(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】分光器
(51)【国際特許分類】
G01J 3/18 20060101AFI20240416BHJP
G01J 3/02 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
G01J3/18
G01J3/02 C
(21)【出願番号】P 2020082871
(22)【出願日】2020-05-08
【審査請求日】2022-09-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平岡 亮二
【審査官】三宅 克馬
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-190621(JP,A)
【文献】特開2014-026013(JP,A)
【文献】特表2019-500612(JP,A)
【文献】特開2012-093294(JP,A)
【文献】特開昭62-226024(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0199502(US,A1)
【文献】中国実用新案第202145147(CN,U)
【文献】中国実用新案第201476879(CN,U)
【文献】中国特許出願公開第103344416(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第101726359(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 3/00 - G01J 4/04
G01J 7/00 - G01J 9/04
G02B 5/18
G02B 5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入口及び出口を有する筐体と、
前記筐体内に配置された、前記入口から入射した光を波長分散して目的波長の光を前記出口から出射させる波長分散素子と、
前記波長分散素子を回転する回転駆動機構と、
前記目的波長に対応する前記波長分散素子の回転角度位置を算出するための演算式を記憶する記憶部と、
前記演算式から算出された回転角度位置に前記波長分散素子が位置するように前記回転駆動機構に該波長分散素子を回転させる制御部とを備え、
第1の波長を前記目的波長として前記演算式から算出された回転角度位置に前記波長分散素子が位置する状態において、前記第1
の波長の光を含む光を前記入口から入射させたときに前記波長分散素子から前記出口に向かう光の光軸が該出口の中央の所定範囲を通過し、且つ、前記第1の波長とは異なる波長である第2の波長を前記目的波長として前記演算式から算出された回転角度位置に前記波長分散素子が位置する状態において、前記第2
の波長の光を含む光を前記入口から入射させたときに前記波長分散素子から前記出口に向かう光の光軸が該出口の前記所定範囲を通過するように、前記筐体内に前記波長分散素子及び回転駆動機構が設定されている、分光器。
【請求項2】
請求項1に記載の分光器において、
前記波長分散素子が回折格子であり、
前記第1の波長が、該第1の波長の光を含む多波長光の波長範囲内の複数の波長のそれぞれを目的波長として前記演算式から算出された回転角度位置に前記回折格子が位置する状態で、前記多波長光を前記入口から入射させたときに、前記回折格子から前記出口に向かう1次回折光の該出口における断面の面積が最小となるときの波長である、分光器。
【請求項3】
請求項1に記載の分光器において、
前記波長分散素子が回折格子であり、
前記第1の波長及び前記第2の波長が、該第1の波長の光及び該第2の波長の光を含む多波長光の波長範囲内の3個以上の波長のそれぞれを目的波長として前記演算式から算出された回転角度位置に前記回折格子が位置する状態で、前記多波長光を前記入口から入射させたときに前記回折格子から前記出口に向かう1次回折光の該出口における断面の面積が、1番目及び2番目に小さいときの波長である、分光器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外可視光分光光度計や原子吸光分光光度計等の分光光度計、波長可変単色光源(Tunable Monochromatic Light Source)等に組み込まれる分光器に関する。
