(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】動的解析による相対fu比の測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/15 20060101AFI20240415BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20240415BHJP
G01N 33/49 20060101ALI20240415BHJP
【FI】
G01N33/15 Z
G01N33/50 Z
G01N33/49 Z
(21)【出願番号】P 2022570069
(86)(22)【出願日】2021-12-17
(86)【国際出願番号】 JP2021046680
(87)【国際公開番号】W WO2022131357
(87)【国際公開日】2022-06-23
【審査請求日】2024-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2020210495
(32)【優先日】2020-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003311
【氏名又は名称】中外製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【氏名又は名称】坂西 俊明
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 史彦
(72)【発明者】
【氏名】橘 達彦
(72)【発明者】
【氏名】山内 剛
(72)【発明者】
【氏名】蔵本 詩乃
(72)【発明者】
【氏名】松野 富美代
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-311200(JP,A)
【文献】特開2001-145821(JP,A)
【文献】DESHMUKH, S. V. and HARSCH, A.,Direct determination of the ratio of unbound fraction in plasma to unbound fraction in microsomal s,Journal of Pharmacological and Toxicological Methods,2011年,vol.63(1),PP. 35-39
【文献】JONES, R. S. et al.,Evaluation of a competitive equilibrium dialysis approach for assessing the impact of protein bindin,Jounal of Pharmaceutical Sciences,2020年09月15日,Vol.110,PP.536-542
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、異なる生物学的試料間における測定対象物質の相対的な非結合型分率比(相対f
u比)を求めるための方法;
(1)隣接するチャンバー同士が、測定対象物質が透過し得る半透膜によって隔てられたチャンバーシステム(I)を用意する工程、
(2)前記チャンバーシステム(I)の内、一つのチャンバー(ドナー側チャンバー)に第一の生物学的試料(A)及び前記測定対象物質を含むドナー溶液を添加する工程、
(3)前記チャンバーシステム(I)の内、前記ドナー側チャンバーとは異なるチャンバー(アクセプター側チャンバー)に第二の生物学的試料(B)を含むアクセプター溶液を添加する工程、
(4)前記工程(2)のドナー溶液及び前記工程(3)のアクセプター溶液中における前記測定対象物質の濃度を経時的に測定する工程、及び
(5)前記工程(4)で測定した測定対象物質の濃度に関するデータを用いて相対f
u比を算出する工程。
【請求項2】
以下の工程をさらに含む、請求項1に記載の方法;
(6)隣接するチャンバー同士が、測定対象物質を透過させる半透膜によって隔てられた、前記チャンバーシステム(I)と異なるチャンバーシステム(II)を用意する工程、
(7)前記チャンバーシステム(II)の内、一つのチャンバー(アクセプター側チャンバー)に前記生物学的試料(A)を含むアクセプター溶液を添加する工程、
(8)前記チャンバーシステム(II)の内、前記アクセプター側チャンバーとは異なるチャンバー(ドナー側チャンバー)に前記生物学的試料(B)及び前記測定対象物質を含むドナー溶液を添加する工程、
(9)前記工程(7)のアクセプター溶液及び前記工程(8)のドナー溶液中における前記測定対象物質の濃度を経時的に測定する工程、及び
(10)前記工程(9)で測定した測定対象物質の濃度に関するデータを用いて相対f
u比を算出する工程。
【請求項3】
前記生物学的試料(A)及び/又は(B)が、緩衝液で希釈されている、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記半透膜の分画分子量が、50kDa以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記生物学的試料(A)中における前記測定対象物質のタンパク結合率が、95%以上である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記生物学的試料(B)中における前記測定対象物質のタンパク結合率が、95%以上である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記生物学的試料(A)が、ミクロソーム画分、血液、血漿及び血清からなる群より選ばれる一つである、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記生物学的試料(B)が、ミクロソーム画分、血液、血漿及び血清からなる群より選ばれる一つである、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記生物学的試料が、血清である、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記生物学的試料(A)が、哺乳動物に由来する、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記生物学的試料(B)が、哺乳動物に由来する、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記測定対象物質のCLogPが25以下である、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記測定対象物質の分子量が、5000以下である、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか一項に記載の方法により求めた前記f
u比及び前記生物学的試料(A)又は前記生物学的試料(B)のいずれか一方が由来する種における薬物のクリアランスのデータを用いて、もう一方の生物学的試料が由来する種における薬物のクリアランスを予測する方法。
【請求項15】
請求項1から13のいずれか一項に記載の方法により求めた前記相対fu比及び前記生物学的試料(A)又は前記生物学的試料(B)のいずれか一方が由来する種における薬物の分布容積のデータを用いて、もう一方の生物学的試料が由来する種における薬物の分布容積を予測する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平衡透析および動的解析による、異なる生物学的試料間における測定対象物質の相対的な非結合型分率比(相対fu比)を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体に吸収された薬物は、血漿中において結合型(非特異的に血漿タンパク質へと結合した状態)と非結合型(フリー体の状態)で存在し、結合型はターゲットに作用することができず、非結合型が直接ターゲットに作用すると考えられている(フリー体仮説)。フリー体仮説に基づくと、薬効/毒性発現に影響を与える要因は非結合型濃度と考えられるが、通常、血漿中薬物濃度は結合型と非結合型のトータルとして得られるため、トータル濃度から非結合型濃度を算出するための非結合型分率(fraction unbound, fu値)が、重要なパラメーターと位置付けられる。fu値は、非臨床薬物動態研究(マウス、ラット、イヌ、サル、細胞アッセイ等を用いた薬物動態研究)においては、各試料から個別に取得され、フリー体濃度情報等に利用されることで、ヒトにおける予測(薬物の消失・分布を示すクリアランス・分布容積の予測、in vitro代謝固有クリアランスの補正)、ならびに薬物間相互作用(Drug-Drug interaction:DDI)リスクについて、それぞれ予測精度向上が図られてきた。
【0003】
血漿中における非結合型分率(fu値、絶対値)を確かめる公知方法として平衡透析法がある。具体的には、半透膜によって分けられたバッファーチャンバーおよび血漿入りチャンバーにおいて、平衡状態に達した時点の濃度比を前提として、目的化合物の非結合型分率を反映させる(非特許文献1)。平衡透析は、その利用の迅速さ簡便さからゴールドスタンダードと言われており、様々な手法が提案されている。例えば、非特許文献2では、同一種血漿を両チャンバーに入れたフラックス解析が行われており、fuが0.000013から0.22の範囲で推定されている。また、非特許文献3では、双方向による平衡透析評価がなされており、A to B およびB to Aにより同等fu値が得られた場合、自信を持って数値を採用する方法が考案されている。他方、平衡透析を応用した方法として、2種間のfuの比を直接求める試みが提案されている(非特許文献4、非特許文献5)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Eriksson, M. A., et al. (2005). "Studies of drug binding to plasma proteins using a variant of equilibrium dialysis." J Pharm Biomed Anal 38(3): 381-389.
【文献】Kalvass, J. C., et al. (2018). "Mathematical and Experimental Validation of Flux Dialysis Method: An Improved Approach to Measure Unbound Fraction for Compounds with High Protein.” Drug Metabolism and Disposition, 46: Pages 458-469, April.
【文献】Chen, Y. C., et al. (2019). "Improving Confidence in the Determination of Free Fraction for Highly Bound Drugs Using Bidirectional Equilibrium Dialysis." J Pharm Sci 108(3): 1296-1302.
【文献】Deshmukh, S. V. and A. Harsch (2011). "Direct determination of the ratio of unbound fraction in plasma to unbound fraction in microsomal system (fu p/fu mic) for refined prediction of phase I mediated metabolic hepatic clearance." J Pharmacol Toxicol Methods 63(1): 35-39.
【文献】Jones, R. S., et al. (2020). "Evaluation of a competitive equilibrium dialysis approach for assessing the impact of protein binding on clearance predictions." J Pharm Sci., Available online 15 September 2020.
【文献】Tang, H. and M. Mayersohn (2005). "A novel model for prediction of human drug clearance by allometric scaling." Drug Metab Dispos 33(9): 1297-1303.
【文献】Berry, L. M., et al. (2011). Species differences in distribution and prediction of human V(ss) from preclinical data." Drug Metab Dispos 39(11): 2103-2116.)
【文献】Riccardi K, Cawley S, Yates PD, et al. Plasma protein binding of challenging compounds. J Pharm Sci. 2015;104:2627-2636.
【文献】Kalvass JC, Maurer TS. Influence of nonspecific brain and plasma binding on CNS exposure: implications for rational drug discovery. Biopharm Drug Dispos. 2002;23:327-338.
【文献】Vieira, M. L., et al. (2014). "Evaluation of various static in vitro-in vivo extrapolation models for risk assessment of the CYP3A inhibition potential of an investigational drug." Clin Pharmacol Ther 95(2): 189-198.).
【文献】Hachad, H., et al. (2010). "A useful tool for drug interaction evaluation: the University of Washington Metabolism and Transport Drug Interaction Database." Hum Genomics 5(1): 61-72.
【文献】Chu, Q. S., et al. (2008). "A phase I and pharmacokinetic study of lapatinib in combination with letrozole in patients with advanced cancer." Clin Cancer Res 14(14): 4484-4490.
【文献】Koch, K. M., et al. (2017). "The effects of lapatinib on CYP3A metabolism of midazolam in patients with advanced cancer." Cancer Chemother Pharmacol 80(6): 1141-1146.
【文献】Takano, J., et al. (2016). "The Prediction of the Relative Importance of CYP3A/P-glycoprotein to the Nonlinear Intestinal Absorption of Drugs by Advanced Compartmental Absorption and Transit Model." Drug Metab Dispos 44(11): 1808-1818.
【文献】FDA DDI guidance(2020)
【文献】Yang, J., et al. (2007). "Prediction of intestinal first-pass drug metabolism." Curr Drug Metab 8(7): 676-684.
【文献】Yang, J., et al. (2007). "Misuse of the well-stirred model of hepatic drug clearance." Drug Metab Dispos 35(3): 501-502.
【文献】Obach, R. S., et al. (2006). "The utility of in vitro cytochrome P450 inhibition data in the prediction of drug-drug interactions." J Pharmacol Exp Ther 316(1): 336-348.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これら公知の手法においてfu値が低い化合物(血漿中タンパク結合率が高い化合物、高タンパク結合率化合物)を扱う場合、平衡状態に達する時間が長期化する点、バッファーチャンバー壁面における吸着影響が問題となり、正確な数値を得るのが困難と考えられる。そのため、平衡透析を利用してfu値を求める方法は、利用に適した化合物が限定された方法と考えられる。加えて、低値のfu値は、誤差が生じやすい値であり(例えば、fu=0.00001とfu=0.00002などの数値)、それらを個々に得て、多種試料間の比較((マウス、ラット、イヌ、サル、ヒト間における比較)に用いていくことは、誤差の増加につながり、解析精度の点でも不利と思われる。非特許文献2の手法では、fu値を求める計算過程において、低分子化合物から求めた半透膜透過速度(Pmem [m/s])の平均値が、各化合物fu値を求める際の共通値として利用されている。しかしながら、PmemはStokes-Einsteinの理論に従い、分子量と負の相関を示す係数と考えられるため、シクロスポリン(分子量:1202.61)など化合物分子量が大きくPmemを過大評価している場合には、非特許文献2の手法による誤差は増すと考えられる。加えて、化合物分子量が大きい場合は、平衡状態に達する時間が長期化するため、fu値が低い化合物については実験から正確なfu値を得るのが困難と考えられる。非特許文献3の手法では、依然としてバッファーチャンバーが用いられており、シクロスポリンなどデバイスへの吸着が強い化合物には対応できない。非特許文献4、5においても、fu比を求めるにあたり平衡状態に達した後の濃度を用いている。このため、平衡状態に達していない化合物のfu比の検出は難しく、fu値が低い化合物(すなわち高タンパク結合率化合物)には不向きと考えられる。
【0006】
本発明においては上記課題を鑑み、高タンパク結合率化合物について高い精度のfu値の比を短時間で取得する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、平衡透析および動的解析を組み合わせることにより、高タンパク結合率化合物であっても、当該化合物の異なる生物学的試料間の相対的な非結合型分率比(相対fu比)を、高精度かつ短時間で取得可能であることを見出した。この相対fu比を用い、一つの生物学的試料が由来する種における薬物のクリアランスあるいは分布容積のデータから、他の生物学的試料に由来する種における薬物のクリアランスあるいは分布容積のデータの補正が可能となり、ヒト薬物動態について精度良い予測をすることができる。
【0008】
すなわち、本発明は、以下に関する。
〔1〕
以下の工程を含む、異なる生物学的試料間における測定対象物質の相対的な非結合型分率比(相対f
u比)を求めるための方法;
(1)隣接するチャンバー同士が、測定対象物質が透過し得る半透膜によって隔てられたチャンバーシステム(I)を用意する工程、
(2)前記チャンバーシステム(I)の内、一つのチャンバー(ドナー側チャンバー)に第一の生物学的試料(A)及び前記測定対象物質を含むドナー溶液を添加する工程、
(3)前記チャンバーシステム(I)の内、前記ドナー側チャンバーとは異なるチャンバー(アクセプター側チャンバー)に第二の生物学的試料(B)を含むアクセプター溶液を添加する工程、
(4)前記工程(2)のドナー溶液及び前記工程(3)のアクセプター溶液中における前記測定対象物質の濃度を経時的に測定する工程、及び
(5)前記工程(4)で測定した測定対象物質の濃度に関するデータを用いて相対f
u比を算出する工程。
〔2〕
以下の工程をさらに含む、〔1〕に記載の方法;
(6)隣接するチャンバー同士が、測定対象物質を透過させる半透膜によって隔てられた、前記チャンバーシステム(I)と異なるチャンバーシステム(II)を用意する工程、
(7)前記チャンバーシステム(II)の内、一つのチャンバー(アクセプター側チャンバー)に前記生物学的試料(A)を含むアクセプター溶液を添加する工程、
(8)前記チャンバーシステム(II)の内、前記アクセプター側チャンバーとは異なるチャンバー(ドナー側チャンバー)に前記生物学的試料(B)及び前記測定対象物質を含むドナー溶液を添加する工程、
(9)前記工程(7)のアクセプター溶液及び前記工程(8)のドナー溶液中における前記測定対象物質の濃度を経時的に測定する工程、及び
(10)前記工程(9)で測定した測定対象物質の濃度に関するデータを用いて相対f
u比を算出する工程。
〔3〕
前記生物学的試料(A)及び/又は(B)が、緩衝液で希釈されている、〔1〕または〔2〕に記載の方法。
〔4〕
前記半透膜の分画分子量が、50kDa以下である、〔1〕から〔3〕のいずれか一項に記載の方法。
〔5〕
前記工程(5)及び(10)が動的解析である、〔1〕から〔4〕のいずれか一項に記載の方法。
〔6〕
前記動的解析が下記式1から式3を用いて行われる、〔5〕に記載の方法;
(式1)
(式2)
(式3)
(式中、
式1はドナー溶液中における測定対象物質の単位時間当たりの量の変化を示し、式2はアクセプター溶液中における測定対象物質の単位時間当たりの量の変化を示し、式3はドナー側チャンバーにおける吸着画分の測定対象物質の単位時間当たりの量の変化を示し;
V1はドナー溶液の容積を示し、V2はアクセプター溶液の容積を示し、fu1はドナー溶液に含まれる生物学的試料に対する測定対象物質のf
u値を示し、fu2はアクセプター溶液に含まれる生物学的試料に対する測定対象物質のf
u値を示し、C1はドナー溶液中の測定対象物質の濃度(トータル濃度:結合型及び非結合型測定対象物質の合計。ただし、平衡透析デバイスに吸着した測定対象物質は除く。)を示し、C2はアクセプター溶液中の測定対象物質の濃度(トータル濃度:結合型及び非結合型測定対象物質の合計。)を示し、PSは非結合型測定対象物質の透析膜透過クリアランスを示し、CLadはドナー側チャンバーにおける測定対象物質の吸着クリアランスを示し、koffはドナー側チャンバーにおける吸着画分の測定対象物質の解離速度定数を示し、Xadはドナー側チャンバーにおける測定対象物質の吸着量を示す。)。
〔7〕
前記経時的な測定が前記生物学的試料及び/又は前記測定対象物質が変性する時間以内に行われる、〔1〕から〔6〕のいずれか一項に記載の方法。
〔8〕
前記経時的な測定が24時間以内で行われる、〔1〕から〔7〕のいずれか一項に記載の方法。
〔9〕
前記チャンバーシステム(I)及び/又は前記チャンバーシステム(II)が2つのチャンバーからなる、〔1〕から〔8〕のいずれか一項に記載の方法。
〔10〕
前記生物学的試料(A)中における前記測定対象物質のタンパク結合率が、95%以上である、〔1〕から〔9〕のいずれか一項に記載の方法。
