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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/04 20060101AFI20240416BHJP
   B60W 10/20 20060101ALI20240416BHJP
   B60W 30/045 20120101ALI20240416BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20240416BHJP
   B60W 50/02 20120101ALI20240416BHJP
【FI】
B60W10/00 134
B60W10/20
B60W30/045
B60W10/08
B60W50/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020123784
(22)【出願日】2020-07-20
(65)【公開番号】P2022020345
(43)【公開日】2022-02-01
【審査請求日】2023-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100140486
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100170058
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 拓真
(72)【発明者】
【氏名】河野 雅樹
【審査官】平井 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-23169(JP,A)
【文献】特開2019-142469(JP,A)
【文献】特開2015-23753(JP,A)
【文献】特開2000-74935(JP,A)
【文献】特開2005-218222(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/00-60/00
G08G 1/00-99/00
B60L 1/00- 3/12
B60L 7/00-13/00
B60L 15/00-58/40
B60K 17/28-17/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータ(32a,32b,32c,32d)から車輪(11a,11b,11c,11d)にトルクを伝達することにより走行する車両(10)を制御する制御装置(70)であって、
前記車輪を転舵させる転舵装置(40,40a,40b)及び前記電動モータを制御する制御部(72)と、
前記車両のステアリングホイールの操舵角速度、操舵角加速度、及び操舵角躍度の少なくとも一つ、並びに前記ステアリングホイールの操舵角を含む操舵関連情報を取得する情報取得部(71)と、を備え、
前記制御部が前記操舵関連情報に基づいて前記電動モータ及び前記転舵装置を協調して駆動させることにより、前記車両を旋回させるために前記車輪のタイヤに付与すべき力を制御する旋回制御を実行し、
前記制御部は、
前記操舵関連情報に含まれる前記操舵角に基づいて、前記車両の旋回力の目標値である目標旋回力を演算するとともに、
前記操舵関連情報に含まれる前記操舵角速度、前記操舵角加速度、及び前記操舵角躍度の少なくとも一つに基づいて、前記車両の旋回力を前記目標旋回力まで変化させる際の応答速度の目標値である目標応答速度を演算し、
前記目標応答速度が速くなるほど、前記電動モータの制御により前記タイヤに付与される制動力又は駆動力が大きくなるように前記電動モータを制御するとともに、
前記電動モータの制御により前記タイヤに付与される制動力又は駆動力と、前記転舵装置の制御により前記タイヤに付与される力との合力に対応した旋回力が前記目標旋回力となるように前記転舵装置を制御する
車両の制御装置。
【請求項2】
前記電動モータとして、前記車両の右駆動輪に動力を伝達する第1電動モータ(32a)と、前記車両の左駆動輪に動力を伝達する第2電動モータ(32b)と、を備え、
前記制御部は、前記操舵関連情報に基づいて前記第1電動モータ及び前記第2電動モータを制御する際に、前記第1電動モータから前記右駆動輪に伝達されるトルクと、前記第2電動モータから前記左駆動輪に伝達されるトルクとを異ならせる
請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記右駆動輪及び前記左駆動輪のいずれか一方の異常を検出した場合には、前記旋回制御を実行しない
請求項に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記操舵関連情報に含まれる操舵角が所定範囲から外れることに基づいて前記旋回制御を実行する
請求項1~のいずれか一項に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
電動モータ(32a,32b,32c,32d)から車輪(11a,11b,11c,11d)にトルクを伝達することにより走行する車両(10)を制御する制御装置(70)であって、
前記車輪を転舵させる転舵装置(40,40a,40b)及び前記電動モータを制御する制御部(72)と、
