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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】蓄熱体、および、化学蓄熱反応器
(51)【国際特許分類】
   F28D 20/00 20060101AFI20240416BHJP
【FI】
F28D20/00 G
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020012222
(22)【出願日】2020-01-29
(65)【公開番号】P2021116990
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2022-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(72)【発明者】
【氏名】山下 真彦
(72)【発明者】
【氏名】望月 美代
(72)【発明者】
【氏名】福井 健二
(72)【発明者】
【氏名】植田 忠伸
(72)【発明者】
【氏名】山内 崇史
【審査官】渡邉 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-115060(JP,A)
【文献】特開2012-215324(JP,A)
【文献】実開昭61-165366(JP,U)
【文献】米国特許第05720337(US,A)
【文献】特開2012-211713(JP,A)
【文献】特開2014-153029(JP,A)
【文献】特開2016-070542(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄熱体であって、
反応水との反応によって蒸気を生成する柱状の蓄熱材と、
前記蓄熱材を内側に収容する筒状の拘束部材であって、自身の内側面が前記蓄熱材の外側面に沿うように形成されている拘束部材と、
前記蓄熱材と前記拘束部材との間に前記蓄熱材に供給される反応水を流通させる流路を形成する溝部であって、前記蓄熱材の外側面、および、前記拘束部材の内側面の少なくとも一方に形成された溝部と、を備える、
蓄熱体。
【請求項2】
請求項1に記載の蓄熱体であって、
前記溝部は、
前記拘束部材の内側面に形成されており、
記拘束部材の軸方向に沿って延設され、前記拘束部材の周方向に沿って複数並んで配置されている、
蓄熱体。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の蓄熱体であって、
前記溝部は、
前記蓄熱材の外側面に形成されており、
記蓄熱材の軸方向に沿って延設され、前記蓄熱材の周方向に沿って複数並んで配置されている、
蓄熱体。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の蓄熱体であって、
前記溝部は、
前記拘束部材の内側面に形成されており、
記拘束部材の周方向に沿って延設され、前記拘束部材の軸方向に沿って複数並んで配置されている、
蓄熱体。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の蓄熱体であって、
前記溝部は、
前記蓄熱材の外側面に形成されており、
記蓄熱材の周方向に沿って延設され、前記蓄熱材の軸方向に沿って複数並んで配置されている、
蓄熱体。
【請求項6】
化学蓄熱反応器であって、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の蓄熱体と、
前記蓄熱体が生成する蒸気との反応によって発熱する発熱用蓄熱体と、
前記蓄熱体と前記発熱用蓄熱体を収容する反応容器と、を備える、
化学蓄熱反応器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄熱体、および、化学蓄熱反応器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水との化学反応によって放熱と蓄熱とを繰り返すことが可能な蓄熱体を備える化学蓄熱反応器が知られている。例えば、特許文献1には、水と反応することで蒸気を生成する下側蓄熱体と、下側蓄熱体の上側に配置され、下側蓄熱体が生成する蒸気との反応によって発熱する上側蓄熱体と、を備える化学蓄熱反応器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-184119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の下側蓄熱体は、蓄熱材からなる蓄熱成形体と、蓄熱成形体を覆う筒部材を備えており、筒部材には、蓄熱材と反応する反応水を筒部材の内側に流入させるフィルタ部が配置されている。しかしながら、このフィルタ部は、筒部材の一部に配置されているため、フィルタ部を通って筒部材の内側に流入する反応水は、最初に、フィルタ部付近の蓄熱材と反応する。また、フィルタ部から離れた場所にある蓄熱材の反応水との反応は、フィルタ部付近の蓄熱材に比べ遅くなる。このため、水との反応による蓄熱材の膨張が不均一となるため、拘束部材が破損するおそれがある。
【0005】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、化学蓄熱反応器において、蓄熱材の膨張による拘束部材の破損を抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0007】
(1)本発明の一形態によれば、蓄熱体が提供される。この蓄熱体は、反応水との反応によって蒸気を生成する蓄熱材と、前記蓄熱材の外側に配置される筒状の拘束部材と、前記蓄熱材と前記拘束部材との少なくとも一方に形成され、前記蓄熱材と前記拘束部材との間に前記蓄熱材に供給される反応水を流通させる流路を形成する流路形成部と、を備える。
【0008】
この構成によれば、蓄熱材と拘束部材との間には、反応水を流通させる流路が流路形成部によって形成されている。これにより、反応水を蓄熱材の広い範囲に行き渡らせることができるため、蓄熱材の水和反応を蓄熱材の広い範囲で同じようなタイミングで進行させることができる。したがって、水和反応による蓄熱材の膨張が均一になるため、不均一な膨張による拘束部材の破損を抑制することができる。
