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特許7472510立体印刷物とその製造方法、及び配線パターンとその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】立体印刷物とその製造方法、及び配線パターンとその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05K 1/02 20060101AFI20240416BHJP
   H05K 3/10 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
H05K1/02 J
H05K3/10 D
H05K3/10 E
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020012362
(22)【出願日】2020-01-29
(65)【公開番号】P2021118322
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】倉持 邦裕
【審査官】原田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-191003(JP,A)
【文献】特開2007-042720(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 1/02
H05K 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1以上N数の第1立体印刷物と、前記第1立体印刷物の上面に接する第2立体印刷物と、からなり、
ここで、Nは整数であり、
前記第1立体印刷物及び前記第2立体印刷物はいずれも略直方体形状であり、いずれも同じ方向へ延在し、
前記第1立体印刷物の、延在する方向と平面視で直交する方向の長さの1以上N数における平均値を下底幅とし、
前記第2立体印刷物の、延在する方向と平面視で直交する方向の長さを上底幅とするとき、
1<(前記第2立体印刷物の上底幅/前記第1立体印刷物の下底幅)≦10
であり、
前記第2立体印刷物の直下に、平面視で前記第1立体印刷物が存在しない領域が存在し、
前記第1立体印刷物及び前記第2立体印刷物は感圧導電性ゴムからなる、ことを特徴とする立体印刷物
【請求項2】
請求項1に記載の前記立体印刷物を1回の印刷工程によって形成する、
ことを特徴とする立体印刷物の製造方法。
【請求項3】
前記1回の印刷工程によって前記立体印刷物を形成する方法は、モーノ式のディスペンサーで吐出する方法による、
ことを特徴とする請求項に記載の立体印刷物の製造方法。
【請求項4】
1以上N数の第1立体印刷物と、前記第1立体印刷物の上面に接する第2立体印刷物と、からなり、
ここで、Nは整数であり、
前記第1立体印刷物及び前記第2立体印刷物はいずれも略直方体形状であり、いずれも同じ方向へ延在し、
前記第1立体印刷物の、延在する方向と平面視で直交する方向の長さの1以上N数における平均値を下底幅とし、
前記第2立体印刷物の、延在する方向と平面視で直交する方向の長さを上底幅とするとき、
1<(前記第2立体印刷物の上底幅/前記第1立体印刷物の下底幅)≦10
であり、
前記第2立体印刷物の直下に、平面視で前記第1立体印刷物が存在しない領域が存在する立体印刷物を具備し、
前記領域に、少なくとも1種類以上の金属ペーストが充填されていることを特徴とする配線パターン。
【請求項5】
略直方体形状である1以上N数の第1立体印刷物と、前記第1立体印刷物の上面に接し略直方形状である第2立体印刷物とを、前記第2立体印刷物の直下に、平面視で前記第1立体印刷物が存在しない領域が存在するように形成することと、
前記領域に、少なくとも1種類以上の金属ペーストを充填することとを含み、
前記第1立体印刷物及び前記第2立体印刷物の形成は、
前記第1立体印刷物及び前記第2立体印刷物が同じ方向へ延在し、
前記第1立体印刷物の、延在する方向と平面視で直交する方向の長さの1以上N数における平均値を下底幅とし、
前記第2立体印刷物の、延在する方向と平面視で直交する方向の長さを上底幅とするとき、
