(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】ヘッドライト制御装置
(51)【国際特許分類】
B60Q 1/08 20060101AFI20240416BHJP
【FI】
B60Q1/08
(21)【出願番号】P 2020049124
(22)【出願日】2020-03-19
【審査請求日】2022-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】楠本 信平
(72)【発明者】
【氏名】竹之内 久美子
【審査官】河村 勝也
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-006192(JP,A)
【文献】特開2009-065360(JP,A)
【文献】特開2013-047934(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60Q 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前方を照射するヘッドライトを制御するヘッドライト制御装置であって、
車両前方の道路状況の視認性を検出する視認性検出部と、
前記ヘッドライトの輝度を制御するヘッドライト制御部と、を備え、
前記ヘッドライト制御部は、前記ヘッドライトが照射する光において、車両遠方側の部分の輝度と車両近傍側の部分の輝度との差である輝度勾配を調整可能であり、
さらに前記ヘッドライト制御部は、前記視認性検出部により視認性の悪化が検出されたときには、視認性の悪化が検出されないときと比較して、車両遠方側の部分の輝度に対して車両近傍側の部分の輝度を高くすることで、前記輝度勾配を大きくする輝度調整制御を実行
し、
前記車両が交差点を走行していることを検出可能な走行シーン検出部を更に備え、
前記ヘッドライト制御部は、前記走行シーン検出部により前記車両が交差点を右折又は左折することが検出されたときには、前記視認性検出部により視認性の悪化が検出されたとしても、前記輝度調整制御を実行しないことを特徴とするヘッドライト制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のヘッドライト制御装置において、
前記ヘッドライト制御部は、前記輝度調整制御において、車両遠方側の部分の輝度を維持したまま、車両近傍側の部分の輝度を高くすることで、前記輝度勾配を大きくすることを特徴とするヘッドライト制御装置。
【請求項3】
車両前方を照射するヘッドライトを制御するヘッドライト制御装置であって、
車両前方の道路状況の視認性を検出する視認性検出部と、
前記ヘッドライトの輝度を制御するヘッドライト制御部と、を備え、
前記ヘッドライト制御部は、前記ヘッドライトが照射する光において、車両遠方側の部分の輝度と車両近傍側の部分の輝度との差である輝度勾配を調整可能であり、
さらに前記ヘッドライト制御部は、前記視認性検出部により視認性の悪化が検出されたときには、視認性の悪化が検出されないときと比較して、車両遠方側の部分の輝度に対して車両近傍側の部分の輝度を高くすることで、前記輝度勾配を大きくする輝度調整制御を実行し、
前記車両の周囲の光である環境光の光量を検出可能な環境光検出部を更に備え、
前記ヘッドライト制御部は、前記環境光検出部により所定量以上の環境光が検出されたときには、前記視認性検出部により視認性の悪化が検出されたとしても、前記輝度調整制御を実行しないことを特徴とするヘッドライト制御装置。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1つに記載のヘッドライト制御装置において、
前記ヘッドライトは複数個のLED光源を有し、
前記ヘッドライト制御部は、前記輝度調整制御において、前記複数個のLED光源の輝度をそれぞれ調整することにより、前記輝度勾配を大きくすることを特徴とするヘッドライト制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示された技術は、ヘッドライト制御装置に関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来より、夜間雨天時などのように、車両のドライバの視認性が悪化するような環境において、ドライバが道路状況を認識できるようにする技術が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、道路上での車両位置の視認が困難な状況であると判断したときに、車両に設置されかつ車外環境の情報を取り込むカメラにより撮影された画像を、カーナビのディスプレイやヘッドマウントディスプレイに表示する運転支援装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、本願発明者らが鋭意研究したところ、夜間雨天時などに車両前方の道路状況の視認性が悪化する原因の1つは、ドライバの瞳孔が縮瞳して小さくなることにあることが分かった。