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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】濃度測定装置及び濃度測定方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/16 20060101AFI20240416BHJP
【FI】
A61M1/16 117
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020061499
(22)【出願日】2020-03-30
(65)【公開番号】P2021159159
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000153030
【氏名又は名称】株式会社ジェイ・エム・エス
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(72)【発明者】
【氏名】山本 晃治
(72)【発明者】
【氏名】星野 歩
【審査官】白土 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-017990(JP,A)
【文献】特開2017-127635(JP,A)
【文献】特表2014-518517(JP,A)
【文献】特開2018-112462(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/16
G01N 21/00-21/01
G01N 21/17-21/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透析液を用いた血液浄化療法により除去される尿素様物質及び漏出する蛋白の透析排液中のそれぞれの濃度を測定する濃度測定装置であって、
透析排液が流れる測定用流路と、
主に尿素様物質により減衰する第1の波長の光で前記測定用流路を流れる透析排液の吸光度を測定する第1の吸光度測定部と、
蛋白及び尿素様物質により減衰する第2の波長の光で前記測定用流路を流れる透析排液の吸光度を測定する第2の吸光度測定部と、
前記第1の吸光度測定部で測定される吸光度及び前記第2の吸光度測定部で測定される吸光度に基づいて、尿素様物質濃度及び蛋白濃度を算出する濃度算出部と、を備え、
前記濃度算出部は、前記第1の吸光度測定部により測定された吸光度に基づいて尿素様物質濃度を算出し、算出された前記尿素様物質濃度、及び前記第2の吸光度測定部により測定された吸光度に基づいて、蛋白濃度を算出し、
前記第1の吸光度測定部は、前記第1の波長の光を前記測定用流路に向かって照射する第1の発光部と、前記第1の発光部と前記測定用流路を挟んで対向するように配置され、前記第1の発光部から照射された前記第1の波長の光を受光する第1の受光部と、を有し、
前記第2の吸光度測定部は、前記第2の波長の光を前記測定用流路に向かって照射する第2の発光部と、前記第2の発光部と前記測定用流路を挟んで対向するように配置され、前記第2の発光部から照射された前記第2の波長の光を受光する第2の受光部と、を有し、
前記第1の波長の光は、300nm以上350nm以下の範囲の波長帯域を有する光であり、
前記第2の波長の光は、250nm以上300nm未満の範囲の波長帯域を有する光である濃度測定装置。
【請求項2】
前記第1の波長における尿素様物質濃度と吸光度との関係を示す尿素様物質検量情報と、前記第2の波長における所定濃度の尿素様物質を含んだ状態における蛋白濃度と吸光度との関係を示す蛋白検量情報であって複数の所定濃度の尿素様物質に対応する複数の蛋白検量情報と、を予め記憶する記憶部を更に備え、
前記濃度算出部は、前記第1の吸光度測定部により測定された吸光度及び前記記憶部に記憶された前記尿素様物質検量情報に基づいて尿素様物質濃度を算出し、算出された該尿素様物質濃度の尿素様物質を含む前記蛋白検量情報及び前記第2の吸光度測定部により測定された吸光度に基づいて、蛋白濃度を算出する請求項1に記載の濃度測定装置。
【請求項3】
前記測定用流路は、血液浄化装置が備える透析排液が流れるラインと接続され、
前記濃度算出部は、前記ラインから連続的に排出される透析排液中の経時変化する尿素様物質濃度及び蛋白濃度を連続的に測定する請求項1又は2に記載の濃度測定装置。
【請求項4】
透析液を用いた血液浄化療法により除去される尿素様物質及び漏出する蛋白の透析排液中のそれぞれの濃度を測定する濃度測定方法であって、
