(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】電流センサ
(51)【国際特許分類】
G01R 15/20 20060101AFI20240415BHJP
【FI】
G01R15/20 B
(21)【出願番号】P 2022527589
(86)(22)【出願日】2021-04-20
(86)【国際出願番号】 JP2021016065
(87)【国際公開番号】W WO2021241082
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2022-09-06
(31)【優先権主張番号】P 2020094424
(32)【優先日】2020-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135183
【氏名又は名称】大窪 克之
(72)【発明者】
【氏名】中山 敬介
(72)【発明者】
【氏名】田岡 隆洋
(72)【発明者】
【氏名】田村 学
【審査官】青木 洋平
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-188945(JP,A)
【文献】特開2011-082100(JP,A)
【文献】特開2016-170127(JP,A)
【文献】特開2011-164008(JP,A)
【文献】特開2017-102024(JP,A)
【文献】特開2005-188935(JP,A)
【文献】特表2019-527824(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状部材からなり、外部端子を固定する固定部を有し、かつ、被測定電流が流れるバスバと、
前記バスバの一方の板面上に配置され、前記固定部に設けられた挿入孔部に挿通された固定用のボルトを螺入可能であって前記バスバと前記外部端子との接触固定に用いるナットと、
前記バスバに電流が流れることで発生する磁界を検知可能な磁気センサと、
前記バスバ及び前記ナットが内封され、前記磁気センサを収容可能な収納部を有するケース部材と、
前記収納部を覆うように配置されたカバー部材と、
を備えた電流センサであって、
前記ケース部材は、前記ナットにおいて前記バスバの前記固定部に対向する側とは反対側の開口を含む一部が露出した開放部を有し、
前記ナットに前記固定用のボルトが螺入される前においても、前記開放部の全体が、絶縁性を有する保護部材によって覆われて
おり、
前記収納部は、前記開放部において露出する前記ナットの開口と同じ向きに開き前記カバー部材に覆われる開口を有し、
前記保護部材は前記カバー部材と一体に形成され、
前記カバー部材はネジによって前記ケース部材に対して固定されることを特徴とする電流センサ。
【請求項2】
前記ケース部材において前記開放部が設けられた面を第1対向面とし、
前記第1対向面に対向する、前記保護部材の面を第2対向面としたとき、
前記第1対向面及び前記第2対向面のいずれか一方に、前記第1対向面と前記第2対向面の対向方向から見て前記開放部の外側を囲う領域に形成された凸状部を有し、いずれか他方に前記凸状部と係合可能な凹状部を有する
請求項1に記載の電流センサ。
【請求項3】
前記凸状部と前記凹状部は、前記第1対向面及び第2対向面がそれぞれ有する平面に形成される
請求項2に記載の電流センサ。
【請求項4】
前記第1対向面は前記凸状部を有し、前記第2対向面は前記凹状部を有する
請求項2又は請求項3に記載の電流センサ。
【請求項5】
前記開放部は前記ケース部材の内方へ向かって凹んだ凹部を有し、前記ナットは前記凹部内に配置され、前記凹部を、前記保護部材としての封止材料で封止することによって、前記開放部が前記保護部材によって覆われる請求項1に記載の電流センサ。
【請求項6】
前記磁気センサは、前記ケース部材内に配置される基板上に設けられ、
前記基板と前記カバー部材は共通の
前記ネジによって前記ケース部材に対して固定される
