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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】電力変換装置、推定器及び推定方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/16 20160101AFI20240415BHJP
   H02P 21/26 20160101ALI20240415BHJP
【FI】
H02P21/16
H02P21/26
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2023512635
(86)(22)【出願日】2021-04-09
(86)【国際出願番号】 JP2021015056
(87)【国際公開番号】W WO2022215263
(87)【国際公開日】2022-10-13
【審査請求日】2023-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000006622
【氏名又は名称】株式会社安川電機
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100171099
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】嶌本 慶太
(72)【発明者】
【氏名】森本 進也
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-149822(JP,A)
【文献】特開2019-033582(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0032894(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/16
H02P 21/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次側電力を二次側電力に変換して電動機に供給する電力変換回路と、
前記電動機の磁極位置に同期して回転する回転座標系における電流指令と、前記回転座標系の第1座標軸と第2座標軸との間の相互インダクタンスとに基づいて、前記回転座標系における電圧指令を生成する電圧指令生成部と、
前記電圧指令に対応する二次側電圧を前記電動機に印加するように前記電力変換回路を制御する制御部と、を備える電力変換装置。
【請求項2】
前記電動機の磁極位置と、前記第1座標軸に対応する前記電動機の第1インダクタンスと、前記第2座標軸に対応する前記電動機の第2インダクタンスとに基づいて前記相互インダクタンスを推定する相互インダクタンス推定部を更に備え、
前記電圧指令生成部は、前記相互インダクタンス推定部により推定された前記相互インダクタンスに基づいて前記電圧指令を生成する、請求項1記載の電力変換装置。
【請求項3】
二次側電流に基づいて前記磁極位置を推定する磁極位置推定部を更に備え、
前記相互インダクタンス推定部は、前記磁極位置推定部により推定された前記磁極位置に基づいて前記相互インダクタンスを推定する、請求項2記載の電力変換装置。
【請求項4】
二次側電流に基づいて、前記第1座標軸と前記第2座標軸との間の電磁的な相互干渉を表す干渉係数を算出する係数算出部を更に備え、
前記磁極位置推定部は、前記干渉係数に更に基づいて前記磁極位置を推定する、請求項3記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記電力変換装置は、前記電圧指令生成部による前記電圧指令の生成と、前記係数算出部による前記干渉係数の算出と、前記磁極位置推定部による前記磁極位置の推定と、前記相互インダクタンス推定部による前記相互インダクタンスの推定と、を含む制御サイクルを繰り返し、
前記係数算出部は、一つ以上前の制御サイクルにおいて前記磁極位置推定部により推定された前記磁極位置に更に基づいて前記干渉係数を算出する、請求項4記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記制御サイクルの周期は、前記相互インダクタンスの変動周期よりも短い、請求項5記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記相互インダクタンス推定部は、前記干渉係数と、前記第1インダクタンスと、前記第2インダクタンスとに基づいて前記相互インダクタンスを推定する、請求項4~6のいずれか一項記載の電力変換装置。
【請求項8】
二次側電流と、前記磁極位置推定部により推定された前記磁極位置とに基づいて前記第1インダクタンス及び前記第2インダクタンスを推定する軸別インダクタンス推定部を更に備え、
前記相互インダクタンス推定部は、前記軸別インダクタンス推定部により推定された前記第1インダクタンス及び前記第2インダクタンスに基づいて前記相互インダクタンスを推定する、請求項3~7のいずれか一項記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記電圧指令生成部は、
前記電流指令の前記第1座標軸の成分と、二次側電流の前記第1座標軸の成分との偏差に基づいて前記電圧指令の前記第1座標軸の成分を生成する第1指令生成部と、
前記電流指令の前記第2座標軸の成分と、前記二次側電流の前記第2座標軸の成分との偏差に基づいて前記電圧指令の前記第2座標軸の成分を生成する第2指令生成部と、
前記相互インダクタンスと前記二次側電流の前記第2座標軸の成分とに基づいて、前記相互インダクタンスが前記二次側電圧の前記第1座標軸の成分に及ぼす影響を補償するように、前記電圧指令の前記第1座標軸の成分を補正する第1補償部と、
前記相互インダクタンスと前記二次側電流の前記第1座標軸の成分とに基づいて、前記相互インダクタンスが前記二次側電圧の前記第2座標軸の成分に及ぼす影響を補償するように、前記電圧指令の前記第2座標軸の成分を補正する第2補償部と、を有する、請求項1~8のいずれか一項記載の電力変換装置。
【請求項10】
前記電圧指令生成部は、前記電流指令の前記第1座標軸の成分と、二次側電流の前記第1座標軸の成分との偏差と、前記電流指令の前記第2座標軸の成分と、前記二次側電流の前記第2座標軸の成分との偏差と、前記相互インダクタンスとに基づいて、前記電圧指令を非線形に算出する、請求項1~8のいずれか一項記載の電力変換装置。
