分極としての誘電率で、電子分極要因の誘電率εは屈折率nと相関がある(ε=n)。屈折率が高いことは、電子分極要因で誘電率が高いことを意味しうる。酸化ハフニウムはイオン結合性の材料なので、電界がかかる環境下で使用する場合、電子分極に加えイオン分極も発生する。ゲート絶縁膜として酸化ハフニウムを使用する場合、両者の分極を考慮して誘電率を評価する必要がある。しかし、酸化ハフニウムの水素含有量を1~16at%とすれば、少なくとも電子分極要因によって誘電率が下がることは抑制できる。なお、酸化ハフニウム膜にシリコンを拡散させてシリコン含有膜を形成した場合は、結晶化が発生する割合を低減できる可能性があるとしても、シリコンを含有させることにより、誘電率が低下してしまう可能性がある。
また、実施例13では、撮像素子の受光面側に、反射防止構造として、前述した酸化ハフニウム膜を設けることができる。
【0102】
[実施例11]
図13は、MOSトランジスタを備えた半導体素子に係る実施例を説明するための模式的な断面図である。半導体素子130は、n型単結晶シリコンなどの半導体層133に形成されたnチャネルMOSFET131aとpチャネルMOSFET131bとを備えている。nチャネルMOSFET131aとpチャネルMOSFET131bが相補型の回路(CMOS回路)を構成している。nチャネルMOSFET131aのゲート絶縁膜132aと、pチャネルMOSFET131bのゲート絶縁膜132bには、1at%以上かつ16at%以下の範囲内で水素を含有した非晶質の酸化ハフニウム膜が用いられている。MOSトランジスタのゲート絶縁膜132a、132bの厚さは典型的には1~10nmである。非晶質で所定量の水素を含有するため、結晶粒界が極めて少なく、しかも高い誘電率を達成することが可能である。このため、係るゲート絶縁膜132aおよびゲート絶縁膜132bを備える本実施形態のMOSトランジスタによれば、リーク電流を大幅に低減することが可能である。
【0103】
尚、1at%以上かつ16at%以下の範囲内で水素を含有した非晶質の酸化ハフニウム膜をMOSFETのゲート絶縁膜に適用するのは、図13の例に限られるわけではない。例えば、p型単結晶シリコンなどの半導体層に形成されたMOSトランジスタのゲート絶縁膜でもよいし、相補型ではなく単体のnチャネルMOSFETあるいはpチャネルMOSFETのゲート絶縁膜に用いても、リーク電流を大幅に低減することが可能である。
【0104】
[実施例12]
図14は、薄膜トランジスタを備えた半導体素子に係る実施例を説明するための模式的な断面図である。半導体素子140は、ガラス基板141に形成された薄膜トランジスタを備えている。薄膜トランジスタは、低温ポリシリコンなどの半導体層143、ソース電極144、ドレイン電極145、ゲート電極146、ゲート絶縁膜142、保護膜147を備えている。ゲート絶縁膜142には、1at%以上かつ16at%以下の範囲内で水素を含有した非晶質の酸化ハフニウム膜が用いられている。薄膜トランジスタのゲート絶縁膜142の厚さは典型的には50~500nmである。非晶質で所定量の水素を含有するため、結晶粒界が極めて少なく、しかも高い誘電率を達成することが可能なため、ゲート絶縁膜142を備える本実施形態の薄膜トランジスタによれば、リーク電流を大幅に低減することが可能である。液晶ディスプレイや有機ELディスプレイは、薄膜トランジスタを有する半導体素子である。液晶ディスプレイや有機ELディスプレイの薄膜トランジスタのゲート絶縁膜として、実施形態2に係る高誘電率膜をゲート絶縁膜として用いることができる。
【0105】
尚、1at%以上かつ16at%以下の範囲内で水素を含有した非晶質の酸化ハフニウム膜を薄膜トランジスタのゲート絶縁膜に適用するのは、図14の例に限られるわけではない。例えば、チャネル部分を構成する半導体層は低温ポリシリコン層に限らず、アモルファスシリコン層やIGZO等の酸化物半導体層により構成してもよく、基板はガラス基板には限られない。その場合でも、係るゲート絶縁膜を備える薄膜トランジスタにおいては、リーク電流を大幅に低減することが可能である。
【0106】
[実施例13]
実施形態1の光学構造体が設けられる基体は、電気光学構造を有していてもよい。電気光学構造は、電気信号を光信号に変えたり、光信号を電気信号に変えたりする構造を指す。図15は、裏面照射型の撮像素子に係る実施例を説明するための模式的な部分断面図である。撮像素子は、光を扱うことから光学素子の一種であり、フォトダイオードやトランジスタを有することから半導体素子の一種でもある。裏面照射型の撮像素子150では、半導体基板151中に、各画素に対応するフォトダイオードPDが形成されている。半導体基板151は、フォトダイオードによって実現された、光信号を電気信号に変えるための電気光学構造を有する基体として機能する。フォトダイオードPDは、半導体基板151の厚さ方向に延在するn型領域152と、基板の表裏両面側にてn型領域152と接するp型領域153により形成されるpn接合を含んでいる。各画素のフォトダイオードPDは、p型の素子分離領域154により区画されている。半導体基板151の表側(図中の下側)には、素子分離領域154に接するp型半導体ウェル領域155が形成され、各画素に対応した画素トランジスタが設けられている。画素トランジスタは、ソース領域、ドレイン領域と、ゲート絶縁膜とゲート電極156により形成されている。さらに、表側には、層間絶縁膜157を介して、多層配線158が設けられている。
【0107】
一方、受光側である半導体基板151の裏側(図中の上側)には、電気的絶縁と反射防止の機能を有する反射防止構造160が形成されている。反射防止構造160は2層構成であり、半導体基板151側から順に、酸化シリコン膜161、酸化ハフニウム膜162が積層されている。酸化シリコン膜161には、実施例5と同様に屈折率1.506の膜が好適に用いられる。酸化ハフニウム膜162には、実施例5と同様に、非晶質で水素含有率が6.5at%の、屈折率2.253の酸化ハフニウム膜が好適に用いられる。
【0108】
反射防止構造160の上には、画素間の入射光のクロストークを防止するために、例えばアルミニウム製の遮光膜163が配置され、さらに樹脂製の平坦化膜164が設けられ、平坦な上面が提供されている。平坦化膜164の上には、例えばベイヤ配列のオンチップカラーフィルタ165と、オンチップマイクロレンズ166が形成されている。遮光膜163はアルミニウムやタングステンなどの金属からなり、固定電位が付与された電極としても機能しうる。反射防止構造160は、遮光膜163と半導体基板151(半導体層)を絶縁する絶縁膜としても機能する。
【0109】
本実施例では、1at%以上かつ16at%以下の範囲内で水素を含有した非晶質の酸化ハフニウム膜を、フォトダイオード上に設けることにより、高い反射防止性能と低い光吸収能を実現でき、高感度な撮像素子を実現することができる。
【0110】
尚、1at%以上かつ16at%以下の範囲内で水素を含有した非晶質の酸化ハフニウム膜を適用する撮像素子は、図15の例に限られるわけではなく、例えば裏面照射型以外の撮像素子、例えば表面照射型の撮像素子においても、反射防止構造として好適に用いることができる。表面照射型の撮像素子において、非晶質の酸化ハフニウム膜が、反射防止膜とゲート絶縁膜の両方を兼ねていてもよい。例えば、画素回路のトランジスタのゲート絶縁膜として非晶質の酸化ハフニウム膜を用い、この非晶質の酸化ハフニウム膜を、フォトダイオードの上にまで延在させて、反射防止膜として用いることができる。
【0111】
また、係る反射防止構造を備えた撮像素子を用いて、レンズ交換式カメラやレンズ一体式カメラをはじめとする種々のカメラや、スマートフォンや車載用のカメラモジュールを構成することができる。カメラモジュールにおいては、レンズや撮像素子の他に、レンズと撮像素子とを含む複数の光学部品を保持する保持部品(フレーム)を備えうる。もちろん、カメラモジュールのレンズに酸化ハフニウム膜をコーティングしてもよい。また、電気光学構造を有する基体を備えた光学素子は、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイであってもよい。カメラやスマートフォンのような電子機器においては、電気光学構造を有する基体を備えた光学素子の他に、電気光学構造を電気的に制御するためのコントローラを備えうる。また、光学素子が撮像素子であれば、電子機器は、撮像素子から出力された信号を処理するプロセッサを備えうる。また、光学素子が表示素子であれば、電子機器は、表示素子へ入力する信号を処理するプロセッサを備えうる。本実施形態を適用可能な電子機器は、スマートフォンやパーソナルコンピュータのような情報機器であってもよい。あるいは、電子機器は、プリンタや複写機のような事務機器、X線撮影装置や内視鏡などの医療機器、ロボットや半導体製造装置などの産業機器、車両や飛行機、船舶などの輸送機器であってもよい。
【0112】
[実施形態1、2の変形例]
なお、本発明は、以上説明した実施形態や実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で多くの変形が可能である。
【0113】
実施形態1に係る高屈折率膜は、レンズ、フィルタ、ミラー、プリズム、イメージセンサなどの撮像素子(撮像デバイス)、ディスプレイなどの表示素子(表示デバイス)をはじめとする光学素子のコーティングに広く適用可能である。さらに、光学素子を備える、露光装置、各種のカメラ、交換レンズなどの光学機器に用いることができる。これらの光学機器においては、酸化ハフニウム膜がコーティングされた光学素子を含む複数の光学部品の他に、複数の光学部品を保持する保持部品(鏡筒)を備えうる。実施形態1に係る高屈折率膜と、それよりも屈折率が小さな低屈折率膜とを積層すれば、高性能な反射防止構造あるいは反射構造を形成することができる。例えば、紫外光源を備えた露光装置において、レンズに実施形態1の反射防止構造を設ける、及び/またはミラーに実施形態1の反射構造を設けることにより、紫外光を用いた露光装置の露光性能を向上させることができる。
【0114】