主に尿素様物質により減衰する第1の波長の光で測定用流路を流れる透析排液の吸光度を測定する第1の吸光度測定工程と、
蛋白及び尿素様物質により減衰する第2の波長の光で前記測定用流路を流れる透析排液の吸光度を測定する第2の吸光度測定工程と、
前記第1の吸光度測定工程で測定された吸光度に基づいて、尿素様物質濃度を算出する第1の濃度算出工程と、
前記第1の濃度算出工程で算出された尿素様物質濃度、及び前記第2の吸光度測定工程により測定された吸光度に基づいて、蛋白濃度を算出する第2の濃度算出工程と、
を備え
前記第1の吸光度測定工程では、第1の発光部から前記第1の波長の光を前記測定用流路に向かって照射し、前記第1の発光部と前記測定用流路を挟んで対向するように配置される第1の受光部が前記第1の発光部から照射された前記第1の波長の光を受光し、
前記第2の吸光度測定工程では、第2の発光部から前記第2の波長の光を前記測定用流路に向かって照射し、前記第2の発光部と前記測定用流路を挟んで対向するように配置される第2の受光部が前記第2の発光部から照射された前記第2の波長の光を受光し、
前記第1の波長の光は、300nm以上350nm以下の範囲の波長帯域を有する光であり、
前記第2の波長の光は、250nm以上300nm未満の範囲の波長帯域を有する光である濃度測定方法。
【請求項5】
前記第1の波長における尿素様物質濃度と吸光度との関係を示す尿素様物質検量情報と、前記第2の波長における所定濃度の尿素様物質を含んだ状態における蛋白濃度と吸光度との関係を示す蛋白検量情報であって複数の所定濃度の尿素様物質に対応する複数の蛋白検量情報と、が予め作成されており、
前記第1の濃度算出工程において、前記第1の吸光度測定工程で測定された吸光度及び前記尿素様物質検量情報に基づいて尿素様物質濃度を算出し、
前記第2の濃度算出工程において、前記第1の濃度算出工程で算出された濃度の尿素様物質を含む前記蛋白検量情報及び前記第2の吸光度測定工程により測定された吸光度に基づいて蛋白濃度を算出する請求項に記載の濃度測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透析排液中の尿素様物質及び蛋白の濃度を測定する濃度測定装置及び濃度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血液透析や血液濾過透析等の透析液を用いる血液浄化療法は、腎不全等の患者に対して行われ、患者の血液から余分な水分や老廃物を除去する目的で行われる。血液浄化療法は、週3回程度実施され、その治療効果は老廃物である尿素等の溶質除去率により評価される。溶質除去率を求める方法としては、患者の血液を定期的に検査する方法の他に、患者の負担が少ない非侵襲的な方法である透析排液中の溶質の濃度を測定する方法が知られている。例えば、特許文献1には、透析排液に紫外光を照射し、その吸光度を測定することにより尿素濃度を測定する技術が提案されている。
【0003】
また、透析排液中には、除去の対象となる尿毒素の代謝物が存在する他、患者にとって必要な蛋白であるアルブミンが過剰に漏出する場合があり、尿毒素の代謝物の溶質濃度の他にアルブミン等の蛋白濃度も測定する必要がある。アルブミン等の蛋白は、280nm付近に吸光度のピークを有するため、一般的な吸光光度法による測定では、280nm付近の紫外光を用いる。しかしながら、その波長の紫外光を透析排液に照射すると、蛋白以外に尿酸や尿素等の尿素様物質による吸光も生じるため、正確に蛋白濃度を測定することが困難である(図7参照)。そこで、特許文献2では、アルブミン除去による透析排液の吸光度の変化に基づいてアルブミン濃度を測定する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2002-516722号公報
【文献】特許第6303555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の特許文献2によるアルブミン濃度の測定方法では、透析中に漏出するアルブミンを確実に除去して測定精度を上げるためには、排液ラインを分岐したり測定流量を制限したりする必要がある。そのため、測定装置が大型化、複雑化することが懸念される。
【0006】
