(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池正極材からの金属の溶解方法及び溶解装置
(51)【国際特許分類】
C22B 23/00 20060101AFI20240416BHJP
H01M 10/54 20060101ALI20240416BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20240416BHJP
C22B 47/00 20060101ALI20240416BHJP
C22B 3/10 20060101ALI20240416BHJP
C22B 3/02 20060101ALI20240416BHJP
B09B 3/80 20220101ALI20240416BHJP
【FI】
C22B23/00 102
H01M10/54
C22B7/00 C
C22B47/00
C22B3/10
C22B3/02
B09B3/80
(21)【出願番号】P 2019212243
(22)【出願日】2019-11-25
【審査請求日】2022-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115440
【氏名又は名称】中山 光子
(72)【発明者】
【氏名】寺地 進
(72)【発明者】
【氏名】金森 悟
(72)【発明者】
【氏名】大槻 茂
(72)【発明者】
【氏名】古橋 鉄太郎
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 典子
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-062307(JP,A)
【文献】登録実用新案第3209015(JP,U)
【文献】特開2016-006769(JP,A)
【文献】特開2003-073751(JP,A)
【文献】特開2002-198103(JP,A)
【文献】特開2015-137393(JP,A)
【文献】国際公開第2012/102384(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 23/00
H01M 10/54
C22B 7/00
C22B 47/00
C22B 3/10
C22B 3/02
B09B 3/70
C22B 26/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池の正極材に含まれる金属を酸性溶液に溶解させる際に、
前記酸性溶液として1~3mol/Lの塩酸水溶液を用い、
前記酸性溶液を、正極材に接触流通させながら、マイクロ波を照射して加熱すること
により、接触流通時の液温を60~80℃の範囲に保持することを特徴とする溶解方法。
【請求項2】
正極材が、コバルト、マンガン、ニッケルからなる群から選択される1種以上の金属とリチウム金属とを含む正極材である請求項1に記載の溶解方法。
【請求項3】
リチウムイオン電池の正極材に含まれる金属を酸性溶液に溶解させるための溶解装置であって、
前記酸性溶液を貯留する貯液槽と、
前記正極材粉体を充填する正極材充填装置と、
該正極材充填装置に、前記酸性溶液の存在下でマイクロ波を照射し、前記酸性溶液を加熱する
、マイクロ波反応装置と
、
前記貯液槽内の酸性溶液を前記正極材充填装置に循環させる液循環系統と、
を具備し、
前記マイクロ波反応装置は、PID制御機能付きの温度制御盤を具備しており、前記マイクロ波反応装置の出力をPID制御するとともに、
前記酸性溶液を加温する加温槽を有しない、ことを特徴とする溶解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウムイオン電池正極材に含まれる金属の溶解方法及び溶解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、スマートフォンや電気自動車のバッテリー等として広く使用されており、小型民生用(シリンダ型、角型、ラミネート型)、EV用、ESS、UPS及びBTS用合計で、2021年の世界市場は4兆円に達すると予想されている。
【0003】