【0009】
(2)上記形態の蓄熱体において、前記流路形成部は、前記拘束部材の内側面に形成された溝部であり、前記溝部は、前記拘束部材の軸方向に沿って延設され、前記拘束部材の周方向に沿って複数並んで配置されていてもよい。この構成によれば、例えば、拘束部材の軸方向から蓄熱体に供給される反応水は、溝部を流れることで、蓄熱材の反応水が供給された側とは反対側まで流れることができる。これにより、反応水を蓄熱材の軸方向において広い範囲に行き渡らせることができるため、水和反応による蓄熱材の膨張が均一になり、不均一な膨張による拘束部材の破損を抑制することができる。
【0010】
(3)上記形態の蓄熱体において、前記流路形成部は、前記蓄熱材の外側面に形成された溝部であり、前記溝部は、前記蓄熱材の軸方向に沿って延設され、前記蓄熱材の周方向に沿って複数並んで配置されていてもよい。この構成によれば、蓄熱材の軸方向から蓄熱体に供給される反応水は、溝部を流れることで、蓄熱材の反応水が供給された側とは反対側まで流れることができる。これにより、反応水を蓄熱材の軸方向において広い範囲に行き渡らせることができるため、水和反応による蓄熱材の膨張が均一になり、不均一な膨張による拘束部材の破損を抑制することができる。
【0011】
(4)上記形態の蓄熱体において、前記流路形成部は、前記拘束部材の内側面に形成された溝部であり、前記溝部は、前記拘束部材の周方向に沿って延設され、前記拘束部材の軸方向に沿って複数並んで配置されてもよい。この構成によれば、例えば、拘束部材の径方向から蓄熱体に供給される反応水は、溝部を流れることで、蓄熱材の反応水が供給された側とは反対側まで流れることができる。これにより、反応水を蓄熱材の周方向において広い範囲に行き渡らせることができるため、水和反応による蓄熱材の膨張が均一になり、不均一な膨張による拘束部材の破損を抑制することができる。
【0012】
(5)上記形態の蓄熱体において、前記流路形成部は、前記蓄熱材の外側面に形成された溝部であり、前記溝部は、前記蓄熱材の周方向に沿って延設され、前記蓄熱材の軸方向に沿って複数並んで配置されていてもよい。この構成によれば、例えば、蓄熱材の径方向から蓄熱体に供給される反応水は、溝部を流れることで、蓄熱材の反応水が供給された側とは反対側まで流れることができる。これにより、反応水を蓄熱材の周方向において広い範囲に行き渡らせることができるため、水和反応による蓄熱材の膨張が均一になり、不均一な膨張による拘束部材の破損を抑制することができる。
【0013】
(6)本発明の別の形態によれば、化学蓄熱反応器が提供される。この化学蓄熱反応器は、上述の蓄熱体と、前記蓄熱体が生成する蒸気との反応によって発熱する発熱用蓄熱体と、前記蓄熱体と前記発熱用蓄熱体を収容する反応容器と、を備える。この構成によれば、蓄熱体において、流路形成部が形成する流路によって反応水を蓄熱材の広い範囲に行き渡らせることができるため、水和反応による蓄熱材の膨張が均一になり、不均一な膨張による拘束部材の破損を抑制することができる。
【0014】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、蓄熱体の製造方法、化学蓄熱反応器の製造方法、蓄熱体の製造をコンピュータに実行させるコンピュータプログラム、コンピュータプログラムを配布するためのサーバ装置、コンピュータプログラムを記憶した一時的でない記憶媒体等などの形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施形態の化学蓄熱装置の模式図である。
図2図1のA-A線断面図である。
図3図2のB-B線断面図である。
図4】化学蓄熱反応器が備える蒸気生成用蓄熱体の斜視図である。
図5】蒸気生成用蓄熱体が備える蓄熱材の模式図である。
図6】蒸気生成用蓄熱体が備える蓄熱材拘束カバーの模式図である。
図7】化学蓄熱反応器の作用を説明する第1の図である。
図8】化学蓄熱反応器の作用を説明する第2の図である。
図9】蒸気生成用蓄熱体の作用を説明する図である。
図10】第2実施形態の蒸気生成用蓄熱体が備える蓄熱材の模式図である。
図11】蒸気生成用蓄熱体の作用を説明する図である。
図12】第3実施形態の蒸気生成用蓄熱体の模式図である。
図13】化学蓄熱反応器の作用を説明する第1の図である。
図14】化学蓄熱反応器の作用を説明する第2の図である。
図15】第4実施形態の蒸気生成用蓄熱体の斜視図である。
図16】蒸気生成用蓄熱体が備える蓄熱材拘束カバーの模式図である。
図17】蒸気生成用蓄熱体の作用を説明する第1の図である。
図18】蒸気生成用蓄熱体の作用を説明する第2の図である。
図19】第5実施形態の蒸気生成用蓄熱体が備える蓄熱材の模式図である。
図20】蒸気生成用蓄熱体の作用を説明する第1の図である。
図21】蒸気生成用蓄熱体の作用を説明する第2の図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態の化学蓄熱装置100の模式図である。図2は、図1のA-A線断面図であって、化学蓄熱装置100が備える化学蓄熱反応器101における、例えば、水平方向の断面図である。図3は、図2のB-B線断面図であって、化学蓄熱反応器101における、例えば、鉛直方向の断面図である。化学蓄熱装置100は、化学蓄熱反応器101での化学反応によって、熱エネルギの放出と貯蔵を繰り返すことが可能である。化学蓄熱装置100は、図1に示すように、化学蓄熱反応器101と、タンク6とを備える。化学蓄熱反応器101は、蒸気生成用蓄熱体1と、発熱用蓄熱体90と、反応容器7とを備える(図2および図3参照)。反応容器7には、蒸気生成用蓄熱体1と発熱用蓄熱体90とを収容する収容空間8が形成されている。タンク6は、化学蓄熱反応器101に供給される反応水と蒸気用水を貯留する。化学蓄熱反応器101とタンク6との間には、接続流路5aとマニホールド5bとが配置されている。接続流路5aは、マニホールド5bとタンク6とを接続し、タンク6に貯留されている反応水と蒸気用水をマニホールド5bに送る。マニホールド5bは、タンク6によって化学蓄熱反応器101に供給される反応水と蒸気用水が、化学蓄熱反応器101の所定の位置に供給されるように分散させる。なお、図1~3、図7、および、図8に示すx軸方向は、蒸気生成用蓄熱体1または発熱用蓄熱体90が反応容器7内において並べられる方向であり、y軸方向は、蒸気生成用蓄熱体1と発熱用蓄熱体90とが反応容器7内において並べられる方向であってx軸方向に対して垂直な方向である。z軸方向は、x軸方向とy軸方向とに垂直な方向である。