〔11〕
前記生物学的試料(B)中における前記測定対象物質のタンパク結合率が、95%以上である、〔1〕から〔10〕のいずれか一項に記載の方法。
〔12〕
前記生物学的試料(A)が、ミクロソーム画分、血液、血漿及び血清からなる群より選ばれる一つである、〔1〕から〔11〕のいずれか一項に記載の方法。
〔13〕
前記生物学的試料(B)が、ミクロソーム画分、血液、血漿及び血清からなる群より選ばれる一つである、〔1〕から〔12〕のいずれか一項に記載の方法。
〔14〕
前記生物学的試料が、血清である、〔1〕から〔13〕のいずれか一項に記載の方法。
〔15〕
前記生物学的試料(A)が、哺乳動物に由来する、〔1〕から〔14〕のいずれか一項に記載の方法。
〔16〕
前記生物学的試料(B)が、哺乳動物に由来する、〔1〕から〔15〕のいずれか一項に記載の方法。
〔17〕
前記生物学的試料(B)が、前記生物学的試料(A)が由来する動物種とは異なる動物種に由来する、〔1〕から〔16〕のいずれか一項に記載の方法。
〔18〕
前記生物学的試料(A)が、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、サル及びヒトからなる群より選ばれる一つの種に由来する、〔1〕から〔17〕のいずれか一項に記載の方法。
〔19〕
前記生物学的試料(B)が、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、サル及びヒトからなる群より選ばれる一つの種に由来する、〔1〕から〔18〕のいずれか一項に記載の方法。
〔20〕
前記測定対象物質のCLogPが、25以下である、〔1〕から〔19〕のいずれか一項に記載の方法。
〔21〕
前記測定対象物質の分子量が、5000以下である、〔1〕から〔20〕のいずれか一項に記載の方法。
〔22〕
前記測定対象物質が、低分子化合物又はペプチド化合物である、〔1〕から〔21〕のいずれか一項に記載の方法。
〔23〕
前記測定対象物質が、環状構造を有するペプチド化合物である、〔1〕から〔22〕のいずれか一項に記載の方法。
〔24〕
前記測定対象物質が、非天然アミノ酸残基を含有するペプチド化合物である、〔1〕から〔23〕のいずれか一項に記載の方法。
〔25〕
前記非天然アミノ酸残基が非天然N置換アミノ酸残基である、〔24〕に記載の方法。
〔26〕
前記測定対象物質が、アミノ酸残基数が7以上30以下であるペプチド化合物である、〔1〕から〔25〕のいずれか一項に記載の方法。
〔27〕
〔1〕から〔26〕のいずれか一項に記載の方法により求めた前記相対f
u比及び前記生物学的試料(A)又は前記生物学的試料(B)のいずれか一方が由来する種における薬物のクリアランスのデータを用いて、もう一方の生物学的試料が由来する種における薬物のクリアランスを予測する方法。
〔28〕
〔1〕から〔26〕のいずれか一項に記載の方法により求めた前記相対f
u比及び前記生物学的試料(A)又は前記生物学的試料(B)のいずれか一方が由来する種における薬物の分布容積のデータを用いて、もう一方の生物学的試料が由来する種における薬物の分布容積を予測する方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法によれば、高タンパク結合率化合物であっても、平衡透析について必ずしも平衡状態達成を要せずに、測定対象物質に係る異なる生物学的試料間の相対fu比を、高精度かつ短時間で取得することができる。また、当該相対fu比の値を用いることにより、一つの生物学的試料が由来する種における薬物のクリアランスあるいは分布容積のデータから、他の生物学的試料に由来する種における薬物のクリアランスあるいは分布容積のデータを、精度よく予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1(1aから1h)は、本発明の方法の工程の模式図の一例を示す。
【0011】
【
図2】
図2(2aから2h)は、本発明の方法の工程の模式図の一例を示す。
図1の場合とは、生物学的試料(A)および(B)を入れるチャンバーが異なっている。
【0012】
【
図3】
図3は、動的解析ソフトウェア(「SimBiology(登録商標)
/MATLAB、バージョン情報:9.7.0.1190202 (R2019b)」、The Math Works, Inc.社製)により解析を実施した際の数理モデルの図である。
【0013】
【
図4】
図4((1)から(4))は、本発明の方法に基づいて、異なる生物学的試料(一つのチャンバーでヒトの血清、他方のチャンバーでマウス、ラット、イヌまたはサルの血清)を用い、測定対象物質としてニフェジピンを用いた場合の、透析反応開始時より0.5時間、2時間、4時間、16時間及び24時間を経過した時点(横軸)における各溶液中の測定対象物質の濃度(縦軸)のプロット(実測値:マル印)及びそれらのプロットに対する動的解析によるフィッティングカーブ(予測値:曲線)を示す。
【0014】
図4(1)は、ヒトの血清およびマウスの血清を用いた結果を示す。
図4(1)中、フィッティングカーブaはアクセプター溶液中(ヒト血清)における濃度の経時変化、フィッティングカーブbはドナー溶液中(マウス血清)における濃度の経時変化を示す。フィッティングカーブcはアクセプター溶液中(マウス血清)における濃度の経時変化、フィッティングカーブdはドナー溶液中(ヒト血清)における濃度の経時変化を示す。
【0015】
図4(2)は、ヒトの血清およびラットの血清を用いた結果を示す。
図4(2)中、フィッティングカーブaはアクセプター溶液中(ヒト血清)における濃度の経時変化、フィッティングカーブbはドナー溶液中(ラット血清)における濃度の経時変化を示す。フィッティングカーブcはアクセプター溶液中(ラット血清)における濃度の経時変化、フィッティングカーブdはドナー溶液中(ヒト血清)における濃度の経時変化を示す。
【0016】
図4(3)は、ヒトの血清およびイヌの血清を用いた結果を示す。
図4(3)中、フィッティングカーブaはアクセプター溶液中(ヒト血清)における濃度の経時変化、フィッティングカーブbはドナー溶液中(イヌ血清)における濃度の経時変化を示す。フィッティングカーブcはアクセプター溶液中(イヌ血清)における濃度の経時変化、フィッティングカーブdはドナー溶液中(ヒト血清)における濃度の経時変化を示す。
【0017】
図4(4)は、ヒトの血清およびサルの血清を用いた結果を示す。
図4(4)中、フィッティングカーブaはアクセプター溶液中(ヒト血清)における濃度の経時変化、フィッティングカーブbはドナー溶液中(サル血清)における濃度の経時変化を示す。フィッティングカーブcはアクセプター溶液中(サル血清)における濃度の経時変化、フィッティングカーブdはドナー溶液中(ヒト血清)における濃度の経時変化を示す。
【0018】
【
図5】
図5((1)から(4))は、本発明の方法に基づいて、異なる生物学的試料(一つのチャンバーでヒトの血清、他方のチャンバーでマウス、ラット、イヌまたはサルの血清)を用い、測定対象物質としてシクロスポリンを用いた場合の、透析反応開始時より0.5時間、2時間、4時間、16時間及び24時間を経過した時点(横軸)における各溶液中の測定対象物質の濃度(縦軸)のプロット(実測値:マル印)及びそれらのプロットに対する動的解析によるフィッティングカーブ(予測値:曲線)を示す。
【0019】
図5(1)は、ヒトの血清およびマウスの血清を用いた結果を示す。
図5(1)中、フィッティングカーブaはアクセプター溶液中(ヒト血清)における濃度の経時変化、フィッティングカーブbはドナー溶液中(マウス血清)における濃度の経時変化を示す。フィッティングカーブcはアクセプター溶液中(マウス血清)における濃度の経時変化、フィッティングカーブdはドナー溶液中(ヒト血清)における濃度の経時変化を示す。
【0020】
図5(2)は、ヒトの血清およびラットの血清を用いた結果を示す。
図5(2)中、フィッティングカーブaはアクセプター溶液中(ヒト血清)における濃度の経時変化、フィッティングカーブbはドナー溶液中(ラット血清)における濃度の経時変化を示す。フィッティングカーブcはアクセプター溶液中(ラット血清)における濃度の経時変化、フィッティングカーブdはドナー溶液中(ヒト血清)における濃度の経時変化を示す。
【0021】
図5(3)は、ヒトの血清およびイヌの血清を用いた結果を示す。
図5(3)中、フィッティングカーブaはアクセプター溶液中(ヒト血清)における濃度の経時変化、フィッティングカーブbはドナー溶液中(イヌ血清)における濃度の経時変化を示す。フィッティングカーブcはアクセプター溶液中(イヌ血清)における濃度の経時変化、フィッティングカーブdはドナー溶液中(ヒト血清)における濃度の経時変化を示す。
【0022】
図5(4)は、ヒトの血清およびサルの血清を用いた結果を示す。
図5(4)中、フィッティングカーブaはアクセプター溶液中(ヒト血清)における濃度の経時変化、フィッティングカーブbはドナー溶液中(サル血清)における濃度の経時変化を示す。フィッティングカーブcはアクセプター溶液中(サル血清)における濃度の経時変化、フィッティングカーブdはドナー溶液中(ヒト血清)における濃度の経時変化を示す。
【0023】
【
図6】
図6((1)から(4))は、本発明の方法に基づいて、異なる生物学的試料(一つのチャンバーでヒトの血清、他方のチャンバーでマウス、ラット、イヌまたはサルの血清)を用い、測定対象物質としてイブプロフェンを用いた場合の、透析反応開始時より0.5時間、2時間、4時間、16時間及び24時間を経過した時点(横軸)における各溶液中の測定対象物質の濃度(縦軸)のプロット(実測値:マル印)及びそれらのプロットに対する動的解析によるフィッティングカーブ(予測値:曲線)を示す。
【0024】
図6(1)は、ヒトの血清およびマウスの血清を用いた結果を示す。
図6(1)中、フィッティングカーブaはアクセプター溶液中(ヒト血清)における濃度の経時変化、フィッティングカーブbはドナー溶液中(マウス血清)における濃度の経時変化を示す。
【0025】
図6(2)は、ヒトの血清およびラットの血清を用いた結果を示す。
図6(2)中、フィッティングカーブaはアクセプター溶液中(ヒト血清)における濃度の経時変化、フィッティングカーブbはドナー溶液中(ラット血清)における濃度の経時変化を示す。フィッティングカーブcはアクセプター溶液中(ラット血清)における濃度の経時変化、フィッティングカーブdはドナー溶液中(ヒト血清)における濃度の経時変化を示す。
【0026】
図6(3)は、ヒトの血清およびイヌの血清を用いた結果を示す。
図6(3)中、フィッティングカーブaはアクセプター溶液中(ヒト血清)における濃度の経時変化、フィッティングカーブbはドナー溶液中(イヌ血清)における濃度の経時変化を示す。フィッティングカーブcはアクセプター溶液中(イヌ血清)における濃度の経時変化、フィッティングカーブdはドナー溶液中(ヒト血清)における濃度の経時変化を示す。
【0027】
図6(4)は、ヒトの血清およびサルの血清を用いた結果を示す。
図6(4)中、フィッティングカーブaはアクセプター溶液中(ヒト血清)における濃度の経時変化、フィッティングカーブbはドナー溶液中(サル血清)における濃度の経時変化を示す。フィッティングカーブcはアクセプター溶液中(サル血清)における濃度の経時変化、フィッティングカーブdはドナー溶液中(ヒト血清)における濃度の経時変化を示す。
【0028】
【
図7】
図7は、本発明の方法に基づいて得られた相対f
u比〔異なる生物学的試料(一つのチャンバーでヒトの血清、他方のチャンバーでマウス、ラット、イヌまたはサルの血清)を用い、測定対象物質としてニフェジピンを用いた場合であって、透析反応開始から0.5時間、2時間、4時間、16時間および24時間経過した時点のデータを用いて、動的解析により求めたf
u比〕(x軸)と、参考例の手法で求めたf
u比(一つのチャンバーでマウス、ラット、イヌ、サルまたはヒトの血清を用い、他方のチャンバーで緩衝液を用い、透析反応開始から24時間経過時点のデータを用いて静的解析により求めたf
u比)(y軸)を比較したグラフである。グラフ中、2本の実線の斜線で囲まれた範囲は、縦軸に記載のf
u比と横軸に記載のf
u比との間の比が0.5倍以上2.0倍以下である範囲を示す。
【0029】
【
図8】
図8は、本発明の方法に基づいて得られた相対f
u比〔異なる生物学的試料(一つのチャンバーでヒトの血清、他方のチャンバーでマウス、ラット、イヌまたはサルの血清)を用い、測定対象物質としてシクロスポリンを用いた場合であって、透析反応開始から0.5時間、2時間、4時間、16時間および24時間経過した時点のデータを用いて、動的解析により求めたf
u比〕(x軸)と、参考例の手法で求めたf
u比(一つのチャンバーでマウス、ラット、イヌ、サルまたはヒトの血清を用い、他方のチャンバーで緩衝液を用い、透析反応開始から24時間経過時点のデータを用いて静的解析により求めたf
u比)(y軸)を比較したグラフである。グラフ中、2本の実線の斜線で囲まれた範囲は、縦軸に記載のf
u比と横軸に記載のf
u比との間の比が0.5倍以上2.0倍以下である範囲を示す。
【0030】
【
図9】
図9は、本発明の方法に基づいて得られた相対f
u比〔異なる生物学的試料(一つのチャンバーにヒトの血清、他方のチャンバーにマウス、ラット、イヌまたはサルの血清)を用い、測定対象物質としてイブプロフェンを用いた場合であって、透析反応開始から0.5時間、2時間、4時間、16時間および24時間経過した時点のデータを用いて、動的解析により求めたf
u比〕(x軸)と、参考例の手法で求めたf
u比(一つのチャンバーでマウス、ラット、イヌ、サルまたはヒトの血清を用い、他方のチャンバーで緩衝液を用い、透析反応開始から24時間経過時点のデータを用いて静的解析により求めたf
u比)(y軸)を比較したグラフである。グラフ中、2本の実線の斜線で囲まれた範囲は、縦軸に記載のf
u比と横軸に記載のf
u比との間の比が0.5倍以上2.0倍以下である範囲を示す。
【0031】
【
図10】
図10は、比較例の手法により求めたf
u比〔異なる生物学的試料(一つのチャンバーでヒトの血清、他方のチャンバーでマウス、ラット、イヌまたはサルの血清)を用い、測定対象物質としてニフェジピンを用いた場合であって、透析反応開始から24時間経過した時点のデータを用いた静的解析により求めたf
u比〕(x軸)と、参考例の手法で求めたf
u比(一つのチャンバーでマウス、ラット、イヌ、サルまたはヒトの血清を用い、他方のチャンバーで緩衝液を用い、透析反応開始から24時間経過時点のデータを用いて静的解析により求めたf
u比)(y軸)を比較したグラフである。グラフ中、2本の実線の斜線で囲まれた範囲は、縦軸に記載のf
u比と横軸に記載のf
u比との間の比が0.5倍以上2.0倍以下である範囲を示す。
【0032】
【
図11】
図11は、比較例の手法により求めたf
u比〔異なる生物学的試料(一つのチャンバーでヒトの血清、他方のチャンバーでマウス、ラット、イヌまたはサルの血清)を用い、測定対象物質としてシクロスポリンを用いた場合であって、透析反応開始から24時間経過した時点のデータを用いた静的解析により求めたf
u比〕(x軸)と、参考例の手法で求めたf
u比(一つのチャンバーでマウス、ラット、イヌ、サルまたはヒトの血清を用い、他方のチャンバーで緩衝液を用い、透析反応開始から24時間経過時点のデータを用いて静的解析により求めたf
u比)(y軸)を比較したグラフである。グラフ中、2本の実線の斜線で囲まれた範囲は、縦軸に記載のf
u比と横軸に記載のf
u比との間の比が0.5倍以上2.0倍以下である範囲を示す。
【0033】
【
図12】
図12は、比較例の手法により求めたf
u比〔異なる生物学的試料(一つのチャンバーでヒトの血清、他方のチャンバーでマウス、ラット、イヌまたはサルの血清)を用い、測定対象物質としてイブプロフェンを用いた場合であって、透析反応開始から24時間経過した時点のデータを用いた静的解析により求めたf
u比〕(x軸)と、参考例の手法で求めたf
u比(一つのチャンバーでマウス、ラット、イヌ、サルまたはヒトの血清を用い、他方のチャンバーで緩衝液を用い、透析反応開始から24時間経過時点のデータを用いて静的解析により求めたf
u比)(y軸)を比較したグラフである。グラフ中、2本の実線の斜線で囲まれた範囲は、縦軸に記載のf
u比と横軸に記載のf
u比との間の比が0.5倍以上2.0倍以下である範囲を示す。
【0034】
【
図13-1】
図13-1は、ヒト定常状態分布容積の観測値(縦軸:Vss obs(L/kg))と、実施例1、3、4、6、8~12における本発明の方法(動的解析)により求めた、各測定対象物質の相対f
u比(ラット/ヒト)を用いて、公知の分布容積の予測方法に基づいて求めたヒトにおける定常状態分布容積の予測値(横軸:Vss pre(L/kg))との比較を示すグラフである。グラフ中の実線の斜線は、観測値に対する予測値の誤差が0.67倍以上1.5倍以下である範囲を示す。
【0035】
【
図13-2】
図13-2は、ヒト定常状態分布容積の観測値(縦軸:Vss obs(L/kg))と、比較例1、3、4、6、8~12(静的解析)における、各測定対象物質のf
u比(ラット/ヒト)を用いて、公知の分布容積の予測方法に基づいて求めたヒトにおける定常状態分布容積の予測値(横軸:Vss pre(L/kg))との比較を示すグラフである。グラフ中の実線の斜線は、観測値に対する予測値の誤差が0.67倍以上1.5倍以下である範囲を示す。
【0036】
【
図13-3】
図13-3は、ヒト定常状態分布容積の観測値(縦軸:Vss obs(L/kg))と、参考例1、3、4、6、8~12(静的解析(対バッファー))における、各測定対象物質のf
u比(ラット/ヒト)を用いて、公知の分布容積の予測方法に基づいて求めたヒトにおける定常状態分布容積の予測値(横軸:Vss pre(L/kg))との比較を示すグラフである。グラフ中の実線の斜線は、観測値に対する予測値の誤差が0.67倍以上1.5倍以下である範囲を示す。
【0037】
【
図14-1】
図14-1は、ミダゾラムの血中濃度-時間曲線下面積上昇比(AUCR)の観測値(横軸:AUCR obs)と、実施例14~20で求めた相対f
u比、阻害剤実験に用いたKi値を用いて、CYP3A4基質であるミダゾラムのAUCR予測値(縦軸:AUCR pre)との比較を示すグラフである。グラフ中の実線の斜線は、AUCRの観測値に対するAUCRの予測値の比が1であるライン(AUCRの観測値と予測値が一致するライン)を示す。
【0038】
【
図14-2】
図14-2は、ミダゾラムのAUCRの観測値(横軸:AUCR obs)と、参考例14~20で求めたf
u値、阻害剤実験に用いたKi値を用いて、CYP3A4基質であるミダゾラムのAUCR予測値(縦軸:AUCR pre)との比較を示すグラフである。グラフ中の実線の斜線は、AUCRの観測値に対するAUCRの予測値の比が1であるライン(AUCRの観測値と予測値が一致するライン)を示す。
【0039】
【
図14-3】
図14-3は、ミダゾラムのAUCRの観測値(横軸:AUCR obs)と、参考例21~27で求めたf
u比、阻害剤実験に用いたKi値を用いて、CYP3A4基質であるミダゾラムのAUCR予測値(縦軸:AUCR pre)との比較を示すグラフである。グラフ中の実線の斜線は、AUCRの観測値に対するAUCRの予測値の比が1であるライン(AUCRの観測値と予測値が一致するライン)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本明細書における用語について
本明細書において「測定対象物質」は、相対fu比が測定される化合物であり、好ましくは低分子化合物またはペプチド化合物が挙げられる。
【0041】
本明細書における「低分子化合物」とは、後述のペプチド化合物を除く、好ましくは分子量2000以下の化合物を指し、例えば、天然化合物及び製造工程に化学合成が含まれる新規化合物(New molecular entity:NME)が含まれる。低分子化合物の分子量は、より好ましくは1000以下、さらに好ましくは800以下、特に好ましくは500以下である。また、低分子化合物のCLogPは、好ましくは25以下、より好ましくは16以下、さらに好ましくは10以下、さらに好ましくは7以下、さらに好ましくは6以下、さらに好ましくは5以下、さらに好ましくは4以下である。ClogPは、化合物を部分構造に分けてコンピューターで計算した分配係数である(計算ソフトウェアは公知である。例えば、Daylight Chemical Information Systems, Inc.社等のソフトウェアを用いて計算できる。)。
【0042】
本明細書における「ペプチド化合物」は、天然アミノ酸及び/又は非天然アミノ酸がアミド結合あるいはエステル結合によって連結されるペプチド化合物であれば特に限定されないが、好ましくは5残基以上、より好ましくは7残基以上、さらに好ましくは8残基以上、特に好ましくは9残基以上であり、また、好ましくは30残基以下、より好ましくは25残基以下、さらに好ましくは15残基以下、特に好ましくは13残基以下のペプチド化合物であることが望ましい。例えば、ペプチド化合物は、好ましくは5残基以上、30残基以下、より好ましくは7残基以上、25残基以下、さらに好ましくは8残基以上、15残基以下、特に好ましくは9残基以上、13残基以下のペプチド化合物であり得る。
【0043】
本発明において使用できるペプチド化合物は、1つのペプチド中に少なくとも3つのN置換アミノ酸を含むことが好ましく、少なくとも5つ以上のN置換アミノ酸を含むことがより好ましい。これらのN置換アミノ酸は、ペプチド化合物中に連続して存在していても、不連続に存在していてもよい。本発明におけるペプチド化合物は、直鎖状でも環状でもよく、環状ペプチド化合物が好ましい。また、分岐構造を有していてもよい。非天然型のアミノ酸残基を有するペプチド化合物のうち、さらに、N-メチル化された非天然型アミノ酸残基を有するペプチド化合物であることが好ましい。
【0044】
ペプチド化合物の分子量は、好ましくは5000以下、より好ましくは3000以下、さらに好ましくは2000以下であり、好ましくは500以上、より好ましくは800以上、さらに好ましくは1000以上である。例えば、ペプチド化合物の分子量は、好ましくは500以上、5000以下、より好ましくは800以上、3000以下、さらに好ましくは1000以上、2000以下であり得る。
【0045】
ペプチド化合物のCLogPは、好ましくは25以下、より好ましくは22以下、さらに好ましくは20以下、さらに好ましくは18以下、さらに好ましくは16以下、さらに好ましくは15以下であり、好ましくは5以上、より好ましくは10以上、さらに好ましくは12以上である。例えばペプチド化合物のCLogPは、好ましくは5以上、25以下、より好ましくは10以上、20以下、さらに好ましくは12以上、18以下であり得る。
【0046】
本明細書における「環状ペプチド化合物」は、5残基以上のアミノ酸から構成される環状部を有するペプチド化合物であれば特に限定されず、その環化方法も限定されないが、直鎖ペプチド化合物のN末端側の基とC末端側の基とを環化することにより得ることができる環状のペプチド化合物である。環化は、アミド結合のような炭素-窒素結合による環化、エステル結合やエーテル結合のような炭素-酸素結合による環化、チオエーテル結合のような炭素-硫黄結合による環化、炭素-炭素結合による環化、あるいは複素環構築による環化など、どのような形態であってもよい。これらのうちでは、アミド結合あるいは炭素-炭素結合などの共有結合を介した環化が好ましく、側鎖のカルボキシ基とN末端の主鎖のアミノ基によるアミド結合を介した環化がより好ましい。環化に用いられるカルボキシ基やアミノ基等の位置は、主鎖上のものでも、側鎖上のものでもよく、環化可能な位置にあれば、特に制限されない。