実施形態2に係る高誘電率膜は、各種のトランジスタのゲート絶縁膜として広く適用可能であり、メモリ、プロセッサ、ロジックICをはじめとする各種の半導体素子(半導体デバイス)や、スマートフォンやパソコンをはじめとする各種の電子機器において実施することができる。本実施形態を適用可能な電子機器は、スマートフォンやパーソナルコンピュータのような情報機器、モデムやルーターなどの通信機器であってもよい。あるいは、電子機器は、プリンタや複写機のような事務機器、X線撮影装置や内視鏡などの医療機器、ロボットや半導体製造装置などの産業機器、車両や飛行機、船舶などの輸送機器であってもよい。
【0115】
以下、実施形態3,4として、遷移金属酸化物として酸化タンタルを用いた形態を説明する。酸化タンタルは、屈折率や誘電率が高いという特徴を有するため、光学素子や電気素子の分野での応用が検討されている。露光装置をはじめとする各種の光学機器においては、反射防止特性あるいは反射特性などの光学特性を向上するために、光学素子に光学膜をコーティングすることが行われている。容量素子や半導体素子などにおいては、容量電極やゲート電極を他から絶縁するための絶縁膜を用いることが行なわれている。
【0116】
光学素子の分野では、高い屈折率と低い光吸収をバランスよく達成し、高い性能を有する光学膜の実現が望まれていた。
電気素子の分野では、高い誘電率と低リーク電流をバランスよく達成し、高い性能を有する絶縁膜の実現が望まれていた。
【0117】
そこで本実施形態は、酸化タンタルを含む膜において、高い性能を実現する上で有利な技術を提供することを目的とする。実施形態3、4の一つの態様は、非晶質の酸化タンタルを主成分として含み、水素の含有量が1.0at%以上である膜である。
【0118】
本実施形態によれば、高い屈折率と低吸収をバランスよく達成したり、高い誘電率と低リーク電流をバランスよく達成したりして、高い性能を実現する上で有利な技術を提供できる。
【0119】
図面を参照して、本発明の実施形態として、水素を所定範囲内の量だけ含む酸化タンタル膜、および当該膜を備えた光学装置、等について説明する。尚、本明細書では、「膜」と「層」という用語を用いるが、これらは当該技術分野では厳密に区別することなく慣用的に用いられている用語であり、本明細書でも両者を厳密に区別しようとする意図があるわけではない。
【0120】
[実施形態3]
図16に示すのは、本実施形態にかかる光学素子の模式的な断面図である。光学素子100は、基体101と、基体101上に形成された光学構造体102とを備えている。光学構造体102は、高屈折率材料により形成された高屈折率層102aと、低屈折率材料により形成された低屈折率層102bとが交互に積層された多層膜と呼ぶことができる。ここで、第1種類の層と第2種類の層が交互に積層していることは、2つの第1種類の層の間に少なくとも1つの第2種類の層が位置しており、かつ、2つの第2種類の層の間に少なくとも1つの第1種類の層が位置している状態を意味する。従って、第1種類の層と第2種類の層を合計して少なくとも4層を備えた構成を示している。
【0121】
基体101は、フッ化カルシウム結晶、石英ガラス、BK7(ボロシリケートクラウンガラス)等の光学ガラス、樹脂、金属などの材料で構成することができる。また、基体101は、平面形状や、曲面を有する形状など、光学素子の用途や種類(例えば、レンズ、ミラー、フィルタ、プリズム等)に応じて様々な形状のものを用いることができる。
【0122】
高屈折率層102aの主成分として用いられる材料は、酸化タンタル(Ta)であり、後述するように、本実施形態の酸化タンタル(Ta)は、水素を所定範囲内の量だけ含有している。尚、以後の説明では、酸化タンタル(Ta)を主成分とする膜を、酸化タンタル膜と記載する場合がある。本実施形態では、酸化タンタル膜は光学膜であり、光学構造体102を構成する。酸化タンタルは、金属成分がタンタルである金属酸化物である。金属酸化物を主成分とする膜における金属成分(タンタル)の含有量をJ(at%)、酸素の含有量をK(at%)とする。ここで、酸化タンタルを主成分とする膜とは、例えば当該膜が酸化タンタル以外に2種類の元素を含むとした時に、各元素の含有量(atomic percentage)が以下の関係にあることをいう。すなわち、タンタル含有量J(at%)と酸素含有量K(at%)の和が、(タンタルおよび酸素)以外の各元素の含有量L(at%)、M(at%)よりも多いこと(J+K>L、J+K>M)を意味する。本実施形態の酸化タンタル膜は、所定範囲内の量の水素を必須的に含んでいることから、J+Kは100at%未満となる。化学量論的組成Taから、典型的には2×J<K<3×Jである。タンタル含有量Jは例えば15~35at%、典型的には20~30at%であり、酸素含有量Kは例えば50~75at%、典型的には60~70at%である。酸化タンタル膜中におけるタンタル含有量J(at%)と酸素含有量K(at%)との和が、酸化タンタル膜中に含まれる(タンタルおよび酸素)以外の全ての元素の含有量L(at%)、M(at%)の和よりも多いこと(J+K>L+M)が好ましい。この場合、J+Kは50at%より大きいことになる。上記説明では、(タンタルおよび酸素)以外に膜中に含まれている元素が2種類の場合を例示したが、2種類に限らず1種類でもよい。本実施形態の酸化タンタル膜において、前者の場合には2種類の元素とは水素とアルゴンであり、後者の場合には1種類の元素とは水素である。
【0123】
本実施形態の酸化タンタルを主成分とする膜において、タンタルおよび酸素の他に必須的に含有される元素は水素であり、任意的に含有され得る元素はアルゴンである。アルゴンの含有量は、例えば、0.5at%以上であってもよく、5.0at%以下であってもよく、3.0at%以下であってもよく、2.0at%以下であってもよく、例えば0.9at%以上かつ1.6at%以下の範囲で含有され得る。本実施形態の酸化タンタル膜を分析したところ、タンタル、酸素、水素、アルゴン以外の元素は検出限界以下であった。このため、本実施形態の酸化タンタルを主成分とする膜には、典型的には、これら4種以外の元素は実質的に含有されていないと言える。これら4種以外の元素で、酸化タンタル膜が含有しうる元素は、例えば典型元素では、ホウ素(B)、炭素(C)、窒素(N)、フッ素(F)、アルミニウム(Al)、シリコン(Si)、リン(P)、硫黄(S)、および、塩素(Cl)である。これら4種以外の元素で、酸化タンタル膜が含有しうる元素は、例えば遷移元素では、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、ニオブ(Nb)、タングステン(W)である。本実施形態の膜では、これら4種以外の元素のそれぞれの含有量が0.5at%未満、さらに、0.1at%以下であれば、これら4種以外の元素に起因した光吸収を十分に抑制することができる。これら4種以外の元素が検出限界以下ということは、これら4種以外の元素以外のそれぞれの含有量は0at%でありうる。
【0124】
低屈折率層102bに用いられる材料は、例えば酸化シリコンや酸化アルミニウムを主成分として含有する材料が挙げられるが、これに限られるものではない。例えば、MgF、CaF、LaF、CeF、YFなどを用いてもよい。
【0125】
光学構造体102は、図16に示すように、基体101側から順に高屈折率層102aと低屈折率層102bが交互に積層し、最表層が低屈折率層102bとなる構成である。ただし、光学素子の用途に応じて、構成を変更しても構わない。例えば、基体101側から順に低屈折率層102bと高屈折率層102aとが交互に積層し、最表層が低屈折率層102bとなる構成でもよい。また、最も表側の低屈折率層102bの上に保護層を設けて最表層としてもよいし、高屈折率層102aと低屈折率層102bの間に中間的な屈折率材料から成る中間屈折率層を挟んでもよい。あるいは、光学構造体102と基体101との間に密着層等の下地層を設けてもよい。なお、実施形態の光学構造体102は、図示のように低屈折率層102bと高屈折率層102aとが交互に積層した交互積層構造であることは必須ではない。高屈折率層102aと低屈折率層102bとを含む複層構造を有することも必須ではなく、高屈折率層102aの1層のみの単層構造を有していてもよい。
【0126】
水素を所定範囲内の量だけ含有した酸化タンタル膜(高屈折率層)を備える本実施形態の光学素子の製造方法について説明する。尚、低屈折率層102bの形成については、公知の成膜方法を用いることができるので、説明を省略する。
【0127】
図17は、光学素子の製造に使用したスパッタリング成膜装置200の模式図である。スパッタリング成膜装置200は、気密容器としての真空チャンバ201と、真空チャンバ201内を排気するための排気系202を有している。また、成膜に必要なガスを真空チャンバ201内に導入できるように、アルゴンガス導入ポート204、酸素ガス導入ポート205、水素ガス導入ポート206を備えている。さらに、真空チャンバ201に付帯して、スパッタリングターゲット210、バッキングプレート211、磁石機構207、基体保持機構208が設けられている。基体保持機構208に光学素子の基体101を保持させ、電源203から電力を印加することで、反応性スパッタリング法により成膜を実施することができる。
【0128】
水素を含有した酸化タンタル膜(高屈折率層)を形成するには、下記の手順にて反応性スパッタリング法により成膜を行う。例えば、所定の光学素子の形状に加工された石英ガラスよりなる基体101と、例えば9inchの金属タンタル(純度99.9wt%以上)をスパッタリングターゲット210として、真空チャンバ201内にセットする。このとき、基体101とスパッタリングターゲット210の間の距離は、例えば200mmとする。そして、排気系202を用いて、圧力が5×10-5Pa程度の真空度になるまで、真空チャンバ201内を排気する。そして、アルゴンガス導入ポート204からアルゴンガスを、酸素ガス導入ポート205から酸素ガスを、水素ガス導入ポート206から水素ガスを導入しながらプラズマ放電を行う。すなわち、電源203からスパッタリングターゲット210に10W/cm2の電力を印加してプラズマ放電を生成し、例えば直径30mm×厚さ1mmの基体101上に、水素を含有した酸化タンタルを100nm程度の厚さで成膜する。膜中に含有される水素の量の調整は、水素ガスの流量を変えて行う。尚、各層の厚さは必ずしも100nm程度に限られるわけではなく、当該光学素子で取り扱う光の波長や、光学構造体を構成する層数により適宜設定される。光学素子における酸化タンタル膜の物理膜厚は、例えば8~1000nmであり、好ましくは8~100nmである。厚さ100nmの酸化タンタル層を、間に他の層を介さずに積層して1000nmの酸化タンタル膜としてもよい。以下に、具体的な実施例と比較例を挙げて説明する。
