(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】アンギュラ玉軸受及び車輪用軸受装置
(51)【国際特許分類】
F16C 33/41 20060101AFI20240416BHJP
F16C 19/18 20060101ALI20240416BHJP
B60B 35/18 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
F16C33/41
F16C19/18
B60B35/18 A
(21)【出願番号】P 2019189532
(22)【出願日】2019-10-16
【審査請求日】2022-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鎌本 繁夫
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-129186(JP,A)
【文献】特開2019-074098(JP,A)
【文献】特公昭49-034843(JP,B1)
【文献】特開2017-180722(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/14-19/18
F16C 33/38-33/44
B60B 35/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外方部材と、内方部材と、前記外方部材と前記内方部材との間に配置される複数の玉と、前記複数の玉を保持する保持器と、を備え、
軸受中心線に直交し前記玉の中心を通る仮想平面に対して、前記玉と前記外方部材との接触点と前記玉と前記内方部材との接触点とを通過する仮想直線が、傾斜するアンギュラ玉軸受であって、
前記保持器は、前記玉の軸方向一方に位置する環状部と、当該環状部から軸方向他方に延びて設けられている複数の柱部と、を有し、
前記柱部は、周方向一方側に前記玉と接触可能である第一平面部を有すると共に、周方向他方側に前記玉と接触可能であり前記第一平面
部と平行である第二平面部を有し、
前記柱部は、前記第一平面部と前記第二平面部との間の中間部と、当該中間部から径方向外側に設けられ当該中間部よりも周方向寸法が拡大している外側部と、当該中間部から径方向内側に設けられ当該中間部よりも周方向寸法が拡大している内側部と、を有する、
アンギュラ玉軸受。
【請求項2】
前記柱部が有する前記第一平面部及び前記第二平面部それぞれは、当該柱部の周方向両側に位置する前記玉の中心を結ぶ仮想線と直交する、請求項1に記載のアンギュラ玉軸受。
【請求項3】
前記外側部と前記玉との間に形成される周方向についての隙間、及び、前記内側部と前記玉との間に形成される周方向についての隙間は、前記中間部と前記玉との間に形成される周方向についての隙間よりも大きい、請求項1または請求項2に記載のアンギュラ玉軸受。
【請求項4】
外方部材と、内方部材と、前記外方部材と前記内方部材との間に配置される複数の玉と、前記複数の玉を保持する保持器とを備え、
軸受中心線に直交し前記玉の中心を通る仮想平面に対して、前記玉と前記外方部材との接触点と前記玉と前記内方部材との接触点とを通過する仮想直線が、傾斜する車輪用軸受装置であって、
前記保持器は、前記玉の軸方向一方に位置する環状部と、当該環状部から軸方向他方に延びて設けられている複数の柱部と、を有し、
前記柱部は、周方向一方側に前記玉と接触可能である第一平面部を有すると共に、周方向他方側に前記玉と接触可能であり前記第一平面
部と平行である第二平面部を有する、
車輪用軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンギュラ玉軸受及び車輪用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車には、車輪を支持するために車輪用軸受装置(ハブユニット)が用いられる。車輪用軸受装置は、車体側に固定される外輪と、車輪を取り付けるフランジ部を有する内軸部材と、これら外輪と内軸部材との間に配置される複数の玉と、玉を収容するポケットを複数有する保持器とを備える。玉は外輪及び内軸部材に対して接触角を有して接触している。つまり、車輪用軸受装置はアンギュラ玉軸受を有して構成されている。特許文献1に、車輪用軸受装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記のような車輪用軸受装置(アンギュラ玉軸受)では、保持器の各ポケットに玉が収容される。これにより、保持器は複数の玉を周方向に間隔をあけて保持することができる。保持器は、玉の軸方向一方に設けられている環状部と、環状部から軸方向他方に延びて設けられている複数の柱部とを有する。環状部の軸方向他方であって、周方向に隣り合う一対の柱部の間が、玉を収容するためのポケットとなる。
【0005】
図7は、従来の保持器の柱部、及びその周囲を軸方向に沿って見た場合の断面図である。保持器100が有するポケット90は、径方向からドリルによって穿孔されたような円筒面に沿った形状を有する。このため、周方向で隣り合う2つの玉99,99間の柱部91の断面形状は、内輪95に向かって徐々に薄くなる三角形状となる。柱部91の内輪95側の端部では、その厚さ(周方向の寸法)がゼロとなる。
