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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】定着装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20240415BHJP
【FI】
G03G15/20 515
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022189178
(22)【出願日】2022-11-28
(62)【分割の表示】P 2018199230の分割
【原出願日】2018-10-23
(65)【公開番号】P2023011048
(43)【公開日】2023-01-20
【審査請求日】2022-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】弁理士法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安井 龍生
(72)【発明者】
【氏名】茂木 潤一
(72)【発明者】
【氏名】品川 昭吉
(72)【発明者】
【氏名】田富 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】中本 育生
(72)【発明者】
【氏名】葛見 徹
(72)【発明者】
【氏名】大西 隆弘
【審査官】三橋 健二
(56)【参考文献】
【文献】特許第7187258(JP,B2)
【文献】特開2020-067528(JP,A)
【文献】特開2015-031777(JP,A)
【文献】特開2010-266802(JP,A)
【文献】特開2008-040420(JP,A)
【文献】特開2014-048624(JP,A)
【文献】特開2017-032853(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録材に形成された未定着トナー像を記録材に定着する定着装置であって、
無端状のベルトと、
前記ベルトを加熱する加熱部と、
前記ベルトとの間で記録材を挟持搬送する定着ニップ部を形成するとともに前記ベルトを回転駆動する加圧回転体と、
前記ベルトを前記加圧回転体に向けて押圧するパッドと、
前記ベルトの内側に配置され、前記パッドに押圧されて前記ベルトに対し摺動する摺動シートと、
前記パッドを支持する支持部材と、
前記摺動シートを介して前記支持部材と対向して設けられる板状部材と、
前記板状部材の長手方向に亘って複数の箇所で前記摺動シートを前記支持部材と前記板状部材の間に挟んで固定する複数の固定具と、を備え、
前記摺動シートは、前記ベルトの長手方向に関し、前記定着ニップ部の長さよりも長く、前記板状部材の長さ及び前記支持部材の長さよりも短く、
前記長手方向と交差する前記摺動シートの短手方向において、前記摺動シートの両端部で前記摺動シートは前記固定具により固定される、
ことを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記ベルトの前記長手方向の第一端部に配置され、前記ベルトの前記第一端部側の表面を覆う第一円筒周縁部と、前記ベルトの前記長手方向の第一エッジに突き当たる第一突き当て部と、を有する第一規制部材と、
前記ベルトの前記長手方向の前記第一端部側と反対側の第二端部に配置され、前記ベルトの前記第二端部側の表面を覆う第二円筒周縁部と、前記ベルトの前記長手方向の第二エッジに突き当たる第二突き当て部と、を有する第二規制部材と、を備え、
前記第一規制部材と前記第二規制部材は、前記長手方向への前記ベルトの移動を規制する、
ことを特徴とする請求項に記載の定着装置。
【請求項3】
前記長手方向に関し、前記パッドの長さは前記ベルトの長さよりも短い、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記第一規制部材と前記第二規制部材は、前記ベルトと共に回転する、
ことを特徴とする請求項に記載の定着装置。
【請求項5】
前記加熱部は、前記ベルトの外側に前記ベルトに非接触に設けられたヒータである、
ことを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項6】
前記加熱部はコイルを有し、
前記ベルトは導電層を有し、前記コイルに通電されることで前記導電層に生ずる渦電流により前記ベルトは熱を生ずる、
ことを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項7】
前記摺動シートは、前記長手方向に関し前記支持部材からはみ出ない、
