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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】レチノイドの生合成
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/15 20060101AFI20240416BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240416BHJP
   C12P 7/04 20060101ALI20240416BHJP
   C12N 15/54 20060101ALI20240416BHJP
   C12N 15/53 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
C12N1/15 ZNA
C12N1/19
C12P7/04
C12N15/54
C12N15/53
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020512740
(86)(22)【出願日】2018-09-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-12-10
(86)【国際出願番号】 EP2018076033
(87)【国際公開番号】W WO2019058000
(87)【国際公開日】2019-03-28
【審査請求日】2021-09-27
(31)【優先権主張番号】62/562,712
(32)【優先日】2017-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】00715/18
(32)【優先日】2018-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CH
(31)【優先権主張番号】62/562,699
(32)【優先日】2017-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】18168564.5
(32)【優先日】2018-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】62/562,672
(32)【優先日】2017-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/562,602
(32)【優先日】2017-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】503220392
【氏名又は名称】ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ.
【氏名又は名称原語表記】DSM IP ASSETS B.V.
【住所又は居所原語表記】Het Overloon 1, NL-6411 TE Heerlen,Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100206944
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 絵美
(74)【代理人】
【識別番号】100223424
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 雄二
(72)【発明者】
【氏名】バルチ, ナタリー
(72)【発明者】
【氏名】ブロムクィスト, ポール
(72)【発明者】
【氏名】ドーテン, リード
(72)【発明者】
【氏名】ヒューストン, ピーター
(72)【発明者】
【氏名】ラム, イーサン
(72)【発明者】
【氏名】マクマホン, ジェナ
(72)【発明者】
【氏名】トゥルーハート, ジョシュア
(72)【発明者】
【氏名】ヴィアルージュ, セリーヌ
【審査官】伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-501543(JP,A)
【文献】Biotechnology and Bioengineering, 2015, Vol. 112, No. 8, pp.1604-1612
【文献】EUKARYOTIC CELL, 2007, Vol.6, No.4, p.650-657
【文献】Molecular Genetics and Genomics, 2005, Vol.274, pp.217-228
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00
C12N 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全レチノイドに対して少なくとも40%の割合で酢酸レチニルを含むレチノイドの生合成のために使用されるカロテノイド産生真菌宿主細胞であって、
(a)前記宿主細胞が産生するシス-及びトランス-レチナールを含むレチナール混合物中のトランス-レチナールの割合が、全レチナールに対して少なくとも65%となるように、ベータ-カロテンからトランス-レチナールへの変換を触媒する、配列番号1、3、5、9、11、13、15、17に従うポリペプチドに対して少なくとも90%の配列同一性を有するポリペプチドから選択される立体選択的ベータ-カロテン酸化酵素(BCO)と、
(c)レチノールの生成に対して少なくとも90%の全変換率でレチナールをレチノールに変換することができ、配列番号19に従うポリペプチドに対して少なくとも90%の配列同一性を有するポリペプチドから選択されるレチノールデヒドロゲナーゼ(RDH)[EC1.1.1.105]と、
(b)アセチルトランスフェラーゼ(ATF)[EC2.3.1.84]であって、レチノールから、前記宿主細胞により産生されるレチノイドの総量を基準として少なくとも40%のアセチル化レチノール、すなわち酢酸レチニルの割合で、酢酸レチニルへの変換を触媒し、配列番号33に従うポリペプチドに対して少なくとも90%の配列同一性を有するポリペプチドから選択される酵素と
を含み、
(a)、(b)、(c)の全ての酵素が前記宿主細胞に導入され、異種発現している、カロテノイド産生真菌宿主細胞。
【請求項2】
前記アセチルトランスフェラーゼ[EC2.3.1.84]がレチノールから酢酸レチニル混合物への変換を触媒し、前記混合物が、少なくとも65~90%のトランス-アイソフォームの酢酸レチニルを含む、請求項1に記載のカロテノイド産生真菌宿主細胞。
【請求項3】
前記レチノールデヒドロゲナーゼ(RDH)[EC1.1.1.105]がフザリウム属(Fusarium)から選択される、請求項1又は2に記載のカロテノイド産生真菌宿主細胞。
【請求項4】
内在性アシルトランスフェラーゼ活性の改変をさらに含み、前記内在性アシルトランスフェラーゼ活性が低減又は消失されている、請求項1~3のいずれか一項に記載のカロテノイド産生真菌宿主細胞。
【請求項5】
前記宿主細胞がサッカロミケス属(Saccharomyces)、アスペルギルス属(Aspergillus)、ピキア属(Pichia)、ハンゼヌラ属(Hansenula)、フィコミケス属(Phycomyces)、ムコール属(Mucor)、ロドトルラ属(Rhodotorula)、スポロボロミケス属(Sporobolomyces)、キサントフィロミセス属(Xanthophyllomyces)、ファフィア属(Phaffia)、ブラケスレア属(Blakeslea)及びヤロウイア属(Yarrowia)から選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載のカロテノイド産生真菌宿主細胞。
【請求項6】
ベータ-カロテンを、レチナール、レチノール、及び/又は酢酸レチニルに変換するためのプロセスにおける、請求項1~5のいずれか一項に記載のカロテノイド産生真菌宿主細胞の使用。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載のカロテノイド産生真菌宿主細胞を適切な培養条件下、水性培地中で培養することと、前記培地及び/又は宿主細胞からトランス-酢酸レチニルを単離し、さらに精製することとを含む、トランス-酢酸レチニルの生産プロセス。
【請求項8】
(a)ベータ-カロテンからシス-及びトランス-レチナールを含むレチナール混合物への変換を触媒することのできる立体選択的BCO、トランス-レチノールから酢酸レチニルへの変換を触媒することのできる真菌アセチルトランスフェラーゼ(ATF)[EC2.3.1.84]、レチナールをレチノールに変換することのできるレチノールデヒドロゲナーゼ(RDH)[EC1.1.1.105]をコードする核酸分子を適切な真菌宿主細胞に導入し、発現するステップと、
(b)ベータ-カロテンを、シス-及びトランス-レチナールを含むレチナール混合物に酵素変換するステップであって、前記混合物におけるトランス-レチナールの割合が少なくとも65%であるステップと、
(c)前記レチナール混合物を、レチノールの生成に対して少なくとも90%の全変換率でレチノールに酵素変換するステップと、
(d)レチノールを酢酸レチニルに酵素変換するステップであって、前記宿主細胞により生成されたレチノイドの全量の少なくとも40%が酢酸レチニルであるステップと
を含み、
導入された前記立体選択的BCOが、配列番号1、3、5、9、11、13、15、17に従うポリペプチドとの配列同一性が少なくとも90%であるポリペプチドから選択され、導入された前記RDHが、配列番号19に従うポリペプチドに対して少なくとも90%の配列同一性を有するポリペプチドから選択され、導入された前記ATFが、配列番号33に従うポリペプチドに対して少なくとも90%の配列同一性を有するポリペプチドから選択される、レチナール、レチノール、及び/又は酢酸レチニルの生産プロセス。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、多段階プロセスによってレチノイドを生産するための新規の酵素プロセスに関し、本プロセスは、カロテン産生宿主細胞における活性を有する異種酵素の使用を含み、特に、このようなプロセスは高い割合のトランス-アイソフォームのレチノイドをもたらす。
