(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】車両の下部車体構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/20 20060101AFI20240416BHJP
B60R 13/08 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
B62D25/20 G
B60R13/08
(21)【出願番号】P 2020083661
(22)【出願日】2020-05-12
【審査請求日】2023-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100176304
【氏名又は名称】福成 勉
(72)【発明者】
【氏名】橘 健太
(72)【発明者】
【氏名】知北 勝
(72)【発明者】
【氏名】宮本 康平
【審査官】長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-064316(JP,A)
【文献】特開2017-087869(JP,A)
【文献】特開2018-075850(JP,A)
【文献】特開2019-014354(JP,A)
【文献】特開2010-012845(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/20
B60R 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の下部車体構造であって、
フロアパネルの車幅方向中間位置を通るように車両前後方向に延び、上方に膨出して車両前後方向に延びる空間部を形成するフロアトンネルと、
前記フロアトンネルの内面に固定され、前記内面に沿って前記フロアトンネルの幅方向に延びるトンネルレインと、
前記空間部の内部の前記トンネルレインの下方の位置において、車両前後方向に延びる排気管と、
前記トンネルレインと前記排気管の間を通って車両前後方向に延びて前記フロアトンネルの内面および前記トンネルレインを覆い、前記フロアトンネルを前記排気管から生じる熱から保護するインシュレータとを備え、
前記インシュレータは、機械部品を前記インシュレータに貫通させた状態で前記トンネルレインに取り付けることを可能にする孔部を備え、
前記機械部品は、前記空間部に収容されるプロペラシャフトを前記トンネルレインに固定するための左右一対の下方突出部を有する固定用ブラケットであり、
前記孔部は、側面視にて前記プロペラシャフトの上端から下端まで重複し、下面視にて前記孔部の上端が前記プロペラシャフトを支持するベアリングの車幅方向左右端部と重複するように、左右一対に形成されるとともに、前記下方突出部が挿入可能な大きさを有し、
前記トンネルレインは、前記孔部と車両下面視および側面視で重なる領域において前記フロアトンネルとの間で閉断面を形成する閉断面形成部を有
し、
前記孔部と車両下面視および側面視で重なる前記閉断面の面積は、前記孔部の開口面積の70%以上となるように設定されている
ことを特徴とする車両の下部車体構造。
【請求項2】
前記インシュレータは、前記孔部の近傍かつ前記トンネルレインの車両前方側および車両後方側の少なくとも一方の位置において前記トンネルレインの内面側に突出するとともに車幅方向に延びる突出部を備える、
請求項1に記載の車両の下部車体構造。
【請求項3】
前記突出部は、前記閉断面の車両前方側および車両後方側の少なくとも一方に隣接する位置に配設されている
請求項2に記載の車両の下部車体構造。
【請求項4】
前記閉断面は、前記フロアトンネルの上下方向における中間位置から上端にわたる範囲に形成されている、
請求項1~3のいずれか1項に記載の車両の下部車体構造。
【請求項5】
前記閉断面形成部は、前記フロアトンネルから離れるように前記空間部の内方に突出した形状を有する、
請求項1~