【請求項11】
電動機の磁極位置に同期して回転する回転座標系の第1座標軸と第2座標軸との間の電磁的な相互干渉を表す干渉係数と、前記第1座標軸に対応する前記電動機の第1インダクタンスと、前記第2座標軸に対応する前記電動機の第2インダクタンスとに基づいて、前記第1座標軸と前記第2座標軸との間の相互インダクタンスを推定する相互インダクタンス推定部を備える推定器。
【請求項12】
前記電動機に供給される電流に基づいて前記干渉係数を算出する係数算出部を更に備え、
前記推定器は、係数算出部による干渉係数の算出と、相互インダクタンス推定部による相互インダクタンスの推定とを含む推定サイクルを繰り返し、
前記係数算出部は、一つ以上前の推定サイクルにおける前記磁極位置に更に基づいて、前記干渉係数を算出する、請求項11記載の推定器。
【請求項13】
電動機の磁極位置に同期して回転する回転座標系の第1座標軸と第2座標軸との間の電磁的な相互干渉を表す干渉係数を、前記電動機に供給される電流に基づいて算出することと、
前記干渉係数と、前記第1座標軸に対応する前記電動機の第1インダクタンスと、前記第2座標軸に対応する前記電動機の第2インダクタンスとに基づいて前記第1座標軸と前記第2座標軸との間の相互インダクタンスを推定することと、を含む推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力変換装置、推定器及び推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、突極性を有するロータを備えた回転電機に高周波電流を印加し、高周波電流への応答成分として電圧指令に含まれる高周波成分に基づいてロータの磁極方向を推定し、回転電機を制御するいわゆるセンサレスベクトル制御を行う回転電機制御装置であって、dq軸間の磁束干渉により生じる磁極方向の推定値の誤差を算出し、当該誤差に基づいて補正を行う回転電機制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-90552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、電動機の動作リプルの更なる低減に有効な電力変換装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一側面に係る電力変換装置は、一次側電力を二次側電力に変換して電動機に供給する電力変換回路と、電動機の磁極位置に同期して回転する回転座標系における電流指令と、回転座標系の第1座標軸と第2座標軸との間の相互インダクタンスとに基づいて、回転座標系における電圧指令を生成する電圧指令生成部と、電圧指令に対応する二次側電圧を電動機に印加するように電力変換回路を制御する制御部と、を備える。
【0006】
本開示の他の側面に係る推定器は、電動機の磁極位置に同期して回転する回転座標系の第1座標軸と第2座標軸との間の電磁的な相互干渉を表す干渉係数と、第1座標軸に対応する電動機の第1インダクタンスと、第2座標軸に対応する電動機の第2インダクタンスとに基づいて、第1座標軸と第2座標軸との間の相互インダクタンスを推定する相互インダクタンス推定部を備える。
【0007】
本開示の更に他の側面に係る推定方法は、電動機の磁極位置に同期して回転する回転座標系の第1座標軸と第2座標軸との間の電磁的な相互干渉を表す干渉係数を、電動機に供給される電流に基づいて算出することと、干渉係数と、第1座標軸に対応する電動機の第1インダクタンスと、第2座標軸に対応する電動機の第2インダクタンスとに基づいて第1座標軸と第2座標軸との間の相互インダクタンスを推定することと、を含む。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、電動機の動作リプルの更なる低減に有効な電力変換装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】電力変換装置の構成を例示する模式図である。
図2】重畳される電圧ベクトルを例示する図である。
図3】電圧指令生成部の構成を例示するブロック図である。
図4】制御回路のハードウェア構成を例示する図である。
図5】電力変換手順を例示するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0011】
〔電力変換装置〕
図1に示す電力変換装置1は、電源3から供給された一次側電力を二次側電力に変換して電動機2に供給する装置である。一次側電力及び二次側電力は、交流電力であってもよく、直流電力であってもよい。以下においては、一次側電力及び二次側電力がいずれも三相交流電力である場合を例示する。電源3の具体例としては、電力会社の電力系統、又は無停電電源等が挙げられる。
【0012】
電動機2は、突極性を有する。突極性を有するとは、回転座標系の座標軸間でインダクタンスが異なることを意味する。回転座標系は、電動機2の磁極位置に同期して回転する座標系である。突極性を有する電動機2の具体例としては、IPM(Interior Permanent Magnet)電動機又はシンクロナスリラクタンス電動機等が挙げられる。IPM電動機の磁極位置は、例えば、鉄心に埋め込まれた永久磁石が形成する界磁の磁極の位置である。シンクロナスリラクタンス電動機の磁極位置は、例えばインダクタンスが最も大きい位置である。
【0013】
電力変換装置1は、電力変換回路10と、制御回路100とを備える。電力変換回路10(電力変換部)は、電源3から供給された一次側電力を二次側電力に変換して電動機2に供給する。一例として、電力変換回路10は、整流回路11と、平滑コンデンサ12と、インバータ回路13と、電流センサ14とを有する。
【0014】
整流回路11は、例えばダイオードブリッジ回路又はPWMコンバータ回路であり、一次側電力を直流電力に変換する。平滑コンデンサ12は、上記直流電力を平滑化する。インバータ回路13は、上記直流電力と二次側電力との間の電力変換を行う。例えばインバータ回路13は、力行状態において、直流電力を二次側電力に変換して電動機2に供給し、回生状態において、電動機2が発電する二次側電力を直流電力に変換する。例えばインバータ回路13は、複数のスイッチング素子15を有し、複数のスイッチング素子15のオン・オフを切り替えることによって上記電力変換を行う。スイッチング素子15は、例えばパワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)又はIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等であり、ゲート駆動信号に応じてオン・オフを切り替える。