前記車両のステアリングホイールの操舵角速度、操舵角加速度、及び操舵角躍度の少なくとも一つ、並びに前記ステアリングホイールの操舵角を含む操舵関連情報を取得する情報取得部(71)と、を備え、
前記制御部が前記操舵関連情報に基づいて前記電動モータ及び前記転舵装置を協調して駆動させることにより、前記車両を旋回させるために前記車輪のタイヤに付与すべき力を制御する旋回制御を実行し、
前記電動モータとして、前記車両の右駆動輪に動力を伝達する第1電動モータ(32a)と、前記車両の左駆動輪に動力を伝達する第2電動モータ(32b)と、を備え、
前記制御部は、
前記操舵関連情報に基づいて前記第1電動モータ及び前記第2電動モータを制御する際に、前記第1電動モータから前記右駆動輪に伝達されるトルクと、前記第2電動モータから前記左駆動輪に伝達されるトルクとを異ならせ、
前記右駆動輪及び前記左駆動輪のいずれか一方の異常を検出した場合には、前記旋回制御を実行しない
車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下記の特許文献1に記載の車両の制御装置がある。特許文献1に記載の車両の制御装置は、ヨー加速度算出部と、駆動力制御部とを備えている。ヨー加速度算出部は、車両のヨー加速度を取得する。駆動力制御部は、ヨー加速度算出部により取得されたヨー加速度に応じて、車両の動力源であるモータの駆動力を低減させる。駆動力制御部は、ヨー加速度が増大するほど、モータの駆動力低減量を増大させ、且つこの増大量の増加割合を低減させて所定の上限値に漸近させるように制御する。この構成によれば、車両の操舵が開始されて車両のヨー加速度が増大し始めた際に、ヨー加速度が増大するほど、モータの駆動力低減量の増大割合が低減するため、カーブ走行中に車両に発生する減速度が過大になり難くなる。よって、車両の旋回時における運転者の操作が自然で安定したものとなるように車両の挙動を制御することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5999360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両を旋回させる方法としては、車両の車輪を転舵させることにより車両を転舵させる方法と、特許文献1に記載の制御装置のようにモータから車輪に伝達されるトルクを増減させる方法とがある。後者の方法の方が、前者の方法よりも応答性が早いため、より早期に車両を旋回させることが可能である。しかしながら、特許文献1に記載の制御装置のように、モータから車輪に伝達されるトルクのみを増減させて車両を旋回させると、その際の車両の挙動には運転者の意志が反映され難くなるため、運転者が違和感を覚える可能性がある。
【0005】
本開示は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、運転者の違和感を軽減しつつ、旋回の応答性を向上させることが可能な車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する制御装置(70)は、電動モータ(32a,32b,32c,32d)から車輪(11a,11b,11c,11d)にトルクを伝達することにより走行する車両(10)を制御する。制御装置は、制御部(72)と、情報取得部(71)と、を備える。制御部は、車輪を転舵させる転舵装置(40,40a,40b)及び電動モータを制御する。情報取得部は、車両のステアリングホイールの操舵角速度、操舵角加速度、及び操舵角躍度の少なくとも一つ、並びにステアリングホイールの操舵角を含む操舵関連情報を取得する。制御部が操舵関連情報に基づいて電動モータ及び転舵装置を協調して駆動させることにより、車両を旋回させるために車輪のタイヤに付与すべき力を制御する旋回制御を実行する。
【0007】
運転者は、例えば車両を速く旋回させたい場合にはステアリングホイールを速く操作し、車両を遅く旋回させたい場合にはステアリングホイールを遅く操作する。したがって、ステアリングホイールの操舵角速度、操舵角加速度、及び操舵角躍度の少なくとも一つは、運転者の旋回の意志が反映されたパラメータである。また、車両を転舵させる際に転舵装置により車輪を転舵させるだけでなく電動モータの動力を変化させれば、車両の旋回の応答性を向上させることが可能である。したがって、上記構成のように、車両を旋回させる際にステアリングホイールの操舵角速度、操舵角加速度、及び操舵角躍度の少なくとも一つに基づいて電動モータの動力を変化させることにより、車両の旋回の応答性を向上させることができるとともに、運転者の意図が反映された車両の旋回を実現することができるため、運転者の違和感を軽減することが可能である。
【0008】
なお、上記手段、特許請求の範囲に記載の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明の効果】
【0009】
本開示の車両の制御装置によれば、運転者の違和感を軽減しつつ、旋回の応答性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施形態の車両の概略構成を示すブロック図である。
図2図2は、実施形態の車両の電気的な構成を示すブロック図である。
図3図3は、車両が旋回する際に車輪に作用する力を模式的に示す図である。