すなわち、夜間において、対向車のヘッドライトの光等からなる環境光がドライバに瞳に入射されると、ドライバの瞳孔が小さくなる。特に、雨天時には、環境光が水面に反射してドライバの瞳に入力される環境光の量が多くなるため、ドライバの瞳孔が小さくなりやすい。瞳孔が小さくなると、道路そのものからの反射光が入射されにくくなるため、ドライバの道路状況の視認能力が悪化して、車両前方の道路状況の視認性が悪化する。
【0006】
特許文献1に記載の技術のようにカーナビのディスプレイ等に車外環境を示す画像を表示すれば、道路状況の確認はしやすくなる。しかしながら、ドライバの瞳孔は小さいままであるため、ドライバの視認能力の大きな改善は望めない。特に、カメラで撮影する程度では、車両遠方側の道路状況を認識する能力は改善しがたい。
【0007】
ここに開示された技術は、道路状況の視認性が悪化するような環境において、ドライバの視認能力を改善して、車両前方の道路状況の視認性が悪化するのを抑制する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、ここに開示された技術では、車両前方を照射するヘッドライトを制御するヘッドライト制御装置を対象として、車両前方の道路状況の視認性を検出する視認性検出部と、前記ヘッドライトの輝度を制御するヘッドライト制御部と、を備え、前記ヘッドライト制御部は、前記ヘッドライトが照射する光において、車両遠方側の部分の輝度と車両近傍側の部分の輝度との差である輝度勾配を調整可能であり、さらに前記ヘッドライト制御部は、前記視認性検出部により視認性の悪化が検出されたときには、視認性の悪化が検出されないときと比較して、車両遠方側の部分の輝度に対して車両近傍側の部分の輝度を高くすることで、前記輝度勾配を大きくする輝度調整制御を実行する、という構成とした。
【0009】
すなわち、本願発明者らが鋭意研究したところ、車両遠方側の輝度に対して車両近傍側の輝度が高くなるようにヘッドライトの光の輝度勾配が変化すると、ドライバの瞳孔が散瞳して大きくなることが分かった。このため、前記構成のように、視認性の悪化が検出されたときには、ヘッドライトの光の輝度勾配を調整することで、瞳孔を大きくすることができる。これにより、ドライバの視認能力を改善されて、車両前方の道路状況の視認性が悪化するのを抑制することができる。
【0010】
前記ヘッドライト制御装置において、前記ヘッドライト制御部は、前記輝度調整制御において、車両遠方側の部分の輝度を維持したまま、車両近傍側の部分の輝度を高くすることで、前記輝度勾配を大きくする、という構成でもよい。
【0011】
この構成によると、輝度勾配を大きくしてドライバの瞳孔を散瞳させつつ、車両遠方側を十分な輝度で照らすことができる。この結果、ドライバの視認能力をより効果的に改善することができる。
【0012】
前記ヘッドライト制御装置において、前記車両が交差点を走行していることを検出可能な走行位置検出部を更に備え、前記ヘッドライト制御部は、前記走行シーン検出部により前記車両が交差点を右折又は左折することが検出されたときには、前記視認性検出部により視認性の悪化が検出されたとしても、前記輝度調整制御を実行しない、という構成でもよい。
【0013】
すなわち、交差点を右折又は左折するときには、車両遠方よりも車両近傍の道路状況を注視する必要がある。このため、輝度調整制御によってドライバの瞳孔を大きくする必要がない。このため、前記構成により、ドライバの視認能力を一層効果的に改善することができる。
【0014】
前記ヘッドライト制御装置において、前記車両の周囲の光である環境光の光量を検出可能な環境光検出部を更に備え、前記ヘッドライト制御部は、前記環境光検出部により所定量以上の環境光が検出されたときには、前記視認性検出部により視認性の悪化が検出されたとしても、前記輝度調整制御を実行しない、という構成でもよい。
【0015】
すなわち、環境光の光量が高いときには、ヘッドライトの光の輝度勾配を大きくしたとしても、該輝度勾配が環境光により打ち消されてしまって、ドライバの瞳孔を大きくしにくい。このため、環境光の光量が高いときには、輝度調整制御をしないようにする。これにより、車両の電費を改善することができる。