【0002】
ビタミンAを含むレチノイドは、栄養による供給を受けなければならないヒトにとって非常に重要で不可欠な栄養素の1つである。レチノイドは、特に視覚、免疫系及び成長に関して、ヒトの健康な状態を促進する。
【0003】
ビタミンA及びその前駆体を含むレチノイドの現在の化学的生産方法は、例えば、高エネルギー消費、複雑な精製工程及び/又は望ましくない副産物などのいくつかの望ましくない特徴を有する。したがって、過去数十年間にわたって、ビタミンA及びその前駆体を含むレチノイドを製造するために、より経済的且つ生態学的であり得る、微生物変換工程を含む他のアプローチが研究されている。
【0004】
一般に、レチノイドを産生する生物系は産業的に扱いが困難であり、且つ/或いは非常に低レベルの化合物を生じるので、商業規模の単離が実用的でない。これには、このような生物系におけるレチノイドの不安定性、又は比較的高い副産物の生成を含むいくつかの理由がある。
【0005】
したがって、ベータ-カロテンからビタミンAへの酵素変換の産物特異性及び/又は生産性を改善することが継続中の課題である。特に、前駆体及び/又は中間体の変換に関与する酵素の生産性及び選択性を最適化することが望ましい。
【0006】
驚くことに、我々は今回、レチノールの生成に対して少なくとも約10%の全変換率で、且つ少なくとも65%の割合がトランス-酢酸レチニルで、ベータ-カロテンから酢酸レチニルへの変換に関与する遺伝子を含み、且つそれを発現する改変宿主生物、例えば、カロテノイド産生宿主細胞、特に真菌宿主細胞を用いて、レチニルエステル、特に酢酸レチニルを生産するためのプロセスを特定することができた。
【0007】
特に、本発明は、(1)ベータ-カロテンから、少なくとも65%の割合でトランス-レチナールとして存在するレチナール混合物への変換を触媒する立体選択的/トランス選択的ベータ-カロテンオキシダーゼ(BCO)と、(2)レチニルエステル、特に酢酸レチニルにアセチル化されるレチノールの全変換率が少なくとも10%で、レチノールから酢酸レチニル混合物への変換を触媒するアセチルトランスフェラーゼ(ATF)であって、トランス-レチノールのアセチル化に対する優先性を有するATFとを含む宿主細胞、特にカロテノイド産生宿主細胞、例えば真菌宿主細胞に関する。好ましくは、少なくとも80%のレチニルエステルは、好ましくはトランス-酢酸レチニルとしての酢酸レチニルの形態である。
【0008】
本発明に従うカロテノイド産生宿主細胞、特に真菌宿主細胞は、任意選択的にさらに、(3)特にレチノールの生成に対して少なくとも約90%の全変換率で、レチナールをレチノールに変換することができる(好ましくは、異種)レチノールデヒドロゲナーゼ(RDH)を含む。
【0009】
本発明に従うカロテノイド産生宿主細胞、特に真菌宿主細胞は、任意選択的にさらに、(4)内在性アシルトランスフェラーゼ活性、すなわちレチノールの長鎖レチニルエステルへのアシル化に対する活性の改変を含み、前記改変は、前記内在性アシルトランスフェラーゼ活性の低減又は消失をもたらす。
【0010】
本明細書で使用される場合、「真菌宿主細胞」という用語は、特に、宿主細胞としての酵母、例えば、ヤロウイア属(Yarrowia)又はサッカロミケス属(Saccharomyces)などを含む。
【0011】
本明細書で使用される場合、BCOに関して「立体選択的」、「選択的」、「トランス選択的」又は「トランス異性体選択的」酵素という用語は、本明細書において互換的に使用される。これらは、トランス異性体に対する触媒活性が増大された、すなわちベータ-カロテンからトランス-レチナールへの触媒作用に対する活性が増大された酵素、すなわち本明細書に開示されるBCOを指す。本発明に従う酵素は、例えばトランス-レチナールなどのトランス-アイソフォームの割合が、このような酵素又はこのような酵素を含む/発現するようなカロテン産生宿主細胞、特に真菌宿主細胞によって産生されるレチノイドの総量を基準として少なくとも約65%の範囲であればトランス特異的である。
【0012】
本明細書で使用される場合、「ベータ-カロテン酸化酵素」、「ベータ-カロテンオキシゲナーゼ」、「ベータ-カロテン酸化活性を有する酵素」又は「BCO」という用語は本明細書において互換的に使用され、トランス異性体選択的な方法でベータ-カロテンからレチナールへの変換を触媒することができ、前記宿主細胞によって産生されるレチナールを含むレチノイドの総量を基準として少なくとも約65%、例えば、68、70、75、80、85、90、95、98%又は最大100%までのトランス-アイソフォームのレチナールを有するレチナール混合物をもたらす酵素を指す。
【0013】
本明細書で定義されるトランス選択的BCOは、例えば、植物、動物、細菌、真菌、藻類などの任意の供給源から得ることができる。特に有用な立体選択的BCOは、子嚢菌門又は担子菌門から選択される真菌を含むがこれらに限定されない真菌、特にディカリアから得られ、好ましくは、フザリウム属(Fusarium)又はウスチラゴ属(Ustilago)から得られ、より好ましくは、F.フジクロイ(F.fujikuroi)又はU.マイディス(U.maydis)から単離され、例えば、FfCarX(AJ854252に由来するポリペプチド配列)、UmCCO1(EAK81726に由来するポリペプチド配列)などである。さらに、特に有用な立体選択的BCOは昆虫、特に双翅目から得られ、好ましくはドロソフィラ属(Drosophila)から、より好ましくはD.メラノガスター(D.melanogaster)から得られ、例えば、DmNinaB又はDmBCO(NP_650307.2に由来するポリペプチド配列)などである。さらに、特に有用な立体選択的BCOは植物、特に被子植物から得られ、好ましくはクロクス属(Crocus)から、より好ましくはC.サティブス(C.sativus)から得られ、例えば、CsZCO(Q84K96.1に由来するポリペプチド配列)などである。さらに、特に有用な立体選択的BCOは真核生物、特に魚綱(pesces)から得られ、好ましくはダニオ属(Danio)又はイクタルルス属(Ictalurus)から、より好ましくはD.レリオ(D.rerio)又はI.プンクタトゥス(I.punctatus)から得られ、例えば、DrBCO1、IpBCO(XP_017333634に由来するポリペプチド配列)などである。
【0014】
したがって、1つの態様では、本発明は、ビタミンAを含むレチノイドの生合成のために使用されるカロテノイド産生宿主細胞、特に真菌宿主細胞に関し、前記宿主細胞は、配列番号1、3、5、7からなる群から選択されるデータベースから知られているポリペプチドに対して少なくとも60%、例えば、65、70、75、80、85、90、95、97、98、99%若しくは最大100%までの同一性を有するポリペプチド又はこのような配列をコードするポリヌクレオチド、或いは配列番号9、11、13、15、17に従うポリペプチドに対して少なくとも50%、例えば、55、60、65、70、75、80、85、90、93、95、97、98、99%若しくは最大100%までの同一性を有するポリペプチド又はこのような配列をコードするポリヌクレオチドを含む。
【0015】
好ましくは、本明細書で定義されるカロテン産生宿主細胞、特に真菌宿主細胞において異種発現される上記の立体選択的BCOに加えて、宿主細胞はさらに、(2)レチニルエステル、特に酢酸レチニルにアセチル化されるレチノールの全変換率が少なくとも10%で、レチノールから酢酸レチニル混合物への変換を触媒するアセチルトランスフェラーゼ(ATF)であって、トランス-レチノールのアセチル化に対する優先性を有するATFを含む。
【0016】
本明細書で使用される場合、「アセチルトランスフェラーゼ」、「レチノールアセチル化酵素」、「レチノールアセチル化活性を有する酵素」又は「ATF」という用語は本明細書において互換的に使用され、トランス-アイソフォームで産生される酢酸レチニルが少なくとも80%、約87、90、92、95、97、99又は最大100%までの量で、レチノールから酢酸レチニルへの変換を触媒することができる酵素[EC2.3.1.84]を指す。前記ATFは、レチニルエステル、例えば酢酸レチニルの生成に対して少なくとも約10%、好ましくは12、15、20、30、40、50、80、90又はさらに100%(前記宿主細胞により産生されるレチノイド混合物内のレチノイドの総量を基準として)の全変換率で、レチノール、好ましくはトランス-レチノールをレチニルエステル、特に酢酸レチニルに変換することができる。好ましいアイソフォームはATF1である。
【0017】
本明細書で定義されるATFは、例えば、植物、ヒトを含む動物、藻類、酵母を含む真菌、又は細菌などの任意の供給源から得ることができる。特に有用なATF、好ましくはATF1酵素は、酵母、特にサッカロミケス属(Saccharomyces)又はラカンケア属(Lachancea)から得られ、好ましくは、サッカロミケス・バヤヌス(Saccharomyces bayanus)、例えば、SbATF1(AHX23958.1に由来するポリペプチド配列)など、ラカンケア・ミランティナ(Lachancea mirantina)(LmATF1;配列番号33)、又はラカンケア・フェルメンタティ(Lachancea fermentati)、例えばLfATF1(SCW02964.1に由来するポリペプチド配列)若しくはLffATF1(LT598487に由来するポリペプチド配列)などから得られる。さらに、特に有用なATF1酵素は、ペチュニア属(Petunia)、エウオニムス属(Euonymus)、マルス属(Malus)、又はフラガリア属(Fragaria)から選択される植物を含むがこれらに限定されない植物から得られ、好ましくは、P.ヒブリダ(P.hybrida)、例えばPhATF(ABG75942.1に由来するポリペプチド配列)、E.アラトゥス(E.alatus)、例えばEaCAcT(ADF57327.1に由来するポリペプチド配列)、M.ドメスティカ(M.domestica)(AY517491に由来するポリペプチド配列)、又はF.アナナッサ(F.ananassa)(AEM43830.1に由来するポリペプチド配列)から得られる。さらに、特に有用なATF1酵素は、エシェリキア属(Escherichia)、好ましくは、E.コリ(E.coli)から得られ、例えば、EcCAT(EDS05563.1に由来するポリペプチド配列)などである。