図4図4(A),(B)は、車両が左旋回する際のモータジェネレータ及びタイヤのそれぞれの力の方向と、車両が右旋回する際のモータジェネレータ及びタイヤのそれぞれの力の方向とを示す図表である。
図5図5は、実施形態のECUにより実行される処理の手順を示すフローチャートである。
図6図6は、実施形態のECUにより用いられる、ステアリングホイールの操舵角速度ωsと目標応答速度Jcとの関係を示すマップである。
図7図7(A),(B)は、実施形態のECUにより用いられる、目標応答速度Jcと縦力の比率rxとの関係を示すマップ、及び目標応答速度Jcと横力の比率ryとの関係を示すマップである。
図8図8は、他の実施形態の車両の概略構成を示すブロック図である。
図9図9は、他の実施形態の車両の概略構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、車両の制御装置の一実施形態について図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
はじめに、本実施形態の制御装置が搭載される車両の概略構成について説明する。図1に示されるように、本実施形態の車両10は、操舵装置20と、インバータ装置31a,31bと、モータジェネレータ32a,32bと、転舵装置40と、ブレーキ装置50a~50dとを備えている。
【0012】
操舵装置20及び転舵装置40は、運転者により操作されるステアリングホイール21と車輪11a,11bとが機械的に連結されていない、いわゆるバイワイヤ式のステアリングシステムを構成している。操舵装置20はステアリングホイール21と操舵角センサ22とを備えている。操舵角センサ22は、ステアリングホイール21の回転角度である操舵角θsを検出するとともに、検出された操舵角θsに応じた信号を出力する。転舵装置40は、操舵角センサ22により検出される操舵角θsに基づいて車輪11a,11bのそれぞれの転舵角を変化させる。
【0013】
なお、本実施形態では、簡単のために転舵装置40が車輪11a,11bのそれぞれの転舵角を同一の角度に制御する場合について説明するが、転舵装置40は、車輪11a,11bのそれぞれの転舵角を異なる値に制御可能なものであってもよい。
インバータ装置31a,31bは、車両10に搭載されるバッテリ15から供給される直流電力を三相交流電力に変換するとともに、変換した三相交流電力をモータジェネレータ32a,32bにそれぞれ供給する。
【0014】
モータジェネレータ32a,32bは車両10の加速走行時に電動機として動作する。モータジェネレータ32a,32bは、電動機として動作する場合、インバータ装置31a,31bから供給される三相交流電力に基づいて駆動する。モータジェネレータ32a,32bの駆動力が車輪11a,11bにそれぞれ伝達されることにより車輪11a,11bが回転して車両10が加速走行する。
【0015】
また、モータジェネレータ32a,32bは車両10の減速走行時に発電機として動作することが可能である。モータジェネレータ32a,32bは、発電機として動作する場合、回生動作することにより発電する。このモータジェネレータ32a,32bの回生動作により車輪11a,11bに制動力がそれぞれ付与される。モータジェネレータ32a,32bの回生動作により発電される三相交流電力はインバータ装置31a,31bにより直流電力に変換されてバッテリ15に充電される。本実施形態では、モータジェネレータ32aが第1電動モータに相当し、モータジェネレータ32bが第2電動モータに相当する。
【0016】
このように、車両10では、右前輪11a及び左前輪11bが駆動輪として機能し、右後輪11c及び左後輪11dが従動輪として機能する。以下では、右前輪11a及び左前輪11bをまとめて「駆動輪11a,11b」とも称する。本実施形態では、右前輪11aが右駆動輪に相当し、左前輪11bが左駆動輪に相当する。
【0017】
また、以下では、車両10の前後方向を「Xc方向」と称し、車両10の横方向を「Yc方向」と称する。さらに、車両10の前後方向Xcのうち、進行方向を「Xc1方向」と称し、後退方向を「Xc2方向」と称する。また、車両10の横方向Ycのうち、右方向を「Yc1方向」と称し、左方向を「Yc2方向」と称する。
【0018】
ブレーキ装置50a~50dは車両10の車輪11a~11dにそれぞれ設けられている。ブレーキ装置50a~50dは、例えば各車輪11a~11dと一体となって回転する回転体に摩擦力を付与することにより各車輪11a~11dに制動力を付与する摩擦ブレーキ装置である。
【0019】
次に、図2を参照して、車両10の電気的な構成について説明する。
図2に示されるように、車両10は、加速度センサ60と、車速センサ61と、車輪速センサ62a~62dと、アクセルポジションセンサ63と、ブレーキポジションセンサ64と、ECU(Electronic Control Unit)70とを更に備えている。
【0020】
