(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】ヘッドアップ・ディスプレイを設定するための電子装置及び方法
(51)【国際特許分類】
G09G 5/00 20060101AFI20240415BHJP
G09G 5/38 20060101ALI20240415BHJP
H04N 5/66 20060101ALI20240415BHJP
【FI】
G09G5/00 550C
G09G5/38
G09G5/00 555G
H04N5/66 D
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022188806
(22)【出願日】2022-11-28
【審査請求日】2022-11-28
(32)【優先日】2022-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】504429600
【氏名又は名称】緯創資通股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】WISTRON CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100169823
【氏名又は名称】吉澤 雄郎
(72)【発明者】
【氏名】丁 筱▲ウェン▼
【審査官】塚本 丈二
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-240813(JP,A)
【文献】特開2015-160445(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0116977(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0224107(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09G 5/00-5/42
G09G 3/20
G02B 27/01
G02B 27/02
B60K 35/00-35/90
H04N 5/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッドアップ・ディスプレイを設定するための電子装置であって、
トランシーバと、
出力する統計値と理想的統計値との誤差に関連する損失関数によって学習させ、座標値と標準偏差及び正または負の符号を含む統計値とを入力とし、標準偏差及び正または負の符号を含む異なる時点の統計値を出力とする量子マシン学習モデルを記憶する記憶媒体と、
前記記憶媒体及び前記トランシーバに結合されたプロセッサとを具え、
該プロセッサは、
前記ヘッドアップ・ディスプレイが配備されている乗物の運転者の視線に対応する第1座標値を、前記トランシーバを通して取得して、前記第1座標値に対応する
、座標系における前記運転者の視線の標準偏差及び正または負の符号を含む統計値を得るステップと、
前記第1座標値及び前記統計値を前記量子マシン学習モデルに入力して、
前記座標系における前記運転者の視線の標準偏差及び正または負の符号を含む第1推定統計値を得るステップと、
前記第1座標値及び前記第1推定統計値によって、前記ヘッドアップ・ディスプレイの表示領域を設定するステップと
を実行する電子装置。
【請求項2】
前記プロセッサが、
前記乗物の速度を、前記トランシーバを通して取得するステップと、
前記速度によって前記表示領域のサイズを設定するステップと
をさらに実行し、前記
サイズは前記
速度に反比例する、請求項1に記載の電子装置。
【請求項3】
前記プロセッサが、
前記
運転者の前記視線に対応する平均注視時間、及び前記乗物の速度を、前記トランシーバを通して取得するステップ
であって、前記平均注視時間は異なる時点に対応する注視時間の平均値であり、前記注視時間は前記運転者が前記ヘッドアップ・ディスプレイによって投影される内容を注視している期間であるステップと、
前記速度によって
前記ヘッドアップ・ディスプレイの表示内容の情報量を決定するス
テップであって、該情報量は前記速度に反比例するステップと、
前記平均注視時間によって、前記ヘッドアップ・ディスプレイの表示内容を設定するステップであって、該表示内容の前記情報量は前記
平均注視時間に反比例するステップ
とをさらに実行する、請求項1に記載の電子装置。
【請求項4】
前記プロセッサが、
前記運転者の前記視線に対応する
、前記第1座標値とは異なる時点にある第2座標値を、前記トランシーバを通して取得するステップと、
前記第2座標値及び前記第1推定統計値を前記量子マシン学習モデルに入力して、
