(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】圧迫製品用の遅延性の弛緩挙動を有するポリウレタン
(51)【国際特許分類】
C08G 18/66 20060101AFI20240415BHJP
C08G 18/08 20060101ALI20240415BHJP
C08G 18/32 20060101ALI20240415BHJP
C08G 18/38 20060101ALI20240415BHJP
C08G 18/48 20060101ALI20240415BHJP
A61L 15/00 20060101ALI20240415BHJP
A61F 13/08 20060101ALI20240415BHJP
【FI】
C08G18/66 074
C08G18/08 009
C08G18/32 006
C08G18/38 019
C08G18/48 054
A61L15/00
A61F13/08
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023000502
(22)【出願日】2023-01-05
(62)【分割の表示】P 2020506775の分割
【原出願日】2018-08-08
【審査請求日】2023-01-05
(32)【優先日】2017-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】510329327
【氏名又は名称】メディ ゲーエムベーハー アンド カンパニー カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】クリスタ ヒューガー
(72)【発明者】
【氏名】アンジェリカ シェルム
(72)【発明者】
【氏名】シーマ アガルワル
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス グライナー
(72)【発明者】
【氏名】ピン フー
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-511637(JP,A)
【文献】特開2011-001529(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 18/00-18/87
A61F 13/08
A61L 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弛緩が自ら開始される、必要に応じて外部刺激の不在下で自律的または自発的に開始される、遅延性の連続的な弛緩挙動を有するポリウレタン(PU)ポリマーであって、前記PUポリマーが、少なくとも1つのN-ジオールモノマー成分、必要に応じて2もしくはそれを超える、または数個もしくは多数のN-ジオールモノマー成分を含有
し、
前記N-ジオールモノマー成分が、N’,N’-ビス(3-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-オキソプロピル)-N,N-ジメチルエチレンジアミンに由来し、
前記ポリウレタン(PU)ポリマーが、さらに、N-ジオールモノマー成分とイソシアネートモノマー成分からなる第1の分子単位、1,4-ブタンジオールモノマー成分とイソシアネートモノマー成分からなる第2の分子単位、およびP(THF)モノマー成分とイソシアネート成分からなる第3の分子単位を含むまたはそれからなる、
ポリウレタン(PU)ポリマー。
【請求項2】
非四級化PUポリマー(PU-N)である、請求項1に記載のポリウレタン(PU)ポリマー。
【請求項3】
四級化PUポリマー(PU-N+)である、請求項1に記載のポリウレタン(PU)ポリマー。
【請求項4】
N-ジオール、P(THF)および1,4-ブタンジオールモノマー成分の相対量が、約50:25:25%である、請求項
1に記載のポリウレタン(PU)ポリマー。
【請求項5】
前記四級化PUポリマーが、前記PUポリマーの総モル数に対して、最大約15%、必要に応じて約1、2、または3~10%の間、約4~10%の間、約3~7%の間、約7~11%の間、約4~6%の間、約8~10%の間、約5%、または約9%のイオン基の四級化N含有基量を含む、請求項3から
4のいずれか一項に記載のポリウレタン(PU)ポリマー。
【請求項6】
ガラス転移温度T
gが、約20~60℃の間、必要に応じて約30~50℃の間、約35~45℃の間、または約40℃である、請求項2および4
のいずれか一項に記載のポリウレタン(PU)ポリマー。
【請求項7】
前記N-ジオールが、2-ジメチルアミノエチルアミンおよび2-ヒドロキシエチルアクリレートから生成される、請求項1に記載のポリウレタン(PU)ポリマー。
【請求項8】
前記PUポリマーが、前記N-ジオールモノマーを含有するモノマーを重合することにより得られる、請求項1に記載のポリウレタン(PU)ポリマー。
【請求項9】
(a)N-ジオールを含有する非四級化ポリウレタン(PU)ポリマー(PU-N);
および/または
(b)四級化N-ジオールを含有する四級化ポリウレタン(PU)ポリマー(PU-N+);
および
(c)
少なくとも85%のポリウレタンを含有するポリエーテル-ポリウレアブロック共重合体、
を含むまたはそれからなるブレンド
であって、
ここで、前記ポリウレタン(PU)ポリマーが、N-ジオールモノマー成分とイソシアネートモノマー成分からなる第1の分子単位、1,4-ブタンジオールモノマー成分とイソシアネートモノマー成分からなる第2の分子単位、およびP(THF)モノマー成分とイソシアネート成分からなる第3の分子単位を含むまたはそれからなり、
ここで、前記N-ジオールモノマー成分が、N’,N’-ビス(3-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-オキソプロピル)-N,N-ジメチルエチレンジアミンに由来する、
ブレンド。
【請求項10】
約5~40%(重量による)の間の非四級化PUポリマーと、約60~95%(重量による)の間の
少なくとも85%のポリウレタンを含有するポリエーテル-ポリウレアブロック共重合体を含むまたはそれからなる、請求項
9に記載のブレンド。
【請求項11】
前記N-ジオールが、2-ジメチルアミノエチルアミンおよび2-ヒドロキシエチルアクリレートから生成される、請求項
9に記載のブレンド。
【請求項12】
前記PUポリマーが、N-ジオールモノマーを含有するモノマーを重合することにより得られる、請求項
9に記載のブレンド。
【請求項13】
圧迫製品、弾性成分もしくは材料、弾性繊維、フィラメント、スレッド糸、ヤーン糸、または圧縮基布を製造するためのプロセスにおける、請求項1から
8のいずれか一項に記載のポリウレタン(PU)ポリマーの使用、または請求項
9もしくは
12に記載のブレンドの使用。
【請求項14】
N-ジオールを含有するポリウレタン(PU)ポリマーを製造するためのプロセスであって、前記PUポリマーが、少なくとも1つのN-ジオールモノマー成分、必要に応じて2もしくはそれを超える、数個または多数のN-ジオールモノマー成分を含有し、
(i)四級化可能なN-ジオールを調製するステップと;
(ii)ステップ(i)で作製した四級化可能なN-ジオールを含有するPUポリマーを調製するステップと;
必要に応じて、
(iii)ステップ(ii)で作製した前記PUポリマーを四級化するステップと
を含
み、
ここで、前記N-ジオールモノマー成分が、N’,N’-ビス(3-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-オキソプロピル)-N,N-ジメチルエチレンジアミンに由来し、
ここで、前記ポリウレタン(PU)ポリマーが、さらに、N-ジオールモノマー成分とイソシアネートモノマー成分からなる第1の分子単位、1,4-ブタンジオールモノマー成分とイソシアネートモノマー成分からなる第2の分子単位、およびP(THF)モノマー成分とイソシアネート成分からなる第3の分子単位を含むまたはそれからなる、
プロセス。
【請求項15】
前記N-ジオールが、2-ジメチルアミノエチルアミンおよび2-ヒドロキシエチルアクリレートから生成される、請求項
14に記載のプロセス。
【請求項16】
前記PUポリマーが、前記N-ジオールモノマーを含有するモノマーを重合することにより得られる、請求項
14に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療補助具、特に圧迫ストッキングまたは圧迫包帯などの圧迫製品に関する。より具体的には、本発明は、遅延性の連続的な弛緩挙動を示す繊維形成ポリウレタンポリマーを含む圧迫製品に関する。本発明はさらに、N-ジオールを含有するポリウレタンポリマーおよび対応する四級化ポリウレタンポリマー、ポリウレタンポリマーを製造するプロセス、エラスタンとのブレンド、ならびに使用に関する。
【背景技術】
【0002】
圧迫ストッキングは、浮腫、静脈炎および血栓症などの静脈障害の発生を防ぐのを助け、さらなる進行を防ぐように設計された特殊な靴下である。そのようなストッキングは、脚の周囲に着用される弾性衣類であり、それにより肢を圧迫する。これにより、膨張した静脈の直径が小さくなり、静脈の血流速度と弁の有効性が増加する。
【0003】
臨床または外来の環境では、圧迫ストッキングの適用は、通常、医師または看護師によって行われる。あるいは、圧迫ストッキングは、患者自身によって、例えば自宅で、日常的にも適用される。
【0004】
フィットすることは、圧迫ストッキングの治療効果に重大な意味を持つ。従って、適切なサイズのストッキングは、最初に脚を測定することによって決定される。圧迫ストッキングの正しい適用が重大な意味を持つ場合もあり、そのため、医療従事者または患者は慎重に訓練される必要がある。
【0005】
圧迫を脚に提供することを目的とするため、圧迫ストッキングを作製する材料は、弾性がありすぎても拡張性がありすぎてもならない。従って、圧迫ストッキングは装着することが難しくなり得る。これは、患者が衰弱している、寝たきりである、または病弱であるか、痛みを経験しなければならない場合に特に当てはまる。
【0006】
従って、優れた圧迫力を保証すると同時に、適用が快適である圧迫ストッキングおよびその他の医療用圧迫製品の開発は、依然として困難である。
【0007】
通常、圧迫製品に組み込まれている弾性ポリマーは、改善の努力の対象である。弾性が望まれる場合によく使用される、人気のあるポリマーの1つがエラスタン(elastane)である。
【0008】