加速度センサ60は、車両10の加速度Acを検出するとともに、検出された加速度Acに応じた信号をECU70に出力する。車速センサ61は、車両10の走行速度である車速Vcを検出するとともに、検出された車速Vcに応じた信号をECU70に出力する。車輪速センサ62a~62dは、車両10の車輪11a~11dの回転速度である車輪速ωwa~ωwdをそれぞれ検出するとともに、検出された車輪速ωwa~ωwdに応じた信号をECU70に出力する。アクセルポジションセンサ63は、車両10のアクセルペダルの操作位置であるアクセルポジションPaを検出するとともに、検出されたアクセルポジションPaに応じた信号をECU70に出力する。ブレーキポジションセンサ64は、車両10のブレーキペダルが踏み込まれたか否かを示すブレーキ操作情報Ibを検出するとともに、検出されたブレーキ操作情報Ibに応じた信号をECU70に出力する。
【0021】
ECU70は、CPUやメモリ等を有するマイクロコンピュータを中心に構成されている。本実施形態では、ECU70が制御装置に相当する。ECU70は、そのメモリに予め記憶されたプログラムを実行することにより車両10を統括的に制御する。
具体的には、ECU70には、上述したセンサ60,61,62a~62d,63,64のそれぞれの出力信号の他、操舵角センサ22の出力信号が取り込まれている。ECU70は、それらの出力信号に基づいて車両10の加速度Ac、車速Vc、各車輪11a~11dの車輪速ωwa~ωwd、アクセルポジションPa、ブレーキ操作情報Ib、及びステアリングホイール21の操舵角θs等の情報を取得する。
【0022】
ECU70は、例えば車速センサ61及びアクセルポジションセンサ63によりそれぞれ検出される車速Vc及びアクセルポジションPaに基づいてモータジェネレータ32a,32bの出力トルクを制御することにより、車両10を加速又は減速させる車両走行制御を実行する。具体的には、ECU70は、車速Vc及びアクセルポジションPaに基づいて、モータジェネレータ32a,32bから駆動輪11a,11bにそれぞれ付与すべきトルクの目標値である目標トルクTa*,Tb*をマップや演算式等を用いて演算する。そして、ECU70は、目標トルクTa*,Tb*に基づいて、インバータ装置31a,31bからモータジェネレータ32a,32bに供給すべき通電制御値を演算するとともに、演算された通電制御値に基づいてインバータ装置31a,31bを制御する。これにより、通電制御値に応じた電力がインバータ装置31a,31bからモータジェネレータ32a,32bに供給されて、モータジェネレータ32a,32bの実際の出力トルクが目標トルクTa*,Tb*となるように制御される。
【0023】
また、ECU70は、ブレーキポジションセンサ64により検出されるブレーキ操作情報Ibに基づいてブレーキ装置50a~50dを制御することにより車両10の制動力を制御する制動制御を実行する。
さらに、ECU70は、操舵角センサ22により検出されるステアリングホイール21の操舵角θs等に基づいて転舵装置40を制御することにより車両10を旋回させる旋回制御を実行する。具体的には、ECU70は、操舵角θs等に基づいて、駆動輪11a,11bの転舵角θwの目標値である目標転舵角θw*をマップや演算式等を用いて演算する。そして、ECU70は、駆動輪11a,11bの実際の転舵角θwが目標転舵角θw*となるように転舵装置40を制御する。
【0024】
一方、本実施形態のECU70は、旋回制御において、転舵装置40により駆動輪11a,11bの転舵角θwを変化させるだけでなく、モータジェネレータ32a,32bから駆動輪11a,11bに駆動力又は制動力を付与することにより車両10の旋回性を向上させる。
【0025】
次に、本実施形態の旋回制御について説明するに先立ち、その原理について先ずは説明する。
図3は、車両10が左方向に旋回している際に右前輪11aのタイヤTaに加わっている力を矢印Fa10で示し、左前輪11bのタイヤTbに加わっている力を矢印Fb10で示したものである。図3では、右側タイヤTaの接地面の中心点が「Cta」で示され、左側タイヤTbの接地面の中心点が「Ctb」で示されている。また、各タイヤTa,Tbの前後方向の軸線が「Xt」で示されるとともに、各タイヤTa,Tbの横方向の軸線が「Yt」で示されている。さらに、車両10の旋回中心軸が「Cc」で示されている。車両10の旋回中心軸Ccは、車両10の上下方向に平行であって、且つ車両10の重心を通る軸線に相当する。
【0026】
車両10が直進している際に運転者がステアリングホイール21を左方向に操作したとすると、車両10を左方向に旋回させるべく、転舵装置40が右前輪11a及び左前輪11bを左方向に転舵させる。これにより、図3に示されるように、右側タイヤTaには、タイヤ横方向Ytに平行な力Fa10が付与されるとともに、左側タイヤTbには、タイヤ横方向Ytに平行な力Fb10が付与される。
【0027】
一方、車両10の旋回中心軸Ccに直交し、且つ右側タイヤTaの接地中心点Ctを通る軸線を基準線ma10とすると、車両10の旋回に寄与する力である実効旋回力の方向は、基準線ma10が延びる方向と、右側タイヤTaのグリップ力の方向である車両10の上下方向との外積の方向となる。すなわち、図3に示されるように基準線ma10に直交する方向を「ma11」とすると、右側タイヤTaにおける実効旋回力の方向は軸線ma11に平行な方向となる。同様に、図3に示されるように左側タイヤTbに対応する基準線b10に直交する方向を「mb11」とすると、左側タイヤTbにおける実効旋回力の方向は軸線mb11に平行な方向となる。
【0028】