【0129】
[実施例1-実施例5]、[比較例1-比較例2]
まず、光学構造体に用いられる高屈折率層について、実施例1-実施例5、および比較例1-比較例2をあげて説明する。実施例および比較例において、すべての高屈折率層は、酸素ガス導入ポート205から200sccmの流量で酸素ガスを導入しながら成膜した。その際、いずれの実施例および比較例も、アルゴンガス導入ポート204から200sccmの流量でアルゴンガスを導入して成膜した。また、実施例1では水素ガス導入ポート206から流量20sccmで水素ガスを導入しながらプラズマ放電を行った。他の実施例および比較例では、実施例1とは水素ガスの流量を変えて、後述するように膜中に含有される水素の量を調整した。実施例および比較例では、いずれも膜厚が100nm程度になるように成膜を行った。尚、上述した成膜条件は一例であり、成膜装置の構造等により適宜に変更可能である。
【0130】
各実施例と各比較例の酸化タンタル膜(単膜)について、水素含有量、光吸収率、屈折率、結晶性を評価した。
【0131】
膜中の水素含有量の評価は、酸化タンタル膜に、例えばMeVオーダーの高エネルギイオンビームを照射し、水素前方散乱分析法(HFS:Hydrogen Forward scattering Spectrometry)の手法により行った。膜中の水素以外の材料については、MeVオーダーの高エネルギイオンビームを照射し、ラザフォード後方散乱分析法(RBS:Rutherford backscattering spectrometry)の手法により行った。これらの結果を用いて、酸化タンタル膜中に含まれる水素、タンタル、酸素、アルゴンの含有量を、at%(atomic percentage)で求めた。なお、水素含有量の測定精度は、1%以下のごく微量な領域では±0.1%であり、3%以上の領域では±0.4%である。
【0132】
また、光吸収率と屈折率については、紫外可視近赤外分光光度計を用いて、波長が200nmから500nmの範囲について、光線入射角5度の場合の透過率と反射率の測定を行った。
【0133】
光吸収率については、以下の数式により算出した。
A(%)=100-T(%)-R(%) ・・・(数式1)
ただし、A(%)は光吸収率、T(%)は透過率、R(%)は反射率を表す。
【0134】
屈折率については、測定した反射率について、Scientific Computing International社製の光学薄膜解析・設計ソフトであるFilmWizard(登録商標)を用いて解析することにより算出した。
【0135】
結晶性の評価は、X線回折分析を用いて行った。以後の説明では、非晶質(あるいはアモルファス)とは、測定対象の膜に0.5度程度の小さな入射角でX線を照射して回折パターンを観測した際に、明瞭な回折ピークが検出されないこと、言い換えればハローパターンが観測されることをいう。したがって、ここでいう非晶質とは、微結晶状態の材料が含有されている状態を必ずしも除外するものではない。
【0136】
図27に、本実施形態の高屈折率層(水素を所定範囲内の量だけ含有する酸化タンタル膜)のX線回折パターン(入射角0.4度)を例示する。図示のように、ハローパターンのみが観測され、明瞭な結晶ピークは見られないので、本実施形態の高屈折率層は非晶質な膜であると判定できる。実施例として例示する酸化タンタル膜をはじめ、水素を1.0at%以上かつ10.0at%未満の範囲内で含有する酸化タンタル膜は、いずれも非晶質であった。なお、結晶質(単結晶や多結晶)の酸化タンタル膜では、水素含有量をppmオーダーにする場合に対して、水素含有量を1.0at%以上にする利点は見出せなかった。また、水素を10.0at%以上の含有量で含有しうる成膜条件では、分析容易な膜を得ることができなかった。
【0137】
表7及び表8に、実施例1-実施例5、および比較例1-比較例2についての評価結果を示す。表7は、各々の膜における水素含有量と、波長313nmの光に対する屈折率、波長313nmにおける光吸収率、波長域290nm~310nm、波長350nm~500nmの各々における光吸収率の平均値をまとめた表である。表8は、各々の膜に含まれる各種元素の含有量(atomic percentage)をまとめた表である。なお、表8において、各例に示した含有量の合計は100at%にならないが、これは各含有量の小数点2桁を四捨五入していることが理由であって、小数点2桁以降を考慮すると100at%になる。
【0138】
【表7】
【0139】
【表8】
【0140】
実施例1の酸化タンタル膜の結晶性は非晶質であり、水素含有量は1.0at%であった。また、実施例1の酸化タンタル膜の波長313nmにおける光吸収率は0.40%、屈折率は2.48であった。波長域290nm~310nmにおける平均光吸収率は2.50%、波長350nm~500nmにおける平均光吸収率は0.00%であった。
【0141】
実施例2の酸化タンタル膜の結晶性は非晶質であり、水素含有量は3.0at%であった。また、実施例2の酸化タンタル膜の波長313nmにおける光吸収率は0.30%、屈折率は2.46であった。波長域290nm~310nmにおける平均光吸収率は3.09%、波長350nm~500nmにおける平均光吸収率は0.03%であった。
【0142】
実施例3の酸化タンタル膜の結晶性は非晶質であり、水素含有量は6.3at%であった。また、実施例3の酸化タンタル膜の波長313nmにおける光吸収率は0.14%、屈折率は2.44であった。波長域290nm~310nmにおける平均光吸収率は2.23%、波長350nm~500nmにおける平均光吸収率は0.00%であった。
【0143】
実施例4の酸化タンタル膜の結晶性は非晶質であり、水素含有量は9.0at%であった。また、実施例4の酸化タンタル膜の波長313nmにおける光吸収率は0.07%、屈折率は2.43であった。波長域290nm~310nmにおける平均光吸収率は1.24%、波長350nm~500nmにおける平均光吸収率は0.01%であった。
【0144】
実施例5の酸化タンタル膜の結晶性は非晶質であり、水素含有量は9.6at%であった。また、実施例5の酸化タンタル膜の波長313nmにおける光吸収率は0.03%、屈折率は2.43であった。波長域290nm~310nmにおける平均光吸収率は1.19%、波長350nm~500nmにおける平均光吸収率は0.08%であった。
【0145】
比較例1の酸化タンタル膜の結晶性は非晶質であり、水素含有量は0.2at%であった。また、比較例1の酸化タンタル膜の波長313nmにおける光吸収率は0.42%、屈折率は2.46であった。波長域290nm~310nmにおける平均光吸収率は3.72%、波長350nm~500nmにおける平均光吸収率は0.01%であった。
【0146】
比較例2の酸化タンタル膜の結晶性は非晶質であり、水素含有量は0.6at%であった。また、比較例2の酸化タンタル膜の波長313nmにおける光吸収率は0.42%、屈折率は2.46であった。波長域290nm~310nmにおける平均光吸収率は3.66%、波長350nm~500nmにおける平均光吸収率は0.01%であった。
【0147】
尚、実施形態の酸化タンタル膜においては、酸化タンタル膜中に積極的に水素以外の不純物を添加する必要はなく、酸化タンタル膜中の不純物含有量Xは水素の含有量Lよりも小さいこと(X<L)が好ましい。ここで、不純物とは、酸素とタンタルと水素以外の元素であり、不純物含有量Xは、これら不純物の含有量の合計である。上記実施例で説明した酸化タンタル膜中の不純物含有量Xは、5.0%未満であり、3.0at%以下であり、2.0at%以下である。不純物を大量(X>L)に添加した酸化タンタル膜の場合には、不純物の添加により屈折率の低下が生じる場合が有り得るだけでなく、光吸収が必ずしも十分に低減されるわけではない。本実施形態の酸化タンタル膜においては、タンタルと酸素と水素以外の元素を含有していてもよい。例えば、上記実施例で説明した酸化タンタル膜はアルゴンを含有しうる。このアルゴンは、成膜時にアルゴンガス導入ポート204から導入したアルゴンガスに起因する。酸化タンタル膜中のアルゴン含有量Mは水素の含有量Lよりも小さいこと(M<L)が好ましい。酸化タンタル膜中のアルゴン含有量Mは、例えば0.5~5at%である。
【0148】
本実施形態は、アルゴンを含有していながらも、高い屈折率と少ない光吸収を実現できる。実施形態の酸化タンタル膜においては、酸化タンタル膜中に積極的にシリコンを添加する必要はなく、酸化タンタル膜中のシリコン含有量Oは水素の含有量Lよりも小さいこと(O<L)が好ましい。上記実施例で説明した酸化タンタル膜中のシリコン含有量Oは、1at%未満であり、0.1at%以下であり、検出限界未満である。シリコンを添加した酸化タンタル膜の場合には、シリコンの添加により屈折率の変動が生じる場合が有り得るだけでなく、光吸収が必ずしも十分に低減されるわけではない。実施形態の酸化タンタル膜においては、酸化タンタル膜中に積極的に炭素を添加する必要はなく、酸化タンタル膜中の炭素含有量Pは水素の含有量Lよりも小さいこと(P<L)が好ましい。上記実施例で説明した酸化タンタル膜中の炭素含有量Pは、1at%未満であり、0.1at%以下であり、検出限界未満である。実施形態の酸化タンタル膜においては、酸化タンタル膜中に積極的に窒素を添加する必要はなく、酸化タンタル膜中の窒素含有量Qは水素の含有量Lよりも小さいこと(Q<L)が好ましい。上記実施例で説明した酸化タンタル膜中の窒素含有量Qは、1at%未満であり、0.1at%以下であり、検出限界未満である。