前記座標系における前記運転者の視線の標準偏差及び正または負の符号を含む、前記第1推定統計値とは異なる時点にある第2推定統計値を得るステップと、
前記第2座標値及び前記第2推定統計値によって、前記表示領域
の位置を
調整するステップと
をさらに実行する、請求項1に記載の電子装置。
【請求項5】
ヘッドアップ・ディスプレイを設定するための方法であって、
前記ヘッドアップ・ディスプレイが配備されている乗物の運転者の視線に対応する第1座標値を取得して、該第1座標値に対応する
、座標系における前記運転者の視線の標準偏差及び正または負の符号を含む統計値を得るステップと、
前記第1座標値及び前記統計値を
、出力する統計値と理想的統計値との誤差に関連する損失関数によって学習させ、座標値と標準偏差及び正または負の符号を含む統計値とを入力とし、標準偏差及び正または負の符号を含む異なる時点の統計値を出力とする量子マシン学習モデルに入力して、
前記座標系における前記運転者の視線の標準偏差及び正または負の符号を含む第1推定統計値を得るステップと、
前記第1座標値及び前記第1推定統計値によって、前記ヘッドアップ・ディスプレイの表示領域を設定するステップと
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッドアップ・ディスプレイを設定するための電子装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
関連技術の説明
現在、ヘッドアップ・ディスプレイ(HUD:head-up display)システムは、航空機または自動車を含む乗物の標準装備の1つになっている。ヘッドアップ・ディスプレイは、計器情報を運転者の視線の正面に投影するために用いられ、これにより運転者が計器パネルを頻繁に見下ろすことによって気を散らすことを防止する。拡張現実感(AR:augmented reality)技術の出現により、ヘッドアップ・ディスプレイによって提供される情報はより多様である。例えば、ヘッドアップ・ディスプレイシステムは、カメラのような装置を用いることによって乗物の外部環境情報を取得し、これにより、外部環境情報に応じたナビゲーション情報を生成して、このナビゲーション情報をフロントガラスに投影することができる。
【0003】
HUD技術は、ますます複雑になっており、ますます重要な役割を果たしているが、HUD技術には困難な問題が未だに存在し、即ち、HUDの投影画像が運転者の視線を遮って、運転者による道路状態の把握を低下させ得る。従って、HUDの投影画像が運転者の視線を遮ることを防止する方法は、当業者の目標の1つである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
技術課題
本発明は、ヘッドアップ・ディスプレイを設定するための電子装置及び方法を提供し、これらの装置及び方法はヘッドアップ・ディスプレイの表示領域を動的に調整することができる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
課題の解決策
本発明の、ヘッドアップ・ディスプレイを設定するための電子装置は、プロセッサと、記憶媒体と、トランシーバとを含む。記憶媒体は量子マシン学習モデルを記憶する。プロセッサは記憶媒体及びトランシーバに結合されている。プロセッサは次のことを実行する。人の視線に対応する第1座標値を、トランシーバを通して取得して、第1座標値に対応する統計値を得る。第1座標値及び統計値を量子マシン学習モデルに入力して、第1推定統計値を得る。第1座標値及び第1推定統計値によって、ヘッドアップ・ディスプレイの表示領域を設定する。
【0006】
本発明の好適例では、プロセッサがさらに次のことを実行する。乗物の速度を、トランシーバを通して取得する。この速度によって、表示領域のサイズを設定する。
【0007】
本発明の好適例では、上記速度が上記サイズに反比例する。
【0008】
本発明の好適例では、プロセッサがさらに次のことを実行する。人の視線に対応する平均注視時間を、トランシーバを通して取得する。この平均注視時間によって、ヘッドアップ・ディスプレイの表示内容を設定する。表示内容の情報量は平均注視時間に反比例する。
【0009】
本発明の好適例では、プロセッサがさらに次のことを実行する。乗物の速度を、トランシーバを通して取得する。この速度によって情報量を決定する。情報量はこの速度に反比例する。
【0010】
本発明の好適例では、プロセッサがさらに次のことを実行する。ヘッドアップ・ディスプレイの表示内容によって書き出し方向を判断する。この書き出し方向によって、表示領域内の表示内容の位置を決定する。
【0011】