【背景技術】
【0002】
試料の定性・定量分析を行う装置として紫外可視光分光光度計や原子吸光分光光度計等の分光光度計が知られている。分光光度計は、所定の波長の単色光を試料に照射し、そのときの透過光量を測定することで所定波長における吸光度を求め、試料の定性・定量分析を行う。分光光度計では、所定波長の単色光を得るために通常、分光器(モノクロメータ)が用いられている。
【0003】
分光器は、入口スリット及び出口スリットを有する筐体、該筐体内に収容された回折格子(波長分散素子)、入口スリットから入射した光に対する回折格子の角度を変えるための回転駆動機構を備えており、入口スリットから入射した光を回折格子に照射し、該回折格子で波長分散された光のうち特定の方向に進む光のみを出口スリットから取り出す。回折格子の回転角度位置を適宜の位置に調整することにより任意の目的とする波長(目的波長)の単色光を取り出すことができる(特許文献1)。回折格子の回転角度位置は通常、波長を変数とする演算式に基づき算出される。前記演算式は、分光器偏角(回折格子の入射光と出射光がなす角度)や回折格子の溝間隔等をパラメータとするものであり、分光器毎に設定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような分光器では、入口スリットや出口スリット、回折格子、回転駆動機構等を筐体に取り付ける際には取り付け誤差が発生する。そこで、取り付け誤差を校正するために、製品を工場から出荷する前に様々な調整作業が行われる。
【0006】
調整作業の一つに回折格子で波長分散された光の光軸の調整作業がある。これは、He-Neレーザ等を光源として用い、該光源から入口スリットを通して筐体内に入射するレーザ光(He-Neレーザの場合、波長632.8nm)の回折光が出口スリットのほぼ中央を通過するように、回折格子の回折溝の方向及びあおり方向(回折溝の方向と垂直な方向)の傾きを調整する作業である。具体的には、筐体の入口スリットのすぐ外側に的(まと)部材を設置し、光源からの光が的部材の中央に入射することを目視で確認した後、的部材を取り除き、該光源からの光を入口スリットから筐体内に入射させる。次に、筐体の出口スリットの外側に的(まと)部材を配置し、0次光が的部材の中央に入射するように目視で確認しつつ、回折格子のあおり方向の傾きを調整する。その後、1次回折光が的部材の中央に入射するように、回折格子の溝方向の傾きを調整する。
【0007】
ところで、取り回し自由度の高さから、筐体に対する光の入出射に光ファイバが用いられる場合がある。この場合、大光量を必要としない装置に組み込まれる分光器においては、高価なバンドルファイバではなく、汎用の光ファイバがFCコネクタやSMAコネクタ等の一般的なコネクタを用いて筐体に接続される。ところが、上述した光軸調整作業を行った分光器では、コネクタを用いて出口スリットに光ファイバを接続した場合に、該出口スリットから取り出される1次回折光の光量が低下し、分光光度計に組み込んだ場合に所定の分析精度や分析感度を得るために十分な光量が得られないことがあった。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、光軸調整に用いられた波長に限らず、様々な波長において十分な光量の1次回折光を分光器から取り出すことができるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために成された本発明に係る分光器は、
入口及び出口を有する筐体と、
前記筐体内に配置された、前記入口から入射した光を波長分散して目的波長の光を前記出口から出射させる波長分散素子と、
前記波長分散素子を回転する回転駆動機構と、
前記目的波長に対応する前記波長分散素子の回転角度位置を算出するための演算式を記憶する記憶部と、
前記演算式から算出された回転角度位置に前記波長分散素子が位置するように前記回転駆動機構に該波長分散素子を回転させる制御部とを備え、