【0149】
発明者らは、水素を含有する酸化タンタルは、酸化タンタルに水素が付加されるモデルを推測している。水素含有量が0at%である酸化タンタルを化学量論的組成であるTaとして仮定すると、水素を含有する酸化タンタルはTaとしてモデル化できる。Taに付加される水素は、タンタルまたは酸素に結合し、タンタルまたは酸素のダングリングボンドを終端しうる。水素が、タンタルと酸素の結合間や格子間に侵入する場合もある。このモデルからシミュレーションにより算出される水素濃度は、水素含有量が1at%であれば、4×1020atoms/cm程度、水素含有量が3at%であれば、1×1021atoms/cm程度である。また、水素含有量が6at%であれば、2×1021atoms/cm程度、水素含有量が9at%であれば、4×1021atoms/cm程度、水素含有量が10at%以上であれば、5×1021atoms/cm以上でありうる。本実施形態の酸化タンタル膜の水素濃度は、4×1020atoms/cm以上であり、5×1021atoms/cm未満でありうる。atoms/cmで示されたこの水素濃度の範囲内において、適当な水素含有量(at%)を満たすことが望ましい。さらに、本実施形態の酸化タンタル膜の水素濃度は、1×1021atoms/cm以上でありうるし、2×1021atoms/cm以上でありうるし、4×1022atoms/cm以下でありうる。しかし、アルゴンなどの不純物の量や、酸化タンタル膜のパッキング密度によっては、水素濃度が4×1020atoms/cm未満の範囲で1~10at%や3~9at%の水素含有量を満たしてもよいし、水素濃度が5×1021atoms/cmを超える範囲で1~10at%や3~9at%の水素含有量を満たしてもよい。
【0150】
露光装置では高出力の光源が用いられるため、装置中の光学素子に形成された光学膜に光源からの光が照射されて、この光学膜において光吸収が発生すると、光学素子やその周辺の雰囲気の温度を上昇させる要因になる。温度上昇により光学素子や周辺の機構部品に熱膨張が発生すると、露光装置の結像性能の低下や不安定化の要因となり得る。また、光学膜の光学特性を良好にすべく、一般的には多層構成の膜が用いられるが、層数が多いほど光吸収による光量の損失は顕著になるため、多層にすると実効的な露光光の強度がむしろ低下してしまう場合がある。
【0151】
また、露光装置では、例えば可視領域のg線(436nm)、h線(405nm)、紫外領域のi線(365nm)、j線(313nm)、DUV領域(290~310nm)等の発光波長の光源が使用され得るが、達成し得る最高の解像度は露光光の波長に依存する。露光装置の光源が発する光(露光光)は、例えば、280nm以上かつ330nmの範囲内の少なくともいずれかの波長の光(例えばj線)と、330nm以上かつ380nmの範囲内の少なくともいずれかの波長の光(例えばi線)と、を含みうる。
【0152】
そこで、高い解像度を安定して達成可能にするためには、j線(313nm)のような短波長の光を露光光として活用できることが望ましい。そこで、光路中に配置される膜や層は、j線(313nm)のような短波長の光に対する光吸収が小さな材料により構成されることが望まれる。また、解像度の向上に限らず、より広い波長帯域の光を用いてフォトレジストに対する照度を高めれば、露光時間を短縮して、スループットを向上することができる。
【0153】
酸化タンタルは、可視波長域において屈折率が高いという特徴を有するため、可視波長域を取り扱う光学機器の分野で広く利用される材料である。しかしながら、酸化タンタルでは、j線近傍の波長領域においては比較的大きな光吸収が発生するため、UV光(例えばj線)の光路に配置すると、発熱や光損失が発生し得るという問題があった。
【0154】
例えば露光装置の露光性能に与える熱的影響を抑制するため、あるいは光量損失を抑制するための条件として、j線の波長(313nm)における酸化タンタル膜の光吸収率が、0.40%以下、さらに望ましくは0.30%以下であることが挙げられる。また、g線、h線、i線を含む350nm~500nmの波長域については、光吸収率の平均が0.10%以下、好ましくは0.08%以下、さらに望ましくは0.05%以下であること挙げられる。以後の説明では、これらの条件を満たすものを低吸収と記載する場合がある。
【0155】
膜中に1.0at%以上かつ10.0at%未満の範囲内の水素を含んだ実施例1~実施例5と、水素含有量が1.0at%未満の比較例1、2とを比べると、どちらも波長350nm~500nmの範囲においては全て低吸収であると言える。一方、波長313nmにおける光吸収は、比較例1および比較例2では0.40%を超えているが、実施例1~実施例5は、光吸収が0.40%以下の低吸収であることが確認された。
【0156】
図18に、水素含有量と光吸収率(波長313nm)の関係を点線のグラフで、水素含有量と光吸収率(波長350nm~500nmにおける平均値)の関係を実線のグラフで示す。また、図19に、実施例4、実施例5、比較例1の吸収スペクトルを例示するが、325nm以下の波長域において、実施例は比較例よりも光吸収率が大幅に低減されているのが判る。
【0157】
図18に示すように、実施例1~実施例5については、水素含有量が1.0at%から増えていくとともに、波長313nmにおける光吸収は低減していく。また、水素含有量が9.0at%を超えると、波長350nm~500nmにおける光吸収が増加傾向を示す。このように、膜中の水素含有量の違いによる光吸収の変化は、波長域全体にわたり単純な増減傾向が生じるのではなく、波長の領域ごとに異なる性質を持って変化を示すことが判る。
【0158】
図24に、酸化タンタルに含まれる水素含有量と、波長365nmにおける屈折率の関係を示す。屈折率については、波長313nmにおける値(表7)、および波長365nmにおける値(図24)に例示されるように、水素の含有量が1.0at%以上かつ10.0at%未満の範囲内であれば、水素の含有量が極めて少ない場合と同様に高い屈折率を有する。例えば、波長313nmの光に対する屈折率は、例えば2.40以上であり、2.43以上でありうる。
【0159】
以上のように、高い屈折率を有し、かつj線を含む紫外領域で低い光吸収を達成できる高性能な光学膜としては、1.0at%以上かつ10.0at%未満の範囲内で水素を含有した本実施形態の酸化タンタル膜が適している。中でも、3.0at%以上の含有量で水素を含有した非晶質の酸化タンタル膜は、2.40以上の高い屈折率と0.3%以下の低い紫外線吸収を合わせて達成できるため、特に好ましい。j線を含む紫外領域で低い光吸収を達成する上で、酸化タンタル膜における水素の含有量は3.0at%以上であることが好ましく、6.0at%以上であることよりが好ましい。9.0at%を超える含有量で水素を含有する酸化タンタル膜は、波長350nm~500nmの光に対しても低い光吸収を達成することができる。しかし、9.0at%以下の含有量で水素を含有する本実施形態の酸化タンタル膜は、波長350nm~500nmの光に対して、とりわけ低い光吸収を達成することができる。
【0160】
酸化タンタル膜中における水素の含有量に依存して光吸収が増減するメカニズムについては、以下のように考えている。波長域ごとの吸収発生要因の違いを考慮するため、ここでは第一波長域として紫外領域から可視領域を含む320nmより長い波長域、第二波長域として吸収端付近である320nm以下の波長域に分けて考える。尚、吸収端とは、バンドギャップの大きさに由来する吸収が発生し始める波長を示し、目安として0.3%の光吸収が発生する波長とする。
【0161】
まず、水素を添加する効果として、第一波長域での光吸収の低減効果が考えられる。これは、第一波長域における光吸収の発生原因が、バンドギャップ内に形成される欠陥準位にあるためである。膜中に水素を添加すると、水素が欠陥を埋め、パッシベーション(不活性化)の効果をもたらし、低吸収の膜になることが期待される。また、光学特性の変化が小さい高耐久の膜になることも期待される。但し、比較例1、2から分かるように、1.0%未満の微量な水素含有量では、バンドギャップへの影響はほとんど生じないため、第二波長域の光に対して低吸収な膜が得られることは期待できない。
【0162】
本実施形態のように、酸化タンタル膜中の水素含有量が、1.0at%以上かつ10.0at%未満の場合について考察すると、第一波長域での光吸収については、パッシベーションの効果が発揮されて、光吸収は低いレベルに抑制される。さらに、第二波長域での光吸収についても、水素含有量が適量であるため低いレベルに抑制される。
【0163】
第二波長域での光吸収は、酸化タンタルの材料固有のバンドギャップに依存したものと考えられる。酸化タンタルのような誘電体材料は、材料固有のバンドギャップを持ち、このバンドギャップの大きさに依存して吸収端が決まる。酸化タンタルの場合は、320nmより短い波長において固有の光吸収が発生し始める。水素含有量が、1.0at%以上かつ10.0at%未満(望ましくは3.0at%以上かつ9.0at%以下)においては、前述した欠陥補填に必要な水素量を超えるため、膜中に余剰の水素が生じる。この時の余剰となった水素の膜中での状態は定かではないが、結合間にトラップされた状態、もしくはOH基として新たな結合を生じている状態にあると推定される。これにより、材料固有のバンド構造自体にも影響を与えることから、バンドギャップが拡大して光吸収端が短波長側へシフトすると考えられる。よって、第二波長域での光吸収の低減が実現したと推測できる。
【0164】
尚、酸化タンタル膜において水素含有量が9at%を超える場合には、余剰の水素量が多くなり、一部の水素が酸素を還元して酸素欠損を生み出し、第一波長域において光吸収が増加すると考えられる。ただし、第二波長域(例えばj線)における光吸収に対する低減効果は顕著であるため、10.0at%未満の範囲であれば産業上は有用である。
【0165】
