(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】消火システム
(51)【国際特許分類】
A62C 27/00 20060101AFI20240415BHJP
B64C 13/20 20060101ALI20240415BHJP
B64C 39/02 20060101ALI20240415BHJP
B64D 37/32 20060101ALI20240415BHJP
【FI】
A62C27/00 507
B64C13/20 Z
B64C39/02
B64D37/32
(21)【出願番号】P 2022126378
(22)【出願日】2022-08-08
【審査請求日】2023-08-18
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000233826
【氏名又は名称】能美防災株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100147566
【氏名又は名称】上田 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100161171
【氏名又は名称】吉田 潤一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100188514
【氏名又は名称】松岡 隆裕
(72)【発明者】
【氏名】山口 祥吾
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2022-519197(JP,A)
【文献】国際公開第2019/009424(WO,A1)
【文献】特開2007-222534(JP,A)
【文献】国際公開第2021/174291(WO,A1)
【文献】特開2019-141481(JP,A)
【文献】特開2019-205490(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62C 27/00
B64C 13/20
B64C 39/02
B64D 37/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠隔制御指令を送信するリモートコントローラと、
前記遠隔制御指令に基づいて飛行可能な飛行ロボットと
を備え、火源の消火作業を行う消火システムであって、
前記飛行ロボットは、
周囲の空気から窒素と酸素を分離する分離装置と、
前記分離装置により分離された窒素を噴射する
複数の噴射部と、
前記
複数の噴射部
のそれぞれから噴射させる前記窒素の噴射量を制御することにより前記遠隔制御指令に基づき火源へと前記飛行ロボットを移動させるとともに、前記
複数の噴射部
のそれぞれから噴射された前記窒素により形成された局所空間によって前記火源を取り囲むように前記飛行ロボットの位置決めをし、前記火源への酸素供給量を下げることで消火作業を実行する制御部と
を備えた消火システム。
【請求項2】
遠隔制御指令を送信するリモートコントローラと、
前記遠隔制御指令に基づいて飛行可能な飛行ロボットと
を備え、火源の消火作業を行う消火システムであって、
前記飛行ロボットは、
複数の分離装置と、
前記リモートコントローラから送信された前記遠隔制御指令に基づいて前記複数の分離装置のそれぞれを制御することで、前記飛行ロボットの位置決め制御を実行する制御部と
を備え、
前記複数の分離装置のそれぞれは、
周囲の空気から圧縮空気を生成する高圧送風機と、
前記圧縮空気に含まれる窒素と酸素を分離するセパレータと、
前記セパレータにより分離された前記窒素をあらかじめ決められた第1方向に噴射する噴射部と、
前記セパレータにより分離された前記酸素を前記第1方向とは異なる、あらかじめ決められた第2方向に排出する排気管と
を有し、
前記制御部は、前記複数の分離装置が有するそれぞれの前記噴射部から前記第1方向に噴射させる前記窒素の噴射量を前記遠隔制御指令に基づいて調整し、前記窒素を使用して前記火源を消火するために適した位置に前記飛行ロボットを移動させるとともに、それぞれの前記噴射部から噴射された前記窒素により形成された複数の局所空間によって前記火源を取り囲むように前記位置決め制御を実行し、前記火源への酸素供給量を下げることで前記消火作業を実行する
消火システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、飛行ロボットを用いた消火システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ドローンのような、遠隔操作あるいは自動制御にて無人で飛行可能な飛行ロボットを消火作業に適用する技術がある(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に開示された飛行ロボットは、飛行しながら露出した消火用ノズルを把持し、消火用ホースとともに放水位置まで消火用ノズルを運搬し、火源に放水して消火する。