1<(前記第2立体印刷物の上底幅/前記第1立体印刷物の下底幅)≦10
となるように行う、ここでNは整数である配線パターンの製造方法。
【請求項6】
略直方体形状である1以上N数の第1立体印刷物と、前記第1立体印刷物の上面に接し略直方形状である第2立体印刷物とを、前記第2立体印刷物の直下に、平面視で前記第1立体印刷物が存在しない領域が存在するように形成することと、
前記第2立体印刷物を形成する前に、前記領域に、少なくとも1種類以上の金属ペーストを印刷することとを含み、
前記第1立体印刷物及び前記第2立体印刷物の形成は、
前記第1立体印刷物及び前記第2立体印刷物が同じ方向へ延在し、
前記第1立体印刷物の、延在する方向と平面視で直交する方向の長さの1以上N数における平均値を下底幅とし、
前記第2立体印刷物の、延在する方向と平面視で直交する方向の長さを上底幅とするとき、
1<(前記第2立体印刷物の上底幅/前記第1立体印刷物の下底幅)≦10
となるように行う、ここでNは整数である配線パターンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体印刷物とその製造方法、及びそれらを用いる配線パターンとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からプリンタブルエレクトロニクス技術分野などで、導電材料または絶縁材料をグラビア印刷、スクリーン印刷、フレキソ印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷、3Dプリンタなどで形成する技術が求められている。
【0003】
しかしながら、これらの印刷法は印刷物の断面形状が略半球形状且つアスペクト比が低い印刷物となることが多く、今後のトレンドとして、印刷物の断面形状が矩形且つアスペクト比が高い印刷物が望まれている。
【0004】
印刷物の断面形状が略半球形状ということは、導電材料の場合、断面積による電気特性値を重要視する回路形成技術において不安定要素が大きくなる。例えば電流密度の計算は切断面を直接計測するなどの破壊試験を行う必要がある等の課題が生じる。また、配線に流れる電流量は矩形に比べて少なくなる、などの問題点も生じる。
【0005】
印刷物の断面形状を矩形にすることで期待される効果としては、測定のための破壊試験を必要とせず、まず印刷物の断面積を簡単に求めることができることが挙げられる、その結果、配線抵抗値などを簡単に求めることができる。
【0006】
また、同じ面積上に印刷した従来の印刷物と比較すると、配線に流れる電流をより多くすることが可能となり、特にセンサ類の電子回路のような、小スペースに配線が密集した箇所へ印刷することにより、効果の向上が期待される。
【0007】
ナノインプリントに代表される立体的転写技術による配線パターンの形成は、石英などのテンプレートを原版に押し付けてパターンを転写する技法である。しかしながら、テンプレートに形成したパターンサイズにバラツキが生じるとレジストが十分に充填されなかったり、離型時にレジストの一部が剥がれてしまい、寸法均一性が劣化する問題がある。
【0008】
特許文献1では、アスペクト比の高い溝が形成された凹版に導電性インクを充填し基材へ転写するという方法によりアスペクト比の高い導電性の印刷物を形成している。しかしながらアスペクトが高い溝であり材料が完全に充填されにくいため、真空引きにて材料を充填する必要があった。また、この方法ではパターン毎に凹版を製作する必要があり、タクトが長くなり製造コストが上昇するという課題がある。
【0009】
また、基材に対し垂直方向にアスペクト比の高い印刷物に接するように立体的な構造の印刷物を形成する場合、低粘度材料では印刷直後にレベリング(平坦化)が生じやすい。そこで、ダミーパターンなどを形成した後に最終的に除去する方法や、積層により形成する方法が挙げられるが、工程数が増え、製造コストが上昇する課題がある。
【0010】