4のいずれか1項に記載の車両の下部車体構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の下部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の下部を構成するフロア面には、車両前後方向に延びる空間部を形成する上方に膨出した逆U字状断面のフロアトンネルが設けられ、フロアトンネルの空間部には排気管が収容されている。フロアトンネルの内面は、車両走行時に排気管から生じる熱からフロアトンネルおよびその上方の車室内部を保護するために、断熱性を有するインシュレータが配設されている。
【0003】
一方、車両の仕様によっては、フロアトンネルの空間部には、排気管だけでなく他の機械部品を収容する場合がある。例えば、特許文献1記載のように、四輪駆動車では、車両前方側に配置されたエンジンから後輪へ動力伝達をするためのプロペラシャフトが排気管とともにフロアトンネルの内部空間に収容されている。このような四輪駆動車では、プロペラシャフトをフロアトンネルにブラケットなどを介して固定するために、インシュレータを車両前後方向で分割した構造が採用されている。この構造では、分割した2つのインシュレータの隙間の位置でブラケットがフロアトンネルに固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のようなインシュレータを車両前後方向で分割した構造は、異なる仕様の車両に適用できない場合がある。
【0006】
例えば、上記のようなインシュレータが分割した構造を例えば、FFの二輪駆動車のようにプロペラシャフトを有しない車両に適用した場合には、分割した2つのインシュレータの隙間は、プロペラシャフト固定用のブラケットによって塞がれていない状態になる。そのため、この隙間を通して、排気管の熱によって生じる高温の空気がインシュレータ上方のフロアトンネルへ到達するので、フロアトンネルの遮熱を達成できない。このため、二輪駆動車の場合には、上記のインシュレータの分割構造に代えて、フロアトンネルの下面を隙間なく覆う二輪駆動車専用のインシュレータを設けるなど、四輪駆動車とは異なる構造に変更する必要があり、車両の製造コストが増大する。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、車両の仕様によるフロアトンネル内における機械部品の取付けの有無にかかわらず共通のインシュレータを用いてフロアトンネルの遮熱が可能な車両の下部車体構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の車両の下部車体構造は、フロアパネルの車幅方向中間位置を通るように車両前後方向に延び、上方に膨出して車両前後方向に延びる空間部を形成するフロアトンネルと、前記フロアトンネルの内面に固定され、前記内面に沿って前記フロアトンネルの幅方向に延びるトンネルレインと、前記空間部の内部の前記トンネルレインの下方の位置において、車両前後方向に延びる排気管と、前記トンネルレインと前記排気管の間を通って車両前後方向に延びて前記フロアトンネルの内面および前記トンネルレインを覆い、前記フロアトンネルを前記排気管から生じる熱から保護するインシュレータとを備え、前記インシュレータは、機械部品を前記インシュレータに貫通させた状態で前記トンネルレインに取り付けることを可能にする孔部を備え、前記機械部品は、前記空間部に収容されるプロペラシャフトを前記トンネルレインに固定するための左右一対の下方突出部を有する固定用ブラケットであり、前記孔部は、側面視にて前記プロペラシャフトの上端から下端まで重複し、下面視にて前記孔部の上端が前記プロペラシャフトを支持するベアリングの車幅方向左右端部と重複するように、左右一対に形成されるとともに、前記下方突出部が挿入可能な大きさを有し、前記トンネルレインは、前記孔部と車両下面視および側面視で重なる領域において前記フロアトンネルとの間で閉断面を形成する閉断面形成部を有し、前記孔部と車両下面視および側面視で重なる前記閉断面の面積は、前記孔部の開口面積の70%以上となるように設定されていることを特徴とする。
【0009】