請求項1に記載の電流センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バスバに被測定電流が流れることによって生じる磁界に基づいて被測定電流を検出する電流センサに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の電流センサは、導体と磁気センサとが位置決めされた状態で収容され、収容空間内に磁気センサを挿入可能な第1の開口部を備えたケースと、第1の開口部を覆い、導体をケースの外側に連通させるための第2の開口部を備えた絶縁性の蓋と、蓋に位置決めされた蓋磁気シールドとを有しており、ケースは、蓋の第2の開口部と係合して位置決めされる外縁部を備えた位置決め部を有し、位置決め部は、導体の一端部と係合した導電性の筒状のナットを収容して固定する開口部を有し、ナットは相手側端子を導体と電気的に接触させるための端子電極の一部を構成している。ナットは、ケースと一体成形され、導体の一端部と電気的に接合した状態となるように、ケースの位置決め部の電極収容部内に配置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の電流センサでは、ナットをケースと一体成形する際に、導体の一端部との電気的な接合を確保するために抑えピンなどによってナットを支持する必要があり、成形完了後において、抑えピンを当接させていた箇所が露出してしまう。そのため、ナットに対して外部端子を固定するためのボルトが螺合されたときに発生した削れ粉が電流センサの外部に落下し、それが原因で不具合が発生するおそれがあった。また、このような露出状態で電流センサを出荷し、使用されると、露出箇所から侵入した異物によって、本来絶縁されている領域に通電が生じてしまい、絶縁不良が発生してしまう可能性があった。
【0005】
また、ケースにナットをインサート成形せず、導体(バスバ)において外部端子を接続させる部位をケースから突出させ、突出させた部分で外部端子と締結する構成を取った場合、外部端子を締結する際に、保持用の治具を用いて、導体及びナットを保持しながら行わなければならず、煩雑な作業が必要となる。
【0006】
そこで本発明は、ナットとボルトの螺合による削れ粉による不具合の発生を防止でき、ナットの設置部分への異物の侵入を防止し、絶縁不良の発生を抑えることができる電流センサを提供することを目的とする。また、本発明のさらなる目的は、バスバに対して外部端子を締結するときに、バスバやナットを保持用の治具で保持する必要がなく、簡便に締結することができる電流センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の電流センサは、被測定電流が流れるバスバと、バスバと外部端子との接触固定に用いるナットと、バスバに電流が流れることで発生する磁界を検知可能な磁気センサと、磁気センサを収容可能な収納部を有し、かつ、バスバ及びナットが内封されたケース部材と、収納部を覆うように配置されたカバー部材と、を備えた電流センサであって、ケース部材は、ナットの一部が露出した開放部を有し、開放部が、絶縁性を有する保護部材によって覆われていることを特徴としている。
これにより、開放部が保護部材で覆われるため、ナットにボルトが螺合されたときに発生した削れ粉が電流センサの外部に落下することを防止できる。また、開放部からケース部材内へ異物が侵入し、又は、開放部周辺に異物が付着することを防ぐことができることから、絶縁不良の発生を防止することができる。
【0008】
本発明の電流センサにおいて、保護部材はカバー部材と一体に形成されていることが好ましい。
これにより、開放部への保護部材の取り付けを容易に行うことができ、また、保護部材のみを別途製造する必要がないため製造工程の簡素化に資する。
【0009】
本発明の電流センサにおいて、ケース部材において開放部が設けられた面を第1対向面とし、第1対向面に対向する、保護部材の面を第2対向面としたとき、第1対向面及び第2対向面のいずれか一方に、第1対向面と第2対向面の対向方向から見て開放部の外側を囲う領域に形成された凸状部を有し、いずれか他方に凸状部と係合可能な凹状部を有することが好ましい。これにより、凸状部と凹状部とが係合した箇所に隙間ができたとしても、その隙間はラビリンス構造を形成するので、異物(液体も含む)の侵入および流出を防止することができる。また、ケース部材に対して保護部材を組み付けるときに位置合わせが容易となり、製造効率を向上させることができる。
【0010】
本発明の電流センサにおいて、凸状部と凹状部は、第1対向面及び第2対向面がそれぞれ有する平面に形成されることが好ましい。
これにより、凸状部と凹状部とにより形成されるラビリンス構造がより複雑になり、異物の侵入および流出をより確実に防止することができる。