エラスタン(スパンデックス、ライクラ(登録商標))は、少なくとも85%のポリウレタンを含有するポリエーテル-ポリウレアブロック共重合体である。エラスタンは1958年にデュポン社で発明され、1962年に市場に導入された。エラスタンの合成繊維はその並外れた弾性で知られている:エラスタン繊維は、強く拡張された後に、その元の長さを実質的に回復する。その程度において、エラスタンは天然ゴムのようなエラストマーであるが、天然ゴムよりも強く、より耐久性がある。医療用圧迫製品とは別に、エラスタンは、テキスタイルおよび衣類産業で、例えばタイツ、コルセット商品またはスポーツウェアで広く使用されている。
【0009】
米国特許出願公開第2008/0249454号は、ストッキングが簡単に足に装着されるのに十分な伸張を提供する、緊張した弾性材料を含むニット生地から構築された圧迫ストッキングを開示している。スパンデックスは、このストッキングに組み込まれると考えられている材料である。
【0010】
国際公開第2011/132011号は、製造された品の全体にわたって、二重らせんを添えた緯ヤーン糸をエラストマー芯、特にエラスタンとともに含む、20mmHgを超える高レベルの圧迫でその装着を容易にするために設計された、治療効果および/または生理学的効果を有するニットタイプの圧迫品を開示している。
【0011】
他のいくつかの弾性ポリマーも圧迫製品に使用されており、ポリウレタンもその1つである。ポリウレタン(PU)は、ウレタン(カルバメート)基によって結合された多数の分子単位で製造されたポリマーである。基本的に、このポリマーは段階重合(重付加)によって生成され、そのプロセスで少なくとも2つのイソシアネート官能基(-N=C=O)を含有するモノマーは、少なくとも2つのヒドロキシル(アルコール)(-OH)基を含有する別のものマーと反応し、それにより、ウレタン基(-NH-CO-O-)が形成される。
【0012】
米国特許出願公開第2007/0113593号は、ポリウレタンを含む機能性圧迫靴下を開示している。
【0013】
米国特許出願公開第2010/0191163号は、ポリウレタンフォーム層を含む、動的応答解剖学的包帯システムを開示している。
【0014】
圧迫製品の改善の興味深い取り組みは、形状記憶ポリマーの使用である。形状記憶材料は、特定の刺激が加えられた場合に、外見から判断して大幅な塑性変形から元の形状を回復する能力を特徴とする(形状記憶効果)。伸張による変形の後、形状記憶ポリマーの繊維は、様々な刺激、例えば光(紫外光および赤外光)、化学的刺激(水分、溶媒、pH変化)、熱(例えば、熱応答性形状記憶ポリマーで)、電場または磁場、あるいは放射線などによって形状回復を引き起こされ得る。形状記憶ポリマーの使用の背後にある考え方は、圧迫製品は、一時保存された拡張された形状で適用することができるということである。適切な刺激が与えられると、圧迫製品は最終的に弛緩し、すなわち変形を逆転させ、それにより圧迫が蓄積される。
【0015】
国際公開第2012/045427号は、支持力、圧迫または圧力の導入を生成または送達する少なくとも1つの要素を含み、形状記憶材料を含むか、またはそれからなる、ヒトまたは動物の身体用の医療補助具、特に身体支持包帯および矯正具を開示している。ポリウレタンは形状記憶材料として企図される。形状記憶効果は体温によって引き起こされる。
【0016】
国際公開第2013/149985号は、形状記憶材料および膨張剤を含むニット生地を開示している。ポリウレタンは形状記憶材料として機能すると考えられている。
【0017】
中国特許第105078652号は、形状記憶材料に基づくインテリジェント圧迫システムを開示している。
【0018】
いずれにせよ、医療用圧迫製品で使用する弾性ポリマーには高い基準が要求される。それらは、優れた圧迫を提供すると同時に、優れた適用特性を伴うべきである。さらに、それらは優れた引張強さ、医療用途との適合性、皮膚への優しさ、日常使用への適合性、および優れた洗浄性を示すべきである。
【0019】
医療用圧迫製品での使用を目的とする弾性ポリマーの改善がなお必要とされている。
【0020】
そのため、本発明の目的は、改善された弾性ポリマー、従って改善された医療用圧迫製品を提供することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【文献】米国特許出願公開第2008/0249454号明細書
【文献】国際公開第2011/132011号
【文献】米国特許出願公開第2007/0113593号明細書
【文献】米国特許出願公開第2010/0191163号明細書
【文献】国際公開第2012/045427号
【文献】国際公開第2013/149985号
【文献】中国特許第105078652号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、独立請求項に定義され、異なる態様で以下に説明されるように、目的を達成する。具体的な実施形態は従属請求項に定義され、以下でも説明される。
【0023】
第1の態様では、本発明は、弾性成分または材料を含むかまたはそれからなる圧迫製品を提供し、
該弾性成分または材料は、圧迫力または支持力または局所圧力を被験者の身体の一部分に加えることができ、
該弾性成分または材料はさらに、その間に成分または材料が拡張される第1フェーズ、その間に成分または材料がその元の形状を回復することなくまたは完全には回復することなく、あるいはその元の形状を部分的にしか回復することなく弛緩する第2フェーズ、およびその間に成分または材料がその元の形状を回復する、あるいはその元の形状を実質的に回復するかまたはほぼ完全に回復する、好ましくはその元の形状を連続的に回復する、より好ましくはその元の形状を連続的に減速しながら回復する第3フェーズを経ることができ、
ここで、弛緩、好ましくは第2フェーズ、より好ましくは第2および第3フェーズは、自ら開始される、好ましくは外部刺激の不在下で自律的または自発的に開始される。
【0024】
圧迫製品の一実施形態では、弾性成分または材料は、
(a)N-ジオールを含有する非四級化ポリウレタン(PU)ポリマー(PU-N);
および/または
(b)四級化N-ジオールを含有する四級化ポリウレタン(PU)ポリマーまたはイオノマー(PU-N+);
および、必要に応じて、
(c)エラスタン
を含むまたはそれからなる。
【0025】
第2の態様において、本発明は、
(a)N-ジオールを含有する非四級化ポリウレタン(PU)ポリマー(PU-N);
および/または
(b)四級化N-ジオールを含有する四級化ポリウレタン(PU)ポリマーまたはイオノマー(PU-N+);
および、必要に応じて、
(c)エラスタン
を含むまたはそれからなる弾性成分または材料を含むまたはそれからなる圧迫製品を提供する。
【0026】
第1または第2の態様の一実施形態では、圧迫製品は医療用圧迫製品である。
【0027】
第1または第2の態様の一実施形態では、圧迫製品は、圧迫靴下、好ましくは圧迫ストッキング、ソックス、ニーソックス、タイツ、パンティストッキング、またはマタニティパンティストッキング、圧迫膝当て、圧迫アームスリーブ、圧迫ウエストアタッチメント、ベルトまたはガードル、圧迫包帯、身体支持包帯、補装具、人工装具のライナー、圧迫創傷被覆材、圧迫プラスターまたはパッチ、および圧迫衣類からなる群から選択され、好ましくは医療目的のための圧迫衣類である。
【0028】
第2の態様の一実施形態では、圧迫製品、または弾性成分もしくは材料は、圧迫力または支持力または局所圧力を被験者の身体の一部分に加えることができる。
【0029】
第1または第2の態様の一実施形態では、身体の一部分は、被験者の肢、脚、太もも、下腿、膝、腕、上腕、前腕、肘、手、指、手首、足、かかと、つま先、足首、アキレス腱、肩、上半身、下半身、腰、首、頭の一部、頬骨、額、鼻、および顎からなる群から選択される。
【0030】
第1または第2の態様の一実施形態では、被験者は、ヒト、好ましくはヒト患者または運動選手である。代替実施形態では、被験者は、動物、好ましくはコンパニオン動物または競技用動物である。
【0031】
第1または第2の態様の一実施形態では、被験者は、医療用圧迫製品のユーザー、例えば圧迫製品を適用して着用する患者である。もう一つの実施形態では、患者は医療用圧迫製品を着用するが、これは一方では第三者、例えば看護師によって適用される。
【0032】
第1または第2の態様の一実施形態では、圧迫製品は、弾性成分または材料を含むまたはそれからなる、少なくとも1つの部分あるいは2またはそれを超える部分、および、弾性成分または材料を含有しない、少なくとも1つの異なる部分、あるいは2またはそれを超える異なる部分を含む。
【0033】
第1または第2の態様の一実施形態では、弾性成分または材料を含むまたはそれからなる部分は、被験者の身体の一部分と接触すると思われる領域に位置し、その部分は圧迫を受けることが意図される。好ましくは、身体の一部分は、膝、膝蓋骨、ふくらはぎ、肘、手首、かかと、つま先、足首、およびアキレス腱からなる群から選択される。必要に応じて、領域は、圧迫ストッキングの足首領域またはふくらはぎ領域、圧迫膝当ての膝蓋骨領域、圧迫スリーブの肘領域、または圧迫創傷被覆材の創傷領域である。
【0034】
第1または第2の態様の一実施形態では、圧迫製品は、弾性成分または材料が異なる2、3またはそれを超える部分を含む。必要に応じて、圧迫ストッキングのふくらはぎ領域に位置する部分の弾性成分または材料は、ふくらはぎ領域の外に位置する部分の弾性成分または材料と比較して、より強い圧迫力を提供することができる。圧迫ストッキングのそのような区画化は、ふくらはぎのムスコ-ヴェノス(musco-venous)ポンプの活性化を可能にすることができる。
【0035】
第1または第2の態様の一実施形態では、圧迫製品は、本発明による弾性成分または材料を含むかまたはそれからなる(第5の態様を参照)。
【0036】
第1または第2の態様の一実施形態では、圧迫製品は、本発明による弾性繊維、フィラメント、スレッド糸、またはヤーン糸を含むかまたはそれからなる(第6の態様を参照)。
【0037】
第1または第2の態様の一実施形態では、医療用圧迫製品におけるあらゆる繊維、フィラメント、スレッド糸、またはヤーン糸は、本発明による弾性成分または材料を含むかまたはそれからなる。
【0038】
第1または第2の態様の一実施形態では、医療用圧迫製品における本発明による弾性繊維、フィラメント、スレッド糸、またはヤーン糸の量は、繊維、フィラメント、スレッド糸、またはヤーン糸の総量に対して、約1~100%、約5~95%、約10~90%、約20~80%、約30~50%、約40~60%、または約55~70%である。
【0039】
第1または第2の態様の一実施形態では、圧迫製品は、本発明による圧縮基布を含むかまたはそれからなる(第7の態様を参照)。
【0040】
第1または第2の態様の一実施形態では、圧迫製品は、本発明によるN-ジオールを含有するポリウレタン(PU)ポリマーを含むかまたはそれからなる(第8または第9の態様を参照)。
