(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】酵素センサー用電極及び酵素センサー
(51)【国際特許分類】
G01N 27/327 20060101AFI20240416BHJP
【FI】
G01N27/327 353Z
G01N27/327 353R
(21)【出願番号】P 2020066574
(22)【出願日】2020-04-02
【審査請求日】2023-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(72)【発明者】
【氏名】八手又 彰彦
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-038869(JP,A)
【文献】特開2019-084519(JP,A)
【文献】特開2006-292495(JP,A)
【文献】特開平06-281615(JP,A)
【文献】特開2000-131264(JP,A)
【文献】特開2013-034422(JP,A)
【文献】特開2019-038868(JP,A)
【文献】特開2019-038870(JP,A)
【文献】特開2018-037394(JP,A)
【文献】国際公開第2019/189808(WO,A1)
【文献】特開2011-069727(JP,A)
【文献】特開平02-099849(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0182155(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/327 27/416,
G01N 33/48,33/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作用極と対極とを有する酵素センサー用電極であって、作用極を構成する導電層が導電性炭素材料を含み、
前記導電性炭素材料が少なくとも黒鉛を含み、かつ、水に対する接触角が
40度以上、110度以下である酵素センサー用電極。
【請求項2】
作用極を構成する導電層100質量%中、導電性炭素材料を60質量%以上含む請求項1記載の酵素センサー用電極。
【請求項3】
作用極を構成する導電層が親水性化合物を含む請求項1
又は2記載の酵素センサー用電極。
【請求項4】
親水性化合物が、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、および界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む請求項
3記載の酵素センサー用電極。
【請求項5】
更に、
作用極を構成する導電層とは別に、酵素および/またはメディエーターを含む、請求項1~
4いずれかに記載の酵素センサー用電極。
【請求項6】
請求項1~
5いずれかに記載の酵素センサー用電極を用いた酵素センサー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素センサー用電極及び酵素センサーに関する。
【背景技術】
【0002】
血液や汗等の生体試料や食品等に含まれる特定成分を、簡便に計測する酵素センサーが実用化されている。例えば、血液中のグルコースを電気化学的な手段により検出、あるいは定量化する血糖値センサー等が挙げられる。これは血中に含まれるグルコースに対し酵素の基質特異性により選択的に酸化し、メディエーターを介して、あるいは直接電極に電荷が到達して電流が発生、その電流値あるいは電荷量からグルコース濃度を定量することができる。
実用化されている酵素センサーにおける電極部分は、スパッタやめっき等により金属層が形成されたものが用いられることがある(例えば特許文献1)。しかし、その測定感度は未だ十分とは言い難い状況であり、高価な金属を使用しないことは腐食やコストの観点からも好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、感度に優れる酵素センサー用電極および酵素センサーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記の諸問題を解決するために研究を重ねた結果、本発明に至った。
すなわち本発明は、基材上に設置された、作用極と対極を有する酵素センサー用電極であって、少なくとも作用極が導電性炭素材料を含みかつ水に対する接触角が110度以下である酵素センサー用電極に関する。
【0006】
また、本発明は作用極中に含まれる導電性炭素材料の比率が60%以上である前記酵素センサー用電極に関する。
【0007】
また、本発明は、導電性炭素材料が少なくとも黒鉛を含む前記酵素センサー用電極に関する。