ことを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項8】
前記支持部材は、金属の剛性部材である、
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の定着装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリンタ、複写機、ファクシミリあるいは複合機などの、電子写真技術を利用した画像形成装置に用いて好適な定着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置は、未定着のトナー像が形成された記録材に対し熱と圧力を加えることにより、記録材にトナー像を定着させる定着装置を備えている。定着装置として、無端状の定着ベルトと、定着ベルトの内側に配設された押圧部材と、定着ベルトに当接するローラ(加圧ローラ)とを備えたものが従来から用いられている。この定着装置では、押圧部材によりローラ側に定着ベルトが押圧されて、定着ベルトとローラとの間に形成される定着ニップを、記録材が加熱及び加圧された状態で挟持搬送される。これにより、記録材にトナー像が定着される。
【0003】
上記した定着装置の場合、定着ベルトと押圧部材との摩擦が大きいと、定着ベルトの回転が妨げられ得る。そうなると、記録材に定着したトナー像に乱れが生じたり、あるいは記録材にしわが生じたりし得る。これを防止するために、定着ベルトと押圧部材との間に潤滑剤を保持した摺動シートを配置し、押圧部材と定着ベルトとの摩擦を低減させている(特許文献1、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-109878号公報
【文献】特開2017-125889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、摺動シートが定着ベルトとの摺動によってめくれてしまうと、めくれた摺動シートが定着ベルトと擦れ合うことで定着ベルトの回転が妨げられたり、定着ベルトや摺動シートの耐久性が低下したりする虞がある。上記した特許文献1に記載の装置の場合、摺動シートの端部(長手方向端部、以下同じ)が固定されておらず自由端であることから、摺動シートが端部側からめくれやすいという問題があった。他方、上記した特許文献2に記載の装置の場合、摺動シートは押圧部材に巻き付けられ、螺子止めされる固定部材によって端部を含め固定されている。しかし、こうした構成の場合、摺動シートを押圧部材に適切に巻き付けることが難しく、また適切に巻き付けて固定するのに手間がかかるといった問題があった。そこで、摺動シートが定着ベルトと押圧部材との間に配設された構成の場合に、摺動シートのめくれ抑制を簡易な構成で実現可能な定着装置が従来から望まれていたが、未だそうしたものは提案されていない。
【0006】
本発明は上記問題に鑑みてなされたもので、定着ベルトと摺動する摺動シートのめくれ抑制を簡易な構成で実現可能な定着装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態に係る定着装置は、記録材に形成された未定着トナー像を記録材に定着する定着装置であって、無端状のベルトと、前記ベルトを加熱する加熱部と、前記ベルトとの間で記録材を挟持搬送する定着ニップ部を形成するとともに前記ベルトを回転駆動する加圧回転体と、前記ベルトを前記加圧回転体に向けて押圧するパッドと、前記ベルトの内側に配置され、前記パッドに押圧されて前記ベルトに対し摺動する摺動シートと、前記パッドを支持する支持部材と、前記摺動シートを介して前記支持部材と対向して設けられる板状部材と、前記板状部材の長手方向に亘って複数の箇所で前記摺動シートを前記支持部材と前記板状部材の間に挟んで固定する複数の固定具と、を備え、前記摺動シートは、前記ベルトの長手方向に関し、前記定着ニップ部の長さよりも長く、前記板状部材の長さ及び前記支持部材の長さよりも短く、前記長手方向と交差する前記摺動シートの短手方向において、前記摺動シートの両端部で前記摺動シートは前記固定具により固定される、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、定着ベルトと摺動する摺動シートのめくれ抑制を簡易な構成で実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態の定着装置を用いて好適な画像形成装置を示す概略図。
図2】定着装置を示す概略図。
図3】定着ベルトアセンブリを示す分解斜視図。
図4】定着ベルトアセンブリについて説明するための断面図。