【0047】
本明細書における「アミノ酸」には、天然アミノ酸、及び非天然アミノ酸(アミノ酸誘導体ということがある)が含まれる。本明細書における「天然アミノ酸」とは、Gly、Ala、Ser、Thr、Val、Leu、Ile、Phe、Tyr、Trp、His、Glu、Asp、Gln、Asn、Cys、Met、Lys、Arg、Proを指す。非天然アミノ酸(アミノ酸誘導体)は特に限定されないが、β-アミノ酸、D型アミノ酸、N置換アミノ酸(Proを除く)、α,α-ジ置換アミノ酸、側鎖が天然アミノ酸と異なるアミノ酸、ヒドロキシカルボン酸などが例示される。本明細書におけるアミノ酸としては、任意の立体配置が許容される。アミノ酸の側鎖の選択は特に制限を設けないが、水素原子の他にも例えばアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アラルキル基、ヘテロアラルキル基、シクロアルキル基、スピロ結合したシクロアルキル基から自由に選択される。それぞれには置換基が付与されていてもよく、それら置換基も制限されず、例えば、ハロゲン原子、O原子、S原子、N原子、B原子、Si原子、又はP原子を含む任意の置換基の中から独立して1つ又は2つ以上自由に選択されてよい。すなわち、置換されていてもよいアルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アラルキル基、シクロアルキル基など、または、オキソ、アミノカルボニル、ハロゲン原子などが例示される。非限定の一態様において、本明細書におけるアミノ酸は、同一分子内にカルボキシ基とアミノ基を有する化合物であってよい(この場合であっても、プロリン、ヒドロキシプロリンのようなイミノ酸もアミノ酸に含まれる)。
【0048】
ハロゲン由来の置換基としては、フルオロ(-F)、クロロ(-Cl)、ブロモ(-Br)、ヨウド(-I)などが挙げられる。
【0049】
O原子由来の置換基としては、ヒドロキシ(-OH)、オキシ(-OR)、カルボニル(-C=O-R)、カルボキシ(-CO2H)、オキシカルボニル(-C=O-OR)、カルボニルオキシ(-O-C=O-R)、チオカルボニル(-C=O-SR)、カルボニルチオ基(-S-C=O-R)、アミノカルボニル(-C=O-NHR)、カルボニルアミノ(-NH-C=O-R)、オキシカルボニルアミノ(-NH-C=O-OR)、スルホニルアミノ(-NH-SO2-R)、アミノスルホニル(-SO2-NHR)、スルファモイルアミノ(-NH-SO2-NHR)、チオカルボキシ(-C(=O)-SH)、カルボキシカルボニル(-C(=O)-CO2H)が挙げられる。
【0050】
オキシ(-OR)の例としては、アルコキシ、シクロアルコキシ、アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、アリールオキシ、ヘテロアリールオキシ、アラルキルオキシなどが挙げられる。
【0051】
カルボニル(-C=O-R)の例としては、ホルミル(-C=O-H)、アルキルカルボニル、シクロアルキルカルボニル、アルケニルカルボニル、アルキニルカルボニル、アリールカルボニル、ヘテロアリールカルボニル、アラルキルカルボニルなどが挙げられる。
【0052】
オキシカルボニル(-C=O-OR)の例としては、アルキルオキシカルボニル、シクロアルキルオキシカルボニル、アルケニルオキシカルボニル、アルキニルオキシカルボニル、アリールオキシカルボニル、ヘテロアリールオキシカルボニル、アラルキルオキシカルボニルなどが挙げられる。
【0053】
カルボニルオキシ(-O-C=O-R)の例としては、アルキルカルボニルオキシ、シクロアルキルカルボニルオキシ、アルケニルカルボニルオキシ、アルキニルカルボニルオキシ、アリールカルボニルオキシ、ヘテロアリールカルボニルオキシ、アラルキルカルボニルオキシなどが挙げられる。
【0054】
チオカルボニル(-C=O-SR)の例としては、アルキルチオカルボニル、シクロアルキルチオカルボニル、アルケニルチオカルボニル、アルキニルチオカルボニル、アリールチオカルボニル、ヘテロアリールチオカルボニル、アラルキルチオカルボニルなどが挙げられる。
【0055】
カルボニルチオ(-S-C=O-R)の例としては、アルキルカルボニルチオ、シクロアルキルカルボニルチオ、アルケニルカルボニルチオ、アルキニルカルボニルチオ、アリールカルボニルチオ、ヘテロアリールカルボニルチオ、アラルキルカルボニルチオなどが挙げられる。
【0056】
アミノカルボニル(-C=O-NHR)の例としては、アルキルアミノカルボニル、シクロアルキルアミノカルボニル、アルケニルアミノカルボニル、アルキニルアミノカルボニル、アリールアミノカルボニル、ヘテロアリールアミノカルボニル、アラルキルアミノカルボニルなどが挙げられる。これらに加えて、-C=O-NHR中のN原子と結合したH原子が、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アラルキルでさらに置換された化合物が挙げられる。
【0057】
カルボニルアミノ(-NH-C=O-R)の例としては、アルキルカルボニルアミノ、シクロアルキルカルボニルアミノ、アルケニルカルボニルアミノ、アルキニルカルボニルアミノ、アリールカルボニルアミノ、ヘテロアリールカルボニルアミノ、アラルキルカルボニルアミノなどが挙げられる。これらに加えて-NH-C=O-R中のN原子と結合したH原子が、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アラルキルでさらに置換された化合物が挙げられる。
【0058】
オキシカルボニルアミノ(-NH-C=O-OR)の例としては、アルコキシカルボニルアミノ、シクロアルコキシカルボニルアミノ、アルケニルオキシカルボニルアミノ、アルキニルオキシカルボニルアミノ、アリールオキシカルボニルアミノ、ヘテロアリールオキシカルボニルアミノ、アラルキルオキシカルボニルアミノなどが挙げられる。これらに加えて、-NH-C=O-OR中のN原子と結合したH原子がアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アラルキルでさらに置換された化合物が挙げられる。
【0059】
スルホニルアミノ(-NH-SO2-R)の例としては、アルキルスルホニルアミノ、シクロアルキルスルホニルアミノ、アルケニルスルホニルアミノ、アルキニルスルホニルアミノ、アリールスルホニルアミノ、ヘテロアリールスルホニルアミノ、アラルキルスルホニルアミノなどが挙げられる。これらに加えて、-NH-SO2-R中のN原子と結合したH原子がアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アラルキルでさらに置換された化合物が挙げられる。
【0060】
アミノスルホニル(-SO2-NHR)の例としては、アルキルアミノスルホニル、シクロアルキルアミノスルホニル、アルケニルアミノスルホニル、アルキニルアミノスルホニル、アリールアミノスルホニル、ヘテロアリールアミノスルホニル、アラルキルアミノスルホニルなどが挙げられる。これらに加えて、-SO2-NHR中のN原子と結合したH原子がアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アラルキルでさらに置換された化合物が挙げられる。
【0061】
スルファモイルアミノ(-NH-SO2-NHR)の例としては、アルキルスルファモイルアミノ、シクロアルキルスルファモイルアミノ、アルケニルスルファモイルアミノ、アルキニルスルファモイルアミノ、アリールスルファモイルアミノ、ヘテロアリールスルファモイルアミノ、アラルキルスルファモイルアミノなどが挙げられる。さらに、-NH-SO2-NHR中のN原子と結合した2つのH原子はアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、およびアラルキルからなる群より独立して選択される置換基で置換されていてもよく、またこれらの2つの置換基は環を形成しても良い。
【0062】
S原子由来の置換基として、チオール(-SH)、チオ(-S-R)、スルフィニル(-S=O-R)、スルホニル(-S(O)2-R)、スルホ(-SO3H)、ペンタフルオロスルファニル(-SF5)が挙げられる。
【0063】
チオ(-S-R)の例としては、アルキルチオ、シクロアルキルチオ、アルケニルチオ、アルキニルチオ、アリールチオ、ヘテロアリールチオ、アラルキルチオなどの中から選択される。
【0064】
スルフィニル(-S=O-R)の例としては、アルキルスルフィニル、シクロアルキルスルフィニル、アルケニルスルフィニル、アルキニルスルフィニル、アリールスルフィニル、ヘテロアリールスルフィニル、アラルキルスルフィニルなどが挙げられる。
【0065】
スルホニル(-S(O)2-R)の例としては、アルキルスルホニル、シクロアルキルスルホニル、アルケニルスルホニル、アルキニルスルホニル、アリールスルホニル、ヘテロアリールスルホニル、アラルキルスルホニルなどが挙げられる。
【0066】
N原子由来の置換基として、アジド(-N3、「アジド基」ともいう)、シアノ(-CN)、1級アミノ(-NH2)、2級アミノ(-NH-R)、3級アミノ(-NR(R'))、アミジノ(-C(=NH)-NH2)、置換アミジノ(-C(=NR)-NR'R'')、グアニジノ(-NH-C(=NH)-NH2)、置換グアニジノ(-NR-C(=NR''')-NR'R'')、アミノカルボニルアミノ(-NR-CO-NR'R'')が挙げられる。
【0067】
2級アミノ(-NH-R)の例としては、アルキルアミノ、シクロアルキルアミノ、アルケニルアミノ、アルキニルアミノ、アリールアミノ、ヘテロアリールアミノ、アラルキルアミノなどが挙げられる。
【0068】
3級アミノ(-NR(R'))の例としては、例えばアルキル(アラルキル)アミノなど、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アラルキルなどの中からそれぞれ独立して選択される、任意の2つの置換基を有するアミノ基が挙げられ、これらの任意の2つの置換基は環を形成しても良い。
【0069】
置換アミジノ(-C(=NR)-NR'R'')の例としては、N原子上の3つの置換基R、R'、およびR''が、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アラルキルの中からそれぞれ独立して選択された基、例えばアルキル(アラルキル)(アリール)アミジノなどが挙げられる。
【0070】
置換グアニジノ(-NR-C(=NR''')-NR'R'')の例としては、R、R'、R''、およびR'''が、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アラルキルの中からそれぞれ独立して選択された基、あるいはこれらが環を形成した基などが挙げられる。
【0071】
アミノカルボニルアミノ(-NR-CO-NR'R'')の例としては、R、R'、およびR''が、水素原子、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アラルキルの中からそれぞれ独立して選択された基、あるいはこれらは環を形成した基などが挙げられる。
【0072】
B原子由来の置換基として、ボリル(-BR(R'))やジオキシボリル(-B(OR)(OR'))などが挙げられる。これらの2つの置換基RおよびR'は、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アラルキルなどの中からそれぞれ独立して選択されるか、あるいはこれらは環を形成してもよい。具体的には、環状ボリル基が挙げられ、さらに具体的には、ピナコラートボリル基、ネオペンタンジオラートボリル基、カテコラートボリル基などが挙げられる。
【0073】
本明細書におけるN置換アミノ酸の窒素原子上の置換基として具体的には、アルキル、C1-C6アルキル、C1-C4アルキル、メチル、C7-C14アラルキル、ベンジル、フェネチルなどが例示される。
【0074】
アミノ酸の主鎖アミノ基は、非置換(-NH2)でも、置換されていてもよい(即ち、-NHR。ここで、Rは置換基を有していてもよいアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アラルキル、シクロアルキルを示し、またプロリンのようにN原子に結合した炭素鎖とα位の炭素原子とが環を形成していてもよい。)。このような主鎖アミノ基が置換されているアミノ酸を、本明細書において「N-置換アミノ酸」と称する場合がある。本明細書における「N-置換アミノ酸」としては、好ましくはN-アルキルアミノ酸、N-C1-C6アルキルアミノ酸、N-C1-C4アルキルアミノ酸、N-メチルアミノ酸、N-C7-C14アラルキルアミノ酸、N-ベンジルアミノ酸、N-フェネチルアミノ酸が例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0075】
本明細書における「アミノ酸」にはそれぞれに対応する全ての同位体を含む。「アミノ酸」の同位体は、少なくとも1つの原子が、原子番号(陽子数)が同じで、質量数(陽子と中性子の数の和)が異なる原子で置換されたものである。本明細書の「アミノ酸」に含まれる同位体の例としては、水素原子、炭素原子、窒素原子、酸素原子、リン原子、硫黄原子、フッ素原子、塩素原子などがあり、それぞれ、2H、3H、13C、14C、15N、17O、18O、32P、35S、18F、36Cl等が含まれる。
【0076】
本発明において使用される「生物学的試料」とは、生物に由来する生体試料を意味し、好ましくは哺乳動物に由来する生体試料を意味する。哺乳動物としては、好ましくはマウス、ラット、ウサギ、イヌ、サルまたはヒトが挙げられる。生体試料としては、例えば、好ましくは体液、組織、細胞またはその部分が挙げられ、より好ましくは、ミクロソーム画分、血液、血漿及び血清からなる群から選ばれる生体試料が挙げられる。
【0077】
本発明において、「異なる生物学的試料」とは、2つ以上の異なる生物学的試料であることを意味する。異なる生物学的試料としては、異種の生物間(例えば、マウスとヒト、ラットとヒト等)、または同種の生物間(例えば、ヒトとヒト)に由来する生体試料を用いることができる。さらに異なる生物学的試料は、異種の生物に由来する、同一の生体部位または異なる生体部位の生体試料同士を含むとともに、同種の生物に由来する、同一の生体部位または異なる生体部位の生体試料同士を含む。例えば、本発明における異なる生物学的試料は、同種または異種の哺乳動物に由来する、ミクロソーム画分対ミクロソーム画分、血液対血液、血漿対血漿、血清対血清など同一の種類の生体試料部位同士を含み、また、例えば、血液対血漿、ミクロソーム画分対血漿、血漿対血清など異なる生体試料部位同士を含む。異なる生体試料が、同種の生物間の同一の生体部位に由来するものであっても、異なる個体に由来する場合は、本発明における異なる生物学的試料に含むことができる。
【0078】
本明細書において、「タンパク結合率」は、総量の測定対象物質のうち生物学的試料中のタンパク質(例えば、アルブミンなどの「非特異的タンパク質」)と結合する測定対象物質の割合(質量比もしくはモル比、またはその百分率)を指す。すなわち、タンパク結合率=1-非結合型分率(fu)である。本発明においては、タンパク結合率が、好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上の測定対象物質を用いることができる。
【0079】
本明細書において、「非結合型分率(fu)」とは、タンパク質(例えば、アルブミン)の存在下で、総量の測定対象物質のうち生物学的試料中のタンパク質と結合していない測定対象物質(本明細書において、「非結合型測定対象物質」と呼ぶことがある)の割合を指す。すなわち、非結合型分率(fu)=1-タンパク結合率である。「相対的な非結合型分率比(相対fu比)」とは、異なる生物学的試料のそれぞれにおける測定対象物質の非結合型分率の比を意味する。例えば、相対fu比としては、生物学的試料(A)における測定対象物質のfu値(fu1)と、生物学的試料(A)とは異なる生物学的試料(B)における測定対象物質のfu値(fu2)との比(fu1/fu2)が挙げられる。
【0080】
本発明の方法において、「半透膜」は、「チャンバー」内を2つ以上に区分する。「半透膜」は、選択された分子種が拡散によって通り抜けることができる膜である。平衡透析のための半透膜を、測定対象物質(および存在する場合は緩衝液などの溶媒)は通り抜けることができるが、生物学的試料は通り抜けることができないように半透膜が選択される。好ましくは、半透膜は、サイズ選択性の膜であり、例えば、半透膜は分画分子量(分子量カットオフ:MWCO)によって特徴付けることができる。この場合、半透膜のMWCOは、好ましくは50kDa以下、より好ましくは14kDa以下、さらに好ましくは8kDa以下であり、好ましくは3.5kDa以上、より好ましくは4kDa以上、さらに好ましくは6kDa以上である。例えば、半透膜のMWCOは、好ましくは3.5kDa以上、50kDa以下、より好ましくは4kDa以上、14kDa以下、さらに好ましくは6kDa以上、8kDa以下であり得る。本発明の方法に用いることできる半透膜としては、公知のものを使用することができ、例えば、再生セルロースから成る半透膜(Rapid Equilibrium Dialysis (RED) Device Inserts, 8K MWCO, Thermo Fisher Scientific社製)などを使用できる。
【0081】
チャンバーとしては、公知の平衡透析法に使用されるものを用いることができる。例えば、チャンバーとしては、テフロン製あるいはポリプロピレン製の材料のものを用いることができる。
【0082】
本明細書において、「ドナー側」、「ドナー」あるいは「Donor」とは、測定の初期の時点において測定対象物質を含むドナー溶液が添加されている側であることを意味し、例えば「ドナー側チャンバー」あるいは「ドナーチャンバー」とは、測定の初期の時点において測定対象物質を含むドナー溶液が添加されているチャンバーを意味する。「アクセプター側」、「アクセプター」あるいは「Acceptor」とは、測定の初期の時点において測定対象物質を含まないアクセプター溶液が添加されている側を意味し、例えば、「アクセプター側チャンバー」あるいは「アクセプターチャンバー」とは測定の初期の時点において測定対象物質を含まないアクセプター溶液が添加されているチャンバーを意味する。
【0083】
本明細書において、「ドナー溶液」は、ドナー側チャンバー(あるいはドナーチャンバー)に添加する溶液、およびその後ドナー側チャンバー(あるいはドナーチャンバー)に存在する溶液を意味する。また、「アクセプター溶液」は、アクセプター側チャンバー(あるいはアクセプターチャンバー)に添加する溶液、およびその後アクセプター側チャンバー(あるいはアクセプターチャンバー)に存在する溶液を意味する。
【0084】
本明細書において、「初期」とは、各チャンバーにドナー溶液及びアクセプター溶液が添加され、各溶液間で測定対象物質の移動が開始されたときを意味する。例えば、ドナー溶液及びアクセプター溶液がチャンバー内に初めて添加され、直ちに撹拌が開始された時点を、「初期」とすることができる。ただし、測定対象物質がチャンバーの壁面などに吸着する性質を有する場合、初期における測定対象物質のドナー溶液中における正確な濃度を測定することは困難であるため、チャンバー添加直前のドナー溶液をサンプリングし、濃度を測定しておくことで、初期(すなわち0時点)におけるドナー溶液中の測定対象物質の濃度として解析に用いることが好ましい。
【0085】
本明細書において、「平衡状態」とは、半透膜で仕切られたチャンバーに添加された各溶液間において、測定対象物質の濃度の変化が定常状態に達して実質的に濃度変化がなくなった状態を意味する。
【0086】
本発明において、「経時的に測定」とは、時間の経過を追って測定することを意味し、時間的に連続的に測定する場合や、非連続的に一定の時間毎または主要な時間毎に複数回測定する場合を含む。
【0087】
本明細書において、「動的解析」とは、チャンバーの溶液中における測定対象物質の濃度等を経時的に測定し、解析ソフト等を用いて測定値に収束計算(フィッティング)等を施こすことによりfu比(fu値)を算出する解析方法をいう。これに対し、「静的解析」とは、特定の時点のみにおけるチャンバーの溶液中における測定対象物質の濃度等の実測値または実測値の比を用いてfu比(fu値)を算出する解析方法をいう。また、特定の時点とは好ましくは平衡透析反応の操作を終えた時点であり、さらに好ましくは、平衡状態に達した後に平衡透析反応を終えた時点を意味する。
【0088】
異なる生物学的試料間における測定対象物質の相対f
u
比の測定方法(a)
本発明の異なる生物学的試料間における測定対象物質の相対的な非結合型分率比(相対f
u比)を求めるための方法は、以下の工程(1)から(5)を含む。
(1)隣接するチャンバー同士が、測定対象物質が透過し得る半透膜によって隔てられたチャンバーシステム(I)を用意する工程、
(2)前記チャンバーシステム(I)の内、一つのチャンバー(ドナー側チャンバー)に第一の生物学的試料(A)及び前記測定対象物質を含むドナー溶液を添加する工程(例えば、
図1aおよび
図1f)、
(3)前記チャンバーシステム(I)の内、前記ドナー側チャンバーとは異なるチャンバー(アクセプター側チャンバー)に第二の生物学的試料(B)を含むアクセプター溶液を添加する工程(例えば、
図1bおよび
図1e)、
(4)前記工程(2)のドナー溶液及び前記工程(3)のアクセプター溶液中における前記測定対象物質の濃度を経時的に測定する工程(例えば、
図1cから
図1dおよび
図1gから
図1h)、及び
(5)前記工程(4)で測定した測定対象物質の濃度に関するデータを用いて相対f
u比を算出する工程。
【0089】
本発明の方法において、前記工程(2)および工程(3)を行う順番は特に限定されず、例えば、工程(3)を工程(2)の後に実施するか、工程(2)を工程(3)の後に実施するか、または、工程(2)と工程(3)を同時あるいは併行して実施することができる(例えば、
図1aから
図1b、および
図1eから
図1f)。
【0090】
以下、
図1を参照して本発明の一例を説明する。図において、チャンバーシステムは、膜Mによって分けられた隣接する2つのチャンバー(ドナー側チャンバー、アクセプター側チャンバー)を備える。サイズ選択性の膜Mは2つのチャンバーを分け、測定対象物質を透過させるが、第一の生物学的試料(A)に由来する非特異的タンパク質および第二の生物学的試料(B)に由来する非特異的タンパク質は透過させない。
【0091】
図1(
図1aから
図1d、
図1eから
図1h)はアッセイの間の透析チャンバーシステムIを示す。
図1aは、非特異的タンパク質4を含む第一の生物学的試料(A)および測定対象物質3を含むドナー溶液を、ドナー側チャンバー1に添加(黒矢印)したときの状態を示し、ドナー側チャンバー1のドナー溶液中に測定対象物質3および非特異的タンパク質4が存在している。
図1bは、非特異的タンパク質5を含む第二の生物学的試料(B)を含むアクセプター溶液を、アクセプター側チャンバー2に添加(黒矢印)したときの状態を示し、アクセプター側チャンバー2のアクセプター溶液中に非特異的タンパク質5が存在している。
図1cは、測定対象物質がドナー側チャンバー1からアクセプター側チャンバー2に移動し始める初期の段階の状況を示す。