一方で、高粘度材料を用いる場合は、印刷した高粘度パターンの面積が、印刷前の高粘度材料の断面積よりも大きくなるダイスウェル現象に代表されるような、印刷自体の課題も多く、技術的に極めて難しいのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2002-52690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、1回の印刷工程で作成できる立体印刷物とその製造方法、及びそれらを用いて作製した配線パターンとその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決する手段として、本発明の立体印刷物の第1の態様は、1以上N数の第1立体印刷物と、前記第1立体印刷物の上面に接する第2立体印刷物と、からなり、前記第1立体印刷物及び前記第2立体印刷物はいずれも略直方体形状であり、いずれも同じ方向へ延在し、前記第1立体印刷物の、延在する方向と平面視で直交する方向の長さの1以上N数における平均値を下底幅とし、前記第2立体印刷物の、延在する方向と平面視で直交する方向の長さを上底幅とするとき、
1<(前記第2立体印刷物の上底幅/前記第1立体印刷物の下底幅)≦10
であり、前記第2立体印刷物の直下に、平面視で前記第1立体印刷物が存在しない領域が存在する、ことを特徴とする立体印刷物である。ここで、Nは整数とする。
【0014】
尚、ここで、N数の第1立体印刷物、及び第2立体印刷物のY方向の長さが、それぞれX方向の位置により変化する場合は、X方向の両端部と中央部の3点の平均値のN数の平均値を下底幅、及びX方向の両端部と中央部の3点の平均値を上底幅とする。
【0015】
本発明の立体印刷物の第2の態様は、前記立体印刷物は粘弾性を有する導電性エラストマーからなる、ことを特徴とする立体印刷物である。
【0016】
また、本発明の立体印刷物の製造方法の第1の態様は、前記第1の態様及び第2の態様の立体印刷物を1回の印刷工程によって形成する、ことを特徴とする立体印刷物の製造方法である。
【0017】
本発明の立体印刷物の製造方法の第2の態様は、前記1回の印刷工程によって前記立体印刷物を形成する方法は、モーノ式のディスペンサーで吐出する方法による、ことを特徴とする立体印刷物の製造方法である。


【0018】
また、本発明の配線パターンの態様は、前記第1の態様及び第2の態様の立体印刷物を具備し、前記第2立体印刷物の直下で、平面視で前記第1立体印刷物が存在しない領域に、少なくとも1種類以上の金属ペーストが充填されている、ことを特徴とする配線パターンである。
【0019】
また、本発明の配線パターンの製造方法の態様は、前記第1の態様及び第2の態様の立体印刷物の製造方法により製造される、ことを特徴とする前記態様の配線パターンの製造方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、アスペクト比の高い立体印刷物が1回の印刷工程で得られ、導電材料により配線パターンを形成する場合、断面積が増えることで配線に流れる電流をより多くすることが可能となる。また、電子回路のような小スペースに密集した配線を形成する上で有利に作用し、従来の積層などの別な方法よりも低コストの代替技術として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の第一実施形態に係る、立体印刷物の第1例であるT型立体印刷物を示す斜視図である。
図2】本発明の第一実施形態に係る、立体印刷物の第2例である門型立体印刷物を示す斜視図である。
図3】本発明の第二実施形態である立体印刷物の製造方法に係る、印刷ヘッドの第1例を示す概略斜視図である。
図4】本発明の第二実施形態である立体印刷物の製造方法に係る、印刷ヘッドの第2例を示す概略斜視図である。
図5】本発明の第三実施形態に係る、配線パターンの第1例を示す斜視図である。
図6】本発明の第三実施形態に係る、配線パターンの第2例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態に係る立体印刷物とその製造方法、及び配線パターンとその製造方法について図面を用いて説明する。同一の構成要素については便宜上の理由がない限り同一の符号を付ける。各図面において、見易さのため構成要素の厚さや比率は誇張されていることがあり、構成要素の数も減らして図示していることがある。また、本発明は以下の実施形態そのままに限定されるものではなく、主旨を逸脱しない限りにおいて、適宜の組み合わせ、変形によって具体化できる。