図5】固定機構について説明するための分解図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[画像形成装置]
以下、本実施形態の定着装置について説明する。まず、本実施形態の定着装置を用いるのに適した画像形成装置について、図1を用いて説明する。図1に示す画像形成装置100は、装置本体内に4色(イエロー、シアン、マゼンタ、ブラック)の画像形成部PY、PM、PC、PKを中間転写ベルト8に対向させて配置した、中間転写タンデム方式のカラー画像形成装置である。
【0011】
画像形成装置100の記録材の搬送プロセスについて説明する。記録材Sは、カセット62内に積載される形で収納されており、給紙ローラ63により画像形成タイミングに合わせて1枚ずつ搬送パス64に給紙される。また、不図示の手差しトレイに積載された記録材Sが1枚ずつ搬送パス64に給紙されてもよい。記録材Sは搬送パス64の途中に配置されたレジストローラ65へ搬送されると、レジストローラ65により記録材Sの斜行補正やタイミング補正が行われた後に二次転写部T2へと送られる。二次転写部T2は、対向する二次転写内ローラ66および二次転写外ローラ67により形成される転写ニップ部である。二次転写部T2では、二次転写内ローラ66に二次転写電圧が印加されることで、トナー像が中間転写ベルト8から記録材Sへ二次転写される。
【0012】
上記した二次転写部T2までの記録材Sの搬送プロセスに対して、同様のタイミングで二次転写部T2まで送られて来る画像の形成プロセスについて説明する。まず、画像形成部PY~PKについて説明する。ただし、画像形成部PY~PKは、現像装置4Y、4M、4C、4Kで用いるトナーの色がイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックと異なる以外、ほぼ同一に構成される。そこで、以下では代表してイエローの画像形成部PYを例に説明し、その他の画像形成部PM、PC、PKについては説明を省略する。
【0013】
画像形成部PYは、主に感光ドラム1Y、帯電装置2Y、現像装置4Y、及び感光ドラムクリーナ6Y等から構成される。回転駆動される感光ドラム1Yの表面は、帯電装置2Yにより予め表面を一様に帯電され、その後、画像情報の信号に基づいて駆動される露光装置3によって静電潜像が形成される。次に、感光ドラム1Y上に形成された静電潜像は、現像装置4Yによるトナー現像を経て可視像化される。その後、画像形成部PYと中間転写ベルト8を挟んで対向配置される一次転写ローラ5Yにより所定の加圧力および一次転写バイアスが与えられ、感光ドラム1Y上に形成されたトナー像が中間転写ベルト8上に一次転写される。一次転写後の感光ドラム1Y上に僅かに残る転写残トナーは、感光ドラムクリーナ6Y(例えば、クリーニングブレードなど)により除去され、再び次の作像プロセスに備える。
【0014】
中間転写ベルト8は、テンションローラ10、二次転写内ローラ66、および従動ローラ7a、7bによって張架され、図中矢印R2方向へと移動するように駆動される。本実施形態の場合、二次転写内ローラ66は中間転写ベルト8を駆動する駆動ローラを兼ねている。上述の画像形成部PY~PKにより処理される各色の作像プロセスは、中間転写ベルト8上に一次転写された移動方向上流の色のトナー像上に順次重ね合わせるタイミングで行われる。その結果、最終的にはフルカラーのトナー像が中間転写ベルト8上に形成され、二次転写部T2へと搬送される。なお、二次転写部T2を通過した後の転写残トナーは、転写クリーナ装置11によって中間転写ベルト8から除去される。
【0015】
以上、それぞれ説明した搬送プロセスおよび作像プロセスをもって、二次転写部T2において記録材Sとフルカラートナー像のタイミングが一致し、中間転写ベルト8から記録材Sにトナー像が二次転写される。その後、記録材Sは定着装置30へと搬送され、定着装置30により加圧及び加熱されることにより、トナー像が記録材S上に溶融固着される。こうしてトナー像が定着された記録材Sは、片面プリントの場合、順回転する排紙ローラ69により排紙トレイ601上に排出される。他方、両面プリントの場合、記録材Sは順回転する排紙ローラ69により記録材Sの後端が切り替え部材602を通過するまで搬送された後、逆回転に切り換えられた排紙ローラ69により先後端が入れ替えられて両面搬送パス603へと搬送される。その後、再給紙ローラ604によって再び搬送パス64へと送られる。その後の搬送ならびに二面目の作像プロセスに関しては、上述の場合と同様なので説明を省略する。
【0016】
[定着装置]