したがって、右側タイヤTaにタイヤ横力Fa10が作用しているとすると、そのタイヤ横力Fa10のうち、軸線ma11に沿った方向の力成分FEa10のみが車両10の旋回に寄与する力となる。同様に、左側タイヤTbのタイヤ横力Fb10のうち、軸線mb11に沿った方向の力成分FEb10のみが車両10の旋回に寄与する力となる。また、これらの力成分FEa10及び力成分FEb10の合力が、車両10に作用する旋回力となる。
【0029】
このように車両10に左方向の旋回力が付与されている状態で更に車両10の旋回力を強めるために、タイヤTa,Tbにおける実効旋回力を「FEa10,FEb10」から「FEa11,FEb11」に変化させる場合を考える。この場合、単に右前輪11aの転舵角を変化させるだけで右側タイヤTaにおける実効旋回力を「FEa10」から「FEa11」に変化させようとすると、右側タイヤTaにおける横力が「Fa10」から「Fa11」に変化するように右前輪11aを転舵させる必要がある。同様に、左側タイヤTbにおける横力が「Fb10」から「Fb11」に変化するように左前輪11bも転舵させる必要がある。このように、右前輪11a及び左前輪11bの転舵により実効旋回力を変化させようとすると、旋回の応答性が低いことが懸念される。
【0030】
一方、各タイヤTa,Tbにおける実効旋回力を「FEa10,FEb10」から「FEa11,FEb11」に変化させる方法としては、タイヤTa,Tbに対して、その縦方向Xtに平行な縦力Fa12,Fb12を加えるという方法がある。なお、右側タイヤTaに付与すべき縦力Fa12は、車両10を加速させる方向の力である駆動力である。一方、右側タイヤTaに付与すべき縦力Fb12は、車両10を減速させる方向の力である制動力である。各タイヤTa,Tbに付与すべき駆動力及び制動力は、モータジェネレータ32a,32bの出力トルクを変化させることにより実現可能である。このようにモータジェネレータ32a,32bの出力トルクを変化させることにより実効旋回力を変化させる方法を用いれば、右前輪11a及び左前輪11bを転舵させる方法と比較すると、旋回の応答性を向上させることが可能である。
【0031】
また、モータジェネレータ32a,32bの出力トルクを変化させる方法と、右前輪11a及び左前輪11bの転舵角を変化させる方法とを組み合わせることにより、タイヤTa,Tbに対して、図3に示される力Fa13,Fb13をそれぞれ付与することも可能である。このような力Fa13,Fb13をタイヤTa,Tbに対して付与することにより、旋回の応答性を変化させることができる。
【0032】
図4(A)は、車両10が左旋回している場合に車両10の旋回力を強める場合と、旋回力を弱める場合とに関して、モータジェネレータ32a,32bの出力トルクの方向及びタイヤ横力の方向のそれぞれをどのように設定すべきかを示したものである。また、図4(B)は、車両10が右旋回している場合に車両10の旋回力を強める場合と、旋回力を弱める場合とに関して、モータジェネレータ32a,32bの出力トルクの方向及びタイヤ横力の方向のそれぞれをどのように設定すべきかを示したものである。
【0033】
このように、モータジェネレータ32a,32bの出力トルクを変化させる方法と、転舵装置40により右前輪11a及び左前輪11bの転舵角を変化させる方法とを組み合わせることにより、旋回の応答性を変化させることが可能である。これを利用し、本実施形態のECU70は、運転者のステアリングホイール21の操作が速い場合には、車両10の旋回の応答性が速くなるようにモータジェネレータ32a,32b及び転舵装置40を制御する。一方、ECU70は、運転者のステアリングホイール21の操作が遅い場合には、車両10の旋回の応答性が遅くなるようにモータジェネレータ32a,32b及び転舵装置40を制御する。
【0034】
次に、車両10の旋回力を変化させる旋回制御を実行するためのECU70の構成について具体的に説明する。
図2に示されるように、ECU70は、旋回制御の実行のために必要な操舵関連情報を取得する情報取得部71と、モータジェネレータ32a,32b及び転舵装置40を制御する制御部72とを備えている。情報取得部71及び制御部72は、図5に示される処理を所定の周期で繰り返し実行する。
【0035】
図5に示されるように、情報取得部71は、まず、ステップS10の処理として、操舵関連情報を取得する。本実施形態の操舵関連情報には、ステアリングホイール21の操舵角θs及び操舵角速度ωsが含まれている。情報取得部71は、操舵角センサ22の出力信号に基づいて操舵角θsの情報を取得する。また、情報取得部71は、単位時間当たりの操舵角θsの変化量を演算することにより、換言すれば操舵角θsの微分値を演算することにより操舵角速度ωsの情報を取得する。なお、操舵角θsは、ステアリングホイール21が中立位置であるときの回転角度を「0°」として、ステアリングホイール21の中立位置から右方向の回転角度を正の値で表し、ステアリングホイール21の中立位置から左方向の回転角度を負の値で表すものである。また、操舵角速度ωsは、ステアリングホイール21の右方向の角速度を正の値で表し、ステアリングホイールの左方向の角速度を負の値で表すものである。
【0036】