【0016】
前記ヘッドライト制御装置において、前記ヘッドライトは複数個のLED光源を有し、前記ヘッドライト制御部は、前記輝度調整制御において、前記複数個のLED光源の輝度をそれぞれ調整することにより、前記輝度勾配を大きくする、という構成でもよい。
【0017】
この構成によると、容易に輝度勾配を調整することができる。この結果、ドライバの視認能力を簡単に改善することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、ここに開示された技術によると、道路状況の視認性が悪化するような環境において、ドライバの視認能力が改善されて、車両前方の道路状況の視認性が悪化するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】例示的な実施形態1に係る制御装置により制御されるヘッドライトを備える車両を示す概略図である。
【
図3】ロービームユニットのLED配列を示す模式図である。
【
図5】輝度調整制御によるドライバの視認能力の変化を実験した際の実験条件を示す図である。
【
図6】輝度調整制御の有無と被験者の瞳孔径との関係を示すグラフである。
【
図7】輝度調整制御の有無と被験者の視認距離との関係を示すグラフである。
【
図8】輝度調整制御を実行する際のECUの処理動作を示すフローチャートである。
【
図9】実施形態2に係るECUの構成を示すブロック図である。
【
図10】実施形態2に係るECUが実行する輝度調整制御の処理動作を示すフローチャートである。
【
図11】実施形態3に係るECUが実行する輝度調整制御の処理動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、例示的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
(実施形態1)
図1は、本実施形態1に係る制御装置(後述のボディ系ECU30)により制御される一対のヘッドライト20を有する車両1を示す。車両1は四輪の自動車であり、不図示の駆動装置により、4つの車輪2のうち左右対称状に位置する2輪(ここでは前輪)を駆動する。これにより、車両1は移動(走行)する。以下の説明では、車両1の前、後、左、右、上及び下を、それぞれ単に前、後、左、右、上及び下という。
【0022】
一対のヘッドライト20は、車両1の前側部分において左右にそれぞれ設けられていて、車両1の前方を照射する。詳細な図示は省略しているが、各ヘッドライト20は、車両1のフロントフェンダに連続するようにそれぞれ配置されている。ヘッドライト20は、バッテリ3と電気的に接続されている。ヘッドライト20は、バッテリ3から供給される電力により点灯する。
【0023】
図2に示すように、ヘッドライト20は、ロービームユニット21と、ハイビームユニット22とを備えている。ロービームユニット21は、車両前方のやや下方に指向するロービームを発する。ロービームは、ヘッドライト20が照射する光のうち車両近傍側の部分の光を形成する。ハイビームユニット22は、車両前方にほぼ水平方向に指向するハイビームを発する。ハイビームは、ヘッドライト20が照射する光のうち車両遠方側の部分の光を形成する。
【0024】
ロービームユニット21は、ロービームを発する複数のLED光源23aからなるLEDアレイ23及び反射鏡を備えている。LEDアレイ23は、
図3に示すように、上下方向に複数個並んだLED光源23aの列が、横方向(車幅方向)に複数列に並んで形成されている。各LED光源23aは、それぞれ独立して輝度を調整することができるように構成されている。尚、LED光源23aの列数は特に制限されない。また、2個以上のLED光源23aがあれば、各列のLED光源23aの数は特に限定されない。特に、各列においてLED光源23aの個数が異なっていてもよい。
【0025】
ハイビームユニット22も、ロービームユニット21と同様に複数のLED光源からなるLEDアレイ24を有する。LEDアレイ24における複数のLED光源の配列は、ロービームユニット21aのLED光源23aの配列と同じでも良いし、異なってよい。
【0026】
ヘッドライト20は、ボディ系ECU30(Electrical Control Unit、以下、単にECU30という)により制御される。ECU30は、プロセッサと、複数のモジュールを有するメモリ等から構成されるコンピュータハードウェアである。ECU30は、ヘッドライト20の制御の他に、他ドアのロック機構やパワーウィンドウ装置などのボディ系デバイスの制御を行う。
【0027】