【0041】
第3の態様では、本発明は、静脈学、整形外科、フットケア、外科手術、術後ケア、外傷管理、創傷ケア、またはスポーツの分野における本発明による圧迫製品の使用を提供する(第1または第2の態様を参照)。
【0042】
第4の態様では、本発明は、ムスコ-ヴェノス(musco-venous)ポンプ機能障害、静脈循環不全、静脈不全、好ましくは慢性静脈不全、浮腫、静脈炎、血栓症、好ましくは深部静脈血栓症、静脈塞栓症、リンパ浮腫、潰瘍、好ましくは下腿の潰瘍、脚の疼痛、静脈瘤、くも状静脈、または「エコノミークラス症候群」(ECS)の処置または予防または管理のための本発明による圧迫製品の使用を提供する(第1または第2の態様を参照)。
【0043】
第5の態様では、本発明は、
(a)N-ジオールを含有する非四級化ポリウレタン(PU)ポリマー(PU-N);
および/または
(b)四級化N-ジオールを含有する四級化ポリウレタン(PU)ポリマーまたはイオノマー(PU-N+);
および、必要に応じて、
(c)エラスタン
を含むまたはそれからなる弾性成分または材料を提供する。
【0044】
一実施形態では、弾性成分または材料は、非四級化PUポリマーおよび/または四級化PUポリマーまたはイオノマーとエラスタンのブレンドを含むかまたはそれからなる。
【0045】
一実施形態では、弾性成分または材料は、非四級化PUポリマーとエラスタンのブレンドを含むかまたはそれからなる。この実施形態は好ましい。
【0046】
一実施形態では、弾性成分または材料は、2またはそれを超える異なる非四級化PUポリマーおよび/または四級化PUポリマーまたはイオノマーを含むかまたはそれからなる。
【0047】
一実施形態では、弾性成分または材料は、本発明による繊維、フィラメント、スレッド糸、またはヤーン糸を含むかまたはそれからなる(第6の態様を参照)。一実施形態では、そのような繊維、フィラメント、スレッド糸、またはヤーン糸は、粉末または油、例えばSiO2粉末、シリコーン油またはアマニ油などで処理して、特にそれが巻き上げられている時に繊維、フィラメント等の粘着を防ぐ。
【0048】
一実施形態では、弾性成分または材料は、好ましくは本発明に従って、スレッド糸またはヤーン糸に加工されている。
【0049】
一実施形態では、弾性成分または材料は、好ましくは本発明に従って、テキスタイルまたは生地、好ましくは圧縮基布に加工されている。
【0050】
一実施形態では、弾性成分または材料は、本発明によるN-ジオールを含有するポリウレタン(PU)ポリマーを含むかまたはそれからなる(第8または第9の態様を参照)。
【0051】
一実施形態では、弾性成分または材料は、その間に成分または材料が拡張される第1フェーズ、その間に成分または材料がその元の形状を回復することなくまたは完全には回復することなく、あるいはその元の形状を部分的にしか回復することなく弛緩する第2フェーズ、およびその間に成分または材料がその元の形状を回復する、あるいはその元の形状を実質的に回復するかまたはほぼ完全に回復する、好ましくはその元の形状を連続的に回復する、より好ましくはその元の形状を連続的に減速しながら回復する第3フェーズを経ることができる。
【0052】
一実施形態では、弾性成分または材料は、弾性成分または材料が第1フェーズの間に拡張された全長の約15~80%、より好ましくは約20~75%、必要に応じて約15~30%または20~25%、必要に応じて約65~80または70~75%だけ、第2フェーズの間に部分的に回復する。
【0053】
一実施形態では、弾性成分または材料は、弾性成分または材料が第1フェーズの間に拡張された全長の約15~55%、好ましくは約20~50%、より好ましくは約25~45%、必要に応じて約15~30%または20~25%、必要に応じて約40~55または45~50%だけ、第2フェーズの間に部分的に回復する。
【0054】
弾性成分または材料の一実施形態では、弛緩、好ましくは第2フェーズ、より好ましくは第2および第3フェーズは、自ら開始される、好ましくは、外部刺激の不在下で自律的または自発的に開始される。
【0055】
一実施形態では、弾性材料または成分は、遅延性の弛緩挙動、好ましくは遅延性の連続的な弛緩挙動を有する。
【0056】
第6の態様では、本発明は、本発明による弾性成分または材料を含むまたはそれからなる弾性繊維、フィラメント、スレッド糸、またはヤーン糸を提供する(第5の態様を参照)。
【0057】
一実施形態では、弾性繊維、フィラメント、スレッド糸、またはヤーン糸は、本発明によるN-ジオールを含有するポリウレタン(PU)ポリマーを含むかまたはそれからなる(第8または第9の態様を参照)。
【0058】
一実施形態では、弾性繊維、フィラメント、スレッド糸、またはヤーン糸は、弾性成分または材料、またはPUポリマーからなる(例えば「裸の」スレッド糸またはヤーン糸という観点から)。
【0059】
一実施形態では、弾性スレッド糸またはヤーン糸は、弾性成分または材料、またはPUポリマーを含むまたはそれからなる芯部分および/またはカバー部分(例えばコーティング)を含むかまたはそれからなる。
【0060】
一実施形態では、弾性スレッド糸またはヤーン糸は、芯のスレッド糸またはヤーン糸と、芯のスレッド糸およびヤーン糸の周囲にそれぞれ巻かれたカバースレッド糸またはヤーン糸を含むかまたはそれからなり、該芯のスレッド糸またはヤーン糸および/または巻かれた芯のスレッド糸またはヤーン糸は、弾性成分または材料、またはPUポリマーを含むまたはそれからなる。
【0061】
一実施形態では、弾性繊維、フィラメント、スレッド糸、またはヤーン糸は、テキスタイルまたは生地、好ましくは圧縮基布に、より好ましくは本発明に従って加工されている。
【0062】
弾性繊維、フィラメント、スレッド糸、またはヤーン糸の一実施形態では、テキスタイルまたは生地は、ニット生地、交絡生地、織物、またはフェルトである。
【0063】
第7の態様では、本発明は、本発明による弾性成分または材料を含むまたはそれからなる圧縮基布、好ましくは圧縮ニット基布を提供する(第5の態様を参照)。
【0064】
一実施形態では、圧縮基布は、本発明によるN-ジオールを含有するポリウレタン(PU)ポリマーを含むかまたはそれからなる(第8または第9の態様を参照)。
【0065】
一実施形態では、圧縮基布は、ベーススレッド糸と緯スレッド糸を含むかまたはそれからなり、緯スレッド糸はベーススレッド糸の長さを通して上下に挿入されている。
【0066】
圧縮基布の一実施形態では、ベーススレッド糸および/または緯スレッド糸と、必要に応じて少なくとも1つの追加のスレッド糸、例えば充填スレッド糸は、弾性成分または材料、またはPUポリマーを含むかまたはそれからなる。
【0067】
一実施形態では、圧縮基布は、平編み生地または輪編み生地である。
【0068】
第8の態様では、本発明は、遅延性の連続的な弛緩挙動を有するポリウレタン(PU)ポリマーを提供し、弛緩は自ら開始される、好ましくは外部刺激の不在下で自律的または自発的に開始される。
【0069】
一実施形態では、PUポリマーは、第9の態様に定義されるような特徴またはその組合せをさらに有する。
【0070】
第9の態様では、本発明は、N-ジオールを含有するポリウレタン(PU)ポリマーを提供する。
【0071】
一実施形態では、PUポリマーは、少なくとも1つのN-ジオールモノマー成分、好ましくは2またはそれを超える、より好ましくは数個または多数のN-ジオールモノマー成分を含む。
【0072】
一実施形態では、PUポリマーは、非四級化PUポリマー(PU-N)である。これは好ましい実施形態である。
【0073】
一実施形態では、PUポリマーは、四級化PUポリマー(PU-N+)である。
【0074】
一実施形態では、PUポリマーは、四級化PUイオノマー(PU-N+)である。
【0075】
一実施形態では、四級化PUポリマーまたはイオノマーは、非四級化PUポリマーに由来する。
【0076】
一実施形態では、PUポリマーは、活発に(actively)拡張されることができ、解放時に弛緩できる。
【0077】
一実施形態では、PUポリマーは、即時の弛緩フェーズとそれに続く連続圧迫フェーズを含むまたはそれらからなる弛緩プロセスを経ることができる。
【0078】
一実施形態では、PUポリマーは、その間に材料が拡張される第1フェーズ、その間に材料がその元の形状を回復することなくまたは完全には回復することなく、あるいはその元の形状を部分的にのみ回復して弛緩する第2フェーズ、およびその間にPUポリマーがその元の形状を回復する、あるいはその元の形状を実質的に回復するかまたはほぼ完全に回復する、好ましくはその元の形状を連続的に回復する、より好ましくはその元の形状を連続的に減速しながら回復する第3フェーズを経ることができる。
【0079】
一実施形態では、PUポリマーは、第2フェーズの間に、PUポリマーが第1フェーズの間に拡張された全長の約15~80%、より好ましくは約20~75%、必要に応じて約15~30%または20~25%、必要に応じて約65~80または70~75%だけ部分的に回復する。
【0080】
一実施形態では、PUポリマーは、第2フェーズの間に、PUポリマーが第1フェーズの間に拡張された全長の約15~55%、好ましくは約20~50%、より好ましくは約25~45%、必要に応じて約15~30%または20~25%、必要に応じて約40~55または45~50%だけ部分的に回復する。
【0081】
PUポリマーの一実施形態では、弛緩、好ましくは第2フェーズ、より好ましくは第2および第3フェーズは自ら開始される、好ましくは外部刺激の不在下で自律的または自発的に開始される。
【0082】
PUポリマーの一実施形態では、弛緩は自ら開始されるか、または外部刺激の衝撃なしに開始される。
【0083】
PUポリマーの一実施形態では、弛緩は、解放されると即時に自ら開始される。
【0084】
PUポリマーの一実施形態では、弛緩は、室温で自ら開始される。
【0085】
一実施形態では、PUポリマーは、遅延性の弛緩挙動、好ましくは遅延性の連続的な弛緩挙動、より好ましくはN-ジオールを含有しないPUポリマーと比較して遅延性である弛緩挙動を示す。
【0086】
PUポリマーの一実施形態では、遅延性の弛緩挙動は、即時弛緩フェーズおよび/または連続圧迫フェーズの継続時間に関して遅延性である。
【0087】
PUポリマーの一実施形態では、遅延性の弛緩挙動は、即時弛緩フェーズおよび/または連続圧迫フェーズの間に達成される弛緩の相対量に関して遅延性である。
【0088】
PUポリマーの一実施形態では、遅延性の弛緩挙動は、弛緩プロセス全体の継続時間に関して遅延性である。
【0089】
PUポリマーの一実施形態では、遅延性の弛緩挙動は、弛緩の開始に関して遅延性ではない。
【0090】
一実施形態では、PUポリマーは、形状の回復が外部刺激の衝撃によって開始されるという効果に対して形状記憶を示さない。
