IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社デンソーの特許一覧

<>
  • 特許-エジェクタ 図1
  • 特許-エジェクタ 図2
  • 特許-エジェクタ 図3
  • 特許-エジェクタ 図4
  • 特許-エジェクタ 図5
  • 特許-エジェクタ 図6
  • 特許-エジェクタ 図7
  • 特許-エジェクタ 図8
  • 特許-エジェクタ 図9
  • 特許-エジェクタ 図10
  • 特許-エジェクタ 図11
  • 特許-エジェクタ 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】エジェクタ
(51)【国際特許分類】
   F25B 1/00 20060101AFI20240416BHJP
   F04F 5/18 20060101ALI20240416BHJP
   F04F 5/46 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
F25B1/00 389A
F04F5/18
F04F5/46 B
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020107080
(22)【出願日】2020-06-22
(65)【公開番号】P2022001815
(43)【公開日】2022-01-06
【審査請求日】2023-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001472
【氏名又は名称】弁理士法人かいせい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西嶋 春幸
(72)【発明者】
【氏名】押谷 洋
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正博
(72)【発明者】
【氏名】前田 紘志
【審査官】関口 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-017946(JP,A)
【文献】特表2015-521703(JP,A)
【文献】特開2014-115069(JP,A)
【文献】国際公開第2017/135092(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 1/00
F04F 5/18
F04F 5/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷凍サイクル装置に適用されるエジェクタであって、
駆動側冷媒を減圧して超音速となるまで加速させて、気液二相状態の駆動側噴射冷媒を噴射する駆動側ノズル部(31)と、
吸引側冷媒を吸引する冷媒吸引口(321)、前記冷媒吸引口から吸引された前記吸引側冷媒を減圧して噴射する吸引側ノズル部(322)、前記吸引側ノズル部から噴射された吸引側噴射冷媒と前記駆動側噴射冷媒とを混合させる混合部(323)、および前記混合部にて混合された混合冷媒の運動エネルギを圧力エネルギに変換するディフューザ部(324)を有するボデー部(32)と、を備え、
前記駆動側ノズル部は、冷媒流れ下流側に向かって外径を拡大させる形状の末広部(31d)を有し、
前記駆動側ノズル部は、前記ボデー部の内部に形成された円柱状空間内に同軸上に配置されており、
前記吸引側ノズル部の冷媒通路は、前記末広部の外周面と前記ボデー部の内周面との間に断面円環状に形成されており、
前記駆動側ノズル部の駆動側噴射口(31e)と前記吸引側ノズル部の吸引側噴射口(322a)は、前記駆動側噴射冷媒の噴射方向と前記吸引側噴射冷媒の噴射方向が同等の方向となるように開口しており、
前記駆動側噴射冷媒の圧力は、前記吸引側噴射冷媒の圧力よりも高くなっており、
前記混合部から流出して前記ディフューザ部へ流入する前記混合冷媒は、中心軸側の冷媒圧力と壁面側の冷媒圧力が一致しているとともに、亜音速になっているエジェクタ。
【請求項2】
前記混合部の出口の通路断面積を混合部出口面積Amixoutと定義し、前記ディフューザ部の出口の通路断面積をディフューザ部出口面積Aoutと定義したときに、
前記ディフューザ部へ流入する前記混合冷媒の流速が亜音速となるように、
Amixout/Aout
が設定されている請求項1に記載のエジェクタ。
【請求項3】
前記混合部の入口から出口へ至る軸方向の長さを混合部距離Lと定義し、前記駆動側噴射冷媒が前記混合部内で発生させた衝撃波を消滅させるために必要な軸方向の長さを緩和距離Lvと定義したときに、
Lv<L
となっている請求項1または2に記載のエジェクタ。
但し、緩和距離Lvは、以下の数式で定義される。
Lv=U0×(ρL×DL 2)/(18×μG
0:前記衝撃波の最上流部における前記混合冷媒の平均質量流速
ρL:前記衝撃波の最上流部における前記混合冷媒中の液滴の密度
L:前記衝撃波の最上流部における前記混合冷媒中の液滴の直径
μG:前記衝撃波の最上流部における前記混合冷媒中の気相冷媒の粘度
【請求項4】
前記衝撃波の最上流部における前記混合冷媒のマッハ数を初期マッハ数M0と定義したときに、
1<M0<2.5
1<L/Lv≦3.5
となっている請求項3に記載のエジェクタ。
【請求項5】
前記衝撃波の最上流部における前記混合冷媒のマッハ数を初期マッハ数M0と定義し、前記混合部の冷媒入口の径を混合部入口径Dmixと定義したときに、
1<M0<2.5
1<L/Dmix≦10
となっている請求項3に記載のエジェクタ。
【請求項6】
前記混合部は、前記混合冷媒の流れ方向下流側へ向かうに伴って通路断面積が増加する形状に形成されている請求項4または5に記載のエジェクタ。
【請求項7】
前記駆動側ノズル部は、内部に形成された冷媒通路内の気相冷媒が気相音速以下となるように加速する請求項1ないし6のいずれか1つに記載のエジェクタ。
【請求項8】
前記駆動側ノズル部は、冷媒通路断面積を最も縮小させる喉部(31c)、および前記喉部から前記駆動側噴射口へ向かうに伴って通路断面積を拡大させる末広部(31d)を有し、
前記喉部の通路断面積を喉部面積Anzthと定義し、前記駆動側噴射口の通路断面積を駆動側噴射口面積Anzoutと定義したときに、
前記冷媒通路内の気相冷媒の速度が気相音速以下となるように、
Anzout/Anzth
が設定されている請求項7に記載のエジェクタ。
【請求項9】
前記駆動側噴射口の通路断面積を駆動側噴射口面積Anzoutと定義し、前記吸引側噴射口の通路断面積を吸引側噴射口面積Asnoutと定義したときに、
前記駆動側噴射冷媒の冷媒圧力が前記吸引側噴射冷媒の冷媒圧力よりも高くなるように、
Asnout/Anzout
が設定されている請求項1ないし8のいずれか1つに記載のエジェクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動側ノズル部から気液二相状態の流体を噴射するエジェクタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エジェクタを備える冷凍サイクル装置であるエジェクタ式冷凍サイクルが知られている。
【0003】
エジェクタ式冷凍サイクルでは、エジェクタの昇圧作用によって、圧縮機へ吸入される冷媒の圧力を、蒸発器における冷媒蒸発圧力よりも上昇させることができる。これにより、エジェクタ式冷凍サイクルでは、圧縮機の消費動力を低減させて、サイクルの成績係数(COP)を向上させている。従って、エジェクタ式冷凍サイクルのCOPを向上させるためには、エジェクタの昇圧能力を向上させることが有効である。
【0004】
これに対して、特許文献1には、エジェクタ式冷凍サイクルに適用されるエジェクタとして、噴射冷媒と吸引冷媒とを混合させる混合部の通路形状を、冷媒流れ方向に向かうに伴って通路断面積を拡大させる円錐台形状としたエジェクタが開示されている。これにより、特許文献1のエジェクタでは、混合部における冷媒のエネルギ損失を抑制して、ディフューザ部における冷媒の昇圧量を増加させようとしている。
【0005】
また、特許文献2には、真空排気装置等に適用される産業用エゼクタ(以下、蒸気エジェクタと記載する。)では、衝撃波の圧力回復作用によって気相流体(具体的には、空気)を昇圧させることが記載されている。さらに、特許文献2には、蒸気エジェクタでは、衝撃波の最上流部における空気のマッハ数を低下させることで、衝撃波の圧力回復作用を高めることができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第9568220号明細書