【0006】
内輪95が回転している状態で、玉99は柱部91の側面92に接触する。
図7では、複数の玉99のピッチ円の中心iが、保持器100の中心線上に位置している。この状態で、側面92における玉99の接触点を「p1」としている。
保持器100は、内輪95と外輪96との間において、径方向に僅かではあるが変位可能である。保持器95が径方向(
図7において右上に向かう方向)に変位すると、接触点p1は、内輪95側に移動する。この場合、玉99は柱部91の極めて薄い部分で接触する可能性がある。
【0007】
特に車輪用軸受装置では、車体側及び路面側等から大きな荷重が作用するため、玉99の数は汎用の玉軸受と比較して多くなっている場合がある。このため、周方向で隣り合う玉99,99の間隔は狭く、これに応じて柱部91は薄くなる。このような車輪用軸受装置の保持器100において、前記のとおり、柱部91の断面形状が内輪95に向かって徐々に薄くなる三角形状であり、そして、保持器95が径方向に変位すると、玉99が柱部91の極めて薄い部分で接触する可能性がある。つまり、従来の構成では、柱部91の強度不足が問題となる場合がある。
【0008】
そこで、本開示では、保持器が有する柱部において、玉との接触部分をできるだけ厚くすることが可能となるアンギュラ玉軸受、及び車輪用軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示のアンギュラ玉軸受は、外方部材と、内方部材と、前記外方部材と前記内方部材との間に配置される複数の玉と、前記複数の玉を保持する保持器と、を備え、軸受中心線に直交し前記玉の中心を通る仮想平面に対して、前記玉と前記外方部材との接触点と前記玉と前記内方部材との接触点とを通過する仮想直線が、傾斜するアンギュラ玉軸受であって、前記保持器は、前記玉の軸方向一方に位置する環状部と、当該環状部から軸方向他方に延びて設けられている複数の柱部と、を有し、前記柱部は、周方向一方側に前記玉と接触可能である第一平面部を有すると共に、周方向他方側に前記玉と接触可能であり前記第一平面部と平行である第二平面部を有する。
【0010】
前記アンギュラ玉軸受によれば、柱部の周方向一方側の第一平面部と、その柱部の周方向他方側の第二平面部とは平行である。保持器が径方向に変位しても、柱部のうち、第一平面部と第二平面部との間の部分が、玉と接触可能となる。つまり、柱部において、極端に薄くなる部分で玉が接触しない。柱部において、玉との接触部分をできるだけ厚くすることが可能となる。
【0011】
また、好ましくは、前記柱部が有する前記第一平面部及び前記第二平面部それぞれは、当該柱部の周方向両側に位置する前記玉の中心を結ぶ仮想線と直交する。
この構成により、柱部は、平行となる第一平面部と第二平面部とを有する。
【0012】
また、好ましくは、前記柱部は、前記第一平面部と前記第二平面部との間の中間部と、当該中間部から径方向外側に設けられ当該中間部よりも周方向寸法が拡大している外側部と、当該中間部から径方向内側に設けられ当該中間部よりも周方向寸法が拡大している内側部と、を有する。
この構成により、柱部の中間部において玉が接触する。更に、中間部から径方向外側及び径方向内側の部分で、更に柱部は厚くなり、柱部の強度が高くなる。
【0013】
また、好ましくは、前記外側部と前記玉との間に形成される周方向についての隙間、及び、前記内側部と前記玉との間に形成される周方向についての隙間は、前記中間部と前記玉との間に形成される周方向についての隙間よりも大きい。
この構成により、玉が中間部の第一平面部(第二平面部)に確実に点接触する。玉が、第一平面部(第二平面部)に点接触することで、柱部と玉との接触面積はゼロに近づく。つまり、柱部と玉との間においてグリース等の潤滑剤がせん断される面の面積(せん断面積)が可及的に小さくなる。したがって、潤滑剤のせん断抵抗を低減することが可能となる。
【0014】
また、本開示の車輪用軸受装置は、外方部材と、内方部材と、前記外方部材と前記内方部材との間に配置される複数の玉と、前記複数の玉を保持する保持器とを備え、軸受中心線に直交し前記玉の中心を通る仮想平面に対して、前記玉と前記外方部材との接触点と前記玉と前記内方部材との接触点とを通過する仮想直線が、傾斜する車輪用軸受装置であって、前記保持器は、前記玉の軸方向一方に位置する環状部と、当該環状部から軸方向他方に延びて設けられている複数の柱部と、を有し、前記柱部は、周方向一方側に前記玉と接触可能である第一平面部を有すると共に、周方向他方側に前記玉と接触可能であり前記第一平面部と平行である第二平面部を有する。
【0015】
前記車輪用軸受装置によれば、柱部の周方向一方側の第一平面部と、その柱部の周方向他方側の第二平面部とは平行である。保持器が径方向に変位しても、第一平面部と第二平面部との間の部分が玉と接触可能となる。つまり、柱部において、極端に薄くなる部分で玉が接触しない。柱部において、玉との接触部分をできるだけ厚くすることが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本開示の発明によれば、柱部において、玉との接触部分をできるだけ厚くすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図3】保持器の中心線を含み、玉の中心を通過する面における断面図である。