【0017】
図4は、化学蓄熱反応器101が備える蒸気生成用蓄熱体1の斜視図である。蒸気生成用蓄熱体1は、蓄熱材10と、蓄熱材拘束カバー20と、溝部22を備える。本実施形態では、化学蓄熱反応器101は、3本の蒸気生成用蓄熱体1を備える。蒸気生成用蓄熱体1は、タンク6が供給する反応水を用いて、蒸気を生成するための熱を発生する。蒸気生成用蓄熱体1は、特許請求の範囲の「蓄熱体」に相当する。蓄熱材拘束カバー20は、特許請求の範囲の「拘束部材」に相当する。なお、図4では、溝部22の形状を認識しやすいように、蓄熱材10にハッチを施してある。
【0018】
図5は、蒸気生成用蓄熱体1が備える蓄熱材10の模式図である。図5(a)は、蓄熱材10の斜視図であり、図5(b)は、蒸気生成用蓄熱体1の中心軸C1とほぼ同軸の蓄熱材10の中心軸C10に沿った方向から蓄熱材10を視た模式図であり、図5(c)は、蓄熱材10の中心軸C10を含む断面図である。蓄熱材10は、例えば、アルカリ土類金属の酸化物の一つである酸化カルシウムの成形体である。蓄熱材10は、酸化カルシウムの粒状物を、例えば、粘土鉱物などのバインダと混練し焼成することで所定の形状となるように成形されている。本実施形態では、蓄熱材10は、円柱状に形成されている。蓄熱材10は、式(1)に示す水和反応によって発熱し、式(2)に示す脱水反応によって蓄熱するものであり、発熱と蓄熱とを可逆的に繰り返すことが可能である。
CaO + H2O →Ca(OH)2 +Q1 ・・・(1)
Ca(OH)2 +Q2 →CaO + H2O ・・・(2)
なお、式(1)のQ1は、水和反応における発熱量を示し、式(2)のQ2は、脱水反応における蓄熱量を示す。
【0019】
図6は、蒸気生成用蓄熱体1が備える蓄熱材拘束カバー20の模式図である。図6(a)は、蒸気生成用蓄熱体1の中心軸C1とほぼ同軸の蓄熱材拘束カバー20の中心軸C20に沿った方向から蓄熱材拘束カバー20を視た図であり、図6(b)は、蓄熱材拘束カバー20の中心軸C20を含む断面図である。図6(a)には、説明の便宜上、蓄熱材拘束カバー20の内側に、蓄熱材10(図6(a)に示す二点鎖線10)を挿入した状態の断面図を示している。
【0020】
蓄熱材拘束カバー20は、蓄熱材10の外側に配置される円筒形状の部材である。蓄熱材拘束カバー20は、蓄熱材10の外側面10aを覆うように形成されている。蓄熱材拘束カバー20には、中心軸C20に沿って、蓄熱材10が挿入される貫通孔21が形成されている。貫通孔21を形成する蓄熱材拘束カバー20の内側面20aには、複数の溝部22が配置されている。複数の溝部22は、蓄熱材拘束カバー20の中心軸C20の方向に沿って延設され、蓄熱材拘束カバー20の周方向に沿って並んで配置されている。本実施形態では、溝部22は、蓄熱材拘束カバー20の内側面20aにおいて、図6(b)に示すように蓄熱材拘束カバー20の両端まで配置されている。図6(a)に示すように、貫通孔21に蓄熱材10を配置すると、蓄熱材10の外側面10aと溝部22とによって、反応水が流通可能な流路22aが蓄熱材拘束カバー20の内側に形成される。複数の溝部22は、特許請求の範囲の「流路形成部」に相当する。蓄熱材拘束カバー20は、特許請求の範囲の「拘束部材」に相当する。なお、本実施形態では、蓄熱材拘束カバー20は、円筒形状に形成されているとしたが、断面が矩形の筒状や他の形状であってもよい。
【0021】
発熱用蓄熱体90は、蓄熱材91と、蓄熱材拘束カバー92を備える(図2および図3参照)。本実施形態では、化学蓄熱反応器101は、8本の発熱用蓄熱体90を備える。発熱用蓄熱体90は、蒸気生成用蓄熱体1の発熱によって生成される蒸気を用いて発熱する。
【0022】
蓄熱材91は、蒸気生成用蓄熱体1の蓄熱材10と同様に、アルカリ土類金属の酸化物の一つである酸化カルシウムの成形体である。蓄熱材91は、酸化カルシウムの粒状物を粘土鉱物などのバインダと混練し焼成することで円柱状に成形されている。
【0023】
蓄熱材拘束カバー92は、蓄熱材91の外側に配置される円筒形状の部材であり、発熱用蓄熱体90の中心軸C90に沿って、蓄熱材91が挿入される貫通孔93を有する(図2参照)。本実施形態では、蓄熱材拘束カバー92には、蓄熱材91を構成する粒状物の通過を制限する一方、蒸気の通過を許容する孔94が所定の位置に形成されている。
【0024】
本実施形態では、化学蓄熱反応器101の収容空間8には、3本の蒸気生成用蓄熱体1のそれぞれの中心軸C1と、8本の発熱用蓄熱体90のそれぞれの中心軸C90とが、z軸方向に沿うように配置されている(図2参照)。すなわち、蒸気生成用蓄熱体1と発熱用蓄熱体90とは、3本の蒸気生成用蓄熱体1のそれぞれの中心軸C1と、8本の発熱用蓄熱体90のそれぞれの中心軸C90とが、z軸に対して略平行な状態で配置されている。このとき、3本の蒸気生成用蓄熱体1は、x軸方向に沿って並ぶように配置されている。3本の蒸気生成用蓄熱体1におけるy軸方向のプラス側とマイナス側とのそれぞれには、x軸方向に沿って並ぶように配置されている4本の発熱用蓄熱体90が配置されている(図2参照)。
【0025】
化学蓄熱反応器101では、上述したように、3本の円筒形状の蒸気生成用蓄熱体1と、8本の円筒形状の発熱用蓄熱体90とを並べることによって、隣り合う蓄熱体の間に、隙間が形成される。本実施形態では、図2に示すように、蒸気生成用蓄熱体1と発熱用蓄熱体90との間の隙間を、第1の隙間Sp1とし、蒸気生成用蓄熱体1または発熱用蓄熱体90と反応容器7との間の隙間を、第2の隙間Sp2とする。
【0026】
本実施形態では、反応容器7のマニホールド5b側の壁には、複数の貫通孔5c、5dが形成されている(図3参照)。貫通孔5c、5dのそれぞれには、収容空間8に供給される水が流れる。マニホールド5bは、タンク6が供給する反応水を貫通孔5cに流し、蒸気用水を貫通孔5dに流すように、水の流れを振り分ける。