かかる構成では、インシュレータは、機械部品をインシュレータに貫通させた状態でトンネルレインに取り付けることを可能にする孔部を備え、トンネルレインは、孔部と車両下面視および側面視で重なる領域において前記フロアトンネルと閉断面を形成する閉断面形成部を有する。これにより、トンネルレインと孔部と車両下面視および側面視で重なる領域において、トンネルレインの閉断面形成部がフロアトンネルとの間で閉断面を形成することが可能である。この閉断面が、排気管から生じる熱をフロアトンネルならびに車室内部へ伝熱する際の伝熱抵抗(いわば、バッファ)となるため、インシュレータが孔部を有していても、フロアトンネルの遮熱が可能である。したがって、車両の仕様によるフロアトンネル内における機械部品の取付けの有無にかかわらず共通のインシュレータを用いてフロアトンネルの遮熱が可能である。
また、前記機械部品は、前記空間部に収容されるプロペラシャフトを前記トンネルレインに固定するための左右一対の下方突出部を有する固定用ブラケットである。そして、前記孔部は、側面視にて前記プロペラシャフトの上端から下端まで重複し、下面視にて前記孔部の上端が前記プロペラシャフトを支持するベアリングの車幅方向左右端部と重複するように、左右一対に形成されるとともに、前記下方突出部が挿入可能な大きさを有している。この構成では、四輪駆動車で使用されるプロペラシャフトおよび固定用ブラケットを必要としないFFの二輪駆動車の場合では、インシュレータの孔部に固定用ブラケットが取り付けられていない構成であっても、上記のようにトンネルレインとフロアトンネルによって閉断面が形成されることによって、二輪駆動車と四輪駆動車のインシュレータを共通化しながらフロアトンネルの遮熱をすることが可能である。
さらに、前記孔部と車両下面視および側面視で重なる前記閉断面の面積は、前記孔部の開口面積の70%以上となるように設定されている。閉断面はこの範囲の面積を有しているので、閉断面は必要最小限の面積で排気管から生じる熱からフロアトンネルを保護することが可能になり、閉断面を形成するトンネルレインの外形寸法を抑えながらフロアトンネルの遮熱が可能である。
【0010】
上記の車両の下部車体構造において、前記インシュレータは、前記孔部の近傍かつ前記トンネルレインの車両前方側および車両後方側の少なくとも一方の位置において前記トンネルレインの内面側に突出するとともに車幅方向に延びる突出部を備えるのが好ましい。
【0011】
かかる構成では、インシュレータが上記の突出部を備えていることにより、孔部の車両前方側および車両後方側の少なくとも一方の位置において、インシュレータとフロアトンネルとの隙間を狭くすることが可能である。これにより、排気管の熱によって加熱されたトンネルレイン内の高温の空気が孔部を通してインシュレータとフロアトンネルとの隙間へ流入する量を抑制することが可能であり、フロアトンネルの遮熱効果を向上させることが可能である。
【0012】
上記の車両の下部車体構造において、前記突出部は、前記閉断面の車両前方側および車両後方側の少なくとも一方に隣接する位置に配設されているのが好ましい。
【0013】
かかる構成では、突出部が閉断面の車両前方側および車両後方側の少なくとも一方において当該閉断面と連続して配設されているので、フロアトンネル内部の高温の空気が孔部を通してインシュレータとフロアトンネルとの隙間へ流入することをより効果的に抑制することが可能になり、フロアトンネルの遮熱効果をさらに向上させることが可能である。
【0014】
上記の車両の下部車体構造において、前記閉断面は、前記フロアトンネルの上下方向における中間位置から上端にわたる範囲に形成されているのが好ましい。
【0015】
フロアトンネル内部では排気管の熱によって発生した高温の空気は対流によって上昇するが、上記の構成では、閉断面がフロアトンネルの上半分の範囲に形成されている。そのため、閉断面が上昇した高温の空気からフロアトンネルを確実に保護するので、フロアトンネルの確実な遮熱が可能になる。
【0020】
上記の車両の下部車体構造において、前記閉断面形成部は、前記フロアトンネルから離れるように前記空間部の内方に突出した形状を有するのが好ましい。
【0021】
かかる構成では、閉断面形成部がフロアトンネルから離れるように空間部の内方に突出しているので、トンネルレインをフロアトンネルの内面に固定するだけで、閉断面形成部とフロアトンネルとの間に所定の容積の閉断面を確実に形成することが可能である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の車両の下部車体構造によれば、車両の仕様によるフロアトンネル内における機械部品の取付けの有無にかかわらず共通のインシュレータを用いてフロアトンネルの遮熱を行うがことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施形態に係る車両の下部車体構造であってプロペラシャフトを備えた四輪駆動車を下方から見た図である。