リチウムイオン電池に用いられている正極材料の種類としては、コバルト系(コバルト酸リチウム(LiCoO2))、ニッケル系(ニッケル酸リチウム(LiNiO2))、マンガン系(マンガン酸リチウム(LiMn2O4))、リン酸鉄系(リン酸鉄リチウム(LiFePO4))、及び、三元系のNCA(LiNi0.8Co0.15Al0.05O2)、NMC(LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2)等が挙げられる。
【0004】
このように、リチウムイオン電池の正極材には、レアメタルであるリチウム、コバルト、ニッケル、マンガン等が含まれており、これらのレアメタルは産出国が限られ、埋蔵量も少ないことから価格の高騰や枯渇が懸念されている。レアメタルの安定確保のためには、リチウムイオン電池のリサイクル技術の開発が急務である。
【0005】
リチウムイオン電池のリサイクル方法としては、電池を溶融した後、磁選あるいは精錬によりCo、Ni、Cu等の金属成分を金属として回収する乾式法と、電池を各部材に解体・分別した後、正極材を化学物質で処理して金属成分を溶解して浸出させ、抽出あるいは電解等で回収する湿式法がある。
【0006】
金属及び金属化合物を含む材料から金属を回収する場合は、通常、酸を添加して加温する操作を行うことが一般的である。この場合、金属の回収効率を上げるためには、できるだけ多くの金属を短時間で溶解させることが求められる。しかし、リチウムイオン電池の正極材中の金属成分は金属酸化物であり、イオン化し難いので酸水溶液中に簡単には溶け出さないので、湿式法での金属の回収は容易でない。
【0007】
そこで、湿式法でリチウムイオン電池の正極材から金属を回収するための工夫として、例えば、特許文献1には、Li、Co、Ni、Mn酸化物のスクラップを硫酸で処理する際に、浸出対象の金属よりも卑な遷移金属化合物(硫酸マンガン)を添加してMnを不溶化し、Li、Ni、Coを90重量%以上溶解させる方法が開示されている。
【0008】
特許文献2には、スクラップから金属を効率よく回収する方法として、Li、Co、Ni、Mn酸化物のスクラップを0.3当量の硫酸で処理してLiを溶解させた後、濾過を行って濾液からLiを回収し、濾過残渣に0.7当量の硫酸を添加してCo、Niを溶解させる方法が開示されている。
【0009】
しかしながら、特許文献1の方法では、硫酸マンガンのような金属化合物を別途添加する必要があり、回収対象の金属量の増加に繋がるので、簡便に金属を溶解する方法とは言えない。また、特許文献2の方法では、硫酸による処理を2段階に渡って行わねばならず、操作が煩雑であり、やはり簡便に金属を溶解する方法とは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2015-178642号公報
【文献】特開2016-69706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、前記の課題に鑑みてなされたものであり、リチウムイオン電池正極材から金属を酸性溶液に効率よく、かつ簡便に溶解させる方法及び装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、正極材に酸性溶液存在下でマイクロ波を照射して加熱することにより、酸性溶液中への金属浸出量が増えることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0014】
(1)リチウムイオン電池の正極材に含まれる金属を酸性溶液に溶解させる際に、
前記酸性溶液として1~3mol/Lの塩酸水溶液を用い、
前記酸性溶液を、正極材に接触流通させながら、マイクロ波を照射して加熱することにより、接触流通時の液温を60~80℃の範囲に保持することを特徴とする溶解方法。
(2)正極材が、コバルト、マンガン、ニッケルからなる群から選択される1種以上の金属とリチウム金属とを含む正極材である前記(1)に記載の溶解方法。
【0015】
(3)リチウムイオン電池の正極材に含まれる金属を酸性溶液に溶解させるための溶解装置であって、
前記酸性溶液を貯留する貯液槽と、
前記正極材粉体を充填する正極材充填装置と、
該正極材充填装置に、前記酸性溶液の存在下でマイクロ波を照射し、前記酸性溶液を加熱する、マイクロ波反応装置と、
前記貯液槽内の酸性溶液を前記正極材充填装置に循環させる液循環系統と、
を具備し、