図1dは、測定対象物質がドナー側チャンバー1からアクセプター側チャンバー2に移動、あるいはさらにアクセプター側チャンバー2からドナー側チャンバー1に逆移動して、平衡に向かって透析が進行した段階の状況を示す。初期の段階から経時的に、各チャンバーに添加された溶液中における測定対象物質の濃度が複数回測定される。
【0092】
図1eから
図1hは、
図1aと
図1bの操作順序を入れ替えた状況の模式図の一例を示す。
【0093】
ドナー側チャンバー1に添加された測定対象物質3のうち、非特異的タンパク質4あるいはチャンバー壁に結合しなかった測定対象物質だけが半透膜を通過する。半透膜を通過した測定対象物質の一部はアクセプター側チャンバー2中の非特異的タンパク質5に結合する。溶液中の測定対象物質の濃度は両チャンバーの間で平衡に向かうが、それぞれの非特異的タンパク質に対する測定対象物質の結合特性が異なるので、それぞれの非特異的タンパク質に対する結合特性は全測定対象物質の分布に影響を及ぼすこととなる。
【0094】
本発明の方法においては、チャンバーに添加する生物学的試料および測定対象物質は、溶媒により希釈されていてもよい。溶媒としては、生物学的試料および測定対象物質の特性に実質的な影響を与えず、生物学的試料あるいは測定対象物質を溶解し、あるいは互いによく混ざり合うものであればよく、特に限定されない。このような溶媒としては、例えば緩衝液を好ましく用いることができる。緩衝液としては、例えば、リン酸系緩衝液、トリス緩衝液・HEPES緩衝液などのグッドバッファー、酢酸系緩衝液、クエン酸系緩衝液、クエン酸リン酸系緩衝液、ホウ酸系緩衝液、酒石酸系緩衝液、炭酸系緩衝液、フタル酸系緩衝液、シュウ酸系緩衝液などが挙げられる。
【0095】
緩衝液の浸透圧は、好ましくは生理食塩水の0.5倍以上、より好ましくは0.9倍以上であり、好ましくは生理食塩水の2倍以下、より好ましくは1.1倍以下であることが望ましい。例えば、緩衝液の浸透圧は、好ましくは生理食塩水の0.5倍以上、2倍以下、さらに好ましくは0.9倍以上、1.1倍以下の範囲とすることができる。緩衝液のpHとしては、好ましくは6以上、より好ましくは7.0以上であり、好ましくは8以下、さらに好ましくは7.8以下であることが望ましい。例えば、緩衝液のpHは、好ましくは6以上、8以下、さらに好ましくは7.0以上、7.8以下であり得る。
【0096】
さらに、測定対象物質については、その溶解性を向上させるため、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エタノールなどの溶媒に予め溶解させて生物学的試料とともに緩衝液に混合させてもよい。
【0097】
本発明の方法においては、生物学的試料としては、ミクロソーム画分、血液、血漿及び血清を好ましく用いることができるが、これらのうち、血漿または血清をより好ましく用いることができ、血清をさらに好ましく用いることができる。生物学的試料として血清を用いる場合、測定対象物質のデバイス等に対する吸着を軽減することができるとともに、測定対象物質の高い回収率を達成して測定対象物質の濃度低下を抑制することができる。
【0098】
さらに、本発明の方法においては、生物学的試料を緩衝液等により希釈して用いる場合、希釈した血清を用いることがより好ましい。希釈血清を用いることにより、動的解析における濃度の測定において初期濃度変化を捉えやすくすることができる。これより、透析において定常状態を得ることが困難な高タンパク結合率化合物に対して、相対fu比を測定する場合に一層の精度向上および時間短縮をもたらすことができる。
【0099】
本発明において、生物学的試料のドナー溶液又はアクセプター溶液における初期の濃度は、特に限定されないが、例えば、好ましくは1%以上、50%以下、より好ましくは1%以上、30%以下、さらに好ましくは1%以上、10%以下程度の範囲(溶液中の体積比)にあることが望ましい。
【0100】
本発明において、測定対象物質のドナー溶液又はアクセプター溶液における初期の濃度は、特に限定されないが、例えば、好ましくは0.1(μmol/L)以上、10(μmol/L)以下、さらに好ましくは0.1(μmol/L)以上、1(μmol/L)以下、より好ましくは0.1(μmol/L)以上、0.5(μmol/L)以下の範囲にあることが望ましい。
【0101】
ドナー溶液及びアクセプター溶液をチャンバー内に添加後、チャンバーにおいては、添加した試料および物質は、撹拌により拡散させてもよいし、自由拡散させてもよい。好ましくはチャンバー内の溶液を撹拌しながら透析を実施することができる。撹拌は、好ましくは20rpm以上、800rpm以下、より好ましくは250rpm以上、800rpm以下の回転スピードで実施することができる。
【0102】
透析反応におけるチャンバー内の溶液等の温度は、生物学的試料および測定対象物質の特性に悪影響を与えない範囲であればよく特に限定されないが、例えば、好ましくは0℃以上、40℃以下の範囲、より好ましくは20℃以上、40℃以下、さらに好ましくは35℃以上、40℃以下の範囲にあればよい。
【0103】
本発明において、上記平衡透析は、公知の装置を用いて実施することができる。例えば、迅速平衡透析デバイス等を用いて実施することができる。
【0104】
本発明においては、ドナー溶液及びアクセプター溶液中における測定対象物質の濃度を、経時的に測定する。濃度の測定は、連続的にまたは一定時間または主要な時間経過毎に実施できる。一定時間毎の測定においては、例えば、それぞれのチャンバー内の溶液を分注してサンプルとし、公知の方法により測定することができる。例えば、前記得られたサンプルにおける測定対象物質の濃度の測定は、液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS/MS)、UV検出器を用いた液体クロマトグラフィーなどの方法を用いて実施することができる。
【0105】
本発明において、経時的な測定における測定期間は、使用する生物学的試料および測定対象物質に依存し特に限定されないが、例えば、初期から、好ましくは72時間、より好ましくは36時間、さらに好ましくは24時間程度までの期間で適切な測定が可能である。一定時間または主要な時間毎に測定を行う場合、その回数は、例えば、好ましくは20回以内、より好ましくは10回以内、さらに好ましくは5回以内でよい。このような時間範囲において、経時的に濃度測定を行って動的解析することにより、平衡状態に未達であっても、精度よく相対fu比を求めることができる。
【0106】
本発明においては、測定したドナー溶液及びアクセプター溶液中における測定対象物質の濃度の経時的なデータを用いて、相対fu比を算出することができる。相対fu比は公知の動的解析を行うソフトウェアを用いて実施することができる。このような動的解析ソフトとしては、例えば、Simbiology/MATLAB R2019b(The Math Works, Inc.社製)、Microsoft Excel 2019(Microsoft Corporation社製)などを用いることができる。
【0107】
以下、本発明における動的解析方法について説明する。本発明は、異なる生物学的試料間における測定対象物質の相対的なタンパク非結合型分率比(相対fu比)を直接検出する新規のアッセイ技術であり、(i)異なる生物学的試料間の迅速平衡透析による測定対象物質の濃度推移評価、(ii)動的(キネティクス)解析、を実施することにより高タンパク結合率化合物について相対fu比検出のための最善条件を設定している。
【0108】
本発明の動的解析においては、平衡透析によって得られた各溶液における測定対象物質濃度の測定値(例えば、0.5時間値、1時間値、2時間値、4時間値、16時間値、24時間値)及び固有パラメーターを、下記式1(ドナー溶液中における測定対象物質量の変化)、下記式2(アクセプター溶液中における測定対象物質量の変化)及び下記式3(ドナー側チャンバーにおける吸着画分の測定対象物質の単位時間当たりの量の変化)に適用し、収束計算(フィッティング)することによってfu1およびfu2の最適解を求め、得られたfu1/fu2の比を相対fu比とする。
【0109】
なお、デバイスに吸着を示す測定対象物質については、(ii)動的解析において、マスバランス式に吸着クリアランスをパラメーターとして設定し、メカニズムに基づいたモデルによって、フィッティング精度を向上させている。また、測定対象物質が高タンパク結合率化合物(すなわち、低値のfu値を示す化合物)である場合は、解析により得られたfu値の正確性がしばしば問題視されるが、本発明においては、必要に応じて、測定方法(a)に下記測定方法(b)を組み合わせる(iii)双方向性評価を実施することにより、すなわち、前記方法により求めた相対fu比と、ドナー溶液とアクセプター溶液に加える生物学的試料を入れ替えた上で同様の方法により求めた相対fu比とを比較することで、数値検証が可能になり、得られる相対fu比の精度をより向上することが可能である。さらに、必要に応じて(iv)希釈血清を用いることで初期濃度変化の検出条件を改良し、得られる相対fu比の精度をより向上することが可能である。
【0110】
具体的には、動的解析を行う前記ソフトウェアを用いて、下記の方法により得られた濃度推移をデータ入力し、下記条件および非線形最小二乗法(lsqnonlin)により各パラメーターおよびfu比を算出することができる。
【0111】
【0112】
【0113】
【0114】
式1は、ドナー溶液中における測定対象物質量の変化を示す(単位時間当たりの量の変化)。すなわち、式1は、アクセプター側からドナー側への測定対象物質の逆移動(fu2*C2*PS)、ドナー側からアクセプター側への測定対象物質の移動(fu1*C1*PS)、ならびにドナー側のデバイス壁への吸着・乖離影響(デバイス壁への測定対象物質の吸着(fu1*C1*CLad)および吸着した測定対象物質のデバイス壁からの乖離(koff*Xad))を含む、ドナー側における測定対象物質の量の変化を示す。
【0115】
式2は、アクセプター溶液中における測定対象物質量の変化を示す(単位時間当たりの量の変化)。すなわち、式2は、アクセプター側からドナー側への測定対象物質の逆移動(fu2*C2*PS)、ドナー側からアクセプター側への測定対象物質の移動(fu1*C1*PS)を含む、アクセプター側における測定対象物質の量の変化を示す(吸着影響を含まない)。
【0116】
式3は、ドナー側チャンバーにおける吸着画分の測定対象物質の単位時間当たりの量の変化を示す(デバイス壁への測定対象物質の単位時間当たりの吸着・乖離)。すなわち、ドナー側デバイス壁への測定対象物質の吸着(fu1*C1*CLad)および吸着した測定対象物質のデバイス壁からの乖離(koff*Xad))を含む、ドナー側における測定対象物質の吸着量変化を示す。
【0117】
これらの式に、経時的に測定した溶液中の測定対象物質の濃度(実測値)、および固有パラメーターを適用し、収束計算(フィッティング)し(デバイス壁への吸着・乖離に係るパラメーター(CLad、Koff、Xad)は収束計算により濃度からコンピューターで算出されて組み込まれる)、相対fu比(fu1/fu2)を得ることができる。
【0118】
ここで、各パラメーターはそれぞれ以下を表す。
V1:ドナー溶液の容積(固定値、3.5×10-4L)
V2:アクセプター溶液の容積(固定値、2.0×10-4L)
fu1:ドナー溶液に含まれる生物学的試料に対する測定対象物質のfu値(算出値)
fu2:アクセプター溶液に含まれる生物学的試料に対する測定対象物質のfu値(算出値)
C1:ドナー溶液中の測定対象物質の濃度(トータル濃度:結合型測定対象物質及び非結合型測定対象物質の合計。ただし、平衡透析デバイスに吸着した測定対象物質は除く。)(測定値、nmol/L)
C2:アクセプター溶液中の測定対象物質の濃度(トータル濃度:結合型及び非結合型測定対象物質の合計。)(測定値、nmol/L)
PS:測定対象物質の透析膜透過クリアランス(固定値、1.0×10-4 L/h又は1.0×10-5 L/h)
CLad:ドナー側チャンバーにおける測定対象物質の吸着クリアランス(変動値、L/h)
koff:ドナー側チャンバーにおける定対象物質の解離速度定数(変動値、h-1)
Xad:ドナー側チャンバーにおける定対象物質の吸着量(変動値、nmol)
各記号に記載される数字の「1」はドナー側、「2」はアクセプター側におけるものであることを示す。
【0119】
なお、本願実施例で使用した平衡透析デバイスにおいては、ドナー側の壁表面積がアクセプター側と比べて非常に大きいため、C1においてのみ平衡透析デバイスに吸着した測定対象物質を考慮しており、CLad、Koff及びXadについても、ドナー側チャンバーにおける測定対象物質を考慮しているが、ドナー側の壁表面積とアクセプター側の壁表面積がある程度近しい平衡透析デバイスを用いる場合は、アクセプター側チャンバーにおける吸着画分の測定対象物質の単位時間当たりの量の変化を下記式3’として追加立式して動的解析を行うこともできる。
【0120】
【0121】
CLad’:アクセプター側チャンバーにおける測定対象物質の吸着クリアランス(変動値、L/h)
koff’:アクセプター側チャンバーにおける測定対象物質の解離速度定数(変動値、h-1)
Xad’:アクセプター側チャンバーにおける測定対象物質の吸着量(変動値、nmol)
【0122】
この場合、式2は以下の式2’に変更して用いる。
(式2’):
【0123】
また、上述の解析方法の他、PSを特定の値に固定せず、(fu1*PS)と(fu2*PS)をそれぞれ一塊の変動パラメータとして収束計算(フィッティング)し、(fu1*PS)と(fu2*PS)の比で相対fu比(fu1/fu2)を得ることもできる。
【0124】
収束計算(フィッティング)においては、ドナー溶液及びアクセプター溶液に含まれる生物学的試料を入れ替えた測定結果を一組として相対f
u比を算出することができる。Fit Data(SimBiology Model Analyzer, Program)のデフォルト設定は適宜変更することができるが、例えば、下記条件(Model、Reaction、Rules、Definition、Estimated Parameters)を記載し、実施することができる。解析を実施する際のModelは
図3に示した。
【0125】
Reaction:
Eq1.Donor1<-> Eq1.Acceptor1: +fu1*PS*Eq1.Donor1/Vd1-fu2*PS*Eq1.Acceptor1/Vd2
Eq1.Donor1-> Eq1.Ad: +CL1*fu1*Eq1.Donor1/Vd1-(Koff1*Eq1.Ad)
Eq2.Donor2<-> Eq2.Acceptor2: +fu2*PS*Eq2.Donor2/Vd1-fu1*PS*Eq2.Acceptor2/Vd2
Eq2.Donor2-> Eq2.Ad: +CL2*fu2*Eq2.Donor2/Vd1-(Koff2*Eq2.Ad)
【0126】
Rules:
rule_1 Eq1.Ca1 = Eq1.Acceptor1/Vd2 repeatedAssignment
rule_2 Eq1.Cd1 = Eq1.Donor1/Vd1 repeatedAssignment
rule_3 Eq2.Ca2 = Eq2.Acceptor2/Vd2 repeatedAssignment
rule_4 Eq2.Cd2 = Eq2.Donor2/Vd1 repeatedAssignment
rule_5 Eq1.Donor1 = Dose1 initialAssignment
rule_6 Eq2.Donor2 = Dose2 initialAssignment
【0127】
Definition:
一つ目の生物学的試料がマウス、2つ目の生物学的試料がヒトである場合、以下4つのデータを一組として解析に用いる。
データ1(Eq1.Ca1):ドナー溶液にマウス血清、アクセプター溶液にヒト血清が含まれる平衡透析系におけるアクセプター溶液中の測定対象物質の濃度
データ2(Eq1.Cd1):ドナー溶液にマウス血清、アクセプター溶液にヒト血清が含まれる平衡透析系におけるドナー溶液中の測定対象物質の濃度
データ3(Eq2.Ca2): ドナー溶液にヒト血清、アクセプター溶液にマウス血清が含まれる平衡透析系におけるアクセプター溶液中の測定対象物質の濃度
データ4(Eq2.Cd2):ドナー溶液にヒト血清、アクセプター溶液にマウス血清が含まれる平衡透析系におけるドナー溶液中の測定対象物質の濃度
【0128】
Estimated Parameters:
exp(fu1), InitialValue = 1, Bounds = [0.01 100];
exp(fu2), InitialValue = 1, Bounds = [0.01 100];
exp(Koff1), InitialValue = 1, Bounds = [0.01 1000000];
exp(Koff2), InitialValue = 1, Bounds = [0.01 1000000];
exp(CL1), InitialValue = 0.001, Bounds = [1e-07 0.1];
exp(CL2), InitialValue = 0.001, Bounds = [1e-07 0.1];
exp(Dose1), InitialValue = 0.2115, Bounds = [0.1 0.4又は0.5];
exp(Dose2), InitialValue = 0.2114, Bounds = [0.1 0.4又は0.5];
Pooled fit, true
【0129】
異なる生物学的試料間における測定対象物質の相対f
u
比の測定方法(b)
本発明の異なる生物学的試料間における測定対象物質の相対的な非結合型分率比(相対f
u比)を求めるための方法は、さらに、前記工程(1)から(5)を含む測定方法(a)において、生物学的試料(A)と生物学的試料(B)とを入れ替えた方法を含むことができる。すなわち、本発明の異なる生物学的試料間における測定対象物質の相対的な非結合型分率比(相対f
u比)を求めるための方法は、以下の工程(6)から(10)をさらに含むことができる。
(6)隣接するチャンバー同士が、測定対象物質を透過させる半透膜によって隔てられた、前記チャンバーシステム(I)と異なるチャンバーシステム(II)を用意する工程、
(7)前記チャンバーシステム(II)の内、一つのチャンバー(アクセプター側チャンバー)に前記生物学的試料(A)を含むアクセプター溶液を添加する工程(例えば、
図2aおよび
図2f)、
(8)前記チャンバーシステム(II)の内、前記アクセプター側チャンバーとは異なるチャンバー(ドナー側チャンバー)に前記生物学的試料(B)及び前記測定対象物質を含むドナー溶液を添加する工程(例えば、
図2bおよび
図2e)、
(9)前記工程(7)のアクセプター溶液及び前記工程(8)のドナー溶液中における前記測定対象物質の濃度を経時的に測定する工程(例えば、
図2cから
図2dおよび
図2gから
図2h)、及び
(10)前記工程(9)で測定した測定対象物質の濃度に関するデータを用いて相対f
u比を算出する工程。
【0130】
前記方法においては、工程(7)および工程(8)を行う順番は特に限定されず、例えば、工程(8)を工程(7)の後に実施するか、工程(7)を工程(8)の後に実施するか、または、工程(7)と工程(8)を同時にあるいは併行して実施することができる(例えば、
図2aから
図2b、および
図2eから
図2f)。
【0131】
以下に図を参照して本発明の一例を説明する。
図2(
図2aから
図2d、
図2eから
図2h)は、アッセイの間の透析チャンバーシステムIIを示す。
図2aは、非特異的タンパク質4を含む第一の生物学的試料(A)を含むアクセプター溶液を、アクセプター側チャンバー20に添加(黒矢印)したときの状態を示し、アクセプター側チャンバー20のアクセプター溶液中に非特異的タンパク質4が存在している。
図2bは、非特異的タンパク質5を含む第二の生物学的試料(B)および測定対象物質3を含むドナー溶液を、ドナー側チャンバー10に添加(黒矢印)したときの状態を示し、ドナー側チャンバー10のドナー溶液中に測定対象物質3および非特異的タンパク質5が存在している。
図2cは、測定対象物質がドナー側チャンバー10からアクセプター側チャンバー20に移動し始める初期の段階の状況を示す。
図2dは、測定対象物質がドナー側チャンバー10からアクセプター側チャンバー20に移動して、あるいはさらにアクセプター側チャンバー20からドナー側チャンバー10に逆移動して、平衡に向かって透析が進行した段階の状況を示す。初期の段階から経時的に各チャンバーに添加された溶液中における測定対象物質の濃度を測定する。
【0132】
図2eから
図2hは、
図2aと
図2bの操作順序を入れ替えた状況の模式図の一例を示す。
【0133】
各工程(6)から(10)は、前記の工程(1)から(5)と同様の方法により、実施可能である。すなわち、工程(6)から(8)を経て、工程(9)で測定したドナー溶液及びアクセプター溶液中における測定対象物質の濃度の経時的なデータを用いて、相対fu比を算出することができる(工程(10))。
【0134】
本発明においては、工程(1)から(4)の2つのチャンバーに添加された溶液中におけるそれぞれの経時的な測定対象物質の濃度変化を、所定のパラメーターを組み込んだ動的解析ソフトにおける計算式に一度に導入してフィッティング処理を行い、種差間の相対fu比を求めることができる。また、工程(6)から(9)の2つのチャンバーに添加された溶液中におけるそれぞれの経時的な測定対象物質の濃度変化を、所定のパラメーターを組み込んだ動的解析ソフトにおける計算式に一度に導入してフィッティング処理を行い、種差間の相対fu比を求めることができる。このような工程(1)から(5)により得られる相対fu比(以下、「相対fu比(a)」ということがある)および工程(6)から(10)により得られる相対fu比(以下、「相対fu比(b)」ということがある)は、同じ生物学的試料および測定対象物質を使用するものであることから理論上は同じ値になる。
【0135】
したがって、工程(1)から(5)および工程(6)から(10)によりそれぞれ独立して得られた相対fu比(以下、それぞれ、「相対fu比(a)」、「相対fu比(b)」ということがある)を比較することにより、それぞれの相対fu値の数値の検証が可能となる。例えば、相対fu比(a)/相対fu比(b)が、好ましくは0.8以上、1.2以下、より好ましくは0.9以上、1.1以下である場合、それぞれの相対fu比の精度が高いと評価できる。
【0136】
さらに、工程(1)から(4)および工程(6)から(9)の4つのチャンバーに添加された溶液中におけるそれぞれの経時的な測定対象物質の濃度変化、すなわち、工程(4)および工程(9)で測定した測定対象物質の濃度に関するデータを、所定のパラメーターを組み込んだ動的解析ソフトにおける計算式に一度に導入してフィッティング処理を行い、種差間の相対fu比を求めることができる。このような方法により、種差間の相対fu比の精度をより向上させたものとすることができる。実施例に記載のように、本発明の方法で求めた相対fu値は、参考例の手法で求めたfu値(絶対値)の比ともよく整合する。
【0137】
本発明によれば、例えば、1種の生物学的試料からfu値(絶対値)を算出する方法と比較して、複数種、例えば2から5種の生物学的試料間の相対fu比を一斉に評価することができるので、得られた相対fu比の種間比較を容易にすることができる。例えば、2つの生物学的試料間の相対fu比を求める場合、平衡透析膜で区切られた2つのチャンバーを用意し、両チャンバーに対象とする生物学的試料を含む溶液をそれぞれ添加して測定すれば良い。また、3つ以上の生物学的試料間の相対fu値比を一斉に評価する場合、生物学的試料の種類の数だけチャンバーを用意し、それらを測定対象物質が透過し得る平衡透析膜で区切って測定対象物質が自由に拡散できるようにし、各チャンバーに対象とする生物学的試料を含む溶液をそれぞれ添加して測定しても良いし、平衡透析膜で区切られた2つのチャンバーを用意し、両チャンバーにそれぞれ1つ以上の生物学的試料を含む溶液を添加して測定しても良い。