従って、本発明は、簡易な構成で吸光光度法により透析排液中のアルブミン等の蛋白濃度、及び、尿素や尿酸等の尿素様物質濃度を精度よく測定できる測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、透析液を用いた血液浄化療法により除去される尿素様物質及び漏出する蛋白の透析排液中のそれぞれの濃度を測定する濃度測定装置であって、透析排液が流れる測定用流路と、主に尿素様物質により減衰する第1の波長の光で前記測定用流路を流れる透析排液の吸光度を測定する第1の吸光度測定部と、蛋白及び尿素様物質により減衰する第2の波長の光で前記測定用流路を流れる透析排液の吸光度を測定する第2の吸光度測定部と、前記第1の吸光度測定部で測定される吸光度及び前記第2の吸光度測定部で測定される吸光度に基づいて、尿素様物質濃度及び蛋白濃度を算出する濃度算出部と、を備え、前記濃度算出部は、前記第1の吸光度測定部により測定された吸光度に基づいて尿素様物質濃度を算出し、算出された前記尿素様物質濃度、及び前記第2の吸光度測定部により測定された吸光度に基づいて、蛋白濃度を算出する濃度測定装置に関する。
【0008】
また、濃度測定装置は、前記第1の波長における尿素様物質濃度と吸光度との関係を示す尿素様物質検量情報と、前記第2の波長における所定濃度の尿素様物質を含んだ状態における蛋白濃度と吸光度との関係を示す蛋白検量情報であって複数の所定濃度の尿素様物質に対応する複数の蛋白検量情報と、を予め記憶する記憶部を更に備え、前記濃度算出部は、前記第1の吸光度測定部により測定された吸光度及び前記記憶部に記憶された前記尿素様物質検量情報に基づいて尿素様物質濃度を算出し、算出された該尿素様物質濃度の尿素様物質を含む前記蛋白検量情報及び前記第2の吸光度測定部により測定された吸光度に基づいて、蛋白濃度を算出することが好ましい。
【0009】
また、前記第1の波長の光は、300nm以上350nm以下の範囲の波長帯域を有する光であることが好ましい。
【0010】
また、前記第2の波長の光は、250nm以上300nm未満の範囲の波長帯域を有する光であることが好ましい。
【0011】
また、前記測定用流路は、血液浄化装置が備える透析排液が流れるラインと接続され、前記濃度算出部は、前記ラインから連続的に排出される透析排液中の経時変化する尿素様物質濃度及び蛋白濃度を連続的に測定することが好ましい。
【0012】
また、本発明は、透析液を用いた血液浄化療法により除去される尿素様物質及び漏出する蛋白の透析排液中のそれぞれの濃度を測定する濃度測定方法であって、主に尿素様物質により減衰する第1の波長の光で透析排液の吸光度を測定する第1の吸光度測定工程と、蛋白及び尿素様物質により減衰する第2の波長の光で透析排液の吸光度を測定する第2の吸光度測定工程と、前記第1の吸光度測定工程で測定された吸光度に基づいて、尿素様物質濃度を算出する第1の濃度算出工程と、前記第1の濃度算出工程で算出された尿素様物質濃度、及び前記第2の吸光度測定工程により測定された吸光度に基づいて、蛋白濃度を算出する第2の濃度算出工程と、を備える濃度測定方法に関する。
【0013】
また、前記第1の波長における尿素様物質濃度と吸光度との関係を示す尿素様物質検量情報と、前記第2の波長における所定濃度の尿素様物質を含んだ状態における蛋白濃度と吸光度との関係を示す蛋白検量情報であって複数の所定濃度の尿素様物質に対応する複数の蛋白検量情報と、が予め作成されており、前記第1の濃度算出工程において、前記第1の吸光度測定工程で測定された吸光度及び前記尿素様物質検量情報に基づいて尿素様物質濃度を算出し、前記第2の濃度算出工程において、前記第1の濃度算出工程で算出された濃度の尿素様物質を含む前記蛋白検量情報及び前記第2の吸光度測定工程により測定された吸光度に基づいて蛋白濃度を算出することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、第1及び第2の波長の光で透析排液の吸光度をそれぞれ測定することにより、透析排液中の蛋白濃度及び尿素様物質濃度を精度よく測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態に係る濃度測定装置を説明する図である。
図2】濃度測定装置を示すブロック図である。
図3A】測定部の構成の一例を示す図である。
図3B】測定部の構成の他の一例を示す図である。
図4】測定用流路と光源照射方向との関係を示す図である。
図5A】アルブミン単体溶液の紫外吸光度を示すグラフである。
図5B】尿酸単体溶液の紫外吸光度を示すグラフである。
図6】尿酸含有溶液中のアルブミン紫外吸光度を示すグラフである。