前記マイクロ波反応装置は、PID制御機能付きの温度制御盤を具備しており、前記マイクロ波反応装置の出力をPID制御するとともに、
前記酸性溶液を加温する加温槽を有しない、ことを特徴とする溶解装置。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、正極材に、酸性溶液存在下でマイクロ波を照射して加熱することにより、誘電損失等により加熱が進行するため、コバルト、マンガン及びニッケル金属を、ヒーター加熱よりも多量(約2~5倍量)に浸出させることができる。これにより、希少金属を低コストで回収することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の溶解装置の一実施形態を説明する概略図である。
【
図2】正極材(LiCoO
2)の試験結果を示す図である。
【
図3】正極材(LiMnO
4)の試験結果を示す図である。
【
図4】正極材(LiNiO
2)の試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[溶解方法]
本発明の溶解方法は、リチウムイオン電池正極材を解体して得られる正極材に含まれる金属を酸性溶液に溶解させる溶解方法であって、前記正極材に酸性溶液存在下でマイクロ波を照射して加熱することを特徴とする。
【0019】
リチウムイオン電池正極材としては、公知の正極材を制限なく用いることができる。具体的には、コバルト酸リチウム(LiCoO2)等のコバルト系正極材、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)等のニッケル系正極材、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)等のマンガン系正極材、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)等の鉄系正極材、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2等のNCA系正極材、LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2)等のNMC系正極材等が挙げられる。
【0020】
これらの正極材の中でも、本発明が対象とする好ましい正極材は、組成が比較的単純であり、廃電池から金属を回収するニーズが早期に訪れる可能性がある、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム及びリン酸鉄リチウムである。なかでも、さらに好ましいのは、価格が最も高価であるコバルト系正極材、安全性が比較的高く国内での普及率が高いマンガン系正極材であり、特に好ましいのはコバルト系正極材である。
【0021】
金属の溶解対象となる正極材としては、廃棄物として回収した廃リチウムイオン電池の解体品、スクラップ品等、または、リチウムイオン電池の製造工程の中間品等が挙げられ、廃リチウムイオン電池由来の正極材であれば特に制限はない。また、正極材が篩選別されたもの等であり、粉体として入手可能なものであればより好ましい。
【0022】
本発明では、正極材から金属を溶解させる場合に、前記正極材に酸性溶液存在下で、マイクロ波を照射して加熱する。マイクロ波照射方法は限定されるものではなく、連続的または断続的に実施することができ、迅速溶解処理の観点からは連続照射が好ましい。
【0023】
マイクロ波による物質の加熱機構は、下記式で求められるマイクロ波エネルギーに依存するため、誘電加熱の影響が大きいことが知られている。
マイクロ波エネルギー=誘電加熱+磁性加熱(比透磁率≒1)+ジュール加熱
【0024】
即ち、比誘電損失が大きい物質ほどマイクロ波で加熱され易いと考えられている。比誘電損失の大きい溶媒としては、水、メタノール、アセトン等が挙げられ、比誘電損失の小さい溶媒としては、ベンゼン、トルエン等が挙げられる。
【0025】
また、主な固体に対するマイクロ波加熱効果は、堀越智等の著書“マイクロ波化学”(三共出版2013年12月発行)によれば、コバルト酸化物が最も高く、ニッケル酸化物、マンガン酸化物が同等であることが知られている(表1参照)。この点、コバルト酸化物は、マンガン酸化物やニッケル酸化物よりもマイクロ波で加熱し易い物質である。
【0026】
【0027】