【0018】
したがって、1つの態様では、本発明は、ビタミンAを含むレチノイドの生合成のために使用されるカロテノイド産生宿主細胞、特に真菌宿主細胞に関し、前記宿主細胞は、
(1)配列番号1、3、5及び7からなる群から選択されるポリペプチドに対して少なくとも60%、例えば、65、70、75、80、85、90、95、97、98、99%若しくは最大100%までの同一性を有するポリペプチド、又は配列番号9、11、13、15若しくは17から選択されるポリペプチドに対して少なくとも50%、例えば、55、60、65、70、75、80、85、90、93、95、97、98、99%若しくは最大100%までの同一性を有するポリペプチドと、
(2)配列番号22、24、26、28、30、32、34、35、37又は39に従うヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドによってコードされるような、配列番号21、23、25、27、29、31、33、36、又は38からなる群から選択されるポリペプチドに対して少なくとも60%、例えば、65、70、75、80、85、90、92、95、97、98、99%又は最大100%までの同一性を有するポリペプチドと
を含む。
【0019】
本発明の態様によると、カロテノイド産生宿主細胞は、(1)本明細書で定義される立体選択的BCOと、(2)酢酸レチニル混合物中に少なくとも80%の割合でトランス-アイソフォームとして存在する酢酸レチニルを生産するためのプロセスにおいて使用されるトランス作用性ATF、好ましくはATF1酵素とを含み、前記宿主細胞はさらに、レチノールの産生に対して少なくとも90%の全変換率で、レチナールからレチノールへの還元を触媒する選択的レチノールデヒドロゲナーゼ(RDH)を含む。
【0020】
本明細書で使用される場合、「レチナールレダクターゼ」、「レチノールデヒドロゲナーゼ」、「レチナール還元活性を有する酵素」又は「RDH」という用語は本明細書において互換的に使用され、ほぼ独占的に(90%以上)レチナールからレチノールへの変換を触媒することができる、すなわち、レチノールの形成に対して少なくとも約90%、好ましくは92、95、97、98、99又はさらに100%の全変換率で、レチナールからレチノールへの変換を触媒することができる酵素[EC1.1.1.105]を指す。
【0021】
本発明の目的で、レチノールの形成に対して少なくとも約18%、例えば、少なくとも約20、30、40、50、60、70、80、90、100%の増大をもたらす任意のレチナール還元酵素を本明細書で定義されるプロセスにおいて使用することができ、このような増大は、適切なカロテノイド産生宿主細胞、特に真菌宿主細胞、例えば、ヤロウイア属(Yarrowia)菌株又はサッカロミケス属(Saccharomyces)菌株などに存在する内在性RDHを用いてレチノール形成において計算される。
【0022】
本明細書で定義されるような、レチノール形成、すなわちレチナール還元反応に対する活性を有するRDHは、例えば、植物、ヒトを含む動物、藻類、酵母を含む真菌、又は細菌などの任意の供給源から得ることができる。特に有用なRDHは、子嚢菌門から選択される真菌を含むがこれらに限定されない真菌、特にディカリアから得られ、好ましくはフザリウム属(Fusarium)から得られ、より好ましくはF.フジクロイ(F.fujikuroi)から単離され、例えば、FfRDH12(配列番号19)などである。
【0023】
したがって、さらなる態様では、本発明は、ビタミンAを含むレチノイドの生合成のために使用されるカロテノイド産生宿主細胞、特に真菌宿主細胞に関し、前記宿主細胞は、
(1)配列番号1、3、5及び7からなる群から選択されるポリペプチドに対して少なくとも60%、例えば、65、70、75、80、85、90、95、97、98、99%若しくは最大100%までの同一性を有するポリペプチド、又は配列番号9、11、13、15若しくは17から選択されるポリペプチドに対して少なくとも50%、例えば、55、60、65、70、75、80、85、90、93、95、97、98、99%若しくは最大100%までの同一性を有するポリペプチドと、
(2)配列番号22、24、26、28、30、32、34、35、37又は39に従うヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドによってコードされるような配列番号21、23、25、27、29、31、33、36、又は38からなる群から選択されるポリペプチドに対して少なくとも60%、例えば、65、70、75、80、85、90、92、95、97、98、99%又は最大100%までの同一性を有するポリペプチドと、
(3)配列番号20に従う核酸配列を含むポリヌクレオチドによってコードされる配列番号19に従うポリペプチドに対して少なくとも60%、例えば、65、70、75、80、85、90、95、97、98、99%又は最大100%までの同一性を有するポリペプチドと
を含む。
【0024】
本発明の別の態様によると、本発明に従うカロテノイド産生宿主細胞は、少なくとも65%の割合でトランス-アイソフォームとして存在する酢酸レチニルを生産するためのプロセスにおいて使用され、前記宿主細胞は、(1)本明細書で定義される立体選択的又はトランス選択的BCOと、(2)トランス-レチノールのアセチル化に対して優先性を有する、本明細書で定義されるATF、例えばATF1と、(3)レチナールの還元によるレチノールの形成に対して約90%以上の活性を有するRDHとを含み、任意選択的にさらに、内在性アシルトランスフェラーゼ活性の改変、例えば、レチノールから長鎖レチニルエステルへのアシル化に対する内在性活性の低減又は消失を含む。
【0025】
本明細書で使用される場合、「アシルトランスフェラーゼ」、「レチノールアシル化酵素」、「レチノールアシル化活性を有する酵素」という用語は本明細書では互換的に使用され、レチノールから長鎖レチニルエステルへの変換を触媒することができる酵素を指す。適切なアシル化酵素は、DGAT[EC2.3.1.20]、例えば、DGAT1又はDGAT2、ARAT、mdyを含むが、これらに限定されないアシル-CoA:ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼファミリーメンバー[EC2.3.1]から選択され得る。
【0026】
したがって、一実施形態では、本発明は、ビタミンAを含むレチノイドの生合成のために使用されるカロテノイド産生宿主細胞、特に真菌宿主細胞に関し、前記宿主細胞は、
(1)配列番号1、3、5及び7からなる群から選択されるポリペプチドに対して少なくとも60%、例えば、65、70、75、80、85、90、95、97、98、99%若しくは最大100%までの同一性を有するポリペプチド、又は配列番号9、11、13、15若しくは17から選択されるポリペプチドに対して少なくとも50%、例えば、55、60、65、70、75、80、85、90、93、95、97、98、99%若しくは最大100%までの同一性を有するポリペプチドと、
(2)配列番号22、24、26、28、30、32、34、35、37又は39に従うヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドによってコードされるような配列番号21、23、25、27、29、31、33、36、又は38からなる群から選択されるポリペプチドに対して少なくとも60%、例えば、65、70、75、80、85、90、92、95、97、98、99%又は最大100%までの同一性を有するポリペプチドと、
(3)配列番号20に従う核酸配列を含むポリヌクレオチドによってコードされる配列番号19に従うポリペプチドに対して少なくとも60%、例えば、65、70、75、80、85、90、95、97、98、99%又は最大100%までの同一性を有するポリペプチドと、
(4)DGAT[EC2.3.1.20]などの、レチノールから長鎖レチニルエステルへのアセチル化を触媒するアシルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドの活性の低減又は消失と
を含む。
【0027】
本明細書で定義されるカロテノイド産生宿主細胞、特に真菌宿主細胞を用いてレチノイドを生産するためのプロセスにおけるアシル化活性に関する改変は、アシルトランスフェラーゼ活性をコードする内在性遺伝子を低減又は消失させることを意味し、したがって、宿主細胞の改変前にそれぞれの内在性アシルトランスフェラーゼを発現する宿主細胞、すなわち内在性アシルトランスフェラーゼがまだ活性である宿主細胞と比較して、内在性アシルトランスフェラーゼの活性が低減又は消失、好ましくは消失されており、前記宿主細胞は、少なくとも約65%をトランス-アイソフォームで含む酢酸レチニル混合物を産生することができるか、又は産生するために使用される。前記宿主細胞をビタミンAの生産プロセスにおいて使用する場合、トランス-酢酸レチニルなどのトランス-アイソフォームの割合は、レチニルエステルの総量を基準として、約65%以上、好ましくは、68、70、75、80、85、90、95、98又は最大100%まで増大され得る。