制御部72は、ステップS10に続くステップS11の処理として、操舵角θsが所定範囲から外れているか否かを判断する。所定範囲は、車両10が旋回中であるか否かを判断することができるように予め実験等により求められており、ECU70のROMに記憶されている。制御部72は、ステップS11の処理で否定的な判断を行った場合には、すなわち操舵角θsが所定範囲内である場合には、車両10が旋回中でないと判定して、図5に示される処理を一旦終了する。
【0037】
制御部72は、ステップS11の処理で肯定的な判断を行った場合には、すなわち操舵角θsが所定範囲から外れている場合には、車両10が旋回中であると判定し、ステップS12,S13以降の処理である旋回制御を実行する。
制御部72は、まず、ステップS12の処理として、車両10の旋回力の目標値である目標旋回力FEを演算する。本実施形態では、操舵角θsと目標旋回力FEとの関係を示すマップが予め実験等により作成されており、ECU70のROMに記憶されている。
【0038】
このマップでは、基本的には、操舵角θsの絶対値が大きくなるほど、目標旋回力FEの絶対値が大きくなるように設定されている。また、このマップでは、操舵角θsが正の値である場合、すなわちステアリングホイール21が右方向に操作されている場合には、目標旋回力FEが正の値となるように設定されている。目標旋回力FEが正の値である場合とは、タイヤTa,Tbにおける実効旋回力の方向が、車両10を右方向に旋回させる方向、すなわち図3に二点鎖線で示される方向FEa12,FEb12であることを示す。また、このマップでは、操舵角θsが負の値である場合、すなわちステアリングホイール21が左方向に操作されている場合には、目標旋回力FEが負の値となるように設定されている。目標旋回力FEが負の値である場合とは、タイヤTa,Tbにおける実効旋回力の方向が、車両10を左方向に旋回させる方向、すなわち図3に実線で示される方向FEa11,FEb11であることを示す。
【0039】
図5に示されるように、制御部72は、ステップS13の処理として、車両10の目標応答速度Jcを演算する。目標応答速度Jcは、車両の旋回力を目標旋回力FEまで変化させる際の応答速度の目標値を示すものであって、旋回中心軸Ccを中心軸とする車両10の回転角度であるヨー角の加加速度に相当する。本実施形態では、ステアリングホイール21の操舵角速度ωsと目標応答速度Jcとの関係を示すマップが予め作成されており、ECU70のROMに記憶されている。このマップでは、ステアリングホイール21の操舵角速度ωsの絶対値が大きくなるほど、目標応答速度Jcがより大きな値に設定されるようになっている。これは、ステアリングホイール21の操舵角速度ωsの絶対値が大きくなるほど、運転者が車両10をより速く旋回させようとしている状況であると考えられるためである。ステアリングホイール21の操舵角速度ωsと目標応答速度Jcとの関係を示すマップは、例えば図6に示されるように作成される。制御部72は、このマップを用いることにより、ステップS10の処理で得られた操舵角速度ωsから目標応答速度Jcを演算する。
【0040】
図5に示されるように、制御部72は、ステップS12,S13に続くステップS14の処理として、各タイヤTa,Tbの基準縦力FBXa,FBXb及び基準横力FBYa,FBYbを演算する。
各タイヤTa,Tbの基準横力FBYa,FBYbは、右前輪11a及び左前輪11bの転舵のみで車両10を旋回させる場合に、目標旋回力FEを得るために各タイヤTa,Tbに追加で付与する必要のある横力である。基準横力FBYaの実効旋回力及び基準横力FBYbの実効旋回力の合力が目標旋回力FEとなる。図3に示されるモデルでは、各タイヤTa,Tbの横力Fa11,Fb11が基準横力FBYa,FBYbにそれぞれ相当する。本実施形態では、基準横力FBYa,FBYbと目標旋回力FEとの関係を示すマップが予め実験等により求められており、ECU70のROMに記憶されている。ECU70は、ROMに記憶されたマップを用いることにより、目標旋回力FEから基準横力FBYa,FBYbを演算する。なお、基準横力FBYa,FBYbは、各タイヤTa,Tbに対して右方向に作用する力の方向を正の値で表し、各タイヤTa,Tbに対して左方向に作用する力の方向を負の値で表すものである。
【0041】
各タイヤTa,Tbの基準縦力FBXa,FBXbは、各タイヤTa,Tbへの制動力又は駆動力の付与のみで車両10を旋回させる場合に、目標旋回力FEを得るために各タイヤTa,Tbに追加で付与する必要のある制動力又は駆動力である。基準縦力FBXaの実効旋回力及び基準縦力FBXbの実効旋回力の合力が目標旋回力FEとなる。図3に示されるモデルでは、各タイヤTa,Tbの縦力Fa12,Fb12が基準縦力FBXa,FBXbにそれぞれ相当する。本実施形態では、基準縦力FBXa,FBXbと目標旋回力FEとの関係を示すマップが予め実験等により求められており、ECU70のROMに記憶されている。ECU70は、ROMに記憶されたマップを用いることにより、目標旋回力FEから基準縦力FBXa,FBXbを演算する。なお、基準縦力FBXa,FBXbは、車両10を加速させる方向の力である駆動力を正の値で表し、車両10を減速させる方向の力である制動力を負の値で表すものである。
【0042】