第1の波長を前記目的波長として前記演算式から算出された回転角度位置に前記波長分散素子が位置する状態において、前記第1の波長の光を含む光を前記入口から入射させたときに前記波長分散素子から前記出口に向かう光の光軸が該出口の中央の所定範囲を通過し、且つ、前記第1の波長とは異なる波長である第2の波長を前記目的波長として前記演算式から算出された回転角度位置に前記波長分散素子が位置する状態において、前記第2の波長の光を含む光を前記入口から入射させたときに前記波長分散素子から前記出口に向かう光の光軸が該出口の前記所定範囲を通過するように、前記筐体内に前記波長分散素子及び回転駆動機構が設定されているものである。
【0010】
ここで、前記第1の波長の光を含む光、前記第2の波長の光を含む光は、単色光及び多色光(多波長光)のいずれでもよく、指向性を有する光、無指向性の光のどちらでもよい。指向性を有する光としては、レーザ光、スリット等を用いて機械的に指向性を付与した光等が挙げられる。また、前記第1の波長の光を含む光と前記第2の波長の光を含む光は、同じでもよく異なっていてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る分光器は、次のようにして得られる。
製品を工場から出荷する前の光軸調整において、まずは、第1の波長を目的波長として設定する。これにより、回転駆動機構は、演算式から算出された第1の波長に対応する回転角度位置に波長分散素子が位置するように該波長分散素子を回転させる。そして、この状態で前記第1の波長の光を含む光を前記入口から入射させると、その光は前記波長分散素子によって波長分散され、その分散された光の一部である第1の波長の光が前記波長分散素子から前記出口に向かって進行するため、その光の光軸が該出口の中央の所定範囲を通過するように、波長分散素子及び回転駆動機構の配置を調整する。続いて、第2の波長についても、第1の波長と同じ手順で、波長分散素子から出口に向かう第2の波長の光の光軸が該出口の中央の所定範囲を通過するように、波長分散素子及び回転駆動機構の配置を調整する。このとき、波長分散素子及び回転駆動機構の配置を変更しなくても、波長分散素子によって分散されて出口に向かう第2の波長の光の光軸が該出口の中央の所定範囲を通過する場合は、光軸調整作業を終了する。一方、第2の波長を目的波長に設定したときに波長分散素子及び回転駆動機構の配置を変更した場合は、再度、第1の波長を目的波長に設定して上述した作業を行い、第1の波長が波長分散素子によって分散されて出口に向かう光の光軸が出口の所定範囲を通過するか否かを確認する。そして、その光の光軸が出口の所定範囲を通過した場合は、光軸調整作業を終了する。要するに、第1及び第2の波長の光が波長分散素子によって分散されて出口に向かう光の両方が該出口の中央の所定範囲を通過したことが確認された時点で光軸調整作業は終了する。
【0012】
ここで、第1の波長及び第2の波長とは、所定の条件を満たす波長であることが好ましい。所定の条件については後述する。また、波長分散素子としては回折格子、プリズム等が挙げられる。波長分散素子が回折格子の場合の光軸調整作業は、1次回折光の光軸が出口の中央の所定範囲を通過するように、回折格子の溝方向の傾き、溝方向と垂直な方向であって回折格子の格子面に沿う方向の傾きを調整することになる。波長分散素子から出口に向かう光の光軸が該出口の中央の所定範囲を通過したことは、出口付近に的部材を配置し、その的部材に形成される光のスポットの位置を目視で確認してもよく、出口の所定範囲から出射される光の光量を検出器で検出し、光量が最大となることをもって確認してもよい。
【0013】
本発明に係る分光器では、2つの異なる波長を目的波長としたときに、波長分散素子から出口に向かう目的波長の光の光軸が出口の中央の所定範囲を通過するように波長分散素子及び回転駆動機構が配置されているため、光軸調整に用いられた波長に限らず、様々な目的波長において十分な光量の光を取り出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る分光器の一実施例を示す概略構成図。
【