【0138】
また、本発明では、2つ以上の生物学的試料に対する相対fu比として値を得ることから、誤差が生じやすい小さな数値のfu値を個々に得る手法と比較して誤差を最小化することができ、より精度の高いfu比の種間比較が可能である。さらに、基準となる生物学的試料、例えば基準血清を設定することにより、その後の実験毎の妥当性検証を容易に行うことができる。
【0139】
さらに、本発明では、動的解析を採用することにより、相対fu比を短時間で測定することが可能であることはもちろん、これにより生物学的試料の経時劣化(pHの経時変化、溶液量の変動など)の影響が最小限に抑えられ、より正確な相対fu比を測定することも可能となる。さらに、溶液中の測定対象物質の濃度が平衡状態に達しにくいときでも、動的解析を用いることにより、平衡状態に達してから測定したfu比と良好な相関を示す相対fu比を、平衡状態未達の状態で得ることができるため、測定対象物質のタンパク結合率が高い場合などは特に有効である。
【0140】
1種の生物学的試料からfu値を動的解析によって提供する場合は、fu既知の化合物群におけるPmem平均値を利用しているが、本発明においては、半透膜透過速度(Pmem [m/s])について、実験上の数値を得ずとも解析を実施できる特徴がある。例えば、シクロスポリン(分子量:1202.61)など化合物分子量が大きい場合でも、Pmemを解析上任意の固有値として設定することで、相対fu比の取得が可能である。
【0141】
薬物のクリアランスおよび分布容積の予測方法
本発明に係る薬物のクリアランスを予測する方法は、前記相対fu比及び一つの生物学的試料が由来する種における薬物のクリアランスのデータを用いて、他の生物学的試料が由来する種における薬物のクリアランスを予測する方法を含む。
【0142】
「クリアランス」(CL)は、薬物の消失速度(v)をその時点の濃度(C)で割ったものとして定義され(CL=v/C)、単位時間当たり、薬物の除去が可能な容積として表される(mL/min)。
【0143】
本発明の方法により得られたfu比を用いて、クリアランスを予測する方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、公知のヒトクリアランス推定法(FCIM:fu-corrected intercept method(非特許文献6:Tang, H. and M. Mayersohn (2005). "A novel model for prediction of human drug clearance by allometric scaling." Drug Metab Dispos 33(9): 1297-1303.))に薬物のfu比および実測したクリアランスデータ(例えば、マウス、ラット、イヌ、またはサルなど)を適用して、ヒトクリアランスを予測することができる。
【0144】
FCIM法の予測方法は、例えば下記の通りである。
・複数種の動物のクリアランスを以下で示すSA (Simple Allometry)の式にあてはめaとbを最適化;
CL= a(BodyWeight)b
(a:スケーリング係数、b:スケーリング指数)
・上記で得られたaとRfu(相対fu比(rat/human))から以下の式で予測ヒトクリアランスを算出;
CLhuman= 33.35 x (a/Rfu)0.77
【0145】
本発明に係る薬物の分布容積を予測する方法は、前記相対fu比及び一つの生物学的試料が由来する種における薬物の分布容積のデータを用いて、他の生物学的試料が由来する種における薬物の分布容積を予測する方法を含む。
【0146】
「分布容積」(V)は、血液または血漿中と同じ濃度で、体内に投与薬物の総量を含有するために必要とされる理論上の液体量を意味し、分布容積=体内薬物量/血中濃度(例えば、L)で表される。
【0147】
前記方法により得られたfu比を用いて、分布容積を予測する方法としては、公知の方法を必要に応じて改変して用いることができる。例えば、公知の分布容積種差推定法(非特許文献7:Berry, L. M., et al. (2011). "Species differences in distribution and prediction of human V(ss) from preclinical data." Drug Metab Dispos 39(11): 2103-2116.)に薬物のfu比および実測した定常状態分布容積(例えば、マウス、ラット、イヌ、またはサルなど)を適用して、所望の分布容積(例えばヒト)を予測することができる。
【0148】
分布容積を予測する方法は、例えば、以下のfuで補正した分布容積の推定方法が挙げられる(非特許文献7)。
定常状態分布容積(Vss, [L])
fuで補正した定常状態分布容積(Vss u, [L] = Vss/fu, [L])
SA (Simple Allometry): Vss u = a(BodyWeight)b
(a:スケーリング係数、b:スケーリング指数)
ここでリファレンスとなる動物種のfuをfu,ref、リファレンスとなる動物種に対するfu比をRfu(=fu/fu,ref)とすると、上記SAの式は以下の式に変形できる。
Vss/Rfu= fu,ref x a(BodyWeight)b
複数動物種の実測のVssとRfuを用いてfu,ref x aとbを最適化することで任意の種のVss/Rfuが予測でき、Rfuを用いてVssが予測できる。この改変した予測方法においてfuの絶対値はいずれの種でも実測する必要がない。
【0149】
本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0150】
以下、本発明の好適な具体的態様を実施例として説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0151】
〔実施例1〕
動的解析による種差間の相対的なf
u
比の取得(測定対象物質:ニフェジピン)
[ドナー(Donor)溶液の調製]
まず、ニフェジピンを測定対象物質とし、10mmol/L溶液および1mmol/L溶液を調製した。具体的には、粉末ニフェジピン1.67mgに対して、ジメチルスルホキシド(DMSO)0.482mLを加え、ニフェジピン10mmol/L溶液とした。続けて、20μLのニフェジピン10mmol/L溶液に対して、DMSOを180μL加え、ニフェジピン1mmol/L溶液とした。
【0152】
次に、各種血清(マウス血清、ラット血清、イヌ血清、サル血清、ヒト血清)を融解させた。融解させた各種血清を採取し、それぞれに9倍量のリン酸緩衝生理食塩水及び1/1000倍量のニフェジピン1mmol/L溶液を加え、血清濃度10%(体積比)、ニフェジピン濃度1μmol/L、DMSO濃度0.1%(体積比)となるドナー溶液を調製した。具体的に用いた各試料の量を下記表1に示す。
【0153】
なお、用いた各試料は以下のとおりである。
ニフェジピン:「ニフェジピン」、富士フイルム和光純薬(株)社製、分子量 : 346.335、CLogP:3.12
DMSO:「CultureSure(登録商標) DMSO」、富士フイルム和光純薬(株)社製
マウス血清:「マウス(CD-1(ICR))血清」、Valley Biomedical社製
ラット血清:「ラット(SD(Crl:CD))血清」、Valley Biomedical社製
イヌ血清:「ビーグルプール血清」、日本エスエルシー(株)社製
サル血清:「サル(Cynomolgus)血清」、Valley Biomedical社製
ヒト血清:「Human True A serum, pool of donors」、BIOPREDIC International社製
リン酸緩衝生理食塩水(PBS):「ダルベッコりん酸緩衝生理食塩水(Ca, Mg不含)」、ナカライテスク社製
【0154】
【0155】
[アクセプター(Acceptor)溶液の調製]
ニフェジピン1mmol/L溶液の代わりにDMSO溶液を加えたこと以外は、ドナー溶液と同様の手順で血清濃度10%(体積比)、DMSO濃度0.1%(体積比)となるアクセプター溶液を調製した。
【0156】
[透析反応]
まず、迅速平衡透析デバイス(「RED(Rapid Equilibrium Dialysis:迅速平衡透析)デバイス」、透析膜MWCO:8kDa、Thermo Fisher SCIENTIFIC社製)を用意し、各白チャンバーに特定のドナー溶液をそれぞれ350μLずつ、各赤チャンバーに特定のアクセプター溶液をそれぞれ200μLずつ分注した。各チャンバーに分注したドナー溶液又はアクセプター溶液を下記表2に示す。
【0157】
表2において、表2-1は、ヒトおよびマウスの血清を用いた場合である。ヒト血清をドナー側とし、マウス血清をアクセプター側とした場合(試験AからC;同一条件)、ならびにマウス血清をドナー側とし、ヒト血清をアクセプター側とした場合(試験DからF:同一条件)の合計6つについて、それぞれ0.5時間、2時間、4時間、16時間および24時間の時点で測定を実施したことを示す。表2-2は、ヒトおよびラットの血清を用いた場合、表2-3は、ヒトおよびイヌの血清を用いた場合、表2-4は、ヒトおよびサルの血清を用いた場合について、上記ヒトおよびマウスの組合せの場合と同様の6種のパターンについて、それぞれ0.5時間、2時間、4時間、16時間および24時間の時点で測定を実施したことを示す。
【0158】
次に、アルミニウムシール(「3M(登録商標) マイクロプレート シーリングテープ」、スリーエム ジャパン(株)社製)でREDデバイス上部を密閉し、Shaker(「MB100-4AThermo-shaker」、Hangzhou Allsheng Instruments Co.,Ltd.社製)で透析反応を開始した(設定値:攪拌スピードRotation 800rpm、37℃)。
【0159】
(表2)ヒト/マウス、ラット、イヌ、サルの血清を用いたチャンバーパターン
(表2-1)ヒト/マウス
【0160】
【0161】
【0162】
【0163】
[透析反応後のサンプリング]
透析反応開始時より0.5時間、2時間、4時間、16時間及び24時間を経過した時点で、各ドナー溶液及びアクセプター溶液を分注したチャンバーからそれぞれ20μLずつ溶液を採取し、180μLのクエンチ(Quench)溶液1(メタノール/アセトニトリル/DMSO=85/85/10体積比)と混合して密封した。クエンチ溶液1の作製方法は下記の通り[メタノール/アセトニトリル=1/1溶液80mLに対して、80μLのインドメタシン溶液(濃度200μg/mL)を加えた。調整した前述の混合溶液51mLに対して、DMSO3mLを加え、クエンチ溶液1とした。]。また、REDデバイス分注前のドナー溶液を0時間値試料とし、上述と同様の量を採取し、前述と同様の手法でクエンチ溶液1と混合して密封した。各試料は前処理に供するまで4℃で保存した。
【0164】
[サンプリングした試料の前処理]
サンプリング後の試料を全量、それぞれフィルタープレート(「Multi Screen(登録商標) Solvinert, Filter Plates 0.45μm,Low-Binding Hydrophilic PTFE」、MILLIPORE社製)に移し、96ウェル PPマイクロプレートを下方に重ね、遠心機(「CF10RXII」、HITACHI社製)にてフィルターでろ過した(3000rpm、5分)。ろ過後の試料は、シール貼付によって密封し、LC-MS/MS用測定用試料とした。
【0165】
[LC-MS/MSによる測定対象物質の濃度測定]
前記LC-MS/MS用測定用試料それぞれについて、下記測定機器および測定条件を用い、各チャンバーに添加した溶液中におけるニフェジピン濃度を測定した。本明細書中の実施例、比較例、あるいは参考例においては、複数のウェルで同一の生体試料種(例えば血清)にて特定対象物質の濃度を測定している場合は、同一生体試料種(例えば血清)群の各ウェルで測定された濃度の平均値をfu比の算出に用いた。例えば、本実施例においては、同一血清群の試験A~Cにおける測定対象物質の濃度の平均値、同一血清群の試験D~Fにおける測定対象物質の濃度の平均値をfu比の算出に用いた。
【0166】
(測定機器)
LC:Waters Acquity UPLC
MS:Xevo TQ-S (Waters Corporation, Milford, Massachusetts)
カラム:YMC-Triart C18 column, カラムサイズ2.0 x 30 mm, 粒子径1.9 μm, 細孔径12 nm
【0167】
(測定条件)
カラム温度:50℃(設定値)
溶媒:A) 0.1% ギ酸水溶液
B) 0.1% ギ酸アセトニトリル溶液
グラジエント条件:
【表3】
流速:0.6 mL/min
オートサンプラー温度:10℃(設定値)
注入量(Injection Volume):1μL
【0168】
検量線サンプルの作製:DMSOに溶解させたニフェジピン1mmol/L溶液10μLに対し、DMSOを90μL加え、ニフェジピン100μmol/L溶液とし、ニフェジピン100μmol/L溶液を基に、下記(1)-(8)の希釈系列およびBLANK溶液を作製した。
【0169】
[(1)ニフェジピン100μmol/L溶液24μLに対し、DMSOを376μL加え、ニフェジピン6000nmol/L溶液とした。
(2)ニフェジピン6000nmol/L溶液120μLに対し、DMSOを240μL加え、ニフェジピン2000nmol/L溶液とした。
(3)ニフェジピン2000nmol/L溶液120μLに対し、DMSOを280μL加え、ニフェジピン600nmol/L溶液とした。
(4)ニフェジピン600nmol/L溶液120μLに対し、DMSOを240μL加え、ニフェジピン200nmol/L溶液とした。
(5)ニフェジピン200nmol/L溶液120μLに対し、DMSOを280μL加え、ニフェジピン60nmol/L溶液とした。
(6)ニフェジピン60nmol/L溶液120μLに対し、DMSOを240μL加え、ニフェジピン20nmol/L溶液とした。
(7)ニフェジピン20nmol/L溶液120μLに対し、DMSOを280μL加え、ニフェジピン6nmol/L溶液とした。
(8)ニフェジピン6nmol/L溶液120μLに対し、DMSOを240μL加え、ニフェジピン2nmol/L溶液とした。DMSO200μLをBLANK用溶液とした]。
【0170】
(1)-(8)の希釈系列およびBLANK溶液それぞれ10μLに対して、20μLのマトリックス溶液(動物あるいはヒト血清/PBS/DMSO=10/90/0.1、体積比)、さらに170μLのクエンチ溶液2[メタノール/アセトニトリル=1/1溶液80mLに対して、80μLのインドメタシン溶液(濃度200μg/mL)を加えた溶液]を加え、検量線サンプルとした。検量線サンプルはサンプリングした試料と同様の方法で前処理をした。また、(1)-(8)の希釈系列は、実サンプルを基準とすると濃度が2倍になるように調整されているため、希釈系列で調整した濃度を半量として補正することで、検量線サンプルの濃度とした。
【0171】
検量線サンプルの濃度:(8)1nmol/L、(7)3nmol/L、(6)10nmol/L、(5)30nmol/L、(4)100nmol/L、(3)300nmol/L、(2)1000nmol/L、(1)3000nmol/L
【0172】
MS条件(設定値):ESI positive、Capillary (kV) 2.00、Cone (V) 25.00、Source Offset (V) 50.0、Source Temperature (°C) 150、Desolvation Temperature (°C) 600、Desolvation Gas Flow (L/Hr) 1000、Cone Gas Flow (L/Hr) 150、Collision Gas Flow (mL/Min) 0.20、
Nebuliser Gas Flow (Bar) 7.00
【表4】
【0173】
[動的解析によるfu比の取得]
動的解析を行うソフトウェア(「SimBiology(登録商標)/MATLAB、バージョン情報:9.7.0.1190202 (R2019b)」、The MathWorks, Inc.社製)を用いて、得られた濃度推移をデータ入力し、下記条件および非線形最小二乗法(lsqnonlin)により各パラメーターおよびfu比を算出した。なお、ドナー溶液を調製した際のドナー溶液中の測定対象物質の設定濃度を、透析反応開始から0時間の時点におけるドナー溶液中に含まれる測定対象物質の濃度として用いた。
【0174】
【0175】
【0176】
【0177】
ここで、各パラメーターはそれぞれ以下を表す。
V1:ドナー溶液の容積(固定値、3.5×10-4L)
V2:アクセプター溶液の容積(固定値、2.0×10-4L)
fu1:ドナー溶液に含まれる生物学的試料に対する測定対象物質のfu値(算出値)
fu2:アクセプター溶液に含まれる生物学的試料に対する測定対象物質のfu値(算出値)
C1:ドナー溶液中の測定対象物質の濃度(トータル濃度:結合型及び非結合型測定対象物質の合計。ただし、平衡透析デバイスに吸着した測定対象物質は除く。)(測定値、nmol/L)
C2:アクセプター溶液中の測定対象物質の濃度(トータル濃度:結合型及び非結合型測定対象物質の合計。)(測定値、nmol/L)
PS:非結合型測定対象物質の透析膜透過クリアランス(固定値、1.0×10-4 L/h)
CLad:ドナー側チャンバーにおける測定対象物質の吸着クリアランス(変動値、L/h)
koff:ドナー側チャンバーにおける測定対象物質の解離速度定数(変動値、h-1)
Xad:ドナー側チャンバーにおける測定対象物質の吸着量(変動値、nmol))
各記号に記載される数字の「1」はドナー側、「2」はアクセプター側におけるものであることを示す。
【0178】
収束計算(フィッティング):
動的解析においては、ドナー溶液及びアクセプター溶液に含まれる生物学的試料を入れ替えた測定結果を一組として相対f
u比を算出した。Fit Data(SimBiology Model Analyzer, Program)のデフォルト設定に下記条件(Model、Reaction、Rules、Definition、Estimated Parameters)を記載し、実施した。解析を実施した際のModelは
図3に示した。
【0179】
Reaction:
Eq1.Donor1<-> Eq1.Acceptor1: +fu1*PS*Eq1.Donor1/Vd1-fu2*PS*Eq1.Acceptor1/Vd2
Eq1.Donor1-> Eq1.Ad: +CL1*fu1*Eq1.Donor1/Vd1-(Koff1*Eq1.Ad)
Eq2.Donor2<-> Eq2.Acceptor2: +fu2*PS*Eq2.Donor2/Vd1-fu1*PS*Eq2.Acceptor2/Vd2
Eq2.Donor2-> Eq2.Ad: +CL2*fu2*Eq2.Donor2/Vd1-(Koff2*Eq2.Ad)
【0180】
Rules:
rule_1 Eq1.Ca1 = Eq1.Acceptor1/Vd2 repeatedAssignment
rule_2 Eq1.Cd1 = Eq1.Donor1/Vd1 repeatedAssignment
rule_3 Eq2.Ca2 = Eq2.Acceptor2/Vd2 repeatedAssignment
rule_4 Eq2.Cd2 = Eq2.Donor2/Vd1 repeatedAssignment
rule_5 Eq1.Donor1 = Dose1 initialAssignment
rule_6 Eq2.Donor2 = Dose2 initialAssignment
【0181】
Definition:
一つ目の生物学的試料がマウス、2つ目の生物学的試料がヒトである場合、以下4つのデータを一組として解析に用いた。
データ1(Eq1.Ca1):ドナー溶液にマウス血清、アクセプター溶液にヒト血清が含まれる平衡透析系におけるアクセプター溶液中の測定対象物質の濃度
データ2(Eq1.Cd1):ドナー溶液にマウス血清、アクセプター溶液にヒト血清が含まれる平衡透析系におけるドナー溶液中の測定対象物質の濃度
データ3(Eq2.Ca2): ドナー溶液にヒト血清、アクセプター溶液にマウス血清が含まれる平衡透析系におけるアクセプター溶液中の測定対象物質の濃度
データ4(Eq2.Cd2):ドナー溶液にヒト血清、アクセプター溶液にマウス血清が含まれる平衡透析系におけるドナー溶液中の測定対象物質の濃度
【0182】
Estimated Parameters:
exp(fu1), InitialValue = 1, Bounds = [0.01 100];
exp(fu2), InitialValue = 1, Bounds = [0.01 100];
exp(Koff1), InitialValue = 1, Bounds = [0.01 1000000];
exp(Koff2), InitialValue = 1, Bounds = [0.01 1000000];
exp(CL1), InitialValue = 0.001, Bounds = [1e-07 0.1];
exp(CL2), InitialValue = 0.001, Bounds = [1e-07 0.1];
exp(Dose1), InitialValue = 0.2115, Bounds = [0.1 0.4];
exp(Dose2), InitialValue = 0.2114, Bounds = [0.1 0.4];
Pooled fit, true
【0183】
上記の動的解析手法により算出した、測定対象物質(ニフェジピン)の各種に対するf
u比(/ヒト、血清濃度1/10、ヒト/ヒトは1.00とした)を表5に、また、透析反応開始時より0.5時間、2時間、4時間、16時間及び24時間を経過した時点における各チャンバーに添加した溶液中の測定対象物質の濃度プロット及びそれらのプロットに対する動的解析によるフィッティングカーブを
図4((1)から(4))に示す。
【0184】
【0185】
〔比較例1〕
静的解析による種差間の相対的なf
u
比の取得(測定対象物質:ニフェジピン)
実施例1と同様にドナー溶液(10%マウス、ラット、イヌ又はサル血清)およびアクセプター溶液(10%ヒト血清)を調製して透析反応を開始し、透析反応開始時より24時間を経過した時点における各チャンバーに添加した溶液中の測定対象物質の濃度を測定した。得られたデータを下記式4に適用し、各種血清(マウス、ラット、イヌ又はサル)におけるニフェジピンのfu比(対ヒト、ヒト/ヒトは1.00とした)を取得した。複数のウェルで同一血清にて特定対象物質の濃度を測定している場合は、同一血清群の各ウェルで測定された濃度の平均値をfu比の算出に用いた。
【0186】
【0187】
【0188】
〔参考例1〕
静的解析(対バッファー)による種差間のf
u
比の取得(測定対象物質:ニフェジピン)
[ドナー溶液の調製]
各種血清(マウス、ラット、イヌ、サル、ヒトの5種(AからE))、リン酸緩衝生理食塩水及びニフェジピン1mmol/L溶液の量を表7に示した量とした以外は、実施例1と同様の方法にて、血清濃度10%(体積比)、ニフェジピン濃度1μmol/L、DMSO濃度0.1%(体積比)となるドナー溶液を調製した。
【0189】
【0190】
[アクセプター溶液の調製]
リン酸緩衝生理食塩水(PBS)(20mL)に1/1000倍量のDMSO溶液(20μL)を加え、DMSO濃度が0.1%(体積比)となるアクセプター溶液(バッファー)を調製した。