図7】透析排液に含まれる各溶質の吸光特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の濃度測定装置及び濃度測定方法の好ましい一実施形態について、図面を参照しながら説明する。本実施形態に係る濃度測定装置は、血液と透析液との間で透析を行う血液透析において、透析排液中における血液から除去された尿素、尿酸を含む尿素様物質濃度、及び、血液から漏出するアルブミン等の蛋白濃度の経時変化を測定する。
【0017】
図1図4を参照して、本実施形態の濃度測定装置100及び血液浄化装置200について説明する。
【0018】
<血液浄化装置>
図1に示すように、血液浄化装置200は、ダイアライザやヘモダイアフィルタ等の血液透析器210と、動脈側血液ラインL1と、静脈側血液ラインL2と、透析液導入ラインL3と、透析液導出ラインL4と、制御装置としてのコンソール220と、透析液排液ラインL5と、を備える。
血液透析器210は、動脈側血液ラインL1及び静脈側血液ラインL2と接続される。血液透析器210には、動脈側血液ラインL1に設けられた血液ポンプPによって患者Hの血液が導入される。また、血液透析器210は、透析液導入ラインL3及び透析液導出ラインL4と接続されることで、血液透析器210に透析液が導入される。これにより、内部では、透析膜を隔てて血液と透析液との間で溶質や水分の移動が生じて、透析が行われる。透析液導出ラインL4には、血液から移動した水分や溶質を含む透析排液が流れており、この透析排液は透析液排液ラインL5を介して血液浄化装置200の外部に排出される。コンソール220は、血液の流れや透析液の流れを制御する。このようにして、血液浄化装置200により透析治療が行われる。コンソール220は、表示部230を備えており、この表示部230には、透析治療の状態を示す各種情報が表示される。
【0019】
<濃度測定装置>
図2に示すように、本実施形態に係る濃度測定装置100は、測定手段140と、制御装置150と、測定結果を表示する表示部160と、を備える。
【0020】
測定手段140は、図2及び図3に示すように、透析排液を流すための測定用流路110と、測定部120と、測定部筐体130と、を含んで構成される。本実施形態では、測定手段140を、図1に示すように透析液排液ラインL5に配置する場合を示したが、透析液導出ラインL4に配置してもよい。測定手段140を血液浄化装置200の透析排液が流れるラインである透析液導出ラインL4又は透析液排液ラインL5と接続することで、透析液導出ラインL4又は透析液排液ラインL5から連続的に排出される透析排液中の経時変化する尿素様物質濃度及び蛋白濃度を連続的に測定することができる。
【0021】
測定用流路110は、血液浄化装置200の透析液導出ラインL4又は透析液排液ラインL5に接続され、測定対象の透析排液が流れるように構成される。本実施形態では、測定用流路110は、透析液排液ラインL5に接続される。例えば、図3Aに示すように、測定用流路110は、測定部筐体130の中央部を貫通するように設けられる。また、測定部筐体130には、測定用流路110に直交するように貫通穴131が形成される。図3Aに示す例では、測定用流路110は、測定部筐体130の中央部を貫通するように設けられた扁平流路111と、貫通穴131に配置され後述する発光手段120E及び受光手段120Rと透析排液とを隔てる円板状の流路部材112と、流路部材112と測定部筐体130との間の隙間を塞ぐパッキン114と、を含んで構成される。また、測定用流路110は、図3Bに示すように、管状流路113で構成されるようにしてもよい。扁平流路111、流路部材112及び管状流路113は、少なくとも発光手段120E及び受光手段120Rに挟まれる部分において、紫外光に対して透過性を有する材料で形成される。紫外光に対して透過性を有する材料としては、例えば、石英ガラス、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)やPFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)等のフッ素系樹脂が挙げられる。
【0022】
測定部120は、透析排液の尿素や尿酸からなる尿素様物質濃度やアルブミン等の蛋白濃度を測定するものであり、図3A又は図3Bに示すように、発光手段120Eと受光手段120Rとを備える。
図4に示すように、発光手段120Eと受光手段120Rとは、測定用流路110を挟んで対向するように測定部筐体130に配置され、測定部筐体130には、発光手段120E及び受光手段120Rをそれぞれ固定可能な孔が形成される。また、発光手段120Eによる光の照射方向と測定用流路110における透析排液の流れ方向とは、略直交するように配置される。また、発光手段120Eと受光手段120Rとの距離Xは、3mm≦X≦12mmの範囲で調整可能である。