【0028】
レチノールアシルトランスフェラーゼ活性などの内在性遺伝子/タンパク質活性の低減又は消失は、例えば、アシルトランスフェラーゼ活性などの前記活性を有する酵素をコードする内在性遺伝子に突然変異を導入することによって達成され得る。当業者には、本明細書で定義される宿主細胞を遺伝子操作して、このような活性、例えばアシルトランスフェラーゼ活性の低減又は消失をもたらす方法が分かる。これらの遺伝子操作には、例えば、プラスミド、ウィルス、又は他のベクターを用いる遺伝子置換、遺伝子増幅、遺伝子破壊、トランスフェクション、形質転換が含まれるが、これらに限定されない。
【0029】
核酸又はアミノ酸への突然変異の発生、すなわち突然変異誘発は、例えば、ランダム又は部位特異的(side-directed)突然変異誘発、例えば放射線などの作用物質によって生じる物理的損傷、化学的処理、又は遺伝因子の挿入などによる種々の方法で実施され得る。当業者には、突然変異を導入する方法が分かる。
【0030】
本明細書で定義される宿主細胞に、遺伝子及び/又はタンパク質、例えば、本明細書で定義されるアシル化酵素などのコピーを少ししか又は全く生じさせないため、すなわち、アシルトランスフェラーゼ活性を少ししか又は全く有さないようにするための改変は、弱いプロモーターの使用、又はそれぞれの酵素(本明細書に記載される)(の部分)、特にその調節要素の突然変異(例えば、挿入、欠失又は点突然変異)を含み得る。このような遺伝子操作の一例は、例えば、本明細書で定義される酵素のN末端領域により媒介されるDNAとの相互作用、又は他のエフェクター分子との相互作用に影響を与え得る。特に、特異的な酵素活性の低減又は消失をもたらす改変は、タンパク質の機能性部分、例えば、触媒活性に対する機能性部分において実行され得る。さらに、酵素比活性の低減又は消失は、前記酵素を、特異的な阻害物質又はそれらと特異的に相互作用する他の物質と接触させることによって達成され得る。このような阻害物質を同定するために、それぞれの酵素、例えば、本明細書で定義されるアシル化酵素などは、その活性を阻害することが疑われる化合物の存在下で発現され、活性について試験され得る。
【0031】
本明細書で定義される宿主細胞に、遺伝子及び/又はタンパク質、例えば、本明細書で定義されるレチノールの形成に対する選択性を有する立体選択的BCO、(トランス作用性)ATF及び/又はRDHなどのコピーをより多く生じさせるための改変は、強力なプロモーター、適切な転写及び/若しくは翻訳エンハンサーの使用、又はカロテノイド産生宿主細胞、特に真菌宿主細胞への1つ若しくは複数の遺伝子コピーの導入を含み、所与の時間におけるそれぞれの酵素の蓄積の増大をもたらし得る。当業者には、宿主細胞に基づいてどの技術を使用するかが分かる。遺伝子発現の増大又は低減は、例えば、ノーザン、サザン又はウエスタンブロット技術などの当該技術分野で知られている種々の方法によって測定することができる。
【0032】
本明細書で定義される酵素の酵素触媒作用に関連する「変換」、「酸化」、「還元」、「アシル化」、「アセチル化」という用語は当該技術分野で認識されており、レチノイド、特に酢酸レチニルの形成/産生に対する酵素の作用を指す。
【0033】
好ましくは、本明細書で定義されるレチノイド、特に酢酸レチニルの生産プロセスにおいて使用される酵素は、異種酵素として発現される。これらは、適切な発現ベクターに組み込まれてもよいし、又は染色体DNAに組み込まれてもよい。レチノイドの産生、特に本明細書に記載される酢酸レチニルの産生に関与する酵素をコードする、発現ベクター上の又は宿主細胞の染色体DNAに組み込まれた異種ポリヌクレオチドを含むこのようなカロテノイド産生宿主細胞、特に真菌宿主細胞は、組換え宿主細胞と呼ばれる。
【0034】
1つの特定の態様では、本発明は、レチノイド、特に、少なくとも約65~90%のトランス-アイソフォームの酢酸レチニルを有する酢酸レチニルを生産するためのプロセスにおいて使用される、本明細書で定義される1つ又は複数の(遺伝子)改変を保有するカロテノイド産生宿主細胞、特に真菌宿主細胞に関し、アセチル化レチノール形態、すなわちレチニルエステル、例えば酢酸レチニルの割合は、前記宿主細胞により産生されるレチノイドの総量を基準として少なくとも約10%である。
【0035】
本発明の別の態様によると、本明細書で定義されるカロテノイド産生宿主細胞で産生される細胞外レチノイドの量は、特に、例えば、ヤロウイア属(Yarrowia)又はサッカロミケス属(Saccharomyces)などの酵母を含む真菌から選択されるカロテノイド産生宿主細胞を用いて増大させることができる。したがって、本明細書に記載されるプロセスは、少なくとも80%のレチノイド、例えば、85、90、92、95、98、99又は最大100%までのレチノイド、特に、好ましくは少なくとも約80%の割合でトランス-アイソフォームの酢酸レチニルを細胞外に排出させる。これは、特に、さらなる単離及び精製工程に関して有用である。
【0036】
本明細書に記載されるプロセスのために使用される適切なカロテノイド産生宿主細胞は、カロテノイド/レチノイドの産生に適しており、且つ本明細書に記載される機能的等価物又は誘導体を含む本明細書で開示される酵素の1つをコードする核酸の発現を可能にする任意の(微)生物から選択され得る。適切なカロテノイド/レチノイド産生宿主(微)生物の例は、細菌、藻類、酵母を含む真菌、植物又は動物細胞である。好ましい細菌は、例えばエシェリキア・コリ(Escherichia coli)などのエシェリキア属(Escherichia)、ストレプトミケス属(Streptomyces)、パンテア属(Pantoea)(エルウィニア属(Erwinia))、バチルス属(Bacillus)、フラボバクテリウム属(Flavobacterium)、シネココックス属(Synechococcus)、ラクトバチルス属(Lactobacillus)、コリネバクテリウム属(Corynebacterium)、ミクロコックス属(Micrococcus)、ミクソコックス属(Mixococcus)、ブレビバクテリウム属(Brevibacterium)、ブラディリゾビウム属(Bradyrhizobium)、ゴルドニア属(Gordonia)、ディエトジア属(Dietzia)、ムリカウダ属(Muricauda)、スフィンゴモナス属(Sphingomonas)、シノコキスティス属(Synochocystis)、例えばパラコックス・ゼアキサンチニファキエンス(Paracoccus zeaxanthinifaciens)などのパラコックス属(Paracoccus)のものである。好ましい真核微生物、特に酵母を含む真菌は、サッカロミケス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)などのサッカロミケス属(Saccharomyces)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)などのアスペルギルス属(Aspergillus)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)などのピキア属(Pichia)、ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)などのハンゼヌラ属(Hansenula)、フィコミケス・ブラケスレアヌス(Phycomyces blakesleanus)などのフィコミケス属(Phycomyces)、ムコール属(Mucor)、ロドトルラ属(Rhodotorula)、スポロボロミケス属(Sporobolomyces)、キサントフィロミセス属(Xanthophyllomyces)、ファフィア属(Phaffia)、例えばブラケスレア・トリスポラ(Blakeslea trispora)などのブラケスレア属(Blakeslea)、又はヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)などのヤロウイア属(Yarrowia)から選択される。特に好ましいのは、例えば、ヤロウイア属(Yarrowia)若しくはサッカロミケス属(Saccharomyces)などの真菌宿主細胞における発現、又はエシェリキア属(Escherichia)における発現、より好ましくは、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)又はサッカロミケス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)における発現である。
【0037】
本発明に関して、例えば、微生物、真菌、藻類、又は植物などの生物は、原核生物の国際命名規約(International Code of Nomenclature)又は藻類、真菌、及び植物の国際命名規約(メルボルン規約(Melbourne Code))によって定義されるように、同じ生理学的特性を有するこのような種の同義語又はバソニムも含むことが理解される。したがって、例えば、ラカンケア・ミランティナ(Lachancea mirantina)菌株は、日本由来のジゴサッカロミケス(Zygosaccharomyces)種IFO11066菌株の同義語である。
【0038】
宿主細胞に応じて、本明細書で定義されるポリヌクレオチド、例えば、本明細書で定義されるBCO、RDH、ATFをコードするポリヌクレオチドなどは、それぞれの宿主細胞における発現のために最適化され得る。当業者には、このような改変ポリヌクレオチドを作成する方法が分かる。本明細書で定義されるポリヌクレオチドは、このような宿主最適化核酸分子が本明細書で定義されるそれぞれの活性を有するポリペプチドを依然として発現する限り、これらも包含することが理解される。