【0023】
印刷物が形成される対象物は商材に応じ様々であるので、本願では、印刷物が形成される対象物をすべて「基材」と呼ぶことにする。
【0024】
[立体印刷物]
図1は、本発明の第一実施形態に係る、立体印刷物の第1例であるT型立体印刷物を示す斜視図である。基材10の上の断面形状がTの字のようであることからT型立体印刷物100と呼称する。
【0025】
T型立体印刷物100は、1つの第1立体印刷物101と、第1立体印刷物101の上面に接する第2立体印刷物102と、からなり、第1立体印刷物101及び第2立体印刷物102はいずれも略直方体形状であり、いずれも同じ方向(X方向)へ延在している。
【0026】
また、第1立体印刷物101の、延在するX方向と平面視で直交するY方向の長さを下底幅103とし、第2立体印刷物102の、延在するX方向と平面視で直交するY方向の長さを上底幅104とするとき、
1<(上底幅104/下底幅103)≦10
であることを特徴としている。従って、第2立体印刷物102の直下で、平面視で第1立体印刷物101が存在しない領域が存在し、第2立体印刷物102の下面と基材10との間に間隙105を有する。
【0027】
尚、ここで、第1立体印刷物101、及び第2立体印刷物102のY方向の長さが、それぞれX方向の位置により変化する場合は、X方向の両端部と中央部の3点の平均値を下底幅、上底幅とする。
【0028】
図2は、本発明の第一実施形態に係る、立体印刷物の第2例である門型立体印刷物を示す斜視図である。基材10の上の断面形状が門の字のような桝型であることから門型立体印刷物200と呼称する。
【0029】
門型立体印刷物200は、2つの第1立体印刷物201a、201bと、第1立体印刷物201a、201bの上面に接する第2立体印刷物202と、からなり、第1立体印刷
物201a、201b及び第2立体印刷物202はいずれも略直方体形状であり、いずれも同じ方向(X方向)へ延在している。
【0030】
また、第1立体印刷物201a、201bの、延在するX方向と平面視で直交するY方向の長さをそれぞれ下底幅203a、203b(ここでは203b=203aとする)とし、第2立体印刷物202の、延在するX方向と平面視で直交するY方向の長さを上底幅204とするとき、
1<(上底幅204/下底幅203a)≦10
であることを特徴としている。また、第2立体印刷物202の直下で、平面視で第1立体印刷物201a、201bが存在しない領域が存在し、従って第2立体印刷物202の下面と基材10との間に間隙205を有することを特徴とする。
【0031】
尚、ここで、第1立体印刷物201a、201b、及び第2立体印刷物202のY方向の長さが、X方向の位置により変化する場合は、201a、201bのX方向の両端部と中央部の3点の平均値の201a、201bの平均値を下底幅、及び202のX方向の両端部と中央部の3点の平均値を上底幅とする。
【0032】
上記の第1例、第2例では、第1立体印刷物がそれぞれ1つ、2つの場合を示したが、本発明の立体印刷物では第1立体印刷物は1以上N数(整数)であればよく、N数の場合、下底幅と上底幅の関係は、
1<(第2立体印刷物の上底幅/第1立体印刷物の下底幅)≦10
であることを特徴とする。
【0033】
尚、ここで、N数の第1立体印刷物、及び第2立体印刷物のY方向の長さが、それぞれX方向の位置により変化する場合は、X方向の両端部と中央部の3点の平均値のN数の平均値を下底幅、及びX方向の両端部と中央部の3点の平均値を上底幅とする。
【0034】
従って、本発明の立体印刷物では、例えば下底幅が100μmであれば、上底幅は100μmより大きく、1000μm(=1mm)以下であることが特徴となる。
【0035】
また、第2立体印刷物の直下で、平面視でN数の第1立体印刷物が存在しない領域が存在し、従って第2立体印刷物の下面と基材との間に間隙を有することを特徴とする。
【0036】
立体印刷物が導電材料からなる場合、導電材料は、一般には、銀、銅、アルミニウムなどに代表される金属材料であるが、商材によっては材料自体に粘弾性やフレキシブル性が求められる。
【0037】
