(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】外輪付き円筒ころ軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/46 20060101AFI20240416BHJP
F16C 33/56 20060101ALI20240416BHJP
F16C 19/26 20060101ALI20240416BHJP
F16C 43/08 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
F16C33/46
F16C33/56
F16C19/26
F16C43/08
(21)【出願番号】P 2020033342
(22)【出願日】2020-02-28
【審査請求日】2022-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 裕史
(72)【発明者】
【氏名】西村 信彦
(72)【発明者】
【氏名】赤山 徳一朗
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-229912(JP,A)
【文献】特開2007-056932(JP,A)
【文献】特開2011-137534(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102013225342(DE,A1)
【文献】米国特許第04907898(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/24-19/28
F16C 33/46-33/56
F16C 43/04-43/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に外輪軌道面を有する円筒状部と、該円筒状部の軸方向一方側の端部に径方向外向きに延びる外向きフランジ部と、前記円筒状部の軸方向他方側の端部に径方向内向きに延びる内向きフランジ部と、を有する外輪と、
前記外輪軌道面に転動自在に配置される複数の円筒ころと、
軸方向に間隔を開けて設けられた一対の円環部と、該一対の円環部を繋ぎ、円周方向に間隔を開けて配置された複数の柱部とを備え、隣り合う前記柱部と前記一対の円環部とによりそれぞれ形成される複数のポケットにより、前記複数の円筒ころを転動自在に保持する保持器と、
を備える外輪付き円筒ころ軸受であって、
前記軸方向他方側の円環部には、前記内向きフランジ部の内周面よりも外径側に突出する係合部を有する複数の突起部が設けられ、
前記外向きフランジ部の軸方向一方側平面と前記軸方向一方側の円環部の軸方向一方側端面との間の軸方向距離をA、前記内向きフランジ部の軸方向他方側平面と前記係合部の軸方向一方側側面との間の軸方向距離をBとしたとき、B>A
とし、
前記外輪付き円筒ころ軸受の側方には、前記外向きフランジ部の軸方向一方側平面に当接し、かつ、前記軸方向一方側の円環部の軸方向一方側端面との間の軸方向距離がAとなる相手部材が設けられている、外輪付き円筒ころ軸受。
【請求項2】
前記保持器を軸方向から見て、前記突起部が占める円周方向長さの合計は、前記保持器の全周長さの5~20%である、請求項1に記載の外輪付き円筒ころ軸受。
【請求項3】
前記突起部は、円周方向において、前記柱部が配置される領域内に位置している、請求項1又は2に記載の外輪付き円筒ころ軸受。
【請求項4】
前記突起部は、円周方向において、前記ポケットが配置される領域内に位置しており、
前記突起部が位置する前記ポケットの両側の各柱部には、前記
軸方向他方側の円環部
の軸方向他方側端面から軸方向に延びるスリットがそれぞれ形成される、請求項1又は2に記載の外輪付き円筒ころ軸受。
【請求項5】
前記柱部の側面には、前記ポケットを形成する前記隣り合う柱部の側面同士が互いに平行となる平面部と、該平面部に対して外径側及び内径側において、円周方向にそれぞれ突出する外径側抜け止め部及び内径側抜け止め部と、が形成され、
前記隣り合う柱部の平面部間の距離は、ころ径の101.5~107%であり、
前記外径側抜け止め部の前記平面部からの円周方向突出量は、ころ径の1~4%であり、
前記内径側抜け止め部の前記平面部からの円周方向突出量は、ころ径の4~10%である、請求項1~4のいずれか1項に記載の外輪付き円筒ころ軸受。
【請求項6】