【0023】
発光手段120Eには、第1の波長の光を照射するための第1の発光部121Eとして300nm以上350nm以下の発光波長帯域を有する発光ダイオードと、第2の波長の光を照射する第2の発光部122Eとして250nm以上300nm未満の波長帯域を有する発光ダイオードと、が配置される。300nm以上350nm以下の紫外光では、アルブミン等の蛋白による減衰はほとんど生じずに、尿素や尿酸からなる尿素様物質により主に減衰が生じるのに対し、250nm以上300nm未満の紫外光では、蛋白及び尿素様物質等、様々な溶質により減衰が生じる(図7参照)。
【0024】
受光手段120Rには、第1の発光部121Eから照射される第1の波長の光を受光する第1の受光部121Rとして、300nm以上350nm以下の受光波長帯域を有するフォトダイオードが配置され、第2の発光部122Eから照射される第2の波長の光を受光する第2の受光部122Rとして、250nm以上300nm未満の受光波長帯域を有するフォトダイオードが配置される。尚、第1の受光部121R及び第2の受光部122Rとして、250nm以上350nm以下の受光波長帯域を有するフォトダイオードを用いる場合は、1つのフォトダイオードを用いることもできる。
【0025】
第1の発光部121E及び第1の受光部121Rにより第1の吸光度測定部121を構成し、この第1の吸光度測定部121により、主に尿素様物質で減衰する300nm以上350nm以下の第1の波長における透析排液の吸光度を測定することができる。第1の波長としては、例えば尿酸による減衰の割合が大きい300nm程度の波長も用いることができる。
第2の発光部122E及び第2の受光部122Rにより第2の吸光度測定部122を構成し、この第2の吸光度測定部122により、尿素様物質及び蛋白で減衰する250nm以上300nm未満の第2の波長における透析排液の吸光度を測定することができる。第2の波長としては、アルブミンの吸光度がピークとなる280nm程度が望ましい。
【0026】
制御装置150は、測定部120の動作を制御する制御部151と、濃度を算出する濃度算出部152と、記憶部153と、を備える。制御装置150は、濃度測定装置100本体が備えるように構成してもよいし、血液浄化装置200のコンソール220と一体的に構成してもよい。
制御部151は、第1の発光部121E及び第2の発光部122Eを一定のデューティ比で駆動するよう制御する。具体的には、第1及び第2の発光部による出力光が互いに干渉しないように、それぞれの発光ダイオードの駆動のタイミングをずらして発光するように制御する。
【0027】
濃度算出部152は、測定部120により測定された吸光度に基づいて、尿素様物質濃度及び蛋白濃度を測定するものである。具体的な濃度の算出方法については、後に詳しく説明する。
【0028】
記憶部153は、尿素様物質検量情報と、複数の蛋白検量情報とを記憶する。
尿素様物質検量情報は、第1の波長における尿素様物質濃度と吸光度との関係を示す情報である。
蛋白検量情報は、第2の波長における所定濃度の尿素様物質を含んだ状態における蛋白濃度と吸光度との関係を示す情報である。そして、本実施形態では、記憶部153は、複数の濃度の尿素様物質を含んだ場合に対応する複数の蛋白検量情報を記憶する。
【0029】
表示部160は、尿素様物質濃度や蛋白濃度の算出結果や積算結果、あるいは、尿素に関する透析量の指標であるKt/V(K:クリアランス、t:透析時間、V:体液量)等を数値表示やグラフ表示を行う機能を有する。表示部160としては、濃度測定装置100本体に設けてもよいし、コンソール220が備える表示部230を用いてもよい。また、制御装置150をパーソナルコンピュータ端末やタブレット端末等と接続し、表示部160としてそれら端末の表示部を用いてもよい。本実施形態では、図1に示すように表示部160として、コンソール220の表示部230を用いる構成とした。
【0030】
<従来の濃度測定方法>
従来の濃度測定方法について、具体例を用いて説明する。
尿素様物質及び蛋白等を含む透析排液に対し、蛋白濃度を測定するため、アルブミンの吸光度が高くなる280nmの紫外光で吸光度を測定する場合を考える。