次に、本実施形態の定着装置30について、図2乃至図5を用いて説明する。図2に示すように、本実施形態の定着装置30は、定着ベルトアセンブリ31と、加圧ローラ32とを備えている。駆動回転体としての加圧ローラ32は、回転軸32aが装置本体の側板38L、側板38Rにそれぞれ設けられた軸受部材39に軸受されることで、装置本体に回転自在に設けられる。また、加圧ローラ32は定着ベルトアセンブリ31に対し並行に配置され、定着ベルトアセンブリ31の定着ベルト33に当接して、定着ベルト33を加圧し得るように設けられている。こうした加圧ローラ32としては、例えば金属製の回転軸32a(芯金)の外周にシリコーンゴム等の弾性層を有するものや、弾性層の外周にさらにPTFE、PFA、FEP等のフッ素樹脂層を有するものなどを用いればよい。
【0017】
[定着ベルトアセンブリ]
定着ベルトアセンブリ31は、装置本体の側板38L、側板38Rに加圧ローラ32側に向けて移動可能に設けられている。定着ベルトアセンブリ31は、図2及び図3に示すように、筒状(無端状)に形成され可撓性を有する定着ベルト33と、定着ベルト33を長手方向(定着ベルト33の回転軸線方向)の両端部で保持する端部ホルダ37とを有する。定着ベルト33としては、高熱伝導率で低熱容量の導電層を有する、例えば樹脂製の樹脂ベルト、あるいは金属ベルトをベース層として、その外周に弾性層、離型層等を有する複合層構造体のベルトなどを用いてよい。なお、本明細書で言う定着ベルト33とは、薄肉のフィルム状のベルトを含む。
【0018】
本実施形態の場合、定着ベルト33の両端部には、端部ホルダ37が外嵌されている。規制部材としての端部ホルダ37は、定着ベルト33が長手方向に寄り移動したときに、定着ベルト33の長手方向端部を受け止めて定着ベルト33の長手方向への移動を規制する。言い換えれば、定着ベルト33は加圧ローラ32により回転しながら長手方向に寄り移動した場合に、長手方向の一方の端部が端部ホルダ37に突き当たることで、それ以上の寄り移動が規制される。即ち、加圧ローラ32と定着ベルト33とは、加圧ローラ32や定着ベルトアセンブリ31の取り付け誤差などによって、僅かに並行からずれた状態に配置される場合がある。その場合に、定着ベルト33は回転する加圧ローラ32により回転しながら長手方向に寄り移動し得る。そこで、加圧ローラ32による定着ベルト33の寄り移動を抑制すべく、端部ホルダ37が定着ベルト33に外嵌されている。
【0019】
なお、端部ホルダ37の長手位置は、図3に示すように、端部ホルダ37の平面部37aがステー36に形成された環状突出部36bに突き当たることで規定される。そして、端部ホルダ37はその位置で定着ベルト33に突き当てられた場合でも長手方向に移動しないように設けられている。
【0020】
また、本実施形態の場合、端部ホルダ37は定着ベルト33の長手方向への移動を規制すると共に、定着ベルト33に連れ回るように設けられている。定着ベルト33に連れ回り可能とするために、端部ホルダ37には、定着ベルト33と嵌合する嵌合部37bが長手方向の中央に向けて突出するように形成されている。端部ホルダ37が定着ベルト33に連れ回り可能に構成されることによって、定着ベルト33と端部ホルダ37とが摺動してしまうことに起因する摩擦を生じ難くしている。なお、端部ホルダ37は定着ベルト33の回転速度を検出するための被検出部として利用されてよい。例えば、端部ホルダ37の回転速度を例えば光学センサ(不図示)などを用いて検出し、検出した端部ホルダ37の回転速度を定着ベルト33の回転速度と看做すことができるように構成すると好ましい。
【0021】
本実施形態では、ステー36(詳しくはその腕部36a)が例えばバネ等の付勢機構(不図示)により所定の付勢力Fで加圧ローラ32に向けて付勢されている。これにより、定着ベルト33と加圧ローラ32とが互いに所望の圧接力で圧接される。定着ベルト33と加圧ローラ32とを圧接させることにより、定着ベルト33と加圧ローラ32との間で記録材Sを加圧した状態で通過させてトナー像を加熱定着する定着ニップNが形成される。また、本実施形態では、ステー36に支持されたパッド34(図4参照)によって、定着ベルト33が内側から加圧ローラ32に向けて押圧されることで、より確実に定着ニップNを形成できるようにしている。なお、ステー36を付勢する付勢機構(不図示)は、加圧ローラ32に向けた付勢を解除する解除機能を有し、ユーザがジャム処理時等に付勢を解除することで、定着ニップNに挟まれたまま残っている記録材Sを除去できる構成であってよい。
【0022】