本発明の好適例では、プロセッサがさらに次のことを実行する。量子マシン学習モデルの学習データを、トランシーバを通して取得する。学習データは、座標値の履歴、統計値の履歴、乗物に対応する速度の履歴、及び乗物に対応する相対的な交通の流れの履歴を含む。座標値の履歴、統計値の履歴、速度の履歴、及び相対的な交通の流れの履歴によって、人の視線に対応する理想的統計値を計算する。量子マシン学習モデルを損失関数によって学習させる。この損失関数は、量子マシン学習モデルが出力する統計値と理想的統計値との誤差に関連する。
【0012】
本発明の好適例では、プロセッサがさらに次のことを実行する。上記第1座標値及び上記統計値によって、量子マシン学習モデルが出力する複数の候補統計値のそれぞれに対応する複数の確率を得る。これらの確率によって、これらの候補統計値から、最大の確率に対応する候補統計値を上記第1推定統計値として選択する。
【0013】
本発明の好適例では、プロセッサがさらに次のことを実行する。上記視線に対応する第2座標値を、トランシーバを通して取得する。第2座標値及び上記第1推定統計値を量子マシン学習モデルに入力して、第2推定統計値を得る。第2座標値及び第2推定統計値に応じて、表示領域を設定する。
【0014】
本発明の好適例では、上記統計値が標準偏差及び正または負の符号を含む。
【0015】
本発明の、ヘッドアップ・ディスプレイを設定する方法は次のステップを含む。人の視線に対応する第1座標値を取得して、第1座標値に対応する統計値を得るステップ。第1座標値及び統計値を量子マシン学習モデルに入力して、第1推定統計値を得るステップ。第1座標値及び第1推定統計値によって、ヘッドアップ・ディスプレイの表示領域を設定するステップ。
【0016】
本発明の好適例では、上記方法が:乗物の速度を、トランシーバを通して取得するステップと;この速度によって、表示領域のサイズを設定するステップとをさらに含む。
【0017】
本発明の好適例では、上記速度が上記サイズに反比例する。
【0018】
本発明の好適例では、上記方法が:人の視線に対応する平均注視時間を、トランシーバを通して取得するステップと;平均注視時間によって、ヘッドアップ・ディスプレイの表示内容を設定するステップとをさらに含み、表示内容の情報量は平均注視時間に反比例する。
【0019】
本発明の好適例では、上記方法が:乗物の速度を、トランシーバを通して取得するステップと;この速度によって上記情報量を決定するステップとをさらに含み、上記情報量はこの速度に反比例する。
【0020】
本発明の好適例では、上記方法が:ヘッドアップ・ディスプレイの表示内容によって、書き出し方向を判断するステップと;書き出し方向によって、表示領域内の表示内容の位置を決定するステップとをさらに含む。
【0021】
本発明の好適例では、上記方法が:量子マシン学習モデルの学習データを、トランシーバを通して取得するステップであって、学習データは、座標値の履歴、統計値の履歴、乗物に対応する速度の履歴、及び乗物に対応する相対的な交通の流れの履歴を含むステップと;座標値の履歴、統計値の履歴、速度の履歴、及び相対的な交通の流れの履歴によって、人の視線に対応する理想的統計値を計算するステップと;量子マシン学習モデルを損失関数によって学習させるステップであって、この損失関数は、量子マシン学習モデルが出力する統計値と理想的統計値との誤差に関連するステップとをさらに含む。
【0022】
本発明の好適例では、上記方法が:上記第1座標値及び上記統計値によって、量子マシン学習モデルが出力する複数の候補統計値のそれぞれに対応する複数の確率を得るステップと;これらの確率によって、これらの候補統計値から、最大の確率に対応する候補統計値を上記第1推定統計値として選択するステップとをさらに含む。
【0023】
本発明の好適例では、上記方法が:上記視線に対応する第2座標値を、トランシーバを通して取得するステップと;第2座標値及び上記第1推定統計値を量子マシン学習モデルに入力して、第2推定統計値を得るステップと;第2座標値及び第2推定統計値に応じて、表示領域を設定するステップとをさらに含む。
【0024】
本発明の好適例では、上記統計値が標準偏差及び正または負の符号を含む。
【発明の効果】
【0025】
以上のことに基づけば、本発明の電子装置は、ヘッドアップ・ディスプレイの表示領域を、運転者の視線に応じて動的に調整することができる。ヘッドアップ・ディスプレイの投影画像が特定領域を連続的に遮ること、及び運転者による道路状態の把握を低下させることを防止することに加えて、上記電子装置は、ヘッドアップ・ディスプレイ上に表示される情報を運転者がより迅速かつ正確に理解することを支援することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の一実施形態による、ヘッドアップ・ディスプレイを設定するための電子装置の概略図である。