【文献】特開昭59-151000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、特許文献1のエジェクタでは、冷媒通路の通路断面積が固定されている。このため、単に混合部の通路形状を円錐台形状にするだけでは、冷凍サイクル装置の負荷変動によらず、全ての運転条件において高い昇圧能力を得ることは難しい。
【0008】
また、エジェクタ式冷凍サイクルに適用されるエジェクタでは、特許文献2の蒸気エジェクタと同様の手段を採用しても、衝撃波の圧力回復作用を高めて冷媒の昇圧量を増加できるとは限らない。
【0009】
その理由は、蒸気エジェクタでは駆動側ノズル部から気相流体を噴射しており、冷凍サイクル装置に適用されるエジェクタでは、一般的に、駆動側ノズル部から気液二相冷媒を噴射するからである。そして、駆動側ノズル部から気相流体を噴射する蒸気エジェクタにおける衝撃波の発生態様と駆動側ノズル部から気液二相流体を噴射するエジェクタにおける衝撃波の発生態様は異なっているからである。
【0010】
本発明は、上記点に鑑み、適用された冷凍サイクル装置の負荷変動によらず、衝撃波を利用して高い昇圧能力を発揮可能なエジェクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、請求項1に記載のエジェクタは、冷凍サイクル装置に適用されるエジェクタであって、駆動側ノズル部(31)と、ボデー部(32)と、を備える。
【0012】
駆動側ノズル部は、駆動側冷媒を減圧して超音速となるまで加速させて、気液二相状態の駆動側噴射冷媒を噴射する。
【0013】
ボデー部は、冷媒吸引口(321)、吸引側ノズル部(322)、混合部(323)、およびディフューザ部(324)を有する。冷媒吸引口は、吸引側冷媒を吸引する。吸引側ノズル部は、冷媒吸引口から吸引された吸引側冷媒を減圧して噴射する。混合部は、吸引側ノズル部から噴射された吸引側噴射冷媒と駆動側ノズル部から噴射された駆動側噴射冷媒とを混合させる。ディフューザ部は、混合部にて混合された混合冷媒の運動エネルギを圧力エネルギに変換する。
【0014】
駆動側ノズル部は、冷媒流れ下流側に向かって外径を拡大させる形状の末広部(31d)を有している。駆動側ノズル部は、ボデー部の内部に形成された円柱状空間内に同軸上に配置されている。吸引側ノズル部の冷媒通路は、末広部の外周面とボデー部の内周面との間に断面円環状に形成されている。
駆動側ノズル部の駆動側噴射口(31e)と吸引側ノズル部の吸引側噴射口(322a)は、駆動側噴射冷媒の噴射方向と吸引側噴射冷媒の噴射方向が同等の方向となるように開口している。
【0015】
さらに、駆動側噴射冷媒の圧力は、吸引側噴射冷媒の圧力よりも高くなっており、混合部から流出してディフューザ部へ流入する混合冷媒は、中心軸側の冷媒圧力と壁面側の冷媒圧力が一致しているとともに、亜音速になっているエジェクタである。
【0016】
これによれば、駆動側ノズル部(31、131)にて減圧された駆動側噴射冷媒の冷媒圧力が、吸引側ノズル部(322)にて減圧された吸引側噴射冷媒の冷媒圧力よりも高くなっている。従って、冷凍サイクル装置の負荷変動によらず、駆動側ノズル部(31、131)にて駆動側冷媒を不足膨張させて、混合部(323)内に確実に衝撃波を発生させることができる。その結果、混合部(323)にて、衝撃波の圧力回復作用によって混合冷媒を昇圧することができる。
【0017】
さらに、混合部(323)から流出してディフューザ部(324)へ流入する混合冷媒の流速が亜音速になっている。このため、駆動側噴射冷媒によって生じる最初の衝撃波によって、混合部(323)内にエネルギ損失の原因となり得る疑似衝撃波が発生してしまっても、疑似衝撃波を速やかに消滅させることができる。
【0018】
これに加えて、混合部(323)では、混合部(323)から流出してディフューザ部(324)へ流入する混合冷媒の中心軸側の冷媒圧力と壁面側の冷媒圧力が一致するように、駆動側噴射冷媒と吸引側噴射冷媒とを混合している。従って、冷凍サイクル装置の負荷変動によって、疑似衝撃波の発生範囲が変化しても、疑似衝撃波を混合部(323)内で確実に消滅させることができる。
【0019】
その結果、適用された冷凍サイクル装置の負荷変動によらず、衝撃波を利用して高い昇圧能力を発揮可能なエジェクタを提供することができる。
【0020】
ここで、疑似衝撃波とは、後述する実施形態で説明するように、駆動側噴射冷媒によって生じる最初の衝撃波の下流側に膨張波が発生することによって、冷媒通路内の中心軸側の冷媒圧力と壁面側の冷媒圧力が異なる値となって、再び衝撃波が生じる現象である。
【0021】
なお、この欄及び特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】第1実施形態のエジェクタ式冷凍サイクルの模式的な全体構成図である。
図2】第1実施形態のエジェクタの軸方向断面図である。
図3】疑似衝撃波を説明するための説明図である。
図4】初期マッハ数と疑似衝撃波を消滅させるために必要な混合部距離との関係を示すグラフである。
図5】ディフューザ部出口冷媒圧力の変化に対するエジェクタの内壁面側の圧力変化を示すグラフである。
図6】運転条件OP1におけるエジェクタの疑似衝撃波の発生態様を模式的に示した説明図である。
図7】運転条件OP2におけるエジェクタの疑似衝撃波の発生態様を模式的に示した説明図である。
図8】運転条件OP3におけるエジェクタの疑似衝撃波の発生態様を模式的に示した説明図である。
図9】運転条件OP4におけるエジェクタの疑似衝撃波の発生態様を模式的に示した説明図である。
図10】第1実施形態のエジェクタの駆動ノズル部における膨張波の発生態様を説明するための説明図である。
図11】第2実施形態のエジェクタの軸方向断面図である。
図12】第3実施形態のエジェクタ式冷凍サイクルの模式的な全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための複数の実施形態を説明する。各実施形態において先行する実施形態で説明した事項に対応する部分には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する場合がある。各実施形態において構成の一部のみを説明している場合は、構成の他の部分については先行して説明した他の実施形態を適用することができる。各実施形態で具体的に組合せが可能であることを明示している部分同士の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、明示していなくとも実施形態同士を部分的に組み合せることも可能である。
【0024】
(第1実施形態)
図1図10を用いて、本発明の第1実施形態を説明する。本実施形態のエジェクタ13は、図1に示すように、エジェクタ式冷凍サイクル10に適用されている。エジェクタ式冷凍サイクル10は、エジェクタを備える蒸気圧縮式の冷凍サイクル装置である。エジェクタ式冷凍サイクル10は、車両用空調装置に適用されており、空調対象空間である車室内へ送風される送風空気を冷却する。
【0025】
エジェクタ式冷凍サイクル10では、冷媒としてHFO系冷媒(具体的には、R1234yf)を採用している。エジェクタ式冷凍サイクル10は、高圧側の冷媒圧力が冷媒の臨界圧力を超えない亜臨界冷凍サイクルを構成する。冷媒には、エジェクタ式冷凍サイクル10の圧縮機11を潤滑するための冷凍機油が混入されている。冷凍機油の一部は、冷媒とともにエジェクタ式冷凍サイクル10を循環している。
【0026】
圧縮機11は、エジェクタ式冷凍サイクル10において、冷媒を吸入し、圧縮して吐出する。圧縮機11は、吐出容量が固定された固定容量型の圧縮機構を電動モータにて回転駆動する電動圧縮機である。圧縮機11は、後述する制御装置20から出力される制御信号によって、回転数(すなわち、冷媒吐出能力)が制御される。
【0027】
圧縮機11の吐出口には、放熱器12の冷媒入口側が接続されている。放熱器12は、圧縮機11から吐出された高圧冷媒と冷却ファン12aにより送風される車室外空気(外気)とを熱交換させて、高圧冷媒を放熱させて凝縮させる放熱用熱交換器である。冷却ファン12aは、制御装置20から出力される制御電圧によって回転数(すなわち、送風能力)が制御される電動式送風機である。
【0028】
放熱器12の冷媒出口には、エジェクタ13の駆動側ノズル部31の駆動側入口31a側が接続されている。エジェクタ13は、放熱器12から流出した駆動側冷媒を減圧させる冷媒減圧部である。エジェクタ13は、後述する蒸発器16から流出した冷媒を吸引して輸送する冷媒輸送部でもある。さらに、エジェクタ13は、内部へ流入した冷媒を昇圧させる冷媒昇圧部でもある。
【0029】
エジェクタ13の詳細構成については、図2等を用いて説明する。エジェクタ13は、駆動側ノズル部31およびボデー部32を有している。