例えば、アルブミンや尿酸の単体溶液に280nmの紫外光を照射して吸光度を測定すると、図5Aに示すように、アルブミンでは800mg/dL程度までの濃度域において、また、図5Bに示すように、尿酸では5mg/dL程度までの濃度域において、精度よく測定を実施することができる。具体的には、溶質濃度をX、吸光度をY、図5A及び図5Bにおける検量線の傾きをAとすると、X=Y/Aの関係式1で濃度を算出することができる。
【0031】
しかしながら、図7に示すように実際の透析排液では、280nmの紫外光はアルブミンを含む蛋白成分によってだけではなく、Kt/Vの算出に必要となる尿素や尿酸等の尿素様物質成分によっても減衰することが分かる。よって、透析排液に280nmの紫外光を照射して、その吸光度を測定しても、蛋白濃度を精度よく測定することは困難であることが推測される。
一例として、模擬的に尿酸を一定量含むアルブミン溶液に280nmの紫外光を照射して吸光度を測定すると、図6に示す結果となった。このように、尿酸濃度の上昇とともにアルブミンの測定可能範囲が狭くなり、また、検量線の傾きも変化して行くことから、前述の関係式1を適用することはできない。よって、280nmの紫外光を透析排液に照射して吸光度を測定しても、透析排液において尿素様物質濃度と蛋白濃度を個々に算出することはできない。
【0032】
<本発明の濃度測定方法>
本実施形態に係る濃度測定方法では、主に尿素様物質により減衰する第1の波長の光で透析排液の吸光度を測定する第1の吸光度測定工程と、蛋白及び尿素様物質により減衰する第2の波長の光で透析排液の吸光度を測定する第2の吸光度測定工程と、尿素様物質濃度を算出する第1の濃度算出工程と、蛋白濃度を算出する第2の濃度算出工程と、を備える。
【0033】
第1の吸光度測定工程では、蛋白よりも主に尿素様物質で減衰する割合が大きくなる第1の波長λの光を用いて第1の吸光度測定部121で透析排液の吸光度Y(λ)を測定する。本実施形態では第1の波長の光の一例として、λ=300nm程度の紫外光を用いる。
【0034】
第2の吸光度測定工程では、蛋白及び尿素様物質で減衰する第2の波長λの光を用いて第2の吸光度測定部122で透析排液の吸光度Y(λ)を測定する。本実施形態では、第2の波長λの光の一例として、λ=280nm程度の紫外光を用いる。
【0035】
第1の濃度算出工程では、第1の吸光度測定部121で測定された吸光度から尿素様物質濃度を算出する。第1の波長λにおいては、蛋白による減衰の割合が尿素様物質による減衰の割合に比べて小さいので、単体溶液のように扱うことができ、測定された吸光度Y(λ)から尿素様物質濃度を算出することができる。
具体的には、第1の吸光度測定部121を用いて、予め尿素様物質濃度X(U)と第1の波長λにおける吸光度Y(λ)との関係を示す尿素様物質検量線の情報(尿素様物質検量情報)として傾きBを求め、記憶部153に記憶しておく。ここで、X(U)=Y(λ)/Bの関係式2が成り立つので、濃度算出部152は、記憶部153に記憶された尿素様物質検量線の傾きB(尿素様物質検量情報)と、測定された吸光度Y(λ)から尿素様物質濃度X(U)を算出することができる。
【0036】
第2の濃度算出工程では、第2の吸光度測定部122により測定された吸光度Y(λ)と、算出された尿素様物質濃度X(U)と、に基づいて蛋白濃度X(ALB)を算出する。
具体的には、第2の吸光度測定部122を用いて、複数の尿素様物質濃度X(U)、X(U)、・・・、X(U)それぞれにおいて、蛋白濃度X(ALB)と第2の波長λにおける吸光度Y(λ)との関係を示す蛋白検量線の情報(蛋白検量情報)として傾きC、C、・・・、Cを予め求め、記憶部153に記憶しておく。蛋白検量線は、例えば、尿素様物質濃度X(U)が0.0mg/dLから10.0mg/dLの範囲で1mg/dL刻みで作成し、その傾きCを求めれば、十分に精度よく蛋白濃度X(ALB)を算出することができる。
【0037】
濃度算出部152は、記憶部153に記憶された尿素様物質濃度X(U)、X(U)、・・・、X(U)のうち、算出された尿素様物質濃度X(U)と近い値の尿素様物質濃度X(U)を選び、それに対応する蛋白検量線の傾きCを選ぶ。尚、算出された尿素様物質濃度X(U)と近い値の尿素様物質濃度X(U)を選ぶ際は、算出された尿素様物質濃度X(U)の少数第1位を四捨五入する等して、近い値の尿素様物質濃度X(U)を選ぶものとする。
ここで、X(ALB)=Y(λ)/Cの関係式3が成り立つので、濃度算出部152は、算出された尿素様物質濃度X(U)における蛋白検量線の傾きCと、測定された吸光度Y(λ)から蛋白濃度X(ALB)を算出することができる。
【0038】
