(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】車両前部構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/08 20060101AFI20240416BHJP
【FI】
B62D25/08 D
(21)【出願番号】P 2020028073
(22)【出願日】2020-02-21
【審査請求日】2023-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100183689
【氏名又は名称】諏訪 華子
(74)【代理人】
【識別番号】110003649
【氏名又は名称】弁理士法人真田特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】堀内 正直
(72)【発明者】
【氏名】川野 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】山本 賢治
(72)【発明者】
【氏名】中根 康樹
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 淳
(72)【発明者】
【氏名】森 崇人
【審査官】結城 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-55543(JP,A)
【文献】特開2015-186969(JP,A)
【文献】特開2009-126411(JP,A)
【文献】特表2017-509529(JP,A)
【文献】特開2005-205951(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/08,
B60R 19/04-19/12,19/54,
B60K 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バンパーフェイシャの後方にて車幅方向に延在するバンパービームと、前記バンパービームの下方に間隔をあけて車幅方向に延在するロアビームと、を具備する車両の前部構造であって、
前記ロアビームに固定され、前記ロアビームの上面から前記バンパービームに向かって立設される一対の支え面と、前記一対の支え面の間を接続し、前記ロアビームの上面に沿って配置される横枠面とを有する第一部材と、
前記バンパーフェイシャの後方に対向配置される面状の縦壁面と、前記縦壁面の上端部から斜め下後方に向かって延設される面状の
部位である面部と、前記
面部の下端部から上方に向かって延設されて前記支え面の前方に配置される面状の当て面とを有し、前記当て面を前記横枠面と車両上下方向に重畳するように配置される第二部材と、
を備えることを特徴とする、車両前部構造。
【請求項2】
前記支え面が、上端を前記バンパービームに固定される
ことを特徴とする、請求項1記載の車両前部構造。
【請求項3】
前記当て面が、前記支え面に対して傾斜するように設けられる
ことを特徴とする、請求項1または2記載の車両前部構造。
【請求項4】
前記
面部が、前記縦壁面の上端部から車両後方に向かって水平方向に延設される
第一面部と、前記
第一面部の後端部から前記当て面の下端部に向かって延設される
第二面部とを有する
ことを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の車両前部構造。
【請求項5】
前記第一部材が、
前記横枠面上において上面視で車両前方に向かって拡幅する形状に配置された左右一対の縦枠面を有し、
前記
面部の後端の幅が、前記左右一対の縦枠面の最小幅よりも大きく、かつ、前記左右一対の縦枠面の最大幅よりも小さく形成され
、
前記面部の後端の高さ方向の位置は、前記第二部材が後方へ移動して前記第一部材に接近したときに、前記面部の後端が前記左右一対の縦枠面の間に挟み込まれる高さである
ことを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の車両前部構造。
【請求項6】
前記縦壁面が、左右両端辺よりも内側にて下端部を切り欠いた形状に形成されてなる歯抜け部を有する
