(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】擁壁及び擁壁の施工方法
(51)【国際特許分類】
E02D 29/02 20060101AFI20240415BHJP
【FI】
E02D29/02 312
(21)【出願番号】P 2023181072
(22)【出願日】2023-10-20
【審査請求日】2023-12-19
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000112886
【氏名又は名称】フリー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】田井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】中村 公穂
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-191985(JP,A)
【文献】特開平09-013358(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
斜面前面に設置した基礎構造と、
前記基礎構造上に垂直方向に立設した壁面材と、
前記斜面と前記壁面材の間に充填した盛土材と、
前記盛土材内において前記斜面付近から前記壁面材の前面側にわたって
水平方向に延在
する水平パイプと、
前記水平パイプの中間部
から上方に分岐する
鉛直パイプと、を有する排水配管と、
前記盛土材の上に設置した上部構造と、を備え、
前記水平パイプ及び前記鉛直パイプは、管壁に孔を有さない無孔管であり、
前記
鉛直パイプの上端が前記上部構造内に接続することで、前記上部構造上に浸入する水を、前記
鉛直パイプ及び前記水平パイプを介して前記壁面材の前面側へ
直接排出可能に構成したことを特徴とする、
擁壁。
【請求項2】
斜面前面に擁壁を建設する擁壁の施工方法であって、
前記斜面前面に基礎構造を設置する、基礎工程と、
前記基礎構造付近に、前記斜面付近から後記壁面材の前面側まで延在し中間部で上方に分岐する排水配管を配置する、配管設置工程と、
前記基礎構造上に、下段から上段に向かって複数段の壁面材を積み上げ、前記壁面材と前記斜面の間に施工空間を画設する、壁面工程と、
前記施工空間内に盛土材を充填する、盛土工程と、を備え、
前記配管設置工程の後に、前記壁面工程及び前記盛土工程を所定回数行い、
施工過程において、前記施工空間内に浸入する水を、前記排水配管を介して前記施工空間外へ排出可能に構成したことを特徴とする、
擁壁の施工方法。
【請求項3】
前記盛土材の上に上部構造を設置し、前記排水配管の上端を前記上部構造内に接続する、上部工程と、を備え、
前記擁壁の供用後において、前記上部構造内に浸入する水を、前記排水配管を介して前記施工空間外へ排出可能に構成したことを特徴とする、
請求項2に記載の擁壁の施工方法。
【請求項4】
前記配管設置工程より後に、前記排水配管を鉛直方向に継ぎ足して延長する、配管接続工程を更に備えることを特徴とする、
請求項2又は3に記載の擁壁の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、擁壁及び擁壁の施工方法に関し、特に舗装面の雨水を上部構造内から直接谷側に排出可能な擁壁と、施工空間内に流入する雨水を随時谷側に排水可能な擁壁の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
擁壁は、斜面前面を壁面パネルと盛土材で被覆してなる構造物であり、土圧による斜面の崩壊を防ぐために設けられる。
擁壁の施工方法は、斜面に排水シートを展張してモルタルを吹付け、斜面前面に基礎コンクリートを打設し、基礎コンクリート上に壁面パネルを立設し、基礎コンクリート上に斜面前面から壁面パネルの前面にわたって排水パイプを設置し、壁面パネルと斜面の間に盛土材を充填し、壁面パネルの設置と盛土材の充填を下段から上段へ繰り返してなる(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
擁壁の施工過程において、斜面と壁面パネルの間の施工空間が露天に開放された状態となる。このため、休工中に豪雨や台風等が発生すると、山側の斜面から大量の雨水や地下水が施工空間内に流入し、施工空間内の水位が高くなったり流入する水の勢いが強くなると、水圧によって壁面パネルが谷側に孕み出し、場合によっては谷側に転倒するおそれがある。