前記保持器は、樹脂製であり、前記係合部は、断面三角形状、又は断面凸曲面状を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の外輪付き円筒ころ軸受。
【請求項7】
前記保持器は、鉄製であり、前記突起部は、前記軸方向他方側の円環部の軸方向他方側端部から軸方向に延在する部分を折り曲げることで形成される、請求項1~3のいずれか1項に記載の外輪付き円筒ころ軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外輪付き円筒ころ軸受に関し、特に、トランスミッションなどに適用される外輪付き円筒ころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポケット内にころを収容した保持器を、内輪又は外輪と抜け止めにより一体化した転がり軸受が種々知られている。
例えば、特許文献1に記載のニードル軸受では、保持器のリング部に設けられた保持用タブが、内輪又は外輪に形成された傾斜面部と係合して、保持器の脱落を防止している。
また、特許文献2に記載の円筒ころ軸受では、保持器の軸方向側面に突起を設け、保持器の側方に配置された環状の案内部材に設けた孔に該突起を係合させることで、円筒ころと案内部材とで外輪の内向きフランジを挟み込み、外輪からの保持器の脱落を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許出願公開第2016/0061258号明細書
【文献】ドイツ国特許出願公開第102013225342号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、内輪に傾斜面部などの加工が必要となるため、製造コストが嵩むという課題がある。また、特許文献2では、保持器の脱落を防止するために、案内部材を別途設けているので、部品点数が増加して、製造コストが嵩むとともに、組立作業性も低下するという課題がある。
さらに、特許文献2のように、円筒ころが軸の外周面を直接転動する円筒ころ軸受の場合、円筒ころを保持器に容易に挿入でき、且つ、軸に組み付け前の輸送時において、保持器からの円筒ころの脱落を防止することが求められている。
【0005】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、部品点数を増加することなく、且つ、良好な組立作業性で、外輪からの保持器の脱落を防止できると共に、円筒ころの挿入作業性と、保持器からの円筒ころの脱落防止を考慮した外輪付き円筒ころ軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 内周面に外輪軌道面を有する円筒状部と、該円筒状部の軸方向一方側の端部に径方向外向きに延びる外向きフランジ部と、前記円筒状部の軸方向他方側の端部に径方向内向きに延びる内向きフランジ部と、を有する外輪と、
前記外輪軌道面に転動自在に配置される複数の円筒ころと、
軸方向に間隔を開けて設けられた一対の円環部と、該一対の円環部を繋ぎ、円周方向に間隔を開けて配置された複数の柱部とを備え、隣り合う前記柱部と前記一対の円環部とによりそれぞれ形成される複数のポケットにより、前記複数の円筒ころを転動自在に保持する保持器と、
を備える外輪付き円筒ころ軸受であって、
前記軸方向他方側の円環部には、前記内向きフランジ部の内周面よりも外径側に突出する係合部を有する複数の突起部が設けられ、
前記外向きフランジ部の軸方向一方側平面と前記軸方向一方側の円環部の軸方向一方側端面との間の軸方向距離をA、前記内向きフランジ部の軸方向他方側平面と前記係合部の軸方向一方側側面との間の軸方向距離をBとしたとき、B>Aである、外輪付き円筒ころ軸受。
(2) 前記保持器を軸方向から見て、前記突起部が占める円周方向長さの合計は、前記保持器の全周長さの5~20%である、(1)に記載の外輪付き円筒ころ軸受。
(3) 前記突起部は、円周方向において、前記柱部が配置される領域内に位置している、(1)又は(2)に記載の外輪付き円筒ころ軸受。
(4) 前記突起部は、円周方向において、前記ポケットが配置される領域内に位置しており、
前記突起部が位置する前記ポケットの両側の各柱部には、前記円環部から軸方向に延びるスリットがそれぞれ形成される、(1)又は(2)に記載の外輪付き円筒ころ軸受。