ことを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の車両前部構造。
【請求項7】
前記当て面が、前記支え面に対向しうる前記第二部材の左右両端部に設けられる
ことを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の車両前部構造。
【請求項8】
前記横枠面が、車長方向に延在する溝状に形成されるとともに車両前方に向かって拡幅する形状に形成された第一溝部を有し、
前記
面部が、車長方向に延在する溝状
であって前記面部の下面よりも下方へ突出するように形成されて前記第二部材が後方へ移動したときに
前記横枠面に押し付けられた状態で前記第一溝部に係合する第二溝部を有する
ことを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の車両前部構造。
【請求項9】
前記第二部材が、前記
面部の下端部から上方かつ車両後方に向かって延設されたガイド面を有し、
前記ガイド面の下端が、側面視で前記横枠面の前端部よりも下方に位置し、
前記ガイド面の上端が、側面視で前記横枠面の前端部よりも上方に位置する
ことを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載の車両前部構造。
【請求項10】
前記第二部材が、
予め屈曲した形状に形成されるとともに、車両走行中に走行風を受け
ることにより前記当て面が前記横枠面と当接するように
さらに屈曲する屈曲部を有する
ことを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載の車両前部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バンパービームとロアビームとを具備する車両の前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のバンパーフェイシャの後方において、バンパービームとロアビームとが異なる高さで車幅方向に延在しており、車両が歩行者や接触したときに、バンパーフェイシャと上記構造物との隙間を設けることで、接触に伴う衝撃が緩和される。
一方、車両のバンパーフェイシャの後方には、ラジエーターやオイルクーラーなどの熱交換器が配置されることがある。これらの熱交換器に車両の走行風を導くことで、熱交換の効率(冷却性能)が向上する。また、バンパービームとロアビームとを備えた車両においては、これらの両ビームに挟まれた空間が走行風の流路として利用される(特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-205951号公報
【文献】特開2017-509529号公報
【文献】特開2009-126411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
熱交換器に導かれる走行風の流れを増加させるには、バンパーフェイシャのグリルを通過したすべての空気が熱交換器側へと流れるように、流路の周囲に囲いを設けることが考えられる。しかし、このような囲いを設けることで、外力に対するバンパーフェイシャの緩衝性能が低下しうる。例えば、バンパーフェイシャの後方にバンパービームとロアビームとが設けられた構造において、バンパーフェイシャとロアビームとの間に隙間が存在する。この隙間を何らかの部材で閉塞すれば、走行風の流れが改善されうるものの、バンパーフェイシャの剛性が増加してしまい、車両の緩衝性能が低下するおそれがある。
【0005】
本件の目的の一つは、上記のような課題に鑑みて創案されたものであり、バンパーフェイシャの後方における走行風の流れを改善しつつ、車両の緩衝性能を向上させることができるようにした車両前部構造を提供することである。なお、この目的に限らず、後述する「発明を実施するための形態」に示す各構成から導き出される作用効果であって、従来の技術では得られない作用効果を奏することも、本件の他の目的として位置付けることができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