本発明では、正極材に含まれる金属を酸性溶液に溶解させる。酸性溶液の酸としては、塩酸、硫酸または硝酸と言った強酸が好ましく、生成塩(塩化物)の溶解性が良好である点からは塩酸が好ましい。酸性溶液の溶媒としては、比誘電損失の大きい溶媒である水、メタノール、アセトンが好ましい。前記のメタノール(沸点約65℃)及びアセトン(沸点約56℃)は、低沸点であるため常圧では溶解処理時の液温を上げることができない、溶解処理後の溶媒回収が必要である等の不都合がある。水は、より高温での溶解処理が可能で溶媒回収が不要であるため、より好ましい溶媒である。酸性溶液としては、塩酸水溶液が最も好ましい。
【0028】
塩酸水溶液の濃度としては、1~3mol/Lが好ましく、より好ましくは1.2~2.8mol/L、さらに好ましくは1.5~2.5mol/Lである。また、塩酸の使用量は、対象とする正極材(金属酸化物)に対する当量で、2~5倍当量用いることが好ましい。より好ましくは2.2~4.8倍当量、特に好ましくは2.5~4.5倍当量である。酸の使用量が少なすぎる場合は、単位時間当たりの金属溶解量が減少するため非効率となり、一方、酸の使用量が多すぎる場合は、単位時間当たりの金属溶解量が頭打ちになるだけでなく、余剰の酸を中和するための後処理が煩雑になり、コスト高になる恐れがある。
【0029】
本発明の溶解方法において、溶解時間は通常1~10時間である。溶解方法は、バッチ式、連続式を問わず、マイクロ波照射可能な方法であれば良い。
【0030】
[溶解装置]
図1は、本発明の溶解装置の一実施形態を説明する概略図である。溶解装置1は、正極材2を充填する正極材充填装置3、正極材2に対してマイクロ波を照射するマイクロ波反応装置4、正極材を溶解する酸性溶液を貯留する貯液槽5、該貯液槽5の酸性溶液を正極材充填装置3に送液した後、該液に溶解させた金属を含む酸性溶液を貯液槽5に戻すための液循環系統6、を少なくとも具備している。前記貯液槽5は、撹拌装置11を具備していることが好ましい。
【0031】
図1では、液循環系統6は、送液用配管6a、液流方向を調整するための三方弁6b、ストップバルブ6c、及び送液用のポンプ6d等を備えている。前記の液循環系統6は、溶解装置1内で酸性溶液を循環させるためのものであり、
図1に示す例に制限されるものではなく、また、配管、ポンプ、バルブ、その他要素についても一般的な装置における構成及び組合せを用いることができる。
【0032】
本発明において、マイクロ波反応装置4は、正極材充填装置3内の正極材2にマイクロ波を照射するためのものである。マイクロ波反応装置4は、マイクロ波照射量を平準化するため、該装置3内の酸性溶液の温度測定用の温度計12(温度センサ)と、温度制御用のマイクロ波反応装置温度制御盤7(PID制御機能付き)を具備していることが好ましい。温度計12により検出した酸性溶液の温度データと、制御盤7の設定温度に基づき、マイクロ波反応装置4の出力をPID制御することにより、マイクロ波を連続照射しながら、酸性溶液の液温をほぼ一定温度に保持することができる。
【0033】
照射するマイクロ波の周波数としては、1~6GHzが好ましく、1.5~4GHzがより好ましい。1GHz未満及び6GHz超では、正極材の比誘電損失が小さいため正極材からの金属溶解量が減少し、効率的な回収を行うことが困難になる。
【0034】
マイクロ波照射時の正極材近傍の液温は、金属の溶解効率を向上させるため、60℃以上に保持することが好ましく、60℃~80℃の範囲に保持することがより好ましい。温度が60℃未満では、金属の溶解速度が低下し長時間の処理が必要となるため、溶解効率が低くなる。一方、温度が80℃を超えると、気化する塩酸ガスの量が増え液中の塩酸濃度が低下する結果、やはり金属の溶解速度が低下し、溶解効率が低くなる。
【0035】
正極材2は、正極材充填装置3の内部に充填される。正極材2は、リチウムイオン電池からの回収方法によって形態が異なるが、例えばスクラップ状、固体状、粉体状等の任意の形態であって良い。正極材の溶解効率を向上させる点からは表面積が大きい形態であることが好ましい。例えば、粗粉砕品、微粉砕品、粉状品等が好ましい形態である。粗粉砕品等の場合は、さらに微粉砕して溶解装置に供しても良い。
【0036】