【
図2】
図1のフロアトンネルの空間部の内部におけるプロペラシャフトおよび排気管の配置を示す拡大図である。
【
図3】
図2の排気管を取り除いた状態であって、プロペラシャフト、当該プロペラシャフトをフロアトンネルに固定するための固定用ブラケット、および当該固定用ブラケットにボルトで固定される下部ブラケットの配置を示す拡大図である。
【
図4】
図3のプロペラシャフトおよび下部ブラケットを取り除いた状態であって、インシュレータに形成された2つの孔部、当該孔部を通して見えるトンネルレイン、トンネルレインに取り付けられた固定用ブラケットを示す拡大図である。
【
図6】
図5のインシュレータの車幅方向右側の孔部の内部におけるトンネルレインおよび固定用ブラケット、ならびにインシュレータの外面に形成された2つの突出部を示す断面説明図である。
【
図7】
図5のインシュレータの車幅方向左側の孔部の内部におけるトンネルレインおよび固定用ブラケット、ならびにインシュレータの外面に形成された2つの突出部を示す断面説明図である。
【
図9】
図4の固定用ブラケットが無い二輪駆動車のフロアトンネル内部の状態を示す、インシュレータに形成された2つの孔部、および当該孔部を通して見えるトンネルレインを示す拡大図である。
【
図10】
図5のプロペラシャフト、ベアリング、固定用ブラケット、および下部ブラケットが無い二輪駆動車のフロアトンネル内部の状態を示す断面説明図である。
【
図11】
図6のインシュレータの車幅方向右側の孔部の開口面積、およびトンネルレインおよびフロアトンネルによって形成される閉断面の面積を説明するための図である。
【
図12】
図7のインシュレータの車幅方向右側の孔部の開口面積、およびトンネルレインおよびフロアトンネルによって形成される閉断面の面積を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施の一形態について詳述する。
【0025】
図1~5に示される本実施形態の車両1の下部車体構造は、プロペラシャフト5を有する四輪駆動車の車体構造を示している。具体的には、この下部車体構造は、車両1の床面を構成するフロアパネル2と、車両前後方向Xに延びる空間部4を形成するフロアトンネル3と、フロアトンネル3を補強するトンネルレイン7(
図8参照)と、フロアトンネル3の空間部4に収容されて車両前後方向Xにそれぞれ延びるプロペラシャフト5および排気管6と、フロアトンネル3を排気管6から生じる熱から保護するインシュレータ8と、プロペラシャフト5をフロアトンネル3に固定する固定用ブラケット9および下部ブラケット11とを備えている。
【0026】
フロアトンネル3は、フロアパネル2の車幅方向Yの中間位置(すなわち、車幅方向Yにおける中心線C(
図1参照))を通るように車両前後方向Xに延び、上方Z1(
図5参照)に膨出して車両前後方向Xに延びる空間部4を形成する。フロアトンネル3は、
図5に示されるように半円筒形状であり、スチールなどの金属の板材をプレス成形するなどによって製造される。
【0027】
トンネルレイン7は、フロアトンネル3の内面に固定されることにより、フロアトンネル3を補強してフロアトンネル3の変形を防止し、それとともに車体の剛性を向上させる機能を有する部材である。
【0028】
トンネルレイン7は、
図8に示されるように、フロアトンネル3の内面に沿ってフロアトンネル3の幅方向(すなわち車幅方向Y)に延び、上方に突出するように湾曲した形状を有する。トンネルレイン7は、金属の板材などをプレス成形して製造される。トンネルレイン7は、後述の閉断面13(
図5~7参照)を形成する閉断面形成部7aと、閉断面形成部7aの車両前後方向Xの両端に隣接するフランジ部7bとを有する。
【0029】
トンネルレイン7の閉断面形成部7aは、後述のインシュレータ8の一対の孔部8aと車両下面視A1および側面視A2(
図5に示される矢印A1、A2参照)で重なる領域においてフロアトンネル3との間で閉断面13(