【0027】
本実施形態では、図3に示すように、収容空間8は、複数の区画部材9a、9b、9cによって区画されている。区画部材9aは、反応容器7の内壁と蒸気生成用蓄熱体1のz軸方向のプラス側の端部とに接続されている。区画部材9aによって区画されている収容空間8aは、貫通孔5cと蒸気生成用蓄熱体1の流路22aとに連通する。区画部材9bは、反応容器7の内壁と蒸気生成用蓄熱体1のz軸方向のマイナス側の端部とに接続されている。区画部材9bによって区画されている収容空間8bは、蒸気生成用蓄熱体1の流路22aに連通する。区画部材9cは、反応容器7の内壁と発熱用蓄熱体90のz軸方向のプラス側の端部とに接続されている。区画部材9cは、区画部材9aとともに、貫通孔5dと第1の隙間Sp1とに連通する流路8cを形成する。
【0028】
図7は、化学蓄熱反応器101の作用を説明する第1の図である。図8は、化学蓄熱反応器101の作用を説明する第2の図である。次に、化学蓄熱装置100の放熱作用について説明する。化学蓄熱装置100が放熱するとき、タンク6から化学蓄熱反応器101に、接続流路5aとマニホールド5bを介して、反応水と蒸気用水が供給される。反応水は、貫通孔5cを通って、化学蓄熱反応器101の収容空間8aに流入する。蒸気用水は、貫通孔5dおよび流路8cを通って、第1の隙間Sp1に流入する。
【0029】
反応水は、収容空間8aを通って、蒸気生成用蓄熱体1が有する複数の流路22aに流入する(図8に示す実線矢印W1)。流路22aを流れる反応水は、蒸気生成用蓄熱体1の蓄熱材10と水和反応する。反応水と蓄熱材10とが水和反応すると、蓄熱材10は発熱する。蓄熱材10と水和反応することなく蒸気生成用蓄熱体1を抜けた反応水は、収容空間8bに滞留するため、反応水が発熱用蓄熱体90の蓄熱材91と反応することが抑制される。
【0030】
蓄熱材10において発生した熱は、第1の隙間Sp1を流れる蒸気用水(図8に示す実線矢印W2)を、蓄熱材拘束カバー20を介して加熱する(図7および図8に示す点線矢印H1)。蓄熱材10の熱によって蒸気用水から生成された蒸気は、発熱用蓄熱体90のz軸方向のマイナス側を流れるとき(図8に示す点線矢印V1)、蓄熱材拘束カバー92の内側に直接流入する。また、発熱用蓄熱体90のz軸方向のマイナス側を流れるときに蓄熱材拘束カバー92の内側に直接流入しなかった蒸気は、第2の隙間Sp2を流れるとき(図8に示す点線矢印V2)、蓄熱材拘束カバー92に形成されている孔94を介して蓄熱材拘束カバー92の内側に流入する。蓄熱材拘束カバー92の内側に流入する蒸気は、蓄熱材91と水和反応することで、蓄熱材91が発熱する。蓄熱材91で発生した熱は、反応容器7を介して、化学蓄熱反応器101の外部に放出される。
【0031】
図9は、蒸気生成用蓄熱体1の作用を説明する図である。図9には、蒸気生成用蓄熱体1の中心軸C1を含む断面図が示されている。ここでは、化学蓄熱装置100が放熱するときの蒸気生成用蓄熱体1の作用について説明する。
【0032】
蒸気生成用蓄熱体1では、図9に示すように、蒸気生成用蓄熱体1の一方の端部E11側から反応水が流路22aに流入すると(図9に示す実線矢印W1)、中心軸C1に沿って、他方の端部E12に向かって流れる。蓄熱材10は、流路22aを流れる反応水W11と水和反応することで熱を発生する。蓄熱材10で発生した熱は、蓄熱材拘束カバー20の外側に放出され(図9に示す点線矢印H1)、蓄熱材拘束カバー20の外側を流れる蒸気用水を蒸気にする。蒸気生成用蓄熱体1では、一方の端部E11側から流路22aに流入する反応水W11は、中心軸C1に沿って形成されている流路22aを流れるため、蒸気生成用蓄熱体1の他方の端部E12まで到達することができる。すなわち、蓄熱材10の全体に反応水が行き渡ることとなるため、蓄熱材10では、全体で水和反応が進行し、蓄熱材10全体から熱が生成される。このように、蒸気生成用蓄熱体1では、蒸気生成用蓄熱体1の一方の端部を流れる反応水が流路22aに流入することで、反応水を蓄熱材10の全体に行き渡らせることができる。
【0033】
一般的に、水和反応によって熱を発生する蓄熱材を蒸気と反応させる場合、蒸気は蓄熱材の内部において均一に拡散しやすいため、蒸気との水和反応は、蓄熱材の全体で同じようなタイミングで進行しやすく、蓄熱材は、均一に膨張しやすい。一方、蓄熱材を反応水と水和反応させる場合、反応水は蒸気に比べ蓄熱材の内部において拡散しにくいため、蓄熱材は、反応水と反応した部分から膨張する。蓄熱材を蓄熱材拘束カバーで覆った蓄熱体では、蓄熱材拘束カバーの一部に反応水の流入口を設けると、流入口付近の蓄熱材から膨張する。また、上述したように、反応水は拡散しにくいため、流入口から離れた部分まで反応水が到達しにくい。このため、流入口から離れた位置の蓄熱材の水和反応は、流入口付近の蓄熱材の水和反応に比べ反応の進行が遅くなるため、蓄熱材の水和反応による膨張が不均一となってしまい、蓄熱材拘束カバーが破損してしまうおそれがある。
【0034】
以上説明した、本実施形態の蒸気生成用蓄熱体1によれば、蓄熱材10の外側面10aと蓄熱材拘束カバー20の内側面20aとの間には、反応水を流通させる流路22aが溝部22によって形成されている。これにより、図9に示すように、反応水を蓄熱材10の全体に行き渡らせることができるため、蓄熱材10の水和反応を蓄熱材10の全体で同じようなタイミングで進行させることができる。したがって、水和反応による蓄熱材10の膨張が均一になるため、不均一な膨張による蓄熱材拘束カバー20の破損を抑制することができる。
【0035】
また、本実施形態の蒸気生成用蓄熱体1によれば、蓄熱材拘束カバー20の内側面20aには、複数の溝部22が配置されている。複数の溝部22は、蓄熱材拘束カバー20の中心軸C20の方向に沿って延設され、蓄熱材拘束カバー20の周方向に沿って並んで配置されている。これにより、蒸気生成用蓄熱体1では、一方の端部E11側から流路22aに流入する反応水W11は、中心軸C1に沿って形成されている流路22aを流れるため、反応水W11を蓄熱材10の全体に行き渡らせることができる。したがって、水和反応による蓄熱材10の膨張が均一になり、不均一な膨張による蓄熱材拘束カバー20の破損を抑制することができる。
【0036】