【0003】
この結果、特許文献1に係る消火システムは。遮蔽物があっても効率よく消火活動を行うことで、今まで以上に避難者の安全を確保できるとともに、屋内、廊下等の美観を損ねず、施工コストが少ない消火システムを提供することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術には、以下のような課題がある。
特許文献1に係る消火システムは、消火作業のために水を使用する。従って、水損などの二次的な災害が発生する可能性があり、水による消火に適さない環境には適用できず、適用範囲が限定されてしまう。
【0006】
また、特許文献1に係る消火システムで用いられている飛行ロボットは、周囲の空気を下方に向けて送ることで浮上する。このため、火源に向けて酸素を供給してしまう結果となり、火災を増長させてしまうおそれがある。
【0007】
本開示は、上記の課題を解決するためになされたものであり、水損のおそれがなく、かつ、火災の増長を抑制できる消火システムを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係る消火システムは、遠隔制御指令を送信するリモートコントローラと、遠隔制御指令に基づいて飛行可能な飛行ロボットとを備え、火源の消火作業を行う消火システムであって、飛行ロボットは、周囲の空気から窒素と酸素を分離する分離装置と、分離装置により分離された窒素を噴射する複数の噴射部と、複数の噴射部のそれぞれから噴射させる窒素の噴射量を制御することにより遠隔制御指令に基づき火源へと飛行ロボットを移動させるとともに、複数の噴射部のそれぞれから噴射された窒素により形成された局所空間によって火源を取り囲むように飛行ロボットの位置決めをし、火源への酸素供給量を下げることで消火作業を実行する制御部とを備えたものである。
また、本開示に係る消火システムは、遠隔制御指令を送信するリモートコントローラと、遠隔制御指令に基づいて飛行可能な飛行ロボットとを備え、火源の消火作業を行う消火システムであって、飛行ロボットは、複数の分離装置と、リモートコントローラから送信された遠隔制御指令に基づいて複数の分離装置のそれぞれを制御することで、飛行ロボットの位置決め制御を実行する制御部とを備え、複数の分離装置のそれぞれは、周囲の空気から圧縮空気を生成する高圧送風機と、圧縮空気に含まれる窒素と酸素を分離するセパレータと、セパレータにより分離された窒素をあらかじめ決められた第1方向に噴射する噴射部と、セパレータにより分離された酸素を第1方向とは異なる、あらかじめ決められた第2方向に排出する排気管とを有し、制御部は、複数の分離装置が有するそれぞれの噴射部から第1方向に噴射させる窒素の噴射量を遠隔制御指令に基づいて調整し、窒素を使用して火源を消火するために適した位置に飛行ロボットを移動させるとともに、それぞれの噴射部から噴射された窒素により形成された複数の局所空間によって火源を取り囲むように位置決め制御を実行し、火源への酸素供給量を下げることで消火作業を実行するものである。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、水損のおそれがなく、かつ、火災の増長を抑制できる消火システムを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の実施の形態1に係る消火システムに関する説明図である。
【
図2】本開示の実施の形態1における飛行ロボットに複数搭載される分離装置の内部構成を示した図である。
【
図3】本開示の実施の形態1における飛行ロボットに関する機能ブロック図である。
【
図4】本開示の実施の形態2における飛行ロボットに関する機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の消火システムの好適な実施の形態につき、図面を用いて説明する。
本開示に係る消火システムは、空気から分離生成された窒素により、火源の近傍においてホバリングできるように飛行ロボットを遠隔制御し、窒素により形成された複数の局所空間によって火源を取り囲んで火源への酸素供給量を減らすことで、消火を行うことを技術的特徴とするものである。
【0012】
実施の形態1.
図1は、本開示の実施の形態1に係る消火システムに関する説明図である。本実施の形態1に係る消火システムは、制御部20および複数の分離装置10が搭載された飛行ロボット100と、リモートコントローラ50とで構成されている。飛行ロボット100は、外部からの遠隔制御指令に基づいて無人で飛行可能であり、飛行ロボット100の具体例としてはドローンが挙げられる。
【0013】
図1では、複数の分離装置10として、2つの分離装置10(1)、10(2)により構成されている場合を例示している。分離装置10は、火災規模、監視環境など、用途に応じて適宜適切な台数とすることができる。
【0014】