【0015】
電流センサ14は、インバータ回路13と電動機2との間に流れる電流(以下、「二次側電流」という。)を検出する。例えば電流センサ14は、二次側電力の全相(U相、V相及びW相)の電流を検出するように構成されていてもよいし、二次側電力のいずれか二相の電流を検出するように構成されていてもよい。零相電流が生じない限り、U相、V相、及びW相の電流の合計はゼロなので、二相の電流を検出する場合にも全相の電流の情報が得られる。
【0016】
以上に示した電力変換回路10の構成はあくまで一例である。電力変換回路10の構成は、一次側電力を二次側電力に変換して電動機2に供給し得る限りにおいていかようにも変更可能である。例えば、整流回路11は交流電力を直流電力に変換するPWMコンバータ回路であってもよい。電力変換回路10は、直流化を経ることなく電源電力と駆動電力との双方向の電力変換を行うマトリクスコンバータ回路であってもよい。電源電力が直流電力である場合に、電力変換回路10は整流回路11を有していなくてもよい。
【0017】
制御回路100は、インバータ回路13と電動機2との間に、電流指令に対応する二次側電流を流すための電圧指令を生成し、電圧指令に対応する二次側電圧を電動機2に印加するように電力変換回路10を制御する。
【0018】
電圧指令の生成においては、電動機の特性を表すパラメータが必要となる。パラメータにより表される電動機の特性と、実際の特性とが乖離すると、電流指令に対する二次側電流の追従性が低下する。電流指令に対する二次側電流の追従性が低下すると、適切なタイミングで二次側電流を発生させることができず、電動機2の動作のリプルが大きくなる可能性がある。このため、リプルの低減のためには、電動機の特性をより的確に表すパラメータを用いることが望ましい。
【0019】
これに対し、制御回路100は、回転座標系における電流指令と、回転座標系の第1座標軸と第2座標軸との間の相互インダクタンスとに基づいて、回転座標系における電圧指令を生成することと、電圧指令に対応する二次側電圧を電動機2に印加するように電力変換回路10を制御することと、を実行するように構成されている。相互インダクタンスに基づくことで、二次側電流の第1座標軸成分が二次側電圧の第2座標軸成分に及ぼす影響と、二次側電流の第2座標軸成分が二次側電圧の第1座標軸成分に及ぼす影響とを補償するように電圧指令を生成し、電流指令に対する二次側電流の変動を抑制することができる。
【0020】
制御回路100は、電動機2の磁極位置と、第1座標軸に対応する電動機2の第1インダクタンスと、第2座標軸に対応する電動機2の第2インダクタンスとに基づいて相互インダクタンスを推定することを更に実行し、推定した相互インダクタンスに基づいて電圧指令を生成してもよい。制御回路100は、二次側電流に基づいて磁極位置を推定することを更に実行し、推定した磁極位置に基づいて相互インダクタンスを推定してもよい。例えば制御回路100は、二次側電流に基づいて磁極位置を推定することと、推定した磁極位置に基づいて相互インダクタンスを推定することと、電流指令と、推定した相互インダクタンスとに基づいて電圧指令を生成することと、電圧指令に対応する二次側電圧を電動機2に印加するように電力変換回路10を制御することと、を含む制御サイクルを所定の制御周期で繰り返す。
【0021】
一例として、制御回路100は、機能上の構成要素として、高周波重畳部112と、電流指令生成部113と、3相2相変換部114と、座標変換部115と、高周波応答評価部116と、係数算出部117と、相互インダクタンス推定部118と、磁極位置推定部119と、電圧指令生成部120と、PWM制御部111とを有する。
【0022】
高周波重畳部112は、各制御サイクルにおいて、磁極位置の推定用の高周波成分を二次側電圧又は二次側電流に重畳する。なお、高周波成分とは、電動機2の動作に実質的な影響を与えない程度に高い周波数を有する成分である。例えば、高周波成分の周波数は、電動機2が機械的に応答可能な周波数よりも十分に高く設定される。一例として、高周波重畳部112は、二次側電圧に高周波成分を重畳する。例えば高周波重畳部112は、次式で表される高周波成分を二次側電圧に重畳する。
【数1】
αh:高周波電圧のα軸成分
βh:高周波電圧のβ軸成分
T:高周波電圧の周期
inj:電圧ベクトルの大きさ
【0023】
α軸及びβ軸は、αβ座標系の座標軸である。αβ座標系は、電動機2のステータに固定された固定座標系の一例である。α軸は、電動機2のu相巻線が磁界を発生する方向に沿っており、β軸は、α軸、及び電動機2の回転子の回転中心に垂直である。
【0024】
図2は、高周波重畳部112が重畳する高周波電圧を表す電圧ベクトルをαβ座標系に図示したものである。図2に示されるように、高周波重畳部112は、時間0<t≦T/4において、電圧ベクトルA1で表される電圧を二次側電圧に加え、時間T/4<t≦T/2において、電圧ベクトルA2で表される電圧を二次側電圧に加え、時間T/2<t≦3T/4において、電圧ベクトルA3で表される電圧を二次側電圧に加え、時間3T/4<t≦Tにおいて、電圧ベクトルA4で表される電圧を二次側電圧に加えることを繰り返す。
【0025】
図1に戻り、電流指令生成部113は、各制御サイクルにおいて、電動機2に所望の動作をさせるための電流指令を生成する。例えば電流指令生成部113は、電動機2の動作速度(例えば回転速度)を速度指令(例えば周波数指令)に追従させるための電流指令を生成する。例えば電流指令生成部113は、速度指令と動作速度との偏差に比例演算、比例・積分演算、又は比例・積分・微分演算等を行って電流指令を生成する。
【0026】
電流指令生成部113は、回転座標系における電流指令を生成する。例えば電流指令生成部113は、回転座標系の一例であるdq座標系における電流指令を生成する。dq座標系は、座標軸としてd軸とq軸とを有する。d軸は、電動機2の磁極方向に向かい、q軸は、d軸、及び電動機2の回転子の回転中心に垂直である。d軸及びq軸は、上述した第1座標軸及び第2座標軸の一例である。d軸が第1座標軸の一例であり、q軸が第2座標軸の一例であってもよく、q軸が第1座標軸の一例であり、d軸が第2座標軸の一例であってもよい。なお、回転座標系は、dq座標系に限られないので、第1座標軸及び第2座標軸もd軸及びq軸には限られない。