また、本実施形態の化学蓄熱反応器101によれば、発熱用蓄熱体90の蓄熱材91が熱を発生するための蒸気を、蒸気生成用蓄熱体1での反応水と蓄熱材10との水和反応によって生成する。このとき、反応水は、図8に示すように、反応容器7の内側において、収容空間8aと、蒸気生成用蓄熱体1の流路22aと、収容空間8bとしか流れないため、反応水が発熱用蓄熱体90の蓄熱材91に直接かかることを抑制することができる。これにより、蓄熱材91と反応水との接触によって蓄熱材91が不均一に膨張し、蓄熱材拘束カバー92が破損することを抑制できる。
【0037】
<第2実施形態>
図10は、第2実施形態の蒸気生成用蓄熱体2が備える蓄熱材の模式図である。図11は、蒸気生成用蓄熱体2の作用を説明する図である。第2実施形態の蒸気生成用蓄熱体2は、第1実施形態の蒸気生成用蓄熱体(図4)と比較すると、溝部が配置される部材および流路が形成される方向が異なる。
【0038】
本実施形態の蒸気生成用蓄熱体2は、蓄熱材30と、蓄熱材拘束カバー40を備える。蒸気生成用蓄熱体2は、タンク6が供給する反応水を用いて発熱する。蒸気生成用蓄熱体2は、特許請求の範囲の「蓄熱体」に相当する。蓄熱材拘束カバー40は、特許請求の範囲の「拘束部材」に相当する。
【0039】
蓄熱材30は、例えば、アルカリ土類金属の酸化物の一つである酸化カルシウムの成形体である。蓄熱材30は、酸化カルシウムの粒状物を、例えば、粘土鉱物などのバインダと混練し焼成することで所定の形状となるように成形されている。本実施形態では、蓄熱材30は、円柱形状に形成されている。蓄熱材30の外側面30aには、複数の溝部32が配置されている。複数の溝部32は、蒸気生成用蓄熱体2の中心軸C2とほぼ同軸の蓄熱材30の中心軸C30の方向に沿って延設され、蓄熱材30の周方向に沿って並んで配置されている。本実施形態では、溝部32は、蓄熱材30の外側面30aにおいて、図10(b)に示すように蓄熱材30の両端まで形成されている。図10(a)に示すように、蓄熱材30の外側に蓄熱材拘束カバー40を配置すると、蓄熱材30の溝部32と蓄熱材拘束カバー40の内側面40aとによって、反応水が流通可能な流路32aが蓄熱材拘束カバー40の内側に形成される。複数の溝部32は、特許請求の範囲の「流路形成部」に相当する。
【0040】
蓄熱材拘束カバー40は、円柱形状の蓄熱材30の外側に配置される円筒形状の部材である。蓄熱材拘束カバー40は、蓄熱材30の外側面30aを覆うように形成されている。蓄熱材拘束カバー40には、蒸気生成用蓄熱体2の中心軸C2とほぼ同軸の中心軸に沿って、蓄熱材30が挿入される貫通孔が形成されている。なお、本実施形態では、蓄熱材拘束カバー40は、円筒形状に形成されているとしたが、蓄熱材30の形状にあわせて、断面が矩形の筒状や他の形状であってもよい。
【0041】
図11は、蒸気生成用蓄熱体2の作用を説明する図であって、蒸気生成用蓄熱体2の中心軸C2を含む断面図である。蒸気生成用蓄熱体2では、図11に示すように、蒸気生成用蓄熱体2の一方の端部E21側から反応水が流路32aに流入すると(図11に示す実線矢印W1)、中心軸C2に沿って、他方の端部E22に向かって流れる。蓄熱材30は、流路32aを流れる反応水W11と水和反応することで熱を発生する。蓄熱材30で発生した熱は、蓄熱材拘束カバー40の外側に放出され(図11に示す点線矢印H1)、蓄熱材拘束カバー40の外側を流れる蒸気用水を蒸気にする。蒸気生成用蓄熱体2では、一方の端部E21側から流路32aに流入する反応水W11は、中心軸C2に沿って形成されている流路32aを流れるため、蒸気生成用蓄熱体2の他方の端部E22まで到達することができる。すなわち、蓄熱材30の全体に反応水が行き渡ることとなるため、蓄熱材30では、全体で水和反応が進行し、蓄熱材30全体から熱が生成される。このように、蒸気生成用蓄熱体2では、蒸気生成用蓄熱体2の一方の端部を流れる反応水が流路32aに流入することで、反応水を蓄熱材30の全体に行き渡らせることができる。
【0042】
以上説明した、本実施形態の蒸気生成用蓄熱体2によれば、蓄熱材30の溝部32と蓄熱材拘束カバー40との間には、反応水を流通させる流路32aが形成される。これにより、反応水を蓄熱材30の端まで流すことができるため、蓄熱材30の水和反応を広範囲で行わせることができる。したがって、不均一な膨張による蓄熱材拘束カバー40の破損を抑制することができる。
【0043】
また、本実施形態の蒸気生成用蓄熱体2によれば、蓄熱材30の外側面30aには、複数の溝部32が配置されている。複数の溝部32は、蓄熱材30の中心軸C30の方向に沿って延設され、蓄熱材30の周方向に沿って並んで配置されている。これにより、蓄熱材拘束カバー40の軸方向から蓄熱材30に供給される反応水は、溝部32と蓄熱材拘束カバー40との間に形成される流路32aを流れることで反応水が供給された側とは反対側まで供給される(図11参照)。したがって、反応水を蓄熱材30の全体に行き渡らせることができるため、水和反応による蓄熱材30の膨張が均一になり、不均一な膨張による蓄熱材拘束カバー40の破損を抑制することができる。
【0044】
<第3実施形態>
図12は、第3実施形態の蒸気生成用蓄熱体3の模式図である。図13は、本実施形態における化学蓄熱反応器101の作用を説明する第1の図である。図14は、本実施形態における化学蓄熱反応器101の作用を説明する第2の図である。第3実施形態の蒸気生成用蓄熱体3は、第2実施形態の蒸気生成用蓄熱体(図10)と比較すると、蓄熱材拘束カバーの構成が異なる。
【0045】
本実施形態の蒸気生成用蓄熱体3は、蓄熱材30と、蓄熱材拘束カバー50を備える。蒸気生成用蓄熱体3は、タンク6が供給する反応水を用いて発熱する。蒸気生成用蓄熱体3は、特許請求の範囲の「蓄熱体」に相当する。
【0046】