また、光吸収に影響を与える他の要因としては、不純物も考えられる。不純物としては、成膜中に膜中に混入するArが考えられるが、上記の実施例、比較例の全てにおいて、膜中に含まれるArは2at%未満であった。本実施形態においては、不純物としてArを含有する場合であっても、高屈折率かつ光吸収の小さな膜を実現できることが判る。また、本実施形態の酸化タンタル膜は、水素とアルゴンを除き不純物を含有していないため、水素とアルゴン以外の元素に起因する光吸収が発生することはない。
【0166】
以上のように、本発明では、水素を所定範囲内の量だけ含有する酸化タンタル膜を用いる。高屈折率を有しながら、紫外領域(例えばj線を含む)で低い光吸収を達成できる高性能の光学膜として用いるには、1.0at%以上かつ10.0at%未満の範囲内で水素を含有した本実施形態の酸化タンタル膜が適している。3.0at%以上かつ9.0at%以下の範囲内で水素を含有する本実施形態の酸化タンタル膜は、更に適している。
【0167】
[実施例6-実施例7]、[比較例3]
次に、酸化タンタル膜を用いて反射防止構造としての光学構造体を構成した具体例について、実施例6-実施例7、および比較例3を挙げて説明する。図20に、反射防止構造としての光学構造体が設けられた透過型光学素子の断面図を示す。
【0168】
光学素子500は、基体である石英基板501と、高屈折率材料より成る高屈折率層502aと低屈折率材料より成る低屈折率層502bが交互に合計で6層積み重ねられた光学構造体502とを備えている。
【0169】
高屈折率層502aは、水素を含有する酸化タンタルで形成した。低屈折率層502bは、2層目と4層目に酸化シリコンを、最終層の6層目には弗化マグネシウムを用いて形成した。ここでは、露光装置への適用に鑑み、光学素子500の各層の物理膜厚を最適化して光学構造体の構成を決定した。すなわち、露光光源の特徴的な輝線であるg線、h線、i線、j線を含む波長310nmから450nmの範囲において、反射防止特性を最大化する設計とした。但し、使用する光源の波長範囲に応じて、反射防止特性を最適化する設計を変更できることは言うまでもない。
【0170】
実施例6は、実施例4として説明した水素を9.0at%含有した酸化タンタルを材料とする高屈折率層と、前述した低屈折率層を、石英基板501上に交互に積層した光学素子である。
【0171】
実施例7は、実施例5として説明した水素を9.6at%含有した酸化タンタルを材料とする高屈折率層と、前述した低屈折率層を、石英基板501上に交互に積層した光学素子である。
【0172】
比較例3は、比較例1として説明した水素を0.2at%含有した酸化タンタルを材料とする高屈折率層と、前述した低屈折率層を、石英基板501上に交互に積層した光学素子である。
実施例6の光学素子を構成する各層の諸元を表9に示す。
【0173】
【表9】
【0174】
実施例7の光学素子を構成する各層の諸元を表10に示す。
【表10】
【0175】
比較例3の光学素子を構成する各層の諸元を表11に示す。
【表11】
【0176】
図21は、実施例6、実施例7および比較例3の光学構造体の反射率特性を示すグラフである。図22は、図21から短波長側を切り出して拡大したグラフである。図23は、実施例6、実施例7および比較例3の光学構造体の透過率特性を示すグラフである。
【0177】
図23から明らかなように、特に紫外域において、実施例6、実施例7は比較例3よりも高い透過率を達成している。これは、実施例4、実施例5において、紫外域において高屈折率かつ低光吸収の酸化タンタル膜が得られていたことと一致する。
【0178】
また、図21を見ると、300nm~500nmの波長域において、実施例6、実施例7は比較例3と同等であることが判る。また、図22に示されるように、波長が290nm~300nmのDUV領域においては、実施例6、実施例7は比較例3に比べて反射率が顕著に低減されている。これより、水素を所定範囲内の量だけ含有させると、DUV領域の光に対する屈折率が優位に変化する可能性が示唆される。また、実施例6、7は、比較例3に比べて、酸化タンタル膜の屈折率が低いため、吸収がないと仮定して屈折率の関係だけから理論的に求められる反射率は、実施例6、7は比較例3よりも反射率が高くなるはずである。しかしながら、吸収を考慮した図21図22に示される結果は、理論的な反射率に対して実施例6,7と比較例3と反射率の差が縮小するか、実施例6、7が比較例3よりも反射率が低くなることを示している。これは、反射特性に対して吸収が影響を与えているためであると推測される。すなわち、仮想の複素屈折率(消衰係数=0)に対して理論的に最適設計された光学構造に関して、実施例6、7は比較例3に比べて、複素屈折率の虚部(消衰係数)が小さく、仮想の複素屈折率からの誤差も小さい。そのため、実施例6、7は比較例3に比べて、最適設計された光学構造からの乖離が小さく、優れた光学特性を実現できると考えられる。
【0179】
これらの結果から、j線あるいはそれよりも短い波長域の光強度が大きな光源を使用する場合には、反射防止構造としての光学構造体を構成する際には、酸化タンタル膜に含まれる水素の含有量を1.0at%以上かつ10.0at%未満とするのが好ましい。特に好ましいのは、水素の含有量が3.0at%以上かつ9.0at%以下である。
【0180】
また、j線からg線までを含む広い波長域を出力する光源を使用する場合は、酸化タンタル膜を用いて反射防止構造としての光学構造体を構成する際には、酸化タンタル膜に含まれる水素の含有量を1.0at%以上かつ10.0at%未満とするのが好ましい。特に好ましいのは、水素の含有量が3.0at%以上かつ9.0at%以下であり、波長350nm~500nmの光に対しても低い光吸収を達成することができる。
【0181】
このように、水素を所定範囲内の量だけ含有する酸化タンタル膜を用いることで、高い反射防止特性を維持したまま、広い波長領域において光損失の小さい膜を実現することが出来た。
【0182】
[実施例8]、[比較例4]
次に、酸化タンタル膜を用いて反射構造としての光学構造体を構成した具体例について、実施例8、および比較例4を挙げて説明する。図25に、反射構造としての光学構造体が設けられた反射型光学素子の断面図を示す。
【0183】
光学素子800では、基体である石英基板801上に、高屈折率材料より成る高屈折率層802aと、低屈折率材料より成る低屈折率層802bが交互に合計で52層積み重ねられ、光学構造体802を構成している。
【0184】
高屈折率層802aは、水素を含有する酸化タンタルで形成した。低屈折率層802bは、酸化シリコンを用いて形成した。光学素子800の使用目的に鑑みて、波長310nmから450nmの範囲において反射特性を最大化するため、各層の物理膜厚を最適化して光学構造体の構成を決定した。但し、使用する光源の波長範囲に応じて、反射特性を最適化する設計を変更できることは言うまでもない。
【0185】
実施例8は、実施例4として説明した水素を9.0at%含有した酸化タンタルを材料とする高屈折率層と、前述した低屈折率層を、石英基板801上に交互に積層した光学素子である。
【0186】
比較例4は、比較例1として説明した水素を0.2at%含有した酸化タンタルを材料とする高屈折率層と、前述した低屈折率層を、石英基板801上に交互に積層した光学素子である。
【0187】
実施例8の光学素子を構成する各層の諸元を表12に示す。
【表12】
【0188】
比較例4の光学素子を構成する各層の諸元を表13に示す。
【表13】
【0189】
図26に、実施例8および比較例4の光学構造体の反射率特性を示す。例えば、313nmでの反射率を比較すると、水素を0.2at%含有した酸化タンタルを用いた比較例4では、反射率は98.5%である。これに対して、水素を9.0at%含有した酸化タンタルを用いた実施例8では、99.9%であり、比較例に比べ高い反射率が得られた。水素の含有量に対する屈折率の変化は小さいことから、この反射率の違いは、酸化タンタル膜(層)における313nm付近での光吸収の大小により生じたものと考えられる。このように、水素を所定範囲内の量だけ含有する酸化タンタル膜を用いれば、紫外光の吸収を抑制することができ、高い反射率を実現することができる。
【0190】
j線あるいはそれよりも短い波長域の光強度が大きな光源を使用する場合には、反射構造としての光学構造体を構成する際には、酸化タンタル膜に含まれる水素の含有量を1.0at%以上かつ10.0at%未満とするのが好ましい。特に好ましいのは、水素の含有量が3.0at%以上かつ9.0at%以下である。
【0191】
また、j線からg線までを含む広い波長域を出力する光源を使用する場合は、酸化タンタル膜を用いて反射構造としての光学構造体を構成する際には、酸化タンタル膜に含まれる水素の含有量を1.0at%以上かつ10.0at%未満とするのが好ましい。特に好ましいのは、水素の含有量が3.0at%以上かつ9.0at%以下であり、波長350nm~500nmの光に対しても低い光吸収を達成することができる。
【0192】
[実施例9]、[比較例5]
露光装置が備えるレンズ群の中の少なくとも1つ以上のレンズの光学面に、反射防止構造としての光学構造体を形成した具体例を説明する。実施例9は、露光装置が備える15個のレンズの両側表面(合計30面)に、実施例6として説明した反射防止構造(光学構造体)を設けたレンズ群である。すなわち、実施例9では、各レンズの表面に、水素を9.0at%含有した酸化タンタルを材料とする高屈折率層と、低屈折率層を交互に積層した光学構造体が形成されている。また、比較例5として、15個のレンズの両側表面(合計30面)に、比較例3として説明した反射防止構造(光学構造体)を設けたレンズ群である。すなわち、比較例5では、各レンズの表面に、水素を0.2at%含有した酸化タンタルを材料とする高屈折率層と、低屈折率層を交互に積層した光学構造体が形成されている。
【0193】
実施例9と比較例5について、j線までの波長を含む光源を備えた露光装置用のレンズとしての適性を評価するため、313nmの紫外光を用いて透過損失を測定した。ここでは、従来の酸化タンタル膜で吸収が発生するj線に着目し評価を行ったが、赤外光や可視光を含む発光波長の光源を用いる場合には、光源の発光波長における光学素子としての適性を評価すればよい。
【0194】