【
図4】保持器の一部を軸方向一方側から見た斜視図である。
【
図5】柱部及びその周囲を軸方向に沿って見た場合の断面図である。
【
図6】保持器の中心線を含み、柱部を通過する面における断面図である。
【
図7】従来の保持器が有する柱部、及びその周囲を軸方向に沿って見た場合の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
〔車輪用軸受装置の全体構成について〕
図1は、車輪用軸受装置の一例を示す断面図である。
図1に示す車輪用軸受装置10(以下、「軸受装置10」とも称する。)は、車両(自動車)の車体に設けられている懸架装置(ナックル)に取り付けられ、車輪7を回転可能に支持する。軸受装置10はハブユニットとも称される。軸受装置10が車体側(懸架装置)に取り付けられた状態で、
図1の左側が、車輪7側であり、車両アウタ側と称される。
図1の右側が、車体中央側であり、車両インナ側と称される。
【0019】
本開示の軸受装置10では、軸受装置10の中心線C0に沿った方向が「軸方向」と定義される。軸受装置10の中心線C0を「軸受中心線C0」と称する。前記軸方向には、軸受中心線C0に平行な方向も含まれる。本開示の軸受装置10では、車両アウタ側が軸方向一方側となり、車両インナ側が軸方向他方側となる。軸受中心線C0に直交する方向が「径方向」と定義される。軸受中心線C0を中心とする軸受装置10の回転方向が「周方向」と定義される。
【0020】
軸受装置10は、外輪12(外輪部材、又は外方部材ともいう。)と、内軸部材(内方部材ともいう。)14と、外輪12と内軸部材14との間に設けられている複数の玉16と、複数の玉16を保持する環状の保持器18とを備える。
【0021】
外輪12は、円筒形状である外輪本体部22と、外輪本体部22から径方向外方に向かって延びて設けられている固定用のフランジ部24とを有する。外輪本体部22の内周の軸方向一方側及び他方側それぞれに、外側軌道面26が形成されている。外側軌道面26は、軸受中心線C0を含む断面において、玉16よりも僅かに大きな半径を有する凹円弧面形状を有する。玉16と外側軌道面26とは点接触する。フランジ部24が車体側部材である懸架装置(図示せず)に取り付けられる。これにより、外輪12を含む軸受装置10が車体に固定される。
【0022】
内軸部材14は、軸状のハブ軸32(内軸)と、ハブ軸32の軸方向他方側に固定されている内輪34とを有する。ハブ軸32は、外輪12の径方向内方に設けられている軸本体部36と、フランジ部38とを有する。軸本体部36は、軸方向に長い部分である。フランジ部38は、軸本体部36の軸方向一方側から径方向外方に向かって延びて設けられている。フランジ部38に、ボルト穴39が形成されている。このボルト穴39に取り付けられるボルト8によって車輪7がフランジ部38に固定される。内輪34は、環状の部材であり、軸本体部36の軸方向他方側の一部40に外嵌して固定されている。
【0023】
軸本体部36の外周側に軸軌道面42が形成されていて、内輪34の外周面に内輪軌道面44が形成されている。軸方向一方側の外側軌道面26と軸軌道面42との間に複数の玉16が設けられている。軸方向他方側の外側軌道面26と内輪軌道面44との間に複数の玉16が設けられている。軸軌道面42及び内輪軌道面44それぞれは、軸受中心線C0を含む断面において、玉16よりも僅かに大きな半径を有する凹円弧面形状を有する。玉16と軸軌道面42とは点接触し、玉16と内輪軌道面44とは点接触する。
【0024】
軸方向一方側に配置されている複数の玉16の列に関して、各玉16と外側軌道面26との接触点を「P1」とし、その玉16と軸軌道面42との接触点を「P2」とし、これら接触点P1と接触点P2とを通過する仮想直線を「L1」とする。軸受中心線C0に直交し玉16の中心cを通る仮想平面K1に対して、仮想直線L1は傾斜している。つまり、軸方向一方側において、玉16は、外側軌道面26及び軸軌道面42に対して接触角を有して接触している。前記接触角は、仮想直線L1と仮想平面K1とが成す角度である。複数の玉16と、外側軌道面26を有する外輪12と、軸軌道面42を有する内軸部材14とにより、アンギュラ玉軸受が構成されている。
【0025】
軸方向他方側に配置されている複数の玉16の列に関して、各玉16と外側軌道面26との接触点を「P3」とし、その玉16と内輪軌道面44との接触点を「P4」とし、これら接触点P3と接触点P4とを通過する仮想直線を「L2」とする。軸受中心線C0に直交し玉16の中心cを通る仮想平面K2に対して、仮想直線L2は傾斜している。つまり、軸方向他方側において、玉16は、外側軌道面26及び内輪軌道面44に対して接触角を有して接触している。前記接触角は、仮想直線L2と仮想平面K2とが成す角度である。複数の玉16と、外側軌道面26を有する外輪12と、内輪軌道面44を有する内輪34を含む内軸部材14とにより、アンギュラ玉軸受が構成されている。
【0026】