【
図2】本発明の一実施形態による、ヘッドアップ・ディスプレイを設定するための方法のフローチャートである。
【
図3】本発明の一実施形態による集合Qの概略図である。
【
図4】本発明の一実施形態による、ヘッドアップ・ディスプレイの表示内容の概略図である。
【
図5】本発明の一実施形態による、ヘッドアップ・ディスプレイを設定するための方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
開示する実施形態の詳細な説明
運転者にとって、ヘッドアップ・ディスプレイは運転者の気を散らすことが多く、従って、ヘッドアップ・ディスプレイの投影の表示位置及び表示情報は、運転者による道路状態の視認または運転状況の判断に影響を与えないように慎重に配置しなければならない。ヘッドアップ・ディスプレイ上に表示される情報の運転者による視認を容易にするために、ヘッドアップ・ディスプレイの表示領域は運転者の視線に関連する必要がある。しかし、運転者の視線は複数の要因によって影響される。機械学習技術に基づいて運転者の視線を予測するためには、非常に多数の学習サンプル及びコンピューティング(コンピュータ計算)リソースが必要である。このことを考慮して、本発明は、量子マシンの視覚フロー理論に基づいてヘッドアップ・ディスプレイを設定する方法を提供し、この方法は、注視時間、乗物の速度、及び交通の流れのようなパラメータを通した運転者と乗物との間のコミュニケーション(情報交換)プロセスを改善して、ヘッドアップ・ディスプレイの表示領域及び表示内容をインテリジェント(知的)に調整する。本発明は、ヘッドアップ・ディスプレイが運転者の気を散らすことを防止して、運転者の安全運行を改善することができる。
【0028】
図1は、本発明の一実施形態による、ヘッドアップ・ディスプレイを設定するための電子装置100の概略図である。電子装置100は、プロセッサ110と、記憶媒体120と、トランシーバ130とを含む。
【0029】
プロセッサ110は、例えば、中央処理装置(CPU:central processing unit)、他のプログラマブルな汎用または専用マイクロ・コントロール・ユニット(MCU:micro control unit)、マイクロプロセッサ、デジタル・シグナル・プロセッサ(DSP:digital signal processor)、プログラマブル・コントローラ、特定用途向け集積回路(ASIC:application specific integrated circuit)、グラフィックス・プロセシング・ユニット(GPU:graphics processing unit)、画像信号プロセッサ(ISP:image signal processor)、画像処理ユニット(IPU:image processing unit)、数値演算ユニット(ALU:arithmetic logic unit)、複合プログラマブル論理デバイス(CPLD:complex programmable logic device)、フィールド・プログラマブル・ゲートアレイ(FPGA:field programmable gate array)、他の同様な素子、または上記の素子の組合せである。プロセッサ110は、記憶媒体120及びトランシーバ130に結合することができ、そして記憶媒体120に記憶されている複数のモジュール及び種々のアプリケーション・プログラムにアクセスして、これらを実行することができる。
【0030】
記憶媒体120は、例えば、あらゆる種類の固定または着脱式ランダムアクセスメモリ(RAM:random access memory)、読出し専用メモリ(ROM:read-only memory)、フラッシュメモリ、ハードディスク・ドライブ(HDD:hard disc drive)、半導体ドライブ(SSD:solid state drive)、同様な素子、または上記素子の組合せであり、プロセッサ110によって実行可能な複数のモジュールまたは種々のアプリケーション・プログラムを記憶するために用いられる。一部の実施形態では、記憶媒体120が、量子マシン学習モデル200を含む複数のモジュールを記憶することができ、量子マシン学習モデル200の機能は後述する。
【0031】
トランシーバ130は、有線または無線の様式で信号を送信し受信する。トランシーバ130は、低雑音(ローノイズ)増幅、インピーダンス整合(マッチング)、周波数混合、周波数のアップコンバージョンまたはダウンコンバージョン、フィルタ処理、及び増幅のような動作を実行することもできる。
