(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】ポリマー樹脂及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 63/199 20060101AFI20240415BHJP
C08G 63/78 20060101ALI20240415BHJP
C08G 63/85 20060101ALI20240415BHJP
【FI】
C08G63/199
C08G63/78
C08G63/85
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022152082
(22)【出願日】2022-09-26
【審査請求日】2022-09-26
(32)【優先日】2021-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】501296612
【氏名又は名称】南亞塑膠工業股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】NAN YA PLASTICS CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100195017
【氏名又は名称】水間 章子
(72)【発明者】
【氏名】廖 ▲テ▼超
(72)【発明者】
【氏名】呂 ▲ウェン▼華
(72)【発明者】
【氏名】陳 其霖
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-530000(JP,A)
【文献】特表2002-512279(JP,A)
【文献】特開昭55-069619(JP,A)
【文献】特開2003-113257(JP,A)
【文献】特表2002-514229(JP,A)
【文献】特表2016-530172(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G63
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の化学式1で表されるポリエチレンテレフタレートのコポリマーを含み、
【化1】
[化学式1]
前記化学式1中、Rは、
化学式2又は化学式3の残基であり、
【化2】
[化学式2];
【化3】
[化学式3]、nは、1から20であり、mは1から20である、ポリマー樹脂。
【請求項2】
前記ポリエチレンテレフタレートのコポリマーのガラス転移温度は、摂氏80度超である、請求項1に記載のポリマー樹脂。
【請求項3】
エチレングリコール、テレフタル酸、及びシクロアルカンジオールの重合反応を行い、以下の化学式1で表されるポリエチレンテレフタレートのコポリマーを得ることを含み、
【化4】
[化学式1]
前記化学式1中、Rは、
化学式2又は化学式3の残基であり、
【化5】
[化学式2];
【化6】
[化学式3]、nは、1から20であり、mは、1から20である、ポリマー樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記シクロアルカンジオールは、以下の化学式8
又は化学式9である、
【化7】
[化学式8];
【化8】
[化学式9]、請求項
3に記載のポリマー樹脂の製造方法。
【請求項5】
前記エチレングリコール、前記テレフタル酸、及び前記シクロアルカンジオールの重合反応を行うことは、
前記エチレングリコール、前記テレフタル酸、及び前記シクロアルカンジオールをエステル化槽に添加して、前記エステル化槽を加熱することと、
前記エステル化槽内の前記エチレングリコール、前記テレフタル酸、及び前記シクロアルカンジオールのエステル化反応を大気圧下で行い前記エステル化槽内の余剰水を除去することと、エステル化物を生成させることと、
前記エステル化物を重縮合槽に移すことと、前記エステル化物の常圧予備重合反応を行うことと、
前記重縮合槽内の圧力を前記大気圧から20torrまで徐々に減少させることと、前記重縮合槽を加熱することと、
前記重縮合槽内の圧力を20torrから1torrまで減少させることと、を含む、請求項
3に記載のポリマー樹脂の製造方法。
【請求項6】
触媒、酸化防止剤、及びチタン酸テトライソプロピルを前記重縮合槽に添加することを更に含む、請求項
5に記載のポリマー樹脂の製造方法。
【請求項7】
前記ポリエチレンテレフタレートのコポリマーのガラス転移温度は、摂氏80度超で
ある、請求項