【0008】
また、本発明は、前記電極中に親水性化合物を含む前記酵素センサー用電極に関する。
【0009】
また、本発明は、親水性化合物が、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、界面活性剤の中から少なくとも一種を含む前記酵素センサー用電極に関する。
【0010】
また、本発明は、更に酵素および/またはメディエーターを含む、前記酵素センサー用電極を用いた酵素センサーに関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、導電性炭素材料を含む酵素センサー用電極において、センシングの応答性に優れかつ感度の良好な酵素センサーを提供することができる。更に、主に炭素材料から構成される電極であるため、腐食に強く低コストで使い捨て可能な電極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の酵素センサー用電極の一実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の酵素センサー用電極は、少なくとも作用極と対極とを有し、必要に応じて参照極を有していてもよい。これらの電極は、基材上に形成された導電層からなり、例えば、基材に、導電性炭素材料とバインダーと、必要に応じて溶剤等を含有する酵素センサー電極形成用組成物を塗工、必要に応じてプレス処理等を行って、導電層を形成することで得ることができる。また、必要に応じて酸化還元酵素やメディエーターを担持して電極を得ることができる。
本発明の酵素センサー用電極は、少なくとも作用極を構成する導電層が導電性炭素材料を含みかつ水に対する接触角が110度以下である。
【0014】
<導電層>
(導電性炭素材料)
本発明において、測定に有効な表面積が大きく、耐腐食性に優れ、更に使い捨てや生体適合性等の観点から、導電性材料として導電性の炭素材料を用いる。導電性の炭素材料としては、導電性に優れた導電層を得られることから、黒鉛、カーボンブラック、導電性炭素繊維(カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンファイバー)、グラフェン、フラーレン等が挙げられる。これらを単独で、もしくは2種類以上併せて使用することが出来る。導電性炭素材料は、黒鉛を含むことが好ましく、特に、作用極および/または対極の導電層は黒鉛を含むことが好ましい。
【0015】
黒鉛としては、例えば人造黒鉛や天然黒鉛等を使用することが出来る。人造黒鉛としては、無定形炭素の熱処理により、不規則な配列の微小黒鉛結晶の配向を人工的に行わせたものであり、一般的には石油コークスや石炭系ピッチコークスを主原料として製造される。天然黒鉛としては、球形黒鉛、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛等を使用することが出来る。また、鱗片状黒鉛を化学処理等した膨張黒鉛(膨張性黒鉛ともいう)や、膨張黒鉛を熱処理して膨張化させた後、微細化やプレスにより得られた膨張化黒鉛等を使用することも出来る。これらの黒鉛の中でも、導電性基材の導電層に用いる場合は、導電性の観点から、天然黒鉛が好ましく、球形黒鉛、鱗片状黒鉛、膨張化黒鉛、および薄片化黒鉛等の薄片状黒鉛が好ましい。
【0016】
また、用いる黒鉛の平均粒径は、0.5~500μmが好ましく、特に、2~100μmが好ましい。
【0017】
本発明でいう平均粒径とは、体積粒度分布において、粒子径の細かいものからその粒子の体積割合を積算していったときに、50%となるところの粒子径(D50)であり、一般的な粒度分布計、例えば、動的光散乱方式の粒度分布計(日機装社製「マイクロトラックUPA」)等で測定される。
【0018】
市販の黒鉛としては、例えば、薄片状黒鉛として、日本黒鉛工業社製のCMX、UP-5、UP-10、UP-20、UP-35N、CSSP、CSPE、CSP、CP、CB-150、CB-100、ACP、ACP-1000、ACB-50、ACB-100、ACB-150、SP-10、SP-20、J-SP、SP-270、HOP、GR-60、LEP、F#1、F#2、F#3、中越黒鉛社製のCX-3000、FBF、BF、CBR、SSC-3000、SSC-600、SSC-3、SSC、CX-600、CPF-8、CPF-3、CPB-6S、CPB、96E、96L、96L-3、90L-3、CPC、S-87、K-3、CF-80、CF-48、CF-32、CP-150、CP-100、CP、HF-80、HF-48、HF-32、SC-120、SC-80、SC-60、SC-32、伊藤黒鉛工業社製のEC1500、EC1000、EC500、EC300、EC100、EC50、西村黒鉛社製の10099M、PB-99等が挙げられる。