【0032】
図2は、本発明の一実施形態による、ヘッドアップ・ディスプレイを設定するための方法のフローチャートであり、この方法は
図1に示す電子装置によって実現することができる。なお、
図2のフローチャートはステップS203~S205の実行順序を限定するために用いるものではない。例えば、ステップS205はステップS204の前に実行することができ、ステップS204の後に実行することもできる。
【0033】
電子装置100は、トランシーバ130を通してヘッドアップ・ディスプレイに通信接続することができ、ヘッドアップ・ディスプレイ上に表示される画像を媒体(例えば、フロントガラス)上の表示領域に投影するように、ヘッドアップ・ディスプレイを設定することができる。ステップS201では、プロセッサ110が、運転者の視線に対応する座標値(x(t), y(t))を、トランシーバ130を通して取得して、この座標値に対応する統計値(±Δx(t-ΔT), ±Δy(t-ΔT))を得ることができ、x(t)は運転者の視線が時点tに注視している位置のx座標であり、y(t)は運転者の視線が時点tに注視している位置のy座標であり、Δx(t-ΔT)は時点t-ΔTにおけるX軸上の運転者の視線の偏差であり、Δy(t-ΔT)は時点t-ΔTにおけるY軸上の運転者の視線の偏差であり、ΔTはサンプリング時間間隔である。X軸及びY軸はデカルト座標系に相当することができる。座標値の単位は画素を含むことができ、但し画素に限定されない。
【0034】
一実施形態では、プロセッサ110を、トランシーバ130を通してカメラに通信接続することができ、カメラを用いて運転者の顔の画像を捕捉する。プロセッサ110はこの画像に対して虹彩追跡技術を実行して、運転者の視線がフロントガラス上に留まる位置を判断し、これにより、この位置に応じた座標値(x(t), y(t))を取得する。換言すれば、座標値(x(t), y(t))は運転者によるフロントガラスの凝視または再凝視と相関がある。
【0035】
運転者の両眼は、それぞれがフロントガラス上の異なる位置を注視することがある。従って、プロセッサ110は、両眼視に関する補正を座標(x(t), y(t))に対して実行することができる。例えば、プロセッサ110は、それぞれが両眼の視線に対応する2つの座標値を取得し、これら2つの座標値の平均値を計算して、補正座標値(即ち、座標値(x(t), y(t)))を生成することができる。座標値x(t)を例として挙げれば、式(1)に示すように、x1(t)は運転者の左眼の視線が時点tに注視している位置のX座標値であり、x2(t)は運転者の右眼の視線が時点tに注視している位置のX座標値である。
【数1】
【0036】
座標値(x(t), y(t)))を取得した後に、プロセッサ110は、時点tに対応する統計値(±Δx(t-ΔT), ±Δy(t-ΔT))をさらに得ることができる。この統計値は、標準偏差及び正または負の符号を含むことができる。統計値の2種類の発生源が存在する。具体的には、量子マシン学習モデル200は、現在時点に対応する統計値を、前回の時点に対応する統計値に応じて生成することができる。例えば、量子マシン学習モデル200が統計値(±Δx(t-2ΔT), ±Δy(t-2ΔT))を出力していることをプロセッサ110が検出すれば、プロセッサ110は、(±Δx(t-2ΔT), ±Δy(t-2ΔT))を量子マシン学習モデルに入力して、統計値(±Δx(t-ΔT), ±Δy(t-ΔT))を得ることができ、ここにΔTはサンプリング時間間隔である。他方では、量子マシン学習モデル200が出力する統計値をプロセッサ110が何ら検出していなければ、このことは、プロセッサ110が量子マシン学習モデル200を用いることによって統計値(±Δx(t-ΔT), ±Δy(t-ΔT))を得ることができないことを意味する。従って、プロセッサ110は、時点(t-ΔT)の前にサンプリングされた履歴データに応じて統計値(±Δx(t-ΔT), ±Δy(t-ΔT))を計算することができる。例えば、プロセッサ110は、座標値(x(t-n), y(t-n))、座標値(x(t-n+1), y(t-n+1))、...、 座標値(x(t-3ΔT), y(t-3ΔT))、及び座標値(x(t-2ΔT), y(t-2ΔT))のような複数の座標値の履歴に応じて、統計値(±Δx(t-ΔT), ±Δy(t-ΔT))を計算することができる。手短に言えば、統計値(±Δx(t-ΔT), ±Δy(t-ΔT))が初期の統計値である場合、プロセッサ110は座標値の履歴に応じて統計値(±Δx(t-ΔT), ±Δy(t-ΔT))を計算する。統計値(±Δx(t-ΔT), ±Δy(t-ΔT))が初期の統計値でない場合、プロセッサ110は、量子マシン学習モデル200を用いることによって統計値(±Δx(t-ΔT), ±Δy(t-ΔT))を得る。