【0027】
例えば電流指令生成部113は、d軸電流指令id_cmdと、q軸電流指令iq_cmdとを算出する。d軸電流指令は、電流指令を表す電流指令ベクトルのd軸成分であり、q軸電流指令は、当該電流指令ベクトルのq軸成分である。
【0028】
3相2相変換部114は、各制御サイクルにおいて、電流センサ14により検出されたu相電流i、v相電流i及びw相電流iを取得し、これらに3相2相変換を行ってα軸電流iα、及びβ軸電流iβを算出する。α軸電流iαは、電流センサ14により検出された電流を表す電流ベクトルのα軸成分であり、β軸電流iβは、当該電流ベクトルのβ軸成分である。
【0029】
座標変換部115は、各制御サイクルにおいて、α軸電流iα及びβ軸電流iβに座標変換を行ってd軸電流i及びq軸電流iを算出する。d軸電流iは、電流ベクトルのd軸成分であり、q軸電流iは、電流ベクトルのq軸成分である。座標変換には、磁極位置の情報が必要である。例えば座標変換部115は、一つ以上前の制御サイクル(例えば一つ前の制御サイクル)において、後述の磁極位置推定部119により推定された磁極位置に基づいて座標変換を行う。
【0030】
高周波応答評価部116は、各制御サイクルにおいて、電流指令生成部113により重畳された高周波成分に対する応答を評価する。例えば高周波応答評価部116は、二次側電圧に重畳された高周波成分に対応する応答成分を、α軸電流iα及びβ軸電流iβから抽出し、抽出結果を評価する。応答成分の抽出手法としては、バンドパス型のフィルタリング又は高速フーリエ変換等が挙げられる。一例として、高周波応答評価部116は、応答成分の評価結果として、次式により、正弦成分n及び余弦成分mを算出する。
【数2】
【数3】
(d/dt)IαhVα:α軸方向に電圧を重畳した際に、重畳した電圧ベクトルの方向を正としたときのα軸電流の変化
(d/dt)IαhVβ:β軸方向に電圧を重畳した際に、重畳した電圧ベクトルの方向を正としたときのα軸電流の変化
(d/dt)IβhVα:α軸方向に電圧を重畳した際に、重畳した電圧ベクトルの方向を正としたときのβ軸電流の変化
(d/dt)IβhVβ:β軸方向に電圧を重畳した際に、重畳した電圧ベクトルの方向を正としたときのβ軸電流の変化
【0031】
d軸とq軸との間の電磁的な相互干渉を無視した場合、正弦成分nは、上記磁極位置を表す回転角θの2倍(以下、「倍角2θ」という。)の正弦値に相当する。また、上記相互干渉を無視した場合、余弦成分mは、倍角2θの余弦値に相当する。なお、回転角θは、例えばαβ座標系に対するdq座標系の回転角である。上述のように、dq座標系は、電動機2の磁極位置に同期して回転する回転座標系の一例であるため、回転角θは磁極位置を表す。以下、正弦成分nが上記倍角2θの正弦値に相当し、余弦成分mが倍角2θの余弦値に相当する理由を説明する。
【0032】
上記相互干渉を無視した場合の、αβ座標系における高周波成分の電圧方程式は次式のとおりである。
【数4】
αh:α軸電圧の高周波成分
βh:β軸電圧の高周波成分
αh:α軸電流の高周波成分
βh:β軸電流の高周波成分
【0033】
上式(4)中のL及びlは、次式(5),(6)で表される。
【数5】
【数6】
:d軸インダクタンス
:q軸インダクタンス
【0034】
d軸インダクタンスLは、d軸電流iに対するd軸磁束(d軸電流iによりd軸方向に発生する磁束)の比例定数であり、q軸インダクタンスLは、q軸電流iに対するq軸磁束(q軸電流iによりq軸方向に発生する磁束)の比例定数である。
【0035】
上式(1),(4)に基づくと、倍角2θの正接は次式(7)により表される。
【数7】
【0036】
上式(2)の右辺と、上式(7)の右辺の分子とが一致していることから、上式(2)により算出される正弦成分nが倍角2θの正弦値に相当するといえる。上式(3)の右辺と、上式(7)の右辺の分子とが一致していることから、上式(3)により算出される余弦成分mが倍角2θの余弦値に相当するといえる。
【0037】
係数算出部117は、二次側電流に基づいて、回転座標系の第1座標軸と第2座標軸との間の電磁的な相互干渉を表す干渉係数を算出する。係数算出部117は、一つ以上前の制御サイクルにおいて後述の磁極位置推定部119により推定された磁極位置に更に基づいて干渉係数を算出してもよい。
【0038】
まず、干渉係数を具体的に例示する。上記相互干渉を考慮した場合の、αβ座標系における高周波成分の電圧方程式は次式のとおりである。
【数8】
【数9】
【数10】
【0039】
上式(1),(8)に基づくと、倍角2θの正接は次式により表される。
【数11】
【0040】
式(9)によれば、上記相互干渉によって、正弦成分nにLx/lを乗算した値が正接の分母に影響し、余弦成分mにLx/lを乗算した値が正接の分子に影響しているといえる。よって、Lx/lは、相互干渉を表す係数の一例だといえる。そこで、一例として、干渉係数cを次式のように定義する。
【数12】
【0041】
ここで、正弦成分n及び余弦成分mを角度θにより表すと、次式のようになる。
【数13】
【数14】
【0042】
式(12),(13),(14)に基づくことで、干渉係数cは次式により表される。
【数15】
【0043】
式(15)に基づき干渉係数cを導出するには、上式(2),(3)により導出される正弦成分n及び余弦成分mに加えて、回転角θの値が必要となる。これに対し、係数算出部117は、各制御サイクルにおいて、座標変換部115により算出されたd軸電流i及びq軸電流iと、一つ以上前の制御サイクルにおいて磁極位置推定部119により推定された磁極位置とに基づいて干渉係数を算出してもよい。例えば係数算出部117は、次式により干渉係数cを算出する。
【数16】
n[k]:実行中の制御サイクルにおいて高周波応答評価部116により算出された正弦成分n
m[k]:実行中の制御サイクルにおいて高周波応答評価部116により算出された余弦成分m
θ[k-1]:一つ前の制御周期において磁極位置推定部119により推定された回転角θ
【0044】
相互インダクタンス推定部118は、電動機2の磁極位置と、第1座標軸に対応する電動機2の第1インダクタンスと、第2座標軸に対応する電動機2の第2インダクタンスとに基づいて電動機2の相互インダクタンスを推定する。例えば相互インダクタンス推定部118は、各制御サイクルにおいて、上記回転角θと、d軸に対応するd軸インダクタンスLと、q軸に対応するq軸インダクタンスLとに基づいて、相互インダクタンスLdq,Lqdを推定する。