図2】出口スリット付近における1次回折光のスポットを示す図。
【
図3】直径が200nmのレーザ光を入口スリットから筐体に入射させたときの出口スリット付近に形成される1次回折光のスポットの大きさを示すグラフ。
【
図4】光軸調整方法の違いによる、0次光に対する1次回折光の強度比率の変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る分光器の一実施例について図面を参照して説明する。
図1は、本実施例の分光器100の概略構成図である。分光器100は、入口11及び出口12を備える筐体1と、該筐体1の内部に配置された波長分散素子としての回折格子2、第1反射面33及び第2反射面34を有するミラー3、前記回折格子2を回転させる回転駆動機構5、前記回折格子の回転位置が機械原点位置にあることを検出する原点センサ6、制御部7、入力部8を備えている。
【0016】
回転駆動機構5は、ステッピングモータと該ステッピングモータの出力軸の回転を所定の減速比で減速させて回折格子2を回転駆動する減速機構を備える。原点センサ6は例えば反射式の光電式スイッチから成り、これと回折格子2に設けられた突起(図示せず)によって、回折格子2が機械原点に位置することが検出される。原点センサ6の検出信号は制御部7に出力される。
【0017】
筐体1の入口11及び出口12にはそれぞれ取付マウント13、14が設けられており、各マウントに入口スリット131及び出口スリット141がそれぞれ着脱可能に装着されている。
【0018】
筐体1内の出口12の近傍にはフィルタ装置9が配置されている。詳しい図示は省略するが、フィルタ装置9は、円盤91と、該円盤91の外周縁に沿って配置された複数の開口と、これら複数の開口のうち1個を除く複数の開口のそれぞれに取り付けられた光学フィルタ92(
図1では1個の光学フィルタのみ示す)と、円盤91を回転するための回転ダイヤル93と回転ダイヤル93の回転位置を検出する回転位置センサ94とを備えている。光学フィルタ92としては、回折格子2からの1次回折光を透過させ、該1次回折光よりも短波長の高次光をカットする次数分離フィルタが用いられる。複数の光学フィルタ92には、それぞれ透過波長帯域が異なる次数分離フィルタが選定される。回転位置センサ94の検出信号は制御部7に出力される。回転ダイヤル93は筐体1の外側に配置されており、該回転ダイヤル93を手動で回転させることにより円盤91が回転され、それにより、回折格子2から出口12に向かう光の光路上に光学フィルタ92のいずれかが配置された状態と開口が配置された状態に切り替えることができる。
【0019】
制御部7は回転駆動機構5の動作を制御するものであって、波長移動制御部71、初期化制御部72、係数設定部73、係数記憶部74、演算式記憶部75などを機能ブロックとして備える。係数記憶部74には、初期化制御部72による初期化処理に使用されるオフセットパルス数C1、並びに波長移動制御部71による波長移動処理に用いられる光学マウント補正係数C2及びフィルタ補正係数C3が記憶されている。また、演算式記憶部75には、波長原点にある回折格子2を目的波長に対応する回転角まで回転させるために必要なステッピングモータの駆動パルス数を算出するための演算式が記憶されている。この演算式は、波長移動制御部71による波長移動処理に用いられる。前記係数記憶部74及び演算式記憶部75が本発明の記憶部に相当する。
【0020】
なお、上記の制御部7の実体はパーソナルコンピュータであり、該コンピュータにインストールされた専用の制御ソフトウェアをコンピュータ上で動作させることで上記各機能ブロックの機能が実現される。したがって、入力部8はキーボードやマウス等のポインティングデバイスを含む。
【0021】
オフセットパルス数C1は、回折格子2を機械原点から波長原点まで移動させるために必要なステッピングモータの駆動パルス数である。オフセットパルス数C1は、装置個体毎に異なった値である。また、波長原点は、目的波長が0nmであると仮定したときの回折格子2の回転位置である。
【0022】