【0030】
駆動側ノズル部31は、駆動側冷媒を等エントロピ的に減圧して、超音速となるまで加速させた気液二相状態の駆動側噴射冷媒を、ボデー部32の混合部323内へ噴射する。駆動側ノズル部の冷媒流れ最上流側には、放熱器12から流出した高圧冷媒である駆動側冷媒を流入させる駆動側入口31aが形成されている。駆動側ノズル部31の冷媒流れ最下流部には、駆動側噴射冷媒を噴射する駆動側噴射口31eが形成されている。
【0031】
駆動側ノズル部31は、先細部31b、喉部31c、末広部31dを有している。先細部31bは、駆動側入口31aから流入した冷媒の通路断面積を冷媒流れ下流側に向かうに伴って縮小させる部位である。喉部31cは、冷媒の通路断面積を最も縮小させる部位である。末広部31dは、喉部31cから駆動側噴射口31eへ向かうに伴って冷媒の通路断面積を拡大させる部位である。つまり、エジェクタ13では、駆動側ノズル部31として、いわゆるラバールノズルが採用されている。
【0032】
駆動側ノズル部31は、金属製(本実施形態では、ステンレス製)の円筒状部材に塑性加工を施すことによって形成されている。駆動側ノズル部31の先細部31bおよび末広部31dを形成する部位の厚みは、概ね一定になっている。このため、先細部31bおよび末広部31dの外観形状は、内部に形成された冷媒通路の形状と同様に変化している。もちろん、駆動側ノズル部31は、ブロック状の金属部材に切削加工を施すことによって形成されていてもよい。
【0033】
駆動側ノズル部31の冷媒通路の形状は、駆動側噴射口31eから噴射される駆動側噴射冷媒の流速が、気液二相冷媒の音速である二相音速以上となるように決定されている。さらに、駆動側ノズル部31の冷媒通路内の気相冷媒の速度が、気相冷媒の音速である気相音速以下となるように決定されている。
【0034】
具体的には、駆動側ノズル部31の冷媒通路の形状は、以下数式F1を満足するように喉部面積Anzthと駆動側噴射口面積Anzoutとの関係が決定されている。
1.3≦Anzout/Anzth≦1.5 …(F1)
ここで、喉部面積Anzthは、喉部31cの通路断面積である。駆動側噴射口面積Anzoutは、駆動側噴射口31eの通路断面積である。
【0035】
次に、ボデー部32は、金属製(本実施形態では、アルミニウム製)の筒状部材で形成されている。ボデー部32は、エジェクタ13の外殻を形成している。駆動側ノズル部31は、ボデー部32の長手方向一端側の内部に圧入にて固定されている。駆動側ノズル部31の中心軸とボデー部32の中心軸は、同軸上に配置されている。ボデー部32は、樹脂製の筒状部材で形成されていてもよい。
【0036】
ボデー部32は、冷媒吸引口321、吸引側ノズル部322、混合部323、およびディフューザ部324を有している。
【0037】
冷媒吸引口321は、ボデー部32の筒状側面に形成されている。冷媒吸引口321は、駆動側ノズル部31から噴射された駆動側噴射冷媒の吸引作用によって、蒸発器16から流出した吸引側冷媒をエジェクタ13の内部へ吸引する貫通穴である。
【0038】
冷媒吸引口321は、ボデー部32の内部に形成された吸引空間321aに連通している。吸引空間321aは、ボデー部32の内部に形成された円柱状空間内に、駆動側ノズル部31の先細部31bおよび末広部31dが同軸上に配置されることによって形成される。従って、吸引空間321aは、駆動側ノズル部31の先細部31bおよび末広部31dの外周側に断面円環状に形成されている。
【0039】
吸引側ノズル部322は、冷媒吸引口321を介して吸引空間321a内へ吸引された吸引側冷媒を減圧して混合部323内へ噴射する。吸引側ノズル部322は、ボデー部32のうち、吸引空間321aの下流部であって、駆動側ノズル部31の末広部31dの先端部の外周側に形成されている。このため、吸引側ノズル部322の冷媒通路は、末広部31dの外周面とボデー部32の内周面との間に断面円環状に形成されている。
【0040】
前述の如く、駆動側ノズル部31の末広部31dの外周部は、内部の冷媒通路の形状と同様に、冷媒流れ下流側に向かうに伴って外径を拡大させる形状に形成されている。このため、吸引側ノズル部322の円環状の冷媒通路は、冷媒流れ下流側に向かうに伴って通路断面積が縮小する形状になる。つまり、エジェクタ13では、実質的に、吸引側ノズル部322として、いわゆる先細ノズルが採用されている。
【0041】
吸引側ノズル部322の吸引側噴射口322aは、駆動側噴射口31eの周囲に円環状に開口している。駆動側噴射口31eと吸引側噴射口322aは、同一平面上に開口している。吸引側噴射口322aの外径は、混合部323の入口部の内径である混合部入口径Dmixと一致している。
【0042】
このため、駆動側噴射口31eと吸引側噴射口322aは、駆動側噴射口31eから噴射された直後の駆動側噴射冷媒と吸引側噴射口322aから噴射された直後の吸引側噴射冷媒が略平行に流れるように開口している。換言すると、駆動側噴射口31eと吸引側噴射口322aは、噴射された直後の駆動側噴射冷媒の噴射方向と噴射された直後の吸引側噴射冷媒の噴射方向が同等の方向になるように開口している。
【0043】
駆動側ノズル部31の減圧性能および吸引側ノズル部322の減圧性能は、駆動側噴射口31eから噴射された直後の駆動側噴射冷媒の圧力が、吸引側噴射口322aから噴射された直後の吸引側噴射冷媒の圧力よりも高くなるように決定されている。
【0044】
具体的には、駆動側ノズル部31の駆動側噴射口面積Anzoutと吸引側ノズル部322の吸引側噴射口面積Asnoutが、以下数式F2を満足するように決定されている。
2≦Asnout/Anzout≦4 …(F2)
ここで、吸引側噴射口面積Asnoutは、吸引側噴射口322aの通路断面積である。
【0045】
上記数式F2によれば、駆動側噴射口面積Anzoutが吸引側噴射口面積Asnoutよりも小さくなる。ところが、駆動側冷媒は、放熱器12から流出した高圧冷媒であり、吸引側冷媒は、蒸発器16から流出した低圧冷媒である。このため、数式F2を満足するように、吸引側噴射口面積Asnoutと駆動側噴射口面積Anzoutとを決定すれば、駆動側噴射冷媒の圧力を、吸引側噴射冷媒の圧力よりも高くすることができる。
【0046】
混合部323は、駆動側噴射冷媒と吸引側噴射冷媒とを混合させる混合空間323aを形成する。混合部323は、ボデー部32のうち、駆動側噴射口31eおよび吸引側噴射口322aの冷媒流れ下流側に配置されている。混合空間323aは、冷媒流れ下流側に向かうに伴って、通路断面積を拡大させる略円錐台形状に形成されている。
【0047】
混合部323では、混合部323から流出する混合冷媒の中心軸側の冷媒圧力と壁面側の冷媒圧力が一致するように、駆動側噴射冷媒と吸引側噴射冷媒とを混合させる。混合部323では、混合部323から流出する混合冷媒に圧力分布が生じておらず、一様の圧力となるように、駆動側噴射冷媒と吸引側噴射冷媒とを混合させる。さらに、混合部323では、混合部323から流出してディフューザ部324へ流入する気液二相状態の混合冷媒の流速が、亜音速となるように駆動側噴射冷媒と吸引側噴射冷媒とを混合させる。
【0048】
ここで、エジェクタ13の混合部323よりも冷媒流れ下流側では、冷媒流れ下流側に向かうに伴って、通路断面積が縮小することがない。通路断面積が縮小しない。従って、混合部323にて、一様の圧力で亜音速となった気液二相状態の混合冷媒は、混合部323よりも冷媒流れ下流側で再び超音速に加速されることはない。
【0049】
従って、混合部323よりも冷媒流れ下流側では衝撃波が発生することはない。つまり、混合部323の通路形状は、駆動側ノズル部31から超音速で噴射される駆動側噴射冷媒によって生じた衝撃波を、混合部323内で消滅させる形状になっている。
【0050】
具体的には、混合部323の通路形状は、以下数式F3を満足するように、混合部距離Lが決定されている。緩和距離Lvは、以下数式F4で定義される。
Lv<L …(F3)
Lv=U0×(ρL×DL 2)/(18×μG) …(F4)
ここで、混合部距離Lは、混合部323の入口から出口へ至る軸方向長さである。
【0051】
また、数式F4のU0は、駆動側噴射冷媒によって混合部323内に生じる最初の衝撃波の最上流部における混合冷媒の平均質量流速である。ρLは、最初の衝撃波の最上流部における混合冷媒中の液相冷媒の粒(以下、液滴と記載する。)の密度である。DLは、最初の衝撃波の最上流部における混合冷媒中の液滴の平均的な直径である。μGは、最初の衝撃波の最上流部における混合冷媒中の気相冷媒の粘度である。
【0052】