5に記載のポリマー樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はポリマー樹脂に関し、より詳細には、ポリエチレンテレフタレート(PET)のコポリマー及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(PET)は、耐薬品性及び電気絶縁性に優れ、高強度及び高剛性などの特性を有する。したがって、PETは、繊維、フィルム及びプラスチックボトルなどに多く応用される。
【0003】
一般的に、ポリエチレンテレフタレートは、エチレングリコールとテレフタル酸とのエステル化及び重縮合によって製造される。従来のポリエチレンテレフタレートは、靭性及び耐衝撃性が不十分であり、加熱後に寸法変化を起こしやすい。そのため、エンジニアリングプラスチックには適していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、ポリエチレンテレフタレートの衝撃強度及び熱安定性を改善し得るポリマー樹脂を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、ポリエチレンテレフタレートの衝撃強度及び熱安定性を改善し得るポリマー樹脂の製造方法を提供する。
【0006】
本開示の少なくとも一つの実施形態は、以下の化学式1で表されるポリエチレンテレフタレートのコポリマーを含むポリマー樹脂を提供する。
【化1】
[化学式1]
化学式1中、Rは、シクロアルカンジオールの残基であり、nは、1から20であり、mは、1から20である。
【0007】
実施形態において、化学式1中のRは、以下の化学式2から化学式7のいずれか1つから選択される。
【化2】
[化学式2]
【化3】
[化学式3]
【化4】
[化学式4]
【化5】
[化学式5]
【化6】
[化学式6]
【化7】
[化学式7]
化学式7中、R’は、水素、ベンゼン環、又は炭素数1から4のアルキル基である。
【0008】
実施形態において、ポリエチレンテレフタレートのコポリマーのガラス転移温度は、摂氏80度超である。
【0009】
実施形態において、ポリエチレンテレフタレートのコポリマーの衝撃強度は、8KJ/m2超である。
【0010】
実施形態において、ポリエチレンテレフタレートのコポリマーの固有粘度は、0.5dl/gから1dl/gの間である。
【0011】
本開示の少なくとも一つの実施形態は、以下の工程を含むポリマー樹脂の製造方法を提供する。エチレングリコール、テレフタル酸、及びシクロアルカンジオールの重合反応を行い、以下の化学式1で表されるポリエチレンテレフタレートのコポリマーを得る。
【化8】
[化学式1]
化学式1中、Rは、シクロアルカンジオールの残基であり、nは1から20であり、mは1から20である。
【0012】
実施形態において、シクロアルカンジオールは、以下の化学式8から化学式13のいずれか1つから選択される。
【化9】
[化学式8]
【化10】
[化学式9]
【化11】
[化学式10]
【化12】
[化学式11]
【化13】
[化学式12]
【化14】
[化学式13]
化学式13中、R’は、水素、ベンゼン環、又は炭素数1から4のアルキル基である。
【0013】
実施形態において、エチレングリコール、テレフタル酸、及びシクロアルカンジオールの重合反応を行うことは、以下の工程を含む。エチレングリコール、テレフタル酸、及びシクロアルカンジオールの添加物をエステル化槽に加え、エステル化槽を加熱する。エステル化槽内のエチレングリコール、テレフタル酸、及びシクロアルカンジオールのエステル化反応を大気圧下で行い、エステル化槽内の余剰水を除去して、エステル化物を生成させる。エステル化物を重縮合槽に移し、エステル化物の常圧予備重合反応を行う。重縮合槽内の圧力を大気圧から20torrまで徐々に減少させて、重縮合槽を加熱する。重縮合槽内の圧力を、20torrから1torrまで減少させる。
【0014】
実施形態において、本製造方法は、触媒、酸化防止剤、及びチタン酸テトライソプロピルを重縮合槽に添加することを更に含む。
【0015】
実施形態において、ポリエチレンテレフタレートのコポリマーのガラス転移温度は摂氏80度超であり、衝撃強度は8KJ/m2超である。
【発明の効果】
【0016】