蓄熱材拘束カバー50は、蓄熱材30の外側に配置される円筒形状の部材である。蓄熱材拘束カバー50は、図12(a)に示すように、蓄熱材30の外側面30aを覆うように形成されている。蓄熱材拘束カバー50には、蒸気生成用蓄熱体3の中心軸C3とほぼ同軸の中心軸に沿って、蓄熱材30が挿入される貫通孔51が形成されている。蓄熱材拘束カバー50には、所定の位置に、蓄熱材30を構成する粒状物の通過を制限する一方、反応水の通過を許容する孔52が形成されている(図12(b)参照)。すなわち、蓄熱材拘束カバー50は、孔52が形成されている孔形成部P53と、孔52が形成されておらず反応水や蒸気の通過を許容しない壁部P54とから形成されている。なお、本実施形態では、蓄熱材拘束カバー50は、円筒形状に形成されているとしたが、蓄熱材30の形状にあわせて、断面が矩形の筒状や他の形状であってもよい。
【0047】
本実施形態の化学蓄熱反応器101では、図13に示すように、蒸気生成用蓄熱体3と発熱用蓄熱体90との間の隙間のうち、蒸気生成用蓄熱体3の孔形成部P53によって形成される隙間を、第1の隙間Sp31とし、蒸気生成用蓄熱体3の壁部P54によって形成される隙間を、第2の隙間Sp32とする。また、蒸気生成用蓄熱体3または発熱用蓄熱体90と反応容器7との間の隙間を、第3の隙間Sp33とする。
【0048】
本実施形態では、図14に示すように、収容空間8は、複数の区画部材9d、9e、9f、9gによって区画されている。区画部材9dは、蒸気生成用蓄熱体3の壁部P54のz軸方向のプラス側と反応容器7の内壁とに接続されており、区画部材9eは、蒸気生成用蓄熱体3の壁部P54のz軸方向のマイナス側と反応容器7の内壁とに接続されている。区画部材9fは、発熱用蓄熱体90における孔94が形成されていない部位のz軸方向のプラス側と反応容器7の内壁とに接続されている。区画部材9gは、発熱用蓄熱体90における孔94が形成されていない部位のうち第1の隙間Sp31を形成する部位のz軸方向のマイナス側と、反応容器7の内壁とに接続されている。これにより、図14に示すように、反応容器7の貫通孔5cを流れる反応水は、第1の隙間Sp31を流れる一方、第2の隙間Sp32に流れなくなるため、反応水が発熱用蓄熱体90の蓄熱材91と反応することが抑制される。
【0049】
次に、化学蓄熱装置100の放熱作用について説明する。化学蓄熱装置100が放熱するとき、タンク6から化学蓄熱反応器101に、接続流路5aとマニホールド5bを介して、反応水と蒸気用水が供給される。
【0050】
タンク6が供給する反応水は、貫通孔5cを通って、化学蓄熱反応器101の流路8dに流入する。化学蓄熱装置100が最初に放熱するとき、反応水は、流路8dを通って、主に、蒸気生成用蓄熱体3が有する複数の流路32aに流入する(図14に示す実線矢印W1)。流路32aを流れる反応水は、蓄熱材30と水和反応する。これにより、蓄熱材10は発熱する。なお、流路8dにおいて流路32aに流入しなかった反応水は、第1の隙間Sp31を流れ(図14に示す実線矢印W11)、蒸気生成用蓄熱体3の孔52を介して、蓄熱材拘束カバー50の内側に流入し、蓄熱材30と反応することも可能である(図14に示す実線矢印W12)。蓄熱材30と水和反応することなく蒸気生成用蓄熱体3のマニホールド5bとは反対側まで流れた反応水は、流路8eに滞留するため、反応水と発熱用蓄熱体90の蓄熱材91との反応は抑制される。
【0051】
タンク6が供給する蒸気用水は、貫通孔5dを通って、第2の隙間Sp32を流れる。第2の隙間Sp32を流れる蒸気用水(図14に示す実線矢印W2)は、蒸気生成用蓄熱体3から放出される熱(図13および図14に示す点線矢印H1)によって加熱され、蒸気になる(図14に示す点線矢印V1、V2)。第2の隙間Sp32において生成された蒸気は、発熱用蓄熱体90のz軸方向のマイナス側の端部から、または、蓄熱材拘束カバー92に形成されている孔94を介して、蓄熱材拘束カバー92の内側に流入する。蓄熱材拘束カバー92の内側に流入する蒸気は、蓄熱材91と水和反応することで、蓄熱材91が発熱する。蓄熱材91で発生した熱は、反応容器7を介して、化学蓄熱反応器101の外部に放出される。
【0052】
化学蓄熱装置100が最初に放熱するとき、蓄熱材30と反応水とが水和反応するとき、蓄熱材30は膨張するため、流路32aがなくなる場合がある。この場合、化学蓄熱装置100で2回目に放熱するとき、反応水は、主に、第1の隙間Sp31を流れることで、蒸気生成用蓄熱体3の孔52を介して、蓄熱材拘束カバー50の内側に流入し、蓄熱材30と反応する。第1の隙間Sp31は、反応容器7のマニホールド5b側の端部から、反対側の端部まで形成されているため、反応水は、蓄熱材30のマニホールド5bとは反対側まで供給することができる。
【0053】
以上説明した、本実施形態の蒸気生成用蓄熱体3によれば、蓄熱材30に配置されている溝部32と蓄熱材拘束カバー50との間には、反応水を流通させる流路32aが形成される。これにより、反応水を蓄熱材30の端まで流すことができるため、蓄熱材30の水和反応を広範囲で行わせることができる。したがって、不均一な膨張による蓄熱材拘束カバー50の破損を抑制することができる。
【0054】
また、本実施形態の蒸気生成用蓄熱体3によれば、化学蓄熱装置100で2回目に放熱するとき、初回の水和反応によって膨張するために流路32aがなくなっている蓄熱材30に対して、第1の隙間Sp31と孔52を介して、反応水が供給される。これにより、2回目以降の放熱においても、蒸気生成用蓄熱体3の蓄熱材30は、全域において反応水と水和反応することができるとともに、第2実施形態に比べ蓄熱材30における水和反応速度を向上することができる。
【0055】
<第4実施形態>
図15は、第4実施形態の蒸気生成用蓄熱体4の斜視図である。図16は、本実施形態の蒸気生成用蓄熱体4が備える蓄熱材拘束カバー60の模式図である。第4実施形態の蒸気生成用蓄熱体4は、第1実施形態の蒸気生成用蓄熱体(図4)と比較すると、流路が形成される方向が異なる。
【0056】
本実施形態の蒸気生成用蓄熱体4は、蓄熱材10と、蓄熱材拘束カバー60を備える。蒸気生成用蓄熱体4は、タンク6が供給する反応水を用いて発熱する。蒸気生成用蓄熱体4は、特許請求の範囲の「蓄熱体」に相当する。蒸気生成用蓄熱体4では、蓄熱材10に形成されている貫通孔61に挿入されている。
【0057】
図16(a)は、蓄熱材拘束カバー60の斜視図であり、図16(b)は、蓄熱材拘束カバー60の中心軸C60に沿った方向から蓄熱材拘束カバー60を視た図であり、図16(c)は、蓄熱材拘束カバー60の中心軸C60を含む断面図である。図16(c)には、説明の便宜上、蓄熱材拘束カバー60の内側に、蓄熱材10(図16(c)に示す二点鎖線10)を挿入した状態の断面図を示している。