【0011】
本発明の電流センサにおいて、第1対向面は凸状部を有し、第2対向面は凹状部を有することが好ましい。
これにより、ケース部材において開放部の外側を囲う領域に凸状部が設けられるため、保護部材を組み付ける前に開放部から異物が侵入することを防ぐことができ、また、開放部の周辺の肉厚を確保できるため、ナットの固定強度を確保できる。
【0012】
本発明の電流センサにおいて、開放部はケース部材の内方へ向かって凹んだ凹部を有し、ナットは凹部内に配置され、凹部を、保護部材としての封止材料で封止することによって、開放部が保護部材によって覆われることが好ましい。
これにより、開放部を封止材料で確実に覆うことができ、また、カバー部材の形状を単純化できるため、カバー部材の製造工程を簡素化することができる。
【0013】
本発明の電流センサにおいて、磁気センサは、ケース部材内に配置される基板上に設けられ、基板とカバー部材は共通のネジによってケース部材に対して固定されることが好ましい。
これにより、バスバに対する磁気センサの位置と、開放部に対する保護部材の位置とが同時に精度良く決めされる。したがって、各部品の配置位置のばらつきによる測定誤差を小さくすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、ナットに外部端子を固定するためのボルトが螺合されたときに発生した削れ粉が外部に落下することを防止でき、また、ナットの設置部分への異物の侵入を防止し、絶縁不良の発生を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】(a)、(b)は、本発明の第1実施形態に係る電流センサの構成を示す斜視図である。
【
図2】(a)は本発明の第1実施形態に係る電流センサの平面図、(b)は(a)に示す電流センサの底面図である。
【
図3】本発明の第1実施形態に係る電流センサの分解斜視図である。
【
図4】
図2(a)のS1-S1’線における断面図である。
【
図6】
図4の開放部近傍の一部拡大図であって、カバー部材をケース部材から離間させた状態を示す図である。
【
図7】変形例において、
図5と
図6に対応する位置におけるケース部材の断面図である。
【
図8】(a)、(b)は、本発明の第2実施形態に係る電流センサの構成を示す斜視図である。
【
図9】本発明の第2実施形態に係る電流センサの底面図である。
【
図10】本発明の第2実施形態に係る電流センサの平面図である。
【
図11】本発明の第2実施形態に係る電流センサのカバー部材の(a)平面図、(b)側面図である。
【
図12】本発明の第2実施形態に係る電流センサの説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の第1実施形態に係る電流センサ10について図面を参照しつつ詳しく説明する。各図には、基準座標としてX-Y-Z座標が示されている。以下の説明において、Z1-Z2方向を上下方向、X1-X2方向を前後方向(幅方向)、Y1-Y2方向を左右方向(長手方向)と称する。X1-X2方向とY1-Y2方向は互いに垂直であり、これらを含むX-Y平面はZ1-Z2方向に垂直である。また、上側(Z1側)から下側(Z2側)を見た状態を平面視と言うことがある。
【0017】
図1(a)、(b)は、第1実施形態に係る電流センサ10の構成を示す斜視図であって、(a)は手前上方から見た図、(b)は下方から見た図である。
図2(a)は電流センサ10の平面図、(b)は電流センサ10の底面図、
図3は電流センサ10の分解斜視図である。
図3においては、カバー部材60を固定するためのネジ64や、シールド材等の表示を省略している。
図4は、
図2(a)のS1-S1’線における断面図、
図5は、
図4の第2開放部52とその近傍を示す一部拡大図、
図6は、
図5に対応する図であって、カバー部材60をケース部材50から離間させた状態を示す図である。
【0018】
図3に示すように、電流センサ10は、3つのバスバ21、22、23と、これらのバスバにそれぞれ対応する3つのナット31、32、33と、ケース部材50と、カバー部材60と、基板70とを備える。さらに、
図4に示すように、磁気センサ40と、3対のシールド部材55、65とを備え、ケース部材50には開放部52が設けられている。本実施形態では、3つのバスバ21、22、23が設けられ、これらに対応するように、3つのナット及び3対のシールド部材を設けているが、バスバの数は電流センサの仕様等に応じて任意の数に設定できる。