(5) 前記柱部の側面には、前記ポケットを形成する前記隣り合う柱部の側面同士が互いに平行となる平面部と、該平面部に対して外径側及び内径側において、円周方向にそれぞれ突出する外径側抜け止め部及び内径側抜け止め部と、が形成され、
前記隣り合う柱部の平面部間の距離は、ころ径の101.5~107%であり、
前記外径側抜け止め部の前記平面部からの円周方向突出量は、ころ径の1~4%であり、
前記内径側抜け止め部の前記平面部からの円周方向突出量は、ころ径の4~10%である、(1)~(4)のいずれかに記載の外輪付き円筒ころ軸受。
(6) 前記保持器は、樹脂製であり、前記係合部は、断面三角形状、又は断面凸曲面状を有する、(1)~(5)のいずれかに記載の外輪付き円筒ころ軸受。
(7) 前記保持器は、鉄製であり、前記突起部は、前記軸方向他方側の円環部の軸方向他方側端部から軸方向に延在する部分を折り曲げることで形成される、(1)~(3)のいずれかに記載の外輪付き円筒ころ軸受。
【発明の効果】
【0007】
本発明の外輪付き円筒ころ軸受によれば、軸方向他方側における保持器の円環部に、内向きフランジ部の内周面よりも外径側に突出する係合部を有する複数の突起部が設けられるので、円筒ころと突起部とで外輪の内向きフランジ部を挟み込み、部品点数を増加することなく、且つ、良好な組立作業性で、外輪からの保持器の脱落を防止できる。
また、保持器の柱部の側面において、隣り合う柱部の平面部間の距離は、ころ径の101.5~107%であり、外径側抜け止め部の平面部からの円周方向突出量は、ころ径の1~4%であり、内径側抜け止め部の平面部からの円周方向突出量は、ころ径の4~10%であるので、円筒ころの挿入作業性と、保持器からの円筒ころの脱落防止を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明に係る第1実施形態の外輪付き円筒ころ軸受の斜視図である。
【
図2】第1実施形態の外輪付き円筒ころ軸受の縦断面図である。
【
図3】
図2のIII-III線に沿った断面図である。
【
図4】(a)は、
図1の保持器の縦断面図であり、(b)は、(a)のIV方向から見た保持器の側面図である。
【
図5】
図1の外輪付き円筒ころ軸受が相手部品に組付けられた状態を示す斜視図である。
【
図6】
図1の外輪付き円筒ころ軸受が他の相手部品に組付けられた状態を示す断面図である。
【
図7】
図1の外輪が楕円形状に変形した場合を示す側面図である。
【
図8】突起部の数が異なる第1変形例の保持器を示す側面図である。
【
図9】(a)及び(b)は、突起部の円周方向長さが異なる第2、第3変形例の保持器を示す側面図である。
【
図10】突起部の係合部の形状が異なる第4変形例の保持器を示す側面図である。
【
図11】突起部の円周方向長さがそれぞれ異なる第5変形例の保持器を示す側面図である。
【
図12】本発明に係る第2実施形態の外輪付き円筒ころ軸受の保持器を外径側から見た図である。
【
図13】本発明に係る第3実施形態の外輪付き円筒ころ軸受の保持器を外径側から見た図である。
【
図14】本発明に係る第4実施形態の外輪付き円筒ころ軸受の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の各実施形態に係る外輪付き円筒ころ軸受を図面に基づいて詳細に説明する。
【0010】
(第1実施形態)
図1及び
図2に示すように、第1実施形態の外輪付き円筒ころ軸受10は、外輪11と、複数の円筒ころ20と、保持器30と、を備える。外輪11は、薄鋼板などの金属製板材をプレス加工により環状に成形される。外輪11は、内周面に外輪軌道面12を有する円筒状部13と、該円筒状部13の軸方向一方側の端部に径方向外向きに延びる外向きフランジ部14と、円筒状部13の軸方向他方側の端部に径方向内向きに延びる内向きフランジ部15と、を有する。
【0011】
保持器30は、樹脂製であり、
図4にも示すように、軸方向に間隔を開けて設けられた一対の円環部31,32と、該一対の円環部31,32を繋ぎ、円周方向に間隔を開けて配置された複数の柱部33とを備える。
【0012】
複数の円筒ころ20は、保持器30の隣り合う柱部33と一対の円環部31,32とによりそれぞれ形成される複数のポケット34に保持され、外輪軌道面12に対して転動自在に配置される。
【0013】
図3に示すように、保持器30の柱部33の円周方向の側面には、ポケット34を形成する隣り合う柱部33の該側面同士が互いに平行となる平面部35と、該平面部35に対して外径側及び内径側において、円周方向にそれぞれ突出する外径側抜け止め部36及び内径側抜け止め部37と、が形成される。