【0037】
一実施形態では、プロセッサ110が、運転者の視線がフロントガラス上の特定位置に留まっている期間を虹彩追跡技術により判断することができる。座標値(x(t), y(t))を例として挙げれば、プロセッサ110は、運転者が座標値(x(t), y(t))を注視している期間がΔD(t)であることを、虹彩追跡技術により判断することができる。ヘッドアップ・ディスプレイによって座標値(x(t), y(t))上に投影される文字が存在する場合、プロセッサ110は、期間ΔD(t)を時点tに対応する注視期間として定めることができる。プロセッサ110は、運転者の平均注視期間
(外1)
を、それぞれが複数の異なる時点に対応する複数の注視期間により計算することができる。一般に、運転者の読み取り速度が高いほど、運転者の平均注視時間
(外2)
は短くなる。
【0038】
運転者の両眼は異なる注視時間に対応することがある。従って、プロセッサ110は、両眼視に関する補正を注視時間ΔD(t)に対して実行することができる。一実施形態では、プロセッサ110が、それぞれが両眼の視線に対応する2つの注視時間を取得し、これら2つの注視時間の平均値を計算して、補正注視時間(即ち、注視時間ΔD(t))を生成することができる。式(2)中に示すように、ΔD1(t)は運転者の左眼に対応する注視時間であり、ΔD2(t)は運転者の右眼に対応する注視時間である。
【数2】
【0039】
一実施形態では、プロセッサ110が、上記2つの注視時間から、長い方の注視時間を補正注視時間(即ち、注視時間ΔD(t))として選択することができる。式(3)中に示すように、ΔD1(t)は運転者の左眼に対応する注視時間であり、ΔD2(t)は運転者の右眼に対応する注視時間である。
ΔD(t)=max(ΔD1(t), ΔD2(t))...(3)
ここに、maxは()内の最大値を表す。
【0040】
座標値(x(t), y(t))及び統計値(±Δx(t-ΔT), ±Δy(t-ΔT))を得た後に、ステップS202では、プロセッサ110が座標値(x(t), y(t))及び統計値(±Δx(t-ΔT), ±Δy(t-ΔT))を量子マシン学習モデル200に入力して、推定統計値(±Δx(t), ±Δy(t))を得る。具体的には、量子マシン学習モデル200は、それぞれが複数の候補統計値に対応する複数の確率を、入力された座標値(x(t), y(t))及び統計値(±Δx(t-ΔT), ±Δy(t-ΔT))に応じて出力することができる。プロセッサ110は、これらの確率に応じて、最大の確率に対応する候補統計値を推定統計値(±Δx(t), ±Δy(t))として候補統計値から選択することができる。
【0041】
図3は、本発明の一実施形態による集合Qの概略図である。量子マシン学習モデル200は、集合Qを、量子マシンの視覚フロー理論に基づいて、入力された座標値(x(t), y(t))及び統計値(±Δx(t-ΔT), ±Δy(t-ΔT))に応じて定義することができる。量子マシン学習モデル200は、集合Q内の各候補に対応する確率も生成する。集合Q内の候補統計値(±Δx1(t), ±Δy1(t))を例として挙げれば、量子マシン学習モデル200は、候補統計値(±Δx1(t), ±Δy1(t))に対応する確率Ω(±Δ1(t), ±Δy1(t))を生成することができる。候補統計値(±Δx1(t), ±Δy1(t))が集合Q内で最大の確率を有する場合、プロセッサ110は、候補統計値(±Δx1(t), ±Δy1(t))を推定統計値(±Δx(t), ±Δy(t))として集合Qから選択することができる。換言すれば、候補統計値(±Δx1(t), ±Δy1(t))の確率Ω(±Δ1(t), ±Δy1(t))は、式(4)の制限を満足する必要があり、ここにPは集合Q内の任意点である。
Ω(±Δx1(t), ±Δy1(t))≧Ω(P),∀P∈Q...(4)
【0042】
量子マシン学習モデル200は、プロセッサ100によって、例えば量子アニーリング・アルゴリズムに基づいて学習させることができる。具体的には、プロセッサ110を、トランシーバ130を通して外部センサ(例えば、カメラ、ライダー(lidar:light detection and ranging:レーザー光による検知と測距)、または速度計)に接続することができる。学習データは、座標値の履歴(x(k), y(k))、統計値の履歴(±Δx(k-ΔT), ±Δy(k-ΔT))、乗物の速さに相当する速度の履歴v(k)、及び乗物に対応する相対的な交通の流れの履歴r(k)を含み、時点kは時点tに先行する。相対的な交通の流れの履歴r(k)は、時点kより前にこの乗物に接近している他の乗物の単位時間当たりの数を表す。プロセッサ110は、運転者の視線に対応する理想的統計値(I(±Δx(k)), I(±Δy(k)))を、式(5)により計算することができ、ここにCx及びCyは所定の定数である。