【0058】
蓄熱材拘束カバー60は、蓄熱材10の外側に配置される円筒形状の部材である。蓄熱材拘束カバー60は、蓄熱材10の外側面10a(図16(c)参照)を覆うように形成されている。蓄熱材拘束カバー60には、中心軸C60に沿って、貫通孔61が形成されている。貫通孔61を形成する蓄熱材拘束カバー60の内側面60aには、複数の溝部62が配置されている。複数の溝部62は、蓄熱材拘束カバー60の周方向に沿って延設され、蓄熱材拘束カバー60の中心軸C60の方向に沿って並んで配置されている。本実施形態では、溝部62は、蓄熱材拘束カバー60の内側面60aにおいて環状に形成されている。図16(c)に示すように、貫通孔61に蓄熱材10を配置すると、蓄熱材10の外側面10aと溝部62とによって、反応水が流通可能な流路62aが蓄熱材拘束カバー60の内側に形成される。複数の溝部62は、特許請求の範囲の「流路形成部」に相当する。蓄熱材拘束カバー60は、特許請求の範囲の「拘束部材」に相当する。
【0059】
本実施形態では、蓄熱材拘束カバー60の所定の部位には、孔63が形成されている。孔63は、蓄熱材10を構成する粒状物の通過を制限する一方、反応水の通過を許容する。すなわち、蓄熱材拘束カバー60は、図16(b)に示すように、孔63が形成されている孔形成部P63と、反応水や蒸気の通過を許容しない壁部P64とによって形成されている。蓄熱材拘束カバー60における孔形成部P63と壁部P64との割合は、収容空間8において配置される位置によって異なり、任意に設定することが可能である。具体的には、孔形成部P63は、反応水が流れる領域に対応して配置され、壁部P64は、蒸気によって発熱する発熱用蓄熱体90が配置される領域に対応して配置される。なお、本実施形態では、蓄熱材拘束カバー60は、円筒形状に形成されているとしたが、断面が矩形の筒状や他の形状であってもよい。
【0060】
図17は、蒸気生成用蓄熱体4の作用を説明する第1の図である。図18は、蒸気生成用蓄熱体4の作用を説明する第2の図である。図17には、蒸気生成用蓄熱体4の中心軸C4を含む断面図が示されており、図18には、蒸気生成用蓄熱体4の中心軸C4に垂直な断面図が示されている。ここでは、化学蓄熱装置100が放熱するときの蒸気生成用蓄熱体4の作用について説明する。
【0061】
蒸気生成用蓄熱体4の孔形成部P63の外側を流れる反応水(図17および図18の実線矢印W0)は、孔形成部P63の孔63を介して蓄熱材拘束カバー60の内側に流入する(図17および図18の実線矢印W1)。蓄熱材拘束カバー60の内側に流入した反応水は、蓄熱材10の外側面10aと溝部62とによって形成されている流路62aを流れる(図17の点線矢印W12および図18の実線矢印W12)。すなわち、反応水は、溝部62に沿って蓄熱材拘束カバー60の内側を流れる。流路62aを流れる反応水は、蓄熱材拘束カバー60において、反応水が蓄熱材拘束カバー60の内側に流入した位置とは反対側の位置に向かって流れていく間、蓄熱材10と水和反応する。蓄熱材拘束カバー60の内側に流入した反応水の量が比較的多いと、反応水の一部は、反応水が蓄熱材拘束カバー60の内側に流入した位置とは反対側の位置に到達することができるため、蓄熱材10の全体に反応水が行き渡ることとなる。これにより、蓄熱材10では、全体において同じようなタイミングで水和反応が進行する。水和反応の進行によって発生する熱は、壁部P64を介して蓄熱材拘束カバー60の外側に放出される(図17および図18の点線矢印H1)。
【0062】
以上説明した、本実施形態の蒸気生成用蓄熱体4によれば、蓄熱材10の外側面10aと蓄熱材拘束カバー60の内側面60aとの間には、反応水を流通させる流路62aが溝部62によって形成されている。これにより、反応水を蓄熱材10の全体に行き渡らせることができるため、蓄熱材10の水和反応を蓄熱材10の全体で同じようなタイミングで進行させることができる。したがって、水和反応による蓄熱材10の膨張が均一になるため、不均一な膨張による蓄熱材拘束カバー60の破損を抑制することができる。
【0063】
また、本実施形態の蒸気生成用蓄熱体4によれば、複数の溝部62は、蓄熱材拘束カバー60の周方向に沿って延設され、蓄熱材拘束カバー60の中心軸C60の方向に沿って並んで配置されている。これにより、蓄熱材拘束カバー60の外側において中心軸C4に沿って流れる反応水は、蓄熱材拘束カバー60の内側において溝部62を流れることで、反応水が供給された側とは反対側まで流れることができる。したがって、反応水を蓄熱材10の全体に行き渡らせることができるため、水和反応による蓄熱材10の膨張が均一になり、不均一な膨張による蓄熱材拘束カバー60の破損を抑制することができる。
【0064】
<第5実施形態>
図19は、第5実施形態の蒸気生成用蓄熱体5が備える蓄熱材70の模式図である。図20は、蒸気生成用蓄熱体5の作用を説明する第1の図である。図21は、蒸気生成用蓄熱体5の作用を説明する第2の図である。図20には、蒸気生成用蓄熱体5の中心軸C5を含む断面図が示されており、図21には、蒸気生成用蓄熱体5の中心軸C5に垂直な断面図が示されている。第5実施形態の蒸気生成用蓄熱体5は、第2実施形態の蒸気生成用蓄熱体2(図10)と比較すると、流路が形成される方向が異なる。
【0065】
本実施形態の蒸気生成用蓄熱体5は、蓄熱材70と、蓄熱材拘束カバー40を備える。蒸気生成用蓄熱体5は、タンク6が供給する反応水を用いて発熱する。蒸気生成用蓄熱体5は、特許請求の範囲の「蓄熱体」に相当する。
【0066】
蓄熱材70は、例えば、アルカリ土類金属の酸化物の一つである酸化カルシウムの成形体である。蓄熱材70は、酸化カルシウムの粒状物を、例えば、粘土鉱物などのバインダと混練し焼成することで所定の形状となるように成形されている。本実施形態では、蓄熱材70は、略円柱形状に形成されている。蓄熱材70の外側面70aには、複数の溝部72が配置されている。複数の溝部72は、蓄熱材70の周方向に沿って延設され、蓄熱材70の中心軸C70に沿って並んで配置されている。本実施形態では、溝部72は、蓄熱材70の外側面70aにおいて環状に形成されている。複数の溝部72は、特許請求の範囲の「流路形成部」に相当する。