図5~7参照)を形成するように構成されている。具体的には、閉断面形成部7aは、フロアトンネル3から離れるように空間部4の内方に突出した形状を有する。
【0030】
トンネルレイン7の一対のフランジ部7bがフロアトンネル3の内面にスポット溶接などによって固定されることにより、トンネルレイン7の閉断面形成部7aとフロアトンネル3との間で
図5~7に示される閉断面13(すなわち閉空間)が形成される。
【0031】
図5に示される閉断面13は、フロアトンネル3の上下方向Zにおける中間位置CLから上端3aにわたる範囲に形成されている。
【0032】
排気管6は、
図1~2および
図5に示されるように、フロアトンネル3の空間部4の内部のトンネルレイン7の下方Z2の位置において、車両前後方向Xに延びる。排気管6は、空間部4の内部において、フロアトンネル3、トンネルレイン7およびプロペラシャフト5から下方に離間した位置で車両前後方向Xに延びている。
図1に示される排気管6の車両前後方向Xの両端部は、車両内部の図示しない機器、例えば、車両前方側X1のエンジンや車両後方側X2のマフラなどに固定される。なお、
図1~2には、排気管6の途中に設けられた触媒コンバータ21およびサブマフラ22などの排気管6に関連する付属機器が示されているが、本発明の車体構造にとっては必須の構成要素ではない。
【0033】
インシュレータ8は、トンネルレイン7と排気管6の間を通って車両前後方向Xに延びてフロアトンネル3の内面およびトンネルレイン7を覆い、フロアトンネル3を排気管6から生じる熱から保護する機能を有する部材である。インシュレータ8は、例えば、排気管から生じる輻射熱がフロアトンネル3に伝わることを防止することができる材料、具体的にはアルミニウムなどの板材などによって形成されている。
【0034】
インシュレータ8は、
図4~7に示されるように、トンネルレイン7と重なる範囲内において、本実施形態では機械部品としての固定用ブラケット9をインシュレータ8に貫通させた状態でトンネルレイン7に取り付けることを可能にする一対の孔部8aを備える。一対の孔部8aは、フロアトンネル3の幅方向(すなわち車幅方向Y)に互いに離間して配置されるように、インシュレータ8の貫通孔として形成されている。
【0035】
孔部8aは、固定用ブラケット9の少なくとも一部、具体的には後述の下方突出部9aが挿入可能な大きさを有する。
【0036】
一対の孔部8aは、
図4~5に示されるように車幅方向右側Y1および車幅方向左側Y2のそれぞれの孔部8a1、8a2の大きさが異なるが、いずれもトンネルレイン7と重なる範囲内の大きさである。具体的には、
図4および
図6に示される車幅方向右側Y1の孔部8a1の車両前後方向Xの幅W1は、トンネルレイン7の車両前後方向Xの幅W2よりも小さくなるように設定されている。また、
図4および
図7に示される車幅方向左側Y2の孔部8a2の車両前後方向Xの幅W3は、トンネルレイン7の車両前後方向Xの幅W2よりも小さく、かつ、車幅方向右側Y1の孔部8a1の幅W1よりも小さくなるように設定されている。
【0037】
さらに、
図6~7に示されるように、インシュレータ8は、一対の孔部8aの近傍かつトンネルレイン7の車両前方側X1および車両後方側X2の少なくとも一方(本実施形態では両方)の位置においてトンネルレイン7の内面側に突出するとともに車幅方向Yに延びる突出部15、16を備えている。
【0038】
突出部15、16は、閉断面13の車両前方側X1および車両後方側X2の少なくとも一方(本実施形態では両方)に隣接する位置に配設されている。具体的には、突出部15は、トンネルレイン7の車両前方側X1に隣接して配置され、突出部16は、トンネルレイン7の車両後方側X2に隣接して配置されている。本実施形態では、突出部15、16と閉断面13の隣接した位置関係は、閉断面13を形成するトンネルレイン7のフランジ部7b(
図7参照)を間に挟んで突出部15、16と閉断面13が設けられていることによって実現されている。
【0039】
これらの突出部15、16によってトンネルレイン7とインシュレータ8との隙間tを小さくすることが可能になる。これによって、上記のインシュレータ8の孔部8aを通して、排気管6の熱によって発生した高温の空気がトンネルレイン7とインシュレータ8との隙間に流れ込む量を抑制することが可能である。