数式F4に示されるように、緩和距離Lvは、最初の衝撃波の最上流部における混合冷媒の平均質量流速U0に、液滴の慣性力と粘性の比で表される無時間緩和時間を積算した距離に対応する値である。緩和距離Lvは、衝撃波の最上流部における混合冷媒の初速に、混合冷媒中の気相冷媒の流速と液滴の流速が同等となるまでの時間を積算した距離を表している。
【0053】
従って、駆動側噴射冷媒によって混合部323内で最初の衝撃波を消滅させるためには、少なくとも混合部距離Lが緩和距離Lvよりも大きくなっている必要がある。すなわち、上記数式F3を満足する必要がある。
【0054】
ところで、最初の衝撃波の最上流部における混合冷媒のマッハ数である初期マッハ数M0が比較的高い値になっていると、最初の衝撃波の下流側に膨張波が発生してしまうことがある。そして、最初の衝撃波の下流側に膨張波が発生することによって、混合部323の中心軸側の冷媒流速が亜音速となるものの、乱流境界層側の冷媒流速が再び超音速になってしまう。
【0055】
その結果、混合部323の中心軸側の冷媒圧力と壁面側の冷媒圧力が異なる値で変化して、再び衝撃波が生じる疑似衝撃波と呼ばれる現象が生じることがある。疑似衝撃波では、一般的に、膨張波の下流側の流体が亜音速になるまで、複数の衝撃波が発生する。疑似衝撃波は、衝撃波によるエントロピ生成と膨張波による冷媒の摩擦損失の増加によって、エジェクタ内部を流れる冷媒のエネルギ損失を招く原因となる。
【0056】
疑似衝撃波は、図3に模式的に示すように、ショックトレイン領域(shock train region)およびミキシング領域(mixing region)に大別される。ショックトレイン領域は、流体通路の中心軸側の流体圧力Pmiと壁面側の流体圧力Pmoとの高低関係が周期的に変化する領域である。また、ミキシング領域は、混合部の中心軸側の流体圧力Pmiと壁面側の流体圧力Pmoが略同等となって変化する領域である。
【0057】
なお、図3は、円管100の軸方向断面図上に、円管100の流体通路内を流れる気相流体に生じた疑似衝撃波の発生態様、および流体圧力を模式的に示した説明図である。図3の円管100内の無ハッチング領域は、主に超音速の流体が分布している領域である。点ハッチング領域は、主に亜音速の流体が分布している領域である。
【0058】
図3の円管100内の太線は衝撃波を示しており、二重破線は膨張波を示している。図3では、模式的に、3つの衝撃波および3つの膨張波を表しているが、衝撃波および膨張波の数は、これに限定されない。また、疑似衝撃波は、必ず生じる現象ではなく、初期マッハ数M0が比較的低い値になっている際には生じない。
【0059】
ところで、疑似衝撃波は、一般的に、蒸気エジェクタにて確認される現象と認識されている。蒸気エジェクタは、内部に気相流体が流れ、ディフューザ部の出口が大気に開放されたエジェクタである。蒸気エジェクタは、真空排気装置、排煙吸引装置、航空機のエアインテーク等に用いられる。
【0060】
これに対して、本発明者らは、試験検討の結果、内部に気液二相流体が流れるエジェクタにおいても疑似衝撃波が生じることを確認した。さらに、本発明者らは、蒸気エジェクタにて発生する疑似衝撃波の発生態様と気液二相流体が流れるエジェクタで発生する疑似衝撃波の発生態様が異なっていることも確認した。
【0061】
以下の説明では、説明の明確化のため、気相流体が流れる蒸気エジェクタで発生する疑似衝撃波を、気相流における疑似衝撃波と記載する。また、気液二相流体が流れるエジェクタで発生する疑似衝撃波を、二相流における疑似衝撃波と記載する。
【0062】
気相流における疑似衝撃波の発生態様と二相流における疑似衝撃波の発生態様が異なっている理由は、気液二相流体には、液滴が存在しているからである。具体的には、衝撃波中の気相冷媒は急速に流速を低下させるが、液滴は慣性力を有するために速度低下が気相冷媒よりも緩やかになる。また、膨張波中の気相冷媒は急速に流速を増加させるが、液滴は気相冷媒のからの抗力によって気相冷媒よりも緩やかに増速する。
【0063】
さらに、二相流における疑似衝撃波は、駆動側噴射冷媒の乾き度が低くなるに伴って発生しにくくなることが判っている。その理由は、液滴には、圧力波を散乱や吸収によって減衰させる作用があるからである。従って、二相流における疑似衝撃波は、液滴の大きさや数密度に応じて発生態様が変化する。
【0064】
そこで、本発明者らは、エジェクタ13において、混合部323内で二相流における疑似衝撃波が発生した際に、二相流における疑似衝撃波を速やかに消滅させるための検討を行った。
【0065】
その結果、図4に示すように、二相流における疑似衝撃波を消滅させるために必要な軸方向長さは、初期マッハ数M0の増加に伴って長くなることが判った。さらに、二相流における疑似衝撃波を消滅させるために必要な軸方向長さは、混合部323を流れる冷媒の乾き度Xの上昇に伴って長くなることが判った。なお、図4では、疑似衝撃波を消滅させるために必要な軸方向長さを、緩和距離Lvに対する比で表している。
【0066】
そして、エジェクタ式冷凍サイクルに適用されるエジェクタでは、以下数式F5を満足するように、混合部距離Lと緩和距離Lvとの関係を決定すれば、疑似衝撃波を混合部内で消滅させることができることを見出した。
1<L/Lv≦3.5(但し、1<M0<2.5) …(F5)
さらに、数式F5に示す関係を流路形状に換算すると、以下数式F6を満足するように、混合部距離Lと混合部入口径Dmixとの関係を決定すれば、疑似衝撃波を混合部内で消滅させることができることを見出した。
1<L/Dmix≦10(但し、1<M0<2.5) …(F6)
ここで、混合部入口径Dmixは、混合部323の入口における冷媒通路の径である。
【0067】
混合部入口径Dmixは、吸引側ノズル部322の吸引側噴射口322aの外径と一致している。また、数式F5、F6における初期マッハ数M0の範囲は、一般的なエジェクタ式冷凍サイクルに適用されるエジェクタにおいて、実使用上取り得る範囲である。
【0068】
エジェクタ13の混合部323の混合部距離Lは、上記数式F3、F5、F6を満足するように決定されている。このため、混合部323では、混合冷媒の圧力を上昇させるだけでなく、混合冷媒の流速を大きく低下させる。その結果、混合部323の壁面側の冷媒が、壁面から剥離しやすくなる。混合部323の壁面側の冷媒の壁面からの剥離は、混合冷媒の流れを妨げ、エネルギ損失を招く原因となる。
【0069】
そこで、混合部323の通路形状は、混合冷媒の流れ方向下流側へ向かうに伴って、通路断面積が増加する形状に形成されている。具体的には、混合部323の通路形状は、上記数式F5、F6を満たす範囲で、以下数式F7を満足するように、面積変化率dA/dzが決定されている。
0<dA/dz≦0.8(mm) …(F7)
ここで、面積変化率dA/dzは、混合部323における軸方向の単位長さdz(mm)あたりの冷媒通路断面積の変化量dA(mm2)である。さらに、混合部323では、冷媒流れ下流側へ向かうに伴って、面積変化率dA/dzを増加させている。
【0070】
ディフューザ部324は、混合部323にて混合された混合冷媒の運動エネルギを圧力エネルギへ変換する昇圧通路324aを形成する。昇圧通路324aの入口は、混合部323の出口に連続するように形成されている。昇圧通路324aは、冷媒流れ下流側に向かうに伴って通路断面積を拡大させる略円錐台形状に形成されている。この形状により、ディフューザ部324では、混合冷媒を減速させて、混合冷媒を昇圧させる。
【0071】
さらに、昇圧通路324aの通路形状は、混合部323から流出してディフューザ部324へ流入する混合冷媒の流速が亜音速となるように決定されている。
【0072】
具体的には、ディフューザ部324の通路形状は、以下数式F8を満足するように、混合部出口面積Amixoutとディフューザ部出口面積Aoutとの関係が決定されている。
0.3≦Amixout/Aout≦0.6 …(F8)
ここで、混合部出口面積Amixoutは、混合部323の出口の通路断面積である。混合部出口面積Amixoutは、ディフューザ部324の入口の通路断面積と一致している。また、ディフューザ部出口面積Aoutは、ディフューザ部324の出口の通路断面積である。
【0073】
エジェクタ式冷凍サイクルに適用されるエジェクタでは、圧縮機の消費動力を低減するために、ディフューザ部から流出する冷媒がある程度の流速を有している。一般的なエジェクタ式冷凍サイクルでは、ディフューザ部から流出する冷媒の流速は、音速の0.1倍から0.2倍程度の亜音速となっていればよい。
【0074】
従って、上記数式F8を満足するようにディフューザ部324の通路断面積が拡大してれば、混合部323から流出してディフューザ部324へ流入する混合冷媒の流速が音速を超えてしまうことはない。