【0191】
[透析反応]
各チャンバーに分注した溶液を表8に示した通りとした以外は、実施例1と同様の方法にて透析反応を行った。
【0192】
【0193】
[透析反応後のサンプリング]
サンプリングのタイミングを透析反応開始時より24時間を経過した時点のみとした以外は、実施例1と同様の方法にてサンプリングを行った。
【0194】
[サンプリングした試料の前処理及びLC-MS/MSによる測定対象物質の濃度測定]
実施例1と同様の方法にてサンプリング後の試料についての前処理及びサンプル中の測定対象物質の濃度測定を行った。複数のウェルで同一血清にて特定対象物質の濃度を測定している場合は、同一血清群の各ウェルで測定された濃度の平均値をfu比の算出に用いた。
【0195】
[各種におけるfu値を用いた種差間の相対的なfu比の算出]
まず、得られた濃度データを下記式5に適用し、各種血清(マウス、ラット、イヌ、サル又はヒト)におけるニフェジピンのfu値を取得した。
【0196】
【0197】
次に、前記fu値を下記式6に適用し、各種のヒトに対する相対的なfu比を算出した。
【0198】
(式6):
fu比=α/β
(式中、αは各種(マウス、ラット、イヌ又はサル)のfu値を表し、βはヒトのfu値を表す)
【0199】
【0200】
〔実施例2〕
動的解析による種差間の相対的なf
u
比の取得(測定対象物質:シクロスポリン)
[ドナー溶液の調製]
まず、シクロスポリンを測定対象物質とし、10mmol/L溶液および1mmol/L溶液を調製した。具体的には、粉末シクロスポリン(「シクロスポリン」、富士フイルム和光純薬(株)社製、分子量1202.61、CLogP:14.36、アミノ酸残基数11)6.81mgに対して、ジメチルスルホキシド(DMSO)0.566mLを加え、シクロスポリン10mmol/L溶液とした。続けて、20μLのシクロスポリン10mmol/L溶液に対して、DMSOを180uL加え、シクロスポリン1mmol/L溶液とした。
【0201】
次に、各種血清(マウス血清、ラット血清、イヌ血清、サル血清、ヒト血清)を融解させた。融解させた各種血清を採取し、それぞれに9倍量のリン酸緩衝生理食塩水及び1/1000倍量のシクロスポリン1mmol/L溶液を加え、血清濃度10%(体積比)、シクロスポリン濃度1μmol/L、DMSO濃度0.1%(体積比)となるドナー溶液を調製した。具体的に用いた各試料の量を下記表10に示す。
なお、シクロスポリン以外の用いた各試料は実施例1と同じである。
【0202】
【0203】
[アクセプター溶液の調製]
実施例1に記載方法と同様で実施した。
【0204】
[透析反応]
実施例1に記載方法と同様で実施した。
【0205】
[透析反応後のサンプリング]
実施例1に記載方法と同様で実施した。
【0206】
[サンプリングした試料の前処理]
実施例1に記載方法と同様で実施した。
【0207】
[LC-MS/MSによる測定対象物質の濃度測定]
前記LC-MS/MS用測定用試料それぞれについて、下記測定機器および測定条件を用い、各チャンバーに添加した溶液中におけるシクロスポリン濃度を測定した。複数のウェルで同一血清にて特定対象物質の濃度を測定している場合は、同一血清群の各ウェルで測定された濃度の平均値をfu比の算出に用いた。
【0208】
(測定機器)
LC:Waters Acquity UPLC
MS:Xevo TQ-S (Waters Corporation, Milford, Massachusetts)
カラム:YMC-Triart Bio C4, カラムサイズ2.1 x 30 mm, 粒子径1.9 μm, 細孔径30 nm
【0209】
(測定条件)
カラム温度:40℃(設定値)
溶媒:A) 0.1% ギ酸水溶液
B) 0.1% ギ酸アセトニトリル溶液
グラジエント条件:
【表11】
流速:0.6 mL/min
オートサンプラー温度:10℃(設定値)
注入量(Injection Volume):1 μL
検量線サンプルの作製:ニフェジピンの代わりにシクロスポリンを用いた以外は、実施例1に記載方法と同様で実施した。
検量線 1nmol/L、3nmol/L、10nmol/L、30nmol/L、100nmol/L、300nmol/L、1000nmol/L、3000nmol/L
【0210】
MS条件(設定値):ESI positive、Capillary (kV) 2.00、Cone (V) 25.00、Source Offset (V) 50.0、Source Temperature (°C) 150、Desolvation Temperature (°C) 600、Desolvation Gas Flow (L/Hr) 1000、Cone Gas Flow (L/Hr) 150、Collision Gas Flow (mL/Min) 0.20、
Nebuliser Gas Flow (Bar) 7.00
【表12】
【0211】
[動的解析によるfu比の取得]
実施例1と同様に動的解析を行うソフトウェア(「SimBiology(登録商標)/MATLAB、バージョン情報:9.7.0.1190202 (R2019b)」、The Math Works, Inc.社製)を用いて、得られた濃度推移をデータ入力し、下記条件により各パラメーターおよびfu比を算出した。
【0212】
動的解析に係る関係式は、実施例1に記載の式1から式3と同様である。式中の、各パラメーターはそれぞれ以下を表す。
V1:ドナー溶液の容積(固定値、3.5×10-4L)
V2:アクセプター溶液の容積(固定値、2.0×10-4L)
fu1:ドナー溶液に含まれる生物学的試料に対する測定対象物質のfu値(算出値)
fu2:アクセプター溶液に含まれる生物学的試料に対する測定対象物質のfu値(算出値)
C1:ドナー溶液中の測定対象物質(トータル濃度:結合型+非結合型測定対象物質の合計。ただし、平衡透析デバイスに吸着した測定対象物質は除く。)の濃度(測定値、nmol/L)
C2:アクセプター溶液中(トータル濃度:結合型+非結合型測定対象物質の合計。)の測定対象物質の濃度(測定値、nmol/L)
PS:測定対象物質の透析膜透過クリアランス(固定値、1.0×10-5L/h)
CLad:ドナー側チャンバーにおける測定対象物質の吸着クリアランス(変動値、L/h)
Koff:ドナー側チャンバーにおける測定対象物質の解離速度定数(変動値、h-1)
Xad:ドナー側チャンバーにおける測定対象物質の吸着量(変動値、nmol))
フィッティング:下記パラメーターを用いた以外は、実施例1に記載と同様パラメーターで実施した。
Estimated Parameters:
exp(fu1), InitialValue = 1, Bounds = [0.01 100];
exp(fu2), InitialValue = 1, Bounds = [0.01 100];
exp(Koff1), InitialValue = 1, Bounds = [0.01 1000000];
exp(Koff2), InitialValue = 1, Bounds = [0.01 1000000];
exp(CL1), InitialValue = 0.001, Bounds = [1e-07 0.1];
exp(CL2), InitialValue = 0.001, Bounds = [1e-07 0.1];
exp(Dose1), InitialValue = 0.2115, Bounds = [0.1 0.5];
exp(Dose2), InitialValue = 0.2114, Bounds = [0.1 0.5];
【0213】
上記の動的解析手法により算出した、測定対象物質(シクロスポリン)の各種に対するf
u比(/ヒト、血清濃度1/10、ヒト/ヒトは1.00とした)を表13に、また、透析反応開始時より0.5時間、2時間、4時間、16時間及び24時間を経過した時点における各チャンバーに添加した溶液中の測定対象物質の濃度プロット及びそれらのプロットに対する動的解析によるフィッティングカーブを
図5((1)から(4))に示す。
【0214】
【0215】
〔比較例2〕
静的解析による種差間の相対的なfu比の取得(測定対象物質:シクロスポリン)
実施例2と同様にドナー溶液(10%マウス、ラット、イヌ又はサル血清)およびアクセプター溶液(10%ヒト血清)を調製して透析反応を開始し、透析反応開始時より24時間を経過した時点における各チャンバーに添加した溶液中の測定対象物質の濃度を測定した。複数のウェルで同一血清にて特定対象物質の濃度を測定している場合は、同一血清群の各ウェルで測定された濃度の平均値をfu比の算出に用いた。得られたデータを下記式7に適用し、各種血清(マウス、ラット、イヌ又はサル)におけるシクロスポリンのfu比(対ヒト、ヒト/ヒトは1.00とした)を取得した。
【0216】
【0217】
【0218】
〔参考例2〕
静的解析(対バッファー)による種差間のf
u
比の取得(測定対象物質:シクロスポリン)
【0219】
[ドナー溶液の調製]
各種血清(マウス、ラット、イヌ、サル、ヒト)、リン酸緩衝生理食塩水及びシクロスポリン1mmol/L溶液の量を表15に示した量とした以外は、実施例2と同様の方法にて血清濃度10%(体積比)、シクロスポリン濃度1μmol/L、DMSO濃度0.1%(体積比)となるドナー溶液を調製した。
【0220】
【0221】
[アクセプター溶液の調製]
参考例1に記載方法と同様で実施した。
【0222】
[透析反応]
参考例1に記載方法と同様で実施した。
【0223】
[透析反応後のサンプリング]
参考例1に記載方法と同様で実施した。
【0224】
[サンプリングした試料の前処理及びLC-MS/MSによる測定対象物質の濃度測定]
実施例2に記載方法と同様で実施した。
【0225】
[各種におけるfu値を用いた種差間の相対的なfu比の算出]
参考例1に記載方法と同様で実施した。
【0226】
【0227】
〔実施例3〕
動的解析による種差間の相対的なf
u
比の取得(測定対象物質:イブプロフェン)
[ドナー溶液の調製]
まず、イブプロフェンを測定対象物質とし、10mmol/L溶液および1mmol/L溶液を調製した。具体的には、粉末イブプロフェン(「イブプロフェン」、富士フイルム和光純薬(株)社製、分子量206.28、CLogP:3.68)1.91mgに対して、ジメチルスルホキシド(DMSO)0.926mLを加え、イブプロフェン10mmol/L溶液とした。続けて、20uLのイブプロフェン10mmol/L溶液に対して、DMSOを180uL加え、イブプロフェン1mmol/L溶液とした。
【0228】
次に、各種血清(マウス血清、ラット血清、イヌ血清、サル血清、ヒト血清)を融解させた。融解させた各種血清を採取し、それぞれに9倍量のリン酸緩衝生理食塩水及び1/1000倍量のイブプロフェン1mmol/L溶液を加え、血清濃度10%(体積比)、イブプロフェン濃度1μmol/L、DMSO濃度0.1%(体積比)となるドナー溶液を調製した。具体的に用いた各試料の量を下記表17に示す。
【0229】
なお、イブプロフェン以外の用いた各試料は実施例1と同じである。
【表17】
【0230】
[アクセプター溶液の調製]
実施例1に記載方法と同様で実施した。
【0231】
[透析反応]
実施例1に記載方法と同様で実施した。
【0232】
[透析反応後のサンプリング]
実施例1に記載方法と同様で実施した。
【0233】
[サンプリングした試料の前処理]
実施例1に記載方法と同様で実施した。
【0234】
[LC-MS/MSによる測定対象物質の濃度測定]
前記LC-MS/MS用測定用試料それぞれについて、下記測定機器および測定条件を用い、各チャンバーに添加した溶液中におけるイブプロフェン濃度を測定した。実施例1と同様に、複数のウェルで同一血清にて特定対象物質の濃度を測定している場合は、同一血清群の各ウェルで測定された濃度の平均値をfu比の算出に用いた。 (測定機器)
LC:Waters Acquity UPLC
MS:Xevo TQ-S (Waters Corporation, Milford, Massachusetts)
カラム:YMC-Triart C18 column, カラムサイズ2.0 x 30 mm, 粒子径1.9 μm, 細孔径12 nm
(測定条件)
カラム温度:50°C(設定値)
溶媒:
A) 10mmol/L ギ酸アンモニウム水溶液(水: ギ酸アンモニウム溶液 1mol/L、1000ml:10ml)
B) 10mmol/L ギ酸アンモニウムMeOH溶液(MeOH: ギ酸アンモニウム溶液 1mol/L、 1000ml:10ml)
【0235】
【0236】
流速:0.6 mL/min
オートサンプラー温度:10℃(設定値)
Injection Volume:10 μL
【0237】
検量線サンプルの作製:DMSOに溶解させたイブプロフェン1mmol/L溶液10μLに対し、DMSOを90μL加え、イブプロフェン100μmol/L溶液とし、イブプロフェン100μmol/L溶液を基に、下記(1)-(9)の希釈系列およびBLANK溶液を作製した。
【0238】
[(1)イブプロフェン100μmol/L溶液24μLに対し、DMSOを376μL加え、イブプロフェン6000nmol/L溶液とした。
(2)イブプロフェン6000nmol/L溶液240μLに対し、DMSOを240μL加え、イブプロフェン3000nmol/L溶液とした。
(3)イブプロフェン3000nmol/L溶液240μLに対し、DMSOを120μL加え、イブプロフェン2000nmol/L溶液とした。
(4)イブプロフェン2000nmol/L溶液120μLに対し、DMSOを280μL加え、イブプロフェン600nmol/L溶液とした。
(5)イブプロフェン600nmol/L溶液240μLに対し、DMSOを240μL加え、イブプロフェン300nmol/L溶液とした。
(6)イブプロフェン300nmol/L溶液240μLに対し、DMSOを120μL加え、イブプロフェン200nmol/L溶液とした。
(7)イブプロフェン200nmol/L溶液120μLに対し、DMSOを280μL加え、イブプロフェン60nmol/L溶液とした。
(8)イブプロフェン60nmol/L溶液240μLに対し、DMSOを240μL加え、イブプロフェン30nmol/L溶液とした。
(9)イブプロフェン30nmol/L溶液240μLに対し、DMSOを120μL加え、イブプロフェン20nmol/L溶液とした。DMSO200μLをBLANK用溶液とした]。
【0239】
(1)-(9)の希釈系列およびBLANK溶液それぞれ10μLについて、20μLのマトリックス溶液(動物あるいはヒト血清/PBS/DMSO=10/90/0.1、体積比)、さらに170μLのクエンチ溶液2[メタノール/アセトニトリル=1/1溶液80mLに対して、80μLのインドメタシン溶液(濃度200μg/mL)を加えた溶液]を加え、検量線サンプルとした。検量線サンプルはサンプリングした試料と同様の方法で前処理をした。また、(1)-(9)の希釈系列は、実サンプルを基準とすると濃度が2倍になるように調整されているため、希釈系列で調整した濃度を半量として補正することで、検量線サンプルの濃度とした。
【0240】
検量線サンプルの濃度:(9)10nmol/L、(8)15nmol/L、(7)30nmol/L、(6)100nmol/L、(5)150nmol/L、(4)300nmol/L、(3)1000nmol/L、(2)1500nmol/L、(1)3000nmol/L
検量線 10nmol/L、15nmol/L、30nmol/L、100nmol/L、150nmol/L、300nmol/L、1000nmol/L、1500nmol/L、3000nmol/L
【0241】
MS条件(設定値):(ESI negative)、Capillary (kV) 2.00、Cone (V) 25.00、Source Offset (V) 50.0、Source Temperature (°C) 150、Desolvation Temperature (°C) 600、Desolvation Gas Flow (L/Hr) 1000、Cone Gas Flow (L/Hr) 150、Collision Gas Flow (mL/Min) 0.20、
Nebuliser Gas Flow (Bar) 7.00
【0242】
【0243】
[動的解析によるfu比の取得]
実施例1に記載の方法でイブプロフェンのfu比を求めた。マウス対ヒトについては、マウスアクセプターの濃度がLLOQ以下で検出できなかったため、ヒトドナー→マウスアクセプターの測定結果は解析に用いず、マウスドナー→ヒトアクセプターの測定結果、すなわち片方向の解析のみでfu比を求めた。
【0244】
フィッティング(ヒト対マウス):
ヒト対マウスの場合、Fit Data(SimBiologyModel Analyzer, Program)のデフォルト設定に下記条件を記載し、実施した。
【0245】
Definition:
一つ目の生物学的試料がマウス、2つ目の生物学的試料がヒトである場合、以下2つのデータを一組として解析に用いた。
データ1(Eq1.Ca1):ドナー溶液にマウス血清、アクセプター溶液にヒト血清が含まれる平衡透析系におけるアクセプター溶液中の測定対象物質の濃度
データ2(Eq1.Cd1):ドナー溶液にマウス血清、アクセプター溶液にヒト血清が含まれる平衡透析系におけるドナー溶液中の測定対象物質の濃度
【0246】
Estimated Parameters:
exp(fu1), InitialValue = 1, Bounds = [0.01 100];
exp(fu2), InitialValue = 1, Bounds = [0.01 100];
exp(Koff1), InitialValue = 1, Bounds = [0.01 1000000];
exp(CL1), InitialValue = 0.001, Bounds = [1e-07 0.1];
exp(Dose1), InitialValue = 0.2115, Bounds = [0.1 0.5];
Pooled fit, true
【0247】
その他設定値:実施例1と同様とした。
【0248】
フィッティング(ヒト対ラット、ヒト対イヌ、ヒト対サル):
ヒト対ラット、ヒト対イヌ、ヒト対サルの場合、下記パラメーターを用いた以外は、実施例1に記載と同様パラメーターで実施した。
Estimated Parameters:
exp(fu1), InitialValue = 1, Bounds = [0.01 100];
exp(fu2), InitialValue = 1, Bounds = [0.01 100];
exp(Koff1), InitialValue = 1, Bounds = [0.01 1000000];
exp(Koff2), InitialValue = 1, Bounds = [0.01 1000000];
exp(CL1), InitialValue = 0.001, Bounds = [1e-07 0.1];
exp(CL2), InitialValue = 0.001, Bounds = [1e-07 0.1];
exp(Dose1), InitialValue = 0.2115, Bounds = [0.1 0.5];
exp(Dose2), InitialValue = 0.2114, Bounds = [0.1 0.5];
【0249】
上記の動的解析手法により算出した、測定対象物質(イブプロフェン)の各種に対するf
u比(/ヒト、血清濃度1/10、ヒト/ヒトは1.00とした)を表20に、また、透析反応開始時より0.5時間、2時間、4時間、16時間及び24時間を経過した時点における各チャンバーに添加した溶液中の測定対象物質の濃度プロット及びそれらのプロットに対する動的解析によるフィッティングカーブを
図6((1)から(4))に示す。
【0250】
【0251】
〔比較例3〕
静的解析による種差間の相対的なfu比の取得(測定対象物質:イブプロフェン)
実施例3と同様にドナー溶液(10%マウス、ラット、イヌ又はサル血清)およびアクセプター溶液(10%ヒト血清)を調製して透析反応を開始し、透析反応開始時より24時間を経過した時点における各チャンバーに添加した溶液中の測定対象物質の濃度を測定した。複数のウェルで同一血清にて特定対象物質の濃度を測定している場合は、同一血清群の各ウェルで測定された濃度の平均値をfu比の算出に用いた。得られたデータを下記式8に適用し、各種血清(マウス、ラット、イヌ又はサル)におけるイブプロフェンのfu比(対ヒト、ヒト/ヒトは1.00とした)を取得した。
【0252】
【0253】
【0254】
〔参考例3〕
静的解析(対バッファー)による種差間のf
u
比の取得(測定対象物質:イブプロフェン)
[ドナー溶液の調製]
各種血清(マウス、ラット、イヌ、サル、ヒト)、リン酸緩衝生理食塩水及びイブプロフェン1mmol/L溶液の量を表22に示した量とした以外は、実施例2と同様の方法にて血清濃度10%(体積比)、イブプロフェン濃度1μmol/L、DMSO濃度0.1%(体積比)となるドナー溶液を調製した。
【0255】
【0256】
[アクセプター溶液の調製]
参考例1に記載方法と同様で実施した。
【0257】
[透析反応]
参考例1に記載方法と同様で実施した。
【0258】
[透析反応後のサンプリング]
参考例1に記載方法と同様で実施した。
【0259】
[サンプリングした試料の前処理及びLC-MS/MSによる測定対象物質の濃度測定]
実施例3に記載方法と同様で実施した。
【0260】
[各種におけるfu値を用いた種差間の相対的なfu比の算出]
参考例1に記載方法と同様で実施した。
【0261】
【0262】
〔実施例1から3、比較例1から3及び参考例1から3で取得した種差間の相対的なf
u
比の比較〕
実施例1、比較例1及び参考例1、実施例2、比較例2及び参考例2並びに実施例3、比較例3及び参考例3で取得した種差間の相対的なf
u比をそれぞれ比較したところ、
図7から
図12にそれぞれ示した通りの結果となった。
【0263】
このことから、本発明の方法による相対f
u比(ドナー溶液及びアクセプター溶液に任意の種に由来する血清をそれぞれ加え、透析反応開始時から24時間経過するまで透析反応を行い、その時点までの濃度推移から動的解析により取得する種差間f
u比)と、参考例で示した従来の公知方法で求めたf
u比(ドナー溶液に任意の種に由来する血清を加え、アクセプター溶液としてリン酸緩衝生理食塩水を用い、透析反応開始時から24時間経過するまで透析反応を行い、その時点における濃度比で求めたf
u値を用いて、動物とヒトのf
u比を計算した数値)とは、誤差2倍の範囲内に各化合物全てのプロットが入っていた。絶対平均誤差(Absolute average fold errors, AAFE)はニフェジピンで1.16倍、シクロスポリンで1.46倍、イブプロフェンで1.22倍を示すことが確認された。(
図7、
図8、
図9)
【0264】
一方、比較例の方法によるf
u比(ドナー溶液及びアクセプター溶液に任意の種に由来する血清をそれぞれ加え、透析反応開始時から24時間経過するまで透析反応を行い、その時点における濃度比で求めた動物とヒトのf
u比)と参考例で示した従来の公知方法で求めたf
u比の相関は、誤差2倍の範囲内にニフェジピンにおいて5プロット中5プロット、シクロスポリンで5プロット中1プロット、イブプロフェンで5プロット中3プロットが入っていた。絶対平均誤差はニフェジピンで1.08倍、シクロスポリンで3.16倍、イブプロフェンで1.90倍を示すことが確認された。(
図10、
図11、
図12)すなわち、平衡状態達成が比較的短時間であるニフェジピンでは、従来方法と本発明による相対f
u比とで優劣は認められなかったが、平衡状態達成が困難なシクロスポリン、イブプロフェンにおいては、従来方法(静的解析)で求めたf