以上、本実施形態の濃度測定装置及び濃度測定方法によれば、以下の効果を奏する。
【0039】
(1)濃度測定装置100を、測定用流路110と、主に尿素様物質により減衰する第1の波長λの光で測定用流路110を流れる透析排液の吸光度Y(λ)を測定する第1の吸光度測定部121と、蛋白及び尿素様物質により減衰する第2の波長λの光で測定用流路110を流れる透析排液の吸光度Y(λ)を測定する第2の吸光度測定部122と、第1の吸光度測定部121で測定される吸光度Y(λ)及び第2の吸光度測定部で測定される吸光度Y(λ)に基づいて、尿素様物質濃度X(U)及び蛋白濃度X(ALB)を算出する濃度算出部152と、を含んで構成し、濃度算出部152に、第1の吸光度測定部121により測定された吸光度Y(λ)に基づいて尿素様物質濃度X(U)を算出させ、算出された尿素様物質濃度X(U)、及び、第2の吸光度測定部122により測定された吸光度Y(λ)に基づいて、蛋白濃度X(ALB)を算出させた。これにより、第1の波長λ及び第2の波長λの光で透析排液の吸光度Y(λ)、Y(λ)をそれぞれ測定することにより、透析排液中の蛋白濃度X(ALB)及び尿素様物質濃度X(U)を精度よく測定することができる。また、従来のように蛋白(アルブミン)を除去するための膜や複数の測定手段を用意する必要がないため、装置構成を簡易なものとすることができる。
【0040】
(2)濃度測定装置100を、第1の波長λにおける尿素様物質濃度X(U)と吸光度Y(λ)との関係を示す尿素様物質検量線の情報(傾きB)と、第2の波長λにおける複数の尿素様物質濃度X(U)、X(U)、・・・、X(U)における蛋白濃度X(ALB)と吸光度Y(λ)との関係を示す複数の蛋白検量線の情報(傾きC、C、・・・、C)と、を予め記憶する記憶部153を含んで構成し、濃度算出部152に、第1の吸光度測定部121により測定された吸光度Y(λ)及び記憶部153に記憶された尿素様物質検量線の情報(傾きB)に基づいて尿素様物質濃度X(U)を算出させ、算出された尿素様物質濃度X(U)に対応する蛋白検量線の情報(傾きC、C、・・・、C)及び第2の吸光度測定部122により測定された吸光度Y(λ)に基づいて、蛋白濃度X(ALB)を算出させた。これにより、蛋白による減衰の割合が少ない第1の波長λで測定された吸光度Y(λ)から精度よく尿素様物質濃度X(U)を算出することができ、算出された尿素様物質濃度X(U)に対応する蛋白検量線を用いて、蛋白及び尿素様物質により減衰する第2の波長λで測定された吸光度Y(λ)から精度よく蛋白濃度X(ALB)を算出することができる。
【0041】
(3)測定用流路110を、血液浄化装置200が備える透析排液が流れるライン(透析液導出ラインL4又は透析液排液ラインL5)と接続するものとし、ライン(L4又はL5)から連続的に排出される透析排液中の経時変化する尿素様物質濃度X(U)及び蛋白濃度X(ALB)を連続的に測定するものとした。これにより、透析治療中において、透析排液中の尿素様物質濃度X(U)及び蛋白濃度X(ALB)の経時変化を測定することができるので、定期的な血液検査等の侵襲的な検査を行わなくても、透析の治療効果を解析することができる。
【0042】
以上、本発明の濃度測定装置及び濃度測定方法の好ましい実施形態について説明したがこれに限らない。上述の実施形態では、一例として血液浄化装置に濃度測定装置を取り付ける構成を示したが、濃度測定装置が血液浄化装置に一体的に組み込まれるよう構成してもよい。
【0043】
また、上述の実施形態では、本発明の濃度測定装置における測定手段を透析液排液ラインに配置する場合を示したが、透析液導出ラインに配設してもよい。
【0044】
また、本発明の濃度測定装置及び濃度測定方法は、血液透析器を備える血液浄化装置に限らず、腹膜透析における透析排液中の尿素様物質及び蛋白の濃度測定に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0045】
100 濃度測定装置
110 測定用流路
120 測定部
130 測定部筐体
140 測定手段
150 (濃度測定装置の)制御装置
151 制御部
152 濃度算出部
153 記憶部
160 表示部
200 血液浄化装置
210 血液透析器
220 コンソール(制御装置)
230 表示部
L1 動脈側血液ライン
L2 静脈側血液ライン
L3 透析液導入ライン
L4 透析液導出ライン
L5 透析液排液ライン
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図6
図7