【数3】
【0043】
プロセッサ110は、損失関数Lにより量子マシン学習モデル200を学習させることができ、損失関数Lを用いて、マシン学習モデル200の出力統計値と理想統計値(I(±Δx(k)), I(±Δy(k)))との誤差を表す。式(6)中に示すように、
(外3)
はマシン学習モデル200の出力統計値を表し、Iは理想統計値(即ち、(I(±Δx(k)), I(±Δy(k))))を表し、
(外4)
は出力統計値
(外5)
と理想統計値Iとの誤差を表し、この誤差は平均二乗誤差(MSE:mean square error)または平均絶対誤差(MAE:mean absolute error)を含み、但しこれらに限定されない。プロセッサ110は、座標値の履歴(x(k), y(k))及び統計値の履歴(±Δx(k-ΔT), ±Δy(k-ΔT))を、学習中の量子マシン学習モデル200に入力して、出力統計値
(外6)
を得て、損失関数Lを最小にすることにより量子マシン学習モデル200を学習させることができる。
【数4】
【0044】
図2を参照すれば、ステップS203では、プロセッサ110が、座標値(x(t), y(t))及び推定統計値(±Δx(t), ±Δy(t))に応じて、ヘッドアップ・ディスプレイの表示領域の位置を決定することができる。
図4は、本発明の一実施形態による、ヘッドアップ・ディスプレイの表示内容の概略図である。一実施形態では、プロセッサ110が、表示領域400の中心点40の座標値(C1, C2)を式(7)により計算して、表示領域400の位置を決定することができる。
【数5】
【0045】
上記表示内容は、計器パネル情報、ナビゲーション情報、または警告情報を含むことができ、但しこれらに限定されない。適応走行制御(ACC:adaptive cruise control)システムまたはARシステムを例として挙げれば、本発明の電子装置100が乗物に設置されているものと仮定する。乗物が前方の障害物に遭遇すると、自動的に減速することができるACCシステムに加えて、電子装置100がヘッドアップ・ディスプレイに関連する表示領域に警告情報を投影して、ACCシステムが乗物の運転に介入したことを運転者に教えて、運転者がパニック状態に陥ることを防止する。
【0046】
ステップS204では、プロセッサ110が、表示領域400のサイズ、及びヘッドアップ・ディスプレイが表示領域400に投影すべき表示内容を決定することができる。具体的には、プロセッサ110が、表示領域400のサイズを、乗物の現在速度v(t)に応じて設定することができる。プロセッサ110を、トランシーバ130を通して乗物の速度計に接続して、速度v(t)を取得することができる。他方では、プロセッサ110は、運転者の平均注視時間
(外7)
に応じて表示内容を設定することができる。
【0047】
一実施形態では、乗物の速度(例えば、速度v(t))は表示領域400のサイズに反比例する。人間の目の視野角度(AoV:angle of view)は乗物の速度に関係する。表1の例に示すように、乗物の速度が速いほど、運転者の視野角度が減少し、フロントガラスにおける運転者の視野(FoV:field of view)も減少する。表示領域400の全内容を運転者が読むことができることを保証するために、プロセッサ110は、表示領域の水平方向(即ち、X軸)の長さを、表1を参照して、表示領域400が運転者の視野を超えないように設定することができる。
図4に示すように、参照番号41は運転者の視野角度であり、参照番号42はフロントガラスにおける運転者の視野である。
【0048】
【0049】
一実施形態では、運転者の平均注視時間
(外8)
が表示内容の情報量に反比例する。乗物の速度は運転者の反応時間(即ち、運転者が有効な制動を実行し始めるまでに、運転者が危険を知覚するために必要な時間)に反比例する。乗物の速度が速いほど、運転者の反応時間が短くなる。運転の安全性を考慮して、運転者が表示内容を読み取るための時間は、運転者の反応時間未満にするべきである。表示内容に含めることができる情報量を最大文字数Mとして定量化すれば、最大文字数Mは式(8)の制限を満足しなければならず、ここにRT(v(t))は、乗物の速度がv(t)である際の運転者の反応時間を表すことができる。
【数6】
【0050】
一実施形態では、記憶媒体120が、乗物の速度と運転者の反応時間との関係マッピング表を事前に記憶しておくことができる。プロセッサ110は、この関係マッピング表により最大文字数Mを決定することができる。例えば、運転者の平均注視時間