【0045】
相互インダクタンスLdqと相互インダクタンスLqdとの差はわずかである場合が多い。そこで、相互インダクタンスLdqと相互インダクタンスLqdとが等しいと仮定すると、相互インダクタンスLdq,Lqdとd軸インダクタンスL及びq軸インダクタンスLとの関係は次式により表される。
【数17】
【0046】
そこで、相互インダクタンス推定部118は、一例として、干渉係数cと、d軸インダクタンスLと、q軸インダクタンスLとに基づいて相互インダクタンスLdq,Lqdを推定する。例えば相互インダクタンス推定部118は、d軸インダクタンスL及びq軸インダクタンスLの値と、係数算出部117により算出された干渉係数cの値とを上式(9)に代入して、相互インダクタンスLdq,Lqdの推定値を算出する。
【0047】
上述したように、係数算出部117は、一つ以上前の制御サイクルにおいて磁極位置推定部119により推定された磁極位置に基づき干渉係数cを算出するので、干渉係数cに基づき相互インダクタンスLdq,Lqdを推定することは、一つ以上前の制御サイクルにおいて磁極位置推定部119により推定された磁極位置に基づいて干渉係数cを算出することの一例に相当する。
【0048】
磁極位置推定部119は、二次側電流に基づいて上記磁極位置を推定する。上式(14)より、磁極位置を表す回転角θについては、次式が成立する。
【数18】
【0049】
そこで、磁極位置推定部119は、干渉係数cに更に基づいて磁極位置を推定してもよい。例えば磁極位置推定部119は、各制御サイクルにおいて、高周波応答評価部116により算出された正弦成分n及び余弦成分mの値と、係数算出部117により算出された干渉係数cの値とを上式(12)に代入して回転角θを算出する。
【0050】
上述したように、高周波応答評価部116は、α軸電流iα及びβ軸電流iβに基づいて正弦成分n及び余弦成分mを算出するので、正弦成分n及び余弦成分mに基づき磁極位置を推定することは、二次側電流の検出結果に基づき磁極位置を推定することの一例に相当する。
【0051】
干渉係数cは、電流センサ14による検出結果のノイズ等に起因して振動的になる可能性がある。そのような場合、磁極位置推定部119は、0より大きく1より小さい任意の係数を干渉係数cに乗算し、次式(13)により角度推定値θを算出してもよい。
【数19】
【0052】
磁極位置推定部119は、回転角θの微分値に相当する角周波数ωを更に算出してもよい。角周波数ωは、例えばαβ座標系に対するdq座標系の角速度であり、磁極位置の変化速度に相当する。
【0053】
なお、磁極位置の推定手法は、干渉係数cに基づく手法に限られない。例えば、磁極位置推定部119は、相互インダクタンス推定部118による相互インダクタンスLdq,Lqdの推定結果に基づいて回転角θを算出してもよい。一例として、磁極位置推定部119は、上記相互干渉を無視して回転角θを仮推定し、上記相互干渉を無視することによる推定誤差を次式により算出し、仮推定結果を推定誤差の算出結果に基づき補正して回転角θを算出してもよい。
【数20】
θ:相互干渉を無視することによる推定誤差
【0054】
電圧指令生成部120は、回転座標系における電流指令と、回転座標系の第1座標軸と第2座標軸との間の相互インダクタンスとに基づいて、回転座標系における電圧指令を生成する。例えば電圧指令生成部120は、各制御サイクルにおいて、電流指令生成部113が生成したd軸電流指令id_cmd及びq軸電流指令iq_cmdと、座標変換部115が算出したd軸電流i及びq軸電流iと、d軸インダクタンスLと、q軸インダクタンスLと、電動機2の巻線抵抗Rと、電動機2の角周波数ωと、相互インダクタンス推定部118により推定された相互インダクタンスLdq,Lqdと、磁石磁束Φとに基づいて、dq座標系におけるd軸電圧指令Vd_cmd及びq軸電圧指令Vq_cmdを生成する。d軸電圧指令Vd_cmdは、電圧指令を表す電圧指令ベクトルのd軸成分であり、q軸電圧指令Vq_cmdは、当該電圧指令ベクトルのq軸成分である。角周波数ωは、αβ座標系に対するdq座標系の角速度に相当し、磁極位置推定部119により推定される。
【0055】
例えば電圧指令生成部120は、図3に示すように、第1指令生成部121と、第2指令生成部122と、第1補償部123と、第2補償部124とを有する。第1指令生成部121は、電流指令の第1座標軸の成分と、二次側電流の第1座標軸の成分との偏差に基づいて電圧指令の第1座標軸の成分を生成する。例えば第1指令生成部121は、加え合わせ点P11で表されるように、d軸電流指令id_cmdとd軸電流iとの偏差を算出し、当該偏差に対し、ブロックB11で表される比例・積分演算、比例演算、又は比例・積分・微分演算等を行ってd軸電圧指令Vd_cmdを算出する。
【0056】
第2指令生成部122は、電流指令の第2座標軸の成分と、二次側電流の第2座標軸の成分との偏差に基づいて電圧指令の第2座標軸の成分を生成する。例えば第2指令生成部122は、加え合わせ点P21で表されるように、q軸電流指令iq_cmdとq軸電流iとの偏差を算出し、当該偏差に対し、ブロックB21で表される比例・積分演算、比例演算、又は比例・積分・微分演算等を行ってq軸電圧指令Vq_cmdを算出する。
【0057】
第1補償部123は、相互インダクタンスと二次側電流の第2座標軸の成分とに基づいて、相互インダクタンスが二次側電圧の第1座標軸の成分に及ぼす影響を補償するように、電圧指令の第1座標軸の成分を補正する。例えば第1補償部123は、q軸インダクタンスLと、電動機2の角周波数ωと、相互インダクタンス推定部118により推定された相互インダクタンスLdqとに基づいて補償値Vd_ffを算出し、加え合わせ点P31で表されるように、補償値Vd_ffをd軸電圧指令Vd_cmdに加算する。一例として、第1補償部123は、次式により補償値Vd_ffを算出する。
【数21】
【0058】
第2補償部124は、相互インダクタンスと二次側電流の第1座標軸の成分とに基づいて、相互インダクタンスが二次側電圧の第2座標軸の成分に及ぼす影響を補償するように、電圧指令の第2座標軸の成分を補正する。例えば第2補償部124は、d軸インダクタンスLと、電動機2の角周波数ωと、相互インダクタンス推定部118により推定された相互インダクタンスLqdとに基づいて補償値Vq_ffを算出し、加え合わせ点P41で表されるように、補償値Vq_ffをq軸電圧指令Vq_cmdに加算する。一例として第2補償部124は、次式により補償値Vq_ffを算出する。