軸方向一方側及び軸方向他方側の玉16の列それぞれにおいて、複数の玉16は保持器18によって保持されている。以上より、外輪12に対して内軸部材14が軸受中心線C0を中心として回転する。軸方向一方側の保持器18と軸方向他方側の保持器18とは、軸方向について反対向きで取り付けられているが、構成は同じである。以下において、車両インナ側となる軸方向他方側の保持器18及びその周囲の構成について説明する。
【0027】
〔保持器18について〕
図2は、玉16及び保持器18の斜視図である。
図2は、説明のために、左側の玉16が一つ、保持器18から外された状態を示している。
図3は、保持器18の中心線C1を含み、玉16の中心cを通過する面における断面図である。なお、
図3では、玉16は断面として示されていない。本開示では、特に説明する場合を除き、玉16を保持する保持器18が外輪12と内軸部材14との間に設けられた状態で、保持器18の中心線C1は、軸受中心線C0と一致する。
【0028】
保持器18は、円環状である環状部51と、複数の柱部52とを有する。環状部51は、複数の玉16の軸方向一方に位置する。各柱部52は、環状部51から軸方向他方に延びて設けられている。複数の柱部52は周方向について等間隔で配置されている。環状部51の軸方向他方であって周方向に隣り合う一対の柱部52,52の間が、玉16を収容するためのポケット53である。
【0029】
前記のとおり、玉16は、外輪12及び内輪34それぞれに点接触していて(
図3参照)、外輪12及び内輪34に対して軸方向及び径方向に移動不能である。玉16とポケット53との間には全体として隙間が形成されていることから、保持器18は玉16に対して軸方向及び径方向に変位可能である。
【0030】
軸受装置10(内軸部材14)が回転すると、玉16は外輪12及び内軸部材14に沿って回転(公転)すると共に、玉16はポケット53内で回転中心線L3周りに回転(自転)する。回転中心線L3は、玉16と外側軌道面26との接触点P3と、玉16と内輪軌道面44との接触点P4とを通過する仮想直線L2に直交する。
【0031】
図4は、保持器18の一部を軸方向一方側から見た斜視図である。柱部52は、環状部51から軸方向他方に延びて設けられていると共に、径方向外方へも延びて設けられている。柱部52は、径方向内側から順に、内側部71、中間部72、及び外側部73を有する。内側部71は、環状部51から軸方向他方に突出している部分である。中間部72は、内側部71から径方向外方に延びて設けられている部分である。外側部73は、中間部72から更に径方向外方に延びて設けられている部分である。柱部52のうち、中間部72及び外側部73は、環状部51よりも径方向外方に突出している部分である。
【0032】
内側部71は、その周方向の両側それぞれに、玉16と非接触となる非接触面部55の一部を有する(
図2及び
図4参照)。非接触面部55を「内側の非接触面部55」とも称する。非接触面部55に関して、内側部71が有する周方向一方側の非接触面部55の一部を「第一非接触面部55a」と定義し、内側部71が有する周方向他方側の非接触面部55の一部を「第二非接触面部55b」と定義する。非接触面部55については後にも説明する。
【0033】
外側部73は、その周方向の両側それぞれに、玉16と非接触となる非接触面部58を有する(
図4参照)。外側部73の非接触面部58を「外側の非接触面部58」とも称する。外側部73が有する周方向両側の非接触面部58のうち、一方側を「第一非接触面部58a」と定義し、他方側を「第二非接触面部58b」と定義する。非接触面部58については後にも説明する。
【0034】
中間部72は、その周方向の両側それぞれに平面部75を有する。平面部75は、玉16と接触可能となる面である。中間部72の平面部75を「外側の接触面部」とも称する。中間部72が有する周方向両側の平面部75のうち、一方側を「第一平面部75a」と定義し、他方側を「第二平面部75b」と定義する。
【0035】
図5は、内側部71、中間部72、及び外側部73を説明するための図であり、柱部52及びその周囲を軸方向に沿って見た場合の断面図である。各柱部52において、第一平面部75aと第二平面部75bとは平行である。このため、中間部72の周方向寸法(つまり、中間部72の厚さt2)は、中間部72における径方向内側から径方向外側にわたって一定である。また、中間部72の周方向寸法(厚さt2)は、中間部72における軸方向一方側から軸方向他方側にわたって一部を除いて一定である。なお、前記の一部は、軸方向抜け止め部61(
図4参照)である。軸方向抜け止め部61は、中間部72から外側部73にわたって、これらの軸方向他方側に設けられている。軸方向抜け止め部61については後に説明する。
【0036】
内側部71は、前記のとおり、玉16よりも径が大きな球面に沿った形状を有する非接触面部55の一部を有する。このため、内側部71の周方向の寸法(つまり、内側部71の厚さt1)は、中間部72の周方向の寸法(厚さt2)よりも大きい。外側部73は、前記のとおり、その周方向の両側に一対の非接触面部58a,58bを有する。これら非接触面部58a,58bの周方向についての間隔は、径方向外側に向かって広くなっている。このため、外側部73の周方向の寸法(つまり、外側部73の厚さt3)は、中間部72の周方向の寸法(厚さt2)よりも大きい。
【0037】