【0091】
一実施形態では、四級化PUポリマーまたはイオノマーは、少なくとも1つのイオン基、好ましくは2またはそれを超える、より好ましくは数個または多数のイオン基を含む。
【0092】
一実施形態では、四級化PUポリマーまたはイオノマーは、PUポリマーの総モル数に対して、最大約15%、好ましくは約1、2、または3~10%の間、より好ましくは約4~10%の間、さらにより好ましくは約3~7%の間、または約7~11%の間、さらにより好ましくは約4~6%の間、または約8~10%の間、最も好ましくは約5%、または約9%のイオン基を含む。
【0093】
四級化PUポリマーまたはイオノマーの一実施形態では、イオン基は、四級化N含有基または第四級アミノ基、好ましくは四級化アミノアルキル基である。必要に応じて、四級化アミノアルキル基は、唯一の種類のイオン基である。
【0094】
四級化PUポリマーまたはイオノマーの一実施形態では、四級化アミノアルキル基は、異なる長さのアルキル基を含有する。好ましくは、四級化アミノアルキル基は、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、およびオクチル基からなる群から選択されるアルキル基を含有する。より好ましくは、四級化アミノアルキル基は、ブチル基を含有する。最も好ましくは、四級化アミノアルキル基は1つのブチル基および2つのメチル基を含有する(-N+-(CH3)2(CH2-CH2-CH2-CH3)。
【0095】
四級化PUポリマーまたはイオノマーの一実施形態では、四級化アミノアルキル基は、N-ジオールモノマー成分の一部である。
【0096】
一実施形態では、PUポリマーは、ジオールモノマー成分およびイソシアネートモノマー成分からなる少なくとも1つの分子単位、好ましくは2またはそれを超える分子単位、より好ましくは数個または多数の分子単位を含むかまたはそれからなる。
【0097】
PUポリマーの一実施形態では、ジオールモノマー成分およびイソシアネートモノマー成分は、ウレタン結合によって結合されている。
【0098】
PUポリマーの一実施形態では、(ジオールモノマー成分の由来する)ジオールモノマーは、N-ジオール、1,4-ブタンジオール(BD)およびポリ(テトラヒドロフラン)(P(THF))からなる群から選択される。
【0099】
一実施形態では、PUポリマーは、N-ジオールモノマー成分とイソシアネートモノマー成分からなる第1の分子単位、1,4-ブタンジオールモノマー成分とイソシアネートモノマー成分からなる第2の分子単位、およびP(THF)モノマー成分とイソシアネート成分からなる第3の分子単位を含むかまたはそれからなる。
【0100】
PUポリマーの一実施形態では、第1、第2および第3の分子単位は、それぞれウレタン結合によって結合されている。
【0101】
PUポリマーの一実施形態では、第3、第2および第3の分子単位中のイソシアネートモノマー成分は同一であるかまたは異なっている。好ましくは、イソシアネートモノマー成分は同じである。
【0102】
PUポリマーの一実施形態では、(イソシアネートモノマー成分の由来する)イソシアネートモノマーは、メチレンジ(フェニルイソシアネート)(MDI)である。
【0103】
PUポリマーの一実施形態では、N-ジオールは、ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,3’-((2-(ジメチルアミノ)エチル)アザンジイル)-ジプロピオネートまたはN’,N’-ビス(3-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-オキソプロピル)-N,N-ジメチルエチレンジアミンである。
【0104】
PUポリマーの一実施形態では、四級化N-ジオールモノマー成分は、四級化可能なN-ジオールモノマー成分の四級化によって生成される。
【0105】
PUポリマーの一実施形態では、(四級化可能なN-ジオールモノマー成分の由来する)四級化可能なN-ジオールモノマーは、2-ジメチルアミノエチルアミン(DMAE)および2-ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)から、好ましくは1:2(DMAE:HEA)の比で、より好ましくはテトラヒドロフラン(THF)の存在下、45℃で24時間で生成される。
【0106】
PUポリマーの一実施形態では、N-ジオール、P(THF)およびBDモノマー成分の相対量は、約50:25:25%である。
【0107】
一実施形態では、四級化PUポリマーまたはイオノマーは、PUポリマーの総モル数に対して、最大約15%、好ましくは約1、2、または3~10%の間、より好ましくは約4~10%の間、さらにより好ましくは約3~7%の間、または約7~11%の間、さらにより好ましくは約4~6%の間、または約8~10%の間、最も好ましくは約5%、または約9%のイオン基の四級化N含有基量を含む。
【0108】
一実施形態では、PUポリマー、好ましくは非四級化PUポリマーのガラス転移温度Tgは、約20~60℃の間、好ましくは約30~50℃の間、より好ましくは約35~45℃の間、最も好ましくは約40℃である。
【0109】
一実施形態では、PUポリマー、好ましくは四級化PUポリマー、より好ましくは約29%で四級化されているPUポリマーのガラス転移温度Tgは、約40℃および/または70℃である。
【0110】
一実施形態では、前記ガラス転移温度は、動的機械的熱分析(DMTA)によって測定される。
【0111】
一実施形態では、PUポリマー、好ましくは非四級化PUポリマーの分解温度は、約150~200℃の間、好ましくは約170~195℃の間、より好ましくは約180~190℃の間、最も好ましくは約185℃である。
【0112】
一実施形態では、PUポリマー、好ましくは非四級化PUポリマーの破壊ひずみは、約1,300~1,450dL[%]の間、より好ましくは約1,350~1,400dL[%]の間、より好ましくは約1,380~1,395dL[%]の間、最も好ましくは約1,388dL[%]である。
【0113】
一実施形態では、非四級化PUポリマーは、少なくとも1つ、2つまたはそれを超える、または数個の四級化PUポリマーまたはイオノマーとブレンドされる。
【0114】
一実施形態では、四級化PUポリマーまたはイオノマーは、少なくとも1つ、2つまたはそれを超える、または数個の非四級化PUポリマーとブレンドされる。
【0115】
一実施形態では、非四級化PUポリマーおよび/または四級化PUポリマーまたはイオノマーは、エラスタンとブレンドされる。
【0116】
一実施形態では、PUポリマーは、繊維またはフィラメント形成性であり、好ましくは繊維形成性である。
【0117】
一実施形態では、PUポリマーは、スレッド糸またはヤーン糸を形成するかまたはそれに加工されている。
【0118】
一実施形態では、PUポリマーは、テキスタイルまたは生地、好ましくは圧縮生地、必要に応じて圧縮基布に加工されている。
【0119】
第10の態様では、本発明は、
(a)N-ジオールを含有する非四級化ポリウレタン(PU)ポリマー(PU-N);
および/または
(b)四級化N-ジオールを含有する四級化ポリウレタン(PU)ポリマーまたはイオノマー(PU-N+);
および
(c)エラスタン
を含むまたはそれからなるブレンドを提供する。
【0120】
一実施形態では、ブレンドは、約5~40%(重量による)の間の非四級化PUポリマーまたは四級化PUポリマーまたはイオノマーと、約60~95%(重量による)の間のエラスタンを含むかまたはそれからなる。
【0121】
一実施形態では、ブレンドは、約10~30%(重量による)の間の非四級化PUポリマーまたは四級化PUポリマーまたはイオノマーと、約70~90%(重量による)の間のエラスタンを含むかまたはそれからなる。
【0122】
一実施形態では、ブレンドは、約30%(重量による)の非四級化PUポリマーまたは四級化PUポリマーまたはイオノマーと、70%(重量による)のエラスタンからなる。
【0123】
一実施形態では、そして好ましい実施形態では、ブレンドは、約10%(重量による)の非四級化PUポリマーまたは四級化PUポリマーまたはイオノマーと、90%(重量による)のエラスタンからなる。この実施形態の利点は、ブレンド中の多量の弾性ポリマーが、市販されており、比較的安価なエラスタンであることである。
【0124】
一実施形態では、好ましい実施形態では、ブレンドは、非四級化PUポリマーとエラスタンを含むかまたはそれからなる。この実施形態の利点は、四級化のプロセスステップを回避することができることである。
【0125】
一実施形態では、ブレンドは、少なくとも1つの、2つまたはそれを超える、または数個の非四級化PUポリマーとエラスタンを含むかまたはそれからなる。
【0126】
一実施形態では、ブレンドは、繊維またはフィラメント形成性であり、好ましくは繊維形成性である。
【0127】
一実施形態では、ブレンドは、スレッド糸またはヤーン糸を形成するかまたはそれに加工されている。
【0128】
一実施形態では、ブレンドは、テキスタイルまたは生地、好ましくは圧縮生地、必要に応じて圧縮基布に加工されている。
【0129】
ブレンドの一実施形態では、非四級化PUポリマーおよび/または四級化PUイオノマーは、本発明によるものである(第8または第9の態様を参照)。
【0130】
一実施形態では、ブレンドは、その間にブレンド材料が拡張される第1フェーズ、その間にブレンド材料がその元の形状を回復することなくまたは完全には回復することなく、あるいはその元の形状を部分的にのみ回復して弛緩する第2フェーズ、およびその間にブレンド材料がその元の形状を回復する、あるいはその元の形状を実質的に回復するかまたはほぼ完全に回復する、好ましくはその元の形状を連続的に回復する、より好ましくはその元の形状を連続的に減速しながら回復する第3フェーズを経ることができる。
【0131】
一実施形態では、ブレンドは、第2フェーズの間に、ブレンド材料が第1フェーズの間に拡張された全長の約15~80%、より好ましくは約20~75%、必要に応じて約15~30%または20~25%、必要に応じて約65~80または70~75%だけ部分的に回復する。
【0132】
一実施形態では、ブレンドは、第2フェーズの間に、ブレンド材料が第1フェーズの間に拡張された全長の約40~80%、好ましくは約50~75%、必要に応じて約50~60%または60~75%だけ部分的に回復する。
【0133】
ブレンドの一実施形態では、弛緩、好ましくは第2フェーズ、より好ましくは第2および第3フェーズは自ら開始される、好ましくは外部刺激の不在下で自律的または自発的に開始される。
【0134】