表14に評価結果を示す。
【表14】
【0195】
実施例9のレンズ群では、各面で低光吸収率と低反射率を両立できており、透過損失を極めて小さくすることができるため、15枚のレンズにおける合計30面でも累積の透過損失を10%以下に抑制することができる。一方、比較例5では、実施例9に比べて光吸収率が著しく増加するため、15枚のレンズにおける合計30面の透過損失は15%以上に及んでしまう。
【0196】
実施例9のレンズ群を、例えば露光装置の照明系レンズ群や投影系レンズ群に用いることにより、従来は光吸収による発熱を防止するためにカットしていた紫外光をカットせずに使用することが可能となり、露光装置の総露光強度を大きくする効果がある。このため、露光時間の短縮に繋がり、露光装置の処理能力(スループット)を向上することが可能となる。
【0197】
[実施例10]
液晶ディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ(FPD)の製造に用いられるFPD用露光装置の光学部品(例えば反射ミラー)に、水素を所定範囲内の量だけ含有する酸化タンタル膜(例えば実施例1~実施例5のいずれかの膜)を適用した例を示す。尚、所定範囲内の量とは、上述の実施例の説明文中に記載した水素の含有量(atomic percentage)を指している。
【0198】
図28は、本実施例の露光装置1000の構成を示す模式的な断面図である。露光装置1000は、例えば、ステップ・アンド・スキャン方式で、レチクルRTに形成された回路パターンを、フォトレジストPRが塗布された被処理体GSに露光する投影露光装置である。露光装置1000は、例えば、液晶ディスプレイの製造に好適に用いられる。被処理体GSは、例えばガラス基板である。露光装置1000は、レチクルRTや被処理体GSを観察する観察機構も備えている。図28に示すように、露光装置1000は、照明装置110と、投影光学系620と、補正光学系630と、アライメント機構140を有している。
【0199】
照明装置110は、転写用のパターンが形成されたレチクルRTを照明し、光源部112と、照明光学系114とを有する。光源部112は、水銀ランプを使用する。したがって、光源部112は、波長300nm以下の深紫外光を含む紫外線(波長240nmから400nm)を出力する。尚、光源の個数は限定されない。照明光学系114は、レチクルRTを照明する光学系である。
【0200】
照明光学系114は、レンズ、ミラー、オプティカルインテグレーター、絞り等を含む。例えば、コンデンサーレンズ、オプティカルインテグレーター、開口絞り、コンデンサーレンズ、スリット、結像光学系の順で整列している。オプティカルインテグレーターは、ハエの目レンズや2組のシリンドリカルレンズアレイ(又はレンチキュラーレンズ)板を重ねることによって構成されるインテグレーターを含むが、光学ロッドや回折素子に置換される場合もある。照明光学系114に含まれる透過型光学素子(例えばレンズ)には、実施例6あるいは実施例7を例とする反射防止構造が形成されている。照明光学系114に含まれる反射型光学素子(例えばミラー)には、実施例8を例とする反射構造が形成されている。
【0201】
投影光学系620は、レチクルRTのパターンを被処理体GSに投影する光学系である。図28に示す本実施例の投影光学系620は、平面ミラー122、凹面ミラー124、凸面ミラー126とで構成されるが、この構成に限られるわけではない。投影光学系620を構成する全てのミラーの反射面に、実施例8を例とする反射構造が形成されている。上述したように、係る反射構造を備える反射ミラーは、光吸収による損失が極めて小さく、露光光波長域で高い反射率を有するので、高い照度を得ることができ、露光処理を高いスループットで実行することが可能である。
【0202】
補正光学系630は、投影光学系620の収差を補正する光学系である。補正光学系630は、一以上の光学素子を含む。補正光学系630は、本実施例では、実施例6あるいは実施例7を例とする反射防止構造が形成された補正ガラスで構成され、レチクルRTと投影光学系620との間に配置される。
【0203】
アライメント機構140は、レチクルRTと被処理体GSとのアライメント(位置合わせ)を行う機能を有し、アライメント光源141と、偏光板145と、ハーフミラー142と、ミラー143と、偏光板146と、検出器144を有する。アライメント光源141は、アライメント用の可視光域(波長510nm以上760nm以下)の照明光源である。アライメント機構140は、レチクルRT上のアライメントマークAM1に対する被処理体GS上のアライメントマークAM2との位置合わせに用いる。アライメント機構140が備える光学素子には、実施例6あるいは実施例7を例とする反射防止構造、あるいは実施例8を例とする反射構造を設けることができる。
【0204】
アライメント光源141からの光束は、偏光板145によって直線偏光となり、ハーフミラー142及びミラー143を介してアライメントマークAM1を照明する。レチクルRTの裏面で反射された反射光は、ミラー143及びハーフミラー142を通り、偏光板146に入射するが、かかる反射光を検出器144に入射させないように偏光板146を回転させ遮断する。
【0205】
一方、アライメントマークAM1を透過した光は、投影光学系620に入射する。なお、本実施例では、平面ミラー122、凹面ミラー124、凸面ミラー126を5回反射して被処理体GS上のアライメントマークAM2に到達するまでに90度の位相差が生じるように設定されており、到達した時には円偏光になっている。
【0206】
被処理体GS上のアライメントマークAM2で反射した光は、再度、投影光学系620を通過してレチクルRTに戻る。この時、光束は、再度位相差を与えられるため、レチクルRTに到達する光は直線偏光となっている。かかる光束の偏光面は、レチクルRTに入射する照明光束の偏光面と直交している。被処理体GSからの反射光は、レチクルRTを照明し、ハーフミラー142及び偏光板146を通過し、検出器144に入射する。これにより、検出器144は、レチクルRTと被処理体GSとを検出することができる。レチクルRTと被処理体GSは光学的に共役関係にあるため、レチクルRTの裏面で反射される直線偏光の光を除去することによって、レチクルRTからの直線の反射光に起因するフレアを防止できる。これにより、検出器144は、コントラストに優れたレチクルRT及び被処理体GSの像を同時に検出することができ、レチクルRTと被処理体GSとの高精度なアライメントが可能になる。
【0207】
本実施例の露光装置1000において、照明装置110から発せられた光束は、レチクルRTを、例えば、ケーラー照明する。レチクルRTを通過しレチクルパターンを反映する光は、投影光学系620により被処理体GSに結像される。本実施例では、光路上に配置された光学素子の光学面に、水素を所定範囲内の量だけ含有する酸化タンタル膜を用いた反射防止構造あるいは反射構造が設けられているため、露光光及びアライメント光の光量の損失を抑制することができる。特に、投影光学系620に、所定の含有量の水素を含む酸化タンタル膜が形成された反射ミラーを用いることは有効である。
【0208】
本実施例の露光装置1000は、露光光及びアライメント光の光量の損失が抑制され、高いスループットで経済性よく高解像で露光することができる。さらに、光吸収による光学素子の発熱が抑制されるため、高精度なアライメントと露光を安定して遂行することが可能となる。尚、水素を所定範囲内の量だけ含有する酸化タンタル膜は、上記例のように光路上に配置される全ての光学素子の光学面に形成しなければならないとは限らず、紫外光の吸収を特に抑制したい任意の光学面だけに付与してもよい。
【0209】
[実施形態4]
光学構造体が設けられる基体は、電気光学構造を有していてもよい。電気光学構造は、電気信号を光信号に変えたり、光信号を電気信号に変えたりする構造を指す。撮像素子(撮像デバイス)は、光を扱うことから光学素子の一種であり、フォトダイオードやトランジスタを有することから半導体素子(半導体デバイス)の一種でもある。裏面照射型の撮像素子では、半導体基板中に、各画素に対応するフォトダイオードPDが形成されている。半導体基板は、フォトダイオードによって実現された、光信号を電気信号に変えるための電気光学構造を有する基体として機能する。また、係る反射防止構造を備えた撮像素子を用いて、レンズ交換式カメラやレンズ一体式カメラをはじめとする種々のカメラや、スマートフォンや車載用のカメラモジュールを構成することができる。カメラモジュールにおいては、レンズや撮像素子の他に、レンズと撮像素子とを含む複数の光学部品を保持する保持部品(フレーム)を備えうる。もちろん、カメラモジュールのレンズに酸化タンタル膜をコーティングしてもよい。
【0210】
また、電気光学構造を有する基体を備えた光学素子は、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイであってもよい。有機ELディスプレイにおいて光利用効率を高めるために反射構造を設け、その反射構造に、酸化タンタルを含む光学構造体を採用してもよい。カメラやスマートフォンのような電子機器においては、電気光学構造を有する基体を備えた光学素子の他に、電気光学構造を電気的に制御するためのコントローラを備えうる。また、光学素子が撮像素子(撮像デバイス)であれば、電子機器は、撮像素子から出力された信号を処理するプロセッサを備えうる。また、光学素子が表示素子(表示デバイス)であれば、電子機器は、表示素子へ入力する信号を処理するプロセッサを備えうる。本実施形態を適用可能な電子機器は、スマートフォンやパーソナルコンピュータのような情報機器であってもよい。あるいは、電子機器は、プリンタや複写機のような事務機器、X線撮影装置や内視鏡などの医療機器、ロボットや半導体製造装置などの産業機器、車両や飛行機、船舶などの輸送機器であってもよい。
【0211】
[実施例11]
実施例11として、水素を所定範囲内の量だけ含有する酸化タンタル膜を、撮像素子に適用した例を示す。尚、所定範囲内の量とは、上述の実施例の説明文中に記載した含有量(atomic percentage)を指している。