開示の車両前部構造は、バンパーフェイシャの後方にて車幅方向に延在するバンパービームと、バンパービームの下方に間隔をあけて車幅方向に延在するロアビームとを具備する車両の前部構造である。本構造は、ロアビームに固定され、ロアビームの上面からバンパービームに向かって立設される一対の支え面と、一対の支え面の間を接続し、ロアビームの上面に沿って配置される横枠面とを有する第一部材を備える。また本構造は、バンパーフェイシャの後方に対向配置される面状の縦壁面と、縦壁面の上端部から斜め下後方に向かって延設される面状の部位である面部と、面部の下端部から上方に向かって延設されて支え面の前方に配置される面状の当て面とを有し、当て面を横枠面と車両上下方向に重畳するように配置される第二部材を備える。
【発明の効果】
【0007】
開示の車両前部構造は、バンパーフェイシャの後方における走行風の流れを改善しつつ車両の緩衝性能を向上させることに貢献する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例としての車両前部構造が適用された車両の斜視図である。
【
図2】
図1の車両の車両前部構造を説明するための縦断面図である。
【
図3】
図1の車両の車両前部構造を説明するための斜視図である。
【
図8】(A)~(C)はバンパーフェイシャに外力が作用した場合に第二部材が第一部材に接近する状況を説明するための上面図である。
【
図9】(A)~(D)はバンパーフェイシャに外力が作用した場合に第二部材が第一部材に接近する状況を説明するための縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[1.車両構造]
図1~
図9を参照して、実施例としての車両前部構造を説明する。図中の前後左右上下は、車両10の運転者を基準にして定められる方向を表す。
図1は、実施例としての車両前部構造が適用された車両10の斜視図である。車両10のバンパーフェイシャ3には、アッパーグリル4とロアグリル5とが設けられる。バンパーフェイシャ3とは、フロントバンパーやフロントグリルといった、車両10のフロントエンドを構成する部品の総称である。
【0010】
アッパーグリル4及びロアグリル5はともに、走行風を取り込むための開口部に取り付けられる網目状の部品である。アッパーグリル4及びロアグリル5の後方側には、図示しない熱交換器(ラジエーター,オイルクーラー,インタークーラーなど)が配置される。車両10の走行中にアッパーグリル4及びロアグリル5を通過した走行風は、熱交換器に向かって流通するようになっている。
【0011】
図2に示すように、バンパーフェイシャ3の後方には、車両10の骨格部材であるサイドメンバ6が配置されるとともに、バンパービーム7及びロアビーム8が設けられる。サイドメンバ6は、車長方向(前後方向)に延びて設けられるサブフレーム(あるいはフレーム)であり、車幅方向に所定の間隔をあけて左右に一対設けられる。車両10の正面視におけるサイドメンバ6の位置は、車両10の左右両サイドよりもやや内側に入った位置に設定される。また、車両10の側面視におけるサイドメンバ6の形状は、車室部分のみが下方にオフセットした形状に形成される。
【0012】
左右のサイドメンバ6の前端は、バンパービーム7で車幅方向に接続される。バンパービーム7は、バンパーフェイシャ3の後方にて車幅方向に延びて設けられる部材である。バンパービーム7は、車両10のほぼ全幅にわたる長さに形成され、サイドメンバ6よりも車幅方向の外側まで飛び出した状態で、サイドメンバ6に固定される。また、バンパービーム7の高さは、例えばアッパーグリル4よりも下方であって、ロアグリル5よりも上方に設定される。バンパービーム7とバンパーフェイシャ3との間には、
図2に示すように、衝撃吸収材9が取り付けられる。
【0013】
図3に示すように、バンパービーム7の下方には、間隔をあけてロアビーム8が設けられる。ロアビーム8は、バンパービーム7と同様に、バンパーフェイシャ3の後方にて車幅方向に延びて設けられる部材であり、車両10のほぼ全幅にわたる長さに形成される。ロアビーム8は、図示しないブラケットや縦架材を介して、サイドメンバ6やバンパービーム7に固定される。また、バンパーフェイシャ3の下端部はロアビーム8に係止される。