また、擁壁上に舗装道路のような上部構造を設ける場合、舗装面に降る雨水や山側の斜面から滲出する地下水は、上部構造の谷側の排水溝に集め、排水溝に接続した排水孔から谷側に排出している。このように、舗装面上の水を全て谷側に集めた上で排水するため、排水効率が悪く、豪雨や台風等の場合に路面が冠水するおそれがある。
【0005】
本発明の目的は、以上のような従来技術の課題を解決するための擁壁及び擁壁の施工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の擁壁は、斜面前面に設置した基礎構造と、基礎構造上に垂直方向に立設した壁面材と、斜面と壁面材の間に充填した盛土材と、盛土材内において斜面付近から壁面材の前面側にわたって延在し、中間部で上方に分岐する排水配管と、盛土材の上に設置した上部構造と、を備え、排水配管の上端が上部構造内に接続することで、上部構造上に浸入する水を、排水配管を介して壁面材の前面側へ排出可能に構成したことを特徴とする。
【0007】
本発明の擁壁の施工方法は、斜面前面に基礎構造を設置する、基礎工程と、基礎構造付近に、斜面付近から壁面材の前面側まで延在し中間部で上方に分岐する排水配管を配置する、配管設置工程と、基礎構造上に、下段から上段に向かって複数段の壁面材を積み上げ、壁面材と斜面の間に施工空間を画設する、壁面工程と、施工空間内に盛土材を充填する、盛土工程と、を備え、配管設置工程の後に、壁面工程及び盛土工程を所定回数行い、施工過程において、施工空間内に浸入する水を、排水配管を介して施工空間外へ排出可能に構成したことを特徴とする。
【0008】
本発明の擁壁の施工方法は、盛土材の上に上部構造を設置し、排水配管の上端を上部構造内に接続する、上部工程と、を備え、擁壁の供用後において、上部構造内に浸入する水を、排水配管を介して施工空間外へ排出可能に構成してもよい。
【0009】
本発明の擁壁の施工方法は、配管設置工程より後に、排水配管を鉛直方向に継ぎ足して延長する、配管接続工程を更に備えていてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の擁壁の施工方法は、壁面材背面の施工空間内に鉛直パイプを延出しつつ施工することで、施工空間内に流入する雨水を随時谷側に排水することができる。これによって、水圧による壁面材の孕み出しや転倒を防ぐことができる。
本発明の擁壁は、舗装面に降る雨水や山側の斜面から滲出する地下水を、上部構造内の鉛直パイプから直接谷側に排出することができる。このため、排水効率が高く、豪雨や台風等による路面の冠水を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明の擁壁及び擁壁の施工方法について詳細に説明する。
【実施例1】
【0013】
[擁壁の施工方法]
<1>全体の構成(
図1)
擁壁の施工方法は、斜面Aの前面に擁壁1を構築する施工方法である。
擁壁の施工方法は、基礎工程S1と、配管設置工程S2と、壁面工程S3と、盛土工程S4と、を少なくとも備え、配管設置工程S2の後に、壁面工程S3と、盛土工程S4と、を所定回数行ってなる。本例では更に配管接続工程S5と、上部工程S6と、を更に備える。
擁壁の施工方法は、施工の過程において施工空間B内に浸入する水を、配管を介して施工空間B外へ排出可能な構成に1つの特徴を有する。
【0014】
<2>擁壁(
図2)
擁壁1は、斜面Aの前面に設置する土木構造物である。
擁壁1は、基礎構造10と、壁面材20と、盛土材30と、排水配管40と、上部構造50と、を少なくとも備える。本例では更に排水シート60を備える。
基礎構造10は、斜面Aの前面に設置する。
壁面材20は、基礎構造10上に立設する。壁面材20と斜面Aの間には、施工空間Bが画設される。
盛土材30は、斜面Aと壁面材20の間の施工空間B内に充填する。
排水配管40は、盛土材30内において斜面A付近から壁面材20の前面にわたって水平方向に延在し、中間部で鉛直方向上方に分岐する。
上部構造50は、盛土材30の上に設置する。
排水シート60は、斜面A上に展張する。
斜面Aにはモルタルを吹付け、排水シート60ごと被覆する。
擁壁1は、上部構造50上に浸入する雨水や地下水を、排水配管40を介して壁面材20の前面側へ排出可能な構造に1つの特徴を有する。
【0015】
<2.1>基礎構造(
図3)