上記に基づいて、シクロアルカンジオールは、エチレングリコールの一部を置換して、ポリエチレンテレフタレートのコポリマーを合成するために使用される。したがって、ポリエチレンテレフタレートのコポリマーは、従来のポリエチレンテレフタレートよりも多くのシクロアルカン構造を含む。その結果、合成されたポリエチレンテレフタレートコポリマーは、高いガラス転移温度と高い衝撃強度とを有する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本開示の実施形態によるポリマー樹脂の製造方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書において、ある数値から別の数値によって表される範囲は、範囲内の数値の全てを明細書に記載することを避けるための簡略的な表現である。したがって、特定の数値範囲の記載は、明細書に明示的に記載された任意の数値及びより小さい数値範囲の場合と同様に、数値範囲内の任意の数値及び数値範囲内の任意の数値によって定義されるより小さい数値範囲を対象とする。
【0019】
本開示の実施形態において、エチレングリコール(EG)、テレフタル酸(PTA)、及びシクロアルカンジオールの重合反応を行い、以下の化学式1で表されるポリエチレンテレフタレートのコポリマーを得る。
【化15】
[化学式1]
【0020】
化学式1中、Rは、シクロアルカンジオールの残基であり、nは、1から20であり、mは、1から20である。
【0021】
いくつかの実施形態において、化学式1中のRは、以下の化学式2から化学式7のいずれか1つから選択される。
【化16】
[化学式2]
【化17】
[化学式3]
【化18】
[化学式4]
【化19】
[化学式5]
【化20】
[化学式6]
【化21】
[化学式7]
化学式7中、R’は、水素、ベンゼン環、又は炭素数1から4のアルキル基である。
【0022】
いくつかの実施形態において、ポリエチレンテレフタレートのコポリマーを合成する際に、使用されるシクロアルカンジオールは、以下の化学式8から化学式13から選択され得る。
【化22】
[化学式8]
【化23】
[化学式9]
【化24】
[化学式10]
【化25】
[化学式11]
【化26】
[化学式12]
【化27】
[化学式13]
化学式13中、R’は、水素、ベンゼン環、又は炭素数1から4のアルキル基である。
【0023】
この実施形態において、シクロアルカンジオールを使用してエチレングリコールの一部を置換し、ポリエチレンテレフタレートのコポリマーを合成する。したがって、ポリエチレンテレフタレートのコポリマーは、従来のポリエチレンテレフタレートよりも多くのシクロアルカン構造を含む。その結果、合成されたポリエチレンテレフタレートのコポリマーは、より高いガラス転移温度とより高い衝撃強度とを有する。例えば、化学式1で表されるポリエチレンテレフタレートのコポリマーのガラス転移温度は、摂氏80度超であり、衝撃強度は、8KJ/m2超である。
【0024】
図1は、本開示の実施形態によるポリマー樹脂の製造方法を示すフローチャートである。
【0025】
この実施形態において、ポリマー樹脂の製造方法は、エステル化反応及び重縮合反応などの反応を含む。
【0026】
図1を参照すると、エステル化反応は、工程S1及び工程S2を含む。工程S1において、エチレングリコール、テレフタル酸、及びシクロアルカンジオールをエステル化槽に加え、エステル化槽を加熱(例えば、摂氏230度から摂氏280度、好ましくは摂氏230度から摂氏260度まで加熱)する。いくつかの実施形態において、テレフタル酸90から100モルと、エチレングリコール20から50モルと、シクロアルカンジオール20から50モルとをエステル化槽に添加するが、本開示はこれに限定されない。エチレングリコール、テレフタル酸、及びシクロアルカンジオールの量は、実際の要求に応じて調整し得る。工程S2において、エステル化槽内のエチレングリコール、テレフタル酸、及びシクロアルカンジオールのエステル化反応を常圧(大気圧)下で行い、エステル化槽内の余剰水を除去して、エステル化物を生成させる。例えば、エステル化反応は、常圧のエステル化反応であり、常圧エステル化反応は、例えば、4時間行う。
【0027】
常圧のエステル化反応を行った後(例えば、エステル化反応の水排出が目標値に達した後)、重縮合反応を行う。重縮合反応は、工程S3と、工程S4と、工程S5とを含む。工程S3において、エステル化物を重縮合槽に移し、常圧予備重合反応を行う。いくつかの実施形態において、予備重合反応の反応温度は、例えば、摂氏230度から摂氏280度であり、好ましくは、摂氏230度から摂氏260度まで加熱する。いくつかの実施形態において、常圧予備重合反応は、例えば、1時間行う。いくつかの実施形態において、工程S3は、触媒(例えば三酸化アンチモン)、酸化防止剤(例えばリン酸トリフェニル(TPP))及びチタン酸テトライソプロピル(TIPT)などの添加剤を重縮合槽内に添加することを更に含む。次に、工程S4において、重縮合槽内の圧力を大気圧から20torrまで徐々に減少させて、重縮合槽を加熱する。いくつかの実施形態において、工程S4において、重縮合槽内の圧力を毎分10torrから30torrの速度で減少させ、重縮合槽を摂氏265度から摂氏280度まで加熱する。次に、工程S5において、重縮合槽内の圧力を20torrから1torrまで減少させて、重縮合反応を行う。いくつかの実施形態において、重縮合反応は、1時間行う。