【0014】
バンパーフェイシャ3とロアビーム8との間には、第一部材1及び第二部材2が設けられる。第一部材1は、熱交換器に導入される冷却風の流路上にて車体に固定される部材であり、例えばロアビーム8に固定される。また、第二部材2は、バンパーフェイシャ3と第一部材1(あるいはロアビーム8)との隙間を被覆するように設けられる部材である。第二部材2は、例えばバンパーフェイシャ3に係止され、あるいは図示しないブラケットを介してバンパーフェイシャ3に取り付けられる。第二部材2は、バンパーフェイシャ3とロアビーム8との隙間から下方へと走行風が漏出するのを防いで、走行風の流れを改善するように機能する。
【0015】
[2.第一部材と第二部材]
図4,
図5に示すように、第一部材1には、支え面11,縦枠面12,横枠面13,第一溝部14が設けられる。
支え面11はロアビーム8の上面からバンパービーム7に向かって立設される面状の部位である。支え面11の向きは、法線が車両10の前後を向くように設定される。言い換えれば、支え面11は、熱交換器に導入される冷却風を受ける向きで立設される。
図3に示す支え面11は、下端がロアビーム8に固定されるとともに上端がバンパービーム7に固定される。支え面11は、バンパービーム7とサイドメンバ6との接続箇所の近傍に固定される。本実施例の支え面11は、車幅方向に間隔をあけて二箇所に設けられる。
【0016】
縦枠面12は、支え面11に対してほぼ直交する面状の部位であり、左右の支え面11のそれぞれについて一つずつ接続される。
図4に示すように、右側の縦枠面12は、右側支え面11の右端辺から前方に向かって延びた形状である。一方、左側の縦枠面12は、左側の支え面11の左端辺から前方に向かって延びた形状である。このように、縦枠面12の向きは、法線が車両10の左右を向くように設定される。言い換えれば、縦枠面12は、熱交換器に導入される冷却風を切る向き(冷却風の流れに沿った向き)で立設される。
【0017】
本実施例の縦枠面12は、
図5に示すように、上面視で前方に向かって拡幅する形状に配置される。右側の縦枠面12は、前端側を右側に角度θ
1だけ傾斜させた向きで配置され、左側の縦枠面12は、前端側を左側に角度θ
1だけ傾斜させた向きで配置される。また、左右一対の縦枠面12は、前端側で最大幅W
1をとり、後端側で最小幅W
2をとるように設けられる。
【0018】
横枠面13は、少なくとも左右の支え面11の間を接続する面状の部位であり、ロアビーム8の上面に沿って配置される。
図4に示す横枠面13は、左右の支え面11及び縦枠面12の間を接続するように設けられている。また、横枠面13には、車長方向に延びる溝状に形成された第一溝部14が設けられる。第一溝部14は、車両前方に向かって拡幅する形状に形成される。
図4に示す第一溝部14は、横枠面13の二箇所において、台形状の領域を下方へ押し出すことによって形成される。第一溝部14の溝幅は、その前端側で最大幅W
3をとり、後端側で最小幅W
4をとるように設定される。
【0019】
図6,
図7に示すように、第二部材2には、縦壁面21,第一傾斜面22,第二傾斜面23,当て面24,ガイド面25,第二溝部26,歯抜け部27,屈曲部28が設けられる。
縦壁面21は、バンパーフェイシャ3の後方に対向配置される面状の部位である。縦壁面21の向きは、法線が車両10の前後を向くように設定される。言い換えれば、縦壁面21は、第一部材1の支え面11に対してほぼ平行に配置される。なお、縦壁面21の車幅方向の寸法は、横枠面13の車幅方向の寸法と同程度の長さに設定されるが、厳密にこれらの寸法を対応させる必要はない。
【0020】
第一傾斜面22は、縦壁面21の上端部から後方に向かって水平方向に延設された面状の部位であり、第二傾斜面23は、第一傾斜面22の後端部から斜め下後方に向かって延設された面状の部位である。縦壁面21の上端部から斜め下後方に向かって延設される面状の傾斜面は、これらの傾斜面22~23によって構成される。なお、第一傾斜面22と第二傾斜面23とを同一平面状に形成してもよいし、三面以上の平面を組み合わせて折れ線(稜線)を増加させてもよい。
【0021】
本実施例の第二傾斜面23は、