第11の態様では、本発明は、圧迫製品、好ましくは医療用圧迫製品、またはそのような製品を製造するためのプロセスにおける、本発明による弾性成分または材料(第5の態様を参照)、弾性繊維、フィラメント、スレッド糸、またはヤーン糸(第6の態様を参照)、圧縮基布(第7の態様を参照)、N-ジオールを含有するポリウレタン(PU)ポリマー(第8または第9の態様を参照)、またはブレンド(第10の態様を参照)の使用を提供する。
【0135】
第12の態様では、本発明は、好ましくは本発明に従って圧迫製品、弾性成分または材料、弾性繊維、フィラメント、スレッド糸、またはヤーン糸、あるいは圧縮基布を製造するためのプロセスにおける、本発明によるN-ジオールを含有するポリウレタン(PU)ポリマー(第8または第9の態様を参照)の使用を提供する。
【0136】
第13の態様では、本発明は、好ましくは本発明に従って圧迫製品、弾性成分または材料、弾性繊維、フィラメント、スレッド糸、またはヤーン糸、あるいは圧縮基布を製造するためのプロセスにおける、本発明によるブレンド(第10の態様を参照)の使用を提供する。
【0137】
第14の態様では、本発明は、
(i)四級化可能なN-ジオールを調製するステップ;
(ii)ステップ(i)で製造した四級化可能なN-ジオールを含有するPUポリマーを調製するステップ;
および、必要に応じて、
(iii)ステップ(ii)で製造したPUポリマーを四級化するステップと
を含む、N-ジオールを含有するポリウレタン(PU)ポリマーを製造するためのプロセスを提供する。
【0138】
プロセスの一実施形態では、PUポリマーは、本発明によるPUポリマーである。
【0139】
一実施形態では、プロセスのステップ(ii)において、四級化可能なN-ジオールモノマーおよび1,4-ブタンジオールが最初に提供され、ポリ(テトラヒドロフラン)がその後に添加される。この実施形態は好ましい。
【0140】
一実施形態では、プロセスのステップ(ii)において、四級化可能なN-ジオールモノマーおよびポリ(テトラヒドロフラン)が最初に提供され、1,4-ブタンジオールがその後に添加される。
【0141】
第15の態様では、本発明は、本発明のプロセスに従って製造されたN-ジオールを含有するポリウレタン(PU)ポリマーを提供する。
【0142】
最後に、本発明は、特定の態様の実施形態に関して上に記載したような個々の特徴またはその組合せを、別の記載された態様下の実施形態でも同様に実現可能と考える。そのような実施形態は、本願の全内容から直接的かつ明確に導き出すことができ、当業者は、そのような実施形態が出願時の本願の内容に属することを理解するであろう。
特定の実施形態では、例えば、以下が提供される:
(項目1)
弾性成分または材料を含む圧迫製品であって、前記弾性成分または材料は、好ましくは遅延性の連続的な弛緩挙動を有し、
前記弾性材料は、圧迫力または支持力または局所圧力を被験者の身体の一部分に加えることができ、
前記弾性材料はさらに、その間に前記材料が拡張される第1フェーズ、その間に前記成分または材料がその元の形状を回復することなく弛緩する第2フェーズ、およびその間に前記成分または材料がその元の形状を連続的に減速しながら回復する第3フェーズを経ることができ、
ここで、弛緩は、自ら開始される、好ましくは外部刺激の不在下で自律的または自発的に開始される、圧迫製品。
(項目2)
好ましくは項目1に記載の圧迫製品であって、
(a)N-ジオールを含有する非四級化ポリウレタン(PU)ポリマー(PU-N);
および/または
(b)四級化N-ジオールを含有する四級化ポリウレタン(PU)ポリマーまたはイオノマー(PU-N+);
および、必要に応じて、
(c)エラスタン
を含むまたはそれからなる弾性成分または材料を含む、圧迫製品。
(項目3)
好ましくは医療用圧迫製品、より好ましくは、圧迫靴下、好ましくは圧迫ストッキング、ソックス、ニーソックス、タイツ、パンティストッキング、またはマタニティパンティストッキング、圧迫膝当て、圧迫アームスリーブ、圧迫ウエストアタッチメント、ベルトまたはガードル、圧迫包帯、身体支持包帯、補装具、人工装具のライナー、圧迫創傷被覆材、圧迫プラスターまたはパッチ、および圧迫衣類からなる群から選択される、項目1または2に記載の圧迫製品。
(項目4)
非四級化PUポリマーと、必要に応じて、エラスタンを含むかまたはそれからなる弾性成分または材料を含む、項目1~3のいずれか一項に記載の圧迫製品。
(項目5)
静脈学、整形外科、フットケア、外科手術、術後ケア、外傷管理、創傷ケア、またはスポーツの分野における、あるいは、ムスコ-ヴェノス(musco-venous)ポンプ機能障害、静脈循環不全、静脈不全、好ましくは慢性静脈不全、浮腫、静脈炎、血栓症、好ましくは深部静脈血栓症、静脈塞栓症、リンパ浮腫、潰瘍、好ましくは下腿の潰瘍、脚の疼痛、静脈瘤、くも状静脈、または「エコノミークラス症候群」(ECS)の処置または予防または管理のための、項目1~4のいずれか一項に記載の圧迫製品の使用。
(項目6)
弛緩が自ら開始される、好ましくは外部刺激の不在下で自律的または自発的に開始される、遅延性の連続的な弛緩挙動を有するポリウレタン(PU)ポリマー。
(項目7)
好ましくは項目6に記載のN-ジオールを含有するポリウレタン(PU)ポリマーであって、前記PUポリマーが、少なくとも1つのN-ジオールモノマー成分、好ましくは2またはそれを超える、より好ましくは数個または多数のN-ジオールモノマー成分を含有する、ポリウレタン(PU)ポリマー。
(項目8)
非四級化PUポリマー(PU-N)である、項目7に記載のポリウレタン(PU)ポリマー。
(項目9)
四級化PUポリマー(PU-N+)または四級化PUイオノマー(PU-N+)である、項目7に記載のポリウレタン(PU)ポリマー。
(項目10)
前記N-ジオールモノマー成分が、ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,3’-((2-(ジメチルアミノ)エチル)アザンジイル)-ジプロピオネートまたはN’,N’-ビス(3-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-オキソプロピル)-N,N-ジメチルエチレンジアミンに由来する、項目7から9のいずれか一項に記載のポリウレタン(PU)ポリマー。
(項目11)
N-ジオールモノマー成分とイソシアネートモノマー成分からなる第1の分子単位、1,4-ブタンジオールモノマー成分とイソシアネートモノマー成分からなる第2の分子単位、およびP(THF)モノマー成分とイソシアネート成分からなる第3の分子単位を含むまたはそれからなる、項目7から10のいずれか一項に記載のポリウレタン(PU)ポリマー。
(項目12)
N-ジオール、P(THF)および1,4-ブタンジオールモノマー成分の相対量が、約50:25:25%である、項目11に記載のポリウレタン(PU)ポリマー。
(項目13)
前記四級化PUポリマーまたはイオノマーが、前記PUポリマーの総モル数に対して、最大約15%、好ましくは約1、2、または3~10%の間、より好ましくは約4~10%の間、さらにより好ましくは約3~7%の間、または約7~11%の間、さらにより好ましくは約4~6%の間、または約8~10%の間、最も好ましくは約5%、または約9%のイオン基の四級化N含有基量を含む、項目9から12のいずれか一項に記載のポリウレタン(PU)ポリマー。
(項目14)
ガラス転移温度Tgが、約20~60℃の間、好ましくは約30~50℃の間、より好ましくは約35~45℃の間、最も好ましくは約40℃である、項目8および10から12のいずれか一項に記載のポリウレタン(PU)ポリマー。
(項目15)
(a)N-ジオールを含有する非四級化ポリウレタン(PU)ポリマー(PU-N);
および/または
(b)四級化N-ジオールを含有する四級化ポリウレタン(PU)ポリマーまたはイオノマー(PU-N+);
および
(c)エラスタン
を含むまたはそれからなるブレンド。
(項目16)
約5~40%(重量による)の間の非四級化PUポリマーと、約60~95%(重量による)の間のエラスタンを含むまたはそれからなる、項目15に記載のブレンド。
(項目17)
圧迫製品、弾性成分または材料、弾性繊維、フィラメント、スレッド糸、またはヤーン糸、または圧縮基布を製造するためのプロセスにおける、項目7から14のいずれか一項に記載のポリウレタン(PU)ポリマーの使用、または項目15または16に記載のブレンドの使用。
(項目18)
N-ジオールを含有するポリウレタン(PU)ポリマーを製造するためのプロセスであって、前記PUポリマーが、少なくとも1つのN-ジオールモノマー成分、好ましくは2またはそれを超える、より好ましくは数個または多数のN-ジオールモノマー成分を含有し、
(i)四級化可能なN-ジオールを調製するステップと;
(ii)ステップ(i)で作製した四級化可能なN-ジオールを含有するPUポリマーを調製するステップと;
必要に応じて、
(iii)ステップ(ii)で作製した前記PUポリマーを四級化するステップと
を含む、プロセス。
(項目19)
前記N-ジオールモノマー成分が、ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,3’-((2-(ジメチルアミノ)エチル)アザンジイル)-ジプロピオネートまたはN’,N’-ビス(3-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-オキソプロピル)-N,N-ジメチルエチレンジアミンに由来する、項目18に記載のプロセス。
(項目20)
項目18または19に記載のプロセスに従って製造された、N-ジオールを含有するポリウレタン(PU)ポリマー。
【図面の簡単な説明】
【0143】
以下に、添付図面を考慮した以下の実施例によって本発明をさらに説明する。
【0144】
【
図1】
図1は、N-ジオールを含有するポリウレタン(PU)ポリマー(PU-NまたはPU-N+)が、伸び-弛緩の経過を経て、最終的に元の形状を回復する、活発な伸びのフェーズ(1)、即時弛緩のフェーズ(2)、および連続圧迫のフェーズ(3)を例示する、線図(A)および(B)を示す。
【0145】
【
図2】
図2は、ユーザーによる適用手順(ここでは、圧迫ストッキングの着/脱)に関連するフェーズ(1)~(3)(
図1参照)を示す。
【0146】
【
図3】
図3は、(A)エラスタンおよび(B)N-ジオールを含有しない従来のポリウレタンポリマー(50% P(THF)、50% BD)の弛緩挙動を示す。
【0147】
【
図4】
図4は、2-ジメチルアミノエチルアミン(DMAE)のN-ジオールと2-ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)の化学合成を例示する反応スキームを示す。
【0148】
【
図5】