【数22】
【0059】
電圧指令生成部120は、電流指令の第1座標軸の成分と、二次側電流の第1座標軸の成分との偏差と、電流指令の第2座標軸の成分と、二次側電流の第2座標軸の成分との偏差と、相互インダクタンスとに基づいて、電圧指令を非線形に算出してもよい。例えば電圧指令生成部120は、非線形制御の一例であるスライディングモード制御における電圧指令を次式により算出してもよい。
【数23】
【数24】
【数25】
【数26】
K: 式(18)における偏差eの各成分に対するゲインを表す行列
nl: 非線形ゲイン
【0060】
図1に戻り、PWM制御部111(制御部)は、各制御サイクルで電圧指令生成部120により生成される電圧指令に対応する二次側電圧を電動機2に印加するように電力変換回路10を制御する。例えばPWM制御部111は、磁極位置推定部119により推定された磁極位置に基づく座標変換により、d軸電圧指令Vd_cmd及びq軸電圧指令Vq_cmdをαβ座標系における電圧指令に変換し、更に、2相3相変換により、αβ座標系における電圧指令をu相、v相及びw相の各相の電圧指令に変換する。以下、各相の電圧指令を相別電圧指令という。
【0061】
上述した電流指令生成部113は、相別電圧指令に変換される前の電圧指令に上述の高周波成分を重畳してもよい。これにより、相別電圧指令にも高周波成分が重畳されることとなる。PWM制御部111は、PWM(Pulse Width Modulation)方式によって、u相、v相及びw相の各相に、相別電圧指令に対応する電圧を印加するように、スイッチング素子15のオン・オフを切り替える。
【0062】
電動機2においては、二次側電流によって第1インダクタンス及び第2インダクタンスも変化し得る。そこで、制御回路100は、二次側電流に応じて第1インダクタンス及び第2インダクタンスの現在値を推定するように構成されていてもよい。
【0063】
例えば制御回路100は、軸別インダクタンス推定部131を更に有してもよい。軸別インダクタンス推定部131は、二次側電流と、磁極位置推定部119により推定された磁極位置とに基づいて第1インダクタンス及び第2インダクタンスを推定する。例えば軸別インダクタンス推定部131は、各制御サイクルにおいて、座標変換部115により算出されたd軸電流i及びq軸電流iに基づいてd軸インダクタンスL及びq軸インダクタンスLを推定する。
【0064】
上述のとおり、d軸電流i及びq軸電流iは、電流センサ14による検出結果と、磁極位置推定部119により推定された磁極位置とに基づいて算出される。このため、d軸電流i及びq軸電流iに基づいてd軸インダクタンスL及びq軸インダクタンスLを推定することは、二次側電流と、磁極位置推定部119により推定された磁極位置とに基づいてd軸インダクタンスL及びq軸インダクタンスLを推定することの一例に相当する。
【0065】
一例として、軸別インダクタンス推定部131は、d軸電流i及びq軸電流iと、d軸インダクタンスL及びq軸インダクタンスLとの関係を表すように予め準備されたインダクタンスプロファイルと、d軸電流i及びq軸電流iの現在値とに基づいて、d軸インダクタンスL及びq軸インダクタンスLの現在値を推定する。この場合、制御回路100は、インダクタンス記憶部132を更に有してもよい。インダクタンス記憶部132は、実機試験又はシミュレーション等により予め準備されたインダクタンスプロファイルを記憶する。軸別インダクタンス推定部131は、インダクタンス記憶部132が記憶するインダクタンスプロファイルにおいて、d軸電流i及びq軸電流iの現在値に対応するd軸インダクタンスL及びq軸インダクタンスLを特定してもよい。
【0066】
インダクタンスプロファイルは、d軸電流i及びq軸電流iと、d軸インダクタンスL及びq軸インダクタンスLとの関係を連続的に表す関数であってもよく、d軸電流i及びq軸電流iと、d軸インダクタンスL及びq軸インダクタンスLとの関係を離散的に表す点列データであってもよい。
【0067】
インダクタンス記憶部132が離散的なインダクタンスプロファイルを記憶する場合、軸別インダクタンス推定部131は、インダクタンスプロファイルの点列を線形補間、多項式補間、又はスプライン補間等により補間して、d軸電流i及びq軸電流iの現在値に対応するd軸インダクタンスL及びq軸インダクタンスLを特定してもよい。
【0068】
制御回路100が軸別インダクタンス推定部131を備える場合、相互インダクタンス推定部118は、軸別インダクタンス推定部131により推定された第1インダクタンス及び第2インダクタンスに基づいて相互インダクタンスを推定してもよい。
【0069】
以上に例示した制御回路100によれば、電圧指令生成部120による電圧指令の生成、係数算出部117による干渉係数の算出、磁極位置推定部119による磁極位置の推定、及び相互インダクタンス推定部118による相互インダクタンスの推定等を含む制御サイクルが制御周期で繰り返される。制御サイクルの周期は、相互インダクタンスの変動周期よりも短くてもよい。
【0070】
以上に例示した電力変換装置1は、電動機の磁極位置に同期して回転する回転座標系の第1座標軸と第2座標軸との間の電磁的な相互干渉を表す干渉係数を、電動機に供給される電流に基づいて算出することと、干渉係数と、第1座標軸に対応する電動機2の第1インダクタンスと、第2座標軸に対応する電動機2の第2インダクタンスとに基づいて、第1座標軸と第2座標軸との間の相互インダクタンスを推定することと、を実行するように構成された推定器を含んでいる。
【0071】
例えば電力変換装置1は、係数算出部117と、相互インダクタンス推定部118とを有する推定器を含んでいる。この推定器は、係数算出部117による干渉係数の算出と、相互インダクタンス推定部による相互インダクタンスの推定とを含む推定サイクルを繰り返し、係数算出部117は、一つ以上前の推定サイクルにおける磁極位置に更に基づいて、干渉係数を算出している。
【0072】
また、磁極位置推定部119により、センサレスで磁極位置を推定する例を示したが、電動機2に設けられたセンサにより磁極位置を検出可能である場合には磁極位置推定部119を省略可能である。この場合、座標変換部115は回転角θの検出結果に基づき上述の座標変換を行い、係数算出部117は回転角θの検出結果に基づき干渉係数を算出し、及びPWM制御部111は回転角θの検出結果に基づきαβ座標系における電圧指令を算出する。また、電圧指令生成部120は、角周波数ωの検出結果に基づき回転座標系における電圧指令を生成する。