u比の精度は、本発明の方法(動的解析)による相対f
u比と参考例で示した従来の公知方法で求めたf
u比の精度と比べて、劣っていた。
【0265】
従って、本発明の方法を用いることにより、平衡状態に達しにくい測定対象物質についても、従来の公知方法によるfu比と良好な相関を示す相対fu比を、平衡状態に達することを待たずに(すなわち、より短時間で)取得することが可能になることが分かる。
【0266】
〔実施例4~13〕
動的解析による種差間の相対的なf
u
比の取得(測定対象物質:アスナプレビル・アパルタミド・エルバスビル・デュタステリド・デフェラシロクス・アリピプラゾール・ベクラブビル・ロミタピド・イブルチニブ・モテルカスト)
【0267】
[ドナー(Donor)溶液の調製]
アスナプレビル・アパルタミド・エルバスビル・デュタステリド・デフェラシロクス・アリピプラゾール・ベクラブビル・ロミタピド・イブルチニブ・モテルカストを測定対象物質とし、それぞれ10mmol/L溶液を調製した。具体的に用いた各試料及びその量を下記表24に示す。
【0268】
【0269】
次に、各測定対象物質1mmol/L溶液を調製した。具体的には、各測定対象物質を含む10mmol/L溶液10μLに対して、DMSOを90μL加えて調製した。
【0270】
次に、各種血清(ラット血清、ヒト血清)を融解させた。融解させた各種血清を採取し、それぞれに9倍量のリン酸緩衝生理食塩水を加え、その溶液に対して1/5000倍量のアスナプレビル1mmol/L溶液、1/5000倍量のアパルタミド1mmol/L溶液、1/5000倍量のエルバスビル1mmol/L溶液、1/5000倍量のデュタステリド1mmol/L溶液、及び1/5000倍量のデフェラシロクス1mmol/L溶液を加えた。また、別の各種血清を採取し、それぞれに9倍量のリン酸緩衝生理食塩水を加え、その溶液に対して、1/5000倍量のアリピプラゾール1mmol/L溶液、1/5000倍量のベクラブビル1mmol/L溶液、1/5000倍量のロミタピド1mmol/L溶液、1/5000倍量のイブルチニブ1mmol/L溶液及び1/5000倍量のモテルカスト1mmol/L溶液をそれぞれ加えた。このようにして、血清濃度10%(体積比)、DMSO濃度0.1%(体積比)、アスナプレビル、アパルタミド、エルバスビル、デュタステリド、及びデフェラシロクスの濃度がそれぞれ0.2μmol/Lずつ又はアリピプラゾール、ベクラブビル、ロミタピド、イブルチニブ、及びモテルカストの濃度がそれぞれ0.2μmol/Lずつとなるドナー溶液を調製した。具体的に用いた各試料の量を下記表25及び下記表26に示す。
なお、ニフェジピン以外の用いた各試料は実施例1と同じである。
【0271】
【0272】
【0273】
[アクセプター(Acceptor)溶液の調製]
各測定対象物質を含む1mmol/L溶液の代わりにDMSO溶液を加えたこと以外は、ドナー溶液と同様の手順で血清濃度10%(体積比)、DMSO濃度0.1%(体積比)となるアクセプター溶液を調製した。
【0274】
[透析反応]
測定物質をニフェジピンから実施例4~13の各測定対象物質に変更した以外は、実施例1と同様の方法で実施した。各チャンバーに分注したドナー溶液又はアクセプター溶液を下記表27に示す。
【0275】
表27は、ラット血清をドナー側とし、ヒト血清をアクセプター側とした場合(試験AからC;同一条件)、及びヒト血清をドナー側とし、ラット血清をアクセプター側とした場合(試験DからF:同一条件)の合計6つについて、それぞれ0.5時間、2時間、4時間、20時間および24時間の時点で測定を実施したことを示す。
【0276】
(表27)ラット/ヒト血清を用いたチャンバーパターン
【0277】
[透析反応後のサンプリング]
採取したドナー溶液及びアクセプター溶液は、クエンチ溶液を用いずに密封し、各試料を前処理に供するまで-80℃で保存した以外は、実施例1と同様の方法で実施した。
【0278】
[サンプリングした試料の前処理]
サンプリング後の試料20μLに対して、DMSOを5μL、IS溶液を100μL加え、それぞれフィルタープレート(「Multi Screen Filter Plates 0.45um,Low Binding」、MILLIPORE社製)に移し、フィルターろ過を行った。ろ過後の試料に水50μL加え、LC-MS/MS用測定用試料とした。IS溶液の組成は下記表28の通りである。
【0279】
【0280】
[LC-MS/MSによる測定対象物質の濃度測定]
前記LC-MS/MS用測定用試料それぞれについて、下記測定機器および測定条件を用い、各チャンバーにおける各測定対象物質の濃度を測定した。複数のウェルで同一血清にて特定対象物質の濃度を測定している場合は、同一血清群の各ウェルで測定された濃度の平均値をfu比の算出に用いた。
【0281】
(測定機器)
LC:Nexera (SHIMADZU)
MS:QTRAP 6500 (Sciex)
カラム:InertSustain C18 HP 3um, 2.1 x 30 mm (UP)
【0282】
(測定条件)
カラム温度:40℃(設定値)
溶媒:A) 0.1% ギ酸水溶液
B) 0.1% ギ酸アセトニトリル溶液
グラジエント条件:
【表29】
流速:0.6 mL/min
オートサンプラー温度:4℃(設定値)
注入量(Injection Volume):実施例4~8の場合は2μL、実施例9~13の場合は1μL)
【0283】
[検量線試料の作製および前処理]
ラット血清又はヒト血清50μLに対してPBSを450μL加え、10%血清(ブランクマトリックス)とし、そのブランクマトリックス20μLに対して、DMSOに溶解させた検量線サンプルの溶液を5μL、IS溶液を100μL加え、それぞれフィルタープレート(「Multi Screen Filter Plates 0.45um,Low Binding」、MILLIPORE社製)に移し、フィルターろ過を行った。ろ過後の試料に水50μL加え、LC-MS/MS用測定用試料とした。検量線用ワーキング溶液は、下記の通り作製した。検量線サンプルの溶液5μLの代わりに、DMSOを5μL加えたサンプルをBLANKサンプルとした。
【0284】
検量線サンプルの溶液作製:DMSO190μLに対して、DMSOに溶解させたアスナプレビル、アパルタミド、エルバスビル、デュタステリド、およびデフェラシロクス10mmol/L溶液を各2μL加え、計200μLとし、各測定対象物質の濃度が100μmol/Lである溶液とした、下記(1)-(8)の希釈系列を作製した。
【0285】
[(1)各測定対象物質100μmol/L溶液60μLに対し、DMSOを90μL加え、化合物40000nmol/L溶液とした。
(2) 各測定対象物質40000nmol/L溶液60μLに対し、DMSOを140μL加え、化合物12000nmol/L溶液とした。
(3) 各測定対象物質12000nmol/L溶液60μLに対し、DMSOを120μL加え、化合物4000nmol/L溶液とした。
(4) 各測定対象物質4000nmol/L溶液60μLに対し、DMSOを140μL加え、化合物1200nmol/L溶液とした。
(5) 各測定対象物質1200nmol/L溶液60μLに対し、DMSOを120μL加え、化合物400nmol/L溶液とした。
(6) 各測定対象物質400nmol/L溶液60μLに対し、DMSOを140μL加え、化合物120nmol/L溶液とした。
(7) 各測定対象物質120nmol/L溶液60μLに対し、DMSOを120μL加え、化合物40nmol/L溶液とした。
(8) 各測定対象物質40nmol/L溶液60μLに対し、DMSOを140μL加え、化合物12nmol/L溶液とした。]
(1)-(8)の希釈系列は、実サンプルを基準とすると濃度が4倍になるように調整されているため、希釈系列で調整した濃度を1/4倍量として補正することで、検量線サンプルの濃度とした。
検量線サンプルの濃度:(8)3nM、(7)10nM、(6)30nM、(5)100nM、(4)300nM、(3)1000nM、(2)3000nM
【0286】
DMSO190μLに対して、DMSOに溶解させたアリピプラゾール、ベクラブビル、ロミタピド、イブルチニブ、およびモテルカスト10mmol/L溶液を各2μL加え、計200μLとし、各測定対象物質の濃度が100μmol/Lである溶液とした。下記(1)-(8)の希釈系列を作製した。
【0287】
[(1)各測定対象物質100μmol/L溶液6μLに対し、DMSOを144μL加え、化合物4000nmol/L溶液とした。
(2) 各測定対象物質4000nmol/L溶液60μLに対し、DMSOを140μL加え、化合物1200nmol/L溶液とした。
(3) 各測定対象物質1200nmol/L溶液60μLに対し、DMSOを120μL加え、化合物400nmol/L溶液とした。
(4) 各測定対象物質400nmol/L溶液60μLに対し、DMSOを140μL加え、化合物120nmol/L溶液とした。
(5) 各測定対象物質120nmol/L溶液60μLに対し、DMSOを120μL加え、化合物40nmol/L溶液とした。
(6) 各測定対象物質40nmol/L溶液60μLに対し、DMSOを140μL加え、化合物12nmol/L溶液とした。
(7) 各測定対象物質12nmol/L溶液60μLに対し、DMSOを120μL加え、化合物4nmol/L溶液とした。
(8) 各測定対象物質4nmol/L溶液60μLに対し、DMSOを140μL加え、化合物1.2nmol/L溶液とした。]
(1)-(8)の希釈系列は、実サンプルを基準とすると濃度が4倍になるように調整されているため、希釈系列で調整した濃度を1/4倍量として補正することで、検量線サンプルの濃度とした。
検量線サンプルの濃度:(8)0.3nM、(7)1nM、(6)3nM、(5)10nM、(4)30nM、(3)100nM、(2)300nM
【0288】
【0289】
表30において、DPはdeclustering potentialであり、CEはcollision energyであり、CEPはcollision entrance potentialである。
【0290】
MS条件:(ESI positive)Curtain Gas TM flow (CUR) 30, IonSpray TM Voltage (IS) 5500, Temperature (TEM) 650, Ion Source Gas 1 (GS1) 20, Ion Source Gas 2 (GS2) 20
【0291】
[動的解析によるfu比の取得]
以下に示す条件を変更した以外は、実施例1と同様の方法でラット-ヒト間のfu比を算出した。
【0292】
Definition
一つ目の生物学的試料がラット、2つ目の生物学的試料がヒトである場合、以下4つのデータを一組として解析に用いた。
データ1(Eq1.Cd1):ドナー溶液にラット血清、アクセプター溶液にヒト血清が含まれる平衡透析系におけるドナー溶液中の測定対象物質の濃度
データ2(Eq1.Ca1):ドナー溶液にラット血清、アクセプター溶液にヒト血清が含まれる平衡透析系におけるアクセプター溶液中の測定対象物質の濃度
データ3(Eq2.Cd2):ドナー溶液にヒト血清、アクセプター溶液にラット血清が含まれる平衡透析系におけるドナー溶液中の測定対象物質の濃度
データ4(Eq2.Ca2): ドナー溶液にヒト血清、アクセプター溶液にラット血清が含まれる平衡透析系におけるアクセプター溶液中の測定対象物質の濃度
【0293】
Estimated Parameters:
exp(fu1).InitialValue = 0.01; Bounds = [1e-05 1];
exp(fu2).InitialValue = 0.01; Bounds = [1e-05 1];
exp(Koff1).InitialValue = 1; Bounds = [1e-05 10000];
exp(Koff2).InitialValue = 1; Bounds = [1e-05 10000];
exp(CL1).InitialValue = 0.001; Bounds = [1e-07 100];
exp(CL2).InitialValue = 0.001; Bounds = [1e-07 100];
exp(Dose1).InitialValue = 0.2115; Bounds = [0.01 0.3];
exp(Dose2).InitialValue = 0.2114; Bounds = [0.01 0.3];
【0294】
【0295】
〔比較例4~13〕
静的解析による種差間の相対的なfu比の取得(測定対象物質:実施例4~13と同じ)
実施例4~13と同様にドナー溶液およびアクセプター溶液を調製して透析反応を開始し、透析反応開始時より24時間を経過した時点における各チャンバーに添加した溶液中の測定対象物質の濃度を測定した。複数のウェルで同一血清にて特定対象物質の濃度を測定している場合は、同一血清群の各ウェルで測定された濃度の平均値をfu比の算出に用いた。得られたデータを比較例1の式4に適用し、測定対象物質の各種に対するfu比(ラット/ヒト、血清濃度1/10)を取得した。
【0296】
【0297】
〔参考例4~13〕
静的解析(対バッファー)における種差間のf
u
比の取得(測定対象物質:実施例4~13と同じ)
[ドナー(Donor)溶液の調製]
アスナプレビル・アパルタミド・エルバスビル・デュタステリド・デフェラシロクス・アリピプラゾール・ベクラブビル・ロミタピド・イブルチニブ・モテルカストを測定対象物質とし、それぞれ10mmol/L溶液を調製した。具体的に用いた各試料及びその量を下記表33に示す。
【0298】
【0299】
次に、測定対象物質のカクテル溶液を調製した。具体的には、アスナプレビル10mmol/L溶液2μL、アパルタミド10mmol/L溶液2μL、エルバスビル10mmol/L溶液2μL、デュタステリド10mmol/L溶液2μL、及びデフェラシロクス10mmol/L溶液2μLを、DMSO90μLに混合し、計100μLのカクテル溶液として調製した。また、アリピプラゾール10mmol/L溶液2μL、ベクラブビル10mmol/L溶液2μL、ロミタピド10mmol/L溶液2μL、イブルチニブ10mmol/L溶液2μL、及びモテルカスト10mmol/L溶液2μLを、DMSO90μLに混合し、計100μLのカクテル溶液として調製した。
【0300】
次に、各種血清(ラット血清、ヒト血清)を融解させた。融解させた各種血清を採取し、それぞれに9倍量のリン酸緩衝生理食塩水を加え、その溶液に対してアスナプレビル、アパルタミド、エルバスビル、デュタステリド、及びデフェラシロクスの濃度がそれぞれ0.2μmol/Lずつ含まれるカクテル溶液を1/1000倍量、又はアリピプラゾール、ベクラブビル、ロミタピド、イブルチニブ、及びモテルカストの濃度がそれぞれ0.2μmol/Lずつ含まれるカクテル溶液を1/1000倍量加え、ドナー溶液を調製した。具体的に用いた各試料の量を下記表34及び下記表35に示す。なお、ニフェジピン以外の用いた各試料は実施例1と同じである。
【0301】
【0302】
【0303】
[アクセプター(Acceptor)溶液の調製]
実施例4~13と同様の手順でDMSO濃度0.1%(体積比)となるアクセプター溶液を調製した。
【0304】
[透析反応]
ドナー溶液を参考例4~13で作製したドナー溶液に変更し、かつ下記条件で実施した以外は、参考例1と同様の手法で、各測定対象物質におけるラット/ヒトのfu値を取得した。
【0305】
表36は、ラット血清若しくはヒト血清をドナー側とし、リン酸緩衝生理食塩水をアクセプター側とした場合(試験AからC;同一条件)の合計6つについて、それぞれ24時間の時点で測定を実施したことを示す。
【0306】
【0307】
[透析反応後のサンプリング]
実施例4~13と同様の手順にて実施した。
【0308】
[サンプリングした試料の前処理]
サンプリング後の試料20μLに対して、DMSOを10μL、IS溶液を100μL加え、それぞれフィルタープレート(「Multi Screen Filter Plates 0.45um,Low Binding」、MILLIPORE社製)に移し、フィルターろ過を行った。ろ過後の試料に水70μL加え、LC-MS/MS用測定用試料とした。IS溶液の組成は下記表37の通りである。
【0309】
【0310】
検量線サンプルの作製:DMSOに溶解させたアスナプレビル・アパルタミド・エルバスビル・デュタステリド・デフェラシロクス混合溶液(各0.2mmol/L)1μLに対し、DMSOを99μL加え、化合物2μmol/L混合溶液とした。DMSOに溶解させたアリピプラゾール・ベクラブビル・ロミタピド・イブルチニブ・モテルカスト混合溶液(各0.2mmol/L)1μLに対し、DMSOを99μL加え、化合物2μmol/L混合溶液とした。下記(1)-(8)の希釈系列およびBLANK溶液を作製した。
【0311】
[(1)各測定対象物質2μmol/L溶液60μLに対し、DMSOを40μL加え、化合物1200nmol/L溶液とした。
(2) 各測定対象物質1200nmol/L溶液60μLに対し、DMSOを120μL加え、化合物400nmol/L溶液とした。
(3) 各測定対象物質400nmol/L溶液60μLに対し、DMSOを140μL加え、化合物120nmol/L溶液とした。
(4) 各測定対象物質120nmol/L溶液60μLに対し、DMSOを120μL加え、化合物40nmol/L溶液とした。
(5) 各測定対象物質40nmol/L溶液60μLに対し、DMSOを140μL加え、化合物12nmol/L溶液とした。
(6) 各測定対象物質12nmol/L溶液60μLに対し、DMSOを120μL加え、化合物4nmol/L溶液とした。
(7) 各測定対象物質4nmol/L溶液60μLに対し、DMSOを140μL加え、化合物1.2nmol/L溶液とした。
(8) 各測定対象物質1.2nmol/L溶液60μLに対し、DMSOを120μL加え、化合物0.4nmol/L溶液とした。]
【0312】
(1)-(8)の希釈系列は、実サンプルを基準とすると濃度が2倍になるように調整されているため、希釈系列で調整した濃度を1/2倍量として補正することで、検量線サンプルの濃度とした。
【0313】
検量線サンプルの濃度:(8)0.2nM (8)0.6nM、(7)2nM、(6)6nM、(5)20nM、(4)60nM、(3)200nM、(2)600nM
【0314】
[LC-MS/MSによる測定対象物質の濃度測定]
前記LC-MS/MS用測定用試料それぞれについて、下記測定機器および測定条件を用い、各チャンバーにおけるアパルタミド、エルバスビル、デュタステリド、及びデフェラシロクスの濃度、並びにアリピプラゾール、ベクラブビル、ロミタピド、イブルチニブ及びモテルカスト濃度を測定した。複数のウェルで同一血清にて特定対象物質の濃度を測定している場合は、同一血清群の各ウェルで測定された濃度の平均値をfu比の算出に用いた。
【0315】
(測定機器)
LC:Waters Acquity UPLC
MS:XEVO-TQS#WAA696 (Waters Corporation, Milford, Massachusetts)
カラム:YMC-Triart C18 column, 30 x 2.0 mm ID, S-1.9 um, 12 nm
【0316】
(測定条件)
カラム温度:40℃(設定値)
溶媒:A) 0.1% ギ酸水溶液
B) 0.1% ギ酸アセトニトリル溶液
グラジエント条件:
【表38】
流速:0.6 mL/min
オートサンプラー温度:10℃(設定値)
注入量(Injection Volume):1μL(参考例5、7~13), 1.5μL(参考例6)
【0317】
[LC-MS/MSによる測定対象物質の濃度測定]
前記LC-MS/MS用測定用試料それぞれについて、下記測定機器および測定条件を用い、各チャンバーにおけるアスナプレビルの濃度を測定した。
【0318】
(測定機器)
LC:Waters Acquity UPLC
MS:XEVO-TQS#WAA696 (Waters Corporation, Milford, Massachusetts)
カラム:YMC-Triart Bio C4, 30 x 2.1 mm ID, S-1.9 um, 30 nm
【0319】
(測定条件)
カラム温度:40℃(設定値)
溶媒:A) 0.1% ギ酸水溶液
B) 0.1% ギ酸アセトニトリル溶液
グラジエント条件:
【表39】
流速:0.6 mL/min
オートサンプラー温度:10℃(設定値)
注入量(Injection Volume):1μL
【0320】
【0321】
MS条件:
ESI positive
Capillary 2 kV, Cone 25 V, Source Offset 50 V, Source Temperature 150 ℃, Desolvation Temperature 600 ℃, Cone Gas Flow 150 L/Hr, Collision Gas Flow 0.2 mL/min, Nebuliser Gas Flow 7 Bar
【0322】
得られた各測定対象物質のf
u比(ラット/ヒト)の結果を下記に示す。
【表41】
【0323】
〔評価例1〕
薬物のヒト分布容積の予測方法
上記実施例1~13、比較例1~13及び参考例1~13で求めたfu比を用い、ヒトにおける分布容積を予測した。
【0324】
「分布容積」(V)は、血液または血漿中と同じ濃度で、体内に投与薬物の総量を含有するために必要とされる理論上の液体量を意味し、分布容積=体内薬物量/血中濃度(例えば、L)で表される。
【0325】
ヒト分布容積を予測する方法を適用し(非特許文献7:Berry, L. M., et al. (2011). "Species differences in distribution and prediction of human V(ss) from preclinical data." Drug Metab Dispos 39(11): 2103-2116.)、体重当たりの定常状態分布容積(ラット)に対して、前記方法により得られた薬物のfu比(ラット/ヒト)を除することで、体重当たりのヒト分布容積の予測値を求めた。得られた予測値をヒト分布容積の観測値と比較することで、予測精度の検証を行った。
【0326】
分布容積の予測式
Vsshuman(予測値)= Vssrat / Rfu
Vssrat:ラットにおける体重当たりの定常状態分布容積(Vss [L/kg])
Rfu:相対fu比(rat/human))
【0327】
下記希釈の式を用いて参考例4~13で得られた希釈によるfu値(ラット、血清濃度1/10)、fu値(ヒト、血清濃度1/10)を血清濃度1/1となるよう補正し、ラット又はヒトにおいてfu値が0.01以下を示す化合物(すなわち、平衡状態が得られにくい化合物)について、分布容積予測に用いることとした。
【0328】
式中、Dは希釈率を示し、今回は10倍希釈の血清を用いているため、D=10である。
【0329】
上記希釈の式は、下記の文献を参照した。
非特許文献8:Riccardi K, Cawley S, Yates PD, et al. Plasma protein binding of challenging compounds. J Pharm Sci. 2015;104:2627-2636.
非特許文献9:Kalvass JC, Maurer TS. Influence of nonspecific brain and plasma binding on CNS exposure: implications for rational drug discovery. Biopharm Drug Dispos. 2002;23:327-338.