その場合、本発明の立体印刷物を成す導電材料は、粘弾性を有する導電性エラストマーであることが好ましい。すなわち、例えばカーボンを主剤とした導電性エラストマーからなるペーストであるが、粘度調整のために溶媒を混錬した導電性エラストマーとすることが好ましい。これにより材料そのものに滑り性が付与され、後述の印刷ヘッド先端部に設けた吐出溝と同じ形状で材料が吐出され、所望の形状の印刷物が1回の印刷工程で可能となる。粘弾性を有する導電性エラストマーであればフレキシブル性を要する商材の配線パターンとしても有用である。
【0038】
前記で好ましい主剤として挙げた導電性エラストマーは、カーボンや金属粉、金属蒸着粉などの導電性粒子をシリコンゴムに一定の配合割合で均一に混錬した感圧導電性ゴムのことを指す。例えば、熱硬化型カーボンエラストマー、熱可塑性エラストマーなどが挙げられるが、特に限定はされない。
【0039】
[立体印刷物の製造方法]
図3図4は、本発明の第二実施形態である立体印刷物の製造方法に係る、印刷ヘッドの、それぞれ第1例、第2例を示す概略斜視図である。
【0040】
材料供給装置(図示せず)と印刷ヘッド300(図4では320)を接続し、材料は材料供給装置から印刷ヘッド300(図4では320)内へと送液され、先ずマニホールド301(図4では321)と呼ばれる溜り場に充填される。次に、複数本に分岐した流路302(図4では322)内を経由し先端部の吐出溝310(図4では330)から-X方向へ吐出され、印刷ヘッド300(図4では320)と、その下の基材(ここでは不図示)との相対位置がX方向へ移動することで基材上に立体印刷物が形成される。
【0041】
吐出溝の断面形状としては、第1例ではT型(符号310)、第2例では門型(符号330)の、矩形からなる2種類を図示しているが、本発明の立体印刷物の製造方法に用いる印刷ヘッドの吐出溝はT型、門型などの形状に限定されない。例えば、既述のように、本発明の立体印刷物では第1立体印刷物は1以上N数(整数)であればよく、商材に応じ適宜形状を選択すればよい。
【0042】
本発明の立体印刷物の製造方法では、上記の印刷ヘッドを用い、第1立体印刷物及び前記第2立体印刷物からなる立体印刷物を1回の印刷工程によって形成する。そのためには、立体印刷物となる材料の粘弾性を好適に制御することが重要である。
【0043】
すなわち、高粘度の主剤だけでは本発明の印刷物を1回の印刷工程で得ることは困難であるため、溶媒を主剤に混錬して材料そのものに滑り性を付与することにより、吐出溝と同形状に材料が吐出され、所望の形状に印刷することが可能となる。
【0044】
以上のように、本発明によれば、例えば高粘度の導電性エラストマーを主剤とした材料に溶媒を混錬し、印刷ヘッドの吐出溝の断面形状を所望の形状に加工することにより、1回の印刷工程で立体印刷物を連続的に形成することが可能となる。
【0045】
1回の印刷工程によって立体印刷物を形成する方法としては、モーノ式のディスペンサーで吐出する方法によることが好ましい。具体的な方法については、後述の実施例で述べる。


【0046】
[配線パターン]
図5は、本発明の第三実施形態に係る、配線パターンの第1例を示す斜視図である。配線パターンの第1例400は、図1のT型立体印刷物100の、第2立体印刷物102の下面と基材10との間の間隙105が、金属ペースト150で充填されている。
【0047】
図5は、本発明の第三実施形態に係る、配線パターンの第2例を示す斜視図である。配線パターンの第2例500は、図2の門型立体印刷物200の、第2立体印刷物202の下面と基材10との間の間隙205が、金属ペースト250で充填されている。
【0048】
本発明の配線パターンは、図5図6のように、金属ペースト150、250に、立体印刷物100、200(図1図2参照)が加わった形状となるので、全体としてアスペクト比が高くなるとともに、断面積が増えることにより配線に流れる電流をより多くすることが可能となる。特に印刷技術を利用することは、電子回路のような小スペースに密集した配線を形成する上で有利に作用する。
【0049】
[配線パターンの製造方法]