図4に示すように、ECU30は、複数のセンサからの入力された情報に基づいて、ヘッドライト20への制御信号を生成する。複数のセンサは、車両1のボディ等に設けられかつ車外環境を撮影する複数の車外カメラ11と、ドライバからのヘッドライト20の点灯要求を受けるヘッドライトスイッチ12と、車両1の車速を検出する車速センサ13とを含む。
【0028】
各車外カメラ11は、車両1の周囲を水平方向に360°撮影できるようにそれぞれ配置されている。ECU30は、各車外カメラ11で撮影された画像から、車両1の走行シーンを判定する。車外カメラ11は、視認性検出部、走行位置検出部、及び環境光検出部の一部である。
【0029】
ヘッドライトスイッチ12は、例えば、ウィンカーレバーに設けられている。ヘッドライトスイッチ12がオンになったときには、後述するヘッドライト制御部32によりヘッドライト20が作動して、車両1の前方に光が照射される。
【0030】
ECU30は、車外カメラ11により撮影された車外環境を示す情報から車両1の走行シーンを判定する走行シーン判定部31を有する。走行シーン判定部31は、車速センサ13で検出される車速に基づいて、車両1が走行中であるか否かを判定する。走行シーン判定部31は、車外カメラ11が撮影した画像から車両1が走行している時間帯(日中、夜間など)、走行位置(直進路、交差点、市街地、郊外など)、天候(晴れ、雨、雪)、道路状態(路面が濡れている、雪が積もっているなど)、周囲の環境(店舗からの光や街灯などの環境光の有無など)を特定する。これにより、走行シーン判定部31は、車外カメラ11で設営された画像から、車両前方の視認性、車両が交差点を走行していること、及び車両周囲の環境光を検出することができる。つまり、走行シーン判定部31は、視認性検出部、走行位置検出部、及び環境光検出部の一部を構成する。走行シーン判定部31は、メモリに設けられたモジュールの一部を構成する。尚、走行シーン判定部31は、例えば、不図示のワイパーが作動しているか否かに基づいて、天候を判定してもよい。
【0031】
走行シーン判定部31は、特定した走行シーンから車両前方の道路状況の視認性が悪化しているか否かを判定する。例えば、車両1が夜間に濡れた路面を走行しているときには、車両1の周囲の環境光が路面に反射して、道路上の白線が見えにくくなるため、車両前方の道路状況の視認性が悪化する。他にも、車両1が日中にトンネルに進入したときには、視界が急に暗くなるため、車両前方の道路状況の視認能力が悪化する。走行シーン判定部31は、前述のような走行シーンが特定されたときには、車両前方の道路状況の視認性が悪化していると判定する。走行シーン判定部31が車両前方の道路状況の視認性が悪化していると判定する走行シーンは、予めテーブル等により特定されていてもよい。尚、ここでいう、道路状況とは、白線及び黄色線の位置や、道路上の障害物の有無などのことをいう。
【0032】
走行シーン判定部31は、特定した走行シーンに関する情報及び車両前方の道路状況の視認性の悪化に関する情報を後述のヘッドライト制御部32に出力する。
【0033】
ECU30は、ヘッドライト20の作動を制御するヘッドライト制御部32を有する。ヘッドライト制御部32は、ヘッドライト20の点灯要求があったとき(ここでは、ヘッドライトスイッチ12がオンにされたとき)に、ヘッドライト20を点灯させる。また、ヘッドライト制御部32は、ドライバから照射状態の切り替え要求があったときには、ヘッドライト20の照射状態を切り替える。ヘッドライト制御部32は、メモリに設けられたモジュールの一部を構成する。
【0034】
ヘッドライト制御部32は、ヘッドライト20が車両前方を照射する光において、車両遠方側の部分の輝度と車両近傍側の部分の輝度との差である輝度勾配を調整可能に構成されている。ヘッドライト制御部32は、ヘッドライト20を構成する複数のLED光源の輝度をそれぞれ調整することで、ヘッドライト20の照射光の輝度勾配(以下、単にヘッドライト20の輝度勾配という)を調整する。例えば、ヘッドライト制御部32は、各LED光源のうち車両近傍部分に光を照射するロービームユニット21のLED光源23aの輝度を、車両遠方部分に光を照射するハイビームユニット22のLED光源の輝度よりも高くすることで、ヘッドライト20の輝度勾配を調整する。
【0035】