【0019】
図4に示すように、第2バスバ22は、金属製の板状部材であって、略直角に屈曲させることにより、延出部22aと固定部22bとが形成されている。延出部22aは、ケース部材50から下方へ延出しており、固定部22bは、ケース部材50内で前後方向(X1-X2方向)に沿って延びるように内封されている。固定部22bには、厚み方向(上下方向、Z1-Z2方向)に沿って貫通する挿入孔部22hが設けられている。挿入孔部22hは、
図1(b)、
図2(b)、及び、
図4に示すように、ケース部材50の底面50uにおいて、上側へ凹むように設けられた凹部50rから外部へ露出し、外部端子(不図示)と接続可能である。
【0020】
第1バスバ21と第3バスバ23についても、第2バスバ22と同じ金属からなり、同じ厚みと幅を有する板状部材を略直角に屈曲させることにより、延出部21a、23aと、固定部21b、23bとがそれぞれ形成されている。延出部21a、23aは、第2バスバ22と同様に、ケース部材50から下方へそれぞれ延出しており、固定部21b、23bは、ケース部材50内で前後方向に沿って延びるようにそれぞれ内封されている。固定部21b、23bは、ケース部材50の前方壁部50wの内部において、左右方向に沿って互いに離れる方向へそれぞれ延びている。固定部21b、23bには、厚み方向(上下方向)に沿って貫通する挿入孔部21h、23hがそれぞれ設けられている。挿入孔部21h、23hは、
図1(b)、
図2(b)、及び、
図4に示すように、ケース部材50の底面50uから外部へ露出している。
【0021】
3つのバスバ21、22、23は、左右方向において、互いに平行に延びており、延出部21a、22a、23aは互いに同じ幅・厚み・長さを有し、固定部21b、22b、23bは互いに同じ幅・厚みを有する。それぞれの挿入孔部21h、22h、23hは、互いに同一の形状を有し、前後方向において同じ位置に設けられている。
【0022】
ケース部材50は、絶縁性の材料で形成され、
図2(a)、(b)に示すように、平面視において、左右方向に延びた略長方形を有する。
図3に示すように、ケース部材50の上部の後側には下側へ凹設された段差部50dが設けられ、段差部50dの底部に収納部50bが設けられている。段差部50dは、前方壁部50wの上面50aよりも下側へ凹設された空間である。収納部50bは、段差部50dの底部よりも下側へ凹設されており、基板70の下面に設けられた磁気センサ40などを収容可能としている(
図4参照)。
【0023】
図3に示すように、上面50aは、ケース部材50の前方壁部50wにおいて、X-Y面に沿った平面として、左右方向(Y1-Y2方向)に沿って延びている。
【0024】
図3に示すように、ケース部材50の上面50a(第1対向面)には、左右方向において等間隔に3つの開放部51、52、53が設けられている。これらの開放部51、52、53は平面視円形の形状で凹設されている。また、その内部にはケース部材50にインサート成形されたナット31、32、33の一部がそれぞれ露出している。なお、開放部51、52、53は、ケース部材50をナット31、32、33とともに成形する際に、ナット31、32、33を金型内に保持する部材(抑えピンなど)があった箇所に、離型後にできた空間である。開放部51、52、53は、バスバ21、22、23の挿入孔部21h、22h、23hにそれぞれ対応する位置に設けられている。
【0025】
ケース部材50は、3つのバスバ21、22、23及び3つのナット31、32、33を内部の所定位置に配置して固定されるように、インサート成形によって形成される。
【0026】
図5と
図6に示すように、インサート成形後のケース部材50の前方壁部50wにおいては、第2ナット32の内部に設けられたネジ溝部32aと、第2バスバ22の挿入孔部22hとは、上下方向に沿って延びる中心軸が互いに一致している。よって、第2バスバ22の底面に外部端子(不図示)を接触させた状態で、ケース部材50の凹部50r側から、挿入孔部22hへ固定用のボルト(不図示)を螺入すると、このボルトは第2ナット32のネジ溝部32a内へ螺入される。このため外部端子は、上記ボルトを、第2バスバ22を介して第2ナット32に締結することによってバスバ22に接触固定され、第2バスバ22と電気的に接続される。