平面部35は、円筒ころ20を円周方向に案内しており、外径側抜け止め部36及び内径側抜け止め部37は、円筒ころ20がポケット34から脱落するのを防止している。
【0014】
隣り合う柱部33の平面部35間の距離Lは、ころ径Dの101.5~107%(1.015D≦L≦1.070D)であり、外径側抜け止め部36の平面部35からの円周方向突出量S1は、ころ径Dの1~4%(0.01D≦S1≦0.04D)であり、内径側抜け止め部37の平面部35からの円周方向突出量S2は、ころ径Dの4~10%(0.04≦S2≦0.10D)に設定されている。また、外径側抜け止め部36の突出量S1は、内径側抜け止め部37の突出量S2よりも小さい(S1<S2)。
【0015】
上記円周方向突出量S1により、外径側抜け止め部36と円筒ころ20との掛かり代が小さく設定されているので、円筒ころ20は、保持器30のポケット34に外径側から押し込んでも、保持器30を破損することなく、容易に保持器30に組み付けられる。また、保持器30に保持された円筒ころ20の外径側には、外輪11が配置されているので、軸受使用時には、円筒ころ20が、ポケット34の外径側から脱落することはない。したがって、軸受の組立工程において、円筒ころ20が組み込まれた保持器30は、外輪11へ挿入されるまでの間だけ円筒ころ20を保持できればよく、外径側の掛かり代を内径側の掛かり代よりも小さく設定できる。
【0016】
さらに、上記円周方向突出量S2により、内径側抜け止め部37と円筒ころ20との内径側の掛かり代が大きく設定されているので、軸に組み付け前の輸送時や、軸への組付け工程時において、円筒ころ20が、ポケット34の内径側から脱落することを防止できる。
【0017】
平面部35は、各円筒ころ20のピッチ円直径PCDが通過する位置を含む、ポケット34の径方向中間部分に設けられている。また、外径側抜け止め部36及び内径側抜け止め部37と平面部35とは、それぞれ傾斜面38,39によって接続されている。さらに、外径側傾斜面38と平面部35とが成す角度θ1は、内径側傾斜面39と平面部35とが成す角度θ2よりも小さく設定されており(θ1<θ2)、好ましくは、角度θ2の約1/3~1/2に設定されている(θ2/3≦θ1≦θ2/2)。
【0018】
また、本実施形態の保持器30では、軸方向他方側の円環部32に、内向きフランジ部15の内周面よりも外径側に突出する係合部41を有する複数(本実施形態では、3つ)の突起部40が円周方向に等間隔に設けられる。この場合、突起部40は、円環部32の軸方向他方側端面から軸方向他方側に延出して設けられている。係合部41は、突起部40の外径側に、軸方向他方側から軸方向一方側に向かって厚肉となる断面三角形状を持った部分が所定の円周方向長さを有する。円環部32の外周面は、内向きフランジ部15の内周面と僅かな径方向隙間を有した状態で対向しており、円環部32の軸方向他方側端面は、内向きフランジ部15の軸方向他方側側面よりも軸方向他方側に位置している(突出している)。
【0019】
これにより、円筒ころ20が組み込まれた保持器30に対して、外輪11が軸方向他方側から挿入される際に、係合部41は、内向きフランジ部15の内周面に押され、内径側に向けて弾性変形することにより、内向きフランジ部15が係合部41を乗り越える。そして、内向きフランジ部15が、円環部32の外周面で、円筒ころ20の軸方向端面と突起部40の軸方向一方側側面との間に挟み込まれ、軸受単体の状態でも、保持器30が外輪11から脱落しない構造となる。また、従来は、外輪に保持器を挿入した後に、円筒ころを内側から挿入していたが、本実施形態では、保持器30と円筒ころ20を予め組み合わせた中間組立体を形成した後に、外輪11へ組み付けることができ、組立性の向上が図れる。
【0020】
また、外輪11の外向きフランジ部14には、円周方向の一部分に外径側にさらに延在する突出部16が設けられている。外輪付き円筒ころ軸受10は、
図5に示すように、外輪11の円筒状部13の外周面が相手部材50に圧入されて使用されるが、突出部16が相手部材50の凹部51に嵌まることで、外輪付き円筒ころ軸受10の相手部材50に対する円周方向位置を規制でき、クリープを防止できる。なお、突出部16は、本実施形態では、円周方向に1か所に設けているが、2か所以上に設けてもよい。
【0021】
また、