【0075】
ディフューザ部324の出口には、図1に示すように、アキュムレータ14の入口側が接続されている。アキュムレータ14は、ディフューザ部324から流出した冷媒の気液を分離する気液分離部である。さらに、アキュムレータ14は、分離された液相冷媒の一部をサイクル内の余剰冷媒として蓄える貯液部である。
【0076】
アキュムレータ14の気相冷媒流出口には、圧縮機11の吸入口側が接続されている。一方、アキュムレータ14の液相冷媒流出口には、減圧手段としての固定絞り15を介して、蒸発器16の冷媒入口側が接続されている。固定絞り15としては、オリフィス、キャピラリーチューブ等を採用することができる。
【0077】
蒸発器16は、固定絞り15にて減圧された低圧冷媒と室内送風機16aから車室内へ向けて送風される送風空気とを熱交換させて、低圧冷媒を蒸発させて送風空気を冷却する吸熱用熱交換器である。室内送風機16aは、制御装置20から出力される制御電圧によって回転数(すなわち、送風能力)が制御される電動式送風機である。蒸発器16の冷媒出口は、エジェクタ13の冷媒吸引口321側に接続されている。
【0078】
次に、エジェクタ式冷凍サイクル10の電気制御部について説明する。制御装置20は、CPU、ROM、RAM等を含む周知のマイクロコンピュータとその周辺回路から構成されている。制御装置20は、ROM内に記憶された空調制御プログラムに基づいて、各種演算、処理を行い、出力側に接続された各種制御対象機器11、12a、16a等の作動を制御する。
【0079】
また、制御装置20の入力側には、内気温センサ、外気温センサ、日射センサ、蒸発器温度センサ、吐出圧力センサ等の複数の空調制御用のセンサ群が接続されている。制御装置20には、これらのセンサ群の検出値が入力される。
【0080】
より具体的には、内気温センサは、車室内温度を検出する内気温検出部である。外気温センサは、外気温を検出する外気温検出部である。日射センサは、車室内の日射量を検出する日射量検出部である。蒸発器温度センサは、蒸発器16の吹出空気温度(蒸発器温度)を検出する蒸発器温度検出部である。吐出圧力センサは、圧縮機11から吐出された冷媒の圧力を検出する吐出冷媒圧力検出部である。
【0081】
さらに、制御装置20の入力側には、車室内前部の計器盤付近に配置された図示しない操作パネルが接続され、この操作パネルに設けられた各種操作スイッチからの操作信号が制御装置へ入力される。操作パネルに設けられた各種操作スイッチとしては、車室内空調を行うことを要求する空調作動スイッチ、車室内温度を設定する車室内温度設定スイッチ等が設けられている。
【0082】
制御装置20は、出力側に接続された各種制御対象機器の作動を制御する制御部が一体に構成されたものである。制御装置20のうち、各制御対象機器の作動を制御する構成(ハードウェアおよびソフトウェア)が各制御対象機器の制御部を構成している。例えば、圧縮機11の作動を制御する構成が、吐出能力制御部を構成している。
【0083】
また、図1等では、制御装置20と各種制御対象機器とを接続する電力線あるいは信号線を図示しているが、図示の明確化のために、センサ群、および制御装置20とセンサ群とを接続する信号線の図示を省略している。
【0084】
次に、上記構成における本実施形態のエジェクタ式冷凍サイクル10の作動について説明する。操作パネルの空調作動スイッチが投入(ON)されると、制御装置20が圧縮機11、冷却ファン12a、室内送風機16a等を作動させる。これにより、圧縮機11が冷媒を吸入し、圧縮して吐出する。
【0085】
圧縮機11から吐出された高温高圧冷媒は、放熱器12へ流入する。放熱器12へ流入した高圧冷媒は、冷却ファン12aから送風された外気と熱交換して凝縮する。放熱器12にて凝縮した冷媒は、駆動側冷媒としてエジェクタ13の駆動側ノズル部31の駆動側入口31aへ流入する。駆動側ノズル部31では、駆動側冷媒が等エントロピ的に減圧される。
【0086】
駆動側ノズル部31へ流入した駆動側冷媒は、喉部31cにて臨界状態に至り、エジェクタ13の駆動流量が決定される。駆動側冷媒は、末広部31dにて超音速状態となるまで加速される。そして、気液二相状態の駆動側噴射冷媒となって駆動側噴射口31eから混合部323の混合空間323aへ噴射される。駆動側噴射冷媒は、二相音速を超えた超音速ミスト流となる。
【0087】
さらに、駆動側噴射口31eから混合部323へ噴射された駆動側噴射冷媒の吸引作用によって、蒸発器16から流出した冷媒が、吸引側冷媒として冷媒吸引口321から吸引空間321aへ吸引される。より詳細には、駆動側噴射冷媒は気液二相状態となっているので、噴射された液滴が慣性力の作用で加速することによって、吸引側噴射口322a近傍の圧力を低下させる。その結果、吸引側冷媒が吸引空間321aへ吸引される。
【0088】
吸引空間321aへ吸引された吸引側冷媒は、吸引側ノズル部322にて減圧されて、吸引側噴射冷媒となって吸引側噴射口322aから混合部323の混合空間323aへ噴射される。混合部323へ噴射される駆動側噴射冷媒の冷媒圧力は、混合部323へ噴射される吸引側噴射冷媒の冷媒圧力よりも高くなる。このため、駆動側ノズル部31では駆動側冷媒を不足膨張させて、混合部323内に膨張波を発生させる。
【0089】
駆動側噴射冷媒が発生させた膨張波は、混合部323の壁面や乱流境界層に反射して混合部323内に衝撃波を発生させる。混合部323では、駆動側噴射冷媒が発生させた衝撃波の圧力回復作用によって、駆動側噴射冷媒と吸引側噴射冷媒との混合冷媒の圧力が上昇する。さらに、混合部323では、一様の圧力で亜音速となった気液二相状態の混合冷媒となるように、駆動側噴射冷媒と吸引側噴射冷媒とを混合させる。
【0090】
混合部323から流出した混合冷媒は、ディフューザ部324へ流入する。ディフューザ部324では通路断面積の拡大により、混合冷媒の運動エネルギが圧力エネルギに変換される。これにより、混合冷媒の圧力がさらに上昇する。
【0091】
ディフューザ部324から流出した冷媒は、アキュムレータ14へ流入して、気液分離される。アキュムレータ14にて分離された液相冷媒は、固定絞り15にて減圧されて蒸発器16へ流入する。蒸発器16へ流入した冷媒は、室内送風機16aによって送風された送風空気から吸熱して蒸発する。これにより、送風空気が冷却される。
【0092】
蒸発器16から流出した冷媒は、前述の如く、吸引側冷媒となってエジェクタ13の冷媒吸引口321から吸引される。一方、アキュムレータ14にて分離された気相冷媒は、圧縮機11へ吸入されて再び圧縮される。
【0093】
エジェクタ式冷凍サイクル10は、以上の如く作動して、車室内へ送風される送風空気を冷却することができる。
【0094】
エジェクタ式冷凍サイクル10では、エジェクタ13にて昇圧された冷媒を圧縮機11へ吸入させている。これにより、エジェクタ式冷凍サイクル10では、蒸発器における冷媒蒸発圧力と圧縮機の吸入冷媒の圧力が略同等となる通常の冷凍サイクル装置よりも、圧縮機11へ吸入される吸入冷媒の圧力を上昇させることができる。従って、エジェクタ式冷凍サイクル10では、通常の冷凍サイクル装置よりも、圧縮機11の消費動力を低減させて、サイクルの成績係数(COP)を向上させることができる。
【0095】
さらに、本実施形態のエジェクタ式冷凍サイクル10では、エジェクタ13を備えているので、負荷変動によらず、高いCOPを発揮することができる。つまり、本実施形態のエジェクタ13では、負荷変動によらず、高い昇圧能力を発揮することができる。
【0096】
より詳細には、エジェクタ13では、混合部323へ噴射される駆動側噴射冷媒の冷媒圧力が、吸引側噴射冷媒の冷媒圧力よりも高くなっている。従って、エジェクタ式冷凍サイクル10の負荷変動によらず、駆動側ノズル部31にて駆動側冷媒を不足膨張させて、混合部323内に確実に衝撃波を発生させることができる。これにより、混合部323にて、衝撃波の圧力回復作用によって混合冷媒を昇圧することができる。
【0097】
さらに、エジェクタ13では、混合部323から流出して流出してディフューザ部324へ流入する混合冷媒の流速を亜音速に低下させている。これにより、駆動側噴射冷媒によって発生させた衝撃波を、混合部323内で確実に消滅させることができる。従って、圧力回復作用を発揮した後の衝撃波によって生じるエネルギ損失を抑制することができる。
【0098】
換言すると、エジェクタ式冷凍サイクル10の負荷変動によって、混合部323内に二相流における疑似衝撃波が発生してしまっても、疑似衝撃波を速やかに消滅させて、疑似衝撃波のエントロピ生成によるエネルギ損失を抑制することができる。
【0099】