図7に示すように、上面視で後方に向かって拡幅する形状に配置される。第二傾斜面23の右端辺は、前端側を左側に角度θ
2だけ傾斜させた形状に形成され、第二傾斜面23の左端辺は、前端側を右側に角度θ
2だけ傾斜させた形状に形成される。また、第二傾斜面23の後端側の幅寸法W
5は、左右一対の縦枠面12の最大幅W
1よりも小さく、かつ、最小幅W
2よりも大きく設定される。
【0022】
当て面24は、第二傾斜面23(傾斜面)の下端部から上方に向かって延設される面状の部位であり、支え面11の前方に配置される。当て面24は、第一部材1の横枠面13と車両上下方向に重畳するように配置される。上面視における横枠面13は、当て面24によって部分的に被覆された状態となる。したがって、例えば傾斜面22~23が走行風を受けて下方へ移動したときには、当て面24が横枠面13に接触し、横枠面13よりも前方側の隙間(バンパーフェイシャ3との隙間)が閉塞される。また、当て面24は、第一部材1の支え面11に対向しうる第二部材2の左右両端部に設けられる。側面視における第二部材2の全体形状は、
図9(A)に示すように、N字状(蛇腹状)に屈曲した形状に形成される。
図9(A)に示す当て面24は、その上端部が下端部よりも後方に位置するように傾斜しており、支え面11に対して傾斜した姿勢で車両10に取り付けられている。
【0023】
ガイド面25は、第二傾斜面23(傾斜面)の下端部から上方かつ後方に向かって延びるように形成された面状の部位である。ガイド面25は、例えば車両10が障害物や歩行者などに衝突することによって第一部材1が後方へ押し込まれた場合に、当て面24をロアビーム8の上面に沿って滑らかに移動させるためのガイドとして機能する部位である。本実施例のガイド面25は、当て面24と同一平面をなすように形成される。また、ガイド面25の位置は、その下端が横枠面13の前端部よりも下方に位置し、その上端が横枠面13の前端部よりも上方に位置するように設定される。
図9(A)に示すように、ガイド面25についても、横枠面13と車両上下方向に重畳するように配置される。
【0024】
図6,
図7に示すように、第二傾斜面23には、車長方向に延びる溝状に形成された第二溝部26が設けられる。第二溝部26は、第一溝部14と同様に、車両前方に向かって拡幅する形状に形成される。
図6に示す第二溝部26は、第二傾斜面23の二箇所において、台形状の領域を下方へ押し出すことによって形成される。第二溝部26の溝幅は、その前端側で最大幅W
6をとり、後端側で最小幅W
7をとるように設定される。
【0025】
第二溝部26は、第二部材2が外力を受けて後方へ移動したときに第一溝部14に係合し、第二部材2の移動を妨げる抵抗として機能する。例えば、第二溝部26の最小幅W7は第一溝部14の最小幅W4よりも大きく、かつ、第一溝部14の最大幅W3よりも小さく設定される。これにより、第二部材2が後方へ移動する過程で、第二溝部26の前端が第一溝部14と係合し、第二部材2が移動しにくくなる。また、第二溝部26はその前端で第一溝部14に係合することから、第二溝部26の最大幅W6は最小幅W7と同一であってもよいし、第一溝部14の最大幅W3よりも大きく設定してもよい。
【0026】
歯抜け部27は、縦壁面21の下端部を左右両端辺よりも内側で切り欠いて形成された部位である。
図6に示す歯抜け部27は縦壁面21の二箇所に形成されている。歯抜け部27が設けられた部分は、歯抜け部27が設けられていない部分と比較して、上下方向の寸法が減少する。これにより、縦壁面21のねじり剛性が低下し、外力に対する回転方向の変形が許容されやすくなる。
【0027】
屈曲部28は、板状の部材を屈曲させて形成された部位であり、縦壁面21と傾斜面22~23とをつなぐ屈曲した部位である。本実施例の屈曲部28には、第一傾斜面22自体が含まれるとともに、縦壁部21と第一傾斜面22との折り目(稜線)に相当する部分や、第二傾斜面23と第一傾斜面22との折り目(稜線)に相当する部分も含まれる。屈曲部28は、車両走行中に第二部材2に作用する走行風を受けて、当て面24やガイド面25が横枠面13と当接するように屈曲する機能を持つ。なお、第二部材2の第一傾斜面22を省略した場合には、縦壁部21と第二傾斜面23との折り目(稜線)に相当する部分を屈曲部28とみなしてもよい。