【0040】
固定用ブラケット9は、プロペラシャフト5をトンネルレイン7に固定するための機械部品である。
【0041】
図4~7に示されるように、固定用ブラケット9は、トンネルレイン7の内面にスポット溶接などによって固定される。固定用ブラケット9は、トンネルレイン7の内面から離間するように下方Z2に突出する一対の下方突出部9aを有する。一対の下方突出部9aは、インシュレータ8の一対の孔部8aには、フロアトンネル3の幅方向(すなわち車幅方向Y)に互いに離間して配置される。一対の下方突出部9aは、インシュレータ8の一対の孔部8aを通して、インシュレータ8の内側に突出している。
【0042】
プロペラシャフト5は、
図1~3および
図5に示されるように空間部4における排気管6の上方の位置において、
図5に示されるようにベアリング10を介して固定用ブラケット9と下部ブラケット11とに挟まれ、フロアトンネル3に固定される。
【0043】
具体的には、
図5に示される下部ブラケット11は、固定用ブラケット9の一対の下方突出部9aとの間にスペーサ14を介在した状態で、当該下方突出部9aに取り付けられたボルト12および当該ボルト12に螺合するナット17を用いて固定用ブラケット9に固定される。
【0044】
本実施形態の下部車体構造では、
図1~7に示されるように、四輪駆動車の仕様の場合には、インシュレータ8の一対の孔部8aには、フロアトンネル3の空間部4に収容されるプロペラシャフト5をトンネルレイン7に固定するための固定用ブラケット9の一部である下方突出部9aが挿入されている。この状態では、孔部8aが下方突出部9aによって塞がれているので、孔部8aを通して排気管6の熱がトンネルレイン7へ伝わりにくくなっている。また、孔部8aと重なる位置にはトンネルレイン7の閉断面形成部7aとフロアトンネル3との間に閉断面13(
図5~7参照)が形成されているので、閉断面13が伝熱抵抗となってフロアトンネル3の遮熱を確実に行うことが可能である。
【0045】
一方、上記の
図1~7に示される四輪駆動車用の下部車体構造をFFの二輪駆動車に適用することを考える。この場合、
図9~10に示されるように、二輪駆動車の仕様の場合には、上記の四輪駆動車の仕様で使用されるプロペラシャフト5および固定用ブラケット9を必要としないため、インシュレータ8の一対の孔部8aが下方突出部9aによって塞がれておらず、孔部8aの全開口面積を通して排気管6の熱がトンネルレイン7へ伝わるが、孔部8aと重なる位置にはトンネルレイン7の閉断面形成部7aとフロアトンネル3との間に閉断面13(
図5~7参照)が形成されているので、閉断面13が伝熱抵抗となってフロアトンネル3の遮熱を行うことが可能である。このように、トンネルレイン7とフロアトンネル3によって閉断面13が形成されているので、孔部8aを有するインシュレータ8を二輪駆動車と四輪駆動車のいずれに適用しても当該閉断面13によってフロアトンネル3の遮熱をすることが可能である。
【0046】
一対の孔部8aの各孔部8a1、8a2と車両下面視A1および側面視A2(
図5参照)で重なる閉断面13の面積は、
図11~12に示されるように、各孔部8a1、8a2の開口面積70%以上となるように設定されていれば、閉断面13は必要最小限の面積で排気管6から生じる熱からフロアトンネル3を保護することが可能になる。具体的には、
図4および
図11に示されるように、車幅方向右側Y1の孔部8a1については、トンネルレイン7の閉断面形成部7aによって形成される閉断面13のうち孔部8a1と車両下面視A1および側面視A2で重なる閉断面13の面積S1は、当該孔部8a1の開口面積S2の70%以上になるように設定すればよい。また、
図4および
図12に示されるように、車幅方向左側Y2の孔部8a2については、トンネルレイン7の閉断面形成部7aによって形成される閉断面13のうち孔部8a2と車両下面視A1および側面視A2で重なる閉断面13の面積S3は、当該孔部8a2の開口面積S4の70%以上になるように設定すればよい。
【0047】
なお、閉断面13は、当該閉断面13の内部の空気によって断熱性を有するが、断熱性を向上するために閉断面13の内部に空気よりも断熱性(比熱)の高い材料を充填してもよい。