加圧ローラ32の回転軸32aには、図2に示すように、ドライブギアGが設けられている。このドライブギアGにモータ(図4参照:M1)の回転力が不図示の動力伝達機構を介して伝達されることにより、加圧ローラ32は回転する。そして、定着ベルト33と加圧ローラ32との間には定着ニップNが形成されていることから、この定着ニップNで生じる摩擦力によって、加圧ローラ32の回転力が定着ベルト33に伝達される。こうして、定着ベルト33は加圧ローラ32により回転駆動される(所謂、加圧ローラ駆動方式)。記録材Sは、これら回転する加圧ローラ32と定着ベルト33とにより挟持搬送される。なお、本実施形態の場合、使用可能な大小いかなる幅方向(定着ベルト33の長手方向)長さの記録材Sでも、記録材Sの幅方向中央部が定着ベルト33の中央通紙基準線P(仮想線)を通過する中央基準搬送に則って、記録材Sは搬送される。定着ベルトアセンブリ31は、上記の中央通紙基準線Pに対して長手方向に略対称に構成される。
【0023】
また、図4に示すように、定着ベルトアセンブリ31は、無端状の定着ベルト33の内側に、パッド34、ステー36、ベルトガイド40、摺動シート41、固定機構42を有している。定着ベルト33は、耐熱性・剛性を有するベルトガイド40に回転自在に外嵌されている。ベルトガイド40は定着ベルト33の長手方向に延びる板状部材であり、外面側が定着ベルト33との摺動面となるように円弧状に形成されている。即ち、このベルトガイド40の外周面が定着ベルト33の内周面に接して、ベルトガイド40と定着ベルト33とが摺動し得る。ベルトガイド40は、例えばアルミニウム板などの金属板をプレス加工することによって形成され、後述するパッド34と共に定着ベルト33の回転ガイドとして機能する。
【0024】
上記のベルトガイド40は、ステー36に固定されている。ステー36は、定着ベルト33に沿って長手方向に延びる剛性部材である。そして、ステー36の両端部には腕部36aが形成されており、この腕部36aに上記した端部ホルダ37が回転自在に取り付けられている(図3参照)。
【0025】
ステー36は、本体部361と、本体部361から加圧ローラ32と反対側に向けて立設された上流側固定部362と下流側固定部363とを有し、ベルトガイド40側に開口を有するように横断面が略コの字状に形成されている。本体部361はステー36の開口の反対側(つまりは、加圧ローラ32側)に設けられ、パッド34を支持する。パッド34は例えば長手方向に延びる耐熱樹脂のモールド成形品であり、摺動シート41を挟んで定着ベルト33に押圧されている。こうして、定着ベルト33は、内周面が定着ニップN側で摺動シート41に摺動し、ステー36の開口側でベルトガイド40に摺動しながら回転し得る。なお、本実施形態では、パッド34として、長手方向長さが回転軸32aを除いた加圧ローラ32本体の長手方向長さと略同じ長さに形成されているものを用いた(図2参照)。
【0026】
摺動シート41は、例えばガラスや樹脂等からなる糸状の繊維部材を縦糸と横糸にして、厚み40μm以上300μm以下のシート状に形成したものである。摺動シート41は、繊維部材に低摩擦性樹脂(例えば、PTFE又はPFAのようなフッ素系樹脂)をコーティングしたもの、あるいは繊維部材自体を低摩擦性樹脂で形成したものを用いると、表面の摺動性を向上できるので好ましい。
【0027】
[温度センサと誘導加熱装置]
また、定着装置30は、定着ベルト33の温度を検出するための温度センサTH1と、定着ベルト33を誘導加熱するための誘導加熱装置300とを有する。温度センサTH1は例えばサーミスタ等であり、定着ベルト33の長手方向中央部付近に、定着ベルト33の内周面に接触するように配設されている。温度センサTH1の検出温度は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を有する制御部(不図示)に送信される。制御部は定着ベルト33の温度が目標温度(例えば、180℃)に維持されるように、温度センサTH1の検出温度に基づいて誘導加熱装置300を制御する。
【0028】
加熱手段としての誘導加熱装置300は定着ベルトアセンブリ31に対し、定着ベルト33の外周面との間に所定の隙間を空けるようにしてベルトガイド40側に配設されている。誘導加熱装置300は、励磁コイル301と、外側磁性体コア302と、コイル保持部材303とを有する。励磁コイル301は、例えばリッツ線などの電線を巻回した長手方向に延びるコイルであり、定着ベルト33の外周面に沿う湾曲状に形成されている。励磁コイル301には、不図示の電源部(励磁回路など)により、例えば周波数「20~60kHz」の交流電流が印加される。この交流電流の周波数は、制御部により変更される。励磁コイル301は交流電流が印加されることにより、交流磁界(磁束)を発生する。励磁コイル301により交流磁界が発生されると、定着ベルト33が誘導加熱される。そして、定着ベルト33を効率よく誘導加熱するために、外側磁性体コア302は、交流磁界を遮蔽可能なフェライト等の高透磁率の部材により形成されている。また、外側磁性体コア302は、励磁コイル301を覆うように配設されることで、交流磁界の漏れを抑制している。上記の励磁コイル301と外側磁性体コア302は、電気絶縁性の樹脂で形成されたコイル保持部材303に支持されている。