球形黒鉛としては、日本黒鉛工業社製のCGC-20、CGC-50、CGB-20、CGB-50が挙げられる。土状黒鉛としては、日本黒鉛工業社製の青P、AP、AOP、P#1、中越黒鉛社製のAPR、S-3、AP-6、300Fが挙げられる。人造黒鉛としては、日本黒鉛工業社製のPAG-60、PAG-80、PAG-120、PAG-5、HAG-10W、HAG-150、中越黒鉛社製のRA-3000、RA-15、RA-44、GX-600、G-6S、G-3、G-150、G-100、G-48、G-30、G-50、SECカーボン社製のSGP-100、SGP-50、SGP-25、SGP-15、SGP-5、SGP-1、SGO-100、SGO-50、SGO-25、SGO-15、SGO-5、SGO-1、SGX-100、SGX-50、SGX-25、SGX-15、SGX-5、SGX-1が挙げられる。
【0019】
黒鉛以外の導電性の炭素材料は特に限定されないが、コストや導電性などの観点から、カーボンブラックや導電性炭素繊維を用いることが好ましい。
【0020】
カーボンブラックとしては、気体もしくは液体の原料を反応炉中で連続的に熱分解し製造するファーネスブラック、特にエチレン重油を原料としたケッチェンブラック、原料ガスを燃焼させて、その炎をチャンネル鋼底面にあて急冷し析出させたチャンネルブラック、ガスを原料とし燃焼と熱分解を周期的に繰り返すことにより得られるサーマルブラック、特にアセチレンガスを原料とするアセチレンブラックなどの各種のものを単独で、もしくは2種類以上併せて使用することができる。また、通常行われている酸化処理されたカーボンブラックや、中空カーボン等も使用できる。
カーボンの酸化処理は、カーボンを空気中で高温処理したり、硝酸や二酸化窒素、オゾン等で二次的に処理したりすることより、例えばフェノール基、キノン基、カルボキシル基、カルボニル基の様な酸素含有極性官能基をカーボン表面に直接導入(共有結合)する処理であり、カーボンの分散性を向上させるために一般的に行われている。
【0021】
用いるカーボンブラックの比表面積は、値が大きいほど、カーボンブラック粒子どうしの接触点が増えるため、電極の内部抵抗を下げるのに有利となる。具体的には、窒素の吸着量から求められる比表面積(BET)で、20m2/g以上、好ましくは50m2/g以上、更に好ましくは100m2/g以上のものを使用することが望ましい。比表面積が20m2/gを下回るカーボンブラックを用いると、十分な導電性を得ることが難しくなる場合がある。
また、用いるカーボンブラックの粒径は、一次粒子径で0.005~1μmが好ましく、特に、0.01~0.2μmが好ましい。ただし、ここでいう一次粒子径とは、電子顕微鏡などで測定された粒子径を平均したものである。
【0022】
市販のカーボンブラックとしては、例えば、東海カーボン社製のトーカブラック#4300、#4400、#4500、#5500、デグサ社製のプリンテックスL、コロンビヤン社製のRaven7000、5750、5250、5000ULTRAIII、5000ULTRA、ConductexSC ULTRA、Conductex 975 ULTRA、PUERBLACK100、115、205、三菱化学社製の#2350、#2400B、#2600B、#3050B、#3030B、#3230B、#3350B、#3400B、#5400B、キャボット社製のMONARCH1400、1300、900、VulcanXC-72R、BlackPearls2000、イメリス・グラファイト&カーボン社製のEnsaco250G、Ensaco260G、Ensaco350G、SuperP-Li等のファーネスブラック、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製のEC-200L、EC-300J、EC-600JD等のケッチェンブラック、デンカ社製のデンカブラック、デンカブラックHS-100、FX-35等のアセチレンブラックが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0023】
導電性炭素繊維としては石油由来の原料から焼成して得られるものが良いが、植物由来の原料からも焼成して得られるものも用いることが出来る。また、カーボンナノチューブには、グラフェンシートが一層でナノメートル領域の直径を有するチューブを形成する単層カーボンナノチューブと、グラフェンシートが多層である多層カーボンナノチューブがある。そのため、多層カーボンナノチューブの直径は、典型的な単層カーボンナノチューブの0.7-2.0nmに対して、30nmと大きい値を示す。