これに加えて、混合部323では、混合部323から流出して流出してディフューザ部324へ流入する混合冷媒の中心軸側の冷媒圧力と壁面側の冷媒圧力を一致させるように駆動側噴射冷媒と吸引側噴射冷媒とを混合させている。従って、冷凍サイクル装置の負荷変動によって、二相流における疑似衝撃波の発生範囲が変化しても、混合部323内で疑似衝撃波を確実に消滅させることができる。
【0100】
その結果、本実施形態のエジェクタ13によれば、適用された冷凍サイクル装置の負荷変動によらず、衝撃波を利用して高い昇圧能力を発揮させることができる。さらに、内部に気液二相冷媒が流れるエジェクタ13では、気液二相冷媒に含まれる液滴によって圧力波を減衰させることができる。従って、衝撃波を利用して高い昇圧能力を発揮させても、騒音や振動の発生を抑制することができる。
【0101】
さらに、本発明者らは、エジェクタ13における衝撃波の圧力回復作用によって効果的に混合冷媒を昇圧するための検討も行っている。図5は、検討結果を示すグラフである。
【0102】
図5では、エジェクタ13へ流入する駆動側冷媒の入口圧力Pin、駆動側冷媒の乾き度X、および吸引側冷媒の吸引流量を一定として、ディフューザ部324の出口における冷媒圧力を変化させた際のエジェクタ13内部の圧力変化を示している。より具体的には、図5では、以下の運転条件OP1~運転条件OP4の4つについて、エジェクタ13の内壁面近傍の静圧分布を示している。
【0103】
運転条件OP1は、ディフューザ部324の出口における冷媒圧力を最も低くした運転条件である。運転条件OP2は、運転条件OP1よりもディフューザ部324の出口における冷媒圧力を高くした運転条件である。運転条件OP3は、運転条件OP2よりもディフューザ部324の出口における冷媒圧力を高くした運転条件である。運転条件OP4は、運転条件OP3よりもディフューザ部324の出口における冷媒圧力を高くした運転条件である。
【0104】
従って、ディフューザ部324の出口における冷媒圧力は、運転条件OP1、運転条件OP2、運転条件OP3、運転条件OP4の順に高くなっている。また、図5のグラフにおいて、ディフューザ部324の出口における冷媒圧力から混合部323の入口における冷媒圧力を減算した値が、エジェクタ13全体としての冷媒の昇圧量となる。図5では、図示の明確化のため、運転条件OP3についてのみ昇圧量ΔPを示している。
【0105】
まず、運転条件OP1では、図5のグラフに太破線で示すように、ディフューザ部324の入口側で混合冷媒の圧力低下が生じている。従って、運転条件OP1では、図6に示すように、超音速の混合冷媒がディフューザ部324内に進入して、ディフューザ部324の通路断面積の拡大によって、超音速冷媒の圧力低下が生じていることが理解される。
【0106】
さらに、運転条件OP1では、エジェクタ13全体としての昇圧量が他の運転条件よりも少ない。従って、二相流における疑似衝撃波が発生し、ショックトレイン領域がディフューザ部324の内部まで延びて、エネルギ損失を増加させていることが理解される。
【0107】
なお、図6は、エジェクタ13の軸方向断面図上に、エジェクタ13内を流れる冷媒に生じた衝撃波の発生態様を、図3と同様に模式的に示した説明図である。従って、図6のエジェクタ13内の無ハッチング領域は、主に超音速の流体が分布している領域である。点ハッチング領域は、主に亜音速の流体が分布している領域である。また、エジェクタ13内の太線は衝撃波を示しており、二重破線は膨張波を示している。このことは、図7図9においても同様である。
【0108】
次に、運転条件OP2では、図5のグラフに太一点鎖線で示すように、混合部323の下流側で混合冷媒の急峻な圧力上昇が始まっている。従って、運転条件OP2では、運転条件OP1よりもショックトレイン領域が短くなり、混合部323の下流側で、衝撃波による圧力回復作用が始まっていることが理解される。
【0109】
さらに、運転条件OP2では、運転条件OP1よりもエジェクタ13全体としての昇圧量が増加している。従って、運転条件OP2では、図7に示すように、混合部323内で衝撃波を消滅させて、運転条件OP1よりも疑似衝撃波の緩和距離Lvを縮小させることによって、エネルギ損失を減少させていることが理解される。
【0110】
次に、運転条件OP3では、図5のグラフに太実線で示すように、混合部323の入口近傍で混合冷媒の急峻な圧力上昇が始まっている。つまり、急峻な圧力上昇が開始される位置が、運転条件OP2よりも冷媒流れ上流側に移動している。従って、運転条件OP3では、運転条件OP2よりもショックトレイン領域が短くなり、混合部323の入口近傍で、衝撃波による圧力回復作用が始まっていることが理解される。
【0111】
さらに、運転条件OP3では、他の運転条件よりもエジェクタ13全体としての昇圧量が増加している。従って、運転条件OP3では、図8に示すように、混合部323内で衝撃波を速やかに消滅させて、他の運転条件よりも疑似衝撃波の緩和距離Lvを縮小させることによって、より一層エネルギ損失を減少させていることが理解される。
【0112】
次に、運転条件OP4では、図5の太二点鎖線図に示すように、他の運転条件よりも、混合部323の入口における冷媒圧力が上昇している。つまり、図5の細破線に示すように、駆動側噴射冷媒の圧力が上昇している。図5の細破線は、駆動側ノズル部31内の静圧分布を示している。
【0113】
さらに、混合部323へ流入した直後から混合冷媒の急峻な圧力上昇が始まっている。従って、運転条件OP4では、図9に示すように、駆動側ノズル部31にて駆動側冷媒を不足膨張させることができず、駆動側ノズル部31の内部で衝撃波が発生していることが理解される。
【0114】
このため、運転条件OP4では、衝撃波の圧力回復作用を、混合部323内にて混合冷媒の昇圧するために充分に利用できておらず、他の運転条件よりもエジェクタ13全体としての昇圧量も減少してしまっている。運転条件OP4のように、混合部323の入口における冷媒圧力が上昇すると、吸引側冷媒の圧力も上昇して、蒸発器16における冷媒蒸発温度が上昇してしまう可能性がある。
【0115】
以上のことから、混合部323における衝撃波の圧力回復作用によって混合冷媒を効果的に昇圧するためには、駆動側ノズル部31にて駆動側冷媒を確実に不足膨張させることが有効であることが判った。さらに、駆動側噴射冷媒によって生じる最初の衝撃波を混合部323の入口近傍で発生させることが有効であることが判った。さらに、混合部323内で発生した衝撃波を速やかに消滅させることが有効であることが判った。すなわち、ショックトレイン領域を短くすることが有効であると判った。
【0116】
そこで、本実施形態のエジェクタ13では、数式F2で説明したように、駆動側噴射冷媒の圧力が吸引側噴射冷媒の圧力よりも高くなるように、Asnout/Anzoutが設定されている。
【0117】
これによれば、負荷変動に応じた複雑な運転制御等を必要とすることなく、駆動側噴射冷媒の圧力を吸引側噴射冷媒の圧力よりも高くすることができる。そして、駆動側ノズル部31にて駆動側冷媒を確実に不足膨張させて、駆動側噴射冷媒に確実に膨張波を発生させることができる。
【0118】
また、本実施形態のエジェクタ13では、数式F1で説明したように、駆動側噴射口31eから噴射される駆動側噴射冷媒の流速が、気液二相冷媒の音速である二相音速以上となり、かつ、駆動側ノズル部31の冷媒通路内の気相冷媒の速度が、気相冷媒の音速である気相音速以下となるように、Anzout/Anzthが設定されている。
【0119】
これによれば、負荷変動に応じた複雑な運転制御等を必要とすることなく、気液二相状態の駆動側噴射冷媒を、確実に二相音速以上とすることができる。さらに、駆動側ノズル部31の冷媒通路内の気相冷媒の速度を、気相音速以下とすることができる。
【0120】
そして、駆動側ノズル部31の冷媒通路内の気相冷媒の速度を気相音速以下とすることで、図10に示すように、駆動側ノズル部31の内部から膨張波を発生させることができる。これは、膨張波による加速流が、外周側の気相音速以下の気相冷媒を駆動側ノズル部31内に引き込むからである。その結果、駆動側噴射冷媒によって混合部323内に生じる最初の衝撃波を混合部323の入口近傍に近づけることができる。
【0121】
本発明者の試験検討によれば、エジェクタ式冷凍サイクル10の通常運転時には、混合部323の入口から最初の衝撃波が発生するまでの距離L1が、混合部入口径Dmixの0.1倍以下となることが確認されている。従って、図5の運転条件OP3で説明したように、エジェクタ13全体としての昇圧量を増加させることができる。
【0122】
これに加えて、駆動側ノズル部31の冷媒通路内の壁面摩擦を緩和させることができるので、初期マッハ数M0を上昇させることができる。従って、高いエネルギを有する衝撃波によって、混合冷媒の昇圧量をより一層増加させることができる。