【0027】
なお、ケース部材50に第2ナット32をインサート成形せず、バスバ22の挿入孔部22hが設けられた部分をケース部材50の前方壁部50wから突出させ、突出させた部分で底面に外部端子(不図示)と締結する構成も考えられる。しかしながら、この構成において外部端子を締結する際にはバスバ22及び第2ナット32を固定・保持しながら行わなければならない。それに比べて、本実施形態の電流センサ10のような構造の場合、ケース部材50を保持することで、バスバ22及び第2ナット32も保持されるため、これらを別途固定・保持する必要はなく、ケース部材50が外部端子(不図示)を受ける治具の役割まで果たすことができる。
【0028】
図4~
図6では、第2バスバ22を例に挙げて、外部端子との接続について説明したが、第1バスバ21及び第3バスバ23のそれぞれに対する外部端子の電気的接続(接触固定)についても同様に行うことができる。
【0029】
図3に示すように、ケース部材50の段差部50dの底部には、収納部50bを覆うように、平面視略長方形の基板70が配置される。基板70の下面には磁気センサ40が固定されており、磁気センサ40は収納部50bに挿入されている。磁気センサ40は、第2バスバ22の固定部22bの上方に位置するように配置される。これにより、磁気センサ40は、被測定電流が第2バスバ22を流れることで発生する磁界を検知可能となる。磁気センサ40は、例えば、GMR素子(巨大磁気抵抗効果素子)などの磁気抵抗効果素子を用いて構成される。
【0030】
図4に示すように、X-Y面の法線方向(Z1-Z2方向)において、磁気センサ40を上下から挟むように、対をなす、第1シールド部材55と第2シールド部材65が配置されている。第1シールド部材55はケース部材50の成形の際にケース部材50内に内封され、第2シールド部材65はカバー部材60の成形の際にカバー部材60内に内封されている。これにより、外部磁界が磁気センサ40に到達するのを防ぐことができ、磁気センサ40において第2バスバ22を流れる電流によって発生する磁界を精度良く検知することができる。
【0031】
磁気センサ40は、基板70の下面において、第1バスバ21及び第3バスバ23の上方位置にも2つの磁気センサがそれぞれ配置されており、それぞれの磁気センサにおいて対向するバスバを流れる電流によって発生する磁界を検知する。これら2つの磁気センサをそれぞれ挟むように、2対のシールド部材が、第1シールド部材55と第2シールド部材65と同様に、ケース部材50とカバー部材60にそれぞれ内封されている。
【0032】
図1又は
図3に示すように、カバー部材60は、平面視で略長方形状をなしており、ケース部材50の段差部50dを、その内部に配置された基板70とともに覆うように、ケース部材50に対して7本のネジ64を止めることによって固定される。なお、カバー部材60のネジ穴と基板70のネジ穴とは上下方向(Z1-Z2方向)に同軸となるように設けられており、共通のネジ64によりケース部材50に対してネジ止め固定される。このように固定することで、第1シールド部材55、第2シールド部材65、各バスバおよび磁気センサ40が所定の位置に位置決めされる。したがって、各部品の配置位置のばらつきによる測定誤差を小さくすることができる。カバー部材60は絶縁性の材料で構成され、例えば樹脂の成形によって製造される。カバー部材60の製造では、上述の第2シールド部材65が内封されるようにインサート成形が行われる。
【0033】
カバー部材60の前端部の上面には、ケース部材50の3つの開放部51、52、53のそれぞれに対応する位置に、保護部材としての3つの保護カバー61、62、63が設けられている。これらの保護カバー61、62、63は、カバー部材60と同じ絶縁性材料からなり、カバー部材60の前端部から前方へ延びるようにそれぞれ設けられており、開放部51、52、53を上から覆うような、平面視半円形状の板状をなしている。保護カバー61、62、63は、カバー部材60とともに一体で成形すると、開放部51、52、53に対する位置合わせが容易かつ正確に行えるため好ましい。また、保護カバー61、62、63を、弾性を有する材料で構成すると、開放部51、52、53に対して弾接するため密着性が向上し、開放部51、52、53内への異物の侵入を効果的に防ぐことができる。
【0034】
図5と