【0029】
上記の定着装置30では、定着ベルト33の温度が所望の目標温度に維持された状態で、未定着のトナー像tが形成された記録材Sが定着ニップNに搬送されてくる。記録材Sは、未定着のトナー像tが形成された一面側を定着ベルト33側に向けて搬送される。記録材Sは、それぞれ回転する定着ベルト33と加圧ローラ32とに挟持搬送されることにより、定着ニップNを通過する。そして、記録材Sが定着ベルト33と加圧ローラ32とにより加圧された状態で、定着ベルト33により加熱されることで、トナー像tは記録材Sに定着される。
【0030】
上記した摺動シート41は、パッド34の押圧面と定着ベルト33との間にとどまって、定着ベルト33と摺動することにより、定着ベルト33との間に生じ得る摩擦力を、パッド34と定着ベルト33とが直接的に摺動する場合に比べて低減し得る。ただし、パッド34による押圧によって、摺動シート41と定着ベルト33との間にはどうしても摩擦力が生じることから、この摩擦力によって、摺動シート41は定着ベルト33の回転方向に引っ張られ得る。ここで、定着ニップNの領域内では、定着ベルト33及び摺動シート41がパッド34と加圧ローラ32とにより比較的に強く挟まれるために、定着ベルト33及び摺動シート41は、パッド34の形状に倣うように密着した状態に維持される。したがって、定着ニップNの範囲内では摺動シート41のめくれが生じ難い。
【0031】
これに対し、定着ニップNの領域外では、定着ベルト33及び摺動シート41がパッド34と加圧ローラ32とにより挟まれていないため、定着ニップNから離れた長手方向の端部側に近いほど、摺動シート41は大きく引っ張られやすい。特に摺動シート41の端部が固定されておらず自由端であるような場合には、定着ニップNに比べて端部側が引っ張られることで変形し得ることから、摺動シート41の挙動が不安定になり、もって摺動シート41の端部側にめくれが生じやすい。これは、摺動シート41の張力(引っ張り張力)を均一に維持することができず、定着ベルト33との摺動により生じる摩擦力とのバランスが崩れるからである。
【0032】
また、定着ベルト33に端部ホルダ37が外嵌されていると、摺動シート41の端部側にめくれがより生じやすい。即ち、定着ベルト33に端部ホルダ37が外嵌している場合、定着ベルト33は端部ホルダ37によって内径方向にすぼめられるように変形される。その場合、内径方向にすぼめられた定着ベルト33によって圧力を受けた摺動シート41も内径方向に押されるため、定着ベルト33や摺動シート41の形状、回転挙動のばらつき(偏心など)等によっては、摺動シート41の端部側でめくれが生じやすい。摺動シート41にめくれが生じた場合、片当たりによって摩擦力が増えて定着ベルト33の移動を妨げたり、あるいはめくれた摺動シート41が定着ニップNへ巻き込まれることで、摺動シート41や定着ベルト33の耐久性を低下させる虞がある。
【0033】
そこで、本実施形態では上記点に鑑み、摺動シート41の張力を長手方向全域に亘り定着ベルト33の回転方向に均一に維持すべく、摺動シート41がステー36に固定される。また、それに加えて、摺動シート41は、その両端部が固定機構42によってステー36との間に挟み込まれるように取り付けられる。以下、本実施形態における摺動シート41のステー36への固定態様について、図4及び図5を用いて説明する。なお、図5では、摺動シート41の長手方向長さを「L1」、固定機構42(詳しくは板状部材42a)の長手方向長さを「L2」、定着ベルト33の長手方向長さを「L3」で示している。本実施形態の場合、摺動シート41、固定機構42、定着ベルト33は、それぞれの長手方向長さが定着ニップNよりも長く形成され(N<L1<L2<L3)、長手方向において定着ニップNを含むように相対的に配置されている。
【0034】
図4に示すように、摺動シート41はステー36に保持される。具体的に、摺動シート41は定着ベルト33の回転方向に関し、固定機構42により上流端部41aでステー36の上流側固定部362に固定され、固定機構42により下流端部41bでステー36の下流側固定部363に固定される。こうして、固定機構42によって摺動シート41の上流端部41aと下流端部41bとをステー36に固定することで、摺動シート41を定着ベルト33の回転方向に均一な張力で固定することが簡易な構成でできる。