【0123】
また、本実施形態のエジェクタ13では、数式F3で説明したように、混合部距離Lが緩和距離Lvよりも長くなるように設定されている。これによれば、駆動側噴射冷媒によって混合部323内に生じる最初の衝撃波を、確実に、混合部323内で消滅させることができる。従って、混合部323から流出してディフューザ部324へ流入する気液二相状態の混合冷媒の流速を、亜音速に近づけやすい。
【0124】
さらに、本実施形態のエジェクタ13では、数式F5、F6に示したように、L/LvあるいはL/Dmixの範囲を設定している。これによれば、エジェクタ式冷凍サイクル10の負荷変動によって、二相流における疑似衝撃波が発生したとしても、二相流における疑似衝撃波を、確実に、混合部323内で消滅させることができる。
【0125】
ここで、二相流における疑似衝撃波を、混合部323内で消滅させるためには、単に混合部距離Lを長く設定することが考えられる。ところが、混合部距離Lを長く設定してしまうと、エジェクタ13全体としての体格も大きくなってしまう。これに対して、数式F5、F6では、実使用上実現可能な範囲で混合部距離Lの上限値を示している点で、極めて有効である。
【0126】
また、本実施形態のエジェクタ13では、数式F7で説明したように、混合部323の通路形状が、混合冷媒の流れ方向下流側へ向かうに伴って、通路断面積が増加する形状を有している。これによれば、混合部323の壁面側の冷媒の壁面からの剥離を抑制して、エネルギ損失を抑制することができる。
【0127】
本実施形態のように、混合部323にて、衝撃波の圧力回復作用によって混合冷媒の圧力を急上昇させることのできるエジェクタ13では、混合部323にて混合冷媒の流速が急低下する。このため、混合部323の壁面側の冷媒の壁面からの剥離を抑制できることは、エネルギ損失の抑制に有効である。
【0128】
また、本発明者らは、冷媒として、HFO系冷媒、HFC系冷媒、これらの冷媒の複数種を混合させた混合冷媒を採用するエジェクタ式冷凍サイクル10において、以下の条件で、エジェクタ13が衝撃波を利用して高い昇圧能力を発揮することを確認している。
【0129】
具体的には、少なくともエジェクタ13の入口圧力Pinおよび出口圧力Poutが、以下数式F9、F10の双方を満足する範囲で、エジェクタ13が、従来技術の4倍以上の昇圧能力を発揮することを確認している。
0.4≦Pin≦1.7(MPa) …(F9)
0.3≦Pout≦0.65(MPa) …(F10)
ここで、入口圧力Pinは、エジェクタ13の駆動側ノズル部31へ流入する駆動側冷媒の圧力である。出口圧力Poutは、ディフューザ部324から流出する冷媒の圧力である。
【0130】
さらに、少なくともエジェクタ13の入口圧力Pinおよび駆動側噴射圧力Pnzoutが、以下数式F11となる範囲で、エジェクタ13が、従来技術の4倍以上の昇圧能力を発揮することを確認している。
0.2≦Pnzout/Pin≦0.65 …(F11)
ここで、駆動側噴射圧力Pnzoutは、駆動側噴射口31eから噴射された直後の駆動側噴射冷媒の圧力である。
【0131】
また、HFO系冷媒には、R1234yfの他に、R1234zd等が含まれる。HFC系冷媒には、R134a、R410A、R32、R404A,R407C等が含まれる。これら冷媒を採用するエジェクタ式冷凍サイクルでは、亜臨界冷凍サイクルが構成される。
【0132】
(第2実施形態)
本実施形態のエジェクタ113は、第1実施形態と同様の構成のエジェクタ式冷凍サイクル10に適用されている。本実施形態のエジェクタ式冷凍サイクル10は、据置用の暖房給湯装置に適用されており、室内へ送風される送風空気あるいは給湯水の加熱をする。本実施形態のエジェクタ式冷凍サイクル10は、冷媒として二酸化炭素を採用しており、高圧側の冷媒圧力が冷媒の臨界圧力を超える超臨界冷凍サイクルを構成している。
【0133】
このため、本実施形態のエジェクタ式冷凍サイクル10の放熱器12は、高圧冷媒と空調対象空間へ送風される送風空気あるいは台所や風呂等へ供給される給湯水とを熱交換させて、高圧冷媒を超臨界状態のまま放熱させる放熱用熱交換器となる。また、本実施形態の蒸発器16は、低圧冷媒と外気ファンにより送風された外気とを熱交換させて、低圧冷媒を蒸発させて吸熱作用を発揮させる吸熱用熱交換器となる。
【0134】
本実施形態のエジェクタ113は、図11に示すように、駆動側ノズル部131、ボデー部132、ニードル弁133、および駆動機構134を有している。駆動側ノズル部131は、第1実施形態で説明した駆動側ノズル部31を同様の機能を発揮するように各部位の寸法諸元が設定されている。駆動側ノズル部131の冷媒通路内には、ニードル弁133が配置されている。
【0135】
ニードル弁133は、駆動側ノズル部131の軸方向に変位することによって、駆動側ノズル部131の喉部や駆動側噴射口の通路断面積を変化させる。ニードル弁133は、金属製(本実施形態では、ステンレス製)の針状部材で形成されている。ニードル弁133の中心軸は、駆動側ノズル部131の中心軸と同軸上に配置されている。ニードル弁133の駆動側噴射口の反対側の端部は、駆動機構134に連結されている。
【0136】
駆動機構134は、ニードル弁133を中心軸方向へ変位させる駆動部である。本実施形態では、駆動機構134として、ステッピングモータが採用されている。駆動機構134は、制御装置20から出力される制御信号(すなわち、制御パルス)によって、作動が制御される。
【0137】
ボデー部132は、複数の金属製(本実施形態では、アルミニウム製)のブロック部材を組み合わせることによって形成されている。ボデー部132は、第1実施形態で説明したボデー部32と同様の機能を発揮するように各部位の寸法諸元が設定されている。ボデー部132は、第1実施形態と同様の冷媒吸引口321、吸引側ノズル部322、混合部323、およびディフューザ部324を有している。
【0138】
その他のエジェクタ113の構成は、第1実施形態で説明したエジェクタ13と同様である。
【0139】
次に、本実施形態のエジェクタ式冷凍サイクル10の作動について説明する。本実施形態では、制御装置20が、蒸発器16出口側冷媒の過熱度が予め定めた基準過熱度KSHに近づくように、駆動機構134の作動を制御する。その他の作動は第1実施形態と同様である。従って、本実施形態のエジェクタ式冷凍サイクル10においても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0140】
すなわち、本実施形態のエジェクタ113によれば、負荷変動によらず、高い昇圧能力を発揮することができる。その結果、本実施形態のエジェクタ式冷凍サイクル10においても、負荷変動によらず、高いCOPを発揮することができる。
【0141】
また、本発明者らは、冷媒として二酸化炭素、あるいは、二酸化炭素を含む混合冷媒を採用するエジェクタ式冷凍サイクル10において、以下の条件で、エジェクタ113が衝撃波を利用して高い昇圧能力を発揮することを確認している。
【0142】
具体的には、少なくともエジェクタ13の入口圧力Pinおよび出口圧力Poutが、以下数式F12、F13の双方を満足する範囲で、エジェクタ13が、高い昇圧能力を発揮することを確認している。
6≦Pin≦14(MPa) …(F12)
1.5≦Pout≦7(MPa) …(F13)
さらに、少なくともエジェクタ13の入口圧力Pinおよび駆動側噴射圧力Pnzoutが、以下数式F14を満足する範囲で、エジェクタ13が、高い昇圧能力を発揮することを確認している。
0.3≦Pnzout/Pin≦0.7 …(F14)
なお、二酸化炭素、あるいは、二酸化炭素を含む混合冷媒を採用するエジェクタ式冷凍サイクルでは、超臨界冷凍サイクルが構成される。
【0143】
(第3実施形態)
本実施形態では、エジェクタ13を、図12に示すように、エジェクタ式冷凍サイクル10aに適用した例を説明する。エジェクタ式冷凍サイクル10aは、車両用空調装置に適用に適用されている。エジェクタ式冷凍サイクル10aは、分岐部17、第1蒸発器161、第2蒸発器162を備えている。また、エジェクタ式冷凍サイクル10aでは、アキュムレータ14が廃止されている。
【0144】
分岐部17は、放熱器12から流出した冷媒の流れを分岐する三方継手である。分岐部17の一方の流出口には、エジェクタ13の駆動側ノズル部31の駆動側入口31a側が接続されている。分岐部17の他方の流出口には、固定絞り15の入口側が接続されている。
【0145】