図6に示すように、ケース部材50において、開放部51、52、53が設けられた上面50aを第1対向面としたとき、カバー部材60の下面60uは、上面50a(第1対向面)に対向する平面(第2対向面)をなしている。
図6に示すように、ケース部材50の上面50aには、上面50aと下面60uとが互いに対向する対向方向(Z1-Z2方向)から見て、開放部52の外側を囲う領域に凸状部52aが設けられ、第2保護カバー62には、開放部52上に第2保護カバー62を載置したときに、凸状部52aに係合可能な形状を有する凹状部62aが設けられている。開放部52は、凸状部52aの内周面52bによって平面視円形状の形状が形成されている。
ここで、第2開放部52の形状、及び、第2開放部52に対応する第2保護カバー62の形状は、これ以外の第1開放部51と第3開放部53、及び、これらにそれぞれ対応する第1保護カバー61と第3保護カバー63についても同様である。
【0035】
図3に示すように、凸状部52aは、ケース部材50の上面50aから上方へ突出し、平面視でリング状となるように形成されている。カバー部材60の凹状部62aは、凸状部52aに対応した形状、すなわち下側から見てリング状に形成されている。
【0036】
カバー部材60において、リング状の凹状部62aの中心軸と共通の中心軸を有するように、凹状部62aの内側に凹部62bが設けられている。凹部62bは、ケース部材50上にカバー部材60を配置したときに、第2ナット32のネジ溝部32aと中心軸が一致するように、第2ナット32の上方に配置される。
なお、ケース部材50側に凹状部を設け、この凹状部に係合可能となるようにカバー部材60側に凸状部を設けることも可能である。
【0037】
図5と
図6に示すように、開放部52を形成する内周面52bは、ケース部材50の前方壁部50w内において第2ナット32を収容する収容空間52cに連設されている。収容空間52cの内周面は第2ナット32の外周面に沿った形状を有している。
図6に示すように、第2ナット32の外周面には、上下方向の略中央の位置に、内方へ凹んだ溝部32bが設けられている。収容空間52cの内周面には、溝部32bに対応する形状の突出部52dが設けられている。よって、溝部32bと突出部52dとが互いに噛み合っているため、ケース部材50に対する第2ナット32の固定強度を高めることができることから、外部端子を第2バスバ22に螺合するときや、外部端子を固定した後に外部からの力がかかったときに、第2ナット32が外れたり、又は、破損したりすることを防止することができる。
【0038】
電流センサ10は、ケース部材50のインサート成形工程と、カバー部材60の一体成形工程と、基板70の実装工程と、成形されたケース部材50に対して、基板70、カバー部材60を順に装着する組み付け工程と、によって製造される。バスバ21、22、23に対して外部端子を締結し、バスバ21、22、23に被測定電流を流れることで発生する磁界を、各バスバに対応(対向)する磁気センサが検知し、この検知結果に基づいて、被測定電流の電流値が検出される。
【0039】
ケース部材50のインサート成形工程においては、3本のバスバ21、22、23と3つのナット31、32、33を、ケース部材50の所定位置にそれぞれ配置した状態となるように成形が実行され、これによって、バスバ21、22、23とナット31、32、33がケース部材50に内封される。この工程では、ナット31、32、33の位置決めのために、例えばピンのような位置決め部材がケース部材50を成形するための金型内に配置されており、インサート成形後に位置決め部材が除去される。
【0040】
インサート成形工程の結果、3本のバスバ21、22、23は、ケース部材50の底面50uから延出部21a、22a、23aが下方へそれぞれ延出し、また、ケース部材50の底面50uにおいて、外部端子が接続可能となるように、挿入孔部21h、22h、23hが露出している。また、3つのナット31、32、33は、上記位置決め部材の除去によって、開放部51、52、53から、一部、すなわち上部が露出する。
【0041】
カバー部材60の一体成形工程においては、カバー部材60と3つの保護カバー61、62、63が一体で成形される。
【0042】