【0035】
そして、摺動シート41は、剛性の低さから定着ベルト33との摩擦力によって長手方向に移動し位置ずれを生じやすいことから、固定機構42によってステー36に取り付けられる。固定機構42は、図5に示すように、例えば長手方向に延びる長尺状の板状部材42aと、螺子42bとを有する。摺動シート41は板状部材42aとステー36の間に配置され、板状部材42aを螺子42bによってステー36に取り付けることで、摺動シート41が板状部材42aとステー36の間に挟み込まれて固定される。本実施形態では、板状部材42aが長手方向の多点で複数の螺子42bによりステー36に取り付けられている。
【0036】
本実施形態では、図5に示すようにして、摺動シート41が固定機構42によりステー36に取り付けられる。即ち、摺動シート41が両端部を含む長手方向の全域に亘ってステー36との間に挟み込まれるように、固定機構42の板状部材42aが配設される。板状部材42aは、上述のように長手方向長さ(L2)が摺動シート41の長手方向長さ(L1)よりも長く、且つ定着ベルト33の長手方向長さ(L3)よりも短く形成されている。そうした板状部材42aが、その両端部をそれぞれ摺動シート41の端部と定着ベルト33の端部との間に位置づけてステー36に取り付けられることで、摺動シート41の両端部はステー36と板状部材42aとの間に挟み込まれる。
【0037】
以上のように、本実施形態では、長手方向の両端部を含めた全域に亘って摺動シート41の張力を、定着ベルト33の回転に左右されることなく均一に維持することが簡易な構成で実現できる。即ち、摺動シート41の上流端部41aと下流端部41bとをステー36に固定することで、摺動シート41が定着ベルト33との摩擦力により長手方向全域に亘って均一に引っ張られ、定着ニップNの領域内と定着ニップNの領域外とで張力に差が生じ難い。また、摺動シート41を両端部を含めてステー36に固定することで、摺動シート41の張力を長手方向に均一に維持しやすい。これにより、摺動シート41の挙動が安定し、もって摺動シート41にめくれが生じ難くなる。定着ベルト33に端部ホルダ37が外嵌されている場合であっても、摺動シート41の端部側からのめくれを生じ難くできる。また、摺動シート41をステー36に取り付けるだけで、摺動シート41をパッド34に適切に取り付けることができるので、有利である。
【0038】
<他の実施形態>
なお、固定機構42は螺子42bだけであってもよく、その場合、摺動シート41は螺子42bとステー36との間に挟み込まれて固定される。また、板状部材42aは複数が間隔を空けて配置されたものであってもよく、本明細書ではこれを含めて長尺状の板状部材42aと呼ぶ。摺動シート41は、少なくとも長手方向両端部がステー36との間に挟み込まれるように固定されていればよい。
【0039】
なお、上述した実施形態では、ステー36の上流側固定部362と下流側固定部363とに摺動シート41を固定したがこれに限らず、摺動シート41の張力を均一に維持することができれば、例えば摺動シート41を本体部361に固定してもよい。ただし、定着ベルト33と加圧ローラ32とを所望の圧接力で圧接すべく、付勢機構(不図示)によるパッド34の面圧調整の観点から、摺動シート41を本体部361に固定するよりも、上流側固定部362と下流側固定部363とに固定するのが好ましい。また、上流側固定部362と下流側固定部363とに固定する方が、摺動シート41をステー36に容易に取り付けやすい。そうするために、ステー36の上流側固定部362と下流側固定部363とは、長手方向に交差する方向で定着ニップNよりも広い間隔を空けるように互いに離間されて形成されると好ましい(図4参照)。
【0040】
なお、上述した実施形態では、定着ベルト33を加熱するために、誘導加熱方式の誘導加熱装置300を用いたが、これに限らない。例えば、定着ベルト33の内側や外側に、ハロゲンヒータ、セラミックヒータ、赤外線ランプなどの加熱源を設け、これらによって定着ベルト33を加熱する構成としてもよい。あるいは、定着ベルト33に限らず、加圧ローラ32を加熱する加熱源を設けてもよい。
【符号の説明】
【0041】
30…定着装置、32…駆動回転体(加圧ローラ)、33…ベルト(定着ベルト)、34…パッド、36…ステー、37…規制部材(端部ホルダ)、37b…嵌合部、41…摺動シート、42…固定機構、42a…板状部材、42b…螺子、300…加熱手段(誘導加熱装置)、N…定着ニップ
図1
図2
図3
図4
図5