【0073】
図4は、制御回路100のハードウェア構成を例示するブロック図である。図4に示すように、制御回路100は、1以上のプロセッサ191と、メモリ192と、ストレージ193と、入出力ポート194と、スイッチング制御回路195とを含む。ストレージ193は、例えば不揮発性の半導体メモリ等、コンピュータによって読み取り可能な記憶媒体を有する。ストレージ193は、回転座標系における電流指令と、回転座標系の第1座標軸と第2座標軸との間の相互インダクタンスとに基づいて、回転座標系における電圧指令を生成することと、電圧指令に対応する二次側電圧を電動機2に印加するように電力変換回路10を制御することと、制御回路100に実行させるためのプログラムを記憶している。ストレージ193は、上述した機能上の各構成要素を制御回路100に構成させるためのプログラムを記憶している。
【0074】
メモリ192は、ストレージ193の記憶媒体からロードしたプログラム及びプロセッサ191による演算結果を一時的に記憶する。プロセッサ191は、メモリ192と協働して上記プログラムを実行することで、制御回路100の各機能ブロックを構成する。入出力ポート194は、プロセッサ191からの指令に従って、電流センサ14との間で電気信号の入出力を行う。スイッチング制御回路195は、プロセッサ191からの指令に従って、インバータ回路13に、スイッチング素子15のオン・オフを切り替えるための駆動信号を出力する。
【0075】
なお、制御回路100は、必ずしもプログラムにより各機能を構成するものに限られない。例えば制御回路100は、専用の論理回路又はこれを集積したASIC(Application Specific Integrated Circuit)により少なくとも一部の機能を構成してもよい。
【0076】
〔電力変換手順〕
続いて、制御方法の一例として、制御回路100が実行する制御手順を例示する。この制御手順は、相互インダクタンスの推定方法の一例として、電動機2に供給される電流に基づいて干渉係数を算出することと、干渉係数と、第1座標軸に対応する電動機2の第1インダクタンスと、第2座標軸に対応する電動機2の第2インダクタンスとに基づいて第1座標軸と第2座標軸との間の相互インダクタンスを推定することと、を含む。
【0077】
図5に示すように、制御回路100は、ステップS01,S02,S03,S04,S05,S06,S07,S08,S09,S11,S12を順に実行する。ステップS01では、電流指令生成部113が、電動機2に所望の動作をさせるためのd軸電流指令id_cmd及びq軸電流指令iq_cmdを生成する。
【0078】
ステップS02では、3相2相変換部114が、電流センサ14により検出されたu相電流i、v相電流i及びw相電流iを取得する。ステップS03では、3相2相変換部114が、u相電流i、v相電流i及びw相電流iに3相2相変換を行ってα軸電流iα及びβ軸電流iβを算出する。ステップS04では、座標変換部115が、α軸電流iα及びβ軸電流iβに座標変換を行ってd軸電流i及びq軸電流iを算出する。この際に、座標変換部115は、一つ以上前の制御サイクル(例えば一つ前の制御サイクル)において、磁極位置推定部119により推定された回転角θに基づいて座標変換を行う。
【0079】
ステップS05では、軸別インダクタンス推定部131が、座標変換部115により算出されたd軸電流i及びq軸電流iに基づいてd軸インダクタンスL及びq軸インダクタンスLを推定する。ステップS06では、高周波応答評価部116が、電流指令生成部113により重畳された高周波成分に対する応答を評価する。例えば高周波応答評価部116は、二次側電圧に重畳された高周波成分に対応する応答成分を、α軸電流iα及びβ軸電流iβから抽出し、抽出結果に基づいて、上述した正弦成分n及び余弦成分mを算出する。
【0080】
ステップS07では、係数算出部117が、座標変換部115により算出されたd軸電流i及びq軸電流iと、一つ以上前の制御サイクルにおいて磁極位置推定部119により推定された回転角θとに基づいて干渉係数cを算出する。例えば係数算出部117は、高周波応答評価部116により算出された正弦成分n及び余弦成分mと、一つ前の制御サイクルにおいて磁極位置推定部119により推定された回転角θとに基づいて干渉係数cを算出する。
【0081】
ステップS08では、相互インダクタンス推定部118が、一つ以上前の制御周期において磁極位置推定部119により推定された回転角θと、d軸インダクタンスLと、q軸インダクタンスLとに基づいて、相互インダクタンスLdq,Lqdを推定する。例えば相互インダクタンス推定部118は、係数算出部117により算出された干渉係数cと、軸別インダクタンス推定部131により推定されたd軸インダクタンスL及びq軸インダクタンスLとに基づいて相互インダクタンスLdq,Lqdを推定する。
【0082】
ステップS09では、磁極位置推定部119が、二次側電流に基づいて回転角θ及び角周波数ωを推定する。例えば磁極位置推定部119は、高周波応答評価部116により算出された正弦成分n及び余弦成分mと、係数算出部117により算出された干渉係数cとに基づいて回転角θを算出する。
【0083】
ステップS11では、電流指令生成部113が生成したd軸電流指令id_cmd及びq軸電流指令iq_cmdと、座標変換部115が算出したd軸電流i及びq軸電流iと、d軸インダクタンスLと、q軸インダクタンスLと、電動機2の巻線抵抗Rと、電動機2の角周波数ωと、相互インダクタンス推定部118により推定された相互インダクタンスLdq,Lqdとに基づいて、電圧指令生成部120が、dq座標系におけるd軸電圧指令Vd_cmd及びq軸電圧指令Vq_cmdを生成する。
【0084】
ステップS12では、電圧指令生成部120が生成した電圧指令に対応する電圧を電動機2に印加するように、PWM制御部111が、電力変換回路10のスイッチング素子15のオン・オフを切り替えることを開始する。電流指令生成部113は、PWM制御部111により相別電圧指令に変換される前の電圧指令(上記αβ座標系における電圧指令)に上述の高周波成分を重畳する。これにより、高周波成分が重畳された二次側電圧が電動機2に印加される。
【0085】
制御回路100は、以上の制御サイクルを上記制御周期で繰り返す。ステップS09における回転角θの推定結果は、次のサイクルにおいて、ステップS04(d軸電流i及びq軸電流iの算出)と、ステップS07(干渉係数cの算出)とに用いられる。