【0024】
市販の導電性炭素繊維やカーボンナノチューブとしては、昭和電工社製のVGCF等の気相法炭素繊維、名城ナノカーボン社製のEC1.0,EC1.5,EC2.0,EC1.5-P等の単層カーボンナノチューブ、CNano社製のFloTube9000、FloTube9100、FloTube9110、FloTube9200、Nanocyl社製のNC7000、Knano社製の100T等が挙げられる。
【0025】
導電層中に含まれる導電性炭素の比率は、導電性や感度の観点から60%以上含有していることが好ましく、更には70%以上が好ましい、また更には75%以上が好ましい。特に、作用極を構成する導電層に含まれる導電性炭素材料の比率が60%以上であることが好ましい。
【0026】
<親水化処理>
作用極の導電層の接触角を110度以下にする方法、すなわち親水性を付与するための方法は特に限定されないが、導電層を親水化処理する方法、あるいは親水性化合物を用いる方法が挙げられる。親水化処理としては、プラズマ処理、オゾン処理、UVや電子線によるラジカル活性化処理等の表面改質等が挙げられる。
また、親水性化合物を含んだ電極や基材に対して更に親水化処理を行ってもよい。親水化処理は、電極を設置する前後は問わず、いずれの工程で実施してもよい。
更に対極、参照極、および前記電極間の基材表面の少なくとも一部が親水性であることが好ましい。
接触角は、110度以下が好ましい。更に好ましくは、40度~110度である。
【0027】
(親水性化合物)
親水性化合物を用いる方法としては特に限定されないが、少なくとも作用極に親水性化合物が含まれることが好ましく、更に好ましくは対極や参照極、また更には作用極-対極-参照極の間の基材に存在することが好ましい。これにより、水あるいはイオン伝導体やセンシング対象等を含む水溶液が浸潤しやすくなり、酵素センサーの起動や安定化が容易になる。親水性化合物を電極や基材に含ませる方法としては、電極を形成する組成物に予め混合し塗工・乾燥する方法、電極を形成してから親水性化合物を含有する溶液を電極や基材に滴下・乾燥する方法等が挙げられる。
親水性化合物としては水溶性低分子化合物や水溶性高分子等の水溶性化合物、親水性粒子が挙げられ、単独でも併用して用いてもよい。
水溶性低分子化合物としては、水に溶解するものであれば特に限定はなく、界面活性剤、グルコース等の糖、クエン酸等の酸、塩化ナトリウム等の塩が例として挙げられる。
水溶性高分子としては、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等が例として挙げられ、更に共重合体でもよい。また、水溶性高分子は水に対し完全に溶解しなくともよく、水を含むゲルとなるもの等も適用できる。
親水性粒子としては、ポリスチレン、シリカ、アルミナ等の微粒子をスルホン化等の親水処理を施したものが例として挙げられる。
親水性化合物は、センサーとしての測定に影響を及ぼし難いものが好ましく、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、界面活性剤が好ましい。特に応答性を高めるために分子量は小さいものが好ましく、平均分子量で100000以下が好ましい。
前記の通り、導電層においては導電性炭素の比率は高い方が好ましいが、一方で測定対象を含む電解液の電極表面および内部への濡れが難しくなる。UV照射など電極形成後の表面改質は特に電極内部を均一に親水化することは難しいが、親水性化合物を予め電極形成用組成物に混合・分散する場合は、電極内部にも均質な親水性を得ることができる。
【0028】
(バインダー)
バインダーの種類は、導電性炭素材料の分散性や基材および炭素材料への密着性、基材の可とう性および導電性組成物の安定性を付与できるものであれば特に制限されず、樹脂等が挙げられる。
【0029】
バインダーとしては、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリロニトリル系樹脂、アクリル系樹脂、ブタジエン系樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、EVA系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、カルボキシメチルセルロース等のセルロース系樹脂等からなる群から選ばれる1種類以上を含むことができる。ただし、これらの樹脂に限定されるわけではない。バインダー樹脂は1種単独で用いても良く、2種以上併用しても良い。
【0030】
バインダー樹脂は、バインダー樹脂が基材に適用された後に、硬化(架橋)反応を受ける、硬化性樹脂を用いることもできる。