図6に示すように、外向きフランジ部14の軸方向一方側平面と軸方向一方側の円環部31の軸方向一方側端面との間の軸方向距離をA、内向きフランジ部15の軸方向他方側平面と係合部41の軸方向一方側側面との間の軸方向距離をBとしたとき、B>A、好ましくは、(A+0.1mm)≦B≦(A+1.0mm)としている。なお、この条件は、円筒ころ20の軸方向中心とポケット34の軸方向中心とが一致した状態を前提としている。
【0022】
これにより、外輪11の外向きフランジ部14の軸方向一方側平面に当接する他の相手部材60が外輪付き円筒ころ軸受10の側方に設けられる場合、保持器30が図中左側へ移動して、係合部41が内向きフランジ部15に当接するよりも先に、円環部31が相手部材60に当接する。したがって、強度が比較的低い保持器30の係合部41が外輪11との接触や摺動により破損するのを防止できる。
【0023】
以上説明したように、本実施形態の外輪付き円筒ころ軸受10によれば、軸方向他方側における保持器30の円環部32に、内向きフランジ部15の内周面よりも外径側に突出する係合部41を有する複数の突起部40が設けられるので、円筒ころ20と突起部40とで外輪11の内向きフランジ部15を挟み込み、部品点数を増加することなく、且つ、良好な組立作業性で、外輪11からの保持器30の脱落を防止できる。
【0024】
また、外向きフランジ部14の軸方向一方側平面と軸方向一方側の円環部32の軸方向一方側端面との間の軸方向距離をA、内向きフランジ部15の軸方向他方側平面と係合部41の軸方向一方側側面との間の軸方向距離をBとしたとき、B>Aであるようにしたので、保持器30の係合部41が外輪11の内向きフランジ部15と接触や摺動し難い構成となり、該係合部41が破損するのを防止できる。
さらに、保持器30の柱部33の側面において、隣り合う柱部33の平面部35間の距離Lは、ころ径Dの101.5~107%であり、外径側抜け止め部36の平面部35からの円周方向突出量S1は、ころ径Dの1~4%であり、内径側抜け止め部37の平面部35からの円周方向突出量S2は、ころ径Dの4~10%であるので、円筒ころ20の挿入作業性と、保持器30からの円筒ころ20の脱落防止を実現できる。
【0025】
なお、突起部40は、円周方向に関して等間隔で3つ以上であることが好ましく、これにより、
図7に示すように、外輪11が楕円形状(
図7において、突出部16を通過する縦軸が短軸、横軸が長軸)となった場合でも、保持器30が外輪11から抜け出すのを防止できる。
【0026】
ただし、
図8に示す第1変形例のように、突起部40は、径方向に対向する位置である2か所としてもよい。この場合、外輪11が楕円形状となった場合でも、楕円形状となった外輪11の長軸の位相を保持器30の突起部40が設けられた位相と一致させることにより、外輪11を軸方向から保持器30に容易に組み込むことができる。
【0027】
また、
図9に示すように、突起部40が占める円周方向長さの合計は、保持器30の軸方向端面の全周長さに対して、5~20%とすることで、外輪11への組み込みが容易となる。突起部40の円周方向長さの合計が、全周長さの5%未満だと保持力が低下し、20%を超えると、突起部40の剛性が大きく、組み込みが困難となる。
なお、
図9(a)は、第2変形例であり、突起部40の円周方向長さの合計が、保持器30の軸方向端面の全周長さの20%の場合を示している。
図9(b)は、第3変形例であり、突起部40の円周方向長さの合計が、保持器30の軸方向端面の全周長さの5%の場合を示している。
なお、上記した各円周方向長さは、円環部32の外周面の径方向位置における、円周方向に沿った長さである。
【0028】
さらに、係合部41の形状は、
図10に示す第4変形例のような、断面凸曲面状、即ち、略半球状であってもよい。略半球状の場合、保持器30をラジアルドローでなくアキシャルドローにて成形できるので、低コスト化が図れる。
【0029】
また、
図11に示す第5変形例のように、円周上の複数の突起部40に形成された各係合部41の形状は、同じでなくてもよい。さらに、各突起部40の円周方向の長さは、同じでなくてもよい。
【0030】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態の外輪付き円筒ころ軸受について、
図12を参照して説明する。
本実施形態の樹脂製の保持器30aでは、円環部32の側方に設けられる突起部40は、円周方向において、剛性の高い柱部33が配置される領域内(柱部33と同位相)に位置している。