以上のように構成されたことから、保護部材としての保護カバー61、62、63で開放部51、52、53がそれぞれ確実に覆われるため、ナット31、32、33に外部端子を固定するためのボルトが螺合されたときに発生した削れ粉が外部に落下することが原因で不具合が発生することを防ぐことができる。さらに、開放部51、52、53の内部や、ケース部材50の内部でナット31、32、33が収容される収容空間52cの内部などに異物が侵入又は混入することを防止することができ、絶縁不良が発生することを抑えることが可能となる。
【0043】
カバー部材60に保護カバー61、62、63が一体で成形されているため、開放部51、52、53上に確実かつ正確に保護カバー61、62、63を配置することができる。
【0044】
ケース部材50に凸状部52aを設け、カバー部材60において、凸状部52aに対応する位置に凹状部62aを設けることにより、凸状部52aと凹状部62aとが係合した箇所に隙間ができたとしても、その隙間がラビリンス構造を形成するので、異物の侵入および流出に対する効果が高い。また、ケース部材50に対するカバー部材60の組み付け時に位置合わせが容易となる。
【0045】
以下に第1実施形態の変形例について説明する。
図7は、変形例において、
図5と
図6に対応する位置における、ケース部材50の断面図である。
図7に示すように、第2開放部52の内周面52bで囲まれる空間(凹部)を、保護部材としての絶縁性の封止材料160、例えば樹脂材料で封止している。これにより、第2開放部52の内部への異物の侵入を防止することができる。絶縁性の封止材料160による封止は、上記ケース部材50のインサート成形工程後、ナット31、32、33の位置決めのための位置決め部材の除去の後であって、ケース部材50に対する、基板70とカバー部材60の組み付け工程の前に行う。
【0046】
なお、絶縁性の封止材料160で凹部を封止する構成及び封止工程は、上記第2開放部52以外の、第1開放部51と第3開放部53も同様である。また、変形例の構成に対しては、保護カバー61、62、63を形成しないカバー部材を適用することもできるが、上記実施形態と同様に保護カバー61、62、63を備えたカバー部材60を用いると異物侵入の防止効果をさらに高めることができる。
【0047】
続いて、本発明の第2実施形態に係る電流センサの構造について説明する。
図8(a)、(b)は、本発明の第2実施形態に係る電流センサの構成を示す斜視図であり、(a)は下方から見た図、(b)は上方からみた図である。
図9は、本発明の第2実施形態に係る電流センサの底面図である。
図10は、本発明の第2実施形態に係る電流センサの平面図である。
図11(a)は、本発明の第2実施形態に係る電流センサのカバー部材の底面図であり、
図11(b)は、
図11(a)に示されるカバー部材の側面図である。
図12は、本発明の第2実施形態に係る電流センサのケース部材の説明図である。
【0048】
図8等に示されるように、本発明の第2実施形態に係る電流センサ200は、本発明の第1実施形態に係る電流センサ100と同様に、ケース部材250にバスバ220が組み込まれた構造を有している。バスバ220は、X1-X2方向に延びる導電性材料からなる板材からなり、X1-X2方向の両端には露出部を有し、それぞれの露出部に挿入孔部221h、222hを有する。電流センサ200では、外部から電力を受け外部へと信号を出力する複数のコネクタピン280が、Z1-Z2方向Z2側に突出している。
【0049】
図8(b)および
図10に示されるように、電流センサ200のZ1-Z2方向Z1側の面には、カバー部材260が設けられている。ここで、第1実施形態の電流センサ100のカバー部材60では、
図3に示されるように、ナット31、32、33が配置される開放部51、52、53を覆うように位置する保護カバー61、62、63は、カバー部材60の他の部分よりも、開放部51、52、53が開く向き(Z1-Z2方向Z1側)に突出している。これに対し、
図11(b)に示されるように、第2実施形態のカバー部材260は、ケース部材250の開放部251が開く向き(Z1-Z2方向Z1側、
図12参照。)に突出部を有しない。なお、
図12では、ケース部材250の内部構造が理解しやすいように、カバー部材260を取り外した図が示されている。
【0050】