バインダー樹脂は、水系または非水系溶剤に溶解する溶解性樹脂や分散型樹脂微粒子を用いることもできる。分散型樹脂微粒子は、樹脂微粒子が水系または非水系の分散媒中で溶解せずに、微粒子の状態で存在するもので、その分散体は、一般的にエマルジョンとも呼ばれる。これらは1種単独で用いても良く、2種以上併用しても良い。
【0031】
分散型樹脂微粒子の粒子構造は、多層構造、いわゆるコアシェル粒子にすることもできる。例えば、コア部、またはシェル部に官能基を有する単量体を主に重合させた樹脂を局在化させたり、コアとシェルによってTgや組成に差を設けたりすることにより、硬化性、乾燥性、成膜性、バインダーの機械強度を向上させることができる。
樹脂微粒子の平均粒子径は、結着性や粒子の安定性の観点から、10~1000nmであることが好ましく、10~300nmであることが好ましい。なお、本発明における平均粒子径とは、体積平均粒子径のことを表し、動的光散乱法により測定できる。
動的光散乱法による平均粒子径の測定は、以下のようにして行うことができる。樹脂微粒子の固形分に応じて、分散液と同じ分散媒で200~1000倍に希釈しておく。該希釈分散液約5mlを測定装置(日機装社製マイクロトラック)のセルに注入し、サンプルに応じた分散媒および樹脂の屈折率条件を入力後、測定を行う。この時得られた体積粒子径分布データ(ヒストグラム)のピークによって測定することができる。
【0032】
グルコースオキシダーゼ(GOx)などの酵素は水系溶液に分散したものを担持する場合が多く、グルコースなどのセンシング対象は水系溶液に溶解されたものとする場合が多いことから、濡れ性や浸透性などの観点から、バインダーとしては、水系溶剤に溶解可能な水溶性樹脂や水系の分散媒中で溶解せずに、微粒子の状態で存在する水分散樹脂微粒子を使用することが好ましい。
【0033】
バインダーに用いる水溶性樹脂とはしては、ポリビニル系樹脂やポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、カルボキシメチルセルロース等のセルロース系樹脂、ホルマリン縮合物、シリコーン系樹脂、及びこれらの複合系樹脂等が挙げられる。更に、これら2種類以上を併用してもよい。また、バインダーに水溶性樹脂を使用する場合は、親水性化合物としての機能も兼ねるが、重量平均分子量は50000以上であることが好ましい。
【0034】
バインダーに用いる水分散樹脂微粒子としては、(メタ)アクリル系エマルション、ニトリル系エマルション、ウレタン系エマルション、ポリオレフィン系エマルション、フッ素系エマルション(ポリフッ化ビニリデン(PVDF)やポリテトラフルオロエチレン(PTFE)など)、スチレン―ブタジエン系樹脂等が挙げられる。
なお、(メタ)アクリルは、メタクリルまたはアクリルを意味する。
【0035】
(液状媒体)
酵素センサー電極形成用組成物は、任意の液状媒体を含むことができる。液状媒体としては特に限定されず、公知のものを用いることができる。ペースト組成物の分散性向上、並びに、非導電性基材上へのペースト組成物の塗工性向上のために、複数種の液状媒体を混ぜて使用してもよい。
液状媒体としては、アルコール類、グリコール類、セロソルブ類、アミノアルコール類、アミン類、ケトン類、カルボン酸アミド類、リン酸アミド類、スルホキシド類、カルボン酸エステル類、リン酸エステル類、エーテル類、ニトリル類等の有機溶剤、及び水等が挙げられる。
【0036】
(分散剤)
酵素センサー電極形成用組成物は分散剤を使用することができる。分散剤は、炭素材料等に対して分散剤として有効に機能し、その凝集を緩和することができる。分散剤は炭素材料に対して凝集を緩和する効果が得られれば特に限定されるものではない。
【0037】
更に、酵素センサー電極形成用組成物には、増粘剤、成膜助剤、硬化剤、消泡剤、レベリング剤、防腐剤、pH調整剤などを必要に応じて配合できる。
【0038】
<基材>
基材としては、非導電性基材としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロアルコキシアルカン、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー、ポリビニリデンフルオライド、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレンクロロトリフルオロエチレンコポリマー等の樹脂フィルムが例示できる。また、樹脂フィルム以外にも紙や布等も挙げられる。
また、カーボンペーパーやカーボンクロス等の導電性基材も挙げられる。
【0039】
(導電層の形成)