ここで、前述したように、夜間に路面が濡れているときや日中にトンネルに進入したときには、車両前方の道路状況の視認性が悪化する。本願発明者らが鋭意研究したところ、これらの状況において、道路状況の視認性が悪化する原因の1つは、ドライバの視認能力が悪化するためであると分かった。具体的には、夜間に路面が濡れているときには、店舗の光や対向車のヘッドライトの光などが路上の水面に反射して、ドライバの眼に入射される。これにより、ドライバの眼の瞳孔が縮瞳して小さくなる。ドライバの瞳孔が小さくなると、該瞳孔に入射される光量が減るため、車両前方の暗い部分が見えにくくなって、ドライバの視認能力が悪化する。また、日中であれば、ドライバの眼の瞳孔が小さくなっているため、トンネルに進入して視界が急に暗くなるとドライバの視認能力が悪化する。
【0036】
これに対して、本願発明者らがさらに研究したところ、ヘッドライト20が車両前方を照射する光において、輝度勾配を調整すると、ドライバの瞳孔が散瞳して大きくなり、ドライバの視認能力が改善することがわかった。具体的には、ヘッドライト20の輝度勾配を通常よりも大きくすることで、ドライバの視認能力が改善することがわかった。このことについて、
図5~
図8を参照しながら説明する。
【0037】
図5は、輝度調整制御によるドライバの視認能力の変化を実験した際の実験条件を示す。道路Rは、直線路であって、車両の車幅方向外側にそれぞれ白線が引かれている。道路Rは、路面に散水されており、雨天時や積雪後の道路状況を再現した。被験者H1は車両Cの運転席に着座して車両前方の道路Rが見える状態にした。実験は、夜間にヘッドライト20から前方に光を照射した状態で行った。
【0038】
本実験では、被験者H1の瞳孔径の計測と被験者H1の視認距離の計測とを行った。瞳孔径の観測は、車両Cの車室内に被験者H1の瞳孔を観測可能な車内カメラを設置して、該車内カメラが撮影した画像から算出した。被験者H1の視認距離は、計測者H2を道路Rの白線に沿って前方に移動させて、被験者H1に白線が見えなくなる位置で計測者H2に止まるように指示を出させて、計測者H2が止まった位置から車両Cまでの距離を計測することで算出した。これらの計測を、ヘッドライト20の輝度勾配を調整しない場合(通常の状態)と、ヘッドライト20の輝度勾配を通常よりも大きくした場合とで行った。ヘッドライト20の輝度勾配は、車両近傍の輝度を高くすることで調整した。
【0039】
図6は被験者H1の瞳孔径を比較したグラフである。輝度小は通常のヘッドライト20の照射状態における輝度勾配であり、輝度大は輝度勾配を大きくした状態である。
図6に示すように、輝度勾配を大きくした方が被験者H1の瞳孔径が大きくなることが分かる。
【0040】
また、
図7は被験者H1の視認距離を比較したグラフである。輝度小は通常のヘッドライト20の照射状態における輝度勾配であり、輝度大は輝度勾配を大きくした状態である。
図7に示すように、輝度勾配を大きくした方が被験者H1の視認距離が長くなることが分かる。これは、被験者H1の瞳孔径が大きくなることで、瞳孔に入射される光が多くなって、被験者H1がいわゆる夜目が利く状態となっているためである。
【0041】
このように、本願発明者らの研究により、ヘッドライト20の輝度勾配を調整することで、ドライバの視認能力が改善することが分かった。そこで、本実施形態1では、走行シーン判定部31により、車両前方の道路状況の視認性が悪化したことが検出されたときには、ヘッドライト制御部32によりヘッドライト20の輝度勾配を大きくする輝度調整制御を実行するようにした。具体的には、ヘッドライト制御部32は、輝度調整制御において、ヘッドライト20の照射する光において、車両遠方側の部分の輝度に対して車両近傍側の部分の輝度を高くすることで、輝度勾配を大きくするようにした。さらに詳細には、ヘッドライト制御部32は、輝度調整制御において、車両遠方側の部分を照射するハイビームユニット22の各LED光源の輝度を維持した状態で、車両近傍側の部分を照射するロービームユニット21の各LED光源23aの輝度を高くすることで、輝度勾配を大きくするようにした。
【0042】
LED光源23aの輝度を高くするには、例えば、LED光源23aを作動させるためのパルス幅を大きくする方法が考えられる。尚、輝度調整制御において、ヘッドライト制御部32は、車両近傍側の部分を照射するためのロービームユニット21の各LED光源23aの輝度を一律で高くしてもよいし、各LED光源23aの輝度を照射位置が車両1に近いほど輝度が高くなるように調整してもよい。
【0043】
次に、
図8を参照しながら輝度調整制御を実行する際のECU30の処理動作を示す。
【0044】
先ず、ステップS101において、ECU30は、各種センサ11~13からデータを取得する。
【0045】