【0048】
上記の実施形態ではトンネルレイン7に固定される機械部品の一例として固定用ブラケット9を例に挙げて説明しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、他の機械部品であってもよい。すなわち、本発明の機械部品は、上記のようなプロペラシャフト固定用ブラケット9以外でも、車両の仕様によっては必要か不要かのどちらかになる部品であってインシュレータ8の孔部8aに貫通した状態でトンネルレインに固定される部品であればよい。
【0049】
(本実施形態の特徴)
(1)
本実施形態の車両1の下部車体構造では、フロアパネル2の車幅方向Yの中間位置(すなわち、車幅方向Yにおける中心線C(
図1参照))を通るように車両前後方向Xに延び、上方Z1に膨出して車両前後方向Xに延びる空間部4を形成するフロアトンネル3と、フロアトンネル3の内面に固定され、内面に沿ってフロアトンネル3の幅方向(すなわち車幅方向Y)に延びるトンネルレイン7と、空間部4の内部のトンネルレイン7の下方Z2の位置において、車両前後方向Xに延びる排気管6と、トンネルレイン7と排気管6の間を通って車両前後方向Xに延びてフロアトンネル3の内面およびトンネルレイン7を覆い、フロアトンネル3を排気管6から生じる熱から保護するインシュレータ8とを備えている。
【0050】
インシュレータ8は、
図4~5および
図9~10に示されるように、トンネルレイン7と重なる範囲内において、機械部品であるプロペラシャフト固定用ブラケット9(具体的には下方突出部9a)をインシュレータ8に貫通させた状態でトンネルレイン7に取り付けることを可能にする孔部8aを備えている。トンネルレイン7は、孔部8aと車両下面視A1および側面視A2(
図5および
図10参照)で重なる領域においてフロアトンネル3との間で閉断面13を形成する閉断面形成部7aを有する。
【0051】
かかる構成では、インシュレータ8は、トンネルレイン7と重なる範囲内において、機械部品である固定用ブラケット9をインシュレータ8に貫通させた状態でトンネルレイン7に取り付けることを可能にする孔部8aを備え、トンネルレイン7は、孔部8aと車両下面視A1および側面視A2で重なる領域においてフロアトンネル3と閉断面13を形成する閉断面形成部7aを有する。これにより、トンネルレイン7と孔部8aと車両下面視A1および側面視A2で重なる領域において、トンネルレイン7の閉断面形成部7aがフロアトンネル3との間で閉断面13を形成することが可能である。この閉断面13が、排気管6から生じる熱をフロアトンネル3ならびに車室内部へ伝熱する際の伝熱抵抗(いわば、バッファ)となるため、インシュレータ8が孔部8aを有していても、フロアトンネル3の遮熱が可能である。したがって、車両1の仕様によるフロアトンネル3内における機械部品(固定用ブラケット9)の取付けの有無にかかわらず共通のインシュレータ8を用いてフロアトンネル3の遮熱が可能である。
【0052】
(2)
本実施形態の車両1の下部車体構造では、
図6~7に示されるように、インシュレータ8は、一対の孔部8aの近傍かつトンネルレイン7の車両前方側X1および車両後方側X2の少なくとも一方(本実施形態では両方)の位置においてトンネルレイン7の内面側に突出するとともに車幅方向に延びる突出部15、16を備える。
【0053】
かかる構成では、インシュレータ8が上記の突出部15、16を備えていることにより、孔部8aの車両前方側X1および車両後方側X2の少なくとも一方の位置において、インシュレータ8とフロアトンネル3との隙間tを狭くする(例えば3mm程度まで狭くする)ことが可能である。これにより、排気管6の熱によって加熱されたトンネルレイン7内の高温の空気が孔部8aを通してインシュレータ8とフロアトンネル3との隙間へ流入する量を抑制することが可能であり、フロアトンネル3の遮熱効果を向上させることが可能である。
【0054】
なお、突出部15、16は、トンネルレイン7の車両前方側X1および車両後方側X2の少なくとも一方の位置に配置されていれば、高温の空気が孔部8aを通してインシュレータ8とフロアトンネル3との隙間へ流入する量を抑制することが可能である。