図5は、N-ジオール、1,4-ブタンジオール(BD)、ポリ(テトラヒドロフラン)(P(THF))、およびメチレンジイソシアネート(MDI)からのPU-Nの化学合成を例示する反応スキームを示す。
【0149】
【
図6】
図6は、結果としてPU-N+が生成される、1-ブロモブタンを使用するPU-Nの四級化を例示する反応スキームを示す。
【0150】
【
図7】
図7は、異なる比のモノマーからなるPU-N+のサンプルのGPC(溶離剤:THF)による分析を示す。
【0151】
【
図8】
図8は、異なる比のモノマーからなるPU-N+のサンプルのTGA(25~800℃、10K/分、N
2)による分析を示す。
【0152】
【
図9】
図9は、異なる添加順序のモノマーにより生成されたPU-N+のサンプルのGPC(溶離剤:THF)による分析を示す。
【0153】
【
図10】
図10は、異なる添加順序のモノマーにより生成されたPU-NのサンプルのTGA(25~800℃、10K/分、N
2)による分析を示す。
【0154】
【
図11】
図11は、PU-N+に含まれるアルキルアミノ基の四級化の原理を例示する。
【0155】
【
図12】
図12は、PU-NおよびPU-N+のサンプルのTGA(25~800℃、10K/分、空気中)による分析を示す。
【0156】
【
図13A】
図13は、エラスタン(A)、PU-N(B)、(D)、およびPU-N+(C)、(E)のDMTAによる分析を示す。 E’[Pa]=動的弾性率、tanδ=機械損失係数、T
g=ガラス転移温度。
【
図13B】
図13は、エラスタン(A)、PU-N(B)、(D)、およびPU-N+(C)、(E)のDMTAによる分析を示す。 E’[Pa]=動的弾性率、tanδ=機械損失係数、T
g=ガラス転移温度。
【
図13C】
図13は、エラスタン(A)、PU-N(B)、(D)、およびPU-N+(C)、(E)のDMTAによる分析を示す。 E’[Pa]=動的弾性率、tanδ=機械損失係数、T
g=ガラス転移温度。
【
図13D】
図13は、エラスタン(A)、PU-N(B)、(D)、およびPU-N+(C)、(E)のDMTAによる分析を示す。 E’[Pa]=動的弾性率、tanδ=機械損失係数、T
g=ガラス転移温度。
【
図13E】
図13は、エラスタン(A)、PU-N(B)、(D)、およびPU-N+(C)、(E)のDMTAによる分析を示す。 E’[Pa]=動的弾性率、tanδ=機械損失係数、T
g=ガラス転移温度。
【0157】
【
図14】
図14は、エラスタン(A)またはPU-N+(B)による応力ひずみ試験の結果を示す。
【0158】
【
図15】
図15は、エラスタン(A)または30%エラスタンとブレンドしたPU-N+(B)による応力ひずみ試験の結果を示す。
【0159】
【
図16】
図16は、PU-N(A)と、四級化度が29%(B)、9%(C)、または5%(D)のPU-N+(B~D)の弛緩挙動を示す。
【0160】
【
図17】
図17は、フィラメントへの粘着を防止するために、適した粉末、例えばSiO
2で粉末処理されたフィラメントに紡糸されたαPU-N+(すなわち、四級化ポリマー)の顕微鏡画像(倍率500倍)を示す。
【0161】
【
図18】
図18は、PU-N+のフィラメントによる応力ひずみ試験の結果を示す。
【0162】
【
図19】
図19は、PU-N+フィラメントの弛緩挙動を例示する。
【発明を実施するための形態】
【0163】
本発明は、数ある中でも、N-ジオールを含有する、フィラメント形成性ポリウレタン(PU)ポリマーを含む圧迫製品を提供する。このPUポリマーは、非四級化PUポリマー(PU-N)の形態で存在してもよいし、PUイオノマーとも呼ばれる、N-ジオール基が四級化されている四級化PUポリマー(PU-N+)の形態で存在してもよい。いずれの状態でも、PUポリマーは、遅延性の連続的な弛緩挙動を室温で示す。
【0164】
そのような圧迫製品は、ユーザー側の物理的な労力をあまりかけずに、手で簡単に拡張することができる(
図1、2、フェーズ(1))。必要に応じて、拡張は、拡張手段、例えばハンドバッグまたはポケット互換拡張手段の助けによって支援または達成することができる。外部拡張力が止まると(「解放」)、圧迫製品はその元の形状に戻るために弛緩および再収縮を始める(
図1、フェーズ(2))。
【0165】
しかしながら、元の形状の回復は経時的に直線的には進行せず、ますます遅延する。弛緩は、最初はより直線的に進行するが(
図1、フェーズ(2))、弛緩速度はその後の例えば5分間の間に減速し(
図1、フェーズ(3))、次の10分およびそれを超えて数時間までの間にさらに一層減速する(
図1、フェーズ(3))。
【0166】
従って、本発明のN-ジオール含有PUポリマーを含む圧迫製品は、ユーザーに、身体の一部分、例えば圧迫ストッキングの場合には脚に、広げた形状の製品を装着または適用するのに適した時間を提供する(
図2)。多くの従来の圧迫製品がそうであるように、適用中に製品を外部拡張力下に置く必要はない。次に、本発明の製品は、製品を適用した身体のその一部分にゆっくりと増加する圧迫圧力を及ぼす。これは、急激な圧力の高まりよりもユーザーにとって快適であり、医療の観点からもこれは好ましい。脱衣するかまたは脱ぐためには、圧迫製品を再び拡張し(例えば圧迫ストッキングの場合には、段階的に上から下に向かって)、脱ぐかまたは取り外す。
【0167】
このように、本発明の圧迫製品は、適用時の快適性の向上に関連しており、これはユーザーのコンプライアンスにプラスの影響を与える。
【0168】
特に、本発明による伸張したPUポリマーの弛緩は、「自ら開始される」、すなわち、自律的にまたは自発的にまたは本質的に、すなわち、外部刺激または活性化源によって引き起こされずに、PUポリマーが解放されるとすぐに始まる。従って、圧迫製品は、追加の技術的手段も面倒で時間のかかる操作も必要とせずに適用できる。
【0169】
最終的に、本発明の圧迫製品を使用すると、快適で便利なだけでなく費用効率も高い。
【0170】
従来の弾性ポリマーと比較して、本発明のN-ジオール含有PUポリマーの顕著な弛緩挙動は、
図3を参照して説明される。エラスタンのサンプルを、例えば固定速度で元の長さの10mmから最終長さの60mmまで伸張させて解放すると(すなわち、伸張力の即時終止)、エラスタンはすぐにその元の長さを回復する(
図3A)。従来の市販のPUポリマー(すなわち、N-ジオールを含まない)は、伸びた長さの約84%を即時に回復するが、数日間は約16%伸びたままになる。すなわち、その元の長さを回復しない(
図3B)。
【0171】
対照的に、
図16に示されるように、本発明のPUポリマーは、非四級化であろうと(異なる程度に)四級化されていようと、即時の弛緩フェーズ(
図1のフェーズ2)と、連続圧迫の弛緩フェーズ(
図1のフェーズ3)からなる弛緩挙動を示す。
【0172】
言い換えれば、エラスタンおよび従来のPUポリマーと比較して、本発明のPUポリマーは、依然として連続的であるが遅延性の弛緩挙動を示す。さらに、従来のPUポリマーとの比較によって実証されるように、この遅延性の弛緩挙動は、N-ジオールの存在に依存する。
【0173】
さらに、遅延性の弛緩挙動は、本発明のPUポリマーの組成を(モノマー成分、例えばモノマーの比に関して)修正することにより、四級化により、そして四級化の程度により、制御することができる。例えば、本発明のPUポリマーの低度の四級化(例えば9%または5%)は、対応する非四級化PUポリマー、および29%で四級化されたPU-N+ポリマーの弛緩と比較して、より速い弛緩をもたらした。
【0174】
最後に、本発明のPUポリマーの弛緩挙動は、エラスタンを混合することより、さらに修正することができる。逆に、本発明のPUポリマーの混合により、エラスタンに遅延性の弛緩挙動を与えることができる。そのようなエラスタンとのブレンドは、それらの相対的な組成に応じて、例えば圧迫製品の分野での使用の新しい可能性を開く。
【0175】
定義
本明細書において使用される用語「N-ジオールを含有するポリウレタン(PU)ポリマー」または「N-ジオール含有ポリウレタン(PU)ポリマー」には、以下が含まれる:
(1) 「非四級化ポリウレタン(PU)ポリマー」、すなわち、アミノ基が四級化されておらず三級アミノ基であるN-ジオールを含有するPUポリマー。簡略化のために、「PU-N」が時々使用される。
(2) 「四級化ポリウレタン(PU)ポリマー」または「四級化ポリウレタン(PU)イオノマー」または「ポリウレタン(PU)イオノマー」、すなわち、アミノ基が少なくとも部分的に四級化されているN-ジオールを含有するPUポリマー。簡略化のために、「PU-N+」が時々使用される。
【0176】
本明細書において使用される用語「四級化」は、(三級アミノ基の)窒素原子がアルキル化によって3つの結合から4つの結合になり、4重置換誘導体(すなわち、四級アンモニウム化合物)を生成する化学反応に関する。結果として得られる化合物は、「四級化(された)」と呼ばれることがある。
【0177】
本明細書において使用される「四級化の程度」は、所与化合物中のアミノアルキル基の総数に対する四級アミノアルキル基の割合を示す。
【0178】
「イオノマー」は、ポリマー骨格鎖に沿って、またはペンダント基として、低mol%のイオン基を有するイオン含有ポリマーと定義される。イオン基の量により、イオノマーと多価電解質が区別される。通常、イオノマーは、約15mol%までのイオン含有量を含むと定義される。
【0179】
イオノマーは、先行技術に記載されている、例えば、ガスフィルター用のエチレン/カルボン酸イオノマー繊維(米国特許第5,882,519号)、またはフィルムおよびラミネート用のポリウレタンイオノマー(米国特許第4,956,438号)。さらなる情報は、例えば、Dieterichら(1970)、Angew.Chem.internat.Edit.9:40-50;Kimら(1998)、Polymer 39:2803-2808;Zhuら(2008)、Polym.Adv.Technol.19:1745-1753にも見出すことができる。
【0180】
用語「弾性」(または「弾性の」)は、材料が歪みの影響または変形力に抵抗し、その影響または力が除去されると元のサイズおよび形状に戻る能力を定義する。ゴムまたは他のポリマーの場合、弾性は、力が加えられた場合にポリマー鎖が伸張することによってもたらされる。
【0181】
本明細書において使用される用語「拡張」には、弾性材料の形状の伸張、拡大、延長、伸び、歪み、変形、またはその他の非破壊的変化が含まれる。用語「拡張」は、圧迫製品または生地の変形に関してより多く使用され、用語「伸張」または「伸び」は、弾性ポリマーまたは繊維に関してより多く使用される。
【0182】