次にステップS102において、ECU30は、ドライバからヘッドライト20の点灯要求があるか否かを判定する。ECU30は、ヘッドライトスイッチ12がオン状態であるか否かに基づいて、ヘッドライト20の点灯要求があるか否かを判定する。ECU30は、ヘッドライト20の点灯要求があるYESのときには、ステップS103に進む。一方で、ECU30は、ヘッドライト20の点灯要求がないNOのときには、リターンする。
【0046】
前記ステップS103では、ECU30は、車両1が走行中であるか否かを判定する。ECU30は、車速センサ13により検出される車速が0km/hよりも大きいときに、車両1が走行中であると判定する。ECU30は、車両1が走行中であるYESのときには、ステップS104に進む。一方で、ECU30は、車両1が走行中でないNOのときにはステップS106に進む。
【0047】
前記ステップS104では、ECU30は、車両前方の道路状況の視認性が悪化しているか否かを判定する。ECU30は、車外カメラ11が撮影した画像に基づいて走行シーンを特定することで、道路状況の視認性が悪化しているか否かを判定する。ECU30は、車両前方の道路状況の視認性が悪化しているYESのときには、ステップS105に進む。一方で、ECU30は、車両前方の道路状況の視認性が悪化していないNOのときには、ステップS106に進む。
【0048】
前記ステップS105では、ECU30は、輝度調整制御を実行して、ロービームユニット21のLED光源23aの輝度を上昇させる。これにより、輝度勾配が大きくなって、ドライバの瞳孔が散瞳して、ドライバの視認能力が改善する。これにより、車両前方の道路状況の視認性が改善される。ステップS105の後はリターンする。
【0049】
前記ステップS106では、ECU30は、輝度調整制御を実行せずに、ヘッドライト20の輝度を現在の輝度に維持する。ステップS106の後はリターンする。
【0050】
したがって、本実施形態1では、車両前方の道路状況の視認性を検出する車外カメラ11及び走行シーン判定部31と、ヘッドライト20の輝度を制御するヘッドライト制御部32と、を備え、ヘッドライト制御部32は、ヘッドライト20が照射する光において、車両遠方側の部分の輝度と車両近傍側の部分の輝度との差である輝度勾配を調整可能であり、さらにヘッドライト制御部32は、走行シーン判定部31により視認性の悪化が検出されたときには、視認性の悪化が検出されないときと比較して、輝度勾配を大きくする輝度調整制御を実行する。これにより、道路状況の視認性の悪化が検出されたときには、ドライバの瞳孔を大きくすることができる。この結果、ドライバの視認能力を改善されて、車両前方の道路状況の視認性が悪化するのを抑制することができる。
【0051】
特に、本実施形態1において、ヘッドライト制御部32は、輝度調整制御において、車両遠方側の部分の輝度を維持したまま、車両近傍側の部分の輝度を高くすることで、輝度勾配を大きくする。これにより、ドライバの瞳孔を散瞳させつつ、車両遠方側を十分な輝度で照らすことができる。この結果、ドライバの視認能力をより効果的に改善することができる。
【0052】
また、本実施形態1において、ヘッドライト20は複数個のLED光源を有し、ヘッドライト制御部32は、輝度調整制御において、複数個のLED光源の輝度(特にロービームユニット21のLED光源23a)をそれぞれ調整することにより、輝度勾配を大きくする。容易に輝度勾配を調整することができる。この結果、ドライバの視認能力を簡単に改善することができる。
【0053】
(実施形態2)
以下、実施形態2について、図面を参照しながら詳細に説明する。尚、以下の説明において前記実施形態1と共通の部分については、同じ符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0054】
実施形態2では、
図9に示すように、ECU30に操舵トルクセンサ14の検出結果が入力される点で、前記実施形態1とは異なる。また、実施形態2では、ヘッドライト制御部32が輝度調整制御を実行するための条件が、前記実施形態1とは異なる。具体的には、ヘッドライト制御部32は、走行シーン判定部31により、車両1が交差点を右折又は左折中であると判定されたときには、輝度調整制御を実行しない。車両1が交差点を右折又は左折するときには、ドライバは車両遠方よりも車両近傍の道路状況を注視する必要がある。輝度調整制御を実行すると
図7に示すように視認可能距離を大きくすることができるが、車両近傍の道路状況を注視する必要があるときにはそのメリットが小さい。一方で、車両1が交差点を直進するときには、ドライバは車両遠方の道路状況を注視する必要があるため、輝度調整制御により認可能距離を大きくして、ドライバの視認能力を改善する必要がある。