【0055】
(3)
本実施形態の車両1の下部車体構造では、突出部15、16は、閉断面13の車両前方側X1および車両後方側X2の少なくとも一方(本実施形態では両方)に隣接する位置に配設されている。
【0056】
かかる構成では、突出部15、16が閉断面13の車両前方側X1および車両後方側X2の少なくとも一方において当該閉断面13と連続して配設されているので、フロアトンネル3内部の高温の空気が孔部8aを通してインシュレータ8とフロアトンネル3との隙間へ流入することをより効果的に抑制することが可能になり、フロアトンネル3の遮熱効果をさらに向上させることが可能である。
【0057】
(4)
本実施形態の車両1の下部車体構造では、
図5に示されるように、閉断面13は、フロアトンネル3の上下方向Zにおける中間位置CL(
図5参照)から上端3aにわたる範囲に形成されている。
【0058】
フロアトンネル3内部では排気管6の熱によって発生した高温の空気は対流によって上昇するが、上記の構成では、閉断面13がフロアトンネル3の上半分の範囲に形成されている。そのため、閉断面13が上昇した高温の空気からフロアトンネル3を確実に保護するので、フロアトンネル3の確実な遮熱が可能になる。
【0059】
(5)
本実施形態の車両1の下部車体構造では、
図6に示される車幅方向右側Y1の一対の孔部8aのうちの孔部8a1と車両下面視A1および側面視A2で重なる閉断面13の面積S1は、孔部8a1の開口面積S2の70%以上となるように設定されている。また、
図7に示される車幅方向左側Y2の閉断面13のうち一対の孔部8aのうちの孔部8a2と車両下面視A1および側面視A2で重なる閉断面13の面積S3は、孔部8a2の開口面積S4の70%以上となるように設定されている。
【0060】
かかる構成では、閉断面13は上記の範囲の面積を有していれば、閉断面13は必要最小限の面積で排気管6から生じる熱からフロアトンネル3を保護することが可能になり、閉断面13を形成するトンネルレイン7の外形寸法を抑えながらフロアトンネル3の遮熱が可能である。
【0061】
(6)
本実施形態の車両1の下部車体構造では、機械部品は、空間部4に収容されるプロペラシャフト5をトンネルレイン7に固定するための
左右一対の下方突出部9aを有する固定用ブラケット9である。孔部8aは、
図6に示されるように、側面視(図5の側面視A2)にてプロペラシャフト5の上端から下端まで重複し、下面視(図5の車両下面視A1)にて孔部8aの上端がプロペラシャフト5を支持するベアリング10の車幅方向左右端部と重複するように、左右一対に形成される。それとともに、孔部8aは、固定用ブラケット9の少なくとも一部、具体的には下方突出部9aが挿入可能な大きさを有する。
【0062】
かかる構成では、上記の孔部8aは、フロアトンネル3の空間部4に収容されるプロペラシャフト5をトンネルレイン7に固定するための固定用ブラケット9の少なくとも一部(下方突出部9a)が挿入可能な大きさを有する。この場合、四輪駆動車で使用されるプロペラシャフト5および固定用ブラケット9を必要としないFFの二輪駆動車の場合では、インシュレータ8の孔部8aに固定用ブラケット9が取り付けられていない構成であっても、上記のようにトンネルレイン7とフロアトンネル3によって閉断面13が形成されることによって、二輪駆動車と四輪駆動車のインシュレータ8を共通化しながらフロアトンネル3の遮熱をすることが可能である。
【0063】
(7)
本実施形態の車両1の下部車体構造では、閉断面形成部7aは、フロアトンネル3から離れるように空間部4の内方に突出した形状を有する。
【0064】
かかる構成では、閉断面形成部7aがフロアトンネル3から離れるように空間部4の内方に突出しているので、トンネルレイン7をフロアトンネル3の内面に固定するだけで、閉断面形成部7aとフロアトンネル3との間に所定の容積の閉断面13を確実に形成することが可能である。
【符号の説明】
【0065】
1 車両
2 フロアパネル
3 フロアトンネル
3a 上端
4 空間部
5 プロペラシャフト
6 排気管
7 トンネルレイン
7a 閉断面形成部
8 インシュレータ
8a 孔部
9 固定用ブラケット(機械部品)
9a 下方突出部
13 閉断面
15、16 突出部