光学マウント補正係数C2及びフィルタ補正係数C3は、波長原点から目的波長に対応する回転位置まで回折格子2を回転駆動するために必要なパルス数の算出に用いられる。光学マウント補正係数C2及びフィルタ補正係数C3は装置個体毎に異なった値である。フィルタ補正係数C3は、光学フィルタ92の種類毎に異なった値であり、係数記憶部74には、円盤91が有する光学フィルタ92の種類と同じ数のフィルタ補正係数C3が記憶されている。
【0023】
波長原点から目的波長に対応する回転位置まで回折格子2を移動させるために必要なステッピングモータの駆動パルス数は以下の演算式(1)を用いて算出される。
P=θ/Res ・・・ (1)
式(1)において、Pは駆動パルス数を、θ(deg)は目的波長に対応する回折格子2の回転角を、Res(deg/pulse)は回折格子2の角度分解能を表している。
【0024】
また、回折格子2の回転角θは、以下の式(2)から求められる。
θ={arcsin(K ×(1+C2)× W1)/π × 180}×C3 ・・・(2)
式(2)中、Kは光学マウント定数を、W1は目的波長を表している。光学マウント定数Kは、回折格子2の偏角、溝本数等によって決まる、装置固有の値である。また、式(2)中、C2、C3は、それぞれ上述した光学マウント補正係数、フィルタ補正係数を表している。
【0025】
上記構成の分光器100は、工場から出荷される前に光軸調整のための作業が行われる。以下、
図5を参照して光軸調整方法について説明する。光軸調整作業は、光軸調整に用いる2つの異なる波長(第1波長λ1及び第2波長λ2)を求めるための第1工程と、第1工程で求められた2つの波長(λ1,λ2)を用いて回折格子2及び回転駆動機構5の配置を調整するための第2工程とを含む。なお、以下に説明する光軸調整作業では、主に、回折格子2の溝方向の傾きが調整される。回折格子2の溝方向の傾きの調整作業に先立ち行われる、回折格子2のあおり方向の傾きを調整する作業は従来と同じであるため、説明を省略する。
【0026】
(1)第1工程
まず、筐体1の入口11の取付マウント13から入口スリット131を取り外し、ハロゲンランプ等の白色光源を単芯光ファイバを介して取付マウント13に接続する。そして、前記白色光源が出射する光を単芯光ファイバを通して筐体1内に入射させる。また、筐体1の出口12の取付マウント14から出口スリット141を取り外し、代わりにフォトダイオードアレイセンサ(以下「フォトセンサ」という)を設置する。そして、光源から出射可能な光の波長範囲内の複数の波長を目的波長として設定し、回転駆動機構5を制御して回折格子2を回転させながら、複数の目的波長のそれぞれについて、その1次回折光の前記フォトセンサの受光面におけるスポットの画像を得る(ステップ101)。次に、スポットの画像から該スポットの大きさを求める(ステップ102)。スポットの大きさは、フォトセンサの受光面におけるスポットの画像を二値化処理等してスポットの形状を確定し、確定された形状から自動的に算出してもよく、前記スポットの画像を表示画面に表示させ、該画像の大きさを手動で測定してもよい。
【0027】
図
3は、コア径が200nmの単芯光ファイバを使って光源からの光を筐体1に入射させた場合に、複数の目的波長について得られた1次回折光のスポットの大きさを示している。また、図
2は、目的波長を400nm, 550nm, 650nm, 750nm, 800nmに設定したときの1次回折光のスポットの画像を示している。ここでは、スポットの大きさは、図
2に示すスポット画像の縦方向の長さ(スポット高さ(mm))を意味している。スポット画像の縦方向は、回折格子2の溝の幅方向(溝が並ぶ方向)に対応する。
図2及び
図3から、目的波長によってスポットの大きさが異なること、200nmから900nmの波長範囲において2個の極小値が存在することがわかる。このように目的波長によってスポットの高さが異なる理由は、入口11から出口12に至るまでの光学系に種々の収差が存在するためであり、1次回折光のスポットの高さが小さい波長は、非点収差が小さい波長を表す。
【0028】
光軸作業の作業者は、ステップ102で得られた結果に基づき、光源の波長範囲に含まれる任意の異なる2つの波長(これら2つの波長の一方が本発明の第1の波長に、他方が第2の波長に相当する。)を光軸調整用の波長として選択する。光軸調整用の波長としては、