(外9)
が30msであるものと仮定すれば、ヘッドアップ・ディスプレイの表示内容は5文字を含むものと見込まれ、プロセッサ110は、乗物の速度及び関係マッピング表により、運転者の反応時間RT(v(t))は1600msであるものと判断する。30×5<1600であるので、プロセッサ110は、表示内容に含まれる5文字が最大文字数Mを超えないものと判断することができる。従って、5文字の全部を表示内容に含めることができる。式(8)より、表示内容の情報量は、反応時間に比例し、乗物の速度に反比例することがわかる。換言すれば、乗物が速いほど、ヘッドアップ・ディスプレイが表示することができる情報量は少なくなる。乗物が遅いほど、ヘッドアップ・ディスプレイが表示することができる情報量は多くなる。
【0051】
ステップS205では、プロセッサ110が表示領域400内の表示内容の位置を決定することができる。具体的には、プロセッサ110が、ヘッドアップ・ディスプレイの表示内容の書き出し方向を判断し、この書き出し方向に応じて、表示領域400内の表示内容の位置を決定することができる。文章を左から右へ書き出すものと仮定すれば、読者がこの文章を読む際に、読者が文章の左側の領域に割り当てる注意力がより小さい。注意力の大部分は、読み取り中であるかまだ読んでいない文字を含む右側の領域に割り当てられる。右側の領域を知覚スパンと称する。従って、プロセッサ110は、表示領域内で知覚スパンに属する場所を、表示内容の書き出し方向に応じて判断することができ、これにより、表示領域400内の知覚スパンである傾向がより大きい位置に設定することができる。
【0052】
図4を例として挙げれば、表示領域400の表示内容は、「8」、「0」、「k」、「m」、「/」、及び「h」のような6文字を含む。表示内容の書き出し方向が左から右であるので、プロセッサ110は、運転者の知覚スパンが右側領域(即ち、中心点40の右側、あるいは中心点40のX方向正向き)内に位置するものと判断することができる。従って、プロセッサ110は、表示内容の大部分を中心点40の右側に設定し、表示内容の少ない部分を中心点40の左側(即ち、X方向負向き)に設定することができる。
図4では、プロセッサ110が、4文字を表示内容中の中心点40の右側に設定し、2文字を表示内容中の中心点40の左側に設定する。
【0053】
ステップS206では、プロセッサ110が、表示内容、表示内容の位置、表示領域のサイズ、及び表示領域の位置のようなパラメータに応じて、トランシーバ130を通してヘッドアップ・ディスプレイを設定することができる。
【0054】
図5は、本発明の一実施形態による、ヘッドアップ・ディスプレイを設定するための方法のフローチャートである。ステップS501では、人の視線に対応する第1座標値を取得して、第1座標値に対応する統計値を得る。ステップS502では、これらの第1座標値及び統計値を量子マシン学習モデルに入力して、第1推定統計値を得る。ステップS503では、第1座標値及び第1推定統計値によって、ヘッドアップ・ディスプレイの表示領域を設定する。
【0055】
要約すれば、本発明の電子装置は、運転者の視線が留まる場所を、運転者の視線及び量子マシン学習モデルにより推定して、ヘッドアップ・ディスプレイの表示領域をそこに設定する。表示領域の位置を動的に調整することによって、フロントガラスの特定領域が連続して遮られることを防止することができる。この電子装置は、表示領域のサイズ、表示内容の量、等を、運転者の注視時間、乗物の速度、及び交通の流れのような因子により決定して、運転者の反応時間が短い際に、過剰な情報を運転者に対して表示して運転者の気を散らすことを防止することができる。ヘッドアップ・ディスプレイ上に表示される文字の異なる書き出し方向に応答して、上記電子装置は、表示領域内の表示内容の位置を、知覚スパン理論に基づいて調整して、ヘッドアップ・ディスプレイ上に表示される情報を運転者がより迅速かつ正確に理解することを支援することができる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の、ヘッドアップ・ディスプレイを設定するための方法及び電子装置は自動車産業において応答することができる。
【符号の説明】
【0057】
100:電子装置
110:プロセッサ
120:記憶媒体
130:トランシーバ
200:量子マシン学習モデル
40:中心点
400:表示領域
41:視野角度
42:視野
P:集合Q内の任意点
Q:集合
S201、S202、S203、S204、S205、S206、S501、S502、S503:ステップ