基礎構造10は、擁壁1を斜面A上に支持する構造である。
本例では基礎構造10が、斜面A底面前面に立設した複数の基礎パネル11と、斜面Aの底面に打設した均しコンクリート12と、基礎パネル11の床板11bを埋め戻した戻しコンクリート13と、を備える。
基礎パネル11は、プレキャストコンクリート製のパネルであって、背面に、上部に設置する壁面パネル21と連結するための連結凸部11aと、均しコンクリート12上に据え付けるための床板11bと、を備え、両面を排水孔11cが貫通する。
複数の基礎パネル11は、斜面Aの底面に沿って幅方向に並列配置する。
【0016】
<2.2>壁面材(
図3)
壁面材20は、擁壁1の壁面を構成する部材である。
本例では壁面材20が、基礎パネル11上に立設した複数の壁面パネル21と、上下の壁面パネル21を連結する連結材22と、壁面パネル21の背面に設けた定着用の控え材(不図示)と、を備える。
壁面パネル21は、プレキャストコンクリート製のパネルであって、背面に、上下の壁面パネル21と連結するための連結凸部21aを備える。
複数の壁面パネル21は、基礎パネル11の上部に、複数段にわたって並列配置する。
【0017】
<2.3>盛土材
盛土材30は、施工空間Bを埋め戻すための部材である。
本例では盛土材30として、モルタルに発泡剤を混和して軽量化したエアモルタルを採用する。この他、セメントミルクに発泡剤を混和したエアミルクや、モルタル、コンクリート等を採用してもよい。
【0018】
<2.4>排水配管(
図3)
排水配管40は、盛土材30内に配置する配管である。
本例では排水配管40として、複数の水平パイプ41と、複数の鉛直パイプ42と、水平パイプ41を鉛直パイプ42に連結する分岐パイプ43と、水平パイプ41や鉛直パイプ42を長手方向に接続する接続パイプ44と、の組み合わせを採用する。
本例では水平パイプ41及び鉛直パイプ42として塩化ビニール管を採用する。
水平パイプ41は、盛土材30内において、基端が斜面Aに近接し、先端が基礎パネル11又は壁面パネル21の排水孔11cに接続し、斜面Aに沿って流下する地下水等を壁面材20の前面に排出する。
鉛直パイプ42は、盛土材30内において、分岐パイプ43から上部構造50内にわたって延在し、上部構造50内に浸透する雨水等を、水平パイプ41を介して壁面材20の前面に排出する。
なお、水平パイプ41及び鉛直パイプ42において、「水平」「鉛直」とは、「水平方向」「鉛直方向」程度の意味であり若干の傾斜を含む。例えば、水平パイプ41は、基端から先端に向かってわずかに下方に傾斜してもよい。
【0019】
<2.5>上部構造
上部構造50は、擁壁1の上部を構成する構造である。
上部構造50は、盛土材30の上に設置する。
本例では上部構造50として、盛土材30上に設置した路床51と、路床51上に敷設した路盤52と、アスファルト表層(不図示)と、の組み合わせを採用する。路床51内には、鉛直パイプ42の上端が接続する。
上部構造50の具体的な構成は、舗装道路の構造として公知なのでここでは詳述しない。
【0020】
<3>基礎工程(
図4A)
基礎工程S1は、擁壁1の基礎構造10を構築する工程である。
基礎工程S1に先立ち、斜面Aの傾斜方向に沿って、複数の排水シート60を敷設し、斜面Aに一定の厚さでモルタルを吹付ける。
基礎工程S1は例えば以下のように施工する。
斜面A前面の地盤に砕石(不図示)を敷設して転圧した上に、均しコンクリート12を打設する。均しコンクリート12にはアンカーボルトを埋設する。
均しコンクリート12上に基礎パネル11を並列配置し、アンカーボルトの頭部を床板11bのボルト孔に挿通してボルト締結する。
斜面Aと基礎パネル11の間に戻しコンクリート13を打設して、床板11bを埋め戻す。
【0021】
<4>配管設置工程(
図4B)
配管設置工程S2は、排水配管40を設置する工程である。配管設置工程S2は例えば以下のように施工する。
硬化した戻しコンクリート13上に、斜面Aから基礎パネル11にわたって、複数の排水配管40を並列配置する。
詳細には、先端側の水平パイプ41を基礎パネル11の排水孔11cに接続し、基端側の水平パイプ41を斜面A側に配置し、両者を分岐パイプ43で連結する。分岐パイプ43の分岐端を上に向け、鉛直パイプ42を立設する。
【0022】
<5>壁面工程(
図4C)
壁面工程S3は、斜面A前面に壁面材20を立設する工程である。壁面工程S3は例えば以下のように施工する。