外側部73と玉16との間に形成される周方向についての隙間e3は、中間部72と玉16との間に形成される周方向についての隙間e2よりも大きい。また、内側部71と玉16との間に形成される周方向についての隙間e1は、中間部72と玉16との間に形成される周方向についての隙間e2よりも大きい。これにより、玉16は中間部72の第一平面部75a(第二平面部75b)に確実に接触することができる。
【0038】
柱部52の第一平面部75a及び第二平面部75bそれぞれは、その柱部52の周方向両側に位置する玉16,16の中心cを結ぶ仮想線S1と直交する。これにより、第一平面部75aと第二平面部75bとは平行となる。軸受中心線C0に保持器18の中心線が一致している状態で、一つの柱部52における、その柱部52が有する第一平面部75aと第二平面部75bとの間の中心線S2は、軸受中心線C0と交差する。
【0039】
内側部71、中間部72、及び外側部73を有する柱部52において、中間部72が最も周方向の寸法(厚さ)が小さい部分である。その中間部72の第一平面部75aと第二平面部75bとは平行である。
ここで、従来では(
図7参照)柱部91は断面三角形状を有する。このため、柱部91の極めて薄い部分に玉99が接触する場合があり、この部分が強度的に弱点となる。
しかし、
図5により説明した前記構成によれば、このような弱点が生じ難い。つまり、強度的に必要な周方向寸法(厚さt2)で中間部72が設定されれば、中間部72が弱点になり難い。
【0040】
〔保持器18が有するポケット53について〕
図2に示すように、ポケット53は、接触面部54と、非接触面部55とを有する。接触面部54は、環状部51の軸方向他方側の面の一部55iであり、「内側の接触面部54」とも称される。非接触面部55は、前記のとおり、内側の非接触面部55とも称される。非接触面部55は、接触面部54の隣りでありかつその周りに設けられている。非接触面部55に、環状部51の軸方向他方側の面の他部55j、一つの柱部52の内側部71が有する第一非接触面部55a、及び、他の柱部52の内側部71が有する第二非接触面部55bが含まれる。
【0041】
図3において、保持器18が軸方向他方に変位すると、内側の接触面部54は、玉16の回転中心線L3上の点Qで、玉16と点接触する。内側の接触面部54は、回転中心線L3に直交する平面により構成されている。内側の非接触面部55は、玉16よりも径が大きな球面に沿った形状を有する。
【0042】
内側の非接触面部55を構成する前記球面の中心が「ポケット53の中心」と定義される。玉16の中心cとポケット53の中心とが一致した状態で、ポケット53と玉16との間に全体として隙間が形成される。このため、保持器18は玉16に対して軸方向及び径方向に変位可能となる。ただし、後に説明するが、その変位は、内側の接触面部54及びガイド部56によって制限される。玉16の中心cとポケット53の中心とが一致した状態で、内側の接触面部54と玉16との間に生じる隙間(点Qにおける隙間)は、内側の非接触面部55と玉16との間に生じる隙間よりも小さい。その隙間について更に説明する。
【0043】
本開示において、ポケット53の中心と、玉16の中心cとが一致した状態を、中心一致状態と称する。
図3に示すように、中心一致状態で、内側の接触面部54と玉16との間の接触位置(点Q)における軸方向のクリアランスE1は、玉16と内側の非接触面部55との間に形成される軸方向のクリアランスE2の最小値よりも小さい(E1<E2min)。このため、保持器18が軸方向他方に変位した場合に、内側の非接触面部55が玉16接触する前に内側の接触面部54が玉16に点接触し、玉16と内側の非接触面部55とは接触しない。つまり、内側の非接触面部55は、保持器18が軸方向他方に変位しても、玉16と接触不能である。
【0044】
ポケット53の形状について更に説明する。
図4において、各柱部52は、ポケット53に含まれる周方向に向く側面として、前記の平面部75(第一平面部75a、第二平面部75b)と、その隣りに設けられている内側及び外側の非接触面部55,58とを有する。
【0045】
本開示では、平面部75の径方向外側の隣りに外側の非接触面部58が設けられていて、平面部75の径方向内側の隣りに内側の非接触面部55が設けられている。平面部75は、平面により構成されている。平面部75は、前記のとおり玉16と点接触可能な面である。外側の非接触面部58は、玉16と接触不能な面である。内側の非接触面部55も、玉16と接触不能となる面である。
【0046】
軸受装置10(内軸部材14)が回転すると、玉16は、周方向に進んで柱部52に接触する。この際、その玉16は平面部75に点接触し、非接触面部55,58には非接触となる。玉16が平面部75に接触する態様は、点接触である。このため、その接触位置における、グリースのせん断面積を可及的に小さくすることができる。
【0047】
〔保持器18が有するガイド部56について〕
図6は、保持器18の中心線C1(
図2参照)を含み、柱部52を通過する面における断面図である。本開示の柱部52は、環状部51から軸方向に延びて設けられていると共に、外輪12側(径方向外方)に向かって延びて設けられている。柱部52の径方向外側の部分である外側部73が、外輪12に接触可能となるガイド部56を有する。ガイド部56は、保持器18の位置決めを行う機能を有する。