本明細書において一部の実施形態で使用される用語「圧迫製品」とは、患者に着用されると、着用者に圧迫を及ぼす製品を指す。一般に、圧迫製品は、着用されている間に圧迫製品と接触する患者の身体部位にそのような圧迫を及ぼす。また、一般に、圧迫製品は隆起した製品ではなく、その元の形状に戻る傾向や性質を維持しながら、変形、伸張、拡張されることが可能である。本明細書において使用される用語「弛緩」とは、以前に拡張された弾性材料の、解放後の挙動および状態を指す。
【0183】
本明細書において使用される用語「解放」とは、拡張力の終止あるいはそのような力が終止または停止した瞬間を指す。
【0184】
本明細書において使用される弛緩プロセスの「第1フェーズ」とは、「拡張フェーズ」、「伸張フェーズ」または「活発な伸びフェーズ」を指す。このフェーズの間には、拡張力または伸張力が弾性材料(またはPUポリマーまたはブレンド)に次第に加えられる。修正された形状または伸ばされた長さを維持するために、拡張力または伸張力をさらに加える必要がある。
【0185】
「第2フェーズ」とは、即時弛緩のフェーズまたは「即時の弛緩フェーズ」を指す。このフェーズの間には、弾性材料(またはPUポリマーまたはブレンド)の元の形状または長さは部分的にしか回復しない。弛緩はより線形に進行するので、このフェーズは「線形フェーズ」または「安定フェーズ」と呼ばれることもある。この第2フェーズは、いったん拡張力または伸張力が終止すると、すなわち外部刺激がなくなると、自ら開始する。
【0186】
「第3フェーズ」とは、連続弛緩のフェーズまたは「連続的な弛緩フェーズ」を指す。このフェーズの間に、弾性材料(またはPUポリマーまたはブレンド)は、その元の形状または長さを連続的にまたは徐々に回復する。特に、連続的または緩やかな回復は、減速、または遅延の増加、または増大する遅れ、または進行性の減速によって特徴付けられる。言い換えれば、第3フェーズは、弛緩が異なる速度で進行するいくつかのサブフェーズに分割してよい(例えば、少なくとも例えば約5分続く第1のサブフェーズと、例えば約10分から6時間まで続く第2のサブフェーズ)。第3フェーズも自ら開始され、第2フェーズを継続する。特に圧迫製品の文脈において、このフェーズは「連続圧迫フェーズ」とも呼ばれる。
【0187】
第3フェーズの文脈において、「その元の形状を回復する」、「その元の形状を実質的に回復する」、または「その元の形状をほぼ完全に回復する」という表現は、弾性材料(またはPUポリマーまたはブレンド)が、第1フェーズの間に弾性材料が拡張された形状または全長の少なくとも約85~100%、好ましくは約90~100%、より好ましくは約95~100%、さらにより好ましくは100±5%、最も好ましくは約100%を回復することを意味する。あるいは、前記表現は、弾性材料が、その元の形状または元の長さ、すなわち、拡張される前のその形状または長さの少なくとも約100~150%、好ましくは約100~125%、より好ましくは約100~110%、さらにより好ましくは100±5%、最も好ましくは約100%まで回復することを意味する。
【0188】
本明細書において使用される用語「遅延性の弛緩挙動」または「遅延性の連続的な弛緩挙動」は、弛緩挙動が基準弛緩挙動と比較して時間的に遅延性であることを意味する。本明細書において、基準材料は、N-ジオールを含有しない任意の弾性ポリマーまたはPUポリマーであってよい。遅延は、弛緩プロセスの1つまたはそれを超えるフェーズの継続時間、または弛緩プロセス全体の継続時間に関連し得る。
【0189】
「遅延性の連続的な弛緩挙動」に関連する用語「連続的な」は、弛緩プロセスが線形にまたは次第に遅れながら連続的に進行することを意味し、いずれの場合でも、例えば、中間の形状が一時的に存続することはない。
【0190】
本明細書において使用される、特定の化合物「に由来するモノマー成分」または特定の化合物に「に基づく」という表現は、その化合物がポリマーを調製するために使用されたことを意味する。従って、モノマー成分は化合物に対応するが、化合物がポリマー内で結合している状態にある。
【0191】
数字またはデータとともに本明細書において使用される用語「約」は、それぞれの技術分野で通常考慮されるべき偏差(±)を含むことを意図する。
【0192】
略語
BD 1,4-ブタンジオール
DBTL ジブチルスズジラウレート
DMAE 2-ジメチルアミノエチルアミン
DMTA 動的機械的熱分析
GPC ゲル浸透クロマトグラフィー
HEA 2-ヒドロキシエチルアクリレート
MDI メチレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート
PU ポリウレタン
PU-N N-ジオールを含有するポリウレタン、非四級化
PU-N+ 四級化N-ジオールを含有するポリウレタン、四級化ポリウレタン
P(THF) ポリ(テトラヒドロフラン)、ポリ(テトラメチレンエーテルグリコール)1000
Tg ガラス転移温度
TGA 熱重量分析
THF テトラヒドロフラン
【実施例】
【0193】
手短に言えば、実施例1および2は、N-ジオール含有PUポリマーの調製に関し、実施例5は、対応する四級化PUポリマーの調製に関する。一般に、記載されている調製プロセス、すなわち実験室規模で開発された調製プロセスは、工業規模に加工されるのに適している。
【0194】
実施例3および4は、N-ジオール含有PUポリマーの特徴付けを分子量および分解温度に関して記載する;実施例6は、四級化PUポリマーの特徴付けを記載する。
【0195】
実施例7および8は、N-ジオール含有PUポリマーおよびエラスタンの比較をガラス転移温度(Tg)および引張強さ(弾性率、破壊ひずみ)に関して行う。
【0196】
実施例9は、N-ジオール含有PUポリマーとエラスタンのブレンドに関し、その引張強さを記載する。
【0197】
実施例10および11は、N-ジオール含有PUポリマー、およびエラスタンとのブレンドの弛緩挙動をそれぞれ記載する。
【0198】
表16に、以下の実施例の一部に記載および考察される、例となるポリマーサンプルを特徴付ける特徴が要約されている。
【0199】
実施例1: N-ジオールの調製
化学物質
N,N-ジメチルエチレンジアミン(DMEA):CAS:108-00-9、Acros、使用前に蒸留;2-ヒドロキシエチルアクリレート(HEA):CAS:818-61-1、TCI、>95%;THF:工業グレード、使用前に乾燥および蒸留;Et2O:工業グレード、使用前に乾燥および蒸留。
【0200】
【0201】
手順
115.3ml(1.099mol)のHEAおよび100mlのTHFを、不活性ガス(アルゴン)下、室温(20±2℃)で500mlの三口丸底フラスコに取った。60ml(0.594mol)のDMEAをこの溶液に滴下により添加した。混合物を油浴中45℃で24時間撹拌した。この後、溶媒を除去し、残留物(黄色がかった液体)をEt2O(4×100mlのEt2O、生成物はEt2Oに溶解しない)で抽出した。生成物を50℃で真空乾燥した。収量:132g、75%。
【0202】
生成物を1H-NMR分光法によって特徴付けた。
【0203】
【0204】
実施例2: N-ジオールを含有するポリウレタン(PU)ポリマー(PU-N)の調製
化学物質
1,4-ブタンジオール(BD):CAS:110-63-4、使用前に蒸留;ポリ(THF)1000:CAS:25190-60-1、Mn(数平均モル質量)=1,000g/mol、Merck;4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI):CAS:101-68-8、>97%、TCI;ジブチルスズジラウレート(DBTL):CAS:77-58-7、Sigma-Aldrich;
THF:工業グレード、使用前に乾燥および蒸留。
【0205】
【0206】
【0207】
【0208】
手順
MDIおよびDBTLを、アルゴン下、100mlの窒素フラスコ中で20mlの乾燥THFと混合した。溶液を氷浴で冷却した。N-ジオールおよびBDをこの冷却溶液に10分以内に滴下により添加した。添加が終了した後、混合物を室温で30分間撹拌した。この後、ポリ(THF)を滴下により添加し、さらに1時間撹拌した。その後、反応内容物を50℃(油浴温度)で2時間加熱した。その後、生じたポリマーをMeOHに沈殿させ、50℃で真空乾燥させた。収率:89%。
【0209】
【0210】
実施例3: 異なる比のモノマーの比較
実施例2に記載されるPU-N合成を、下の表1に記載のモノマーの比に基づいて行った。
【0211】
【0212】
PU-N生成物を含有するサンプルを、GPC(
図7)およびTGA(
図8)によって分析した。
【0213】
モル質量決定にはゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を使用した(計測器:Agilent Technologies 1200 Series/1260 Infinity;カラム1:PSS SDV 5μm 100000;カラム2:PSS SDV
5μm 10000;カラム3:PSS SDV 5μm 1000;カラム4:PSS SDV 5μm 100;検出器1:Waters 486 UV;検出器2:Techlab Shodex RI;溶離剤:THF;流量:1.0ml/分;カラム温度:40℃;較正標準:ポリスチレン)。
【0214】
熱重量分析(TGA)を用いて熱安定性を決定した。Netzsch TG 209 F1 Libraを使用した。サンプルをAl2O3パンで25から800℃に加熱した。約5~10mgのポリマーを天びんで測定し、サンプルのパンに入れた。全体の測定を、空気中で加熱速度10℃/分で行った。重量損失が始まった温度は分解温度と言及される。
【0215】
図7に示されるように、比較サンプルPH18N-6(100% N-ジオール)およびPH21N-6(50% N-ジオール、50% BD)に含まれていたPUの分子量は少なすぎることが分かった。最大分子量は、比較サンプルPH15D-6(50% P(THF)、50% BD)によって示された。
【0216】
PU-Nサンプル、PH24N-6(50% N-ジオール、25% P(THF)、25% BD)、PH23N-6(25% N-ジオール、50% P(THF)、25% BD)、およびPH18J-7(25% N-ジオール、25% P(THF)、50% BD)の中で、分子量はP(THF)およびBDの量とともに増加した。
【0217】
【0218】
【0219】
図8に示されるように、P(THF)またはBDの量が増加すると、分解温度は高くなる。
【0220】
【0221】
【0222】
実施例4: 異なる添加順序のモノマーの比較
実施例2に記載されるPU-N合成を、最初にN-ジオール+P(THF)、その後にBDを添加する(オプション1)か、または最初にN-ジオール+BD、その後にP(THF)を添加する(オプション2)ことにより行った。