導電層は、前記の導電性基材あるいは非導電性基材に酵素センサー電極形成用組成物を塗工・印刷、必要に応じてプレス処理等を行って形成することができる。非導電性基材上に導電性組成物を塗工・印刷する方法としては、特に制限はなく、例えばスクリーン印刷、インクジェット印刷、グラビア印刷、ナイフコーター、バーコーター、ブレードコーター、スプレー、ディップコーター、スピンコーター、ロールコーター、ダイコーター、カーテンコーター等の一般的な方法を適用できる。
【0040】
また、塗布後に平版プレスやカレンダーロール等による圧延処理を行ってもよく、導電層を軟化させてプレスしやすくするため、加熱しながら行ってもよい。導電層の厚みは、一般的には0.1μm以上、1mm以下であり、好ましくは1μm以上、200μm以下である。
【0041】
<酵素センサー>
酵素センサーは、少なくとも作用極及び対極、あるいは作用極、対極及び参照極で構成される。また、必要に応じて血液などの試料を電極へ導入するスペーサーやカバー等を設けてもよい。
酵素センサーに用いる複数の電極は、異なる基材上に導電層をそれぞれ形成することで作製する場合や、同一の非導電性基材上にそれぞれの電極について導電層を形成する場合や、同一の非導電性基材上に導電層を設置した後に非導電部位を形成することで電極を作製してもよい。また予め、非導電性基材に金属スパッタなどで金属層を形成した上に、各電極の導電層を形成して電極を作製してもよい。参照極を設置する場合は、例えば導電層の上部へ更に銀や塩化銀などを積層することによって作製される。各電極のリード部は、金属スパッタなどで金属層を形成する方法、導電層を延長して用いる方法、延長した導電層の上部や下部に金属スパッタなどで金属層を更に形成する方法等、が例示できる。
酸化還元酵素やメディエーターを設置する方法としては、これらの電極上部、あるいは作用極の上部および/または内部に、酸化還元酵素や必要に応じてメディエーターを含ませる方法や、酸化還元酵素や必要に応じてメディエーターを加えた混合物層を形成させる方法等が挙げられる。酸化還元酵素やメディエーターを含む混合物層を形成する場合、親水性化合物を混合してもよい。
【0042】
酵素センサーは、前記の通り血液等の生体試料や食品等に含まれる特定成分を、酵素の基質特異性により選択的に酸化あるいは還元し、その電流値等から定性あるいは定量するものである。酵素センサーの用途としては、例えば、各種有機物を対象とした有機物センサー、血液や汗、尿、便、涙、唾液、間質液、呼気などの生体試料中の有機物や体液を対象とした生体センサー、水分を対象にした水分センサー、果物や食品中の糖等を対象にした食品用センサー、IoTセンサー、大気や河川、土壌など環境中の有機物を対象にした環境センサー、動物や昆虫、植物を対象にした動植物センサー等が挙げられる。生体センサーとしては、例えば、血液中の糖をセンシングする血糖値センサーや、尿中の糖をセンシングする尿糖値センサー、汗中の乳酸値をセンシングする疲労度センサーや熱中症センサー、汗や尿中の水分をセンシングする発汗センサーや排尿センサー等が挙げられる。また、生体向けのウェアラブルセンサーとしての用途として、例えば、おむつ内にセンサーを仕込んだ排尿センサーや尿糖値センサー、経皮貼付型の発汗、熱中症センサー、穿刺型での間質液の糖センサー、などが挙げられる。
【0043】
<酸化還元酵素>
本発明における酵素としては、反応により電子を授受できる酵素であれば特に制限はなく、検出対象に応じて適宜選択される。糖や有機酸などのオキシダーゼやデヒドロゲナーゼなどが利用できる。中でも、人体の血液や尿などの生体試料に含まれるグルコースを検出対象にできるグルコースオキシダーゼやグルコースデヒドロゲナーゼが好ましい場合がある。その他、フルクトースを検出対象にできるフルクトースオキシダーゼやフルクトースデヒドロゲナーゼ、乳酸を検出対象にできる乳酸オキシダーゼや乳酸デヒドロゲナーゼが好ましい場合がある。
用いられる酵素は1種類でも2種類以上であってもよい。また、センシング対象を加水分解等により酸化あるいは還元可能な状態にする酵素等の触媒と、酸化あるいは還元を促進する酵素との組み合わせであってもよい。
【0044】
<メディエーター>
酵素には電極に直接電子を伝達できる直接電子移動型(DET型)酵素と直接電子を伝達できない酵素が存在する。DET型以外の酵素の場合には、基質の酸化によって生じた電子を酵素から電極に伝達する役割を担うメディエーターを併用する必要がある。メディエーターとしては、電極に電子を伝達できる酸化還元物質であれば特に制限はなく、従来公知のものを使用できる。メディエーターの使用方法としては、電極に担持させる方法や電解液に溶解させて使用する方法等がある。メディエーターとしては、テトラチアフルバレン、ハイドロキノンや1,4‐ナフトキノン等のキノン類などの非金属化合物、フェロセン、フェリシアン化物、オスミウム錯体、及びこれら化合物を修飾したポリマー等が例示できる。メディエーターは、電極を形成する組成物中に予め含ませてもよく、また電極形成後に単独、あるいは酵素などと共に電極上部および/または内部に含ませてもよい。