エジェクタ13のディフューザ部324の出口には、第1蒸発器161の冷媒入口側が接続されている。第1蒸発器161は、エジェクタ13のディフューザ部324が流出した低圧冷媒と室内送風機16aから送風された送風空気とを熱交換させて、送風空気を冷却する吸熱用熱交換器である。第1蒸発器161の冷媒出口には、圧縮機11の吸入口側が接続されている。
【0146】
固定絞り15の出口には、第2蒸発器162の冷媒入口側が接続されている。第2蒸発器162は、固定絞り15にて減圧された低圧冷媒と第1蒸発器161通過後の送風空気とを熱交換させて、送風空気を冷却する吸熱用熱交換器である。第2蒸発器162の冷媒出口には、エジェクタ13の冷媒吸引口321側が接続されている。
【0147】
本実施形態の第1蒸発器161および第2蒸発器162は、一体的に構成されている。具体的には、第1蒸発器161および第2蒸発器162は、いわゆるタンクアンドチューブ型の熱交換器で構成されている。タンクアンドチューブ型の熱交換器は、冷媒を流通させる複数本のチューブ、および複数のチューブの両端部に接続されて冷媒の集合あるいは分配を行う一対の集合分配用タンクとを有する熱交換器である。
【0148】
そして、第1蒸発器161および第2蒸発器162は、集合分配用タンクを同一部材にて形成することによって、一体的に構成されている。本実施形態では、第1蒸発器161が第2蒸発器162に対して送風空気流れ上流側に配置されるように、第1蒸発器161および第2蒸発器162を送風空気流れに対して直列に配置している。従って、送風空気は図12の細破線矢印で示すように流れる。
【0149】
その他のエジェクタ式冷凍サイクル10aおよびエジェクタ13の構成は、第1実施形態と同様である。
【0150】
次に、上記構成における本実施形態のエジェクタ式冷凍サイクル10aの作動について説明する。エジェクタ式冷凍サイクル10aでは、制御装置20が、圧縮機11を作動させると、第1実施形態と同様に、圧縮機11から吐出された高温高圧冷媒が、放熱器12にて凝縮する。放熱器12から流出した冷媒は、分岐部17へ流入する。分岐部17では、放熱器12から流出した冷媒の流れが分岐される。
【0151】
分岐部17にて分岐された一方の冷媒は、駆動側冷媒としてエジェクタ13の駆動側ノズル部31へ流入する。駆動側ノズル部31では、第1実施形態と同様に、駆動側冷媒が等エントロピ的に減圧される。そして、駆動側ノズル部31の駆動側噴射口31eから、二相音速を超える気液二相状態の駆動側噴射冷媒が混合部323の混合空間323aへ噴射される。
【0152】
さらに、駆動側噴射冷媒の吸引作用によって、第2蒸発器162から流出した冷媒が、吸引側冷媒として冷媒吸引口321から吸引空間321aへ吸引される。吸引空間321aへ吸引された吸引側冷媒は、吸引側ノズル部322へ流入する。吸引側ノズル部322では、第1実施形態と同様に、吸引側ノズル部322の吸引側噴射口322aから、吸引側噴射冷媒が混合部323の混合空間323aへ噴射される。
【0153】
混合部323では、駆動側噴射冷媒が発生させた衝撃波の圧力回復作用によって、駆動側噴射冷媒と吸引側噴射冷媒との混合冷媒の圧力が上昇する。混合部323から流出した混合冷媒は、ディフューザ部324へ流入する。ディフューザ部324では、第1実施形態と同様に、混合冷媒の圧力がさらに上昇する。
【0154】
ディフューザ部324から流出した冷媒は、第1蒸発器161へ流入する。第1蒸発器161では、ディフューザ部324から流出した冷媒が室内送風機16aによって送風された送風空気から吸熱して蒸発する。これにより、送風空気が冷却される。第1蒸発器161から流出した気相冷媒は、圧縮機11に吸入されて、再び圧縮される。
【0155】
一方、分岐部17にて分岐された他方の冷媒は、固定絞り15へ流入して等エンタルピ的に減圧される。固定絞り15にて減圧された低圧冷媒は、第2蒸発器162へ流入する。第2蒸発器162へ流入した冷媒は、第1蒸発器161通過後の送風空気から吸熱して蒸発する。これにより、送風空気がさらに冷却されて車室内へ送風される。第2蒸発器162から流出した冷媒は、エジェクタ13の冷媒吸引口321から吸引される。
【0156】
本実施形態のエジェクタ式冷凍サイクル10aは、以上の如く作動して、車室内へ送風される送風空気を冷却することができる。
【0157】
エジェクタ式冷凍サイクル10aでは、エジェクタ13の昇圧作用によって、第1蒸発器161の冷媒蒸発温度を、第2蒸発器162の冷媒蒸発温度よりも上昇させることができる。従って、エジェクタ式冷凍サイクル10aでは、第1蒸発器161の冷媒蒸発温度と送風空気の温度差、および第2蒸発器162の冷媒蒸発温度と送風空気との温度差を確保して、効率的に送風空気を冷却できる。
【0158】
さらに、本実施形態のエジェクタ式冷凍サイクル10aでは、エジェクタ13を採用しているので、負荷変動によらず、高いCOPを発揮することができる。
【0159】
(他の実施形態)
本発明は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、以下のように種々変形可能である。
【0160】
(1)上述の実施形態では、本発明に係るエジェクタ13、113を、エジェクタ式冷凍サイクル10、10aに適用した例を説明したが、エジェクタ13、113を適用可能なサイクルは、これに限定されない。例えば、エジェクタ式冷凍サイクル10に、中間圧膨張弁を追加したサイクルに適用してもよい。
【0161】
中間圧膨張弁は、エジェクタ式冷凍サイクル10において、放熱器12から流出した冷媒を減圧させて、エジェクタ13の駆動側ノズル部31の駆動側入口31a側へ流出させる。中間圧膨張弁としては、中間圧膨張弁へ流入する高圧冷媒の圧力が、高圧冷媒の温度に応じて決定される目標高圧となるように絞り開度を変化させる可変絞り機構を採用することができる。
【0162】
また、エジェクタ式冷凍サイクル10aに、中間圧膨張弁を追加したサイクルに適用してもよい。
【0163】
中間圧膨張弁は、エジェクタ式冷凍サイクル10aにおいて、放熱器12から流出した冷媒を減圧させて、分岐部17の流入口側へ流出させる。中間圧膨張弁としては、第1蒸発器161から流出した冷媒の過熱度が、予め定めた基準過熱度に近づくように絞り開度を変化させる可変絞り機構を採用することができる。
【0164】
また、上述の第3実施形態では、エジェクタ式冷凍サイクル10aの第1蒸発器161および第2蒸発器162を一体的に構成した例を説明したが、第1蒸発器161および第2蒸発器162を別体で形成してもよい。そして、第1蒸発器161および第2蒸発器162にて、異なる冷媒対象流体を異なる温度帯で冷却するようにしてもよい。
【0165】
エジェクタ13、113では、負荷変動によらず高い昇圧能力を発揮するので、例えば、冷媒蒸発温度が第2蒸発器162よりも高くなる第1蒸発器161を、空調対象空間へ送風される空調用の送風空気をするために用いてもよい。そして、冷媒蒸発温度が第1蒸発器161よりも低くなる第2蒸発器162を、冷凍庫内へ循環送風される冷凍庫用の送風空気を冷却するために用いてもよい。
【0166】
(2)エジェクタ式冷凍サイクル10、10aの各構成については、上述の実施形態に開示されたものに限定されない。
【0167】
例えば、圧縮機11は、電動圧縮機に限定されない。例えば、エジェクタ式冷凍サイクル10、10aが、エンジンを搭載する車両に適用される場合等は、エンジンから伝達される回転駆動力によって駆動されるエンジン駆動式の圧縮機を採用してもよい。エジェクタ式冷凍サイクルでは、エンジン駆動式の圧縮機としては、吐出容量の変化により冷媒吐出能力を調整可能な可変容量型圧縮機等を採用することができる。
【0168】
また、亜臨界冷凍サイクルを構成するエジェクタ式冷凍サイクルの放熱器12として、いわゆるサブクール型の凝縮器を採用してもよい。
【0169】
サブクール型の凝縮器は、凝縮部、レシーバ部、および過冷却部を有している。凝縮部は、冷媒と外気とを熱交換させて、冷媒を凝縮させる。レシーバ部は、凝縮部から流出した冷媒の気液を分離して、分離された液相冷媒の一部をサイクルの余剰冷媒として蓄える。過冷却部は、レシーバ部から流出した液相冷媒と外気とを熱交換させて、液相冷媒を過冷却する。
【0170】
(3)また、上記各実施形態に開示された手段は、実施可能な範囲で適宜組み合わせてもよい。例えば、第2実施形態で説明したエジェクタ113を、第3実施形態で説明したエジェクタ式冷凍サイクル10aに適用してもよい。
【符号の説明】
【0171】
13、113 エジェクタ
31、131 駆動側ノズル部
31e 駆動側噴射口
32、132 ボデー部
322 吸引側ノズル部
322a 吸引側噴射口
323 混合部
324 ディフューザ部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12