【0039】
したがって、一実施形態では、本発明は、本明細書で定義されるBCO、ATF、及び/又はRDHをコードするポリヌクレオチドを含むカロテノイド産生宿主細胞、特に真菌宿主細胞に関し、これは、宿主細胞又は酵素の成長又は発現パターンに影響を与えずに、前記宿主細胞における発現のために最適化されている。特に、カロテノイド産生宿主細胞は、配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、35、37及び39からなる群から選択される最適化ポリヌクレオチド配列、又はそれに対して少なくとも60%、例えば、65、70、75、80、85、90、92、95、97、98、99%若しくは最大100%までの同一性を有する配列を含む、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)などのヤロウイア属(Yarrowia)から選択される。
【0040】
本発明は、(1)本明細書で定義される立体特異的BCOであって、ベータ-カロテンを前記BCOと接触させて、少なくとも65%、例えば、少なくとも65~90%の割合のトランス-レチナールを有するレチナール混合物をもたらすことを含む、立体特異的BCOと、(2)本明細書で定義されるAtf1酵素の1つであって、レチノール、好ましくはトランス-レチノール、又は少なくとも65~90%がトランス-アイソフォームのレチノール混合物を、前記Atf1酵素と接触させることを含む、Atf1酵素の1つとの酵素活性によって、好ましくは少なくとも65%の割合のトランス-酢酸レチニルを有する、酢酸レチニルを含むレチニルエステル混合物を生産するためのプロセスに関する。特に、本発明は、ビタミンAの生産プロセスに関し、前記プロセスは、(a)(1)本明細書で定義される立体選択的BCO酵素の1つ、及び(2)本明細書で定義されるAtf1酵素の1つをコードする核酸分子を、本明細書で定義される適切なカロテノイド産生宿主細胞、特に真菌宿主細胞に導入することと、(b)ベータ-カロテンを、少なくとも約65%のトランス-レチナールを有するレチナールに酵素変換すること、好ましくは少なくとも65~90%の割合のトランス-レチノールを有するレチノールを、前記発現されたAtf1の作用によって、トランス-及びシス-酢酸レチニルの混合物に酵素変換、すなわちアセチル化することと、(3)当業者に知られている適切な条件下で前記酢酸レチニルをビタミンAに変換することとを含む。
【0041】
「配列同一性」、「同一性%」又は「配列相同性」という用語は、本明細書において互換的に使用される。本発明の目的で、2つのアミノ酸配列又は2つの核酸配列の配列相同性又は配列同一性の割合を決定するために、配列は最適な比較を目的として整列されることが本明細書において定義される。2つの配列間のアライメントを最適化するために、比較される2つの配列のいずれかにギャップが導入され得る。このようなアライメントは、比較されている配列の全長にわたって行うことができる。或いは、アライメントは、より短い長さ、例えば約20、約50、約100又はそれ以上の核酸/塩基又はアミノ酸にわたって行われてもよい。配列同一性は、報告された整列領域にわたる2つの配列間の同一マッチの割合である。2つのアミノ酸配列間又は2つのヌクレオチド配列間の配列同一性パーセントは、2つの配列のアライメントのためのNeedleman及びWunschアルゴリズム(Needleman,S.B.and Wunsch,C.D.(1970)J.Mol.Biol.48,443-453)を用いて決定され得る。アミノ酸配列及びヌクレオチド配列はいずれも、このアルゴリズムによって整列され得る。Needleman-WunschアルゴリズムはコンピュータプログラムNEEDLEに実装されている。本発明の目的では、EMBOSSパッケージからのNEEDLEプログラムを使用した(バージョン2.8.0以上、EMBOSS:European Molecular Biology Open Software Suite(2000)Rice,Longden and Bleasby,Trends in Genetics 16,(6)pp276-277、http://emboss.bioinformatics.nl/)。タンパク質配列については、置換マトリックスのためにEBLOSUM62が使用される。ヌクレオチド配列につては、EDNAFULLが使用される。使用される任意選択的パラメータは、10のギャップ-オープンペナルティ及び0.5のギャップ伸長ペナルティである。当業者は、これらの異なるパラメータ全てがわずかに異なる結果をもたらし得るが、異なるアルゴリズムを用いたときに2つの配列の全体の同一性の割合は有意に変化されないことを認識するであろう。
【0042】
上記のプログラムNEEDLEによるアライメントの後、クエリー配列と本発明の配列との間の配列同一性の割合は、以下のように計算される:両方の配列内の同一アミノ酸又は同一ヌクレオチドを示すアライメント内の対応する位置の数を、アライメント内のギャップの総数を差し引いた後のアライメントの全長で除する。本明細書で定義される同一性は、NOBRIEFオプションを使用することによってNEEDLEから得ることができ、プログラムの出力において「最長同一性」として標識される。比較される両方のアミノ酸配列が、そのアミノ酸のいずれにおいても違いがない場合、これらは同一である、すなわち100%の同一性を有する。本明細書で定義される植物に由来する酵素に関して、当業者には、植物由来の酵素が例えば葉緑体プロセシング酵素(CPE)などの特異的酵素により切断され得る葉緑体標的シグナルを含有し得ることが分かる。
【0043】
本明細書で定義される酵素は、酵素活性を変更しないアミノ酸置換を保有する酵素も包含し、すなわちこれらは野生型酵素に関して同じ特性を示し、特に、酢酸レチニルのトランス-アイソフォームの産生に対して少なくとも約65%、例えば、少なくとも約65~90%の全変換率で、ベータ-カロテンからレチナール、レチナールからレチノール、レチノールから酢酸レチニルへの変換を触媒する。このような突然変異は「サイレント変異」とも呼ばれ、本明細書に記載される酵素の(酵素)活性を変更しない。
【0044】
本発明に従う核酸分子は、本発明により提供される核酸配列の一部のみ又は断片、例えば、プローブ若しくはプライマーとして使用され得る断片、又は本明細書で定義される酵素の一部をコードする断片を含み得る。本明細書で定義されるBCO、ATF及び/又はRDHをコードする遺伝子のクローニングから決定されるヌクレオチド配列は、他の種からの他の相同体の同定及び/又はクローニングにおいて使用するために設計されるプローブ及びプライマーの作成を可能にする。プローブ/プライマーは、通常、実質的に精製されたオリゴヌクレオチドを含み、これは通常、本明細書に記載されるヌクレオチド配列の少なくとも約12又は15、好ましくは約18又は20、より好ましくは約22又は25、さらにより好ましくは約30、35、40、45、50、55、60、65、又は75以上の連続ヌクレオチドに対して好ましくは高ストリンジェント条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列の領域を含む。
【0045】
このようなハイブリダイゼーション条件の好ましい非限定的な例は、約45℃における6x塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)中のハイブリダイゼーションと、その後の、50℃、好ましくは55℃、より好ましくは60℃、さらにより好ましくは65℃における1xSSC、0.1%SDS中の1回又は複数回の洗浄である。
【0046】
高ストリンジェント条件には、例えば、100μg/mlサケ精子DNAを含むか又は含まないDigEasyHyb溶液(Roche Diagnostics GmbH)、又は50%ホルムアミド、5xSSC(150mMのNaCl、15mMのクエン酸三ナトリウム)、0.02%ドデシル硫酸ナトリウム、0.1%N-ラウロイルサルコシン、及び2%ブロッキング試薬(Roche Diagnostics GmbH)を含む溶液などの溶液中でジゴキシゲニン(DIG)標識DNAプローブ(DIG標識化系;Roche Diagnostics GmbH,68298 Mannheim,Germanyを用いて調製)を用いた42℃における2時間~4日間のインキュベーションと、その後、室温において2xSSC及び0.1%SDS中で5~15分間フィルターを2回洗浄し、次に、65~68℃において0.5xSSC及び0.1%SDS又は0.1xSSC及び0.1%SDS中で15~30分間2回洗浄することが含まれる。
【0047】
ベータ-カロテン産生遺伝子、本明細書に記載されるベータ-カロテンオキシダーゼ、本明細書で定義されるレチノールアセチル化酵素、本明細書で定義されるレチナール還元酵素、及び/又は任意選択的に、ビタミンAの生合成に必要とされる更なる遺伝子を発現することができる、本明細書で定義されるカロテノイド産生宿主細胞、特に真菌宿主細胞は、好気性又は嫌気性条件下で適切な栄養分が補充された、種々の宿主細胞のために当業者により知られている水性培地中で培養され得る。任意選択的に、このような培養は、本明細書で定義される電子の移動に関与するタンパク質及び/又は補助因子の存在下で行われる。宿主細胞の培養/成長は、バッチ、流加バッチ(fed-batch)、半連続又は連続モードで行うことができる。宿主細胞に応じて、好ましくは、例えば、ビタミンA及び前駆体(レチナール、レチノールなど)などのレチノイドの産生は、当業者に知られているように異なり得る。ヤロウイア属(Yarrowia)から選択されるベータ-カロテン及びレチノイド産生宿主細胞の培養及び単離は、例えば、国際公開第2008042338号パンフレットに記載されている。E.コリ(E.coli)から選択される宿主細胞におけるレチノイドの産生に関して、方法は、例えば、Jang et al,Microbial Cell Factories,10:95(2011)に記載されている。例えば、サッカロミケス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)などの酵母宿主細胞においてベータ-カロテン及びレチノイドを生産するための特定の方法は、例えば、国際公開第2014096992号パンフレットに開示されている。