【0028】
[3.作用]
図8(A)~(C)は、バンパーフェイシャ3に外力が作用した場合に第二部材2が第一部材1に接近する状況を説明するための上面図であり、
図9(A)~(D)は縦断面図である。バンパーフェイシャ3に外力が作用すると、その外力を受けて第二部材2が後方へ移動し、第一部材1に接近する。ここで、第二部材2における第二傾斜面23の後端側の幅寸法W
5は、縦枠面12の最小幅W
2よりも大きく設定されている。したがって、第二傾斜面23は、
図8(A)に示すように左右の縦枠面12の間に進入する。
【0029】
図9(A)に示すように、第二部材2の当て面24及びガイド面25は、第二傾斜面23の下端部から上方かつ車両後方に向かって斜めに延設される。ガイド面25の下端は、第一部材1の横枠面13の前端部よりも下方に配置され、ガイド面25の上端は、第一部材1の横枠面13の前端部よりも上方に配置される。これにより、第一部材1の横枠面13がガイド面25に接触した後に、第二部材2がさらに後方へと移動しようとすると、ガイド面25が横枠面13によってわずかに上方へと押し上げられる。その反力は、第二傾斜面23を横枠面13に押し付けるように作用し、第二部材2が第一部材1に接触した状態で滑らかに後方へとスライド移動する。
【0030】
車両走行中に第二部材2の傾斜面22~23が走行風を受けて下方へ移動した場合には、
図9(B)に示すように、第二部材2の当て面24及びガイド面25が第一部材1の横枠面13に当接する。当て面24及びガイド面25は、走行風の風圧に応じて横枠面13に沿うように変形する。これにより、横枠面13よりも前方側の隙間(バンパーフェイシャ3との隙間)が閉塞され、走行風のシール性能が向上する。なお、第二傾斜面23と当て面24及びガイド面25との折り目(稜線)に相当する部分を横枠面13に当接させることで、横枠面13と第二部材2との隙間が減少し、シール性能がさらに向上する。
【0031】
第二傾斜面23の後端側の幅寸法W
5は、縦枠面12の最大幅W
1よりも小さく設定されている。これにより、第二傾斜面23は、
図8(B),
図9(C)に示すように左右の縦枠面12の間で引っかかり、第一部材1からの抵抗を受ける。第二部材2は、縦枠面12を外側へ押し広げるように第一部材1を変形させつつ後方へと移動する。このとき、第二部材2は、第一部材1からの反力を受けて変形する。例えば、第二傾斜面23が左右から押し縮められるように変形する。
【0032】
また、第二部材2の傾斜面22~23が第一部材1の横枠面13に押し付けられた状態であることから、第二溝部26の前端が第一溝部14と係合する。第一部材1から第二部材2への反力の大きさは、第二部材2が後方へ移動するにつれて増大し、第二部材2をより強く圧縮変形させるように作用する。
【0033】
第二部材2の当て面24は、第一部材1の支え面11の前方に配置されている。したがって、第二部材2が第一部材1に向かって後方へ移動すると、当て面24が支え面11に接触し、第一部材1からの抵抗を受ける。これにより、
図8(C),
図9(D)に示すように、第二部材2が前後方向に圧縮変形する。当て面24は、後端部が上方へ移動する方向へ回転するように変位する。また、縦壁面21は、ロアビーム8の前面に接触するまで後方へと移動する。第一傾斜面22と第二傾斜面23との境界には折れ目が形成され、第二部材2の変形量が増大する。
図9(D)に示すように、第二部材2は、第二傾斜面23の板面を弓状に膨らませながら車両後方へと侵入する。
【0034】
[4.効果]
(1)上記の車両前部構造には、第一部材1と第二部材2とが設けられる。第一部材1は、ロアビーム8の上面からバンパービーム7に向かって立設される支え面11と横枠面13とを有し、ロアビーム8に固定される。また、第二部材2は、バンパーフェイシャ3の後方に対向配置される縦壁面21と、その上端部から斜め下後方に向かって延設される面状の傾斜面22~23と、その下端部から上方に向かって延設されて支え面11の前方に配置される面状の当て面24とを有し、バンパーフェイシャ3とロアビーム8との隙間を被覆するように配置される。当て面24は、横枠面13と車両上下方向に重畳するように配置される。