【0045】
<イオン伝導体>
本発明におけるイオン伝導体として電極の間でイオンの伝導を行うものを用いてもよい。イオン伝導体の形態はイオン伝導性を有するものであれば特に限定されるものではない。イオン伝導体としては、液体に溶ける電解質や固体のポリマー電解質などを使用しても良い。
【実施例】
【0046】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。尚、特に断らない限り、実施例および比較例における「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を表す。
【0047】
[実施例1]
<酵素センサー電極形成用組成物の作製>
イオン交換水500質量部に水溶性樹脂(CMCダイセル#1240(ダイセル化学工業社製、固形分100質量%))3質量部を溶解させ、黒鉛(球状化黒鉛 CGB-50(日本黒鉛社製))71質量部と黒鉛以外の炭素材料(ライオナイト EC-200L(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製))9質量部を添加しミキサーに入れて混合した後、サンドミルにて分散を行った。
次に水分散性樹脂微粒子(アクリル樹脂水分散液 W-168(トーヨーケム社製 固形分50質量%))34質量部、親水性化合物(ポリビニルピロリドン K-15 平均分子量10000)5部を添加し、適宜イオン交換水を加えてミキサーで混合し、表1に示す酵素センサー電極形成用組成物(1)を得た。
【0048】
<酵素センサー用電極および酵素センサーの作製>
基材として厚さ100μmのPET基材(ルミラー(東レ社製))上に、酵素センサー電極形成用組成物(1)を2×30mmの開口部を3か所備えたメタルマスクを用いて塗布後、加熱乾燥した。その後、導電層の一部に絶縁性のレジストインキをメタルマスクを用いて塗工、その後加熱乾燥した。更に、銀/塩化銀を分散したインキを絶縁性レジストで囲われた開口部内の電極の内1つに塗工し、加熱乾燥を経て、
図1に示す酵素センサー用電極(1)を得た。得られた電極に対して、作用極あるいは対極となる部分にイオン交換水を滴下し、接触角をθ/2法により測定した(DMe-210 協和界面科学社製)。
【0049】
前記、酵素センサー用電極(1)の絶縁性レジストで囲われた開口部内に、メディエーターであるフェリシアン化カリウムと酵素であるグルコースオキシダーゼを0.1Mリン酸緩衝(pH7)で溶解した水溶液を滴下、自然乾燥させてメディエーターと酵素を担持し、酵素センサーを得た。
【0050】
表1に示す組成比を変更した以外は、実施例1と同様の方法により、それぞれ酵素センサー電極形成用組成物(2)~(16)を得た。
【0051】
実施例1と同様の方法によって実施例2~14および比較例1~2の酵素センサー用電極を得た。
【0052】
<電気化学評価>
上記作製した酵素センサー用電極に銀/塩化銀が塗工された電極を参照極、他は作用極と対極として、電解液に0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)中に、反応基質(センシング対象物)としてD-グルコースを10mMとなるように添加し、0.5V(vsAg/AgCl)の電位を印加して10秒後の電流値を測定した。表1に示すように、比較例1における電位印加10秒後の電流値に対する、各実施例における同電流値の百分率(%)で比較した。
〇:120%以上
△:100%以上120%未満
×:100%未満(比較例1より悪い)
【0053】
【0054】
いずれの実施例においても、比較例より電流値が高く得られたため、本発明により高感度な酵素センサーとして利用できる。また、金属を含まないため腐食に強く、低コストであり、廃棄の際の分別も容易である。
【0055】
実施例1の酵素センサーについて銀/塩化銀が塗工された電極を参照極に、他は作用極と対極として接続し、5mM、10mM、20mMのグルコースを含む各0.1Mりん酸緩衝液を滴下、それぞれ0.5V(vsAg/AgCl)の電位を印加して10秒後の電流値を測定したところ、グルコース濃度と電流値に相関が見られた。基質濃度による電流値変化が得られるため、センサーとして活用が可能である。
【符号の説明】
【0056】
1 酵素センサー
2 基材
3 導電層
4 絶縁性レジスト
5 開口部
6 参照極