【0048】
本発明は、本明細書に記載される条件下でカロテノイド産生宿主細胞において、それぞれの宿主細胞によって産生されるレチノイドの総量を基準として、少なくとも約65%がトランス-アイソフォームで存在し、且つ少なくとも約10%の割合がアセチル化形態、すなわち酢酸レチニルであるレチノイド、特に酢酸レチニルを生産するためのプロセスに関する。産生されるレチノイド、特に酢酸レチニルは培地及び/又は宿主細胞から単離され、任意選択的にさらに精製され得る。
【0049】
本明細書で使用される場合、酵素に関して「比活性」又は「活性」という用語は、その触媒活性、すなわち所与の基質からの産物の形成を触媒するその能力を意味する。比活性は、規定温度において所与の期間に規定量のタンパク質によって消費される基質及び/又は産生される産物の量を定義する。通常、比活性は、タンパク質1mg当たり1分間に消費される基質又は形成される産物のμmolで表される。通常、μmol/分はU(=単位)で略される。したがって、μmol/分/(タンパク質mg)又はU/(タンパク質mg)という比活性の単位の定義は、本文書を通して互換的に使用される。酵素は、インビボで、すなわち本明細書で定義される宿主細胞内、又は適切な基質が存在する系内でその触媒活性を実施すれば活性である。当業者には、酵素活性、特に、本明細書で定義されるBCO、RDH又はATFの活性の測定方法が分かる。レチノイド産生について本明細書で定義される適切な酵素の能力を評価するための分析方法は当該技術分野において知られており、例えば、国際公開第2014096992号パンフレットの実施例4などに記載されている。簡単には、産物のレチノイド及びカロテノイドなどの力価は、HPLCによって測定することができる。
【0050】
本明細書で使用される場合、カロテノイド産生宿主細胞、特に真菌宿主細胞は、それぞれのポリペプチドがインビボで発現され且つ活性であり、カロテノイド、例えばベータ-カロテンの産生をもたらす宿主細胞である。カロテノイド産生宿主細胞を作成するための遺伝子及び方法は当該技術分野において知られており、例えば、国際公開第2006102342号パンフレットが参照される。産生されるカロテノイドに応じて、異なる遺伝子が関与し得る。
【0051】
本明細書で使用される場合、レチノイド産生宿主細胞、特に真菌宿主細胞は、それぞれのポリペプチドがインビボで発現され且つ活性であり、ベータ-カロテンからレチナール、レチノール及び酢酸レチニルへの酵素変換によって、レチノイド、例えば、ビタミンA及びその前駆体の産生をもたらす宿主細胞である。これらのポリペプチドは、本明細書で定義されるBCO、RDH及びATFを含む。ビタミンA経路の遺伝子、及びレチノイド産生宿主細胞の作成方法は、当該技術分野において知られている。好ましくは、ベータ-カロテンはベータ-カロテン酸化酵素の作用によってレチナールに変換され、レチナールは本明細書で定義されるRDHの作用によってさらにレチノールに変換され、レチノール、好ましくはトランス-レチノールは、アセチル-トランスフェラーゼ酵素、例えばATF1などの作用によって酢酸レチノールに変換される。酢酸レチノールは、宿主細胞から単離される最適なレチノイドであり得る。
【0052】
本明細書で使用されるレチノイドは、レチナール、レチノール酸、レチノール、レチノイン酸メトキシド(retinoic methoxide)、酢酸レチニル、レチニルエステル、4-ケト-レチノイド、3ヒドロキシ-レチノイド又はこれらの組合せを含むが、これらに限定されないアポカロテノイドとしても知られているベータカロテン切断産物を含む。本明細書で使用される長鎖レチニルエステルは、少なくとも約8個、例えば、9、10、12、13、15又は20個の炭素原子及び最大約26個まで、例えば、25、22、21個又はそれより少ない炭素原子からなり、好ましくは最大約6個までの不飽和結合、例えば、0、1、2、4、5、6個の不飽和結合を有する炭化水素エステルを定義する。長鎖レチニルエステルは、リノール酸、オレイン酸又はパルミチン酸を含むが、これらに限定されない。レチノイドの生合成は、例えば、国際公開第2008042338号パンフレットに記載されている。
【0053】
本明細書で使用されるレチナールは、IUPAC名(2E,4E,6E,8E)-3,7-ジメチル-9-(2,6,6-トリメチルシクロヘキセン-1-イル)ノナ-2,4,6,8-テトラエナールで知られている。これは、本明細書では互換的にレチンアルデヒド又はビタミンAアルデヒドと称され、シス-及びトランス-アイソフォームの両方、例えば、11-シスレチナール、13-シスレチナール、トランス-レチナール及び全トランスレチナールなどが含まれる。
【0054】
本明細書で使用される「カロテノイド」という用語は、当該技術分野においてよく知られている。これは、2つの20炭素ゲラニルゲラニルピロリン酸分子の連結により天然で形成される長い40炭素の結合イソプレノイドポリエンを含む。これらには、4-ケト位置又は3-ヒドロキシ位置で酸化されてカンタキサンチン、ゼアキサンチン、又はアスタキサンチンをもたらし得る、フィトエン、リコペン、及び例えばベータ-カロテンなどのカロテンが含まれるが、これらに限定されない。カロテノイドの生合成は、例えば、国際公開第2006102342号パンフレットに記載される。
【0055】
本明細書で使用されるビタミンAは、水溶液中に見られるビタミンAの任意の化学形態(例えば、その遊離酸形態で非解離、又はアニオンとして解離)であり得る。本明細書で使用される用語は、生物工学的ビタミンA経路における全ての前駆体又は中間体を含む。また、酢酸ビタミンAも含む。
【0056】
特に、本発明は、本実施形態を特徴とする:
【0057】
- カロテノイド産生宿主細胞、特に真菌宿主細胞であって、(a)立体選択的ベータ-カロテン酸化酵素(BCO)であって、前記宿主細胞がシス-及びトランス-レチナールを含むレチナール混合物を産生し、前記宿主細胞によって産生される混合物中のトランス-レチナールの割合が少なくとも約65%、好ましくは、68、70、75、80、85、90、95、98%又は最大100%までである、立体選択的ベータ-カロテン酸化酵素(BCO)と、(b)アセチルトランスフェラーゼ(ATF)[EC2.3.1.84]、好ましくはアセチルトランスフェラーゼ1(Atf1)活性を有する酵素であって、レチノール、好ましくはトランス-レチノールから、前記宿主細胞により産生されるレチノイドの総量を基準として少なくとも10%の割合のアセチル化レチノール、すなわち酢酸レチニルを有する酢酸レチニル混合物への変換を触媒する酵素とを含む、カロテノイド産生宿主細胞、特に真菌宿主細胞。
【0058】
- アセチルトランスフェラーゼ[EC2.3.1.84]、好ましくはアセチルトランスフェラーゼ1活性を有する酵素がレチノールから酢酸レチニル混合物への変換を触媒し、混合物が、少なくとも約65%、好ましくは68、70、75、80、85、90、95、98%又は最大100%までの酢酸レチニル、例えば、少なくとも65~90%のトランス-アイソフォームの酢酸レチニルを含む、上記の及び本明細書で定義されるカロテノイド産生宿主細胞、特に真菌宿主細胞。
【0059】
- レチノールの生成に対して少なくとも約90%の全変換率でレチナールをレチノールに変換することができる(好ましくは異種)レチノールデヒドロゲナーゼ(RDH)[EC1.1.1.105]、好ましくは、子嚢菌門から選択される真菌を含むがこれらに限定されない真菌、特にディカリアから得られ、より好ましくは、フザリウム属(Fusarium)から得られ、さらにより好ましくは、F.フジクロイ(F.fujikuroi)から単離されるRDH、例えば、FfRDH12(配列番号19)に対して少なくとも約60%の同一性を有するポリペプチドをさらに含む、上記の及び本明細書で定義されるカロテノイド産生宿主細胞、特に真菌宿主細胞。
【0060】
- 内在性アシルトランスフェラーゼ活性の改変をさらに含み、内在性アシルトランスフェラーゼ活性、好ましくは[EC2.3.1]活性、より好ましくはアシルトランスフェラーゼ[EC2.3.1.20]活性が低減又は消失されている、上記の及び本明細書で定義されるカロテノイド産生宿主細胞、特に真菌宿主細胞。
【0061】
- BCOが真菌、植物又は動物から選択され、好ましくは、フザリウム属(Fusarium)、ウスチラゴ属(Ustilago)、クロクス属(Crocus)、ドロソフィラ属(Drosophila)、ダニオ属(Danio)、イクタルルス属(Ictalurus)、エソックス属(Esox)、ラティメリア属(Latimeria)から選択され、より好ましくは、フザリウム・フジクロイ(Fusarium fujikuroi)、ウスチラゴ・マイディス(Ustilago maydis)、クロクス・サティブス(Crocus sativus)、ドロソフィラ・メラノガスター(Drosophila melanogaster)、ダニオ・レリオ(Danio rerio)、イクタルルス・プンクタトゥス(Ictalurus punctatus)、エソックス・ルキウス(Esox lucius)、ラティメリア・カルムナエ(Latimeria chalumnae)から選択され、さらにより好ましくは、配列番号1、3、5若しくは7に従うポリペプチドに対して少なくとも約60%の同一性を有するポリペプチド、又は配列番号9、11、13、15若しくは17に従うポリペプチド配列に対して少なくとも約50%の同一性を有するポリペプチドから選択される、上記の及び本明細書で定義されるカロテノイド産生宿主細胞、特に真菌宿主細胞。