【0223】
オプション1: PH23N-6、PH24N-6、PH18J-7
(i) 無水THF中MDI+DBTL、氷上で冷却
(ii) N-ジオール+P(THF)を添加(滴下)、室温で30分間撹拌
(iii) BDを添加(滴下)
オプション2: PH12D-6、PH16J-7、PH17J-7
(i) 無水THF中MDI+DBTL、氷上で冷却
(ii) N-ジオール+BDを添加(滴下)、室温で30分間撹拌
(iii) P(THF)を添加(滴下)
【0224】
モノマーの比は下の表4に記載される通りであった。
【0225】
【0226】
PU-N生成物を含有するサンプルを、GPC(
図9)およびTGA(
図10)によって分析した。
【0227】
図9に示されるように、BDの後にP(THF)を添加することにより(オプション2)、モル質量が高くなった。
【0228】
【0229】
【0230】
図10から分かるように、モノマーの添加順序は分解温度に事実上影響を示さなかった。
【0231】
図10から分かる結果は、下の表6に要約されている。
【0232】
【0233】
実施例5: N-ジオール含有PUポリマーの四級化
化学物質
PU-N(実施例2で生成);1-ブロモブタン:CAS.105-65-9、Merck、>98%;THF:工業グレード、使用前に蒸留。
【0234】
【0235】
手順
10gのPU-Nを30mlのTHFに60℃で溶解した。5mlの1-ブロモブタンを添加した。反応混合物を60℃で、四級化の程度を変えるために異なる時間間隔で撹拌した。四級化ポリマーをヘキサンに沈殿させ、50℃で真空乾燥させた。収率:96%。
【0236】
生成物PU-N+を1H-NMR分光法によって特徴付けた。
【0237】
反応スキームが
図6に示され、
図11は、四級化の原理をさらに例示する。
【0238】
四級化の程度は、下の表7に例示的に要約されている。
【0239】
【0240】
実施例6: 四級化PUポリマー(PU-N+)の特徴付け
非四級化または四級化PUポリマー(すなわち、PU-NまたはPU-N+)を含有するサンプルを、TGAによって分析した(
図12)。示されるように、四級化は分解温度に影響を及ぼさなかった。
【0241】
図12から分かる結果は、下の表8に要約されている。
【0242】
【0243】
実施例7: 動的機械的熱分析(DMTA)
非四級化PUまたは四級化PUポリマー(すなわち、PU-NまたはPU-N+)を含有するサンプルを、DMTAによって分析した;エラスタンを比較に用いた(
図13)。
【0244】
DMTAには、Rheometric Scientific DMTA計測器を使用した。
【0245】
エラスタン(
図13A)と対照的に、PUポリマーサンプルは、四級化されているかどうかにかかわらず、0℃を超えるガラス転移温度(T
g)を示した。
【0246】
さらに示されるように、BDの量が増加するとガラス転移温度が高くなった(
図13B:T
g=40℃;
図13D:T
g=55℃)。
【0247】
最後に、PU-Nの四級化(PU-N+となる)は、非四級化PU-Nで観察したガラス転移温度の上昇を誘導した(
図13C:T
g1=70℃、すなわち、>40℃;
図13E:T
g1=70℃、すなわち、>55℃)。
【0248】
実施例8: 応力ひずみ試験
生成されたPUポリマーの機械的性質を試験した。その目的のために、非四級化PUまたは四級化PUポリマー(すなわち、PU-NまたはPU-N+)のサンプルをひずみ応力試験(引張試験)によって分析した;エラスタンを比較に用いた。
【0249】
試験には、Zwick/Noell BT1-FR 0.5TN.D14機械を使用した(前負荷:0.01N/mm 試験速度:50mm/分)。サンプル調製:1gのPU(PU-NまたはPU-N+)を10mlのHFIP(ヘキサフルオロイソプロパノール)に溶解し、ガラスプレートに滴下してフィルムを作製した。フィルムを室温で24時間乾燥させた後、45℃で24時間真空乾燥させた。フィルムを機械試験用の寸法(W:5mm、L:≧40mm)にカットした。
【0250】
【0251】
さらに、下の表9に示されるように、四級化により、破壊ひずみの減少が誘導された。
【0252】
【表9】
E
mod=弾性率;dL=デルタ長;%=重量%;フィルム厚:180±20μm
【0253】
実施例9: PUポリマー/エラスタンブレンド
生成したPUポリマーをエラスタン(市販)とブレンドした。実施例8に記載されるひずみ応力試験を用いて機械的性質を試験した。
【0254】
図15に示されるように、70% PU-N+と30% エラスタンのブレンド(
図15B)は、エラスタン(
図15A)とは異なるひずみ挙動を示した。
【0255】
さらに、異なるPU-N+/エラスタンブレンドで測定した破壊ひずみと弾性率を下の表10に記載する。
【0256】
【表10】
E
mod=弾性率;dL=デルタ長;%=重量%;フィルム厚:160±20μm
【0257】
比較のために、異なるPU-N(すなわち、非四級化)/エラスタンブレンドで測定した破壊ひずみと弾性率を下の表11に記載する。
【0258】
【表11】
E
mod=弾性率;デルタ長;%=重量%;フィルム厚:140±10μm
【0259】
実施例10: 弛緩挙動
非四級化PU(PU-N)または対応する四級化PU(PU-N+)(29%四級化)のサンプルを、10mm(サンプルの元の長さ)から40mmに伸張させた(
図16A、16B)。解放すると、両方のサンプルは、約6時間でそのサンプルの元の長さを回復した。その際、約5分で約180%の回復が達成され、その後、残りの120%がそれよりもはるかにゆっくりと回復した。この点で、PU-NおよびPU-N+の弛緩挙動はほぼ同じであった。
【0260】
同様に、四級化度が異なる、すなわち9%または5%のPU-N+のサンプルを、10mmから50mmまで伸張させた(
図16C、16D)。解放すると、サンプルの元の長さの300%および280%が即時に回復し、さらに140%および160%が5分後にそれぞれ回復した。従って、約5分以内に約90%の総回復率が達成された。
【0261】
従って、弛緩挙動は、少なくとも一部分、四級化の程度に依存する。
【0262】
図16から分かる結果は、下の表12に要約されている。
【0263】
【0264】
実施例11: PUポリマー/エラスタンブレンドの弛緩挙動
【0265】
非四級化PU(PU-N)あるいは四級化の程度の異なる(29%、9%または5%)対応する四級化PU(PU-N+)を、それぞれエラスタン(市販)とブレンドした。実施例10の記載(10mmから50mmまでのサンプルの伸張)と同様に、サンプルを伸張および解放させた。
【0266】
結果は下の表13~15に要約されている。
【0267】
【0268】
まず、エラスタンとPU-Nの混合により、個々のPU-Nとエラスタンの弛緩挙動が変化した。
【0269】
表13から分かるように、ブレンドは、PU-Nとエラスタンの相対量に応じて、解放直後に約80~90%の総回復率を示した。残りの10~20%の回復には、これもまたPU-Nとエラスタンの相対量に依存して、約15分から6時間かかった。より一般的には、PU-Nの相対量が増加すると、総弛緩時間が増加した。
【0270】
【0271】
表14から分かるように、PU-Nの相対量が増加すると、総弛緩時間が増加した。さらに、非四級化PU-N(表13)と比較して、PU-N+は総弛緩時間の増加と関連していた。それとは別に、エラスタンとのブレンドで使用する場合、高度な四級化(29%)を有するPU-N+は、非四級化PU-Nに比べて特定の利点をもたらさない。
【0272】
【0273】
表15から分かるように、四級化度の低い(ここでは:9%)PU-N+とのブレンドは、すべての試験した組成物について約30分から1時間の弛緩時間を示した。それとは別に、弛緩挙動は、非四級化PU-Nとのブレンドの弛緩挙動に非常に類似している(すなわち、約80%の総回復率が即時に達成された)。
【0274】
【0275】
表16から分かるように、四級化度の低い(ここでは:5%)PU-N+とのブレンドの弛緩挙動は、PU-N+(9%四級化)(表15)および非四級化PU-N(表13)とのブレンドの弛緩挙動と非常に類似している。
【0276】
【表17-1】
【表17-2】
【表17-3】
【表17-4】
【0277】
実施例12:ポリマー繊維/フィラメント
四級化PUポリマー(PU-N+)(PH07F-8_PU-N+=50% N-ジオール、25% P(THF)25% BD,5%四級化(5%N+))のサンプルを、超遠心ミルZM200を使用して粉末に粉砕した。粉砕機は、孔径1mmのふるいを備えていた。任意のその他の孔径を備える機械も使用することができ、ふるいの直径は重要ではない。目的は、ポリマーの塊を、フィラメントを作製するための押出機に簡単に供給され得る粉末に変換することであった。その後、二軸スクリュー押出機を使用して、それをモノフィラメントとして紡糸した(Thermo Scientificのプロセス11)。フィラメントの残留粘着性(stickiness/tackiness)を防止して、フィラメントの保存を可能にするために(フィラメントがロールに巻かれている場合に、互いに粘着しないように)、押出するフィラメントを、SiO2粉末を有するトラフに連続的に通した。この構成を使用すると、PUイオノマーのモノフィラメントへの溶融紡糸は簡単になり、大規模生産が可能である。
【0278】
そのようなフィラメントの例となる顕微鏡画像を
図17に示す(倍率500倍)。フィラメントは透明ではなく、不透明な表面を有する。
【0279】
紡績フィラメントの機械的性質を試験した。その目的のために、製造された1つまたは複数のフィラメントを、ひずみ応力試験(引張試験)によって分析した。試験には、Zwick/Noell BT1FR0.5TN.D14機械を使用した。(前負荷:0.1kPa、試験速度:50mm/分)。フィラメントの直径は280+/-30μmであり、フィラメントを引張試験にかけた。
【0280】
【0281】
Emod=弾性率;dL=デルタ長;%=重量パーセント;フィラメント直径=208+-30μm
【0282】
【0283】
そのようなフィラメントの弛緩挙動を
図19に示す。そのような弛緩挙動のために、四級化ポリウレタンポリマーのフィラメントを10mm(フィラメントの元の長さ)から50mmに伸張させた。解放すると、フィラメントは約35~65分でそのサンプルの元の長さを回復した。
【0284】
要約すると、この実施例において、発明者らは、ポリウレタンイオノマーを再現可能にフィラメントに紡糸することができ、その粘着性は、SiO2粉末または同様の粉末または適した油を散布することによって防止することができることを示した。この粉末は弛緩挙動を妨げない。