【0035】
このような構造により、
図9(B)に示すように、走行風の風圧で当て面24を横枠面13に当接させることができ、バンパーフェイシャ3とロアビーム8との隙間から下方へと走行風が漏出するのを防止することができる。したがって、走行風のシール性能を向上させることができ、走行風の流れを改善することができる。したがって、熱交換器における熱交換性能(空冷性能)を向上させることができる。加えて、第二部材2の縦壁面21と傾斜面22~23と当て面24とで形成されるS字構造により、第二部材2を第一部材1に接近させながら変形させることができ、車両10の緩衝性能を向上させることができる。また、当て面24を支え面11の前方に配置することで、第二部材2をより確実に押し潰して反力を発生させることができ、車両10の緩衝性能をさらに向上させることができる。
【0036】
なお、第一部材1の横枠面13は、一対の支え面11の間を接続し、ロアビーム8の上面に沿って配置される。このように、左右の支え面11を横枠面13で車幅方向に接続することで、第一部材1の形状を安定させることができる。また、第二部材2から伝達される荷重を左右の支え面11に分散させることができ、第二部材2の全体を偏りなくほぼ均一に圧縮変形させることが容易となる。したがって、第二部材2のつぶれ残りを減少させることができ、車両10の緩衝性能をさらに向上させることができる。
【0037】
(2)上記の車両前部構造において、支え面11の上端はバンパービーム7に固定される。支え面11の上下端をバンパービーム7及びロアビーム8に固定することで、支え面11の剛性や安定性を高めることができる。また、
図8(B),
図9(B)に示すように、当て面24が支え面11に接触したときに、支え面11の後方への移動量を小さくすることができ、第二部材2をより確実に圧縮変形させることができる。したがって、車両10の緩衝性能をさらに向上させることができる。
【0038】
(3)上記の車両前部構造では、例えば
図9(A)に示すように、支え面11に対して当て面24が傾斜するように設けられる。これにより、支え面11と当て面24とが接触したときに、当て面24の後端部が上方へ移動する方向へ回転させることができる。つまり、当て面24のほぼ全面が支え面11に接触するまでの間は、第二傾斜面23と当て面24との境界を屈曲変形させることで衝撃を吸収することができる。したがって、車両10の緩衝性能をさらに向上させることができる。
【0039】
また、上記の車両前部構造では、当て面24が横枠面13に対して傾斜した姿勢になるように設けられる。これにより、第二部材2を車両10に艤装する際に、第一部材1に対する第二部材2の相対位置を適切に誘導するガイド部材として、当て面24を機能させることができる。したがって、艤装性を向上させることができる。
【0040】
(4)第二部材2には、第一傾斜面22と第二傾斜面23とが設けられる。第一傾斜面22は、縦壁面21の上端部から車両後方に向かって水平方向に延設され、第二傾斜面23は、第一傾斜面22の後端部から当て面24の下端部に向かって延設される。このように、縦壁面21と当て面24とを接続する傾斜面を二つの平面状に形成することで、第一傾斜面22と第二傾斜面23との境界を屈曲変形させて衝撃を吸収することができる。したがって、車両10の緩衝性能をさらに向上させることができる。
【0041】
(5)第一部材1は、上面視で車両前方に向かって拡幅する形状に配置された左右一対の縦枠面12を有する。例えば
図5に示すように、二つの縦枠面12は、水平断面形状が車両前方に向かって開いたハの字型になるように配置される。また、第二部材2の傾斜面22~23は、後端側の幅寸法W
5が縦枠面12の最小幅W
2よりも大きく、かつ最大幅W
1よりも小さく形成されている。このような構造により、第二部材2を第一部材1の間に挟み込ませることができ、第一部材1から第二部材2への反力を増大させることができる。また、第二部材2が第一部材1よりも後方へ移動することが防止されることから、第二部材2をより確実に圧縮変形させることができる。したがって、車両10の緩衝性能をさらに向上させることができる。
【0042】