【0212】
図29に示す断面図を参照して、実施例11の固体撮像素子900について説明する。固体撮像素子900は、裏面照射型のCMOSセンサであるが、本発明の実施は、必ずしも裏面照射型のCMOSセンサに限られるものではない。すなわち、本発明の実施形態は、水素を所定範囲内の量だけ含有する酸化タンタル膜を、撮像光の光路に配置した固体撮像素子であればよい。
【0213】
半導体基板2は、光が入射する第1面と、第1面とは反対側の第2面とを有する。半導体基板2としては、例えば、Si基板を用いることができる。半導体基板2は、入射した光を光電変換し、第1電荷を蓄積する光電変換部600と、第2面に第1ゲート390を有する第1トランジスタ410と、を備える。半導体基板2は、第2面に第2ゲート290を有する第2トランジスタ310を有する。第1トランジスタ410は、ソース400、ドレイン380、第1ゲート390で構成され、例えば、正孔を多数キャリアとするウエル(P型のウエル360)に配されたNMOSトランジスタである。
【0214】
半導体基板2の内部において、平面視で第1トランジスタ410と第2トランジスタ310との間には、分離領域120が設けられている。これにより、第1トランジスタ410及び第2トランジスタ310間における電荷の移動を低減することができる。分離領域120は、半導体基板2に形成されたトレンチ内に埋め込まれた、絶縁体、ポリシリコン、又はこれらの材料の周囲をシリコン酸化膜で覆ったものであってもよい。また、分離領域120はトレンチ内に埋め込まれた金属などであってもよい。
【0215】
本実施例では、複数の光電変換部600と、複数の光電変換部600のそれぞれと電気的に接続された複数の第1トランジスタ410と、が2次元状に配置された画素領域10を有する。そして、画素領域10の外側に複数の第2トランジスタ310が設けられている。なお、半導体基板2が、1つの光電変換部600と1つの第1トランジスタ410と1つの第2トランジスタ310とを含む場合であってもよい。
【0216】
光電変換部600は、例えば、フォトダイオードである。具体的には、光電変換部600は、半導体基板2の上面の一部となるN型半導体部と、P型半導体部と、を含む。
【0217】
画素領域10は、複数の光電変換部600を含む有効画素領域11と、遮光された遮光画素領域12(Optical Black)と、を有する。有効画素領域11において、画素ごとに区切るように遮光壁が設けられてもよい。これにより、画素ごとの混色を低減することができる。この遮光画素領域12の外側が周辺回路領域13であり、一般に、画素領域10のような繰り返し配置構造が配されていない領域である。
【0218】
複数の第2トランジスタ310は、周辺回路領域13に配されている。例えば、第2トランジスタ310は、平面視でマイクロレンズアレイ190に含まれる複数のレンズやカラーフィルタ180が2次元状に配された領域の外側に設けられていてもよいし、平面視で分離領域120の外側の領域に設けられていてもよい。
【0219】
周辺回路領域13には、垂直走査回路、水平走査回路、タイミングジェネレーター、出力部が配されている。更に信号補正部、アナログデジタル変換部などを有する信号処理部が配されていてもよい。
【0220】
第2トランジスタ310は、半導体基板2の第2面に第2ゲート290を有し、P型のウエル360にソース280及びドレイン300が配されたNMOSトランジスタを含む。第2トランジスタ310のソース280及びドレイン300が配されたウエル360は、半導体基板2の下面の一部及び半導体基板2の上面の一部となる。たとえばこのウエル360は半導体基板2の第1面から第2面まで連続して配されている。周辺回路領域13は、さらに、N型のウエル370にソース320及びドレイン340が配され、第2面にゲート330を有するPMOSトランジスタ350を含んでもよい。
【0221】
第1光学膜130は、反射防止構造を構成する。また、第1光学膜130は、第1極性(例えば負)の固定電荷を有する固定電荷膜でありえ、半導体基板2における第2極性(例えば正)の電荷を固定する機能を有する。半導体基板2の第1面において、平面視で少なくとも光電変換部600(電気光学構造)及び第2トランジスタ310に重なる領域に設けられる。ここで、「固定電荷」とは、膜中に存在し、電界などで移動せずに固定された状態の電荷をいう。第1光学膜130は、少なくとも、光電変換部600に至るまでの撮像光の光路上に設けられている。
【0222】
本実施例では、第1光学膜130は、半導体基板2の第1面において、複数の光電変換部600、複数の第1トランジスタ410、及び複数の第2トランジスタ310の直上に対応する領域を連続的に覆うように設けられている。つまり、平面視で、複数の光電変換部600、複数の第1トランジスタ、及び複数の第2トランジスタに重なるように第1光学膜130が連続的に設けられている。第1光学膜130は、例えば、半導体基板2の上面における画素領域10及び周辺回路領域13の全面に設けてもよい。これにより、第1光学膜130をエッチング等により除去する必要がないため、半導体基板2にダメージが入ることを抑制することができる。
【0223】
なお、第1光学膜130は、平面視において光電変換部600及び第2トランジスタ310に重なる領域であって、半導体基板の第1面に設けられていればよいため、部分的に設けられていてもよい。好ましくは画素領域、周辺回路領域の第1面全体に配するのがよい。
【0224】
実施例11の固体撮像素子900において、第1光学膜130の構成要素には、水素を所定範囲内の量だけ含有する酸化タンタル膜が含まれている。光吸収が少なく透過率が高いため、光電変換部600に到達する撮像光量の低減を抑制することができる。なお、第1光学膜130は、単層のものでもよいし、複数の層を積層したものであってもよい。好ましい第1光学膜130の構成として、例えば、半導体基板2の側から順に、酸化アルミニウム膜と、水素を所定範囲内の量だけ含有する酸化タンタル膜を積層したものが挙げられる。
【0225】
第1光学膜130としては、屈折率の異なる複数の層が積層されたものが好ましい。本実施例では、半導体基板2の側から順に、半導体基板2よりも屈折率の低い第1屈折率の層と、第1屈折率の層よりも屈折率の低い第2屈折率の層と、が積層されたものを用いている。これにより、第1光学膜130での全反射を低減することができるため、光を効率よく光電変換部600に入射させることができる。
【0226】
本実施例では、水素を所定範囲内の量だけ含有する酸化タンタル膜を、第1光学膜130に用いたが、光電変換部600に至るまでの撮像光の光路上に設けられる他の膜にこれを用いてもよい。尚、本実施例の固体撮像素子に関して、水素を所定範囲内の量だけ含有する酸化タンタル膜を用いること以外の部分については、特開2019-212737号公報が参考になるであろう。
【0227】
尚、本実施形態の固体撮像素子を製造する際には、カラーフィルタ180やマイクロレンズアレイ190を形成するための紫外線露光工程において、下地である酸化タンタル膜からの紫外線反射が抑制される。すなわち、パターニング精度を低下させる紫外線のハレーションが抑制されるため、カラーフィルタ180やマイクロレンズアレイ190を高い形状精度で形成できる効果を奏する。
【0228】
本実施例の撮像素子は、レンズ交換式カメラやレンズ一体式カメラをはじめとする種々のカメラや、スマートフォンや移動体(例えば、自動車、ドローン)用のカメラモジュール、紫外線カメラなどの撮像装置に好適に用いることができる。撮像素子が取得する画像は、静止画でも動画でもよい。撮像装置は、光源(例えば紫外線光源)を備えていてもよい。
【0229】
本実施例によれば、例えば、可視光を撮像するための撮像素子において、青色画素において青色光だけでなくUV光に対しても感度を持たせることで、増感させることができる。また、撮像素子は、R、G、Bの各色の受光部(画素)に加え、UV光を検知するための受光部(画素)を備える撮像素子や、UV光を撮像する画素だけを備えた撮像素子であってもよい。実施形態の撮像素子は、UV光を低損失で受光部に導くことが可能なため、高い感度を実現することができる。
【0230】
本実施例の撮像素子は、例えば、UV光(例えばj線)で照明した対象物を撮像し、可視光では検出が困難な微細なキズや欠陥を検出したり、プラスチック材料を選別する等の用途に適用することができる。あるいは、電力設備等を撮影し、放電検査や放電箇所を特定する用途に使用することができる。
【0231】
[実施形態3、4の変形例]
なお、本発明は、以上説明した実施形態や実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で多くの変形が可能である。たとえば、複数の実施形態を組み合わせることができる。また、実施形態の一部の事項の削除あるいは置換を行うことができる。また、実施形態に新たな事項の追加を行うことができる。
【0232】
本発明に係る光学構造体(例えば、反射防止構造あるいは反射構造)を構成する層の層数、各層の厚さ、低屈折率層に用いる材料、等は、例示した実施例に限られるものではない。要は、光学素子の光路中に、高屈折率層として、1.0at%以上かつ10.0at%未満の範囲内で水素を含有した酸化タンタルを配置した光学構造体であればよい。特に、3.0at%以上の含有量、また、9.0at%以下の含有量で水素を含有する酸化タンタル膜を用いた光学構造体が好適である。
【0233】
本発明を実施した光学構造体は、例えば290nm以上かつ500nm以下の範囲内のいずれかの波長の光の光路上に設けるのが好適であるが、当該光路に上記範囲外の光が入射するものであってもよい。
【0234】
本発明に係る高屈折率膜を備えた光学素子は、露光装置、各種のカメラ、交換レンズなどの光学機器に用いることができる。これらの光学機器においては、所定量の水素を含有する酸化タンタル膜がコーティングされた光学素子を含む複数の光学部品の他に、複数の光学部品を保持する保持部品(例えばミラーホルダ)を備えうる。紫外光源を備えた露光装置(例えば、フラットパネルディスプレイ製造用)において、レンズに実施形態の反射防止構造を設ける、及び/またはミラーに実施形態の反射構造を設けることにより、露光装置の露光性能を向上させることができる。