【0048】
ガイド部56は、外輪12の一部である外側軌道面26に径方向から接触可能である。ガイド部56と外側軌道面26とは点接触するように、ガイド部56の形状は設定されている。保持器18が外輪12側に変位すると、ガイド部56は、外側軌道面26に対して径方向から接触する。これにより、保持器18は外輪12によって径方向について位置決めされる。このような本開示の保持器18は「軌道輪案内の保持器」と称される。
【0049】
このように、ガイド部56は、保持器18の径方向についての位置決めを行う機能を有する。本開示のガイド部56は、更に、保持器18の軸方向についての位置決めを行う機能も有する。すなわち、
図6において、保持器18が軸方向一方に変位すると、ガイド部56は外側軌道面26に軸方向から接触することで、保持器18の軸方向一方の変位が規制される。ガイド部56と外側軌道面26とは点接触するように、ガイド部56の形状は設定されている。反対に、保持器18が軸方向他方に変位すると、
図3において、ポケット53の内側の接触面部54が玉16と点接触することで、保持器18の軸方向他方の変位が規制される。
【0050】
〔保持器18が有する玉16の脱落防止の機能について〕
図1に示す軸受装置10は、次のようにして組み立てられる。まず、単体の保持器18の各ポケット53に玉16を収容し、保持器18のユニット19(
図2参照)を得る。保持器18のユニット19は、二つ組み立てられる。外輪12に対して、その軸方向一方側から、一つのユニット19を軸本体部36と共に取り付ける。これら外輪12及び軸本体部36に対して、外輪12の軸方向他方側から、別のユニット19を内輪34と共に取り付ける。軸本体部36の端部36aを塑性変形させることで、内輪34が軸本体部36に固定される。以上のようにして軸受装置10は組み立てられる。
【0051】
図2に示すユニット19の状態で、ポケット53から玉16が脱落しないように、保持器18は、玉16の脱落を防止する部分を有する。つまり、保持器18は、ポケット53に収容した玉16が軸方向他方に脱落するのを防止する軸方向抜け止め部61を有する。軸方向抜け止め部61は、柱部52の軸方向他方側の端部に設けられている。ポケット53に収容されている玉16の直径よりも、そのポケット53の周方向両側にある軸方向抜け止め部61,61の間隔G1は小さい。このため、ポケット53から玉16は、軸方向に脱落しない。
【0052】
更に、保持器18は、
図2に示すように、ポケット53に収容した玉16が径方向外方に脱落するのを防止する外側の径方向抜け止め部62、及び、当該玉16が径方向内方に脱落するのを防止する内側の径方向抜け止め部63を有する。外側の径方向抜け止め部62は、柱部52の径方向外側の端部に設けられている。つまり、外側の径方向抜け止め部62は、柱部52の外側部73に含まれる。内側の径方向抜け止め部63は、柱部52の径方向内側の端部に設けられている。つまり、内側の径方向抜け止め部63は、柱部52の内側部71に含まれる。
【0053】
一つのポケット53に収容されている玉16の直径よりも、そのポケット53の周方向両側にある外側の径方向抜け止め部62,62の間隔は小さい。このため、ポケット53から玉16は、径方向外方に脱落しない。また、一つのポケット53に収容されている玉16の直径よりも、そのポケット53の周方向両側にある内側の径方向抜け止め部63,63の間隔は小さい。このため、ポケット53から玉16は、径方向内方に脱落しない。なお、玉16をポケット53に収容するためには、本開示の場合、玉16を保持器18の外周側からポケット53へ押し入れ、その際、外側の径方向抜け止め部63,63を弾性変形させる。
【0054】
玉16をポケット53に収容した状態で、かつ、保持器18が外輪12と内輪34(軸本体部36)との間に取り付けられる前の状態(
図2に示す状態)を、「取り付け前ユニット状態」と称する。これに対して、玉16をポケット53に収容した状態で、かつ、保持器18が外輪12と内輪34(軸本体部36)との間に取り付けられた状態(
図1に示す状態)を、「取り付け後組み立て状態」と称する。
【0055】
図2に示す取り付け前ユニット状態では、保持器18からの玉16の脱落の防止のために、軸方向抜け止め部61,61に玉16が接触可能である。これに対して、取り付け後組み立て状態では、軸方向抜け止め部61,61と玉16とは非接触となるように構成されている。つまり、取り付け後組み立て状態では(
図3参照)、保持器18が軸方向一方に変位した場合に、軸方向抜け止め部61,61が玉16に接触する前に、ガイド部56が外側軌道面26に接触し、軸方向抜け止め部61,61と玉16とは接触しない。よって、取り付け後組み立て状態では、「玉案内の保持器」ではなく、前記のとおり「軌道輪案内の保持器18」とされる。
【0056】
更に、
図2において、外側の径方向抜け止め部62は、取り付け前ユニット状態で、ポケット53に収容している玉16と接触することで玉16がポケット53から径方向の外方へ脱落するのを防止する。内側の径方向抜け止め部63は、取り付け前ユニット状態で、ポケット53に収容している玉16と接触することで玉16がポケット53から径方向の内方へ脱落するのを防止する。