【0028】
最後に、工程S6において、重縮合槽からポリエチレンテレフタレートのコポリマーを取り出す。例えば、窒素ガスを重縮合槽に導入し、合成されたポリエチレンテレフタレートのコポリマーを窒素ガスの圧力下で重縮合槽から押し出す。次に、水冷、ブレーシング、ダイシングなどの工程を経て、ポリエチレンテレフタレートのコポリマーの粒子を得る。いくつかの実施形態において、ポリエチレンテレフタレートのコポリマーの固有粘度は、0.5dl/gから1dl/gの間である。
【0029】
上記に基づいて、シクロアルカンジオールを使用して、エチレングリコールの一部を置換して、ポリエチレンテレフタレートのコポリマーを合成する。したがって、ポリエチレンテレフタレートのコポリマーは、従来のポリエチレンテレフタレートよりも多くのシクロアルカン構造を含む。その結果、合成されたポリエチレンテレフタレートコポリマーは、高いガラス転移温度と高い衝撃強度とを有する。
【0030】
以下に、本開示におけるポリエチレンテレフタレートのコポリマーのいくつかの例を挙げる。ただし、これらの例は、例示であり、本開示はこれらに限定されない。
【0031】
実施例1
テレフタル酸498gと、エチレングリコール130.2gと、(化学式8としての)[1,1’-ビ(シクロヘキサン)]-2,2’-ジオール396.7gとをバッチ槽に投入し、十分に撹拌し、スラリーを得る。実施例1のスラリー中、エチレングリコールと[1,1’-ビ(シクロヘキサン)]-2,2’-ジオールとのモル比は、1:1であり、スラリー中の酸とアルコールとのモル比は、1:1.05から1:1.5である。
【0032】
このスラリーのエステル化反応を常圧下で4時間行い、エステル化反応の温度を摂氏230度から摂氏280度に制御する。次に、エステル化反応後に生成したエステル化物を重縮合槽に移す。エステル化物の全重量を基準として、三酸化アンチモン0.1重量%と、チタン酸テトライソプロピル0.1重量%と、リン酸トリフェニル0.1重量%をそれぞれ加え、常圧の予備重合を1時間行う。その後、重縮合槽内の圧力を20torrまで徐々に下げ、重縮合槽の温度を摂氏265度から摂氏280度まで上昇する。その後、重縮合槽内の圧力を1torrまで減少させて、重縮合反応を1時間行う。最後に、窒素ガスを重縮合槽に導入し、合成されたポリエチレンテレフタレートのコポリマーを、窒素ガスの圧力下で重縮合槽から押し出す。次に、水冷、ブレーシング、ダイシングなどの工程を経て、ポリエチレンテレフタレートのコポリマーの粒子を得る。
【0033】
実施例2から実施例6
実施例1と同様の方法で、ポリエチレンテレフタレートのコポリマーを合成する。実施例2から実施例6と実施例1との相違点は、実施例1における[1,1’-ビ(シクロヘキサン)]-2,2’-ジオールに替えて、実施例2から実施例6では他のシクロアルカンジオールを用いる点である。具体的には、実施例2において、(化学式9としての)[1,1’-ビシクロヘキシル]-4,4’-ジオール396.6gを用いる。実施例3において、(化学式10としての)1,4-シクロヘキサンジオール209.1gを用いる。実施例4において、(化学式11としての)1,2-シクロヘキサンジオール209.2gを用いる。実施例5において、(化学式12としての)1,2-シクロペンタンジオール185.4gを用いる。実施例6において、(化学式13としてであり、R’は水素である)イソソルビド271.6gを用いる。
【0034】
表1に、実施例1から実施例6で合成されるポリエチレンテレフタレートのコポリマー及び従来のポリエチレンテレフタレート(比較例)の物性を示す。
【表1】
【0035】
表1から、実施例1から実施例6で合成されるポリエチレンテレフタレートコポリマーは、従来のポリエチレンテレフタレートよりも高いガラス転移温度と高い衝撃強度とを有することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本開示のポリエチレンテレフタレート(PET)のコポリマー及びその製造方法は、ポリエチレンテレフタレートに適用され得る。
【符号の説明】
【0037】
S1,S2,S3,S4,S5,S6:工程