図3のグラフにおいて極小値を示す2つの波長を選択することが、以下に述べる理由から好ましい。つまり、
図3のグラフにおいて極小値を示すことが、「所定の条件を満たすこと」を意味する。
【0029】
出口12付近におけるスポットの高さが小さい1次回折光の場合に該スポットが出口12と全く重ならない状態にあるときの光軸の位置と、出口12付近におけるスポット高さが大きい1次回折光の場合に該スポットが出口12と全く重ならない状態になるときの光軸の位置とを比べると、スポット高さが小さい1次回折光の方が出口12の中央部からの距離が短くなる。このことは、スポット高さが小さい1次回折光は、その光軸の位置が出口12の中央から少しずれるだけで、出口12から出射できなくなる(つまり分光器100から取り出すことができなくなる)こと、したがって、光軸の位置を厳格に調整する必要があることを意味する。スポット高さが最小値となる波長の1次回折光は、最も厳格に光軸調整を行う必要があるため、このような波長の1次回折光を使って光軸調整を行えば、光軸調整に用いた波長に限らず、広い波長範囲の1次回折光を出口12から取り出すことができる。
【0030】
ただし、光軸調整用の2つの波長のうちの一方を極小値を示す波長(極小波長)にし、該極小波長とは異なる波長を他方の波長として選択しても良い。例えば、極小波長が2個存在し、且つそれら2個の極小波長の値が近接している場合は、光軸調整用の2つの波長のうちの一方を極小波長とし、他方を光源の波長範囲の端部付近の波長にすると良い。
【0031】
(2)第2工程
第1工程において光軸調整用の波長として選択された2個の波長を目的波長として設定する(ステップ103)。そして、回転駆動機構5を制御して回折格子2を回転させながら、2個の目的波長の各々について、その1次回折光が前記フォトセンサの受光面の所定範囲に入射した光量を検出する(ステップ104)。ステップ104の処理は、目的波長に対応する回転角度位置に回折格子2を位置させた状態で、回折格子2及び回転駆動機構5の配置を変更しつつ繰り返し行われる。これにより、フォトセンサの検出光量が最大となるように回折格子2の溝方向の傾きが調整される。この場合、光軸調整用の2個の波長のいずれにおいてもフォトセンサの検出光量が最大となることが好ましいが、2個の波長について得られたフォトセンサの検出光量の合計値が最大となれば、一方、あるいは両方の波長における検出光量は最大値でなくてもよい。
【0032】
上記の方法で光軸調整が行われた後の分光器100を使って、白色光源から出射された光を筐体1に入射させ、回転駆動機構5を制御して回折格子2を回転させながら、複数の目的波長のそれぞれについて、その1次回折光の光量を検出したときに得られた結果を
図4に示す。ここでは、図
3に示すグラフの2個の極小波長を光軸調整用の波長とした。また、
図4には、1つの波長の1次回折光で光軸調整が行われた従来の分光器を使って、同様に1次回折光の光量を検出した結果も併せて示されている。
図4の横軸は目的波長(nm)を、縦軸は、0次光の光量に対する1次回折光の光量の比率を表している。この図からわかるように、従来の分光器に比べると本実施例の分光器は、1次回折光の光量が増加していた。
【0033】
なお、上記説明では、第1工程(光軸調整用の波長を求める工程)で用いる光源と第2工程(光軸調整工程)で用いる光源を同じにしたが、第2工程では、光軸調整用の波長付近のレーザ光(単色光)を出射するレーザを光源として用いてもよい。
また、光軸調整作業では、回折格子2と回転駆動機構5の配置だけでなく、ミラー3の姿勢(第1及び第2反射面33、34の傾き)を調整しても良い。
【0034】
また、上述した光軸調整方法では、筐体1の出口12から出射してくる光の光量をフォトセンサで測定したが、出口12の取付マウント14に所定のコア径の単芯の光ファイバを接続し、これを通過してくる光の光量を検出器で検出した結果が最大となるように回折格子2及び回転駆動機構5の配置を調整してもよい。この例では、光ファイバのコアが、出口12の中央の所定範囲に相当する。また、出口12付近に的部材を設置し、該的部材に形成された1次回折光のスポットが該的部材の中央の所定範囲内に位置するように回折格子2及び回転駆動機構5の配置を調整してもよい。