正極材充填装置3は、正極材2に対する酸性溶液の接触時間を確保しマイクロ波照射による金属の溶解効率を高めるためには、正極材2に対して、装置3の下方から酸性溶液を流通させ、装置3の上方から酸性溶液を排出する構成が好ましい。そして、装置3外に排出された金属を溶解した酸性溶液は、再び、貯液槽5に戻すように構成することで、短時間の浸出操作で大量の金属を溶解させることができる。
【0037】
貯液槽5に戻された酸性溶液は、貯液槽5から再び、正極材充填装置3に供給されることにより、貯液槽5と正極材充填装置3の間を循環することになる。正極材充填装置3を流通させた酸性溶液を装置外に排出する場合は、三方弁6bを閉じ、ストップバルブ6cを開く。貯液槽5から酸性溶液を正極材充填装置3に供給する場合及び酸性溶液を液循環する場合は、ストップバルブ6c、三方弁6bを開く。
【0038】
酸性溶液の装置1内での循環は、酸性溶液中の金属濃度が所定濃度以上になるまで実施する。液循環系統内に適宜なサンプリング場所を設け、そこから酸性溶液を適時サンプリングして分析することにより、酸性溶液中の金属濃度を測定するのが良い。
【0039】
循環系統おける酸性溶液の循環速度は、金属の溶解効率の点より、約5ml/min~20ml/minに設定することが好ましい。循環速度が前記の範囲であれば、金属の溶解速度が極端に遅くなることがない。
【0040】
以上の溶解処理を行うことにより、正極材に含まれているCo、Ni、Mn等の有価金属を回収することができる。
【0041】
本発明の溶解方法及び溶解装置は、車載用、電力貯蔵用等のリチウムイオン電池から回収した正極材の溶解方法として好適である。また、リチウムイオン電池は、液状電解質、ゲル状電解質、ポリマー電解質、固体電解質等であって良く、電解質の種類も制限されない。
【実施例】
【0042】
次に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)
図1に示す溶解装置(1)を使用した。
正極材(2)を充填する正極材充填装置(3)をマイクロ波反応装置(4)の内部に設置した。該装置とは別に、貯液槽(5)として、リービッヒ冷却管(10)とマグネチックスターラー(11)を備えた内容量200mlの5つ口フラスコを用意した。貯液槽(5)と正極材充填装置(3)を、配管(6a)、三方弁(6b)及びストップバルブ(6c)を備えた液循環系統(6)で接続し、ポンプ(6d)を介して、貯液槽(5)から正極材充填装置(3)の底部に液を流入させ、該装置の上部から液を流出させ、流出させた液を再び貯液槽に戻すことにより、液が貯液槽(5)と正極材充填装置(3)との間を循環させるようにした。
マイクロ波反応装置温度制御盤(7)の温度を70℃に設定し、周波数2.45GHz、最大出力700Wのマイクロ波をPID制御しながら連続的に照射する。その間、液温を70℃に維持した。温度計(12)の計測温度をデータロガー(8)及びPC(9)に保存する。
【0044】
正極材充填装置(3)に粉末状正極材LiCoO
2(試薬)3g(0.031モル)を入れ、5つ口フラスコ(貯液槽)に2mol/Lの塩酸水溶液180mL(HCl:0.36モル、約3倍当量対正極材)を入れた。塩酸水溶液の循環を開始するともにマイクロ波を所定時間照射した後、フラスコ内の塩酸水溶液に溶解しているCo濃度を、測定装置:東亜ディーケーケー株式会社製PCIIを用い、1-(2-ピリジルアゾ)-2-ナフトール(PAN)法により測定した。測定結果を
図2に示す。
なお、マイクロ波照射時間は1時間、2時間及び5時間の3条件としたが、
図2では、照射時間の替わりに消費した電力量を用いてCo溶解量との関係を図示した。
【0045】
(実施例2)
正極材充填装置(3)に粉末状正極材LiMnO
2(試薬)3g(0.032モル)を入れ、塩酸水溶液180mL(約2.8倍当量対正極材)を入れた他は、実施例1と同様に操作した。マイクロ波照射後に塩酸水溶液に溶解しているMn濃度を、測定装置:ハンナ インスツルメンツ・ジャパン株式会社製HI709を用い、過ヨウ素酸塩酸化法により測定した。測定結果を
図3に示す。
【0046】
(実施例3)
正極材充填装置(3)に板状正極材LiNiO
2(板状品を約10mm×10mm角に切断して使用)2g(0.021モル)を入れ、塩酸水溶液180mL(約4.4倍当量対正極材)を入れた他は、実施例1と同様に操作した。マイクロ波照射後に塩酸水溶液に溶解しているNi濃度を、実施例1と同様の装置及び方法により測定した。測定結果を