【0055】
ECU30の走行シーン判定部31は、車外カメラ11が撮影した画像から車両1が交差点内に位置しているか否かを判定する。走行シーン判定部31は、操舵トルクセンサ14の検出結果から車両1が右折又は左折中であるか否かを判定する。
【0056】
図10は、実施形態2に係るECU30により輝度調整制御を実行する際のフローチャートである。
【0057】
先ず、ステップS201において、ECU30は、各種センサ11~14からデータを取得する。
【0058】
次にステップS202において、ECU30は、ドライバからヘッドライト20の点灯要求があるか否かを判定する。ECU30は、ヘッドライト20の点灯要求があるYESのときには、ステップS203に進む。一方で、ECU30は、ヘッドライト20の点灯要求がないNOのときには、リターンする。
【0059】
前記ステップS203では、ECU30は、車両1が走行中であるか否かを判定する。ECU30は、車両1が走行中であるYESのときには、ステップS204に進む。一方で、ECU30は、車両1が走行中でないNOのときにはステップS207に進む。
【0060】
前記ステップS204では、ECU30は、車両前方の道路状況の視認性が悪化しているか否かを判定する。ECU30は、車両前方の道路状況の視認性が悪化しているYESのときには、ステップS205に進む。一方で、ECU30は、車両前方の道路状況の視認性が悪化していないNOのときには、ステップS207に進む。
【0061】
前記ステップS205では、ECU30は、車両1が交差点を右折又は左折中であるか否かを判定する。ECU30は、車外カメラ11で撮影された画像と操舵トルクセンサ14の検出結果から車両1が交差点を右折又は左折中であるか否かを判定する。ECU30は、車両1が交差点を右折又は左折しているYESのときには、ステップS206に進む。一方で、ECU30は、車両1が交差点を右折も左折もしていないNOのときには、ステップS207に進む。
【0062】
前記ステップS206では、ECU30は、輝度調整制御を実行して、ロービームユニット21のLED光源23aの輝度を上昇させる。ステップS206の後はリターンする。
【0063】
前記ステップS207では、ECU30は、輝度調整制御を実行せずに、ヘッドライト20の輝度を現在の輝度に維持する。ステップS207の後はリターンする。
【0064】
尚、車両1が交差点での右折及び左折が完了した後は、輝度調整制御を実行する。
【0065】
この実施形態2の構成であっても、ドライバの認識能力を改善することができ、車両前方の道路状況の視認性を改善することができる。また、バッテリ3の消費電力を節約することができる。
【0066】
(実施形態3)
以下、実施形態3について、図面を参照しながら詳細に説明する。尚、以下の説明において前記実施形態1及び2と共通の部分については、同じ符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0067】
実施形態3では、ヘッドライト制御部32が輝度調整制御を実行するための条件が、前記実施形態1及び2とは異なる。具体的には、ヘッドライト制御部32は、走行シーン判定部31により、車両周囲の環境光の量が所定量以上であると判定されたときには、輝度調整制御を実行しない。これは、車両周囲の環境光が多ければ、輝度調整制御を実行したとしても、環境光の影響が強く、ヘッドライト20の光の輝度勾配がほとんど認識できず、ドライバの視認能力がほとんど改善しないためである。また、ドライバの視認能力の改善が見込めないシーンで輝度調整制御を行うと、バッテリを無駄に消費することになるためである。
【0068】
走行シーン判定部31は、車外カメラ11が撮影した画像に基づいて、車両周囲の環境光が所定量以上であるか否かを判定する。尚、所定量は、街灯や道路周辺の店舗が多数存在し、光の多い市街地と同程度の明るさに設定されることが好ましい。
【0069】
図11は、実施形態2に係るECU30により輝度調整制御を実行する際のフローチャートである。
【0070】
先ず、ステップS301において、ECU30は、各種センサ11~13からデータを取得する。
【0071】
次にステップS302において、ECU30は、ドライバからヘッドライト20の点灯要求があるか否かを判定する。ECU30は、ヘッドライト20の点灯要求があるYESのときには、ステップS303に進む。一方で、ECU30は、ヘッドライト20の点灯要求がないNOのときには、リターンする。
【0072】