本発明の配線パターンの製造方法には、本発明の第二実施形態である立体印刷物の製造方法を利用する。順序としては、第2立体印刷物と基材との間隙となる領域に低抵抗からなる金属ペーストを印刷しておき、その後当該立体印刷物を印刷する方法、或いは当該立体印刷物を印刷した後に金属ペーストを注入する方法、のいずれであってもよい。また、金属ペーストは2種類以上であってもよい。いずれにしても、好適に選択した組み合わせ
の配線パターンが従来の方法よりも簡易且つ安価に得られる。
【実施例
【0050】
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明の立体印刷物とその製造方法、及び配線パターンとその製造方法をより具体的に説明する。
【0051】
立体印刷物を形成する材料としては、旭化成ワッカー社製の2液混合タイプの熱硬化型カーボンエラストマーELASTOSIL LR3162A(商品名)と、及びELASTOSIL LR3162B(商品名)とを1対1の比に配合して主剤とし、富士フィルム和光純薬社製のジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートを溶媒として、30WT%の割合で添加し、武蔵エンジニアリング社製のAWATARON(商品名)を用いて混錬した導電性ペースト材料を使用した。
【0052】
印刷ヘッド300(図3)または320(図4)内に設ける矩形からなる吐出溝310または330は切削加工により作製した。本発明で規定する数値範囲の有効性を検証するために、吐出溝310または330のサイズのみを後述のように変更した計10個の印刷ヘッド300または320を作製した。
【0053】
高粘度材料の供給が可能な武蔵エンジニアリング社製モーノ式のディスペンサーを搭載する材料供給装置に、上記の当該材料、及び切削加工で形成した印刷ヘッド300または320を実装し、ガラスの基材10上に吐出を行った。


【0054】
ガラスの基材10上に吐出した印刷物はYamato社製オーブンDKM400(商品名)にて100℃の状態で1時間焼成して印刷物を硬化させ、導電性と粘弾性を有する立体印刷物の印刷を完了した。尚、記載しない項目に関しては全て共通の条件である。
【0055】
<実施例1>
吐出溝310または330の、断面形状がT型または門型からなる、下底幅103または203a及び203bが100μm、上底幅104または204が300μmからなる印刷ヘッド300または320を使用した。
【0056】
<実施例2>
吐出溝310または330の、断面形状がT型または門型からなる、下底幅103または203a及び203bが100μm、上底幅104または204が500μmからなる印刷ヘッド300または320を使用した。
【0057】
<実施例3>
吐出溝310または330の、断面形状がT型または門型からなる、下底幅103または203a及び203bが100μm、上底幅104または204が1000μmからなる印刷ヘッド300または320を使用した。
【0058】
<比較例1>
吐出溝310または330の、断面形状がT型または門型からなる、下底幅103または203a及び203bが100μm、上底幅104または204が2000μmからなる印刷ヘッド300または320を使用した。
【0059】
<比較例2>
吐出溝310または330の、断面形状がT型または門型からなる、下底幅103または203a及び203bが50μm、上底幅104または204が1000μmからなる印刷ヘッド300または320を使用した。
【0060】
[評価方法]
本発明の製造方法は1回の印刷で立体印刷物を得ることを特徴としており、断面形状の
中でも特に基材10上の第2立体印刷物の下面の形状維持が重要になる。そこで第1立体印刷物と第2立体印刷物の交差部のなす角が略直角であること、且つ24時間後の経時変化により第2立体印刷物の下面が下方(基材10の方向)に変形しないか、断面形状を、レーザ顕微鏡により計測し評価した。その結果、許容可能な所望の形状が得られた場合は○、レベリングや経時変化などにより所望の形状が得られなかった場合を×と評価した。評価結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
[評価結果]
表1の評価結果に示すように、1<(第2立体印刷物の上底幅/第1立体印刷物の下底幅)≦10なる本発明の条件を満たす実施例1~3は、全ての印刷ヘッド300、及び320を用いてT型、及び門型立体印刷物の所望の形状を得た。