【0067】
蓄熱材拘束カバー40は、蓄熱材70の外側に配置される円筒形状の部材である。蓄熱材拘束カバー40には、中心軸に沿って、蓄熱材70が挿入される貫通孔が形成されている。蓄熱材拘束カバー40には、所定の位置に、蓄熱材70を構成する粒状物の通過を制限する一方、反応水の通過を許容する孔42が形成されている(図20参照)。すなわち、蓄熱材拘束カバー40は、孔42が形成されている孔形成部P43と、孔42が形成されておらず反応水や蒸気の通過を許容しない壁部P44とか形成されている。蓄熱材70を蓄熱材拘束カバー40の貫通孔に挿入すると、蓄熱材拘束カバー40の貫通孔を形成する内側面40aと溝部72とによって、反応水が流通可能な流路72aが蓄熱材拘束カバー40の内側に形成される(図19(b)参照)。
【0068】
次に、蒸気生成用蓄熱体5の作用について説明する。蒸気生成用蓄熱体5の孔形成部P43の外側を流れる反応水(図20および図21の実線矢印W0)は、孔形成部P43の孔42を介して蓄熱材拘束カバー40の内側に流入する(図20および図21の実線矢印W1)。蓄熱材拘束カバー40の内側に流入した反応水は、蓄熱材70の溝部72と蓄熱材拘束カバー40の内側面40aとによって形成されている流路72aを流れる(図20の点線矢印W12および図21の実線矢印W12)。流路72aを流れる反応水は、反応水が蓄熱材拘束カバー40の内側に流入した位置とは反対側の位置に到達することができるため、蓄熱材70の全体に反応水が行き渡ることとなる。これにより、蓄熱材70では、全体において同じようなタイミングで水和反応が進行し、熱が発生する。水和反応の進行によって発生する熱は、壁部P44を介して蓄熱材拘束カバー40の外側に放出される(図20および図21の点線矢印H1)。
【0069】
以上説明した、本実施形態の蒸気生成用蓄熱体5によれば、蓄熱材70と蓄熱材拘束カバー40の内側面40aとの間には、反応水を流通させる流路72aが溝部72によって形成されている。これにより、反応水を蓄熱材70に全体に行き渡らせることができるため、蓄熱材70の水和反応を蓄熱材70の全体で同じようなタイミングで行わせることができる。したがって、不均一な膨張による蓄熱材拘束カバー40の破損を抑制することができる。
【0070】
また、本実施形態の蒸気生成用蓄熱体5によれば、蓄熱材70の外側面70aには、複数の溝部72が形成されている。複数の溝部72は、蓄熱材70の周方向に沿って延設され、蓄熱材70の中心軸C70の方向に沿って並んで配置されている。これにより、蓄熱材70の径方向から蓄熱材70に供給される反応水は、溝部72を流れることで反応水が供給された側とは反対側まで供給される。したがって、反応水を蓄熱材70の全体に行き渡らせることができるため、水和反応による蓄熱材70の膨張が均一になり、不均一な膨張による蓄熱材拘束カバー40の破損を抑制することができる。
【0071】
<本実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0072】
[変形例1]
上述の実施形態では、溝部は、蓄熱体の周方向または軸方向に沿って延設されており、蓄熱体の軸方向または周方向に沿って複数並んで配置されるとした。しかしながら、溝部が延設される方向、および、並んで配置される方向は、これに限定されない。例えば、蓄熱材拘束カバーの内側面や蓄熱材の外側面において、螺旋状に形成されていてもよい。
【0073】
[変形例2]
上述の実施形態では、溝部は、複数配置されるとした。しかしながら、溝部の数は、1つであってもよい。
【0074】
[変形例3]
上述の実施形態で説明した「流路形成部」は、例えば、1つの蒸気生成用蓄熱体において、1つの蓄熱材拘束カバーに、第1実施形態の溝部22と、第4実施形態の溝部62とが形成されていてもよい。また、1つの蒸気生成用蓄熱体において、蓄熱材拘束カバーに第1実施形態の溝部22が形成され、蓄熱材に第5実施形態の溝部72が形成されていてもよい。これにより、蒸気生成用蓄熱体において、蓄熱材の軸方向および周方向のいずれにも反応水を行き渡らせやすくなるため、蓄熱材の膨張がさらに均一となり、不均一な膨張による蓄熱材拘束カバーの破損をさらに抑制することができる。
【0075】
[変形例4]
第1実施形態および第2実施形態では、溝部は、蓄熱材拘束カバーの内側面または蓄熱材の外側面に、蓄熱材拘束カバーまたは蓄熱材の両端まで形成されるとした。しかしながら、溝部は、両端まででなく、一部に形成されていてもよい。また、第3実施形態および第4実施形態では、溝部は、蓄熱材拘束カバーの内側面または蓄熱材の外側面に、円環状となるように形成されるとした。しかしながら、溝部は、円環状に限定されない。円弧状に形成されていてもよい。
【0076】
以上、実施形態、変形例に基づき本態様について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本態様の理解を容易にするためのものであり、本態様を限定するものではない。本態様は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本態様にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【符号の説明】
【0077】
1,2,3,4,5…蒸気生成用蓄熱体
5a…接続流路
5b…マニホールド
5c,5d…貫通孔
6…タンク
7…反応容器
8,…収容空間
9,9a,9b,9c,9d,9e,9f,9g…区画部材
10,30,70,91…蓄熱材
10a,30a,70a…外側面
20,40,50,60,92…蓄熱材拘束カバー
20a,40a,60a…内側面
21,51,61…貫通孔
22,32,62,72…溝部
22a,32a,62a,72a…流路
23,42,52,63,94…孔
90…発熱用蓄熱体
100…化学蓄熱装置
101…化学蓄熱反応器
P43,P53,P63…孔形成部
P44,P54,P64…壁部
Sp1,Sp31…第1の隙間
Sp2,Sp32…第2の隙間
Sp33…第3の隙間
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