【0330】
【0331】
表42の結果から、アスナプレビル、エルバスビル、デュタステリド、デフェラシロクス、アリピプラゾール、ベクラブビル、ロミタピド、イブルチニブについて、ラット又はヒトにおいてf
u値が0.01以下を示す化合物とし、これらのうちラットおよびヒトの分布容積の観測値が取得されている化合物について、相対f
u比を用いて分布容積予測を実施した。また、これらに加えて、同じくラット又はヒトにおいてf
u値が0.01以下を示す化合物である実施例1及び3、比較例1及び3、並びに参考例1及び3で用いたニフェジピン及びイブプロフェンの相対f
u比も用いた。予測で得られた定常状態分布容積(Vdss、Vss)の結果を下記表43、表44、および
図13-1~
図13-3に示す。
【0332】
【0333】
【0334】
本発明の方法による相対f
u比(ドナー側チャンバー及びアクセプター側チャンバーに任意の種に由来する血清をそれぞれ加え、透析反応開始時から24時間経過するまで透析反応を行い、その時点までの濃度推移から動的解析により取得する種差間f
u比)では、誤差1.25倍の範囲内に分布容積予測で67%、誤差1.5倍の範囲内に分布容積予測で67%が入っていた。絶対平均誤差(Absolute average fold errors, AAFE)は分布容積予測で1.61倍だった。(
図13-1)。
【0335】
比較例の方法によるfu比(ドナー側チャンバー及びアクセプター側チャンバーに任意の種に由来する血清をそれぞれ加え、透析反応開始時から24時間経過するまで透析反応を行い、24時間経過時点における濃度比で求めたfu値を用いて、動物とヒトのfu比を計算した数値)では、誤差1.25倍の範囲内に分布容積予測で22%、誤差1.5倍の範囲内に分布容積予測で33%が入っていた。AAFEは2.38倍だった。(
図13-2)。
【0336】
参考例で示した従来の公知方法で求めたfu比では、誤差1.25倍の範囲内に分布容積予測で11%、誤差1.5倍の範囲内に分布容積予測で56%、AAFEは1.68倍だった。(
図13-3)
【0337】
本発明の方法(動的解析)で求めた相対fu比を用いた分布容積予測の精度は、比較例で示した分布容積予測の精度に対して、誤差1.25倍、誤差1.5倍範囲内、AAFEのそれぞれについて予測精度が優れていた。すなわち、本発明の方法を用いることにより、平衡状態に達しにくい測定対象物質についても精度良く相対fu比を取得でき、分布容積予測に活用できることが分かる。加えて、参考例(対バッファー)の手法は、各化合物について血清およびバッファーチャンバー中の化合物濃度が平衡状態に近い時点を事前検討により探索する必要があるが、本発明の方法(動的解析)ではその必要はなく、より実用性の高い手法と考えられる。
【0338】
〔実施例14~20〕
動的解析による同一種(ヒト)・異なる生体試料間(血清・肝ミクロソーム)の相対的なf
u
比の取得(測定対象物質:アリピプラゾール、デフェラシロクス、ラパチニブ、ティカグレラ、ケトコナゾール、イトラコナゾール、RG12525)
本発明の方法は、異種血清同士の比較のみならず、同一種における異なる生体試料同士のfu比に用いた例として、血清vs肝ミクロソームのタンパク非結合型分率の比(fu血清vsfu micの比)の取得が可能である。fu比(fu血清vsfu micの比)、測定および解析対象物質は、アリピプラゾール・デフェラシロクス・ラパチニブ・ティカグレラ・ケトコナゾール・イトラコナゾール・RG12525とした。これらは、肝薬物代謝酵素であるCYP3A4を競合的に阻害する可能性が示唆されており、かつヒト血清におけるタンパク結合率が高い(fu値血清が0.01以下)とされる。
(非特許文献10:(Vieira, M. L., et al. (2014). "Evaluation of various static in vitro-in vivo extrapolation models for risk assessment of the CYP3A inhibition potential of an investigational drug." Clin Pharmacol Ther 95(2): 189-198.)。非特許文献11:Hachad, H., et al. (2010). "A useful tool for drug interaction evaluation: the University of Washington Metabolism and Transport Drug Interaction Database." Hum Genomics 5(1): 61-72.。非特許文献12:Chu, Q. S., et al. (2008). "A phase I and pharmacokinetic study of lapatinib in combination with letrozole in patients with advanced cancer." Clin Cancer Res 14(14): 4484-4490.。非特許文献13:Koch, K. M., et al. (2017). "The effects of lapatinib on CYP3A metabolism of midazolam in patients with advanced cancer." Cancer Chemother Pharmacol 80(6): 1141-1146。)
【0339】
これらの化合物は、現状のFDAガイドラインに基づきfu値ヒト血清=0.01を用いる限りは、DDI予測が困難な化合物と考えられるが、本発明の方法(動的解析)により精度の高いfu比(fu血清vsfu micの比)を求めることができれば、DDI予測の精度改善が期待できる。
【0340】
【0341】
各測定対象物質について、それぞれ1mmol/L溶液を調製した。具体的には、イトラコナゾールを含む5mmol/L溶液2μLに対してDMSOを8μL加えて、又は、アリピプラゾール、デフェラシロクス、ラパチニブ、ティカグレラ、ケトコナゾール、若しくはRG12525を含む10mmol/L溶液2μLに対してDMSOを18μL加えて調整した。
さらに、RG12525については、1mmol/L溶液5μLに対してDMSOを5μL加えて、0.5mmol/L溶液を作成した。また、イトラコナゾール及びケトコナゾールについては、1mmol/L溶液2μLに対してDMSOを8μL加えて、0.2mmol/L溶液を作成した。
【0342】
次に、融解させたヒト血清を採取し、それぞれに9倍量のリン酸緩衝生理食塩水を加え、その溶液に対して1/1000倍量の測定対象物質(アリピプラゾール、デフェラシロクス、ラパチニブ、ティカグレラ、イトラコナゾール、ケトコナゾール、若しくはRG12525))を含む1mmol/L溶液をそれぞれ加えた。このようにして、血清濃度10%(体積比)、DMSO濃度0.1%(体積比)となるドナー溶液を調製した。融解させたヒト肝ミクロソーム(20 mg/mL)を採取し、それぞれに199倍量のリン酸緩衝生理食塩水を加え、その溶液に対して1/1000倍量の測定対象物質(アリピプラゾール、デフェラシロクス、ラパチニブ若しくはティカグレラ)を含む1mmol/L溶液、1/1000倍量のRG12525を含む0.5mmol/L溶液、又は1/1000倍量の測定対象物質(イトラコナゾール若しくはケトコナゾール)0.2mmol/L溶液をそれぞれ加えた。このようにして、ミクロソーム濃度0.1mg/mL、DMSO濃度0.1%(体積比)となるドナー溶液を調製した。
【0343】
なお、ニフェジピン以外の用いた各試料は実施例1と同じである。
【0344】
[アクセプター(Acceptor)溶液の調製]
各測定対象物質を含む1mmol/L溶液の代わりにDMSO溶液を加えたこと以外は、ドナー溶液と同様の手順でヒト血清濃度10%(体積比)、DMSO濃度0.1%(体積比)となるアクセプター溶液を調製した。
【0345】
[透析反応]
測定物質をニフェジピンから実施例14~20の各測定対象物質に変更し、かつアクセプター溶液をヒト血清からなる溶液で統一して実施した以外は、実施例1と同様の方法で実施した。各チャンバーに分注したドナー溶液又はアクセプター溶液を下記表46に示す。
【0346】
表46は、ヒト血清をドナー側とし、ヒト血清をアクセプター側とした場合(試験AからH;同一条件)、ならびにヒト肝ミクロソームをドナー側とし、ヒト血清をアクセプター側とした場合(試験AからH:同一条件)の合計8つについて、それぞれ0.5時間、2時間、4時間、および20時間の時点で測定を実施したことを示す。
【0347】
【0348】
[透析反応後のサンプリング]
採取したドナー溶液及びアクセプター溶液は、クエンチ溶液を用いずに密封し、各試料を前処理に供するまで-80℃で保存した以外は、実施例1と同様の方法で実施した。
【0349】
[サンプリングした試料の前処理]
サンプリング後の試料20μLに対して、DMSOを10μL、IS溶液を100μL加え、それぞれフィルタープレート(「Multi Screen Filter Plates 0.45um,Low Binding」、MILLIPORE社製)に移し、フィルターろ過を行った。ろ過後の試料に水70μL加え、LC-MS/MS用測定用試料とした。IS溶液の組成は下記表47の通りである。
【0350】
【0351】
[LC-MS/MSによる測定対象物質の濃度測定]
検量線サンプルの作製:DMSOに溶解させた各測定対象物質(1mmol/L)1μLに対し、DMSOを99μL加え、化合物10μmol/L溶液とした。下記(1)-(8)の希釈系列およびBLANK溶液を作製した。
【0352】
[(1)各測定対象物質10μmol/L溶液60μLに対し、DMSOを40μL加え、化合物6000nmol/L溶液とした。
(2) 各測定対象物質6000nmol/L溶液60μLに対し、DMSOを120μL加え、化合物2000nmol/L溶液とした。
(3) 各測定対象物質2000nmol/L溶液60μLに対し、DMSOを140μL加え、化合物600nmol/L溶液とした。
(4) 各測定対象物質600nmol/L溶液60μLに対し、DMSOを120μL加え、化合物200nmol/L溶液とした。
(5) 各測定対象物質200nmol/L溶液60μLに対し、DMSOを140μL加え、化合物60nmol/L溶液とした。
(6) 各測定対象物質60nmol/L溶液60μLに対し、DMSOを120μL加え、化合物20nmol/L溶液とした。
(7) 各測定対象物質20nmol/L溶液60μLに対し、DMSOを140μL加え、化合物6nmol/L溶液とした。
(8) 各測定対象物質6nmol/L溶液60μLに対し、DMSOを120μL加え、化合物2nmol/L溶液とした。]
【0353】
(1)-(8)の希釈系列は、実サンプルを基準とすると濃度が2倍になるように調整されているため、希釈系列で調整した濃度を1/2倍量として補正することで、検量線サンプルの濃度とした。
【0354】
検量線サンプルの濃度:(8)1nM (7)3nM、(6)10nM、(5)30nM、(4)100nM、(3)300nM、(2)1000nM、(1)3000nM
【0355】
ヒト肝ミクロソーム(0.1mg/mL)若しくはヒト血清のブランク試料20μLに対して、検量線サンプルを10μL加え、IS溶液を100μL加え、それぞれフィルタープレート(「Multi Screen Filter Plates 0.45um,Low Binding」、MILLIPORE社製)に移し、フィルターろ過を行った。ろ過後の試料に水70μL加え、LC-MS/MS用測定用試料とした
【0356】
[LC-MS/MSによる測定対象物質の濃度測定]
前記LC-MS/MS用測定用試料それぞれについて、下記測定機器および測定条件を用い、各チャンバーにおけるアリピプラゾール、デフェラシロクス、ラパチニブ、ティカグレラ、ケトコナゾール、イトラコナゾール又はRG12525の濃度を測定した。複数のウェルで同一生体試料種(血清またはヒト肝ミクロソーム)にて特定対象物質の濃度を測定している場合は、同一生体試料種群の各ウェルで測定された濃度の平均値をfu比の算出に用いた。
【0357】
(測定機器)
LC:Waters Acquity UPLC
MS:XEVO-TQS#WAA696 (Waters Corporation, Milford, Massachusetts)
カラム:YMC-Triart C18 column, 30 x 2.0 mm ID, S-1.9 um, 12 nm
【0358】
(測定条件)
カラム温度:50℃(設定値)
溶媒:A) 0.1% ギ酸水溶液
B) 0.1% ギ酸アセトニトリル溶液
グラジエント条件:
【表48】
流速:0.6 mL/min
オートサンプラー温度:10℃(設定値)
注入量(Injection Volume):1μL
【0359】
MS条件:(ESI positive)
【表49】
【0360】
各パラメーターを下記の通り変更した以外は、実施例1と同様の方法にてfu比を取得した。
fu1:ドナー溶液に含まれる生物学的試料に対する測定対象物質のfu値(算出値)
fu2:アクセプター溶液に含まれる生物学的試料に対する測定対象物質のfu値(算出値)ただし、ドナー溶液ヒト血清、アクセプター溶液ヒト血清の場合は、fu2をfu1と同値とした。
PS:測定対象物質の透析膜透過クリアランス(固定値、1.5×10-4 L/h)
(Model、Reaction、Rules、Definition、Estimated Parameters)を記載し、実施した。
【0361】
Reaction:
Eq1.Donor1<-> Eq1.Acceptor1: +fu1*PS*Eq1.Donor1/Vd1-fu1*PS*Eq1.Acceptor1/Vd2
Eq2.Donor2<-> Eq2.Acceptor2: +fu2*PS*Eq2.Donor2/Vd1-fu1*PS*Eq2.Acceptor2/Vd2
Eq2.Donor2-> Eq2.Ad: +CL2*fu2*Eq2.Donor2/Vd1-(Koff2*Eq2.Ad)
【0362】
Rules:
実施例1と同様とした。
【0363】
Definition:
一つ目の生物学的試料がヒト血清、2つ目の生物学的試料がヒト肝ミクロソームである場合、以下4つのデータを一組として解析に用いた。
データ1(Eq1.Cd1):ドナー溶液にヒト血清、アクセプター溶液にヒト血清が含まれる平衡透析系におけるドナー溶液中の測定対象物質の濃度
データ2(Eq1.Ca1):ドナー溶液にヒト血清、アクセプター溶液にヒト血清が含まれる平衡透析系におけるアクセプター溶液中の測定対象物質の濃度
データ3(Eq2.Cd2):ドナー溶液にヒト肝ミクロソーム、アクセプター溶液にヒト血清が含まれる平衡透析系におけるドナー溶液中の測定対象物質の濃度
データ4(Eq2.Ca2): ドナー溶液にヒト肝ミクロソーム、アクセプター溶液にヒト血清が含まれる平衡透析系におけるアクセプター溶液中の測定対象物質の濃度
【0364】
Estimated Parameters:
exp(fu1).InitialValue = 0.01; Bounds = [1e-05 1];
exp(fu2).InitialValue = 0.01; Bounds = [1e-05 1];
exp(Koff2).InitialValue = 1; Bounds = [1e-05 10000];
exp(CL2).InitialValue = 0.001; Bounds = [1e-07 100];
exp(Dose1).InitialValue = 0.2115; Bounds = [0.01 0.5];
exp(Dose2).InitialValue = 0.2114; Bounds = [0.01 0.5];
【0365】
上記の動的解析手法により算出したfu(ヒト、血清濃度1/10)を血清濃度1/1となるよう下記希釈の式を用いて補正し、各測定対象物質のfu比(血清/ミクロソーム)を求めた。
【0366】
式中、Dは希釈率を示し、今回は10倍希釈の血清を用いているため、D=10である。
【0367】
【0368】
〔比較例14~20〕
静的解析による同一種(ヒト)の異なる生体試料(ヒト血清およびミクロソーム)間の相対的なfu比の取得(測定対象物質:実施例14~20と同じ)
実施例4~13と同様の手法でfu比を求める場合は、透析反応としては、ミクロソーム濃度0.1mg/mL、DMSO濃度0.1%(体積比)となるドナー溶液、およびヒト血清濃度100%、DMSO濃度0.1%(体積比)となるアクセプター溶液を調製する必要があるが、実施例14~20の化合物は、fu値が0.01以下を示す可能性が高い高タンパク結合化合物であり、ヒト血清濃度は100%を使用した場合(すなわち、血清をバッファーで希釈しなかった場合)には、平衡状態を得ることは困難と考えられた。このため、これらの化合物については比較例4~13と同様の手法によるfu比の算出は行わなかった。
【0369】
〔参考例14~20〕
静的解析(対バッファー)による同一種(ヒト)の異なる生体試料(ヒト血清およびミクロソーム)におけるf
u
値の取得(測定対象物質:実施例14~20と同じ)
融解させたヒト血清を採取し、それぞれに9倍量のリン酸緩衝生理食塩水を加え、その溶液に対して1/1000倍量の化合物1mmol/L溶液をそれぞれ加えた。このようにして、血清濃度10%(体積比)、DMSO濃度0.1%(体積比)となるドナー溶液を調製した。融解させたヒト肝ミクロソーム(20 mg/mL)を採取し、それぞれに199倍量のリン酸緩衝生理食塩水を加え、その溶液に対して1/1000倍量の化合物1mmol/L溶液をそれぞれ加えた。このようにして、ミクロソーム濃度0.1mg/mL、DMSO濃度0.1%(体積比)となるドナー溶液を調製した。
【0370】
【0371】
実施例14~20と同様にドナー溶液およびアクセプター溶液を調製して透析反応を開始し、透析反応開始時より24時間を経過した時点における各チャンバーに添加した溶液中の測定対象物質の濃度を測定した。得られたデータからを参考例1の式5に適用し、fu値(ミクロソーム)を取得した。また、希釈の式を用いて実施例14~20と同様に、希釈によるfu値(ヒト、血清濃度1/10)を血清濃度1/1となるよう補正し、fu値(ヒト、血清濃度1/1)を求めた。
【0372】
【0373】
得られたfu値から各測定対象物質のf
u比(血清/ミクロソーム)を求めた。
【表53】
【0374】
〔参考例21~27〕
参考例14~20の結果およびFDAガイダンスに基づくf
u
比の算出(測定対象物質:実施例14~20と同じ)
参考例14~20で取得したfu値(ミクロソーム)、およびFDAガイダンスに基づく各測定対象物質のfu値(血清)=0.01を用いたfu比(血清/ミクロソーム)を下記に示す。
【0375】
【0376】
〔評価例2〕
DDIリスクを予測するために、CYP3A4基質であるミダゾラムをプローブ化合物として用いて、ヒト肝ミクロソームにおける各化合物の阻害定数Ki値を求めた。
【0377】
融解させた市販のヒト肝ミクロソーム(20mg/mL、Xenotech社製)24μLに、0.1mol/Lリン酸バッファー3976μLを加え、計4000μLのヒト肝ミクロソーム溶液(濃度0.12mg/mL)を作成した。又は市販のヒト肝ミクロソーム(20mg/mL、Xenotech社製)37μLに、0.1mol/Lリン酸バッファー5963μLを加え、計6000μLのヒト肝ミクロソーム溶液(濃度0.12mg/mL)を作成した。最終添加濃度の1000倍濃度とした、希釈前測定対象化合物DMSO溶液を3μL用意し、60%アセトニトリル溶液を87μL加え、計90μLの測定対象化合物溶液を作成した。50mmol/Lのミダゾラムを溶解させた溶液5μLに対して、50%アセトニトリル溶液を70μL加え、計75μLの溶液とし、その溶液12μLに対して、アセトニトリル溶液を63μLおよび水を5925μL加え、計6000μLのミダゾラム溶液(濃度6.6μmol/L)とした。市販のβ―NADPH(和光純薬)25mgに0.1mol/Lリン酸バッファー3000μLを加え、NADPH溶液(10mmol/L)とした。調整した各溶液を下記の順番通り混合し、阻害反応用溶液(計100μL)とし、NADPH溶液添加直後を反応開始0分として、37℃で撹拌しながら5分間反応させた。
【0378】
【0379】
【0380】
代謝反応用溶液での反応後、35μLを回収し、140μLのアセトニトリル/イソプロパノール=1/1溶液(2.5nmol/L 1-ヒドロキシミダゾラム[13C3]および10nM ワルファリンをISとして含む)と混合させ、徐タンパク処理フィルターで遠心処理したサンプルを、LCMS測定溶液とした。LCMS測定溶液は、代謝反応により生成される1-ヒドロキシミダゾラム定量用と、測定対象化合物(阻害剤)の実濃度測定用の計2セットを作製し、それぞれをLCMS定量分析に供した。
【0381】
各測定化合物(阻害剤)について、0(コントロール)における1‘OH-ミダゾラム生成量を100%とし、以下の式を用いて、50%阻害濃度(IC50)を求めた。
IC50=10(Log(b/a)×(50-A)/(B-A)+Log(a) )
A:50%より大きい直近の% of コントロール(低濃度側)
B:50%より小さい直近の% of コントロール(高濃度側)
a:Aの時の化合物濃度(低濃度)
b:Bの時の化合物濃度(高濃度)
【0382】
今回CYP3A4基質として使用したミダゾラムは、添加濃度0.33μmol/Lであり、文献で示唆されるKm値2.06μmol/Lに対して十分低い濃度であるため、求めたIC50は、Ki値としてそのまま利用することとした。(非特許文献14:Takano, J., et al. (2016). "The Prediction of the Relative Importance of CYP3A/P-glycoprotein to the Nonlinear Intestinal Absorption of Drugs by Advanced Compartmental Absorption and Transit Model." Drug Metab Dispos 44(11): 1808-1818.)各化合物のKi値を下記に示す。
【0383】
【0384】
デフェラシロクスおよびティカグレラは、50%阻害濃度を示す濃度に至らなかったため、最大添加濃度以上の濃度がKi値と考えられた。予測に用いるKi値としては、便宜上最大添加濃度を用いた。
【0385】
上記実施例14~20、参考例14~20、参考例21~27で求めたfu比ならびにfu値、阻害剤実験に用いたKi値を用いて、CYP3A4基質であるミダゾラムの血中濃度-時間曲線下面積(AUC)上昇比(AUCR)予測値を求め、観測値のAUCRと比較することで、DDIリスクを予測した。
【0386】
阻害剤併用時のミダゾラムのAUCR(観測値)は、非特許文献10-13から引用し、下記表に示した。なお、同一用量(Dose)において複数のAUCR記載があった場合は、AUCRの幾何平均を算出して、観測値とした。アリピプラゾールおよびティカグレラのAUCRは、数値記述が無い、又はミダゾラムの経口投与に対して影響が無いとの記述があったため、AUCR(観測値)としては1とした。
【0387】
【0388】
DDI予測には下記Net Effectを適用したモデルを利用した。
(非特許文献15:FDA DDI guidance(2020))
【0389】
上記式中の記号の意味は下記のとおりである。
K
i, u[μmol/L]=Ki値×fu, mic
k
a は6[h
-1], f
aは1を用いた。
Doseは各阻害剤の投与量[μmol]とした。
Cmax, total[μmol/L]
Q
entは18[L/h/70 kg] (非特許文献16:Yang, Jamei et al.,2007)を用いた。
Fgについては、動的解析で得られたfu比の予測精度を検証するために、今回は1を入力値とした。
(非特許文献16:Yang, J., et al. (2007). "Prediction of intestinal first-pass drug metabolism." Curr Drug Metab 8(7): 676-684.)
【0390】
[I]h[μmol/L](肝細胞における阻害剤濃度)
K
i, u[μmol/L]=Ki値×fu, mic
k
a[h
-1] は6, f
a, R
bは1を用いた。
Doseは各阻害剤の投与量[μmol]とした。
Cmax, total[μmol/L]
Fmは0.93を用いた。
Q
hは97[L/h/70 kg] (非特許文献17:Yang, Jamei et al.,2007)を用いた。
(非特許文献17:Yang, J., et al. (2007). "Misuse of the well-stirred model of hepatic drug clearance." Drug Metab Dispos 35(3): 501-502.)
(非特許文献18:Obach, R. S., et al. (2006). "The utility of in vitro cytochrome P450 inhibition data in the prediction of drug-drug interactions." J Pharmacol Exp Ther 316(1): 336-348.)
なお、
は、{f
u血清/(f
umic×K
i)}×{Cmax, total+(k
a×f
a×Dose/Q
h)÷R
b}と表すことができ、f
u血清/f
umicの部分について、fu比(血清/ミクロソーム)を用いた。
【0391】
腸管および肝での不可逆的阻害を示すBg・Bh、ならびに誘導を示すCg・Chについては、今回は影響の無い阻害剤と考え、それぞれ1を入力値とした。
【0392】
予測で得られた結果を
図14-1~
図14-3および下記表に示す。
【表59】
【0393】
本発明の方法(動的解析)で求めた相対fu比を用いたDDI予測の精度は、従来法で示した予測の精度と比べて、優れていた。すなわち、本発明の方法を用いることにより、平衡状態に達しにくい測定対象物質についても精度良く相対fu比を取得でき、DDI予測に活用できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0394】
非臨床研究(マウス、ラット、イヌ、サル等を用いた解析)に基づくヒト薬物動態予測は、各動物種の血漿中非結合型分率(fraction unbound, fu)が重要パラメーターと考えられている。
【0395】
本発明は、薬物の異種生体試料間における相対的なタンパク非結合型分率比(fu比)について、その直接検出を可能とした新規アッセイ技術である。迅速平衡透析と動的解析を組み合わせたアッセイ系によって高い正確性のfu比が取得可能になり、各動物種の薬物動態パラメーターを血漿等中のフリー体薬物濃度の比に基づき利用することで、ヒト薬物動態の推定精度が高まると期待される。また、高タンパク結合率化合物のみならず、タンパク結合率が中程度から非常に低い化合物まで幅広く利用可能な技術と考えられ、今後の低中分子創薬研究全般における必要不可欠な技術として期待できる。
【0396】
例えば、現状、ヒトクリアランス予測手法として最も精度が高いとされるFCIM法(非特許文献6)は、各動物種のクリアランス値ならびにfu値の補正により、ヒトクリアランス値を予測する手法だが、高タンパク結合率化合物についてはfu値の取得が困難であったために、その検証が不十分であった。本発明によって得られた相対fu比をFCIM法に適用することで、ヒトクリアランス予測精度をより向上させることができると期待できる。
【0397】
また、本発明は、異種血清同士の比較のみならず、異種生体試料同士のfu比に広く用いることができる。例えば、肝ミクロソームのタンパク非結合型分率vs血清のタンパク非結合型分率(fu mic vs fu 血清の比)も求められる可能性がある。このことで、臨床薬物間相互作用(DDI)予測の精緻化が可能になると考えられる。
【0398】
米国FDAの薬物間相互作用のガイダンスでは薬物代謝酵素の阻害作用を有する薬物においては血漿中の最大血漿中非結合型薬物濃度(Imax,u)と非結合型の阻害定数(Ki,u)を用いて以下の式で薬物間相互作用の程度を予測することを求めている。
R1=1+(Imax,u/Ki,u)
この式は最大血漿中トータル濃度(Imax)、トータル濃度基準の阻害定数(Ki)、血漿中非結合型分率(fu)、ミクロソーム中非結合型分率(fu, mic)を用いて以下のように変換できる。
R1=1+(Imax/Ki)*(fu/fumic)
【0399】
またこのガイダンスはタンパク結合率測定の不正確性を考慮してfuが0.01未満の場合はfu=0.01として計算することを求めており、これによって相互作用の程度を過大評価し、本来であれば不要な臨床薬物間相互作用試験を実施ししなければならなくなるリスクをはらんでいる。
【0400】
fu/fu, mic比を本発明に係る方法で直接精緻に求めることで臨床DDI予測の精緻化ができれば、不要な臨床DDI試験スキップし、より早く患者に必要な薬剤を届けることにつながり、臨床開発コスト低減の面でも有用性が高い。
【符号の説明】
【0401】
I 透析チャンバーシステムI
II 透析チャンバーシステムII
M 半透膜
A 第一の生物学的試料(A)
B 第二の生物学的試料(B)
1 ドナー側チャンバー
2 アクセプター側チャンバー
3 測定対象物質
4 第一の生物学的試料(A)に由来する非特異的タンパク質
5 第二の生物学的試料(B)に由来する非特異的タンパク質
10 ドナー側チャンバー
20 アクセプター側チャンバー