【0062】
- アセチルトランスフェラーゼ、好ましくはAtf1が植物、ヒトを含む動物、藻類、酵母を含む真菌、又は細菌から選択され、好ましくは、サッカロミケス属(Saccharomyces)、フラガリア属(Fragaria)、エシェリキア属(Escherichia)、エウオニムス属(Euonymus)、マルス属(Malus)、ペチュニア属(Petunia)、又はラカンケア属(Lachancea)から選択され、より好ましくは、サッカロミケス・バヤヌス(Saccharomyces bayanus)、フラガリア・アナナッサ(Fragaria ananassa)、エシェリキア・コリ(Escherichia coli)、エウオニムス・アラトゥス(Euonymus alatus)、マルス・ドメスティカ(Malus domestica)、ペチュニア・ヒブリダ(Petunia hybrida)、ラカンケア・ミランティナ(Lachancea mirantina)又はラカンケア・フェルメンタティ(Lachancea fermentati)から選択され、さらにより好ましくは、配列番号21、23、25、27、29、31、33、36、又は38に従うポリペプチドに対して少なくとも約60%の同一性を有するポリペプチドから選択される、上記の及び本明細書で定義されるカロテノイド産生宿主細胞、特に真菌宿主細胞。
【0063】
- 少なくとも約65%、好ましくは68、70、75、80、85、90、95、98%又は最大100%までのトランス-酢酸レチニルアイソフォーム、例えば、少なくとも65~90%のトランス-酢酸レチニルアイソフォームを含む酢酸レチニル混合物を産生する、上記の及び本明細書で定義されるカロテノイド産生宿主細胞、特に真菌宿主細胞。
【0064】
- 宿主細胞が、植物、真菌、藻類又は微生物から選択され、好ましくは、酵母を含む真菌から、より好ましくは、サッカロミケス属(Saccharomyces)、アスペルギルス属(Aspergillus)、ピキア属(Pichia)、ハンゼヌラ属(Hansenula)、フィコミケス属(Phycomyces)、ムコール属(Mucor)、ロドトルラ属(Rhodotorula)、スポロボロミケス属(Sporobolomyces)、キサントフィロミセス属(Xanthophyllomyces)、ファフィア属(Phaffia)、ブラケスレア属(Blakeslea)又はヤロウイア属(Yarrowia)から、さらにより好ましくは、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)又はサッカロミケス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)から選択される、上記の及び本明細書で定義されるカロテノイド産生宿主細胞。
【0065】
- 宿主細胞が、植物、真菌、藻類又は微生物から選択され、好ましくは、エシェリキア属(Escherichia)、ストレプトミケス属(Streptomyces)、パンテア属(Pantoea)、バチルス属(Bacillus)、フラボバクテリウム属(Flavobacterium)、シネココックス属(Synechococcus)、ラクトバチルス属(Lactobacillus)、コリネバクテリウム属(Corynebacterium)、ミクロコックス属(Micrococcus)、ミクソコックス属(Mixococcus)、ブレビバクテリウム属(Brevibacterium)、ブラディリゾビウム属(Bradyrhizobium)、ゴルドニア属(Gordonia)、ディエトジア属(Dietzia)、ムリカウダ属(Muricauda)、スフィンゴモナス属(Sphingomonas)、シノコキスティス属(Synochocystis)又はパラコックス属(Paracoccus)から選択される、上記の及び本明細書で定義されるカロテノイド産生宿主細胞。
【0066】
- ベータ-カロテンをビタミンAに変換するためのプロセスにおいて使用される、上記の及び本明細書で定義されるカロテノイド産生宿主細胞、特に真菌宿主細胞。
【0067】
- 上記の及び本明細書で定義されるカロテノイド産生宿主細胞、特に真菌宿主細胞を適切な培養条件下、水性培地中で培養することと、培地及び/又は宿主細胞から前記トランス-酢酸レチニルを単離し、任意選択的にさらに精製することとを含む、トランス-酢酸レチニルの生産プロセス。
【0068】
- (a)本明細書で定義される立体選択的BCO、本明細書で定義されるアセチルトランスフェラーゼ[EC2.3.1.84]、任意選択的に、本明細書で定義されるレチノールデヒドロゲナーゼ[EC1.1.1.105]をコードする核酸分子を、適切なカロテン産生宿主細胞、特に真菌宿主細胞に導入するステップと、
(b)任意選択的に、ステップ(a)の細胞の本明細書で定義される内在性アシルトランスフェラーゼ活性[EC2.3.1]を低減又は消失させるステップと、
(c)ベータ-カロテンを、トランス対シス比が4の酢酸レチニルを含む酢酸レチニル混合物に酵素変換するステップと、
(d)適切な培養条件下で酢酸レチニルをビタミンAに変換するステップと
を含む、ビタミンAの生産プロセス。
【0069】
- (a)立体選択的BCO、アセチルトランスフェラーゼ[EC2.3.1.84]、任意選択的にレチノールデヒドロゲナーゼ[EC1.1.1.105]をコードする核酸分子を適切な宿主細胞に導入するステップと、
(b)任意選択的に、ステップ(a)の細胞の内在性アシルトランスフェラーゼ活性[EC2.3.1]を低減又は消失させるステップと、
(c)ベータ-カロテンを、少なくとも10%の割合の酢酸レチニルを含むレチノイドに酵素変換するステップであって、前記酢酸レチニルが、産生されるレチノイドの総量を基準として少なくとも65%の割合のトランスアイソフォームを含む、ステップと、
(d)適切な培養条件下で酢酸レチニルをビタミンAに変換するステップと
を含む、ビタミンAの生産プロセス。
【0070】
以下の実施例は説明のためだけのものであって、本発明の範囲を限定することは全く意図されない。本出願全体を通して引用される全ての参考文献、特許出願、特許、及び公開特許出願、特に国際公開第2006102342号パンフレット、国際公開第2008042338号パンフレット又は国際公開第2014096992号パンフレットの内容は、参照によって本明細書に援用される。
【0071】
[実施例]
[実施例1:一般的な方法、菌株、及びプラスミド]
本明細書に記載される全ての基本的な分子生物学及びDNA操作手順は、一般的に、Sambrook et al.(eds.),Molecular Cloning:A Laboratory Manual.Cold Spring Harbor Laboratory Press:New York(1989)、又はAusubel et al.(eds).Current Protocols in Molecular Biology.Wiley:New York(1998)に従って実施される。
【0072】
[振とうプレートアッセイ]
通常、800μlの0.075%酵母抽出物、0.25%ペプトン(0.25X YP)に、10μlの新たに成長させたヤロウイア属(Yarrowia)を播種し、800μlの鉱油(Drakeol5、Penreco Personal Care Products,Karns City,PA,USA)でオーバーレイし、炭素源として鉱油中5%のコーン油及び/又は水相中5%のグルコースを用いた。24ウェルプレート(Microplate Devices 24 Deep Well Plates Whatman 7701-5102)において形質転換体を成長させ、マットシール(Analytical Sales and Services Inc.Plate Mats 24010CM)で被覆し、Qiagen Airpore Tape Sheets(19571)で無菌密封し、Inforsマルチプレートシェーカー(Multitron)においてYPD培地中30℃、800RPMで4日間振とうさせた。鉱油画分を振とうプレートウェルから取り出し、フォトダイオードアレイ検出器を用いて、順相カラムでHPLCにより分析した。この方法は実施例2、3、4において使用される。
【0073】
[DNA形質転換]
菌株をYPDプレート培地上で一晩成長させることにより形質転換させる。50μlの細胞をプレートからこすり取り、1μgの形質転換DNA、通常は組込み形質転換のための直鎖DNA、40%のPEG 3550MW、100mMの酢酸リチウム、50mMのジチオスレイトール、5mMのTris-Cl(pH8.0)、0.5mMのEDTAを含む500μl中、40℃で60分間のインキュベーションにより形質転換させ、選択培地に直接プレーティングするか、或いは優性抗生物質マーカー選択の場合は、細胞をYPD液体培地において30℃で4時間増殖させた後、選択培地にプレーティングする。
【0074】
[DNA分子生物学]
pUC57ベクター(GenScript,Piscataway,NJ)においてNhel及びMlul末端を用いて遺伝子を合成した。国際公開第2016172282号パンフレットの場合のように、通常、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)形質転換におけるマーカー選択のために、遺伝子をMB5082「URA3」、MB6157HygR、及びMB8327NatRベクターにサブクローニングした。遺伝子及びマーカーHindlll/Xbal(MB5082)又はPvull(MB6157及びMB8327)のランダム非相同末端結合によるクリーンな遺伝子挿入のために、それぞれゲル電気泳動及びQiagenゲル精製カラムにより精製した。MB5082「URA3」マーカーは、FOAにおけるURA3カセットの環状切除(circular excisant)の選択を可能にする無償性の反復隣接配列のために再使用が可能であった。NatR及びHygRマーカーは、隣接Lox部位のために切除をもたらすCreリコンビナーゼの一過性発現によって除去することができる。