具体的には、柱部33の円周方向中央となる位相(位置)に突起部40を形成しており、突起部40の周方向長さは、柱部33の周方向長さよりも小さくしている。なお、柱部33の周方向長さが小さい場合には、柱部の円周方向中央位置と突起部40の円周方向中央位置とを一致させた状態で、突起部40の円周方向長さを、柱部33の円周方向長さ以上とすることもできる。
【0031】
これにより、保持器30aと円筒ころ20を予め組み合わせた中間組立体を外輪11に組み付ける際(保持器30aの突起部40が弾性変形しながら外輪11の内向きフランジ部15を乗り越える時)に、保持器30の変形が抑えられて、円筒ころ20の保持器30aからの脱落を防止できる。
【0032】
なお、第一実施形態では、各突起部40は円周方向に関して等間隔に配置されているので、ころ数によって、突起部40と柱部33との円周方向の位置関係(位相)は任意となっている。一方、本実施形態では、各突起部40は、突起部40と柱部33との円周方向の位置関係を満足するためには、円周方向に関して等間隔に配置できるとは限らないが、できるだけ等配に近い位置に配置するのが好ましい。
その他の構成及び作用は、第1実施形態の外輪付き円筒ころ軸受10と同様である。
【0033】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態の外輪付き円筒ころ軸受について、
図13を参照して説明する。本実施形態の樹脂製の保持器30bでは、円環部32の側方に設けられる突起部40は、円周方向において、ポケット34が配置される領域内(ポケット34と同位相)に位置しており、また、突起部40が位置するポケット34の円周方向両側の柱部33には、円環部32から軸方向に延びるスリット42がそれぞれ形成される。スリット42は、柱部33の周方向中央となる部分に、軸方向中間となる位置まで形成されている。
【0034】
これにより、円筒ころ20が組み込まれた保持器30bに対して、外輪11が軸方向から挿入される際に、保持器30bの突起部40は、変形し易くなり、外輪11と保持器30bとの組立性を向上することができる。
その他の構成及び作用は、第1実施形態の外輪付き円筒ころ軸受10と同様である。
【0035】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態の外輪付き円筒ころ軸受について、
図14を参照して説明する。
本実施形態の外輪付き円筒ころ軸受10では、保持器30cは、上記実施形態と同様に、一対の円環部31,32、柱部33、及び突起部40を有しているが、保持器30cの材質を鉄製としている。
【0036】
この鉄製の保持器30cでは、円筒ころ20と保持器30cとの中間組立体を、外輪11に挿入後、保持器30cの軸方向他方側の円環部32の軸方向他方側端部から軸方向に延在する部分を、径方向外側に折り曲げて係合部41を有する突起部40を形成している。
また、突起部40は、第1実施形態と同様に、円周方向に関して等間隔に、3箇所設けられている。
その他の構成及び作用は、第1実施形態の外輪付き円筒ころ軸受10と同様である。
【0037】
尚、本発明は、前述した各実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が可能である。
例えば、第1実施形態では、円環部32の外径は、内向きフランジ部15の内径に対応して、円環部31の外径よりも小径としている。ただし、円環部32の外径は、内向きフランジ部15の径方向寸法を短くして、円環部31の外径と同じ寸法となるように大きくしてもよい。また、円環部31の外径を小さくして、一対の円環部31,32の外径を同じ寸法としてもよい。
【0038】
さらに、突起部は、軸方向他方側の円環部の軸方向他方側端面から軸方向一方側に延びるスリットを、突起部の周方向両側にそれぞれ設けることで形成されてもよい。この場合、突起部は、軸方向他方側の円環部に、該円環部の軸方向他方側端面から突出せずに形成される。
【符号の説明】
【0039】
10 外輪付き円筒ころ軸受
11 外輪
12 外輪軌道面
14 外向きフランジ部
15 内向きフランジ部
16 突出部
20 円筒ころ
30 保持器
31,32 円環部
33 柱部
34 ポケット
35 平面部
36 外径側抜け止め部
37 内径側抜け止め部
38,39 傾斜面
40 突起部
41 係合部