【0057】
取り付け前ユニット状態では、玉16の脱落の防止のために、外側の径方向抜け止め部62,62に玉16が接触可能であり、また、内側の径方向抜け止め部63,63に玉16が接触可能である。これに対して、取り付け後組み立て状態では、外側の径方向抜け止め部62,62と玉16とは非接触となり、また、内側の径方向抜け止め部63,63と玉16とは非接触となるように構成されている。
【0058】
つまり、取り付け後組み立て状態では、保持器18が径方向外方(内方)に変位した場合に、径方向抜け止め部62,62(63,63)が玉16に接触する前に、ガイド部56が外側軌道面26に接触し、径方向抜け止め部62,62(63,63)と玉16とは接触しない。よって、取り付け後組み立て状態では、「玉案内の保持器」ではなく、前記のとおり、「軌道輪案内の保持器18」とされる。
【0059】
〔本開示の軸受装置10について〕
以上のように、本開示の軸受装置10は、
図1に示すように、玉16が接触角を有して外輪12及び内軸部材14に接触するアンギュラ玉軸受を、軸方向一方側及び軸方向他方側それぞれに有して構成されている。軸方向一方側及び軸方向他方側それぞれの保持器18において(
図4及び
図5参照)、各柱部52は、周方向一方側の第一平面部75aと、周方向他方側の第二平面部75bとを有する。第一平面部75aは、周方向一方側の玉16と周方向について接触可能であり、第二平面部75bは、周方向他方側の玉16と周方向について接触可能である。そして、第一平面
部75aと第二平面部75bとは平行である。
【0060】
保持器18が径方向(
図5において右上に向かう方向)に変位しても、柱部52のうち、第一平面部75aと第二平面部75bとの間の部分(中間部72)が、玉16と接触可能となる。つまり、柱部52において、極端に薄くなる部分で玉16が接触しない。柱部52は、第一平面部75aと第二平面部75bとの間の部分(中間部72)よりも薄くならず、柱部52の最薄部の厚さが確保される。柱部52において、玉16との接触部分となる中間部72が、周方向の寸法の最も小さい部分であるが、この部分(中間部72)を、可能な限り厚肉にすることが可能となる。
【0061】
本開示の軸受装置10が備える保持器18によれば、前記のとおり、柱部52において、玉16と接触する第一平面部75a及び第二平面部75bは平面であり、これらは平行である。これにより、玉16と柱部52との接触状態を点接触としつつ、その柱部52において最薄部の肉厚を高めることができる。
特に車輪用の軸受装置10は、車体側及び路面側等から大きな荷重が作用するため、玉16の数は汎用の玉軸受と比較して多くなる。このため、周方向で隣り合う玉16,16の間隔は狭く、これに応じて柱部52は薄くなる。しかし、本開示によれば、玉16が接触する部分は、平行である第一平面部75aと第二平面部75bとの間の部分(中間部72)であるために、柱部52において、玉16が接触する部分が極端に薄くならない。
【0062】
また、本開示では(
図4及び
図5参照)保持器18が備える柱部52は、中間部72と、外側部73と、内側部71とを有する。中間部72は、第一平面部75aと第二平面部75bとの間の部分である。内側部71は、中間部72から径方向内側に設けられている部分であり、中間部72よりも周方向寸法が拡大している。外側部73は、中間部72から径方向外側に設けられている部分であり、中間部72よりも周方向寸法が拡大している。この構成により中間部72から径方向外側及び径方向内側の部分(外側部73及び内側部71)で、更に柱部52は厚くなり、柱部52の強度が高くなる。
【0063】
なお、本開示では(
図5参照)、柱部52が、中間部72の他に、内側部71及び外側部73を有していて、柱部52の径方向内側及び径方向外側が、中間部72よりも周方向寸法(厚さ)が大きくなっている。しかし、図示しないが、柱部52の内側部71と外側部73とのうちの一方については、柱部52と周方向寸法(厚さ)が同じであってもよい。
【0064】
また、前記のとおり(
図5参照)本開示では、各柱部52において、外側部73と玉16との間に形成される周方向についての隙間e3、及び、内側部71と玉16との間に形成される周方向についての隙間e1は、中間部72と玉16との間に形成される周方向についての隙間e2よりも大きい。この構成により、玉16は中間部72の第一平面部75a(第二平面部75b)に確実に点接触することができる。玉16が、第一平面部75a(第二平面部75b)に点接触することで、柱部52と玉16との接触面積はゼロに近づく。つまり、柱部52と玉16との間においてグリースがせん断される面の面積(以下、「せん断面積」と称する。)が可及的に小さくなる。したがって、グリースのせん断抵抗を低減することが可能となる。
【0065】
更に、本開示の軸受装置10は、次のとおり構成されている。
各ポケット53は(
図2及び
図3参照)、内側の接触面部54と、内側の非接触面部55とを有する。
図3において、保持器18が軸方向他方に変位すると、内側の接触面部54は、玉16の回転中心線L3上の点Qで、玉16と点接触する。内側の非接触面部55は、内側の接触面部54の隣りに設けられている面であり、保持器18が軸方向他方に変位しても、玉16と接触不能である。