【0075】
[プラスミドのリスト]
使用するプラスミド、菌株、ヌクレオチド及びアミノ酸配列は、表1、2及び配列表に記載される。ヌクレオチド配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、35、37、及び39は、ヤロウイア属(Yarrowia)における発現に対してコドン最適化される。
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】
【0078】
[順相レチノール法]
Waters 717オートサンプラーに取り付けたWaters 1525バイナリーポンプを用いて、サンプルを注入した。安全シリカガードカラムキットを有するPhenomenex Luna 3μ Silica(2),150x4.6mmを使用して、レチノイドを分離した。移動相は、アスタキサンチン関連化合物に対する1000mLのヘキサン、30mLのイソプロパノール、及び0.1mLの酢酸、又はゼアキサンチン関連化合物に対する1000mLのヘキサン、60mLのイソプロパノール、及び0.1mLの酢酸のいずれかからなる。それぞれの流速は、0.6mL/分である。カラム温度は周囲温度である。注入容積は20μLである。検出器は、210nmから600nmまでを収集するフォトダイオードアレイ検出器である。表3に従って分析物を検出した。
【0079】
【表3】
【0080】
[サンプル調製]
条件に応じて種々の方法によりサンプルを調製した。全培養液又は洗浄培養液サンプルのために、培養液を秤量したPrecellys(登録商標)管に入れ、移動相を添加した。製造指示書に従って最高設定3XにおいてPrecellys(登録商標)ホモジナイザー(Bertin Corp,Rockville,MD,USA)内でサンプルを処理した。洗浄培養液中、サンプルを微量遠心管において10000rpmで1分間、1.7ml管内で回転させ、培養液をデカントし、1mlの水を添加し、混合し、ペレットにし、デカントして、元の容積にした。混合物を再度ペレットにし、適切な量の移動相中に入れ、Precellys(登録商標)ビーズビーティングにより処理した。鉱油画分の分析のために、サンプルを4000RPMで10分間回転させ、ポジティブディスプレイスメントピペット(Eppendorf,Hauppauge,NY,USA)により油を上部からデカントして除去し、移動相中に希釈し、ボルテックスにより混合し、HPLC分析によりレチノイド濃度を測定した。
【0081】
[発酵条件]
発酵は既に記載された条件と同一であり、好ましくはシリコーン油又は鉱油のオーバーレイと、好ましくは、0.5L~5Lの全容積のベンチトップ反応器内に供給されたグルコース又はコーン油である攪拌槽とを用いた(国際公開第2016172282号パンフレットを参照)。一般的に、生産性が増大された流加バッチ攪拌漕反応器を用いて同じ結果が観察され、レチノイドの生産のためのシステムの有用性が実証された。好ましくは、5%のグルコースを用いて発酵をバッチ処理し、溶解酸素が急落した後に20%のシリコーン油を添加し、供給を再開して、供給プログラムを通して20%の溶解酸素を達成した。或いは、供給物としてコーン油を使用し、脂肪族レチノイドを捕集するための第2の相として鉱油を使用した。
【0082】
[実施例2:ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)におけるベータ-カロテンからレチナールへの変換]
異種BCOの発現のために、Hindll及びXbal媒介による制限エンドヌクレオチド切断と、URA3栄養マーカーに連結されたコドン最適化断片を含有するベータカロテンオキシダーゼ(BCO)のゲル精製とにより、ベータカロテン菌株ML17544を精製直鎖DNA断片で形質転換した。形質転換DNAは、MB6702ドロソフィラ属(Drosophila)NinaB BCO遺伝子、MB6703クロクス属(Crocus)BCO遺伝子、MB8456フザリウム属(Fusarium)BCO遺伝子、及びMB8457ウスチラゴ属(Ustilago)BCO遺伝子及びMB6098ダリオ属(Dario)BCO遺伝子に由来し、それにより、コドン最適化配列(配列番号2、4、6、8、10、12)が使用された。次に、遺伝子を成長させ、振とうプレート分析において6~8の単離株をスクリーニングし、うまく機能する単離株を流加バッチ攪拌漕反応器において8~10日間実行させた。国際公開第2014096992号パンフレットに記載されるような標準パラメータを用いるが、レチノイド分析物の精製標準物を用いて較正して、HPLCによりシス-及びトランス-レチナールの検出を行った。レチナール混合物中のトランス-レチナールの量は、それぞれ、90%(クロクス属(Crocus)BCOを使用)、95%(フザリウム属(Fusarium)BCOを使用)、98%(ウスチラゴ属(Ustilago)BCOを使用)及び98%(ダリオ属(Dario)BCOを使用)まで増大させることができた。ドロソフィラ・メラノガスター(Drosophila melanogaster)(配列番号7)からのBCOとの比較では、レチナールの総量を基準として61%のトランス-レチナールが得られた(表4を参照)。
【0083】
【表4】
【0084】
[実施例3:ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)におけるレチナールからレチノールへの変換]
異種RDHの発現のために、ベータカロテン菌株ML17767を、URA3プロモーターへのレチノールデヒドロゲナーゼ(RDH)遺伝子断片リンカーを含有するプラスミド由来の精製HinDIII/Xbal断片で形質転換した。6~8の単離株を振とうプレートアッセイレチノール:レチナール比の低下についてスクリーニングし、成功した単離株を流加バッチ攪拌漕反応器において8日間実行させ、プロセスの生産性の一桁の増大が示され、大規模生産における有用性が示された。フザリウム属(Fusarium)RDH12相同体を用いて最良の結果が得られ、上記のような8日間の振とうフラスコインキュベーションの後に維持された残留レチナールはわずか2%であった。フザリウム属(Fusarium)配列に由来する単離株は、レチノールの還元の増大を実証した。
【0085】
[実施例4:ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)におけるレチノールから酢酸レチニルへの変換]
異種ATF1の発現のために、トランスレチノール産生菌株ML17968を、100ug/mlのハイグロマイシンを含有するリッチ培地(YPD)での選択のためにハイグロマイシン耐性マーカー(HygR)に連結されたアセチルトランスフェラーゼ遺伝子断片を含有する精製Pvull遺伝子断片で形質転換した。プレーティングの前に培養物をYPD中で4時間増殖させて、抗生物質耐性遺伝子を合成した。振とうプレートアッセイにおいてアシル化について単離株をスクリーニングし、成功した単離株を流加バッチ攪拌漕反応器においてスクリーニングし、生産性の一桁の増大が示され、レチノイドの生産における有用性が示された。分析からのデータは表5に示される。
【0086】
【表5】
【0087】
[実施例5:ATF1活性アッセイ]
異種ATF1の発現のために、トランスレチノール産生菌株ML17968を、100ug/mlのハイグロマイシンを含有するリッチ培地(YPD)における選択のためにハイグロマイシン耐性マーカー(HygR)に連結されたアセチルトランスフェラーゼ遺伝子断片を含有する精製Pvull遺伝子断片で形質転換した。プレーティングの前に培養物をYPD中で4時間増殖させて、抗生物質耐性遺伝子を合成した。特に、オーバーレイとしてのシリコーン油と共に0.25X YP中の炭素源として10%のグルコースを用いて、振とうプレートアッセイにおいてアシル化について単離株をスクリーニングし、成功した単離株をグルコース供給物及びシリコーン油オーバーレイと共に流加バッチ攪拌漕反応器においてさらにスクリーニングし、生産性の一桁の増大が示され、レチノイドの生産における有用性が示された。分析からのデータは表5に示される。
【0088】
[実施例6:サッカロミケス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)におけるベータ-カロテンから酢酸レチニルへの変換]
通常、ベータカロテン菌株は、当該技術分野において知られている(例えば、米国特許出願公開第20160130628号明細書又は国際公開第2009126890号パンフレットに記載される)ような標準的方法に従って、ベータカロテンを産生している構築されたゲラニルゲラニルシンターゼ、フィトエンシンターゼ、リコペンシンターゼ、リコペンシクラーゼなどの酵素をコードする異種遺伝子で形質転換される。さらに、ベータカロテンオキシダーゼ遺伝子で形質転換される場合、レチナールを産生することができる。さらに、レチノールデヒドロゲナーゼで形質転換されると、レチノールを産生することができる。レチノールは、アルコールアセチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子による形質転換によってアセチル化され得る。任意選択的に、内在性レチノールアシル化遺伝子を欠失させることができる。さらに、酵素は、レチノールのトランス形態を産生及びアシル化して、それぞれ、全トランス酢酸レチニル及びトランスレチノールの長鎖エステルをもたらすように選択することができる。このアプローチを用いて、トランス-アイソフォームに対する特異性、又は酢酸レチニルに対する生産性に関して同様の結果が得られる。
【配列表】
0007472427000001.app