リモートコントローラ50は、操作部51および表示部52を有している。オペレータは、リモートコントローラ50を操作することで、飛行ロボット100を所望の位置に移動させるための遠隔制御指令を送信することができる。
【0015】
図2は、本開示の実施の形態1における飛行ロボット100に複数搭載される分離装置10の内部構成を示した図である。複数の分離装置10のそれぞれは、同一構成を有しており、高圧送風機11、セパレータ12、噴射部13、および排気管14を有して構成されている。
【0016】
高圧送風機11は、周囲の空気を取り込むことで圧縮空気を生成する。セパレータ12は、高圧送風機11で生成された圧縮空気を取り込み、圧縮空気に含まれている窒素と酸素を分離する。このセパレータ12としては、例えば、宇部興産(株)製の窒素分離膜装置を適用することができる。
【0017】
噴射部13は、セパレータ12により分離生成された窒素を、あらかじめ決められた第1方向に噴射する。本開示に係る消火システムは、空気から分離生成された窒素により、火源の近傍においてホバリングできるように飛行ロボット100の位置を遠隔制御する点を第1の技術的特徴としている。さらに、本開示に係る消火システムは、
図1に示したように、第1方向に噴射された窒素により形成された複数の局所空間によって火源を取り囲むことで、火源への酸素供給量を下げて消火を行うことを第2の技術的特徴としている。
【0018】
排気管14は、セパレータ12により分離された酸素を第1方向とは異なる方向としてあらかじめ決められた第2方向に排出する。
図1に示したように、セパレータ12により分離された酸素は、排気管14を経由して局所空間とは異なる方向である第2方向に向けて排出され、結果的に、火源への酸素供給量を下げることができる。
【0019】
上述した第1の技術的特徴および第2の技術的特徴は、飛行ロボット100が備える制御部によって実行される。そこで、制御部の機能について、
図3を用いて詳細に説明する。
図3は、本開示の実施の形態1における飛行ロボット100に関する機能ブロック図である。なお、
図3では、1台目の分離装置10(1)の機能ブロックに関して図示し、2台目の分離装置10(2)の機能ブロックに関しては図示を省略している。
【0020】
飛行ロボット100は、複数の分離装置10、および制御部20を備えている。制御部20は、複数の分離装置10を統括制御するとともに、リモートコントローラ50との通信制御を行う。
【0021】
制御部20は、リモートコントローラ50から、飛行ロボット100を所望の位置に移動させるための遠隔制御指令を受信する。そして、制御部20は、複数の分離装置10が有するそれぞれの噴射部13から第1方向に噴射させる窒素の噴射量を、受信した遠隔制御指令に基づいて調整する。
【0022】
具体的には、制御部20は、窒素を使用して火源を消火するために適した位置に飛行ロボット100を移動させるとともに、それぞれの噴射部13から噴射された窒素により形成された複数の局所空間によって、火源を取り囲むように位置決め制御を実行する。この結果、飛行ロボット100を用いて、火源への酸素供給量を下げ、酸素濃度を下げて消火作業を実行することができる。
【0023】
本実施の形態1に係る消火システムによれば、以下のような効果を実現できる。
(効果1)環境面での効果
本実施の形態1に係る消火システムは、水を使用せずに、火源に対して窒素による局所空間を形成し、火源への酸素供給量を下げることで局所的な酸欠状態を作り消火を行っている。従って、水損などの二次的な災害が発生することがなく、種々の環境に対して適用可能となる。
【0024】
また、局所空間を形成することで、呼吸はできるが着火しない環境を局所的に作ることができる。従って、放水をせず、環境に悪影響を与えることなしに、局所空間を形成して消火試験を実施することが可能となる。さらに、周囲の空気を使用して消火を行うことができるため、環境にやさしいシステムを実現できる。
【0025】
(効果2)費用面での効果
在来設備は、設置コスト、機器更新コストが高額であった。これに対して、本実施の形態1に係る消火システムは、配管が不要であり、水も使用しないため、水源や消火剤貯蔵タンクが不要となり、凍結の心配もない。従って、設備の初期費用、維持費用を削減することができる。
【0026】
(効果3)適用範囲拡大の効果
本実施の形態1に係る飛行ロボットは、配線、配管なしに、リモートコントローラを用いて遠隔制御することが可能である。従って、大空間など、広範囲の警戒に適したシステムを実現できる。
【0027】
また、スプリンクラを用いた消火システムでは、例えば10m以下の高さの空間しか監視できず、感知能力に限界があった。さらに、スプリンクラを用いた消火システムでは、ピンポイントで火源を判別できないため、広範囲に放水を行うことになり、効果的な消火が実現できないおそれがあった。
【0028】
これに対して、本実施の形態1に係る飛行ロボットは、大空間に対しても適用でき、かつ、ピンポイントで火源を判別でき、適用範囲の拡大を図ることができる。
【0029】
実施の形態2.