【0235】
酸化タンタル膜は、高誘電率膜として、光学素子に限らず、トランジスタや容量などの電気素子にも適用できる。例えば、半導体素子であるMOSFETやTFTのゲート絶縁膜や、容量素子の電極間の絶縁膜(誘電体膜)に適用できる。これらの電気素子において、非晶質の酸化タンタルの水素含有量を1.0at%以上とすることで、少ないリーク電流を達成することができ、高性能の電気素子を実現できる。なお、結晶質(単結晶や多結晶)の酸化タンタル膜では、水素含有量を1.0at%未満にする場合に対して、水素含有量を1.0at%以上にする利点は見出せなかった。上述した固体撮像素子900における各種トランジスタの少なくとも何れかのゲート絶縁膜に、酸化タンタル膜を採用することもできる。高誘電率膜は、各種のトランジスタのゲート絶縁膜として広く適用可能であり、メモリ、プロセッサ、ロジックICをはじめとする各種の半導体素子や、スマートフォンやパソコンをはじめとする各種の電子機器において実施することができる。
【0236】
本実施形態を適用可能な電子機器は、スマートフォンやパーソナルコンピュータのような情報機器、モデムやルーターなどの通信機器であってもよい。あるいは、電子機器は、プリンタや複写機のような事務機器、X線撮影装置や内視鏡などの医療機器、ロボットや半導体製造装置などの産業機器、車両や飛行機、船舶などの輸送機器であってもよい。
【0237】
以上、説明した実施形態は、技術思想を逸脱しない範囲において適宜変更が可能である。たとえば複数の実施形態を組み合わせることができる。また、少なくとも1つの実施形態の一部の事項の削除あるいは置換を行うことができる。また、少なくとも1つの実施形態に新たな事項の追加を行うことができる。
【0238】
本実施形態の開示は、以下の構成を含む。
(構成1)
非晶質の遷移金属酸化物を主成分として含み、水素の含有量が1.0at%以上であり、光学膜であることを特徴とする膜。
(構成2)
非晶質の遷移金属酸化物を主成分として含み、水素の含有量が1.0at%以上であり、遷移金属の含有量と、酸素の含有量と、水素の含有量と、アルゴンの含有量と、の和が99.0at%以上であることを特徴とする膜。
(構成3)
水素の含有量が、遷移金属の含有量および酸素の含有量よりも小さく、アルゴンの含有量よりも大きい、構成1または2に記載の膜。
(構成4)
水素の含有量が、遷移金属の含有量の半分以下である、構成1乃至3のいずれか1項に記載の膜。
(構成5)
前記遷移金属酸化物は3~6族の遷移金属の酸化物である、構成1乃至4のいずれか1項に記載の膜。
(構成6)
前記遷移金属酸化物は4族または5族の遷移金属の酸化物である構成1乃至4のいずれか1項に記載の膜。
(構成7)
前記遷移金属酸化物は酸化ハフニウムである、構成1乃至4のいずれか1項に記載の膜。
(構成8)
水素の含有量が、16.0at%以下である、構成7に記載の膜。
(構成9)
水素の含有量が、6.0at%以上である、構成7または8に記載の膜。
(構成10)
ジルコニウムの含有量が、0.05at%以上かつ0.5at%以下である、構成7乃至9のいずれか1項に記載の膜。
(構成11)
波長が280nmである光に対する屈折率が2.15以上であり、波長が280nmである光に対する吸収率が0.2%以下である、構成7乃至10のいずれか1項に記載の膜。
(構成12)
前記遷移金属酸化物は酸化タンタルである、構成1乃至4のいずれか1項に記載の膜。
(構成13)
前記水素の含有量が、10.0at%未満である、構成12に記載の膜。
(構成14)
前記水素の含有量が、3.0at%以上である、構成12または13に記載の膜。
(構成15)
波長が313nmの光に対する吸収率が0.40%以下であり、波長が313nmの光に対する屈折率が2.40以上である、構成12乃至14のいずれか1項に記載の膜。
(構成16)
前記遷移金属酸化物は酸化ジルコニウムまたは酸化チタンである、構成1乃至4のいずれか1項に記載の膜。
(構成17)
アルゴンの含有量が、0.5at%以上かつ5.0at%以下である、構成1乃至16のいずれか1項に記載の膜。
(構成18)
シリコン、炭素および窒素のそれぞれの含有量が、0.5at%未満である、構成1乃至17のいずれか1項に記載の膜。
(構成19)
前記膜の厚さは10nm以上かつ1000nm以下である、構成1乃至18のいずれか1項に記載の膜。
(構成20)
基体と、前記基体の上に形成された光学構造体と、を備える光学素子であって、前記光学構造体が、構成1乃至19のいずれか1項に記載の膜を含む、ことを特徴とする素子。
(構成21)
前記光学構造体は、前記膜と、前記膜よりも屈折率が小さい膜と、を交互に積層した構造を有する、ことを特徴とする構成20に記載の素子。
(構成22)
前記光学構造体が、反射防止構造を有する、ことを特徴とする構成20または21に記載の素子。
(構成23)
前記光学構造体が、反射構造を有する、ことを特徴とする構成20または21に記載の素子。
(構成24)
前記基体が電気光学構造を有する、ことを特徴とする構成20乃至23のいずれか1項に記載の素子。
(構成25)
構成20乃至24のいずれか1項に記載の素子と、前記素子を含む複数の光学素子を保持する保持部品と、を備える、ことを特徴とする機器。
(構成26)
構成20乃至24のいずれか1項に記載の素子と、前記膜に照射する光を生成する光源と、を有する、ことを特徴とする機器。
(構成27)
前記光は、紫外光である、ことを特徴とする構成26に記載の機器。
(構成28)
構成24に記載の素子と、前記電気光学構造を電気的に制御するためのコントローラと、を備える、ことを特徴とする機器。
(構成29)
構成1乃至19のいずれか1項に記載の膜と、電極である第1部分と、半導体層または電極である第2部分と、を備え、前記膜が、前記第1部分と前記第2部分との間に配されている素子。
(構成30)
構成29に記載の素子と、前記素子を電気的に制御するためのコントローラと、を備える、ことを特徴とする機器。
【0239】
本明細書の開示内容は、本明細書に明示的に記載したことのみならず、本明細書および本明細書に添付した図面から把握可能な全ての事項を含む。また本明細書の開示内容は、本明細書に記載した個別の概念の補集合を含んでいる。すなわち、本明細書に例えば「AはBである」旨の記載があれば、たとえ「AはBでない」旨の記載を省略していたとしても、本明細書は「AはBでない」旨を開示していると云える。なぜなら、「AはBである」旨を記載している場合には、「AはBでない」場合を考慮していることが前提だからである。
【0240】
また、本明細書で例示した具体的な数値範囲について、e~fという記載(e、fは数字)は、e以上および/またはf以下という意味である。また、例示した具体的な数値範囲について、i~jという範囲およびm~nという範囲が併記(i、j、m、nは数字))してある場合には、下限と上限の組は、iとjの組またはmとnの組に限定されるものではない。例えば、複数の組の下限と上限を組み合わせて検討もよい。すなわち、i~jという範囲およびm~nという範囲が併記してある場合には、矛盾が生じない範囲において、i~nという範囲で検討を行ってもよいし、m~jという範囲で検討を行ってもよいものである。また、e以上であることは、eであるかeよりも大きい(eを超える)ことを意味し、eを採用せずにeよりも大きい値を採用してもよい。また、f以下であることは、fであるかfよりも小さい(f未満)ことを意味し、fを採用せずにfよりも小さい値を採用してもよい。
【符号の説明】
【0241】
[実施形態1、2] 101・・・基体/102・・・光学構造体/102a・・・高屈折率層/102b・・・低屈折率層/130・・・半導体素子/133・・・半導体層/131a・・・nチャネルMOSFET/131b・・・pチャネルMOSFET/132a、132b・・・ゲート絶縁膜/140・・・半導体素子/141・・・ガラス基板/142・・・ゲート絶縁膜/143・・・半導体層/144・・・ソース電極/145・・・ドレイン電極/146・・・ゲート電極/147・・・保護膜/150・・・撮像素子/151・・・半導体基板/152・・・n型領域/153・・・p型領域/154・・・素子分離領域/155・・・p型半導体ウェル領域/156・・・ゲート電極/157・・・層間絶縁膜/158・・・多層配線/160・・・反射防止構造/161・・・酸化シリコン膜/162・・・酸化ハフニウム膜/163・・・遮光膜/164・・・平坦化膜/165・・・オンチップカラーフィルタ/166・・・オンチップマイクロレンズ/200・・・スパッタリング成膜装置/201・・・真空チャンバー/204・・・アルゴンガス導入ポート/205・・・酸素ガス導入ポート/206・・・水素ガス導入ポート/207・・・磁石機構/208・・・基体保持機構/210・・・スパッタリングターゲット/211・・・バッキングプレート/900・・・光学素子/901・・・石英基板/902・・・光学構造体/902a・・・高屈折率層/902b・・・低屈折率層/1001・・・アルミニウム/1002・・・光学構造体/1002a・・・高屈折率層/1002b・・・低屈折率層
【0242】
[実施形態3、4] 100・・・光学素子/101・・・基体/102・・・光学構造体/102a・・・高屈折率層/102b・・・低屈折率層/200・・・スパッタリング成膜装置/201・・・真空チャンバ/202・・・排気系/203・・・電源/204・・・アルゴンガス導入ポート/205・・・酸素ガス導入ポート/206・・・水素ガス導入ポート/207・・・磁石機構/208・・・基体保持機構/210・・・スパッタリングターゲット/211・・・バッキングプレート/500・・・光学素子/501・・・基体/502・・・光学構造体/502a・・・高屈折率層/502b・・・低屈折率層/800・・・光学素子/801・・・基体/802・・・光学構造体/802a・・・高屈折率層/802b・・・低屈折率層
図1
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