【0035】
上記実施形態はあくまでも本発明の一例にすぎず、本願請求項に記載の範囲で適宜変形、追加、削除等を行っても本発明に包含されることは明らかである。
【0036】
[種々の態様]
上述した例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0037】
(第1項)本発明に係る分光器は、
入口及び出口を有する筐体と、
前記筐体内に配置された、前記入口から入射した光を波長分散して目的波長の光を前記出口から出射させる波長分散素子と、
前記波長分散素子を回転する回転駆動機構と、
前記目的波長に対応する前記波長分散素子の回転角度位置を算出するための演算式を記憶する記憶部と、
前記演算式から算出された回転角度位置に前記波長分散素子が位置するように前記回転駆動機構に該波長分散素子を回転させる制御部とを備え、
第1の波長を前記目的波長として前記演算式から算出された回転角度位置に前記波長分散素子が位置する状態において、前記第1の波長の光を含む光を前記入口から入射させたときに前記波長分散素子から前記出口に向かう光の光軸が該出口の中央の所定範囲を通過し、且つ、前記第1の波長とは異なる波長である第2の波長を前記目的波長として前記演算式から算出された回転角度位置に前記波長分散素子が位置する状態において、前記第2の波長の光を含む光を前記入口から入射させたときに前記波長分散素子から前記出口に向かう光の光軸が該出口の前記所定範囲を通過するように、前記筐体内に前記波長分散素子及び回転駆動機構が設定されている。
【0038】
第1項に記載の分光器によれば、2つの異なる波長を目的波長としたときに波長分散素子から出口に向かう各目的波長の光の光軸が該出口の中央の所定範囲を通過するように波長分散素子及び回転駆動機構が配置されているため、出口に光ファイバを接続し、該光ファイバを通じて光を出射させる構成において、光軸調整に用いられた波長に限らず、様々な目的波長において十分な光量の光を取り出すことができる。
【0039】
(第2項)第1項に記載の分光器において、前記波長分散素子が回折格子であり、前記第1の波長は、該第1の波長の光を含む多波長光の波長範囲内の複数の波長のそれぞれを目的波長として前記演算式から算出された回転角度位置に前記回折格子が位置する状態で、前記多波長光を前記入口から入射させたときに、前記回折格子から前記出口に向かう1次回折光の該出口における断面の大きさが最小となるときの波長とすることができる。
【0040】
(第3項)第1項に記載の分光器において、前記波長分散素子が回折格子であり、前記第1の波長及び前記第2の波長は、該第1の波長の光及び該第2の波長の光を含む多波長光の波長範囲内の3個以上の波長のそれぞれを目的波長として前記演算式から算出された回転角度位置に前記回折格子が位置する状態で、前記多波長光を前記入口から入射させたときに前記回折格子から前記出口に向かう1次回折光の該出口における断面の大きさが、1番目及び2番目に小さいときの波長とすることができる。
【0041】
前記回折格子から前記出口に向かう1次回折光の該出口における断面の大きさとは、断面の面積、断面の所定箇所(直径、周囲長)の長さ等をいう。1次回折光の結像位置が出口に近いほど、断面の大きさは小さくなる。断面が小さい1次回折光は、断面が大きい1次回折光に比べると、その光軸と出口の中央とのずれ量が小さくても該1次回折光が出口を通過できない場合があるため、光軸の位置を厳密に調整する必要がある。第2項及び第3項に記載の分光器では、出口における断面が小さくなるような波長の1次回折光を用いて光軸調整を行うため、該出口に光ファイバを接続した構成であっても、様々な波長において十分な光量の1次回折光を確実に光ファイバから取り出すことができる。
【符号の説明】
【0042】
1…筐体
11…入口
12…出口
13a…入口スリット
14a…出口スリット
2…回折格子
5…回転駆動機構
7…制御部
74…係数記憶部
75…演算式記憶部
8…入力部
100…分光器