前記ステップS303では、ECU30は、車両1が走行中であるか否かを判定する。ECU30は、車両1が走行中であるYESのときには、ステップS304に進む。一方で、ECU30は、車両1が走行中でないNOのときにはステップS307に進む。
【0073】
前記ステップS304では、ECU30は、車両前方の道路状況の視認性が悪化しているか否かを判定する。ECU30は、車両前方の道路状況の視認性が悪化しているYESのときには、ステップS305に進む。一方で、ECU30は、車両前方の道路状況の視認性が悪化していないNOのときには、ステップS307に進む。
【0074】
前記ステップS305では、ECU30は、車両周囲の環境光が所定量以上であるか否かを判定する。ECU30は、車外カメラ11で撮影された画像から環境光が所定量以上であるか否かを判定する。ECU30は、車両周囲の環境光が所定量以上であるYESのときには、ステップS306に進む。一方で、ECU30は、車両周囲の環境光が所定量未満であるNOのときには、ステップS307に進む。
【0075】
前記ステップS306では、ECU30は、輝度調整制御を実行して、ロービームユニット21のLED光源23aの輝度を上昇させる。ステップS306の後はリターンする。
【0076】
前記ステップS307では、ECU30は、輝度調整制御を実行せずに、ヘッドライト20の輝度を現在の輝度に維持する。ステップS307の後はリターンする。
【0077】
この実施形態3の構成であっても、ドライバの認識能力を改善することができ、車両前方の道路状況の視認性を改善することができる。また、バッテリ3の消費電力を節約することができる。
【0078】
(その他の実施形態)
ここに開示された技術は、前述の実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
【0079】
例えば、前記実施形態1~3では、ロービームユニット21のLED光源23aの輝度を高くすることで、輝度勾配を調整していた。これに限らず、ハイビームユニット22のLED光源の輝度を低くすることで、輝度勾配を調整してもよい。また、ロービームユニット21のLED光源23aの輝度を高くするとともに、ハイビームユニット22のLED光源の輝度を低くすることで、輝度勾配を調整してもよい。さらに、各LED光源自体の輝度を変更することなく、点灯させるLED光源の数を変更することで、輝度勾配を調整するようにしてもよい。
【0080】
また、前記実施形態1~3では、ドライバがヘッドライトスイッチ12をオン状態にしたときにヘッドライト要求があったと判定していた。これに限らず、走行シーン判定部31によりヘッドライト20を点灯させる必要があると判定されたとき(夜間走行時、トンネルへの進入など)に、ヘッドライト要求があったと判定してもよい。このような、自動点灯式の場合でも、前述のような輝度調整制御によりドライバの視認能力を改善して、車両前方の道路状況の視認性を向上させることができる。
【0081】
また、前記実施形態2では、走行シーン判定部31は、車外カメラ11が撮影した画像から車両1が交差点内に位置しているか否かを判定していた。これに限らず、走行シーン判定部31は、地図情報及びGPSからの情報に基づいて車両1が交差点内に位置しているか否かを判定してもよい。また、走行シーン判定部31は、操舵トルクセンサ14の検出結果から車両1の右折及び左折を判定していた。これに限らず、走行シーン判定部31は、ドライバによるウィンカーの操作状態から車両1の右折及び左折を判定してもよい。さらに、交差点を直進するときには輝度調整制御を実行するようにしていたが、交差点を直進するときでも、例えば、交差点を通過するまでの間は輝度調整制御をしないようにしてもよい。
【0082】
前述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本開示の範囲を限定的に解釈してはならない。本開示の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本開示の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0083】
ここに開示された技術は、車両の前方を照射するヘッドライトを制御するヘッドライト制御装置として有用である。
【符号の説明】
【0084】
1 車両
11 車外カメラ(視認性検出部、環境光検出部)
14 操舵トルクセンサ(走行シーン検出部)
20 ヘッドライト
21a LED光源
30 ECU
31 走行シーン判定部(視認性検出部、走行シーン検出部、環境光検出部)
32 ヘッドライト制御部