【0086】
なお、以上の手順は適宜変更可能である。例えばステップS05(d軸インダクタンスL及びq軸インダクタンスLの推定)を、ステップS07(干渉係数cの算出)の後に実行してもよい。また、ステップS09(回転角θ及び角周波数ωの推定)を、ステップS08(相互インダクタンスLdq,Lqdの推定)の前に実行してもよい。
【0087】
〔本実施形態の効果〕
以上に説明したように、電力変換装置1は、一次側電力を二次側電力に変換して電動機2に供給する電力変換回路10と、電動機2の磁極位置に同期して回転する回転座標系における電流指令と、回転座標系の第1座標軸と第2座標軸との間の相互インダクタンスとに基づいて、回転座標系における電圧指令を生成する電圧指令生成部120と、電圧指令に対応する二次側電圧を電動機2に印加するように電力変換回路10を制御するPWM制御部111と、を備える。
【0088】
この電力変換装置1によれば、相互インダクタンスに基づくことで、二次側電流の第1座標軸成分が二次側電圧の第2座標軸成分に及ぼす影響と、二次側電流の第2座標軸成分が二次側電圧の第1座標軸成分に及ぼす影響とを補償するように電圧指令を生成し、電流指令に対する二次側電流の追従性を向上させることができる。このため、電動機2の動作のリプルを低減するのに有効である。
【0089】
電力変換装置1は、電動機2の磁極位置と、第1座標軸に対応する電動機2の第1インダクタンスと、第2座標軸に対応する電動機2の第2インダクタンスとに基づいて相互インダクタンスを推定する相互インダクタンス推定部118を更に備え、電圧指令生成部120は、相互インダクタンス推定部118により推定された相互インダクタンスに基づいて電圧指令を生成してもよい。この場合、相互インダクタンスをリアルタイムに推定し、推定結果を電圧指令に反映させることによって、相互インダクタンス自体の時間変化が二次側電圧に及ぼす影響を補償することができる。従って、電動機2の動作のリプルを更に低減するのに有効である。
【0090】
電力変換装置1は、二次側電流に基づいて磁極位置を推定する磁極位置推定部119を更に備え、相互インダクタンス推定部118は、磁極位置推定部119により推定された磁極位置に基づいて相互インダクタンスを推定してもよい。この場合、センサレス制御を行う場合においても相互インダクタンスを的確に推定することができる。
【0091】
電力変換装置1は、二次側電流に基づいて、第1座標軸と第2座標軸との間の電磁的な相互干渉を表す干渉係数を算出する係数算出部117を更に備え、磁極位置推定部119は、干渉係数に更に基づいて磁極位置を推定してもよい。この場合、磁極位置の推定精度を向上させることで、電動機2の動作のリプルを更に低減することができる。
【0092】
電力変換装置1は、電圧指令生成部120による電圧指令の生成と、係数算出部117による干渉係数の算出と、磁極位置推定部119による磁極位置の推定と、相互インダクタンス推定部118による相互インダクタンスの推定と、を含む制御サイクルを繰り返し、係数算出部117は、一つ以上前の制御サイクルにおいて磁極位置推定部119により推定された磁極位置に更に基づいて干渉係数を算出してもよい。この場合、干渉係数を容易に算出することができる。干渉係数の算出の簡素化は、制御サイクルの周期の短縮化にも寄与し得る。
【0093】
制御サイクルの周期は、相互インダクタンスの変動周期よりも短くてもよい。この場合、相互インダクタンスの変動に起因する動作リプルを更に抑制することができる。
【0094】
相互インダクタンス推定部118は、干渉係数と、第1インダクタンスと、第2インダクタンスとに基づいて相互インダクタンスを推定してもよい。この場合、干渉係数を、相互インダクタンスの推定にも活用することで、相互インダクタンスを容易に算出することができる。
【0095】
電力変換装置1は、二次側電流と、磁極位置推定部119により推定された磁極位置とに基づいて第1インダクタンス及び第2インダクタンスを推定する軸別インダクタンス推定部131を更に備え、相互インダクタンス推定部118は、軸別インダクタンス推定部131により推定された第1インダクタンス及び第2インダクタンスに基づいて相互インダクタンスを推定してもよい。この場合、第1インダクタンス及び第2インダクタンスをリアルタイムに推定し、推定結果を電圧指令に反映させることによって、第1インダクタンス及び第2インダクタンス自体の時間変化に起因する動作リプルを抑制することができる。
【0096】
電圧指令生成部120は、電流指令の第1座標軸の成分と、二次側電流の第1座標軸の成分との偏差に基づいて電圧指令の第1座標軸の成分を生成する第1指令生成部121と、電流指令の第2座標軸の成分と、二次側電流の第2座標軸の成分との偏差に基づいて電圧指令の第2座標軸の成分を生成する第2指令生成部122と、相互インダクタンスと二次側電流の第2座標軸の成分とに基づいて、相互インダクタンスが二次側電圧の第1座標軸の成分に及ぼす影響を補償するように、電圧指令の第1座標軸の成分を補正する第1補償部123と、相互インダクタンスと二次側電流の第1座標軸の成分とに基づいて、相互インダクタンスが二次側電圧の第2座標軸の成分に及ぼす影響を補償するように、電圧指令の第2座標軸の成分を補正する第2補償部124と、を有していてもよい。この場合、広く普及している電圧指令の算出手法に、dq軸間の電磁的な相互干渉の補償成分を容易に組み込むことができる。
【0097】
電圧指令生成部120は、電流指令の第1座標軸の成分と、二次側電流の第1座標軸の成分との偏差と、電流指令の第2座標軸の成分と、二次側電流の第2座標軸の成分との偏差と、相互インダクタンスとに基づいて、電圧指令を非線形に算出してもよい。この場合、相互インダクタンスに基づくことで、dq軸間の電磁的な相互干渉の補償成分を、非線形な電圧指令の算出にも容易に組み込むことができる。
【0098】
以上、実施形態について説明したが、本開示は必ずしも上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0099】
1…電力変換装置、2…電動機、10…電力変換回路(電力変換部)、111…PWM制御部(制御部)、117…係数算出部、118…相互インダクタンス推定部、119…磁極位置推定部、120…電圧指令生成部、121…第1指令生成部、122…第2指令生成部、123…第1補償部、124…第2補償部、131…軸別インダクタンス推定部。
図1
図2
図3
図4
図5