図5に示されるように、制御部72は、ステップS14に続くステップS15の処理として、基準縦力FBXa,FBXbに対して実際に各タイヤTa,Tbに付与すべき縦力の比率rx、及び基準横力FBYa,FBYbに対して各タイヤTa,Tbに付与すべき横力の比率ryを演算する。具体的には、制御部72は、ステップS13の処理で得られる目標応答速度Jcからマップに基づいて縦力の比率rx及び横力の比率ryを演算する。このマップでは、目標応答速度Jcが速くなるほど、縦力の比率rxが大きくなり、且つ横力の比率ryが小さくなるように設定されている。比率rx,ryは、例えば「0[%]」から「100[%]」の範囲で設定される。
【0043】
これらの比率rx,ryを用いることにより、右側タイヤTaに作用する力は、基準縦力FBXaに比率rxを乗算した力と、基準横力FBYaに比率ryを乗算した力との合力となる。同様に、左側タイヤTbに作用する力は、基準縦力FBXbに比率rxを乗算した力と、基準横力FBYbに比率ryを乗算した力との合力となる。また、車両10の旋回力は、右側タイヤTaに作用する力に対応した実効旋回力と、左側タイヤTbに作用する力に対応した実効旋回力との合力で定義される。このように定義される車両10の旋回力が目標旋回力FEとなるように各比率rx,ryが設定されている。比率rx,ryを演算するためのマップとしては、例えば図7(A),(B)に示されるようなマップが用いられる。図7(A),(B)に示されるように、比率rx,ryは、例えばそれらの合計値が「100[%]」となるように設定される。なお、比率rx,ryの合計値は、「100[%]」とは異なる値に設定されていてもよい。
【0044】
図5に示されるように、制御部72は、ステップS15に続いて、ステップS16~S19の処理を実行する。制御部72は、ステップS16の処理として、モータジェネレータ32a,32bから追加で出力すべきトルクの目標値である目標トルクTMa*,TMb*を演算する。具体的には、制御部72は、ステップS14の処理で得られた右側タイヤTaの基準縦力FBXaに、ステップS15の処理で得られた縦力の比率rxを乗算することにより、右側タイヤTaに追加で付与すべき縦力の目標値である目標右側縦力FXa*を演算する。そして、制御部72は、右側タイヤTaに目標右側縦力FXa*を追加で付与することが可能なモータジェネレータ32aの出力トルクの目標値TMa*を目標右側縦力FXa*から演算式等を用いて演算する。同様に、制御部72は、左側タイヤTbの基準縦力FBXb及び縦力の比率rxに基づいて目標左側縦力FXb*を演算するとともに、目標左側縦力FXb*に基づいてモータジェネレータ32bの出力トルクの目標値TMb*を演算する。
【0045】
制御部72は、ステップS16に続くステップS17の処理として、モータジェネレータ32a,32bのトルク制御を実行する。具体的には、制御部72は、ステップS16の処理で求められた目標トルクTMa*,TMb*が出力されるようにモータジェネレータ32a,32bを制御する。
【0046】
一方、制御部72は、ステップS18の処理として、右前輪11a及び左前輪11bを追加で転舵させるべき転舵角の目標値である目標転舵角θa*,θb*を演算する。具体的には、制御部72は、ステップS14の処理で得られた右側タイヤTaの基準横力FBYaに、ステップS15の処理で得られた横力の比率ryを乗算することにより、右側タイヤTaに追加で付与すべき横力の目標値である目標右側横力FYa*を演算する。そして、制御部72は、右側タイヤTaに目標右側横力FYa*を付与することが可能な右前輪11aの転舵角の目標値θa*を目標右側横力FYa*からマップや演算式等を用いて演算する。同様に、制御部72は、左側タイヤTbの基準横力FBYb及び横力の比率ryに基づいて左前輪11bの転舵角の目標値θb*を演算する。
【0047】
制御部72は、ステップS18に続くステップS19の処理として、駆動輪11a,11bの転舵角制御を実行する。具体的には、制御部72は、ステップS18の処理で求められた目標転舵角θa*,θb*だけ車輪11a,11bが転舵するように転舵装置40を制御する。
【0048】
以上説明した本実施形態のECU70によれば、以下の(1)~(4)に示される作用及び効果を得ることができる。
(1)本実施形態の車両10では、情報取得部71により取得される操舵関連情報に基づいて制御部72がモータジェネレータ32a,32b及び転舵装置40を協調して駆動させることにより、車両10を旋回させるために駆動輪11a,11bのタイヤに付与すべき力を制御する旋回制御を実行する。運転者は、例えば車両10を速く旋回させたい場合にはステアリングホイール21を速く操作し、車両10を遅く旋回させたい場合にはステアリングホイール21を遅く操作する。したがって、ステアリングホイール21の操舵角速度ωsは運転者の旋回の意志が反映されたパラメータである。また、車両10を転舵させる際に転舵装置40により駆動輪11a,11bを転舵させるだけでなくモータジェネレータ32a,32bの動力を変化させれば、車両10の旋回の応答性を変化させることができる。したがって、本実施形態のECU70のように、ステアリングホイール21の操舵角速度ωsに基づいてモータジェネレータ32a,32bの動力を変化させることにより、車両の旋回の応答性を向上させることができるとともに、運転者の意図が反映された車両の旋回を実現することができるため、運転者の違和感を軽減することが可能である。
【0049】