基礎パネル11の上部に壁面パネル21を吊り込み、基礎パネル11の連結凸部11aの挿通孔と、壁面パネル21の連結凸部21aの挿通孔に、上下方向に連結材22を連通し、ボルトで締結する。
続いて、下段の壁面パネル21の上部に上段の壁面パネル21を吊り込み、連結凸部21aを連結材22で連結し、ボルトで締結する。
同様の作業を所定段数繰り返して壁面材20を構築する。
壁面工程S3によって、壁面材20の背面と斜面Aの前面の間に施工空間Bが画設される。
【0023】
<6>盛土工程(
図4D)
盛土工程S4は、施工空間B内に盛土材30を充填する工程である。盛土工程S4は例えば以下のように施工する。
盛土材30を打設ホースにポンプ圧送し、施工空間B内に打設する。
盛土材30の1回の打設高さは概ね1m以下とすることが望ましい。
【0024】
<7>配管接続工程(
図4E)
配管接続工程S5は、上方に向けて鉛直パイプ42を延長する工程である。配管接続工程S5は例えば以下のように施工する。
分岐パイプ43から立設した鉛直パイプ42の頭部に接続パイプ44を接続し、上方に鉛直パイプ42を継ぎ足して延長する。この作業を、盛土工程S4による盛土材30の施工面のレベルに合わせて適宜行う。
なお、分岐パイプ43から上部構造50までの高さが2m程度までであれば、鉛直パイプ42を延長せず、1本物の鉛直パイプ42を使用することができる。この場合には、配管接続工程S5は行なわない。
【0025】
<7.1>施工中の排水機能(
図4F)
壁面工程S3と盛土工程S4を施工している途中で台風や豪雨が発生する場合、従来技術の施工方法では、施工空間B内に雨水が溜まることで、壁面材20に水圧がかかり、前面側へ孕み出したり転倒するおそれがあった。
本発明では、施工中であっても、雨水を鉛直パイプ42内に取り込み、水平パイプ41を介して排水孔11cから壁面材20の前面側に排出することができる。これによって、雨水による壁面材20に対する水圧の発生を防ぐことができる。
また、長期の休工時や、豪雨や台風等の発生が予測される場合には、予め鉛直パイプ42を盛土材30の施工面のレベルで切断し、又は接続パイプ44を取り外して施工面のレベルに合わせておくことで、雨水の流入に備えることができる。なお、切断した鉛直パイプ42は、接続パイプ44によって容易に再接続することができる。
【0026】
<8>上部工程(
図4G)
上部工程S6は、擁壁1の上部構造50を構築する工程である。上部工程S6は例えば以下のように施工する。
盛土材30の最終打設面に、10cm厚のシールコンクリート(不図示)を打設する。
シールコンクリートの硬化後、シールコンクリート上に路床51を撒き出して転圧する。この際、鉛直パイプ42の上端を路床51内に埋設する。鉛直パイプ42の上端は金網等で被覆しておく。
路床51上に路盤52を敷設して転圧し、路盤52上にアスファルト表層を設置する。
本発明の上部構造50は、アスファルト表層から路床51内に浸入する雨水を、鉛直パイプ42を介して壁面材20の前面側へ排出することができる。
【符号の説明】
【0027】
1 擁壁
10 基礎構造
11 基礎パネル
11a 連結凸部
11b 床板
11c 排水孔
12 均しコンクリート
13 戻しコンクリート
20 壁面材
21 壁面パネル
21a 連結凸部
22 連結材
30 盛土材
40 排水配管
41 水平パイプ
42 分岐パイプ
43 鉛直パイプ
44 接続パイプ
50 上部構造
51 路床
52 路盤
60 排水シート
A 斜面
B 施工空間
S1 基礎工程
S2 配管設置工程
S3 壁面工程
S4 盛土工程
S5 配管接続工程
S6 上部工程
【要約】
【課題】舗装面の雨水を上部構造内から直接谷側に排出可能な擁壁と、施工空間内に流入する雨水を随時谷側に排水可能な擁壁の施工方法を提供する。
【解決手段】本発明の擁壁1は、斜面A前面に設置した基礎構造10と、基礎構造10上に垂直方向に立設した壁面材20と、斜面Aと壁面材20の間に充填した盛土材30と、盛土材30内において斜面A付近から壁面材20の前面側にわたって延在し、中間部で上方に分岐して上部構造50内に接続する排水配管40と、盛土材30の上に設置した上部構造50と、を備える。本発明の擁壁の施工方法は、基礎工程S1と、配管設置工程S2と、壁面工程S3と、盛土工程S4と、を備え、配管設置工程S2の後に、壁面工程S3及び盛土工程S4を所定回数行うことを特徴とする。
【選択図】
図2