図4に示す。
【0047】
(比較例1~3)
実施例1~3において、マイクロ波反応装置からマイクロ波を照射する替わりに、正極材充填装置の周囲にリボンヒーターを巻き加熱した以外は、実施例1~3と同様にして、塩酸水溶液の循環を開始するともに所定時間加熱した後、フラスコ内の塩酸水溶液に溶解しているCo、Ni及びMnの濃度を測定した。測定結果を
図2~
図4に示す。
なお、比較例1~3の加熱時間は1時間、2時間、5時間の3条件としたが、実施例1~3と同様、加熱時間の替わりに消費した電力量を用いて各金属の溶解量との関係を図示した。
【0048】
上記の実験結果より、マイクロ波加熱とヒーター加熱とでは、電力量に対する金属溶解量に差が認められた。
マイクロ波照射の場合には、照射時間と消費電力量は必ずしも正比例しないが、マイクロ波照射の場合の溶解金属量の最大値とヒーター加熱の場合の溶解金属量の最大値を比較すると、Coの場合、マイクロ波照射では11,000ppm(試験に供試したCoの109%に相当)であるのに対し、ヒーター加熱では4,800ppm(試験に供試したCoの48%に相当)であり、マイクロ波照射ではヒーター加熱の約2倍量のCoが溶解することがわかる。
【0049】
また、消費電力量が同じである約150WhでのCoの溶解量を比較すると、マイクロ波照射では10,000ppm(試験に供試したCoの99%に相当)であるのに対し、ヒーター加熱では最大で4,800ppm(試験に供試したCoの48%に相当)であり、やはりマイクロ波照射ではヒーター加熱の約2倍量のCoが溶解しており、マイクロ波照射はヒーター加熱と比較して、使用エネルギーの面からも有利であることがわかる。
【0050】
Mnの場合も、溶解金属量の最大値を比較すると、マイクロ波照射では4,700ppm(試験に供試したMnの47%に相当)、ヒーター加熱では2,200ppm(試験に供試したMnの23%に相当)であり、Coの場合と同様、マイクロ波照射ではヒーター加熱の約2倍量となる。
消費電力量が同じ場合の溶解量の比較では、Coの場合ほど顕著ではないが、消費電力量約60Whで、マイクロ波照射が2,300ppm(試験に供試したMnの24%に相当)、ヒーター加熱が2,000ppm(試験に供試したMnの20%に相当)であり、マイクロ波加熱の方がエネルギー面でも有利であることを示している。
【0051】
Niの場合には、CoやMnの場合ほど差はないが、溶解金属量の最大値では、マイクロ波照射では5,200ppm(試験に供試したNiの78%に相当)、ヒーター加熱では5,000ppm(試験に供試したNiの75%に相当)であり、マイクロ波照射の方がヒーター加熱よりもやや溶解量が多い。
また、消費電力量が同じ場合の溶解量では、消費電力量約70Whで、マイクロ波照射が4,300ppm(試験に供試したNiの63%に相当)、ヒーター加熱が最大で3,500ppm(試験に供試したNiの51%に相当)であり、マイクロ波加熱の方がエネルギー面で有利であることを示している。
【0052】
本発明の溶解方法によれば、正極材に含まれる金属がマイクロ波で加熱されるため、比誘電損失が大きいLiCoO2において、特に良好な結果が得られた。また、LiMnO2でも従来のヒーター加熱と比べて有意差が認められた。LiNiO2でも従来のヒーター加熱と比べてLiCoO2やLiMnO2の場合程ではないが、マイクロ波照射がヒーター加熱より有利であることが認められた。
【0053】
以上、本発明を説明したが、本発明は、1台のマイクロ波反応装置内に複数の正極材充填装置を設置する、あるいは、マイクロ波反応装置を複数台用いて行うことも可能であり、本発明の範囲内で種々の変更が可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によれば、廃リチウムイオン電池等から正極材に使用されている有価金属を低コストで回収することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 溶解装置
2 正極材
3 正極材充填装置
4 マイクロ波反応装置
5 貯液槽
6 液循環系統
6a 配管
6b 三方弁
6c ストップバルブ
6d ポンプ
7 マイクロ波反応装置温度制御盤
8 データロガー
9 PC
10 冷却管
11 撹拌装置
12 温度計