(6)第二部材2の縦壁面21には、歯抜け部27が設けられる。歯抜け部27は、例えば
図6に示すように、縦壁面21の左右両端辺よりもその内側にて下端部を切り欠いた形状に形成されてなる部位である。歯抜け部27を設けることで、縦壁面21のねじり剛性を低下させることができ、外力に対する回転方向の変形を許容されやすくすることができる。これにより、例えば
図9(B)に示す状態から
図9(C)に示す状態への過渡状態において、縦壁面21のつぶれ残りを減少させることができる。したがって、車両10の緩衝性能をさらに向上させることができる。
【0043】
(7)第二部材2の当て面24は、第一部材1の支え面11に対向しうる第二部材2の左右両端部に設けられる。このような構造により、
図8(B)に示すように、第一部材1からの反力を第二部材2の左右両端部に入力させることができ、第二部材2の全体を偏りなくほぼ均一に圧縮変形させることが容易となる。したがって、第二部材2のつぶれ残りを減少させることができ、車両10の緩衝性能をさらに向上させることができる。
【0044】
(8)第一部材1の横枠面13には、第一溝部14が形成される。第一溝部14は、車長方向に延在する溝状に形成されるとともに、車両前方に向かって拡幅する形状に形成される。一方、第二部材2の第二傾斜面23には、第二溝部26が設けられる。第二溝部26は、車長方向に延在する溝状に形成され、第二部材2が後方へ移動したときに第一溝部14に係合する。このような構造により、第二部材2の後方への移動をより確実に拘束することができ、第二部材2を効率よく圧縮変形させることができる。したがって、車両10の緩衝性能をさらに向上させることができる。
【0045】
(9)第二部材2には、傾斜面22~23の下端部から上方かつ車両後方に向かって延設されたガイド面25が設けられる。
図9(A)に示すように、ガイド面25の下端は、側面視で横枠面13の前端部よりも下方に位置する。一方、ガイド面25の上端は、側面視で横枠面13の前端部よりも上方に位置する。これにより、傾斜面22~23が横枠面13の表面に押し付けられた状態で、第二部材2を滑らかにスライド移動させることができ、当て面24と支え面11とをズレなく接触させることが容易となる。したがって、車両10の緩衝性能をさらに向上させることができる。
【0046】
(10)
図6,
図9に示すように、上記の第二部材2には、車両走行中に走行風を受けて当て面24が横枠面13と当接するように屈曲する屈曲部28が設けられる。第二部材2に屈曲部28を設けることで、当て面24が走行風の風圧で横枠面13に当接しやすくなる。したがって、横枠面13とその前方に位置するバンパーフェイシャ3との隙間をより確実に閉塞することができ、走行風のシール性能を向上させることができる。
【0047】
[5.変形例]
上記の実施例はあくまでも例示に過ぎず、本実施例で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施例の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。
【0048】
例えば、上述の実施例では第一部材1に支え面11と縦枠面12と横枠面13とが設けられているが、縦枠面12及び横枠面13は省略可能である。また、支え面11は少なくとも一つあればよく、ロアビーム8の上面からバンパービーム7に向かって立設されたものであればよい。さらに、上述の実施例における第一傾斜面22と第二傾斜面23とを一体化してもよい。なお、第一部材1及び第二部材2の素材としては、鋼板やアルミ合金などの金属だけでなく、FRP(繊維強化プラスチック)やCFRP(炭素繊維強化プラスチック)などの樹脂を用いることが可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 第一部材
2 第二部材
3 バンパーフェイシャ
4 アッパーグリル
5 ロアグリル
6 サイドメンバ
7 バンパービーム
8 ロアビーム
9 衝撃吸収材
10 車両
11 支え面
12 縦枠面
13 横枠面
14 第一溝部
21 縦壁面
22 第一傾斜面(傾斜面)
23 第二傾斜面(傾斜面)
24 当て面
25 ガイド面
26 第二溝部
27 歯抜け部
28 屈曲部