図12に示されるように、第2実施形態の電流センサ200は、第1実施形態の電流センサ100と同様にケース部材250が基板270を収容する段差部250dを有するが、この段差部250dが開放部251の周囲まで形成されている点で、第1実施形態と異なる。このように、開放部251の周囲まで段差部250dが設けられているため、カバー部材260は、第1実施形態の電流センサ100におけるカバー部材60の保護カバー61、62、63のようなZ1-Z2方向Z1側に突出部を有していない。第2実施形態の電流センサ200はこの点においても第1実施形態と異なる。よって、ケース部材250にカバー部材260を取り付けたときに、カバー部材260の全体が段差部250d内に配置されることで電流センサ200はZ1-Z2方向Z1側に突出部がなくなる。そのため、電流センサ200が組み込まれた装置内での電流センサ200の配置自由度を高めることができる。
【0051】
図13は、
図9のA-A線に沿った断面図である。
図13に示されるように、ケース部材250における、バスバ220の挿入孔部221hが位置する部分のZ1-Z2方向Z1側には、ナット230が埋設されている。ナット230は、樹脂製のケース部材250を成形する際にインサート成形によってケース部材250と一体に形成される。ケース部材250のナット230が埋設されている部分のZ1-Z2方向Z1側には、ナット230がその底面に位置するケース座繰り部250rが設けられる。ケース座繰り部250rには、Z1-Z2方向Z1側からみてナット230を囲むように、リング状の凸状部250aが設けられる。凸状部250aのZ1-Z2方向Z1側の端部は、ケース部材250の他の部分のZ1-Z2方向Z1側の端面よりもZ1-Z2方向Z2側に位置する。すなわち、リング状の凸状部250aは、その全体がケース座繰り部250rの内部に位置する。
【0052】
図11(a)および
図13に示されるように、カバー部材260は、電流センサ200として組み立てられたときに、ケース部材250のケース座繰り部250rに対向する部分に、Z1-Z2方向Z1側に窪んだカバー座繰り部260rを有する。カバー座繰り部260rの底面には、ケース座繰り部250rと同様のリング状のカバー凸状部260pが設けられている。電流センサ200として組み立てられたときに、カバー座繰り部260rのカバー凸状部260pの外周側に位置するリング状の凹部260aの内部にカバー部材260の凸状部250aが入り、ラビリンス構造が構成される。
【0053】
このように、ケース部材250およびカバー部材260のそれぞれについて底面にリング状の凸状部を有する座繰り部を設け、これらの座繰り部を凸状部同士がかみ合うように対向させることにより、電流センサ200では、Z1-Z2方向Z1側に突出部を有しないフラットな構造でありながら、保護カバー61、62、63を用いた電流センサ100の場合よりも、ラビリンス構造の沿面距離を長くすることが実現されている。
【0054】
本発明について上記実施形態を参照しつつ説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、改良の目的または本発明の思想の範囲内において改良または変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0055】
以上のように、本発明に係る電流センサは、ナットに外部端子を固定するためのボルトが螺合されたときに発生した削れ粉が電流センサの外部に落下することを防止でき、さらに、バスバと外部端子との接続固定に用いるナットの設置部分への異物の侵入を防止できる点で有用である。
【符号の説明】
【0056】
10、200 電流センサ
21、22、23、220 バスバ
21a、22a、23a 延出部
21b、22b、23b 固定部
21h、22h、23h、221h、222h 挿入孔部
31、32、33、230 ナット
32a ネジ溝部
32b 溝部
40 磁気センサ
50、250 ケース部材
50a ケース部材の上面
50b 収納部
50d、250d 段差部
50r 凹部
50u ケース部材の底面
50w 前方壁部
51、52、53、251 開放部
52a、250a 凸状部
52b 凸状部の内周面
52c 収容空間
52d 突出部
55、65 シールド部材
60、260 カバー部材
60u カバー部材の下面
61、62、63 保護カバー(保護部材)
64 ネジ
62a、262 凹状部
62b 凹部
70、270 基板
160 封止材料(保護部材)
250r ケース座繰り部
260a 凹部
260p カバー凸状部
260r カバー座繰り部
280 コネクタピン