【0066】
この軸受装置10によれば、保持器18が軸方向他方に変位する場合、内側の接触面部54と玉16とが点接触する。このため、ポケット53と玉16との接触面積はゼロに近づく。つまり、ポケット53と玉16との間においてグリースがせん断される面の面積(グリースのせん断面積)が可及的に小さくなる。したがって、グリースのせん断抵抗を低減することが可能となる。
【0067】
しかも、玉16は、回転中心線L3上の点Qで内側の接触面部54に点接触する。その点接触する位置では、ポケット53と玉16との相対速度(摺動速度)はゼロに近づく。このため、玉16とポケット53とが接触する点Qでのグリースのせん断抵抗を更に低減することが可能となる。
【0068】
そして、ポケット53において、内側の接触面部54の隣りに設けられている内側の非接触面部55では、玉16と接触不能であり、これにより、内側の非接触面部55と玉16との間に広いクリアランス(E2)が生じる。この広いクリアランス(E2)により、内側の非接触面部55と玉16との間においてグリースはせん断され難く、回転抵抗が低減される。
【0069】
また、本開示の軸受装置10では、保持器18がガイド部56を有する(
図6参照)。ガイド部56は、外輪12の一部である外側軌道面26に径方向から接触可能であって、その接触によって保持器18を径方向について位置決めすることができる。つまり、本開示の軸受装置10では、保持器18は「軌道輪案内の保持器」である。
ここで、図示しないが、玉に接触して径方向について位置決めされる保持器は「玉案内の保持器」と称される。玉案内の保持器の場合、保持器のポケットに対する玉の回転速度は高くなり、両者間の相対速度(摺動速度)は高く、グリースがせん断されやすい。
【0070】
しかし、本開示のように、軌道輪案内の保持器18の場合、その保持器18は外輪12に接触して位置決めされる。外輪12と保持器18との相対速度差は、ポケット53と玉16の相対速度差(ポケット53に対する玉16の回転速度)よりも小さい。このため、軌道輪案内の保持器18では、前記玉案内の保持器と比較して、グリースがせん断され難い。つまり、本開示のガイド部56によれば、グリースのせん断による回転抵抗を低減することが可能となる。
【0071】
ガイド部56は、前記のとおり、保持器18の径方向の位置決めのために機能する他に、軸方向の位置決めのためにも機能する。すなわち、保持器18が軸方向一方に変位すると、ガイド部56が外側軌道面26に軸方向から接触することで、その変位が規制される。なお、本開示では、保持器18が軸方向他方に変位すると、内側の接触面部54が玉16と点接触することで、その変位が規制される。
【0072】
以上のように、軸方向一方に変位する保持器18の位置決めは、外側軌道面26に接触するガイド部56によって行われる。ガイド部56(保持器18)と外輪12との相対速度差は、前記のとおり小さいので、グリースはせん断され難い。そして、軸方向他方に変位する保持器18の位置決めは、内側の接触面部54(
図3参照)によって行われる。内側の接触面部54は玉16と接触するが、その接触態様は点接触である。このため、グリースのせん断面積は小さくなる。また、玉16の回転中心線L3上の点Qで、内側の接触面部54と玉16とは点接触する。点Qでは、内側の接触面部54と玉16との相対速度(摺動速度)はゼロに近づくことから、グリースのせん断抵抗は低減される。
【0073】
〔その他〕
以上の保持器18に関する説明は、
図1に示す軸受装置10の軸方向他方側の保持器18についての説明である。前記のとおり、軸方向一方側の保持器18と軸方向他方側の保持器18とは、取り付けの向きが軸方向について反対であるが、構成は同じである。このため、軸方向他方側の保持器18に関する前記の各説明を、軸方向一方側の保持器18に当てはめる場合、軸方向についての一方と他方とを反対にして読み替えればよい。
【0074】
前記のとおり開示した発明は、自動車に用いられる車輪用軸受装置10に係る発明である。しかし、前記車輪用軸受装置10における複数の玉16と、外側軌道面26と、軸軌道面42(又は内輪軌道面44)とにより構成されるアンギュラ玉軸受の部分については、他の回転機器に適用されてもよい。または、前記のように構成されるアンギュラ玉軸受の部分は、一般的な(汎用の)アンギュラ玉軸受に適用されてもよい。このアンギュラ玉軸受においても、グリースがせん断され難くなり、回転抵抗が低減される。
【0075】
今回開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の技術的範囲は前述の実施形態に限定されるものではなく、この技術的範囲には特許請求の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0076】
10:車輪用軸受装置 12:外輪(外方部材) 14:内軸部材(内方部材)
16:玉 18:保持器 51:環状部
52:柱部 71:内側部 72:中間部
73:外側部 75a:第一平面部 75b:第二平面部
C0:軸受中心線 c:玉の中心 e1,e2,e3:隙間
K1,K2:仮想平面 L1,L2:仮想直線 P1,P2,P3,P4:接触点
S1:仮想線