【0063】
一方で、比較例1は第2立体印刷物の上底幅/第1立体印刷物の下底幅=20であり、2000μmと長い第2立体印刷物の両側に第1立体印刷物を形成する門型立体印刷物を良好に形成することができなかった。また、比較例2も第2立体印刷物の上底幅/第1立体印刷物の下底幅=20であり、上底幅の長さは1000μmであっても下底幅が50μmと短いために、門型に加えT型立体印刷物も良好に形成することができなかった。
【0064】
また、図6に示す本発明の配線パターンの第2例を作製し検証した。まず、モーノ式のディスペンサーを用いて予め銀を主剤とした金属ペースト250をガラスの基材10に印刷しオーブンを用いて焼成し硬化した。その後、上記の導電エラストマーを主剤として、本発明の立体印刷物の第2例(図2)である門型の立体印刷物の印刷を行った。その結果、低抵抗の銀ペーストを覆うようにフレキシブル性を有する導電性エラストマーからなる配線パターンを得ることに成功した。
【0065】
本実施例では、材料混錬、印刷ヘッド内に設ける吐出溝の形状、吐出装置及び使用した基材の一例を示したが、材料・装置は上記以外のメーカーでもよいし、本発明の主旨を逸脱しない範囲で、プロセス条件などを変更して作製することも可能であり、限定されるものではない。
【0066】
例えば材料混錬方法は手動でもよいし、吐出溝の型成は切削機や研削機3Dプリンタなどでもよいし、印刷ヘッドは一般的な鉄や樹脂からなる材料からなっていてもよい。基材はガラス以外に、ポリイミドフィルムやPETフィルム、紙などでも良い。材料を硬化するための方法も熱硬化に限定されない。
以下に、当初の特許請求の範囲に記載していた発明を付記する。
[1]
1以上N数の第1立体印刷物と、前記第1立体印刷物の上面に接する第2立体印刷物と、からなり、
前記第1立体印刷物及び前記第2立体印刷物はいずれも略直方体形状であり、いずれも同じ方向へ延在し、
前記第1立体印刷物の、延在する方向と平面視で直交する方向の長さの1以上N数における平均値を下底幅とし、
前記第2立体印刷物の、延在する方向と平面視で直交する方向の長さを上底幅とするとき、
1<(前記第2立体印刷物の上底幅/前記第1立体印刷物の下底幅)≦10
であり、
前記第2立体印刷物の直下に、平面視で前記第1立体印刷物が存在しない領域が存在する、ことを特徴とする立体印刷物。
ここで、Nは整数とする。
[2]
前記立体印刷物は粘弾性を有する導電性エラストマーからなる、
ことを特徴とする項1に記載の立体印刷物。
[3]
項1、または2に記載の前記立体印刷物を1回の印刷工程によって形成する、
ことを特徴とする立体印刷物の製造方法。
[4]
前記1回の印刷工程によって前記立体印刷物を形成する方法は、モーノディスペンサーで吐出する方法による、
ことを特徴とする項3に記載の立体印刷物の製造方法。
[5]
項1または2に記載の立体印刷物を具備し、
前記第2立体印刷物の直下で、平面視で前記第1立体印刷物が存在しない領域に、少なくとも1種類以上の金属ペーストが充填されている、
ことを特徴とする配線パターン。
[6]
前記立体印刷物は、項3または4に記載の立体印刷物の製造方法により製造される、
ことを特徴とする項5に記載の配線パターンの製造方法。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の立体印刷物とその製造方法は、プリンタブルエレクトロニクス技術分野などで、導電材料または絶縁材料を用いて、断面形状を矩形及び/または高アスペクト比にパターン形成する場合に応用できる。
【符号の説明】
【0068】
10・・・・基材
100・・・T型立体印刷物
200・・・門型立体印刷物
101、201a、201b・・・第1立体印刷物
102、202・・・・・・・・・第2立体印刷物
103、203a、203b・・・下底幅
104、204・・・上底幅
105、205・・・間隙
300、320・・・印刷ヘッド
301、321・・・マニホールド
302、322・・・流路
310、330・・・吐出溝
150、250・・・金属ペースト
400、500・・・配線パターン
図1
図2
図3
図4
図5
図6