本実施の形態2では、飛行ロボット100にカメラを搭載し、カメラで撮像した画像データをリモートコントローラ50の表示部52に表示できる付加機能を備えたシステム構成について説明する。
【0030】
図4は、本開示の実施の形態2における飛行ロボットに関する機能ブロック図である。本実施の形態2に係る
図4に示した機能ブロック図は、先の実施の形態1に係る
図3に示した機能ブロック図と比較すると、制御部20によって制御される機能として、カメラ30をさらに備えている点が異なっている。
【0031】
なお、先の
図1では、飛行ロボット100にカメラ30が搭載された状態が例示されている。そこで、カメラ30関連の機能を中心に、以下に説明する。
【0032】
カメラ30は、飛行ロボット100に搭載され、第1方向を撮像した画像データを生成する。すなわち、カメラ30は、窒素によって形成される局所空間で囲まれる領域の画像データを撮像することができる。制御部20は、カメラ30により撮像された画像データを、リモートコントローラ50に対して送信する。
【0033】
リモートコントローラ50は、制御部20から送信された画像データを受信し、表示部52に表示させることで、飛行ロボット100から第1方向を見た画像情報をオペレータに提供する。
【0034】
従って、リモートコントローラ50を操作するオペレータは、表示部52に表示された画像データを参照しながら、飛行ロボット100を火源に対する所望の位置へ容易に移動させることができる。この結果、火源を消火するための適切な位置に飛行ロボット100を迅速に誘導し、消火作業を実施することができる。
【0035】
また、カメラとともに熱感知器を搭載する、あるいはカメラとして赤外線カメラを用いるなどの対応を取ることで、高温部分をより確実に特定できる機能を持たせることができる。この結果、火源位置を迅速に特定し、効果的な消火作業を行うことができる。
【0036】
また、このようなカメラ機能を備えることで、飛行ロボット100を消火作業に用いるだけでなく、重要施設、文化財などの監視作業にも用いることができ、火災を未然に防ぐ役割を果たすことができる。
【0037】
本実施の形態2に係る消火システムによれば、先の実施の形態1における効果1~効果3に加え、以下のようなさらなる効果を実現できる。
(効果4)消火作業の迅速化面での効果
オペレータは、飛行ロボット100から第1方向を見た画像情報を参照することで、火源位置に対して飛行ロボット100を迅速に誘導し、適切な位置で窒素により形成した局所空間を利用した消火作業を実施することができる。
【0038】
また、撮像エリア内での高温部分を特定できる機能を備えることで、火源位置を迅速に特定し、効果的な消火作業を行うことができる。
【0039】
(効果5)画像情報を利用した応用面での効果
飛行ロボットから第1方向を見た画像情報を参照することで、火災が発生する前段階での火災監視に適用することができる。特に、先の効果3でも説明したように、本開示に係る飛行ロボットによれば、大空間に適用することができ、重要施設、文化財、公共施設など、種々の火災監視に適用できる。
【0040】
なお、本開示に係るリモートコントローラ50は、火災受信機、上位装置などの他のシステムと相互通信を行うことで、火源位置情報を取得することができる。このような場合には、リモートコントローラ50は、取得した火源位置情報に基づいて、あらかじめ設定された空間座標系の適切な位置に飛行ロボット100を移動させるための遠隔制御指令を生成し、飛行ロボット100の飛行制御を実施することが可能である。
【0041】
また、本開示に係るリモートコントローラ50は、カメラ30から得られた画像情報を他のシステムへ転送することも可能である。
【0042】
また、火災の大きさ、あるいは火災監視環境に応じて、飛行ロボットを複数台用いて消火作業を行うことも可能である。
【0043】
また、リモートコントローラの代わりに、携帯端末、現場に設置される制御盤等を利用することも考えられる。
【0044】
また、本実施の形態1では、飛行ロボットで説明したがセパレータを車両の様な自走ロボットに搭載して、飛行ロボットと同様に自走ロボットを火源に向かわせて消火作業を実行するようにしてもよい。その場合に、車輪を駆動して自走してもよいし、セパレータで分離した窒素を後方に噴射して駆動するようにしてもよいし、火源近くまでは窒素と酸素を後方に噴射して、火源には窒素のみを噴射するようにしてもよい。
【0045】
また、上述した実施の形態1、2では、飛行ロボットが複数の分離装置を備える消火システムについて説明したが、このような構成に限定されるものではない。例えば、複数の噴射部を有する1つの分離装置を備える構成、あるいは、ノズルの方向を可変制御可能な1つの噴射部を有する1つの分離装置を備えるような構成を採用することによっても、同様の効果を実現できる。
【符号の説明】
【0046】
10 分離装置、11 高圧送風機、12 セパレータ、13 噴射部、14 排気管、20 制御部、30 カメラ、50 リモートコントローラ、51 操作部、52 表示部、100 飛行ロボット。