(2)制御部72は、ステアリングホイール21の操舵角θsに基づいて目標旋回力FEを演算するとともに、ステアリングホイール21の操舵角速度ωsに基づいて目標応答速度Jcを演算する。そして、制御部72は、目標応答速度Jcが速くなるほど、モータジェネレータ32a,32bの制御によりタイヤTa,Tbに付与される制動力又は駆動力が大きくなるようにモータジェネレータ32a,32bを制御する。また、制御部72は、モータジェネレータ32a,32bの制御によりタイヤTa,Tbに付与されるタイヤ縦力と、転舵装置40の制御によりタイヤTa,Tbに付与されるタイヤ横力との合力に対応した旋回力が目標旋回力FEとなるように転舵装置40を制御する。この構成によれば、操舵角θsに応じて車両10を旋回させつつ、運転者の意図に沿った旋回の応答性を実現することができる。
【0050】
(3)制御部72は、モータジェネレータ32a,32bを制御する際に、モータジェネレータ32aから右前輪11aに伝達させるトルクと、モータジェネレータ32bから左前輪11bに伝達させるトルクとを異ならせる、具体的にはそれらのトルクを逆方向にする。この構成によれば、車両10をより旋回させ易くなるため、旋回の応答性を向上させることができる。
【0051】
(4)制御部72は、操舵角θsが所定範囲から外れることに基づいて、図3に示されるステップS12,S13以降の処理である旋回制御を実行する。この構成によれば、車両10が旋回している際に、その旋回の応答性を向上させることができる。
なお、上記実施形態は、以下の形態にて実施することもできる。
【0052】
・ECU70は、モータジェネレータ32a,32bのいずれか一方の異常を検出した場合には、図5に示される旋回制御を実行しなくてもよい。モータジェネレータ32a,32bのいずれか一方に異常が生じた場合、車両10を退避走行させる制御が実行される可能性がある。このような退避制御が実行されているときに、図5に示される旋回制御が実行されると、それらの制御が干渉することにより、車両10の挙動が不安定になる可能性がある。したがって、モータジェネレータ32a,32bのいずれか一方に異常が生じた場合に図5に示される旋回制御を実行しないようにすれば、より的確に車両10を退避走行させることができるようになる。
【0053】
図8に示されるように、車両10は、右後輪11cに制動力及び駆動力を付与するモータジェネレータ32cと、モータジェネレータ32cに電力を供給するインバータ装置31cと、左後輪11dに制動力及び駆動力を付与するモータジェネレータ32dと、モータジェネレータ32dに電力を供給するインバータ装置31dとを更に備えていてもよい。
【0054】
図9に示されるように、車両10は、右前輪11aを転舵させる転舵装置40aと、左前輪11bを転舵させる転舵装置40bとを別々に備えるものであってもよい。
・制御部72は、目標応答速度Jcを演算するために用いるパラメータとして、ステアリングホイール21の操舵角速度ωsに代えて、ステアリングホイール21の操舵角加速度や操舵角躍度を用いてもよい。なお、操舵角躍度は操舵角加加速度である。要は、制御部72は、ステアリングホイール21の操舵角速度ωs、操舵角加速度、及び操舵角躍度の少なくとも一つに基づいて目標応答速度Jcを演算するものであればよい。
【0055】
・本開示に記載のECU70及びその制御方法は、コンピュータプログラムにより具体化された1つ又は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された1つ又は複数の専用コンピュータにより、実現されてもよい。本開示に記載のECU70及びその制御方法は、1つ又は複数の専用ハードウェア論理回路を含むプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。本開示に記載のECU70及びその制御方法は、1つ又は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと1つ又は複数のハードウェア論理回路を含むプロセッサとの組み合わせにより構成された1つ又は複数の専用コンピュータにより、実現されてもよい。コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。専用ハードウェア論理回路及びハードウェア論理回路は、複数の論理回路を含むデジタル回路、又はアナログ回路により実現されてもよい。
【0056】
・本開示は上記の具体例に限定されるものではない。上記の具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素、及びその配置、条件、形状等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
【符号の説明】
【0057】
10:車両
11a,11b,11c,11d:車輪
32a:モータジェネレータ(第1電動モータ)
32b:モータジェネレータ(第2電動モータ)
32c:モータジェネレータ(電動モータ)
32d:モータジェネレータ(電動モータ)
40,40a,40b:転舵装置
70:ECU(制御装置)
71:情報取得部
72:制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9